(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023138679
(43)【公開日】2023-10-02
(54)【発明の名称】ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付フォトマスク、露光方法、及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/64 20120101AFI20230922BHJP
【FI】
G03F1/64
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129252
(22)【出願日】2023-08-08
(62)【分割の表示】P 2021168121の分割
【原出願日】2018-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕一
(57)【要約】
【課題】フォトリソグラフィの露光工程において、迷光がペリクルフレームの内側面に当たった場合でも、酸の脱理等によりフォトマスクを汚染せず、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすいペリクルフレーム、及びこれを含むペリクルを提供し、また、このペリクルフレームを歩留り良く製造する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金フレームの内側面であるアルミニウム合金面に厚さ2.0~7.5μmの陽極酸化被膜を形成してなり、前記陽極酸化被膜の外側に可視光線に透明なポリマー塗膜を有する断面を有するペリクルフレームであって、前記陽極酸化被膜中には硫酸イオンが含まれ、前記透明なポリマー塗膜は、ペリクルフレームを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析した時に硫酸イオンが検出されないように前記陽極酸化被膜を被覆しているペリクルフレームである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金フレームの内側面であるアルミニウム合金面に厚さ2.0~7.5μmの陽極酸化被膜を形成してなり、前記陽極酸化被膜の外側に可視光線に透明なポリマー塗膜を有する断面を有するペリクルフレームであって、
前記陽極酸化被膜中には硫酸イオンが含まれ、
前記透明なポリマー塗膜は、ペリクルフレームを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析した時に硫酸イオンが検出されないように前記陽極酸化被膜を被覆しているペリクルフレーム。
【請求項2】
前記透明なポリマー塗膜は、顔料又はフィラーを含有しない請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
前記透明なポリマー塗膜は、可視光線透過率が50%超である請求項1又は2に記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
L値が35以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
前記透明なポリマー塗膜は、2.0~10.0μmの厚みを有する請求項1~4のいずれか1項に記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のペリクルフレームを構成要素とするペリクル。
【請求項7】
請求項6に記載のペリクルをフォトマスクに装着してなるペリクル付フォトマスク。
【請求項8】
請求項7に記載のペリクル付フォトマスクを用いて露光することを特徴とする露光方法。
【請求項9】
前記露光は、ArFレーザーによる露光である請求項8に記載の露光方法。
【請求項10】
請求項7に記載のペリクル付フォトマスクを用いて露光する工程を有する半導体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記露光は、ArFレーザーによる露光である請求項10に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスや液晶ディスプレイ等の製造において、フォトマスクのゴミ除けとして使用されるリソグラフィ用のペリクル、これを構成するペリクルフレーム、及びペリクルフレームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体デバイスあるいは液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウエハー又は液晶用原板に光を照射してパターンを形成するフォトリソグラフィ技術が用いられる。
【0003】
