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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013862
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】電離体の捕集装置及び捕集方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20230119BHJP
   B64G 1/64 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G01N1/02 J
G01N1/02 R
B64G1/64 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118319
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 創
(72)【発明者】
【氏名】曽根 理嗣
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
(72)【発明者】
【氏名】岸本 治夫
(72)【発明者】
【氏名】北浦 弘和
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石山 智大
(72)【発明者】
【氏名】高橋 綾香
(72)【発明者】
【氏名】梅田 実
(72)【発明者】
【氏名】稲川 沙代子
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA04
2G052AA38
2G052AA40
2G052AB27
2G052AB28
2G052AC07
2G052AD17
2G052AD37
2G052AD53
2G052AD57
2G052BA03
2G052BA17
2G052BA21
2G052DA02
2G052DA03
2G052DA21
2G052GA09
2G052JA08
2G052JA15
2G052JA16
(57)【要約】
【課題】本発明は、電離体の捕集装置及び捕集方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る電離体の捕集装置は、周壁と底壁を有し、前記周壁の上部に開口部を有する単数あるいは複数の容器本体と、該容器本体の底部に形成された粒子衝突部と、前記容器本体の周壁内面と底面の少なくとも一方に形成された1つ以上の電離体捕集部を備えることを特徴とする。前記電離体捕集部が、前記周壁の内面に複数形成され、前記複数の電離体捕集部が個々に異なる元素に対する親和性を有する電離体捕集部であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁と底壁を有し、前記周壁の上部に開口部を有する単数あるいは複数の容器本体と、該容器本体の底部に形成された粒子衝突部と、前記容器本体の周壁内面と底面の少なくとも一方に形成された1つ以上の電離体捕集部を備えることを特徴とする電離体の捕集装置。
【請求項2】
前記電離体捕集部が、前記周壁の内面と底面の少なくとも一方に複数形成され、前記複数の電離体捕集部が個々に異なる元素に対する親和性を有する電離体捕集部であることを特徴とする請求項1に記載の電離体の捕集装置。
【請求項3】
前記電離体捕集部が、前記粒子衝突部に対し高速衝突された粒子から生成された電離体を堆積させる電離体捕集部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電離体の捕集装置。
【請求項4】
前記電離体捕集部が、前記周壁の底壁側から前記開口部側にかけて所定の幅を有し、前記周壁の内周に形成された環状の電離体捕集部または底面に形成された電離体捕集部であり、前記底面側から前記開口部側に向かって前記電離体捕集部が複数形成された請求項1~請求項3の何れか一項に記載の電離体の捕集装置。
【請求項5】
複数の容器本体を備え、個々の容器に形成された電離体捕集部が個々に異なる元素に対する親和性を有する電離体捕集部である請求項1または請求項3に記載の電離体の捕集装置。
【請求項6】
前記電離体捕集部が、樹脂、ステンレス、ホウ素ドープシリコン、チタン、金、リチウム、銅、水素吸蔵合金、遷移金属、金属酸化物、タングステンのうち、1種または2種以上からなる請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の電離体の捕集装置。
【請求項7】
前記電離体捕集部が、前記周壁の底壁側から前記開口部側にかけて所定の幅を有し、前記周壁内周に形成された環状の電離体捕集部または底面の電離体捕集部であり、前記底壁側から前記開口部側に向かって前記電離体捕集部が複数形成されるとともに、
前記電離体捕集部が、前記周壁の周方向に複数の分割層に分割され、前記複数の分割層が個々に異なる元素に対する親和性を有することを特徴とする請求項1に記載の電離体の捕集装置。
【請求項8】
前記電離体捕集部が、樹脂、ステンレス、ホウ素ドープシリコン、チタン、金、リチウム、銅、水素吸蔵合金、遷移金属、金属酸化物、タングステンのうち、1種または2種以上からなる請求項7に記載の電離体の捕集装置。
【請求項9】
前記粒子衝突部が凹曲面あるいは凹凸面からなる請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の電離体の捕集装置。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の電離体の捕集装置を宇宙機に搭載し、宇宙空間から飛来する高速の固体微粒子を前記容器本体内に突入させ、突入した固体微粒子を前記粒子衝突部に衝突させることで生じる、前記固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体を前記電離体捕集部に衝突させ、前記電離体捕集部上に前記固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体を堆積させる電離体の捕集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離体の捕集装置及び捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間には1mm未満の固体微粒子が無数に存在している。
地球を含む惑星間空間には宇宙塵、あるいはマイクロメテオロイドと呼ばれる、彗星・小惑星などの太陽系小天体や星間物質由来の固体微粒子が存在している。現在も年間数万トンの宇宙塵が地球へ到達していると考えられており、その中には地球の海水や生命の原材料たる構成物質も含まれていると見られている。それゆえ、この目に見えないサイズの天然固体微粒子を分析研究することで、地球の海、生命、そして太陽系自体の成り立ちや進化、太陽系外の宇宙空間に関する科学情報が得られると考えられている。
一方、地球軌道上には微小スペースデブリと呼ばれる人類の宇宙活動由来の固体物質が周回しており、これらの固体物質は、運用中の人工衛星の物理的破壊や姿勢擾乱、表面劣化や汚染などを引き起こす有害物質として、観測・計測・捕集・分析研究などが進められている。
【0003】
宇宙空間に存在するこれらの固体微粒子を捕集することが困難な要因として、目に見えないほどの微小なサイズ以外に、宇宙機との会合速度が超高速領域に達する点が挙げられる。例えば、地球低軌道上の微小スペースデブリの周回速度は秒速8km、流星群の元となる彗星起源宇宙塵の地球との会合速度は最大秒速70kmにも達する。
宇宙航空研究開発機構では、これらの固体微粒子を宇宙空間で捕集する実験として、捕集専用のパネルをISS(国際宇宙ステーション)の外壁部に1年間以上曝露した後に、地上の実験室へ回収して、2015~2020年の5年間にわたり継続的に捕集試料を分析してきた。
【0004】
前述のパネルは、宇宙への曝露面が厚さ2cm程度の2層構造を持つ低密度シリカエアロゲルと、それをISSの外壁に固定するアルミニウム合金製の外部容器から構成されている点が特徴である。
また、このパネルは、超高速で衝突する微粒子をなるべく破壊、変成させずに捕集する為に、シリカエアロゲルで微粒子を減速させ、アルミ底面へ到達するまでに捕集させるシステムである。シリカエアロゲルに捕集された微粒子の残留物と、アルミニウム合金製の外部容器に残された衝突痕の詳細を調べる為に、パネルは地球へ回収される。
アルミニウム合金のフレーム内にシリカエアロゲルを装着した類似のパネルによる宇宙空間での固体微粒子捕集は、1990年代より欧米で開始されている。しかしながら、宇宙航空研究開発機構の宇宙実験が、史上最も密度の低いエアロゲルを用いたため、宇宙空間において微粒子の捕集に成功していると言える(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Makoto Tabata, Hideyuki Kawai, Hajime Yano, Eiichi Imai, Hirofumi Hashimoto, Shin-ichi Yokobori, Akihiko Yamagishi, Ultralow-density double-layer silica aerogel fabrication for the intact capture of cosmic dust in low-Earth orbits, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 77(2), p325-334, (2015).
