IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2023-138285加熱装置、定着装置及び画像形成装置
<>
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図1
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図2
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図3
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図4
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図5
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図6
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図7
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図8
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図9
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図10
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図11
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図12
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図13
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図14
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図15
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図16
  • 特開-加熱装置、定着装置及び画像形成装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138285
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】加熱装置、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/20 555
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185659
(22)【出願日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2022042528
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】醒井 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】塩寺 広太
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033AA42
2H033BA25
2H033BA27
2H033BA31
2H033BA34
2H033BA37
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033CA02
2H033CA27
(57)【要約】
【課題】微粒子及び超微粒子の発生を抑制する。
【解決手段】加熱装置は、回転可能に保持される回転体21と、回転体21を加熱する加熱源23と、加熱源23から放出される輻射熱を反射する反射部材26と、回転体23の長手方向中央部よりも長手方向端部側に配置され加熱源23と回転体21との間において加熱源23から放出される輻射熱を遮蔽する遮蔽部材31と、回転体21の長手方向端部を保持する回転体保持部材27と、回転体保持部材27に付着する液状又は半固体状の潤滑性を有する物質とを備え、遮蔽部材31の反射率は反射部材26の反射率よりも低い。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に保持される回転体と、
前記回転体を加熱する加熱源と、
前記加熱源から放出される輻射熱を反射する反射部材と、
前記回転体の長手方向中央部よりも長手方向端部側に配置され前記加熱源と前記回転体との間において前記加熱源から放出される輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、
前記回転体の長手方向端部を保持する回転体保持部材と、
前記回転体保持部材に付着する液状又は半固体状の潤滑性を有する物質とを備え、
前記遮蔽部材の反射率は前記反射部材の反射率よりも低いことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記回転体保持部材の反射率は前記反射部材の反射率よりも低く、前記遮蔽部材の反射率は前記回転体保持部材の反射率よりも低い請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材の反射率と前記回転体保持部材の反射率との差が10%以上である請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記反射率は、前記輻射熱の波長域に対する反射率である請求項1から3のいずれか項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材は前記回転体に接触する請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記回転体の内側に配置され、前記回転体の外周面に接触する対向部材との間にニップ部を形成するニップ形成部材を備え、
前記遮蔽部材は前記ニップ形成部材に接触する請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記遮蔽部材の前記輻射熱が照射される面が黒色である請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記回転体保持部材の前記輻射熱が照射される面が金属により構成される請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記遮蔽部材の前記輻射熱が照射される面の表面粗さが、前記反射部材又は前記回転体保持部材の前記輻射熱が照射される面の表面粗さよりも大きい請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記潤滑性を有する物質は、シリコーンオイル及びフッ素グリースの少なくとも1つを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置を用いて未定着画像を担持する記録媒体を加熱し、前記未定着画像を前記記録媒体に定着させることを特徴とする定着装置。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか1項に記載の加熱装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機又はプリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱装置の一例として、用紙などの記録媒体を加熱して記録媒体上の未定着画像を記録媒体に定着させる定着装置が知られている。
