IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2023-139712樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器
<>
  • 特開-樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器 図1
  • 特開-樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器 図2
  • 特開-樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器 図3
  • 特開-樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139712
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230927BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/06
C08L55/02
C08K5/521
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045392
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】田代 祥香
(72)【発明者】
【氏名】関口 良隆
(72)【発明者】
【氏名】小池 菜月
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC032
4J002BD154
4J002BN153
4J002CG011
4J002EW046
4J002EW157
4J002FD022
4J002FD023
4J002FD134
4J002FD136
4J002FD137
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】難燃性及び耐久性の高い樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、難燃剤、及び、ドリップ防止剤を含有し、以下の構成A~構成Dを備えることを特徴とする樹脂組成物。構成A:PC樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上90質量部以下である、構成B:PS樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し10質量部以上20質量部以下でありABS樹脂の含有量以上である、構成C:難燃剤はリン系化合物からなる、構成D:前記難燃剤のリン元素に換算した配合量X[質量部]及びドリップ防止剤の配合量Y[質量部]は樹脂組成物全体を100質量部としたとき、下記の関係式(1)乃至(3)を満たす。
式(1)[Y>X-1.00]、式(2)[Y<X-0.85]、式(3)[1.30≦X≦1.45]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、難燃剤、及び、ドリップ防止剤を含有し、以下の構成A~構成Dを備えることを特徴とする樹脂組成物。
構成A:PC樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上90質量部以下である。
構成B:PS樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し10質量部以上20質量部以下であり、ABS樹脂の含有量以上である。
構成C:難燃剤はリン系化合物からなる。
構成D:前記難燃剤のリン元素に換算した配合量X[質量部]及びドリップ防止剤の配合量Y[質量部]は樹脂組成物全体を100質量部としたとき、下記の関係式(1)乃至(3)を満たす。
Y > X -1.00 ・・・(1)
Y < X -0.85 ・・・(2)
1.30 ≦ X ≦ 1.45 ・・・(3)
【請求項2】
前記ドリップ防止剤は、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)からなるドリップ防止剤である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ドリップ防止剤は、樹脂組成物中においてネットワーク構造を形成している、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃剤として、縮合リン酸エステルとフォスファゼンとを併用する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記難燃剤は、樹脂組成物を100質量部としたとき、樹脂組成物中における前記縮合リン酸エステルのリン元素に換算した配合量X1[質量部]と前記フォスファゼンのリン元素に換算した配合量X2[質量部]とが、下記関係式(4)及び(5)を満たす、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
X2 > -X1+1.3(0.91≦ X1 ≦ 1.23)・・・(4)
X2 < -X1+1.5(1.19≦ X1 ≦ 1.38)・・・(5)
【請求項6】