【非特許文献2】Makoto Tabata, Hajime Yano, Hideyuki Kawai, Eiichi Imai, Yuko Kawaguchi, Hirofumi Hashimoto, Akihiko Yamagishi: Silica aerogel for capturing intact interplanetary dust particles for the Tanpopo experiment, ORIGINS OF LIFE AND EVOLUTION OF BIOSPHERES, 45(1-2), p225-229,(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低密度捕集材を使ったこれらの従来技術では、捕集材の内部を破壊しながら減速する衝突微粒子の到達最高温度を抑えることで、破壊や変成を低減することに重点を置いている。
ところが、将来の深宇宙探査で検討されている、秒速15km以上もの極超高速で衝突してくる固体微粒子を破壊、溶融、電離などを完全に避ける形で捕集することは、例えばシリカエアロゲルのような低密度の捕集材を用いても困難と考えられる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、宇宙空間において極超高速で衝突してくる固体微粒子から、その物質情報を確実に捕捉できる電離体の捕集装置及び捕集方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シリカアエロゲルのような低密度捕集材を用いた固体微粒子の捕集方法について再検討し、宇宙空間において極超高速で飛来する固体微粒子の物質情報の捕捉に関し、従来とは全く異なる着想に基づき捕捉方法について研究した。
その結果、前述のレベルの速度領域で標的に一次衝突する固体微粒子を意図的にプラズマ化させて生じた電離物質およびガス物質の混合体を、プラズマコーティングおよび反応性スパッタリング法の要領で捕集容器の壁面へ二次衝突させると、捕集装置の容器内壁面に衝突微粒子の物質情報を残すことが可能になると考えた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、手段として、以下の構成を有する。
(1)本形態に係る電離体の捕集装置は、周壁と底壁を有し、前記周壁の上部に開口部を有する単数あるいは複数の容器本体と、該容器本体の底部に形成された粒子衝突部と、前記容器本体の周壁内面と底面の少なくとも一方に形成された1つ以上の電離体捕集部を備えることを特徴とする。
【0010】
本形態によれば、電離体の捕集装置を搭載した宇宙機が宇宙空間を移動するか宇宙空間に存在すると、宇宙空間に存在する固体微粒子が捕集装置に向かって飛来し、容器本体の開口部から容器本体内に高速で突入する。
容器本体の底部に設けた粒子衝突部に固体微粒子が衝突すると、固体微粒子がガス化されたガス物質、およびプラズマ化された電離物質の混合体が粒子衝突部により放出され、周壁内面と底面の少なくとも一方の電離体捕集部に衝突する。宇宙空間は真空であり、電離体捕集部に固体微粒子由来の電離物質およびガス物質の混合体の吸着がなされ、電離体捕集部に固体微粒子由来の電離物質およびガス物質の混合体を堆積物として捕集できる。
また、捕集する容器本体の底面にも電離体捕集部を配することで、微粒子の衝突時に微粒子構成材料と一緒に電離体捕集部もプラズマ化すると想定し、微粒子の構成元素と電離体捕集材が双方プラズマ化し、内壁に堆積して捕集する構成とすることもできる。
【0011】
(2)本発明に係る電離体の捕集装置において、前記電離体捕集部が、前記周壁の内面と底面の少なくとも一方に複数形成され、前記複数の電離体捕集部が個々に異なる元素に対する親和性を有する電離体捕集部であることが好ましい。
【0012】
固体微粒子が高速で容器本体底面の粒子衝突部に突入し、プラズマ化した固体微粒子由来の物質が電離体捕集部に衝突する。固体微粒子がガス化されたガス物質およびプラズマ化された電離物質の混合体に対し電離体捕集部が親和性の低い材料で構成されていると、同混合体が電離体捕集部に付着する確率が低くなり、同混合体が堆積する確率が低くなる。
固体微粒子がガス化されたガス物質およびプラズマ化された電離物質の混合体に対し電離体捕集部が親和性の高い材料で構成されていると、同混合体が電離体捕集部に付着する確率が高くなり、同混合体が堆積する確率が高くなる。これにより、電離体捕集部において固体微粒子起源の電離物質の捕集を確実にできるようになる。
(3)本発明に係る捕集装置において、前記電離体捕集部が、前記粒子衝突部に対し高速衝突された粒子から生成された電離体を堆積させる電離体捕集部であることが好ましい。
高速衝突された粒子を起因とする電離体は、電離体捕集部に効率良く堆積される。
【0013】
(4)本発明に係る電離体の捕集装置において、前記電離体捕集部が、前記周壁の底壁側から前記開口部側にかけて所定の幅を有し、前記周壁の内周に形成された環状の電離体捕集部または底面に形成された電離体捕集部であり、前記底壁側から前記開口部側に向かって前記電離体捕集部が複数形成された高速衝突電離体の捕集装置であることが好ましい。
【0014】
容器本体に高速で突入した固体微粒子が容器本体底部の粒子衝突部に衝突する際に生じるガス物質および電離物質の混合体は、壁内面の異なる位置に設けられた環状の電離体捕集部または底面の電離体捕集部に衝突する。固体微粒子に伴うガス物質および電離物質の混合体は、固体微粒子を構成する元素の種類に応じ異なるので、複数の電離体捕集部のうち、いずれかに効率よく堆積する。
【0015】
(5)本発明に係る電離体の捕集装置において、複数の容器本体を備え、個々の容器に形成された電離体捕集部が個々に異なる元素に対する親和性を有する電離体捕集部である構成を採用できる。
【0016】
異なる材料の電離体捕集部ごとに容器本体を用意することで、捕集する元素をそれぞれの容器本体に分別することができる。
【0017】
