(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139582
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】複合型光学素子及びその製造方法、及び成形用金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/118 20150101AFI20230927BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20230927BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20230927BHJP
B29C 39/26 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G02B1/118
G02B3/00 Z
B29C33/12
B29C39/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045172
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】谷口 淳
(72)【発明者】
【氏名】清水 正樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 歳久
(72)【発明者】
【氏名】玉田 剛章
【テーマコード(参考)】
2K009
4F202
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009BB02
2K009BB11
2K009CC21
2K009DD05
2K009DD15
4F202AA44
4F202AD04
4F202AG05
4F202AH74
4F202CA01
4F202CB01
4F202CB12
4F202CB22
4F202CB29
4F202CQ01
(57)【要約】
【課題】優れた形状精度を有し、かつナノレベルの反射防止構造が高精度に形成された複合型光学素子及びその製造方法、及び成形用金型の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基材と、ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、ガラス基材と第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されていることを特徴とする複合型光学素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、
前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、
前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されていることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項2】
前記第一の突起群の平均高さは200 nm~3000 nmであり、前記第一の樹脂層の厚さは、前記第一の突起群の平均高さに10 nm~10000 nmを足し合わせた厚さであることを特徴とする請求項1に記載の複合型光学素子。
【請求項3】
前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面は前記外表面に近い形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合型光学素子。
【請求項4】
前記第一の樹脂層の屈折率をN1とし、前記第二の樹脂層の屈折率をN2として、下記式(1) の関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の複合型光学素子。
|N1-N2|≦0.40 ・・・(1)
【請求項5】
前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、
前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成してなり、
前記第一の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いたことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の複合型光学素子を製造する方法であって、
前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、
前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成し、
前記第一の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いることを特徴とする複合型光学素子の製造方法。
【請求項7】
ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、
前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、
前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されており、
前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面に形成され、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第二の突起群と、前記第一の樹脂層の前記第二の樹脂層側の面に形成され、前記第二の突起群と相補的な形状を有する第三の突起群とにより、前記第二の樹脂層と前記第一の樹脂層との境界面に第二の反射防止構造が形成されていることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項8】
前記第一の突起群の平均高さは200 nm~3000 nmであり、前記第一の樹脂層の厚さは、前記第一の突起群の平均高さ及び前記第三の突起群の平均高さの合計に10 nm~10000 nmを足し合わせた厚さであることを特徴とする請求項7に記載の複合型光学素子。
【請求項9】
前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面は前記外表面に近い形状を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の複合型光学素子。
