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特開2023-139112変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法及びそれを含む樹脂組成物
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  • 特開-変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法及びそれを含む樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139112
(43)【公開日】2023-10-03
(54)【発明の名称】変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法及びそれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20230926BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230926BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230926BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230926BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08F8/00
C08L23/26
C08L29/04 S
C08J3/20 Z CEX
C08F216/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117618
(22)【出願日】2023-07-19
(62)【分割の表示】P 2023526509の分割
【原出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021211178
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021211318
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染宮 利孝
(72)【発明者】
【氏名】森原 靖
(57)【要約】
【課題】バリア性、延伸性などに優れるとともに、溶融安定性に優れた変性EVOHを製造する方法を提供する。
【解決手段】亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である触媒溶液(D)を用いて、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と炭素数2~8の一価エポキシ化合物(B)とを押出機中で溶融混練することにより反応させる、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。このとき、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量に対するモル数で0.05~1.0μmol/gの亜鉛イオン(F)を用いることが好ましい。また、溶融状態のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して、一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物を添加することも好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である触媒溶液(D)を用いて、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と炭素数2~8の一価エポキシ化合物(B)とを押出機中で溶融混練することにより反応させる、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項2】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と、一価エポキシ化合物(B)と、触媒溶液(D)とを押出機に導入し、該押出機中で溶融混練することにより、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる、請求項1に記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項3】
溶融状態のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して、一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物を添加する、請求項2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に触媒溶液(D)を含浸させてから、押出機に導入し、該押出機中で一価エポキシ化合物(B)と溶融混練することにより、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる、請求項1に記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項5】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が5~55モル%で、ケン化度が90モル%以上である請求項1~4のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項6】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して一価エポキシ化合物(B)1~50質量部を溶融混練する、請求項1~5のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項7】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量に対するモル数で0.05~1.0μmol/gの亜鉛イオン(F)を用いる、請求項1~6のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項8】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶融混練した後に、触媒失活剤(E)を添加してさらに溶融混練する、請求項1~7のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項9】
触媒失活剤(E)がキレート化剤である、請求項8に記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項10】
触媒失活剤(E)が金属塩である、請求項8に記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項11】
触媒溶液(D)に含まれる亜鉛イオン(F)のモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/F)が1.5~40である、請求項8~10のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項12】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶融混練し、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤(E)を添加する請求項8~11のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【請求項13】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)が、下記式(I)で表される構造単位(I)を0.3~40モル%含有する、請求項1~12のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法。
【化1】
(式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。)
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の製造方法により得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)と、未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリオレフィンとを溶融混練する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載の製造方法により得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)をペレタイズする工程と、得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)のペレットと、未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリオレフィンのペレットとをドライブレンドする工程を含む、混合ペレットの製造方法。
【請求項16】
下記式(I)で表される構造単位(I)を2~40モル%含有する変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)及び亜鉛イオン(F)を含み、亜鉛イオン(F)の含有量が0.05~1.0μmol/gである、樹脂組成物。
【化2】
(式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。)
【請求項17】
さらにアルカリ金属イオン(G)を含有し、前記亜鉛イオン(F)に対するアルカリ金属イオン(G)のモル比(G/F)が5~80である、請求項16に記載の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法に関する。また、当該共重合体を含む樹脂組成物の製造方法に関する。さらに、当該共重合体のペレットを含む混合ペレットの製造方法に関する。また本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は透明性及びガスバリア性に優れているが、延伸性及び耐屈曲性に欠ける欠点がある。この欠点を改善するために、EVOHにエチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレン-プロピレン共重合体等の柔軟な樹脂をブレンドする方法が知られている。しかし、この方法では、透明性が大きく低下する欠点がある。
【0003】
特許文献1には、EVOHと分子量500以下の一価エポキシ化合物とを、周期律表第3~12族に属する金属のイオンを含む触媒の存在下に押出機中で溶融混練することによって、下記構造単位(I)を0.3~40モル%含有する変性EVOHを製造する方法が記載されている。そして、当該変性EVOHは、バリア性、透明性、延伸性及び耐屈曲性に優れるとされている。
【0004】
【化1】
【0005】
特許文献1の実施例では、等モルの亜鉛アセチルアセトナート一水和物とトリフルオロメタンスルホン酸とを1,2-ジメトキシエタンに溶解させた触媒溶液を調整し、この触媒溶液と一価エポキシ化合物との混合物を押出機にフィードしていて、触媒溶液を加えない場合に比べて、より多くの構造単位(I)をEVOHに導入できることが示されている。また、触媒失活剤として、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物を用いることで、得られる変性EVOHの熱安定性の悪化を抑制できることが記載されている。こうして得られた変性EVOHは、触媒残渣として亜鉛イオンを120~150ppm(1.9~2.3μmol/g)含んでいた。
【0006】
また特許文献2には、上記構造単位(I)を0.3~40モル%含有する変性EVOHと、それ以外の熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が記載されている。そこには、当該変性EVOHと未変性EVOHとを含む樹脂組成物の例と、当該変性EVOHとポリオレフィンとを含む樹脂組成物の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 02/092643 A1
