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特開2023-139351多層フィルム、金属張積層板及び回路基板
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  • 特開-多層フィルム、金属張積層板及び回路基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139351
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】多層フィルム、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20230927BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230927BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B32B27/34
C08G73/10
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044834
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘高 直樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB01E
4F100AB17A
4F100AB17E
4F100AK12C
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK49C
4F100AK49D
4F100AK49E
4F100BA05
4F100BA06
4F100CB00C
4F100GB41
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100JB16D
4F100JG05
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JK07C
4F100JK07D
4F100JK07E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
4J043PA08
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA46
4J043SA47
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA041
4J043UA131
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA672
4J043UB021
4J043UB131
4J043UB152
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA012
4J043VA021
4J043VA031
4J043VA051
4J043VA052
4J043XA14
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA05
4J043ZA06
4J043ZA32
4J043ZA35
4J043ZA43
4J043ZA46
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】接着層からなる内層部の両側に複数層のポリイミド層からなる外層部を有する多層フィルムにおいて、寸法安定性と外側金属層との密着性を確保しつつ誘電特性の改善を図る。
【解決手段】熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/接着層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層の層構成を有し、a)接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みが2~20μmの範囲内である、b)多層フィルム全体における熱可塑性ポリイミド層の合計厚みと、熱可塑性及び非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みの比が0.1~0.6、c)接着層の厚みと全層厚みの比が0.60~0.99を満たす、d)接着層の100℃での貯蔵弾性率が130MPa未満であり、200℃での貯蔵弾性率が40MPa以下である、e)多層フィルム全体の20GHzにおける誘電正接が0.0029未満である、を満たす多層フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリイミド層と、接着層と、を含む多層フィルムであって、
熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/接着層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層の層構成を有するとともに、以下のa)~e)の条件;
a)接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みが2μm以上20μm以下の範囲内であること、
b)多層フィルム全体における熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをT、非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをTとしたときに以下の式(i)を満たすこと、
0.1 ≦ (T)/(T+T) ≦ 0.6 ・・・ (i)
c)接着層の厚みをTとしたときに以下の式(ii)を満たすこと、
0.60 ≦ T/(T+T+T) ≦ 0.99 ・・・(ii)
d)接着層の100℃における貯蔵弾性率が130MPa未満であり、かつ200℃における貯蔵弾性率が40MPa以下であること、
e)多層フィルム全体として、SPDR共振器を用いて測定される20GHzにおける誘電正接が0.0029未満であること、
を満たすことを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層を合わせたポリイミド層の100℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であり、200℃における貯蔵弾性率が0.1GPa以上である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層を合わせたポリイミド層の熱膨張係数が5~35ppm/Kの範囲内である請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記接着層は、熱可塑性ポリイミド及びポリスチレンエラストマー樹脂を含有しており、熱可塑性ポリイミドの100重量部に対するポリスチレンエラストマー樹脂の含有量が10重量部以上150重量部以下の範囲内である請求項1から3のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するとともに、全ジアミン残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物に由来するジアミン残基の含有割合が20モル%以上であり、かつ、下記の一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有割合が合計で5~50モル%の範囲内である請求項4に記載の多層フィルム。
【化1】
[式(1)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、mは独立に0~4の整数、mは0~2の整数を示す。]
【請求項6】
前記接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドは、分子鎖中に含まれるケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基とがC=N結合による架橋構造を形成している架橋ポリイミドである請求項4又は5に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するとともに、全酸二無水物残基に対し、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるBPDA残基の割合が40モル%以上であり、かつ、全ジアミン残基に対し、下記の一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の割合が30モル%以上である請求項1から6のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【化2】
[式(1)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、mは独立に0~4の整数、mは0~2の整数を示す。]
【請求項8】
前記非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するとともに、全酸二無水物残基に対し、ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基の割合が40モル%以上であり、かつ、全ジアミン残基に対し、ビフェニル骨格を有するジアミン残基の割合が40モル%以上である請求項1から7のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の多層フィルムと、該多層フィルムの片面又は両面に積層されている金属層と、を有する金属張積層板。
【請求項10】
前記金属層をエッチング除去したとき、エッチング前の多層フィルムを基準にして、エッチング後の多層フィルムの寸法変化率が±0.10%以内であり、かつ、エッチング後の多層フィルムを基準にして、150℃で30分加熱した後の寸法変化率が±0.10%以内である請求項9に記載の金属張積層板。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の金属張積層板の金属層を配線に加工してなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品材料として有用な多層フィルム、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、スマートフォン等の電子機器の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