【請求項10】
前記第一の突起群の先端は、前記第二の突起群の先端よりも先鋭化していることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項11】
前記第二の突起群の平均高さは100 nm~1000 nmであることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項12】
前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第二の突起群が形成された前記第二の樹脂層の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、
前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成してなることを特徴とする請求項7~11のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項13】
前記第一の樹脂層及び前記第二の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いたことを特徴とする請求項12に記載の複合型光学素子。
【請求項14】
請求項7~11のいずれかに記載の複合型光学素子を製造する方法であって、
前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第二の突起群が形成された前記第二の樹脂層の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、
前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成し、
ことを特徴とする複合型光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記第一の樹脂層及び前記第二の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いることを特徴とする請求項14に記載の複合型光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記成形用金型として、基材と、前記基材の表面に設けられ、前記微細凹凸構造が形成された成形面を有するガラス状カーボン部とを有する金型であって、前記基材の表面にガラス状カーボン材を形成し、前記ガラス状カーボン材の外表面を前記成形面の形状に加工した後、ECR型のイオンビーム加工又はICP型又はRIE型のプラズマ加工により前記成形面に前記微細凹凸構造を形成してなる金型を用いることを特徴とする請求項6,14及び15のいずれかに記載の複合型光学素子の製造方法。
【請求項17】
前記高粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度が1000~5500 mPa・sであり、前記低粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度が5~80 mPa・sであることを特徴とする請求項5,12及び13のいずれかのいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項18】
前記高粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度が1000~5500 mPa・sであり、前記低粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度が5~80 mPa・sであることを特徴とする請求項6及び14~16のいずれかのいずれかに記載の複合型光学素子の製造方法。
【請求項19】
前記外表面が非球面であることを特徴とする請求項1~5,7~13及び17のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項20】
前記樹脂層は30μm~1000μmの厚さを有することを特徴とする請求項1~5,7~13,17及び19のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項21】
複合型レンズであることを特徴とする請求項1~5,7~13,17,19及び20のいずれかに記載の複合型光学素子。
【請求項22】
基材と、前記基材の表面に設けられ、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な突起群により微細凹凸構造が形成された成形面を有するガラス状カーボン部とを有する成形用金型の製造方法であって、
前記基材の表面にガラス状カーボン材を形成し、前記ガラス状カーボン材の外表面を前記成形面の形状に加工した後、ECR型のイオンビーム加工又はICP型又はRIE型のプラズマ加工により前記成形面に前記微細凹凸構造を形成することを特徴とする成形用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合型光学素子及びその製造方法、及び成形用金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系において、光学機器の多様化及び光学特性の高性能化に伴い、表面が球面や非球面等の種々の曲面を有する光学素子が用いられることが多くなってきている。例えば、非球面光学素子は、設計の自由度が高く、少ない組み合わせで高い光学特性が得られる利点を有する。
【0003】
球面又は非球面の種々の曲面を有する光学素子の製造方法としては、研削・研磨法、射出成形法、ガラスモールド成形法等の種々の方法があるが、平面、球面、円筒面等の単調な面形状を有する素子を成形した後、球面又は非球面の種々の曲面形状を有する転写型を用いて部材を付加する複合法が提案されている。通常、部材は転写性の良い熱硬化性樹脂、エネルギー硬化性樹脂等の樹脂で形成される。複合法は、製造工程が簡単であり、得られた光学素子は大部分がガラスで出来ているため熱及び湿度の影響が小さい等の利点を有することから、カメラレンズ等の高精度・高性能を安定して求められる光学系で用いられている。
【0004】
写真を撮る際に使用するレンズ交換式カメラの交換レンズには、例えば
図13に示すように、球面ガラスレンズ100の一方の面101に、非球面の表面201を有する薄い樹脂層200を設けた複合化非球面レンズ1Aが数十年前から使用されている。
【0005】
樹脂層200の空気側の表面201には、通常は、光の反射を低減するための反射低減コート(図示せず)が蒸着によって施されている。しかしながら、蒸着やスッパタリングによって施された従来から用いられている多層膜からなる反射低減コートだと、
