(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137909
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】センサ素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044346
(22)【出願日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】川添 忠
(72)【発明者】
【氏名】門脇 拓也
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA02
5F149AB03
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(57)【要約】
【課題】素子そのものの発光が低減されたセンサ素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部と、前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部と、前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部と、を備え、前記第2シリコン半導体部と前記第3シリコン半導体部との間に位置するpn接合を含み、シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する、センサ素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部と、
前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部と、
前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部と、
を備え、
前記第2シリコン半導体部と前記第3シリコン半導体部との間に位置するpn接合を含み、
シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する、
センサ素子。
【請求項2】
前記第1シリコン半導体部は、第1p型不純物を第1濃度で含み、
前記第2シリコン半導体部は、第2p型不純物を第2濃度で含み、
前記第2濃度は、前記第1濃度よりも低い、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記第1シリコン半導体部と、前記第2シリコン半導体部と、前記第3シリコン半導体部からなる部分の電気抵抗率は、25℃において、印加する電圧が1V以上100V以下の範囲において1Ω・cm以上1000MΩ・cm以下である、
請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
20℃以上45℃以下の範囲において、10mAの電流値における1度あたりの電圧値の変化量が150mV/℃以上300mV/℃以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記第1シリコン半導体部は、シリコン基板であり、
前記第2シリコン半導体部は、シリコン半導体層である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記第2p型不純物は、ホウ素またはアルミニウムである、
請求項1から5のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記n型不純物は、ヒ素、アンチモン、またはビスマスである、
請求項1から6のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項8】
複数の受光領域を備え、
前記複数の受光領域は、マトリクス状に配置される請求項1から7のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のセンサ素子を含む放射温度計。
【請求項10】
第1n型不純物を含む第1シリコン半導体部と、
前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2n型不純物を含む第2シリコン半導体部と、
前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、p型不純物を含む第3シリコン半導体部と、
を備え、
前記第2シリコン半導体部と前記第3シリコン半導体部との間に位置するpn接合を含み、
前記p型不純物の原子番号はシリコンの原子番号よりも大きく、
シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する、
センサ素子。
【請求項11】
第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部と、
前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部と、
前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部と、
を含む積層体を準備することと、
前記積層体に、順方向電流を流しながらシリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光で照射して、前記n型不純物を拡散させることと、
を含む、センサ素子の製造方法。
【請求項12】
第1n型不純物を含む第1シリコン半導体部と、
前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2n型不純物を含む第2シリコン半導体部と、
前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、シリコンの原子番号よりも大きい原子番号のp型不純物を含む第3シリコン半導体部と、
を含む積層体を準備することと、
前記積層体に、順方向電流を流しながらシリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光で照射して、前記p型不純物を拡散させることと、
