(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138434
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20230922BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C04B35/488
C04B35/645 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038991
(22)【出願日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2022042765
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】松村 雄二
(72)【発明者】
【氏名】森 陽暉
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 暉
(72)【発明者】
【氏名】下山 智隆
(57)【要約】
【課題】生産性の低下を伴うことなく製造が可能であり、なおかつ、視認による離間比較をした場合の表面及び内部が同じ漆黒色を呈するジルコニアの焼結体、その製造方法及びその用途の少なくともひとつを提供する。
【解決手段】鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、なおかつ、鉄、コバルト及びチタンを含むジルコニアの焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、なおかつ、鉄、コバルト及びチタンを含むジルコニアの焼結体。
【請求項2】
コバルトの含有量に対する鉄の含有量の質量割合が4未満である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記鉄及びコバルトを、鉄及びコバルトを含有する固溶体として含む、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記ジルコニアが、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上を含有するジルコニアである、請求項1に記載の焼結体。
【請求項5】
前記ジルコニアのイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上の含有量が3mol%超であり、かつ、10mol%以下である、上請求項4に記載の焼結体。
【請求項6】
アルミナを含む請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項7】
以下の条件による電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.0μm2を超えるコバルトの領域の割合が55%以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野~5視野
測定試料 : 表面粗さ(Ra)≦0.02μmの焼結体
【請求項8】
ジルコニアの平均結晶粒径が1.2μm以上2.5μm以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項9】
ISO/DIS 6872に準じ、なおかつ、試料厚みを1mmとして測定される二軸曲げ強度が1000MPa以上1350MPa以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項10】
L*a*b*表色系における色調が、明度L*が10以下であり、なおかつ、色相a*が-2.00以上2.00以下、及び、色相b*が-2.00以上5.00以下である、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項11】
鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程、を有する請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼結における焼結方法が加圧焼結である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記焼結工程に先立ち、成形体を非還元雰囲気で焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、を有する請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記焼結工程で得られた焼結体を、酸化雰囲気、650℃以上1100℃以下で、熱処理する熱処理工程を有する請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の焼結体を含む部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は黒色を呈するジルコニア焼結体に関する。特に、装飾部材等の外装部材として適した強度を有し、なおかつ、漆黒色を呈するジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア(ZrO2、二酸化ジルコニウム)の焼結体は、機械的特性及び審美性が高いため、装飾部材や外装部材としての適用が検討されている。黒色を呈するジルコニアの焼結体は特に審美性が高く、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びクロム(Cr)を着色成分として含有し、黒色を呈するジルコニアの焼結体が報告されている(例えば、特許文献1)。また、クロムは取扱いが難しい元素である。そのため、クロムを含有せず、黒色を呈する焼結体として、酸化コバルト及び酸化鉄の混合物又はCoFe2O4を着色成分として含有するジルコニアの焼結体や(特許文献2)、Co-Zn-Fe-Al系複合酸化物からなる顔料を含有するジルコニアの焼結体(特許文献3)が報告されている。
さらに、本発明者らは、着色成分である鉄及びコバルトを低減した上で、色味を帯びていない黒色として視認される色調(以下、「漆黒色」ともいう。)を呈する焼結体を報告している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-342036号公報
【特許文献2】特開平07-291630号公報
【特許文献3】特開2007-308338号公報
【特許文献4】特開2020-023431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1乃至3で開示された焼結体と比べ、特許文献4で開示された漆黒色を呈する焼結体は、より審美性の高い黒色を呈する。しかしながら、当該焼結体を加工した部材においては、焼結後の表面と、加工によって焼結体内部を露出させた表面とを視認により離間比較をすると、色調差が認識される。焼結の長時間化などの対応により当該色調差は抑制できるが、このような対応は生産性の低下を伴うものであった。
【0005】
本開示は、生産性の低下を伴うことなく製造が可能であり、なおかつ、視認による離間比較をした場合の表面及び内部が同じ漆黒色を呈するジルコニアの焼結体、その製造方法及びその用途の少なくともひとつを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、着色成分として鉄及びコバルトを含み、漆黒色を呈色するジルコニアの焼結体の表面及び内部の色調について検討した。その結果、着色成分以外の成分と、着色成分との関係に着目し、これを制御することで焼結体の表面と内部の色調の色差(△E)をA級許容差以下に低減できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、なおかつ、鉄、コバルト及びチタンを含むジルコニアの焼結体。
[2] コバルトの含有量に対する鉄の含有量の質量割合が4未満である、上記[1]に記載の焼結体。
[3] 前記鉄及びコバルトを、鉄及びコバルトを含有する固溶体として含む、上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] 前記ジルコニアが、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上を含有するジルコニアである、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[5] 前記ジルコニアのイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上の含有量が3mol%超であり、かつ、10mol%以下である、上記[4]に記載の焼結体。
