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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139811
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045528
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】白川 慶一
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳
(72)【発明者】
【氏名】苅田 健吾
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AB02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA05X
2H149FA63
2H149FB05
(57)【要約】
【課題】赤スジの発生を抑制することができる積層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】回転する一対の貼合ロール1a,1bの間に、偏光子層を含む第一フィルム3と、第一フィルムと対面するように配置された第二フィルム2aと、第一フィルム3の第二フィルム2a側とは反対側の面と対面するように配置された第三フィルム2bとを、吐出ノズル5a,5bによって第一フィルム3と第二フィルム2aとの間、及び、第一フィルム3と第三フィルム2bとの間にそれぞれ供給した接着剤とともに導入して各フィルム同士を貼合する。第一フィルム3と第二フィルム2aとの間、及び、第一フィルム3と第三フィルム2bとの間にそれぞれ形成される接着剤溜まり6a,6bの内部にそれぞれの吐出ノズル5a,5bの先端が位置する状態を維持しながら接着剤を供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の貼合ロールの間に、偏光子層を含む第一フィルムと、前記第一フィルムの前記偏光子層と対面するように配置された第二フィルムと、前記第一フィルムの前記第二フィルム側とは反対側の面と対面するように配置された第三フィルムとを、吐出ノズルによって前記第一フィルムと前記第二フィルムとの間、及び、前記第一フィルムと前記第三フィルムとの間にそれぞれ供給した接着剤とともに導入して前記第一フィルムと前記第二フィルムと前記第三フィルムとを貼合する、積層フィルムの製造方法であって、
前記第一フィルムと前記第二フィルムとの間、及び、前記第一フィルムと前記第三フィルムとの間にそれぞれ形成される接着剤溜まりの内部にそれぞれの前記吐出ノズルの先端が位置する状態を維持しながら前記接着剤を供給する、製造方法。
【請求項2】
前記一対の貼合ロールに対する前記第一フィルムの導入角度を、水平面を基準として5°~30°とし、
前記第一フィルムの上方側に前記第二フィルムを配置する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤は、水系接着剤である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記第二フィルム及び前記第三フィルムの少なくとも一方は、トリアセチルセルロースフィルムである、請求項1~3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤の供給箇所における前記各フィルムの導入方向に対する側面視断面で、前記一対の貼合ロールの回転中心同士の中点と、前記接着剤溜まりの液面との距離が10mm~100mmとなるように前記接着剤を供給する、請求項1~4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
前記吐出ノズルのうち前記接着剤溜まりの内部に位置する部分の長さを3mm~15mmとする、請求項1~5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
回転する一対の貼合ロールの間に、偏光子層を含む第一フィルムと、前記第一フィルムの前記偏光子層と対面するように配置された第二フィルムとを、吐出ノズルによって前記第一フィルムと前記第二フィルムとの間に供給した接着剤とともに導入して前記第一フィルムと前記第二フィルムとを貼合する、積層フィルムの製造方法であって、