図14に示すように光の入射角度が大きくなると反射が急に大きくなるという問題があった。
【0006】
加えて、樹脂層200の表面201に蒸着やスッパタリングによって施す反射低減コートは、樹脂自体に耐熱性が不足しているので、反射低減コートの材料として低温ターゲットの蒸着材料しか使用できず、その材料が限られているため、十分な反射低減効果を得ることが難しかった。その結果、ゴーストやフレア等の写真撮影に有害な現象の原因となっていた。
【0007】
そこで最近注目されているのが、モスアイを代表とするナノレベルの表面構造体であり、この構造体を表面の反射を下げるのに最適化したものが反射防止構造と呼ばれ、構造高さ300 nmを有する反射防止構造で0°(垂直)入射の反射率0.1%以下を達成でき、入射角度を大きくしても斜入射光に対して非常に優れた反射特性を有する。また反射防止構造の構造高さをさらに高くすると入射角度の影響はさらに小さくなり、入射光30度でも全可視光域で0.1%以下に抑えることが十分可能である。
【0008】
写真用のレンズ等について、このような構造的反射低減処理を施したものは存在したが、生産工程が複雑でバッチでの処理も難しく、成膜するのに非常に多くの時間を要し、結果コストが嵩むことで高級な交換レンズ以外には使われてはいなかった。そのため、このような反射防止構造をさらに安価にレンズ表面に付加できる技術が望まれていた。
【0009】
特開2005-62526号公報(特許文献1)は、ベース部材と、ベース部材上に紫外線硬化樹脂を用いて設けられた樹脂層とを有し、樹脂層が入射光の波長よりも小さい周期を持つ微細周期構造を有し、樹脂層における微細周期構造が設けられた面が非球面である複合化非球面レンズを開示している。この複合化非球面レンズは、樹脂層が一層であり、反射防止効果のある三角柱形状の微細周期構造(モスアイ構造)が樹脂層の空気側の表面に設けられており、これが最もシンプルであり生産工程を考えると最も安価な構成である。反射防止構造の反射を抑えられるしくみについては、参考文献(奥野丈晴,「サブ波長構造による高性能反射防止膜の開発とそのカメラ用レンズへの応用」,光学,40巻1号,2011年)を参照したい。
【0010】
複合化非球面レンズに使用される紫外線硬化樹脂は、非球面形状精度を実現するために硬化の際に出来るだけ収縮しないものが望ましく、通常には非常に収縮率が小さいものが使用されている。しかしながら、紫外線硬化樹脂等のエネルギー硬化性樹脂は、収縮率が小さいものほど一般的に粘度が非常に高い。微細周期構造のようなナノレベルの構造を転写成形するには、硬化前の液体(モノマー)時に成形用金型の極度に狭い数nmの間隙に入りやすい性質が望まれるので非常に低粘度な性質が必要とされる。ところがそういった樹脂は上述したように非常に収縮率が大きく、収縮率が大きい樹脂で所望の樹脂厚を得ようとすると成形中にどうしてもヒケが生じてしまい、当然形状精度0.1μmレベルの成形どころか、まともな面を持たないものしか成形できなかった。
【0011】
特公平7-64033号公報(特許文献2)は、ガラス基材上に第1及び第2の順に透明有機高分子の重合物層が積層された接合形光学部材において、第2の重合物層は耐候性が高い高硬度のエネルギー照射硬化型樹脂材料からなり、第1の重合物層の反対側にガラス基材の面形状とは異なる第1の面形状の面を有している比較的薄い層であり、第1の重合物層は硬化収縮歪の小さいエネルギー照射硬化型樹脂材料からなり、第2の重合物層側に第1の面形状に略等しい形状の第2の面形状を有している比較的厚い層である接合形光学部材を開示している。
【0012】
しかし、特許文献2は、第2の重合物層に耐候性が高い高硬度のエネルギー照射硬化型樹脂材料を用いる技術的思想を開示しているものであり、複合化非球面レンズに反射防止構造を設けることは開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005-62526号公報
【特許文献2】特公平7-64033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の目的は、優れた形状精度を有し、かつナノレベルの反射防止構造が高精度に形成された複合型光学素子を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、かかる複合型光学素子の製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、かかる複合型光学素子の製造に好適な成形用金型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、高粘度の光硬化樹脂は収縮率が小さいため高い形状精度を有するがナノレベルの反射防止構造の転写性が不十分であるのに対し、低粘度の光硬化樹脂は収縮率が大きいため形状精度に劣るが反射防止構造の転写性に優れており、ガラス基材の表面に、高粘度の光硬化樹脂を用いて高い形状精度を有する第二の樹脂層を形成し、第二の樹脂層の表面に、低粘度の光硬化樹脂を用いて高精度の反射防止構造を有する第一の樹脂層を形成することにより、優れた形状精度を有するとともに、かつナノレベルの反射防止構造が高精度に形成された複合型光学素子が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0018】
即ち、本発明の一実施態様による複合型光学素子は、ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されていることを特徴とする。
【0019】
上記の複合型光学素子を製造する本発明の一実施態様による製造方法は、前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成し、前記第一の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明の別の実施態様による複合型光学素子は、ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されており、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面に形成され、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第二の突起群と、前記第一の樹脂層の前記第二の樹脂層側の面に形成され、前記第二の突起群と相補的な形状を有する第三の突起群とにより、前記第二の樹脂層と前記第一の樹脂層との境界面に第二の反射防止構造が形成されていることを特徴とする。
【0021】
