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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136613
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】シグナルペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/82 20060101AFI20230922BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230922BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230922BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20230922BHJP
   C07K 7/04 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C12N15/82 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12P21/02 C
C07K7/00
C07K7/04
C12N5/10
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042384
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】竹本 浩
(72)【発明者】
【氏名】佐々野 晴花
(72)【発明者】
【氏名】宮内 美穂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 望
(72)【発明者】
【氏名】出来島 康方
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 将太朗
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE11
4B064CE12
4B065AA88X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045FA15
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA25
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成における、切断不良ヘッジホッグタンパク質の生成の抑制。
【解決手段】植物発現系においてヘッジホッグタンパク質を生成するための、シグナルペプチドの使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成における、シグナルペプチドの使用であって、前記シグナルペプチドは、下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示される7~45個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有する、前記使用。
【請求項2】
前記シグナルペプチドが、
(a) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド
である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(i) 下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示される7~45個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、
(ii) ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドと
を含む、核酸構築物であって、前記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されている、核酸構築物。
【請求項4】
前記シグナルペプチドが、
(a) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド
である、請求項3に記載の核酸構築物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の核酸構築物を含む組換えベクター。
【請求項6】
請求項3若しくは4に記載の核酸構築物及び/又は請求項5に記載の組換えベクターを含む、形質転換体。
【請求項7】
形質転換体が、植物体若しくはその一部又は植物細胞である、請求項6に記載の形質転換体。
【請求項8】
ヘッジホッグタンパク質の製造方法であって、請求項6又は7に記載の形質転換体を培養又は栽培する工程を含む、方法。
【請求項9】
ヘッジホッグタンパク質の製造方法であって、以下の工程(a)及び(b):
(a) 請求項3若しくは4に記載の核酸構築物及び/又は請求項5に記載の組換えベクターを宿主に導入し、形質転換体を得る工程、及び
(b) 工程(a)で得られた形質転換体で生成したヘッジホッグタンパク質を回収する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成におけるシグナルペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シグナルペプチドは、分泌タンパク質前駆体や膜内在性タンパク質前駆体のN末端領域に存在するペプチドであり、当該タンパク質の翻訳、輸送、局在化などに寄与する。シグナルペプチドは、通常、膜透過後にシグナルペプチダーゼにより切断される。
植物におけるタンパク質発現に用いられるシグナルペプチドとしては、イネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)が知られている(非特許文献1:Kalthoff, D. et al. (2010) Journal Virology 84: 12002-12010)。
ヘッジホッグタンパク質は、胚発生に寄与するタンパク質であり、ヘッジホッグタンパク質としては、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog: SHH)、インディアンヘッジホッグ(indian hedgehog: IHH)、デザートヘッジホッグ(desert hedgehog: DHH)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kalthoff, D. et al. (2010) Journal Virology 84: 12002-12010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物発現系において分泌タンパク質を発現させる場合は、イネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)を用いることが知られている。
しかし、本発明者が植物においてヘッジホッグタンパク質を生成するためにRSPを用いたところ、RSPとヘッジホッグタンパク質とを含むポリペプチドは、シグナルペプチダーゼによる本来の切断部位とは異なる部位で切断され、その結果として、インタクト(intact)なN末端アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するヘッジホッグタンパク質が生じることがわかった。このような切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成は、できるかぎり抑制することが求められる。
本発明者は、このような課題を、RSPをヘッジホッグタンパク質の生成に使用することを試みたことにより初めて見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成において、C末端から2番目のアミノ酸が酸性アミノ酸(グルタミン酸(Glu)若しくはアスパラギン酸(Asp))又はフェニルアラニン(Phe)であるシグナルペプチドを用いることにより、従来技術であるRSPと比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を顕著に抑制することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1]
植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成における、シグナルペプチドの使用であって、前記シグナルペプチドは、下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示される7~45個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有する、前記使用。
[2]
前記シグナルペプチドが、
(a) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド
である、上記[1]に記載の使用。
[3]
(i) 下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示される7~45個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、
(ii) ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドと
を含む、核酸構築物であって、前記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されている、核酸構築物。
[4]
前記シグナルペプチドが、
(a) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド
である、上記[3]に記載の核酸構築物。
[5]
上記[3]又は[4]に記載の核酸構築物を含む組換えベクター。
[6]
上記[3]若しくは[4]に記載の核酸構築物及び/又は上記[5]に記載の組換えベクターを含む、形質転換体。
[7]
形質転換体が、植物体若しくはその一部又は植物細胞である、上記[6]に記載の形質転換体。
[8]
ヘッジホッグタンパク質の製造方法であって、上記[6]又は[7]に記載の形質転換体を培養又は栽培する工程を含む、方法。
[9]
ヘッジホッグタンパク質の製造方法であって、以下の工程(a)及び(b):
(a) 上記[3]若しくは[4]に記載の核酸構築物及び/又は上記[5に記載の組換えベクターを宿主に導入し、形質転換体を得る工程、及び
(b) 工程(a)で得られた形質転換体で生成したヘッジホッグタンパク質を回収する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、植物発現系における切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を抑制することできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】各種ヘッジホッグタンパク質のアライメントを示す図である。