[6] アルミナを含む上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[7] 以下の条件による電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.0μm2を超えるコバルトの領域の割合が55%以下である、上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の焼結体。
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野~5視野
測定試料 : 表面粗さ(Ra)≦0.02μmの焼結体
[8] ジルコニアの平均結晶粒径が1.2μm以上2.5μm以下である、上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[9] ISO/DIS 6872に準じ、なおかつ、試料厚みを1mmとして測定される二軸曲げ強度が1000MPa以上1350MPa以下である、上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[10] L*a*b*表色系における色調が、明度L*が10以下であり、なおかつ、色相a*が-2.00以上2.00以下、及び、色相b*が-2.00以上5.00以下である、上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[11] 鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程、を有する上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[12] 前記焼結における焼結方法が加圧焼結である、上記[11]に記載の製造方法。
[13] 前記焼結工程に先立ち、成形体を非還元雰囲気で焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、を有する上記[12]に記載の製造方法。
[14] 前記焼結工程で得られた焼結体を、酸化雰囲気、650℃以上1100℃以下で、熱処理する熱処理工程を有する上記[11]乃至[13]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[15] 上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載の焼結体を含む部材。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、生産性の低下を伴うことなく製造が可能であり、なおかつ、視認による離間比較をした場合の表面及び内部が同じ漆黒色を呈するジルコニアの焼結体、その製造方法及びその用途の少なくともひとつを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の焼結体について、実施形態の一例を示して説明する。
本実施形態は、鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、なおかつ、鉄、コバルト及びチタンを含むジルコニアの焼結体(以下、「本実施形態の焼結体」ともいう。)、である。これにより、表面及び内部を視認による離間比較をした場合に、両者が同様な漆黒色と視認される色調を呈するジルコニアの焼結体となる。さらに、このような焼結体は、焼結に長時間を要することなく製造することができる。
本実施形態の焼結体は、ジルコニアの焼結体であり、これはジルコニアをマトリックス(主相、母相)とする焼結体、いわゆるジルコニア焼結体(漆黒色ジルコニア焼結体)、であり、主としてジルコニアの結晶粒子からなる焼結体である。
本実施形態の焼結体は、ジルコニアのみからなるものではなく、鉄及びコバルトを含む。鉄(Fe)及びコバルト(Co)は黒色を呈する着色成分として機能する。
【0010】
本実施形態の焼結体のコバルト及び鉄の合計含有量(以下、「着色成分量」ともいう。)は、0.1質量%超であり、0.3質量%超、0.45質量%以上、0.5質量%超又は0.55質量%以上であることが好ましい。着色成分量が0.1質量%以下では焼結体が灰色系統の色調を呈する。着色成分量が0.5質量%超であることで、焼結体の表面及び内部のいずれもが漆黒色を呈しやすく、その色調差が小さくなる。本実施形態の焼結体を安定的に製造する観点から、着色成分量は3質量%未満、2.5質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%未満又は0.75質量%以下であることが好ましい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。例えば、特に好ましい着色成分量として0.1質量%超3質量%未満、0.3質量%超1.5質量%以下、0.45質量%以上1.0質量%未満、0.55質量%以上1.0質量%未満、又は、0.55質量%以上0.75質量%以下が挙げられる。
本実施形態の焼結体の鉄及びコバルト、それぞれの含有量は、上述の着色成分量を満たせば任意である。例えば、本実施形態の焼結体のコバルト含有量は0.05質量%以上であり、0.15質量%以上又は0.2質量%以上であり、また、2.9質量%以下、2.5質量%以下、又は、1.5質量%未満又は0.5質量%以下であることが挙げられる。また、本実施形態の鉄含有量は0.05質量%超、0.4質量%以上又は0.45質量%以上であり、また、1.5質量%未満、1質量%以下又は0.8質量%以下であることが挙げられる。コバルト含有量及び鉄含有量の上限と下限はいかなる組合せでもよい。好ましいコバルト含有量として0.05質量%以上1.5質量%未満、又は0.2質量%以上0.5質量%以下が挙げられる。また、特に好ましい鉄含有量として0.05質量%超1.5質量%未満、0.4質量%以上1質量%以下、又は、0.45質量%以上0.8質量%以下、が挙げられる。
本実施形態におけるコバルト含有量は、焼結体の質量に対するコバルトをCo3O4換算した質量割合であり、また、鉄含有量は、焼結体の質量に対する鉄をFe2O3換算した質量割合である。
本実施形態の焼結体におけるコバルト含有量に対する鉄含有量の質量割合(Co3O4換算したコバルトの質量に対するFe2O3換算した鉄の質量の割合[質量%/質量%];以下、「Fe/Co比」ともいう。)は、例えば、4未満又は3以下であることが好ましく、また、1超又は1.5以上であればよい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。好ましいFe/Co比として1超4未満、又は1.5以上3以下が例示できる。
【0011】
本実施形態の焼結体は、鉄及びコバルトを、鉄及びコバルトを含有する固溶体(以下、「Co-Fe固溶体」ともいう。)として含むことが好ましい。Co-Fe固溶体は漆黒色を呈する着色成分として機能する。Co-Fe固溶体を含まず、鉄のみ又はコバルトのみを含む焼結体は、その色調が本実施形態の焼結体とは異なりやすくなる、若しくは、焼結体に欠陥が生じやすくなる。Co-Fe固溶体は、鉄及びコバルトの酸化物が、還元状態を経た後、再度酸化された状態で鉄及びコバルトの複合化合物であり、好ましくは、ジルコニアへ固溶後、再析出した状態の粒子として焼結体に含有される。この様な状態の複合化合物であることで、Co-Fe固溶体は、より微細な状態で、かつ、焼結体の表面から内部に至るまで均一に分散した状態で焼結体に含まれていると考えられる。なお、本実施形態の焼結体は、Co-Fe固溶体に加え、コバルト酸化物及び鉄酸化物の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
Co-Fe固溶体は粒子、さらには略球状の粒子、更には直径0.1μm以上3.5μm未満の略球状の粒子として焼結体に含まれていることが挙げられる。
【0012】
本実施形態において、Co-Fe固溶体は、以下の条件による電子線マイクロアナライザーによる元素マッピング(以下、単に「元素マッピング」ともいう。)により確認できる。
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野~5視野
測定試料 : 表面粗さ(Ra)≦0.02μmの焼結体
【0013】
元素マッピングは、一般的な電子線マイクロアナライザー(例えば、EPMA1610、島津製作所社製)を使用して得ることができる。Co-Fe固溶体は、元素マッピングにおいて、同じ領域に鉄及びコバルトが確認できることにより、確認できる。
本実施形態の焼結体は、元素マッピングに占める5.0μm2を超えるコバルトの領域の割合(以下、「Co分布」ともいう。)が0%以上、14%以上、20%以上、25%以上又は30%以上であればよく、また、55%以下、50%以下、40%以下又は38%以下であることが好ましい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。Co分布はCo-Fe固溶体の分布状態を示す指標の一つである。本実施形態の着色成分量と、このようなCo分布を兼備することにより、焼結体表面及び内部が色味を帯びていない黒色として視認される色調(漆黒色)を呈しやすくなり、なおかつ、クラック等の焼結時の欠陥が生じにくくなる。本実施形態の焼結体のCo分布は0%以上55%以下、14%以上50%以下、14%以上40%以下、20%以上40%以下、又は、30%以上40%以下であることが例示でき、特に鉄源及びコバルト源としてコバルトフェライトを使用して得られる焼結体において、これらのCo分布の範囲内でCo分布の値が大きくなることにより、焼結体表面及び内部の色差が低下する傾向がある。