上記の複合型光学素子を製造する本発明の別の実施態様による製造方法は、前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第二の突起群が形成された前記第二の樹脂層の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成することを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施態様による成形用金型の製造方法は、基材と、前記基材の表面に設けられ、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な突起群により微細凹凸構造が形成された成形面を有するガラス状カーボン部とを有する成形用金型の製造方法であって、前記基材の表面にガラス状カーボン材を形成し、前記ガラス状カーボン材の外表面を前記成形面の形状に加工した後、ECR型のイオンビーム加工又はICP型又はRIE型のプラズマ加工により前記成形面に前記微細凹凸構造を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた形状精度を有し、かつナノレベルの反射防止構造が高精度に形成された複合型光学素子が得られる。またかかる複合型光学素子の製造に好適な成形用金型が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施態様の一実施例による複合型光学素子を示す図である。
【
図2】第一の樹脂層の屈折率N
1と第二の樹脂層の屈折率N
2の屈折率差N
1-N
2と波長400~700 nmの平均反射率との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の第一の実施態様の一実施例による複合型光学素子の製造方法を示す図である。
【
図4】成形用金型と、成形用金型を用いて第一の突起群を形成する工程を示す図である。
【
図5】本発明の第二の実施態様の一実施例による複合型光学素子を示す図である。
【
図6】本発明の第二の実施態様の一実施例による複合型光学素子の製造方法を示す図である。
【
図7】成形用金型と、成形用金型を用いて第二の突起群を形成する工程を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例による成形用金型の製造方法を示すグラフである。
【
図9】成形用金型の成形面の微細凹凸構造を示す電子顕微鏡写真である。
【
図10】成形用金型の成形面の分光反射率を示すグラフである。
【
図11】第一の樹脂層の外表面に、0°、5°、10°、15°、20°、25°及び30°で光を入射させたときの分光反射率を示すグラフである。
【
図12】第一の樹脂層の外表面に、0°、5°、10°、15°及び20°で光を入射させたときの分光反射率を示すグラフである。
【
図13】従来の複合化非球面レンズを示す図である。
【
図14】従来の多層膜コートの分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[1] 第一の実施態様
(1) 複合型光学素子
本発明の第一の実施態様による複合型光学素子は、ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されていることを特徴とする。
【0026】
図1は本発明の第一の実施態様の一実施例による複合型光学素子を示す。
図1に示す複合型光学素子1は、ガラス基材10の一方の面11に樹脂層20が設けられており、樹脂層20は、球面又は非球面の外表面31を有する第一の樹脂層30と、ガラス基材10と第一の樹脂層30との間に設けられた第二の樹脂層40とからなる。第一の樹脂層30の外表面31には、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群32により第一の反射防止構造50が形成されている。なお
図1(b) は
図1(a) の拡大図であり、説明のために、第一の反射防止構造50を備える第一の樹脂層30を拡大して描写した概略図である。
【0027】
ガラス基材10は、平板状でも良いし、レンズ状でも良く、光学部品に用いるガラス基材であれば適用可能である。またガラス基材10の少なくとも一方の面11が曲面を有していているのが好ましい。ガラス基材10の材料は、特に限定されないが、BK7、LASF01、LASF016、LaFK55、LAK14、SF5等の光学ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、白板ガラス等が挙げられる。
【0028】
複合型光学素子1は、ガラス基材10とその一方の面11に設けられた樹脂層20とにより構成されており、樹脂層20の外表面(第一の樹脂層30の外表面31)が複合型光学素子1の一面を形成している。第一の樹脂層30の外表面31は球面又は非球面であり、非球面であるのが好ましい。本発明の複合型光学素子は、非球面複合型レンズであるのが望ましい。
【0029】
ガラス基材10の樹脂層20側の表面11には、ガラス基材10と樹脂層20との屈折率差による光学的に無視できない有害な光の反射の発生を防止するために、反射防止膜を適宜形成しても良い。
【0030】
樹脂層20の厚さは、30μm~1000μmの範囲であるのが好ましい。樹脂層20の厚さがこの範囲であれば、高い形状精度で所望の形状の樹脂層20を形成することができる。樹脂層20の厚さは、100μm~500μmの範囲であるのがより好ましい。
【0031】
第二の樹脂層40の表面41は、第一の突起群32を除いた樹脂層20の外表面(第一の樹脂層30の外表面31)に近い形状を有するのが好ましい。すなわち、第二の樹脂層40は、樹脂層20に近い厚みを有しており、第一の突起群32を除いた樹脂層20と近い外観を有する。それにより、第一の樹脂層30の厚さを小さくすることができる。
【0032】
第一の樹脂層30は、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群32を外表面31に備える。第一の突起群32の突起の形状としては、針状のみならず、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、放物形状等が挙げられる。このような先端に向けて縮径する形状を有する微細突起群が形成された表面は、柱状体の突起が形成されている場合に比べて入射光が反射し難く、高い反射防止効果を奏する。
【0033】