前記第一フィルムと前記第二フィルムとの間に形成される接着剤溜まりの内部に前記吐出ノズルの先端が位置する状態を維持しながら前記接着剤を供給する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の貼合ロールを用いてフィルム同士を接着剤で貼合する方法が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1では、貼合面の中央に供給している液状の接着剤がフィルムの幅方向両端部から漏出することを防止するため、余剰の接着剤を吸引除去することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-88651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一対の貼合ロールを用いて偏光子層を含むフィルムと他のフィルムとを貼合するに際し、接着剤をノズルから吐出させて供給すると、貼合後の品質検査において、MD方向に延びる赤スジが観察されることがある。本発明は、このような赤スジの発生を抑制することができる積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者の検討によれば、当該赤スジはノズルの配置位置に対応する位置に発生していることが分かった。そこで、接着剤の供給方式が何らかの影響を及ぼしていると考えて鋭意検討し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、回転する一対の貼合ロールの間に、偏光子層を含む第一フィルムと、第一フィルムの偏光子層と対面するように配置された第二フィルムと、第一フィルムの第二フィルム側とは反対側の面と対面するように配置された第三フィルムとを、吐出ノズルによって第一フィルムと第二フィルムとの間、及び、第一フィルムと第三フィルムとの間にそれぞれ供給した接着剤とともに導入して第一フィルムと第二フィルムと第三フィルムとを貼合する、積層フィルムの製造方法であって、第一フィルムと第二フィルムとの間、及び、第一フィルムと第三フィルムとの間にそれぞれ形成される接着剤溜まりの内部にそれぞれの吐出ノズルの先端が位置する状態を維持しながら接着剤を供給する、製造方法を提供する。
【0007】
接着剤溜まりの内部に吐出ノズルの先端を位置させることにより、吐出された接着剤の流圧が接着剤溜まりに吸収される。これにより各フィルムに対して部分的な物理的刺激が加わることが防止され、接着剤の供給方式に基づくフィルムの傷害が抑制される。
【0008】
本発明では、一対の貼合ロールに対する第一フィルムの導入角度を、水平面を基準として5°~30°とし、第一フィルムの上方側に第二フィルムを配置してもよい。この配置では、吐出ノズルの下方に偏光子層が位置することとなり、吐出された接着剤が、物理的強度が比較的小さい偏光子層に負担を与えやすい。本発明ではこのような場合であっても赤スジの発生を抑制することができる。
【0009】
本発明では、接着剤が水系接着剤であってもよい。また本発明では、第二フィルム及び第三フィルムの少なくとも一方がトリアセチルセルロースフィルムであってもよい。水系接着剤は乾燥後にゲル状の析出物が発生して、この析出物が偏光子層を傷害する場合がある。特に、トリアセチルセルロースフィルムのように吸湿性が高いフィルムはその傾向がある。本発明ではこのような場合であっても赤スジの発生を抑制することができる。
【0010】
本発明では、接着剤の供給箇所における各フィルムの導入方向に対する側面視断面で、一対の貼合ロールの回転中心同士の中点と、接着剤溜まりの液面との距離が10mm~100mmとなるように接着剤を供給してもよい。また、吐出ノズルのうち接着剤溜まりの内部に位置する部分の長さを3mm~15mmとしてもよい。
【0011】
また、本発明は、回転する一対の貼合ロールの間に、偏光子層を含む第一フィルムと、第一フィルムの偏光子層と対面するように配置された第二フィルムとを、吐出ノズルによって第一フィルムと第二フィルムとの間に供給した接着剤とともに導入して第一フィルムと第二フィルムとを貼合する、積層フィルムの製造方法であって、第一フィルムと第二フィルムとの間に形成される接着剤溜まりの内部に吐出ノズルの先端が位置する状態を維持しながら接着剤を供給する、製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、赤スジの発生を抑制することができる積層フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態として、三枚のフィルムが貼合される様子を示す図である。
図2図1の平面図である。ただし一部の構成を省略している。
図3図1の部分拡大図である。
図4】(A),(B)いずれも、本発明ではない実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、複数の長尺のフィルムを搬送ロールを用いて搬送しながら互いに接着剤で貼合して積層フィルムを製造するものである。接着剤の供給方式を本発明所定の方式として製造した積層フィルムは、赤スジ欠陥の発生が抑制されている。以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
一実施形態として、偏光子層を含むフィルムの両面に保護フィルムを貼合して偏光板(積層フィルム)を製造することを例にする。図1は、互いに押圧することが可能な一対の貼合ロール1a,1bを用いて三枚のフィルム(2a,3,2b)を貼合する様子を、貼合ロール1a,1bの軸線方向から見た図である。貼合ロール1a,1bは鉛直方向に並べて配列されており、三枚のフィルムはいずれも長尺であり、いずれも上下方向に面を向けた状態で搬送されてきており、貼合ロール1a,1bで合流している。図2は、図1の平面図である。ただし、図2では図1で一番上に位置しているフィルムの図示を省略している。