高密度化に加えて、機器の高性能化が進んだことから、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。高周波信号を伝送する際に、伝送経路における伝送損失が大きい場合、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じる。伝送信号の高周波化に対応するために、一対の片面金属張積層板の絶縁樹脂層の間に厚み比率が大きな接着層を介在させるとともに、接着層の材質としてダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン(DDA)を原料とする熱可塑性ポリイミドを使用することによって誘電特性を改善する提案がなされている(特許文献1)。特許文献1では、樹脂部分の積層構造として、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層/接着層/熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層の層構成が具体的に開示されている。
【0004】
特許文献1のような層構成において、誘電特性をさらに改善するためは、誘電特性に優れる接着層からなる内層部の厚みを大きくし、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層からなる外層部の厚みを薄くしていくことが有効である。しかし、外層部の非熱可塑性ポリイミド層の厚みを薄くしていくと、外層部の熱膨張係数(CTE)が低下して寸法精度が損なわれるとともに、外側に金属層を積層したときの金属層との密着性確保が困難になるという問題が生じ、誘電特性のさらなる改善を図る上で隘路となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-170417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、接着層からなる内層部の両側に複数層のポリイミド層からなる外層部を有する多層フィルムにおいて、寸法安定性と、外側に金属層を積層したときの密着性を確保しながら誘電特性のさらなる改善を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、外層部については、熱可塑性ポリイミド層を片側1層に集約するとともにその厚み比率を増やすことによって外層部全体を薄膜化しながら寸法安定性及び金属層との密着性を確保できること、内層部については、相対的な厚み比率を増やして多層フィルム全体の低誘電正接化を図る一方で高温での貯蔵弾性率を小さくすることによってする内層部が寸法変化に与える影響を緩和できること、を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の多層フィルムは、複数のポリイミド層と、接着層と、を含むものである。本発明の多層フィルムは、熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層/接着層/非熱可塑性ポリイミド層/熱可塑性ポリイミド層の層構成を有する。そして、本発明の多層フィルムは、以下のa)~e)の条件;
a)接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みが2μm以上20μm以下の範囲内であること、
b)多層フィルム全体における熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをT、非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをTとしたときに以下の式(i)を満たすこと、
0.1 ≦ (T)/(T+T) ≦ 0.6 ・・・ (i)
c)接着層の厚みをTとしたときに以下の式(ii)を満たすこと、
0.60 ≦ T/(T+T+T) ≦ 0.99 ・・・(ii)
d)接着層の100℃における貯蔵弾性率が130MPa未満であり、かつ200℃における貯蔵弾性率が40MPa以下であること、
e)多層フィルム全体として、SPDR共振器を用いて測定される20GHzにおける誘電正接が0.0029未満であること、
を満たすものである。
【0009】
本発明の多層フィルムは、接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層を合わせたポリイミド層の100℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であってもよく、200℃における貯蔵弾性率が0.1GPa以上であってもよい。
また、本発明の多層フィルムは、接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層を合わせたポリイミド層の熱膨張係数が5~35ppm/Kの範囲内であってもよい。
【0010】
本発明の多層フィルムにおいて、前記接着層は、熱可塑性ポリイミド及びポリスチレンエラストマー樹脂を含有していてもよい。この場合、熱可塑性ポリイミドの100重量部に対するポリスチレンエラストマー樹脂の含有量が10重量部以上150重量部以下の範囲内であってもよい。
【0011】
本発明の多層フィルムにおいて、前記接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有していてもよい。この場合、全ジアミン残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物に由来するジアミン残基の含有割合が20モル%以上であってもよく、また、下記の一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有割合が合計で5~50モル%の範囲内であってもよい。
【0012】
【化1】
【0013】
一般式(1)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、mは独立に0~4の整数、mは0~2の整数を示す。
【0014】
本発明の多層フィルムにおいて、前記接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドは、分子鎖中に含まれるケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基とがC=N結合による架橋構造を形成している架橋ポリイミドであってもよい。
【0015】
本発明の多層フィルムにおいて、前記熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有していてもよい。この場合、全酸二無水物残基に対し、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるBPDA残基の割合が40モル%以上であってもよく、また、全ジアミン残基に対し、上記の一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の割合が30モル%以上であってもよい。
【0016】
本発明の多層フィルムにおいて、前記非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有していてもよい。この場合、全酸二無水物残基に対し、ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基の割合が40モル%以上であってもよく、また、全ジアミン残基に対し、ビフェニル骨格を有するジアミン残基の割合が40モル%以上であってもよい。
【0017】
本発明の金属張積層板は、上記いずれかに記載の多層フィルムと、該多層フィルムの片面又は両面に積層されている金属層と、を有するものである。
また、本発明の金属張積層板は、前記金属層をエッチング除去したとき、エッチング前の多層フィルムを基準にして、エッチング後の多層フィルムの寸法変化率が±0.10%以内であってもよく、また、エッチング後の多層フィルムを基準にして、150℃で30分加熱した後の寸法変化率が±0.10%以内であってもよい。
また、本発明の金属張積層板は、上記金属張積層板の金属層を配線に加工してなるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多層フィルムは、熱可塑性ポリイミド層を片側1層ずつに集約してその厚み比率を増やすことによって外層部を熱可塑性ポリイミド層/非熱可塑性ポリイミド層の片側2層構成にしたので、外層部全体を薄膜化しながら、寸法安定性と、外側に金属層を積層したときの金属層との密着性が確保されている。また、内層部を構成する樹脂として、誘電特性に優れ、かつ高温での貯蔵弾性率が小さなものを用いることによって、内層部の相対的な厚み比率を増やしながら寸法安定性が維持され、多層フィルム全体の低誘電正接化が可能となっている。このような本発明の効果は、外層部であるポリイミド層の合計厚みや厚み比率が相対的に小さく、接着層の厚みや厚み比率が相対的に大きな層構成において特に有効に発揮される。したがって、本発明の多層フィルムを用いた金属張積層板は、GHz帯域の高周波信号を伝送する回路基板への適用において、伝送損失の低減と優れた寸法安定性による信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好ましい実施の形態の多層フィルムの層構成を示す模式的断面図である。
図2】本発明の好ましい実施の形態の金属張積層板の層構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照して説明する。
【0021】
[多層フィルム]
図1は、本発明の一実施の形態に係る多層フィルム100の断面構造を示している。多層フィルム100は、熱可塑性ポリイミド層10A/非熱可塑性ポリイミド層20A/接着層BS/非熱可塑性ポリイミド層20B/熱可塑性ポリイミド層10Bがこの順番に積層された層構成を有している。ここで、片側の外層部である熱可塑性ポリイミド層10Aと非熱可塑性ポリイミド層20Aは第1の絶縁樹脂層40Aを構成しており、他方側の外層部である熱可塑性ポリイミド層10Bと非熱可塑性ポリイミド層20Bは第2の絶縁樹脂層40Bを構成している。したがって、多層フィルム100は、外層部である第1の絶縁樹脂層40Aと、内層部である接着層BSと、外層部である第2の絶縁樹脂層40Bと、がこの順に積層された構造を有している。
【0022】
従来技術の層構成とは異なり、多層フィルム100では、外層部である第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bにおいて、熱可塑性ポリイミド層がそれぞれ1層のみ積層された層構成を有している。このように、接着層BSの片側の外層部を2層構成とし、熱可塑性ポリイミド層(熱可塑性ポリイミド層10A又は熱可塑性ポリイミド層10B)を片側1層ずつに集約することによって、外層部の厚みを薄くしながら、外側に金属層を積層したときの金属層との密着性を確保できる。
【0023】
