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  • 特開-希土類遷移金属合金粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138344
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】希土類遷移金属合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/20 20060101AFI20230922BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20230922BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230922BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20230922BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20230922BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B22F9/20 A
C22C1/04 F
B22F1/00 Y
H01F1/057 130
H01F1/059 160
H01F1/06 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016361
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022044172
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 一茂
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017CA01
4K017DA02
4K017EA08
4K017EH01
4K017EH18
4K017FB03
4K017FB08
4K017FB10
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC09
4K018BC29
4K018BD01
4K018DA11
4K018KA42
5E040AA03
5E040CA01
5E040HB17
(57)【要約】
【課題】酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;少なくとも、希土類金属、遷移金属成分及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、前記反応生成物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、前記洗浄処理の際、前記反応生成物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーに酸洗浄処理を施し、さらに酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えるキレート化処理を施す、方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、
前記反応生成物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、
前記洗浄処理の際、前記反応生成物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーに酸洗浄処理を施し、さらに酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えるキレート化処理を施す、方法。
【請求項2】
前記還元工程が、少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程、及び非酸化性雰囲気下で前記混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに前記遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金成分と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キレート形成剤が、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合金粉末スラリー中のキレート形成剤の含有量が、前記合金粉末スラリーに含まれる希土類イオンと遷移金属イオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.0~5.0倍量である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄処理の前に、前記反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕する水素処理工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記キレート化処理を施した合金粉末スラリーに水洗浄処理を施す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記希土類遷移金属合金粉末の酸素量が0.16質量%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記希土類遷移金属合金粉末が、SmFe17系合金粉末又はSmFe17系合金粉末である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記還元工程、水素処理工程、窒化工程、及び前記湿式処理工程をこの順に含み、
前記水素処理工程では、前記還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕し、
前記窒化工程では、前記水素処理工程で解砕した反応生成物を加熱しながら、前記反応生成物に窒素を含有する混合気流を流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化し、
前記湿式処理工程では、前記窒化工程で窒化した反応生成物に洗浄処理を施す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記還元工程、水素処理工程、前記湿式処理工程、及び窒化工程をこの順に含み、
前記水素処理工程では、前記還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕し、
前記湿式処理工程では、前記水素処理工程で解砕した反応生成物に洗浄処理を施し、
前記窒化工程では、前記湿式処理工程で洗浄処理を施した反応生成物を加熱しながら、前記反応生成物に窒素を含有する混合気流を流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化する、請求項1又は2に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類遷移金属合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属とを主として含む合金粉末である。希土類遷移金属合金粉末、特に金属間化合物粉末は、永久磁石材料、水素吸蔵材料、光磁気記録材料、磁気冷凍材料など様々な用途で多用されている。例えば、SmFe17系合金粉末を窒化したSmFe17系合金粉末、NdFe14B系合金粉末、SmCo系合金粉末、SmCo17系合金粉末、及びPrCo系合金粉末は、磁化及び一軸磁気異方性が大きく、永久磁石用材料として有用である。またLaNi系合金粉末は多量の水素を吸収及び保持する特徴があり、水素吸蔵材料として用いられている。(Tb、Gd)-(Fe、Ni、Co)系合金粉末は、これを用いて薄膜形成することで光磁気記録媒体の記録層を成膜することができる。さらにLa(Fe、Si)13系合金粉末やこれを水素化したLa(Fe、Si)13系合金粉末は、優れた磁気熱量効果を示し、磁気冷凍材料として有望視されている。希土類遷移金属合金粉末は、これを粉末冶金的に焼結して作製した焼結体、あるいは樹脂バインダーと混錬して作製した複合体の形態で主として使用される。
【0003】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法として、溶解鋳造法や還元拡散法などの手法が従来から知られている。このうち、溶解鋳造法は、希土類金属と遷移金属を原料とし、これら原料を調合した後に不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた合金インゴットを熱処理して均一化した後に粉砕する手法である。
【0004】
一方で、還元拡散法は、例えば、希土類酸化物と遷移金属を原料とし、これら原料を、金属カルシウムなどの還元剤とともに混合した後に非酸化性ガス雰囲気中で加熱処理して希土類遷移金属合金を得る手法である。加熱処理の際に、希土類酸化物が還元されて希土類金属になり、この希土類金属が遷移金属中に拡散して合金(金属間化合物)を形成する。加熱処理により得られた塊状反応生成物には、目的とする合金とともに、還元剤由来の副生物が残留する。そのため反応生成物を水中に投入して、還元剤由来成生物を除去するとともに、反応生成物を崩壊させて粉化する。さらに粉化して得た合金粉末に酸洗浄及び水洗浄を施して余剰副生物や未反応物を除去し、さらに乾燥して、目的とする合金粉末を得る。
【0005】
還元拡散法は、安価な希土類酸化物等を原料に用いることができるとともに工程が簡易であり、溶解鋳造法に比べて低コストで合金粉末を製造可能という利点がある。さらに還元拡散法により得られた合金粉末を窒化することで、窒化物たる希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能である。
【0006】
特許文献1は還元拡散法による希土類遷移金属合金粉末の製造方法を開示している。具体的には、希土類酸化物粉末と、他の金属の粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種との混合物を、不活性ガス雰囲気中または真空下で加熱した後、反応生成混合物を湿式処理して副生したCaOおよび残留Caを除去することからなる希土類金属を含む合金粉末の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-295308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
