(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139376
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20230927BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20230927BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20230927BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 655A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044876
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正和
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
(57)【要約】
【課題】耐圧低下を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供すること。
【解決手段】並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、並列pn層20の厚さLsjの1/2の深さ位置Z0を含む標準条件範囲23を境に、基板おもて面側でpリッチとなり、かつ基板おもて面側へ向かうにしたがって所定の第1勾配D
+で大きくなっているとともに、基板裏面側でnリッチとなり、基板裏面側へ向かうにしたがって所定の第2勾配D
-で小さくなっている。並列pn層20のp型領域22のチャージ量は、標準条件範囲23を境に、基板おもて面側で標準条件のp型領域22のチャージ量よりも多く、基板裏面側で標準条件のp型領域22のチャージ量よりも少なくなっている。第1勾配D
+の絶対値はnリッチ範囲の第2勾配D
-の絶対値よりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板の内部に設けられた、第1導電型領域と第2導電型領域とを前記半導体基板の第1主面に平行な第1方向に交互に繰り返し配置した並列pn層と、
前記第1主面と前記並列pn層との間に設けられた所定の素子構造と、
前記第1主面に設けられ、前記素子構造に電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の第2主面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記並列pn層の互いに隣接する前記第1導電型領域と前記第2導電型領域とのチャージバランスは、
前記並列pn層の厚さの1/2の深さ位置において、または前記並列pn層の厚さの1/2の深さ位置を基準にして対称となる所定幅の深さ範囲において、所定の標準条件であり、
前記標準条件の部分よりも前記第1主面側での前記第2導電型領域のチャージ量が前記第1導電型領域のチャージ量よりも多く、かつ前記標準条件での前記第2導電型領域のチャージ量よりも多く、
前記標準条件の部分よりも前記第1主面側に離れるにしたがって所定の第1勾配で前記第2導電型領域のチャージ量が相対的に多くなっており、
前記標準条件の部分よりも前記第2主面側で前記第1導電型領域のチャージ量が前記第2導電型領域のチャージ量よりも多く、
前記標準条件の部分よりも前記第2主面側での前記第2導電型領域のチャージ量が前記標準条件での前記第2導電型領域のチャージ量よりも少なく、
前記標準条件の部分よりも前記第2主面側に離れるにしたがって所定の第2勾配で前記第2導電型領域のチャージ量が相対的に少なくなっていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第1勾配の絶対値は、前記第2勾配の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記チャージバランスをCBとし、前記第1導電型領域のキャリア濃度、幅およびチャージ量をそれぞれN
d、W
nおよびQ
nとし、前記第2導電型領域のキャリア濃度、幅およびチャージ量をそれぞれN
a、W
pおよびQ
pとしたときに、次の(1)式を満たし、
前記チャージバランスは、前記標準条件の部分よりも前記第1主面側で+160%を上限値とし、前記標準条件の部分よりも前記第2主面側で-30%を下限値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【数1】
【請求項4】
前記標準条件の部分から第1距離だけ前記第1主面側の深さ位置における第1チャージバランス(CB1
+)と、前記標準条件の部分から前記第1距離と同じ第2距離だけ前記第2主面側の深さ位置における第2チャージバランス(CB1
-)と、は次の(2)式を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【数2】
【請求項5】
前記標準条件は、最も耐圧が得られる前記チャージバランスの条件であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様であり、
前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配および前記第2勾配と同じ勾配で深さ方向に変化する不純物濃度分布を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記第2主面と前記並列pn層との間に設けられた、前記第1導電型領域よりも不純物濃度の低い第1導電型のバッファ領域をさらに備え、
前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界は、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界よりも前記第1主面側の深さ位置にあり、
前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界における前記チャージバランスは最小値となることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記チャージバランスは、前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、深さ方向に一様であることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記チャージバランスは、前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、前記第2主面側へ向かうにしたがって所定の第3勾配で大きくなっていることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置までの部分において、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置から第4距離だけ前記第1主面側の深さ位置における第4チャージバランス(CB2
-)と、
前記並列pn層の前記第1主面側の端部の深さ位置から前記第4距離と同じ第3距離だけ前記第2主面側の深さ位置における第3チャージバランス(CB2
+)と、は次の(3)式を満たすことを特徴とする請求項8または9に記載の炭化珪素半導体装置。
【数3】
【請求項11】
前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様であり、
前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配および前記第2勾配と同じ勾配で深さ方向に変化し、かつ前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、深さ方向に一様な不純物濃度分布を有することを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項12】
前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様であり、
前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配、前記第2勾配および前記第3勾配と同じ勾配で深さ方向に変化する不純物濃度分布を有することを特徴とする請求項9に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
第1導電型エピタキシャル層を多段に分けてエピタキシャル成長させるごとに当該第1導電型エピタキシャル層に第2導電型不純物をイオン注入して前記第2導電型領域となる第2導電型拡散領域を形成し、前記第1導電型エピタキシャル層の、前記第2導電型拡散領域を除く部分を前記第1導電型領域として残すことで前記並列pn層を形成する多段エピタキシャル工程を含み、