を含む、センサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、シリコンを用いた受光素子は、シリコンのバンドギャップによる制限から約1.12eV以下(波長に換算すると約1.11μm以上)の光を検出することができない。これらに対して、例えば、特許文献1では、ドレスト光子を利用するために、pn接合部を含む半導体層に順方向バイアス電圧を印加するとともに、pn接合部における吸収端波長よりも長波長の光で照射することで、特定の波長に対して感度を持たせた受光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された受光素子は、特定の波長に対して感度をもつだけでなく、受光素子から発光が生じることが予想される。
【0005】
本開示の一実施形態は、素子そのものの発光が低減されたセンサ素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部と、前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部と、前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部と、を備え、前記第2シリコン半導体部と前記第3シリコン半導体部との間に位置するpn接合を含み、シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する、センサ素子である。
【0007】
第二態様は、第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部と、前記第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部と、前記第2シリコン半導体部の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部と、を含む積層体を準備することと、前記積層体に、順方向電流を流しながらシリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光で照射して、前記n型不純物を拡散させることと、を含む、センサ素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、素子そのものの発光が低減されたセンサ素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態におけるセンサ素子の一断面図を示す模式図である。
【
図2】実施形態におけるセンサ素子の上面図を示す模式図である。
【
図3】実施形態におけるセンサ素子の電流―電圧特性を示す模式図である。
【
図4】S型負性抵抗を示す素子の電流―電圧特性を示す模式図である。
【
図5A】実施形態におけるセンサ素子の製造方法を表すフローチャートである。
【
図5B】実施形態における積層体を準備する工程の一例を表すフローチャートである。
【
図6】第1シリコン半導体部を準備する工程および第2シリコン半導体部を準備する工程を表す模式図である。
【
図7】第3シリコン半導体部を準備する工程を表す模式図である。
【
図8】第1シリコン半導体部を薄くする工程を表す模式図である。
【
図9】第1電極および第2電極を形成する工程を表す模式図である。
【
図10】n型不純物を拡散させる工程を表す模式図である。
【
図11】第1電極および第2電極を除去する工程を表す模式図である。
【
図13】実施形態のセンサ素子を含む放射温度計を示す模式図である。
【
図14】実施形態に係るセンサ素子を備える放射温度計を示す模式図である。
【
図15】実施形態に係るセンサ素子を備えるイメージセンサを示す模式図である。
【
図16A】実施例1に係るセンサ素子の電流―電圧特性を表すグラフである。
【
図16B】実施例1および比較例1に係るセンサ素子の電圧勾配を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、センサ素子及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すセンサ素子及びその製造方法に限定されない。
【0011】
<センサ素子1>
図1は実施形態におけるセンサ素子1の一断面図を示している。センサ素子1は、第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部10と、第1シリコン半導体部10の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部20と、第2シリコン半導体部20の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部30と、を備え、第2シリコン半導体部20と第3シリコン半導体部30との間に位置するpn接合26を含み、シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する。
【0012】
シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して感度を持たせる場合、ドレスト光子を利用すると、センサ素子は受光感度を有すると同時に発光効率が向上する。しかし、センサとして利用する場合、センサ素子そのものが発光すると、その光をセンサ素子が受光する。センサ素子そのものの発光は、センサ素子にとってはノイズとなり得るものであるが、これまでこのような観点では議論がされなかった。すなわち、センサ素子そのものの発光を低減するという新たな課題を上述の構成により解決した。実施形態のセンサ素子1は、第1シリコン半導体部10および第2シリコン半導体部20がp型不純物を含み、第3シリコン半導体部30がn型不純物を含むことで、センサ素子1そのものの発光を低減させることができる。
【0013】
(第1シリコン半導体部10)