(6)本発明に係る(1)~(3)に記載の電離体の捕集装置において、前記電離体捕集部が、樹脂、ステンレス、ホウ素ドープシリコン、チタン、金、リチウム、銅、水素吸蔵合金、遷移金属、金属酸化物、タングステンのうち、1種または2種以上からなることが好ましい。
【0018】
樹脂層の場合、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、N、Oのうち1種または2種以上に対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
ステンレス層の場合、CrとCrNのうち1種または2種に対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
ホウ素ドープシリコン層の場合、CrNに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるCrN由来の電離物質を堆積できる。
チタン層の場合、Ca、P、Oに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
金層の場合、Co、C、Nに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
【0019】
リチウム層の場合、Mg、Na、Si、Alに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
水素吸蔵合金層の場合、Hに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれる水素原子由来の電離物質を堆積できる。
遷移金属層は、Pに対し親和性を有するので、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cuのいずれかを選択し、固体微粒子内に含まれるP由来の電離物質を堆積できる。
Ti、Mn、Feを目的元素として、捕集目的の金属元素と重ならない元素の金属酸化物層を適用した場合、Ti、Mn、Feを元素Mと仮定し、M-Oの化合物を捕集し、酸素の同位体を用いることで、捕集する酸素との区別ができる。
タングステン層の場合、タングステンはCに対し親和性を有するので、固体微粒子内に含まれるC由来の電離物質を堆積できる。
【0020】
電離体捕集部の材料と衝突する固体微粒子を起源とする元素を識別するため、電離体捕集部の材料には同位体元素を利用することができ、同位体の比率の違いから地球で用意された元素か、宇宙空間で捕集された成分かを区別可能とすることができる。
【0021】
(7)本発明に係る(1)に記載の電離体の捕集装置において、前記電離体捕集部が、前記周壁の底壁側から前記開口部側にかけて所定の幅を有し、前記周壁内周に形成された環状の電離体捕集部または底面の電離体捕集部であり、前記底壁側から前記開口部側に向かって前記電離体捕集部が複数形成されるとともに、前記電離体捕集部が、前記周壁の周方向に複数の分割層に分割され、前記複数の分割層が個々に異なる元素に対する親和性を有することが好ましい。
【0022】
電離体捕集部を複数の分割層に分割し、分割層毎に異なる元素に対する親和性を有する層とするならば、容器本体の内壁の周方向に複数の元素由来の電離物質を堆積できる分割層を複数設けることができる。
【0023】
(8)本発明に係る(7)に記載の電離体の捕集装置において、前記電離体捕集部が、樹脂、ステンレス、ホウ素ドープシリコン、チタン、金、リチウム、銅、水素吸蔵合金、遷移金属、金属酸化物、タングステンのうち、1種または2種以上からなることが好ましい。
【0024】
(9)本発明に係る(1)~(8)のいずれかに記載の電離体の捕集装置において、前記粒子衝突部が凹曲面あるいは凹凸面からなることが好ましい。
【0025】
凹曲面あるいは凹凸面により固体微粒子が衝突する際に生じるガス物質および電離物質の混合体を周壁内面側に確実に放出させることができ、周壁内面や底壁内面に設けた複数の電離体捕集部にガス物質および電離物質の混合体を確実に衝突させることができる。これにより、電離体捕集部において固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体の捕集が確実にできるようになる。
【0026】
(10)本発明に係る電離体の捕集方法は、(1)~(9)のいずれか一項に記載の捕集装置を宇宙機に搭載し、宇宙空間から飛来する高速の固体微粒子を前記容器本体内に突入させ、突入した固体微粒子が衝突する際に生じるガス物質および電離物質の混合体を前記粒子衝突部により放出させ、前記固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体として前記電離体捕集部に衝突させ、前記電離体捕集部上に前記固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体を堆積させることを特徴とする。
【0027】
容器本体に高速で突入した固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体は容器本体底部の粒子衝突部により放出されて周壁内面に設けられた電離体捕集部に衝突する。これにより、固体微粒子に起因するガス物質および電離物質の混合体を電離体捕集部に堆積させて捕集できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電離体の捕集装置を搭載した宇宙機が宇宙空間を移動するか宇宙空間に存在すると、宇宙空間に存在する固体微粒子が捕集装置に向かって飛来し、容器本体の開口部から容器本体内に高速で突入する。
容器本体の底部に設けた粒子衝突部に固体微粒子が衝突すると、固体微粒子がガス化されたガス物質、およびプラズマ化された電離物質の混合体が粒子衝突部により放出され、固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体が周壁内面と底面の少なくとも一方の電離体捕集部に衝突する。宇宙空間は真空であり、固体微粒子が高速で移動し、粒子衝突部に衝突すると固体微粒子由来の電離物質およびガス物質の混合体が、電離体捕集部に衝突する。これにより、電離体捕集部に固体微粒子由来の電離物質およびガス物質の混合体を堆積させることができ、固体微粒子の物質情報を捕集できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係る捕集装置の斜視図。