このフォトリソグラフィ工程において、フォトマスク(露光原板)にゴミが付着した場合、ゴミが光を吸収したり、光を曲げたりしてしまうために、転写したパターンが変形する、エッジが荒れる、下地が黒く汚れる等の寸法、品質、外観が損なわれる問題があった。このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われるが、クリーンルーム内においてもフォトマスクを完全に清浄に保つことは難しい。したがって、ゴミ除けのために、フォトマスクの表面に露光光をよく透過させるペリクルを装着することが一般的に行われている。これによって、ゴミはフォトマスクの表面に直接付着せずペリクル膜上に付着する。そのため、露光時に焦点をフォトマスク上のパターンに合わせておけば、ペリクル膜上のゴミは転写に無関係となる。
【0004】
一般的なペリクルの構成を
図2に示す。当該ペリクルは、ペリクルフレーム102の上端面に、露光光を良く透過させるペリクル膜101が接着剤103を介して張設され、ペリクルフレーム102の下端面にはペリクルをフォトマスク105に貼付けるための粘着剤層104が形成されている。また、粘着剤層104の下端面には、粘着剤層104を保護するためのセパレータ(図示しない)が剥離可能に設けられてもよい。このようなペリクルは、フォトマスクの表面に形成されたパターン領域106を覆うように設置される。したがって、このパターン領域106は、ペリクルによって外部から隔離され、フォトマスク上にゴミが付着することが防止される。
【0005】
近年、LSIのデザインルールはサブクォーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、コンタミネーション抑制対象のパーティクルサイズもさらに小さくなってきている。また、露光光源の波長も短波長化してきており、露光によってヘイズを引き起こす微細な粒子が発生しやすくなってきている。
【0006】
これは、露光の短波長化により光のエネルギーが大きくなるため、露光雰囲気に存在するガス状物質が反応してマスク基板上に反応生成物が生成するからである。例えば、ペリクルフレームに使用されるアルミニウム合金表面の陽極酸化被膜中には硫酸、硝酸、有機酸等の酸が取り込まれている。これが露光環境下でフレーム表面の陽極酸化被膜中から脱離して、ペリクルとマスクとの間の空間に滞留する。この状態で露光時の短波長紫外線が当たることによって、硫酸化合物、例えば硫酸アンモニウム等が発生する。
【0007】
そのため、従来のアルマイト処理(陽極酸化処理)が施されたフレームは、硫酸イオンを含むため敬遠されるようになってきている。そこで例えば特許文献1では、硫酸イオンの溶出がないフレームとしてポリマーコートを施したペリクルが提案されており、ポリマーコートとして、黒色顔料により着色した艶消し塗料を用いた黒色艶消し電着塗料膜が開示されている。
【0008】
また、特許文献2は、アルミニウム合金からなるフレーム母材表面に、純アルミニウム被膜を形成し、さらに陽極酸化処理と黒色染色とを施した後、電着塗装により透明なアクリル樹脂被膜を形成したペリクルフレームが開示されている。当該純アルミニウム被膜は、ペリクルフレーム表面の異物と誤認される輝点(欠陥)の原因となるアルミニウム合金表面の晶出物を覆って、ペリクルの外観品質や信頼性を向上させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-333910号公報
【特許文献2】特開2014-206661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フォトリソグラフィの露光工程では、通常、ペリクルフレームに露光光が照射されないようにセッティングがされているが、パターンにおけるエッジ等での反射や回折光の一部が迷光としてペリクルフレームの内側面に当たる可能性がある。このような迷光が特許文献1に記載のようなポリマーコートを施したペリクルフレームの内側面に当たった場合、ポリマーコート層がエッチングされ、そこに散在している顔料微粒子等が脱落する懸念がある。
【0011】
なお、ペリクルフレームの内側面に当たる迷光は、最大で、フォトマスクのパターン領域に照射されるArFレーザー強度の約1.5%程度になると考えられる。現在、ArF用ペリクル膜の耐光性は100000J程度が求められるため、ペリクルフレームの内側面に求められる耐光性は1500J相当になる。
【0012】
一方で、陽極酸化被膜を形成したフレーム母材上に電着塗装によって塗膜を形成する場合、均一な塗膜を形成することが困難であり、著しく歩留りが低下することがある。これは、陽極酸化被膜が非導電性であるためと考えられる。
【0013】
また、電着塗膜の厚みの不均一性が比較的軽微な場合は、当該不均一部分の検出が困難となり、外観検査による不良の検出が困難となる。この場合、膜厚の薄くなっている箇所では、露光光によるダメージを受けて陽極酸化被膜が露出し、ヘイズの発生原因となる可能性もある。
【0014】
