(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139359
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】製錬炉の昇温方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20230927BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20230927BHJP
F27B 3/22 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C22B15/00 102
F27D7/02 A
F27B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044849
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】富永 高規
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K001
4K045
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA24
4K001AA30
4K001BA03
4K001DA03
4K001GA04
4K001GB12
4K001JA01
4K045AA04
4K045BA03
4K045DA02
4K045RB12
4K045RB16
4K063AA04
4K063AA13
4K063BA03
4K063CA01
4K063DA06
4K063DA13
4K063DA17
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】 シャフトバーナーをスムーズに点火させると共に、シャフトバーナーの点火後もそのバーナーフレームを安定化させることで、炉内において局所過熱を生じさせることなく昇温時間を短縮化できる昇温方法を提供する。
【解決手段】 乾式銅製錬の熔錬工程で使用される自熔炉などの非鉄金属製錬を行なう製錬炉の立ち上げ時の昇温方法であって、該製錬炉内に例えばウインドボックスからなる気体導入部を介して導入した空気よりも高酸素濃度の気体によって該製錬炉内を置換した後、該製錬炉のバーナーに点火する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属製錬を行なう製錬炉の立ち上げ時の昇温方法であって、前記製錬炉内に気体導入部を介して導入した空気よりも高酸素濃度の気体によって前記製錬炉内を置換した後、前記製錬炉のバーナーに点火することを特徴とする製錬炉の昇温方法。
【請求項2】
前記製錬炉が自熔炉であり、前記気体導入部がウインドボックスであることを特徴とする、請求項1に記載の製錬炉の昇温方法。
【請求項3】
前記立ち上げ時の昇温が、炉内部が放冷された状態からの昇温であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製錬炉の昇温方法。
【請求項4】
前記バーナーに導入する空気の供給流量を、該バーナーに導入する燃料の理論燃焼空気量よりも少なくすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製錬炉の昇温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製錬炉の昇温方法に関し、特に銅製錬に代表される非鉄金属製錬の熔錬工程において使用される製錬炉を立ち上げる際の昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
採掘した鉱石を選鉱することで得た銅品位30%程度の銅精鉱を原料とする乾式銅製錬プロセスは、熔錬炉に装入した該銅精鉱を酸化・熔融することで銅品位60~65%程度のマットを生成する熔錬工程と、得られたマットを更に酸化することで銅品位99.8%程度の粗銅を生成する製銅工程と、得られた粗銅を電解精製することで銅品位99.99%以上の精製銅(純銅)を生成する精製工程とから主に構成される。
【0003】
上記の熔錬炉には、一般的にオウトクンプ式の自熔炉が多用されている。自熔炉は、上部のバーナーから導入した銅精鉱を空気又は酸素富化空気により酸化反応させる縦型円筒形状のリアクションシャフトと、該リアクションシャフトの下方に位置し、該酸化反応により生成されるマット及びスラグを比重差により分離させるセトラーと、該セトラー上部の該リアクションシャフト側とは反対側に位置し、該酸化反応時に発生するSO2を含んだ1300℃程度の高温の排ガスを排出させるアップテイクとから主に構成されている。