【0016】
本実施形態では、貼合ロール1a,1bの間に、鉛直方向上側から順に、第一保護フィルム(第二フィルム)2aと、偏光子層を含むフィルム(第一フィルム;以下「偏光フィルム」と呼ぶ。)3と、第二保護フィルム(第三フィルム)2bとが積層するようにして導入する。ここで、偏光フィルム3に含まれる偏光子層が第一保護フィルム2aに対面しているものとする。各フィルムは図示左側から右側へ搬送されており、貼合ロール1a,1bで貼合されてなる積層フィルム4は引き続き次の工程へ向けて搬送されていく。各フィルムの幅は、例えば1000mm~2500mmである。本実施形態では、第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bの幅が偏光フィルム3の幅よりも広く、幅方向両側に第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bに余長分が生じている。
【0017】
偏光フィルム3は、偏光子層単独であってもよく、偏光子層に他の層が積層されたものであってもよい。偏光子層は延伸されたフィルムであり、例えばポリビニルアルコールフィルムにヨウ素や二色性色素が吸着・配向されたものである。偏光子層の厚さは、1μm~50μmであってもよく、3μm~15μmであってもよい。厚さが薄いと赤スジ欠陥が発生しやすい傾向があるので、本実施形態の製造方法を適用するのに好適である。
【0018】
第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bを構成する材料は、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルム等のセルロースエステル系フィルム;環状オレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリエステル系フィルム;ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム等の(メタ)アクリル系フィルム等である。第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bを構成する材料は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bの少なくとも一方はトリアセチルセルロースフィルムであってもよい。
【0019】
第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bを構成する材料は、偏光フィルム3に貼合される側の面の水接触角が5°~50°であることが好ましく、7°~40°であることがより好ましく、10°~35°であることが更に好ましい。水接触角は以下の方法で測定できる。測定対象面を外側にして、保護フィルムをガラス基板に粘着剤を用いて貼合して測定サンプルとする。この測定サンプルを測定対象表面が上面となるように接触角計(協和界面科学株式会社製の画像処理式接触角計「FACE CA-X型」)に水平にセットし、測定対象表面に1マイクロリットルの水を滴下し、水に対する接触角を測定する。
【0020】
特に偏光フィルム3がポリビニルアルコールフィルムである場合は、第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bの水接触角が小さいほうが互いの密着性が高く、剥がれにくくなる。水接触角が小さいと赤スジが発生しやすい傾向があるが、本実施形態の製造方法によれば、水接触角が小さい場合であっても赤スジの発生を抑制することができる。特に、第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bの少なくとも一方が吸湿性の高いトリアセチルセルロースフィルムである場合に、水接触角が上記の範囲であると本実施形態の効果を顕著に確認することができる。
【0021】
貼合ロール1a,1bに対する第二保護フィルム2bの導入角度は、水平面を基準としてほぼ0°である。これに対し、偏光フィルムの導入角度は、水平面を基準として5°~30°としてもよく、10°~20°としてもよい。第一保護フィルムの導入角度は、水平面を基準として10°~60°としてもよく、20°~50°としてもよい。少なくとも一枚のフィルムの導入角度は、水平面を基準として0°~±45°としてもよく、±5°~±35°としてもよく、±10°~±25°としてもよい。
【0022】
第一保護フィルム2aと偏光フィルム3との間、及び、偏光フィルム3と第二保護フィルム2bとの間には、それぞれ接着剤を吐出する棒状の吐出ノズル5a,5bが配置されている。吐出ノズル5a,5bは、貼合ロール1a,1bの幅方向中央において、各フィルムの搬送方向にその棒状形状が延びるようにして配置されている。水平方向を基準とした吐出ノズル5a,5bの配置角度は、各フィルムに接触しない程度に適宜調整する。