前記樹脂組成物を空気雰囲気中60℃85%の条件下で500時間放置したときの前記樹脂組成物の重量平均分子量Mwの減少率が20%以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物を空気雰囲気中60℃85%の条件下で250時間放置したときの前記樹脂組成物の重量平均分子量Mwの減少率が8%以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品。
【請求項10】
請求項9に記載の電子部品を有することを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、電子部品、及び、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に有機物である高分子は火災時に燃焼するので、難燃剤を添加した難燃性樹脂が、自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の加工分野における部品製造用材料等に幅広く使用されている。このような樹脂材料については、難燃性だけでなく機械的強度も良好である事が求められている。これを実現するためには、良好な外観を射出成形で容易に得ることができるために市場で普及している、PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)、ABS樹脂(アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、PS樹脂(ポリスチレン樹脂)、及び、難燃剤を配合した樹脂が既に知られている。
以下では、「PC樹脂」を「PC」、「ABS樹脂」を「ABS」、「PS樹脂」を「PS」ともいう。
【0003】
特許文献1には、コスト、機械的強度、難燃性のすべてが優れる樹脂組成物を提供する目的で、PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、およびリン系化合物を含有する樹脂組成物であって、前記PC樹脂を、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上90質量部以下含有し、前記PS樹脂を、前記ABS樹脂と等量、または、前記ABS樹脂よりも多く含有するものであり、前記リン系化合物は、そのうち少なくとも一種がホスファゼン系化合物であり、前記ホスファゼン系化合物を樹脂合計100質量部に対し0.1質量部以上4.0質量部以下含有する樹脂組成物であることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のPC樹脂、PS樹脂及びABS樹脂を含む樹脂組成物に難燃剤を多量に添加したものは、難燃剤が加水分解を促進し、耐久後の強度が急落するという問題があった。
本発明は、機械的強度、難燃性、及び、耐久性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の樹脂組成物は以下の通りである。
PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、難燃剤、及び、ドリップ防止剤を含有し、以下の構成A~構成Dを備えることを特徴とする樹脂組成物。
構成A:PC樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上90質量部以下である。
構成B:PS樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し10質量部以上20質量部以下であり、ABS樹脂の含有量以上である。
構成C:難燃剤はリン系化合物からなる。
構成D:前記難燃剤のリン元素に換算した配合量X[質量部]及びドリップ防止剤の配合量Y[質量部]は樹脂組成物全体を100質量部としたとき、下記の関係式(1)乃至(3)を満たす。
Y > X -1.00 ・・・(1)
Y < X -0.85 ・・・(2)
1.30 ≦ X ≦ 1.45 ・・・(3)
【発明の効果】
【0006】
本発明により、低コストで、機械的強度、難燃性、及び、耐久性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、リンの添加量と樹脂組成物のシャルピー衝撃強度との関係を示す図である。
図2図2は、樹脂組成物中のPC樹脂の比率と樹脂組成物のシャルピー衝撃強度との関係を示す図である。
図3図3は、難燃剤のリン元素に換算した配合量とドリップ防止剤の配合量との関係を示す図である。
図4図4は、縮合リン酸エステルのリン元素に換算した配合量とフォスファゼンのリン元素に換算した配合量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態を説明する。
本発明の樹脂組成物の特徴は難燃剤の添加量を減らしてドリップ防止剤を添加した点にある。
樹脂の加水分解を促進してしまう難燃剤の添加量を減らすことで、耐久後の強度急落を防止することができるが、難燃剤の添加量を減らした分、難燃性が低下し、燃焼時間が長くなることで可塑化した樹脂がドリップし、難燃性規格を満足できなくなる。本発明は、樹脂に適量のドリップ防止剤を添加することで、可塑化した樹脂のドリップを防止することができることが特徴になっている。
上記記載の本発明の特徴について、以下で図面を用いて詳細に解説する。
【0009】