第1シリコン半導体部10は、例えば、第1p型不純物を含むシリコン基板または第1p型不純物を含むシリコン半導体層である。第1シリコン半導体部10は、好ましくは第1p型不純物を含むシリコン基板である。第1p型不純物は、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムが挙げられる。第1シリコン半導体部は第1p型不純物を第1濃度で含む。第1濃度は、例えば、1×1017cm-3以上1×1021cm-3以下、好ましくは1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下である。シリコン中に含まれる不純物濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)により見積もることができる。また、第1シリコン半導体部10の電気抵抗率は、例えば、0.001Ωcm以上1Ωcm以下、好ましくは、0.01Ωcm以上1Ωcm以下である。第1シリコン半導体部10の不純物濃度と電気抵抗率との関係は、例えば、Irvin曲線を参照することにより予想することができる。後述する第2シリコン半導体部20および第3シリコン半導体部30も同様である。第1シリコン半導体部10の厚さは、例えば、100μm以上800μm以下であってよい。第1シリコン半導体部10は単結晶シリコン、多結晶シリコン、またはアモルファスシリコンであってもよく、好ましくは、単結晶シリコンである。第2シリコン半導体部20としてエピタキシャル成長により成膜したシリコン半導体層を選択することができる。
【0014】
(第2シリコン半導体部20)
第2シリコン半導体部20は、例えば、第2p型不純物を含むシリコン基板または第2p型不純物を含むシリコン半導体層である。第2シリコン半導体部20は、好ましくは第2p型不純物を含むシリコン半導体層である。シリコン半導体層は、例えば、少なくとも一方向において結晶の方位が揃っていることが望ましい。例えば、エピタキシャル成長したシリコン半導体層であってよい。第2p型不純物は、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムが挙げられる。第2p型不純物は、好ましくはホウ素またはアルミニウムであり、特に好ましくはアルミニウムである。ガリウムとインジウムの原子番号と比べて、ホウ素とアルミニウムの原子番号は、シリコンの原子番号に近い。これにより、不純物の原子番号がシリコンの原子番号と近いほどフォノン閉じ込めが起こりにくい。したがって、ドレスト光子およびドレスト光子フォノンを介する発光を低減することができる。不純物の拡散が抑制されるので、センサ素子1の発光効率がさらに低下する。センサ素子1が自ら発する光を受光しにくくなるので、センサ素子1のノイズが低減する。ノイズが低減することで、センサ素子1を広い温度範囲において安定に動作させることができる。第2シリコン半導体部20は第2p型不純物を第2濃度で含み、第2濃度は第1濃度よりも低い。第2シリコン半導体部20の電気抵抗率を第1シリコン半導体部10の電気抵抗率よりも高くすることができるので、pn接合26が設けられる部分に印加される電圧が上昇する。これにより、素子を流れる電流値が大きくなるので、感度の高いセンサを提供することができる。第2濃度は、例えば、1×1014cm-3以上1×1016cm-3以下、好ましくは5×1014cm-3以上1×1016cm-1以下である。また、第2シリコン半導体部20の電気抵抗率は第1シリコン半導体部10の電気抵抗率よりも大きく、例えば、0.1Ωcm以上100Ωcm以下、好ましくは、1Ωcm以上10Ωcm以下である。第2シリコン半導体部20の厚さは、例えば、2μm以上10μm以下である。
【0015】
(第3シリコン半導体部30)
第3シリコン半導体部30は、例えば、n型不純物を含むシリコン半導体層である。正孔の移動度は電子の移動度よりも小さいので、第2シリコン半導体部20の正孔分布が第3シリコン半導体部30側へ広がった状態となる。しかし、正孔の移動度は電子の移動度よりも小さいので、正孔の広がりは電子の広がりよりも小さい。したがって、センサ素子1での発光再結合が生じる確率を低下させることができる。すなわち、センサ素子1そのものの発光を低減することができる。n型不純物は、例えば、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、またはビスマスであってよい。n型不純物は、シリコンの原子番号よりも大きなものが好ましい。n型不純物の原子番号がシリコンの原子番号よりも大きいことで、拡散が生じにくい。これらの原子は、受光感度を向上させる一方で、ドレスト光子およびドレスト光子フォノンを介する発光を得にくくできる。例えば、n型不純物は、好ましくは、リン、ヒ素、アンチモンまたはビスマスであり、より好ましくは、ヒ素、アンチモンまたはビスマスである。第3シリコン半導体部30はn型不純物を第3濃度で含む。第3濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下、好ましくは5×1018cm-3以上5×1019cm-3以下である。また、第3濃度は、第3シリコン半導体部30の全体において一定である必要はなく、例えば、第3シリコン半導体部30から第1シリコン半導体部10へ向かうにつれて第3濃度が変化してもよい。また、第3シリコン半導体部30の電気抵抗率は、例えば、0.1Ωcm以上100Ωcm以下、好ましくは、1Ωcm以上10Ωcm以下であってよい。第3シリコン半導体部30の厚さは、例えば、1μm以上2μm以下であってよい。
【0016】
(pn接合26)
第2シリコン半導体部20と第3シリコン半導体部30との間にpn接合26が形成される。pn接合26が形成される部分において、n型不純物の一部は所定の分布を有してよい。n型不純物は、例えば、(シリコンのバンドギャップ)―(シリコンにおけるフォノンのエネルギー)×(n型不純物の間隔)×(整数)=(受光可能な波長と対応するエネルギー)を満たすような分布を含んでいてもよい。このような分布は、例えば、3次元アトムプローブ分光により分析がされ得る。
【0017】
(正電極40a)
正電極40aは第1シリコン半導体部10と電気的に接続される。正電極40aは、例えば、第1シリコン半導体部10の第1主面11の全体に設けられる。正電極40aの材料は、例えば、クロム、プラチナ、および金からなる群から選択される少なくとも1つの金属から形成され得る。