【特許文献2】WO 03/072653 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された変性EVOHは着色しやすいとともに、長時間にわたって溶融混練する場合には、トルク変動が大きく、溶融安定性に問題を有していた。本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、バリア性、延伸性などに優れるとともに、溶融安定性にも優れた変性EVOHを製造する方法を提供することを目的とするものである。また、そのような変性EVOHと他の樹脂を含む樹脂組成物を製造する方法を提供することも本発明の目的である。また、そのような変性EVOHのペレットと他の樹脂のペレットとを含む混合ペレットを製造する方法を提供することも本発明の目的である。さらに、そのような変性EVOHを含む樹脂組成物を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である触媒溶液(D)を用いて、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と炭素数2~8の一価エポキシ化合物(B)とを押出機中で溶融混練することにより反応させる、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法を提供することによって解決される。
【0010】
前記製造方法において、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と、一価エポキシ化合物(B)と、触媒溶液(D)とを押出機に導入し、該押出機中で溶融混練することにより、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることが好ましい。このとき、溶融状態のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して、一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物を添加することが好ましい。
【0011】
また前記製造方法において、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に触媒溶液(D)を含浸させてから、押出機に導入し、該押出機中で一価エポキシ化合物(B)と溶融混練することにより、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることも好ましい。
【0012】
以上の前記製造方法において、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が5~55モル%で、ケン化度が90モル%以上であることが好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して一価エポキシ化合物(B)1~50質量部を溶融混練することも好ましい。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量に対するモル数で0.05~1.0μmol/gの亜鉛イオン(F)を用いることも好ましい。
【0013】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶融混練した後に、触媒失活剤(E)を添加してさらに溶融混練することが好適な実施態様である。このとき、触媒失活剤(E)がキレート化剤であることが好ましい。触媒失活剤(E)が金属塩であることも好ましい。触媒溶液(D)に含まれる亜鉛イオン(F)のモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/F)が1.5~40であることも好ましい。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶融混練し、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤(E)を添加することも好ましい。
【0014】
前記製造方法において得られる変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)が、下記式(I)で表される構造単位(I)を0.3~40モル%含有することが好ましい。
【0015】
【化2】
【0016】
(式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。)
【0017】
前記製造方法により得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)と、未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリオレフィンとを溶融混練する工程を含む樹脂組成物の製造方法が、本発明の好適な実施態様である。また、前記製造方法により得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)をペレタイズする工程と、得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)のペレットと、未変性エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリオレフィンのペレットとをドライブレンドする工程を含む、混合ペレットの製造方法も、本発明の好適な実施態様である。
【0018】
また上記課題は、下記式(I)で表される構造単位(I)を2~40モル%含有する変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)及び亜鉛イオン(F)を含み、亜鉛イオン(F)の含有量が0.05~1.0μmol/gである樹脂組成物を提供することによっても解決される。
【0019】
【化3】
【0020】
(式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。)
【0021】
このとき、前記樹脂組成物が、さらにアルカリ金属イオン(G)を含有し、前記亜鉛イオン(F)に対するアルカリ金属イオン(G)のモル比(G/F)が5~80であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の変性EVOHの製造方法によれば、バリア性、延伸性などに優れるとともに、溶融安定性に優れた変性EVOHを製造することができる。また、本発明の樹脂組成物の製造方法によれば、変性EVOHと他の樹脂を含む樹脂組成物を製造することができる。また、本発明の混合ペレットの製造方法によれば、変性EVOHのペレットと他の樹脂のペレットとを含む混合ペレットを製造することができる。さらに、本発明の樹脂組成物は、高変性度の変性EVOHを含んでいながら、触媒残渣の含有量が少ない。そのため、バリア性、延伸性などに優れるとともに、溶融安定性に優れ、着色しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例で用いた押出機の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法で製造される変性EVOH(C)は、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応生成物であり、下記構造単位(I)を含有することが好ましい。
【0025】
【化4】
【0026】
式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。
【0027】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基やアルケニル基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基やシクロアルケニル基が挙げられる。
【0028】
より好適な実施態様では、前記R及びRがともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記R及びRがともに水素原子であり、前記R及びRのうち、一方が炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であって、かつ他方が水素原子である。好適には、前記脂肪族炭化水素基がアルキル基又はアルケニル基である。変性EVOH(C)をバリア材として使用する際のガスバリア性を重視する観点からは、前記R及びRのうち、一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
【0029】
また、変性EVOH(C)をバリア材として使用する際のガスバリア性の観点からは、前記R及びRがともに水素原子であり、前記R及びRのうち、一方が(CHOHで表される置換基(ただし、i=1~6の整数)であり、他方が水素原子であることも好ましい。バリア材としてのガスバリア性を特に重視する場合は、前記の(CHOHで表される置換基において、i=1~4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0030】
変性EVOH(C)に含まれる上述の構造単位(I)の量は0.3~40モル%であることが好ましい。構造単位(I)の量の下限は、0.5モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましく、2モル%以上であることが特に好ましい。一方、構造単位(I)の量の上限は、20モル%以下であることがより好ましく、15モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。含まれる構造単位(I)の量が上記の範囲内にあることで、ガスバリア性、透明性、延伸性及び耐屈曲性を兼ね備えた変性EVOH(C)を得ることができる。
【0031】
変性EVOH(C)のエチレン含有量は5~55モル%であることが好ましい。変性EVOH(C)が、良好な延伸性及び耐屈曲性を得る観点からは、変性EVOH(C)のエチレン含有量の下限はより好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、よりさらに好適には25モル%以上であり、特に好適には31モル%以上である。一方、本発明の変性EVOH(C)のガスバリア性の観点からは、変性EVOH(C)のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が5モル%未満の場合は溶融成形性が悪化するおそれがあり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足するおそれがある。また、変性EVOH(C)のケン化度は後述するEVOH(A)のケン化度のことを意味する。
【0032】
変性EVOH(C)を構成する、上記構造単位(I)及びエチレン単位以外の単量体単位は、主としてビニルアルコール単位である。このビニルアルコール単位は、通常、原料のEVOH(A)に含まれるビニルアルコール単位のうち、一価エポキシ化合物(B)と反応しなかったビニルアルコール単位である。また、EVOH(A)に含まれることがある未ケン化の酢酸ビニル単位は、通常そのまま変性EVOH(C)に含有される。ビニルアルコール単位の含有量は40~80モル%であることが好ましい。本発明の変性EVOH(C)が、良好なガスバリア性を得る観点からは、変性EVOH(C)のビニルアルコール単位の含有量の下限はより好適には45モル%以上であり、さらに好適には50モル%以上である。一方、本発明の変性EVOH(C)が良好な延伸性及び耐屈曲性を得る観点からは、変性EVOH(C)のビニルアルコール単位の含有量の上限はより好適には75モル%以下であり、さらに好適には70モル%以下である。
【0033】
変性EVOH(C)は、これらの単量体単位を含有するランダム共重合体である。さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、その他の単量体単位を含むこともできるが、構造単位(I)、エチレン単位、ビニルアルコール単位及び酢酸ビニル単位以外の他の単量体単位の含有量は、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であってもよく、実質的に他の単量体単位が含まれなくてもよい。その他単量体単位としては、後述するEVOH(A)に記載される共重合し得る単量体として例示されているものが挙げられる。