【0023】
接着剤としては、水系接着剤、活性エネルギー線硬化性接着剤、又は熱硬化性接着剤を用いることができるが、本実施形態への適用の観点からは、水系接着剤が好ましい。水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる接着剤、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤等が挙げられる。中でもポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる水系接着剤が好適である。
【0024】
貼合ロール1a,1bの幅方向両側かつ搬送の上流側には、接着剤の余剰分を吸引除去するための吸引ノズル7,7が配置されている。吸引ノズル7,7は、第一保護フィルム2a及び第二保護フィルム2bの余長分の部分に配置されている。
【0025】
各フィルムの貼合時には、吐出ノズル5a,5bから接着剤を吐出して、偏光フィルム3と第一保護フィルム2aとの間、及び、偏光フィルム3と第二保護フィルム2bとの間に供給する。供給した接着剤は貼合ロール1a,1bの幅方向両側へ広がり、各フィルムの貼合領域全体に行き渡る。ここで接着剤の供給量を増やすと、貼合ロール1a,1bの間に導入しきらない分が貼合ロール1a,1bの上流側に蓄積して、接着剤溜まり6a,6bを形成する。本実施形態では、吐出ノズル5a,5bの先端をそれぞれ接着剤溜まり6a,6bの内部に位置させた状態とし、この状態を維持して各フィルムの貼合を行う(図1)。
【0026】
接着剤の供給箇所において、貼合ロール1a,1bの回転中心同士の中点と接着剤溜まり6a,6bの液面との距離(接着剤溜まりの深さ)は、5mm~100mmであってよく、10mm~100mmであることが好ましく、20mm~70mmであることがより好ましい。この距離が確保されるように接着剤の供給量を調整する。ここで「距離」とは、より詳細には、接着剤の供給箇所(貼合ロール1a,1bの幅方向において吐出ノズル5a,5bが配置されている箇所)における各フィルムの導入方向に対する側面視断面を想定したとき(図3)、貼合ロール1aの回転中心P1と貼合ロール1bの回転中心P2とを結ぶ線分の中点P3を起点とし、接着剤溜まり6a又は接着剤溜まり6bと第一保護フィルム2a又は第二保護フィルム2bとの接触部分のうち、貼合ロール1a又は貼合ロール1bから最も遠い部分を終点として、この始点-終点間の距離を第一保護フィルム2a又は第二保護フィルム2bの面に平行な直線で測った距離をいう(図3の符号D1,D2。図3において、D1又はD2が付されている両矢印の両端に描かれている一点鎖線は互いに平行である)。
【0027】
距離D1及び距離D2は同一であってもよく、同一でなくてもよい。距離D1及び距離D2の少なくとも一方が上記の数値範囲にあってもよく、両方が上記の数値範囲にあってもよい。距離D1及び距離D2は飽くまで図3に示したとおり吐出ノズル5a,5bが配置されている箇所における側面視断面上での距離であるが、接着剤溜まり6a,6bは、吐出ノズル5a,5bの配置箇所を中心とする貼合ロール1a,1bの幅方向に亘って所定の距離を有していてもよい。ここで「所定の距離」とは、距離D1及び距離D2と同様の定義であり、吐出ノズル5a,5bが配置されている箇所を起点として、各フィルムの幅方向両側へ向かうに従って小さくなっていく。
【0028】
吐出ノズル5a,5bのうち、接着剤溜まり6a,6bの内部に位置させる部分の長さ(図3の符号G1,G2)、すなわち、吐出ノズル5a,5bのうち各フィルムの貼合時に常に接着剤に濡らされている部分の長さは、3mm~15mmとすることが好ましく、5mm~10mmとすることがより好ましい。
【0029】
従来、図1に示された様式のフィルム貼合において、接着剤溜まり6a,6bを作らない、又は、接着剤溜まり6a,6bの内部に吐出ノズル5a,5bの先端を位置させない状態で貼合すると(例えば、図4(A)のように吐出ノズルの先端を接着剤溜まりの表面に接触させる状態、又は、図4(B)のように吐出ノズルの先端を接着剤溜まりから完全に離した状態)、貼合後の積層フィルムの品質検査においてMD方向に延びる赤スジが観察されることがあった。本発明者の検討によれば、この赤スジは、乾燥後にゲル状の析出物が発生しうる水系接着剤を用いた場合や、保護フィルムとして吸湿性が高いトリアセチルセルロースフィルムを用いた場合、更には、供給した接着剤を受けるフィルム(貼合時に下側に位置するフィルム)が偏光フィルムである場合に発生しやすいことが判明した。また、赤スジが発生する箇所が、吐出ノズルを配置した場所に対応していることが判明した。
【0030】