以上から本発明は、フォトリソグラフィの露光工程において、迷光がペリクルフレームの内側面に当たった場合でも、酸の脱理等によりフォトマスクを汚染せず、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすいペリクルフレーム、及びこれを含むペリクルを提供することを目的とする。また、このペリクルフレームを歩留り良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は、陽極酸化被膜を比較的小さい厚みで特定の範囲とし、さらに当該陽極酸化被膜上に透明なポリマー電着塗膜を設けると、当該課題が解決できることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0016】
[1] フレーム母材と、前記フレーム母材の表面に形成された厚さ2.0~7.5μmで黒色の陽極酸化被膜と、前記陽極酸化被膜上に形成された透明なポリマー電着塗膜と、を備えたペリクルフレーム。
[2] 前記透明なポリマー電着塗膜は、該透明なポリマー電着塗膜に対し不均一に存在する不均一成分を含有しない[1]に記載のペリクルフレーム。
[3] 前記透明なポリマー電着塗膜は、染料を含有しない[1]又は[2]に記載のペリクルフレーム。
[4] 前記透明なポリマー電着塗膜は、可視光線透過率が50%超である[1]から[3]の何れかに記載のペリクルフレーム。
[5] [1]から[4]の何れかに記載のペリクルフレームと、前記ペリクルフレームの一端面に設けられたペリクル膜と、を備えたペリクル。
[6] フレーム母材の表面に、厚さ2.0~7.5μmの陽極酸化被膜を形成する工程と、前記陽極酸化被膜を黒色に着色する工程と、前記陽極酸化被膜上に、透明なポリマー電着塗膜を形成する工程と、を順次含むペリクルフレームの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フォトリソグラフィの露光工程において、迷光がペリクルフレームの内側面に当たった場合でも、酸の脱理等によりフォトマスクを汚染せず、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすいペリクルフレーム、及びこれを含むペリクルを提供することができる。また、このペリクルフレームを歩留り良く製造する方法を提供することができる。
さらに、従来構成のポリマーコートが施されたペリクルフレームと比較して、露光光の照射量を増大させたり、使用する露光光のエネルギーを大きくしたりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一形態に係るペリクルの断面模式図である。
【
図2】従来のペリクルの一般的な構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[1]ペリクルフレーム
本実施形態に係るペリクルフレームは、フレーム母材と、フレーム母材の表面に形成された厚さ2.0~7.5μmで黒色の陽極酸化被膜と、陽極酸化被膜上に形成された透明なポリマー電着塗膜と、を備える。
【0021】
(フレーム母材)
ペリクルフレームのフレーム母材としては、陽極酸化被膜を形成可能な材料を用いることができる。なかでも、強度、剛性、軽量、加工性、コスト等の点からアルミニウム及びアルミニウム合金を用いることが好ましい。アルミニウム合金としては、JIS A7075、JIS A6061、JIS A5052等が挙げられる。
【0022】
(陽極酸化被膜)
陽極酸化被膜は、フレーム母材の表面を電解処理して得られる被膜で、本発明の場合、特にアルマイト被膜をいう。
陽極酸化被膜の厚みは2.0~7.5μmであり、2.0~7.0μmであることが好ましく、3.0~5.0μmであることがより好ましい。通常のペリクルフレームにおける陽極酸化被膜の厚みは約10μmであるが、本実施形態ではその膜厚を小さくしている。このようにすれば、被膜抵抗が高くなりすぎないために、後工程において膜厚が均一なポリマー電着塗装を施すことが可能となる。特に7.5μm以下とすることで、ペリクルフレームの色むら、すなわち、透明なポリマー電着塗膜の膜厚の不均一さに起因する黒色の色合いの違いを抑えることができる。また、ペリクルフレームの面異常、すなわち、透明なポリマー電着塗膜が未形成な箇所に起因する欠陥の発生を抑えることができる。その結果、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすくなる。また、膜厚を2μm以上とすることによって異物の有無を検査する外観検査において有利な黒色のペリクルフレームが得られる。
【0023】
本実施形態に係る陽極酸化被膜は黒色となっている。黒色となっていることで、異物検査においても異物の検出がしやすいペリクルを得ることができる。ここで「黒色」とは、ペリクルフレームのL値が35以下となる程度に黒色となっているこという。黒色とするには、例えば、後述するような着色工程で陽極酸化被膜を黒色に着色する処理を行えばよい。
【0024】
(透明なポリマー電着塗膜)
透明なポリマー電着塗膜は、電着塗装により形成された透明なポリマー塗膜である。電着塗膜は、カチオン電着塗膜、アニオン電着塗膜のいずれであってもよい。
