(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138363
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】妊孕性を判定するためのバイオマーカー及びそれを用いた判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230922BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230922BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20230922BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230922BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230922BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
C07K14/78
C07K14/47
C07K16/18
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025182
(22)【出願日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022042043
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 弥生
(72)【発明者】
【氏名】梁 明秀
(72)【発明者】
【氏名】宮城 悦子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 真理子
(72)【発明者】
【氏名】小堀 宏樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA01
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4H045DA75
4H045EA50
4H045HA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、不妊治療において体外受精後、胚培養を経て得られた胚の中から、着床・妊娠確率の高い、すなわち妊孕性の高い胚の選別を可能とするバイオマーカー及びその判断基準を提供することを目的とする。
【解決手段】不妊治療における採卵時に卵子と同時に採取される卵胞液中に存在するエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定することで、着床・妊娠に適切な卵子を判断できる基準を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類からなる、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカー。
【請求項2】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用。
【請求項3】
ヒト体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法。
【請求項4】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度が基準値よりも低い場合には、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性が高いと判定し、当該基準値は、ヒト卵子から受精後に発生する胚を移植して妊娠が不成立だった他のヒト体液中のそれぞれエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記体液が、卵胞液、全血、血清、血漿又は尿である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定する方法が免疫学的測定法である、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体を用いる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、請求項6に記載の方法に使用するための判定試薬又は判定キット。
【請求項9】
妊孕性の判定のために使用される、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を指標として、卵子または胚の妊孕性を判定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
2017年の日本の不妊治療における治療周期数は40万周期数を超え、出生児数は5万人を超える。今後も晩婚化等の影響により、不妊治療の件数増加と体外受精による出生児が増加していくことが予測される(非特許文献1)。
【0003】
不妊の要因は男女ともに存在する。男性の場合は主に造精機能障害、精子輸送路閉塞、精子機能障害等が挙げられる。一方女性の場合、加齢の他、婦人科疾患(子宮内膜症、子宮筋腫等)、内分泌、代謝疾患等が挙げられる。しかし一般的な不妊検査で異常が認められない原因不明なケースもあり、明らかな異常が認められない場合、卵質の低下による妊孕性の低下が考えられる。採卵で得られる卵子の質は判断できない為、体外受精を行い、胚培養を経て得られた良好な胚を移植しても、着床に至る確率は最も高い確率でも30%程度である(非特許文献1)。この着床確率を上げるため、体外受精にて得られた胚を複数移植する試みが行われていたが、多胎妊娠は身体的負担が大きいため、現在は原則1個のみ胚移植を行う単一胚移植とすることが示されている(非特許文献2)。
【0004】
現在の胚移植には、分割胚にて行う分割胚移植と、胚盤胞に達した胚を移植する胚盤胞移植がある。各胚移植時に評価する形態学的な方法として、それぞれVeeck分類(非特許文献3)及びGardner分類(非特許文献4)が主に使用されている。一般的に体外受精にて得られた胚の形態学的な評価後、同一周期内でトップ評価の胚を移植するが、最も評価が高い胚を移植しても必ずしも着床・妊娠に至る訳ではなく、またその逆もあることから、形態学的な胚評価は実際の胚の質と厳密に相関している訳ではない。近年、胚の成長過程を確認するタイムラプス培養が開発された。胚培養後の最終的な形態学的判断ではなく、胚の成長過程をもって評価する方法も提唱されているが(非特許文献5)、明確な判断基準があるわけでは無い。その為、着床・妊娠が見込まれる可能性の高い単一胚の移植を判断するため、形態学的な評価と合わせることで、より良好な客観的判断基準を提供できるバイオマーカーが求められている。