還元拡散法では、粉化して得た合金粉末に酸洗浄を施して余剰成分を除去する。酸洗浄では希酢酸や希塩酸が使用され、合金粉末を含むスラリーのpHを下げることで、残留した還元剤由来の副生物(カルシウム化合物等)を十分に除去するとともに、目的とする合金(金属間化合物)以外の希土類リッチな副相を溶解除去する。例えば、永久磁石材料であるSmFe17の母合金であるSmFe17合金粉末製造の場合には、還元拡散処理後の塊状反応生成物には、目的とする金属間化合物たるSmFe17相以外に、SmFe相やSmFe相などのSmリッチな副相が含まれる。これらの副相は磁石特性を劣化させるため、酸洗浄処理での除去を図っている。
【0009】
ところで酸洗浄中に合金粉末に含まれる希土類金属や遷移金属は、その一部が希土類イオン(Smイオン)や遷移金属イオン(Feイオン)となってスラリー中に溶出し、その一部は酸洗浄後にも残存する。残存したこれらのイオンは後続する処理(水洗処理、乾燥処理等)の際に酸化及び水酸化して希土類金属や遷移金属の水酸化物となる。生成した希土類金属や遷移金属の水酸化物は、主相合金(SmFe17等)粒子の表面に析出し、その酸素濃度を高めてしまう。酸素濃度が高められると、合金粉末の特性が劣化するため望ましくない。例えば、SmFe17合金粉末を窒化してSmFe17合金粉末を製造する場合には、酸素濃度の高いSmFe17合金粉末に窒化処理を施しても、窒素の拡散が不均一となり、高品質なSmFe17を得ることが困難になる。したがって溶出した希土類イオンや遷移金属イオンによる水酸化物生成を抑制することが望まれる。
【0010】
本発明者らは、このような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、酸洗浄中に溶出した希土類イオンや遷移金属イオンをキレート化することで水酸化物の生成を抑制でき、その結果、酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能になるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、
前記反応生成物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、
前記洗浄処理の際、前記反応生成物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーに酸洗浄処理を施し、さらに酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えるキレート化処理を施す、方法。
【0014】
(2)前記還元工程が、少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程、及び非酸化性雰囲気下で前記混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに前記遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金成分と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程である、上記(1)の方法。
【0015】
(3)前記キレート形成剤が、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)又は(2)の方法。
【0016】
(4)前記合金粉末スラリー中のキレート形成剤の含有量が、前記合金粉末スラリーに含まれる希土類イオンと遷移金属イオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.0~5.0倍量である、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
【0017】
(5)前記洗浄処理の前に、前記反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕する水素処理工程をさらに含む、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
【0018】
(6)前記キレート化処理を施した合金粉末スラリーに水洗浄処理を施す、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【0019】
(7)前記希土類遷移金属合金粉末の酸素量が0.16質量%以下である、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【0020】
(8)前記希土類遷移金属合金粉末が、SmFe17系合金粉末又はSmFe17系合金粉末である、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0021】
(9)前記還元工程、水素処理工程、窒化工程、及び前記湿式処理工程をこの順に含み、
前記水素処理工程では、前記還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕し、
前記窒化工程では、前記水素処理工程で解砕した反応生成物を加熱しながら、前記反応生成物に窒素を含有する混合気流を流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化し、
前記湿式処理工程では、前記窒化工程で窒化した反応生成物に洗浄処理を施す、上記(1)~(8)のいずれかの方法。
【0022】
(10)前記還元工程、水素処理工程、前記湿式処理工程、及び窒化工程をこの順に含み、
前記水素処理工程では、前記還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕し、
前記湿式処理工程では、前記水素処理工程で解砕した反応生成物に洗浄処理を施し、
前記窒化工程では、前記湿式処理工程で洗浄処理を施した反応生成物を加熱しながら、前記反応生成物に窒素を含有する混合気流を流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化する、上記(1)~(8)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1のSmFe17合金粉末についてのXPS深さ方向分析の結果を示す。
図2】比較例1のSmFe17合金粉末についてのXPS深さ方向分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0026】
<<希土類遷移金属合金粉末の製造方法>>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末(以下、単に「合金粉末」と呼ぶ場合がある)の製造方法は、以下の工程;少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、得られた反応生成物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含む。また、洗浄処理の際、反応生成物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーに酸洗浄処理を施し、さらに酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えるキレート化処理を施す。各工程について以下に詳細に説明する。
【0027】
<希土類遷移金属合金粉末>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属(R)と遷移金属(TM)とを含む合金で構成される粉末である。ここで希土類金属(R)は、周期律表において原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する金属(元素)の総称である。また遷移金属(TM)は、周期律表第3族元素から第11族元素の間にある金属(元素)の総称である。さらに合金は、固溶体のみならず共晶体や金属間化合物を含む概念である。金属間化合物として、CaCu型、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型、ThMn12型、NaZn13型、NdFe14B型、MgCu型などの結晶構造を有する化合物が例示される。
【0028】
希土類金属(R)は、特に限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。また希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属及び遷移金属のみを含んでもよく、あるいは結晶構造安定化や特性向上を目的とする他の成分を含んでもよい。例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、イオウ(S)、ほう素(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び/又は水素(H)を含んでもよい。さらに還元剤として使用されるアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの水素化物に起因する成分、例えばカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)が合金粉末中に残留することがある。所望の特性が得られる限り、これらの残留は許容される。
【0029】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属を主として含む合金である限り、その組成は限定されない。例えば、SmFe17やこれを窒化したSmFe17、NdFe14B、SmCo、SmCo17、及びPrCoなどの永久磁石用材料が挙げられる。LaNiや(Tb、Gd)-(Fe、Ni、Co)などの水素吸蔵材料や光磁気記録材料であってもよい。La(Fe、Si)13やこれを水素化したLa(Fe、Si)13などの磁気冷凍材料であってもよい。好適には、希土類遷移金属合金粉末は、SmFe17系合金粉末又はSmFe17系合金粉末である。ここで、SmFe17系合金粉末又はSmFe17系合金粉末は、SmFe17やSmFe17のみならず、これら化合物の一部の金属をマンガン(Mn)やコバルト(Co)などの他の金属で置換した粉末を包含する。これらの合金粉末は、高特性の永久磁石材料、及びその母合金材料として有用である。なお希土類遷移金属合金粉末中の希土類金属の含有量は、限定される訳ではないが、典型的には10質量%以上60質量%以下である。また希土類遷移金属合金粉末の平均粒径は、限定される訳ではないが、典型的には1.0μm以上100μm以下である。
【0030】
<還元工程>
還元工程では、少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施す。合金原料は、少なくとも希土類金属、遷移金属及び酸素を構成元素として含んでいればよい。加熱処理の際、還元剤の作用により、合金原料中の酸素が除去され、それに伴い、希土類金属が遷移金属に拡散して合金化する。そして、それにより、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物が得られる。
【0031】