Co分布は、電子線マイクロアナライザー付属の解析ソフト(例えば、EPMAシステム Ver.2.14、島津製作所社製)により解析して求めればよい。解析は、コバルトの元素マッピングを二値化し、観測されたコバルトの特性X線の最低強度に対し、強度が1.5倍以上の領域(以下、「検出領域」ともいう。)の個数、及び、5.0μm2を超える領域(以下、「対象領域」ともいう。)の個数を計測する。検出領域の個数に占める対象領域の個数の割合を求め、これをCo分布とすればよい。
【0014】
本実施形態の焼結体は、チタンを含む。本実施形態の焼結体のチタン含有量は3質量%超であり、3.5質量%以上又は4質量%超であることが好ましい。本実施形態の焼結体において、チタンは実質的に着色成分として機能しない。これまで、Co-Fe固溶体の粒子の微細化のためにチタニア等の固溶成分を含有させることは知られていた。これに対し、本実施形態の焼結体においては、このような含有量でチタンを含むことで、該焼結体の製造時に、チタンの還元に由来して酸素空孔が発生し、着色成分の拡散が促進されやすくなり、着色成分を焼結体内部にまで均一に分散されていると考えられる。その結果、チタン含有量の増加にともない、Co分布が小さくなりやすい。これらにより、本実施形態の焼結体の表面及び内部の色調差が抑制されると考えられる。チタン含有量は、着色成分量に対して過度に多くないことが好ましく、10質量%以下、8質量%以下又は6質量%以下であればよい。チタン含有量の上限と下限はいかなる組合せでもよい。好ましいチタン含有量として3質量%超10質量%以下、3.5質量%以上8質量%以下、又は、4質量%超6質量%以下が例示できる。チタン含有量が多くなることで、Co分布が小さくなる傾向がある。
本実施形態におけるチタン含有量は、焼結体の質量に対するチタンをTiO2換算した質量割合である。
同様な理由により、本実施形態の焼結体の着色成分量[質量%]に対するチタン含有量[質量%]の割合(すなわち、TiO2換算したチタンの質量に対する、Fe2O3換算した鉄の質量とCo3O4換算したコバルトの合計質量の割合;以下、「Ti比率」ともいう。)は13以下、10以下、9.5以下、又は、8以下であればよく、また、2.5以上、5以上、7.2以上又は7.5以上であればよい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよく、例えば2.5以上13以下、5以上13以下、5以上10以下、又は、7.2以上9以下、又は、7.5以上8.5以下が挙げられる。
【0015】
本実施形態の焼結体におけるチタンの形態は任意であり、チタンは、チタニア(TiO2)として含まれていてもよく、ジルコニアに固溶していてもよい。さらに、少なくともチタンの一部がジルコニアに固溶していることが好ましい。
四価チタン(Ti4+)は、三価チタン(Ti3+)と比べて安定性が高いため、チタンに占める四価チタンの割合が高くなることで、高温雰囲気での使用された場合であっても焼結体の色調変化が生じにくくなる。そのため、本実施形態の焼結体に含まれるチタンは四価チタンであることが好ましく、実質的に三価チタンを含まないことがより好ましい。
【0016】
本実施形態の焼結体はアルミナ(Al2O3)を含んでいてもよく、アルミナを含むことが好ましい。アルミナを含むことで着色成分量が多い場合であっても、単斜晶の生成が抑制される傾向がある。
本実施形態の焼結体のアルミニウム含有量は0質量%以上、0質量%超、0.25質量%超、0.3質量%以上、0.5質量%以上又は1.5質量%以上であり、また、5質量%以下、4.5質量%以下、4質量%以下、3.5質量%以下又は3質量%以下であればよい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。アルミナを含む場合であっても、アルミニウム含有量がこの範囲であれば、アルミナが本実施形態の焼結体の色調へ実質的に影響しない。本実施形態の焼結体を常圧焼結で作製した場合であっても色調が薄くなりにくいため、好ましいアルミニウム含有量として0質量%以上5質量%以下、0質量%以上3質量%以下、0.25質量%超5質量%以下、0.3質量%以上5質量%以下、0.3質量%以上4質量%以下、又は、0.5質量%以上3質量%以下が例示できる。アルミニウム含有量は2質量%以上4.5質量%以下、又は、1.5質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態におけるアルミニウム含有量は、焼結体の質量に対するアルミニウムをAl2O3換算した質量割合である。
本実施形態の焼結体はハフニウム(Hf)等の不可避不純物以外の不純物を含まないことが好ましい。本実施形態において、密度など組成に由来して求まる値は、ハフニウムをジルコニウムとみなして求めればよい。
【0017】
本実施形態の焼結体は、鉄、コバルト及びチタン以外の遷移金属元素を含まないことが好ましく、鉄、コバルト及びチタン以外の遷移金属元素が測定限界以下であることが好ましい。
色調への影響が大きいため、本実施形態の焼結体は、亜鉛(Zn)及びクロム(Cr)を含まないこと(すなわち、0質量%)が好ましく、亜鉛含有量及びクロム含有量がそれぞれ、0.1質量%未満又は0.05質量%以下であることが更により好ましく、検出限界以下(例えば、0.005質量%以下)であることが更により好ましい。本実施形態の焼結体の亜鉛含有量及びクロム含有量は、それぞれ、0質量%以上0.1質量%未満、又は0質量%以上0.005質量%以下(検出限界以下)が挙げられ、更に、亜鉛含有量及びクロム含有量がいずれもこの範囲であることが好ましい。
【0018】
本実施形態の焼結体におけるジルコニアは、安定化元素を含有するジルコニアであることが好ましく、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上(以下、「安定化元素」ともいう。)を含有するジルコニアであることが好ましく、イットリウムを含有するジルコニアであることがより好ましい。また、安定化元素及びチタンを含有するジルコニアであってもよく、イットリウム及びチタンを含有するジルコニアであってもよい。なお、本実施形態においてチタン(Ti)は安定化元素に含まないものとする。
ジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「安定化元素量」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合は、それぞれ「イットリウム量」等ともいう。)は3mol%超、3.5mol%以上、3.6mol%以上又は3.8mol%以上であり、かつ、10mol%以下、6mol%以下又は5mol%以下であることが挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。したがって、イットリウム量として、例えば3mol%超10mol%以下、3.5mol%以上6mol%以下、3.6mol%以上6mol%以下、又は、3.8mol%以上5mol%以下、が例示できる。
本実施形態における安定化元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素の割合[mol%]である。本実施形態における各安定化元素の酸化物換算は、イットリウムがY2O3、カルシウムがCaO及びマグネシウムがMgOである。
【0019】
例えば、本実施形態の焼結体が、鉄、コバルト、チタン及びアルミナを含むイットリウムを含有するジルコニアの焼結体である場合、鉄含有量は{Fe2O3/(Fe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2)}×100[質量%]から、コバルト含有量は{Co3O4/(Fe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2)}×100[質量%]から、着色成分量は{(Fe2O3+Co3O4)/(Fe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2)}×100[質量%]から、チタン含有量は{TiO2/(Fe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2)}×100[質量%]から、アルミウム含有量は{Al2O3/(Fe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2)}×100[質量%]から、イットリウム量は{Y2O3/(Y2O3+ZrO2)}×100[mol%]から、及び、焼結体質量はFe2O3+Co3O4+TiO2+Al2O3+Y2O3+ZrO2[g]から、それぞれ、求められる。