図2】各種シグナルペプチドをヘッジホッグタンパク質の生成に用いた場合の、切断不良ヘッジホッグタンパク質のシグナル強度を測定した結果を示す図である。
図3】各種シグナルペプチドのアミノ酸配列のアライメント解析結果を示す図である。
図4】シグナルペプチドRSP、C11S及びC20Sを用いて生成したヘッジホッグタンパク質をLC-MS解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0010】
1.概要
植物発現系において分泌タンパク質を発現させる場合、イネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)を用いることが知られている。
しかし、本発明者が植物においてヘッジホッグタンパク質を生成するためにRSPを用いたところ、RSPとヘッジホッグタンパク質とを含むポリペプチドは、シグナルペプチダーゼによる本来の切断部位とは異なる部位で切断され、その結果として、インタクトなN末端アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するヘッジホッグタンパク質が生じることがわかった。このような切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成は、できるかぎり抑制することが求められる。
このような課題に対し、本発明者は、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成において、C末端から2番目のアミノ酸がGlu、Asp又はPheであるシグナルペプチドを用いることにより、従来技術であるRSPと比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を顕著に抑制することに成功した。
本発明は、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成において、シグナルペプチダーゼが本来の切断部位でシグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とを切断する精度を向上させることができる。その結果、従来技術と比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を抑制するとともに、インタクトなN末端アミノ酸配列を有するヘッジホッグタンパク質の生成率を向上させることができる。このような効果を有する本発明は、均質なヘッジホッグタンパク質を提供できる点で、産業上極めて有用である。
【0011】
2.シグナルペプチド
本発明のシグナルペプチドは、C末端から2番目の位置のアミノ酸(下記式IにおけるX4)が酸性アミノ酸(具体的には、グルタミン酸(Glu)若しくはアスパラギン酸(Asp))又はフェニルアラニン(Phe)であるものである限り、限定されない。
【0012】
より具体的には、下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するものが好ましい。
【0013】
一般に、シグナルペプチドは、異種シグナルペプチド間において互いにアミノ酸配列の相同性がないことが知られている一方、共通する構造モチーフを有することが知られている。そして、当該構造モチーフは、典型的には、N末端領域、疎水性領域(H領域)及びC末端領域で構成されることが知られている。当該N末端領域は正荷電アミノ酸を含み、疎水性領域は少なくとも3残基(例えば3~5残基)のLeuを含み、C末端領域は非荷電アミノ酸を含むことが報告されている(Hajar Owji, et al., European Journal of Cell Biology, 97 (2018) 422-441、K. Hatsuzawa, et al., J Biochem. 1997 Feb;121(2):270-7)。疎水性領域は、N末端領域とC末端領域との間に位置する。
本発明の上記式Iにおいて、シグナルペプチドのN末端領域は、M-X1のアミノ酸配列に対応し、疎水性領域及びC末端領域の一部はX2のアミノ酸配列に対応し、C末端から数えて3~1番目のアミノ酸は、X3-X4-X5に対応する。
【0014】
シグナルペプチドは、当該シグナルペプチドをN末端に有するタンパク質を細胞内で輸送(例えば小胞体に輸送)し、輸送後にシグナルペプチダーゼにより切断される活性又は機能を有する。一方、上記のとおり、一般に、シグナルペプチドは、異種シグナルペプチド間において互いにアミノ酸配列の相同性がない(K. Hatsuzawa, et al., J Biochem. 1997 Feb;121(2):270-7)。つまり、シグナルペプチドのアミノ酸配列は、その活性又は機能を有するために、ある特定のアミノ酸配列に限定されない。
そして、本発明において、シグナルペプチドがその活性又は機能を有するか否かは、当業者であれば、公知の方法(Raif Musa-Aziz, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 31;106(13):5406-11)に準じて、植物発現系においてシグナルペプチドの切断の有無を調べることにより、容易に確認することができる。具体的には、公知の免疫学的手法、例えばウェスタンブロッティングを用いて、形質転換体において適正な分子量(19.5kDa)のヘッジホッグタンパク質が生成したことを確認できれば、当該ヘッジホッグタンパク質に付加されていたシグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有する又はその機能を発揮したことを確認できる。
【0015】
上記の通り、一般に、シグナルペプチドのアミノ酸配列は、その活性を有する又は機能を発揮するために、特定のアミノ酸配列に限定されない。
本発明のシグナルペプチドにおいても、X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であるところ、X1を構成するアミノ酸又はアミノ酸配列の種類及び数は限定されない。すなわち、本発明のシグナルペプチドにおいて、X1は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22個のアミノ酸からなるアミノ酸又はアミノ酸配列が含まれる。
さらに、本発明のシグナルペプチドには、X1のアミノ酸配列を有さない(すなわち式I中の(X1)iにおけるiが0である)ポリペプチドが存在する(例えば後述する「C20S」)。このようなポリペプチドもシグナルペプチドとして機能することが示されている(実施例4など)。
【0016】
本発明のシグナルペプチドにおいて、X2を構成するアミノ酸配列は、少なくとも3個のロイシン(Leu)を含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。
一般に、シグナルペプチドとして機能するペプチドの疎水性領域を構成するアミノ酸配列は、少なくとも3個(例えば3~5個)のロイシンを含む。
本発明において、X2のアミノ酸配列には、ロイシンが連続的な配列として含まれていてもよいし、非連続的に(例えば、ロイシンとロイシンとの間に別のアミノ酸を含む状態で)含まれていてもよい。
本発明において、X2のアミノ酸配列には、例えば、19個、18個、17個、16個、15個のアミノ酸からなるアミノ酸配列が含まれるが、これらに限定されない。
本発明のシグナルペプチドにおいて、X3は、アラニン(Ala)又はバリン(Val)であり、X4は、陰性(酸性)アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)若しくはアスパラギン酸(Asp)又はフェニルアラニン(Phe)であり、X5は、アラニン(Ala)又はセリン(Ser)である。
本発明では、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成において、X4がGlu、Asp又はPheであるシグナルペプチドを用いることにより、従来技術であるRSPと比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を顕著に抑制することができる。
【0017】
本発明の式Iにおいて、X3-X4-X5の配列は、限定されるものではなく、例えば、バリン(V)-アスパラギン酸(D)-セリン(S)、バリン(V)-アスパラギン酸(D)-アラニン(A)、バリン(V)-グルタミン酸(E)-セリン(S)、V-E-A、バリン(V)-フェニルアラニン(F)-セリン(S)、V-F-A、A-D-S、A-D-A、A-E-S、A-E-A、A-F-S、A-F-Aが挙げられ、好ましくは、V-D-S、V-D-A、V-E-A、A-F-Aである。
【0018】
本発明において、シグナルペプチドのアミノ酸配列の長さは、7個~60個であり、好ましくは、10個~45個、より好ましくは20~45個、さらに好ましくは23~45個である。
【0019】
本発明において、シグナルペプチドの、「シグナルペプチダーゼにより切断される活性」とは、シグナルペプチドが融合したヘッジホッグタンパク質を植物発現系で発現させた場合に、シグナルペプチドが、シグナルペプチダーゼにより、シグナルペプチドのC末端アミノ酸とヘッジホッグタンパク質のN末端アミノ酸との間で切断される活性を意味する。シグナルペプチドがこの活性を有することは、公知の方法(Raif Musa-Aziz, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 31;106(13):5406-11 )に準じて、例えば、植物発現系においてシグナルペプチドの切断の有無を調べることにより、容易に確認することができる。より具体的には、シグナルペプチドが「シグナルペプチダーゼにより切断される活性」を有するか否かについては、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物を宿主に導入し、得られた形質転換体からタンパク質を採取し、採取したタンパク質を公知の免疫学的手法、例えばウェスタンブロッティングに供試し、ヘッジホッグタンパク質の適正な分子量(19.5kDa)に対応する位置でシグナルが検出されるかどうかにより確認することができる。
このように、試験対象となるシグナルペプチドが「シグナルペプチダーゼにより切断される活性」を有するか否かは、当業者であれば、公知の免疫学的手法を用いて容易に確認することができる。
【0020】
本明細書において、「宿主」及び「形質転換体」は、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物から、最終的にヘッジホッグタンパク質を生成することができるものであれば限定されるものではない。このような「宿主」及び「形質転換体」としては、限定されるものではなく、例えば、植物体もしくはその一部(例えば器官、組織)、植物細胞(植物培養細胞を含む)などが挙げられる。
【0021】
本発明において、「植物発現系」とは、植物において、目的遺伝子が発現し、目的タンパク質が翻訳され、かつ目的タンパク質が生成する系を指す。本明細書において、「生成」とは、植物において目的タンパク質(本発明においてはヘッジホッグタンパク質)が生じることを意味する。