【0018】
(負電極40b)
負電極40bは第3シリコン半導体部30と電気的に接続される。負電極40bは、例えば、第3シリコン半導体部30の第2主面31に設けられる。
図2に示すように、負電極40bは第2主面31の縁に沿う環状の電極として設けてよい。これにより、素子に順方向電流を流しつつ、第2主面31で効率よく受光することができる。負電極40bの幅は、第2主面31の1辺の長さに対して0.01倍以上0.5倍以下であってよい。負電極40bの材料は、例えば、チタン、プラチナ、および金からなる群から選択される少なくとも1つの金属から形成され得る。
【0019】
(センサ素子1の受光波長)
実施形態におけるセンサ素子1は順方向電流を印加することで駆動し、シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有する。例えば、1110nm以上4000nm以下、好ましくは、1200nm以上1500nm以下の波長範囲において、受光感度を有する。このような受光波長の範囲は、n型不純物が拡散し、所定の分布となることで生じると考えられる。シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長における受光感度は、例えば、後述するn型不純物を拡散させる工程によって、センサ素子1に与えることができる。従来のシリコンからなるセンサ素子は逆方向電流を印加することで駆動し、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも短い波長の光しか受光することができない。なお、実施形態において、pn接合26は、シリコン、n型不純物、およびp型不純物以外の材料を含まない。したがって、センサ素子1の受光波長は、例えばInGaAsのようなシリコンと比べてバンドギャップが小さい材料に起因するものではない。また、InGaAsのような材料からなる受光素子は駆動するために冷却することが必要だが、実施形態のセンサ素子1は、冷却することなく駆動することができる。
【0020】
(電流―電圧特性)
ここで、実施形態におけるセンサ素子1の電流―電圧特性について説明する。実施形態におけるセンサ素子1はS型の負性抵抗を示し、その電流―電圧特性の一部は、電圧の2次式、
I=a(t)+b(t)V+c(t)V
2・・・(1)
で近似することができる。ここで、a(t)、b(t)、およびc(t)はそれぞれ温度に依存する係数である。
図3は、(1)式が示す電流―電圧特性の一部を表す式図である。破線は、温度がT
1であるときの電流―電圧特性を表し、実線は温度がT
2であるときの電流―電圧特性を表す。T
1とT
2は、T
1<T
2の関係を有する。
【0021】
実施形態におけるセンサ素子1は、(1)式に示すように電圧の0次の項の係数だけでなく、電圧の1次の項および2次の項の係数も温度依存性を示す。
図3に示すように、電流―電圧特性は電圧が大きくなるにしたがって急峻に変化し、非線形な変化をする。よって、実施形態におけるセンサ素子1は、電圧の1次の項および2次の項の係数が温度依存性を示すことで、所定の電圧値においてセンサ素子1を流れる電流値を大きくすることができる。このようなセンサ素子1の電流―電圧特性は、センサ素子1がシリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長の光を受光可能なことに起因すると考えられる。すなわち、pn接合26における電気抵抗が、サーミスタの温度特性を示すSteinhart-Hart式に依存する成分と、黒体輻射による温度特性を示すStefan-Boltzmannの法則に依存する成分と、を含むことに起因すると考えられる。
【0022】
(10mAの電流値における1度あたりの電圧値の変化量)
実施形態に係るセンサ素子1は、電流―電圧特性に大きな温度依存性を示す。したがって、実施形態におけるセンサ素子1は、所定の電流値における1度あたりの電圧値の変化量が大きい。本明細書では、10mAの電流値における1度あたりの電圧値の変化量を電圧勾配と呼ぶ。20℃以上45℃以下の範囲において、電圧勾配は、例えば、150mV/℃以上300mV/℃以下であってよい。20℃以上45℃以下の範囲において、電圧勾配は、例えば、160mV/℃以上290mV/℃以下、または170mV/℃以上280mV/℃以下であってもよい。実施形態におけるセンサ素子1は、上述した第1シリコン半導体部10、第2シリコン半導体部20、および第3シリコン半導体部30を有することで、センサ素子1の発光効率が低下する。したがって、センサ素子1が自ら発する光を受光することで生じるノイズが抑制され、安定して利用することが可能な温度領域が拡大する。すなわち、センサ素子1は安定して動作する。なお、例えば、既存のシリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長の光を受光することができないシリコン半導体によるセンサ素子1の電圧勾配は、2mV/℃程度であり、これと比べて実施形態におけるセンサ素子1の電圧勾配は大きい。これは、センサ素子1が高い感度を有することを意味する。
【0023】
(電気抵抗率)
第1シリコン半導体部10と、第2シリコン半導体部20と、第3シリコン半導体部30からなる部分電気抵抗率は、例えば、25℃において、印加する電圧が1V以上100V以下の範囲において、1Ωcm以上1000MΩcm以下、好ましくは100Ωcm以上100MΩcm以下である。または、第1シリコン半導体部10と、第2シリコン半導体部20と、第3シリコン半導体部30からなる部分電気抵抗率は、例えば、25℃において、印加する電圧が10V以上30V以下の範囲において、1kΩcm以上100MΩcm以下、好ましくは10MΩcm以上100MΩcm以下である。センサ素子1の電気抵抗率が比較的高いので、センサ素子1に大きな電圧を印加しやすい。印加する電圧が大きいほど、式(1)において電圧の1次の項および2次の項の寄与を大きくすることができるので、センサ素子1の感度を高めることができる。また、第1シリコン半導体部は第1p型不純物を第1濃度で含み、第2シリコン半導体部20は第2p型不純物を第2濃度で含み、第2濃度は第1濃度よりも低い。したがって、センサ素子1のうち、第2シリコン半導体部20の電気抵抗率が第1シリコン半導体部10の電気抵抗率よりも高くなる。これにより、pn接合26が形成される部分においてより大きな電圧をかけることができるので、センサ素子1の感度を高めることができる。