【0005】
近年不妊治療を対象としたバイオマーカーの研究は多数報告されている。特許文献1には非侵襲的に体外受精の評価を行うバイオマーカーとしてMICA(MHCクラスI 鎖関連タンパク質A)を開示している。ヒト検体中のMICAレベルが閾値を超えた場合、着床不全率、体外受精の失敗または流産を示すバイオマーカーとして提案されているが、実際の卵子もしくは胚の質を示すものではない。
【0006】
特許文献2には子宮内着床に適格な胚を予備選択する為のバイオマーカーとして、可溶性CD146を提案している。胚培養液中に確認できる可溶性CD146を指標として、移植に的確な胚を選択する方法を開示しているが、ヒト体液を対象としていない。
【0007】
特許文献3には妊娠受容能をもつ卵母細胞を同定する遺伝学的手段が開示されている。卵丘細胞から得られる遺伝子群のアッセイ評価を行うことで、該当の卵母細胞を移植した際に、生存可能な妊娠をもたらすことが可能である指標を開示しているが、タンパク質レベルで検討を行っておらず、ヒト体液を対象としていない。
【0008】
本発明で着目したエンドスタチンはコラーゲンXVIIIのC末端部分(Non-collagenous
domain 1)が切断されることにより生産される、分子量約20kDaの血管新生抑制活性のあるタンパク質である(
図1参照)。固形腫瘍内部への新たな血管の増殖を妨害することから、抗がん作用が報告されている(非特許文献6)。
【0009】
本発明で着目したレスチン類は、エンドスタチンXVとも呼称され、コラーゲンXVのC末端部分(Non-collagenous domain 1)が切断されることにより生産される、分子量約20kDaの血管新生抑制活性のあるタンパク質である(
図2参照)。N末側の配列の違いにより4種類のバリアントがあることが知られている(非特許文献7)。
【0010】
本発明で着目したフォリスタチン類は分子量約38kDaのタンパク質である。C末端側の配列の違いにより、2種類のバリアントがあることが知られている(
図3参照)。TGF-βスーパーファミリーに結合し、レセプターとの結合を阻害することでその活性を調節する分泌タンパク質である。近年、腎損傷および腎不全の診断や予後診断マーカーとしての報告(特許文献4)や、前立腺がんと非癌性形態を区別するバイオマーカー(特許文献5)、癌診断マーカーとしての可能性(特許文献6)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/084105号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2016/170021号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/060080号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2011/106746号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2017/011855号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005/083440号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本産婦人科学会 2018年ARTデータブック
【非特許文献2】日本産婦人科学会「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」平成20年4月発表
【非特許文献3】Atlas of The Human Oocyte & Early Conceptus, 2, 1991
【非特許文献4】Gardner DK, et al, Fertil. Steril., 73: 1155-1158, 2000
【非特許文献5】Pribenszky et al, Reprod. Biomed. Online, 35(5): 511-520, 2017
【非特許文献6】Peng Zhao et al, J. Cell. Mol. Med. Vol 14, No 1-2, 2010 pp. 381-391
【非特許文献7】Harald John et al, Biochimica et Biophysica Acta 1747 (2005) 161-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、不妊治療において体外受精後、胚培養を経て得られた胚の中から、着床・妊娠確率の高い、即ち妊孕性の高い胚を判定することができるバイオマーカー及びそれを用いた判定方法、及び判定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、体外受精の際に行われる採卵時に卵子と同時に採取される卵胞液中に存在する、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定することにより、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判断できることを見出し、以下の本願発明を完成した。
【0015】
即ち本発明は以下の通りである。
[1]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類からなる、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカー。
[2]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用。
[3]ヒト体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法。