多段に分けてエピタキシャル成長させる複数の前記第1導電型エピタキシャル層にそれぞれ前記イオン注入により不純物濃度の異なる前記第2導電型拡散領域を形成して、前記並列pn層の前記第2導電型領域を前記不純物濃度分布にすることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記多段エピタキシャル工程では、多段に分けてエピタキシャル成長させる複数の前記第1導電型エピタキシャル層のうちの最下層を前記バッファ領域の不純物濃度でエピタキシャル成長させ、当該最下層の前記第2導電型拡散領域を除く部分を前記バッファ領域として残すことを特徴とする請求項13に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項11または12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
第1導電型エピタキシャル層をエピタキシャル成長させる第1工程と、
前記第1導電型エピタキシャル層にトレンチを形成して、前記第1導電型エピタキシャル層のうちの前記第1導電型領域となる部分を残す第2工程と、
前記トレンチを前記第2導電型領域となる第2導電型エピタキシャル層で埋め込む第3工程と、を行うことで、前記並列pn層を形成するトレンチ埋め込みエピタキシャル工程を含み、
前記第3工程では、前記第2導電型エピタキシャル層のエピタキシャル成長中に不純物濃度を変更して、前記並列pn層の前記第2導電型領域を前記不純物濃度分布にすることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1工程では、前記バッファ領域の不純物濃度の第1導電型層と、前記第1導電型領域の不純物濃度の第2導電型層と、を順にエピタキシャル成長させて前記第1導電型エピタキシャル層を形成し、
前記第2工程では、前記第1導電型層の内部で終端する前記トレンチを形成して、前記第1導電型エピタキシャル層のうちの前記バッファ領域および前記第1導電型領域となる部分を残すことを特徴とする請求項15に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリフト層を、n型領域とp型領域とを基板主面に平行な方向に交互に繰り返し隣接して配置してなる並列pn層とした超接合(SJ:Super Junction)構造の半導体装置が公知である。シリコン(Si)を半導体材料としたSJ構造の半導体装置では、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスに深さ方向に勾配をつける(チャージバランスを深さ方向に変化させる)ことで、耐圧マージンを広げることができることが開示されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【0003】
下記非特許文献1では、n型エピタキシャル層にトレンチ(以下、SJトレンチとする)を形成して並列pn層のn型領域となる部分を残し、SJトレンチを並列pn層のp型領域となるp型エピタキシャル層で埋め込むことでSJ構造を形成するトレンチ埋め込みエピタキシャル方式を用いて、SJトレンチを深くなるほど幅を狭くしたテーパー状の断面形状とすることで、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスに深さ方向に勾配をつけることが開示されている。
【0004】
チャージバランスとは、並列pn層のn型領域のキャリア濃度(不純物濃度)と幅との積で表されるチャージ量と、p型領域のキャリア濃度と幅との積で表されるチャージ量と、の釣り合いの度合を示す指標である。並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスに深さ方向に勾配をつけるには、並列pn層のp型領域(またはn型領域)の不純物濃度を深さ方向に変化させる方法と、下記非特許文献1のように並列pn層のn型領域およびp型領域の幅を深さ方向に変化させる方法と、がある。
【0005】
また、SJ構造の別の形成方法として、n型エピタキシャル層を複数段(複数回)に分けて多段にエピタキシャル成長させるごとに当該n型エピタキシャル層上に所定箇所を開口したイオン注入用マスクを形成し、このイオン注入用マスクをマスクとしてp型不純物をイオン注入することで、多段にエピタキシャル成長させた各n型エピタキシャル層それぞれに、並列pn層のn型領域となる領域が残るように、並列pn層のp型領域となる領域を選択的に形成する多段エピタキシャル方式が公知である。
【0006】
従来のSJ構造の炭化珪素半導体装置として、プレーナゲート構造を備えた縦型半導体装置であって、ゲート電極の中央部の直下において、ゲート絶縁膜の厚さを相対的に厚くし、かつ並列pn層のn型領域およびp型領域の不純物濃度を相対的に高くすることでオン抵抗を低減するとともに、p型ベース領域の直下において、並列pn層のn型領域およびp型領域の不純物濃度を相対的に低くすることで素子耐圧を維持した装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0007】
従来のSJ構造の別の炭化珪素半導体装置として、並列pn層のn型領域を埋め込むSJトレンチを深くなるほど幅を狭くしたテーパー状の断面形状とし、SJトレンチ側壁に斜め方向から異なる角度での複数回イオン注入により並列pn層のp型領域を形成して、当該p型領域の不純物濃度をドレイン領域側へ向かうにしたがって一定の勾配で低くすることで、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスを深さ方向に一様に保って最大耐圧を高く維持した装置が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-018877号公報
【特許文献2】特開2007-019146号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ティ・タマキ(T. Tamaki)、外8名、バーティカル チャージ インバランス エフェクト オン 600V-クラス トレンチ-フィリング スーパージャンクション パワー MOSFETs(Vertical charge imbalance effect on 600V-class trench-filling superjunction power MOSFETs)、2011 アイ・トリプル・イー 23rd インターナショナル シンポジウム オン パワー セミコンダクター デバイシズ アンド IC’s(2011 IEEE 23rd International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs:2011 ISPSD)、(米国)、アイ・トリプル・イー: インスティテュート オブ エレクトリカル アンド エレクトロニクス エンジニアーズ(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)、2011年5月、p.308-311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の炭化珪素半導体装置の製造方法では、並列pn層をトレンチ埋め込みエピタキシャル方式および多段エピタキシャル方式のいずれを用いて形成する場合においても、設計値(適正値)に対して並列pn層のp型領域(またはn型領域)の幅の寸法ずれが起きやすい。多段エピタキシャル方式では、イオン注入用マスクの開口精度による寸法ずれが生じやすく、特にアルミニウム(Al)をイオン注入して並列pn層のp型領域を形成する場合、そのp型領域の幅は設計値に対して最大で1μm程度狭くなる。
【0011】
並列pn層のp型領域(またはn型領域)の幅が標準条件からずれるほど、耐圧低下が大きくなる。標準条件とは、設計上、最も耐圧を得られる並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスの条件であり、例えば、並列pn層のn型領域およびp型領域の幅が深さ方向に略一様であるときに、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランス(均衡)が概ね保たれる条件である。幅が略一様とは、プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ幅であることを意味する。
【0012】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、耐圧低下を抑制することができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基板の内部に、第1導電型領域と第2導電型領域とを前記半導体基板の第1主面に平行な第1方向に交互に繰り返し配置した並列pn層が設けられている。前記第1主面と前記並列pn層との間に、所定の素子構造が設けられている。第1電極は、前記第1主面に設けられ、前記素子構造に電気的に接続されている。第2電極は、前記半導体基板の第2主面に設けられている。