第一の突起群32の形状及びピッチを制御することにより、極めて高い反射防止効果を発揮することができる。第一の突起群32の平均高さ(H) は200 nm~3000 nmであるのが好ましく、250 nm~1370 nmであるのがより好ましい。第一の突起群32の根元の直径、すなわち平均最大径(D) が50 nm~300 nmの範囲内であるのが好ましく、80 nm~220 nmの範囲内であるのがより好ましい。第一の突起群32のピッチ(P) は50 nm~300 nmの範囲内であるのが好ましく、120 nm~220 nmの範囲内であるのがより好ましい。特に、突起の高さが200 nm以上であり、かつ、140 nm以下のピッチで形成されていれば、無反射の構造とすることができる。
【0034】
第一の突起群32の先端部の角度(頂角)を2θ、根元部分の半径(D/2)をr、高さをHとすると、tanθ=r/Hより、θ=tan-1(r/H)となる。そして、無反射構造となるには、理論上、第一の突起群32のピッチ(P)<137 nm、高さ(H)>200 nmが条件となる。これより、2θ<37.8°の場合に無反射構造となる。従って、第一の突起群32の先端部の角度が上記の関係を満たすときに無反射又はそれに近い反射率を達成できると考えられる。ただし、先端部の角度が小さすぎる場合は、転写時に突起が折れやすく、また、径が均一な柱状に近づいて反射率が上昇してしまうものと考えられる。従って、第一の突起群32の先端部の角度は3°以上であるのが好ましく、10°以上であるのがより好ましく、15°以上であるのが特に好ましい。
【0035】
第一の樹脂層30の厚さは、第一の突起群32の平均高さ(第一の反射防止構造50の高さ)に10 nm~10000 nmを足し合わせた厚さであるのが好ましい。第一の突起群32の平均高さが上記の範囲内である場合、足し合わせた厚さは210 nm~13000 nm程度であり、そのように第一の樹脂層30の厚さを小さくすることにより、第二の樹脂層40の厚さを大きくし、第二の樹脂層40の表面41を、第一の突起群32を除いた樹脂層20の外表面(第一の樹脂層30の外表面31)に近い形状にすることができる。第一の樹脂層30の厚さは、第一の突起群32の平均高さに50 nm~100 nmを足し合わせた厚さであるのが好ましい。
【0036】
第一の樹脂層30の屈折率をN1とし、第二の樹脂層40の屈折率をN2として、下記式(1) の関係を満たすのが好ましい。
|N1-N2|≦0.40 ・・・(1)
N1とN2の屈折率差|N1-N2|が0.40超であると、第一の樹脂層30と第二の樹脂層40の境界面における反射が大きくなり、反射性能が悪化するおそれがある。
【0037】
例えば、第一の樹脂層30の屈折率N
1=1.50とし、第一の反射防止構造50の構造高さを350 nmとし、その下層部の厚さを80 nmとし、第二の樹脂層40の屈折率N
2を1.4~1.9と変化させたときの、大気から第一の樹脂層30の外表面31に0°(中央部)で光を入射させたときの分光反射率を測定し、第一の樹脂層30の屈折率N
1と第二の樹脂層40の屈折率N
2の屈折率差N
1-N
2と、波長400~700 nmの平均反射率との関係を
図2にプロットした。
図2に示すように、屈折率差|N
1-N
2|が0.40以内であると、表面反射率が1%以内に収まり、良好な反射性能が得られることが分かる。
【0038】
(2) 複合型光学素子の製造方法
上述の複合型光学素子を製造する本発明の第一の実施態様による方法は、前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成し、前記第一の樹脂層を成形するのに、前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の反転形状を有する微細凹凸構造が形成された成形面を有する成形用金型を用いることを特徴とする。
【0039】
図1の複合型光学素子1を製造する方法の一例を
図3を用いて以下説明する。ガラス基材10の表面11に高粘度のエネルギー硬化性樹脂Aを供給(滴下)する(工程1)。高粘度のエネルギー硬化性樹脂は収縮率が小さいため、高い形状精度を発揮し得る。エネルギー硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられ、特に紫外線硬化性樹脂が好ましい。高粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度は1000~5500 mPa・sであるのが好ましい。エネルギー硬化性樹脂の粘度がこの範囲であると、収縮率が十分に小さい上に、適度な成形性を備え、極めて高い形状精度を発揮し得る。高粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度は2000~4000 mPa・sであるのがより好ましい。高粘度のエネルギー硬化性樹脂としては、例えば、電気化学工業株式会社のハードロックOP-1840-05等が挙げられる。
【0040】
成形用金型を、エネルギー硬化性樹脂Aが供給されたガラス基材10の表面11に押圧する(工程2)。成形用金型の成形面は、第二の樹脂層40の表面41の反転形状を有する。成形用金型を押圧した状態で、紫外線等のエネルギーを照射し、エネルギー硬化性樹脂Aを硬化させる(工程3)。それにより、ガラス基材10の表面11に第二の樹脂層40が形成される。
【0041】
成形用金型を、第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離する(工程4)。成形用金型を剥離しやすいように、成形用金型の成形面に予め離型剤塗布などの離型処理を行っているのが望ましい。
【0042】
第二の樹脂層40の表面41に低粘度のエネルギー硬化性樹脂Bを供給(滴下)する(工程5)。低粘度のエネルギー硬化性樹脂は転写性に優れているため、第一の突起群32を高い精度で転写することができる。エネルギー硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられ、特に紫外線硬化性樹脂が好ましい。低粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度は5~80 mPa・sであるのが好ましい。エネルギー硬化性樹脂の粘度がこの範囲であると、転写性に優れている上に、十分な成形性を備え、十分な形状精度で第一の樹脂層30を形成しつつ、極めて高い精度での第一の突起群32の転写が可能になる。低粘度のエネルギー硬化性樹脂の粘度は9~60 mPa・sであるのがより好ましい。低粘度のエネルギー硬化性樹脂としては、例えば、東洋合成株式会社製のPAK-01及びPAK-02,マイクロレジストテクノロジー社製のmr-UVCur06等が挙げられる。
【0043】
