(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137113
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電極、電極素子、電気化学素子、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20230922BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230922BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20230922BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230922BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20230922BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230922BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230922BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M4/13
H01M50/46
H01M50/414
H01M50/446
H01G11/26
H01G11/52
H01M50/434
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043143
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野勢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 彩
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】杉原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】有田 学
(72)【発明者】
【氏名】阿部 奈緒人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA30
5E078BA44
5E078BA49
5E078BA52
5E078BA53
5E078BA54
5E078BA56
5E078BB33
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA10
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA11
5H021AA06
5H021EE02
5H021EE22
5H021EE32
5H021HH03
5H050AA14
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA04
5H050DA09
5H050DA11
5H050DA19
5H050EA12
5H050EA23
5H050FA02
5H050FA12
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】電池性能を低下させることなく、電極端部で対向電極との短絡を防ぐことが可能なセパレータ一体型電極を提供する。
【解決手段】電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の一方の面上に設けられた絶縁層と、を備え、前記絶縁層は、前記一方の面と垂直な方向に第1の厚みを有する第1の膜厚層を含む第1領域と、前記第1の膜厚層および前記一方の面と垂直な方向に第2の厚みを有する第2の膜厚層とを含む第2領域を有し、前記第2領域は、前記一方の面の周縁部の少なくとも一部であることを特徴とする、電極。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、
前記電極基体上に設けられた電極合材層と、
前記電極合材層の一方の面上に設けられた絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、
前記一方の面と垂直な方向に第1の厚みを有する第1の膜厚層を含む第1領域と、
前記第1の膜厚層および前記一方の面と垂直な方向に第2の厚みを有する第2の膜厚層を含む第2領域と、を有し、
前記第2領域は、前記一方の面の周縁部の少なくとも一部であることを特徴とする、
電極。
【請求項2】
前記第1の膜厚層は、多孔質構造体で形成されている、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記第2の膜厚層は、多孔質構造体で形成されている、
請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記第1の膜厚層の前記構造体と前記第2の膜厚層の前記構造体とが一体化されている、
請求項2または3に記載の電極。
【請求項5】
前記第2の膜厚層は、前記第1の膜厚層の前記構造体と異なる多孔質構造体で形成される、
請求項2に記載の電極。
【請求項6】
前記多孔質構造体は、バインダーで結着された無機酸化物を含有する、
請求項2乃至5の何れか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記多孔質構造体は、樹脂を骨格とする樹脂構造体である、
請求項2乃至5の何れか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記樹脂構造体は、共連続構造である、
請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記第2の膜厚層は、前記第1領域から前記一方の面と垂直な方向に離れるにしたがって幅が狭くなるように傾斜する、
請求項1乃至8の何れか一項に記載の電極。
【請求項10】
前記第2領域は、前記周縁部の全周にわたって連続して形成される、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電極。
【請求項11】
前記一方の面は矩形状であり、
前記第2領域は、前記一方の面の3辺に形成される、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電極。
【請求項12】
前記第2領域は、前記一方の面の2辺に形成される、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記2辺は、前記一方の面において対向する辺である、
請求項12に記載の電極。
【請求項14】
前記第2領域は、前記周縁部の全周にわたって不連続に形成される、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の電極。
【請求項15】
正極と負極が互いに絶縁された状態で積層された電極素子であって、
前記正極または負極の少なくともいずれかが、請求項1乃至14の何れか一項に記載の電極である、
電極素子。
【請求項16】
前記絶縁層が前記正極または前記負極に形成され、
第2の膜厚層の前記第2の厚みは、前記絶縁層が形成された前記正極または前記負極と対向する前記負極または前記正極の厚みの半分以下である、
請求項15に記載の電極素子。
【請求項17】
請求項1乃至14の何れか一項に記載の電極を有する電気化学素子。
【請求項18】
請求項17に記載の電気化学素子を有する蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電極素子、電気化学素子、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の日常生活においてはスマートフォンやノートパソコンなどが普及し、また世界全体では脱炭素社会を目指して内燃機関を持たない電気自動車が注目され始めている。これらの電子機器には、高出力・高エネルギー密度の特徴を有するリチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン電池という場合がある)が搭載される。
【0003】
リチウムイオン電池では一般的に、正極と負極の間の絶縁性を確保するために、ポリオレフィン等で構成される自立型のセパレータが正負極間に設けられている。しかし、自立型のセパレータは、振動や衝撃によって積層ズレが生じたり、異常発熱時に収縮したりして短絡することが知られている。こうした問題に対して、負極または正極の表面に絶縁層を形成するセパレータ一体型電極が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セパレータ一体型電極は、スリッターや金型で切り抜く際に、端部において絶縁層が形成されておらず、活物質が露出している部分が生じることから、電気化学素子として動作させたときに、対向電極同士の接触によって短絡が生じる懸念がある。短絡する確率は、電極上に形成する絶縁層の膜厚を厚くすることで減らすことができるが、電極間距離が広がることによる内部抵抗の増加や体積エネルギー密度の低下が課題となる。
【0005】
本発明の課題は、電池性能を低下させることなく、電極端部で対向電極との短絡を防ぐことが可能なセパレータ一体型電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、電極基体と、前記電極基体上に設けられた電極合材層と、前記電極合材層の一方の面上に設けられた絶縁層と、を備え、前記絶縁層は、前記一方の面と垂直な方向に第1の厚みを有する第1の膜厚層を含む第1領域と、前記第1の膜厚層および前記一方の面と垂直な方向に第2の厚みを有する第2の膜厚層とを含む第2領域を有し、前記第2領域は、前記一方の面の周縁部の少なくとも一部であることを特徴とする、電極である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、電池性能を低下させることなく、電極端部で対向電極との短絡を防ぐことが可能なセパレータ一体型電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の第1の膜厚層および第2の膜厚層を有する多孔質絶縁層が形成された第1の電極の平面および断面の一例を示す模式図(その1)である。
【
図2】本実施形態の第1の膜厚層および第2の膜厚層を有する多孔質絶縁層が形成された第1の電極の平面および断面の一例を示す模式図(その2)である。
【
図3】本実施形態の第1の膜厚層および第2の膜厚層を有する多孔質絶縁層が形成された第1の電極の平面および断面の一例を示す模式図(その3)である。
【
図4】本実施形態の第1の膜厚層および第2の膜厚層を有する多孔質絶縁層が形成された第1の電極の平面および断面の一例を示す模式図(その4)である。
【
図6】本実施形態の蓄電素子用電極積層体の断面図(その1)である。
【
図7】本実施形態の蓄電素子用電極積層体の断面図(その2)である。
【
図8】本実施形態の蓄電素子用電極積層体の断面図(その3)である。
【
図9】蓄電素子用電極の製造装置の一例を示す模式図(その1)である。