[4]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度が基準値よりも低い場合には、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性が高いと判定し、当該基準値は、ヒト卵子から受精後に発生する胚を移植して妊娠が不成立だった他のヒト体液中のそれぞれエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度である、[3]に記載の方法。
[5]前記体液が、卵胞液、全血、血清、血漿又は尿である、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定する方法が免疫学的測定法である、[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体を用いる、[6]に記載の方法。
[8]エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、[6]に記載の方法に使用するための判定試薬又は判定キット。
[9]妊孕性の判定のために使用される、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、これまで医師の経験による形態学的な判断に頼るだけではなく、客観的な数値を加味して、移植に適した胚の選定が可能となり、医師による胚の評価・選定判断の大きな補助となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】エンドスタチンの配列を示す模式図である。数字はコラーゲンXVIIIのシグナルペプチドを含めたアミノ酸配列を基準とする位置を示す。
【
図2】レスチン類の配列を示す模式図である。数字はコラーゲンXVのシグナルペプチドを含めたアミノ酸配列を基準とする位置を示す。
【
図3】フォリスタチン類の配列を示す模式図である。数字はフォリスタチンのシグナルペプチドを含めたアミノ酸配列を基準とする位置を示す。
【
図4】Human Endostatin ELISA kit(Ray biotech社)を用いて、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液の間で卵胞液中のエンドスタチンレベルの測定値を対比した結果を示すボックスプロットである。P=0.0017(Mann Whitney test)。
【
図5】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液とにおけるエンドスタチンの受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。
【
図6】Human Collagen Type XV (COL15) ELISA Kit(MyBioSource社)を用いて、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液の間で卵胞液中のレスチン類レベルの測定値を対比した結果を示すボックスプロットである。P=0.0054(Mann Whitney test)。
【
図7】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液とにおけるレスチン類の受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。
【
図8】参考例1で行った、組換えレスチン類を用いた反応性を示す図である。
【
図9】抗フォリスタチン類抗体を用いて、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液の間で卵胞液中のフォリスタチン類レベルの測定値を対比した結果を示すボックスプロットである。P=0.0211(Mann Whitney test)。
【
図10】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液とにおけるフォリスタチン類の受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。
【
図11】参考例2で測定した組換えフォリスタチンの検量線を示す図である。
【
図12】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液中に存在するエンドスタチンを、市販抗体を用いてウェスタンブロット検出した結果である。
【
図13】作製した組換えレスチン類を、作製した抗血清でウェスタンブロット検出した結果である。
【
図14】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液中に存在するレスチン類を、市販抗体を用いてウェスタンブロット検出した結果である。
【
図15】胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液中に存在するレスチン類を、作製した抗血清を用いてウェスタンブロット検出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の態様は、不妊治療における卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーである。本発明のバイオマーカーは、ヒト体液中に存在するエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類からなる。
【0019】
血管などの基底膜を構築するコラーゲンXVIII(Collagen alpha-1(XVIII) chain)のC末端側ドメイン(Non-collagenous domain 1)の分解産物であるエンドスタチンは、分子量約20kDaのタンパク質である。
【0020】
コラーゲンXVIIIには、主として3種類のアイソフォームが知られているが、エンドスタチンをコードする領域は共通である(
図1)。その為、本発明のバイオマーカーとしては、異なる3種のコラーゲンXVIIIから生じるいずれのエンドスタチンでもよい。
【0021】
レスチン類は、血管などの基底膜を構築するコラーゲンXV(Collagen alpha-1(XV) chain)のC末端側ドメイン(Non-collagenous domain 1)が切断されることにより生産される、分子量約20kDaの血管新生抑制活性のあるタンパク質である。
【0022】