以下では、樹脂組成物を構成する各樹脂成分の配合量を、各樹脂成分の合計量(樹脂合計)を100質量部としたときの、各成分の質量部数で表す。
(PC樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる、芳香族ホモポリカーボネート樹脂またはコポリカーボネート樹脂であってもよい。芳香族二価フェノール系化合物の例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、および1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられ、これらを単独あるいは混合物として使用してもよい。
【0010】
ポリカーボネート樹脂は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、帝人化成社製の「L-1250Y」、「AD5503」、出光興産社製の「A2200」、三菱エンジニアリングプラスチック社製の「ユーピロンS2000」及び「ユーピロンH-3000VR」(芳香族ポリカーボネート樹脂)、等が挙げられる。
また、ポリカーボネート樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、廃CD等の廃ディスク、ウォータサーバのガロンボトル等の廃ボトル等の再生材を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、PC樹脂を樹脂合計100質量部に対して70質量部以上90質量部以下含有するが、70質量部以上80質量部以下含有することが好ましく、70質量部以上75質量部未満含有することがより好ましい。PC樹脂の含有量が樹脂合計100質量部に対して70質量部以上90質量部以下であると、機械的強度と難燃性とを保ちつつ、コストダウンを図ることができる。
【0012】
(PS樹脂)
ポリスチレン樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位を有し、ゴム成分を含むことが好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
ポリスチレン樹脂の具体例としては、スチレン系単量体にゴム成分を溶解させ、塊状重合法や懸濁重合法など公知の重合法により得られたゴム変性スチレン重合体や、スチレン系単量体とゴム成分とを公知の方法にて物理混合し、スチレン系単量体とゴム成分との混合物を形成したものが挙げられる。
【0015】
上記のスチレン系単量体としては、スチレンが好適に用いられる。必要に応じて、例えば、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレンなどをスチレン系単量体としてスチレンと組み合わせて用いることもできる。2種類以上のスチレン系単量体を用いる場合はスチレンを50質量部以上含有することが好ましい。
【0016】
上記ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、スチレン-イソプレン共重合体、ブタジエン-メタアクリル酸エステル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、水素添加ジエン系ゴムなどが挙げられる。
これらのゴム成分は、単独もしくは2種以上を用いても良く、2種類以上のゴム成分を用いる場合、その混合比は特に限定されるものではない。
また、ポリスチレン樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品や使用済みのOA機器等の再生材を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、PS樹脂を含有することにより、低コスト化することができる。
樹脂組成物におけるPS樹脂の含有量は、多いほど低コスト化が可能であるが、低コスト化かつ良好な機械的強度、難燃性が得られる範囲を考慮すると、樹脂合計100質量部に対して、10質量部以上20質量部以下含有することが好ましく、そのうち、15質量部以上23質量部未満がより好ましい。
【0018】
(ABS樹脂)
ABS樹脂の製造方法は特に制限されないが、乳化状態のゴムに乳化状態のスチレン、アクリルニトリルの単量体を混ぜて重合させる乳化重合法;ゴムをスチレン、アクリルニトリルの単量体に溶解させて塊状重合させ、重合の途中でこの重合液を水中に懸濁させて懸濁重合条件下に重合を継続する塊状懸濁重合法等により製造することができる。なお、PC樹脂、PS樹脂等をアロイ化する際には、使用されるABS樹脂の特性に応じた重合方法が選択されるが、一般には、乳化重合法および塊状懸濁重合法のいずれの重合方法において製造されたABS樹脂でも、アロイ化は可能である。
また、ABS樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品や使用済みのOA機器等の再生材を含んでいてもよい。
【0019】
ABS樹脂の含有率はPS樹脂の含有率と等量であるか、または、より少ないことが重要である。