【
図10】蓄電素子用電極の製造装置の一例を示す模式図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
図1は、第1の膜厚層および第2の膜厚層を有する多孔質絶縁層が形成された第1の電極の平面および断面の一例を示す模式図(その1)である。
【0010】
<電極>
本実施形態に係る電極は、電極基体、電極合材層、及び絶縁層を備える。本明細書において、電極は、負極と正極の総称である。本実施形態では、後述の正極を構成する第1の電極5および負極を構成する第2の電極11のうち、第1の電極5が、本発明の電極の一例である(
図1、
図5)。なお、第1の電極5は、正極に限定されず、負極であってもよい。なお、第1の電極5が負極の場合は、第2の電極11が正極となる。
【0011】
<電極基体>
電極基体は、集電体ともいう。電極基体は、負極用電極基体と正極用電極基体の総称である。本実施形態では、後述する第1の電極5の集電体(正極用電極基体)8および第2の電極11の集電体(負極用電極基体)12のうち、第1の電極5の集電体(正極用電極基体)が本発明の電極における電極基体の一例である(
図1、
図5)。
【0012】
電極基体は、導電性を有する基体であれば特に制限はなく、例えば、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔、これらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔、リチウムイオンキャパシタに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。このような電極基体は、一般的な蓄電素子である2次電池、キャパシタ等に好適に用いることができ、中でもリチウムイオン二次電池により好適に用いることができる。
【0013】
<電極合材層>
電極合材層は、電極基体上に設けられている。電極合材層は、正極合材層と負極合材層の総称である。本実施形態では、第1の電極5において、電極合材層(正極合材層)9が電極基体(正極集電体)8上に形成されている(
図1)。電極合材層(正極合材層)9は、本実施形態の電極を構成する電極合材層の一例である(
図1、
図5)。
【0014】
電極合材層の態様は、特に制限はなく、目的に応じて設計することができる。電極合材層は、例えば、活物質(負極活物質又は正極活物質)を少なくとも含み、必要に応じてバインダー(結着剤)、増粘剤、導電剤等を含んでもよい。
【0015】
電極合材層は、粉体状の活物質や結着剤、導電材等を液体中に分散し、かかる分散液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成される。塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、ディスペンサー、ダイコーター、引き上げ塗工等の方法を用いることができる。
【0016】
<活物質>
活物質は、正極用活物質および負極用活物質の総称である。活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。
【0017】
正極用活物質としては、典型的にはアルカリ金属含有遷移金属化合物が使用できる。リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。
【0018】
複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePO4などのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。
【0019】
異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、中でもMn、Al、Co、NiおよびMgが好ましい。これらの異種元素は、1種でもよく、または2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、電極をニッケル水素電池に用いる場合は、活物質として水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0020】
負極活物質としては、典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料が使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
【0021】
炭素材料以外の材料としては、例えば、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0022】
<結着剤>
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。
【0023】
また、結着剤としては、この他に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンから選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。
【0024】
これらの結着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
<導電剤>
本実施形態における導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0026】
<絶縁層>
絶縁層は、電極合材層の一方の面上に設けられている。本実施形態では、第1の電極5(正極)において、電極合材層(正極合材層)9の一方の面91上に絶縁層10が形成されている(
図1)。なお、第2の電極11(負極)は、集電体(負極用電極基体)13と、集電体(負極用電極基体)13の両面に、電極合材層(負極合材層)13が形成されているが、絶縁層は形成されていない(
図5)。
【0027】
絶縁層は、特に限定されないが、体積固有抵抗率が1×1012(Ω・cm)以上を示す多孔質構造体(以下、多孔質絶縁層という)であることが好ましい。体積固有抵抗率が1×1012(Ω・cm)以上の絶縁層を設けると、正負極の電気的な短絡が生じにくくなる。
【0028】
多孔質絶縁層の形状としては、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、三次元分岐網目構造を骨格として、多孔質絶縁層の複数の孔が連続して連結している構造であることが好ましい。すなわち、多孔質絶縁層は、多数の孔を有しており、一つの孔がその周囲の他の孔と連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みを生じやすくなる。
【0029】
空孔が連通していることを確認する方法としては、例えば、多孔質構造体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)等により画像観察し、空孔同士の繋がりが連続していることを確認する方法が挙げられる。また、空孔が連通していることで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。
【0030】
多孔質構造体の透気度は、例えば、JIS P8117に準拠して測定され、1000秒/100mL以下である場合が好ましく、500秒/100mL以下である場合がより好ましく、300秒/100mL以下である場合が更に好ましい。
【0031】
このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。従って、一例として、透気度が1000秒/100mL以下であることをもって空孔が連通していると判断してもよい。
【0032】
空孔の断面形状は、特に制限されず、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状が挙げられる。また、空孔の大きさも特に制限されない。ここで、空孔の大きさとは、断面形状において引ける最も長い直線の長さを指すものとする。空孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)等で撮影した断面写真から求めることができる。
【0033】
多孔質構造体の有する空孔の大きさは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。空孔の大きさが0.1μm以上10μm以下であることで、多孔質構造体において液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現させることができる。
【0034】
また、後述するように、多孔質構造体を蓄電素子の絶縁層として用いる場合、空孔の大きさが10μm以下であることで、蓄電素子の内部で発生するリチウムデンドライドによる正極と負極の間の短絡を防止することができ、安全性が向上する。
【0035】
多孔質構造体の空隙率としては、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。また、多孔質構造体の空隙率は、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0036】
空隙率が30%以上であることで、多孔質構造体において液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現させることができる。また、多孔質構造体を蓄電素子における絶縁層として用いた場合、電解液の浸透性やイオンの透過性が向上し、蓄電素子内部の反応が効率的に進行する。また、空隙率が90%以下であることで、多孔質構造体の強度が向上する。
【0037】
なお、多孔質構造体の空隙率を測定する方法としては特に限定されないが、例えば、多孔質構造体に不飽和脂肪酸(市販のバター)を充填し、オスミウム染色を施した後で、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)で内部の断面構造を切り出し、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)を用いて空隙率を測定する方法が挙げられる。
【0038】
多孔質構造体は、特に限定されないが、バインダーで結着された無機酸化物を含有する無機固体物、または樹脂を骨格とする樹脂構造体であることが好ましい。
【0039】
無機固体物を構成する無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、チタン酸バリウム、二酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化マンガン、二酸化バナジウム、二酸化ケイ素、ゼオライトなどの鉱物資源由来物質、またはこれらの人造物等が挙げられる。中でも、電気抵抗の大きさや安定性の観点から、酸化アルミニウム、二酸化チタンが好ましく、酸化アルミニウムがより好ましく、α―アルミナがさらに好ましい。
【0040】
無機酸化物を結着するバインダーは、例えば、上述の結着剤を用いられる。
【0041】