【0004】
上記のように、自熔炉のアップテイクからは、SO2ガスを高濃度に含んだ高温の排ガスが安定的に排出されるため、この排ガスは廃熱ボイラーで熱回収された後、硫酸の原料として硫酸製造プラントに送られる。廃熱ボイラーでは回収した熱でスチームを発生させ、これを付帯設備のタービン発電機の動力として利用している。このタービン発電機は2年に1回程度の頻度で定期的に官庁検査が行なわれるため、このタイミングに合わせて自熔炉も操業を停止している。そして、この操業停止期間を利用して自熔炉の耐火物を点検し、必要に応じて補修が行なわれる。
【0005】
上記の停止期間の終了後の自熔炉の立ち上げでは、原料の銅精鉱を装入する前に1週間程度の期間をかけて自熔炉を昇温する操作が必要になる。その理由は、時間をかけずに昇温すると耐火物が急激に膨張するので、特に停止期間中に更新した部分で煉瓦を痛めたり、急激な膨張により煉瓦間に生じた隙間に熔体が過剰に流れ込んだりする問題を生じるおそれがあるからである。また、自熔炉を十分に昇温させないまま銅精鉱をバーナーから導入すると、熱不足により銅精鉱が良好に着火しないおそれがあるからである。
【0006】
上記の自熔炉の立ち上げ時の昇温は、リアクションシャフトの上部に設置したバーナー(以下、シャフトバーナー又は精鉱バーナーとも称する)と、セトラー内に設置した複数のバーナー(以下、セトラーバーナーとも称する)による重油の燃焼により加熱する方法が一般的に採用される。例えば特許文献1には、自熔炉の操業停止時の自熔炉本体の保温又は昇温、或いは補修後の自熔炉の立ち上げ時の昇温に際して、銅製錬時に銅精鉱、フラックスその他の装入物を燃料及び空気又は酸素富化空気と共に導入して燃焼させる精鉱バーナーを用いて加熱する技術が開示されている。具体的には、精鉱バーナーから空気又は酸素富化空気と共に粉コークスを導入して該粉コークスの一部をセトラー内で未燃焼状態で飛散させて燃焼させることによって、炉内全体を所定温度に保温或いは昇温するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1の技術を用いることにより、保温及び昇温用のバーナーを特に設けることなくリアクションシャフトの頂部1箇所に設けた精鉱バーナーから粉コークスを空気等と共に供給するだけで、自熔炉の炉内全体を保温或いは昇温することができるので設備管理面で有利であり、また、局部加熱によるレンガの損傷や不均一な熱膨張等によるレンガの亀裂等を軽減できると記載されている。更に、操業中のセトラー内に熔体を保持した状態のまま保温する場合は、粉コークスを用いることで、重油を用いる場合に比べて廃熱ボイラーの蒸気発生量を通常操業時の3割程度から5割程度まで増量させることができ、炉修後の粉コークスを用いた昇温では、重油のみの場合に比べて約3倍の蒸気が得られると記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術は、通常操業時に補助燃料として一般的に用いる重油以外に粉コークスを用いるため、その貯蔵、定量切り出し、搬送等の設備が別途必要になるので設備コストがかかるうえ、その取扱いに手間がかかる。
【0010】
また、一般的に大気雰囲気下における自熔炉の立ち上げは、炉内部が放冷された状態からの昇温になるので、立ち上げの初期段階では炉壁からの輻射熱が低いため、シャフトバーナーの点火が難しく、点火してもバーナーのフレームが安定しないため、重油が未燃のまま炉内に入ることがあった。また、シャフトバーナー点火後もシャフトバーナー及び複数のセトラーバーナーにおける不完全燃焼によりフレームが延びにくく、結果的にガス温度が十分に上昇しないため炉内が局所的に過熱したり、昇温速度が低下したりする問題が生ずることがあった。かかる状況下において、強制的に理想の昇温曲線に近づけるべく重油の供給流量を増やすと、バーナーが不完全燃焼になるおそれがある。このため、炉内の耐火物温度がある程度上昇するまでは重油の供給流量を増やすことができず、昇温に長時間を要することが問題になっていた。