【0014】
前記並列pn層の互いに隣接する前記第1導電型領域と前記第2導電型領域とのチャージバランスは、次の6つの特徴を有する。1つ目の特徴は、前記並列pn層の厚さの1/2の深さ位置において、または前記並列pn層の厚さの1/2の深さ位置を基準にして対称となる所定幅の深さ範囲において、所定の標準条件である。2つ目の特徴は、前記標準条件の部分よりも前記第1主面側での前記第2導電型領域のチャージ量が前記第1導電型領域のチャージ量よりも多く、かつ前記標準条件での前記第2導電型領域のチャージ量よりも多い。
【0015】
3つ目の特徴は、前記標準条件の部分よりも前記第1主面側に離れるにしたがって所定の第1勾配で前記第2導電型領域のチャージ量が相対的に多くなっている。4つ目の特徴は、前記標準条件の部分よりも前記第2主面側で前記第1導電型領域のチャージ量が前記第2導電型領域のチャージ量よりも多い。5つ目の特徴は、前記標準条件の部分よりも前記第2主面側での前記第2導電型領域のチャージ量が前記標準条件での前記第2導電型領域のチャージ量よりも少ない。6つ目の特徴は、前記標準条件の部分よりも前記第2主面側に離れるにしたがって所定の第2勾配で前記第2導電型領域のチャージ量が相対的に少なくなっている。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1勾配の絶対値は、前記第2勾配の絶対値よりも大きいことを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記チャージバランスをCBとし、前記第1導電型領域のキャリア濃度、幅およびチャージ量をそれぞれNd、WnおよびQnとし、前記第2導電型領域のキャリア濃度、幅およびチャージ量をそれぞれNa、WpおよびQpとしたときに、次の(1)式を満たす。前記チャージバランスは、前記標準条件の部分よりも前記第1主面側で+160%を上限値とし、前記標準条件の部分よりも前記第2主面側で-30%を下限値とすることを特徴とする。
【0018】
【0019】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記標準条件の部分から第1距離だけ前記第1主面側の深さ位置における第1チャージバランス(CB1+)と、前記標準条件の部分から前記第1距離と同じ第2距離だけ前記第2主面側の深さ位置における第2チャージバランス(CB1-)と、は次の(2)式を満たすことを特徴とする。
【0020】
【0021】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記標準条件は、最も耐圧が得られる前記チャージバランスの条件であることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様である。前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配および前記第2勾配と同じ勾配で深さ方向に変化する不純物濃度分布を有することを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2主面と前記並列pn層との間に設けられた、前記第1導電型領域よりも不純物濃度の低い第1導電型のバッファ領域をさらに備える。前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界は、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界よりも前記第1主面側の深さ位置にある。前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界における前記チャージバランスは最小値となることを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記チャージバランスは、前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、深さ方向に一様であることを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記チャージバランスは、前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、前記第2主面側へ向かうにしたがって所定の第3勾配で大きくなっていることを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置までの部分において、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置から第4距離だけ前記第1主面側の深さ位置における第4チャージバランス(CB2-)と、前記並列pn層の前記第1主面側の端部の深さ位置から前記第4距離と同じ第3距離だけ前記第2主面側の深さ位置における第3チャージバランス(CB2+)と、は次の(3)式を満たすことを特徴とする。
【0027】
【0028】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様である。前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配および前記第2勾配と同じ勾配で深さ方向に変化し、かつ前記バッファ領域と前記第1導電型領域との境界の深さ位置から、前記バッファ領域と前記第2導電型領域との境界の深さ位置まで、深さ方向に一様な不純物濃度分布を有することを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1導電型領域の不純物濃度は深さ方向に一様である。前記第2導電型領域は、前記チャージバランスの分布の前記第1勾配、前記第2勾配および前記第3勾配と同じ勾配で深さ方向に変化する不純物濃度分布を有することを特徴とする。
【0030】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。第1導電型エピタキシャル層を多段に分けてエピタキシャル成長させるごとに当該第1導電型エピタキシャル層に第2導電型不純物をイオン注入して前記第2導電型領域となる第2導電型拡散領域を形成し、前記第1導電型エピタキシャル層の、前記第2導電型拡散領域を除く部分を前記第1導電型領域として残すことで前記並列pn層を形成する多段エピタキシャル工程を行う。多段に分けてエピタキシャル成長させる複数の前記第1導電型エピタキシャル層にそれぞれ前記イオン注入により不純物濃度の異なる前記第2導電型拡散領域を形成して、前記並列pn層の前記第2導電型領域を前記不純物濃度分布にする。
【0031】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記多段エピタキシャル工程では、多段に分けてエピタキシャル成長させる複数の前記第1導電型エピタキシャル層のうちの最下層を前記バッファ領域の不純物濃度でエピタキシャル成長させ、当該最下層の前記第2導電型拡散領域を除く部分を前記バッファ領域として残すことを特徴とする。
【0032】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。前記並列pn層を形成するトレンチ埋め込みエピタキシャル工程は、第1~3工程を行う。前記第1工程では、第1導電型エピタキシャル層をエピタキシャル成長させる。前記第2工程では、前記第1導電型エピタキシャル層にトレンチを形成して、前記第1導電型エピタキシャル層のうちの前記第1導電型領域となる部分を残す。前記第3工程では、前記トレンチを前記第2導電型領域となる第2導電型エピタキシャル層で埋め込む。前記第3工程では、前記第2導電型エピタキシャル層のエピタキシャル成長中に不純物濃度を変更して、前記並列pn層の前記第2導電型領域を前記不純物濃度分布にする。
【0033】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程では、前記バッファ領域の不純物濃度の第1導電型層と、前記第1導電型領域の不純物濃度の第2導電型層と、を順にエピタキシャル成長させて前記第1導電型エピタキシャル層を形成する。前記第2工程では、前記第1導電型層の内部で終端する前記トレンチを形成して、前記第1導電型エピタキシャル層のうちの前記バッファ領域および前記第1導電型領域となる部分を残すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置によれば、並列pn層の第2導電型領域の幅の変化に対する耐圧低下を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】
図1の並列pn層の任意の互いに隣接するn型領域およびp型領域を示す断面図である。
【
図3】
図2の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布を示す分布図である。