本明細書において、「植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成」とは、植物において、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物から、シグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とを含むタンパク質が発現し、シグナルペプチダーゼによりシグナルペプチドが切断され、ヘッジホッグタンパク質が生成することを意味する。
本明細書において、「植物」には、植物体もしくはその一部(例えば器官、組織)、植物細胞(植物培養細胞を含む)が含まれ、これらに限定されない。
【0022】
本発明のシグナルペプチドは、植物発現系で機能する限り限定されない。そのようなシグナルペプチドとしては、植物シグナルペプチドが挙げられる。植物シグナルペプチドは、The Universal Protein Resource (UniProt)など公知のデータベースを用いてIn silico解析により探索することができる。具体的には、例えば、UniProt database (https://www.uniprot.org/uniprot/)に対して、検索式にtaxonomy:viridiplantae annotation:(type:signal evidence:experimental)を用いることで、植物においてシグナルペプチドとして機能することが実験的に実証されている植物シグナルペプチドを検索し、そのアミノ酸配列の情報を取得することが可能である。また、公開されているゲノムデータベースや、独自のRNAseq等のシーケンス情報よりCDS配列を取得し、SignalP(https://services.healthtech.dtu.dk/service.php?SignalP-6.0)のような解析ツールを用いることで、シグナルペプチドとして機能する可能性がある配列を予測し、取得することも可能である。
【0023】
In silico解析により、植物においてシグナルペプチドとして機能することが実験的に実証されている植物シグナルペプチドの例を下記の表に示すが、そのような植物シグナルペプチドはこれらに限定されない。
【0024】
【表1】

【0025】
本発明におけるシグナルペプチドとしては、例えば下記の表に示すシグナルペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
【表2】

【0027】
上記表2に例示されるシグナルペプチドのアミノ酸配列と本発明の下記式Iとの対応関係を表3に示す。

M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
【0028】
【表3】

上記表3に示すC20Sを式Iで表す場合、iは0である。
【0029】
本発明におけるシグナルペプチドには、以下の(a)~(c)のポリペプチド:
(a) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチド
が含まれる。
【0030】
本発明において、「配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド」には、配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。
【0031】
また、本発明におけるシグナルペプチドには、配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列のほか、配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつシグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチドが挙げられる。
このようなポリペプチドとしては、配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列に対して、約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつシグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するポリペプチドが含まれる。配列同一性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイト、例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI-BLAST等の相同性検索を利用できる。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いて調べることもできる。
【0032】
また、「配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、
(i) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
(iv) 配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、
(v) 上記(i)~(iv) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0033】
本発明において、「シグナルペプチダーゼにより切断される活性」の有無については、
当業者であれば、公知の方法(Raif Musa-Aziz, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 31;106(13):5406-11)に準じて、植物発現系においてシグナルペプチドの切断の有無を調べることにより、容易に確認することができる。具体的には、公知の免疫学的手法、例えばウェスタンブロッティングを用いて、形質転換体において適正な分子量(19.5kDa)のヘッジホッグタンパク質が生成したことを確認できれば、当該ヘッジホッグタンパク質に付加されていたシグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有することを確認できる。
ここで、本発明において、「シグナルペプチダーゼ」とは、シグナルペプチドを切断する酵素を意味し、植物内に存在するシグナルペプチダーゼであれば限定されるものではない。シグナルペプチダーゼは、例えば、小胞体に存在する。
また、「シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有する」とは、配列番号3、5、11、13若しくは16のアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性を100としたときと比較して、少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
【0034】
上記の変異を有するポリペプチドを調製するために、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等に記載された部位特異的変異誘発法等の方法を用いることができる。
【0035】
3.ヘッジホッグタンパク質
ヘッジホッグタンパク質は、胚発生に関与することが知られている。
本発明のヘッジホッグタンパク質には、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog: SHH)タンパク質、インディアンヘッジホッグ(indian hedgehog: IHH)タンパク質、デザートヘッジホッグ(desert hedgehog: DHH)タンパク質が含まれる。これらのヘッジホッグタンパク質は互いに配列同一性が高い。図1に、ヒトSHHタンパク質、ヒトIHHタンパク質及びヒトDHHタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。図1中、シグナルペプチダーゼによる切断部位と自己プロセシング(autolysis、auto processing)による切断部位をそれぞれ線で示す。
本発明においては、ヘッジホッグタンパク質として、自己プロセシングによる切断部位のすぐN末端側のアミノ酸にストップコドンが付加されるようにヌクレオチド配列を設計し、ヘッジホッグタンパク質の前駆体タンパク質のアミノ酸配列から、シグナルペプチドのアミノ酸配列(MLLLARCLLLVLVSSLLVCSGLA)及び自己プロセッシングにより除去されるアミノ酸配列(ヒトヘッジホッグタンパク質の場合はC末端から265アミノ酸残基)を除いたアミノ酸配列を有するポリペプチドを作製することができる。
【0036】
本発明におけるヘッジホッグタンパク質は、任意の哺乳動物に由来するものであってよい。そのような哺乳動物としては、限定されるものではなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、サル、ヒトなどが挙げられ、好ましくは、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ヒトであり、より好ましくはヒトである。これらのヘッジホッグタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列の一例として、ヒトソニックヘッジホッグ(SHH)タンパク質の前駆体タンパク質(プレプロプロテイン(preproprotein))のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号18及び19で示す。ヒトSHHタンパク質の前駆体タンパク質のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれGenBankデータベースにおいて、下記の所定のアクセッション番号(Accession No.)により登録されている。
【0037】
ヒトSHHタンパク質をコードするDNAのヌクレオチド配列:NM_000193.4(配列番号18)
ヒトSHHタンパク質のアミノ酸配列:NP_000184.1(配列番号19)
【0038】
本発明におけるヘッジホッグタンパク質には、上記ヒトSHHタンパク質の前駆体タンパク質のアミノ酸配列から、シグナルペプチドのアミノ酸配列(MLLLARCLLLVLVSSLLVCSGLA)及び自己プロセッシングにより除去されるアミノ酸配列を除いたアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。具体的には、本発明におけるヘッジホッグタンパク質には下記のアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。

ヒトSHHタンパク質のアミノ酸配列(シグナルペプチドのアミノ酸配列及び自己プロセッシングにより除去されるアミノ酸配列を除く):
CGPGRGFGKRRHPKKLTPLAYKQFIPNVAEKTLGASGRYEGKISRNSERFKELTPNYNPDIIFKDEENTGADRLMTQRCKDKLNALAISVMNQWPGVKLRVTEGWDEDGHHSEESLHYEGRAVDITTSDRDRSKYGMLARLAVEAGFDWVYYESKAHIHCSVKAENSVAAKSGG (配列番号21)
【0039】
また、本発明におけるヘッジホッグタンパク質には、アミノ酸配列が改変されたものが含まれる。具体的には、本発明におけるヘッジホッグタンパク質としては、限定されるものではなく、例えば、下記のアミノ酸配列を含む改変ヒトSHHタンパク質が挙げられる。