即ち、樹脂合計100質量部に対するABS樹脂の質量部数が、樹脂合計100質量部に対するPS樹脂の質量部数と同じか、または、より少ない。ABS樹脂の含有率がPS樹脂の含有率より多いと、PS樹脂の分散性が悪くなり、十分な難燃性、耐衝撃強度が得られない。ABS樹脂をPS樹脂の含有率と等量、またはより少なく含有させることでPC樹脂とPS樹脂の相容性を良くし、PS樹脂の分散性を向上させることができる。つまりABS樹脂を相容化剤のように用いる。PS樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し、10質量部以上20質量部以下が好ましく、このPS樹脂を相容させるためにはABS樹脂を、樹脂合計100質量部に対し、2質量部以上含有することが好ましい。
【0020】
(その他の樹脂)
本発明の樹脂組成物は、PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂に加え、難燃性、剛性、耐衝撃性等を著しく低下させない範囲において、PP樹脂、PE樹脂を含有することができる。
【0021】
(リン系化合物)
本発明の樹脂組成物は、難燃剤として、リン系化合物を含有し、そのうち少なくとも一種がホスファゼン系化合物であることが好ましい。リン系化合物としては、ホスファゼン系化合物と、ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物を含有することが好ましい。
【0022】
-ホスファゼン系化合物-
前記ホスファゼン系化合物については、下記一般式(2)で表されるホスファゼン系化合物が、製造容易性及び化合物の安定性の点で好ましい。
【0023】
【化2】
(上記一般式(2)中、Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、もしくは芳香族環、脂肪族鎖を表す。)
【0024】
さらに、前記ホスファゼン系化合物はその製造法により、環状の構成数が増加することがあるが、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記一般式(2)における側鎖基Xの脂肪族鎖、芳香族鎖はアルコキシ基構造を有しても良いし、末端にハロゲン元素を有しても良い。
アルコキシ基を形成する化合物は、脂肪族系化合物、芳香族系化合物など何でも良いが、芳香族を含む化合物がホスファゼン系化合物の安定性のためとリン系化合物への溶解性のために好ましい。
これらの中でも、Xは、フェノキシ基が好ましい。
【0025】
このホスファゼン系化合物は、前記樹脂組成物の樹脂合計100質量部に対し、1.5質量部以上13質量部以下含有される。
前記含有率が、1.5質量部未満では、含有量が少なくて本発明の目的を達成できない。13質量部を超えて含有すると、混練時に樹脂組成物の中で凝集しやすくなるので好ましくない。
前記含有率が、13質量部以下であると、樹脂組成物の中で凝集しにくくなり、本発明の目的を達成しやすくなる。
【0026】
-ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物-
本発明においてリン系化合物は、これまで述べたホスファゼン系化合物の凝集を防ぐためにホスファゼン系化合物以外のリン系化合物を併用することが好ましい。
ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物としては赤燐、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ナトリウム、ホスフィン酸金属塩などが用いられ、赤燐および/またはリン酸エステルが好ましく用いられる。なお、本発明におけるリン系化合物は燐の単体も含める。
【0027】
中でも混練する温度で溶融するリン酸エステルを用いることが好ましい。
すなわちリン酸エステルは融点(Tm)を持つ化合物で、Tmは300℃未満が好ましく、200℃未満がさらに好ましく、100℃未満が特に好ましい。最も好ましいTmの下限は0℃以上であるが混練時に溶融状態になれば、Tmの下限については本発明で制限しない。しかしTmが-40℃未満であると樹脂に分散したときに時間が経過すると表面へ浮き出る現象、ブリードアウトが激しくなるので好ましくない。
前記リン酸エステルの中には、3次元化し混練時に溶融せずTmを持たない化合物も存在し、本発明でこのような化合物は好適ではない。
【0028】
次に前記リン酸エステルを例示するが、この例示は本発明を特に制限するものではない
例えばトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、ジフェニルモノ(アルキルフェニル)ホスフェートまたはトリフェニルホスフェートの中の一種または二種以上の混合物、あるいは下記一般式(3)で表される化合物の一種または二種以上の混合物である。
【0029】
【化3】
前記一般式(3)中、R~Rは、それぞれ独立して、芳香族環を含む基を表す。nは、1~10,000を表す。
【0030】
からRまでは、アリールまたはアルキル置換されたアリール基が好ましく、好ましいR、R、R及びRはフェニル基、またはメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、イソブチル、イソアミル、t-アミルなどのアルキル基が置換されたフェニル基であり、この中でも、フェニル基、またはメチル、エチル、イソプロピルまたはt-ブチル基が置換されたフェニル基がより好ましく;Rは、アリールまたはアルキル置換されたアリール基誘導体が好ましく、レゾルシノール、ヒドロキノンまたはビスフェノール-Aから誘導されたものがより好ましい。
【0031】