図1に示す構成例において、熱可塑性ポリイミド層10Aと熱可塑性ポリイミド層10Bは、同一もしくは異なる種類の熱可塑性ポリイミドによって構成されていてもよい。また、非熱可塑性ポリイミド層20Aと非熱可塑性ポリイミド層20Bも、同一もしくは異なる種類の非熱可塑性ポリイミドによって構成されていてもよい。第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bに用いる好ましいポリイミドの詳細については、後で説明する。
なお、第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bには、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、有機もしくは無機フィラー、カップリング剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0024】
多層フィルム100は、以下のa)~e)の条件を満たすものである。
a)接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みが2μm以上20μm以下の範囲内であること。
条件aは、図1に示す構成例において、接着層BSの片側に積層されている、熱可塑性ポリイミド層10Aと非熱可塑性ポリイミド層20Aの合計厚み、及び、熱可塑性ポリイミド層10Bと非熱可塑性ポリイミド層20Bの合計厚みが、いずれも2μm以上20μm以下の範囲内であることを規定している。つまり、第1の絶縁樹脂層40Aの厚み及び第2の絶縁樹脂層40Bの厚みは、いずれも、2μm以上20μm以下の範囲内である。
このように、外層部である第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bを所定の厚み範囲とすることによって、相対的に誘電特性に優れている接着層BSの厚み・厚み比率を極力大きくすることが可能になり、多層フィルム100全体の誘電特性を改善できる。第1の絶縁樹脂層40A又は第2の絶縁樹脂層40Bの厚みが2μm未満であると、外側に金属層を積層したときの金属層との密着性が損なわれる場合があり、20μmを超えると、接着層BSの厚み・厚み比率を大きくする場合の制約となり、多層フィルム100全体の低誘電正接化が困難になる。かかる観点から、第1の絶縁樹脂層40Aの厚み及び第2の絶縁樹脂層40Bの厚みは、いずれも2μm以上12μm以下の範囲内が好ましく、2μm以上8μm以下の範囲内がより好ましく、2μm以上5μm以下の範囲内が最も好ましい。
【0025】
ここで、熱可塑性ポリイミド層10A,10Bの厚みは、外側に金属層を積層したときに金属層との十分な密着性を確保する観点から、それぞれ、例えば0.5μm以上2.0μm以下の範囲内が好ましく、1.0μm以上1.8μm以下がより好ましい。
また、非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bの厚みは、多層フィルム100全体の自己支持性を確保しつつ熱膨張係数(CTE)の過度な低下を抑制する観点から、例えば1.0μm以上4.0μm以下の範囲内が好ましく、1.5μm以上3.0μm以下がより好ましい。
なお、熱可塑性ポリイミド層10A,10Bは、同じ厚みでも異なる厚みでよく、非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bも同じ厚みでも異なる厚みでよい。さらに、第1の絶縁樹脂層40Aと第2の絶縁樹脂層40Bは、同じ厚みでも異なる厚みでもよい。
【0026】
b)多層フィルム全体における熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをT、非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをTとしたときに以下の式(i)を満たすこと。
0.1 ≦ (T)/(T+T) ≦ 0.6 ・・・ (i)
条件bは、熱可塑性ポリイミド層10A及び熱可塑性ポリイミド層10Bの合計厚みTと、非熱可塑性ポリイミド層20A及び非熱可塑性ポリイミド層20Bの合計厚みTと、の合計(T+T)に対する熱可塑性ポリイミド層10A及び熱可塑性ポリイミド層10Bの合計厚みTの比率を所定の範囲内とすることを規定している。ここで、(T+T)は、接着層BSの両側に設けられている外層部の合計厚み(つまり、第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bの合計厚み)である。このように、外層部における熱可塑性ポリイミド層10A,10Bの厚み比率(T)/(T+T)が式(i)を満たすことによって、条件aに従って外層部である第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bのそれぞれの厚みを従来技術に比べて薄膜化しても、外層部が過度に低CTE化することを抑制できるとともに、外側に金属層を積層したときの金属層との密着性を十分に確保することができる。
【0027】
なお、外層部に含まれる非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bは、厚みが薄くなるほど熱膨張係数(CTE)が低下する傾向にある。この傾向は、非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bがキャスト法で形成された場合に顕著にみられる。その理由としては、加熱処理の過程で塗布膜の厚みが薄いほど溶媒の揮発が促進され、分子の配向が進むことが原因であると考えられる。したがって、厚み比率(T)/(T+T)が0.1未満では、熱可塑性ポリイミド層10A,10Bの割合が小さく、非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bの割合が過剰に増えることから、非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bの影響により外層部の低CTE化が過剰に進み寸法安定性が悪化する。さらに、外側に金属層を積層したときに金属層との密着性の確保が難しくなる場合がある。かかる観点から、厚み比率(T)/(T+T)の下限値は、例えば0.17、0.20、0.25、0.30、もしくは0.40のいずれかの中から選ばれることが好ましい。
一方、厚み比率(T)/(T+T)が0.60を超える場合は、高CTEの熱可塑性ポリイミド層10A,10Bの割合が過剰に増えることから、例えば外側に金属層を積層した後で金属層をエッチングした場合や熱処理をした場合などに多層フィルム100全体の寸法安定性を維持することが難しくなる場合がある。したがって、厚み比率(T)/(T+T)の上限値は0.55以下であることが好ましく、0.50以下がより好ましい。
【0028】
c)接着層の厚みをTとしたときに以下の式(ii)を満たすこと、
0.60 ≦ T/(T+T+T) ≦ 0.99 ・・・(ii)
条件cは、多層フィルム100全体の厚み(T+T+T)に対する接着層BSの厚みTの比率T/(T+T+T)を所定の範囲内とすることを規定している。厚み比率T/(T+T+T)が式(ii)を満たすようにすることによって、多層フィルム100全体の低誘電正接化を図りながら、寸法安定性とのバランスを図ることができる。厚み比率T/(T+T+T)が0.60未満では、相対的に接着層BSの厚み比率が小さくなるため、多層フィルム100全体の低誘電正接化が困難になり、高周波信号伝送時の伝送損失が大きくなる。かかる観点から、厚み比率T/(T+T+T)の下限値は0.70以上であることが好ましく、0.80以上がより好ましく、0.85以上が最も好ましい。
一方、厚み比率T/(T+T+T)が0.99を上回る場合は、相対的に接着層BSの厚み比率が大きくなり過ぎるため、金属層との密着性確保が困難になるほか、多層フィルム100全体の寸法安定性を維持することが難しくなる場合がある。したがって、厚み比率T/(T+T+T)の上限値は0.96以下であることが好ましく、0.94以下がより好ましい。
【0029】
なお、多層フィルム100全体の厚み(T+T+T)は、例えば70~500μmの範囲内が好ましく、100~300μmの範囲内であることがより好ましい。多層フィルム100全体の厚み(T+T+T)が70μm未満では、回路基板とした際に高周波信号の伝送損失を抑制する効果が不十分となり、500μmを超えると、生産性低下の恐れがある。
【0030】
また、接着層BSの厚みTは50μmより大きいことが好ましい。優れた誘電特性と寸法安定性との両立という本発明の効果は、接着層BSの厚みTが50μmより大きな積層構造において特に有効に発揮される。かかる観点から、接着層BSの厚みTは、例えば50μm超~450μmの範囲内にあることが好ましく、60~250μmの範囲内がより好ましく、80~200μmの範囲内がさらに好ましい。接着層BSの厚みTが上記下限値に満たないと、低誘電正接化が不十分となり、十分な誘電特性が得られないなどの問題が生じることがある。一方、接着層BSの厚みTが上記上限値を超えると寸法安定性が低下するなどの不具合が生じることがある。
【0031】
d)接着層の100℃における貯蔵弾性率が130MPa未満であり、かつ200℃における貯蔵弾性率が40MPa以下であること。
条件dは、接着層BSを構成する熱可塑性ポリイミド(以下、「接着性ポリイミド」と記すことがある)の熱圧着温度域(100℃~200℃)での貯蔵弾性率を規定している。条件dを満たすということは、100℃から200℃未満までの温度範囲で貯蔵弾性率が130MPaを下回り、過度に大きくならないことを意味している。外側に金属層を積層した後で、金属層のエッチングや加熱によって寸法変化が生じる原因となる熱圧着後の残留応力は、熱圧着温度での接着層BSの貯蔵弾性率が高いほど増加し、また、接着層BSの厚み・厚み比率が大きいほど増加すると考えられる。そのため、熱圧着温度域での貯蔵弾性率が過度に大きくならない樹脂を用いることで、接着層BSの厚み・厚み比率をある程度大きくしても熱圧着後の残留応力を軽減し、寸法安定性を確保することができる。かかる観点から、接着層BSの100℃における貯蔵弾性率は0.01MPa以上100MPa以下の範囲内が好ましく、0.1MPa以上50MPa以下の範囲内であることがより好ましい。また、200℃における貯蔵弾性率は0.01MPa以上30MPa以下の範囲内が好ましく、0.1MPa以上20MPa以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
e)多層フィルム全体として、SPDR共振器を用いて測定される20GHzにおける誘電正接が0.0029未満であること。
条件eは多層フィルム100全体の誘電正接が、従来技術に比べて格段に低い値であることを規定している。多層フィルム100全体の20GHzにおける誘電正接が0.0029未満であれば、例えば1GHz~60GHzのGHz帯域での高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスを効果的に低減できるため、例えば5G通信以降の高速通信に用いる回路基板への適用も可能になる。かかる観点から、多層フィルム100全体の20GHzにおける誘電正接は、0.0025以下が好ましく、0.0020以下であることがより好ましい。