【0003】
斯かる定着装置は、互いに接触する一対の回転体と、一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源を備えており、回転体同士が接触するニップ部に用紙を通過させることにより、用紙上の未定着画像が加熱及び加圧されて定着される。
【0004】
加熱源から放出される輻射熱の多くは回転体を加熱する熱エネルギーとして消費されるが、輻射熱の一部が回転体の周囲の部材へ照射されたり、温度上昇した回転体の熱が周囲の部材へ伝達されたりすることなどによって、周囲の部材が温度上昇することがある。
【0005】
斯かる問題に対して、例えば、特許文献1(特開2010-26058号公報)においては、回転体の長手方向両端部を回転可能に保持する一対の回転体保持部材の内周面に金属膜を形成し、この金属膜によって加熱源からの輻射熱を反射し、回転体保持部材の温度上昇を抑制する構成が提案されている。
【0006】
ところで、定着装置などの加熱装置においては、回転体の回転を円滑に行えるようにするため、一般的にオイル又はグリースなどの潤滑剤が用いられている。また、このような潤滑剤は、装置内に設けられる加熱源の熱などにより温度上昇すると低分子の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることにより凝集し、微粒子が発生してしまうことが知られている。
【0007】
近年、製品から排出される微粒子(粒径が100[nm]~2500[nm]の粒子)に関する規制が強化されてきており、例えば、ドイツのブルーエンジェル規格においては、粒径が5.6[nm]~560[nm]の微粒子及び超微粒子の発生個数(個/10分)についての基準値が定められている。そのため、潤滑剤などの潤滑性物質から生じる微粒子及び超微粒子の発生を効果的に抑制する対策が求められている。上記特許文献1においては、回転体保持部材の温度上昇を抑制する対策については記載されているが、潤滑性物質の温度上昇に伴う微粒子及び超微粒子の発生の問題については何ら検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微粒子及び超微粒子の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る加熱装置は、回転可能に保持される回転体と、前記回転体を加熱する加熱源と、前記加熱源から放出される輻射熱を反射する反射部材と、前記回転体の長手方向中央部よりも長手方向端部側に配置され前記加熱源と前記回転体との間において前記加熱源から放出される輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、前記回転体の長手方向端部を保持する回転体保持部材と、前記回転体保持部材に付着する液状又は半固体状の潤滑性を有する物質とを備え、前記遮蔽部材の反射率は前記反射部材の反射率よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微粒子及び超微粒子の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置の中央部断面図である。
図3】本実施形態に係る定着装置の斜視図である。
図4】本実施形態に係る定着装置の端部側断面図である。
図5】本実施形態に係る定着装置を、定着ベルトの長手方向に沿って切断した端部側の断面図である。
図6】遮蔽部材の反射率を低くする方法の一例を示す図である。
図7】ベルト保持部材の反射率を高くする方法の一例を示す図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る定着装置の端部側断面図である。
図9】本発明のさらに別の実施形態に係る定着装置の端部側断面図である。
図10】遮蔽部材に摺動シートを通すための孔部が設けられた例を示す図である。
図11】プリント速度と微粒子及び超微粒子の発生個数との関係を示す図である。
図12】本発明を適用可能な他の定着装置の構成を示す断面図である。
図13図12に示される定着装置の分解斜視図である。
図14】本発明を適用可能なさらに別の定着装置の構成を示す断面図である。
図15図14に示される定着装置を定着ベルトの長手方向に沿って切断した断面図である。
図16】潤滑剤の温度と微粒子及び超微粒子の発生濃度との関係を示す図である。
図17】従来の定着装置を定着ベルトの長手方向に沿って切断した端部側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。ここで、本明細書中における「画像形成装置」には、プリンタ、複写機、ファクシミリ、印刷機、又は、これらのうちの二つ以上を組み合わせた複合機などが含まれる。また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字及び図形などの意味を持つ画像を形成するだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を形成することも意味する。まず、図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態に係る画像形成装置100は、用紙などのシート状の記録媒体に画像を形成する画像形成部200と、記録媒体に画像を定着させる定着部300と、記録媒体を画像形成部200へ供給する記録媒体供給部400と、記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出部500を備えている。
【0015】
画像形成部200には、作像ユニットとしての4つのプロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkと、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkが備える感光体2に静電潜像を形成する露光装置6と、記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。
【0016】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電部材3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面を清掃するクリーニング部材5を備えている。
【0017】