リン系化合物の添加は、本発明の樹脂組成物の混練時に添加してもよいし、あらかじめPC樹脂以外の樹脂成分と混練し、この混練物を樹脂組成物の混練時に添加してもよい。
ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物は、樹脂合計100質量部に対し12質量部未満であること好ましく、11質量部以上12質量部未満がより好ましい。12質量部未満であると衝撃強度が低下しない。
【0032】
(ドリップ防止剤)
ドリップ防止剤には主にPTFEが用いられる。混練段階でドリップ防止剤を添加することにより、混練の剪断力によってPTFEが繊維化する。繊維化したPTFEが樹脂中でネットワーク構造(立体網目状構造)を形成することで樹脂の溶融張力を向上させ、燃焼時における樹脂のドリップを防ぐことができる。
ネットワーク構造の有無は走査電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより確認することができる。
添加量については求められるUL94試験の難燃ランクによって選択される。
市販のドリップ防止剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にアクリル変性を施した添加剤であるメタブレンA-3800(三菱ケミカル株式会社社製)、メタブレンA-3000(三菱ケミカル株式会社製)、メタブレンA-3750(三菱ケミカル株式会社製)、ポリフロン MPA FA-500H(ダイキン工業株式会社製)、ポリフロン MPA FA-5601(ダイキン工業株式会社製)、ITAflonPTFEアンチドリッピング剤(WESTONE社製)等、を挙げることができる。
【0033】
図3は、樹脂組成物全体を100質量部とし、樹脂組成物中の難燃剤のリン元素に換算した配合量をX[質量部]とし、ドリップ防止剤の配合量をY[質量部]としたとき、下記関係式(1)~(3)を満たす領域を示す図である。
直線で囲まれた領域では難燃性及び耐久性が良好な樹脂組成物が得られる。
Y > X -1.00 ・・・(1)
Y < X -0.85 ・・・(2)
1.30 ≦ X ≦ 1.45 ・・・(3)
【0034】
図4は、樹脂組成物全体を100質量部とし、樹脂組成物中の縮合リン酸エステルのリン元素に換算した配合量をX1[質量部]とし、フォスファゼンのリン元素に換算した配合量をX2[質量部]としたとき、下記関係式(4)、(5)を満たす領域を示す図である。
X2 > -X1+1.3(0.91≦ X1 ≦ 1.23)・・・(4)
X2 < -X1+1.5(1.19≦ X1 ≦ 1.38)・・・(5)
直線で囲まれた領域では難燃性及び耐久性が良好な樹脂組成物が得られる。
【0035】
(その他添加剤)
本発明の一例の樹脂組成物は、難燃性、剛性、耐衝撃性等を著しく低下させない範囲において、リン系安定剤、フェノール系安定剤、染顔料等のその他の添加材を含んでよい。
【0036】
(混練方法)
一例の製造方法では、初めに、本発明に必要な成分、及び任意選択的に加えられる成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、溶融混練する(溶融混練工程)。
上記工程によれば、各成分を均一に混合することができる。
この工程では、上記各成分を、タンブラー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等の当該技術分野において公知の混練機を用いて、混練速度、混練温度、混練時間等の条件を適宜調節しながら、混練する。
【0037】
例えば、上記各成分を、タンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いて、予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等の混練機で溶融混練してもよい。また、例えば、各成分を予め混合せずに、これらの成分をフィーダーを用いて押出機に投入し、溶融混練してもよい。更に、例えば、一部の成分のみを予め混合し、その後、溶融混練することによって得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチと再度残りの成分とを溶融混練してもよい。
【0038】
ここで、この工程では、特に限定されることなく、任意選択された成分を予め溶融混合させた後に、二軸混練押出機に添加することも好ましい。リン酸エステルが室温で液体の場合、ホスファゼン系化合物をこの成分に室温で溶解させることが可能である。また、リン酸エステルが室温で固体(例えば、粉末)の場合、これらの成分を乳鉢で混ぜた後、混合物を90℃以上に加熱して溶融させ、この溶融状態の混合物を二軸混練押出機に添加することが可能である。
【0039】
なお、上記リン酸エステルとホスファゼン系化合物の予混合は、溶融混練工程の例示であり、リン系化合物の分散性を高める観点から、好ましい実施形態となる。本発明の製造方法において必須となるものではない。また、上記乳鉢を用いた混合は、混合方法の例示であり、本発明の製造方法における混合方法は、これに限定されるものではなく、いかなる方法としてもよい。
【0040】
特に、混練温度は、PC樹脂の溶融温度(Tm)を基に決められる。Tmの測定については、ガラス転移点(Tg)と同様にDSC、TMA、DTA、温度を変えられる粘弾性装置などどのような測定値を用いても良いが、これらの装置を用いて測定されたTm温度付近で混練すれば本発明の樹脂組成物が容易に得られる。