本実施形態では、多孔質構造体がバインダーで結着された無機酸化物を含有することで、多孔質構造体で構成された絶縁層に高い絶縁性を付与しつつ、当該多孔質構造体とは異なる部材との密着性を優れたものとすることができる。そのため、第1の電極5と対向する第2の電極11との間の絶縁性を、信頼性を保ちつつ向上させることができる。
【0042】
また、樹脂構造体は、樹脂により形成された骨格部と、当該骨格部が形成されていない部分を孔部とする多孔質な樹脂硬化物である。また、樹脂構造体は、樹脂部分及び孔部分のそれぞれが連続することにより構成される共連続構造又はモノリス構造であることが好ましい。
【0043】
本実施形態では、多孔質構造体が樹脂を骨格とする樹脂構造体であることで、多孔質の絶縁層が形成しやすくなるとともに、多孔質構造体を構成する樹脂材料やその組成により様々な機能を付与することができ、設計の自由度を向上することができる。
【0044】
本実施形態では、共連続構造の樹脂構造体を多孔質絶縁層に用いた場合、このような多孔質絶縁層を備える蓄電素子では、電解液の浸透性やイオンの透過性が向上し、蓄電素子内部の反応が効率的に進行する。
【0045】
樹脂部分が連続するとは、樹脂部分中に界面が存在しない構成のことを表す。すなわち、複数の樹脂粒子などが当該樹脂粒子とは異なる樹脂であるバインダー等により結着し連結するような構成とは区別される。このような構造は、例えば、後述の重合誘起相分離法により形成することができる。
【0046】
<第1領域、第2領域>
本実施形態の電極が有する多孔質絶縁層(絶縁層)10は、第1領域R1と第2領域R2を有する。
【0047】
第1領域R1は、第2の膜厚層10Bは含まず、第1の膜厚層10Aを含む。第1領域R1は、第1の電極5の平面視で、表層に第1の膜厚層10Aを有する領域を示す。
【0048】
第1領域R1は、第1の電極5に形成された多孔質絶縁層10のうち、主に第2の電極11の電極合材層13と対向する領域である。すなわち、第1領域R1は、二次電池においてイオンの反応場に含まれる領域であり、第1領域R1における多孔質絶縁層10の膜厚が薄いほど良好な電池特性が得られる(
図6)。
【0049】
第2領域R2は、第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bとを含む(
図1)。第2領域R2は、第1の電極5の平面視で、表層に第2の膜厚層10Bを有する領域を示す。第2領域R2は、第1の電極5に形成された多孔質絶縁層10のうち、第2の電極11の電極合材層13と対向する領域を除いた領域である。
【0050】
<第1の膜厚層>
第1の膜厚層10Aは、多孔質絶縁層10の一部であり、上述の多孔質構造体で形成されている。第1の膜厚層10Aが多孔質構造体で形成されることで、第2の電極11と対向する領域R1を含む第1の膜厚層10Aの電解液浸透性やイオン透過性が向上する。
【0051】
第1の膜厚層10Aは、電極合材層(正極合材層)9の一方の面91と垂直な方向に第1の厚みT11を有する(
図6)。
【0052】
第1の膜厚層10Aの厚みT11は特に限定はされないが、1.0μm以上50.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以上20.0μm以下であることが特に好ましい。
【0053】
第1の膜厚層10Aの厚みT11が1.0μm以上であることで活物質(電極合材層)の凹凸による短絡が生じにくい膜厚が確保でき、50.0μm以下にすることで良好な電池特性が得られる。また、第1の膜厚層10Aの厚みT11が5.0μm以上であることで活物質(電極合材層)の凹凸による短絡がより生じにくい膜厚が確保でき、20.0μm以下にすることでより良好な電池特性が得られる。
【0054】
<第2の膜厚層>
第2の膜厚層10Bは、多孔質絶縁層10の第1の膜厚層10Aを除いた部分であり、非多孔質構造体で形成されていてもよいが、上述の多孔質構造体で形成されていることが好ましい。第2の膜厚層10Bが多孔質構造体で形成されることで、第1の膜厚層10Aの多孔質構造体と第2の膜厚層10Bの多孔質構造体とを連続的に一体化することができる。これにより、第2の膜厚層10Bを第1の膜厚層10Aと同時に形成することができる。
【0055】
また、第2の膜厚層10Bの多孔質構造体は、第1の膜厚層10Aの多孔質構造体と異なる多孔質構造体で形成されてもよい。ここで、異なる多孔質構造体とは、多孔質構造体を構成する材料、組成、及び多孔質構造体の通気度、空孔の大きさ、空孔の断面形状等が相対的に異なる多孔質構造体を示す。
【0056】
第2の膜厚層10Bの多孔質構造体が、第1の膜厚層10Aの多孔質構造体と異なることで、多孔質絶縁層10の第1の膜厚層10Aおよび第2の膜厚層10Bのそれぞれに、イオン透過度や接着性等の異なる機能を付与することができる。
【0057】
なお、第1の膜厚層10Aの多孔質構造体は、第1領域R1と第2領域R2で異なる多孔質構造体にしてもよい。この場合、第2領域R2における第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bの多孔質構造体は同じ多孔質構造体でもよいし、異なる多孔質構造体であってもよい。
【0058】
第2の膜厚層10Bは、電極合材層(正極合材層)9の一方の面91と垂直な方向に第2の厚みT12を有する(
図6)。第2領域R2の絶縁層は、第1領域R1の絶縁層よりも膜厚が厚い。第2の膜厚層10Bの厚みT12は、積層時の構造的な制限から、第2の電極11の厚み(総膜厚)T2の半分T21以下になることが好ましい(
図6、
図7)。
【0059】
なお、第2領域R2の絶縁層の厚み(第1の膜厚層10Aの厚みT11と第2の膜厚層10Bの厚みT12の合計)は、特に限定はされないが、第1の電極5の上に第2の電極11を載せた状態で、第2の電極11を手のひらで上から押しつけたときに短絡しない膜厚(例えば26μm以上)であることが好ましい。
【0060】
第2領域R2の厚み(第1の膜厚層10Aの厚みT11と第2の膜厚層10Bの厚みT12の合計)が第2の電極11の総膜厚T2の半分T21を超えると、第1の電極と第2の電極の間の距離が離れてしまうため、電池特性の低下を引く起こすおそれがある。
【0061】
第2の膜厚層10Bは、第2の電極11と対向してもよいが、電池特性の低下を抑制する観点から、できる限り第2の電極11に対向しないことが望ましい。なお、第2の電極11との対向面積が、第2の膜厚層10Bを設けないときに比べ、20%以下であることで電池特性が低下しにくくなる。
【0062】
第2の膜厚層10Bに使用される材料は、接着性を有する材料であることが好ましい。これによって、
図7、
図8に示すように積層体が一体化し、より高安全な電池が作製可能である。また、積層体が一体化することで電解液を保持する能力(電解液排出抑制効果)が高くなり、電池寿命の向上が見込める。なお、接着性を有する材料とは、ガラス転移温度を有する樹脂などが該当する。
【0063】
なお、本実施形態では、多孔質絶縁層10を第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bの2層構造で構成したが、さらに第3膜厚層(3層構造)やそれ以上の多層構造であってもよい。
【0064】
本実施形態に係る電極において、第2領域R2は、電極合材層(正極合材層)9の一方の面91の周縁部91Aの少なくとも一部である。電極合材層(正極合材層)9の一方の面91の周縁部91Aは、第1の電極5の端部に形成された電極合材層(正極合材層)9の一部である。
【0065】
なお、周縁部91Aは、電極合材層の長手方向または短手方向において、電極合材層(正極合材層)の端辺を基準とし、長手方向または短手方向全体の15%以下の部分であることが好ましく、1%以上の部分であることが好ましい。
【0066】
以下、第2領域R2が電極合材層(正極合材層)9の一方の面91の周縁部91Aの少なくとも一部である態様を
図1~
図4に示す。
図1~
図4では、いずれも電極合材層(正極合材層)9の一方の面91は矩形状である。なお、
図2~
図3では、
図1と共通する部分については、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
【0067】
図1の例では、第2領域R2が、周縁部91Aの全周にわたって連続して形成されている。
図2の例では、第2領域R2が、一方の面91の3辺に形成されている。
図3の例では、第2領域R2が、一方の面91の2辺に形成されている。なお、
図3の例では、該2辺は一方の面91において対向している。
図4の例では、第2領域R2が周縁部91Aの全周にわたって不連続に形成されている。
【0068】
このような構成とすることで、
図1~6に示すように、電極を複数積層したきに第2の電極11が第1の電極5に挟み込まれる形となり、振動や衝撃による積層ズレが生じにくくなる。また、積層ズレが生じたとしても、多孔質絶縁層の膜厚が厚く電極間距離が離れているため、短絡するリスクが低減し安全性の向上効果が見込める。
【0069】
なお、
図1に示す例では、第2領域R2を周縁部91Aの全周にわたって連続して形成することで、第1の電極5の絶縁層10(第2の膜厚層10B)が第2の電極11の周縁の全周に渡って対向することができる。そのため、第1の電極5に対して対向する第2の電極11をより安定的に配置しながら、絶縁性を向上させることができる。
【0070】
また、
図2~
図4の例では、周縁部91Aの一部にだけ形成されているため、第1の電極5に対して対向する第2の電極11の配置の安定的と絶縁性を低下させずに、絶縁層10に用いられる材料の使用量を低減することができる。
【0071】
また、本実施形態は、
図6に示すように、2つの第1の電極5の間に対向電極となる第2の電極11が挟まれて積層されている。このような構成では、第1の電極5の絶縁層10(第2の膜厚層10B)により、第1の電極5の電極合材層9の側端と第2の電極11の電極合材層13の側端とを確実に絶縁することができるため、第1の電極5と第2の電極11との短絡を防ぐことができる(
図6)。
【0072】
また、本実施形態は、
図7に示すように、2つの第1の電極5の間に対向電極となる第2の電極11が挟まれて積層された上で、2つの第1の電極5間が閉じられている。このような構成では、2つの第1の電極5間で第2の電極11が安定的に存在することができる。これにより、振動や衝撃による積層ズレがさらに生じにくくなる(
図7)。
【0073】
さらに、本実施形態は、
図8に示すように、2つの第1の電極5の間に対向電極となる第2の電極11が挟まれて積層され、第1の電極5と第2の電極11の間に隙間が形成されていない。すなわち、
図8に示す例では、第1の電極5の絶縁層10(第2の膜厚層10B)と第2の電極11の電極合材層13の側端とが接続している。
【0074】
これにより、
図8に示す例では、電極合材層をより多く含む電気化学素子を形成可能な構成としていることから、エネルギー密度を向上させることができる。
【0075】
本実施形態の電極では、第2の膜厚層10Bは、第1領域R1から一方の面91と垂直な方向に離れるにしたがって幅W1が狭くなるように傾斜することが好ましい。具体的には、第2の膜厚層10Bにおける多孔質構造体が、第1の膜厚層10Aに向かって総膜厚の半分T21が連続的に変化している。言い換えると、第2の膜厚層10Bは、第1領域R1の上方側から第1領域R1に向かって幅W1が広がるように傾斜している(