透明なポリマー電着塗膜に用いられる樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アミノアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等多岐にわたるが、耐熱性、耐光性、強度等を考慮して、公知の樹脂から選択すればよいが後述するように、透明なポリマー電着塗膜の可視光線透過率が50%超となるように選択することが好ましい。
【0025】
透明なポリマー電着塗膜は一層でもよいが、二層以上積層されていてもよい。積層されている場合、積層されている何れの透明なポリマー電着塗膜も、同一の樹脂を含んで構成されていることが好ましい。このようにすれば、透明なポリマー電着塗膜の界面から剥離する等の不具合が起こりにくい。
【0026】
透明なポリマー電着塗膜は、当該透明なポリマー電着塗膜に対し不均一に存在する不均一成分、及び染料を含有しないことが好ましい。不均一成分としては、顔料及びフィラーのような透明なポリマー電着塗膜とは不均一に存在する成分(特に、粒状不均一成分)で、ペリクルフレームの外観検査においてキラつき等を発生させるものである。染料についてもキラつき等を発生させることがあるため含有しないことが好ましい。つまり、透明なポリマー電着塗膜は、樹脂成分のみで構成されることが好ましい。
透明なポリマー電着塗膜の可視光線透過率は、好ましくは50%超、より好ましくは80%以上である。可視光線透過率は、市販の分光光度計を用いて測定できる。
【0027】
透明なポリマー電着塗膜が可視光線を比較的よく透過させると、透明なポリマー電着塗膜の下地の色調をペリクルフレームの色調に反映させることができる。このとき、透明なポリマー電着塗膜の下地である陽極酸化被膜が黒色であれば、ペリクルフレームも黒色となる。ペリクルフレームの色調が黒色であれば、異物の有無を検査する外観検査においても異物の検出がし易く有利なペリクルを得ることができる。
【0028】
このような構成によって、ペリクルフレームのL値は35以下にすることが好ましく、30以下にすることがより好ましい。ここで、L値とは、黒体(その表面に入射するあらゆる波長を吸収し、反射も透過もしない理想の物体)を0として、相反する白色を100としたときに色の明度を表す指標である。L値が35を超えると、外観検査においても異物の検出が困難となり作業性が低下する。
【0029】
また、透明なポリマー電着塗膜の厚みに制限はないが、一般的な露光光として用いられるArFレーザー光のエネルギーを勘案すると、好ましくは2μm以上、より好ましくは2.0~10.0μmである。
【0030】
以上のようなペリクルフレームは、ペリクルを貼付けるフォトマスクの形状に対応し、一般的には長方形枠状又は正方形枠状のような四角形枠状である。
【0031】
ペリクルフレームには、気圧調整孔を設けてもよい。気圧調整孔を設けることで、ペリクルとフォトマスクとで形成された閉空間の内外の気圧差をなくし、ペリクル膜の膨らみや凹みを防止することができる。
【0032】
気圧調整孔には、除塵用フィルターを取り付けることが好ましい。除塵用フィルターは、気圧調整孔からペリクルとフォトマスクとの閉空間内に外から異物が侵入するのを防ぐことができる。
除塵用フィルターの材質としては、樹脂、金属、セラミックス等が挙げられる。また、該除塵用フィルターの外側部分には環境中の化学物質を吸着や分解するケミカルフィルターを装備することも好ましい。
【0033】
ペリクルフレームの内周面や気圧調整孔の内壁面には、ペリクルとフォトマスクとの閉空間内に存在する異物を捕捉するために粘着剤を塗布してもよい。
【0034】
さらに、ペリクルフレームには、ハンドリング冶具を挿入するための穴や溝など、必要に応じて凹部や凸部を設けてもよい。
【0035】
[2]ペリクルフレームの製造方法
本実施形態に係るペリクルフレームの製造方法は、フレーム母材の表面に、厚さ2.0~7.5μmの陽極酸化被膜を形成する工程(陽極酸化被膜形成工程)と、陽極酸化被膜を黒色に着色する工程(着色工程)と、陽極酸化被膜上に、透明なポリマー電着塗膜を形成する工程(透明なポリマー電着塗膜形成工程)とを順次含む。
【0036】
(陽極酸化被膜形成工程)
陽極酸化被膜形成工程においては、フレーム母材に陽極酸化被膜を形成するが、その前に、サンドブラストや化学研磨によって粗化することが好ましい。フレーム母材の表面粗化方法については、従来公知の方法を採用できる。例えば、アルミニウム合金のフレーム母材に対して、ステンレス、カーボランダム(炭化ケイ素)、ガラスビーズ等によって表面をブラスト処理したり、NaOH等のアルカリ溶液によって化学研磨を行ったりする方法を採用することができる。
【0037】
上記任意の粗化後に、フレーム母材表面に陽極酸化被膜を形成する。陽極酸化被膜は公知の方法で形成することができる。一般にアルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化被膜(アルマイト)は、硫酸法、シュウ酸法、クロム酸法等によって形成される。一般的なペリクルフレームでは、硫酸法による硫酸アルマイトが多く用いられる。