転写装置8は、中間転写ベルト11と、一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13を備えている。中間転写ベルト11は、無端状のベルト部材であり、複数の支持ローラによって張架されている。一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11の内側に4つ設けられている。各一次転写ローラ12が中間転写ベルト11を介して各感光体2に接触することにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に一次転写ニップが形成されている。二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11の外周面に接触し、二次転写ニップを形成している。
【0018】
定着部300においては、画像が転写された記録媒体を加熱する加熱装置としての定着装置20が設けられている。定着装置20は、記録媒体上の画像を加熱する定着ベルト21と、定着ベルト21に接触してニップ部(定着ニップ)を形成する加圧ローラ22などを備えている。
【0019】
記録媒体供給部400には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15が設けられている。以下、「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は、紙(用紙)だけでなくOHPシート又は布帛、金属シート、プラスチックフィルム、あるいは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。また、「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙及びアート紙など)、トレーシングペーパなども含まれる。
【0020】
記録媒体排出部500には、用紙Pを画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙Pを載置する排紙トレイ18が設けられている。
【0021】
次に、図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0022】
画像形成装置100において印刷動作が開始されると、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び転写装置8の中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触することにより静止し、用紙Pに転写される画像が形成されるまで用紙Pの搬送が一旦停止される。
【0023】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3によって、感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)を露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkのいずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つのプロセスユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去される。
【0024】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。その後、用紙Pは、定着装置20へと搬送され、定着ベルト21と加圧ローラ22によって用紙P上のトナー画像が加熱及び加圧され、トナー画像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、記録媒体排出部500へ搬送され、排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出される。これにより、一連の印刷動作が終了する。
【0025】
続いて、図2図5に基づき、本実施形態に係る定着装置の基本構成について説明する。図2は、本実施形態に係る定着装置を、定着ベルト21の長手方向中央部M(図3参照)において切断した中央部断面図、図4は、本発明の実施形態に係る定着装置を、定着ベルト21の長手方向端部側E(図3参照)において切断した端部側断面図である。図5は、本実施形態に係る定着装置を、定着ベルト21の長手方向に沿って切断した端部側の断面図である。なお、ここでいう定着ベルトの「長手方向」とは、図3中の矢印Xにて示される方向であり、加圧ローラ22の回転軸方向、あるいは定着ベルト21と加圧ローラ22との間(ニップ部)を通過する用紙の幅方向(用紙搬送方向とは交差する方向)と同じ方向を意味する。また、以下の説明中の「長手方向」も同じ意味である。
【0026】
図2図5に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、定着ベルト21及び加圧ローラ22のほか、ヒータ23と、ニップ形成部材24と、ステー25と、反射部材26(図2参照)と、ベルト保持部材27(図3参照)と、遮蔽部材31(図4参照)と、温度センサ28(図2参照)を備えている。
【0027】
定着ベルト21は、用紙Pの未定着トナー担持面に接触して未定着トナー(未定着画像)を用紙Pに定着させる回転体(第一回転体又は定着部材)である。
【0028】
具体的に、定着ベルト21は、内周面側から外周面側に向かって順に、基材、弾性層、離型層が積層される無端状のベルトにより構成される。基材は、層厚が30~50μmであって、ニッケル、ステンレスなどの金属材料、あるいはポリイミドなどの樹脂材料により形成される。弾性層は、層厚が100~300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料により形成される。定着ベルト21が弾性層を有していることにより、ニップ部における定着ベルト21の表面に微小な凹凸が形成されなくなるため、用紙P上のトナー画像に熱が均一に伝わりやすくなる。離型層は、層厚が10~50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)などの材料により形成される。定着ベルト21が、離型層を有していることにより、トナー(トナー画像)に対する離型性(剥離性)が確保される。また、定着ベルト21は、小型化及び低熱容量化のため、その全体の厚さが1mm以下、直径が30mm以下であることが好ましい。
【0029】
加圧ローラ22は、定着ベルト21の外周面に対向して配置される回転体(第二回転体又は対向部材)である。
【0030】
具体的に、加圧ローラ22は、中実の鉄製芯材と、この芯材の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層により構成される。芯材は、中空の部材であってもよい。弾性層は、シリコーンゴム、又は発泡性シリコーンゴム、あるいはフッ素ゴムなどにより形成されている。離型層は、PFA又はPTFEなどのフッ素樹脂により形成されている。
【0031】
ヒータ23は、定着ベルト21を加熱する加熱源である。本実施形態においては、ヒータ23として、ハロゲンヒータが用いられている。また、ヒータ23は、ハロゲンヒータのほか、カーボンヒータ又はセラミックヒータなどの他の輻射熱式のヒータであってもよい。また、本実施形態においては、ヒータ23が、定着ベルト21の内側に2つ配置されているが、ヒータ23の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0032】