【0041】
また、このTm温度未満では、剪断流動が効果的に働き、ホスファゼン系化合物のドメイン形成を阻害するので好ましい。特に混練温度をTm未満からTg+20℃の温度領域で本発明の好適な結果を得ることが可能である。
TmやTgについては測定方法で変わることが知られている。
本発明では、DSCで計測されたTmやTgの値を用いるのが好ましい。
【0042】
(成形体について)
本発明の一例の成形体(以下、「一例の成形体」ともいう)は、本発明の一例の樹脂組成物を含む。
一例の成形体としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器等の部材等が挙げられる。特に、耐熱性を要する外装部材に好適に用いられる。
一例の成形体は、例えば、一例の難燃性樹脂組成物を常法に従って射出成形することによって得ることができる。
【0043】
(電子部品、電子機器)
本発明の一例の電子部品は、本発明の前記成形体を有する。
本発明の一例の電子機器は、本発明の前記成形体を有する。
前記電子部品としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器等の電子部品等が挙げられる前記電子機器としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器、テレビ、冷蔵庫、掃除機等の家庭電化製品等が挙げられる。
【実施例0044】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記実施例に何ら限定されるものではない。
また、以下の記載においては特に明記しない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
なお、実施例及び比較例においては、樹脂成分の配合量についての「部」は樹脂全体を100質量部としたときの各樹脂成分の「質量部」を示し、その他の成分の配合量についての「部」は、樹脂組成物全体を100質量部としたときの各成分の「質量部」を示す。
【0045】
(実施例1~7、比較例1~7)
表1に示す処方で原料を配合し、原材料をスクリュー径25mm、スクリュー有効長L/D=26の二軸溶融混練押出機(テクノベル製)を用いて、混練温度を混練部230-240℃、送り部160-180℃、吐出部200-210℃で混練し、樹脂組成物を得た。
【0046】
実施例及び比較例において用いた原材料は以下の通りである。
(樹脂)
PC樹脂:H-3000VR(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)
PS樹脂:H650(東洋スチレン株式会社製)
ABS樹脂:250-X10(東レ株式会社製)
リン系化合物
ホスファゼン系化合物:SPS100
(大塚化学社製、主成分として、6員環の環状構造を有し、その6個の側鎖
全てがフェノキシ基である芳香族ホスファゼン化合物)
リン酸エステル:PX-200
(大八化学工業株式会社製、芳香族縮合リン酸エステル、融点92℃以上)
ドリップ防止剤
メタブレンA-3800(三菱ケミカル株式会社製)
【0047】
[評価]
上記の実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、以下に記載する方法で、機械的強度、耐久性、難燃性の評価を行った。
実施例1~7及び比較例1~7で得た樹脂組成物を、設定温度240℃で溶融し、射出成形して試験片を得た。
得られた試験片を用いて、以下の評価を行った。
【0048】
(耐衝撃性)
ISO179-1に準拠して、シャルピー衝撃試験機を用いて、衝撃試験を行った。なお、試験片にはノッチ(切れ目)を付けた。シャルピー衝撃強度(kJ/m)が高い値であるほど、耐衝撃性に優れていると評価した。
シャルピー衝撃強度が8kJ/m2以上であれば合格(〇)である。
【0049】
(耐久性)
空気雰囲気中60℃85%の高温多湿条件下に試験片を500h放置し、湿熱劣化の加速試験を行った。
具体的には、試験片の樹脂組成物の重量平均分子量Mwの減少率を評価した。
減少率は、樹脂組成物を常法により成形した試験片の耐久試験前の重量平均分子量Mwと60℃85%の高温多湿条件下500h放置した耐久試験後の試験片の樹脂組成物のMwを比較し、下記の計算式に基づいて減少率を算出した。
重量平均分子量の減少率[%]
=[(耐久試験前のMw-耐久試験後のMw)/耐久前のMw]×100
減少率が20%以下であれば合格(〇)である。
【0050】
(難燃性)
米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めるUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して、難燃試験を行なった。試験片の厚みtは1.5mmとした。
まずUL94V試験を行い、「V-0」、「V-1」、「V-2」の判定を行った。
「V-0」であれば合格(〇)である。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
(実施例及び比較例についての検討)
(実施例1~7)
実施例1~7では、リン添加量、ドリップ防止剤量、PC比率を上下に振っている。いずれも重量平均分子量Mwの減少率が20%以下であり、UL94難燃性ランクV-0、衝撃強度7以上を満たしている(表1参照)。
