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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139709
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】高圧ガス用シール部材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230927BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16J15/10 Y
C09K3/10 G
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045387
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌克
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
【テーマコード(参考)】
3J040
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3J040FA06
3J040FA20
3J040HA07
3J040HA09
3J040HA15
4H017AA03
4H017AB15
4H017AC16
4H017AD03
4H017AE05
4J002CP042
4J002CP121
4J002DJ016
4J002EE047
4J002FD016
4J002FD207
4J002GJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成型物に変形跡が残りにくい高圧ガス用シール部材の提供。
【解決手段】(A)~(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gである熱硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物。(A)重合度が1,000~10,000であって、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部。(B)BET法で測定した比表面積が100~400m2/gである補強性シリカ:40~55質量部。(C)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基1モルに対して(C)成分中のヒドロシリル基が0.5~10モルとなる量。(D)白金族金属触媒:(A)成分に対し、白金族金属質量に換算して0.5~1,000ppm。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合度が1,000~10,000であって、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)BET法で測定した比表面積が100~400m2/gである補強性シリカ:40~55質量部
(C)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基1モルに対して(C)成分中のヒドロシリル基が0.5~10モルとなる量
(D)白金族金属触媒:(A)成分に対し、白金族金属質量に換算して0.5~1,000ppm
上記(A)~(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gである熱硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる高圧ガス用シール部材。
【請求項2】
前記高圧ガスが1MPa以上の水素ガス又はヘリウムガスである請求項1に記載の高圧ガス用シール部材。
【請求項3】
前記高圧ガス用シール部材が、Oリング、パッキン又はガスケットである請求項1又は2に記載の高圧ガス用シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス用シール部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が排出する二酸化炭素などの温室効果ガス削減のため、世界中の自動車メーカーが電気自動車や燃料電池車への移行を積極的に進めている。燃料電池車では水素と酸素を反応させて発電するシステムを用いるが、該システムでは高圧の水素ガスを安全、安定にタンク内に貯蔵することが求められる。
【0003】
この様な高圧水素ガスをシールする材料として、各種ゴム材料の検討が進められており、例えばシリコーンゴムではメチルフェニルシロキサン共重合単位やメチルフルオロアルキルシロキサン単位の導入により、低温環境への適応を図るとともに耐ブリスター性をも向上させている(特許文献1、特許文献2)。また、低いガラス転移温度を有するポリブタジエン及び/又はポリスチレンブタジエンゴムを用いることでも耐低温性と耐ブリスター性が得られている(特許文献3)。
【0004】
特許文献1~3に開示されている様に耐低温性、耐ブリスター性に関する検討は種々行われてきた。しかしながら、シール部材の変形抑制に関する検討はほとんど見られない。高圧ガス用シール部材としては、一般的に硬さ(デュロメータA)60~90の高硬度ゴムが使用されるが、この様な高硬度ゴムでは装着前又は装着時に、部分的又は局所的に強い圧力がかかるとその部分が凹み、さらにその凹みが戻りにくいため、高圧ガスの漏洩の原因となるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/145313号
【特許文献2】国際公開第2008/001625号
【特許文献3】特開2018-172538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成型物に変形跡が残りにくい高圧ガス用シール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、下記組成物の硬化物が、著しく変形が抑制された高圧ガス用シール部材であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明は下記高圧ガスシール部材を提供する。
【0009】
<1>
(A)重合度が1,000~10,000であって、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)BET法で測定した比表面積が100~400m2/gである補強性シリカ:40~55質量部
(C)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基1モルに対して(C)成分中のヒドロシリル基が0.5~10モルとなる量
(D)白金族金属触媒:(A)成分に対し、白金族金属質量に換算して0.5~1,000ppm
上記(A)~(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gである熱硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる高圧ガス用シール部材。