ニップ形成部材24は、定着ベルト21の内側に配置され、加圧ローラ22の加圧力を受けて定着ベルト21と加圧ローラ22との間にニップ部Nを形成する部材である。ニップ形成部材24は、ベースパッド29と、摺動シート30を有している。
【0033】
ベースパッド29は、定着ベルト21の長手方向Xへ連続して配置され、ステー25に固定されている。ベースパッド29が加圧ローラ22の加圧力を受けることにより、ニップ部Nの形状が決定される。ベースパッド29の材料としては、耐熱温度が200℃以上の耐熱性部材が用いられることが好ましい。例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、又は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの一般的な耐熱性樹脂が挙げられる。このような耐熱性材料をベースパッド29の材料として用いることにより、定着温度域におけるベースパッド29の熱変形を防止でき、ニップ部Nの形状を安定させることができる。ニップ部Nの形状は、図2に示されるような凹形状のほか、平坦状、あるいはそれ以外の形状であってもよい。
【0034】
摺動シート30は、ベースパッド29と定着ベルト21の内周面との間に介在する低摩擦性の部材である。摺動シート30が、ベースパッド29と定着ベルト21との間に介在していることにより、ベースパッド29に対する定着ベルト21の摺動抵抗が低減される。なお、ベースパッド29自体が低摩擦性の部材で形成されている場合は、摺動シート30を有しない構成であってもよい。
【0035】
ステー25は、ニップ形成部材24を加圧ローラ22側とは反対側から支持する支持部材である。ステー25がニップ形成部材24を支持することにより、加圧ローラ22の加圧によるニップ形成部材24の撓み(特に定着ベルト21の長手方向に渡る撓み)が抑制される。これにより、均一な幅のニップ部Nが得られる。ステー25の材料としては、剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料が好ましい。
【0036】
反射部材26は、ヒータ23から放射される輻射熱(赤外線)を反射する部材である。ヒータ23から放出される輻射熱が、反射部材26によって定着ベルト21へ反射されることにより、定着ベルト21が効率良く加熱される。また、反射部材26は、ステー25とヒータ23との間に介在して、ステー25への熱伝達を抑制する機能も兼ねる。これにより、定着に直接寄与しない部材への熱の流動を抑制できるため、エネルギー消費の効率化を図れる。反射部材26の材料としては、アルミニウム又はステンレスなどの金属材料を用いることができる。特に、反射部材26が、アルミニウム製の基材の表面に反射率の高い銀を蒸着して構成されている場合は、加熱効率がより一層向上する。
【0037】
ベルト保持部材27は、定着ベルト21を回転可能に保持する一対の回転体保持部材である。図3に示されるように、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向両端部においてその内側に挿入され、定着ベルト21の内側を摺動回転可能に保持する。なお、ここでいう定着ベルト21の「長手方向両端部」、及び以下の説明中における定着ベルト21の「長手方向端部」は、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁のみを意味する場合に限らない。「長手方向両端部」及び「長手方向端部」には、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁のほか、定着ベルト21を長手方向に三等分した場合の最小通紙領域よりも長手方向で外側である端縁から三分の一の長さの範囲内における任意の位置も含まれる。従って、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向の最も端の端縁を含む領域(長手方向端部)を保持する場合のほか、定着ベルト21の端縁を含まない領域(長手方向端部)を保持する場合であってもよい。
【0038】
具体的に、ベルト保持部材27は、定着ベルト21の長手方向端部内に挿入される断面C字状の挿入部27aと、挿入部27aよりも大きい外径に形成された規制部27bと、側板33(図5参照)に固定される固定部27cを有している。規制部27bは、少なくとも定着ベルト21の外径よりも大きく形成されており、定着ベルト21に長手方向Xの寄り(長手方向への移動)が生じた場合にその寄りを規制する。挿入部27aは、定着ベルト21の長手方向端部内に挿入されることにより、定着ベルト21の内側を回転可能に保持する。
【0039】
遮蔽部材31は、ヒータ23と定着ベルト21との間の長手方向両端部にベルト保持部材27と隙間をもって内側に配置(固定)され、ヒータ23から放出される輻射熱(赤外線)を遮蔽する部材である。遮蔽部材31は、定着ベルト21の長手方向中央部Mよりも長手方向端部側Eに配置される。詳しくは、図5に示されるように、遮蔽部材31は、最大幅の用紙が通過する最大通紙領域(最大記録媒体通過領域)Wよりも外側の非通紙領域の少なくとも一部に配置される。なお、一種類の幅サイズの用紙しか通紙しない画像形成装置においては、その用紙が通過する通紙領域よりも外側の領域が非通紙領域となる。なお、遮蔽部材31は、長手方向一端部側のみに設けてもよく、特に、用紙が他方端部側のみを通過する端部基準の搬送の場合に適用するとよい。
【0040】
一般的に、このような非通紙領域においては、定着ベルトの熱が用紙によって奪われにくいため、蓄熱される傾向にある。従って、複数枚の用紙が連続的に通紙されて定着処理が行われると、定着ベルトの非通紙領域における蓄熱量が多くなり、定着ベルトの非通紙領域が過剰に温度上昇する虞がある。そのため、本実施形態においては、温度上昇しやすい定着ベルト21の非通紙領域の少なくとも一部に遮蔽部材31を配置し、定着ベルト21の非通紙領域に対する輻射熱の照射を遮蔽することにより、非通紙領域における定着ベルト21の温度上昇を抑制するようにしている。図5においては、遮蔽部材31が定着ベルト21の一方の長手方向端部側に配置されている構成が示されているが、遮蔽部材31は、定着ベルト21の長手方向両端部側のそれぞれに配置されている。
【0041】
温度センサ28は、定着ベルト21の温度を検知する温度検知部材である。本実施形態においては、温度センサ28として、定着ベルト21の外周面に対して非接触に配置される非接触式の温度センサが用いられている。この場合、温度センサ28は、定着ベルト21の外周面近傍の雰囲気温度を定着ベルト21の表面温度として検知する。温度センサ28は、非接触式のセンサに限らず、定着ベルト21に接触して表面温度を検知する接触式のセンサであってもよい。温度センサ28としては、例えば、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ又はNCセンサなどの公知の温度センサを用いることが可能である。
【0042】
本実施形態に係る定着装置20は、次のように動作する。