なお、同様の観点から、SPDR共振器を用いて測定される20GHzにおける多層フィルム100全体の比誘電率は3.0以下が好ましく、2.9~1.5の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
多層フィルム100は、条件a~eに加え、さらに、条件f;
f)接着層の片側に積層されている熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層を合わせたポリイミド層の100℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であり、200℃における貯蔵弾性率が0.1GPa以上であること、
を満たすことが好ましい。
条件fは、第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bについて、それぞれ、100℃における貯蔵弾性率が1.0GPa以上であり、200℃における貯蔵弾性率が0.1GPa以上であること、を規定するものである。条件fを満たすということは、熱圧着温度域(100℃~200℃)で外層部の貯蔵弾性率が内層部である接着層BSよりも高いことを意味する。熱圧着後の残留応力による寸法変化を抑制するためには、外層部のばね定数を内層部に対して一定以上大きくすることが有効であると考えられることから、上記条件dを考慮に入れながら、外層部の貯蔵弾性率が内層部の貯蔵弾性率に比べて大きくなるように制御することによって、多層フィルム100全体の寸法安定性を高めることができる。かかる観点から、第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bの100℃における貯蔵弾性率は、それぞれ、2GPa以上10GPa以下の範囲内が好ましく、3GPa以上8GPa以下の範囲内がより好ましい。また、200℃における貯蔵弾性率は0.5GPa以上8GPa以下の範囲内が好ましく、1GPa以上5GPa以下の範囲内がより好ましい。
なお、第1の絶縁樹脂層40Aと第2の絶縁樹脂層40Bの貯蔵弾性率は、同じでもよいし、異なっていてもよいが、反りを抑制する観点から同じであることが好ましい。
【0034】
多層フィルム100は、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、フィルム全体の熱膨張係数(CTE)が10~30ppm/Kの範囲内であることが好ましく、10~25ppm/Kの範囲内がより好ましく、10~20ppm/Kの範囲内が最も好ましい。CTEが10ppm/K未満であるか、又は30ppm/Kを超えると、反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。
【0035】
また、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、接着層BSの片側に積層されている第1の絶縁樹脂層40A又は第2の絶縁樹脂層40Bの熱膨張係数(CTE)は、それぞれ5~35ppm/Kの範囲内であることが好ましく、8~30ppm/Kの範囲内がより好ましく、10~25ppm/Kの範囲内が最も好ましい。
なお、第1の絶縁樹脂層40Aと第2の絶縁樹脂層40Bの熱膨張係数(CTE)は、同じでもよいし、異なっていてもよいが、反りを抑制する観点から同じであることが好ましい。
【0036】
[ポリイミド]
次に、第1の絶縁樹脂層40A、第2の絶縁樹脂層40B及び接着層BSを構成するポリイミドについて説明する。
なお、本発明でポリイミドという場合、ポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、ポリベンズイミダゾールイミドなど、分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂を意味する。また、ポリイミドが複数の構造単位を有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
また、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。また、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。
【0037】
<熱可塑性ポリイミド>
第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bにおける熱可塑性ポリイミド層10A,10Bを形成するための熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分と、脂肪族ジアミン及び/又は芳香族ジアミン等を含むジアミン成分と、を反応させて得られるものであり、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有する。酸二無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱可塑性ポリイミドの熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。なお、本発明において、「酸二無水物残基」とは、酸二無水物から誘導された4価の基のことを意味し、「ジアミン残基」とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを意味する。
【0038】
熱可塑性ポリイミド層10A,10Bを形成するための熱可塑性ポリイミドは、原料の酸二無水物成分及びジアミン成分として、熱可塑性ポリイミドの合成に一般的に用いられるモノマーを使用できるが、芳香族酸二無水物や芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
芳香族酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、P-フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)等を好ましく使用できる。これらの中でも、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が最も好ましい。
熱可塑性ポリイミド層10A,10Bは、極性基濃度を減らし誘電特性を向上させつつ、基材との密着性を担保するため、全酸二無水物残基に対して、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるBPDA残基の含有割合が40モル%以上であることが好ましく、45~80モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
芳香族ジアミンとしては、適度な屈曲性と基材との密着性を担保する観点から下記の一般式(1)で表されるジアミン化合物を用いることが好ましい。
【0040】
【化2】
【0041】
一般式(1)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-CO-、-COO-、-SO-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、mは独立に0~4の整数、mは0~2の整数を示す。
【0042】
一般式(1)で表されるジアミン化合物としては、例えば、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスアニリン-M)、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)等を挙げることができる。
【0043】
熱可塑性ポリイミド層10A,10Bは、厚みを薄くしても、金属層を積層した場合の金属層との密着性を確保する観点から、全ジアミン残基に対して、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有割合が30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、70~90モル%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
<非熱可塑性ポリイミド>
第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bにおける非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bを形成するための非熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分と、脂肪族ジアミン及び/又は芳香族ジアミン等を含むジアミン成分と、を反応させて得られるものであり、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有する。酸二無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、非熱可塑性ポリイミドの熱膨張性、誘電特性等を制御することができる。
【0045】
非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bを形成するための非熱可塑性ポリイミドは、原料の酸二無水物成分及びジアミン成分として、非熱可塑性ポリイミドの合成に一般的に用いられるモノマーを使用できるが、外層部の熱膨張係数(CTE)を制御して寸法安定性を確保する観点から、ビフェニル骨格を有する芳香族酸二無水物やビフェニル骨格を有する芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
ビフェニル骨格を有する芳香族酸二無水物として、例えば3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が特に好ましい。
非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bは、外層部の熱膨張係数(CTE)を制御して多層フィルム100全体の寸法安定性を確保するとともに、外層部の貯蔵弾性率を高めて条件fを満たすように制御するため、全酸二無水物残基に対して、ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基の含有割合が40モル%以上であることが好ましく、45~70モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