好ましくは、合金原料は希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である。すなわち、還元工程が、少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程(原料混合工程)、及び非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金成分と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程(還元拡散工程)である。
【0032】
合金原料が希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である場合についての製造手順を、以下に詳細に説明する。
【0033】
(希土類酸化物粉末)
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末を構成する希土類元素の原料である。限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも一種の希土類金属の酸化物粉末が好ましい。希土類酸化物粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0034】
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末やサマリウムコバルト(SmCo、SmCo17)系合金粉末を製造する場合には、酸化サマリウム(Sm)を選択すればよい。またネオジム鉄ホウ素(NdFe14B)系合金粉末を製造する場合には、酸化ネオジム(Nd)を選択すればよい。
【0035】
希土類酸化物粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、得られる混合物において遷移金属粒子の近傍に均一分布するように希土類酸化物粉末の粒径を決めることが望ましい。希土類酸化物粉末の平均粒径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。特に粒径0.1~10μmの粒子が全体の80質量%以上占める粉末が好ましい。これにより、原料混合性が向上するとともに、原料粉末や反応生成物の取り扱い性が向上する。また後続する還元拡散工程での希土類金属の拡散を十分に進行させることが可能になる。希土類酸化物粉末は水分や有機物を不純物として含む場合がある。これらの不純物は、最終的に得られる合金粉末の酸素量を増大させることがある。したがって希土類酸化物粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0036】
希土類酸化物粉末の配合量は、目的組成の合金粉末を形成する上で必要とされる量(当量)の1.0~1.5倍が好ましく、1.05~1.2倍がより好ましい。例えば、サマリウム鉄(SmFe17)系合金粉末やサマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、酸化サマリウム(Sm)の配合量は、化学量論組成(SmFe17)で必要とされる量の1.0~1.5倍が好ましい。希土類酸化物の配合量を、当量の1.0倍以上とすることで、遷移金属粉末への希土類金属(希土類元素)の拡散が十分となり、最終的に得られる合金粉末に求められる特性を十分に付与することが可能になる。一方で当量の1.5倍以下とすることで、希土類リッチな異相形成を抑制することができる。
【0037】
(遷移金属粉末)
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末を構成する遷移金属の原料である。限定されるものではないが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上が好ましい。遷移金属粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0038】
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末やネオジム鉄ホウ素(NdFe14B)系合金粉末を製造する場合には、鉄(Fe)粉を選択すればよい。鉄粉として、還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉及び/又は電解鉄粉などを使用できる。またサマリウムコバルト(SmCo、SmCo17)系合金粉末を製造する場合には、コバルト(Co)粉を選択すればよい。遷移金属粉末が、鉄(Fe)、コバルト(Co)粉、ニッケル又は(Ni)粉である場合には、例えば、還元粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、電解粉、カルボニル粉などを使用することができる。
【0039】
遷移金属粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、遷移金属粉末の粒径が過度に大きいと、後続する還元拡散工程で希土類金属の拡散が内部にまで十分に進行せず、未合金化相が残存することがある。遷移金属粉末の平均粒径は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。また粒径1~100μmの粒子が全体の70質量%以上を占める粉末が好ましい。これにより原料粉末や反応生成物の取り扱い性が向上する。また後続する還元拡散工程での希土類金属の拡散を十分に進行させることが可能になる。さらに遷移金属粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0040】
遷移金属粉末の20質量%までを、遷移金属の酸化物粉末で置き換えてもよい。これにより、後続する還元拡散反応の発熱量を調整することもできる。また遷移金属粉末は合金粉末であってもよい。
【0041】
さらに遷移金属粉末の他に、結晶構造の安定化や特性向上を目的とする添加成分を加えてもよい。添加成分は、それ単独、または酸化物など化合物の形態で加えてもよい。あるいは、予め、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などの遷移金属と合金化した粉末として加えてもよい。単独の金属粉末または酸化物粉末を用いる場合には、粒径20μm以下の粒子が全体の80質量%以上を占める粉末を用いることが好ましく、粒径10μm以下の粒子が全体の80質量%以上を占める粉末を用いることがより好ましい。酸化物粉末を用いる場合には、後続する還元拡散加熱処理時での昇温過程で分解しない粉末を選択するのが好ましい。昇温中に分解すると還元剤を失活させて還元拡散反応が起こりにくくなるからである。予め遷移金属と合金化した粉末を用いる場合には、粒径0.1~10μmの粒子が全体の80%以上を占める粉末を用いることが好ましい。また希土類金属と遷移金属、必要に応じて混合する添加成分の混合酸化物粉末を用いてもよい。この混合酸化物粉末は、塩を出発原料とした共沈生成物を大気焼成した後に機械粉砕し、得られた粉末を水素あるいは炭素還元して作製することができる。
【0042】
(還元剤)
還元剤は、後続する還元拡散工程で、希土類酸化物粉末などの酸化物成分を還元して合金形成を促すために加えられる。還元剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種を使用する。具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びこれらの水素化物からなる群から選択される1種以上が好ましい。取り扱い時の安全性及びコストの観点から、リチウム(Li)及び/又はカルシウム(Ca)がより好ましく、カルシウム(Ca)が特に好ましい。この中でも、目開き4.00mm以下に篩分級した粒状金属カルシウム(Ca)が最も好ましい。
【0043】
還元剤は他の原料粉末と混合して使用してもよい。あるいは、還元剤(Ca等)の蒸気が他の原料粉末と接触しうるよう分離しておいてもよい。還元剤を他の原料粉末と混合して用いれば、還元拡散反応後に多孔質状の反応生成物を得ることができる。還元剤の添加量は、混合物中の酸化物を還元するのに必要な量(当量)に対して1.05~2.0倍量が好ましく、1.1~1.5倍量がより好ましい。還元剤量がこの範囲内であれば、得られる反応生成物中の未反応物や副生成物量を最小限に留めつつ、還元反応を十分に進行させることが可能になる。
【0044】
(その他の成分)
必要に応じて、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤以外の他の成分を加えてもよい。例えば希土類金属粉末及び/又は遷移金属酸化物粉末を加えてもよい。また希土類金属と遷移金属の合金粉末やその酸化物粉末を加えてもよい。さらに希土類金属と遷移金属以外の成分を含む合金粉末を製造する場合には、他の成分の原料を加えてもよい。例えば、永久磁石材料であるNdFe14B合金粉末を製造するために、硼素(B)や酸化硼素(B)などの硼素源を加えてもよい。磁気冷凍材料であるLa(Fe、Si)13合金粉末を製造するために、ケイ素(Si)や酸化ケイ素(SiO)などのケイ素源を加えてもよい。
【0045】
さらに合金粉末製造を容易にするための補助添加剤を加えてもよい。補助添加剤として、後の湿式処理工程で、反応生成物の崩壊を促進させる崩壊促進剤が例示される。崩壊促進剤として、塩化カルシウム(CaCl)や酸化カルシウム(CaO)などのアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属酸化物を用いることができる。崩壊促進剤はその他の原料粉末と同時に均一に混合することが望ましい。これにより、反応生成物の合金結晶の粒界に崩壊促進剤由来の成分(カルシウム化合物等)を均一に存在させることができる。そのため、後続する湿式処理工程でスラリー化する際に崩壊促進剤由来成分が水溶液中に溶出して、崩壊が効果的に促進される。崩壊促進剤の添加量は、混合物中の酸化物の合計量に対して3~30質量%が好ましく、7~20質量%がより好ましい。崩壊促進剤量をこの範囲内とすることで、反応生成物中の未反応物や副生成物量を最小限に留めつつ、反応生成物の崩壊を十分に進行させることが可能になる。
【0046】
(混合)
原料の混合は、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、還元剤、及び必要に加えられる他の成分を均一に混合する。混合には、リボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどの公知の混合機を使用すればよい。
【0047】
混合は、還元剤が大気中の酸素や水蒸気と接触しないように、真空中または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。ここでの不活性ガスとしては、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などが挙げられる。混合により得られた混合物を熱処理炉に装入して、不活性ガスを供給し炉内から空気を置換する。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などが挙げられるが、通常はアルゴンが用いられる。また真空引きと不活性ガス置換を繰り返すと残留酸素が低減するため好ましい。