図2】同捕集装置に対する固体微粒子の突入状態の一例を示す透視図。
図3】本発明の第2実施形態に係る捕集装置の斜視図。
図4】同捕集装置に対する固体微粒子の突入状態の一例を示す透視図。
図5】本発明の第3実施形態に係る捕集装置の斜視図。
図6】本発明の第4実施形態に係る捕集装置の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
「第1実施形態」
以下、本発明の第1実施形態に係る電離体の捕集装置に関し、一例を挙げて本発明の詳細について説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に制限されるものではない。
図1は本発明の第1実施形態に係る電離体の捕集装置を示す斜視図であり、図2は同捕集装置の部分断面図である。
本実施形態の捕集装置1は、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)構造体などからなるタンブラー状の容器本体2から構成されている。容器本体2は円筒状の周壁2Aと周壁2Aの一側開口を閉じる底壁2Bを有する。
図の例では容器本体2がタンブラー状であるため、周壁2Aの高さは底壁2Bの外径の数倍程度に形成され、容器本体2の周壁2Aにおいて底壁2Bと反対側には開口部2Cが形成されている。なお、容器本体2がタンブラー状であることは一つの例に過ぎないので、周壁2Aの高さと底壁2Bの外径の比率に特に制限はない。図に示す形状より周壁2Aの高さが高い容器形状でも良く、周壁2Aの高さが低い容器形状でも良く、底壁2Bの外径が更に大きい容器形状でも良い。また、周壁2Aは角筒型や他の形状でも良く、底壁2Bの平面形状も円形ではなく、多角形状など、いずれの形状でも差し支えない。
さらに複数のタンブラー状容器本体を隣接させて配置し、複数の開口部と底面を有する構成としても良い。複数の容器本体を隣接配置する構成については、後の実施形態において説明する。
【0031】
容器本体2の底壁2Bにおいて上面側は凹曲面状に加工された粒子衝突部2Dが形成されている。図1図2の例において粒子衝突部2Dは底壁上部を半球状にくり抜いた凹曲面状に形成されている。
周壁2Aの内周面において、粒子衝突部2の上部から周壁2Aの高さ方向中央部側の部分にかけて、周壁2Aの内周面を周回するリング状(環状)の電離体捕集部3が複数形成されている。また、容器本体2の底壁2Bの内面も電離体捕集部3を兼ねている。
本実施形態では、周壁2Aの高さ方向に沿う幅を一定幅とした電離体捕集部3が10個形成されている。周壁2Aの高さ方向に沿う電離体捕集部3の高さ(幅)は、全て同等である必要はなく、異なっていても良い。
【0032】
電離体捕集部3のうち、第1番目の層は、樹脂層からなる。樹脂層は、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、N(窒素)、O(酸素)のうち1種または2種以上に対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
電離体捕集部3のうち、第2番目の層は、ステンレス層からなる。ステンレス層は、CrとCrNのうち1種または2種に対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。容器本体2をステンレス鋼製とした場合、容器本体2の内周面をそのまま第2番目の電離体捕集部3とすることができる。
電離体捕集部3のうち、第3番目の層は、ホウ素ドープシリコン層(100)からなる。ホウ素ドープシリコン層の場合、CrNに対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるCrN由来の電離物質を堆積できる。
【0033】
電離体捕集部3のうち、第4番目の層は、チタン層からなる。チタン層の場合、Ca(カルシウム)、P(リン)、Oに対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
【0034】
電離体捕集部3のうち、第5番目の層は、金(Au)層からなる。金層の場合、Co、C、Nに対し親和性を有するので、これらいずれかの原子由来の電離物質を堆積できる。
電離体捕集部3のうち、第6番目の層は、リチウム(Li)層からなる。リチウム層の場合、Mg(マグネシウム)、Na(ナトリウム)、Si(ケイ素)、Al(アルミニウム)に対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるこれらの原子由来の電離物質を堆積できる。
電離体捕集部3のうち、第7番目の層は、水素吸蔵合金層からなる、水素吸蔵合金の場合、水素(H)に対し親和性を有するので、水素原子由来の電離物質を堆積できる。水素吸蔵合金として、LaNi、TiMn1.5、ZrMn、TiFe、V(Ti,Cr)、MgNiのいずれか、または、Li、Na、Mg、Ca、Ti、Vの何れかを含む水素吸蔵合金を採用できる。
【0035】
電離体捕集部3のうち、第8番目の層は、遷移金属層からなる。遷移金属層は、Pに対し親和性を有するので、遷移金属の内、Sc(スカンジウム)、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu(銅)のいずれかを選択し、Pを由来とする電離物質を堆積できる。
電離体捕集部3のうち、第9番目の層は、Ti、Mn、Feを目的元素として、捕集目的の金属元素と重ならない元素の金属酸化物層を適用できる。Ti、Mn、Feを元素Mと仮定し、M-Oの化合物を捕集し、酸素の同位体を用いることで、捕集する酸素との区別ができる。
電離体捕集部3のうち、第10番目の層は、タングステン(W)層からなる。タングステン層の場合、タングステンはCに対し親和性を有するので、固体微粒子に含まれるCを由来とする電離物質を堆積できる。