【0034】
変性EVOH(C)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1~30g/10分であり、より好適には0.3~25g/10分、さらに好適には0.5~20g/10分である。ただし、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0035】
本発明は、上記変性EVOH(C)を製造する方法に関する。本発明は、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である触媒溶液(D)を用いて、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と炭素数2~8の一価エポキシ化合物(B)とを押出機中で溶融混練することにより反応させる、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の製造方法である。
【0036】
本発明に用いられるEVOH(A)としては、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましい。EVOHの製造時に用いるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。エチレンとビニルエステル以外にこれらと共重合し得る単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を少量共存させて共重合させることも可能である。その場合の共重合量は、通常5モル%以下であり、実質的に含まないことが好ましい。
【0037】
本発明に用いられるEVOH(A)のエチレン含有量は5~55モル%であることが好ましい。変性EVOH(C)が、良好な延伸性及び耐屈曲性を得る観点からは、EVOH(A)のエチレン含有量の下限はより好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、本発明の変性EVOH(C)のガスバリア性の観点からは、EVOH(A)のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が5モル%未満の場合は溶融成形性が悪化するおそれがあり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足するおそれがある。ここで、EVOH(A)がエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合質量比から算出される平均値をエチレン含有量とする。
【0038】
本発明に用いられるEVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は好ましくは90モル%以上である。ビニルエステル成分のケン化度は、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは98モル%以上であり、最適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%未満では、変性EVOH(C)のガスバリア性、特に高湿度時のガスバリア性が低下するおそれがあるだけでなく、熱安定性が不十分となり、成形物にゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。ここで、EVOH(A)がケン化度の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合質量比から算出される平均値をケン化度とする。なお、EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0039】
さらに、EVOH(A)として、本発明の目的を阻外しない範囲内で、ホウ素化合物をブレンドしたEVOHを用いることもできる。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0040】
EVOH(A)として、ホウ素化合物をブレンドしたEVOHを用いる場合、ホウ素化合物の含有量は好ましくはホウ素元素換算で20~2000ppm、より好ましくは50~1000ppmである。この範囲内でホウ素化合物をブレンドすることで加熱溶融時のトルク変動が抑制されたEVOHを得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0041】
また、EVOH(A)として、リン酸化合物を配合したEVOH(A)を用いてもよい。これにより樹脂の品質(着色等)を安定させることができる場合がある。本発明に用いられるリン酸化合物としては特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていても良いが、第一リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムが好ましい。ただし、後述のように亜鉛イオンを含む触媒溶液(D)を用いてEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる際に、リン酸塩が触媒を失活させるので、その含有量が少ない方が好ましい。したがって、EVOH(A)のリン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には100ppm以下であり、最適には50ppm以下である。リン酸化合物を配合する場合の好適な下限値は、5ppm以上である。
【0042】
また、後述する通り、本発明の変性EVOH(C)の製造方法では、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒溶液(D)を用いて押出機中で溶融混練することにより反応させるが、その際に、EVOHは加熱条件下に晒される。この時に、EVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、触媒を失活させるため、それらの添加量は少ない方が好ましい。したがって、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、EVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。
【0043】
本発明に用いられるEVOH(A)の固有粘度は0.06L/g以上であることが好ましい。EVOH(A)の固有粘度はより好ましくは0.07~0.2L/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.075~0.15L/gであり、特に好ましくは0.080~0.12L/gである。EVOH(A)の固有粘度が0.06L/g未満の場合、延伸性及び耐屈曲性が低下するおそれがある。また、EVOH(A)の固有粘度が0.2L/gを越える場合、変性EVOH(C)からなる成形物においてゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。
【0044】
本発明に用いられるEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1~30g/10分であり、より好適には0.3~25g/10分、さらに好適には0.5~20g/10分である。ただし、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。MFRの異なる2種以上のEVOHを混合して用いることもできる。
【0045】
本発明に用いられる一価エポキシ化合物(B)は、一価のエポキシ化合物であることが必須である。すなわち、分子内にエポキシ基を一つだけ有するエポキシ化合物でなければならない。二価又はそれ以上の、多価のエポキシ化合物を用いた場合は、本発明の効果を奏することができない。ただし、一価エポキシ化合物の製造工程において、ごく微量に多価エポキシ化合物が含まれることがある。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ごく微量の多価エポキシ化合物が含まれる一価のエポキシ化合物を、本発明における一価エポキシ化合物(B)として使用することも可能である。
【0046】
本発明に用いられる一価エポキシ化合物(B)の炭素数は2~8である。具体的には、下記式(II)~(IV)で示される化合物が、好適に用いられる。
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
式中、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基又はフェニル基を表す。R及びRは、水素原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数3~5のシクロアルキル基を表す。また、iは、1~6の整数を表す。
【0051】
一価エポキシ化合物の炭素数は2~6が好ましく、2~4がさらに好ましい。得られる変性EVOH(C)のガスバリア性の観点から、一価エポキシ化合物として、エポキシエタン、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン及びグリシドールがより好ましく、エポキシプロパン及び1,2-エポキシブタンがさらに好ましい。
【0052】
上記EVOH(A)と上記一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより変性EVOH(C)が得られる。このときの、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)の好適な混合比は、(A)100質量部に対して(B)1~50質量部であり、さらに好適には(A)100質量部に対して(B)2~40質量部であり、特に好適には(A)100質量部に対して(B)5~35質量部である。
【0053】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる際に用いられる触媒溶液(D)は、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である。このような触媒溶液を用いて溶融混練することによって、効率良くEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることができる。
【0054】
本発明で使用される触媒溶液(D)は、亜鉛イオン(F)を含む。触媒溶液(D)に使用される金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から亜鉛イオン(F)が使用される。亜鉛イオン(F)を使用することにより、触媒活性が高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性が優れている。
【0055】
亜鉛イオン(F)の添加量は、EVOH(A)の質量に対する亜鉛イオン(F)のモル数で0.05~1.0μmol/gであることが好適である。亜鉛イオン(F)が多すぎる場合には、得られる変性EVOH(C)を長時間にわたって溶融混練する場合に、トルク変動が大きく、溶融安定性に問題を有する。また、得られる変性EVOH(C)が着色するおそれもある。亜鉛イオン(F)のモル数は、より好適には0.9μmol/g以下である。一方、亜鉛イオン(F)が少なすぎる場合には、触媒(D)の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.1μmol/g以上であり、さらに好適には0.2μmol/g以上であり、さらに好適には0.35μmol/g以上である。
【0056】
触媒溶液(D)は、亜鉛イオン(F)に加えて、スルホン酸イオンを含む。当該スルホン酸イオンは、亜鉛イオン(F)の対イオンとして働き、亜鉛イオン(F)のルイス酸性が向上して触媒活性が向上する。スルホン酸イオンは、EVOHの水酸基やエポキシ基と反応することがなく、アニオン種自体としても熱的に安定である。スルホン酸イオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンなどが例示され、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが最適である。