【0043】
画像形成装置本体に設けられている駆動源の駆動によって加圧ローラ22が図2中の矢印方向へ回転すると、加圧ローラ22の回転に伴って定着ベルト21が従動回転する。また、ヒータ23が発熱し、ヒータ23によって定着ベルト21が加熱される。このとき、温度センサ28によって検知された定着ベルト21の温度に基づいてヒータ23の発熱量が制御されることにより、定着ベルト21の温度が所定の定着温度(画像定着可能な温度)となるように制御される。そして、定着ベルト21の温度が定着温度となった状態において、未定着画像を担持する用紙Pが、定着ベルト21と加圧ローラ22との間(ニップ部N)へ搬送されると、定着ベルト21と加圧ローラ22によって用紙Pが加熱及び加圧され、用紙P上の画像が用紙Pに定着される。
【0044】
ここで、上記のようなニップ形成部材24を備える定着装置においては、定着ベルト21が回転すると、ニップ形成部材24に対して定着ベルト21が摺動することにより、定着ベルト21とニップ形成部材24との間において摺動抵抗が発生する。このときの摺動抵抗を低減するため、定着ベルト21とニップ形成部材24との間には、一般的に、シリコーンオイル又はフッ素グリースなどの潤滑剤が介在するように塗布されている。潤滑剤は、例えば、ニップ形成部材24のベースパッド29と定着ベルト21の内周面との間に配置される摺動シート30(図2参照)に含ませられ、摺動シート30から潤滑剤が染み出すことにより、ニップ形成部材24と定着ベルト21との間に潤滑剤が介在する。
【0045】
また、上記のように、一対のベルト保持部材27によって定着ベルト21を保持する構成においては、定着ベルト21が回転すると、各ベルト保持部材27に対して定着ベルト21が摺動する。このとき、各ベルト保持部材27と定着ベルト21との間においても摺動抵抗が生じるため、その摺動抵抗を低減する目的で、各ベルト保持部材27と定着ベルト21との間においても、上記のような潤滑剤を介在させている。
【0046】
このように、ニップ形成部材24及びベルト保持部材27などの摺動部材を備える構成においては、定着ベルト21の摺動性を向上させるため、一般的に、シリコーンオイル又はフッ素グリースなどの潤滑剤が用いられている。しかしながら、定着装置の温度上昇に伴い潤滑剤の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることにより凝集すると、微粒子及び超微粒子(以下、「FP/UFP」という。)が発生するため、定着装置からFP/UFPが放出される虞がある。
【0047】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、製品から放出されるFP/UFPの発生を抑制する対策が望まれており、画像形成装置においてもFP/UFPの発生が少ない製品の開発が求められている。
【0048】
そこで、本発明者らは、定着装置からのFP/UFPの発生を抑制する対策を検討するにあたって、まず、潤滑剤として用いられるシリコーンオイル及びフッ素グリースの温度上昇と、これらの潤滑剤から生じるFP/UFPの発生濃度(1cmあたりのFP/UFPの発生個数)との関係を調べる試験を行った。その結果を、図16に示す。
【0049】
本試験は、ドイツ環境ラベル「ブルーエンジェルマーク」の認証試験所に設置される試験装置(容積1mで、換気回数5回のチャンバー)内において、潤滑剤を入れたシャーレをホットプレート上に載置して250℃まで加熱し、ホットプレートの温度をモニターしながら、ブルーエンジェル規格において規定される粒径が5.6[nm]~560[nm]のFP/UFPの発生濃度を測定することにより行った。FP/UFPの発生濃度は、粒子計測器FMPS(東京ダイレック社製のモデル3091 Fast Mobility Sizer)を用いて測定した。潤滑剤としては、フッ素グリース:70[mg]と、シリコーンオイル:35[mg]を用いた。図16における実線が、フッ素グリースから生じるFP/UFPの発生濃度を示し、同図中の一点鎖線が、シリコーンオイルから生じるFP/UFPの発生濃度を示す。また、図16においては、横軸にホットプレートの温度が示されているが、ホットプレートの温度上昇と潤滑剤の温度上昇はほぼ同期して変化するため、ここでは、ホットプレートの温度を潤滑剤の温度とみなす。
【0050】
図16に示されるように、実線にて示されるフッ素グリースにおいては、温度が185℃に達したあたりからFP/UFPが発生し始め、温度が195℃を超えたあたりから発生するFP/UFPの濃度が急激に上昇した。一方、一点鎖線にて示されるシリコーンオイルにおいては、温度が200℃に達したあたりからFP/UFPが発生し始め、温度が210℃を超えたあたりから発生するFP/UFPの濃度が急激に上昇した。
【0051】
このように、フッ素グリースにおいては温度が185℃に達するとFP/UFPが発生し、シリコーンオイルにおいては温度が200℃に達するとFP/UFPが発生することから、200℃を超える温度となり得る定着装置においては、潤滑剤からFP/UFPが発生する虞がある。従って、このようなFP/UFPを効果的に低減するには、FP/UFPが発生しやすい部分の温度上昇を抑制することが重要である。
【0052】
しかしながら、これまで、FP/UFPが定着装置のどの部分から多く発生しているかについて特定できていなかった。そのため、本発明者らは、FP/UFPの主な発生源についての鋭意検討を行い、その結果、主にベルト保持部材に付着する潤滑剤から多くのFP/UFPが発生することが分かった。その理由及び発生のメカニズムについて以下説明する。
【0053】
図17は、従来の定着装置を、定着ベルト210の長手方向Xに沿って切断した端部側の断面図である。
【0054】
図17に示されるように、従来の定着装置は、上記本発明の実施形態に係る定着装置と同じように、定着ベルト210の長手方向端部を保持するベルト保持部材270を備えている。また、定着ベルト210の内側には、ヒータ230から放出される輻射熱を反射する反射部材260と、ヒータ230から放出される輻射熱を遮蔽する遮蔽部材310が配置されている。
【0055】
図17中の矢印は、ヒータ230から放出される輻射熱(赤外線)の一部を模式的に示したものである。図17に示されるように、ヒータ230から輻射熱が放出されると、輻射熱の一部はベルト保持部材270に直接照射される。また、輻射熱の一部は、反射部材260及び遮蔽部材310によって反射されることによりベルト保持部材27に間接的に照射される。このため、ベルト保持部材270は、ヒータ230から直接照射される輻射熱と、反射部材260及び遮蔽部材310によって反射される輻射熱によって加熱され温度上昇する。特に、複数の用紙が連続通紙される場合は、非通紙領域となる定着ベルト210の長手方向両端部側の温度上昇が顕著となるため、定着ベルト210の長手方向両端部を保持するベルト保持部材270の温度も定着ベルト210の熱の影響を受けて上昇しやすくなる。
【0056】
ここで、ベルト保持部材270の外周面には、定着ベルト210の摺動抵抗を低減するために潤滑剤が塗布されている。また、ベルト保持部材270の外周面に潤滑剤が積極的に塗布されていない場合であっても、定着ベルトとニップ形成部材との間に介在する潤滑剤が、定着ベルトの回転に伴って流動することにより、ベルト保持部材270の外周面に付着することもある。