【0038】
特に、硫酸法による硫酸アルマイトを形成する場合、処理時間等の条件を調整することで、膜厚を2.0~7.5μmの範囲に良好に調整することができる。また、膜厚を2.0~7.5μmの範囲にすることで、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすくなり、本来不良品でないものを不良品と判定することがなくなり、ペリクルの歩留まりを向上させることができる。
【0039】
(着色工程)
着色工程では、陽極酸化被膜を黒色に着色するための黒色化処理を行う。ペリクルフレームが黒色であると、ペリクルフレームに光を照射し、光の反射によって塵埃の有無を検査するペリクルフレームの外観検査において、迷光が抑制され、塵埃が確認され易くなる。
【0040】
この黒色化処理は公知の方法を採用することができ、黒色染料による処理や電解析出処理(二次電解)等が挙げられるが、好ましくは黒色染料を用いた染色処理であり、より好ましくは有機系の黒色染料を用いた染色処理である。一般に有機系染料は酸成分の含有量が少ないとされ、なかでも、硫酸、酢酸、及びギ酸の含有量が少ない有機系染料を用いるのが好ましい。このような有機系染料として、市販品の「TAC411」、「TAC413」、「TAC415」、「TAC420」(以上、奥野製薬製)等を挙げることができ、所定の濃度に調製した染料液に陽極酸化処理後のフレーム材を浸漬させて、処理温度40~60℃、pH5~6の処理条件で10分間程度の染色処理を行うようにするのがよい。
【0041】
黒色化処理後は、陽極酸化皮膜に封孔処理をすることが好ましい。封孔処理は特に制限されず、水蒸気や封孔浴を用いるような公知の方法を採用することができるが、酸成分の封じ込めを行う観点から、水蒸気による封孔処理が好ましい。水蒸気による封孔処理の条件としては、例えば、温度105~130℃、相対湿度90~100%(R.H.)、圧力0.4~2.0kg/cm2Gで12~60分程度処理すればよい。また、封孔処理後は、例えば純水を用いて洗浄することが好ましい。
【0042】
(透明なポリマー電着塗膜形成工程)
透明なポリマー電着塗膜形成工程においては、上記の処理が施された陽極酸化被膜上に透明なポリマー電着塗膜を形成する。透明なポリマー電着塗膜を形成することで、黒色のペリクルフレームの色調を反映することができ、異物の有無を検査する外観検査においてもその検出がし易くなる。
【0043】
透明なポリマー電着塗膜に用いられる樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アミノアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等多岐にわたるが、耐熱性、耐光性、強度等を考慮して、公知の樹脂から選択すればよい。
なお、透明なポリマー電着塗膜は染料、及び顔料やフィラーのような不均一成分を含有しないことが好ましいため、これらを含まないように材料設計することが好ましい。これによりパーティクルによるキラつき、すなわち、染料や不均一成分が異物となり輝点となることを防止することができる。
【0044】
透明なポリマー電着塗膜は、膜厚の均一性や平滑性等の利点から電着塗装を用いて形成される。
【0045】
電着塗装については、熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂のいずれも使用できる。また、それぞれに対してアニオン電着塗装、カチオン電着塗装のいずれをも使用することができるが、被塗物を陽極とするアニオン電着塗装法の方が、発生する気体の量が少なく、塗装膜にピンホールなどの不具合が生成する可能性が少ないため好ましい。
電着塗装に使用する塗装装置や電着塗装用塗料はいくつかの会社から市販品として購入できる。例えば、株式会社シミズからエレコートの商品名で市販されている電着塗料が挙げられる。
【0046】
[3]ペリクル
本実施形態に係るペリクルは、ペリクルフレームと、そのペリクルフレームの一端面に設けられたペリクル膜とを備える。
【0047】
ペリクル膜の材質としては、特に制限はないが、露光光の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えば、従来エキシマレーザー用に使用されている非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ(旭硝子社製商品名)、テフロン(登録商標)、AF(デュポン社製商品名)等が挙げられる。これらのポリマーは、ペリクル膜の作製時に必要に応じて溶媒に溶解して使用してもよく、例えばフッ素系溶媒等で適宜溶解し得る。また、露光光源としてEUV光を用いる場合は、膜厚が1μm以下の極薄のシリコン膜や、グラフェン膜を用いることができる。
【0048】