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、製錬炉の立ち上げ時の昇温に際して、シャフトバーナーをスムーズに点火させると共に、シャフトバーナーの点火後もそのバーナーフレームを安定化させることで、炉内において局所過熱を生じさせることなく昇温時間を短縮化できる昇温方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る製錬炉の昇温方法は、非鉄金属製錬を行なう製錬炉の立ち上げ時の昇温方法であって、前記製錬炉内に気体導入部を介して導入した空気よりも高酸素濃度の気体によって前記製錬炉内を置換した後、前記製錬炉のバーナーに点火することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製錬炉の立ち上げ時の昇温に際して、シャフトバーナーをスムーズに点火させることができるうえ、シャフトバーナー点火後もそのバーナーフレームを安定化させることができるので、炉内において局所過熱を生じさせることなく昇温時間を短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の昇温方法によって昇温される自熔炉及びその排ガス処理設備の模式的なフロー図である。
【
図2】
図1の自熔炉が具備するシャフトバーナーの一具体例の縦断面図である。
【
図3】本発明の実施例において昇温した自熔炉の昇温プロフィールを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る製錬炉の昇温方法の実施形態について具体的に説明する。この本発明の実施形態の製錬炉の昇温方法は、銅、亜鉛、鉛、ニッケル、錫などの非鉄金属製錬が行なわれる製錬炉を対象にしており、該製錬炉の点検・補修や付帯設備の補修等のため、原料の装入を停止することで操業を停止していた該製錬炉の操業再開のため、炉内部が放冷された状態から製錬炉を昇温させる方法であり、該製錬炉内に気体導入部を介して導入した空気よりも高酸素濃度の気体によって該製錬炉内を置換した後、該製錬炉のバーナーに点火することを特徴としている。
【0016】
具体的に説明すると、先ず製錬炉の炉内にその気体導入部を介して空気よりも酸素濃度の高い気体(以下、高酸素濃度気体と称する)を導入して該炉内をこの高酸素濃度気体で置換する。この高酸素濃度気体の供給源としては、例えばPSA(圧力スイング吸着)式酸素ガス発生装置や深冷式空気分離装置などの酸素製造設備を挙げることができる。
【0017】
この高酸素濃度気体は、酸素濃度が80体積%以上であることが好ましい。この酸素濃度が80体積%未満では、上記炉内を置換したときの酸素濃度が所望の酸素濃度よりも低くなるため、バーナーをスムーズに点火するのが困難になったり、該バーナーの点火後はバーナーフレームが不安定になったりする可能性が高くなり、本発明の効果が十分に発揮されにくくなるおそれがある。
【0018】
上記の置換が完了することで炉内全体に高酸素濃度気体が行き渡った状態となった時点でバーナーを点火する。ここで点火を行なうバーナーは、自熔炉の場合はリアクションシャフトの天井部に設けられた例えば重油を燃料とするシャフトバーナーである。更に、必要に応じてこのシャフトバーナーに加えて自熔炉のセトラーに好ましくは6~12本程度設けられているセトラーバーナーに点火してもよい。
【0019】
上記のバーナーの点火の際、炉内には全体的に酸素が空気よりも高い濃度で存在しているので、炉内部が放冷された状態から立ち上げる場合であっても容易にバーナーを点火することができる。また、バーナーの点火後はフレームの形状を安定化させることができる。これにより、炉内のガス温度を全体に亘ってほぼ均一にすることができるので、炉壁を局所加熱させることなく全体的にほぼ均等に昇温させることができる。よって、従来のように空気雰囲気で製錬炉を立ち上げる場合においてスムーズにバーナーが点火しなかったり、点火してもフレームが不安定になったりする問題が生じにくくなるので、バーナーが点火しないことに起因して生じるバーナーに導入した重油が着火されずにそのまま滴下して炉底に溜まる問題がほぼ生じなくなる。また、点火した後にフレーム形状が短くなりすぎたり、安定しなかったりことで生じる局所過熱の問題も生じにくくなる。
【0020】
なお、上記の高酸素濃度気体が炉内に行き渡った状態とは、炉内の全ての場所で酸素濃度が少なくとも21体積%を超えている状態のことであり、これは例えば自熔炉ではアップテイクの排ガス出口に設けたガス濃度計において酸素濃度が21体積%を超えたことを検知したことで該気体が行き渡ったと判断してもよいし、或いは炉内の容積を高酸素濃度気体の供給流量で除することで求めた時間が該高酸素濃度気体の炉内への供給開始時から経過したことで該気体が行き渡ったと判断してもよいし、これら両方の条件を満たしたときに該気体が行き渡ったと判断してもよい。