【0057】
特許文献1の実施例では、等モルの亜鉛アセチルアセトナート一水和物とトリフルオロメタンスルホン酸とを1,2-ジメトキシエタンに溶解させた触媒溶液が用いられている。すなわち、触媒溶液に含まれるスルホン酸イオンのモル数は、亜鉛イオン(F)のモル数の1倍であった。これに対し、本願発明では、触媒溶液(D)に含まれるスルホン酸イオンのモル数が、亜鉛イオン(F)のモル数の1.2~4倍であることが好ましい。亜鉛イオン(F)の対イオンとしてより多くのスルホン酸イオンを含むことによって、亜鉛イオン(F)のルイス酸性が向上し、より少ない触媒量で円滑に反応を進行させることができる。亜鉛イオン(F)のモル数に対するスルホン酸イオンのモル数は、より好適には1.5倍以上であり、さらに好適には1.8倍以上である。また、より好適には3倍以下であり、さらに好適には2.5倍以下である。実質的に2倍であることが最適であり、このとき2価の亜鉛イオンと1価のスルホン酸イオンが過不足なく塩を形成できる。なお、亜鉛イオン(F)もスルホン酸イオンも揮発することがないので、ここでの両者の比率は、変性EVOH組成物の中でも同じ値に保たれる。
【0058】
触媒溶液(D)において、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを溶解させる溶媒はアセトンである。特許文献1では、エーテル系溶媒を用いることが好ましいとされていて、亜鉛アセチルアセトナート一水和物とトリフルオロメタンスルホン酸とを1,2-ジメトキシエタンに溶解させた触媒溶液を用いた実施例が記載されている。しかしながら、溶媒として1,2-ジメトキシエタンを用いた場合には、得られる変性EVOH(C)が着色しやすいとともに、変性EVOH(C)を長時間にわたって溶融混練する場合に、トルク変動が大きく溶融安定性にも問題を有していた。また、1,2-ジメトキシエタンの発火点は202℃であり、溶融混練温度に近く、製造時に危険性を有していた。これに対し、溶媒としてアセトンを用いることによって、より少ない触媒量で反応を進行させることができ、得られる変性EVOH(C)に含まれる亜鉛イオン(F)の量を低減することができる。これにより、着色や溶融安定性の問題を改善することができる。さらに、アセトンの発火点は540℃であり、製造時の危険性も大きく低減する。触媒溶液(D)が、アセトン以外の他の溶媒を少量含んでも構わない。そのような他の溶媒は、アセトンに溶解することができ、本発明を阻害しないものであればよく、メタノールなどが例示される。その含有量は、通常20質量%以下であり、好適には10質量%以下であり、より好適には5質量%以下である。
【0059】
本発明の変性EVOH(C)の製造方法では、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含むアセトン溶液である触媒溶液(D)を用いて、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機中で溶融混練することにより反応させる。その方法として、以下の2つの方法が例示される。
【0060】
第1の方法は、EVOH(A)と、一価エポキシ化合物(B)と、触媒溶液(D)とを押出機に導入し、該押出機中で溶融混練することにより、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させて、変性EVOH(C)を得る方法である。このとき、溶融状態のEVOH(A)に対して、一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物を添加することが好ましい。
【0061】
第2の方法は、EVOH(A)に触媒溶液(D)を含浸させてから、押出機に導入し、該押出機中で一価エポキシ化合物(B)と溶融混練することにより、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させて、変性EVOH(C)を得る方法である。EVOH(A)に触媒溶液(D)を含浸させる方法としては、EVOH(A)のペレットを触媒溶液(D)に接触させた後、乾燥させる方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入する。
【0062】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる際に使用する押出機としては特に制限はないが、一軸押出機、二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を使用し、押出機内の温度を180~250℃として、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることが好ましい。押出機内の温度が250℃を超える場合にはEVOHが劣化するおそれがあり、より好適には230℃以下である。一方、温度が180℃未満の場合にはEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の反応が十分に進行しないおそれがあり、より好適には190℃以上である。
【0063】
二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を用いた場合、スクリュー構成の変更により、反応部の圧力を高めることが容易であり、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を効率的に行えるようになる。一軸押出機では2台以上の押出機を連結し、その間の樹脂流路にバルブを配置することにより、反応部の圧力を高めることが可能である。また同様に二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を2台以上連結して製造してもよい。
【0064】
本発明で用いられる一価エポキシ化合物(B)は、沸点の低いものが多いため、溶液反応による製造法では、反応系を加熱した場合、系外に一価エポキシ化合物(B)が揮散するおそれがある。しかしながら、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制することが可能である。特に、押出機内に一価エポキシ化合物(B)を添加する際に、加圧下で圧入することにより、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性を高め、かつ一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を顕著に抑制することが可能である。
【0065】
押出機内での反応の際の、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の混合方法は特に限定されず、押出機にフィードする前のEVOH(A)に一価エポキシ化合物(B)をスプレーする方法や、押出機にEVOH(A)をフィードし、押出機内で一価エポキシ化合物(B)と接触させる方法などが好適なものとして例示される。この中でも、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制できる観点から、押出機にEVOH(A)をフィードした後、押出機内のEVOH(A)に対して一価エポキシ化合物(B)を添加する方法が好ましい。押出機内への一価エポキシ化合物(B)の添加位置も任意であるが、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性の観点からは、溶融状態のEVOH(A)に対して一価エポキシ化合物(B)を添加することが好ましい。
【0066】
一価エポキシ化合物(B)の添加工程においては、一価エポキシ化合物(B)を加圧下で圧入することが好ましい。この際に、この圧力が不十分な場合、反応率が下がり、吐出量が変動する等の問題が発生する。必要な圧力は一価エポキシ化合物(B)の沸点や押出温度によって大きく異なるが、通常0.5~30MPaの範囲が好ましく、1~20MPaの範囲がより好ましい。一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物を添加する場合も同様である。
【0067】
触媒溶液(D)を押出機に導入する位置は特に限定されないが、EVOH(A)が完全に溶融している場所で添加することが、均一に配合できて好ましい。一価エポキシ化合物(B)を添加する場所と同じ場所又はその近傍で添加することが好ましい。触媒溶液(D)と一価エポキシ化合物(B)をほぼ同時に配合することにより、ルイス酸である亜鉛イオン(F)の影響によるEVOH(A)の劣化を最小限に抑制することができるとともに、十分な反応時間を確保できるからである。したがって、触媒溶液(D)と一価エポキシ化合物(B)の混合物を予め作成しておいて、それを一箇所から押出機中に添加することが最適である。
【0068】
一価エポキシ化合物(B)を押出機に導入する位置よりも下流で、ベント等によって、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去することが好ましい。
【0069】
上述のように、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒である亜鉛イオン(F)の存在下に押出機中で溶融混練するが、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶融混練した後に、触媒失活剤(E)を添加してさらに溶融混練することが好ましい。触媒を失活させなかった場合には、得られる変性EVOH(C)の熱安定性が悪くなるおそれがあり、用途によっては使用に問題をきたす可能性がある。
【0070】
使用される触媒失活剤(E)は、触媒として働く亜鉛イオン(F)のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩などの金属塩が使用される。強酸であるスルホン酸のアニオンを含む触媒を失活させるには、スルホン酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒を構成する亜鉛イオン(F)の対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として亜鉛イオン(F)のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤(E)に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
【0071】
触媒失活剤(E)として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、亜鉛イオン(F)にルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解及びゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点をさらに改善する方法として、亜鉛イオン(F)に強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒に含まれるスルホン酸を中和することもできる。
【0072】
触媒失活剤(E)として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等が例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N-(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウム等が例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウム等が例示される。中でもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。
【0073】