【0048】
次いで、混合物に還元拡散処理を施す。還元拡散工程では、非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、反応生成物を得る。ここで、非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気である。雰囲気ガスとして、不活性ガス、例えば、アルゴン(Ar)ガス及び/又はヘリウム(He)ガスが好ましい。また雰囲気中の酸素量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0049】
非酸化性雰囲気下で混合物を加熱すると、還元剤の作用により希土類酸化物粉末が還元されて希土類金属が生成する。生成した希土類金属は遷移金属粉末中に拡散して合金化し、希土類遷移金属合金を形成する。また混合物中に希土類酸化物粉末以外の他の成分の酸化物が含まれる場合には、他の成分の酸化物も還元及び拡散し、合金に組み込まれる。一方で還元剤は酸化されて酸化物に変化する。
【0050】
例えば、希土類酸化物粉末として酸化サマリウム(Sm)を、遷移金属粉末として鉄(Fe)粉末を、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いて、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末やその母合金粉末であるサマリウム鉄(SmFe17)系合金粉末を製造する場合には、還元剤(Ca)の作用により酸化サマリウム(Sm)は還元されてサマリウム(Sm)となる。そして、還元されたサマリウム(Sm)は鉄(Fe)粉末に拡散して、ThZn17型結晶構造を有するサマリウム鉄合金(SmFe17)が生成する。一方で、還元剤である金属カルシウム(Ca)は酸化されて、酸化カルシウム(CaO)になる。金属カルシウムを当量以上に配合した場合には、余剰カルシウム(Ca)が残留する。この酸化カルシウム(CaO)及び余剰カルシウム(Ca)が副生物を構成する。さらに、場合によっては、サマリウム鉄化合物(SmFe等)などの異相が生成することもある。したがって、熱処理後の反応生成物は、希土類遷移金属合金成分(SmFe17等)と還元剤由来の副生物(CaO、Ca等)を含み、場合によってはさらに異相(SmFe等)を含む。通常、この熱処理後の生成物は多孔質インゴットである。
【0051】
熱処理は、還元剤が溶融する温度以上且つ得られる希土類遷移金属合金成分が溶融しない温度で行う。具体的には、熱処理温度は850~1200℃が好ましい。850℃以上であれば、希土類金属の遷移金属粉末への拡散が均一なものとなり、最終的に得られる合金粉末の特性を高めることができる。また1200℃以下であれば、反応生成物中の合金成分が強固に焼結することを抑制し、その結果、後続する湿式処理工程での崩壊及び粉化が容易になる。また熱処理は、原料の粒度を考慮して、還元及び拡散反応が十分に進むまで行うことが好ましい。加熱時間は、典型的には1~10時間であり、2~8時間が好ましい。
【0052】
以上で、合金原料が希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である場合について主として説明してきた。しかしながら、合金原料は、還元剤の作用により希土類遷移金属合金となるものであればよく、上述した混合物に限定される訳ではない。例えば、合金原料は、希土類金属と遷移金属を含む酸化物及び/又は部分還元酸化物(部分酸化物)、希土類金属と遷移金属と酸素を含む合金(例えば、酸素含有SmFe合金)、あるいは希土類金属と遷移金属を含む合金及び希土類酸化物の混合物(例えば、SmFe合金とSm酸化物の混合物)であってもよい。合金原料として部分還元酸化物を用いることで、後続する工程で加える還元剤の量を抑えることが可能となる。希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物の作製手順の一例を以下に説明する。
【0053】
まず、希土類金属(Re)と遷移金属(TM)を含む複合酸化物を準備する。ここで、複合酸化物は、希土類金属と遷移金属を構成元素として含む化合物(複酸化物)である。したがって、希土類金属酸化物と遷移金属酸化物の単なる混合物とは区別される。
【0054】
複合酸化物の入手方法は限定されない。希土類金属と遷移金属を含む市販の複合酸化物を用いてもよい。あるいは希土類金属及び遷移金属を含有する磁石材料などの材料を製造する際に副生する副生物、またはリサイクル品であってもよい。しかしながら、好ましくは、湿式法で複合酸化物を合成する。具体的には、希土類酸化物と遷移金属化合物に湿式処理を施した後に加熱して複合酸化物を得る。湿式合成することで、希土類金属と遷移金属が原子レベルで均一に分散した複合酸化物を作製することが可能になる。
【0055】
湿式法で複合酸化物を合成するには、希土類金属及び遷移金属を含む酸溶液から中和反応により水酸化物を生成させ、得られた水酸化物を熱処理すればよい。具体的には、まず希土類金属原料及び遷移金属原料を酸溶液中に溶解して原料溶液を作製する。希土類金属原料及び遷移金属原料として酸溶液に溶解するものであれば限定されない。例えば、酸化サマリウム(Sm)等の希土類酸化物が挙げられる。また遷移金属原料として、遷移金属の硫酸塩や硝酸塩、例えば、硫酸第一鉄(FeSO)が挙げられる。酸溶液の種類は、原料に応じて決めればよく、例えば硫酸水溶液や硝酸水溶液が挙げられる。この際、希土類金属原料及び遷移金属原料が完全に溶解するように、酸溶液のpHを調整することが好ましい。
【0056】
次いで、得られた原料溶液にアルカリ溶液を加える。これにより中和反応が起こり、希土類金属と遷移金属を含む水酸化物、例えばSm-Fe水酸化物を沈殿物として含むスラリーが得られる。アルカリ溶液として、アンモニア水溶液、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び/又は尿素等を含む水溶液が挙げられる。均一で微細な水酸化物を得るためには、アルカリ溶液を滴下して加えることが好ましい。次いで、得られたスラリー中の沈殿物をろ過等の手法で回収する。さらにイオン交換水等の洗浄液を用いて沈殿物を洗浄してもよい。洗浄処理を行うことで、最終的に得られる磁石粉末中の不純物量を低く抑えることが可能となる。
【0057】
次いで、回収した沈殿物を乾燥し、さらに加熱処理を施す。これにより、希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物、例えばSm-Fe酸化物を得ることができる。乾燥は、水分を効率的に除去できる温度、例えば80℃以上400℃以下で行えばよい。乾燥を減圧下で行ったり、あるいは乾燥時に乾燥用ガスを流通させたりしてもよい。複合酸化物が得られる限り、加熱処理雰囲気は限定されない。例えば、空気、酸素と不活性ガスの混合ガス、又は空気と不活性ガスの混合ガスなどの酸素含有雰囲気が挙げられる。加熱処理温度は500℃以上1400℃以下が好ましく、700℃以上1200以下がより好ましい。加熱処理温度が過度に低いと、沈殿物の酸化が不十分になる恐れがある。一方で加熱処理温度が過度に高いと、得られる酸化物が粒成長する恐れがある。
【0058】
必要に応じて、希土類金属及び遷移金属以外の他の成分、例えば添加成分を複合酸化物に加えてもよい。このような成分として、限定される訳ではないが、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上を含む成分が挙げられる。他の成分は、希土類金属原料及び遷移金属原料とともに酸溶液中に溶解して加えればよい。
【0059】
次いで、準備した複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る。予備還元により、複合酸化物の一部、特に遷移金属成分が還元される。予備還元工程を設けることで、後述する工程で必要とされる還元剤の量を減らすことができる。また還元拡散処理物の均一な還元が促される。
【0060】
予備還元工程での加熱雰囲気は、複合酸化物が部分的に還元されるものであれば、特に限定されない。水素(H)、一酸化炭素(CO)、及び/又はメタン(CH)などの炭化水素ガスを含む雰囲気が挙げられる。予備還元工程での加熱温度は400℃以上900℃以下が好ましい。また加熱時間は0.5時間以上10時間以下が好ましい。
【0061】
このようにして、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物が得られる。得られた部分還元酸化物を合金原料に用いて、これと還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施すと、還元剤の作用により、混合物に含まれる希土類金属や遷移金属の酸化物が還元されて、希土類金属や遷移金属が生成する。生成した希土類金属は遷移金属中に拡散して合金化し、希土類遷移金属合金を形成する。一方で還元剤は酸化されて、還元剤由来の副生物(酸化物等)に変化する。そのため、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物を含む反応混合物が得られる。加熱処理は、合金原料が希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である場合と同様の条件で行えばよい。
【0062】
<水素処理工程>
必要に応じて、還元工程(還元拡散工程)後に水素処理工程を設けてもよい。水素処理工程では、還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露して解砕し、それにより解砕した反応生成物(解砕物)を得る。
【0063】
希土類遷移金属合金(金属間化合物)は、その多くが水素を吸収して体積膨張する。例えばSmFeは水素吸収により体積が19%膨張する。同様にSmFe17は3.4%、NdFe14Bは5.4%、LaNiは27%、SmCoは7.4%体積膨張する。金属間化合物が水素を吸収する温度は化合物の種類やその表面性などによって様々である。しかしながら水素吸収反応はいずれも発熱反応である。そのため希土類遷移金属合金が複数の金属間化合物を含む場合には、連鎖反応が起こることがある。すなわち低温で水素吸収する化合物から吸収が始まり、これにより発熱し、発熱することで合金の温度が上昇し、次の化合物が水素吸収する。
【0064】
水素処理は、水素含有ガスを用いて水素雰囲気中で行う。水素含有ガスとして、水素(H)ガスを単独で用いてもよく、あるいはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)などの不活性ガスと水素(H)ガスとの混合ガスを用いてもよい。しかしながら水素ガスを単独で用いることが好ましい。このとき、酸素(O)の残留を防ぐため、水素ガスを導入する前にアルゴンなどの不活性ガスで炉内雰囲気を置換することが好ましい。またこの場合には不活性ガス置換後に炉内を一旦排気し、その後に水素ガスを導入することが好ましい。水素処理が終了したら、アルゴンなどの不活性ガスに切り替えて反応生成物(解砕物)を回収する。なお水素処理工程は、必ずしも必須の工程ではない。