【0021】
上記のバーナーの点火後は、炉内に施工されている耐火物に予め設けた温度計か、或いは炉内のガス温度測定用の温度計で測定した温度が、予め準備しておいた昇温曲線に沿って昇温するように昇温させるのが好ましく、これはバーナーに供給する重油の供給流量で調整することができる。一般的には、製錬炉の炉内には内張り材として施工されている耐火物の例えば4か所以上8か所以下程度の箇所に温度計が設けられており、また、炉内のガス温度を測定するため、例えばセトラーの中心部及びアップテイクの下部の2か所にも温度計が設けられている。よって、これら温度計の指示値によって、炉内の昇温状態を良好に把握することが可能になる。
【0022】
本発明の実施形態の昇温方法は、非鉄金属の製錬炉に良好に適用することができ、前述したオウトクンプ式自熔炉に好適に適用することができるが、これに限定されるものではなく、燃料及び空気等が導入されるランスを縦形略円筒形状の炉内に頂部から差し込んで該ランスの先端部をスラグ層に浸漬させて熔錬を行なう方式のオースメルトTSL(Top Submerged Lance)炉や、一端部にバーナーを備えた長方形の広く浅い炉床と、アーチ形状の天井とを有し、該天井からの反射を利用して熔錬を行なう方式の反射炉などの様々な形状の炉に適用できる。
【0023】
図1には、リアクションシャフト11と、セトラー12と、アップテイク13とから構成される自熔炉1が模式的に示されている。この自熔炉1は、リアクションシャフト11の頂部にシャフトバーナー20が1個設けられており、セトラー12にはその長手方向に平行な両側壁の5個ずつと、リアクションシャフト側の側壁の2個との合計12個のセトラーバーナー30が設けられている。リアクションシャフト11から排出される高温の排ガスは、廃熱ボイラー2で熱回収された後、硫酸製造プラント3に送られる。廃熱ボイラー2で熱回収されることで生じた高圧蒸気は蒸気タービン4に送られてそこで動力源として利用される。
【0024】
気体導入部は、所望の供給流量で高酸素濃度気体を炉内に導入できるのであれば特に限定はないが、自熔炉1の場合はシャフトバーナー20のウインドボックスを用いるのが好ましい。具体的に説明すると、
図2に示すように、リアクションシャフト11の頂部に設けられているシャフトバーナー20は、リアクションシャフト11の頂部を貫通する略円筒形状のバーナーコーン21と、バーナーコーン21に同芯軸状に設けられており、バーナーコーン21の上端部に連通して設けられている略円錐形状のウインドボックス22と、銅精鉱及びフラックスの供給管の役割を担う円筒状の精鉱シュート23と、精鉱シュート23の内側に同芯軸状に設けられており、重油などの燃料を導入する役割を担うオキシフュエルバーナー24と、精鉱シュート23を囲むようにして軸方向に往復動自在に設けられた風速調整器25とから主に構成されている。
【0025】
通常操業時は、精鉱シュート23の上端部から供給される精鉱は、自由落下でバーナーコーン21に導入され、一方、反応用空気はウインドボックス22と風速調整器25との間のスリット部からバーナーコーン21に吹き込まれる。これにより、精鉱及び反応用空気はバーナーコーン21内で混合された状態でリアクションシャフト11内に導入される。上記の高酸素濃度気体の導入部としてこのウインドボックス22及びその下端部に接続しているバーナーコーン21を用いることで、自熔炉1内に導入された高酸素濃度気体は、リアクションシャフト11、セトラー12、及びアップテイク13の順に炉内を一方向に流れてアップテイク13の上部排出口から排出されるので、炉内を効率よく高酸素濃度気体で置換することができる。
【0026】
本発明の実施形態の昇温方法においては、当該炉の昇温のために該バーナーに導入する空気の供給流量を、該バーナーに導入する燃料の理論燃焼空気量よりも少なく(すなわち理論燃焼空気量に対して100%未満)とすることが好ましい。これにより、該バーナーは不完全燃焼となって一部の未燃の燃料が製錬炉内に広がっていくので、この炉内に広がった未燃の燃料をバーナーから離れた場所で燃焼させることができ、よって炉内をより均一に昇温させることができる。なお、上記の空気の供給流量の下限値は、理論燃焼空気量に対して70%以上であることが好ましい。この供給流量が理論燃焼空気量の70%未満では、バーナー本体での燃焼が難しくなる。
【0027】