【
図4】
図1の並列pn層の任意の互いに隣接するn型領域およびp型領域の別例を示す断面図である。
【
図5】
図4の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布を示す分布図である。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図7】
図6の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布の例を示す分布図である。
【
図8】実施例の耐圧と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。
【
図9】従来例の耐圧と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。
【
図10】実施例および従来例の良品率と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0037】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造について、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)を例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図1には、活性領域に配置される同一構造の複数の単位セル(素子の構成単位)のうちの一部の単位セルを示す。
【0038】
図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10は、活性領域において、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板(半導体チップ)30のおもて面(第1主面)側に一般的なトレンチゲート構造(素子構造)を備え、ドリフト層(ドリフト領域)2を並列pn層20としたSJ構造の縦型MOSFETである。活性領域は、MOSFETがオン状態のときに主電流が流れる領域であり、半導体基板30の中央に配置されている。エッジ終端領域(不図示)は、活性領域と半導体基板30の端部との間の領域であり、活性領域の周囲を囲む。
【0039】
エッジ終端領域は、活性領域におけるドリフト層2の、半導体基板30のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する機能を有する。耐圧とは、リーク電流が過度に増大せず、素子が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。エッジ終端領域には、フィールドリミッティングリング(FLR:Field Limiting Ring)や接合終端拡張(JTE:Junction Termination Extension)構造等の耐圧構造が配置される。
【0040】
半導体基板30は、炭化珪素からなるn+型出発基板31のおもて面上にドリフト層2、n型電流拡散領域3およびp型ベース領域4となる各エピタキシャル層32~34を順に堆積してなる。半導体基板30のp型エピタキシャル層34側の主面をおもて面として、n+型出発基板31側の主面(n+型出発基板31の裏面)を裏面(第2主面)とする。n+型出発基板31は、n+型ドレイン領域1である。ドリフト層2(n型エピタキシャル層(第1導電型エピタキシャル層)32)は、p型ベース領域4とn+型ドレイン領域1との間でn+型ドレイン領域1に接する。
【0041】
ドリフト層2の、少なくともn+型ソース領域5側(半導体基板30のおもて面側)の表面領域が並列pn層20である。並列pn層20は、n型領域(第1導電型領域)21とp型領域(第2導電型領域)22とを半導体基板30のおもて面に平行な第1方向Xに交互に繰り返し隣接して配置したSJ構造である。ドリフト層2の、並列pn層20とn+型ドレイン領域1との間の部分は、n型バッファ領域(SJ構造でないn型領域)2aであってもよい。n型バッファ領域2aの不純物濃度は、並列pn層20のn型領域21の不純物濃度以下である。
【0042】
並列pn層20の厚さLsjは、並列pn層20のp型領域22の厚さで決まる。n型バッファ領域2aを有する場合、並列pn層20のp型領域22は、深さ方向Zにn型領域21よりもn+型ドレイン領域1側(半導体基板30の裏面側)に深い位置に達していてもよい。この場合、並列pn層20の互いに隣り合うp型領域22間に、n+型ドレイン領域1側からn型バッファ領域2aが所定長さで延在する。n型バッファ領域2aの、互いに隣り合うp型領域22間の部分は並列pn層20として機能する。
【0043】
並列pn層20のn型領域21およびp型領域22の各幅(第1方向Xの幅)Wn,Wpは深さ方向Zに略一様である。並列pn層20のn型領域21の不純物濃度は、深さ方向Zに略一様である。並列pn層20のp型領域22の不純物濃度は、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランス分布と同じ不純物濃度分布で深さ方向Zに変化している。n型領域21に対してp型領域22の不純物濃度を高くすると、より本実施の形態の効果が得られる。並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランス分布については後述する。
【0044】
チャージバランスとは、並列pn層20のn型領域21のキャリア濃度(不純物濃度)と幅Wnとの積で表されるチャージ量と、p型領域22のキャリア濃度と幅Wpとの積で表されるチャージ量と、の釣り合いの度合を示す指標である。幅および不純物濃度が略一様とは、プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ幅および同じ不純物濃度であることを意味する。並列pn層20のn型領域21およびp型領域22のキャリア濃度および幅Wn,Wpは適宜設定され、略同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
図示省略するが、並列pn層20は、半導体基板30のおもて面側からみて、例えば、半導体基板30のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Yにストライプ状にn型領域21およびp型領域22を延在させたレイアウトを有していてもよい。または、並列pn層20は、半導体基板30のおもて面側からみて、例えば、p型領域22をマトリクス状(ドット状)に配置し、これら複数のp型領域22の周囲を囲む格子状にn型領域21を配置したレイアウトを有していてもよい。
【0046】
トレンチゲート構造は、p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6、ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成される。p型ベース領域4は、半導体基板30のおもて面とドリフト層2との間に設けられている。p型ベース領域4は、p型エピタキシャル層34の、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を除く部分である。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面とp型ベース領域4との間にそれぞれ選択的に設けられている。
【0047】
n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、p型ベース領域4に接し、かつ半導体基板30のおもて面に露出されている。半導体基板30のおもて面に露出とは、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6が半導体基板30のおもて面で後述するソース電極(第1電極)14に接することである。p++型コンタクト領域6は設けられていなくてもよい。この場合、p++型コンタクト領域6に代えて、p型ベース領域4が半導体基板30のおもて面に露出される。
【0048】
p型ベース領域4と並列pn層20(ドリフト層2)との間に、n型電流拡散領域3およびp+型領域11,12がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域3は、n型エピタキシャル層33のp+型領域11,12を除く部分である。p+型領域11,12は、n型エピタキシャル層33の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。n型電流拡散領域3およびp+型領域11,12は、ゲートトレンチ7の底面よりもn+型ドレイン領域1側に深い位置に達する。
【0049】