改変ヒトSHHタンパク質のアミノ酸配列:
IIGPGRGFGKRRHPKKLTPLAYKQFIPNVAEKTLGASGRYEGKISRNSERFKELTPNYNPDIIFKDEENTGADRLMTQRCKDKLNALAISVMNQWPGVKLRVTEGWDEDGHHSEESLHYEGRAVDITTSDRDRSKYGMLARLAVEAGFDWVYYESKAHIHCSVKAENSVAAKSGG (配列番号23)
【0040】
この改変ヒトSHHタンパク質のアミノ酸配列では、配列番号21のアミノ酸配列におけるN末端アミノ酸(システイン(C))が、2個のイソロイシン(II)に改変されている。
ただし、本発明におけるヘッジホッグタンパク質はこれらに限定されない。例えば、本発明におけるヘッジホッグタンパク質には、上記ヒトSHHタンパク質又は改変ヒトSHHタンパク質のアミノ酸配列のC末端アミノ酸に、タグ、プロテアーゼ認識配列を付加したものや、タンパク質の発現後に当該タグ及びプロテアーゼ認識配列を含むアミノ酸配列がプロテアーゼで切除されたものも含まれる。
上記タグとしては、例えば、Hisタグ、HAタグ、FLAGタグ、Mycタグなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、プロテアーゼとしては、例えば、Furin、TEVプロテアーゼ、HRV 3Cプロテアーゼ、トロンビン、Xa因子、エンテロキナーゼなどが挙げられ、プロテアーゼ認識配列としては、例えば、Furin認識配列、TEVプロテアーゼ認識配列、HRV 3Cプロテアーゼ認識配列、トロンビン認識配列、Xa因子認識配列、エンテロキナーゼ認識配列などが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、ヘッジホッグタンパク質の「N末端アミノ酸」又は「N末端アミノ酸配列」というときは、ヘッジホッグタンパク質の前駆体タンパク質からシグナルペプチドが除かれたポリペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号21又は23)におけるN末端アミノ酸又はN末端アミノ酸配列を意味する。同様に、本明細書においてヘッジホッグタンパク質の「C末端アミノ酸」又は「C末端アミノ酸配列」というときは、ヘッジホッグタンパク質の前駆体タンパク質から自己プロセッシングにより除去されるアミノ酸配列が除かれたポリペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号21又は23)におけるC末端アミノ酸又はC末端アミノ酸配列を意味する。
【0041】
本発明におけるヘッジホッグタンパク質には、以下の(a)~(c)のポリペプチド:
(a) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ、ヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチド、又は
(c) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチド
が含まれる。
【0042】
本発明において、「配列番号21若しくは23のアミノ酸配列を含むポリペプチド」には、配列番号21若しくは23のアミノ酸配列からなるポリペプチドが含まれる。
【0043】
また、本発明におけるヘッジホッグタンパク質には、配列番号21若しくは23のアミノ酸配列のほか、配列番号21若しくは23のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチドが挙げられる。
このようなポリペプチドとしては、配列番号21若しくは23のアミノ酸配列に対して、約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチドも含まれる。配列同一性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイト、例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI-BLAST等の相同性検索を利用できる。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いて調べることもできる。
【0044】
また、「配列番号21若しくは23のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、
(i) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列中の1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
(iv) 配列番号21若しくは23のアミノ酸配列に1~10個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、
(v) 上記(i)~(iv) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0045】
本発明において、「ヘッジホッグタンパク質の活性」の有無については、公知の方法に基づいて評価することができる。例えば、本明細書の実施例7に記載されているように、マウス胚由来C3H10T1/2細胞を、被験ポリペプチドで処理して培養し、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性を測定することにより、被験ポリペプチドについて、ヘッジホッグタンパク質の活性の有無を測定することができる。
また、「ヘッジホッグタンパク質の活性」は、ED50値を測定することで評価することができる。ヘッジホッグタンパク質の活性の強弱は、ED50値の絶対値の高低により評価することができる。また、ED50値が測定できたということは、測定対象のポリペプチドがヘッジホッグタンパク質の活性を有することを意味する。
【0046】
上記の変異を有するポリペプチドを調製するための変異の導入方法については上記「シグナルペプチド」と同様である。
【0047】
本明細書において、ヘッジホッグタンパク質について「インタクトな」N末端とは、シグナルペプチダーゼによる本来の切断部位(切断サイト)で切断されたときに生じるヘッジホッグタンパク質のN末端アミノ酸又はN末端アミノ酸配列を意味する。
ここで、「本来の切断部位」とは、シグナルペプチドのC末端アミノ酸とヘッジホッグタンパク質のN末端アミノ酸との間を意味する。例えば、シグナルペプチドが上記表2におけるC2Sであり、ヘッジホッグタンパク質が上記改変ヒトSHHタンパク質である場合、シグナルペプチダーゼによる本来の切断部位は、シグナルペプチドのC末端アミノ酸Alaと改変ヒトSHHタンパク質のN末端アミノ酸Ileとの間である(図3)。また「切断されたとき」とは、シグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とが切断されたときを意味する。
インタクトなN末端は、元のアミノ酸配列のN末端と比較して、アミノ酸若しくはアミノ酸配列が付加されていない又は欠損していない、N末端アミノ酸又はN末端アミノ酸配列である。ここで、「元のアミノ酸配列」とは、シグナルペプチドを融合する前のヘッジホッグタンパク質のアミノ酸配列をいう。より具体的には、「インタクトなN末端」は、例えば、ヒトSHHタンパク質の場合は、「CGP」を含むN末端アミノ酸配列を指し、上記改変ヒトSHHタンパク質の場合は「IIGP」を含むN末端アミノ酸配列を指す。他のヘッジホッグタンパク質についても同様である。
【0048】
一方、本明細書において、シグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とが本来の切断部位とは異なる部位で切断され、アミノ酸若しくはアミノ酸配列の付加又は欠損を有するN末端を、「切断不良の」N末端といい、このような切断不良のN末端を有するタンパク質を「切断不良の」タンパク質という。切断不良のN末端としては、限定されるものではなく、例えば、アミノ酸配列VAHAがN末端に付加されたN末端アミノ酸配列、アミノ酸配列IIGPGRGFGK若しくはIIGPGRGFGが欠損したN末端アミノ酸配列が挙げられる。
【0049】
4.ポリヌクレオチド、核酸構築物
本発明は、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む、核酸構築物を提供する。本発明の核酸構築物においては、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの3'末端は、ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端に連結されている。本発明において、「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAが含まれる。
本発明の核酸構築物は、具体的には、下記のとおりである。

(i) 下記の式I:
M-(X1)i-X2-X3-X4-X5 式I
(式中、
MはMetであり、
X1は、1~22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、iは0又は1であり、
X2は、少なくとも3個のLeuを含む3~19個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、
X3は、Ala又はValであり、
X4は、Glu、Asp又はPheであり、
X5は、Ala又はSerである)
で示される7~45個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含み、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと、
(ii) ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドと
を含む、核酸構築物であって、
前記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結されている、核酸構築物。
【0050】
本発明のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドは、上記「2.シグナルペプチド」に記載したシグナルペプチドをコードするものであれば、そのヌクレオチド配列は限定されない。本発明のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドは、上記「2.シグナルペプチド」に記載したIn silico解析により、植物シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列の情報を取得し、これに基づいて調製することができる。当該情報は、具体的には、例えば、公知の遺伝子データベース、例えばUniProt databaseにおいてアクセション番号で検索することで、取得することができる。また、市販されているポリヌクレオチドを購入することにより取得することもできる。
【0051】
上記表2で例示した本発明のシグナルペプチドについて、当該シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を下記の表に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
