(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139846
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G03G15/20 530
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045584
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】染矢 幸通
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩幸
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA16
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA16
2H033BA19
2H033BA20
2H033BA21
2H033BA22
2H033BA26
2H033BA27
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB35
2H033BB37
2H033BB38
2H033BE00
2H033CA07
2H033CA35
2H033CA39
(57)【要約】
【課題】長手方向にわたって配設される分離部材と定着ベルトとの離間距離の変動が抑制され、分離不良の発生と定着ベルトの損傷を防止することができる定着装置を提供する。
【解決手段】定着ベルト20と、加熱体22と、定着ベルト20との間にニップ部Nを形成する加圧ローラ21と、定着ベルト20の内側に配設される保持部66aを有し、定着ベルト20を回転可能に保持する保持部材66と、を備え、記録媒体Pがニップ部Nを通過して搬送される定着装置9であって、定着ベルト20から記録媒体Pを分離させる分離部材40を有し、分離部材40は、定着ベルト20に近接させる方向に付勢する付勢部材42と、定着ベルト20に当接する当接部41と、を有し、当接部41の定着ベルト20に対する当接位置が、記録媒体Pの通過領域Rの外側であって、かつ定着ベルト20を介してベルト保持部材66の保持部66aと対向する位置である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱する加熱体と、前記定着ベルトとニップ部を形成する加圧ローラと、前記定着ベルトの長手方向両端部において該定着ベルトの内側に配設される保持部を有し、前記定着ベルトを回転可能に保持するベルト保持部材と、を備え、記録媒体が前記ニップ部を通過して搬送される定着装置であって、
前記定着ベルトから前記記録媒体を分離させる分離部材を有し、
前記分離部材は、前記定着ベルトに近接させる方向に付勢する付勢部材と、前記定着ベルトに当接する当接部と、を有し、
前記当接部の前記定着ベルトに対する当接位置が、前記記録媒体の通過領域の外側であって、かつ前記定着ベルトを介して前記ベルト保持部材の前記保持部と対向する位置であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記加熱体が、前記ニップ部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加熱体は、基材と、前記基材上に設けられた発熱体と、前記基材の前記発熱体が設けられた側の面に高熱伝導部材と、を有する面状または板状の部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記分離部材の前記当接部は、長手方向において前記発熱体の配設領域よりも外側に位置することを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ベルトが、前記加圧ローラの回転に伴い従動回転することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着ベルトが、樹脂材料からなるベルト状部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記加圧ローラは、定着ベルトに対する押圧状態から脱圧状態へと動作させるための脱圧機構を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
前記分離部材の前記当接部が、弾性変形可能な弾性材料からなることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の定着装置。
【請求項9】
前記定着ベルトの外径が、前記加圧ローラの外径よりも大きいことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の定着装置。
【請求項10】
前記加圧ローラを加圧して前記定着ベルトに押圧させる加圧手段を備え、前記加圧手段が前記加圧ローラを加圧することにより前記ニップ部が形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の定着装置。
【請求項11】
前記定着ベルトは、筒状基体上に接着層を介して表面層を有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の定着装置。
【請求項12】
前記加熱体は、長手方向に複数に分割された発熱体を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の定着装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置では、電子写真記録・静電記録・磁気記録等の画像形成プロセスにより画像が形成され、画像転写方式又は直接方式により未定着トナー画像が記録媒体(例えば、用紙等)に形成される。未定着トナー画像を定着させるための定着装置としては、記録媒体に形成されたトナー像を、定着部材と加圧ローラとの間のニップ部において加熱及び加圧し、定着処理を実行するものが知られている。
【0003】
電子写真方式の画像形成装置に用いられる定着装置として、省エネルギーの観点から、定着部材として低熱容量の薄肉ベルト部材(定着ベルト)が用いられており、例えば、定着ベルトの内面に配設された加熱体と、加圧ローラとしての加圧ローラとの間に定着ベルトを介してニップ部を形成させる構成が知られている。
【0004】
上記の構成においては、熱容量が小さいため速やかに温度が低下する定着ベルトと、該定着ベルトよりも熱容量が大きい加熱体との間で温度差が生じ、定着ベルトの変形くせがつきやすいという問題がある。また、平板状の加熱体が円筒状の定着ベルト内部で圧接することも、定着ベルトの変形くせの要因となっている。
【0005】
定着ベルトに変形くせが生じると、駆動時に軌道の変動が大きくなり、定着ベルトの近傍に固定配置された部材との距離も変動することとなる。
例えば、定着処理後の記録媒体を定着ベルトから分離するための分離部材が配設されている場合、定着ベルトとの離間距離が安定しないことで分離不良を生じるおそれや、定着ベルトと接触することにより破損を招くおそれがある。