成形用金型70を、エネルギー硬化性樹脂Bが供給された第二の樹脂層40の表面41に押圧する(工程6)。成形用金型70は、
図4に示すように、第一の突起群32が形成された第一の樹脂層30の外表面31の反転形状を有する微細凹凸構造72が形成された成形面71を有している。成形用金型70の微細凹凸構造72は、
図4に示すように、凹部が先鋭化しており、エネルギー硬化性樹脂Bが低粘度であるため、
図4(2)~(4) に示すように、微細凹凸構造72の狭い凹部に十分に浸透し、突起の先端が先鋭化した形状になる。
【0044】
成形用金型70を押圧した状態で、紫外線等のエネルギーを照射し、エネルギー硬化性樹脂Bを硬化させる(工程7)。それにより、第二の樹脂層40の表面41に第一の樹脂層30が形成される。エネルギー硬化性樹脂Bが微細凹凸構造72の狭い凹部に十分に浸透しているため、突起の先端が先鋭化した形状のまま硬化され、第一の樹脂層30の外表面31に突起の先端が先鋭化した第一の突起群32が形成される。
【0045】
成形用金型70を、第一の樹脂層30及び第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離する(工程8)。それにより、
図1の複合型光学素子1が得られる。
【0046】
[2] 第二の実施態様
(1) 複合型光学素子
本発明の第二の実施態様による複合型光学素子は、ガラス基材と、前記ガラス基材の少なくとも一面に設けられた樹脂層とを有する複合型光学素子であって、前記樹脂層は、球面又は非球面の外表面を有する第一の樹脂層と、前記ガラス基材と前記第一の樹脂層との間に設けられた第二の樹脂層とからなり、前記外表面に、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群により第一の反射防止構造が形成されており、前記第二の樹脂層の前記第一の樹脂層側の面に形成され、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第二の突起群と、前記第一の樹脂層の前記第二の樹脂層側の面に形成され、前記第二の突起群と相補的な形状を有する第三の突起群とにより、前記第二の樹脂層と前記第一の樹脂層との境界面に第二の反射防止構造が形成されていることを特徴とする。
【0047】
本実施態様による複合型光学素子は、第二の樹脂層と第一の樹脂層との境界面に第二の反射防止構造が形成されている点で第一の実施態様による複合型光学素子と異なる。
図5は第二の実施態様の一実施例による複合型光学素子を示す。
図5に示す複合型光学素子2は、ガラス基材10の一方の面11に樹脂層20が設けられており、樹脂層20は、球面又は非球面の外表面31を有する第一の樹脂層30と、ガラス基材10と第一の樹脂層30との間に設けられた第二の樹脂層40とからなる。第一の樹脂層30の外表面31には、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第一の突起群32により第一の反射防止構造50が形成されている。第二の樹脂層40の第一の樹脂層30側の面41に形成され、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な第二の突起群42と、第一の樹脂層30の第二の樹脂層40側の面33に形成され、第二の突起群42と相補的な形状を有する第三の突起群34とにより、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面に第二の反射防止構造60が形成されている。なお
図5(b) は
図5(a) の拡大図であり、説明のために、第一の反射防止構造50を備える第一の樹脂層30と第二の反射防止構造60を拡大して描写した概略図である。
【0048】
第二の樹脂層40の第二の突起群42と第一の樹脂層30の第三の突起群34とにより、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面に第二の反射防止構造60が形成されていることにより、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面に高い反射防止効果を付与し、境界面における光の反射を低減できる。
【0049】
第二の突起群42の平均高さ(第二の反射防止構造60の高さ)は、第一の突起群32の平均高さと同程度でも良いが、100 nm~1000 nmの範囲であるのが好ましい。また第二の突起群42の平均最大径及びピッチは、第一の突起群32の平均最大径及びピッチと同程度でも良い。
【0050】
第一の突起群32の先端が第二の突起群42の先端よりも先鋭化していても良い。すなわち、第二の突起群42の先端が第一の突起群32の先端がよりも丸みを帯びていても良い。第一の反射防止構造50を構成する第一の突起群32は、第一の樹脂層30の外表面31に設けられており、すなわち、第一の樹脂層30と大気(空気)との境界面に設けられている。樹脂層の屈折率は、一般に空気の屈折率n0=1.00との差が大きいため、第一の樹脂層30と大気(空気)との境界面における屈折率差が大きく、十分な反射低減効果が発揮するためには、第一の突起群32の先端が先鋭化していることが求められる。それに対し、第二の反射防止構造60を構成する第二の突起群42は、第二の樹脂層40の第一の樹脂層30と接する面41に設けられており、樹脂層間の屈折率差は、樹脂層と空気との間の屈折率差と比べて一般に小さいため、第一の突起群32ほど先端が先鋭化していなくても、十分な反射低減効果を発揮し得る。
【0051】
さらに、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面に第二の突起群42及び第三の突起群34を設けることにより、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との接着力を高める効果を発揮する。すなわち、樹脂層同士の境界面が鏡面よりもナノレベルの凹凸を有する構造のほうが接着面積が大きくなり、絶対的な接着力も大きくなるので、熱衝撃などに対して剥がれに非常に強い構造となる。
【0052】
本実施態様の第一の反射防止構造50の高さ、平均最大径及びピッチは、第一の実施態様のものと同じで良い。その他、第一の実施態様と共通する箇所については説明を省略する。
【0053】
本実施態様では、第二の反射防止構造60が形成されているので、第一の樹脂層30の屈折率N1と第二の樹脂層40の屈折率N2との屈折率差|N1-N2|がある程度大きくても、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面における反射を小さく抑えることができる。第一の樹脂層30の屈折率N1と第二の樹脂層40の屈折率N2との屈折率差|N1-N2|は、下記式(1) の関係を満たすのが特に好ましい。