本発明のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドは、上記表4に例示したものに限定されず、また、そのヌクレオチド配列は、宿主の種類に応じてそのコドンを最適化することができる。
【0054】
本発明のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号2、4、10、12若しくは15のヌクレオチド配列を含む若しくは該ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドのほか、配列番号2、4、10、12若しくは15のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等を参照することができる。
また、本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号2、4、10、12若しくは15のヌクレオチド配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ、シグナルペプチダーゼにより切断される活性を有するシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。
【0055】
本発明のヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記「3.ヘッジホッグタンパク質」に記載したヘッジホッグタンパク質をコードするものであれば限定されない。すなわち、本発明のヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、「3.ヘッジホッグタンパク質」に記載した、ソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog: SHH)タンパク質、インディアンヘッジホッグ(indian hedgehog: IHH)タンパク質、デザートヘッジホッグ(desert hedgehog: DHH)タンパク質のそれぞれをコードするポリヌクレオチド、好ましくは、ヒトSHHタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
核酸構築物の作製においては、ヘッジホッグタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとして、ヘッジホッグタンパク質前駆体をコードするヌクレオチド配列からシグナルペプチド及び自己プロセッシングにより除去される部分をコードするヌクレオチド配列を除いたポリヌクレオチドを使用することができる。また、宿主の種類に応じてそのコドンを最適化したヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを使用することができる。このようなポリヌクレオチドとしては、配列番号21又は23のアミノ酸配列を含むヒトSHHタンパク質又は改変ヒトSHHタンパク質をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。これらのヒトSHHタンパク質、改変ヒトSHHタンパク質をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号20、22で示す。配列番号20及び22のヌクレオチド配列は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)のコドン出現頻度に合わせてコドンを最適化したものである。
【0056】
本発明のヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記で例示したものに限定されない。
【0057】
本発明のヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号20若しくは22のヌクレオチド配列を含む若しくは該ヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドのほか、配列番号20若しくは22のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。本発明において、ストリンジェントな条件及びハイブリダイゼーション法の詳細な手順については上記のとおりである。
また、本発明のヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号20若しくは22のヌクレオチド配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ、ヘッジホッグタンパク質の活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。
ここで、「ヘッジホッグタンパク質の活性」の有無については、公知の方法に基づいて評価することができる。例えば、本明細書の実施例7に記載しているように、マウス胚由来C3H10T1/2細胞を、被験ポリペプチドで処理して培養し、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性を測定することにより、被験ポリペプチドについて、ヘッジホッグタンパク質の活性の有無を測定することができる。
【0058】
ポリヌクレオチドに変異を導入する方法は、上記「シグナルペプチド」について記載したものと同様である。
【0059】
シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの3'末端が、ヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドの5'末端に連結した核酸構築物は、例えば、連結した遺伝子の人工合成、overlap extension PCR法、In-Fusion cloning法、Golden gate cloning法などを用いて作製することができる。
【0060】
5.組換えベクター
本発明は、本発明の核酸構築物を含む組換えベクターを提供する。
本発明において、組換えベクターとしては、上記4.に記載した本発明の核酸構築物を含むものであれば限定されるものではなく、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどを用いることができる。植物を宿主として用いる場合のプラスミドベクターとしては、例えばpRIベクター(pRI101、pRI909、pRI910、pRI201等)が挙げられるが、これに限定されない。また、植物を宿主として用いる場合のウイルスベクターとしては、例えば、植物ウイルスベクター、具体的には、例えば、TMVベクター、PVXベクター、CPMVベクター、CMVベクター、PPVベクター、AIMVベクター、ZYMVベクター等を用いることができる。本発明において使用されるベクターは、一過性発現用のベクターでも恒常的発現用のベクターでもいずれでもよい。当業者であれば、ベクターを導入する宿主の種類及び目的に応じて、使用するベクターを適宜選択することができる。
本発明の組換えベクターは、本発明の核酸構築物のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを含むことができ、また、これらを改変することもできる。例えば、組換えベクターにおける5’非翻訳領域(5’-UTR)(翻訳エンハンサー領域)を別のものに置換することができる。より具体的には、例えば、pRI201ベクターに搭載されているシロイヌナズナADH(AtADH)又はイネADH由来5'-UTRをAtCOR47由来5'-UTR (Yamasaki, S. et al. (2018) Journal of Bioscience and Bioengineering 125: 124-130) に置換することができる。
選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
【0061】
6.形質転換体
本発明は、本発明の核酸構築物及び/又は組換えベクターを含む、形質転換体を提供する。本発明の形質転換体は、上記「4.」に記載の核酸構築物及び/又は「5.」に記載の組換えベクターを宿主に導入することにより得ることができる。宿主に導入された、本発明の核酸構築物及び/又は組換えベクターにおける本発明の核酸構築物は、宿主のゲノム内に組み入れられていてもよく、また組み入れられていなくてもよい。
【0062】
本明細書において、「宿主」とは、本発明の核酸構築物及び/又は組換えベクターを導入する対象となる生物であって、本発明のヘッジホッグタンパク質を発現及び生成するものをいう。
本明細書において、「宿主」及び「形質転換体」は、本発明の核酸構築物又は組換えベクターからヘッジホッグタンパク質を生成することができるものであれば限定されるものではない。このような「宿主」又は「形質転換体」としては、限定されるものではなく、例えば、植物、例えば、植物体もしくはその一部(例えば器官、組織)、植物細胞(植物培養細胞を含む)などが挙げられる。植物としては、限定されるものではなく、例えば、ナス科植物(タバコ、トマト、ジャガイモ等)、イネ科植物(イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等)、アブラナ科植物(シロイヌナズナ、セイヨウアブラナ等)、キク科植物(レタス等)、コケ植物(ゼニゴケ、ヒメツリガネゴケ等)が挙げられ、タバコ属植物が好ましい。タバコ属植物としては、例えば、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)、タバコ(N. tabacum)、ニコチアナ・エクセルシオ(N. excelsior)などが挙げられるが、これらに限定されない。植物がタバコ属植物である場合、植物体もしくはその一部又は植物細胞としては、タバコ属植物若しくはその一部又はタバコ属植物由来の細胞(培養細胞を含む)が含まれる。他の植物についても同様である。
【0063】
宿主への核酸構築物及び/又は組換えベクターの導入は、公知の方法を用いて行うことができる。公知の遺伝子導入方法としては、例えば、ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法、電気穿孔法、カチオン性脂質法、及びこれらを組合せた方法等が挙げられるが、宿主が植物である場合は、植物ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法が好ましい。これらの方法に用いることができる組換えベクターは、上記「5.」に記載したとおりである。
【0064】
本発明において、宿主として植物を用いる場合は、形質転換の前に植物を培養又は栽培する。植物が植物体の一部又は植物細胞(植物培養細胞を含む)の場合は、これらを培養し、植物が植物体の場合は栽培する。
植物細胞の培養方法は公知である(Plant Biotechnol J. 2019 Aug; 17(8): 1560-1566あるいは、Front. Plant Sci.2018 Jan: Volume 9 Article 45)。また、植物体の栽培方法は、限定されるものではなく、例えば下記に示す方法が挙げられる。