【0020】
本実施形態の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相としていればよく、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアであってもよい。結晶相の主相とは、以下の条件で測定される粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおける占める割合が最も多い結晶相である。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
ステップ幅 : 0.02°
スキャン速度 : 5°/分
測定範囲 : 2θ=20°から80°
なお、本実施形態の焼結体の鉄及びコバルトの含有量では、そのXRDパターンにおいて、そのXRDピークが検出されなくてもよく、本実施形態の焼結体は、ジルコニアと同じXRDパターンを有していてもよい。
XRD測定は、一般的なX線回折装置(例えば、MiniFlex、RIGAKU社製)を使用して行えばよい。
【0021】
本実施形態の焼結体の単斜晶率は10%以下、6.5%以下、2%以下又は1%以下であることがより好ましく、また、0%以上又は0.5%以上であればよい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。したがって、例えば、好ましい単斜晶率として0%以上10%以下、0.5%以上2%以下、又は、0.5%以上1%以下、が挙げられる。
単斜晶率は、上述の条件で測定される本実施形態の焼結体の表面のXRDパターンから、以下の式により求められる値である。
単斜晶率(%)=[Im(111)+Im(11-1)]×100
/[Im(111)+Im(11-1)+It(111)+Ic(111)]
上式において、Im(111)は単斜晶ジルコニアの(111)面の面積強度、Im(11-1)は単斜晶ジルコニアの(11-1)面の面積強度、It(111)は正方晶ジルコニアの(111)面の面積強度、及び、Ic(111)は立方晶ジルコニアの(111)面の面積強度である。
各結晶面の面積強度は、平滑化処理及びバックグラウンド除去処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで、求めることができる。平滑化処理やバックグラウンド処理、及び、面積強度の算出などのXRDパターンの解析は、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)などを使用して行うことができる。
【0022】
上述のXRD測定において測定されるジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークとして、以下の2θにピークトップを有するXRDピークであることが挙げられる。
単斜晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
立方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク、及び、立方晶(111)面に相当するXRDピークは、重複したひとつのピークとして測定される。そのため、上記の式におけるIt(111)+Ic(111)は、2θ=30±0.5°にピークトップを有する1つのXRDピークの面積強度から求めればよい。
【0023】
本実施形態の焼結体のジルコニアの平均結晶粒径(以下、単に「平均結晶粒径」ともいう。)は、3.0μm以下、2.5μm以下、2.0μm以下又は1.5μm以下であり、また、0.3μm以上、0.5μm以上、1.2μm以上又は1.3μm超が挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。好ましい平均結晶粒径として0.3μm以上3.0μm以下、0.5μm以上2.5μm以下、1.2μm以上2.5μm以下、1.2μm以上2.0μm以下、1.3μm超2.5μm以下、又は、1.3μm超2.0μm以下が例示できる。
本実施形態において、平均結晶粒径は、走査型顕微鏡を使用し、15,000倍の倍率で本実施形態の焼結体の表面を観察し、得られるSEM観察図から200個以上、好ましくは250±50個、のジルコニアの結晶粒子を抽出し、その結晶粒径をインターセプト法(k=1.78)によって測定し、その平均をもって求めればよい。本実施形態の焼結体のSEM観察図において、ジルコニアの結晶粒子と、Co-Fe固溶体の粒子、アルミナ粒子などのジルコニアの結晶粒子以外の粒子や気孔とは、濃淡の違いから区別できる。
【0024】
本実施形態の焼結体は、黒色を呈するジルコニアの焼結体(黒色ジルコニア焼結体)であり、更には漆黒色を呈するジルコニアの焼結体(漆黒色ジルコニア焼結体)である。
【0025】
本実施形態の焼結体のL*a*b*表色系における色調は、明度L*が10以下であり、なおかつ、色相a*が-2.00以上2.00以下、及び、色相b*が-2.00以上5.00以下であることが好ましい。なお、明度は明るさを示す指標であり0以上100以下の値をとる。
本実施形態の焼結体の特に好ましい色調として、以下に示す明度L*、色相a*及びb*のいずれかの組合せが挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。
明度L* : 0以上又は1.0以上、かつ、
9.0以下、5.5以下又は3.0未満
色相a* : -3.00以上、-0.50以上又は0以上、かつ、
2.00以下、1.20以下、1.00以下又は0.50以下
色相b* : -2.00以上、-1.00以上又は0以上、かつ、
4.00以下、1.50以下、1.00以下、又は0.5以下
本実施形態の焼結体は漆黒色を呈していればよいが、特に好ましい色調として、以下の色調が挙げられる。
明度L* : 0.5以上又は1.0以上、かつ、
3.0未満又は2.0以下
色相a* : 0以上又0.05以上、かつ、
1.00以下又は0.50以下
色相b* : 0以上又は0.01以上、かつ、
1.00以下又は0.50以下
L*a*b*表色系の色調はJIS Z 8722に準じた方法により、表面粗さ(Ra)が0.02μm以下の焼結体を測定することで得られる。色調は、正反射光を除去し、拡散反射光を測定するSCE方式で求めればよい。具体的な色調の測定法として、一般的な色差計(例えば、Spectrophotometer SD 3000、日本電色工業社製)を使用した以下の方法であればよい。
測定方式 : SCE方式
光源 : D65光源
視野角 : 10°
背景 : 白バック
本実施形態の焼結体は、焼結体の表面及び内部の色調差が非常に小さい。これにより、加工して焼結体内部を露出させた面と、表面とを、視認により離間比較しても同一の色調を呈する。
【0026】
例えば、本実施形態の焼結体は、以下の式で求められる、試料厚み3mmの焼結体の色調に対する試料厚み2mmの焼結体の色調差(△E*)が、更には3.2以下、更には3以下であることが挙げられる。色調差は、小さいことが好ましいが、視認による離間比較をした場合に同一の色調を呈する色調差であればよく、例えば、△E*が1.6以上、2.0以上又は2.5以上であってもよい。好ましい色調差(△E*)として、1.6以上3.2以下、2.0以上3.2以下、2.5以上3.2以下、又は、2.5以上3以下が例示できる。
△E*={(L1
*-L2
*)2+(a1
*-a2
*)2+(b1
*-b2
*)2}1/2
上記式において、L1
*、a1
*及びb1
*は、試料厚み3mmの焼結体試料の表面のL*、a*及びb*である。L2
*、a2
*及びb2
*は、試料厚み2mmの焼結体試料の表面のL*、a*及びb*であって、該焼結体は試料厚み3mmの焼結体試料の表面を研磨することで得られる試料厚み2mmの焼結体である。
なお、△E*=1.6~3.2はA級許容差に相当し、一般的に同じ色と扱われる色調差である。一方、△E*=3.2~6.5はB級許容差に相当し、印象が同じであるが、色違いと扱われる色調差である。
【0027】