血管などの基底膜を構築するコラーゲンXV(Collagen alpha-1(XV) chain)のアイソフォームは報告されていないが、レスチン類をコードする領域により4種のレスチン類が報告されている。コラーゲンXVのシグナルペプチドを含めたアミノ酸配列の、1198残基目~1386残基目の領域をレスチン1、1207残基目~1386残基目の領域をレスチン2、1213残基目~1386残基目の領域をレスチン3、1221残基目~1386残基目の領域をレスチン4と報告されている(
図2)。本発明のレスチン類とはこれら4種のいずれの配列を有するものでもよく、またすべてであってもよい。
【0023】
フォリスタチン類は卵巣や子宮内膜に高レベルで発現し、TGF-βファミリーメンバーに対し、シグナル伝達受容体へのアクセスを阻害するアンタゴニストとして働くことが報告されている。
【0024】
フォリスタチン類には、主として2種類のアイソフォーム(フォリスタチン-1、フォリスタチン-2)が知られている(
図3)。本発明のバイオマーカーとしてはいずれの配列を有するものでもよく、またすべてであってもよい。
【0025】
後述の実施例が示す通り、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度(レベルともいう)は、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液のそれに比べて有意に低い。そのため、卵胞液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類は、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するための指標となり得る。
【0026】
本態様の別の側面は、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用である。
【0027】
かかる知見に基づく本発明の第二の態様は、ヒト体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法である。ヒト体液中におけるエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度の測定は、通常インビトロ(in vitro)で行われる。この方法により、妊孕性の高い卵子又は卵子から受精後に発生する胚を選択することができる。その結果、従来の顕微鏡観察による胚盤胞の形態学的評価に加えて、子宮へ移植するのに適した胚を選択するための判断材料が提供され、妊娠成立の確率を高めることができる。したがって、本発明の胚の妊孕性を判定する方法は、妊孕性の高い卵子又は卵子から受精後に発生する胚を選択するための情報を提供する方法と言い換えることもできる。
【0028】
なお、本発明の方法は、妊孕性を判定する段階までを含むものであり、胚の移植可否に関する最終的な判断行為は含まれない。医師は、本発明の方法による判定結果等を参照して、子宮への移植の可否を決定したり、移植に適した胚を選択したり、不妊治療の方針を立てたりする。
【0029】
本明細書において「妊孕性」とは、卵子又は卵子から受精後に発生する胚が、着床して妊娠に至る全ての過程を達成できる能力の程度のことをいう。子宮へ移植する前に、妊孕性が高い胚を選択することで、妊娠成立の確率を高めることができる。
【0030】
ヒト検体中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類レベルは、試料中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類又はその断片の測定により調べることができる。エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類は、細胞外タンパク質であるため体液中に存在する。測定されるエンドスタチン、レスチン類、フォリスタチン類又はその断片には、遊離して存在するものの他、他のタンパク質等と結合ないしは会合した形態で検体中に存在するものが包含される。従って、本発明においてバイオマーカーとして使用される「エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類」という語には、検体中に遊離して存在するエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の全長タンパク質及びその部分断片、並びに他のタンパク質又はタンパク質断片と結合ないしは会合した形態で検体中に存在するエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類及びその部分断片が包含される。
【0031】
ヒト検体とは、ヒト体液であり、卵胞液、血液、血清、血漿、尿等を用いることができるが、卵胞液、血液、血清又は血漿を用いることが望ましく、特に卵胞液を用いることがさらに望ましい。本発明の方法に用いられる検体は、被験者から採取された、すなわち単離された検体を指す。
検体を採取されるヒト(被験者)は、通常、不妊治療において体外受精適応となる女性患者である。
被験者からの検体採取は、通常は排卵前に行われる採卵と同日に好ましくは同時に行わる。検体が卵胞液である場合は、通常は卵巣から卵子を採取(採卵)するときに共に採取される。検体が血液、血清、血漿、尿等の場合は、採卵の直前に検体を採取すると、採取された卵子の状態をより反映していると考えられるため好ましい。
【0032】
本発明の方法の測定・判定を行う時期は、胚移植前であれば、採卵後、受精後、胚盤胞まで分割した後等のいつでもよい。通常は、医師が胚の移植可否を判断するときまでに測定・判定し、好ましくは、医師が胚盤胞を顕微鏡で観察し形態学的にグレード分類した結果と、本発明の方法による判定結果とを、移植可否の決定時点までに出す。
また、採卵後の早い時期に本発明の方法による測定・判定を行うことも不妊治療の効率の観点から好ましい。これは、妊孕性が高いと判定された卵子を、受精させる工程、培養する工程に進めることで、妊娠の可能性を高めることができるからである。
【0033】
卵胞液とは、成熟した卵胞中に存在する。適切な排卵誘発管理により成熟した卵胞より採卵針を用いて採取する際に、卵子と共に採取される。通常の不妊治療では卵胞液は廃棄されるので、本発明の判定を行うことによる患者への更なる負担は伴わない。