なお、第1番目の層~第10番目の層を配置する順序は、上述の例に限らず、いずれの順番を選択しても良い。
電離体捕集部3の表面は、電離体の元素の種類などの違いにより捕集しやすい表面状態が異なる為、表面粗さを適宜調整することが望ましい。
表面粗さを鏡面~Ra数十ミクロンレベルの間で最適値に加工することで捕集効率を上げることができる。
【0036】
また、各電離体捕集部3において、それらを周方向に複数に分割した構造を採用しても良い。その場合、図1では周方向に分割する場合の境界部を直線状の仕切線aで示した。
各電離体捕集部3において上述したように周方向に全て同じ物質に親和性を有する層を形成しても良く、仕切線aで区分した領域毎に異なる元素に親和性を有する層としても良い。その場合の具体的な構造については、後の第3実施形態において説明する。
【0037】
以上説明の捕集装置1は、地球周回軌道上の人工衛星、あるいは、他の惑星や衛星、彗星、小惑星などを目指して航行する宇宙機、深宇宙空間を航行する宇宙機などに搭載して使用する。宇宙機に搭載した捕集装置1は宇宙機の内部にシャッター装置などで掩蔽した状態で搭載し、目的の宇宙空間においてシャッター装置を開放して容器本体2の開口部2Cを宇宙空間に開口し、固体微粒子の突入を可能とすることが望ましい。なお、捕集装置1の設置位置は特に限定するものではなく、宇宙機の外壁や外側などに露出した状態で取り付けても良い。あるいは、容器本体2の開口部2Cを閉じる蓋板を取り付けた状態で宇宙機の外壁や外側などに取り付け、目的の宇宙空間において蓋板を取り外して容器本体2の開口部2Cを宇宙空間に開口してもよい。
【0038】
高速衝突電離体捕集装置1を搭載した宇宙機が目的の宇宙空間を移動するか目的の宇宙空間に存在すると、宇宙空間に存在する固体微粒子が捕集装置1に向かって高速で飛来し、容器本体2の開口部2Cから容器本体2内に高速の固体微粒子Aとして突入する。
容器本体2の底部に設けた粒子衝突部2Dに高速の固体微粒子Aが衝突すると図2に示すように、固体微粒子がガス化されたガス物質およびプラズマ化された電離物質の混合体Bが粒子衝突部2Dから放出され、周壁内面の10個の電離体捕集部3のいずれかに衝突する。
【0039】
宇宙空間は真空であり、固体微粒子が高速で移動し、粒子衝突部2Dに衝突すると固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体Bとして放出され、電離体捕集部3に衝突する。これにより、10個の電離体捕集部3のいずれかに固体微粒子Aのガス物質および電離物質の混合体を堆積させることができ、固体微粒子起源の物質情報を捕集できる。
粒子衝突部2Dは底壁上部を半球状にくり抜いた凹曲面を有するため、粒子衝突部2Dの中心からずれた位置に衝突した固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体は衝突位置毎に反射角度を有するように放出され、周壁2Aの内面および底面に衝突する。
【0040】
例えば、宇宙機が地球低軌道上を周回しているとして微小スペースデブリなどの固体微粒子の周回速度が秒速8kmである場合、彗星起源の宇宙塵などの固体微粒子として宇宙機との会合速度が最大秒速70kmである場合、深宇宙探査において固体微粒子が秒速15km以上の極超高速である場合、のいずれの場合であっても、電離体捕集部3のいずれかに固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体を堆積させることができ、固体微粒子起源の物質情報を捕集できる。
上述の固体微粒子は、秒速8km、秒速70kmなどの超高速、秒速15km以上の極超高速において粒子衝突部2Dに衝突すると、衝撃波を生じ、固体でありながら、流体のような振る舞いを起こすとともに破壊、昇華、電離という変成を経て、容器本体2の電離体捕集部3または底面にこれら固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体が堆積する。
【0041】
なお、これらの固体微粒子が宇宙空間において上述の速度でガス化やプラズマ化しつつ電離体捕集部3に衝突する現象は、地上において真空容器中でCVD(化学気相成長法)やPVD(物理気相成長法)などで基板上にコーティングを行う条件の真空度と等価である。
例えば、国際宇宙ステーションが周回する地表高度400kmでは10-4~10-5Pa程度、静止軌道上では10-8Pa程度、恒星間空間では10-11Paの真空度であると云われている。これに対し、成膜装置の真空ポンプにより成膜室を真空とする場合、10-3Pa未満の真空状態に調整することが一般的になされている。また、上述の真空度においてプラズマ等を発生させて基板上に成膜することがなされている。従って、CVDやPVDにより基板上に成膜する現象と同様に、電離体捕集部3上にあるいは底面に堆積物を得ることができる。
【0042】
また、CVDやPVDにおいて、各種の成膜に用いる基板材料と、堆積するべき膜の構成材料との親和性の良し悪しに応じ、基板上に堆積させる成膜材料の堆積効率に差異が生じる。
本願で用いる電離体捕集部3も同様に、上述の第1番目の電離体捕集部3~第10番目の電離体捕集部3に各層に対し親和性の高い原子の電離物を起因とする堆積物が堆積しやすいと言える。
【0043】
上述の宇宙機を地球に帰還させ、捕集装置1を回収すれば、従来方法では困難と考えられていた極超高速度などの高速で衝突する固体微粒子の物質情報のサンプルリターンも実現できる。勿論、超高速で衝突する固体微粒子の物質情報のサンプルリターンも実現できる。
回収した捕集装置1において、第1番目の電離体捕集部3の堆積物が存在する場合、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、N、Oのいずれかに起因する電離物が主に堆積していると推定できる。従って、上述の宇宙機が通過した宇宙空間に、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、N、Oのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