n型電流拡散領域3は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(CSL:Current Spreading Layer)である。n型電流拡散領域3は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間において、p+型領域11,12、p型ベース領域4および並列pn層20のn型領域21に接するとともに、第1方向Xに延在してゲートトレンチ7の側壁に達する。n型電流拡散領域3の不純物濃度は、並列pn層20のn型領域21の不純物濃度以上である。
【0050】
p+型領域11,12は、ソース電極14に電気的に接続され、MOSFETのオフ時に空乏化して、ゲートトレンチ7の底面付近の電界を緩和させる機能を有する。p+型領域11は、p型ベース領域4と離れて配置され、深さ方向Zにゲートトレンチ7の底面に対向する。p+型領域11は、図示省略する部分でp+型領域12に連結されている。p+型領域11は、深さ方向Zにn型電流拡散領域3に対向する。p+型領域11は、深さ方向Zにn型電流拡散領域3に接してもよい。
【0051】
p+型領域12は、互いに隣り合うゲートトレンチ7間においてp型ベース領域4に接し、p+型領域11およびゲートトレンチ7と離れて設けられている。p+型領域12は、深さ方向Zにp型領域22に対向する。p+型領域12は、深さ方向Zに対向するp型領域22に接してもよい。ゲートトレンチ7は、深さ方向Zにn+型ソース領域5およびp型ベース領域4を貫通してn型電流拡散領域3に達する。ゲートトレンチ7は、半導体基板30のおもて面に平行な方向(ここでは第2方向Y)にストライプ状に延在する。
【0052】
ゲートトレンチ7の内部に、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9が設けられている。ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9でトレンチゲート構造のMOSゲートが構成される。層間絶縁膜13は、半導体基板30のおもて面の全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。ソース電極14は、層間絶縁膜13のコンタクトホールにおいて、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6に電気的に接続されている。ドレイン電極(第2電極)15は、半導体基板30の裏面の全面に設けられている。
【0053】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランス分布について説明する。
図2は、
図1の並列pn層の任意の互いに隣接するn型領域およびp型領域を示す断面図である。
図2には、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21およびp型領域22の第1方向Xの幅W
n,W
pの中心間の部分(n型領域21およびp型領域22ともに幅W
n,W
pの1/2の部分)を示す(後述する
図4においても同様)。
図3は、
図2の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布を示す分布図である。
【0054】
図3のチャージバランスCB(Charge Balance)の分布は、並列pn層20のすべての互いに隣接するn型領域21およびp型領域22に適用される。
図3の横軸には、半導体基板30のおもて面からの深さ[a.u.(arbitrary unit:任意単位)]を示す。
図3の縦軸には、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCB[%]を、pリッチ範囲でプラス(+)側に示し、nリッチ範囲でマイナス(-)側に示している。これら
図3のチャージバランスCB、横軸および縦軸の条件は、後述する
図5においても同様に適用される。
【0055】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、並列pn層20の厚さLsjの1/2(=Lsj/2)の深さ位置(以下、中心位置とする)Z0を境に、n
+型ソース領域5側(半導体基板30のおもて面側)でpリッチ(
図3のプラス値)となり、n
+型ドレイン領域1側(半導体基板30の裏面側)でnリッチ(
図3のマイナス値)となっている。並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは中心位置Z0で標準条件である。
【0056】
並列pn層20のp型領域22のチャージ量は、中心位置Z0を境に、n+型ソース領域5側で標準条件のp型領域22のチャージ量よりも多く、n+型ドレイン領域1側で標準条件のp型領域22のチャージ量よりも少なくなっている。pリッチとは、p型領域22のチャージ量がn型領域21との隣接箇所で当該n型領域21のチャージ量よりも多いことである。nリッチとは、n型領域21のチャージ量がp型領域22との隣接箇所で当該p型領域22のチャージ量よりも多いことである。
【0057】
標準条件とは、設計上、最も耐圧を得られる並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスの条件であり、
図3のチャージバランスCB0に相当する。具体的には、標準条件は、例えば、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランス(均衡)が概ね保たれる条件(後述する(4)式で算出されるチャージバランスCBが0%)であり、(4)式で算出されるチャージバランスCBが-15%以上0%未満程度となるnリッチな条件であってもよい。
【0058】
並列pn層20は、深さ方向Zに中心位置Z0を含む所定の厚さ範囲(以下、標準条件範囲とする)23で標準条件となっていてもよい。標準条件範囲23は、並列pn層20の厚さLsjよりも薄く、かつ中心位置Z0を基準にして深さ方向Zに対称となる所定幅L0を有する。標準条件範囲23は、中心位置Z0からn+型ソース領域5側の端部23aまでの距離と、中心位置Z0からn+型ドレイン領域1側の端部23bまでの距離とが略同じ(幅L0の1/2)である。略同じ距離とは、プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ距離であることを意味する。
【0059】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、p型領域22の不純物濃度を深さ方向Zに所定の不純物濃度分布で変化させることで調整されている。上述したように並列pn層20のn型領域21およびp型領域22の各幅Wn,Wpが深さ方向Zに略一様であり、n型領域21の不純物濃度が深さ方向Zに略一様であるため、並列pn層20のp型領域22の不純物濃度分布が並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBの分布となる。
【0060】
例えば、後述するように、並列pn層20は、ドリフト層2となるn型エピタキシャル層32を複数段(複数回)に分けて多段にエピタキシャル成長させるごとに、深さ方向Zにp型領域22の所定の不純物濃度分布が形成されるように、各段のn型エピタキシャル層(後述する
図6のn型エピタキシャル層(第1導電型エピタキシャル層)49~41に相当)にそれぞれp型不純物(第2導電型不純物)をイオン注入してp型領域22となる部分(第2導電型拡散領域)をそれぞれ異なる不純物濃度で選択的に形成し、n型エピタキシャル層32のイオン注入せずにn型のまま残した部分をn型領域21とすることで形成される。
【0061】
このとき、n型エピタキシャル層32として多段にエピタキシャル成長させた略同じ厚さの複数段のエピタキシャル層のうち、少なくとも中段(総段数が奇数の場合は1段、偶数の場合は2段)のエピタキシャル層を標準条件範囲23としてもよい。標準条件範囲23の幅L0を増やすには、中段のエピタキシャル層の上段および下段にそれぞれ隣接するエピタキシャル層を同じ段数分ずつ標準条件範囲23とすればよい。略同じ厚さとは、プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ厚さであることを意味する。
【0062】
具体的には、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCB[%]は、並列pn層20のn型領域21のチャージ量Qnおよびp型領域22のチャージ量Qpに基づいて、次の(4)式で算出される。下記(4)式において、Na,Wpはそれぞれ並列pn層20のp型領域22のキャリア濃度(正孔濃度)および第1方向Xの幅である。Nd,Wnはそれぞれ並列pn層20のn型領域のキャリア濃度(電子濃度)および第1方向Xの幅である。
【0063】
【0064】