一方、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩のようなキレート剤は、混練設備などを構成する金属を腐食する場合があることがわかった。今回、触媒としての亜鉛イオン(F)の使用量を低減させても、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応が円滑に進行させられることが明らかになったので、混練設備の腐食を防ぐという観点からは、モノカルボン酸のアルカリ金属塩を触媒失活剤(E)として用いることが好ましい。モノカルボン酸の炭素数は、2~18であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、乳酸が好ましいものとして例示される。アルカリ金属は、ナトリウム又はカリウムが好適である。
【0074】
触媒失活剤(E)の添加量は特に限定されないが、亜鉛イオン(F)のモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/F)が1.5~40となるようにすることが好適である。比(E/F)が1.5未満の場合には、亜鉛イオン(F)が十分に失活されないおそれがあり、長時間にわたって溶融混練する場合には、トルク変動が大きく、溶融安定性に問題を有するおそれがある。比(E/F)は、より好適には2以上、さらに好適には2.5以上である。一方、比(E/F)が40を超える場合には、得られる変性EVOH(C)が着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には30以下であり、さらに好適には20以下である。
【0075】
触媒失活剤(E)を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤(E)の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤(E)の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
【0076】
触媒失活剤(E)の押出機への添加位置は、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、亜鉛イオン(F)の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、亜鉛イオン(F)の存在下に溶融混練し、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤(E)を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤(E)を水溶液として添加する場合には、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤(E)を添加したのでは、ベント等で除去して回収使用する一価エポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤(E)の水溶液を添加した後で、ベント等によって水分を除去することも好ましい。
【0077】
本発明の製造方法において、触媒失活剤(E)を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、
(1)EVOH(A)の溶融工程;
(2)一価エポキシ化合物(B)と触媒溶液(D)の混合物の添加工程;
(3)未反応の一価エポキシ化合物(B)の除去工程;
(4)触媒失活剤(E)水溶液の添加工程;
(5)水分の減圧除去工程;
の各工程からなるものが例示される。
【0078】
以上のような、本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物は、前記式(I)で表される構造単位(I)を0.3~40モル%含有する変性EVOH(C)及び亜鉛イオン(F)を含むものであることが好ましく、亜鉛イオン(F)の含有量が0.05~1.0μmol/gであることがより好ましい。ここで、変性EVOH組成物中の亜鉛イオン(F)は、前述の製造方法において触媒溶液(D)を使用した際の触媒残渣として含有されるものである。
【0079】
本発明の変性EVOH組成物中の、亜鉛イオン(F)の含有量は、0.05~1.0μmol/gであることがより好ましい。亜鉛イオン(F)の含有量が1.0μmol/g以下であることによって、長時間にわたって溶融混練する場合であっても、トルク変動が小さく、溶融安定性に優れた樹脂組成物となる。亜鉛イオン(F)の含有量は、より好適には0.9μmol/g以下である。一方、亜鉛イオン(F)の含有量が0.05μmol/g以上であることによって、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応が促進される。亜鉛イオン(F)の含有量は、より好適には0.1μmol/g以上であり、さらに好適には0.2μmol/g以上であり、特に好適には0.35μmol/g以上である。
【0080】
また、本発明の変性EVOH組成物が、アルカリ金属イオン(G)を含有し、前記亜鉛イオン(F)に対するアルカリ金属イオン(G)のモル比(G/F)が5~80であることが好ましい。ここで、アルカリ金属イオンは、主として、前述の製造方法において触媒失活剤(E)を使用した際の残渣として含有されるものである。好適には、前記アルカリ金属イオン(G)がナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンである。モル比(G/F)が5以上であることによって、触媒を効果的に失活させることができ、長時間にわたって溶融混練する場合であっても、トルク変動が小さく、溶融安定性に優れた樹脂組成物となる。モル比(G/F)は、より好適には6以上である。一方、モル比(G/F)が80を超える場合、樹脂組成物が黄変するおそれがある。モル比(G/F)は、より好適には60以下であり、さらに好適には40以下である。
【0081】
本発明の変性EVOH組成物には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応によって変性EVOH(C)が得られた後に添加することもできる。一般に、接着性の改善や着色の抑制など、EVOHの各種物性を改善するために、EVOHには必要に応じてアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種が添加されることが多い。しかしながら、上記に示した各種化合物の添加は、前述の通り、押出機によるEVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応の際に、着色や粘度低下等の原因となるおそれがある。このため、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応後に、残存するエポキシ化合物(B)をベントで除去した後、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、得られた変性EVOH(C)に添加することが好ましい。この添加方法を採用することにより、着色や粘度低下等の問題を生じることなく、本発明の変性EVOH組成物が得られる。
【0082】
本発明の変性EVOH組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。変性EVOH(C)以外の高分子化合物や各種添加剤の合計の含有量は、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。
【0083】
本発明の変性EVOH組成物は、20℃、65%RHにおける酸素透過速度が100cc・20μm/m・day・atm以下であることが好ましい。酸素透過速度の上限は、50cc・20μm/m・day・atm以下であることがより好ましく、20cc・20μm/m・day・atm以下であることがさらに好ましく、10cc・20μm/m・day・atm以下であることが特に好ましい。このような低い酸素透過速度を有する樹脂であることから、本発明の変性EVOH組成物はバリア材として好適に使用され、食品包装用の容器として特に好適に使用される。
【0084】
本発明の変性EVOH組成物は、好適には溶融成形によりフィルム、シート、容器、パイプ、ホース、繊維等、各種の成形品に成形される。これらの成形物は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、フィルム、シート、繊維等を一軸又は二軸延伸することも可能である。溶融成形法としては押出成形、溶融紡糸、射出成形、射出ブロー成形等が可能である。溶融温度は変性EVOH(C)の融点等により異なるが120~270℃程度が好ましい。
【0085】
本発明の変性EVOH組成物は、好適には押出成形品として用いられる。押出成形品の製造方法は特に限定されないが、フィルム押出キャスト成形、シート押出キャスト成形、パイプ押出成形、ホース押出成形、異形押出成形、押出ブロー成形、インフレーション押出成形等が好適なものとして例示される。また、これらの成形方法によって得られた押出成形品を、一軸又は二軸延伸、若しくは熱成形などの二次加工に供することも可能である。
【0086】
本発明の変性EVOH組成物は、単層の成形物としても実用に供せられる。バリア性、耐衝撃性及び耐屈曲性に優れる本発明の変性EVOH組成物を効果的に活用する観点からは、変性EVOH組成物からなる単層成形品としては、フィルム、押出ブロー成形品(好適にはボトルなど)、フレキシブル包装容器(好適には、フレキシブルチューブ又はフレキシブルパウチなど)、パイプ、ホース及び異形成形品などが好ましい。前記フィルムとしては、延伸性に優れるという本発明の変性EVOH組成物の特性を生かせる観点から、特に延伸フィルムが好ましい。中でも、少なくとも一軸方向に2倍以上延伸されてなる延伸フィルムが好ましい。さらに、前記延伸フィルムを、熱収縮フィルムとして用いることも好ましい。
【0087】
本発明の変性EVOH組成物は、上述の通り、単層の成形物としても実用に供せられるが、変性EVOH組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構造体として用いることも好ましい。該多層構造体の層構成としては、バリア材として使用されることの多い本発明の変性EVOH組成物をBarrier、接着性樹脂をAd、前記バリア材以外の樹脂をR、スクラップ回収層をRegで表わすと、Barrier/R、R/Barrier/R、Barrier/Ad/R、Reg/Barrier/R、R/Ad/Barrier/Ad/R、R/Reg/Ad/Barrier/Ad/Reg/R等が挙げられるが、これに限定されない。また、変性EVOH組成物からなる層の両面に、変性EVOH組成物以外の樹脂を設ける場合は、異なった種類のものでもよいし、同じものでもよい。さらに、回収樹脂を変性EVOH組成物以外の樹脂にブレンドしてもよい。それぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。
【0088】
また、前記式(I)で表される構造単位(I)を0.3~40モル%含有する変性EVOH(C)と、未変性EVOH又はポリオレフィンとを含む樹脂組成物であって、変性EVOH(C)の質量に対して0.05~1.0μmol/gの亜鉛イオン(F)を含む樹脂組成物も、本発明の好適な実施態様である。この樹脂組成物は、変性EVOH(C)と、未変性EVOH又はポリオレフィンとを溶融混練することによって製造することができる。なお、本明細書において「未変性EVOH」とは、構造単位(I)を含有しないEVOHを意味する。
【0089】
変性EVOH(C)と、未変性EVOH又はポリオレフィンとの配合比は特に限定されないが、好適には変性EVOH(C)1~99質量%と、未変性EVOH又はポリオレフィン1~99質量%とを含む。
【0090】
変性EVOH(C)と未変性EVOHとを含む樹脂組成物とすることによって、未変性EVOHが有するバリア性や透明性を大きく低下させることなく、二次加工性、耐疲労性、延伸性あるいは層間接着性を大きく改善することが可能である。ここで用いられる未変性EVOHとしては、変性EVOH(C)の原料として使用される前述のEVOH(A)と同じものが使用できるが、配合する変性EVOH(C)の組成や、樹脂組成物の用途によって適宜選択される。
【0091】