【0057】
従って、上記のような定着ベルト210の長手方向両端部側における温度上昇の影響に加え、ヒータ230から直接照射される輻射熱と反射部材260及び遮蔽部材310によって反射される輻射熱の影響により、ベルト保持部材270が温度上昇し、ベルト保持部材270の温度がFP/UFPの発生温度を超えると、ベルト保持部材270に付着する潤滑剤の低分子の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることにより凝集して、FP/UFPが放出される。このように、従来の定着装置においては、ヒータ230から直接照射される輻射熱に加え、反射部材260及び遮蔽部材310によって反射される輻射熱が、ベルト保持部材270の温度上昇を招き、FP/UFPを発生させる要因の1つとなっていた。
【0058】
そこで、図5に示される本発明の実施形態においては、ベルト保持部材27の温度上昇を抑制するため、遮蔽部材31の反射率を、反射部材26の反射率よりも低くしている。さらに、本実施形態においては、遮蔽部材31の反射率を、ベルト保持部材27の反射率よりも低くしている。すなわち、本実施形態において、遮蔽部材31の反射率をRaとし、ベルト保持部材27の反射率をRbとし、反射部材26の反射率をRcとすると、これらの反射率Ra,Rb,Rcは、Ra<Rb<Rcの関係を満たすように設定されている。なお、この反射率の関係は、定着ベルト21の長手方向両端側に配置される各遮蔽部材31とベルト保持部材27及び反射部材26との間において成立する。
【0059】
ここで、遮蔽部材31、ベルト保持部材27、反射部材26のそれぞれの反射率とは、これらの部材においてヒータ23からの輻射熱が照射される部分の反射率を意味する。具体的に、本実施形態においては、図5に示される遮蔽部材31のヒータ23に対向する面311、反射部材26のヒータ23に対向する面261、及び、ベルト保持部材27の内周面271が、輻射熱が照射される面である。また、本明細書における反射率とは、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視赤外分光光度計UH4150)を用いて、入射角を5°として測定した反射率をいう。
【0060】
このように、本実施形態においては、定着ベルト21と隙間がある端部側の遮蔽部材31の反射率が反射部材26よりも低く設定されているため、反射部材26から定着ベルト21の長手方向中央部側への輻射熱を確保しつつ、遮蔽部材31によって反射される輻射熱を低減できる。これにより、端部側のベルト保持部材27の内周面などに照射(放射)される輻射熱を少なくできるので、ベルト保持部材27の反射部材26側から定着ベルト21側への熱伝導が少なくなり、また遮蔽部材31の一部の熱が隙間の空気により対流して定着ベルト21に伝達され、その熱がベルト保持部材27に伝導されても、ベルト保持部材27の温度上昇を抑制できるようになる。
【0061】
加熱源として用いられるハロゲンヒータは、用途により色温度が異なるが、定着装置の加熱用としては一般的に色温度が2500K程度のものが用いられる。このため、上記のような遮蔽部材31、ベルト保持部材27、反射部材26のそれぞれの反射率の関係は、発光強度の高いハロゲンヒータの波長域、具体的には900~1600nmの波長、より好ましくは1000~1300nmの波長に対する反射率の関係であることが好ましい。
【0062】
また、遮蔽部材31の反射率は低いほど、輻射熱の反射をより一層少なくできる。遮蔽部材31による輻射熱の反射を低減し、ベルト保持部材27の温度上昇を効果的に抑制するには、遮蔽部材31の反射率とベルト保持部材27の反射率との差が10%以上であることが好ましい。
【0063】
遮蔽部材31の反射率を低くする方法としては、例えば、図6に示されるように、遮蔽部材31の輻射熱が照射される面(ヒータ23に対向する面311)を、黒色の材料又は塗料から成る黒色表面層32によって構成する方法がある。また、別の方法として、遮蔽部材31の輻射熱が照射される面の表面粗さを、反射部材26又はベルト保持部材27の輻射熱が照射される面の表面粗さよりも大きく(粗く)する方法がある。
【0064】
一方、ベルト保持部材27は、温度上昇を抑制するため、遮蔽部材31とは反対に反射率が高いことが好ましい。このため、本実施形態においては、ベルト保持部材27の反射率を遮蔽部材31の反射率よりも高くしている。
【0065】
例えば、ベルト保持部材27が比較的反射率の低い樹脂材料により構成される場合は、図7に示されるように、ベルト保持部材27を構成する樹脂基材36の内周面に、樹脂よりも反射率が高い金属層34を設けることより、ベルト保持部材27の内周面271(輻射熱が照射される面)の反射率を向上させることができる。なお、ベルト保持部材27の反射率は、遮蔽部材31の反射率よりも高い場合に限らず、同じか、あるいは低い場合であってもよい。
【0066】
上記のように、本実施形態においては、遮蔽部材31の反射率を低くすることにより、ベルト保持部材27へ反射する輻射熱を少なくできるが、一方で、遮蔽部材31によって吸収される熱量が多くなる。このため、遮蔽部材31が温度上昇しやすくなることが予想される。一般的に、遮蔽部材は耐熱性を有する材料により構成されるが、遮蔽部材の温度がその耐熱温度を超えないように対策しておくことが好ましい。
【0067】
例えば、図8に示される例のように、遮蔽部材31に熱伝導性の良い伝熱部材35を設け、伝熱部材35が定着ベルト21の内周面、好ましくは遮蔽部材31より長手方向中央部側の内周面に接触するようにしてもよい。この場合、伝熱部材35を介して遮蔽部材31が定着ベルト21の内周面に間接的に接触し、遮蔽部材31の熱が伝熱部材35を介して定着ベルト21へ移動するため、遮蔽部材31の温度上昇を抑制できる。また、この場合、遮蔽部材31の熱を定着ベルト21の加熱エネルギーとして有効活用できるため、省エネ効果も期待できる。伝熱部材35としては、定着ベルト21の内周面を傷つけないように、熱伝導性を有するフェルト、あるいは、金属製のブラシなどの可撓性を有する部材であることが好ましい。また、遮蔽部材31が熱伝導性の良い材料によって構成されている場合は、遮蔽部材31を定着ベルト21の内周面に直接接触させてもよい。
【0068】
また、図9に示されるように、遮蔽部材31の温度上昇を抑制するため、遮蔽部材31をニップ形成部材24に接触させてもよい。図9に示される例においては、遮蔽部材31が、ニップ形成部材24を構成するベースパッド29のニップ部N側の面29aとこれに対向する摺動シート30の対向面30aとの間に介在すると共に、そのベースパッド29のニップN側の面29a及び摺動シート30の対向面30aに接触している。この場合、遮蔽部材31の熱がニップ形成部材24へ移動することにより、遮蔽部材31の温度上昇が抑制されると共に、ニップ形成部材24を介して遮蔽部材31の熱を定着ベルト21へ供給でき、遮蔽部材31の熱を用紙に画像を定着させるための熱として有効活用できる。
【0069】