【0024】
(負性抵抗)
実施形態におけるセンサ素子1は、S型の負性抵抗を示す。
図4にS型負性抵抗における電流―電圧特性を示す模式図を示す。ある電圧値V
1からV
2の間において、2通りの電流値をとることがわかる。2通りの電流値をとる場合、正確な電圧勾配を測定することが困難となる。よって、電圧値V
1よりも小さい電圧の範囲でセンサ素子1を駆動することが好ましい。なお、電圧値V
1は電流―電圧特性において、電圧値の折り返し点を示す電圧値の内、小さい方である。電圧値V
2は電流―電圧特性において、電圧値の折り返し点を示す電圧値の内、大きい方である。
【0025】
以上、実施形態のセンサ素子1は、センサ素子1そのものによる発光を低減することができる。また、実施形態のセンサ素子1は、広い温度範囲において、より安定に動作する。また、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長の光を受光することができない半導体センサ素子と比べて高い感度を有する。特に電圧勾配が大きく、温度変化に対して高い感度を有する。
【0026】
以上、実施形態におけるセンサ素子1について説明したが、センサ素子1はこれに限定はされない。実施形態のセンサ素子1は、第1n型不純物を含む第1シリコン半導体部と、第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2n型不純物を含む第2シリコン半導体部と、第2シリコン半導体部の上に設けられ、p型不純物を含む第3シリコン半導体部と、を備え、第2シリコン半導体部と第3シリコン半導体部との間に位置するpn接合を含み、p型不純物の原子番号はシリコンの原子番号よりも大きく、シリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光に対して受光感度を有してよい。p型不純物の番号がシリコンの原子番号よりも大きいことで、シリコンよりも重く、拡散が生じにくい。p型不純物は、受光感度を向上させる一方で、ドレスト光子およびドレスト光子フォノンを介する発光を得られにくくできる。p型不純物としては、例えば、ガリウムまたはインジウムが挙げられる。ガリウムまたはインジウムはシリコンよりも原子番号が大きいので、シリコンよりも重く、拡散が生じにくい。なお、n型不純物とp型不純物を入れ替えたこと以外は上述の構成と同様な構成を備えることができる。
【0027】
<センサ素子1の製造方法>
以下、実施形態におけるセンサ素子1の製造方法について
図5A、
図5B、
図6から
図12を用いて説明する。実施形態におけるセンサ素子1の製造方法は、
図5Aおよび
図5Bに示すように、第1p型不純物を含む第1シリコン半導体部10と、第1シリコン半導体部10の上に設けられ、第2p型不純物を含む第2シリコン半導体部20と、第2シリコン半導体部20の上に設けられ、n型不純物を含む第3シリコン半導体部30と、を含む積層体1Aを準備することと、積層体1Aに、順方向電流を流しながらシリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光で照射して、n型不純物を拡散させることと、を含む。
【0028】
第1シリコン半導体部10および第2シリコン半導体部20がp型不純物を含み、第3シリコン半導体部30がn型不純物を含むことで、センサ素子そのものの発光が低減されたセンサ素子を製造することができる。これにより、自発光によるノイズが低減し、安定に動作するセンサ素子1を製造することができる。
【0029】
図5Aに示すように、センサ素子1の製造方法は、積層体を準備する工程と、n型不純物を拡散させる工程を含む。また、
図5Bに示すように、積層体を準備する工程は、第1シリコン半導体部10を準備する工程と、第2シリコン半導体部20を準備する工程と、第3シリコン半導体部30を準備する工程と、を含んでもよい。
【0030】
(第1シリコン半導体部10を準備する工程)
第1シリコン半導体部10を準備する工程は、
図6に示すように、第1p型不純物を含むシリコン基板または第1p型不純物を含むシリコン半導体層を準備する工程である。第1シリコン半導体部10は第1p型不純物を含むシリコン基板であることが好ましい。第1シリコン半導体部10がシリコン基板である場合、引き上げ法(Czochralski法とも呼ばれる)または浮遊帯溶融(Floating Zone)法で製造したインゴットから取り出したシリコンウエハを用いてもよい。第1シリコン半導体部10に含まれる第1p型不純物は、例えばホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムであってよい。
【0031】
(第2シリコン半導体部20を準備する工程)
第2シリコン半導体部20を準備する工程は、
図6に示すように、第1シリコン半導体部10の上に、第2p型不純物を含むシリコン基板または第2p型不純物を含むシリコン半導体層を準備する工程である。第2シリコン半導体部20は第2p型不純物を含むシリコン半導体層が好ましい。第2シリコン半導体部20に含まれる第2p型不純物の不純物濃度(第2濃度)は、第1シリコン半導体部10に含まれる第1p型不純物の不純物濃度(第1濃度)よりも大きい。このような濃度の大小関係は、第2シリコン半導体部20がシリコン半導体層である方が容易に形成可能である。第2シリコン半導体部20に含まれる第2p型不純物は、例えばホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムであってよい。センサ素子1の発光効率を低下させるために、第2p型不純物はホウ素またはアルミニウムであることが好ましく、第2p型不純物はアルミニウムであることがより好ましい。第2シリコン半導体部20がシリコン半導体層である場合、例えば、化学気相体積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、またはプラズマCVD法などで形成してもよい。第2シリコン半導体部20は少なくとも一方向において結晶の方位が揃っていることが好ましい。例えば、第1シリコン半導体部10の上に第2シリコン半導体部をエピタキシャル成長させてよい。したがって、例えば、CVD法およびMBE法で形成することが好ましく、簡易に製造できるCVD法がより好ましい。CVD法は、例えば、モノシラン(SiH