樹脂組成物が変性EVOH(C)1~50質量%と未変性EVOH50~99質量%とからなることが好ましい。すなわち、未変性EVOHが主たる成分であって、変性EVOH(C)が従たる成分であることが好ましい。こうすることによって、未変性EVOHが本来有するガスバリア性や透明性を大きく損なうことなく、樹脂組成物に柔軟性や二次加工性を付与することができる。また、変性EVOH(C)は未変性EVOHに比べて製造コストが高いことから、経済的にも有利である。より好適な変性EVOH(C)の含有量は5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。このとき、より好適な未変性EVOHの含有量は95質量%以下であり、さらに好適には90質量%以下である。一方、より好適な変性EVOH(C)の含有量は40質量%以下であり、さらに好適には30質量%以下である。このとき、より好適な未変性EVOHの含有量は60質量%以上であり、さらに好適には70質量%以上である。
【0092】
変性EVOH(C)とポリオレフィンとを含む樹脂組成物とすることも好ましい。ポリオレフィンは力学特性や加工性に優れ、コストも低いことからその有用性が大きいものであるが、バリア性は低い。これに、変性EVOH(C)を配合することによって、耐衝撃性、耐疲労性、加工性などを大きく損なうことなく、バリア性を向上させることができる。ここで使用されるポリオレフィンは特に限定されるものではない。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく用いられ、ポリエチレン及びポリプロピレンが特に好ましく用いられる。
【0093】
樹脂組成物が変性EVOH(C)10~60質量%とポリオレフィン40~90質量%とからなることが好ましい。すなわち、ポリオレフィンが半量程度以上含まれた樹脂組成物であることが好ましい。こうすることによって、ポリオレフィンが本来有する力学性能や加工性を大きく損なうことなく、樹脂組成物にバリア性を付与することができるからである。また、変性EVOH(C)はポリオレフィンに比べて格段に製造コストが高いことから、経済的にも有利な配合比率である。より好適な変性EVOH(C)の含有量は20質量%以上であり、このときポリオレフィンの含有量は80質量%以下である。一方、より好適な変性EVOH(C)の含有量は50質量%以下であり、このときより好適なポリオレフィンの含有量は50質量%以上である。
【0094】
また、前記変性EVOH組成物のペレットと、未変性EVOH又はポリオレフィンのペレットとを含む混合ペレットも、好適な実施態様である。この混合ペレットは、本発明の製造方法により得られた変性EVOH(C)をペレタイズする工程と、得られた変性EVOH(C)ペレットと、未変性EVOH又はポリオレフィンのペレットとをドライブレンドする工程を含む製造方法によって製造できる。このような混合ペレットによれば、それを混練装置に導入して溶融成形するだけで、簡便に樹脂組成物の成形品が得られる。
【0095】
以上、本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物及びその用途について説明した。こうして得られる樹脂組成物の中には、高変性度の変性EVOHを含んでいながら、触媒残渣の含有量が少ない新規の樹脂組成物が含まれている。すなわち、本発明の別の態様は、下記式(I)で表される構造単位(I)を2~40モル%含有する変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)及び亜鉛イオン(F)を含み、亜鉛イオン(F)の含有量が0.05~1.0μmol/gである樹脂組成物である。
【0096】
【化8】
【0097】
(式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基又はフェニル基を表し、前記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及びフェニル基は水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよく、RとRとは結合していてもよい。)
【0098】
この樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。また、構造単位(I)の含有量が2モル%以上であることを除けば、本発明の製造方法によって得られる樹脂組成物及びその用途についての前記記載が適用される。
【実施例0099】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。EVOH(A)及び変性EVOH(C)に関する分析は以下の方法に従って行った。
【0100】
(1)EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒としたH-NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM-GX-500型」を使用)により得られたスペクトルから算出した。
【0101】
(2)EVOH(A)の固有粘度
試料とする乾燥EVOH(A)からなる乾燥ペレット0.20gを精秤し、これを含水フェノール(水/フェノール=15/85:質量比)40mlに60℃にて3~4時間加熱溶解させ、温度30℃にて、オストワルド型粘度計にて測定し(t0=90秒)、下式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(2×(ηsp-lnηrel))1/2/C (L/g)
ηsp=t/t0-1 (specific viscosity)
ηrel=t/t0 (relative viscosity)
C:EVOH濃度(g/L)
t0:ブランク(含水フェノール)が粘度計を通過する時間
t:サンプルを溶解させた含水フェノール溶液が粘度計を通過する時間
【0102】
(3)EVOH(A)中の酢酸の含有量の定量
試料とするEVOH(A)の乾燥ペレット20gをイオン交換水100mlに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。抽出液を、フェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで中和滴定し、酢酸の含有量を定量した。
【0103】
(4)EVOH(A)及び変性EVOH(C)中のNaイオン、Kイオン、Mgイオン及びCaイオンの定量
試料とするEVOH(A)又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をイオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、Na、K、Mg、Caイオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS-C25を使用し、溶離液は5.0mMの酒石酸と1.0mMの2,6-ピリジンジカルボン酸を含む水溶液とした。なお、定量に際してはそれぞれ塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0104】
(5)EVOH(A)及び変性EVOH(C)中のリン酸イオンの定量
試料とするEVOH(A)又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液を、イオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、リン酸イオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS-A23を使用し、溶離液は2.5mMの炭酸ナトリウムと1.0mMの炭酸水素ナトリウムを含む水溶液とした。なお、定量に際してはリン酸二水素ナトリウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0105】
(6)変性EVOH(C)中の亜鉛イオン(F)の定量
試料とする変性EVOH(C)乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をICP発光分析により分析した。装置はパーキンエルマー社のOptima4300DVを用いた。測定波長は亜鉛イオンの測定において206.20nmを用いた。なお、定量に際しては市販の亜鉛標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0106】
(7)EVOH(A)及び変性EVOH(C)の融点
EVOH(A)及び変性EVOH(C)の融点は、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型を用い、JIS K7121に基づいて測定した。ただし、温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。
【0107】
実施例1
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、固有粘度0.0882L/gのエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる含水ペレット(含水率:130%(ドライベース):57%(ウェットベース))100質量部を、酢酸0.1g/L、リン酸二水素カリウム0.044g/Lを含有する水溶液370質量部に、25℃で6時間浸漬・攪拌した。得られたペレットを105℃で20時間乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。前記乾燥EVOHペレットのカリウム含有量は8ppm(金属元素換算)、酢酸含有量は53ppm、リン酸化合物含有量は20ppm(リン酸根換算値)であり、アルカリ土類金属塩(Mg塩又はCa塩)含有量は0ppmであった。また、前記乾燥ペレットのMFRは8g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。このようにして得られたEVOHペレットを、EVOH(A)として用いた。一価エポキシ化合物(B)としてエポキシプロパンを用いた。また、触媒溶液(D)として、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛3.3質量%、メタノール0.6質量%及びアセトン96.0質量%を含む溶液を用いた。
【0108】
東芝機械社製TEM-35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2~C15を200℃に設定し、スクリュー回転数250rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から上記EVOH(A)のペレットを11kg/hrの割合で添加し、ベント1を内圧60mmHgに減圧し、C8の圧入口1からエポキシプロパンが1.5kg/hrの割合で、また触媒溶液(D)が0.07kg/hrの割合で添加されるように、両者を混合してからフィードした(フィード時の圧力:3MPa)。次いで、ベント2から、常圧で未反応のエポキシプロパンを除去した後、触媒失活剤(E)として、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物(EDTA)8.2質量%水溶液を、C13の圧入口2から0.11kg/hrの割合で添加した。
【0109】
上記溶融混練操作における、一価エポキシ化合物(B)の混合割合は、EVOH(A)100質量部に対して13.6質量部であった。EVOH(A)の質量に対する亜鉛イオン(F)のモル数で0.57μmol/gの触媒溶液(D)が添加された。触媒溶液(D)に含まれる亜鉛イオン(F)のモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/F)は3.5であった。
【0110】
ベント3を内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、変性EVOH(C)を得た。得られた変性EVOH(C)のMFRは7g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は132℃であった。また、亜鉛イオン含有量は35ppm(0.54μmol/g)であり、アルカリ金属イオン(G)の含有量は金属元素換算で138ppm(5.9μmol/g)[ナトリウム:130ppm(5.7μmol/g)、カリウム:8ppm(0.2μmol/g)]であった。また、アルカリ土類金属塩(Mg塩又はCa塩)含有量は0ppmであった。なお、本願の他の実施例及び比較例においてもアルカリ土類金属塩含有量は0ppmであった。亜鉛イオン(F)に対するアルカリ金属イオン(G)のモル比(G/F)は10.9であった。また、含まれるスルホン酸イオンのモル数は、亜鉛イオン(F)のモル数の2倍であり、これは実施例2~11でも同様である。