まず、肥料を入れた育苗トレイに種子を播種し、播種後の植物を人工気象器にて光サイクルを調節して数日間生育させる。肥料として液体肥料を用いる場合は、水耕栽培用ウレタンマットに液体肥料を染み込ませて育苗トレイに収めることができる。
次に、育苗した植物体を栽培(前期)用パネルに移植し、移植後のパネルを人工気象器にセットし、例えば、湛液方式(deep flow technique、DFT方式)にて数日間栽培する。
その後、栽培(前期)用パネルから植物体を取り出し、栽培(後期)用パネルに定植する。移植後の栽培(後期)用パネルを人工気象器にセットし、DFT方式にて数日間栽培し、植物体を得る。
【0065】
上記の方法において、肥料としては液体肥料を用いることができるが、これらに限定されない。液体肥料を用いる場合は、水耕栽培用ウレタンマットに液体肥料を染み込ませて育苗トレイに収めることができる。
本発明において、液体肥料は市販のものを適宜組み合せて使用することができ、限定されない。液体肥料は、脱塩素水に溶解することができる。また、液体肥料は、電気伝導度及びpHを調整して用いることができ、当業者であれば公知の方法を用いてこれらを調整することができる。
【0066】
本発明において、環境条件としては、例えば、温度が10~40℃(例えば28℃)、相対湿度が栽培前期で60~80%、栽培後期で40~60%、CO2濃度が300~5000 ppm(例えば400 ppm、500 ppm)、栽培日数が栽培前期で0日~35日間(例えば6~9日間)、栽培後期で0日~35日間(例えば6~9日間)に設定することができるが、これらに限定されず、当業者であれば植物の生育状況等に応じてこれらの条件を適宜調整することができる。
本発明において、水耕栽培の方式としては、主に湛液方式(deep flow technique: DFT方式)と薄膜方式(Nutrient Film Technique: NFT方式)を用いることができる。
【0067】
上記の通り、宿主が植物である場合は、植物ウイルスベクターを用いた方法、アグロインフェクション法を用いることができる。これらの方法は当業者によく知られているが、例としてアグロインフェクション法を簡潔に説明すると下記の通りである。
まず、上記「5.」に記載した本発明のベクターをアグロバクテリウムに電気穿孔法等により導入し、アグロバクテリウムを形質転換する。本発明に用いることができるアグロバクテリウムとしては、限定されるものではないが、例えば、AGL1株、GV3101株、LBA4404株、EHA101株、EHA105株等が挙げられる。
【0068】
次に、形質転換したアグロバクテリウムを、植物の葉などに感染させる。アグロバクテリウムが植物に感染すると、本発明の核酸構築物を含むポリヌクレオチドが植物に導入される。アグロバクテリウムを植物に感染させる方法としては、例えば、真空浸潤(Vacuum Infiltration)法、シリンジインフィルトレーション法、リーフディスク法、葉面散布法などが挙げられる。真空浸潤法を用いる場合の手順としては、例えば、まず、栽培した植物を逆さにしてビーカー中のアグロバクテリウムの菌液に全ての葉が完全に液中に浸かるように浸漬させる。その後、当該ビーカーを真空デシケーターに入れ、数分間(例えば1分間)静置し、減圧する。その後、バルブを一気に開放して復圧を行う。復圧終了後、植物を正立に戻し、人工気象器にセットする。感染後、人工気象器を用いて例えばDFT方式にて1~14日間(例えば6~9日間)栽培する。環境条件は、上記と同様であり、当業者であれば植物の生育状況等に応じてこれらの条件を適宜調整することができる。
【0069】
これにより、植物の形質転換体を取得することができる。アグロバクテリウムを植物に感染させる際には、別のベクターをそれぞれ含む複数種のアグロバクテリウムを同時に感染させてもよい。その際、本発明のベクター以外のベクターを含むアグロバクテリウムを組み合わせて用いてもよい。
【0070】
7.シグナルペプチドの使用
本発明は、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成における、シグナルペプチドの使用を提供する。
植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成において、本発明のシグナルペプチドを使用することにより、従来技術であるRSPと比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成を顕著に抑制することができるとともに、インタクトなN末端アミノ酸配列を有するヘッジホッグタンパク質の生成率を向上させることができる。
【0071】
上記「2.シグナルペプチド」において説明したとおり、本発明のシグナルペプチドの使用において、「植物発現系」とは、植物において、目的遺伝子が発現し、目的タンパク質が翻訳され、かつ目的タンパク質が生成する系を指す。本明細書において、「生成」は、目的タンパク質が生じることを意味する。
上記の通り、本明細書において、「植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成」とは、植物において、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物から、シグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とを含むタンパク質が発現し、シグナルペプチダーゼによりシグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とが切断され、ヘッジホッグタンパク質が生成することを意味する。
また、上記「6.」に記載したとおり、本明細書において、「植物」には、植物体若しくはその一部(例えば器官、組織)又は植物細胞(植物培養細胞を含む)が含まれ、これらに限定されない。
「ヘッジホッグタンパク質」の説明は、上記「3.ヘッジホッグタンパク質」に記載したとおりである。
【0072】
一態様において、本発明は、植物発現系でのヘッジホッグタンパク質の生成における、シグナルペプチドの使用であって、以下の工程(a)及び(b):
(a) シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物及び/又は当該核酸構築物を含む組換えベクターを宿主に導入し、形質転換体を得る工程、及び
(b) 工程(a)で得られた形質転換体で生成したヘッジホッグタンパク質を回収する工程、
を含むことができる。
各工程の詳細は、後述する「8.ヘッジホッグタンパク質の製造方法」に記載のとおりである。
【0073】
8.ヘッジホッグタンパク質の製造方法
本発明は、ヘッジホッグタンパク質の製造方法を提供する。
本発明の製造方法により、従来技術と比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の生成率を抑制することができる。言い換えれば、本発明の製造方法により、従来技術と比較して、インタクトなN末端を有するヘッジホッグタンパク質の生成率を改善することができる。「インタクトな」N末端についての説明は、上記「3.ヘッジホッグタンパク質」に記載したとおりである。
【0074】
一態様において、本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を培養又は栽培する工程を含む。本発明の形質転換体を培養又は栽培することにより形質転換体でヘッジホッグタンパク質が生成する。具体的には、例えば、形質転換体が植物体の場合は、当該形質転換体を人工気象器を用いて例えばDFT方式にて1~14日間(例えば6~9日)栽培することにより、形質転換体でヘッジホッグタンパク質が生成する。生成したヘッジホッグタンパク質を回収することにより、ヘッジホッグタンパク質を取得することができる。ヘッジホッグタンパク質の回収方法については後述する。
本発明の形質転換体及びその培養又は栽培方法についての詳細な説明は、上記「7.」に記載したとおりである。
【0075】
また、一態様において、本発明は、以下の工程(a)及び(b):
(a) 本発明の核酸構築物及び/又は本発明の組換えベクターを宿主に導入し、形質転換体を得る工程、及び
(b) 工程(a)で得られた形質転換体で生成したヘッジホッグタンパク質を回収する工程
を含む、ヘッジホッグタンパク質の製造方法である。
【0076】
上記工程(a)は、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物(本発明の核酸構築物)及び/又は当該核酸構築物を含む組換えベクター(本発明の組換えベクター)を宿主に導入し、形質転換体を得る工程である。形質転換体を培養又は栽培すると、シグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質とを含むポリペプチドが発現し、当該ポリペプチドがシグナルペプチダーゼによりシグナルペプチドとヘッジホッグタンパク質に切断され、ヘッジホッグタンパク質が生成する。
【0077】
具体的には、上記工程(a)は、例えば、以下の工程(a1)及び(a2):
(a1) 宿主に本発明の核酸構築物及び/又は本発明の組換えベクターを導入し、形質転換体を得る工程、及び
(a2) 形質転換体を培養又は栽培する工程
を含む。
【0078】
工程(a1)に係る、「宿主」、「形質転換体」及び形質転換体を得る方法については、上記「6.形質転換体」で説明したとおりである。具体的には、本発明の核酸構築物を宿主に導入する方法としては、例えば、本発明の核酸構築物を含む組換えベクターが導入されたアグロバクテリウム形質転換体を、宿主に感染させる方法、本発明の核酸構築物を含むポリヌクレオチドをパーティクルガン又は電気穿孔法等により宿主に導入する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の核酸構築物を含む組換えベクターを宿主に導入する方法としては、例えば、本発明の核酸構築物を含むウイルスベクターを宿主に感染させる方法、本発明の核酸構築物を含むプラスミドベクターをパーティクルガン又は電気穿孔法等により宿主に導入する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明においては、本発明の核酸構築物とこれを含む組換えベクターの両者を宿主に導入することもできる。本発明における宿主及び形質転換体には、上記のとおり、例えば、植物、例えば、植物体もしくはその一部(例えば器官、組織)、植物細胞(植物培養細胞を含む)などが含まれる。そして、植物がタバコ属植物である場合、植物体もしくはその一部又は植物細胞としては、タバコ属植物若しくはその一部又はタバコ属植物由来の細胞(培養細胞を含む)が含まれる。他の植物についても同様である。
また、工程(a2)としては、例えば、形質転換体が植物体の場合は、当該形質転換体を人工気象器を用いて例えばDFT方式にて1~14日間(例えば6~9日間)栽培する工程が挙げられる。形質転換体を培養又は栽培することにより、当該形質転換体においてヘッジホッグタンパク質が生成する。
【0079】
上記工程(b)は、工程(a)において形質転換体で生成したヘッジホッグタンパク質を回収する工程である。
ヘッジホッグタンパク質の回収方法は限定されないが、形質転換体が植物体である場合のヘッジホッグタンパク質の回収は、例えば下記のようにして行うことができる。