|N1-N2|≦0.40 ・・・(1)
【0054】
(2) 複合型光学素子の製造方法
上述の複合型光学素子を製造する本発明の第二の実施態様による方法は、前記ガラス基材の表面に高粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第二の突起群が形成された前記第二の樹脂層の面の形状に成形した後、光硬化させて前記第二の樹脂層を形成し、前記第二の樹脂層の表面に低粘度のエネルギー硬化性樹脂を供給し、成形用金型を用いて前記第一の突起群が形成された前記第一の樹脂層の外表面の形状に成形した後、光硬化させて前記第一の樹脂層を形成することを特徴とする。
【0055】
図5の複合型光学素子2を製造する方法の一例を
図6を用いて以下説明する。ガラス基材10の表面11に高粘度のエネルギー硬化性樹脂Aを供給(滴下)する(工程1)。高粘度のエネルギー硬化性樹脂Aとしては、第一の実施態様と同じものを用いることができる。
【0056】
成形用金型80を、エネルギー硬化性樹脂Aが供給されたガラス基材10の表面11に押圧する(工程2)。成形用金型80は、
図7に示すように、第二の突起群42が形成された第二の樹脂層40の表面41の反転形状を有する微細凹凸構造82が形成された成形面81を有する。成形用金型80の微細凹凸構造82として、
図7に示すように、凹部が先鋭化したものを用いた場合でも、エネルギー硬化性樹脂Aが高粘度であるため、
図7(2)~(4) に示すように、微細凹凸構造82の狭い凹部に十分に浸透することが出来ず、突起の先端が丸まった様な高さのない形状になる。
【0057】
成形用金型80を押圧した状態で、紫外線等のエネルギーを照射し、エネルギー硬化性樹脂Aを硬化させる(工程3)。それにより、ガラス基材10の表面11に第二の樹脂層40が形成される。エネルギー硬化性樹脂Aが微細凹凸構造82の狭い凹部に十分に浸透していないため、突起の先端が丸まった様な高さのない形状のまま硬化され、第二の樹脂層40の表面41に突起の先端が丸まった第二の突起群42が形成される。
【0058】
成形用金型80を、第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離する(工程4)。成形用金型80を剥離しやすいように、成形用金型80の成形面81に予め離型剤塗布などの離型処理を行っているのが望ましい。
【0059】
第二の樹脂層40の表面41に低粘度のエネルギー硬化性樹脂Bを供給(滴下)する(工程5)。低粘度のエネルギー硬化性樹脂Bとしては、第一の実施態様と同じものを用いることができる。
【0060】
成形用金型70を、エネルギー硬化性樹脂Bが供給された第二の樹脂層40の表面41に押圧する(工程6)。成形用金型70は、
図4に示すように、第一の突起群32が形成された第一の樹脂層30の外表面31の反転形状を有する微細凹凸構造72が形成された成形面71を有しており、第一の実施態様で使用したものと同じものを用いることができる。成形用金型70の微細凹凸構造72は、
図4に示すように、凹部が先鋭化しており、エネルギー硬化性樹脂Bが低粘度であるため、
図4(2)~(4) に示すように、微細凹凸構造72の狭い凹部に十分に浸透し、突起の先端が先鋭化した形状になる。
【0061】
成形用金型70を押圧した状態で、紫外線等のエネルギーを照射し、エネルギー硬化性樹脂Bを硬化させる(工程7)。それにより、第二の樹脂層40の表面41に第一の樹脂層30が形成される。エネルギー硬化性樹脂Bが微細凹凸構造72の狭い凹部に十分に浸透しているため、突起の先端が先鋭化した形状のまま硬化され、第一の樹脂層30の外表面31に突起の先端が先鋭化した第一の突起群32が形成される。
【0062】
成形用金型70を、第一の樹脂層30及び第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離する(工程8)。それにより、
図5の複合型光学素子2が得られる。
【0063】
本実施態様では、第二の樹脂層40を形成するのに成形用金型80を使用し、第一の樹脂層30を形成するのに成形用金型70を使用し、それぞれ別々の成形用金型を使用しているが、本発明はこれに限らず、第一の樹脂層30及び第二の樹脂層40を両方とも成形用金型70を用いても成形しても良い。それにより、ガラス基材10を成形機から外すことなく、連続で第二の樹脂層40及び第一の樹脂層30を形成することが可能となる。
【0064】
[3] 成形用金型の製造方法
上記の複合型光学素子の製造に好適な成形用金型の本発明の一実施態様による製造方法は、基材と、前記基材の表面に設けられ、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な突起群により微細凹凸構造が形成された成形面を有するガラス状カーボン部とを有する成形用金型の製造方法であって、前記基材の表面にガラス状カーボン材を形成し、前記ガラス状カーボン材の外表面を前記成形面の形状に加工した後、ECR型のイオンビーム加工又はICP型又はRIE型のプラズマ加工により前記成形面に前記微細凹凸構造を形成することを特徴とする。
【0065】
成形用金型の製造方法の一例として、
図4に示す成形用金型70の製造方法を
図8に示す。成形用金型70は、基材73と、基材73の表面74に設けられ、その根元から先端に向けて縮径した針状又は錐状の形状を有する微細な突起群により微細凹凸構造72が形成された成形面を有するガラス状カーボン部75とを有する。
【0066】
基材73の表面74にガラス状カーボン材Cを形成する(工程1)。ガラス状カーボン材Cは、ガラス状カーボン部75に成形面71が形成し得る程度の厚さを有するのが望ましい。ガラス状カーボン材Cは、ガラス状炭素(グラッシーカーボン)からなり、接着剤等により基材73の表面74に強固に接着する。
【0067】
ガラス状カーボン材Cを、その表面76が成形面71の微細凹凸構造72が形成されていない状態の形状になるように加工する(工程2)。この加工は、研削加工により行うのが望ましい。加工後のガラス状カーボン材Cの表面76に、さらに仕上げ研磨を行っても良い。
【0068】
ガラス状カーボン材Cの表面76に、ECR加工を施し、微細凹凸構造72を形成する(工程3)。ECR加工とは、ECR型のイオンビーム加工装置を用いて、基材に対して酸素を含むガスを用いてイオンビーム加工を施すことにより該基材の表面に、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する前記ガラス状炭素の微細な突起群からなる微細凹凸構造を形成する加工である(特許4550089号公報参照)。それにより、金属ナノ粒子をマスクとして用いてドライエッチングする加工方法と比べて、マスクもかけずに全面を一気に短時間で簡便に加工し、またその結果形状も崩さず均一な微細凹凸構造を形成することができる。かかるECR加工により、ムラのない均一な微細凹凸構造72を備えた成形用金型70が得られる。