【0111】
こうして得られた、エポキシプロパンで変性された変性EVOH(C)の化学構造について、特許文献1に記載された手順に従って変性EVOH(C)をトリフルオロアセチル化した後にNMR測定を行うことによって求めた。その結果、変性EVOH(C)のエチレン含有量は32モル%であり、構造単位(I)の含有量は5.5モル%であった。
【0112】
(a)単層フィルムの作製
こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、40φ押出機(プラスチック工学研究所製PLABOR GT-40-A)とTダイからなる製膜機を用いて、下記押出条件で製膜し、厚み25μmの単層フィルムを得た。
形式: 単軸押出機(ノンベントタイプ)
L/D: 24
口径: 40mmφ
スクリュー: 一条フルフライトタイプ、表面窒化鋼
スクリュー回転数:40rpm
ダイス: 550mm幅コートハンガーダイ
リップ間隙: 0.3mm
シリンダー、ダイ温度設定:
C1/C2/C3/アダプター/ダイ
=180/200/210/210/210(℃)
【0113】
上記のようにして作成した単層フィルムを用い、以下の(b)~(d)に示す方法に従って、酸素透過速度及びヘイズを測定し、耐屈曲性試験を行った。
【0114】
(b)酸素透過速度の測定
上記作製した単層フィルムを、20℃-65%RHで5日間調湿した。調湿済みの単層フィルムのサンプルを2枚使用して、モダンコントロール社製 MOCON OX-TRAN2/20型を用い、20℃-65%RH条件下でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて、酸素透過速度を測定し、その平均値を求めた。酸素透過速度は1.5cc・20μm/m・day・atmであり、良好なバリア性を示した。
【0115】
(c)ヘイズの測定
上記作製した単層フィルムを用いて、日本精密光学(株)製積分式H.T.Rメーターを使用し、JIS D8741に準じてヘイズの測定を行った。ヘイズは0.1%であり、極めて良好な透明性を示した。
【0116】
(d)耐屈曲性の評価
21cm×30cmにカットされた、上記作製した単層フィルムを50枚作製し、それぞれのフィルムを20℃-65%RHで5日間調湿した後、ASTM F 392-74に準じて、理学工業(株)製ゲルボフレックステスターを使用し、屈曲回数50回、75回、100回、125回、150回、175回、200回、225回、250回、300回屈曲させた後、ピンホールの数を測定した。それぞれの屈曲回数において、測定を5回行い、その平均値をピンホール個数とした。屈曲回数(P)を横軸に、ピンホール数(N)を縦軸に取り、上記測定結果をプロットし、ピンホール数が1個の時の屈曲回数(Np1)を外挿により求め、有効数字2桁とした。その結果Np1は160回であり、極めて優れた耐屈曲性を示した。
【0117】
(e)延伸性の評価
次に、得られた変性EVOH(C)を用いて下記3種5層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で多層シート(アイオノマー樹脂層/接着性樹脂層/変性EVOH(C)層/接着性樹脂層/アイオノマー樹脂層)を作製した。シートの構成は、両最外層のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル製「ハイミラン1652」)層が各250μm、また接着性樹脂(三井化学製「アドマーNF500」)層が各30μm、さらに変性EVOH(C)層が90μmである。
【0118】
共押出条件は以下のとおりである。
層構成:
アイオノマー樹脂/接着性樹脂/変性EVOH(C)/接着性樹脂
/アイオノマー樹脂
(厚み250/30/90/30/250:単位はμm)
各樹脂の押出温度:
C1/C2/C3/ダイ=170/170/220/220℃
各樹脂の押出機仕様:
アイオノマー樹脂;
32φ押出機 GT-32-A型(株式会社プラスチック工学研究所製)
接着性樹脂;
25φ押出機 P25-18AC(大阪精機工作株式会社製)
変性EVOH(C);
20φ押出機 ラボ機ME型CO-EXT(株式会社東洋精機製)
Tダイ仕様:
300mm幅3種5層用 (株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0119】
得られた多層シートを東洋精機製パンタグラフ式二軸延伸装置にかけ、60℃で4×4倍の延伸倍率において同時二軸延伸を行った。
延伸後のフィルム外観を以下の評価基準により評価した。
判定:基準
A:ムラ及び局部的偏肉なし。
B:微少なムラはあるが局部的偏肉なし。
C:微少なムラ及び微少な局部的偏肉があるが、実用には耐えうる。
D:大きなムラ及び大きな局部的偏肉あり。
E:フィルムに破れが生じた。
本実施例の延伸後のフィルムにはムラ及び局部的偏肉はなく、判定はAであった。
【0120】
(f)長期運転時のトルク安定性の評価
得られた変性EVOH(C)を用いて、長期運転時の安定性を評価するため、溶融混練試験を実施した。変性EVOH(C)の試料60gをラボプラストミル(東洋精機製:4C150型、R-60型、二軸異方向)を用いて窒素雰囲気下、230℃、100rpmの条件で溶融混練したときのトルク変化を測定した。混練時間は180分とし、混練開始時のトルク初期値T0と、混練時間中のトルクの最小値Tminの差分ΔTを評価した。最小値Tminは、高温剪断下における樹脂の分解の程度と相関しており、ΔTが小さいほど、樹脂の溶融成形時の長期運転安定性が高い。本実施例により得られた変性EVOH(C)のΔTは0.3(kgf・m)であった。
【0121】
(g)層間接着性試験
得られた変性EVOH(C)、ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックLD LJ400」:低密度ポリエチレン、融点108℃)、及び接着性樹脂(三井化学株式会社製「アドマーNF518」:無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、融点120℃)を用い、3種5層の無延伸多層フィルム(ポリエチレン/接着性樹脂/変性EVOH(C)/接着性樹脂/ポリエチレン=144μm/18μm/18μm/18μm/144μm)を製膜した。共押出フィルムの厚みはスクリュー回転数及び引取りロール速度を適宜変えることで調整した。押出機及び押出条件、使用したダイは下記の通りとした。
【0122】
・変性EVOH(C):
押出機:単軸押出機(東洋精機株式会社ラボ機ME型CO-EXT)
スクリュー:口径20mmφ、L/D20、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=175/200/220/220℃
・接着性樹脂
押出機:単軸押出機(株式会社テクノベルSZW20GT-20MG-STD)
スクリュー:口径20mmφ、L/D20、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=175/200/220/220℃
・ポリエチレン樹脂
押出機:単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所GT-32-A)
スクリュー:口径32mmφ、L/D28、フルフライトスクリュー
押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=175/200/220/220℃
・ダイ
300mm幅3種5層用コートハンガーダイ(株式会社プラスチック工学研究所社製)、ダイ温度220℃
【0123】
上記のようにして得た多層構造体を23℃、50%RHにて調湿した後、押出方向に沿って長さ150mm、幅15mmの試料を切り取り、株式会社島津製作所社製オートグラフ「DCS-50M型引張試験機」にて、23℃、50%RHの雰囲気下、引張速度250mm/分にてT型剥離モードで剥離したときの剥離強度を測定し、以下の基準で判定を行ったところ、評価はAであった。ただし、剥離界面は、変性EVOH(C)層と接着性樹脂層の界面である。
判定:基準
A:250g/15mm以上
B:100g/15mm以上250g/15mm未満
C:100g/15mm未満
【0124】
(h)樹脂組成物ペレットの黄色度
得られた樹脂組成物ペレットの黄色度(YI)を、分光測色計(HunterLab社製「LabScan XE Sensor」)を用いて測定し、以下の基準で判定を行ったところ、評価はAであった。なお、YI値は対象物の黄色みを表す指標であり、YI値が高いほど黄色度が強く、一方、YI値が低いほど黄色度が弱く、着色が少ないことを表す。
判定:基準
A:15未満
B:15以上25未満
C:25以上35未満
D:35以上45未満
E:45以上
【0125】
変性EVOH(C)の製造方法に関しては表1に、組成に関しては表2に、フィルム、樹脂の評価結果については表3に、それぞれまとめて示す。
【0126】
実施例2
原料EVOHペレットとして、エチレン含有量44モル%、ケン化度99.8モル%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算)}の乾燥ペレット5kgをポリエチレン製袋に入れた。引き続き、実施例1と同じ触媒溶液(D)395gを当該袋の中のEVOHに添加した。以上のようにして触媒溶液が添加されたEVOHを、時々、振り混ぜながら袋の口を閉じた状態で、50℃で10時間加熱し、EVOHに触媒溶液(D)を含浸させた。得られたEVOHを、30℃で真空乾燥することにより、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含有するEVOHペレットを得た。
【0127】
EVOH(A)として、前記原料EVOHペレット90質量部に、前記亜鉛イオン及びスルホン酸イオンを含有するEVOHペレット10質量部をドライブレンドしたペレット混合物を用いた。また、一価エポキシ化合物(B)として1,2-エポキシブタンを用いた。
【0128】
東芝機械社製TEM-35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2~C3を200℃、C4~C15を220℃に設定し、スクリュー回転数200rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から、EVOH(A)として前記ペレット混合物を11kg/hrの割合でフィードし、ベント1を内圧60mmHgに減圧し、C8の圧入口1からエポキシブタンを2.5kg/hrの割合でフィードした(フィード時の圧力:3.5MPa)。ベント2を内圧200mmHgに減圧し、未反応のエポキシブタンを除去し、C13の圧入口2から0.14kg/hrの割合でエチレンジアミン4酢酸3ナトリウム3水和物8.2質量%水溶液を添加した。
【0129】
上記溶融混練操作における、一価エポキシ化合物(B)の混合割合は、EVOH(A)100質量部に対して22.7質量部であった。EVOH(A)の質量に対するモル数で0.78μmol/gの亜鉛イオン(F)が添加された。亜鉛イオン(F)のモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/F)は3.3であった。
【0130】
ベント3を内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、変性EVOH(C)を得た。前記変性EVOH(C)のMFRは5g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は109℃であった。また、亜鉛イオン(F)の含有量は46ppm(0.70μmol/g)であり、アルカリ金属塩含有量は金属元素換算で168ppm(7.1μmol/g)[ナトリウム:160ppm(6.9μmol/g)、カリウム:8ppm(0.2μmol/g)]であった。
【0131】
こうして得られた、エポキシブタンで変性された変性EVOH(C)の化学構造については、特許文献1に記載された手順に従って変性EVOH(C)をトリフルオロアセチル化した後にNMR測定を行うことによって求めた。その結果、実施例2で作製した変性EVOH(C)のエチレン含有量は44モル%であり、構造単位(I)の含有量は7.0モル%であった。