本実施形態では、接着剤溜まり6a,6bの内部に吐出ノズル5a,5bの先端を位置させることにより、吐出された接着剤の流圧が接着剤溜まり6a,6bに吸収される。例えば図4(B)に示した態様では、吐出された接着剤が液滴状又は線状になって偏光フィルム3に接触した後に接着剤溜まり6a,6bに合流するが、本実施形態(図2)では接着剤が始めから接着剤溜まり6a,6bに供給されており、接着剤が接着剤溜まり6a,6bを離れて偏光フィルム3に接触することがない。これにより、偏光フィルム3を含め各フィルムに対して接着剤による部分的な物理的刺激が加わることが防止され、赤スジの原因となる傷害が抑制される。
【0031】
特に本実施形態では、物理的強度が比較的小さい偏光フィルム3が吐出ノズル5aの下方に位置しているが、上記のとおり吐出された接着剤による傷害を受けにくくなっているので、赤スジの発生を抑制することができる。
【0032】
接着剤として水系接着剤を用いた場合、貼合後に、水系接着剤中に含まれている水を除去するために積層フィルム4を乾燥する。このとき、ゲル状の析出物が発生して、この析出物が偏光フィルム3を傷害することがある。第一保護フィルム2a又は第二保護フィルム2bとしてトリアセチルセルロースフィルムのように吸湿性が高いフィルムを用いた場合に特にその傾向がある。本実施形態ではこれらの場合であっても赤スジの発生を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態ではフィルムの幅方向中央に一本の吐出ノズル配置しているが、複数本の吐出ノズルをフィルムの幅方向に等配した態様としてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では三枚のフィルムを貼合する態様を示したが、二枚のフィルムを貼合する態様としてもよい。すなわち、回転する一対の貼合ロールの間に、偏光子層を含む第一フィルムと、第一フィルムの偏光子層と対面するように配置された第二フィルムとを、吐出ノズルによって第一フィルムと第二フィルムとの間に供給した接着剤とともに導入して第一フィルムと第二フィルムとを貼合する。ここで、第一フィルムと第二フィルムとの間に形成される接着剤溜まりの内部に吐出ノズルの先端が位置する状態を維持しながら接着剤を供給する。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0036】
(使用材料)
・偏光フィルム…延伸したポリビニルアルコールフィルム(厚さ12μm)
・第二保護フィルム…トリアセチルセルロースフィルム(厚さ30μm、水接触角15°)
・第一保護フィルム…環状オレフィン系フィルム(厚さ13μm)
・接着剤…ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる水系接着剤
【0037】
(実施例1)
図1及び図2に示した態様にて三枚貼合を行った。すなわち、上から順に第一保護フィルム、偏光フィルム、第二保護フィルムの順に配列させ、貼合ロールに導入した。フィルムの幅方向中央の位置に吐出ノズルを配置した。吐出ノズルから接着剤を供給し、吐出ノズルの先端が接着剤溜まりの内部に位置するように吐出ノズルの位置と供給量とを調整した。ここで、接着剤溜まりの深さは7mm、吐出ノズルのうち接着剤に濡らされている部分の長さは5mmとした。三枚のフィルムは正常に貼合され、積層フィルムを得た。
【0038】
(比較例1)
吐出ノズルを用いた接着剤の供給に際し、吐出ノズルの先端を接着剤溜まりの表面に接触させた(図4(A))こと以外は実施例1と同様にして三枚のフィルムを貼合した。三枚のフィルムは正常に貼合され、積層フィルムを得た。
【0039】
(比較例2)
吐出ノズルを用いた接着剤の供給に際し、吐出ノズルの先端を接着剤溜まりから24mm離した(図4(B),L=24mm)こと以外は実施例1と同様にして三枚のフィルムを貼合した。三枚のフィルムは正常に貼合され、積層フィルムを得た。
【0040】
(品質検査)
得た各積層フィルムを1290mm×500mmに裁断して品質検査に供した。白色光の光源(検査用特殊照明装置(「S-light」、日本技術センター製)と、偏光板とを用意し、光源と偏光板との間に検査対象である積層フィルムを配置した。積層フィルムと偏光板とをクロス透過状態として、正反射の角度で目視検査した。検査の結果、実施例1で得た積層フィルムには赤スジが観察されず、比較例1で得た積層フィルムには赤スジがほぼ観察されず、比較例2で得た積層フィルムには赤スジがはっきり観察された。なお、この赤スジは、蛍光灯やグリーンランプでは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、積層フィルムの品質向上に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1a,1b…貼合ロール、2a…第一保護フィルム(第二フィルム)、2b…第二保護フィルム(第三フィルム)、3…偏光フィルム(第一フィルム)、4…積層フィルム、5a,5b…吐出ノズル、6a,6b…接着剤溜まり、7,7…吸引ノズル、D1,D2…距離、G1,G2…長さ、L…距離、P1,P2…回転中心、P3…中点。
図1
図2
図3
図4