ペリクル膜とペリクルフレームを接着する際は、ペリクルフレームにペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着してもよく、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等を用いて接着してもよい。
【0049】
ペリクルは、さらにフォトマスクに装着するための手段を備え、一般的に、粘着剤層がペリクルフレームの他端面に設けられる。粘着剤層は、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ又はそれ以下の幅に形成される。好ましい厚さは、0.2~0.5mmである。
【0050】
粘着剤層の材質としては、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤、SEBS粘着剤、SEPS粘着剤、シリコーン粘着剤等の公知のものを使用することができる。露光光源としてEUV光を用いる場合は、耐光性等に優れたシリコーン粘着剤を用いることが好ましい。また、ヘイズの発生原因となり得るアウトガスが少ない粘着剤が好ましい。
【0051】
通常、粘着剤層の下端面に設けられるセパレータは、ペリクル収納容器等を工夫することにより省略することもできる。セパレータを設ける場合、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等からなるフィルムをセパレータとして使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤をセパレータの表面に塗布してもよい。
【0052】
本実施形態に係るペリクルの具体例の断面模式図を
図1に示す。まず、ペリクルフレーム2は、フレーム母材7と、フレーム母材7上に形成され、黒色の陽極酸化被膜8と、陽極酸化被膜8上に形成され、透明なポリマー電着塗膜9を備える。ペリクルフレーム2の上端面に、露光光を良く透過させるペリクル膜1が接着剤3を介して張設され、ペリクルフレーム2の下端面にはペリクルをフォトマスク5に貼付けるための粘着剤層4が形成されている。また、粘着剤層4の下端面には、粘着剤層4を保護するためのセパレータ(図示しない)が剥離可能に設けられてもよい。このようなペリクルは、フォトマスクの表面に形成されたパターン領域6を覆うように設置される。したがって、このパターン領域6は、ペリクルによって外部から隔離され、フォトマスク上にゴミが付着することが防止される。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
〈実施例1〉
まず、ペリクルのフレーム母材として、フレーム外寸149mm×115mm×4.5mm、フレーム厚さ2mmのアルミニウム製フレームを用意した。このフレーム母材の表面にサンドブラスト処理を施した。サンドブラスト処理は、サンドブラスト装置にて、ガラスビーズ(30~100μm)を吐出圧1.5kgで10分間吹き付けて行った。
【0055】
次に、硫酸法を用いてフレーム母材上に膜厚7.0μmの陽極酸化被膜(アルマイト)を形成した。陽極酸化被膜の形成に用いた電解浴は15質量%の硫酸で、電解電圧を20V、電気量を15c/cm2とし、処理時間を20分とした。
この陽極酸化被膜に対し、「TAC420」(以上、奥野製薬製)を、所定の濃度に調製した染料液に陽極酸化処理後のフレーム材を浸漬させて、処理温度40~60℃、pH5~6の処理条件で10分間かけて、陽極酸化被膜を黒色に着色し、さらに、温度110℃、相対湿度90~100%(R.H.)、圧力1.0kg/cm2Gで15分処理して封孔処理を行った。
【0056】
続いて、フレーム母材を純水で洗浄した後、顔料やフィラー等の微粒子を含まない電着塗料(株式会社シミズ社製エレコートAM)を用いて、フレーム母材にアニオン電着塗装(温度25℃、電圧140Vで5分間)を施した。これによって、陽極酸化被膜上に厚み9μmの透明なポリマー電着塗膜が形成された。電着塗装が施されたフレームを、200℃、60分の条件で加熱して、透明なポリマー電着塗膜を硬化させて、ペリクルフレームを作製した。また、別途作製した透明なポリマー電着塗膜(厚み:10μm)について可視光領域の透過率を、(株)島津製作所製UV-1850により測定したところ、82%であった。
【0057】
このようにして得られたペリクルフレームのL値を分光色差計(日本電色工業(株)製NF-555)を用いて測定したところ、その値は23であった。
【0058】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、全てのフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常は見られなかった。
【0059】
色ムラや面異常が見られなかったペリクルフレームの一端面には、接着剤(旭硝子社製サイトップAタイプ)を介して、ペリクル膜(旭硝子社製サイトップSタイプで作製した膜厚0.28μmのペリクル膜)を張設し、他端面には粘着剤層をシリコーン粘着剤(信越化学社製X-40-3264)で形成し、ペリクルを完成させた。