以上説明したように、本発明の実施形態の昇温方法を採用することにより、製錬炉の立ち上げ時の昇温に際して、バーナーをスムーズに点火させることができるうえ、該バーナーの点火後はバーナーのフレーム形状を安定化させることができるので、局所的な炉内部の過熱を生じさせることなく比較的短時間で昇温させることができる。特に、本発明の実施形態の昇温方法は、製錬炉の操業が長期間に亘って停止することによって炉内部がほぼ常温から300℃程度の状態から立ち上げる場合の昇温においてより顕著な効果が奏される。このような長期間の操業停止を行なう場合は、例えば大規模に製錬炉の耐火物を補修する場合や、製錬炉に付随して設けられている廃熱ボイラーや蒸気タービン発電設備の定期検査に合わせて操業停止する場合を挙げることができる。
【実施例0028】
[実施例]
図1に示すような構造の銅製錬用の自熔炉1を長期間に亘って操業停止した後の操業再開のため、炉内部の温度が放冷された状態の自熔炉1内に先ず酸素濃度85~91体積%の高酸素濃度気体を導入した。この高酸素濃度気体は、PSA(圧力スイング吸着)式酸素ガス発生装置で生成し、リアクションシャフト11の天井部に設けられている
図2に示すようなシャフトバーナー20のウインドボックス22に導入することで、バーナーコーン21を介して自熔炉1内に導入した。
【0029】
自熔炉1の容積を高酸素濃度気体の供給流量で除することで算出した時間である2時間程度が該高酸素濃度気体の導入開始時から経過したので、自熔炉1内に高酸素濃度気体が行き渡ったと判断し、高酸素濃度気体の導入を停止して代わりにシャフトバーナー20に重油及び空気を供給して点火した。このとき、空気の供給流量は、重油の理論燃焼空気量に対して80%の割合にした。その結果、スムーズに点火することができた。続けて、12個のセトラーバーナー30のうちの8個のバーナーにおいても同様に理論燃焼空気量の80%の条件で点火したところスムーズに点火することができた。
【0030】
上記のシャフトバーナー20及びセトラーバーナー30に点火した後に自熔炉1の覗き窓からこれらバーナーのフレームの形状を目視にて確認したところ、特に短くなっておらずに安定していた。このため、局所過熱の問題やスムーズに点火しないために重油が滴下して炉底に溜まる問題が生じなかった。また、セトラーの中心部に設けた温度計の指示値を見ながら、重油の供給流量を調整することで、予め計画しておいた昇温曲線からほとんど離脱させることなく炉内全体に亘ってほぼ均一且つほぼ同じ昇温速度で昇温させることができた。時期を変えて上記と同様の状態の自熔炉1の昇温を2回行なった。その結果、これら2回の昇温においてもバーナーをスムーズに点火することができ、点火後のバーナーのフレーム形状を安定化することができたので、局所加熱や重油滴下などの問題は生じなかった。
【0031】
[比較例]
バーナーの点火前にウインドボックス22から導入した高酸素濃度気体で自熔炉1内を置換する作業を行なわないことを除いて上記の実施例と同様に自熔炉1を昇温させた。その結果、バーナーをスムーズに点火させることが難しく、点火してもフレームの形状が不安定になった。また、点火がスムーズに行なわれなかったときにバーナーから滴下した重油が炉底に溜まる不具合も生じた。この不具合はシャフトバーナー20のみならず点火を行なった8個のセトラーバーナー30においても同様に発生した。
【0032】
また、上記のシャフトバーナー20、及びセトラーバーナー30に点火した後に覗き窓からこれらバーナーのフレームの形状を目視にて確認したところ、フレームの長さが短いものやフレームの形状が安定しないものがあり、炉内部に局所過熱が生じた。更に、バーナーのフレーム形状が不安定なものには過度の不完全燃焼が生じるおそれがあるため、炉内耐火物温度がある程度上昇するまでは重油の供給流量を増やすことができず、時間をかけながら昇温せざるを得なかった。そのため、炉内の位置による温度のバラツキや、昇温速度のバラツキが認められた。
【0033】
上記の実施例で行なった3回の昇温(Case1~3)、及び比較例で行なった1回の昇温(Case4)について、各々セトラーの中心部に設けた温度計の指示値を見ながら重油の供給流量を調整することで予め計画しておいた昇温曲線に沿って昇温させることを試みたときの昇温の結果を
図3及び表1に示す。
【0034】
【0035】
上記表1から分かるように、実施例のCase1~3は、いずれも比較例のCase4に比べて昇温速度が1.13~1.34倍と速かった。またこれらCase1~3は、単位重油量当たりの昇温速度がCase4の1.38~1.77倍と速かった。よって、本発明の要件を満たす方法で自熔炉を昇温することにより、従来よりも迅速且つ効率よく昇温することができることが分かる。