【0006】
これに対し、特許文献1では、定着ベルトからニップ部より記録材搬送方向下流側で可撓性部材である定着ベルトと規制部材であるフランジとの当接箇所近傍に、分離部材がフランジに対して一体的に設けられている構成が開示されている。また、定着ベルトと分離部材との相対距離を一定に保つことができる構成として、さらに、分離部材に定着ベルトに当接する当接部材としてのコロが設けられ、コロを介して分離部材が付勢される態様が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、定着ベルトの長手方向両端部のフランジにおいて定着ベルトの外周形状軌跡を規制しているが、長手方向の中央部では規制されていない。そのため、長手方向全域にわたって配設される部材との距離を一定に保つことが困難である。
多様なサイズの記録媒体、特に小サイズの記録媒体に対して良好な分離を行うためには、定着ベルトの長手方向の中央部を含む領域に分離部材を配設することが好ましい。
【0008】
そこで本発明は、長手方向にわたって配設される分離部材と定着ベルトとの離間距離の変動が抑制され、分離不良の発生と定着ベルトの損傷を防止することができる定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、回転可能な無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトを加熱する加熱体と、前記定着ベルトとニップ部を形成する加圧ローラと、前記定着ベルトの長手方向両端部において該定着ベルトの内側に配設される保持部を有し、前記定着ベルトを回転可能に保持するベルト保持部材と、を備え、記録媒体が前記ニップ部を通過して搬送される定着装置であって、前記定着ベルトから前記記録媒体を分離させる分離部材を有し、前記分離部材は、前記定着ベルトに近接させる方向に付勢する付勢部材と、前記定着ベルトに当接する当接部と、を有し、前記当接部の前記定着ベルトに対する当接位置が、前記記録媒体の通過領域の外側であって、かつ前記定着ベルトを介して前記ベルト保持部材の前記保持部と対向する位置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長手方向にわたって配設される分離部材と定着ベルトとの離間距離の変動が抑制され、分離不良の発生と定着ベルトの損傷を防止することができる定着装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明が適用される定着装置の概略構成の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る定着装置の概略構成を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る定着装置の長手方向端部の構成を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る定着装置の概略構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る定着装置の長手方向端部の構成を示す概略図である。
【
図8】
図2とは異なる実施形態の定着装置の概略構成を示す断面図である。
【
図9】ヒータ、第1高熱伝導部材、第2高熱伝導部材、ヒータホルダの斜視図である。
【
図10】第1高熱伝導部材および第2高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
【
図11】第1高熱伝導部材および第2高熱伝導部材の異なる配置の例を示すヒータの平面図である。
【
図12】グラフェンの原子結晶構造を示す図である。
【
図13】グラファイトの原子結晶構造を示す図である。
【
図14】
図10と第2高熱伝導部材の配置が異なるヒータを示す平面図である。
【
図15】
図2、
図8とは異なる実施形態の定着装置の概略構成を示す断面図である。
【
図16】
図1と異なる画像形成装置の概略構成図である。
【
図17】他の実施形態の定着装置の概略構成を示す断面図である。
【
図19】ヒータおよびヒータホルダの斜視図である。
【
図20】ヒータに対するコネクタの取付状態を示す斜視図である。
【
図21】サーミスタとサーモスタットの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る定着装置および画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0013】
[画像形成装置]
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。本実施形態の画像形成装置は、後述する本発明に係る定着装置を備えている。
【0014】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成装置本体に対して着脱可能な4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkを備える。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。これらの色の現像剤は、カラー画像の色分解成分に対応する。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、像担持体としてのドラム状の感光体2と、帯電装置3と、現像装置4と、クリーニング装置5とを備える 。帯電装置3は感光体2の表面を帯電する。現像装置4は、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する。クリーニング装置5は感光体2の表面をクリーニングする。
【0015】
また、画像形成装置100は、露光装置6と、給紙装置7と、転写装置8と、加熱装置としての定着装置9と、排紙装置10とを備える。露光装置6は、各感光体2の表面を露光し、その表面に静電潜像を形成する。給紙装置7は、記録媒体(以下、「用紙」ともいう)Pを用紙搬送路14に供給する。転写装置8は各感光体2に形成されたトナー画像を用紙Pに転写する。定着装置9は用紙Pに転写されたトナー画像を用紙P表面に定着させる。排紙装置10は用紙Pを装置外に排出する。各作像ユニット1、感光体2、帯電装置3、露光装置6、転写装置8などは、用紙に画像を形成するための画像形成手段を構成している。
【0016】
転写装置8は、中間転写体としての無端状の中間転写ベルト11と、一次転写部材としての4つの一次転写ローラ12と、二次転写部材としての二次転写ローラ13とを有する。中間転写ベルト11は複数のローラによって張架される。一次転写ローラ12は各感光体2上のトナー画像を中間転写ベルト11へ転写する。二次転写ローラ13は中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像を用紙Pへ転写する。複数の一次転写ローラ12は、それぞれ、中間転写ベルト11を介して感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2とが互いに接触し、これらの間に一次転写ニップが形成される。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架するローラの1つに接触している。これにより、二次転写ローラ13と中間転写ベルト11との間には二次転写ニップが形成されている。