図1~
図4)。
【0076】
このように第2の膜厚層10Bが傾斜することで、絶縁膜が形成された第1の電極5に対して対向電極となる第2の電極11の積層が容易になり、安定的に存在することができる。これにより、第1の電極5と第2の電極11とが一定の電極間距離を保ちやすくなるため、電池の信頼性の向上が見込める(
図6)。
【0077】
本実施形態における多孔質絶縁層の材料は、体積固有抵抗率が1×1012(Ω・cm)以上を有していれば特に制限されることがなく、例えば、樹脂や無機固体物などが挙げられる。また、第1領域R1および第2領域R2の絶縁層の第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bにおいては、それぞれ異なる材料を組み合わせて使用することも可能であり、第1領域の絶縁層と第2領域の絶縁層においてもそれぞれ異なる材料を組み合わせて使用することが可能である。
【0078】
多孔質絶縁層に使用可能な樹脂としては、特に限定されないが、例えば、電離放射線、紫外線、及び赤外線(熱)等の活性エネルギー線を照射することによって形成可能な樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、及びエン-チオール反応を利用した樹脂等が挙げられる。
【0079】
中でも、反応性が高いラジカル重合を利用して樹脂を形成可能なアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、及びビニルエステル樹脂が好ましく、アクリレート樹脂、及びメタアクリレート樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
【0080】
なお、樹脂としては、電離放射線及び紫外線を照射することによって樹脂を形成可能なものが好ましい。電離放射線及び紫外線を照射することによって瞬時に樹脂を形成することができるため、生産性の向上が期待できる。
【0081】
重合することで樹脂を形成する液体組成物は、重合性化合物、溶媒、重合開始剤などを含むことが好ましい。
【0082】
また、液体組成物は、硬化することで多孔質構造部を形成する。なお、本実施形態において、硬化することで多孔質構造部を形成するとは、液体組成物中において多孔質構造部が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質構造体前駆体が形成され、その後の工程(例えば、加熱工程等)で多孔質構造体が形成される場合等も含む意味である。
【0083】
また、液体組成物全体が硬化することで多孔質構造体を形成する場合だけでなく、液体組成物中の一部成分(重合性化合物等)が硬化(重合)することで多孔質構造体を形成し、液体組成物中のその他成分(溶媒等)が硬化せずに多孔質構造体を形成しない場合等も含む意味である。
【0084】
重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物中において重合した場合に多孔質構造を形成する。また、重合性化合物は、活性エネルギー線が照射されることで樹脂を形成することが好ましい。重合性化合物により形成される樹脂は、2官能以上の重合性化合物を用いることで、分子内に架橋構造を有していることが好ましい。これにより多孔質構造部のガラス転移点又は融点を高めることができ、結果として強度が向上する。
【0085】
なお、活性エネルギー線としては、液体組成物中の重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。
【0086】
なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。重合性化合物は、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。その例としては、1官能、2官能、または3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0087】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0088】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0089】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0090】
樹脂形成液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。
【0091】
重合性化合物の含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質構造部の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質構造部が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、重合性化合物の含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されることで、多孔質構造が十分に形成され、得られる多孔質構造部の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0092】
なお、高い硬度又は耐擦過性を有する樹脂及びこの樹脂により形成される多孔質構造部を得たい場合、液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以上70.0質量%以下がより好ましく、50.0質量%以上70.0質量%以下が更に好ましい。液体組成物全量に対する重合性化合物の含有量を多くすることで、高い硬度又は耐擦過性を有する樹脂及びこの樹脂により形成される多孔質構造部を実現できるためである。
【0093】
溶媒(以下、「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物と相溶する液体である。また、溶媒は、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中に溶媒が含まれることで、重合性化合物は、液体組成物中において重合した場合に多孔質構造部を形成する。
【0094】
また、光または熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、溶媒は重合性を有さない。
【0095】
ポロジェンの1種単独で使用した場合の沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。
【0096】
また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質構造体の生産性が向上する。また、多孔質構造部の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質構造体を物質間の分離を行う分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。
【0097】
また、ポロジェンの1種単独で使用した場合の沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0098】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0099】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、且つ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物および重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
【0100】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればよいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。
【0101】
但し、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)の含有量は、液体組成物全量に対して10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0102】
液体組成物中におけるポロジェンの含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。
【0103】
ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質構造部の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質構造部が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。
【0104】
また、ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されることで多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造部の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0105】
なお、高い硬度又は耐擦過性を有する樹脂及びこの樹脂により形成される多孔質構造部を得たい場合、液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以上60.0質量%以下がより好ましく、30.0質量%以上50.0質量%以下が更に好ましい。
【0106】
液体組成物全量に対する重合性化合物の含有量を多くし、それに伴って液体組成物全量に対するポロジェンの含有量を少なくすることで、高い硬度又は耐擦過性を有する樹脂及びこの樹脂により形成される多孔質構造部を実現できるためである。なお、液体組成物が液体組成物A及び液体組成物Bの2種類で構成される場合、液体組成物が液体組成物A及び液体組成物Bの少なくなる一方において液体組成物中におけるポロジェンの含有量が上記範囲であればよい。
【0107】
光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル発生剤を用いることができる。例えば、商品名イルガキュアーやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、より具体的な化合物としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えば、α-ヒドロキシ-もしくは、α-アミノセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp'-ジクロロベンゾフェン、pp'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド又はチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン又はキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物又はジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物、等が好適に使用される。