【0069】
本実施例では、ECR型のイオンビーム加工装置を用いて、ECR加工により基材の表面に微細凹凸構造を形成しているが、本発明はこれに限らず、ICP型又はRIE型のプラズマ加工により基材の表面に微細凹凸構造を形成できる。
【0070】
得られた成形用金型70の成形面71に離型剤塗布などの離型処理を行っても良い(工程4)。それにより、成形する樹脂層の反射防止構造を壊すことなく、成形用金型70からの剥離が可能になる。
【実施例0071】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
実施例1
図4に示す成形用金型70を
図8に示す工程で製造した。すなわち、窒化ケイ素の焼結体からなる基材73の表面74に東海カーボン株式会社製のガラス状カーボン材Cを形成し、研削加工により成形面71の微細凹凸構造72が形成されていない状態の形状に加工し、仕上げ研磨を行った。加工後のガラス状カーボン材Cを備えた基材73を、ECR型のイオンビーム加工装置(株式会社エリオニクス製、商品名:EIS-200ER)のホルダにセットした。ビーム引き出し電極とガラス状カーボン材Cの表面76との距離は17 cmであり、以下の条件で表面加工を行い、加工後のガラス状カーボン材Cの表面76に微細凹凸構造72を形成した。
加速電圧:1000 V
真空度: 1.3×10
-2Pa
ビーム径:20 mm
反応ガス:酸素
ガス流量:2.0 SCCM
加工時間:10分間
【0073】
得られた成形用金型70の成形面71の微細凹凸構造72の電子顕微鏡写真を
図9に示す。微細凹凸構造72の平均高さは620 nmであり、孔径は30 nmであり、ピッチは70 nmであった。
図9に示すように、形状の崩れやムラのない均一な微細凹凸構造72が得られた。
【0074】
成形用金型70の成形面71の分光反射率を紫外可視近赤外分光光度計(型番:U-4000、(株)日立製作所製)を使用して、300~1000 nmの波長域について入射角0°で測定した。得られた結果を
図10に示す。
図10に示すように、可視光域では0.1%と成形用金型としては十分に非常に低い反射率が得られた。
【0075】
実施例2
得られた成形用金型70を用いて、
図1に示す複合型光学素子1を
図3に示す工程で製造した。すなわち、S-BSL7(株式会社オハラ製、nd=1.51633)からなるガラス基材10(レンズ)の表面11に、高粘度のエネルギー硬化性樹脂Aとして脱泡処理を行ったモノマーを必要量滴下し、第二の樹脂層40の表面41の反転形状を有する成形面を有する成形用金型を、樹脂Aが供給されたガラス基材10の表面11に押圧した。成形用金型を押圧した状態で、紫外線を照射し、樹脂Aを硬化させ、ガラス基材10の表面11に第二の樹脂層40を形成した。成形用金型を、第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離した。さらに、第二の樹脂層40の表面41に低粘度のエネルギー硬化性樹脂Bとして東洋合成株式会社製のPAK-01を滴下した後、成形用金型70をPAK-01が供給された第二の樹脂層40の表面41に押圧し、紫外線を照射してPAK-01を硬化させ、第二の樹脂層40の表面41に第一の樹脂層30を形成した。成形用金型70を第一の樹脂層30及び第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離することにより、
図1の複合型光学素子1が得られた。
【0076】
大気から第一の樹脂層30の外表面31に、0°(中央部)、5°、10°、15°、20°、25°及び30°で光を入射させたときの分光反射率はレンズ反射率測定機(型番:USPM-RU、オリンパス株式会社製)を用いて測定した。得られた結果を
図11に示す。
図11に示すように、30°の入射光でも0°と同等の優れた分光反射率が得られていることが分かった。従って、本発明のような反射防止構造を備える複合化非球面レンズを交換レンズに用いることにより、今まで除去しきれなかった樹脂面の斜入射反射によるゴーストを除去することが可能となり、また生産においても樹脂成型後の蒸着コート工程も省略可能になり、生産コストを抑えることも出来る。
【0077】
実施例3
実施例1と同様の方法により成形用金型80を製造し、成形用金型70及び80を用いて、
図5に示す複合型光学素子2を
図6に示す工程で製造した。すなわち、S-BSL7(株式会社オハラ製、nd=1.51633)からなるガラス基材10(レンズ)の表面11に、高粘度のエネルギー硬化性樹脂Aとして脱泡処理を行ったモノマーを必要量滴下し、成形用金型80を樹脂Aが供給されたガラス基材10の表面11に押圧した。成形用金型を押圧した状態で、紫外線を照射し、樹脂Aを硬化させ、ガラス基材10の表面11に第二の樹脂層40を形成した。成形用金型80を、第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離した。さらに、第二の樹脂層40の表面41に低粘度のエネルギー硬化性樹脂Bとして東洋合成株式会社製のPAK-01を滴下した後、成形用金型70をPAK-01が供給された第二の樹脂層40の表面41に押圧し、紫外線を照射してPAK-01を硬化させ、第二の樹脂層40の表面41に第一の樹脂層30を形成した。成形用金型70を第一の樹脂層30及び第二の樹脂層40が形成されたガラス基材10から剥離することにより、
図5の複合型光学素子2が得られた。
【0078】
実施例2と同様の方法で、大気から第一の樹脂層30の外表面31に、0°(中央部)、5°、10°、15°及び20°で光を入射させたときの複合型光学素子2の分光反射率を測定した。得られた結果を
図12に示す。
図12に示すように、20°の入射光でも0°と同等の優れた分光反射率が得られた。加えて、実施例2では存在した分光反射率曲線に乗っている細かいリップルが無いことが分かる。このようなリップルは第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との間に僅かに異なる反射率によって発生した現象であり、性能上問題となる場合も有り得る。本実施例では、第二の樹脂層40と第一の樹脂層30との境界面に第二の反射防止構造60が形成されているため、このようなリップルが消失しているものと考えられる。