また、ビフェニル骨格を有する芳香族ジアミンとして、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-ジ-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等が好ましく、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)が特に好ましい。
使用できる。
【0047】
非熱可塑性ポリイミド層20A,20Bは、外層部の熱膨張係数(CTE)を制御して多層フィルム100全体の寸法安定性を確保するとともに、外層部の貯蔵弾性率を高めて条件fを満たすように制御するため、全ジアミン残基に対し、ビフェニル骨格を有するジアミン残基の含有割合が40モル%以上であることが好ましく、70~100モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0048】
<接着性ポリイミド>
接着層BSを構成する好ましい樹脂である接着性ポリイミドは、酸二無水物成分と、脂肪族ジアミンを含むジアミン成分と、を反応させて得られる熱可塑性ポリイミドである。
接着性ポリイミドの原料となる酸二無水物成分としては、熱可塑性ポリイミドの合成に一般的に用いられるモノマーを使用できるが、例えば、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、などの芳香族酸二無水物が好ましく、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)がより好ましい。接着性ポリイミドは、全酸二無水物残基に対して、上記芳香族酸二無水物の一種以上から誘導される酸二無水物残基を合計で40~100モル%の範囲内で含有することが好ましく、50~90モル%の範囲内で含有することがより好ましい。さらに好ましくは、全酸二無水物残基に対して、上記芳香族酸二無水物の二種から誘導される酸二無水物残基を合計で40~100モル%の範囲内で含有することがよく、最も好ましくは3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を50~90モル%の範囲内で含有し、BTDAを除く上記芳香族酸二無水物を10~50モル%の範囲内で含有することが好ましい。
【0049】
接着性ポリイミドの原料となるジアミン成分としては、熱可塑性ポリイミドの合成に一般的に用いられるモノマーを使用できるが、接着層BSの貯蔵弾性率を制御して条件dを満たすようにするとともに、誘電正接を下げ、多層フィルム100全体の誘電特性を改善して条件eを満たすようにする観点からダイマージアミン組成物を用いることが好ましい。
すなわち、接着性ポリイミドは、全ジアミン残基に対して、ダイマージアミン組成物から誘導されるジアミン残基を好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、最も好ましくは70~100モル%の範囲内で含有することがよい。ダイマージアミン組成物から誘導されるジアミン残基を上記の量で含有することによって、接着層BSのガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善、さらに低弾性率化による内部応力の緩和を図るとともに接着層BSの誘電特性を改善することができる。全ジアミン残基に対して、ダイマージアミン組成物から誘導されるジアミン残基の含有量が20モル%未満であると、高周波伝送時の伝送損失が大きくなったり、第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bとの間に介在する接着層BSとして十分な接着性が得られなくなったりすることがある。
【0050】
ダイマージアミン組成物は、下記の(a)成分を主成分として含有し、(b)成分及び(c)成分を含有していてもよい混合物であり、(b)成分及び(c)成分の量が制御されている精製物である。
(a)ダイマージアミン
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く)
【0051】
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH-NH)又はアミノ基(-NH)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。(a)成分のダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0052】
ダイマージアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマージアミンは、分子量約560~620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマージアミンの特徴は、ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、比誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対称的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、ポリイミドの低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0053】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
また、ダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、(b)成分及び(c)成分の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよく、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下、更に好ましくは1.5%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更に樹脂フィルムの広域の周波数での誘電正接の上昇を抑えることができる。なお、(b)成分及び(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0054】
ダイマージアミン組成物は、市販品を利用可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。これらの市販品を用いる場合は、ダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましく、例えばダイマージアミンを96重量%以上とすることが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。
【0055】
接着性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記ダイマージアミン組成物以外のジアミン化合物を原料として用いることができる。接着性ポリイミドに使用できる好ましいジアミン化合物としては、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物を例示できる。
【0056】
接着性ポリイミドは、一般式(1)で表されるジアミン化合物の中でも、例えば1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)等を含有することが好ましい。
【0057】
接着性ポリイミドは、接着層BSの柔軟性を高め、低弾性率化による熱圧着後の残留応力を緩和するため、全ジアミン残基に対して、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有割合が5~50モル%の範囲内であることが好ましく、10~30モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
接着性ポリイミドにおいて、酸二無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上の酸二無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、ガラス転移温度、誘電特性等を制御することができる。
【0059】
接着性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、20,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、接着層BSの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に接着層BSの厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0060】
接着性ポリイミドは、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0061】
接着性ポリイミドは、ガラス転移温度(Tg)が250℃以下であることが好ましく、40℃以上200℃以下の範囲内であることがより好ましい。接着性ポリイミドのTgが250℃以下であることによって、低温での熱圧着が可能になるため、積層時に発生する内部応力を緩和し、回路加工後の寸法変化を抑制できる。接着性ポリイミドのTgが250℃を超えると、第1の絶縁樹脂層40Aと第2の絶縁樹脂層40Bとの間に介在させて接着する際の温度が高くなり、回路加工後の寸法安定性を損なう恐れがある。
【0062】
以上の接着性ポリイミドを用いることによって、接着層BSは、優れた柔軟性と誘電特性(低誘電率及び低誘電正接)を有するものとなる。
【0063】
接着層BSには、接着性ポリイミドとともに、ポリスチレンエラストマー樹脂を配合することが好ましい。ポリスチレンエラストマー樹脂は、スチレン又はその誘導体と共役ジエン化合物との共重合体であり、その水素添加物を含む。ここで、スチレン又はその誘導体としては、特に限定されるものではないが、スチレン、メチルスチレン、ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等が例示される。また、共役ジエン化合物としては、特に限定されるものではないが、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が例示される。
また、ポリスチレンエラストマー樹脂は水素添加されていることが好ましい。水素添加されていることによって、熱に対する安定性が一層向上し、分解や重合などの変質が起こり難くなるとともに、脂肪族的な性質が高くなり、接着性ポリイミドとの相溶性が高まる。
【0064】
ポリスチレンエラストマー樹脂の共重合構造は、ブロック構造でもランダム構造でもよい。ポリスチレンエラストマー樹脂の好ましい具体例として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