本実施形態の焼結体は、ISO/DIS 6872に準じ、なおかつ、試料厚みを1mmとして測定される二軸曲げ強度(以下、単に「二軸曲げ強度」ともいう。)が1000MPa以上又は1010MPa以上であることがより好ましい。加工性の観点から、二軸曲げ強度は3000MPa以下、2500MPa以下、1500MPa以下、1350MPa以下又は1100MPa以下であればよい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。本実施形態の焼結体の二軸曲げ強度は、1000MPa以上3000MPa以下、1000MPa以上1500MPa以下、又は、1010MPa以上1300MPa以下、が例示でき、加工性の観点から、二軸曲げ強度は1000MPa以上1350MPa以下、1000MPa以上1200MPa以下、又は、1000MPa以上1100MPa以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の焼結体は、ジルコニア焼結体の公知の用途として使用することができ、これを含む部材とすればよい。このような用途として、構造部材、装飾部材、外装部材、光学部材及び歯科材料の群から選ばれる1以上が挙げられ、外装部材及び装飾部材の少なくともいずれか、更には携帯電子機器の外装部材及び装飾部材の少なくともいずれかとして使用できる。
【0029】
次に、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
本実施形態の焼結体は、上述の構成を満たす焼結体が得られれば、その製造方法は任意である。本実施形態の焼結体の好ましい製造方法として、鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程、を有する製造方法、が挙げられる。これにより、生産性高く、本実施形態の焼結体を製造することができる。
鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程に供する成形体は、鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む成形体、である。
鉄源は、鉄(Fe)を含む化合物であればよく、鉄の酸化物であることが好ましい。具体的な鉄源として、酸化鉄(III、II)(Fe3O4)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、酸化鉄(II)(FeO)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、水酸化鉄(FeOH)、硝酸鉄(Fe(NO3)2)、塩化鉄(FeCl)及び硫酸鉄(FeSO4)の群から選ばれる1以上が挙げられ、酸化鉄(III、II)、酸化鉄(III)、酸化鉄(II)及びオキシ水酸化鉄の群から選ばれる1以上が好ましく、酸化鉄(III)及び酸化鉄(II)の少なくともいずれかがより好ましく、酸化鉄(III)が更に好ましい。また、鉄源は、鉄を含む複合酸化物であってもよく、例えば、コバルトフェライト(CoFe2O4)及びヘルシナイト(FeAl2O4)の少なくともいずれかであってもよく、コバルトフェライトが好ましい。
【0030】
コバルト源は、コバルト(Co)を含む化合物であればよく、コバルトの酸化物であることが好ましい。具体的なコバルト源として、四酸化三コバルト(Co3O4)、酸化コバルト(III)(Co2O3)、酸化コバルト(II)(CoO)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、硝酸コバルト(Co(NO3)2)、塩化コバルト(CoCl2)及び硫酸コバルト(CoSO4)の群から選ばれる1以上が挙げられ、四酸化三コバルト、酸化コバルト(III)、酸化コバルト(II)、及び、オキシ水酸化コバルトの群から選ばれる1以上が好ましく、酸化コバルト(III)及び酸化コバルト(II)の少なくともいずれかがより好ましく、酸化コバルト(II)が更に好ましい。コバルト源は、コバルトを含む複合酸化物であってもよく、例えば、コバルトフェライト(CoFe2O4)及びコバルトアルミネート(CoAl2O4)の少なくともいずれかであってもよく、CoFe2O4が好ましい。
焼結体中での鉄及びコバルトの分布が均一になりやすいため、鉄源及びコバルト源は、鉄及びコバルトを含む複合酸化物、更にはコバルトフェライトであってもよい。なお、鉄源及びコバルト源が、FeAl2O4やCoAl2O4などアルミニウム含有複合酸化物である場合、得られる焼結体の色調が薄くなる傾向がある。そのため、鉄源又はコバルト源がアルミニウム含有複合酸化物である場合は、アルミニウム含有複合酸化物以外の鉄源又はコバルト源と、アルミニウム含有複合酸化物とを併用すればよい。
また、得られる焼結体の色調差(△E*)が小さくなる傾向があるため、鉄源及びコバルト源は、鉄酸化物及びコバルト酸化物であることが好ましく、酸化鉄(Fe3O4)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化鉄(FeO)及びオキシ水酸化鉄の群から選ばれる1つ以上と、四酸化三コバルト(Co3O4)、酸化コバルト(Co2O3)及び酸化コバルト(CoO)の群から選ばれる1つ以上と、であることがより好ましく、酸化鉄(Fe2O3)及び酸化鉄(FeO)の少なくともいずれかと、四酸化三コバルト(Co3O4)、酸化コバルト(Co2O3)及び酸化コバルト(CoO)の群から選ばれる1つ以上と、であることが更に好ましく、酸化鉄(Fe2O3)と、四酸化三コバルト(Co3O4)と、であることが更により好ましい。
チタン源は、チタン(Ti)を含む化合物であればよく、チタンの酸化物であればよい。具体的なチタン源として、酸化チタン(チタニア;TiO2)、水酸化チタン、塩化チタン及びチタンテトライソプロポキシドの群から選ばれる1以上が挙げられ、酸化チタン及び水酸化チタンの少なくともいずれかが好ましく、酸化チタンがより好ましい。
【0031】
ジルコニアは、安定化元素含有ジルコニアであることが好ましく、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上を含有するジルコニアであることが好ましく、イットリウム含有ジルコニアであることが好ましい。ジルコニアの安定化元素の含有量は、2mol%以上、3mol%以上、3mol%超、3.5mol%以上、3.8mol%以上又は3.9mol%以上であり、また、10mol%以下、6mol%以下、5.5mol%以下又は5mol%以下であることが挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。好ましい安定化元素量として、3mol%超10mol%以下、3.5mol%以上6mol%以下、又は、3.8mol%以上5mol%以下、が例示できる。
成形体は、アルミニウム源を含んでいてもよく、アルミニウム源を含むことが好ましい。アルミニウム源は、アルミニウム(Al)を含む化合物であればよく、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、塩化アルミニウム(AlCl3)、アルミニウムイソプロポキシド(C9H21O3Al)及び硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)の群から選ばれる1以上が例示でき、アルミナ及び水酸化アルミニウムの少なくともいずれかが好ましく、アルミナがより好ましい。
成形体は、安定化元素源を含んでいてもよい。安定化元素源(以下、安定化元素がイットリウム等である場合、それぞれ、「イットリウム源」等ともいう。)は、安定化元素を含む化合物であればよく、イットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から選ばれる1以上を含む化合物が例示でき、イットリウムを含む化合物であることが好ましい。
イットリウム源は、イットリウムを含む化合物であればよく、酸化イットリウム(イットリア)、塩化イットリウム及び水酸化イットリウムの群から選ばれる1以上が例示でき、イットリア及び塩化イットリウムの少なくともいずれかであることが好ましい。
カルシウム源は、酸化カルシウム(カルシア)、塩化カルシウム及び水酸化カルシウムの群から選ばれる1以上が例示でき、カルシア及び塩化カルシウムの少なくともいずれかであることが好ましい。
マグネシウム源は、酸化マグネシウム(マグネシア)、塩化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの群から選ばれる1以上が例示でき、マグネシア及び塩化マグネシウムの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0032】
強度が高くなるため、成形体は、好ましくは樹脂を含み、より好ましくはアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂はセラミックス用のバインダーとして使用されるものであればよいが、例えば、AS-1100,AS-1800及びAS-2000の群から選ばれる1以上(いずれも製品名。東亜合成社製)が挙げられる。
成形体は、不可避不純物以外の不純物を含まないことが好ましく、特に、亜鉛及びクロムを含まないことが好ましい。例えば、成形体の亜鉛及びクロムの含有量は、それぞれ、0質量%以上0.1質量%未満であることが挙げられる。同様に、成形体はエルビウム及びセリウムを含まないことが好ましく、これらの含有量は検出限界以下(0mol%)であることが好ましく、測定誤差等を考慮すると、それぞれ、1mol%未満であることが挙げられる。