【0060】
作製したペリクルのフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
【0061】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0062】
〈実施例2〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が2.0μmとなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜に着色を施したが若干色が薄く、ペリクルフレームのL値は32であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、83%であった。
【0063】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、全てのフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常は見られなかった。
【0064】
実施例1と同様にして作製したペリクルのフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
なお、実施例1に比べて、10個のペリクルフレームの検査に1.2倍の時間を要した。実施例1に比べて要した時間が1.5倍以下であれば、生産性の面で良好といえる。
【0065】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0066】
〈実施例3〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が3.0μmなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜は黒色に着色され、ペリクルフレームのL値は29であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、82%であった。
【0067】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、全てのフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常は見られなかった。
【0068】
実施例1と同様にして作製したペリクルのフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
【0069】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0070】
〈実施例4〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が5.0μmとなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜は黒色に着色され、ペリクルフレームのL値は26であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、82%であった。
【0071】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、全てのフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常は見られなかった。
【0072】
実施例1と同様にして作製したペリクルのフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
【0073】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0074】
〈比較例1〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が1.5μmとなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜に着色を施したが色が薄く(薄いこげ茶色)、ペリクルフレームのL値は39であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、82%であった。
【0075】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、全てのフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常は見られなかった。
【0076】
実施例1と同様にして作製したペリクルのフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
このとき、ペリクルフレームの色が薄く、明度も高いため、集光ランプを照射すると明るく照らされ、実施例1に比べて、10個のペリクルフレームの検査に1.8倍の時間を要した。