上記(4)式に基づいて算出すると、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCB[%]は、中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は標準条件範囲23のn+型ソース領域5側の端部23aの深さ位置Z3)からn+型ソース領域5側(pリッチ範囲)でプラス値となり、かつn+型ソース領域5側へ向かうにしたがって所定の第1勾配D+で大きくなっている(p型領域22のチャージ量が標準条件のp型領域22のチャージ量よりも多くなっている)。
【0065】
上記(4)式に基づいて算出すると、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCB[%]は、中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は標準条件範囲23のn+型ドレイン領域1側の端部23bの深さ位置Z4)からn+型ドレイン領域1側(nリッチ範囲)でマイナス値となり、かつn+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって所定の第2勾配D-で小さくなっている(p型領域22のチャージ量が標準条件のp型領域22のチャージ量よりも少なくなっている)。
【0066】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、中心位置Z0よりもn+型ソース領域5側(pリッチ範囲)で上限値(並列pn層20のn+型ソース領域5側の端部20aの深さ位置Z1でのプラス値)を+160%とし、中心位置Z0よりもn+型ドレイン領域1側(nリッチ範囲)で下限値(並列pn層20のn+型ドレイン領域1側の端部20bの深さ位置Z2でのマイナス値)を-30%とすることがよい。並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBにおいて、pリッチ範囲の第1勾配D+の絶対値はnリッチ範囲の第2勾配D-の絶対値よりも大きくなっていることがよい(|D+|>|D-|)。
【0067】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22との第1勾配D
+にしたがって増加するチャージバランスCB(プラス値)は、中心位置Z0側からn
+型ソース領域5側へ線形状に増加してもよいし(
図3)、階段状に増加してもよい(不図示)。並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22との第2勾配D
-にしたがって減少するチャージバランスCB(マイナス値)は、中心位置Z0側からn
+型ドレイン領域1側へ線形状に減少してもよいし(
図3)、階段状に減少してもよい(不図示)。
【0068】
また、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBにおいて、中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は深さ位置Z3)から第1距離h1+だけn+型ソース領域5側の所定の深さ位置Z5+におけるpリッチ範囲の第1チャージバランスCB1+と、中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は深さ位置Z4)から上記第1距離h1+と略同じ第2距離h1-だけn+型ドレイン領域1側の所定の深さ位置Z5-におけるnリッチ範囲の第2チャージバランスCB1-と、は次の(5)式を満たすことがよい。
【0069】
【0070】
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の別例について説明する。
図4は、
図1の並列pn層の任意の互いに隣接するn型領域およびp型領域の別例を示す断面図である。
図5は、
図4の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布を示す分布図である。
図5には、n型バッファ領域2aの不純物濃度が並列pn層20のn型領域21の不純物濃度未満である場合における、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22との深さ方向Zのチャージバランス分布を示す。
【0071】
n型バッファ領域2aの不純物濃度が並列pn層20のn型領域21の不純物濃度と略同じである場合、上述した
図3に示す並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22との深さ方向Zのチャージバランス分布となる。略同じ不純物濃度とは、プロセスのばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ不純物濃度であることを意味する。n型バッファ領域2aの不純物濃度が並列pn層20のn型領域21の不純物濃度未満である場合、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22との深さ方向Zのチャージバランス分布は、上述した条件に加えて、次の2つの相違点を満たす。
【0072】
1つ目の相違点は、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBがn型バッファ領域2aと並列pn層20のn型領域21との境界20cの深さ位置Z6-で最もnリッチとなる点である。すなわち、上記(4)式に基づいて算出すると、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCB[%]は、中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は深さ位置Z4)からn+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって所定の第2勾配D-で小さくなり、n型バッファ領域2aと並列pn層20のn型領域21との境界20cの深さ位置Z6-で最小値となる。
【0073】
並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、n型バッファ領域2aと並列pn層20のp型領域22とが第1方向Xに隣接する部分24で、深さ方向Zに一定であってもよいし(不図示)、n
+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって所定の第3勾配D
bufで大きくなっていてもよい(
図5)。n型バッファ領域2aと並列pn層20のp型領域22とが第1方向Xに隣接する部分24とは、n型バッファ領域2aと並列pn層20のn型領域21との境界20cの深さ位置Z6
-から、並列pn層20のn
+型ドレイン領域1側の端部20b(n型バッファ領域2aと並列pn層20のp型領域22との境界)の深さ位置Z2までのnリッチ範囲である。
【0074】
2つ目の相違点は、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBが次の(6)式を満たすことがよい点である。具体的には、n型バッファ領域2aと並列pn層20のp型領域22とが第1方向Xに隣接する部分24におけるnリッチ範囲には、所定の深さ位置Z7-で第4チャージバランスCB2-となる第3勾配Dbufのチャージバランス分布が形成される。この部分24の厚さL-と略同じ厚さL+だけ、並列pn層20のn+型ソース領域5側の端部20aの深さ位置Z1からn+型ドレイン領域1側の深さ位置Z6+までのpリッチ範囲には、所定の深さ位置Z7+で第3チャージバランスCB2+となる第1勾配D+のチャージバランス分布が形成される。
【0075】
n型バッファ領域2aと並列pn層20のp型領域22とが第1方向Xに隣接する部分24において並列pn層20のn+型ドレイン領域1側の端部20bの深さ位置Z2から所定の第4距離h2-だけn+型ソース領域5側の深さ位置Z7-における第4チャージバランスCB2-と、並列pn層20のn+型ソース領域5側の端部20aの深さ位置Z1から第4距離h2-と略同じ第3距離h2+だけn+型ドレイン領域1側の深さ位置Z7+における第3チャージバランスCB2+と、は次の(6)式を満たす。所定の深さ位置Z7+,Z5+でそれぞれ第3チャージバランスCB2+,CB1+となる各チャージバランス分布は深さ位置Z6+を境に同じ第1勾配D+で連続する。
【0076】
【0077】
中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は深さ位置Z3)から、並列pn層20のn
+型ソース領域5側の端部20aの深さ位置Z1から第3距離h2
+だけn
+型ドレイン領域1側の深さ位置Z6
+までのpリッチ範囲には、
図3と同様に所定の深さ位置Z5
+で上記(5)式を満たす第1チャージバランスCB1
+となる第1勾配D
+のチャージバランス分布が形成される。中心位置Z0(標準条件範囲23を有する場合は深さ位置Z4)から、n型バッファ領域2aと並列pn層20のn型領域21との境界20cの深さ位置Z6
-までのnリッチ範囲には、所定の深さ位置Z5
-で