【0034】
ヒト検体中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を測定する方法は、免疫測定法、液体クロマト法、電気泳動法、質量分析法等定量性のある測定法であれば特に限定されないが、免疫測定法は大掛かりな機器類が不要であり測定操作も簡便なので、本発明においても好ましく用いることができる。
免疫測定自体はこの分野において周知である。免疫測定法を反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法等があり、また、標識に基づいて分類すると、酵素免疫分析、放射免疫分析、蛍光免疫分析等がある。本発明においては、定量的検出が可能な免疫測定方法のいずれを用いてもよい。特に限定されないが、例えば、サンドイッチELISA等のサンドイッチ法を好ましく用いることができる。
本発明に用いられる抗体の製法は特に限定はなく、典型的には、マウス、ウサギ等の非ヒト動物で調製された非ヒト動物ポリクローナル又はモノクローナル抗体である。また、上述の通りエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列も公知であるので、常法のハイブリドーマ法等によりエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の特定部位を特異的に認識するエンドスタチン抗体、レスチン類抗体、又はフォリスタチン類抗体を調製して用いてもよい。
【0035】
本発明に用いられる抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。ポリクローナル抗体として抗血清を用いてもよい。本発明において、ポリクローナル抗体という語には、精製前の抗血清も包含される。また、抗体に代えて該抗体の抗原結合性断片を用いることもできる。以下、本明細書において、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、「抗体」という語には当該抗体の抗原結合性断片も包含される。ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗原結合性断片は、いずれも周知の常法により調製することができる。
【0036】
具体的には、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の特定部位を認識するポリクローナル抗体は、例えば、当該部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を複数種混合して得ることができる。又は、化学合成等の周知の手法により調製したエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の当該部位を含むポリペプチド、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類タンパク質、又はこれらをコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として適宜アジュバントと共に非ヒト動物に免疫し、該動物から採取した血液から抗血清を得て、該抗血清中のポリクローナル抗体(非ヒト動物抗可溶性エ
ンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類ポリクローナル抗体)を精製することで得ることができる。免疫は、被免疫動物中での抗体価を上昇させるため、通常数週間かけて複数回行なう。抗血清中の抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、アフィニティーカラム精製等により行なうことができる。
【0037】
モノクローナル抗体の周知の作製方法の一例として、ハイブリドーマ法を挙げることができる。具体的には、例えば、上記のように免疫した非ヒト動物から脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製し、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の特定部位と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて培養上清から非ヒト動物抗エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の特定部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0038】
「抗原結合性断片」とは、例えば免疫グロブリンのFab断片やF(ab’)2断片のような、当該抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している抗体断片を意味する。このような抗原結合性断片もイムノアッセイに利用可能であることは周知であり、もとの抗体と同様に有用である。Fab断片やF(ab’)2断片は、周知の通り、抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。なお、抗原結合性断片は、Fab断片やF(ab’)2断片に限定されるものではなく、対応抗原との結合性を維持しているいかなる断片であってもよく、遺伝子工学的手法により調製されたものであってもよい。また、例えば、遺伝子工学的手法により、一本鎖可変領域(scFv: single chain fragment of variable region)を大腸菌内で発現させた抗体を用いることもできる。scFvの作製方法も周知であり、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、それで大腸菌を形質転換し、大腸菌からscFvを回収することによりscFvを作製することができる。このようなscFvも「抗原結合性断片」に包含される。
【0039】
免疫測定法自体は周知の技術であるが、簡単に記載すると、例えば、サンドイッチ法では、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類に結合する抗体を固相に不動化し(固相化抗体)、試料と反応させ、必要に応じて洗浄後、固相化抗体と同一又は異なる部位でエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類に結合する抗体に標識を付した標識抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識抗体を測定する。