【0108】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。又、熱のみで重合させる場合は通常のラジカル発生剤であるアゾイソブチロニトリル(azobisisobutyronitrile:AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0109】
重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るために、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0110】
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上200.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下が更に好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。
【0111】
液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上200.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(東機産業株式会社製、RE-550L)などを使用して測定することができる。
【0112】
多孔質絶縁層に使用可能な無機固体物は、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、コージライト、サイアクロン、ムライト、ステアライト、イットリア、ジルコニア、炭化ケイ素等のセラミックや、LLZ、LPS、LGPS、アロジロダイトなどの無機固体電解質が挙げられる。これらの中でも、絶縁性、耐熱性の点で、酸化アルミニウム、シリカが好ましく、α-アルミナがより好ましい。
【0113】
電極合材層に塗布することで無機固体層を形成する液体組成物は、無機固体物と分散媒と分散剤などを含むことが好ましい。電極合材層に多孔質層を形成するという観点では、無機固体物は粒子であることが好ましい。
【0114】
粒子は、粒子径が比較的小さい固体を示す。また、分散媒は、粒子が分散する媒体を示す。粒子は、分散媒に対して溶解性が低いものであり、例えば、粒子の分散媒に対する溶解度が0.1質量%未満である。
【0115】
粒子の平均粒子径は、分散安定性の観点から50nm~1000nmが好ましく、また液体組成物の保存安定性の観点から50nm~800nmであることがより好ましく、更に液体組成物をインクジェットにより吐出して多孔質膜を製膜する際の吐出特性を向上させる観点から、100nm~600nmであることが更に好ましい。
【0116】
ここで、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算が50%での平均一次粒子径(D50)を示す。
【0117】
粒子の形状としては、特に限定されず、例えば、矩形状、球状、楕円形状、円柱状、卵形状、ドッグボーン形状、無定形などが挙げられる。
【0118】
本実施形態の液体組成物に用いられる分散媒は、水系分散媒又は非水系分散媒である。分散媒は、使用する粒子や活物質層などの被吸収媒体との関係で任意に選択できる。
【0119】
水系分散媒としては、特に限定されず、例えば、水、水と高極性溶媒との混合物などが挙げられる。高極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、NMP、DMSO、DMF、アセトン、THFなどが挙げられる。高極性溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0120】
非水系分散媒としては、特に限定されず、例えば、スチレン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、ジアセトンアルコール、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、へキシレングリコールなどが挙げられる。非水系分散媒分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0121】
本実施形態の液体組成物に用いられる分散剤は、粒子の表面に吸着もしくは結合し、クーロン力による静電反発や分子鎖による立体障害によって粒子同士の凝集を抑える機能を持った化合物を示す。
【0122】
分散剤としては、特に限定されないが、粒子の分散性を向上する観点から、高分子系の樹脂を成分とする分散剤(以下、高分子系分散剤という場合がある)が好適に用いられる。
【0123】
本明細書において、高分子とは、数平均分子量(Mn)が1000~100000であることを意味する。高分子系分散剤の数平均分子量(Mn)は、液体組成物の粘度を考慮すると、1000~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0124】
高分子系分散剤は、分散媒として非水系分散媒中を使用する場合は、反応性が比較的低く電池特性に大きな影響を与えることなく使用できる点で、主鎖に酸無水物基を有する樹脂を含むことが好ましい。酸無水物基は、粒子の表面に対して吸着基として機能し得る。また、高分子系分散剤の吸着基として、酸無水物基以外にも、例えば、カルボン酸エステル基、アミド基、エポキシ基、エーテル基などが挙げられる。
【0125】
高分子系分散剤の吸着基としては、これらの中でも、アルミナ粒子、ベーマイト粒子、アパタイト粒子、酸化チタン粒子、シリカ粒子などの無機粒子に対する吸着性を考慮すると、酸無水物基が好ましい。
【0126】
本実施形態の液体組成物は、分散装置を用いて、製造することができる。分散装置としては、例えば、攪拌機、ボールミル、ビーズミル、リング式ミル、高圧式分散機、回転式高速せん断装置、超音波分散機などが挙げられる。
【0127】
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上200.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下が更に好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。
【0128】
液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上200.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(東機産業株式会社製、RE-550L、)などを使用して測定することができる。
【0129】
<多孔質絶縁層の形成>
多孔質絶縁層の形成工程は、第1の電極である被付与物に対して有機層及び/又は無機層からなる絶縁性を形成する工程である。多孔質絶縁層形成工程(以下、絶縁層形成工程という)は、第1の電極である被付与物に対して液体組成物を付与し、液体組成物層を形成する液体付与工程を有し、必要に応じて液体組成物に活性エネルギー線を照射する工程や、液体組成物に含まれる溶媒を除去する除去工程などを有してもよい。
【0130】
<液体付与工程>
液体付与工程は、第1の電極である被付与物に対して有機及び/又は無機化合物及び溶媒又は分散液等を含む液体組成物を付与する工程である。付与された液体組成物は、被付与物上に液体組成物の液膜である液体組成物層を形成することが好ましい。
【0131】
液体組成物を付与する方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法が挙げられる。これらの中でも、液体組成物を付与する位置の制御が可能である観点から、インクジェット印刷法などの液体吐出方法が好ましい。
【0132】
<照射工程>
照射工程は、液体付与工程において付与された液体組成物に対して活性エネルギー線を照射する工程である。特に、重合誘起相分離を起こす液体組成物の場合は、第1の照射工程は、最終的に製造される多孔質樹脂の空隙率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における液体又は気体などの流体の取込性を向上させる。
【0133】
具体的には、液体組成物に対して活性エネルギー線を照射することにより、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成する。
【0134】
なお、活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0135】
以下は、液体組成物が重合誘起相分離を起こす場合に限定して、照射工程により、多孔質前駆体を形成する理由について説明する。
【0136】
上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。例えば、液体組成物に対して照射強度の強い活性エネルギー線を照射して重合性化合物の重合が促進される条件下で多孔質樹脂の形成を行った場合、相分離が十分に生じる前に重合が進行してしまい、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。
【0137】
そのため、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る為に、照射される活性エネルギー線の照射強度は高すぎないように設定される。具体的には、活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm2以下が好ましく、300mW/cm2未満がより好ましく、100mW/cm2以下が更に好ましい。
【0138】
但し、活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下する。このことから、10mW/cm2以上であることが好ましく、30mW/cm2以上であることがより好ましい。
【0139】
<除去工程>
除去工程は、液体組成物から溶媒又は分散液を除去する工程である。溶媒又は分散液を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒又は分散液を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶媒又は分散液の除去がより促進され、形成される絶縁層における溶媒又は分散液の残存を抑制できるので好ましい。
【0140】
<絶縁層製造装置>
上述の絶縁層形成工程は、
図9に示す絶縁層製造装置により実現することができる。
図9に示す絶縁層製造装置600は、印刷基材5上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を含む印刷工程部100と、液体組成物層が形成された印刷基材5を加熱して多孔質絶縁層を得る加熱工程を含む加熱工程部300を備える。