<2>
前記高圧ガスが1MPa以上の水素ガス又はヘリウムガスである<1>に記載の高圧ガス用シール部材。

<3>
前記高圧ガス用シール部材が、Oリング、パッキン又はガスケットである<1>又は<2>に記載の高圧ガス用シール部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高圧ガス用シール部材を用いると、成型時の部材の変形が著しく抑制され、高圧ガスの漏洩やそれに伴う火災等の事故防止に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0012】
本発明の高圧ガス用シール部材は、水素ガス等の高圧ガスをタンク内に安全、安定に貯蔵するのにシールするために用いられるものであり、硬さがJIS K 6253-3:2012にあるタイプAデュロメータタイプA試験において65~85であることが求められる。硬さが65よりも低いと高圧ガスに対するシール性が不十分であり、また85よりも大きいと、ゴムの柔軟性が不十分となりシール性が低下するおそれがある。
【0013】
さらに本発明の高圧ガスシール部材は、硬さ測定後5分後のタイプAデュロメータタイプ押針痕の深さが0~20μmであるシリコーンゴム硬化物であることが好ましく、1~19μmであるシリコーンゴム硬化物であることがより好ましい。外圧による変形量を、安定して正確に評価する指標として、タイプAデュロメータの押針痕をレーザー顕微鏡で測定する方法を採用した。押針痕の深さが20μmより深くなるシリコーンゴム硬化物では凹みが残りやすく、高圧ガスの漏洩の可能性が高くなる。
【0014】
上記高硬度と低変形を両立するようなシリコーンゴム組成物の硬化物はこれまでになかった。そこで本発明者らは、一般的なシリコーンゴム組成物よりもシリカ添加量を大幅に減量し、その分オルガノポリシロキサン中のアルケニル基量を増加させることで架橋密度を向上させ、高硬度と低変形を両立できることを見出した。
より具体的には熱硬化性シリコーンゴム組成物中のアルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gとなる様に調整する。
【0015】
すなわち、本発明に用いる熱硬化性シリコーンゴム組成物は、下記(A)~(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gであるものである。
(A)重合度が1,000~10,000であって、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)BET法で測定した比表面積が100~400m2/gである補強性シリカ:40~55質量部
(C)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基1モルに対して(E)成分中のヒドロシリル基が0.5~10モルとなる量
(D)白金族金属触媒:(A)成分に対し、白金族金属質量に換算して0.5~1,000ppm