【0017】
また、用紙搬送路14における給紙装置7から二次転写ニップ(二次転写ローラ13)に至るまでの途中には、一対のタイミングローラ15が設けられている。
【0018】
次に、
図1を参照して上記画像形成装置の印刷動作について説明する。
印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、感光体2が
図1の時計回りに回転駆動され、帯電装置3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面を露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。
【0019】
各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って回転し、一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達する。そしてトナー画像は、
図1の反時計回りに回転駆動する中間転写ベルト11に順次重なり合うように転写される。そして、中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送される。トナー画像は、二次転写ニップにおいて搬送されてきた用紙Pに転写される。この用紙Pは、給紙装置7から供給されたものである。給紙装置7から供給された用紙Pは、タイミングローラ15によって一旦停止された後、中間転写ベルト11上のトナー画像が二次転写ニップに至るタイミングに合わせて二次転写ニップへ搬送される。かくして、用紙P上にフルカラーのトナー画像が担持される。また、トナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナーは各クリーニング装置5によって除去される。
【0020】
トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙装置10によって装置外に排出されて、一連の印刷動作が完了する。なお、画像が形成される記録媒体としては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。
【0021】
[定着装置]
続いて、本発明が適用される定着装置の構成の一例について説明する。
図2に示す定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラとしての加圧ローラ21と、加熱体としてのヒータ22と、ヒータホルダ23と、支持部材としてのステー24と、温度検知部材としてのサーミスタ25と、第1高熱伝導部材28等を備えている。定着ベルト20は無端状のベルトからなる。加圧ローラ21は定着ベルト20の外周面に接触して、定着ベルト20との間にニップ部Nを形成する。ヒータ22は定着ベルト20を加熱する。ヒータホルダ23はヒータ22を保持する。ステー24はヒータホルダ23を支持する。サーミスタ25は第1高熱伝導部材28の温度を検知する。
【0022】
図2の紙面に直交する方向は定着ベルト20、加圧ローラ21、ヒータ22、ヒータホルダ23、ステー24、第1高熱伝導部材28等の長手方向であり、以下、この方向を単に長手方向と呼ぶ。なお、この長手方向は搬送される用紙の幅方向、定着ベルト20のベルト幅方向、そして、加圧ローラ21の軸方向でもある。
【0023】
定着ベルト20は、例えば外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の筒状基体を有している。定着ベルト20の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。基体と離型層の間に厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。
定着ベルト20は、弾性層を設けずに、筒状基体上に接着層を介して表面層である離型層を有する構成とすることもできる。しかしながら、弾性層がないとベルト全体の剛性が低くなり停止時に変形くせがつきやすい。
なお、定着ベルト20の基体はポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。定着ベルト20の内周面に摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
【0024】
加圧ローラ21は、例えば外径が25mmである。加圧ローラ21は、その内側から、第一層としての芯金21aと、第二層としての弾性層21bと、第三層としての表層21cとを有する。中実の芯金21aは導電性材料により形成され、本実施形態では鉄製である。弾性層21bは非導電性材料により形成され、本実施形態では厚みが3.5mmのシリコーンゴムで形成される。弾性層21bを非導電層とすることで、弾性層21bに導電性を付与するためのフィラーなどの材料を添加する必要がなく、その弾性や伸縮性を確保できる。
【0025】
加圧ローラ21が付勢手段によって定着ベルト20側へ付勢されることで、加圧ローラ21は定着ベルト20を介してヒータ22に圧接される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間にニップ部Nが形成される。また、加圧ローラ21は駆動手段によって回転駆動されるように構成されており、加圧ローラ21が
図2の矢印方向に回転すると、これに伴って定着ベルト20が従動回転する。
【0026】
ヒータ22は、定着ベルト20の幅方向に渡って長手状に設けられた面状の加熱部材である。ヒータ22は、板状の基材30と、基材30上に設けられた抵抗発熱体31と、抵抗発熱体31を被覆する絶縁層32等で構成されている。また、ヒータ22は、絶縁層32側で定着ベルト20の内周面に対して接触しており、抵抗発熱体31から発された熱は、絶縁層32を介して定着ベルト20へと伝達される。ただしこの接触とは、摺動シートなどの導電性部材を介した接触であってもよい。ヒータ22に対して電源からAC電圧を印加することにより、主に抵抗発熱体31が発熱する。本実施形態では、抵抗発熱体31や絶縁層32が基材30の定着ベルト20側(ニップ部N側)に設けられているが、反対に、抵抗発熱体31や絶縁層32を基材30のヒータホルダ23側に設けてもよい。その場合、抵抗発熱体31の熱が基材30を介して定着ベルト20に伝達されることになるため、基材30は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料で構成されることが望ましい。また、基材30を熱伝導率の高い材料で構成することで、抵抗発熱体31を基材30の定着ベルト20側とは反対側に配置しても、定着ベルト20を十分に加熱することが可能である。
【0027】