【0065】
<湿式処理工程>
湿式処理工程では、得られた反応生成物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る。水素処理工程を設けなかった場合には、還元工程(還元拡散工程)で得られた反応生成物に洗浄処理を施す。水素処理工程を設けた場合には、水素処理で解砕した反応生成物(解砕物)に洗浄処理を施す。また後述する窒化処理工程を還元工程後に設けた場合には、窒化処理した反応生成物(窒化物)に洗浄処理を施す。
【0066】
湿式処理では、まずは反応生成物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得る。具体的には、反応生成物を洗浄液中に投入及び撹拌する。洗浄液中に投入した生成物は、崩壊してスラリー状になる。このとき、還元剤由来の副生物は水と反応して、水酸化物からなる固体状副生物由来成分に変化する。そのため固体状副生物由来成分はアルカリ金属及び/アルカリ土類金属の水酸化物を含む。例えば、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いた場合には、還元工程後の生成物は、希土類遷移金属合金成分と副生物(CaO、Ca)とを含む。水洗浄の際に、この副生物(CaO、Ca)は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))に変化する。水酸化カルシウムは水への溶解度が低いため、大部分が懸濁物となり、水に浮遊する。水洗浄により得られたスラリーは、希土類遷移金属合金成分と固体状副生物由来成分(Ca(OH))の懸濁液である。スラリー中の固体状副生物由来成分を希土類遷移金属合金成分から分離することで、高純度な高特性合金粉末を得ることができる。
【0067】
洗浄液として、水、グリコール、または水とグリコールの混合溶液を用いることができる。水としてイオン交換水が好ましい。グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0068】
固体状副生物由来成分の分離は、デカンテーションにより行うことができる。デカンテーションは、1回又は複数回行ってもよい。例えば、反応生成物を洗浄液中に投入、撹拌、及び静置した後に上澄み液を除去し、得られた残留物に更に洗浄液を加え、撹拌及び静置した後に上澄み液の除去を繰り返してよい。希土類遷移金属合金成分は、比重が比較的大きいのに対して、固体状副生成物由来成分は比重が小さい。したがってデカンテーションにより、比重の小さい固体状副生性物由来成分を上澄み液とともに分離除去することができる。あるいはデカンテーションを行う代わりに又はデカンテーションとともに、液体サイクロンや遠心分離機などの比重分離機を用いて固体状副生成物由来成分の分離除去を行ってもよい。
【0069】
次に、得られた合金粉末スラリーに酸洗浄処理を施す。酸洗浄により、固体状副生物由来成分や異相をより効果的に除去することができる。例えば、生成物中の異相(SmFe等)とともに、洗浄液での処理で取り除き切れなかった固体状副生物由来成分(Ca(OH)等)を除去することができる。酸洗処理は、例えば、合金粉末スラリーを撹拌しながら、これに酸を加えて行う。酸の種類として、塩酸、酢酸、硝酸及び硫酸等の無機酸や有機酸を使用することができる。
【0070】
続いて、酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えるキレート化処理を施す。キレート化処理により、酸素量の少ない合金粉末を得ることが可能になる。すなわち、酸洗浄処理の際に、合金粉末から希土類イオンや遷移金属イオンが洗浄液中に溶出する。これらのイオンは、これ単体あるいは複合体を形成した状態で水酸化物となり、合金粉末の表面に付着し、合金粉末の酸素量を増加させてしまう。酸洗浄後に水洗処理を設けることで希土類イオンや遷移金属イオンの除去をある程度は可能であるものの、水洗処理のみで水酸化物の形成及びその付着を完全に防ぐことは困難である。これに対して、キレート化処理を設けると、希土類イオンや遷移金属イオンがキレート化されて安定な錯体を形成する。そのため水酸化物の生成及び付着を防ぐことが可能となる。そして、その結果、酸素量の少ない合金粉末を得ることが可能になる。
【0071】
キレート形成剤は、希土類イオン及び/又は遷移金属イオンをキレート化できるものであれば、限定されない。例えば、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、並びにビピリジンが挙げられる。好ましくは、キレート形成剤は、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0072】
また、キレート化処理の際に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液を合金粉末スラリーに加えてもよい。この場合、キレート形成剤とアルカリ水溶液を別個に加えてもよく、あるいはキレート形成剤とアルカリ水溶液の混合水溶液を加えてもよい。アルカリ水溶液を加えることで、キレート化処理に必要なキレート形成剤の量を減らすことができる。その上、スラリーを中性(pH~7)に近づけることができるので、スラリー中の合金粉末へのダメージを減らすことができる。キレート形成剤とアルカリ水溶液の混合水溶液を用いる場合には、混合水溶液のpHは5.0以上7.5以下が好ましい。
【0073】
合金粉末をキレート化できる限り、キレート化処理の手法は限定されない。例えば、合金粉末スラリーを撹拌しながら、このスラリーにキレート形成剤を添加する手法が挙げられる。キレート形成剤の添加量は、スラリー中の希土類イオンと遷移金属イオン全てをキレート化するのに十分な量とすることが望ましい。具体的には、スラリー中のキレート形成剤の含有量が、スラリーに含まれる希土類イオンと遷移金属イオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.0倍~5.0倍とすることが好ましい。
【0074】
酸洗浄及び/又はキレート化処理は、一回ずつ行ってもよく、あるいは複数回行ってもよい。また酸洗浄処理やキレート化処理の前や後に合金粉末を水洗浄する工程を設けてもよい。特にキレート処理を施した合金粉末スラリーに更に水洗浄処理を施すことが好ましい。これによりキレート化した希土類イオンや遷移金属イオンを十分に除去することが可能となる。水洗浄は、合金粉末スラリーの上澄みを捨てた後に水を加えて撹拌する操作を1回又は複数回行えばよい。
【0075】
洗浄処理を経た合金粉末を回収及び乾燥して、希土類遷移金属合金粉末を得ることができる。合金粉末の回収は、合金粉末を含むスラリー又はケーキにろ過又は遠心分離などの固液分離処理を施して行うことができる。またこの際、スラリーやケーキに含まれる水分を、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールで溶媒置換すると、後続する乾燥工程での処理時間が短くなる。乾燥は、好ましくは30~250℃、より好ましくは40~100℃で行う。ただし、洗浄処理によって、合金粉末が水素を吸収する場合がある。この場合には、残留水素を低減する観点から200℃以下の温度で真空乾燥することが好ましい。
【0076】
<窒化処理工程>
本実施形態の製造方法では、必要に応じて、生成物を窒化する工程(窒化処理工程)をさらに設けてもよい。この工程を設けることで、サマリウム鉄窒素(SmFe17)などの窒化物系合金粉末を得ることができる。窒化処理は還元工程(還元拡散工程)後であればいずれのタイミングで行ってもよい。還元工程で得られた反応生成物を窒化してもよく、水素処理工程で得られた解砕物を窒化してもよく、あるいは湿式処理工程で得られた合金粉末を窒化してもよい。
【0077】
窒化処理では、生成物(反応生成物、解砕物、合金粉末)を、好ましくは350~500℃、より好ましくは400~480℃に加熱しながら、窒素を含有する混合気流を流す。これにより希土類遷移金属合金成分が窒化する。加熱温度を350℃以上にすると、窒化反応が短時間に行われ、効率が向上する。一方で、加熱温度が過度に高いと、主相が分解することがある。例えば、サマリウム鉄(SmFe17)からなる希土類遷移金属合金成分を窒化してサマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、窒化処理温度が高すぎると、主相であるサマリウム鉄(SmFe17)が分解してαFeが生成することがある。αFeは磁石粉末の減磁曲線の角形性を低下させるため、その生成は好ましくない。窒化処理温度を500℃以下とすることで、このような主相の分解を抑制することができる。
【0078】
窒化処理時に流通させる窒化ガスは、少なくとも窒素原子を含有していればよく、窒素ガスやアンモニアガスが好適である。また、反応をコントロールするために、さらに水素、アルゴンなどを含有してもよい。アンモニアと水素の混合気流を用いる場合、その混合比(ガス流量比)は、アンモニア:水素=10~95:5~90が好ましく、30~90:10~70がより好ましい。この範囲内で、アンモニアの流通量が十分なものとなり、窒化効率がより向上する。
【0079】
<熱処理工程>
必要に応じて、窒化処理で得られた生成物(窒化物系合金粉末)に不活性ガス雰囲気中での熱処理をさらに施してもよい。不活性ガスは、例えば、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどである。このような熱処理を施すことで、得られる合金粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布が均一になり、合金粉末の特性をより一層高めることが可能になる。熱処理温度は350~500℃が好ましく、400~480℃がより好ましい。保持時間は20~200分が好ましく、30~150分がより好ましい。
【0080】
<微粉砕工程>
必要に応じて、湿式処理、窒化処理、または熱処理工程で得られた生成物(合金粉末)を微粉砕してもよい。微粉砕工程では、媒体ととともに粉砕物を粉砕機に入れ、平均粒径が1~3μmになるまで粉砕する。媒体として、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等を使用することができる。また粉砕溶媒に表面処理剤を加えることで、合金粉末の表面処理を粉砕と同時に行うことが可能になる。表面処理剤として、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウムなどのリン酸化合物が挙げられる。
【0081】