また、図10に示されるように、遮蔽部材31は、摺動シート30をベースパッド29の側面29b(ベースパッド29のニップ部N側の面29aと交差する面)又は裏面29c(ベースパッド29のニップ部N側の面29aとは反対側の面)で固定するために、摺動シート30を通す複数の孔部31aを有していてもよい。摺動シート30がこれらの孔部31aを通ってベースパッド29のニップ部N側の面29aから側面29b又は裏面29cへ配置されることにより、摺動シート30をベースパッド29の側面29b又は裏面29cで固定できる。
【0070】
以上のように、本発明の実施形態に係る定着装置においては、遮蔽部材の反射率が低く設定されていることにより、ベルト保持部材へ反射される輻射熱が少なくなるので、ベルト保持部材の温度上昇を抑制できる。これにより、ベルト保持部材に付着する潤滑剤の温度上昇を抑制できるようになり、潤滑剤の低分子の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることによる凝集に伴うFP/UFPの発生を低減できるようになる。
【0071】
具体的には、連続プリント10分間中におけるベルト保持部材の温度を、シリコーンオイル由来のFP/UFPが急増する温度である210℃以下にできれば(図16中の一点鎖線のグラフ参照)、シリコーンオイルから生じるFP/UFPの発生を低減できるようになる。また、シリコーンオイルから発生するFP/UFPの発生をより効果的に低減するには、連続プリント10分間中におけるベルト保持部材の温度を200℃以下に抑制することが好ましい。
【0072】
さらに、連続プリント10分間中におけるベルト保持部材の温度を、フッ素グリース由来のFP/UFPが急増する温度である195℃以下にできれば(図16中の実線のグラフ参照)、シリコーンオイルに加えフッ素グリースから生じるFP/UFPの発生も低減できるようになる。また、フッ素グリースから発生するFP/UFPの発生をより効果的に低減するには、連続プリント10分間中におけるベルト保持部材の温度を185℃以下に抑制することが好ましい。
【0073】
なお、上記「連続プリント10分間中におけるベルト保持部材の温度」とは、次の手順により測定されたベルト保持部材の温度を意味する。温度測定の手順は、まず、定着装置(加熱装置)が搭載される画像形成装置を、23℃環境の測定室に設置し、画像形成装置の電源を投入して立ち上げた後に、画像形成装置が省エネ状態に移行してから測定室のドアを閉じる。その後、測定室が十分に換気される時間(例えば、60分)経過してから印刷指示を行う。そして、1枚目の用紙が排出された時点を印刷開始として10分間のベルト保持部材の温度を測定する。
【0074】
また、FP/UFPの発生原因となるベルト保持部材の温度上昇は、単位時間あたりの通紙枚数が多い画像形成装置ほど顕著になるので、本発明は、特に通紙枚数が多い画像形成装置に適用された場合に、大きな効果を期待できる。プリント速度とFP/UFPの発生個数との関係を示す図11によれば、連続プリント10分間中に定着装置から発生するFP/UFPの個数は、プリント速度が50ppm(Page Par Minutes)を超えたあたりから特に多くなる。従って、本発明は、プリント速度が50ppm以上の定着装置又は画像形成装置に適用された場合に、より大きな効果を期待できる。
【0075】
上記各実施形態においては、FP/UFPが発生する物質として、フッ素グリースとシリコーンオイルを用いる場合を例に挙げているが、本発明は、フッ素グリース又はシリコーンオイル以外の液状又は半固体状の潤滑性物質(潤滑性を有する物質)が用いられる場合にも適用可能である。なお、本発明において、潤滑性物質(潤滑性を有する物質)とは、部品と部品の間に介在することで、それら部品間の摩擦抵抗を減少させる物質のことを指す。フッ素グリース及びシリコーンオイル以外の液状又は半固体状の潤滑性物質が定着装置内に収容されている場合であっても、本発明によれば、ベルト保持部材の温度上昇を抑制でき、ベルト保持部材に付着する潤滑性物質の温度上昇も抑制できるため、FP/UFPの発生を効果的に抑制することが可能である。
【0076】
また、本発明は、上記のような構成の定着装置に限らず、種々の構成の定着装置にも適用可能である。以下に、本発明を適用可能な定着装置の構成をいくつか例示する。
【0077】
図12及び図13に示される定着装置60は、上記図2図5に示される定着装置20と同じように、加熱源としてハロゲンヒータ(ヒータ63)を備える定着装置である。具体的に、図12及び図13に示される定着装置60は、定着ベルト61と、加圧ローラ62と、ヒータ63と、ニップ形成部材64と、ステー65と、反射部材66と、ベルト保持部材67(図13参照)と、摺動リング68(図13参照)と、遮蔽部材69を備えている。
【0078】
図12及び図13に示される定着ベルト61、加圧ローラ62、ヒータ63、ニップ形成部材64、ステー65、反射部材66、ベルト保持部材67、遮蔽部材69のそれぞれの機能及び構成は、図2図5に示される定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、ステー25、反射部材26、ベルト保持部材27、遮蔽部材31と基本的に同じである。なお、ニップ形成部材64は、金属製のベースパッド640と、ベースパッド640と定着ベルト61の内周面との間に介在するフッ素樹脂製の摺動シート641を有している。
【0079】
摺動リング68は、定着ベルト61内に挿入されるベルト保持部材67の挿入部67aの外周面に装着され、定着ベルト61の長手方向端縁とベルト保持部材67の規制部67bとの間に介在する。定着ベルト61が回転すると、定着ベルト61と一緒に摺動リング68が連れ回りする、あるいは、定着ベルト61が低摩擦性の摺動リング68に対して摺動することにより、定着ベルト61とベルト保持部材67との間において生じる摺動抵抗が低減される。
【0080】
このように、図12及び図13に示される定着装置60においては、ヒータ63から放出される輻射熱を反射する反射部材66に加え遮蔽部材69が設けられているので、反射部材66及び遮蔽部材69によって反射される輻射熱がベルト保持部材67に照射されると、ベルト保持部材67が温度上昇する。その結果、ベルト保持部材67に付着する潤滑剤が温度上昇し、潤滑剤の低分子の一部の成分が揮発し、大気で冷やされることにより凝集し、FP/UFPが発生する虞がある。そのため、この定着装置60においても、遮蔽部材69の反射率を反射部材66の反射率よりも低くすることが好ましい。これにより、ベルト保持部材67に照射される輻射熱を少なくすることができ、ベルト保持部材67の温度上昇を抑制できるので、FP/UFPの発生を低減できるようになる。
【0081】
続いて、図14及び図15に示される定着装置70は、上記図2図5に示される定着装置20と同じように、加熱源としてハロゲンヒータ(ヒータ73)を備える定着装置である。具体的に、図14及び図15に示される定着装置70は、定着ベルト71と、加圧ローラ72と、ヒータ73と、ニップ形成部材74と、反射部材76と、ベルト保持部材77(図15参照)と、遮蔽部材75と、温度センサ78(図14参照)と、ガイド部材79を備えている。
【0082】