【0044】
第2番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、CrとCrNのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第3番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、CrNを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第4番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、Ca、P、Oのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
【0045】
第5番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、Co、C、Nのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第6番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、Mg、Na、Si、Al、O、Sのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第7番目の電離体捕集部3に堆積物が存在する場合、Hを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
【0046】
第8番目の電離体捕集部3の堆積物が存在する場合、Pを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第9番目の電離体捕集部3の堆積物が存在する場合、Ti、Mn、Feのいずれかを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
第10番目の電離体捕集部3の堆積物が存在する場合、Cを含む固体微粒子が存在していたと推定できる。
【0047】
従って、各電離体捕集部3の堆積物を分析し把握することで、宇宙機が地球周回軌道上を周回している場合の宇宙空間に存在する固体微粒子、あるいは、彗星、小惑星や惑星、衛星などの探査に向かった場合の深宇宙空間に存在している固体微粒子に含まれている元素の存在を推定することができる。
本実施形態の捕集装置1において、更に別の元素を目的捕集対象とする場合は、電離体捕集部3を更に必要数設け、対象とする元素に合わせた親和性の高い材料からなる電離体捕集部3を設けると良い。
例えば、S(硫黄)を捕集目的対象元素とする場合は、CuやLi等の材料からなる層を用いることができる。
【0048】
また、宇宙塵には太陽系、地球、海水、生命原材料などの起源や進化に関する情報が含まれていることが期待されるため、本発明の捕集装置1を宇宙機に搭載して用いることで、新たな科学知見の発展に貢献出来る。また、電離体捕集部3に堆積させる物質は、宇宙塵の他に太陽風に起因する物質などでも良い。
さらに、本願発明は固体微粒子を電離さえすれば、宇宙空間に限らず地球上でも、原子炉や火山付近など、人間が直接赴いて直接観測することが難しい現場に応用可能であり、未知の環境における固体微粒子の構成元素を把握する新たな一助になり得る。
【0049】
「第2実施形態」
図3は本発明の第2実施形態に係る高速衝突電離体の捕集装置を示す斜視図であり、図4は同捕集装置の部分断面図である。
本実施形態の捕集装置10は、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス合金、CFRP構造体などからなるタンブラー状の容器本体12から構成されている。容器本体12は円筒状の周壁12Aと周壁12Aの一側開口を閉じる底壁12Bを有する。
容器本体12の底壁12Bにおいて上面側は4角錐型の突起13が複数形成された凹凸面からなる粒子衝突部12Dが形成されている。突起13には4つの斜面13aが形成されている。
【0050】
図3図4の例において底壁12Bは平板状に形成され、この底壁12Bの上面側に縦横に整列された4角錐型の突起13が複数形成されている。図3図4の例において突起13は底壁12Bの上面に縦横に数行~10数行、数列~10数列程度形成されている。突起13の高さは図3図4の例では容器本体12の周壁12Aの高さの1/10程度に形成されている。
なお、突起13の高さや幅は図示の例に限らず、任意の高さや幅を選定できるが、後述する固体微粒子の衝突により放出した固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体が周壁12Aの内面に衝突できるような斜面13aを有する突起13であれば、突起13の形状は特に問わない。
【0051】
周壁12Aの内周面において、粒子衝突部12Dの上部から周壁12Aの高さ方向中央部側の部分にかけて、周壁12Aの内周面を周回するリング状(環状)の電離体捕集部3が複数形成されている。本実施形態に設ける電離体捕集部3は第1実施形態で設けた電離体捕集部3と同等である
【0052】
以上説明の捕集装置10は、地球周回軌道上の人工衛星、あるいは、他の惑星や衛星、彗星、小惑星などを目指して航行する宇宙機、深宇宙空間を航行する宇宙機などに搭載して使用する。使用目的と使用方法は第1実施形態の捕集装置1と同等である。
捕集装置10においても、容器本体12の開口部12Cから固体微粒子Aが突入し、粒子衝突部12Dに固体微粒子Aが衝突すると、図4に示すように粒子衝突部12Dから放出され、固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体Bが周壁内面の電離体捕集部3に衝突する。
宇宙空間は真空であり、固体微粒子Aが高速で移動し、粒子衝突部12Dに衝突すると固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体Bが放出され、電離体捕集部3に衝突する。これにより、電離体捕集部3に固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体Bを堆積させることができ、固体微粒子起源の物質情報を捕集できる。