好適な一態様によれば、本実施形態の製造方法は、還元工程、水素処理工程、窒化工程、及び湿式処理工程をこの順に含む。水素処理工程では、還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕する。窒化工程では、水素処理工程で解砕した反応生成物を加熱しながら、反応生成物に窒素を含有する混合気流を流し、それにより反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化する。湿式処理工程では、窒化工程で窒化した反応生成物に洗浄処理を施す。
【0082】
また好適な別の態様によれば、本実施形態の製造方法は、還元工程、水素処理工程、湿式処理工程、及び窒化工程をこの順に含む。水素処理工程では、還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕する。湿式処理工程では、水素処理工程で解砕した反応生成物に洗浄処理を施す。窒化工程では、湿式処理工程で洗浄処理を施した反応生成物(合金粉末)を加熱しながら、反応生成物(合金粉末)に窒素を含有する混合気流を流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化する。
【0083】
このようにして、本実施形態の希土類遷移金属合金粉末を製造することができる。本実施形態の製造方法によれば、酸洗浄中にスラリー中に溶出した希土類イオンや遷移金属イオンをキレート化することで、水酸化物の生成及び合金粉末の付着を防ぐことができる。そして、その結果、酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末を得ることができる。例えば、限定される訳ではないが、希土類遷移金属合金粉末の酸素量を0.16質量%以下、0.14質量%以下、0.12質量%、0.10質量%以下、0.08質量%以下、又は0.06質量%以下にまで低減できる。
【0084】
本実施形態の製造方法で得られた希土類遷移金属合金粉末は、永久磁石材料、水素吸蔵材料、光磁気記録材料、磁気冷凍材料などの公知の用途に適用可能であり、特に永久磁石材料として好適に使用される。
【実施例0085】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(1)合金粉末の作製と評価
SmFe17合金粉末、SmFe17合金粉末、NdFe14B合金粉末、SmCo合金粉末、及びLaNi合金粉末を作製した。また得られた合金粉末について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0087】
<XRD>
合金粉末の結晶構造を粉末X線回折(XRD)法で評価した。X線回折測定は、Cuターゲットを用いて加速電圧45kV、電流40mAの条件下、2θを2分/deg.の速度でスキャンして行った。その後、得られたX線回折(XRD)パターンを解析して結晶構造を同定した。
【0088】
<組成分析>
合金粉末中の希土類金属(R)、ほう素(B)、及びカルシウム(Ca)の量と酸素(O)量のそれぞれをICP発光分光分析法及び赤外線吸収法で分析した。
【0089】
<XPS>
合金粉末表面に存在する酸化物層の厚みをX線光電子分光法(XPS)で評価した。具体的には、X線光電子分光装置を用いてFe 2p3/2スペクトルについて深さ方向分析を行った。深さ方向に対してアルゴン(Ar)イオンエッチングを行いながら測定を繰り返し、メインピークがFe酸化物ピーク(710ev付近)からメタルピーク(706eV付近)に変化するまでにかかったエッチング時間を求めた。得られたエッチング時間を用いて、SiO換算での酸化物層厚みを算出した。
【0090】
<磁気特性>
合金粉末にステアリン酸を添加し、脱水エタノールを溶媒として用い、平均粒径が2.3μmになるまで振動ボールミルで粉砕した。次いで、粉砕粉の磁気特性を、日本ボンド磁性材料協会のボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2005に準拠して振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。そして測定結果に基づき、残留磁化σr、保磁力Hc、及び角形性Hkを求めた。なお角形性Hkは、第二象限における磁化曲線(減磁曲線)上の、残留磁化σrの90%に相当する減磁界の強度である。
【0091】
[実施例1]
実施例1ではSmFe17合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
【0092】
<混合工程>
平均粒径(D50)が3.2μmの酸化サマリウム(Sm)粉末625g、平均粒径(D50)が37μmの鉄(Fe)粉1550g、及び粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)250gをミキサー混合して混合物を得た。
【0093】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1060℃×8時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0094】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物を密封容器内に装入し、密閉容器内で水素ガス中に放置して水素を吸収させた。これにより反応生成生物は解砕され、粒度10mm以下の解砕物を得た。
【0095】
<窒化処理>
解砕した反応生成物(解砕物)を管状炉内に装入し、アンモニアと水素の混合ガス(アンモニア分圧0.75気圧)中で430℃×9時間の熱処理を施した。その後、ガスを窒素ガスに切り替えてさらに1時間熱処理して冷却した。これにより窒化物を得た。
【0096】
<湿式処理>
窒化後の反応生成物(窒化物)1250gを4Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水4Lを用いたデカンテーションを7回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0097】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水4Lを加え、撹拌しながら45%酢酸を294g滴下し、その後、上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0098】
酸洗処理後の処理物(解砕物)に再び水4Lを加えて撹拌し、上澄みを捨てた(1回目の水洗浄処理)。引き続き、1回目の水洗浄処理後の処理物に水4Lを加えて撹拌した。処理液上澄み中のサマリウム(Sm)と鉄(Fe)のイオン濃度を分析したところ。それぞれ100mg/L(0.7mmol/L)及び200mg/L(4mmol/L)であった。そこで、撹拌中の処理液に25%クエン酸水溶液32gを添加した(2回目の水洗浄処理(キレート化処理))。処理液中のクエン酸イオン量は42mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の3.4倍量に相当した。次いで、処理液の上澄みを捨て、さらに処理物に水4Lのみを加えて撹拌した後に上澄みを捨てる操作を2回繰り返した(3回目及び4回目の水洗浄処理)。
【0099】
4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨ててエタノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら60℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0100】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:23.2質量%、N:3.4質量%、Ca:0.01質量%未満、O:0.11質量%の組成を有していた。XPS分析により、図1に示すように酸化物層厚みは20nmであることが確認された。
【0101】
[実施例2]
キレート化処理の際、25%クエン酸水溶液32gの代わりに、クエン酸水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合水溶液を処理液に添加した。この混合水溶液は、クエン酸水溶液(0.1mol/L;1.9%)82.0gとクエン酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L;2.5%)118gを混合して予め作製した。また処理液中のクエン酸イオン量は20mmolであり、これはサマリウム(Sm)と鉄(Fe)のイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.6倍量に相当した。それ以外は、実施例1と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造もつSmFe17合金粉末であった。またSm:23.3質量%、Ca:0.01質量%未満、O 0.09質量%の組成を有していた。
【0102】
[実施例3]
キレート化処理の際、25%クエン酸水溶液32gの代わりに、クエン酸水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合水溶液を処理液に添加した。この混合水溶液は、クエン酸水溶液(0.1mol/L;1.9%)48gとクエン酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L;2.5%)203gを混合して予め作製した。また処理液中のクエン酸イオン量は73mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の2.0倍量に相当した。それ以外は、実施例1と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:23.3質量%、Ca:0.01質量%未満、O:0.10質量%の組成を有していた。
【0103】
[実施例4]
キレート化処理の際、25%クエン酸水溶液32gの代わりに、クエン酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の混合水溶液を処理液に添加した。この混合水溶液は、クエン酸水溶液(0.1mol/L;1.9%)498gに0.2mol/L水酸化ナトリウム水溶液をpH5.6となるように混合して予め作製した。また処理液中のクエン酸イオン量は49mmolであり、これはSmとFeイオンの合計モル数の全てをキレート化するのに必要な量(当量)の4.0倍量に相当した。それ以外は、実施例1と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:23.2質量%、Ca:0.01質量%未満、O:0.15質量%の組成を有していた。
【0104】
[比較例1]
2回目の水洗浄処理(キレート化処理)の際に、クエン酸水溶液を添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:23.3質量%、Ca:0.01質量%未満、O:0.22質量%の組成を有していた。XPS分析により、図2に示すように酸化物層厚みは40nmであることを確認した。この厚みは実施例1の酸化物層厚みの2倍であった。