4)や四塩化シリコン(SiCl
4)などの化合物ガスを、熱分解あるいは水素還元を行う方法である。第2p型不純物は、例えば、フォスフィン(PH
3)、アルシン(AsH
3)などの不純物化合物ガスを供給ガスに混合することにより、形成することができる。第2シリコン半導体部20は、例えば、第1シリコン半導体部10であるシリコン基板の(100)面、(110)面、または(111)面上にエピタキシャル成長させたシリコン半導体層であってよい。第2p型不純物は、例えばホウ素、アルミニウムであってよい。
【0032】
(第3シリコン半導体部30を準備する工程)
第3シリコン半導体部30を準備する工程は、
図7に示すように、第2シリコン半導体部20にイオン注入(ion implantation)を行うことにより、第2シリコン半導体部20の上に、第3シリコン半導体部30を準備する工程である。
図7中の矢印はイオン注入される様子を表している。この工程において、イオン注入する原子は、n型不純物となる原子であり、例えば、リン、ヒ素、アンチモン、またはビスマスであってよい。n型不純物は、シリコンの原子番号よりも大きなものが好ましい。n型不純物の原子番号をシリコンの原子番号よりも大きくすることで、拡散を生じさせにくくすることができる。これらの原子は、受光感度を向上させる一方で、ドレスト光子およびドレスト光子フォノンを介する発光を得にくくできる。n型不純物は、好ましくは、リン、ヒ素、アンチモンまたはビスマスであり、より好ましくは、ヒ素、アンチモンまたはビスマスである。イオン注入は、例えば、10kev以上1000kev以下のエネルギーで加速させた不純物イオンを第2シリコン半導体部20に打ち込む。不純物を加速するエネルギーは1種類でもよいし、2種類以上であってよもよい。また、エネルギーを変化させながらイオン注入を行ってもよい。注入のドーズ量は、例えば、1×10
12atoms/cm
2以上1×10
15atoms/cm
2以下であってよい。また、イオン注入を行ったあとで、
図8に示すように、第1シリコン半導体部10を薄くしてもよい。後述するn型不純物を拡散させる工程において、積層体1Aを効率よく冷却し、所望の分布となるようにn型不純物を拡散しやすくなる。第1シリコン半導体部10は、例えば、化学機械研磨により薄くしてもよい。
【0033】
(第1電極50aおよび第2電極50bを形成する工程)
積層体1Aを形成したあとで、第1電極50aおよび第2電極50bを形成する。
図9は、第1電極50aおよび第2電極50bを形成する工程を表す。第1電極50aは第1シリコン半導体部10と電気的に接続される。第1電極50aは、例えば、スパッタ法などにより第1シリコン半導体部10の第1主面11の全体に設けられる。第2電極50bは第3シリコン半導体部30と電気的に接続される。第2電極50bは、例えば、第3シリコン半導体部30の第2主面31に設けられる。第2電極50bは、格子状に形成してよい。これにより、後述するDPPアニールを行う工程において、効率的に積層体1Aに順方向電流を注入し、誘導放出を行うためのキャリアを与えることができる。
【0034】
(n型不純物を拡散させる工程)
図10はn型不純物を拡散させる工程を示す模式図である。この工程では、積層体1Aに、電源60からワイヤ61aで接続された第1電極50aおよび第2電極50bを介して順方向電流を流しながら、所定の波長の光で照射する。
図10の白抜きの矢印72は所定の波長の光を表す。所定の波長の光とは、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い光である。この工程により、pn接合26が形成され、照射した光の波長と対応する波長に受光感度を持たせることができる。照射する光によって、n型不純物の拡散が制御されるためであると考えられる。これは、n型不純物の近傍に近接場光の一種であるドレスト光子、およびドレスト光子とシリコンのフォノンが相互作用したドレスト光子フォノンが生じるという仮定に基づくと、以下のように説明される。電流注入により拡散される不純物は、照射された光を受けて誘導放出を生じる。この誘導放出は電流注入によって生じるジュール熱の一部を利用するので。素子からエネルギーの一部を排出することを意味している。すなわち、誘導放出が生じる部分において素子を冷却し、アニールの進行が低減される。これは、ドレスト光子フォノン援用アニール(DPPアニール:Dressed Photon Phonon Assited Anneal)と呼ばれている。DPPアニールを終えた後のn型不純物の一部は、照射された光のエネルギーと対応した間隔で自己組織的に分布すると考えられている。例えば、自己組織的に分布するn型不純物は、例えば、(シリコンのバンドギャップ)―(シリコンにおけるフォノンのエネルギー)×(n型不純物の間隔)×(整数)=(受光可能な波長と対応するエネルギー)となるような周期構造であり得る。このようなn型不純物の分布によって、センサ素子1において、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長で受光感度を有すると考えられる。DPPアニールにおいて照射される光の波長は、例えば、1110nm以上4000nm以下である。照射する光は光源70から照射されるレーザ光であってよい。照射する光は、積層体1Aの第3半導体部側の第2主面31側から照射してよい。照射する光は第2主面31の一部分に照射してもよいし、光源70を走査して第2主面31の複数の部分に照射してもよい。誘導放出と自然放出が生じる確率は同程度なので、積層体1A内で誘導放出が生じると自然放出も同程度生じる。したがって、この自然放出光が積層体1A内を伝搬することで、光が照射されていない領域のn型不純物近傍でも誘導放出を生じ、n型不純物の拡散を制御することができる。注入する順方向電流の電流密度は、例えば、1A/cm
2以上100A/cm