図3と同様に上記(5)式を満たす第2チャージバランスCB1
-となる第2勾配D
-のチャージバランス分布が形成される。
【0078】
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法について説明する。
図6は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、n
+型ドレイン領域1となるn
+型出発基板(半導体ウエハ)31のおもて面上に、並列pn層20を含むドリフト層2を形成する。このとき、多段エピタキシャル方式を用いて、ドリフト層2となるn型エピタキシャル層32を複数段に分けて多段にエピタキシャル成長させるごとに当該n型エピタキシャル層32にアルミニウム(Al)等のp型不純物をイオン注入することで、並列pn層20のp型領域22となる部分を選択的に形成する。
【0079】
n型エピタキシャル層32の互いに隣り合うp型領域22間にイオン注入されずにn型のまま残る部分は、並列pn層20のn型領域21となる。
図6には、ドリフト層2となるn型エピタキシャル層32を例えば9段に分けて多段にエピタキシャル成長させる場合を示し、これら9段のn型エピタキシャル層に上層側(n
+型ソース領域5側)から順に符号41~49を付す。n型エピタキシャル層32の、並列pn層20とn
+型出発基板31との間の部分の全域にイオン注入を行わずにn型バッファ領域2aとして残してもよい。以下、n型バッファ領域2aを設ける場合を例に説明する。
【0080】
n型エピタキシャル層32となる最下層のn型エピタキシャル層49は、n型バッファ領域2aの不純物濃度および厚さLbufで形成する。このn型エピタキシャル層49の表面領域にアルミニウム等のp型不純物をイオン注入してp型領域22となる部分を選択的に形成する。このp型領域22となる部分と、n型エピタキシャル層49の表面領域のp型領域22間にイオン注入されずにn型のまま残る部分と、で並列pn層20を構成する最下層の部分SJ9が形成される。n型エピタキシャル層49中のp型領域22を除く部分がn型バッファ領域2aとなり、最下層の部分SJ9の互いに隣り合うp型領域22間には、n型エピタキシャル層49の表面までn型バッファ領域2aが達する。
【0081】
n型エピタキシャル層49の上には、並列pn層20のn型領域21の不純物濃度で、n型エピタキシャル層32となる残り8段のn型エピタキシャル層48~41を順にエピタキシャル成長させる。部分SJ9と、8段のn型エピタキシャル層48~41と、の総厚さが並列pn層20の厚さLsjである。n型エピタキシャル層48~41には、深さ方向Zに連続するn型エピタキシャル層49~41にわたって深さ方向Zにp型領域22の所定の不純物濃度分布が形成されるように、それぞれ異なる条件でアルミニウム等のp型不純物をイオン注入してp型領域22となる部分を選択的に形成する。
【0082】
n型エピタキシャル層48~41の互いに隣り合うp型領域22間にイオン注入されずにn型のまま残る部分は、並列pn層20のn型領域21となる。これによって、8段のn型エピタキシャル層48~41に、それぞれ並列pn層20を構成する部分SJ8~SJ1が形成される。部分SJ9~SJ1のp型領域22の不純物濃度は、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBが上述した条件となるように調整する(
図3および上記(5)式、もしくは
図5および上記(6)式等を参照)。
図7は、
図6の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布の例を示す分布図である。
【0083】
n型バッファ領域2aの不純物濃度が並列pn層20のn型領域21の不純物濃度未満で(
図5参照)、かつ中段の部分SJ5を標準条件範囲23とした場合の並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBをシミュレーションした結果を
図7に示す(以下、実施例とする)。
図7には、比較として、従来例の並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布を示す。従来例が実施例と異なる点は、並列pn層のp型領域の不純物濃度が深さ方向に略一様であり、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域との深さ方向のチャージバランス分布に勾配がなく、すべての部分SJで標準条件(
図3のチャージバランスCB0となる条件)になっている点である。
【0084】
実施例において、部分SJ9~SJ1を0.65μmの厚さで形成し、並列pn層20の厚さLsjを5.85μm(=0.65μm×9)とした。標準条件の並列pn層20のn型領域21およびp型領域22の不純物濃度をそれぞれ3×1016/cm3および6×1016/cm3とした。すなわち、並列pn層20のn型領域21の不純物濃度は深さ方向Zに一様に3×1016/cm3である。標準条件範囲23とした中段の部分SJ5のp型領域22の不純物濃度は6×1016/cm3である。n型バッファ領域2aの厚さLbufおよび不純物濃度をそれぞれ4.4μmおよび1.8×1016/cm3とした。
【0085】
実施例の耐圧は1200Vに設定した。この場合に、
図7に示すように、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBは、部分SJ9~SJ1のp型領域22の不純物濃度を調整して、例えば、上層側の部分SJ1,SJ2で+150%程度、その下層の部分SJ3,SJ4で+70%程度のpリッチとし、中段の部分SJ5で標準条件とし、その下層の部分SJ6,SJ7で-30%程度、その下層の部分SJ8で-50%程度、その下層の部分SJ9で-5%程度のnリッチとしてもよい。
図7の横軸のSJ段数として記載した「1」~「9」がそれぞれ部分SJ1~SJ9に対応する。
【0086】
並列pn層20のn型領域21およびp型領域22の幅W
n,W
pは深さ方向Zに一様であり、並列pn層20のn型領域21の不純物濃度は深さ方向Zに一様である。このため、部分SJ9~SJ1のp型領域22の不純物濃度を調整することで、並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBを、標準条件の部分(部分SJ5)よりもn
+型ソース領域5側でpリッチとなり、n
+型ソース領域5側へ向かうにしたがって第1勾配D
+で大きくなり、かつ部分SJ5よりもn
+型ドレイン領域1側でnリッチとなり、n
+型ドレイン領域1側へ向かうにしたがって第2勾配D
-で小さくすることができる(
図3,5参照)。
【0087】
次に、n型エピタキシャル層32の上(部分SJ1の上)に、n型電流拡散領域3となるn型エピタキシャル層33をエピタキシャル成長させる。次に、イオン注入により、n型エピタキシャル層33の内部にp+型領域11,12を選択的に形成する。n型エピタキシャル層33のイオン注入されずにn型のまま残る部分がn型電流拡散領域3となる。n型電流拡散領域3の不純物濃度よりも低い不純物濃度でn型エピタキシャル層33をエピタキシャル成長させて、当該n型エピタキシャル層33にイオン注入によりn型電流拡散領域3を形成してもよい。
【0088】
次に、n型エピタキシャル層33の上に、p型ベース領域4となるp型エピタキシャル層34をエピタキシャル成長させる。これによって、n+型出発基板31上にエピタキシャル層32~34が順に積層され、かつエピタキシャル層32に並列pn層20を含む半導体基板(半導体ウエハ)30が作製される。次に、イオン注入により、p型エピタキシャル層34の表面領域に、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6をそれぞれ選択的に形成する。p型エピタキシャル層34の、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を除く部分がp型ベース領域4となる。
【0089】
次に、エピタキシャル層32~34にイオン注入した不純物を活性化させるための熱処理(以下、活性化アニールとする)を行う。次に、半導体基板30のおもて面からn
+型ソース領域5およびp型ベース領域4を貫通して、n型電流拡散領域3の内部においてp
+型領域11に対向するゲートトレンチ7を形成する。次に、一般的な方法により、ゲート絶縁膜8、ゲート電極9、層間絶縁膜13、ソース電極14およびドレイン電極15を形成する。その後、半導体ウエハ(半導体基板30)をダイシング(切断)して個々のチップ状に個片化することで、
図1~3に示す炭化珪素半導体装置10が完成する。
【0090】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法において、多段エピタキシャル方式に代えて、トレンチ埋め込みエピタキシャル方式を用いて、並列pn層20を形成してもよい。トレンチ埋め込みエピタキシャル方式を用いる場合、n型エピタキシャル層(第1導電型エピタキシャル層)32にトレンチ(SJトレンチ)を形成してn型領域21となる部分を残し、このSJトレンチをp型領域22となるp型エピタキシャル層(第2導電型エピタキシャル層)で埋め込むことで並列pn層20を形成する。