まず、アグロバクテリウムの感染後1~14日(例えば6~9日)栽培した形質転換した植物体の葉を採取し、抽出用緩衝液を用いてヘッジホッグタンパク質を抽出する。採取する植物体の葉の量は植物体の種類によって異なる。また、抽出を行うまでの間は-80℃で凍結保存することができる。抽出用緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液などが挙げられるが、これらに限定されない。pHは上記緩衝液が適切に作用する範囲を含め、通例pH2~11の間で調整される。
次に、抽出液中に含まれるヘッジホッグタンパク質の精製を行う。精製は、通常の方法、例えば水性二相分配、硫安分画、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を単独又は適宜組み合わせることによって行うことができる。
得られた精製物質が目的のタンパク質、すなわちヘッジホッグタンパク質であることの確認は、通常の方法、例えばSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウェスタンブロッティング、酵素免疫測定法(ELISA)、質量分析等により行うことができる。
これにより、精製されたヘッジホッグタンパク質を得ることができる。
【0080】
得られたヘッジホッグタンパク質の活性は、例えば、本明細書の実施例7に記載しているように、マウス胚由来C3H10T1/2細胞を、被検対象のヘッジホッグタンパク質で処理して培養し、アルカリフォスファターゼ (ALP)活性を測定することにより、当該ヘッジホッグタンパク質の活性を測定することができる。
【0081】
9.ヘッジホッグタンパク質を含む組成物
本発明は、本発明のヘッジホッグタンパク質、例えば、本発明のヘッジホッグタンパク質の製造方法により得られたヘッジホッグタンパク質を含む組成物を提供することができる。本発明の組成物は、ヘッジホッグタンパク質のほか、生理食塩水、緩衝液、賦形剤等の公知の添加物を含むことができる。本発明のヘッジホッグタンパク質を含む組成物は、従来技術のシグナルペプチドを使用して製造したヘッジホッグタンパク質と比較して、切断不良のヘッジホッグタンパク質の含有率が低く、インタクトなN末端アミノ酸配列を有するヘッジホッグタンパク質の含有率が高いため、産業上ヘッジホッグタンパク質を利用する上で有用である。
【0082】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0083】
シグナルペプチドのIn silico解析
本実施例においては、配列データベースを用いて植物シグナルペプチドについてのIn silico解析を行い、植物で機能することが実験的に証明されている複数のシグナルペプチドの配列情報を得た。得られたシグナルペプチドのうち11個のシグナルペプチド(C1S、C2S、C3S、C4S、C5S、C6S、C8S、C9S、C11S、C16S、C20S)のアミノ酸配列及びイネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)のアミノ酸配列を下記の表に示す。
【0084】
【表5】

【実施例0085】
シグナルペプチド改変ヒトソニックヘッジホッグ(SHH)発現ベクターの構築
1.核酸構築物の作製
本実施例においては、実施例1で得られた植物由来シグナルペプチドの情報に基づき、当該シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドがヒトSHHをコードするポリヌクレオチドの5'末端に連結した核酸構築物を構築した。
具体的には、表1に示すシグナルペプチド(C1S、C2S、C4S、C5S、C6S、C8S、C9S、C11S、C16S、C20S)をコードするポリヌクレオチドがヒトSHHをコードするポリヌクレオチドの5'末端側に連結したポリヌクレオチドを、GeneArt遺伝子合成(Thermo Fisher Scientific社)で人工合成した。当該ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、GeneArt GeneOptimizerソフトウェア(Thermo Fisher Scientific社)を用いてベンサミアナタバコ(N. benthamiana)のコドン出現頻度に合わせてコドンの最適化を行ったものである。
これにより、上記シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヒトSHHタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む、核酸構築物を作製することができた。
【0086】
2.発現ベクターの作製
上記1.で作製した核酸構築物を、それぞれ、pRI201-ANベクター(タカラバイオ社)のNde I-Sal Iサイトにクローニングした。また、pRI201-ANベクターに搭載されているAtADH由来5'-UTRをAtCOR47由来5'-UTR (Yamasaki, S. et al. (2018) Journal of Bioscience and Bioengineering 125: 124-130) に置換した。
これにより、シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとヘッジホッグタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む核酸構築物を含む発現ベクターが得られた。
【実施例0087】
形質転換体の作製
1.宿主植物の栽培
本実施例では、宿主植物としてタバコ属植物であるベンサミアナタバコ(N. benthamiana)を用いた。
(1)播種
播種用液体肥料(大塚ハウスS1号(大塚アグリテクノ株式会社)0.78 g/L、大塚ハウス2号(大塚アグリテクノ株式会社)0.25 g/L、pH 5.0)を 水耕栽培用ウレタンマット(江松化成 W587.5 mm×D282 mm×H28 mm:12×2マス 穴径φ9 mm)にしみこませ、育苗トレイ(W600 mm×D300 mm×H300 mm)に収め、ベンサミアナタバコ(N. benthamiana)種子を播種した。
(2)育苗
播種後の植物を人工気象器 (NC-410HC) (日本医化器械製作所)にて室温28℃、相対湿度60~80%、16時間昼/8時間夜の光サイクルにて12日間生育させた。
【0088】
(3)栽培(前期)
育苗に用いたウレタンマットを1マスずつ分離し、栽培(前期)用パネル(W600 mm×D300 mm 30穴)に移植した。移植後の栽培(前期)用パネルを人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) にセットし、湛液方式(deep flow technique, DFT方式)にて9日間栽培した。環境条件および液体肥料条件は以下のとおりに制御した。
<環境条件>
温度:28℃
相対湿度:60~80%
照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
<液体肥料条件>
液体肥料は、肥料A液(大塚ハウスS1号150 g/L、大塚ハウス5号(大塚アグリテクノ株式会社)2.5 g/L)、肥料B液(大塚ハウス2号100 g/L)をそれぞれ脱塩素水に溶解し、等量に混合して使用した。pH調整にはpH調整剤ダウン(大塚アグリテクノ株式会社)および4% KOH水溶液を用いた。液体肥料の電気伝導度(electrical conductivity, EC)およびpHは「らくらく肥料管理機3」(株式会社セムコーポレーション)を用いてEC: 2.3 mS/cm、pH 6.0になるように調整した。
【0089】
(4)栽培(後期)
栽培(前期)用パネルより植物体を取り出し、栽培(後期)用パネル(W600 mm×D300 mm 6穴)に定植した。移植後の栽培(後期)用パネルを人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) にセットし、DFT方式にて7日間(播種後28日間)栽培した。環境条件は以下のとおり制御した。
<環境条件>
温度:28℃
相対湿度:40~60%
照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
【0090】
2.形質転換体の作製
(1)Vacuum Infiltration(真空浸潤法)による感染
実施例2で構築したベクターを、それぞれエレクトロポレーション法によりアグロバクテリウムAGL1株に導入し、Tomato bushy stunt virus P19発現ベクター(pRIANP19)を保有するAGL1株とともにアグロインフィルトレーション法でベンサミアナタバコ(N. benthamiana)に感染させた。
具体的には、上記「1.」で得られた播種後28日目のベンサミアナタバコを逆さにしてビーカー中のアグロバクテリウム菌液に全ての葉が完全に液中に浸るように沈めた。
その後、該ビーカーを真空デシケーター (FV-3P) (東京硝子器械株式会社) に入れ-0.09 MPaに1分間静置し、減圧した。その後、バルブを一気に開放して復圧をおこなった。
復圧終了後、植物を正立に戻し、人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所)にセットした。
上記pRIANP19は、TBSV(Tomato bushy stunt virus)由来のRNAサイレンシング抑制因子P19をコードする塩基配列(配列番号24)を、常法によりpRI 201-AN(タカラバイオ社)のマルチクローニングサイトMCS1に挿入することにより作製した。P19のアミノ酸配列は配列番号25で示す。
【0091】
(2)感染葉の栽培(発現工程)
感染後の栽培は人工気象器 (LH-410SP) (日本医化器械製作所) を用いて行った。DFT方式にて6日間栽培した。環境条件は以下のとおり制御した。
<環境条件>
温度:20℃
相対湿度:60~80%
照明:平均光合成光量子束密度(PPFD):140 μmol/m2・秒、24 h連続照射、三波長蛍光灯「ルピカライン」(三菱電機株式会社)
【実施例0092】
1.ウエスタンブロット法によるシグナルペプチド切断の評価
実施例3において形質転換したベンサミアナタバコ(N. benthamiana)葉からタンパク質を抽出して、抽出したタンパク質についてウエスタンブロット法を行った。ウエスタンブロットにおいて、ヒトSHHタンパク質の所定の位置より高分子の位置に出現したタンパク質は、本来の切断部位で正確に切断されなかったタンパク質(切断不良のタンパク質)を示すため、この位置に出現したタンパク質のシグナル強度を測定した。
具体的には、4-20% TGX ゲル(Bio-Rad社)でSDS-PAGEした抽出タンパク質をトランスブロット Turbo 転写システム(Bio-Rad社)を用いてPVDF膜に転写し、ヤギ抗ヒト・マウスSHHポリクロナール抗体(R&D Systems社)ならびにHRP標識ウサギ抗ヤギIgG抗体(R&D Systems社)と反応させた。発光試薬としてClarity Western ECL Substrate(Bio-Rad社)を用い、ImageQuant LAS 500(Cytiva社)でシグナルを検出し、ImageQuant TL version 8.1(Cytiva社)プログラムでボリューム解析を行った。なお、対照(Control)として市販の大腸菌発現ヒトSHHタンパク質(R&D systems社, 1845-SH-025/CF)を用いた。