【0105】
[実施例5]
実施例5ではSmFe17合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
【0106】
<混合工程>
平均粒径(D50)が3.2μmの酸化サマリウム(Sm)粉末565g、平均粒径(D50)が40μmの鉄(Fe)粉1200g、及び粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)230gをミキサー混合して混合物を得た。
【0107】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1070℃×4時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0108】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物に、実施例1と同様の水素処理を施して解砕物を得た。
【0109】
<湿式処理>
解砕した反応生成物(解砕物)1250gを4Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水4Lを用いたデカンテーションを7回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0110】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水4Lを加え、撹拌しながら50%酢酸を55g滴下し、その後、上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0111】
酸洗処理後の処理物(解砕物)に再び水4Lを加えて撹拌し、上澄みを捨てた(1回目の水洗浄処理)。引き続き、1回目の水洗浄処理後の処理物に水4Lを加え、撹拌しながら40%クエン酸水溶液28gを添加した(2回目の水洗浄処理(キレート化処理))。また処理液中のクエン酸イオン量は62mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の4.8倍量に相当した。処理液の上澄みを捨て、さらに水4Lのみを加えて撹拌した後に上澄みを捨てる操作を2回繰り返した(3回目及び4回目の水洗浄処理)。
【0112】
4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨ててエタノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら80℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0113】
得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.1質量%、Ca:0.01質量%、O:0.12質量%の組成を有していた。
【0114】
[実施例6]
キレート化処理の際、40%クエン酸水溶液28gの代わりに、クエン酸水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合水溶液を処理液に添加した。この混合水溶液は、クエン酸水溶液(0.1mol/L)84.0gとクエン酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)66.0gを混合して予め作製した。処理液中のクエン酸イオン量は15mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.2倍量に相当した。それ以外は、実施例5と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.3質量%、Ca:0.02質量%、O:0.11質量%の組成を有していた。
【0115】
[実施例7]
キレート化処理の際、40%クエン酸水溶液28gの代わりに、クエン酸水溶液とクエン酸カルシウム四水和物の混合水溶液15gを処理液に添加した。この混合水溶液は、40%クエン酸水溶液30gにクエン酸カルシウム四水和物0.5gを溶解させて予め作製した。処理液中のクエン酸イオン量は32mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の2.6倍量に相当した。それ以外は、実施例5と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.4質量%、Ca:0.05質量%、O:0.15質量%の組成を有していた。
【0116】
[実施例8]
キレート化処理の際、40%クエン酸水溶液28gの代わりに、クエン酸水溶液18gを1mol/Lの水酸化カリウム水溶液でpH6.0とした水溶液を処理液に添加した。処理液中のクエン酸イオン量は37mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の3.0倍量に相当した。それ以外は、実施例5と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.5質量%、Ca:0.03質量%、O:0.18質量%の組成を有していた。
【0117】
[実施例9]
キレート化処理の際、40%クエン酸水溶液28gの代わりに、40%クエン酸三カリウム水溶液47gを処理液に添加した。処理液中のクエン酸イオン量は61mmolであり、これはSmとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の5.0倍量に相当した。それ以外は、実施例5と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.6質量%、Ca:0.01質量%、O:0.10質量%の組成を有していた。
【0118】
[比較例2]
2回目の水洗浄処理(キレート化処理)の際、クエン酸水溶液を添加しなかった。それ以外は、実施例5と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末はThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。またSm:24.5質量%、Ca:0.01質量%、O:0.38質量%の組成を有していた。
【0119】
[実施例10~14及び比較例3]
実験例10~14及び比較例3では、実施例5~9及び比較例2のそれぞれで作製したSmFe17合金粉末を窒化してSmFe17合金粉末を作製し、その磁気特性を評価した。窒化処理は以下の手順で行った。
【0120】
<窒化処理>
得られたSmFe17合金粉末40gを管状炉内に装入し、アンモニアと水素の混合ガス(アンモニア分圧0.50気圧)中で465℃×3.5時間の熱処理を施した。その後、ガスを水素ガスに切り替えて0.5時間、さらに窒素ガスに切り替えて0.5時間熱処理して冷却した。得られた処理物(窒化物)は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。
【0121】
[実施例15]
実施例15ではNdFe14B合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
【0122】
<混合工程>
平均粒径(D50)が3.7μmの酸化ネオジム(Nd)粉末405g、平均粒径(D50)が40μmの鉄(Fe)粉608g、及び粒度200メッシュ以下のフェロボロン(B含有量18.7質量%)粉67g、粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)217g、及び無水塩化カルシウム(CaCl)20gをアルゴン(Ar)雰囲気下でミキサー混合して混合物を得た。
【0123】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1000℃×2時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0124】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物に、実施例1と同様の水素処理を施して解砕物を得た。
【0125】
<湿式処理>
解砕した反応生成物(解砕物)1000gを4Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水4Lを用いたデカンテーションを10回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0126】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水4Lを加え、撹拌しながら50%酢酸をスラリーpHが6.0を5分間維持するように滴下し、その後、上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0127】
酸洗処理後の処理物(解砕物)に再び水4Lを加えて2分間撹拌し、上澄みを捨てた(1回目の水洗浄処理)。引き続き、1回目の水洗浄処理後の処理物に水4Lを加え、撹拌しながら50%グルコン酸水溶液30gを添加した(2回目の水洗浄処理(キレート化処理))。処理液中のグルコン酸イオン量は76mmolであり、これはNdとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の2.1倍量に相当した。処理液の上澄みを捨て、さらに水4Lのみを加えて撹拌した後に上澄みを捨てる操作を2回繰り返した(3回目及び4回目の水洗浄処理)。
【0128】
4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨ててエタノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら50℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0129】
得られた粉末は正方晶NdFe14B相を主相とする合金粉末であった。またNd:33.0質量%、B:1.30質量%、Ca:0.02質量%、O:0.10質量%の組成を有していた。
【0130】
[実施例16]
キレート化処理の際、50%グルコン酸水溶液30gの代わりに、グルコン酸水溶液とグルコン酸ナトリウムの混合水溶液20gを添加した。この混合水溶液は、50%グルコン酸水溶液30gにグルコン酸ナトリウム3gを溶解させて予め作製した。処理液中のクエン酸イオン量は55mmolであり、これはNdとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.5倍量に相当した。それ以外は実施例15と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末は正方晶NdFe14B相を主相とする合金粉末であった。またNd:33.2質量%、B:1.32質量%、Ca:0.03質量%、O:0.15質量%の組成を有していた。
【0131】