ヒータホルダ23およびステー24は、定着ベルト20の内周側に配置されている。ステー24は、金属製のチャンネル材で構成され、その両端部分が定着装置9の両側板に支持されている。ステー24によってヒータホルダ23およびヒータ22が支持されることで、加圧ローラ21が定着ベルト20に加圧された状態で、ヒータ22が加圧ローラ21の押圧力を確実に受けとめることができる。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間にニップ部Nが安定的に形成される。本実施形態では、ヒータホルダ23の熱伝導率は基材30よりも小さく設けられる。
【0028】
なお、ステー24がヒータホルダ23を支持するとは、加圧ローラ21の加圧方向(図の左右方向)に延在した部分、あるいは、厚みを持った部分を有するステー24が、ヒータホルダ23に対して、加圧ローラ21と反対側(図の左側)から当接することをいう。これにより、加圧ローラ21からの加圧力によるヒータホルダ23の撓み(本実施形態では、特に長手方向の撓み)を抑制できる。ただし、上記の当接には、ステー24がヒータホルダ23に直接当接している場合に限らず、他の部材を介して当接する場合も含む。「他の部材を介した当接」とは、図の左右方向において、ステー24とヒータホルダ23との間に他の部材が挟まれ、かつ、少なくともその一部が対応する位置で、ステー24が他の部材に当接し、他の部材がヒータホルダ23に当接する状態を指す。また、上記の加圧方向に延在する、とは、加圧ローラ21の加圧方向と同一の方向に限らず、加圧ローラ21の加圧方向から、ある程度の角度をもった方向へ延在する場合も含む。これらの場合でも、ステー24が、加圧ローラ21からの加圧力に抗してヒータホルダ23の撓みを抑制できることはもちろんである。
【0029】
ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で形成されることが望ましい。例えば、ヒータホルダ23をLCPなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成した場合は、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制される。これにより、ヒータ22が効率的に定着ベルト20を加熱することができる。
【0030】
また、ヒータホルダ23には、定着ベルト20をガイドするガイド部26が設けられている。ガイド部26は、ヒータ22のベルト回転方向の上流側(
図2におけるヒータ22の下側)と下流側(
図2におけるヒータ22の上側)とにそれぞれ設けられている。また、上流側と下流側のガイド部26は、ヒータ22の長手方向に渡って間隔をあけて複数配置されている。各ガイド部26は、略扇型に形成されており、定着ベルト20の内周面に対向するようにベルト周方向に延在する円弧状又は凸曲面状のベルト対向面260を有する。
【0031】
ヒータホルダ23は長手方向に複数の開口部23aを有する。開口部23aはヒータホルダ23の厚み方向に貫通した開口部である。この開口部23aに、サーミスタ25や後述するサーモスタットが設けられる。これらのサーミスタ25やサーモスタットは、バネ29により加圧されて第1高熱伝導部材28の裏面に押し当てられている。ただし、第1高熱伝導部材28(および後述する第2高熱伝導部材)にも同様に開口部を設け、サーミスタ25やサーモスタットが基材30の裏面に押し当てられる構成としてもよい。
【0032】
第1高熱伝導部材28は基材よりも熱伝導率の高い部材により構成される。本実施形態では、第1高熱伝導部材28は板状のアルミニウムにより構成される。その他、例えば銅や銀、グラフェン、グラファイトにより第1高熱伝導部材28を構成してもよい。第1高熱伝導部材28を板状とすることにより、ヒータホルダ23や第1高熱伝導部材28に対するヒータ22の位置精度を向上させることができる。
【0033】
次に、上記の熱伝導率の算出方法について説明する。熱伝導率を算出する際には、まず、対象の物体の熱拡散率を測定し、この熱拡散率を用いて熱伝導率を算出する。
熱拡散率の計測は、熱拡散率・熱伝導率測定装置(商品名:ai-Phase Mobile 1u、株式会社アイフェイズ性)を用いた。上記熱拡散率を熱伝導率に換算するためには、密度と比熱容量の値が必要である。密度の計測には、乾式自動密度計(商品名:Accupyc 1330、株式会社島津製作所製)を用いた。また、比熱容量の計は、示差走査型熱量測定装置(商品名:商品名:DSC-60 株式会社島津製作所製)を用い、比熱容量が既知の基準物質としてサファイアを用いて測定した。
【0034】
本実施例では比熱容量測定を5回行い、50℃における平均値を用いた。密度および比熱容量をそれぞれρ、Cとすると、上記熱拡散率測定で得られた熱拡散率αとから、熱伝導率λは、「λ=ρ×C×α」により得ることができる。
【0035】
本実施形態に係る定着装置9において、印刷動作が開始されると、加圧ローラ21が回転駆動され、定着ベルト20が従動回転を開始する。このとき、定着ベルト20の内周面がガイド部26のベルト対向面260に接触してガイドされることで、定着ベルト20は安定してかつ円滑に回転する。また、ヒータ22の抵抗発熱体31に電力が供給されることで、定着ベルト20が加熱される。そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度(定着温度)に到達した状態で、
図2に示すように、未定着トナー画 像が担持された用紙Pが、定着ベルト20と加圧ローラ21との間(ニップ部N)に搬送されることで、未定着トナー画像が加熱および加圧されて用紙Pに定着される。定着ベルト20はヒータ22に加熱される被加熱部材である。
【0036】
<第1の実施形態>
本発明に係る定着装置の第1の実施形態を
図3及び
図4に示す。
図3は本実施形態に係る定着装置の概略構成を示す断面図であり、
図4は本実施形態に係る定着装置の長手方向端部の構成を示す概略図である。
図4は一方端部のみを示しているが、他端側も同様の構成である。
なお、
図2と同様の構成については詳細な図示及び説明を省略する。
【0037】
本実施形態の定着装置は、回転可能な無端状の定着ベルト20と、定着ベルト20を加熱する加熱体(ヒータ)22と、定着ベルト20との間にニップ部Nを形成する加圧ローラ21と、定着ベルト20の長手方向両端部において該定着ベルト20の内側に配設される保持部66aを有し、定着ベルト20を回転可能に保持するベルト保持部材66と、を有し、記録媒体(用紙P)がニップ部Nを通過して搬送される定着装置であって、定着ベルト20から記録媒体(用紙P)を分離させる分離部材40を有している。
分離部材40は、定着ベルト20に近接させる方向に付勢する付勢部材42と、定着ベルト20に当接する当接部41と、を有している。
当接部41の定着ベルト20に対する当接位置は、記録媒体(用紙P)の通過領域Rの外側であって、かつ定着ベルト20を介してベルト保持部材66の保持部66aと対向する位置である。
【0038】
定着ベルト20はその両端部内面をベルト保持部材66の保持部66aによって摺動自在に保持されている。