第1番目~第10番目の電離体捕集部3は、いずれも上述の材料からなるので、各捕集部3に堆積した堆積物を把握することで、宇宙機が通過した宇宙空間に存在する固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体の分析から、固体微粒子の存在量および物質構成を推定できる。
その他、第2実施形態の捕集装置10であっても、先の第1実施形態の捕集装置1と同等の作用効果を奏する。
【0053】
「第3実施形態」
図5は本発明の第3実施形態に係る高速衝突電離体の捕集装置を示す斜視図である。
本実施形態の捕集装置20が金属製のタンブラー状の容器本体22から構成されている点は第1実施形態の構造と同等である。容器本体22は円筒状の周壁22Aと周壁22Aの一側開口を閉じる底壁22Bを有する。容器本体22の底壁22Bに形成されている粒子衝突部22Dの形状は第1実施形態の粒子衝突部22Dと同等である。
【0054】
第3実施形態の捕集装置20が第1実施形態の捕集装置1と異なっているのは、電離体捕集部23の構成である。
周壁22Aの内周面において、粒子衝突部22Dの上部から周壁22Aの高さ方向中央部側の部分にかけて、周壁22Aの内周面を周回するリング状(環状)の電離体捕集部23が形成されている。本実施形態では、周壁22Aの高さ方向に沿う幅を一定幅とした電離体捕集部23が5つ形成されている。また、個々の電離体捕集部23は、周壁22Aの周方向に隣接する4つの分割層23a、23b、23a、23bに分割されている。分割層23a、23b、23a、23bの境界には図面において認識しやすいように仕切線aを描いた。
【0055】
第3実施形態の構成では、複数の電離体捕集部23の内、底壁23Bに一番近い位置の第1番目の電離体捕集部23において、分割層23a、23b、23a、23bのうち、分割層23a、23aが第1実施形態の第1番目の電離体捕集部3に用いた樹脂層からなり、分割層23bが第1実施形態の第2番目の電離体捕集部3に用いたステンレス層からなる。
第2番目の電離体捕集部23において、分割層23a、23aが第1実施形態の第3番目の電離体捕集部3に用いたホウ素ドープシリコン層からなり、分割層23b、23bが第1実施形態の第4番目の電離体捕集部3に用いたチタン層からなる。
【0056】
第3番目の電離体捕集部23において、分割層23a、23aが第1実施形態の第5番目の電離体捕集部3に用いた金層からなり、分割層23b、23bが第1実施形態の第6番目の電離体捕集部3に用いたリチウム層からなる。
第4番目の電離体捕集部23において、分割層23a、23aが第1実施形態の第7番目の電離体捕集部3に用いた水素吸蔵合金層からなり、分割層23b、23bが第1実施形態の第8番目の電離体捕集部3に用いた遷移金属層からなる。
第5番目の電離体捕集部23において、分割層23a、23aが第1実施形態の第9番目の電離体捕集部3に用いた金属酸化物層からなり、分割層23b、23bが第1実施形態の第10番目の電離体捕集部3に用いたタングステン層からなる。
【0057】
第3実施形態の構造によれば、第1番目の電離体捕集部23の分割層23aに堆積したTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、N、Oなどの原子由来の電離物質を確保でき、分割層23bにCrとCrNなどの原子由来の電離物質を確保できる。
また、第2番目の電離体捕集部23の分割層23aに堆積したCrNなどの原子由来の電離物質を確保でき、分割層23bにCa、P、Oなどの原子由来の電離物質を確保できる。
【0058】
また、第3番目の電離体捕集部23の分割層23aに堆積したCo、C、Nなどの原子由来の電離物質を確保でき、分割層23bに堆積したMg、Na、Si、Alなどの原子由来の電離物質を確保できる。
また、第4番目の電離体捕集部23の分割層23aに堆積したH原子由来の電離物質を確保でき、分割層23bに堆積したP原子由来の電離物質を確保できる。
また、第5番目の電離体捕集部23の分割層23aに堆積したTi、Mn、Feのいずれかの原子由来の電離物質を確保でき、分割層23bに堆積したC原子由来の電離物質を確保できる。
【0059】
第3実施形態の構造によれば、第1番目~第5番目の縦5列の電離体捕集部23であっても、周壁22Aの周方向に分割した分割層に、それぞれ異なる電離物質捕集用の層を設けることで10種類の層を使い分けて第1実施形態の10の電離体捕集部3と同等の数の原子由来の電離物質が収集できる。
【0060】
以上説明したように、電離体捕集部23を周方向に複数分割した分割層を設けることができ、分割層毎に異なる原子に親和性を有する層を使い分けることで、容器本体22の縦方向に設ける電離体捕集部23の数を第1実施形態の構造より少なくしても、第1実施形態と同等数の元素に対応した電離物質が収集できる。
【0061】
なお、本発明では、容器本体に設ける電離体捕集部の数と、分割層の数を適宜調整することにより、収集目的とする電離物質の数に対応させることができる。例えば、容器本体22において、縦に6列の電離体捕集部23を設け、周方向に3分割した分割層を設け、分割層毎に異なる元素に親和性の高い層を配置すると、18種類のパターン分けした元素に親和性の高い層を使い分けることができる。勿論、更に多くの分割層を設け、更に多種類の元素に応じた層で堆積物を回収しても良い。
【0062】
また、本発明に用いる容器本体の長さや外径も任意のサイズに調整可能であるので、収集目的とする元素数に応じた数の電離体捕集部と分割層の数を選択することができる。
なお、上述の実施形態では、電離体捕集部として容器本体の内周面に形成した層構造を採用したが、固体微粒子の電離物質を堆積させる電離体捕集部は、層構造に限らず、金属製や樹脂製のリングを容器本体の内周壁に配置した構造でも良い。
【0063】