【0141】
絶縁層製造装置600は、印刷基材5を搬送する搬送部7を備え、搬送部7は、印刷工程部100、加熱工程部300の順に印刷基材5をあらかじめ設定された速度で搬送する。
【0142】
印刷工程部100は、印刷基材5上に液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1Aと、液体組成物を収容する収容容器1Bと、収容容器1Bに貯留された液体組成物を印刷装置1Aに供給する供給チューブ1Cを備える。
【0143】
印刷装置1Aは、液体組成物6を付与できるものであれば、特に制限はなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。
【0144】
収容容器1Bは、液体組成物6を収容し、印刷工程部100は、印刷装置1Aから液体組成物6を吐出して、印刷基材5上に液体組成物6を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。
【0145】
なお、収容容器1Bは、絶縁層製造装置600と一体化した構成であってもよいが、絶縁層製造装置600から取り外し可能な構成であってもよい。また、絶縁層製造装置600と一体化した収容容器や絶縁層製造装置600から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0146】
収容容器1Bや供給チューブ1Cは、液体組成物6を安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1Bや供給チューブ1Cを構成する材料は、紫外および可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物6が外光により重合開始されることが防止される。
【0147】
印刷工程部100では、印刷基材5上に形成される液体組成物層の厚みを調整する方法は、特に限定されない。液体組成物層の厚みを調整する方法としては、例えば、インクの着弾密度を変化させる方法、またはインクの吐出量を変化させる方法等が挙げられる。
【0148】
加熱工程部300は、
図1に示すように、加熱装置3Aを有し、印刷工程部100により形成した液体組成物層に残存する溶媒を、加熱装置3Aにより加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより多孔質樹脂を形成することができる。加熱工程部300は、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。
【0149】
また、加熱工程部300は、溶媒除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する加熱印刷完了工程を含む。加熱装置3Aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒーターや温風ヒーターなどが挙げられる。
【0150】
また、加熱温度や時間に関しては、液体組成物層に含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0151】
印刷基材5の材料としては透明、不透明を問わずあらゆる材料を用いることができる。すなわち、透明基材として、ガラス基材や各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材やまたその複合基板などが、また不透明な基材としてはシリコン基材、ステンレス等の金属基材、又はこれらを積層したものなど、種々の基材を用いることができる。
【0152】
なお、印刷基材5は、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体であってもよい。また、記録媒体としては、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。
【0153】
低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
【0154】
なお、印刷基材5は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートであってもよい。
【0155】
また、印刷基材5の形状は、特に限定されず、例えば、曲面であっても凹凸形状を有するものであっても、印刷工程部100に適用可能な基材ならば使用することができる。
【0156】
なお、絶縁層製造装置600において、印刷工程部100から加熱工程部300までの工程が終了した後、さらに、印刷工程部100から加熱工程部300までの工程を1回以上繰り返してもよい。また、印刷工程部100の後、さらに、印刷工程部100を1回以上繰り返してから加熱工程部300に進んでもよい。
【0157】
また、絶縁層製造装置600において、絶縁層10の第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bの形成は、1回の印刷工程部100で第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bを同時に形成してもよい。また、2回の印刷工程部100に分けて、1回目の印刷工程部100で第1の膜厚層10Aを形成し、2回目の印刷工程部100で第2の膜厚層10Bを形成してもよい。
【0158】
また、上述の絶縁層形成工程は、
図10に示す絶縁層製造装置によっても、実現することができる。なお、
図10においては、
図9と共通する部分については、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
図10に示す絶縁層製造装置600は、印刷工程部100と加熱工程部300の間に、液体組成物層の重合開始剤を活性化させて重合性化合物の重合により多孔質樹脂前駆体を得る重合工程を含む重合工程部200をさらに備える。
【0159】
重合工程部200は、
図10に示すように、液体組成物を熱、光などの活性エネルギー線を照射することにより硬化させる硬化工程を実現する硬化手段の一例である光照射装置2Aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2Bを有する。光照射装置2Aは、印刷工程部100により形成された液体組成物層に重合不活性気体存在下において光を照射し、光重合させて多孔質樹脂前駆体を得る。
【0160】
光照射装置2Aは、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始および進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源が挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
【0161】
次に、光照射装置2Aの光源の照射強度に関して、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行する為、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm2以上1W/cm2以下が好ましく、30mW/cm2以上300mW/cm2以下がより好ましい。
【0162】
次に、重合不活性気体循環装置2Bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
【0163】
また、その流量としては阻害低減効果が効果的に得られる事を考慮して、O2濃度が20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)であることが好ましく、0%以上15%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2Bは安定した重合進行条件を実現させる為に、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0164】
加熱工程部300では、溶媒除去工程において、重合工程部200により形成した多孔質樹脂前駆体に残存する溶媒を、加熱装置3Aにより加熱して乾燥させて除去する。これにより多孔質樹脂を形成することができる。
【0165】
また、加熱工程部300は、多孔質膜前駆体を加熱装置3Aにより加熱して、重合工程部20で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、および多孔質膜前駆体に残存する光重合開始剤を、加熱装置3Aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も含む。なお、これらの重合促進工程および開始剤除去工程は、溶媒除去工程と同時ではなく、溶媒除去工程の前または後に実施されてもよい。
【0166】
さらに、加熱工程部300は、溶媒除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を含む。加熱装置3Aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒーターや温風ヒーターなどが挙げられる。
【0167】
なお、重合工程部200を含む絶縁層製造装置600においても、印刷工程部100から加熱工程部300までの工程が終了した後、さらに、印刷工程部100から加熱工程部300までの工程を1回以上繰り返してもよい。また、印刷工程部100の後、さらに、印刷工程部100から重合工程部200までの工程を1回以上繰り返してから加熱工程部300に進んでもよい。
【0168】
また、絶縁層製造装置600において、絶縁層10の第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bの形成は、印刷工程部100から重合工程部200までの1回の工程で、第1の膜厚層10Aと第2の膜厚層10Bを同時に形成してもよい。
【0169】
また、2回の印刷工程部100から重合工程部200までの工程を少なくとも2回行い、1回目の印刷工程部100から重合工程部200までの工程で第1の膜厚層10Aを形成し、2回目の印刷工程部100から重合工程部200までの工程で第2の膜厚層10Bを形成してもよい。
【0170】
<電極素子>
本実施形態に係る電極素子は、正極と負極が互いに絶縁された状態で積層された電極素子である。電極素子を構成する正極または負極の少なくともいずれかが、上述の絶縁層が形成された電極で構成されている。本実施形態では、電極素子の一例として、2つの第1の電極5と第2の電極11とを備える蓄電素子用電極積層体を構成する(
図6~
図8)。
【0171】
この蓄電素子用電極積層体では、第1の電極5が正極を構成し、第2の電極11が負極を構成し、2つの第1の電極5の間に対向電極となる第2の電極11が挟まれて積層されている。これにより、第1の電極5と第2の電極11の間には第1の電極5に形成された絶縁層10(第1の膜厚層10A、第2の膜厚層10B)が配置される(
図6~
図8)。
【0172】