以下に、上記各成分について詳述する。
【0016】
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A)成分は、重合度(又は分子中のケイ素原子数)が1,000~10,000であって、1分子中にケイ素原子に結合した2個以上のアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、更に好ましくは炭素数2~6であり、特に好ましくは炭素数2である)を有するオルガノポリシロキサンである。この(A)成分は、この組成物の主剤(ベースポリマー)として用いるものである。また、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、好適には、室温(25℃)で生ゴム状(即ち、高粘度で自己流動性のない非液状)の成分である。このアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを主剤として配合する熱硬化性シリコーンゴム組成物は、通常、ミラブル型の(即ち、生ゴム状であって、ロールミル等の混練機により、せん断応力下に均一に混練することが可能な)組成物となるものである。
【0017】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1分子中に2個以上(通常、2~50個、特には2~20個)のアルケニル基を有する必要がある。具体的には、1.0×10-6~1.0×10-2mol/g、特に2.0×10-6~5.0×10-3mol/gのアルケニル基量を有することが好ましい。
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基の例としては、炭素数2~8のものが好ましく、より好ましくは炭素数2~6のものである。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられ、中でもビニル基、アリル基が好ましく、ビニル基が特に好ましい。
なお、このアルケニル基は、分子鎖末端でケイ素原子に結合していても、分子鎖の途中(非末端)のケイ素原子に結合していても、その両方であってもよいが、少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有していることが好ましい。具体的には分子鎖末端がジメチルビニルシリル基、メチルジビニルシリル基、トリビニルシリル基等で封鎖されたものが好ましい。
【0018】
また、上記アルケニル基以外の置換基としては、炭素数1~12、好ましくは1~8の1価炭化水素基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基等のフルオロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。メチル基は全置換基中の80モル%以上、特に90モル%以上であることが好ましく、更にはアルケニル基を除く全ての置換基がメチル基であることが好ましい。
【0019】
上記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造は、基本的には、主鎖がジオルガノシロキサン単位(R2SiO2/2)の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R3SiO1/2)で封鎖された直鎖状構造であることが好ましく、ゴム弾性を損なわない範囲において主鎖中に少量の分岐単位(RSiO3/2)を含有した分岐状構造であってもよい。Rはアルケニル基、又は、非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示す。
【0020】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの重合度は1,000~10,000であり、好ましくは2,000~8,000である。重合度が1,000未満であると十分なゴム強度が得られない場合がある。
なお、本明細書中で重合度とは下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量から重量平均重合度として求めた値である。
【0021】
[GPC測定条件]
展開溶媒:トルエン
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperH5000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.5質量%のトルエン溶液)
【0022】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとして、さらに具体的にはビニル基含有ジメチルポリシロキサンを挙げることができる。また、下式(1)~(3)で表される構造において、R1基/R2基として、メチル基/フェニル基、フェニル基/フェニル基、メチル基/3,3,3-トリフルオロプロピル基であるものは特に低温特性に優れ、高圧ガス用シール部材として好適である。尚、下記式中のa~hは両末端のトリメチルシリル基又はビニルジメチルシリル基2モルに対する各シリル基の平均モル数を示しており、上記アルケニル基量(ビニル基量)の範囲を満たす値である。なお、このアルケニル基量は、29Si-NMR測定により算出することができる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0023】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても、分子構造や重合度の異なる2種以上を併用してもよい。
【0024】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、公知の方法、例えばオルガノハロゲノシランの1種又は2種以上を(共)加水分解し、縮合することにより、または環状ポリシロキサンをアルカリ性又は酸性触媒を用いて開環重合することによって得ることができる。
【0025】
本発明の組成物中における(A)成分の含有量は、58~72質量%が好ましく、60~70質量%がより好ましい。
【0026】
(B)補強性シリカ
(B)成分は、BET法で測定した比表面積が100~400m2/gの補強性シリカであり、通常シリコーンゴム組成物に使用される補強性シリカ微粉末を用いることができる。(B)成分の補強性シリカとしては、例えば、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)、焼成シリカ等の乾式シリカ、沈降性シリカ等の湿式シリカ等が挙げられ、中でも特に補強性に優れる煙霧質シリカが好ましい。
BET法で測定した比表面積は100~400m2/gであり、150~350m2/gであることが好ましい。比表面積が100m2/g未満では本発明の機械的強度の付与が不十分となる場合がある。また、400m2/gよりも大きいと、著しく可塑度が上昇し、本発明の工業的な生産が難しくなる場合がある。
【0027】
この補強性シリカは、必要に応じ、表面を、ジメチルジメトキシシラン、クロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等の公知の表面処理剤で疎水化処理してもよい。
【0028】
熱硬化性シリコーンゴム組成物への(B)成分の補強性シリカの添加量は、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して、40~55質量部である。この補強性シリカの添加量は本発明の重要な点であり、同硬度の一般シリコーンゴム組成物と比較してその量を減らし、その分(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基量や(C)成分の1分子中におけるケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)を増やすことで、組成物の硬化物の硬さを調整することで、成型時の変形を低減させている。補強性シリカの添加量は、硬化物の所望の硬さに応じて適宜調整が必要であるが、40質量部未満だと十分な硬さが得にくくなり、55質量部を超えると変形が戻りにくくなる場合がある。