【0132】
こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0133】
実施例3
実施例2において、原料EVOHペレットとして、エチレン含量32モル%、ケン化度99.8モル%、固有粘度0.096L/g、MFR=8g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量11ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレットを用い、触媒失活剤(E)溶液の添加割合を0.15kg/hrに変えたこと以外は実施例2と同様にして、変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0134】
実施例4
実施例1において、触媒溶液(D)の添加割合を0.11kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0135】
実施例5
実施例1において、触媒溶液(D)の添加割合を0.04kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0136】
実施例6
実施例1において、触媒失活剤(E)溶液の添加割合を0.22kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0137】
実施例7
実施例1において、触媒溶液(D)の添加割合を0.04kg/hrに変え、触媒失活剤(E)溶液の添加割合を0.32kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0138】
実施例8
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、固有粘度0.0882L/gのエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる含水ペレット(含水率:130%(ドライベース):57%(ウェットベース))100質量部を、酢酸0.1g/L、リン酸二水素カリウム0.88g/Lを含有する水溶液370質量部に、25℃で6時間浸漬・攪拌した。得られたペレットを105℃で20時間乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。前記乾燥EVOHペレットのカリウム含有量は160ppm(金属元素換算)、酢酸含有量は53ppm、リン酸化合物含有量は400ppm(リン酸根換算値)であり、アルカリ土類金属塩(Mg塩又はCa塩)含有量は0ppmであった。
【0139】
こうして得られた乾燥EVOHペレットをEVOH(A)として用いた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0140】
実施例9
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6モル%、固有粘度0.0882L/gのエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる含水ペレット(含水率:130%(ドライベース):57%(ウェットベース))100質量部を、酢酸0.1g/L、リン酸二水素カリウム0.022g/Lを含有する水溶液370質量部に、25℃で6時間浸漬・攪拌した。得られたペレットを105℃で20時間乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。前記乾燥EVOHペレットのカリウム含有量は4ppm(金属元素換算)、酢酸含有量は53ppm、リン酸化合物含有量は10ppm(リン酸根換算値)であり、アルカリ土類金属塩(Mg塩又はCa塩)含有量は0ppmであった。
【0141】
こうして得られた乾燥EVOHペレットをEVOH(A)として用い、触媒溶液(D)の添加割合を0.11kg/hrに変え、触媒失活剤(E)溶液の添加割合を0.08kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0142】
実施例10
実施例1において、触媒溶液(D)の添加割合を0.01kg/hrに変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0143】
実施例11
実施例1において、触媒失活剤(E)を酢酸ナトリウム4.9質量%水溶液に変えた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0144】
比較例1
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を、1,2-ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合溶液を得た。得られた前記混合液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液(D)を得た。当該触媒溶液(D)は、亜鉛アセチルアセトナート一水和物1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸1モルを含む。
【0145】
上記触媒溶液(D)を0.22kg/hrの割合で添加した以外は、実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。変性EVOH(C)に含まれる亜鉛イオン(F)の量は実施例1の3倍以上であったにもかかわらず、構造単位(I)の含有量は実施例1と同じであった。このことから、実施例に比べて多量の亜鉛イオン(F)を要したことがわかる。なお、変性EVOH(C)に含まれるスルホン酸イオンのモル数は、亜鉛イオン(F)のモル数の1倍であった。
【0146】
比較例2
実施例2と同じ原料ペレット5kgをポリエチレン製袋に入れた。引き続き、酢酸亜鉛二水和物27.44g(0.125mol)及びトリフルオロメタンスルホン酸15g(0.1mol)を水500gに溶解させた触媒溶液(D)を当該袋の中のEVOHに添加した。以上のようにして触媒溶液が添加されたEVOHを、時々、振り混ぜながら袋の口を閉じた状態で、90℃で5時間加熱し、EVOHに触媒溶液(D)を含浸させた。得られたEVOHを、90℃で真空乾燥することにより、亜鉛イオン(F)及びスルホン酸イオンを含有するEVOHペレットを得た。
【0147】
EVOH(A)として、前記原料EVOHペレット90質量部に、前記亜鉛イオン及びスルホン酸イオンを含有するEVOHペレット10質量部をドライブレンドしたペレット混合物を用いた。こうして得られたEVOH(A)を用いた以外は実施例2と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。なお、変性EVOH(C)に含まれるスルホン酸イオンのモル数は、亜鉛イオン(F)のモル数の0.8倍であった。
【0148】
比較例3
実施例1において、押出機に投入する前の乾燥EVOHペレットを用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。なお、耐屈曲性については、屈曲回数を25回、30回、35回、40回、50回、60回、80回及び100回として測定を行った。
【0149】
比較例4
実施例2において、触媒溶液(D)を含浸させる前の原料EVOHペレットを用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。なお、耐屈曲性については、比較例3と同様にして測定を行った。
【0150】
比較例5
実施例1において、触媒溶液(D)及び触媒失活剤(E)のフィードを止めた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0151】
比較例6
実施例2において、原料EVOHペレットに、亜鉛イオン及びスルホン酸イオンを含有するEVOHペレットをドライブレンドしたペレット混合物を用いる代わりに、原料EVOHペレットのみを用い、触媒失活剤(E)のフィードを止めた以外は実施例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。
【0152】
比較例7
比較例1において、触媒溶液(D)を0.06kg/hrの割合で添加した以外は、比較例1と同様にして変性EVOH(C)を得た。こうして得られた変性EVOH(C)を用いて、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを製造し、評価した。結果を表1~3にまとめて示した。

【0153】
【表1】
【0154】
【表2】

【0155】
【表3】
【0156】
実施例12
・樹脂組成物ペレットの製造
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9モル%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重下)1.6g/10分、融点183℃の無変性EVOH80質量部、及び実施例1で得られた変性EVOH(C)20質量部をドライブレンドし、混合ペレットを得た。当該混合ペレットを30mmφ二軸押出機((株)日本製鋼所TEX-30SS-30CRW-2V)を用い、バレル温度200℃、スクリュー回転数300rpm、押出樹脂量25kg/時間の条件で押出し、ペレット化した後、80℃、16時間熱風乾燥を行い、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物のリン酸化合物含有量(リン酸根換算値)、酢酸含有量及びNaイオン含有量(金属元素換算)を測定したところ、それぞれ40ppm、250ppm、160ppmであった。該樹脂組成物のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下)は1.9g/10分であった。
【0157】
・酸素透過速度の測定
こうして得られた樹脂組成物を用いて、実施例1の(a)と同様にして厚み25μmの単層フィルムを得た。得られた単層フィルムを用い、実施例1の(b)と同様にして酸素透過速度を測定したところ、酸素透過速度は0.5cc・20μm/m・day・atmであり、良好なガスバリア性を示した。
【0158】
・ヤング率の測定
前記単層フィルムを23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、15mm巾の短冊状の切片を作製した。該フィルムサンプルを用い、島津製作所製オートグラフAGS-H型にて、チャック間隔50mm、引張速度5mm/minの条件でヤング率の測定を行った。測定は各10サンプルについて行い、その平均値を求めた。ヤング率は180kgf/mmであった。
【0159】
・引張降伏点強度及び引張破断伸度の測定
前記単層フィルムを23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、15mm巾の短冊状の切片を作製した。該フィルムサンプルを用い、島津製作所製オートグラフAGS-H型にて、チャック間隔50mm、引張速度500mm/minの条件で引張降伏点強度及び引張破断伸度の測定を行った。測定は各10サンプルについて行い、その平均値を求めた。引張降伏点強度及び引張破断伸度はそれぞれ、6.5kgf/mm及び310%であった。
【0160】
・ヘイズの測定
前記単層フィルムを用いて、実施例1の(c)と同様にしてヘイズの測定を行った。ヘイズは0.1%であり、極めて良好な透明性を示した。
【0161】
・耐屈曲性の評価
前記単層フィルムを用いて、実施例1の(d)と同様にして耐屈曲性を評価した。その結果Np1は90回であり、優れた耐屈曲性を示した。
【0162】
・単層フィルムの延伸性の評価
前記単層フィルムを東洋精機製パンタグラフ式二軸延伸装置にかけ、100℃で2.0×2.0倍~5.0×5.0倍の延伸倍率の範囲において0.25×0.25倍ずつ倍率を変化させて同時二軸延伸を行った。破れが生じず良好な延伸が可能であった最高延伸倍率は4.0×4.0倍であり、延伸されたフィルムにムラ及び局部的偏肉はなかった。
【0163】
・層間接着性試験
得られた樹脂組成物を用いて、実施例1の(g)と同様にして多層フィルムを得てから剥離強度を測定したところ、判定はAであった。

図1