本実施形態の電極素子では、上述の絶縁層10を有する第1の電極5が用いられるため、第1の電極5と同様の効果が得られる。
【0173】
すなわち、本実施形態の電極素子では、
図1~6に示すように、電極を複数積層したきに第2の電極11が第1の電極5に挟み込まれる形となり、振動や衝撃による積層ズレが生じにくくなる。また、積層ズレが生じたとしても、多孔質絶縁層の膜厚が厚く電極間距離が離れているため、短絡するリスクが低減し安全性の向上効果が見込める。
【0174】
なお、第1の電極5のみが絶縁層を有する構成について説明したが、第1の電極5及び当該第1電極の対向電極である第2の電極11のそれぞれが絶縁層を有するような本実施形態に係る電極であってもよい。
【0175】
<電気化学素子>
本実施形態に係る電気化学素子は、上述の絶縁層が形成された電極を有する。本実施形態では、電気化学素子の一例として、蓄電デバイスの1種であるリチウムイオン二次電池に上述の電極素子が設けられている。
【0176】
リチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン電池という場合がある)は、電気化学素子の一つであり、非水溶媒等の電解液にイオン導電性のリチウム塩を溶解させたものを電解質溶液として使用する非水系電解質電池に分類される。
【0177】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上述の電極の製造方法を用いて、電極を製造する工程を含む。
【0178】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成は、上述の電極を有するものであれば、特に制限されない。リチウムイオン二次電池は、例えば、電極素子と、該電極素子に形成された電解質層と、該電極素子と該電解質層を収容し内部を封止する外装と、電極素子に接続され外装の外部に引き出された引き出し線と、を有する。
【0179】
電極素子は、負極と正極が、セパレータを介して、積層されている。ここで、正極は、負極の両側に積層されている。また、負極基体には、負極引き出し線が接続されており、正極基体には、正極引き出し線が接続されている。
【0180】
負極は、負極基体の両面に、負極活物質層及び多孔質絶縁層が順次形成されている。
【0181】
正極は、正極基体の両面に、正極活物質層が形成されている。ここで、正極基体の両面に、正極活物質層及び多孔質絶縁層が順次形成されていてもよい。この場合、必要に応じて、多孔質絶縁層を省略してもよい。
【0182】
なお、電極素子の負極と正極の積層数は、特に制限はない。また、電極素子の負極の個数と正極の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0183】
リチウムイオン電池は、必要に応じて、その他の部材を有してもよい。
【0184】
リチウムイオン電池の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプなどが挙げられる。
【0185】
電解質層は、非水電解質で構成されている。非水電解液は、電解質塩が非水溶媒に溶解している電解液である。非水電解質としては、固体電解質又は非水電解液を使用することができる。
【0186】
非水溶媒としては、特に制限はなく、例えば、非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性有機溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネートなどのカーボネート系有機溶媒を用いることができる。これらの中でも、電解質塩の溶解力が高い点から、鎖状カーボネートが好ましい。また、非プロトン性有機溶媒は、粘度が低いことが好ましい。
【0187】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。
【0188】
非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量が50質量%以上であると、鎖状カーボネート以外の非水溶媒が誘電率の高い環状物質(例えば、環状カーボネート、環状エステル)であっても、環状物質の含有量が少なくなる。このため、2M以上の高濃度の非水電解液を作製しても、非水電解液の粘度が低くなり、非水電解液の電極へのしみ込みやイオン拡散が良好となる。
【0189】
環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。
【0190】
なお、カーボネート系有機溶媒以外の非水溶媒としては、例えば、環状エステル、鎖状エステルなどのエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル系有機溶媒などを用いることができる。
【0191】
環状エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(γBL)、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどが挙げられる。
【0192】
鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル(例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル)、ギ酸アルキルエステル(例えば、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル)などが挙げられる。
【0193】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソランなどが挙げられる。
【0194】
鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトシキエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0195】
電解質塩としては、イオン伝導度が高く、非水溶媒に溶解することが可能であれば、特に制限はない。電解質塩は、ハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0196】
電解質塩を構成するカチオンとしては、例えば、リチウムイオンなどが挙げられる。すなわち、電解質塩として、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0197】
リチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiN(C2F5SO2)2)などが挙げられる。これらの中でも、イオン伝導度の点から、LiPF6が好ましく、安定性の点から、LiBF4が好ましい。
【0198】
電解質塩を構成するアニオンとしては、例えば、BF4
-、PF6
-、AsF6
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(C2F5SO2)2N-などが挙げられる。なお、電解質塩は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0199】
非水電解液中の電解質塩の濃度は、目的に応じて適宜選択することができる。なお、リチウムイオン電池がスイング型である場合、1mol/L~2mol/Lであることが好ましく、リチウムイオン電池がリザーブ型である場合、2mol/L~4mol/Lであることが好ましい。
【0200】
リチウムイオン二次電池の用途としては、特に制限はなく、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モータ、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラなどが挙げられる。
【0201】
本実施形態では、上述の電極素子(上述の絶縁層10を有する第1の電極5を備える電極素子)が用いられるため、第1の電極5と同様の効果が得られる。
【0202】
すなわち、本実施形態の電気化学素子(蓄電デバイス)では、
図1~6に示すように、電極を複数積層したきに第2の電極11が第1の電極5に挟み込まれる形となり、振動や衝撃による積層ズレが生じにくくなる。また、積層ズレが生じたとしても、多孔質絶縁層の膜厚が厚く電極間距離が離れているため、短絡するリスクが低減し安全性の向上効果が見込める。
【実施例0203】
<樹脂形成液体組成物の調整>
以下に示す割合で材料を混合し樹脂形成液体組成物を調製した。
【0204】
-樹脂形成液体組成物(樹脂1)-
重合性化合物としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製)を29.0質量%、ポロジェンとしてジプロピレングリコールモノメチルエーテル(関東化学工業株式会社製)を70.0質量%、重合開始剤(BASF社製、Irgacure(登録商標)184)を1.0質量%の割合で混合し、樹脂1用の液体組成物を得た。
【0205】
-樹脂2-
重合性化合物(ダイセル・オルネクス株式会社製、EBECRYL8(登録商標)402)を39.0質量%、ポロジェンとしてジイソブチルケトン(関東化学工業株式会社製)を60.0質量%、重合開始剤(BASF社製、Irgacure(登録商標)819)を1.0質量%の割合で混合し、樹脂2用の液体組成物を得た。
【0206】
<無機固体物形成液体組成物の調整>
以下に示す割合で材料を混合したプレ分散液を、以下の手順で分散することで無機固体物形成液体組成物を調整した。
【0207】
-無機固体物形成液体組成物-
無機固体物としてα-アルミナ(一次粒子径(D50)が0.5μmで、比表面積が7.8g/m2)を40.0質量%、ジメチルスルホキシドとエチレングリコールの混合溶液(DMSO-EG)を58.0質量%、分散剤(日油社製、マリアリム(登録商標)HKM-150A)を2.0質量%の比率で混ぜ合わせたプレ分散液を調製した。
【0208】
このプレ分散液を、ジルコニアビーズ(Φ2mm)と一緒に容器に入れ、冷凍ナノ粉砕機NP-100(シンキー社製)にて1500rpmで3分間の分散処理を行い、分散液を得た。得られた分散液から25μmのメッシュフィルターを用いてジルコニアビーズを取り除き、液体組成物を作製した。
【0209】
<負極の作製>
負極合材層形成用として、グラファイト97.0質量%、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)1.0質量%、高分子(スチレンブタジエンゴム)2.0質量%、溶媒として水100.0質量%を加えて、負極塗料を作製した。
【0210】
この負極塗料を銅箔基体の両面に塗布・乾燥させて、負極合材層の目付量が片面9.0mg/cm2となる負極を得た。次にロールプレス機にて電極の堆積密度が1.6g/cm3になるようプレスし、使用する負極を得た。この時の負極の総膜厚は112.0μmであった。
【0211】
<正極の作製>
正極活物質としてニッケル酸リチウム(NCA)92.0質量%、導電材としてアセチレンブラック3.0質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)5.0質量%を用意し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させて正極塗料を作製した。