2以下であってよい。順方向電流は、例えば、定常電流、三角波電流またはパルス電流であってよい。三角波電流である場合、周期時間は例えば0.5秒以上10秒以下であり得る。パルス電流である場合、周期時間は例えば1ミリ秒以上10ミリ秒以下であり、周期時間に対する通電時間のデューティ比は80%以上98%以下であり得る。なお、n型不純物を拡散させる工程において、
図10に示すように、積層体1Aはヒートシンク90上に設けられたペルチェ素子80の上に配置されてよい。ペルチェ素子80によって、素子の温度を調整することができる。ヒートシンク90は、例えば、アルミナ、窒化アルミニウムであってよい。また、n型不純物を拡散させる工程において、積層体1Aに順方向電流を注入するために用いた第1電極50aおよび第2電極50bは実施形態におけるセンサ素子1の正電極40aおよび負電極40bとして用いてもよい。センサ素子1のために第1電極50aおよび第2電極50bとは異なる電極を設ける場合は、
図11に示すようにn型不純物を拡散させる工程を終えたあとで、第1電極50aおよび第2電極50bをエッチングにより除去する。
【0035】
(個片化する工程)
n型不純物を拡散させる工程の後で、積層体1Aを個片化してもよい。
図12は、個片化工程を表す。例えば、1辺が1μm以上10000μm以下となるように個片化してよい。
図12に示す矢印は個片化位置を表す。破線は、個片化される他のセンサ素子1を示す。個片化は、例えば、レーザスクライブ、ダイシングなどで行うことができる。なお、個片化工程は、例えば、センサ素子1がn×nのマトリクス状のセルを有するように個片化してもよい。このとき、各セルは絶縁膜などで第3シリコン半導体部30および第2シリコン半導体部20が分離されていてもよい。なお、第1電極50aおよび第2電極50bを除去する場合は、積層体1Aを個片化する前に正電極40aおよび負電極40bをそれぞれ設ける。個片化は、正電極40aおよび負電極40bを含む位置で行われてよい。また、個片化工程は、積層体1Aを準備したあとで、n型不純物を拡散する工程の前に行ってもよい。
【0036】
以上、実施形態におけるセンサ素子1の製造方法を説明したが、この方法のみに限定はされない。実施形態のセンサ素子1は、第1n型不純物を含む第1シリコン半導体部と、第1シリコン半導体部の上に設けられ、第2n型不純物を含む第2シリコン半導体部と、第2シリコン半導体部の上に設けられ、シリコンの原子番号よりも大きい原子番号のp型不純物を含む第3シリコン半導体部と、を含む積層体を準備することと、積層体に、順方向電流を流しながらシリコンのバンドギャップの大きさに対応する波長よりも長い波長の光で照射して、p型不純物を拡散させることと、を含んでよい。これにより、p型不純物を拡散させる工程において、p型不純物を拡散しにくくし、センサ素子そのものの発光を低減させることができる。p型不純物としては、例えば、ガリウムまたはインジウムが挙げられる。ガリウムまたはインジウムはシリコンよりも原子番号が大きいので、シリコンよりも重く、拡散が生じにくい。なお、n型不純物とp型不純物を入れ替えたこと以外は上述の方法と同様な方法で製造することができる。
【0037】
<応用例1 放射温度計>
図13は、実施形態のセンサ素子1を含む放射温度計を示す模式図である。放射温度計100は、枠体110と、センサ素子1と、レンズ120と、を有する。センサ素子1は枠体110に収容されている。センサ素子1はサブマウント130の上に配置されてもよい。レンズ120は、センサ素子1と計測対象との間に配置されている。センサ素子1とレンズ120との間には、1以上の絞り140が設けれている。センサ素子1は、実施形態に係るセンサ素子1であり、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長において感度を有する。レンズ120は、計測対象から発せられる赤外線、あるいは輻射をセンサ素子1に集光する。放射温度計100は、センサ素子1とレンズ120との間に、波長フィルタ150を備えてもよい。波長フィルタ150は、例えば、1110nm以上4000nm以下の波長の光を透過させる。センサ素子1は、物体の輻射を検知することができるので、放射温度計100として利用することができる。
【0038】
<応用例2 温度計>
【0039】
図14は、センサ200を示す模式図である。センサ200は、発光素子アレイ210と受光素子アレイ220を備え、発光素子アレイ210および受光素子アレイ220は配線基板230の上に配置される。発光素子アレイ210は複数の発光素子211を含み、複数の発光素子211は所定の間隔で並んでいる。発光素子は、1300nm以上の波長の光を発する。受光素子アレイ220は、実施形態のセンサ素子1が所定の間隔で並んでいる。受光素子アレイ220は、発光素子アレイ210から発せられ、対象物で反射された光を受光する。センサ200は、例えば、手首、足首等の人体に貼り付けることができる。例えば、人体に発光素子アレイからの光を照射して、ヘモグロビンまたは脱酸素ヘモグロビンからの反射光を受光素子アレイで計測し、血管の形状等の情報を得ることができる。また、センサ200を張り付けた部分の温度を計測してもよい。
<応用例3 イメージセンサ>
【0040】
図15は、イメージセンサ300を示す上面模式図である。イメージセンサ300は、実施形態に係るセンサ素子1を含むセンサ素子アレイ320と、センサ素子アレイ320と電気的に接続される回路基板330と、を含む。センサ素子1が画素を構成する。各画素は、シリコンのバンドギャップと対応する波長よりも長い波長において感度を有する。各画素が検出する光の強度は、光の入射位置によって異なるので、光の強度分布を得ることができる。センサ素子アレイ320は、個片化した複数のセンサ素子1をマトリクス状に並べても形成してもよいし、1つのセンサ素子1をマトリクス状に区画分けして形成してもよい。
【0041】
<実施例>
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