図7にベルト保持部材66の一例の外観斜視図を示す。
図7(A)に示すベルト保持部材66は、切欠きを有する断面C字状の保持部66aと、規制部(フランジ部)66bと、開口部66cとを有している。
図7(B)に示すベルト保持部材66は、保持部66aが連続する筒状となっている。
ベルト保持部材66は、例えば樹脂の射出成形により一体形成される部材である。
【0039】
保持部66aは、定着ベルト20の内周に挿入されて定着ベルト20を支持する。
規制部66bは、定着ベルト20の長手方向(幅方向)の移動を規制する。
定着ベルト20の内部に配設されたヒータ22やヒータホルダ23等の両端部は、開口部66cを通して各側板68に固定されている。なお、これらはベルト保持部材66に固定されてもよい。
【0040】
定着ベルト20の両端部のみがベルト保持部材66によって保持されているため、両端部間(長手方向の中央部)では定着ベルト20がニップ部Nを除いて変形可能な状態にある。そのため、定着動作の停止時(加圧状態で放置された状態)の定着ベルト20は、
図3の実線で示すように左右に広がるように変形している。一方、破線で示す定着ベルト20aは、十分に加熱され、駆動から十分時間が経過した状態における定着ベルトの軌跡を表している。定着ベルトは、駆動初期は実線(符号20)の変形した状態から回転を始め、徐々に通常回転時の安定した軌跡(符号20a)となる。
定着ベルト20の軌跡が変動した場合、定着ベルト20表面に当接する当接部41が定着ベルト20に追従して変位し、これにより分離部材40が回動し、定着ベルト20との離間距離が一定に維持される。
【0041】
本実施形態の構成では、定着ベルト20の変形を規制する部材が設けられていないため、長手方向全体において同様な軌跡の変化を生じることとなる。分離部材40の当接部41は、長手方向両端部にのみ設けられているが、両端部において軌跡の変化に追従することで、定着ベルト20の長手方向(幅方向)にわたり一体に設けられた分離部材40の全体として変位に追従し、定着ベルト20との離間距離を一定に維持することが可能となる。
【0042】
図4に示すように、加圧ローラ21とベルト保持部材66を長手方向でオーバーラップさせることなく配置している。これにより、定着ベルト20に、加圧ローラ21およびベルト保持部材66の双方からの接触を受ける領域が形成されず、応力集中を緩和することができる。
【0043】
分離部材40は、長手方向にわたって設けられ、記録媒体の通過領域(以下、「通紙領域」ともいう)を超える長さを有する。分離部材40を構成する材料としては特に限定されず、例えば、樹脂や金属等が挙げられる。
分離部材40は、本体部を回動可能に支持する回動軸40aが側板68に固定されている。
【0044】
付勢部材42は、本実施形態では板バネを使用しているが、分離部材40を定着ベルト20へ向けて付勢する部材であれば特に限定されない。付勢部材42は、一方端が側板68に設けられた支持部(不図示)に固定されている。
【0045】
分離部材40は長手方向両端部に、通紙領域Rの外側であって、かつ定着ベルト20を介してベルト保持部材66の保持部66aと対向する位置に、定着ベルト20に向かって凸状に設けられた当接部41を有している。
定着装置内で用紙Pの搬送がジャム等で停止したとき、用紙Pの除去作業が行われるが、その除去作業中に分離部材40を過剰に定着ベルト20側に押し込まれ、定着ベルト20の破損をまねく可能性がある。これに対し、本実施形態では、分離部材40の押し込みが当接部41と対向する保持部66aにより規制されるため、過剰な押し込みとこれに起因した定着ベルト20の破損を防止することができる。
【0046】
なお、定着ベルト20の当接部41との当接位置では、通常の定着動作時(回転時)において、内周面が保持部66aと接触していない。
通常は保持部66aと接触しない部位において当接部41と当接することで、定着ベルト20の摩耗を抑制することができ、部材の長寿命化を実現することができる。
また、当接部41は通紙領域Rの外側において定着ベルト20と当接するため、画像領域の摺擦による画像ムラの発生が防止され、画像品質を維持される。
【0047】
分離部材40の当接部41は、弾性変形可能な弾性材料からなることが好ましい。
当接部41を弾性材料で構成することにより、定着ベルト20表面の摩耗を防止するとともに、保持部66aに対して押圧された場合に荷重を分散させることができ、定着ベルト20の凹みの発生も防止することができる。
当接部41を構成する好ましい材料としては摩耗抵抗が小さい材料であれば特に限定されないが、例えば、樹脂等の発泡体、不織布等が挙げられる。
また、当接部41の形状は特に限定されないが、定着ベルト20との当接面積が大きいことが好ましい。当接部41と定着ベルト20との当接面積を大きくすることにより、当接面の面圧が小さくなり、変形を防止し、定着ベルト20の破損を防止することができる。
【0048】
当接部41が定着ベルト20の周面に軽く当接していることにより、分離部材40の通紙領域Rにおける先端部と定着ベルト20との間隙が、用紙Pの分離に最適な隙間となるように保持されている。
なお、「軽く当接」とは、当接部位が互いに大きく変形・変位しない程度の接触をいう。付勢部材42による分離部材40に対する付勢力は、当接部41が定着ベルト20の周面に接触したとき、定着ベルト20が大きく変形しない程度となるように設定されている。
【0049】
本実施形態の定着装置は、以上の構成により、長手方向にわたって配設される分離部材40と定着ベルト20との離間距離の変動が抑制され、分離不良の発生と定着ベルト20の損傷が防止される。また、ベルト保持部材66の保持部66aにより当接部41の移動が規制されるため、分離部材40の異常変位を防止し、定着ベルトの破損を防止することができる。さらに、当接部41が定着ベルト20の通紙領域Rの外側において当接するため、画像品質を低下させることがない。なお、分離部材40の当接部41は、長手方向においてヒータ22の発熱体の配設領域よりも外側に位置することが好ましい。これにより、接触部位からの吸熱による影響を低減することができる。
【0050】
加熱体(ヒータ)22は、ニップ部Nに配設されている。ヒータホルダ23に支持されたヒータ22がニップ形成部材となり、定着ベルト20を介して対向する加圧ローラ21によりニップ部Nが形成される。
ニップ部Nにヒータ22を配設することにより、定着動作後の冷却時間に差が発生し、定着ベルト20の変形くせがつきやすくなる。しかしながら、本実施形態の構成により変形した定着ベルト20の軌道変動に応じて分離部材40が変位し、定着ベルト20と分離部材40との離間距離を一定に維持することができるため、用紙Pの分離性は良好に維持される。
【0051】
加熱体(ヒータ)22は、面状または板状の部材とすることができる。平板状の部材とすることで、熱容量が小さく、昇温速度を向上させることができ、省エネルギーにつながるが、平板状のヒータ22によって定着ベルト20の変形くせがつきやすく、また変形くせが大きくなる。これに対し、本実施形態の構成によれば、定着ベルト20と分離部材40との離間距離を一定に維持することができるため、用紙Pの分離性は良好に維持される。