【0091】
SJトレンチに埋め込むp型領域22は、p型領域22となるp型エピタキシャル層のエピタキシャル成長中に不純物濃度を適宜変更して所定の不純物濃度分布にすればよい。n型バッファ領域2aの不純物濃度を並列pn層20のn型領域21の不純物濃度未満とする場合、n型バッファ領域2aとなる部分(第1半導体層)と、並列pn層20のn型領域21となる部分(第2半導体層)と、の2層構造のn型エピタキシャル層32を形成し、n型バッファ領域2aとなる部分の内部で終端するSJトレンチを形成すればよい。
【0092】
以上、説明したように、実施の形態によれば、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスを、並列pn層の厚さの1/2の深さ位置を中心位置とし、この中心位置または当該中心位置を含む所定幅の深さ範囲で標準条件とし、この標準条件の部分よりもn+型ソース領域側でpリッチとし、かつn+型ソース領域側へ向かうにしたがって第1勾配で大きくするとともに、標準条件の部分よりもn+型ドレイン領域側でnリッチとし、かつn+型ドレイン領域側へ向かうにしたがって第2勾配で小さくする。これによって、並列pn層のp型領域の幅の変化に対する耐圧低下を抑制することができ、並列pn層のp型領域の幅の寸法ずれに対するプロセスマージンを広げることができる。
【0093】
また、実施の形態によれば、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスを、並列pn層のp型領域の深さ方向の不純物濃度分布を調整することで行うことができる。このため、並列pn層のp型領域が深さ方向に所定の不純物濃度分布となるように、多段エピタキシャル方式を用いて並列pn層を形成するにあたってp型領域を形成するためのイオン注入条件を適宜変更したり、トレンチ埋め込みエピタキシャル方式を用いて並列pn層を形成するにあたってSJトレンチに埋め込むp型エピタキシャル層のエピタキシャル成長中に成長条件を適宜変更したりすればよい。このため、実施の形態によれば、既存の製造ラインに容易に適用することができる。
【0094】
(実験例)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10の並列pn層20のp型領域22の幅W
pのプロセスマージンについて検証した。
図8は、実施例の耐圧と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。
図9は、従来例の耐圧と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。
図10は、実施例および従来例の良品率と並列pn層のp型領域の幅との関係を示す特性図である。上述した実施例(
図6,7参照)の耐圧について並列pn層20のp型領域22の幅W
pの異なる複数条件それぞれで複数回ずつシミュレーションした結果を
図8に示す。実施例の設定耐圧を1200Vとした。
【0095】
図8の縦軸は耐圧(BV:Breakdown Voltage)である。
図8の横軸は並列pn層20のp型領域22の幅W
pの標準条件(ΔW
p=0%)からの増減幅の比率ΔW
p(%)であり、「ΔW
p=(シミュレーション条件のp型領域22の幅W
p-標準条件のp型領域22の幅W
p)/標準条件のp型領域22の幅W
p」として算出している。
図8において、ΔW
p<0%の場合およびΔW
p>0%の場合は、それぞれ、標準条件の並列pn層20のp型領域22の幅Wpに対して、並列pn層20のp型領域22の幅W
pを狭くした場合および広くした場合である。
【0096】
比較として、上述した従来例(
図7参照)の耐圧についての結果を
図9に示す。すなわち、
図9は、並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスは深さ方向に一様に標準条件とした場合である。ここでは、標準条件を、上記(4)式で算出されるチャージバランスCBが-15%程度となるnリッチな条件とした。従来例の設定耐圧およびシミュレーション条件は、実施例と同じである。
図9の横軸ΔW
p(%)および縦軸BV(V)はそれぞれ
図8の横軸および縦軸と同じである。これら実施例および従来例の良品率をシミュレーションした結果を
図10に示す。
【0097】
図8,9に示す結果から、実施例においては、並列pn層20のp型領域22の幅W
pの標準条件からの減少の比率ΔW
pが-20%以上の範囲において、従来例と比べて耐圧低下を緩和することができることが確認された(
図8,9の枠51,52で囲む部分を比較)。実施例のように並列pn層20の互いに隣接するn型領域21とp型領域22とのチャージバランスCBに上記第1,2勾配D
+,D
-をつけることで、並列pn層20のp型領域22の幅W
pの変化に対する耐圧低下が抑制され、並列pn層20のp型領域22の幅W
pの寸法ずれに対するプロセスマージンを広げることができることが確認された。
【0098】
図10に示す結果から、実施例においては、並列pn層20のp型領域22の幅W
pの標準条件からの減少の比率ΔW
pが-20%以上10%以下の範囲で良品率を80%程度にすることができることが確認された。並列pn層20のp型領域22の幅W
pの標準条件からの減少の比率ΔW
pが-30%であったとしても、従来例と比べて良品率を2倍以上にすることができることが確認された。ここでは、耐圧BVが1200V以上で、かつドレイン・ソース間電流Idssが1mA未満である場合を良品とした。ドレイン・ソース間電流Idssの上限値は耐圧1200Vの場合の電流値である。
【0099】
n型バッファ領域2aの不純物濃度が並列pn層20のn型領域21の不純物濃度と略同じである場合(
図3参照)においても実施例とほぼ同様の結果が得られる。
【0100】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、MOSFETに限らず、ドリフト層を並列pn層としたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のMOS型半導体装置に本発明を適用可能である。また、本発明は、導電型(n型、p型)を反転させても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるSJ構造のパワー半導体装置に有用であり、特に、多段エピタキシャル方式を用いて並列pn層を形成する際に並列pn層のp型領域をイオン注入により形成する場合に適している。
【符号の説明】
【0102】
1 n+型ドレイン領域
2 ドリフト層
2a n型バッファ領域
3 n型電流拡散領域
4 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p++型コンタクト領域
7 ゲートトレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10 炭化珪素半導体装置
11,12 p+型領域
13 層間絶縁膜
14 ソース電極
15 ドレイン電極
20 並列pn層
20a 並列pn層のn+型ソース領域側の端部
20b 並列pn層のn+型ドレイン領域側の端部
20c n型バッファ領域と並列pn層のn型領域との境界
21 並列pn層のn型領域
22 並列pn層のp型領域
23 標準条件範囲
23a 標準条件範囲のn+型ソース領域側の端部
23b 標準条件範囲のn+型ドレイン領域側の端部
24 n型バッファ領域と並列pn層のp型領域とが第1方向Xに隣接する部分
30 半導体基板
31 n+型出発基板
32,33,41~49 n型エピタキシャル層
34 p型エピタキシャル層
D+,D-,Dbuf 並列pn層の互いに隣接するn型領域とp型領域とのチャージバランスの勾配
h1+,h1-,h2+,h2- 深さ方向の距離
Lsj 並列pn層の厚さ
Lbuf n型バッファ領域の厚さ
L0 標準条件範囲の幅
L+ 所定範囲の厚さ
L- n型バッファ領域と並列pn層のp型領域とが第1方向Xに隣接する部分の厚さ
Wn 並列pn層のn型領域の幅
Wp 並列pn層のp型領域の幅
X 半導体基板のおもて面に平行な方向(第1方向)
Y 半導体基板のおもて面に平行で第1方向と直交する方向(第2方向)
Z 深さ方向
Z0 並列pn層の厚さの1/2の深さ位置
Z1 並列pn層のn+型ソース領域側の端部の深さ位置
Z2 並列pn層のn+型ドレイン領域側の端部の深さ位置
Z3 標準条件範囲のn+型ソース領域側の端部の深さ位置
Z4 標準条件範囲のn+型ドレイン領域側の端部の深さ位置
Z5+,Z5-,Z6+,Z7+,Z7- 所定の深さ位置
Z6- n型バッファ領域と並列pn層のn型領域との境界の深さ位置