ポリスチレンエラストマー樹脂の重量平均分子量は、例えば、50,000~300,000の範囲内が好ましく、80,000~270,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲よりも低いと、誘電特性の改善効果が不十分となる場合があり、逆に高いと、接着性ポリイミドと溶媒を含む組成物とした場合の粘度が高くなり、樹脂フィルムの作製が困難となる場合がある。
また、樹脂フィルムの大幅な低誘電正接化を図るという観点では、ポリスチレンエラストマー樹脂の重量平均分子量が100,000以下であることが好ましく、50,000~100,000の範囲内がより好ましく、70,000~100,000の範囲内が最も好ましい。ポリスチレンエラストマー樹脂の重量平均分子量が100,000以下であることによって、樹脂フィルムの誘電特性を大幅に改善することが可能になる。
【0066】
ポリスチレンエラストマー樹脂の酸価は、例えば10mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以下がより好ましく、0mgKOH/gであることがさらに好ましい。酸価が10mgKOH/g以下であるポリスチレンエラストマー樹脂を配合することによって、樹脂フィルムを形成したときの誘電正接を低下させ得るとともに良好なピール強度を維持することができる。それに対して、酸価が10mgKOH/gを超えて大きくなりすぎると、極性基の増加によって誘電特性が悪化するとともに、接着性ポリイミドとの相溶性が悪くなって樹脂フィルムを形成したときの密着性が低下する。したがって、酸価は低いほどよく、酸変性していないもの(つまり、酸価が0mgKOH/gであるもの)が最も適している。本発明では、接着性ポリイミドが脂肪族ジアミン由来の残基を含有する場合に優れた接着性を発現させることが可能となるため、酸変性されていない(つまり、脂肪族的な性質が強い)ポリスチレンエラストマー樹脂を用いても、接着強度の低下を回避することができる。
【0067】
ポリスチレンエラストマー樹脂は、スチレン単位[-CHCH(C)-]の含有比率が10重量%以上65重量%以下の範囲内であることが好ましく、20重量%以上65重量%以下の範囲内であることがより好ましく、30重量%以上60重量%以下の範囲内であることが最も好ましい。ポリスチレンエラストマー樹脂中のスチレン単位の含有比率が10重量%未満では樹脂の弾性率が低下してフィルムとしてのハンドリング性が悪化し、65重量%を超えて高くなると、樹脂が剛直になり、接着剤としての使用が困難となるほか、ポリスチレンエラストマー樹脂中のゴム成分が少なくなるため、誘電特性の悪化に繋がる。
また、スチレン単位の含有比率が上記範囲内であることによって、樹脂フィルム中の芳香環の割合が高くなるため、樹脂フィルムを用いて回路基板を製造する過程でレーザー加工によりビアホール(貫通孔)及びブラインドビアホールを形成する場合に、紫外線領域の吸収性を高めることが可能となり、レーザー加工性をより向上させることができる。
【0068】
ポリスチレンエラストマー樹脂としては、市販品を適宜選定して用いることができる。そのような市販のポリスチレンエラストマー樹脂として、例えば、例えば、KRATON社製のA1535HU(商品名)、A1536HU(商品名)、G1652MU(商品名)、G1726VS(商品名)、G1645VS(商品名)、FG1901GT(商品名)、G1650MU(商品名)、G1654HU(商品名)、G1730VO(商品名)、MD1653MO(商品名)などを好ましく使用することができる。これらの中でも、重量平均分子量が100,000以下であるものとして、KRATON社製のMD1653MO(商品名)、G1726VS(商品名)などを用いることがより好ましい。
【0069】
接着性ポリイミド100重量部に対するポリスチレンエラストマー樹脂の含有量は、10重量部以上150重量部以下の範囲内が好ましく、50重量部以上120重量部以下の範囲内がより好ましい。接着性ポリイミド100重量部に対するポリスチレンエラストマー樹脂の含有量が10重量部未満では、誘電正接を低下させる効果が十分に発現しない場合がある。一方、ポリスチレンエラストマー樹脂の重量比率が150重量部を超えると、樹脂フィルムを形成したときの接着性が低下するとともに、接着性ポリイミドと溶媒を含む組成物としたときの固形分濃度が高くなり過ぎて粘度が上昇し、ハンドリング性が低下する場合がある。
【0070】
また、接着性ポリイミドとポリスチレンエラストマー樹脂の合計含有量は、接着層BSを構成している全樹脂成分の60~100重量%が好ましく、80~100重量%がより好ましい。
【0071】
なお、接着層BSには、ポリスチレンエラストマー樹脂のほかに、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、有機もしくは無機フィラー、カップリング剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0072】
<ポリイミドの合成>
第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bを構成する熱可塑性ポリイミド、非熱可塑性ポリイミド及び接着層BSを構成する接着性ポリイミドは、上記の酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~50重量%の範囲内、好ましくは10~40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0073】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500mPa・s~100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、例えば、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0074】
ポリアミド酸をイミド化させて接着性ポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば80~400℃の範囲内の温度条件で0.1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0075】
<接着性ポリイミドの架橋形成>
接着性ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、接着性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有する接着性ポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0076】
接着性ポリイミドの架橋形成に使用可能なアミノ化合物としては、ジヒドラジド化合物、芳香族ジアミン、脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性の懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0077】
接着性ポリイミドを架橋形成させる場合は、ケトン基を有する接着性ポリイミドを含む樹脂溶液に、上記アミノ化合物を加えて、接着性ポリイミド中のケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モル、より好ましくは0.03モル~0.9モル、最も好ましくは0.04モル~0.5モルとなるようにアミノ化合物を添加することができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるようなアミノ化合物の添加量では、アミノ化合物による接着性ポリイミドの架橋が十分ではないため、硬化させた後の接着層BSにおいて耐熱性が発現しにくい傾向となり、ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で1.5モルを超えるようなアミノ化合物の添加量では、未反応のアミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着層BSの耐熱性を低下させる傾向がある。
【0078】
架橋形成のための縮合反応の条件は、接着性ポリイミドにおけるケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又は接着性ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましく、反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0079】
接着性ポリイミドのケトン基とアミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、(a)接着性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、アミノ化合物を添加して加熱する方法、(b)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、接着性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物とともに接着性ポリイミドを加熱する方法、又は、(c)アミノ化合物を添加した接着性ポリイミドの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法等によって行うことができる。
【0080】
接着性ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではなく、接着性ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤等を配合し硬化することも可能である。
【0081】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、多層フィルム100と、この多層フィルム100の片面又は両面に積層されている金属層と、を有する。
図2は、本発明の好ましい実施の形態にかかる金属張積層板200の断面構成を示している。金属張積層板200は、多層フィルム100の両側に、金属層110Aと金属層110Bが積層された構造である。したがって、金属張積層板200は、金属層110A/第1の絶縁樹脂層40A/接着層BS/第2の絶縁樹脂層40B/金属層110Bがこの順に積層された構造を有する。金属層110Aと金属層110Bは、それぞれ最も外側に位置し、それらの内側に第1の絶縁樹脂層40A及び第2の絶縁樹脂層40Bが配置され、さらに第1の絶縁樹脂層40Aと第2の絶縁樹脂層40Bの間には、接着層BSが介在配置されている。このような層構成を有する金属張積層板200は、金属層110Aと熱可塑性ポリイミド層10Aと非熱可塑性ポリイミド層20Aとがこの順番に積層された第1の片面金属張積層板(C1)と、金属層110Bと熱可塑性ポリイミド層10Bと非熱可塑性ポリイミド層20Bとがこの順番に積層された第2の片面金属張積層板(C2)と、を絶縁層側が向き合うように接着層BSで貼り合わせた構造を有していると考えることもできる。