成形体の鉄源、コバルト源、チタン源、ジルコニア、並びに、必要に応じてアルミナ源及び安定化元素源、の含有量は、それぞれ、上述の焼結体の鉄含有量、コバルト含有量、着色成分量、チタン含有量、ジルコニア含有量、アルミナ含有量及び安定化元素量と同様な含有量であればよい。
成形体の形状は目的に応じた任意形状であればよく、円板状、柱状、立方体状、直方体状、多面体状、略多面体状、板状、球状及び略球状の群から選ばれる少なくとも1種や、筐体形状、その他部材の形状が例示できる。部材加工に適した形状となるため、成形体の厚み(肉厚の最大値)は2mm以上5mm以下であることが好ましい。
成形体の製造方法は任意であるが、鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む組成物を成形する成形工程、を有する製造方法が例示できる。
【0033】
鉄及びコバルトの合計含有量が0.1質量%超3質量%未満、チタンの含有量が3質量%超であり、鉄源、コバルト源、チタン源及びジルコニアを含む組成物は、鉄源等の出発原料を混合すればよい。混合は、鉄源等の出発原料が均一になる方法であれば任意の混合方法であればよい。好ましい混合法として出発原料の各粉末を湿式混合することが挙げられる。具体的な湿式混合として、ボールミル、ビーズミル及び撹拌ミルの群から選ばれる1以上が例示でき、ボールミル及びビーズミルの少なくともいずれかが好ましく、直径1.0mm以上10.0mm以下のジルコニアボールを粉砕媒体とするボールミルによる混合がより好ましい。本実施形態では、出発原料の各粉末を湿式混合する際に粉砕することが好ましい。
成形は、目的とする形状の成形体が得られる方法であれば任意の成形方法を適用することができる。成形方法として、一軸加圧、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及びインジェクションモールディングの群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。好ましい成形方法として一軸加圧及び冷間静水圧プレスの少なくともいずれかが挙げられ、一軸加圧した後に冷間静水圧プレスする成形方法がより好ましい。一軸加圧の条件として、20MPa以上70MPa以下が例示でき、冷間静水圧プレスの条件として150MPa以上250MPa以下が例示できる。
【0034】
本実施形態の製造方法において、焼結工程では、成形体を還元雰囲気で焼結する。還元雰囲気で焼結することにより、コバルト及び鉄の固溶体化と析出が共に進行し、さらに、チタンが還元される結果、着色成分であるコバルト及び鉄が成形体内部まで拡散ながら焼結が進行する。他方、酸化雰囲気のみの焼結では、Co-Fe固溶体が生成しにくく、更にCo-Fe固溶体が生成した場合であっても分散性が低くなりやすい。その結果、焼結体の色調が異なる又は色調にムラが生じるなどが生じ、焼結体の表面と内部での色調が異なりやすく、また、本実施形態の焼結体が安定して得られない。
還元雰囲気は、弱還元雰囲気であることが好ましい。弱還元性雰囲気として、還元性気体及び還元性部材を備えた焼結炉の少なくともいずれかを使用する雰囲気、更には還元性気体及び還元性発熱体の少なくともいずれかを使用する雰囲気が例示できる。還元性気体は、水素及び一酸化炭素の少なくともいずれかを含有する気体が例示できる。還元性部材は還元性発熱体及び還元性断熱材の少なくともいずれかが挙げられ、還元性発熱体としてカーボン製発熱体(カーボンヒーター)が例示できる。
本実施形態の好ましい還元雰囲気として、弱還元性雰囲気、具体的には不活性気体雰囲気で還元性発熱体を使用する雰囲気が挙げられ、更にはアルゴン雰囲気又は窒素雰囲気でカーボン製発熱体を使用する雰囲気が挙げられる。
【0035】
焼結方法は、成形体の焼結が進行する方法であり、常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結の群から選ばれる1以上が挙げられる。本実施形態の焼結体の生産性がより高くなるため、焼結工程における焼結方法は加圧焼結が好ましい。加圧焼結は、ホットプレス処理及び熱間静水圧プレス処理の少なくともいずれかであることが好ましく、熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)処理であることが更に好ましい。
本実施形態において、「常圧焼結」とは、焼結時に成形体に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法であり、「加圧焼結」とは、焼結時に成形体に対して外的な力を加えて加熱することにより焼結する方法である。
焼結温度は、1300℃以上、1400℃超又は1450℃以上であり、また、1700℃以下、1675℃以下又は1600℃以下が挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。例えば、焼結温度として、1300℃以上1700℃以下、1400℃超1700℃以下、1450℃以上1675℃以下、又は1450℃以上1600℃以下が挙げられる。
好ましい焼結条件として、以下の条件が例示できる。
焼結方法 :HIP処理
焼結雰囲気 :アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気、
好ましくはアルゴン雰囲気
焼結温度 :1300℃以上又は1450℃以上、かつ、
1700℃以下又は1675℃以下
焼結圧力 :50MPa以上又は100MPa以上、かつ、
200MPa以下又は175MPa以下
発熱体 :カーボンヒーター
焼結温度での保持時間は焼結工程に供する成形体の大きさや、使用する焼結炉の性能により適宜設定すればよいが、例えば、上述の焼結温度における保持時間が0.5時間以上5時間以下であることが挙げられる。
【0036】
焼結が加圧焼結である場合、焼結工程に先立ち、成形体を非還元雰囲気で焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、を有していることが好ましい。
予備焼結工程の焼結雰囲気は非還元雰囲気であればよく、酸化雰囲気又は不活性雰囲気であればよく、酸化雰囲気、更には大気雰囲気であることが好ましい。
焼結が進行すれば予備焼結方法は任意であるが、予備焼結の焼結方法は常圧焼結であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼結であることがより好ましい。
予備焼結の条件として以下の条件が例示できる。
予備焼結方法 :常圧焼結
予備焼結雰囲気:大気雰囲気
予備焼結温度 :1300℃以上又は1350℃以上、かつ、
1500℃以下、1450℃以下又は1400℃以下
予備焼結時間は予備焼結工程に供する成形体の大きさや、使用する焼結炉の特性により適宜設定すればよいが、例えば、上述の予備焼結温度における保持時間が0.5時間以上5時間以下であることが挙げられる。
予備焼結温度の上限と下限はいかなる組合せでもよい。例えば、予備焼結温度として、1300℃以上1500℃以下、1350℃以上1400℃以下を挙げることができる。
本実施形態の製造方法が予備焼結工程を有する場合、成形体(圧粉体)の代わりに予備焼結体を焼結工程に供すればよい。
【0037】
本実施形態の製造方法では、焼結工程で得られた焼結体を、酸化雰囲気、650℃以上1100℃以下で、熱処理する熱処理工程を有していてもよく、熱処理工程を有することが好ましい。熱処理工程により、残存する三価のチタンが酸化され、焼結体中のチタンが四価となりやすい。
熱処理方法は酸化雰囲気での熱処理であれば任意である。簡便であるため、熱処理は、熱処理時に焼結体に対して外的な力を加えず焼結温度以下で加熱する方法(以下、「常圧焼成」ともいう。)であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼成であることがより好ましい。
熱処理温度は650℃以上、700℃以上又は800℃以上であり、かつ、1050℃以下、1000℃以下又は950℃以下であることがより好ましい。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。
特に好ましい熱処理工程として以下の条件が例示できる。
熱処理方法 :常圧焼成
熱処理雰囲気:大気雰囲気
熱処理温度 :700℃以上1050℃以下、
好ましくは800℃以上950℃以下
【0038】
熱処理時間は、熱処理工程に供する焼結体の大きさや、熱処理炉の特性に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記の熱処理温度における時間が1時間以上48時間以下、更には1時間以上10時間以下であることが挙げられる。