[実施例17]
キレート化処理の際、50%グルコン酸水溶液30gの代わりに、50%グルコン酸カリウム水溶液80gを添加した。処理液中のクエン酸イオン量は171mmolであり、これはNdとFeイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の4.7倍量に相当した。それ以外は実施例15と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末は正方晶NdFe14B相を主相とする合金粉末であった。またNd:33.6質量%、B:1.35質量%、Ca:0.05質量%、O:0.09質量%の組成を有していた。
【0132】
[比較例4]
2回目の水洗浄処理(キレート化処理)の際、グルコン酸水溶液を添加しなかった。それ以外は実施例15と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末は正方晶NdFe14B相を主相とする合金粉末であった。またNd:33.1質量%、B:1.30質量%、Ca:0.02質量%、O:0.33質量%の組成を有していた。
【0133】
[実施例18]
実施例18ではSmCo合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
<混合工程>
平均粒径(D50)が2.3μmの酸化サマリウム(Sm)粉末371g、粒度325メッシュ以下の電気コバルト(Co)粉669g、粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)161g、及び無水塩化カルシウム(CaCl)37gをアルゴン(Ar)雰囲気下でミキサー混合して混合物を得た。
【0134】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1050℃×2時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0135】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物に、実施例1と同様の水素処理を施して解砕物を得た。
【0136】
<湿式処理>
得られた反応生成物(解砕物)1000gを4Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水4Lを用いたデカンテーションを5回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0137】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水4Lを加え、撹拌しながら90%酢酸をスラリーpHが6.0を20分間維持するように滴下し、その後、上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0138】
酸洗処理後の処理物(解砕物)に再び水4Lを加えて2分間撹拌し、上澄みを捨てた(1回目の水洗浄処理)。引き続き、1回目の水洗浄処理後の処理物に水4Lを加え、撹拌しながら25%クエン酸水溶液14gを添加した(2回目の水洗浄処理(キレート化処理))。処理液中のクエン酸イオン量は18mmolであり、これはSmとCoイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.5倍量に相当した。処理液の上澄みを捨て、さらに処理物に水4Lのみを加えて撹拌した後に上澄みを捨てる操作を2回繰り返した(3回目及び4回目の水洗浄処理)。
【0139】
4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨てて2-プロパノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら50℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0140】
得られた粉末は、CaCu型結晶構造をもつSmCo合金粉末であった。またSm:33.0質量%、Ca:0.08質量%、O:0.05質量%の組成を有していた。
【0141】
[比較例5]
2回目の水洗浄処理(キレート化処理)の際、クエン酸水溶液を添加しなかった。それ以外は実施例18と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末は、CaCu型結晶構造をもつSmCo合金粉末であった。またSm:33.3質量%、Ca:0.09質量%、O:0.18質量%の組成を有していた。
【0142】
[実施例19]
実施例19ではLaNi合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
【0143】
<混合工程>
平均粒径(D50)が5.7μmの酸化ランタン(La)粉末112g、平均粒径(D50)が10.3μmのカルボニルニッケル(Ni)粉204g、粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)49.7g、及び無水塩化カルシウム(CaCl)11.2gをアルゴン(Ar)雰囲気下でミキサー混合して混合物を得た。
【0144】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下970℃×5時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0145】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物に、実施例1と同様の水素処理を施して解砕物を得た。
【0146】
<湿式処理>
得られた反応生成物(解砕物)300gを1Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水1Lを用いたデカンテーションを7回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0147】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水1Lを加え、撹拌しながら20%希塩酸をスラリーpHが5.0を20分間維持するように滴下し、その後、上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0148】
酸洗処理後の処理物(解砕物)に再び水1Lを加えて2分間撹拌し、上澄みを捨てた(1回目の水洗浄処理)。引き続き、1回目の水洗浄処理後の処理物に水1Lを加え、撹拌しながら25%クエン酸水溶液17gを添加した(2回目の水洗浄処理(キレート化処理))。処理液中のクエン酸イオン量は22mmolであり、これはLaとNiイオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.8倍量に相当した。処理液の上澄みを捨て、さらに処理物に水1Lのみを加えて撹拌した後に上澄みを捨てる操作を2回繰り返した(3回目及び4回目の水洗浄処理)。
【0149】
4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨てて2-プロパノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら50℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0150】
得られた粉末は、CaCu型結晶構造を持つLaNi合金粉末であった。またLa:33.0質量%、Ca:0.08質量%、O:0.05質量%の組成を有していた。
【0151】
[比較例6]
2回目の水洗浄処理(キレート化処理)の際、クエン酸水溶液を添加しなかった。それ以外は実施例19と同様にして合金粉末を作製した。得られた粉末は、CaCu型結晶構造をもつLaNi合金粉末であった。またLa:33.3質量%、Ca:0.09質量%、O:0.18質量%の組成を有していた。
【0152】
(2)評価結果
実施例1~9、実施例15~19、比較例1、比較例2,及び比較例4~6で得られた希土類遷移金属合金粉末の組成と成分分析結果を表1~5にまとめて示す。
【0153】
SmFe17合金粉末の場合、キレート化処理したサンプル(実施例1~4)の酸素量は0.09~0.15質量%であるのに対して、キレート化処理無しのサンプル(比較例1)の酸素量は0.22質量%であった(表1)。SmFe17合金粉末の場合、キレート化処理したサンプル(実施例5~9)の酸素量は0.10~0.18質量%であるのに対して、キレート化処理無しのサンプル(比較例2)の酸素量は0.38質量%であった(表2)。NdFe14B相を主相とする合金粉末の場合、キレート化処理したサンプル(実施例15~17)の酸素量は0.09~0.15質量%であるに対して、キレート化処理無しのサンプル(比較例4)の酸素量は0.33質量%であった(表3)。SmCo合金粉末の場合、キレート化処理したサンプル(実施例18)の酸素量は0.05質量%に対して、キレート化処理無しのサンプル(比較例5)の酸素量は0.18質量%であった(表4)。LaNi合金粉末の場合、キレート化処理したサンプル(実施例19)の酸素量は0.05質量%であるのに対して、キレート化処理無しのサンプル(比較例6)の酸素量は0.18質量%であった(表5)。このようにいずれの組成であっても、キレート化処理を行うことで、合金粉末中の酸素量を半減できることが分かった。
【0154】
またSmFe17合金粉末についてXPS深さ方向分析を行った。得られた結果を図1、2及び表1に示す。キレート化処理したサンプル(実施例1)の粒子表面の酸化物層厚みは20nmであるのに対し、キレート化処理無しのサンプル(比較例1)の酸化物層厚みは40nmであった。キレート化処理によって酸化物層厚みが約半分にまで低減されており、このことが酸素量低減に寄与したと考えられる。
【0155】
実施例10~14及び比較例3で得たSmFe17合金粉末の磁気特性を表6に示す。これらの合金粉末は、実施例5~9及び比較例2で得たSmFe17合金粉末(母合金)を窒化処理及び微粉砕して得たものである。
【0156】
酸素量の低い母合金(実施例5~9)から作製したサンプル(実施例10~14)は、その保磁力Hと角形性Hが、酸素量の高い母合金(比較例2)から作製したサンプル(比較例3)より高かった。
【0157】
また実施例10~14及び比較例3で得たSmFe17合金粉末を樹脂に埋め込み研磨して粒子断面のSEM反射電子像を観察したところ、実施例10~14に比べて比較例3の粉末では、粒子内部に窒化されていない部分(未窒化相)を有する粒子がより多く観察された。
【0158】
以上の結果から、キレート化処理を行う本実施形態の製造方法により、酸素量が低く高品質な希土類遷移金属合金粉末を得られることが理解される。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
【表3】
【0162】
【表4】
【0163】
【表5】
【0164】
【表6】

図1
図2