【0040】
標識抗体の測定は、標識物質からのシグナルを測定することにより行なうことができる。シグナルの測定方法は、標識物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、酵素標識の場合、該酵素に対応した発色基質、蛍光基質又は発光基質等の基質を該酵素と反応させ、その結果発生する発色や発光等のシグナルを吸光光度計やルミノメータ等の適当な機器で測定することにより、酵素活性を求め測定対象物を測定することができる。例えば、標識物質としてALPを用いる場合、3-(4-メトキシスピロ(1,2-ジオキセタン-3,2’-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン)-4-イル)フェニルホスフェート2ナトリウム(例えば商品名AMPPD)などの発光基質を用いることができる。標識抗体は、標識物質が当該抗体に直接結合されていてもよいし、ビオチン又はハプテン等の特異結合分子を抗体に結合させ、標識物質を結合した特異結合分子のパートナー(ストレプトアビジン又はハプテン抗体等)を反応させることにより、間接的に標識物質が結合されていてもよい。エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を種々の濃度で含む濃度既知の標準試料について、抗エンドスタチン抗体、抗レスチン類抗体、抗フォリスタチン類抗体又はその抗原結合性断片を用いて免疫測定を行ない、標識からのシグナルの量と標準試料中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度との相関関係をプロットして検量線を作成しておき、エンドスタチン、レスチン類又はフォリスタチン類が未知の検体について同じ操作を行なって標識からのシグナル量を測定し、測定値をこの検量線に当てはめることにより、検体中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を定量することができる。
【0041】
体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類レベルが高いか否かは、例えば、妊娠が不成立だった胚の元の卵子を含んでいた他の体液中の、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類レベルから定められた基準値を閾値とし、この閾値との比較により判断することができる。基準値は、例えば妊娠が不成立だった胚の元の卵子を含んでいた、多数の卵胞液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度の中央値を基準とすることができる。そして、被検体となる採卵で得られた各卵胞液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類レベルの測定値が、この基準値よりも低い場合には、妊孕性が高いすなわち卵子の質が高く着床・妊娠に至る可能性が高い、と判断することができる。この閾値は、年代ごと(例えば、30歳未満、30歳代、40歳代、50歳代など)に設定してもよい。
【0042】
本発明の方法において、妊孕性を判定される卵子又は胚は、測定に供される検体の採取日又は採取時に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚である。本発明の方法において、妊孕性を判定することができる胚としては、分割胚、胚盤胞のどちらでもよいが、好ましくは胚盤胞である。
【0043】
本発明の妊孕性を判定する方法は、不妊治療方法に適用することができる。すなわち、本発明により、患者における不妊症を治療する方法又は体外受精による妊娠成立を高める方法であって、
(i)患者から採取した体液中のエンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類の濃度を測定する工程、
(ii)前記測定値が予め設定した基準値よりも低い場合に、同患者から前記検体と同日に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚を妊孕性が高いと同定する工程、及び
(iii)(ii)で同定された卵子から受精後に発生した胚又は同定された胚を、前記患者に移植する工程、を含む方法が提供される。
【0044】
また本発明の第三の態様は、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体を含有する、妊孕性を判定する方法に使用するための試薬に関する。
【0045】
この判定試薬は、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体ないし抗原結合性断片のみからなっていてもよいし、これら抗体又はその抗原結合性断片の安定化等に有用な他の成分をさらに含んでいてもよい。また、これら抗体又はその抗原結合性断片は、標識物質ないしはビオチン等の特異結合分子が結合した形態や、プレート、粒子等の固相に固定化された形態であってもよい。
【0046】
本発明の第四の態様はまた、上記した本発明の判定試薬を含む、妊孕性を判定するキットであってもよい。当該キットは免疫測定キットであり、免疫測定に必要な他の試薬類等も含んでいてよい。免疫測定に必要な他の試薬類は周知である。例えば、当該キットには、上記した判定試薬のほか、検体希釈液、洗浄液、及び、標識抗体に使用されている標識物質が酵素の場合には該酵素の基質液等がさらに含まれ得る。また、キットには通常、使用説明書が含まれる。
【0047】
本態様の別の側面は、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に
認識する抗体の、妊孕性を判定するための試薬又は判定キットの製造における使用である。
また別の側面は、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体の、妊孕性の判定における使用である。