【0082】
金属層110A及び金属層110Bの材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する本実施の形態の回路基板における配線層の材質も金属層110A及び金属層110Bと同様である。
【0083】
金属層110A及び金属層110Bの厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔等の金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0084】
また、金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施してもよい。
【0085】
金属張積層板200は、金属層110A、110Bをエッチング除去したとき、エッチング前の多層フィルム100を基準にして、エッチング後の多層フィルム100の寸法変化率が±0.10%以内であることが好ましく、また、このエッチング後の多層フィルム100を基準にして、150℃で30分加熱した後の寸法変化率が±0.10%以内であることが好ましい。エッチング後及び加熱後の寸法変化率が±0.10%以内であるということは、回路加工時の寸法変化が小さいことを意味しており、FPC等の回路基板の信頼性を高めることができる。
ここで、寸法変化率の測定は、以下の手順で行うことができる。
まず、金属張積層板200により作製した150mm角の試験片を用い、100mm間隔にてドライフィルムレジストを露光、現像することによって、位置測定用ターゲットを形成する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にてエッチング前(常態)の寸法を測定した後に、試験片のターゲット以外の銅をエッチング(液温40℃以下、時間10分以内)により除去する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24±4時間静置後、エッチング後の寸法を測定する。MD方向(長手方向)及びTD方向(幅方向)の各3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもってエッチング後の寸法変化率とする。エッチング後寸法変化率は下記数式により算出できる。
エッチング後寸法変化率(%)=(B-A)/A×100
A;エッチング前のターゲット間距離
B;エッチング後のターゲット間距離
次に、試験片を150℃のオーブンで30分加熱処理し、その後の位置ターゲット間の距離を測定する。MD方向(長手方向)及びTD方向(幅方向)の各3箇所のエッチング後に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもって加熱処理後の寸法変化率とする。加熱寸法変化率は下記数式により算出できる。
加熱寸法変化率(%)=(C―B)/B×100
B;エッチング後のターゲット間距離
C;加熱後のターゲット間距離
【0086】
[金属張積層板の製造]
金属張積層板200は、例えば以下の方法1又は方法2で製造できる。なお、接着層BSとなる接着性ポリイミドについては、上記のとおり架橋形成させてもよい。
[方法1]
まず、上記の層構成を有する第1の片面金属張積層板(C1)及び第2の片面金属張積層板(C2)を準備する。次に、接着層BSとなる上記接着性ポリイミド又はその前駆体をシート状に成形して接着シートとする。この接着シートを、第1の片面金属張積層板(C1)の第1の絶縁樹脂層40Aと、第2の片面金属張積層板(C2)の第2の絶縁樹脂層40Bとの間に配置して貼り合わせ、熱圧着させる。
[方法2]
まず、第1の片面金属張積層板(C1)及び第2の片面金属張積層板(C2)を準備する。次に、接着層BSとなる上記接着性ポリイミドの溶液又はその前駆体の溶液を、第1の片面金属張積層板(C1)の第1の絶縁樹脂層40A、又は第2の片面金属張積層板(C2)の第2の絶縁樹脂層40Bのいずれか片方、または両方に所定の厚みで塗布し、乾燥させて塗布膜を形成する。その後、塗布膜の側で第1の片面金属張積層板(C1)と第2の片面金属張積層板(C2)を貼り合わせて熱圧着させる。
【0087】
方法1,2で用いる第1の片面金属張積層板(C1)及び第2の片面金属張積層板(C2)は、例えば、金属層110A,110Bとなる金属箔上に、熱可塑性ポリイミド又は非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を順次塗布・乾燥することを繰り返し、熱処理してイミド化することによって製造できる。
また、方法1で用いる接着シートは、例えば、(1)任意の支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥し、熱処理してイミド化した後、支持基材から剥がして接着シートとする方法、(2)任意の支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、熱処理してイミド化して接着シートとする方法、(3)支持基材に、上記接着性ポリイミドの溶液を塗布・乾燥した後、支持基材から剥がして接着シートとする方法、などによって製造できる。
上記において、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を金属箔、支持基材や絶縁樹脂層上に塗布する方法としては、特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0088】
以上のようにして得られる本実施の形態の金属張積層板200は、金属層110A及び/又は金属層110Bをエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCなどの回路基板を製造することができる。
【0089】
[回路基板]
本実施の形態の金属張積層板200は、主にFPC、リジッド・フレックス回路基板などの回路基板材料として有用である。すなわち、本実施の形態の金属張積層板200の2つの金属層110A,110Bの片方又は両方を、常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態であるFPCなどの回路基板を製造できる。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0091】
[熱膨張係数の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、TMA(日立ハイテク社製、商品名;TMA/SS6000)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から210℃まで20℃/分の速度で昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、200℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0092】
[貯蔵弾性率の測定]
貯蔵弾性率は、5mm×20mmのサイズの試料フィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名;RSA-G2)を用いて、25℃から300℃まで昇温速度10℃/分、周波数1Hzで測定した。このときの弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。なお、DMAを用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満を示すものを「熱可塑性」とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上を示すものを「非熱可塑性」とした。
【0093】
[ピール強度の測定]
銅張積層板のサンプルからの銅箔を幅1.0mm、間隔5.0mmのライン&スペースに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断し、測定サンプルを調製した。テンシロンテスター(東洋精機製作所製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて、測定サンプルの樹脂層側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、銅箔が樹脂層から10mm剥離したときの中央強度を求めた。
【0094】
[比誘電率および誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名E8363C)ならびにSPDR共振器を用いて、20GHzにおける樹脂シートの比誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24~26℃、湿度45℃~55%RHの条件下で、24時間放置したものである。
【0095】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0096】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0097】
[エッチング後の寸法変化率の測定]
まず、金属張積層板より作製した150mm角の試験片を用い、100mm間隔にてドライフィルムレジストを露光、現像することによって、位置測定用ターゲットを形成する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にてエッチング前(常態)の寸法を測定した後に、試験片のターゲット以外の銅をエッチング(液温40℃以下、時間10分以内)により除去する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24±4時間静置後、エッチング後の寸法を測定する。MD方向(長手方向)の3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもってエッチング後の寸法変化率とする。エッチング後寸法変化率は下記数式により算出できる。
エッチング後寸法変化率(%)=(B-A)/A×100
A;エッチング前のターゲット間距離
B;エッチング後のターゲット間距離
【0098】
[加熱後の寸法変化率の測定]
次に、エッチング後の寸法変化率を測定した試験片を150℃のオーブンで30分加熱処理し、その後の位置ターゲット間の距離を測定する。MD方向(長手方向)の各3箇所のエッチング後に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもって加熱処理後の寸法変化率とする。加熱寸法変化率は下記数式により算出できる。