本実施形態において、焼結工程に要する時間(予備焼結工程及び熱処理工程の少なくともいずれかを有する場合は、予備焼結工程、焼結工程及び熱処理工程に要する合計時間)は、工業的な製造に適した時間であればよく、60時間以下、55時間以下又は48時間以下であることが好ましく、また、20時間以上又は30時間以上であることが挙げられる。これらの上限と下限はいかなる組合せでもよい。例えば、焼結工程に要する時間として、20時間以上60時間以下、又は30時間以上48時間以下を挙げることができる。
特に好ましい焼結工程として、大気雰囲気、1350℃以上1450℃以下で成形体を常圧焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、予備焼結体をアルゴン雰囲気、1450℃以上1675℃以下、100MPa以上175MPa以下で、発熱体としてカーボンヒーターを使用した熱間静水圧プレス処理によってHIP処理体を得る加圧焼結工程、及び、HIP処理体を、大気雰囲気、800℃以上950℃以下で常圧焼成する熱処理工程、を有する焼結工程、が挙げられる。
【実施例0039】
以下、本開示を実施例により説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(XRD測定)
一般的なX線回折装置(装置名:MiniFlex、RIGAKU社製)を使用し、以下の条件で、焼結体試料の結晶相を測定した。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
ステップ幅 : 0.02°
スキャン速度 : 5°/分
測定範囲 : 2θ=20°から80°
得られたXRDパターンから上述の式により単斜晶率を求めた。
【0041】
(Co分布)
EPMA装置(装置名:EPMA1610、島津製作所社製)を使用し、以下の条件で下反射電子像の観察及び元素マッピングを求めた。
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野
EPMA1610の付属の解析ソフト(製品名:EPMAシステム Ver.2.14、島津製作所社製)を使用し、得られた元素マッピングを二値化し、バックグラウンドにおけるコバルトの特性X線の強度に対し、コバルトの特性X線の強度が1.5倍以上である領域の個数を計測した。二値化処理は、マッピング結果の強度を120カウントにしたとき、粒子が確認されない場所をバックグラウンドとし、その平均値の1.5倍を閾値として行った。計測された領域の個数に占める5.0μm2を超える領域の個数の割合をもってCo分布を求めた。
焼結体試料は、表面粗さRa=0.02μm以下とした厚み1mm、直径16mmの円板状の焼結体を用いた。
【0042】
(平均結晶粒径)
焼結体試料のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径はインターセプト法により測定した。
前処理として、焼結体試料の表面粗さRaが0.02μm以下となるように鏡面研磨した後に、熱エッチングしたものを使用した。SEMを使用し、15,000倍の倍率で焼結体試料の表面を観察しSEM観察図を得た。得られたSEM観察図から250±50個のジルコニアの結晶粒子を抽出し、その結晶粒径をインターセプト法(k=1.78)によって測定し、その平均をもってジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径とした。
【0043】
(色調)
JIS Z8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な色差計(装置名:Spectrophotometer SD 3000、日本電色工業社製)を使用し、以下の条件で測定した。
測定方式 : SCE方式
光源 : D65光源
視野角 : 10°
背景 : 白バック
測定試料として、両面鏡面研磨し、表面粗さRa=0.02μm以下とした焼結体を使用した。
【0044】
(色調差)
表面の色調として厚み3mmの焼結体試料の表面の色調、及び、内部の色調として当該焼結体の表面を研磨して厚み2mmとした焼結体試料の表面(研磨面)について、それぞれ色調を測定し、以下の式から色調差を求めた。
△E*Lab={(L1
*-L2
*)2+(a1
*-a2
*)2+(b1
*-b2
*)2}1/2
上式において、L1
*、a1
*及びb1
*は、試料厚み3mmの焼結体試料の表面のL*、a*及びb*であり、L2
*、a2
*及びb2
*は、試料厚み2mmの焼結体試料の表面のL*、a*及びb*である。
【0045】
(二軸曲げ強度)
ISO/DIS6872に準拠した方法により、焼結体試料の二軸曲げ強度を測定した。測定には、直径16mm、厚さ1mmの円板状の焼結体試料を用いた。測定は同一の条件で作製された焼結体試料について3回行い、その平均値をもって二軸曲げ強度とした。
【0046】
実施例1
(原料粉末の調製)
アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.4質量%、コバルト含有量が0.2質量%、チタン含有量が5.0質量%、及び、残部が4mol%イットリウム固溶ジルコニアとなるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量した。秤量後の粉末と、エタノール溶媒とを混合し、ボールミルで混合して混合粉末を得た。該混合粉末50gを、大気雰囲気、110℃で溶媒を除去した後、目開500μmの篩を使用して混合粉末を篩分けし、粒径500μm以下の粉末を得、これを原料粉末とした。
原料粉末を圧力50MPaで一軸プレスした後、圧力200MPaの冷間静水圧プレス処理し、直径20mm、厚さ4.3mmの円柱状の成形体を得た。該成形体をアルミナ製坩堝に配置し、以下の条件で予備焼結し、予備焼結体を得た。
予備焼結方法 : 常圧焼結
予備焼結雰囲気: 大気雰囲気
予備焼結温度 : 1350℃
予備焼結時間 : 2時間
予備焼結の昇温及び降温に要した時間は合計21時間であった。
該予備焼結体を蓋付のカーボン製坩堝に配置した後、発熱体としてカーボンヒーター、及び、断熱材としてカーボン製断熱材を備えたHIP装置(装置名:Dr.HIP、KOBELCO社製)に該カーボン製坩堝を配置した。これを以下の条件による弱還元雰囲気でHIP処理することにより、HIP処理体を得た。
HIP処理温度 :1500℃
HIP処理時間 :1時間
HIP処理圧力 :150MPa
圧力媒体 :アルゴンガス(純度:99.9%)
HIP処理の加圧、昇温及び降温に要した時間は合計6.5時間であった。
【0047】
得られたHIP処理体を以下の条件で熱処理することで、アルミナ、鉄、コバルト及びチタンを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.4質量%、コバルト含有量が0.2質量%、及び、チタン含有量が5.0質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
熱処理方法 :常圧焼成
熱処理雰囲気:大気雰囲気
熱処理温度 :900℃
熱処理時間 :1時間
熱処理工程の昇温及び降温に要した時間は合計13.5時間であった。
予備焼結工程、焼結工程及び熱処理工程に要した合計時間、すなわち、予備焼結工程における昇温から熱処理工程における降温までの合計時間は45時間であった。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が2.00、Ti比率が8.3、単斜晶率が1.0%、平均結晶粒径が1.6μm、Co分布が27.7%、及び、二軸曲げ強度が1020MPaであった。
【0048】
実施例2
アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.53質量%、コバルト含有量が0.27質量%及びチタン含有量が4.5質量%となるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタンを含有し、なおかつ、アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.53質量%、コバルト含有量が0.27質量%、及び、チタン含有量が4.5質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が1.96、Ti比率が5.6、単斜晶率が1.5%、平均結晶粒径が1.4μm、及び、二軸曲げ強度が1005MPaであった。
【0049】
実施例3
アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.4質量%、コバルト含有量が0.2質量%及びチタン含有量が4.5質量%となるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタンを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.4質量%、コバルト含有量が0.2質量%、及び、チタン含有量が4.5質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が2.00、Ti比率が7.5、単斜晶率が1.1%、平均結晶粒径が1.6μm、Co分布が37.4%、及び、二軸曲げ強度が1010MPaであった。