【0052】
定着ベルト20は、上述のとおり、樹脂材料からなるベルト状部材で構成されることが好ましい。しかしながら、樹脂製の基材とすることにより、金属製の基材よりも剛性が低く、変形くせがつきやすくなる。これに対し、本実施形態の構成によれば、定着ベルト20と分離部材40との離間距離を一定に維持することができるため、用紙Pの分離性は良好に維持される。
【0053】
ニップ部Nの形成は、加圧ローラ21が固定されたヒータ22側へ加圧する態様であってもよく、ヒータ22が固定された加圧ローラ21側へ加圧する態様であってもよい。
ただし、定着ベルト20と分離部材40との離間距離の変動を抑え、分離性能を維持する観点からは、加圧ローラ21が加圧する態様が好ましい。例えば、加圧ローラ21を加圧して定着ベルト20に押圧させる加圧手段を備え、加圧手段が加圧ローラ21を加圧することによりニップ部Nが形成することができる。
【0054】
定着ベルト20は、上述のとおり、加圧ローラ21の回転に伴い従動回転する部材である。従動回転するため、定着ベルト20の内部に収容される各部材との間隙を多く設ける必要がある。これにより定着ベルト20は変形しやすくなるが、本実施形態の構成によれば、定着ベルト20と分離部材40との離間距離を一定に維持することができるため、用紙Pの分離性は良好に維持される。
【0055】
また、定着ベルト20の外径は、加圧ローラ21の外径よりも大きいことが好ましい。定着ベルト20の外径を大きくすることに伴い、ニップ部Nのニップ幅及びニップ部に配設される加熱体(ヒータ)22の幅も広くすることができ、これにより生産性を向上させ、高生産の装置に対応することができる。
ヒータ22は、長手方向に複数に分割された発熱体を有することが好ましいが、このような構成とするためには、ヒータ22の幅を広くすることが必要となる。
なお、ヒータ22の幅、または定着ベルト20の外径に対するニップ部Nの幅に応じて、定着ベルト20に生じる変形くせの大小が変化するが、本実施形態の構成によれば、定着ベルト20と分離部材40との離間距離を一定に維持することができるため、用紙Pの分離性は良好に維持される。
【0056】
加圧ローラ21は、定着ベルト20に対する押圧状態から脱圧状態へと動作させるための脱圧機構を有している。
押圧状態の加圧ローラ21は、定着ベルト20に対してトナー画像が用紙Pに転写されるのに必要な押圧力で押圧している。脱圧機構により脱圧状態へ動作させることにより、定着ベルト20の変形を軽減することができる他、加圧ローラ21と定着ベルト20の間に挟まったジャム紙を取り除き易くすることができ、また加圧ローラ21の弾性層21bの圧縮永久歪を緩和することができる。
【0057】
<第2の実施形態>
本発明に係る定着装置の第2の実施形態を
図5及び
図6に示す。
図5は本実施形態に係る定着装置の概略構成を示す断面図であり、
図6は本実施形態に係る定着装置の長手方向端部の構成を示す概略図である。
図6は一方端部のみを示しているが、他端側も同様の構成である。
なお、
図2~
図4と同様の構成については詳細な図示及び説明を省略する。
【0058】
本実施形態において、当接部41は、分離部材40と一体に形成されている。
また、当接部41の形状は特に限定されないが、定着ベルト20との当接面積が大きいことが好ましい。当接部41と定着ベルト20との当接面積を大きくすることにより、当接面の面圧が小さくなり、変形を防止し、定着ベルト20の破損を防止することができる。
当接部41は、当接する定着ベルト20表面の摩耗を防止するために、低摩擦の材料からなることが好ましい。
また、当接部41の形状についても特に限定されないが、定着ベルト20との当接面積は、効果を得られる範囲で最小とすることが好ましい。
【0059】
本実施形態において、付勢部材42は、トーションばね(ねじりコイルばね)である。
第1の実施例と同様、付勢部材42による分離部材40に対する付勢力は、当接部41が定着ベルト20の周面に接触したとき、定着ベルト20が変形しない程度となるように設定されている。
【0060】
[その他の実施形態]
以下、本発明が適用される定着装置及び画像形成装置の異なる実施形態について説明する。
図8の定着装置9は、ヒータホルダ23と第1高熱伝導部材28との間に第2高熱伝導部材36を有する。第2高熱伝導部材36は、ヒータホルダ23やステー24、第1高熱伝導部材28等の部材の積層方向(
図8の左右方向)において、第1高熱伝導部材28と異なる位置に設けられる。より詳しくは、第2高熱伝導部材36は第1高熱伝導部材28に重ね合わせされて設けられる。なお、
図8は
図2とは異なり、配列方向の第2高熱伝導部材36が配置され、サーミスタ25が配置されていない断面を示している。
【0061】
第2高熱伝導部材36は基材30よりも熱伝導率の高い部材、例えばグラフェンやグラファイトにより構成される。本実施形態では、第2高熱伝導部材36は厚み1mmのグラファイトシートにより形成される。ただし、第2高熱伝導部材36をアルミニウムや銅、銀などの板材により形成してもよい。
【0062】
図9に示すように、配列方向に部分的に設けられた各第2高熱伝導部材36が、配列方向に複数配置される。ヒータホルダ23の凹部23bの第2高熱伝導部材36が設けられる部分は、その他の部分よりもその深さが一段深く設けられている。第2高熱伝導部材36は、配列方向の両側で、ヒータホルダ23との間に隙間が設けられる。これにより、第2高熱伝導部材36からヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、
図9では
図2のガイド部26の記載を省略している。
【0063】
図10に示すように、第2高熱伝導部材36(ハッチング部参照)は、配列方向において、間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に設けられ、特に本実施形態では、間隔B全域にわたって設けられる。ただし
図10(および後述の
図14)では、第1高熱伝導部材28が、配列方向の発熱部35に対応する領域のみに設けられる場合を示しているが、前述のようにこれに限らない。
【0064】
本実施形態のように、第1高熱伝導部材28に加えて、配列方向の間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に第2高熱伝導部材36を設けることで、間隔Bにおける配列方向の熱伝達効率を特に向上させ、ヒータ22の配列方向の温度ムラをより抑制できる。また、最も好ましくは、
図11に示すように、間隔Bに対応する位置でその全域にのみ第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36を設ける。これにより、間隔Bに対応する位置で、その他の領域と比較して特に熱伝達効率を向上させることができる。なお、
図11では便宜上、抵抗発熱体31と第1高熱伝導部材28そして第2高熱伝導部材36を、
図11の上下方向にそれぞれずらして示しているが、これらは配列交差方向のほぼ同じ位置に配置される。ただし、これに限るものではなく、第1高熱伝導部材28や第2高熱伝導部材36が、抵抗発熱体31の配列交差方向の一部に設けられていたり、配列交差方向の全体を覆うようにして設けられていてもよい。