加熱寸法変化率(%)=(C―B)/B×100
B;エッチング後のターゲット間距離
C;加熱後のターゲット間距離
【0099】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
ビスアニリン-M:1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;205mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
OP935:有機ホスフィン酸アルミニウム塩(クラリアントジャパン社製、商品名;Exolit OP935)
ポリスチレンエラストマー樹脂:KRATON社製、商品名;MD1653MO(水添ポリスチレンエラストマー、スチレン単位含有割合;30重量%、Mw;80,499、酸価なし)
【0100】
(合成例1)
<絶縁樹脂層用のポリアミド酸溶液の調製>
窒素気流下で、反応槽に、69.56gのm-TB(0.328モル)、542.75gのTPE-R(1.857モル)、重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、194.39gのPMDA(0.891モル)及び393.31gのBPDA(1.337モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液1(粘度;2,700mPa・s)を調製した。
ポリアミド酸溶液1を用いて作製したポリイミドフィルムの貯蔵弾性率は、30℃では4.3×10Pa、300℃では9.4×10Paであり、熱可塑性であった。
【0101】
(合成例2)
<絶縁樹脂層用のポリアミド酸溶液の調製>
窒素気流下で、反応槽に、64.20gのm-TB(0.302モル)及び5.48gのビスアニリン-M(0.016モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、34.20gのPMDA(0.157モル)及び46.13gのBPDA(0.157モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液2(粘度;28,000mPa・s)を調製した。
ポリアミド酸溶液2を用いて作製した貯蔵弾性率は、30℃では7.0×10Pa、300℃では5.4×10Paであり、非熱可塑性であった。
【0102】
(合成例3)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
500mlのセパラブルフラスコに、21.34gのBTDA(0.06622モル)、12.99gのBPDA(0.04414モル)、46.7042gのDDA(0.08741モル)、8.97104gのBAPP(0.02185モル)、126gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、5時間加熱、攪拌し、65gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;31重量%、重量平均分子量;35,886、粘度;2.580mPa・s)を調製した。
【0103】
(作製例1)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液1の40.97g(固形分として12.7g)に0.46gのN-12及び2.54gのOP935、7.62gのポリスチレンエラストマー樹脂を配合し、45.23gのキシレンを加えて希釈して、ポリイミドワニス1を調製した。
【0104】
ポリイミドワニス1を乾燥後厚みが50μmとなるように離型基材(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)のシリコーン処理面に塗工した後、80℃で15分間加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂シート1を調製した。また、樹脂シート1の貯蔵弾性率の特性は次のとおりである。
貯蔵弾性率(25℃);901×MPa
貯蔵弾性率(100℃);5.0×MPa
貯蔵弾性率(200℃);2.0×MPa
【0105】
(作製例2)
<片面金属張積層板の調製>
銅箔1(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約1.6μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次にその上にポリアミド酸溶液2を硬化後の厚みが、約2.4μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面金属張積層板1を調製した。
(作製例3~4)
ポリアミド酸溶液1とポリアミド酸溶液2の硬化後厚みを下記表1のように変えた以外は作製例2と同様して片面金属張積層板2、3を調製した。
【0106】
【表1】
【0107】
(作製例5)
銅箔1(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次にその上にポリアミド酸溶液2を硬化後の厚みが、約21μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面金属張積層板4を調製した。
【0108】
<ポリイミドフィルムの調製>
塩化第二鉄水溶液を用いて片面金属張積層板1~4の銅箔層をエッチング除去してポリイミドフィルム1~4を調製した。調製したポリイミドフィルム1~4を用いて熱膨張係数と貯蔵弾性率を測定した。結果を表2又は表3に示す。
【0109】
[実施例1]
ポリイミドワニス1を乾燥後厚みが46μmとなるように片面金属張積層板1の絶縁樹脂層側の面に塗工した後、80℃から200℃まで段階的な熱処理にて乾燥を行い、接着剤層付き片面金属張積層板1を調製した。この接着剤層付き片面金属張積層板1を2枚用意し、接着剤層側を合わせて積層し、180℃で2時間、3.5MPaの圧力をかけて圧着して、金属張積層板1を調製した。また金属張積層板1における銅箔層をエッチング除去して多層フィルム1を得た。金属張積層板1を用いて寸法変化率およびピール強度、多層フィルム1を用いて誘電特性と熱膨張係数の測定を行った。
【0110】
[実施例2~3]
ポリイミドワニス1の乾燥後厚みを37.5μmとなるように変更し、片面金属張積層板1を片面金属張積層板2または3に変更した以外は実施例1と同様して、金属張積層板2~3および多層フィルム2~3を調製した。
【0111】
上記のようにして作製した金属張積層板と多層フィルムの構成および評価結果を表2に示す。
なお熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをT、非熱可塑性ポリイミド層の合計厚みをTB、接着層の厚みをTとしている。
【0112】
【表2】
【0113】
(比較例1)
厚み50μm及び厚み25μmのフッ素樹脂シート(旭硝子社製、商品名;接着パーフロロ樹脂EA-2000)及び2枚の片面金属張積層板2を準備し、2枚の片面金属張積層板2の絶縁樹脂層側で挟むように2枚のフッ素樹脂シートを積層させて320℃で5分間、3.5MPaの圧力をかけて圧着し金属張積層板4を調製した。金属張積層板4及び銅箔除去後の多層フィルム4の評価結果を表3に示す。
【0114】
(比較例2)
2枚の片面金属張積層板4を準備し、それぞれの絶縁樹脂層側の面を樹脂シート1の両面に重ね合わせ、180℃で2時間、3.5MPaの圧力をかけて圧着して、金属張積層板5を調製した。金属張積層板5及び銅箔除去後の多層フィルム5の評価結果を表3に示す。
【0115】
(比較例3)
樹脂シート1の代わりに、フッ素樹脂シート(旭硝子社製、商品名;接着パーフロロ樹脂EA-2000、厚み;50μm)を使用し、320℃で5分間、3.5MPaの圧力をかけて圧着したこと以外、比較例2と同様にして、金属張積層板6を調製した。金属張積層板6及び銅箔除去後の多層フィルム6の評価結果を表3に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
(参考例1)
銅箔1(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約0.8μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次にその上にポリアミド酸溶液2を硬化後の厚みが、約2.9μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約0.8μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面金属張積層板5を調製した。この片面金属張積層板5のピール強度を測定したところ、0.6[kN/m]であった。
【0118】
比較例2と実施例1ではいずれもポリイミド層のCTEは20ppm/K前後と好適な範囲であるが、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層の割合(T)/(T+T)は大きく異なる。キャスト法にてポリイミド層を形成する場合、厚みが薄くなるほど低CTE化するため、適切な寸法安定性を発現させるためには(T)/(T+T)を所定の範囲に抑える必要がある。
【0119】
また、参考例1のように熱可塑性ポリイミドを2層、非熱可塑性ポリイミド1層の従来設計のままでポリイミド層を薄くするとピール強度が低下する。一方で実施例1のように熱可塑性ポリイミド層を基材側に集中させて外層部を片側2層構造とした設計では十分なピール強度が発現している。このため、ポリイミド層を薄くする設計においては熱可塑性ポリイミドと非熱塑性ポリイミドの2層構成が銅箔との密着性の観点からは有効である。
【0120】
さらに、比較例1と3を比較すると内層部を高温時の貯蔵弾性率が高い樹脂構成とした場合、外層部のポリイミド層の厚みが薄くなるほど顕著に寸法安定性が悪化していることが分かる。また、比較例1と実施例2を比較すると常温において低貯蔵弾性率の接着剤層を適用した方が寸法安定性がより悪化しており、寸法安定性を担保するためには常温ではなく、プロセス温度帯の貯蔵弾性率が重要であることが分かる。
【0121】
以上の結果より外層部に寸法制御層を設け、内層部に低誘電層を設ける構成において、外層部を薄化し、積層フィルムとして低誘電化するためには、各層の厚みバランスと内層部のプロセス温度帯の貯蔵弾性率を所定の範囲に制御し、条件a~dを満たすようにすることが重要である。
【0122】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0123】
10A,10B…熱可塑性ポリイミド層、20A,20B…非熱可塑性ポリイミド層、100…多層フィルム、110A,110B…金属層、200…金属張積層板、BS…接着層

図1
図2