【0029】
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C)成分は、1分子中にケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するものであり、常温(25℃)で液状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましい。
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、ヒドロシリル基以外の置換基としては、独立して炭素数1~10の1価炭化水素基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基を挙げることができる。
【0030】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ヒドロシリル基を1分子中に少なくとも2個(2~300個)、好ましくは3個以上(例えば3~200個)、より好ましくは4個以上(例えば4~100個)有するが、これらは分子鎖末端にあっても、分子鎖の途中(非末端)にあっても、その両方にあってもよい。
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が通常2~300個、好ましくは3~200個、より好ましくは4~100個のものであればよく、また25℃における粘度が0.5~1,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1~500mPa・s、特に5~300mPa・sであることが好ましい。
なお、本明細書中において、この(C)成分の粘度はJIS K 7117-1:1999に記載の回転粘度計により25℃で測定した値を指す。
【0031】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。中でも、主鎖がジオルガノシロキサン単位(R2SiO2/2)及びオルガノハイドロジェンシロキサン単位(HRSiO2/2)の繰返し構造であって、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R3SiO1/2)で封鎖された直鎖状構造であることが好ましい(Rは非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示す)。さらに具体的には下式(4)~(6)で表される構造を有するものが、調達性や生産コストを考慮すると特に好ましい。下式(4)~(6)中のi~mは両末端のトリメチルシリル基又はハイドロジェンジメチルシリル基2モルに対する各シリル基の平均モル数を示しており、上記ヒドロシリル基の数の範囲を満たす値である。なお、このヒドロシリル基量は、29Si-NMR測定により算出することができる。
【化4】
【化5】
【化6】
【0032】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分中のアルケニル基1モルに対して(C)成分中のヒドロシリル基が0.5~10モルとなる量、好ましくは0.5~5モルとなる量である。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量が少なすぎると、硬化物において、架橋が不十分で強度、伸び等のゴム物性に劣るおそれがあり、多すぎると架橋点が多すぎて(架橋密度が高すぎて)、同様にゴム物性に劣るおそれがある。
【0033】
(D)白金族金属触媒
(D)成分は白金族金属触媒であり、(D)成分としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等が挙げられる。中でも、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等が好ましい。
【0034】
(D)成分の配合量は、(A)成分に対し、白金族金属質量に換算して0.5~1,000ppmであり、1~500ppmが好ましい。
【0035】
本発明の組成物には、その他の成分として、必要に応じて沈降シリカ、シリコーンレジン等の補強剤、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤や、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することも可能である。
【0036】
製造方法
本発明の高圧ガス用シール部材は、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100gである熱硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物である。
該シリコーンゴム組成物の製造方法は、特に限定されないが、上述した成分の所定量を2本ロール(ロールミル)、ニーダー、バンバリーミキサー等公知の混練機で混練りする方法が挙げられる。また、必要により熱処理(加熱下での混練り)してもよい。具体的には(A)成分、(B)成分、表面処理剤を混練し、必要に応じて熱処理してから室温において(C)成分、(D)成分を添加する方法が好ましい。熱処理する場合、熱処理温度、時間は特に限定されないが、100~250℃、特に140~180℃で30分~5時間程度行うことが好ましい。
上記熱硬化性シリコーンゴム組成物の硬化条件は、100~180℃で10秒~30分間が好ましく、120~160℃で20秒~20分間がより好ましい。さらに硬化物の圧縮永久歪向上を目的にポストキュア(2次硬化)を実施することが好ましい。ポストキュアの条件は、120~250℃で30分~100時間が好ましく、150~220℃で1~8時間がより好ましい。
上記熱硬化性シリコーンゴム組成物の成形方法は、注入成形、圧縮成形、トランスファー成形等いずれの方法を採用してもよい。
【0037】
本発明の高圧ガス用シール部材の硬化前の組成物は、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含み、アルケニル基含有量が0.002~0.02mol/100g、好ましくは0.002~0.12mol/100gのものである。また、その硬化物は、JIS K6253-3:2012に記載のタイプAデュロメータによる25℃での硬さが65~85、好ましくは65~80である。硬さが65よりも低いと高圧ガスに対するシール性が不十分であり、また85よりも大きいと、ゴムの柔軟性が不十分となりシール性が低下するおそれがある。
【0038】
高圧ガス用シール部材に求められる重要な特性として、硬さの他に圧痕や爪痕といった変形からの回復特性を挙げることができる。その評価指標として、本発明者らはタイプAデュロメータによる硬さ測定から5分後の硬度計押針痕の深さをレーザー顕微鏡で測定する手法を見出した。本手法による押針痕の深さは0~20μmであることが好ましい。20μmを超えると装着前又は装着時に、部分的又は局所的に強い圧力がかかるとその部分が凹み、そこから高圧ガスが漏洩するおそれがある。
【0039】
本発明の高圧ガス用シール部材は、1MPa以上の水素ガス又はヘリウムガスに好適に使用できるが、特に最高充填圧力が50MPaを超える様な車載の燃料電池用水素ガスのシールに好適である。
【0040】
本発明の高圧ガス用シール部材の形状としては、Oリング、パッキン又はガスケットを挙げることができ、特に車載の水素ガスタンク、水素供給ホースのノズル部やカプラ部のシールに好適に用いることができる。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
実施例で使用した各成分の内容を以下に列挙する。
【0043】
[オルガノポリシロキサン(E)]
ジメチルシロキサン単位99.975mol%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025mol%からなり、重量平均重合度が約6,000、ビニル基量が3.4×10-6mol/gであるオルガノポリシロキサン。1分子中、両末端に1つずつ、計2個のビニル基が含まれる。