図14及び図15に示される定着ベルト71、加圧ローラ72、ヒータ73、ニップ形成部材74、反射部材76、ベルト保持部材77、遮蔽部材75、温度センサ78は、図2図5に示される定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、反射部材26、ベルト保持部材27、遮蔽部材31、温度センサ28と基本的に同じ機能を有する。
【0083】
ただし、図14及び図15に示される反射部材76は、ヒータ73から放出される輻射熱(赤外線)を定着ベルト71ではなく、主にニップ形成部材74に反射する。反射部材76は、ヒータ73の外側を覆うように断面U字形に形成されており、反射部材76のヒータ73と対向する内側の面76aが反射率の高い反射面となっている。このため、ヒータ73から輻射熱が放出されると、輻射熱が反射部材76の反射面76aによってニップ形成部材74へ反射される。
【0084】
これにより、ニップ形成部材74は、ヒータ73からニップ形成部材74に向かって放出される輻射熱と、反射部材76によってニップ形成部材74へ反射される輻射熱によって加熱される。そして、ニップ形成部材74の熱は、ニップ部Nにおいて定着ベルト21へ伝達される。すなわち、この場合、ニップ形成部材74は、ニップ部Nを形成するほか、ニップ部Nにおいて熱を定着ベルト71へ伝達する伝熱部材としても機能する。このため、ニップ形成部材74は、熱伝導率の良い銅又はアルミニウムなどの金属材料によって構成されている。
【0085】
また、反射部材76は、ニップ形成部材74を支持する支持部材(ステー)としての機能も兼ねる。反射部材76が、定着ベルト71の長手方向に渡ってニップ形成部材74を支持することにより、ニップ形成部材74の撓みが抑制され、定着ベルト71と加圧ローラ72との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。反射部材76は、支持部材としての機能を確保するため、SUS、SECCなどの剛性の高い金属材料により構成されることが好ましい。
【0086】
ガイド部材79は、定着ベルト71の内側に配置され、回転する定着ベルト71を内側からガイドする部材である。ガイド部材79は、定着ベルト71の内周面に沿って湾曲するガイド面79aを有しており、定着ベルト71がこのガイド面79aに沿ってガイドされることにより、定着ベルト71が大きな変形を伴うことなく円滑に回転する。
【0087】
このように、図14及び図15に示される定着装置70も、ヒータ73から放出される輻射熱を反射する反射部材76に加え遮蔽部材75を備えているので、反射部材76及び遮蔽部材75によって反射される輻射熱がベルト保持部材77に照射されると、ベルト保持部材77が温度上昇し、ベルト保持部材77に付着する潤滑剤からFP/UFPが発生する虞がある。そのため、この定着装置70においても、遮蔽部材75の反射率を反射部材76の反射率よりも低くすることが好ましい。これにより、ベルト保持部材77に照射される輻射熱を少なくすることができ、ベルト保持部材77の温度上昇を抑制できるので、FP/UFPの発生を低減できるようになる。
【0088】
また、本発明は、上記のような電子写真方式の画像形成装置に搭載される定着装置に適用される場合に限らない。例えば、本発明は、インクジェット方式の画像形成装置に搭載され、用紙に塗布されたインクなどの液体を乾燥させる乾燥装置など、定着装置以外の加熱装置に対しても適用可能である。
【0089】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の構成を備える加熱装置、定着装置、画像形成装置が含まれる。
【0090】
[第1の構成]
第1の構成は、回転可能に保持される回転体と、前記回転体を加熱する加熱源と、前記加熱源から放出される輻射熱を反射する反射部材と、前記回転体の長手方向中央部よりも長手方向端部側に配置され前記加熱源と前記回転体との間において前記加熱源から放出される輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、前記回転体の長手方向端部を保持する回転体保持部材と、前記回転体保持部材に付着する液状又は半固体状の潤滑性を有する物質とを備え、前記遮蔽部材の反射率は前記反射部材の反射率よりも低い加熱装置である。
【0091】
[第2の構成]
第2の構成は、前記第1の構成において、前記回転体保持部材の反射率は前記反射部材の反射率よりも低く、前記遮蔽部材の反射率は前記回転体保持部材の反射率よりも低い加熱装置である。
【0092】
[第3の構成]
第3の構成は、前記第2の構成において、前記遮蔽部材の反射率と前記回転体保持部材の反射率との差が10%以上の加熱装置である。
【0093】
[第4の構成]
第4の構成は、前記第1から第3のいずれか1つの構成において、前記反射率を、前記輻射熱の波長域に対する反射率とする加熱装置である。
【0094】
[第5の構成]
第5の構成は、前記第1から第4のいずれか1つの構成において、前記遮蔽部材は前記回転体に接触する加熱装置である。
【0095】
[第6の構成]
第6の構成は、前記第1から第4のいずれか1つの構成において、前記回転体の内側に配置され、前記回転体の外周面に接触する対向部材との間にニップ部を形成するニップ形成部材を備え、前記遮蔽部材は前記ニップ形成部材に接触する加熱装置である。
【0096】
[第7の構成]
第7の構成は、前記第1から第6のいずれか1つの構成において、前記遮蔽部材の前記輻射熱が照射される面が黒色の加熱装置である。
【0097】
[第8の構成]
第8の構成は、前記第1から第7のいずれか1つの構成において、前記回転体保持部材の前記輻射熱が照射される面が金属により構成される加熱装置である。
【0098】
[第9の構成]
第9の構成は、前記第1から第8のいずれか1つの構成において、前記遮蔽部材の前記輻射熱が照射される面の表面粗さが、前記反射部材又は前記回転体保持部材の前記輻射熱が照射される面の表面粗さよりも大きい加熱装置である。
【0099】
[第10の構成]
第10の構成は、前記第1から第9のいずれか1つの構成において、前記潤滑性を有する物質は、シリコーンオイル及びフッ素グリースの少なくとも1つを含む加熱装置である。
【0100】
[第11の構成]
第11の構成は、前記第1から第10のいずれか1つの構成の加熱装置を用いて未定着画像を担持する記録媒体を加熱し、前記未定着画像を前記記録媒体に定着させる定着装置である。
【0101】
[第12の構成]
第12の構成は、前記第1から第10のいずれか1つの構成の加熱装置、又は前記第11の構成の定着装置を備える画像形成装置である。
【符号の説明】
【0102】
20 定着装置(加熱装置)
21 定着ベルト(第一回転体)
22 加圧ローラ(第二回転体)
23 ヒータ(加熱源)
24 ニップ形成部材
26 反射部材
27 ベルト保持部材(回転体保持部材)
31 遮蔽部材
100 画像形成装置
N ニップ部
X 長手方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0103】
【特許文献1】特開2010-26058号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17