【0212】
この正極塗料をアルミニウム箔基体の両面に塗布・後乾燥させて、正極合材層の目付量が片面15.0mg/cm2となる正極を得た。次にロールプレス機にて電極の体積密度が2.8g/cm3となるようにプレスし、使用する正極を得た。この時の正極の総膜厚は132.0μmであった。
【0213】
<多孔質絶縁層の形成>
[実施例1]
樹脂1用の液体組成物をインクジェットヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製、GEN5ヘッド)搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極に対し、液体組成物の吐出量を制御して、第1領域の絶縁層および第2領域の絶縁層が下記構成になるよう、
図1に示すパターン画像状の塗布領域を形成した。
第1領域の絶縁層 面積:47.0mm×27.0mm、膜厚:20.0μm
第2領域の絶縁層 面積:第1領域の絶縁層以外、膜厚:26.0μm
【0214】
その後、直ちに、N2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm2、照射時間:20s)して、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層を得た。
【0215】
[実施例2~5]
実施例1において、第2領域の絶縁層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0216】
[実施例6]
樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極基材に対し、液体組成物を吐出して膜厚が20.0μmのベタ画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm2、照射時間:20s)して、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することでポロジェンを除去した。
【0217】
続けて、樹脂2用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、樹脂1が20.0μm形成された負極の面積47.0mm×27.0mmを除いた領域に対し、液体組成物を吐出して第2領域の絶縁層の膜厚が55.0μmとなる、
図1に示すパターン画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N
2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm2、照射時間:20s)して、硬化させた。硬化後はホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層を得た。
【0218】
[実施例7]
実施例6において、第2領域の絶縁層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、実施例6と同様にして、実施例7の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0219】
[実施例8]
樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極基材に対し、液体組成物を吐出して膜厚が20.0μmのベタ画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm2、照射時間:20s)して、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することでポロジェンを除去した。
【0220】
続いて無機固体物用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、樹脂1が20.0μm形成された負極の面積47.0mm×27.0mmを除いた領域に対し、液体組成物を吐出して第2領域の絶縁層の総膜厚が26.0μmとなる
図1に示すパターン画像状の塗布領域を形成した。ホットプレートを用い、120℃で1分間加熱することで分散媒を除去し、多孔質絶縁層を得た。
【0221】
[実施例9~11]
実施例8において、第2領域の絶縁層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例9~11の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0222】
[実施例12]
無機固体物用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填した。負極に対し、液体組成物の吐出量を制御して第1領域の絶縁層および第2領域の絶縁層が下記構成になるよう
図1に示すパターン画像状の塗布領域を形成した。
第1領域の絶縁層 面積:47.0mm×27.0mm、膜厚:20.0μm
第2領域の絶縁層 面積:第1領域の絶縁層以外、膜厚:27.0μm
【0223】
次に、ホットプレートを用い、120℃で1分間加熱することで分散媒を除去し、多孔質絶縁層を得た。
【0224】
[実施例13~15]
実施例12において、第2領域の絶縁層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、実施例12と同様にして、実施例13~15の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0225】
[比較例1]
樹脂1用の液体組成物をGEN5ヘッド搭載のインクジェット吐出装置に充填し、負極基材に対し、液体組成物を吐出して膜厚が8.0μmのベタ画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N2雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm2、照射時間:20s)して、硬化させた。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することでポロジェンを除去し、多孔質絶縁層を得た。
【0226】
[比較例2~5]
比較例1において、膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例2~5の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0227】
[比較例6]
実施例12において、第2領域の絶縁層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した以外は、実施例12と同様にして、比較例6の多孔質絶縁層を形成した負極を得た。
【0228】
<負極の打ち抜き>
多孔質絶縁層を形成した負極は金型打ち抜き機(打ち抜き面積:50.0mm×30.0mm)を用いて、第1の膜厚層が中心に来るように打ち抜いた。
【0229】
<正極の打ち抜き>
金型打ち抜き機(打ち抜き面積:47.0mm×27.0mm)を用いて正極を打ち抜いた。
【0230】
<電池の作製>
金型で打ち抜いた多孔質絶縁層形成負極と正極と対向させて積層し、残水分を除去するため120℃で真空乾燥を実施した。なお、実施例7で作製した積層体は第2領域の絶縁層での接着性が発現し、積層体が一体化していた。
【0231】
電解液を注入し、外装としてラミネート外装材を用いて封止し、蓄電素子を作製した。なお、電解液としては、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)の混合物(質量比が「EC:DMC=1:1」の混合物)に対し、電解質であるLiPF6が濃度1.5mol/Lとなるように添加されている溶液を用いた。
【0232】
<正極押しつけによる端部の短絡(評価1)>
金型で打ち抜いた多孔質絶縁層形成負極の端部に対して正極を押しつけて、デジタルマルチメータで正負極間が短絡をするかを確認した。短絡の判定基準はデジタルマルチメータに抵抗値が表示される(30MΩ未満)かどうかで判定を行った。
A:抵抗値が表示されない(30MΩ以上)
B:抵抗値が表示される(30MΩ未満)
【0233】
<電池の出力特性(評価2)>
作製した電池の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、充電完了後、40℃の恒温槽で5日間静置した。その後、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。その後、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で定電流定電圧充電し、10分の休止を挟んで、電流レート0.2Cで2.5Vまで定電流放電させた。このときの放電容量を初期容量とした。
【0234】
上述のように初期容量を測定した電池の正極引き出し線と負極引き出し線とを、充放電試験装置に接続し、最大電圧4.2V、電流レート0.2C、5時間で充電した。そして、10分休止を挟んで、電流レート0.2C、2.5時間で定電流放電させ、リチウムイオン電池の充電深度を50%の状態とした。
【0235】
次いで電流レート0.2C~5.0Cのパルスを10秒間放電させ、パルス後電圧と電流値の相関直線から2.5Vカットオフ電圧に至る電力を計算し、セル重量の割り算にて出力特性を算出した。
【0236】
出力特性は第1の膜厚層の材質により変わるため、実施例1~11および比較例1、2、4、5は比較例3をレファレンスとし、また実施例12~15は比較例6をレファレンスとして下記の基準で判定を行った。
A:レファレンス比98%以上
B:レファレンス比98%未満
【0237】
【0238】
表1によれば、実施例1~5は、端部に正極を押しつけても短絡することがなく、またその負極を用いた電池の特性はレファレンスとなる比較例3と同等の性能を示した。これらの効果は正極対向部である第1領域の絶縁層はレファレンスと変わらず、負極端部周辺である第2領域の絶縁層が厚くなることで実現されたと考えらえる。
【0239】
実施例6~11は、第2領域の絶縁層を異なる材料で形成した2層により形成した負極であるが、端部短絡評価および出力特性評価結果は実施例1~5と同じであり、材料を変えても効果は変わらないことを示している。
【0240】
実施例12~15においても、端部に正極を押しつけても短絡することがなく、またその負極を用いた電池の特性はレファレンスとなる比較例6と同等の性能を示した。
【0241】
比較例1、2では、第1領域の絶縁層が薄くなることでレファレンスとなる比較例3よりも出力特性が良化するが、対向電極を端部に押し付けた際に短絡が発生した。比較例4、5では、対向電極押しつけによる端部短絡が生じていないが、第1領域の絶縁層がレファレンスとなる比較例3よりも厚いため出力特性の低下が確認された。
【0242】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。