[オルガノポリシロキサン(F)]
ジメチルシロキサン単位99.85mol%、メチルビニルシロキサン単位0.125mol%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025mol%からなり、重量平均重合度が約6,000、ビニル基量が2.0×10-5mol/gであるオルガノポリシロキサン。1分子中、末端に2個、側鎖に平均10個のビニル基が含まれる。

[オルガノポリシロキサン(G)]
ジメチルシロキサン単位99.5mol%、メチルビニルシロキサン単位0.475mol%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025mol%からなり、重量平均重合度が約6,000、ビニル基量が6.7×10-5mol/gであるオルガノポリシロキサン。1分子中、末端に2個、側鎖に平均38個のビニル基が含まれる。

[オルガノポリシロキサン(H)]
ジメチルシロキサン単位90mol%、メチルビニルシロキサン単位9.975mol%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025mol%からなり、重量平均重合度が約6,000、ビニル基量が1.3×10-3mol/gであるオルガノポリシロキサン。1分子中、末端に2個、側鎖に平均798個のビニル基が含まれる。

[オルガノポリシロキサン(I)]
ジメチルシロキサン単位96.85mol%、ジフェニルシロキサンン単位3.00mol%、メチルビニルシロキサン単位0.125mol%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025mol%からなり、重量平均重合度が約6,000、ビニル基量が2.0×10-5mol/gであるオルガノポリシロキサン。1分子中、末端に2個、側鎖に平均10個のビニル基が含まれる。

[シリカ(J)]
BET法による比表面積が200m2/gであるヒュームドシリカ(アエロジル200、日本アエロジル株式会社製)。

[メチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン(K)]
両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され側鎖にヒドロシリル基を平均20個有するメチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン。重量平均重合度40、粘度18mPa・s、ヒドロシリル基量0.0074mol/g。
【0044】
[シリコーンゴムコンパウンド]
表1にある様に、オルガノポリシロキサン合計100質量部にシリカ(J)を所定質量部添加し、さらに表面処理剤であるジメチルジメトキシシラン4質量部、塩酸(pH=3)1質量部をニーダーにて混練し、180℃で1時間熱処理して、シリコーンゴムコンパウンドを得た。
【0045】
[シリコーンゴム組成物]
表1にある様に、シリコーンゴムコンパウンド100質量部、白金族金属触媒(Pt濃度1質量%)0.05質量部、反応制御剤であるエチニルシクロヘキサノール0.025質量部、メチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン(K)所定質量部を2本ロールミルにて配合した。
【0046】
[硬化物の作製]
シリコーンゴム組成物をプレス成形(120℃×10分間)し、厚さ6.0~6.2mmとなるようにシリコーンゴムシートを成形し、さらにオーブン内で200℃で4時間のポストキュアを実施し、シリコーンゴム組成物の硬化物を得た。
【0047】
[密度の測定]
JIS K 6268:1998に基づき、株式会社東洋精機製作所製自動比重計DSG-1を用いてゴム硬化物の密度を測定した。
【0048】
[硬さの測定]
JIS K 6253-3:2012に基づき、高分子計器株式会社製自動ゴム硬度計ASKER P1-A型を用いて25℃でゴム硬化物のデュロメータ硬さを測定した。
【0049】
[押針痕の深さの測定]
上記硬さ測定時の押針痕について、オリンパス株式会社製3D測定レーザー顕微鏡LEXT OLS5000を用いて深さを硬さ測定から5分後に測定した。押針痕の中央部を基準点とし、そこから左に600μmの点との高低差、右に600μmの点との高低差をそれぞれ求め、その平均値を算出した。この操作を押針痕3点について行い、その中央値を採用した。
【0050】
測定結果を表1に示す。
【表1】