また別の側面は、妊孕性の判定のために使用される、エンドスタチン、レスチン類、又はフォリスタチン類を特異的に認識する抗体である。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>抗エンドスタチン抗体を用いたELISAによる卵胞液中のエンドスタチンの測定
妊娠成立及び不成立が判明している卵子を含んでいた卵胞液検体は、適切な排卵誘発を行った患者より卵子を採取した時に、同時に採取できるものを使用した。卵胞液は回収した後、-80℃で保存した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液17検体、妊娠不成立だった卵胞液16検体を用いた。
【0050】
エンドスタチンの測定は購入したHuman Endostatin ELISA kit(Ray Biotech社)を使用した。卵胞液の測定は添付の希釈液を用いて50倍希釈し、添付のプロトコル通りに行った。
【0051】
結果を
図4に示す。妊娠不成立群と比較して、妊娠成立群では明らかに卵胞液中のエンドスタチン濃度が低値であった。妊娠不成立群の中央値が102.3 ng/mLであったのに対し、妊娠成立群の中央値は73.2 ng/mLであった。
【0052】
表1及び
図5は、卵胞液中のエンドスタチンによる妊娠成立の検出能をROC解析により評価した結果である。この結果より、独立変数である卵胞液中のエンドスタチン濃度と二分変数である妊娠成立の有無というアウトカムとの関係が示唆された。また、ROC曲線下面積(AUC: area under the curve)は0.81であった。
【0053】
【0054】
<実施例2>抗レスチン類抗体を用いたELISAによる卵胞液中のレスチン類の測定
妊娠成立及び不成立が判明している卵子を含んでいた卵胞液検体は、適切な排卵誘発を行った患者より卵子を採取した時に、同時に採取できるものを使用した。卵胞液は回収し
た後、-80℃で保存した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液16検体、妊娠不成立だった卵胞液20検体を用いた。
【0055】
レスチン類の測定は、購入したHuman Collagen Type XV(COL15)ELISA kit(MyBioSource社)を使用した。卵胞液の測定は添付の希釈液を用いて5倍希釈し、添付のプロトコル通りに行った。
【0056】
結果を
図6に示す。妊娠不成立群と比較して、妊娠成立群では明らかに卵胞液中のレスチン類濃度が低値であった。妊娠不成立群の中央値が25.5 ng/mLであったのに対し、妊娠成立群の中央値は17.3 ng/mLであった。
【0057】
表2及び
図7は、卵胞液中のレスチン類による妊娠成立の検出能をROC解析により評価した結果である。この結果より、独立変数である卵胞液中のレスチン類濃度と二分変数である妊娠成立の有無というアウトカムとの関係が示唆された。また、ROC曲線下面積(AUC: area under the curve)は0.77であった。
【0058】
【0059】
<参考例1>
図8は、実施例2で使用したELISA Kitがレスチン類を認識できるか、組換えレスチン-1(MyBioSource社)を用いて評価した結果である。S/Nが確認できたことから購入したELISA Kitはレスチン-1を認識していることを確認した。
【0060】
<実施例3>抗フォリスタチン類抗体を用いたELISAによる卵胞液中のフォリスタチン類の測定
妊娠成立及び不成立が判明している卵子を含んでいた卵胞液検体は、適切な排卵誘発を行った患者より卵子を採取した時に、同時に採取できるものを使用した。卵胞液は回収した後、-80℃で保存した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液17検体、妊娠不成立だった卵胞液17検体を用いた。
【0061】
購入した抗フォリスタチン類ポリクローナル抗体(R&D system社)(アイソフォーム-1に特有のアミノ酸配列であるC末側27アミノ酸以外の領域を用いて免疫・抗体を作製したもの。該C末側27アミノ酸の領域は、シグナルペプチドを含めたフォリスタチンのアミノ酸配列の318残基目~344残基目に相当する。)を使用した。この抗体を50 ng/ウェルになるようカーボネート緩衝液(pH 9.8)で希釈し、MaxiSorp9
6穴プレート(Nunc社製)に固相化した。
4℃にて一晩反応後、TBS-T(0.05% Tween20を含むTris-Buffered Saline)により3回洗浄し、3%ウシ血清アルブミン(BSA; Bovine Serum Albumin)を含むTBS溶液を200μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。
【0062】
TBS-Tで3回洗浄を行なった後、妊娠成立卵胞液群17名又は妊娠不成立卵胞液群17検体を、1%ウシ血清アルブミンを含むTBS-T溶液にて10倍希釈し40μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
【0063】
TBS-Tにより3回洗浄を行なった後、購入した抗フォリスタチン類モノクローナル抗体(R&D system社)(アイソフォーム-1に特有のアミノ酸配列であるC末側27アミノ酸以外の領域を用いて免疫・抗体を作製したもの。該C末側27アミノ酸の領域は、シグナルペプチドを含めたフォリスタチンのアミノ酸配列の318残基目~344残基目に相当する。)を、1%ウシ血清アルブミンを含むTBS-T溶液で1.0μg/mLになるよう希釈し、40μL/ウェルで添加し、室温で1時間放置した。TBS-Tにより3回洗浄を行なった後、1%ウシ血清アルブミンを含むTBS-T溶液で20000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG(SIGMA社製)溶液を40μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。TBS-Tにより4回洗浄を行ない、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加後、1 mol/Lリン酸溶液で反応停止し、吸光測定プレートリーダーにて450 nmの吸光値を測定した。なお、実施例3の測定系は、参考例2に示すように、フォリスタチン類を測定しうるものである。
【0064】
結果を