試験はサンプルの種類を変えて2回行ったが(TEST-1、TEST-2)、実験条件及び方法は両試験とも同じである。
【0093】
評価結果を図2A及び2Bに示す。図2AはTEST-1の結果を示し、図2BはTEST-2の結果を示す。縦軸は、シグナルペプチドとしてイネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)を用いた場合の切断不良のヒトSHHタンパク質のシグナル強度を100として、各シグナルペプチドを用いた場合の切断不良のヒトSHHタンパク質のシグナル強度の相対値を示す。
図2A及び2Bに示されるとおり、シグナルペプチドC2S、C3S、C9S、C11S及びC20Sを用いた場合、ヒトSHHタンパク質の所定の位置より高分子の位置に出現するシグナルの強度は、イネαアミラーゼ由来シグナルペプチド(RSP)を用いた場合と比較して約50%以下であり、顕著に低かった。
この結果から、C2S、C3S、C9S、C11S及びC20Sの5つのシグナルペプチドを用いた場合、RSPを用いた場合と比較して、ヒトSHHタンパク質は、本来の切断部位で良好に切断されることが示された。
すなわち、本発明のシグナルペプチドを、植物発現系においてヒトSHHタンパク質を生成するために使用することにより、RSPを使用した場合と比較して、切断不良のヒトSHHタンパク質の生成を顕著に抑制することができることが示された。
【0094】
2.アライメント解析
MUSCLEプログラム(Edgar RC.(2004)Nucleic Acids Res 32: 1792-1797)を用いてシグナルペプチドのアライメント解析を行った。
その結果、上記1.において、切断不良のヒトSHHタンパク質の生成を顕著に抑制することができることが示されたC2S、C3S、C9S、C11S及びC20Sは、そのC末端から2番目(-2)に位置するアミノ酸(本明細書の式IにおけるX4のアミノ酸)が、陰性(酸性)アミノ酸であるアスパラギン酸(Asp、D)若しくはグルタミン酸(Glu、D)又はフェニルアラニン(Phe、F)であった(図3)。これに対し、切断不良のヒトSHHタンパク質を生成する可能性がRSPと比較して同等又はそれ以上であるC1S、C4S、C5S、C6S、C8Sは、いずれも、そのC末端から2番目(-2)に位置するアミノ酸が、Asp、Glu、Phe以外であった。
これらの結果から、本発明のシグナルペプチドは、驚くべきことに、そのC末端から2番目(-2)の位置のアミノ酸(本明細書の式IにおけるX4のアミノ酸)がAsp、Glu又はPheであることにより、植物発現系において切断不良のヒトSHHタンパク質の生成を顕著に抑制することができることが示された。
【0095】
また、C2S、C3S、C9S、C11S及びC20Sは、そのC末端から1番目(-1)に位置するアミノ酸(本明細書の式IにおけるX5のアミノ酸)が、シグナルペプチドに特徴的なアラニン又はセリンであること、そのC末端から3番目(-3)に位置するアミノ酸(本明細書の式IにおけるX3のアミノ酸)が、アラニン又はバリンであることが示された(図3)。
【実施例0096】
ヒトSHHタンパク質の製造
1.抽出
形質転換したベンサミアナタバコ(N. benthamiana)から感染6日後のタバコ葉を収穫した。抽出を行うまで-80℃で凍結保管した。
抽出用緩衝液として、100 mMリン酸カリウム、500 mM アルギニン塩酸塩、0.4 mg/mL ピロ亜硫酸ナトリウム, pH 8.0を用い、ポリトロンホモジナイザーPT2500E(KINEMATICA)で抽出した。
【0097】
2.精製
(1)清澄化
上記の方法で回収した抽出液を攪拌しながら1M 塩酸を滴下してpH 5.5に調整した。15,000×g, 15分間遠心してタバコ由来のタンパク質を沈殿させた。得られた上清をCelpureP300(Sigma Aldrich Fine Chemicals社)をプレコーティングした0.22 μm Nalgeneボトルトップフィルター 291-4520(Thermo Fisher Scientific社)でろ過し、清澄化液とした。
【0098】
(2)陽イオンクロマトグラフィーによる精製
RSP、C11S、C20Sを用いてヒトSHHタンパク質をそれぞれ発現させたタバコ葉(100 g)から、上記の手順で清澄化液を調製した。清澄化液を、予めカラム緩衝液(20 mM リン酸カリウム、150 mM NaCl、10%(w/v) グリセロール、pH 5.5)で平衡化したHiTrap SP HP 5mLカラム(Cytiva社)に滞留時間1分の速度で流し、タンパク質を吸着させた。その後、25 mLのカラム緩衝液で洗浄し、最後にカラム緩衝液のNaCl濃度を1000 mMまで段階的に上昇させながら流し、280 nmの吸光ピークの分画を回収して、RSP、C11S、C20Sを用いて生成した各ヒトSHHタンパク質を含む分画を得た。
得られた各ヒトSHHタンパク質をAmicon Ultra-15 遠心式フィルターユニット10K(Merck Millipore社)を用いて濃縮し、高塩濃度のPBS(2.7 mM KCl、587 mM NaCl、10 mM リン酸緩衝液、pH 7.4)で溶媒置換した。更に、Millex-GV SLGV004SLフィルター(Merck Millipore社)を用い、クリーンベンチ内で濾過滅菌した。濃度を測定するため、Pierce BSA標準溶液(Thermo Fisher Scientific社)の段階希釈液とともに4-20% TGXゲル(Bio-Rad社)でSDS-PAGEを行い、CBB染色による比色定量を行った。比色定量にはImageQuant LAS 500(Cytiva社)ならびにImageQuant TL version 8.1(Cytiva社)プログラムを使用した。
その結果、精製された各ヒトSHHタンパク質を製造することができた。
【実施例0099】
1.LC-MS解析
実施例5で得られた精製ヒトSHHタンパク質を、Amicon Ultra-0.5 3K(Merck社 UFC500396)を用いて50mM 重炭酸アンモニウムを含む10%アセトニトリル溶液に置換した。得られた試料について、Q Exactive Orbitrap質量分析計(ThermoFisher Scientific社)を用いて、インタクト質量分析を行った。カラムは、Bio Resolve RP mAb Polyphenyl Column, 450Å, 2.7μm, 3mm×150mm (Waters社 186008950)を使用し、60℃で操作した。移動相Aとして水中0.1%ギ酸、移動相Bとしてアセトニトリル中0.1%ギ酸を使用した。流量は0.2mL/分に設定した。分離は、8%Bで最初5分保持し、続いて20分かけて100%Bまで増加させ、20分間保持することで実施した。その後0.1分で8%Bに降下させ、次いで10分間保持することで、次の分析のためにカラムを平衡化した。
キャピラリー電圧は、50任意単位のシースガス流量及び15任意単位の補助ガス流量で、4.0kVに設定した。キャピラリー温度は300℃に設定し、プローブヒータ温度は450℃に設定した。質量スペクトルはm/z1000~3500の質量範囲で取得した。
質量スペクトルは、BioPharma Finder4.0 (ThermoFisher Scientific社)を使用して、デコンボリューションした。可変修飾として +15.995(酸化、水酸化)、-0.984(アミド化)、-17.027(脱アミノ化)を考慮し、各ピークの精密質量からタンパク質を同定した。
最後に、それぞれのピーク強度からN末端のバリエーション比率を算出した。相対量が2.1%以下のマイナーピークに関して、同定できないものは「Unknown」とした。
【0100】
RSPを用いた場合と比べて、C11SおよびC20Sを用いた場合はN末端がインタクトなヒトSHHタンパク質を生成する割合(生成率)が高く、本来の切断部位における切断精度の改善が認められた(図4)。
【0101】
図4において、「Intact」は、本来の切断部位(シグナルペプチドのC末端アミノ酸とヒトSHHタンパク質のN末端アミノ酸との間)で切断されたヒトSHHタンパク質、すなわちインタクトなN末端を有するヒトSHHタンパク質を指す。
図4におけるRSPの円グラフにおいて「+VAHA」は、N末端にアミノ酸配列VAHAが付加されたヒトSHHタンパク質を指し、「-IIGPGRGFGK」、「-IIGPGRGFG」は、それぞれ、N末端のアミノ酸配列からアミノ酸配列IIGPGRGFGK、IIGPGRGFGが欠損したヒトSHHタンパク質を指す。つまり、これらのヘッジホッグタンパク質は、インタクトなN末端を有さない。図4において「Unknown」は、上記の通り、同定できない物質である。
【0102】
以上の結果から、本発明のシグナルペプチドを用いることにより、RSPを用いた場合と比較して、インタクトなN末端アミノ酸配列を有するヒトヘッジホッグタンパク質を極めて高い生成率で製造できることが示された。
【実施例0103】
活性評価
実施例5で製造したヒトSHHタンパク質の生理活性を以下の手順で評価した。
マウス胚由来C3H10T1/2細胞を10% 血清含有増殖培地にて10,000~25,000 cells/wellの範囲で播種し、37℃、5% CO2環境下で1日培養した。RSP、C11S、C20Sを用いて生成した各ヒトSHHタンパク質をそれぞれ増殖培地で段階希釈して、培地交換法で細胞に処理し培養を継続した。その後1日および2日おきに、同様に調製した各ヒトSHHタンパク質を含む培地で2回処理し培養を継続した。最終処理から培養2日後、細胞を回収し、得られた各細胞溶解液についてアルカリフォスファターゼ (ALP)活性測定キット(富士フイルム和光社)を用いて、ALP活性を測定した。また前述の細胞溶解液のタンパク含有量をMicro BCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher Scientific社) を用いて測定し、1 μg あたりのALP活性を算出した。これにより、ヒトSHHタンパク質の処理濃度による用量依存的活性を確認し、GraphPad Prism 8 (GraphPad Software社)を使用して4パラメータ曲線に適合させ 50%有効濃度(ED50)を算出した。
その結果を下記の表に示す
【表6】
【0104】
上記表6に示されるとおり、C11S、C20Sを用いて生成したヒトSHHタンパク質は、RSPを用いて生成したものと比較して、低いED50値を示した。
この結果から、本発明のシグナルペプチドを使用して生成したヒトSHHタンパク質は、RSPを使用して生成したものと比較して、高い活性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のシグナルペプチドを使用することにより、インタクトなN末端アミノ酸配列を有するヒトSHHタンパク質を高い生成率で製造することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0106】
配列番号20~23:合成DNA又は合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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