【0065】
上記と異なる実施形態では、第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36が上記グラフェンシートにより構成される。これにより、グラフェンの面に沿う所定の方向、つまり、厚み方向ではなく配列方向に熱伝導率の高い第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36を形成できる。従って、ヒータ22や定着ベルト20の配列方向の温度ムラを効果的に抑制できる。
【0066】
グラフェンは薄片状の粉体である。グラフェンは、
図12に示すように、炭素原子の平面状の六角形格子構造からなる。グラフェンシートとは、シート状のグラフェンであり、通常、単層である。炭素の単一層に不純物を含んでいてもよい。またグラフェンはフラーレン構造を有したものであってもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環および6員環でかご状に縮環した多環体を形成してなる化合物として認識されており、例えば、C60、C70およびC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造である。
【0067】
グラフェンシートは、人工物であり、例えば化学気相蒸着(CVD)法で作製されうる。
【0068】
グラフェンシートには市販品を用いることができる。グラフェンシートの大きさ、厚み、あるいは後述するグラファイトシートの層数などは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0069】
また、グラフェンを多層化したグラファイトは大きな熱伝導異方性を持つ。グラファイトは、
図13に示すように、炭素原子の縮合六員環層面が平面状に広がった層を有し、この層が何重にも重なった結晶構造を有する。この結晶構造における炭素原子間は、層内での隣接する炭素原子同士は共有結合をなし、層間の炭素原子同士はファン・デル・ワールス結合をなす。そして、共有結合はファン・デル・ワールス結合に比べてその結合力が大きく、層内での結合と層間での結合とでは大きな異方性を持つ。つまり、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36をグラファイトにより構成することで、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36における配列方向の伝熱効率が厚み方向(つまり、部材の積層方向)に比べて大きくなり、ヒータホルダ23への伝熱を抑制できる。従って、ヒータ22の配列方向の温度ムラを効率よく抑制するとともに、ヒータホルダ23側へ流出する熱を最小限に抑えることができる。また第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36をグラファイトにより構成することで、700度程度まで酸化しない優れた耐熱性を第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36に持たせることができる。
【0070】
グラファイトシートの物性や寸法は、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36に求められる機能に応じて適宜変更できる。例えば、高純度のグラファイトあるいは単結晶グラファイトを用いる、あるいは、グラファイトシートの厚みを大きくすることで、その熱伝導の異方性を高めることができる。また、定着装置9を高速化するために、厚みの小さいグラファイトシートを用いて定着装置9の熱容量を小さくしてもよい。また、ニップ部Nやヒータ22の幅が大きい場合には、それに合わせて第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36の配列方向の幅を大きくしてもよい。
【0071】
機械的強度を高める観点から、グラファイトシートの層数は11以上であることが好ましい。またグラファイトシートは部分的に単層と多層の部分とを含んでいてもよい。
【0072】
第2高熱伝導部材36は、配列方向において、間隔B(さらに領域C)に対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に設けられればよく、
図10の配置に限らない。例えば、
図14に示すように、第2高熱伝導部材36Aは、配列交差方向において、基材30よりも配列交差方向の両側へ飛び出して設けられる。また第2高熱伝導部材36Bは、配列交差方向において、抵抗発熱体31が設けられる範囲に設けられる。第2高熱伝導部材36Cは、間隔Bの一部に設けられる。
【0073】
また、
図15に示すように、本実施形態では、第1高熱伝導部材28とヒータホルダ23との間に厚み方向(
図15の左右方向)の隙間を設ける。つまり、ヒータホルダ23のヒータ22、第1高熱伝導部材28、そして第2高熱伝導部材36を配置するための凹部23b(
図9参照)の一部領域であって、配列方向の第2高熱伝導部材36が設けられた部分以外の部分で、配列交差方向の一部領域に、凹部23bの深さをその他の第1高熱伝導部材28を受ける部分よりも深くする、断熱層としての逃げ部23cを設ける。これにより、ヒータホルダ23と第1高熱伝導部材28との接触面積を最小限にとどめることができる。従って、第1高熱伝導部材28からヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、配列方向の第2高熱伝導部材36が設けられる断面では、前述の実施形態の
図8のように、第2高熱伝導部材36がヒータホルダ23に当接する。
【0074】
また、特に本実施形態では、配列交差方向(
図15の上下方向)において、抵抗発熱体31が設けられた範囲全域にわたって逃げ部23cが設けられる。これにより、特に第1高熱伝導部材28からヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、断熱層として、逃げ部23cのように空間を設ける構成の他、ヒータホルダ23よりも熱伝導率の低い断熱部材を設ける構成であってもよい。
【0075】
さらに、以上の説明では、第2高熱伝導部材36を第1高熱伝導部材28とは異なる部材として設けたが、これに限らない。例えば、第1高熱伝導部材28の間隔Bに対応する部分を、その他の部分よりも厚みを設けてもよい。
【0076】
本発明に係る画像形成装置としては、
図1に示すカラー画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置や、複写機、プリンタ、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等であってもよい。
【0077】
例えば