【0077】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0078】
〈比較例2〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が10.0μmとなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜は黒色に着色され、ペリクルフレームのL値は22であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、83%であった。
【0079】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、7個のフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常が見られた。
【0080】
色ムラや面異常が見られなかったペリクルフレームを用いて、実施例1と同様にしてフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
【0081】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0082】
〈比較例3〉
陽極酸化被膜(アルマイト)の膜厚が8.0μmとなるように形成した以外は実施例1と同様にペリクルフレームを作製した。陽極酸化被膜は黒色に着色され、ペリクルフレームのL値は23であった。また、実施例1と同様にして測定した透明なポリマー電着塗膜の可視光領域の透過率は、82%であった。
【0083】
同様にペリクルフレームを10個作製して外観検査を行ったところ、5個のフレームで、透明なポリマー電着塗膜が不均一な場合に観察される色ムラや、透明なポリマー電着塗膜が形成されていない場合に観察される面異常が見られた。
【0084】
色ムラや面異常が見られなかったペリクルフレームを用いて、実施例1と同様にしてフレーム内側面に、5mJ/cm2/pulse、500Hzに設定したArFレーザーを照射した。ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきは観察されなかった。
【0085】
同様に作製した別のペリクルを用いて、イオン分析を行った。ペリクルを100ml、90℃の純水に3時間浸漬した後、浸漬していた水をイオン分析したが硫酸イオンは検出されなかった。
【0086】
〈比較例4〉
まず、ペリクルフレーム母材として、フレーム外寸149mm×115mm×4.5mm、フレーム厚さ2mmのアルミニウム製フレームを用意した。このフレーム母材の表面には実施例1と同様のサンドブラスト処理を施した。
【0087】
次に、実施例1と同様の硫酸法を用いてフレーム母材上に膜厚6.0μmとなるように陽極酸化被膜(アルマイト)を形成し、実施例1と同様に当該陽極酸化被膜を黒色に着色した後、封孔処理を施した。その後、フレームを純水で洗浄して、ペリクルフレームを完成させた。このようにして得られたペリクルフレームのL値は24であった。
【0088】
得られたペリクルフレームについて、実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。
作製したペリクルを用いて、実施例1と同様にイオン分析を行ったところ、硫酸イオンが検出された。
【0089】
〈比較例5〉
まず、ペリクルフレーム母材として、フレーム外寸149mm×115mm×4.5mm、フレーム厚さ2mmのアルミニウム製フレームを用意した。
【0090】
次に、カーボンブラック(株式会社シミズ社製の商品名:エレコートカラーブラック)を10g/リットルの濃度、フィラー(株式会社シミズ社製の商品名:エレコートSTサティーナ)を55g/リットルの濃度となるように電着塗料(株式会社シミズ社製エレコートAM)にこれらを混合し、この混合塗料を用いて、フレーム母材に実施例1と同様のアニオン電着塗装を施した。これによって、厚み9μmのポリマー層が形成された。電着塗装が施されたフレームを、200℃、60分の条件で加熱して、ポリマー層を硬化させた。なお、実施例1と同様にして測定したポリマー層の可視光領域の透過率は1~10%であった。また、このようにして得られたペリクルフレームのL値は20~25であった。
【0091】
得られたペリクルフレームを用いて、実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。
作製したペリクルのフレーム内側面に、実施例1と同様にしてArFレーザーを照射し、ArFレーザーの照射を実施してから30分経過後(積算エネルギー:4500J)に、フレーム内側面の状態を暗室内で集光ランプを照射して検査したところ、パーティクルによるキラつきが観察された。
【0092】
以上から、実施例では、硫酸イオンの溶出がない上に、迷光がペリクルフレームの内側に当たった場合でもパーティクルが発生せず、フォトマスクの汚染を防止できる。また、異物と誤認される表面欠陥の発生が抑制されて外観検査がしやすい。