例えば、上述の第1番目~第10番目の層状の電離体捕集部を構成する各材料からなるリングを容器本体の内周面に沿わせて縦に複数列配置した構造で電離体捕集部を構成しても良い。電離体捕集部を上述した各種の材料製のリングとした場合、容器本体2、12、22を地球に回収後、容器本体2、12、22から各リングを取り外すことで、リング毎に堆積物の分析ができるなどの利点を有する。
【0064】
また、本発明に係る容器本体2、12、22に形成する電離体捕集部3、23は、容器本体2、12、22を構成する材料が目的とする元素と親和性を有する場合、容器本体2、12、22の内周面をそのまま電離体捕集部3、23とすることができる。
例えば、先の実施形態において、第2番目の捕集部3としてステンレス層を適用する場合、容器本体2がステンレス鋼製であれば、容器本体2の内周面をそのまま第2番目の電離体捕集部3として用いることができる。また、容器本体2をチタン製とした場合、容器本体2の内周面をそのまま第4番目の電離体捕集部3として用いることができる。
【0065】
「第4実施形態」
図6は、本発明の第4実施形態に係る高速衝突電離体の捕集装置を示す斜視図である。
本実施形態の捕集装置30は金属製のタンブラー状の複数の容器本体31から構成されている。一例として図6の構成では、14個の容器本体31を互いの開口部を同じ側に向けて隣接配置した構成を有する。各容器本体31は円筒状の周壁32Aと周壁32Aの一側開口を閉じる底壁32Bを有する。容器本体31の底壁32Bに形成されている粒子衝突部32Dの形状は、第1実施形態の粒子衝突部22Dと同等である。
【0066】
本実施形態の容器本体31では、各々の容器本体31の周壁内面に、1つの電離体捕集部33のみを備えている。各容器本体31は、例えば上述した第1実施形態の第1番目~第10番目の何れかを構成する層のうち、1種の層のみからなる電離体捕集部33を備えている。14個の容器本体31のうち、前述の第1番目~第10番目の何れかを構成する層のうち、1つ以上を適宜選択して用いることができる。捕集対称の元素のうち、重要な元素の捕集に対応する層を備えた容器本体31を複数設け、重要度が低い元素対応の層を備えた容器本体31の数を少なくするか、略するなど、容器本体31を集合する数は任意に選択できる。
【0067】
従って、例えば、図6の構成では14個の容器本体31に個々に別々の原子に対する親和性を有する粒子衝突部33を設けるならば、14個の容器本体31により14種類の電離体を容器本体31で個別に捕集することができる。
勿論、容器本体31を集合する場合の数に制限はなく、集合する数も特に制限はない。測定目的の元素数に合わせ、図6より少ない数の容器本体31を集合しても良く、図6より多い数の容器本体31を集合しても良い。
【0068】
これら複数の容器本体31を先の第1~第3実施形態と同様に、人工衛星、宇宙機などに搭載して使用する。使用目的と使用方法は第1~第3実施形態の捕集装置1、10、20と同等である。
第6実施形態の捕集装置30においても、容器本体31の開口部32Cから固体微粒子が突入し、粒子衝突部32Dに固体微粒子が衝突すると、固体微粒子起源のガス物質および電離物質の混合体が周壁内面の電離体捕集部33に衝突し、電離体を捕集できる。
第6実施形態の捕集装置30では、異なる材料の電離体捕集部33ごとに容器本体31を用意することで、捕集する元素をそれぞれの容器本体31に分別することができる。各容器31に設けている電離体捕集部33を構成する層は予め判明しているので、電離体捕集部33に堆積した電離体を分析する場合、特定の元素向けに特化した分析方法を採用できるので、分析も容易となる。
【0069】
ところで、本発明において、容器本体内に生成するプラズマの場所を制御し、プラズマ化した固体微粒子の構成成分および(もしくは)電離体捕集部の材料を高濃度で混ざり合わせる場合は、マグネトロンスパッタの手法を用いて、強力な磁石による磁場で、プラズマの場所を固定化する装置を付加することが好ましい。
これにより、容器本体内の特定の位置に集中的に電離体を捕集することができる。
【0070】
なお、彗星核や内部海を有する氷衛星など、稀薄大気を有する探査対象天体の場合は宇宙空間に微量なガス成分が存在したり、衝突した固体微粒子から生成したガス成分も想定されることから、反応性スパッタリング法に代表されるように真空中に存在するガス物質とプラズマ化した固体微粒子の構成物質と反応して堆積できるような電離体捕集部の材料が望ましい。
その際、反応して堆積させる材料の熱力学的な平衡条件を制御する因子の一つである温度を制御可能とすることで、生成材料を制御することもできる。この機能を装置に有するためには、壁面の温度を数百℃からマイナス数十度℃程度まで制御可能な、ヒーターもしくはペルチェ素子を有する温度制御装置を付加することが望ましい。
【0071】
さらに、電離体捕集部の材料と衝突する固体微粒子を起源とする元素を識別するため、電離体捕集部の材料には同位体元素を利用することができ、同位体の比率の違いから地球で用意された元素か、宇宙空間で捕集された成分かを区別可能とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る電離体の捕集装置は、宇宙機に装備して宇宙空間を移動することにより宇宙空間に存在する固体微粒子の検出に適用できる。
宇宙空間に存在する固体微粒子には太陽系、地球、海水、生命原材料などの起源や進化に関する情報が含まれていることが期待されるため、本発明の捕集装置1によれば、新たな科学知見の発展に貢献出来る。
【符号の説明】
【0073】
1…捕集装置、2…容器本体、2A…周壁、2B…底壁、2C…開口部、2D…粒子衝突部、3…電離体捕集部、10…捕集装置、12…容器本体、12A…周壁、12B…底壁、12C…開口部、12D…粒子衝突部、13…突起、20…捕集装置、22…容器本体、22A…周壁、22B…底壁、22C…開口部、22D…粒子衝突部、23…電離体捕集部、23a、23b…分割層、30…捕集装置、31…容器本体、33…電離体捕集部、A…固体微粒子、B…電離体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6