図9に示す。妊娠不成立群と比較して、妊娠成立群では明らかに卵胞液中のフォリスタチン類濃度が低値であった。妊娠不成立群の中央値が4.51 μg/mLであったのに対し、妊娠成立群の中央値は2.50 μg/mLであった。
【0065】
表3及び
図10は、卵胞液中のフォリスタチン類による妊娠成立の検出能をROC解析により評価した結果である。この結果より、独立変数である卵胞液中のフォリスタチン類濃度と二分変数である妊娠成立の有無というアウトカムとの関係が示唆された。また、ROC曲線下面積(AUC: area under the curve)は0.73であった。
【0066】
【0067】
<参考例2>
検量線用標準試料としてShenandoah Biotechnology社製,Recombinant Human フォリスタチン-2(組換えフォリスタチン-2)を使用した。この組換えフォリスタチン-2を、1%ウシ血清アルブミンを含むTBS-T溶液で希釈して標準液を調製し、測定例
3の測定系で測定して、検量線を作成した。結果を
図11に示す。
【0068】
<実施例4>抗エンドスタチン抗体を用いたウェスタンブロット法による卵胞液中のエンドスタチン検出
実施例1と同様に回収し、保存した検体を使用した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液2検体、妊娠不成立だった卵胞液2検体を用いた。
【0069】
対象の卵胞液をプロトコルに従い、High Select(登録商標) Top14 Abundant Protein Depletion Mini Spin Columns(Thermo社製)にて前処理を行った。得られた溶出液のタンパク質濃度を測定し、2μg/Laneとなるように5-20%グラジエントゲルにアプライし、SDS/PAGEを行った。泳動後、転写装置を用いてPVDF膜にタンパク質を転写した。タンパク質が転写されたPVDF膜をブロッキングワン(ナカライ)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。ブロッキングワン中に抗エンドスタチン抗体(R&D system社)を1.0 μg/mLとなるように調整し、ブロッキング操作後のPVDF膜を浸漬し、室温で1時間反応を行った。反応後、TBST bufferにて3回洗浄を行った。次に、ブロッキングワンで10,000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヤギIgG(Abcam社製)溶液を調製し、洗浄後のPVDF膜を浸漬し、室温で1時間反応を行った。反応後、TBST bufferにて3回洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア社製)にて発光させ、CCDカメラで検出確認を行った。また検出したバンドのシグナル解析はMulti Gauge(富士フイルム)を用いて行った。
【0070】
結果を
図12に示す。
市販抗体を用いたウェスタンブロットの結果から、妊娠不成立群の卵胞液では妊娠成立群に比べて明らかに濃いバンドが検出できた。
なお、実施例4の測定系は、参考例3に示すように、エンドスタチン類を測定しうるものである。
【0071】
シグナル解析結果を表4に示す。妊娠不成立群の卵胞液は妊娠成立群に比べて明らかに高いシグナルを示した。
【0072】
【0073】
<参考例3>
エンドスタチン遺伝子配列を含む領域をpECE Vectorに組み込み、CHO K1を形質転換し、一過性発現させることにより組換えエンドスタチンを作製した(予測分子量約25kDa)。
この組換えエンドスタチンを用いて、実施例4で使用した抗体がエンドスタチン類と結合することを確認した。
【0074】
<参考例4>
レスチン類遺伝子配列を含む領域をpECE Vectorに組み込み、CHO K1を形質転換し、一過性発現させることにより、組み換えレスチン類を作製した(予測分子量約26.5kDa)。
【0075】
<参考例5>
<参考例4>で作製した組換えレスチン類を、既知の方法(Rabbit免疫法;北山ラベス株式会社)でウサギ(NZW)に免疫して、レスチン類を検出する抗血清を作製した。得られた抗血清を用いて、参考例4で作製した組換えレスチンを、ウェスタンブロットで検出した。
図13に示す結果の通り、得られた抗血清で組換えレスチン類を検出できることが確認された。
【0076】
<実施例5>市販抗体又は免疫抗血清を用いたウェスタンブロット法による卵胞液中のレスチン類検出
検体は実施例4で用いた検体と同じものを使用した。
【0077】
実施例4と同様にブロッキング操作まで行った後、ブロッキングワン中に、<参考例5>で作製した抗血清を100倍希釈となるように、又は購入した抗コラーゲンXV抗体(Abnova社製)を1.0 μg/mLとなるように調整し、PVDF膜を浸漬した。室温で1時間反応を行った。反応後、TBST bufferにて3回洗浄後、ブロッキングワンで10,000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギIgG(SIGMA社製)溶液を調製し、洗浄後のPVDF膜を浸漬し、室温で1時間反応を行った。反応後、TBST bufferにて3回洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア社製)にて発光させ、CCDカメラで検出確認を行った。また検出したバンドのシグナル解析はMulti Gauge(富士フイルム)を用いて行った。
【0078】
市販抗体でウェスタンブロットを実施した結果を
図14に示す。市販抗体で検出されるウェスタンブロットのバンドを比較した結果、妊娠不成立群は妊娠成立群の卵胞液に比べて明らかに濃いバンドが検出できた。
【0079】
シグナル解析結果を表5に示す。妊娠不成立群は妊娠成立群の卵胞液に比べて明らかに高いシグナルを示した。
【表5】
【0080】
一方、作製した抗血清でウェスタンブロットを実施した結果を
図15に示す。
図14の市販抗体で検出されるバンドと共通の分子量にバンドが確認できた。また市販抗体のウェスタンブロット検出結果(
図14)と同様に、妊娠不成立群の卵胞液では妊娠成立群に比べて明らかに濃いバンドが検出できた。
【0081】
シグナル解析結果を表6に示す。妊娠不成立群の卵胞液は妊娠成立群に比べて明らかに高いシグナルを示した。
【0082】