まず、第1シリコン半導体部10である第1p型不純物を含むシリコン基板と、シリコン基板の上に設けられた第2シリコン半導体部20である第2p型不純物を含むシリコン半導体層と、第2シリコン半導体部20の上に設けられた第3シリコン半導体部30であるn型不純物を含むシリコン半導体層と、を含む積層体1Aを準備した。第2シリコン半導体部20はCVD法によりエピタキシャル成長されたシリコン半導体層であった。第3シリコン半導体部30は、第2シリコン半導体部20にイオン注入することで形成された。第1シリコン半導体部10に含まれる第1p型不純物は、ホウ素であり、第1シリコン半導体部10の電気抵抗率が0.1Ωcmとなるように第1濃度を設定した。第2シリコン半導体部20に含まれる第2p型不純物は、ホウ素であり、第2濃度は1×1015cm-3とした。第2シリコン半導体部20の電気抵抗率は、50Ωcmであった。第3シリコン半導体部30に含まれるn型不純物は、ヒ素であり、第3濃度は1×1019cm-3とした。第3シリコン半導体部30の電気抵抗率は、DPPアニール前の時点で10Ωcmであった。積層体1Aを準備したあとで、個片化を行った。次にDPPアニールを行い、センサ素子1を得た。具体的には、積層体1Aに順方向電流を流しながら、1314nmの波長のレーザ光で照射して、n型不純物を拡散させた。印加した電流は定常電流の電流密度は100A/cm2とした。レーザ光のパワーは100mWとした。DPPアニールは、60分間行われた。
【0043】
<比較例1>
まず、n型不純物を含むシリコン基板と、シリコン基板の上に設けられたn型不純物を含むn型シリコン半導体層と、シリコン半導体層の上に設けられたp型不純物を含むp型シリコン半導体層と、を含む積層体1Aを準備した。n型シリコン半導体層はCVD法によりエピタキシャル成長された。p型シリコン半導体層は、n型シリコン半導体にイオン注入することで形成された。シリコン基板に含まれるn型不純物は、ヒ素であり、電気抵抗率が0.1Ωcmとなるようにn型不純物濃度を設定した。n型シリコン半導体層に含まれるn型不純物は、ヒ素であり、n型不純物濃度は1×1019cm-3とした。p型シリコン半導体層に含まれるp型不純物は、ホウ素であり、第3濃度は1×1019cm-3とした。次にDPPアニールを行った。具体的には、積層体1Aに順方向電流を流しながら、1314nmの波長のレーザ光で照射して、p型不純物を拡散させた。注入した電流の電流密度は100A/cm2とした。レーザ光のパワーは100mWとした。DPPアニールは、60分間行われた。DPPアニールを行ったあと、積層体を個片化して、センサ素子を得た。
【0044】
<評価>
(電流―電圧特性)
図16Aは実施例1に係るセンサ素子1の電流―電圧特性を表すグラフである。横軸は電圧を表し、縦軸は電流値を表している。センサ素子1はペルチェステージの上に配置して、測定を行った。順方向電流を印加してセンサ素子1を駆動した。
図16Aは、23℃の環境の下で、センサ素子を配置したペルチェステージの温度を20℃、25℃、および40℃に設定したときの測定結果を表している。
図16Aにおいて、点線は20℃、破線は25℃、実線は40℃の結果を示している。この結果から、実施例1に係るセンサ素子1の電流―電圧特性は非線形な温度依存性を示すことが確認できた。
【0045】
図16Bは基準となる温度として、ペルチェステージの温度を20℃、25℃、30℃、35℃、および40℃と設定したときの電流―電圧特性において、10mAの電流値における電圧勾配を求めたものである。横軸は温度を表し、縦軸は電圧勾配を表している。20℃における電圧勾配は、ペルチェステージの温度が20℃と25℃に設定したときの電流―電圧特性において、10mAの電流値における電圧値の差から求めた。同様に、25℃における電圧勾配は、ペルチェステージの温度が25℃と30℃に設定したときの電流―電圧特性から求めた。30℃における電圧勾配は、ペルチェステージの温度が30℃と35℃に設定したとき電流―電圧特性から求めた。35℃における電圧勾配は、ペルチェステージの温度が35℃と40℃に設定したときの電流―電圧特性から求めた。40℃における電圧勾配は、ペルチェステージの温度が40℃と45℃に設定したときの電流―電圧特性から求めた。得られた電圧勾配は、20℃以上40℃以下の範囲において、150mV/℃以上であった。これは、センサ素子1が周囲からの輻射を吸収することで高い感度を有すると考えられた。また、センサ素子1の発光が抑制されたため、20℃以上40℃以下の範囲において電圧勾配が維持されたと考えられた。なお、実施例1のセンサ素子1において、電圧勾配の値が増減しているのは、素子の微分抵抗値の振る舞いを反映したものであると予想される。
【0046】
比較例1に係るセンサ素子において、同様な測定を行った。基準となる温度として、ペルチェステージの温度は、20℃、25℃、29℃、および40℃に設定した。得られた電圧勾配は、20℃以上40℃以下の範囲において、概ね150mV/℃以上であった。しかし、25℃における電圧勾配は、およそ50mV/℃と、急激な電圧勾配の低下を示した。比較例1におけるセンサ素子が25℃付近において比較的高い発光効率を有するため、センサ素子が自らの発光によるノイズの影響を受けたためと推測される。このような電圧勾配の低下は、比較例1のセンサ素子においては25℃近傍において生じると予想された。実施例1のセンサ素子1は25℃において急激な電圧勾配の低下が見られず、より広い温度範囲において安定に動作することが確認できた。これは、実施例1におけるセンサ素子1が比較例1におけるセンサ素子と比べて発光が抑制されることで、センサ素子1自身が発する光によるノイズが低減されたためと予想された。
【符号の説明】
【0047】
1 センサ素子
1A 積層体
10 第1シリコン半導体部
11 第1主面
20 第2シリコン半導体部
26 pn接合
30 第3シリコン半導体部
31 第2主面
40a 正電極
40b 負電極
50a 第1電極
50b 第2電極
60 電源
61a ワイヤ
70 光源
72 光
80 ペルチェ素子
90 ヒートシンク
100 放射温度計
110 枠体
120 レンズ
130 サブマウント
140 絞り
150 波長フィルタ
200 センサ
210 発光素子アレイ
211 発光素子
220 受光素子アレイ
230 配線基板
300 イメージセンサ
320 センサ素子アレイ
330 回路基板