【0054】
(比較例1)
リンの添加量が過剰であるため、樹脂の加水分解がより促進され重量平均分子量Mwの減少率が大きくなり、シャルピー衝撃強度が低下してしまう(図1参照)。
【0055】
(比較例2)
リンの添加量が不足しているため、自己消火性が劣ることで難燃性ランクが落ちてしまう。
【0056】
(比較例3)
ドリップ防止剤量が過剰であるため、燃焼が継続してしまうことで難燃性ランクが落ちてしまう。
【0057】
(比較例4)
ドリップ防止剤量が不足しているため、燃焼物がドリップすることにより難燃性ランクが落ちてしまう。
【0058】
(比較例5)
PC比率が下がることでシャルピー衝撃強度が低下してしまう。
【0059】
(比較例6)
ABS比率がPS比率を超えることで、難燃性ランクが落ちてしまう。
【0060】
(比較例7)
比較例7はドリップ防止剤を成形時に添加しており、混練時に添加していないため、ネットワーク構造が形成されておらず、燃焼物がドリップすることにより難燃性ランクが落ちている。
【0061】
本発明は下記(1)に記載の樹脂組成物に係るものであるが、下記(2)~(10)を発明の実施形態として含む。
(1)PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、難燃剤、及び、ドリップ防止剤を含有し、以下の構成A~構成Dを備えることを特徴とする樹脂組成物。
構成A:PC樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上90質量部以下である。
構成B:PS樹脂の含有量は、樹脂合計100質量部に対し10質量部以上20質量部以下であり、ABS樹脂の含有量以上である。
構成C:難燃剤はリン系化合物からなる。
構成D:前記難燃剤のリン元素に換算した配合量X[質量部]及びドリップ防止剤の配合量Y[質量部]は樹脂組成物全体を100質量部としたとき、下記の関係式(1)乃至(3)を満たす。
Y > X -1.00 ・・・(1)
Y < X -0.85 ・・・(2)
1.30 ≦ X ≦ 1.45 ・・・(3)
効果:上記関係式(1)乃至(3)を満たすことにより、樹脂組成物の難燃性及び機械的強度が向上する。
(2)前記ドリップ防止剤は、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)からなるドリップ防止剤である、上記(1)に記載の樹脂組成物。
効果:PTFEからなるドリップ防止剤は入手が容易である。
(3)前記ドリップ防止剤は、樹脂組成物中においてネットワーク構造を形成している、上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
効果:ドリップ防止剤がネットワーク構造を形成していることにより樹脂組成物の溶融張力が向上するためドリップしにくくなる。
(4)前記難燃剤として、縮合リン酸エステルとフォスファゼンとを併用する、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
効果:前記難燃剤として、縮合リン酸エステルとフォスファゼンとを併用することにより、樹脂組成物の難燃性及び機械的強度が向上する。
(5)前記難燃剤は、樹脂組成物を100質量部としたとき、樹脂組成物中における前記縮合リン酸エステルのリン元素に換算した配合量(X1)と前記フォスファゼンのリン元素に換算した配合量(X2)とが、下記関係式(4)及び(5)を満たす、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
X2 > -X1+1.3(0.91≦ X1 ≦ 1.23)・・・(4)
X2 < -X1+1.5(1.19≦ X1 ≦1.38)・・・(5)
効果:上記関係式を満たすことにより、樹脂組成物の難燃性及び機械的強度が向上する。
(6)前記樹脂組成物を空気雰囲気中60℃85%の条件下で500時間放置したときの前記樹脂組成物の重量平均分子量Mwの減少率が20%以下である、上記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
効果:上記の条件を満たすことにより樹脂組成物の耐久性が向上する。
(7)前記樹脂組成物を空気雰囲気中60℃85%の条件下で250時間放置したときの前記樹脂組成物の重量平均分子量Mwの減少率が8%以下である、上記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
効果:上記の条件を満たすことにより樹脂組成物の耐久性が向上する。
(8)上記(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
効果:本発明の成形体は耐久後においても難燃性及び機械的強度を両立した成形体である。
(9)上記(8)に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品。
効果:本発明の電子部品は耐久後においても難燃性及び機械的強度を両立した電子部品である。
(10)上記(9)に記載の電子部品を有することを特徴とする電子機器。
効果:本発明の電子機器は耐久後においても難燃性強度を両立した電子機器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】特開2021-14527号公報
図1
図2
図3
図4