図16に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、感光体ドラムなどからなる画像形成手段50と、一対のタイミングローラ15等からなる用紙搬送部と、給紙装置7と、定着装置9と、排紙装置10と、読取部51と、を備える。給紙装置7は複数の給紙トレイを備え、それぞれの給紙トレイが異なるサイズの用紙を収容する。
【0078】
読取部51は原稿Qの画像を読み取る。読取部51は、読み取った画像から画像データを生成する。給紙装置7は、複数の用紙Pを収容し、搬送路へ用紙Pを送り出す。タイミングローラ15は搬送路上の用紙Pを画像形成手段50へ搬送する。
【0079】
画像形成手段50は、用紙Pにトナー像を形成する。具体的には、画像形成手段50は、感光体ドラムと、帯電ローラと、露光装置と、現像装置と、補給装置と、転写ローラと、クリーニング装置と、除電装置とを含む。トナー像は、例えば、原稿Qの画像を示す。定着装置9は、トナー像を加熱および加圧して、用紙Pにトナー像を定着させる。トナー像の定着された用紙Pは、搬送ローラなどにより排紙装置10へ搬送される。排紙装置10は、画像形成装置100の外部に用紙Pを排出する。
【0080】
さらに、他の実施形態の定着装置9について説明する。前述の実施形態の定着装置と共通する構成については、適宜その記載を省略する。
図17に示すように、定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、サーミスタ25と、第1高熱伝導部材28等を備える。
【0081】
定着ベルト20と加圧ローラ21との間にニップ部Nが形成される。ニップ部Nのニップ幅は10mm、定着装置9の線速は240mm/sである。
【0082】
定着ベルト20はポリイミドの基体と離型層とを備え、弾性層を有していない。離型層は、例えばフッ素樹脂からなる耐熱性のフィルム材からなる。定着ベルト20の外径は約24mmである。
【0083】
加圧ローラ21は、芯金21aと弾性層21bと表層21cとを含む。加圧ローラ21の外径は24~30mmで形成され、弾性層21bの厚みは3~4mmで形成される。
【0084】
ヒータ22は、基材と、断熱層と、抵抗発熱体などを含む導体層と、絶縁層とを含み、全体の厚みが1mmで形成される。また、ヒータ22の配列交差方向の幅Yは13mmである。
【0085】
図18に示すように、ヒータ22の導体層は、複数の抵抗発熱体31と、給電線33と、電極部34A~34Cとを備える。本実施形態においても、
図18の拡大図に示すように、複数の抵抗発熱体31が配列方向に分割された分割領域としての間隔Bが形成される(ただし、
図18では拡大図の範囲のみで間隔Bを図示しているが、実際は全ての抵抗発熱体31同士の間に間隔Bが設けられる)。抵抗発熱体31により、三つの発熱部35A~35Cが構成される。電極部34A,34Bに通電することにより、発熱部35A,35Cが発熱する。電極部34A,34Cに通電することにより、発熱部35Bが発熱する。例えば、小サイズ用紙に定着動作を行う場合には発熱部35Bを発熱させ、大サイズ用紙に定着動作を行う場合には全ての発熱部に発熱させることができる。
【0086】
図19に示すように、ヒータホルダ23は、その凹部23dにヒータ22および第1高熱伝導部材28を保持する。凹部23dは、ヒータホルダ23のヒータ22側に設けられる。凹部23dは、ヒータ22のその他の面よりもステー24側に凹となった基材30に略平行な面23d1と、ヒータホルダ23の配列方向両側(一方側でもよい)でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23d2と、配列交差方向両側でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23d3とにより構成される。ヒータホルダ23はガイド部26を有する。ヒータホルダ23はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0087】
図20に示すように、コネクタ60は、樹脂製(例えばLCP)のハウジングと、ハウジング内に設けられた複数のコンタクト端子等を備える。
【0088】
コネクタ60は、ヒータ22とヒータホルダ23とを表側と裏側から一緒に挟むようにして取り付けられる。この状態で、各コンタクト端子が、ヒータ22の各電極部に接触(圧接)することで、コネクタ60を介して発熱部35と画像形成装置に設けられた電源とが電気的に接続される。これにより、電源から発熱部35へ電力が供給可能な状態となる。なお、各電極部34は、コネクタ60との接続を確保するため、少なくとも一部が絶縁層に被覆されておらず露出した状態となっている。
【0089】
ベルト保持部材66は、定着ベルト20の配列方向の両側に設けられ、定着ベルト20の両端をベルトの内側から保持する。ベルト保持部材66は定着装置9の筐体に固定される。ベルト保持部材66はステー24の両端に挿入される(
図20のベルト保持部材66からの矢印方向参照)。
【0090】
コネクタ60のヒータ22およびヒータホルダ23に対する取り付け方向はヒータの配列交差方向である(
図20のコネクタ60からの矢印方向参照)。コネクタ60のヒータホルダ23に対する取り付け時に、コネクタ60とヒータホルダ23との一方に設けた凸部が、他方に設けた凹部に係合し、凸部が凹部内を相対移動する構成としてもよい。またコネクタ60は、配列方向のいずれか一方側であって、加圧ローラ21の駆動モータが設けられる側とは反対側で、ヒータ22およびヒータホルダ23に取り付けられる。
【0091】
図21に示すように、定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーミスタ25が設けられる。サーミスタ25により検知された定着ベルト20の配列方向中央側と端部側のそれぞれの温度に基づいて、ヒータ22を制御する。
【0092】
定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーモスタット27が設けられる。サーモスタット27により検知された定着ベルト20の温度が定められた閾値を超えた場合には、ヒータ22への通電を停止する。
【0093】
定着ベルト20の配列方向両端には、定着ベルト20の各端部を保持するベルト保持部材66が設けられる。ベルト保持部材66はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0094】
図22に示すように、ベルト保持部材66にはスライド溝66dが設けられる。スライド溝66dは、定着ベルト20の加圧ローラ21に対する接離方向に延在する。スライド溝66dには定着装置9の筐体の係合部が係合する。この係合部がスライド溝66d内を相対移動することにより、定着ベルト20は加圧ローラ21に対する接離方向へ移動できる。
【符号の説明】
【0095】
1 画像形成装置
9 定着装置
20 定着ベルト
21 加圧ローラ
22 ヒータ(加熱体)
23 ヒータホルダ
26 ガイド部
40 分離部材
41 当接部
42 付勢部材
66 ベルト保持部材
66a 保持部
68 側板
N ニップ部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】