実施例4
酸化鉄粉末及び酸化コバルト粉末の代わりにコバルトフェライト粉末を使用したこと、並びに、アルミウム含有量が2.0質量%、コバルトフェライト含有量が0.46質量%及びチタン含有量が4.5質量%となるように、アルミナ粉末、コバルトフェライト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと、並びに、HIP処理温度を1550℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、コバルト、鉄及びチタンを含有し、なおかつ、アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.31質量%、コバルト含有量が0.15質量%及びチタン含有量が4.5質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。なお、HIP処理の加圧、昇温及び降温に要した時間は合計6.6時間であり、熱処理工程の昇温及び降温に要した時間は合計13.6時間であった。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が2.07、Ti比率が9.8、単斜晶率が1.2%、平均結晶粒径が2.2μm、Co分布が1.0%、及び、二軸曲げ強度が1300MPaであった。
実施例5
酸化鉄粉末及び酸化コバルト粉末の代わりにコバルトフェライト粉末を使用したこと、並びに、アルミウム含有量が2.0質量%、コバルトフェライト含有量が0.62質量%及びチタン含有量が4.5質量%となるように、アルミナ粉末、コバルトフェライト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと、並びに、HIP処理温度を1550℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、コバルト、鉄及びチタンを含有し、なおかつ、アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.41質量%、コバルト含有量が0.21質量%、及び、チタン含有量が4.5質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。なお、HIP処理の加圧、昇温及び降温に要した時間は合計6.6時間であり、熱処理工程の昇温及び降温に要した時間は合計13.6時間であった。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が1.95、Ti比率が7.3、単斜晶率が1.2%、平均結晶粒径が2.2μm、Co分布が17.5%、及び、二軸曲げ強度が1190MPaであった。
実施例6
酸化鉄粉末及び酸化コバルト粉末の代わりにコバルトフェライト粉末を使用したこと、並びに、アルミウム含有量が2.0質量%、コバルトフェライト含有量が0.81質量%及びチタン含有量が4.5質量%となるように、アルミナ粉末、コバルトフェライト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと、並びに、HIP処理温度を1550℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、コバルト、鉄及びチタンを含有し、なおかつ、アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.54質量%、コバルト含有量が0.27質量%及びチタン含有量が4.5質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。なお、HIP処理の加圧、昇温及び降温に要した時間は合計6.6時間であり、熱処理工程の昇温及び降温に要した時間は合計13.6時間であった。
本実施例の焼結体の結晶相は正方晶ジルコニアを主相とし、Fe/Co比が2.00、Ti比率が5.6、単斜晶率が1.6%、平均結晶粒径が2.2μm、Co分布が38.2%、及び、二軸曲げ強度が1030MPaであった。
【0050】
比較例1
アルミウム含有量が0.25質量%、鉄含有量が0.16質量%、コバルト含有量が0.04質量%及びチタン含有量が3.0質量%となるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、3mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタンを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が0.25質量%、鉄含有量が0.16質量%、コバルト含有量が0.04質量%、及び、チタン含有量が3.0質量%である、3mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
【0051】
比較例2
アルミウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.27質量%、コバルト含有量が0.13質量%及びチタン含有量が2.0質量%となるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタニアを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が2.0質量%、鉄含有量が0.27質量%、コバルト含有量が0.13質量%、及び、チタン含有量が2.0質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
【0052】
比較例3
アルミウム含有量が4.0質量%、鉄含有量が0.27質量%、コバルト含有量が0.13質量%及びチタン含有量が4.0質量%となるように、アルミナ粉末、酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、及び、4mol%イットリウム固溶ジルコニア粉末を秤量したこと以外は実施例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタニアを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が4.0質量%、鉄含有量が0.27質量%、コバルト含有量が0.13質量%、及び、チタン含有量が4.0質量%である、4mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
実施例及び比較例の結果を下表に示す。
【0053】
【0054】
実施例の焼結体はいずれも、漆黒色を呈する漆黒色ジルコニア焼結体であることが確認できる。さらに、実施例の色調差は3.2以下のA級許容差であるのに対し、視認による違いは確認できなかった。これにより、従来の焼結工程に要する時間と同様な時間で、色調差がA級許容差となる焼結体が得られることが確認できた。また、実施例の焼結体を、それぞれ、大気雰囲気、800℃、1時間で焼成した。その結果、焼成前後の焼結体質量の増加はなく、実施例の焼結体に含まれるチタンは四価チタン(Ti4+)であることが確認できた。
また、実施例3の焼結体に対し、チタン含有量が多い実施例1の焼結体はCo分布が小さく、着色成分の拡散が促進されていることが確認できる。さらに、実施例4乃至6から着色成分の含有量の増加に伴い、色調差が低下する傾向があることが確認できる。
一方、比較例1の焼結体の色調差はB級許容差であり、また、視認による離間比較により、表面と内部の色調が異なることが確認できた。比較例では、従来の焼結工程に要する時間と同様な時間による製造方法では、色調差がA級許容差となる焼結体が得られないことが確認できた。更に、実施例と比べ、チタン含有量が少ない比較例2は表面と内部の色調差が大きいことが確認できる。
【0055】
比較例4
焼結工程の昇温速度を遅くすることにより、予備焼結工程、焼結工程及び熱処理工程に要した合計時間を58.5時間としたこと以外は比較例1と同様な方法で、アルミナ、鉄、コバルト及びチタンを含有し、なおかつ、アルミニウム含有量が0.25質量%、鉄含有量が0.16質量%、コバルト含有量が0.04質量%、及び、チタン含有量が3.0質量%である、3mol%イットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
本比較例の焼結体は、比較例1と同様な色調を呈しており、焼結時間を長時間化しても、色調差の抑制は限定的であった。
令和4年3月17日に出願された日本国特許出願2022-042765号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本開示の明細書の開示として、取り入れる。