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特開2023-139870液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139870
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20230927BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230927BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20230927BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20230927BHJP
   H10N 30/50 20230101ALI20230927BHJP
   H10N 30/05 20230101ALI20230927BHJP
【FI】
B41J2/14 301
H01L41/09
H01L41/257
H01L41/187
H01L41/083
H01L41/27
B41J2/14
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045619
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 善一
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG44
2C057AG92
2C057AG93
2C057AN01
2C057AP52
2C057AP53
2C057BA05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】部品数を低減して製造コストを低減でき、良好な吐出を行える液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】基板、振動板、AlNを含む層及び電極を有するノズル板が振動することにより液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記AlNを含む層は、分極反転されており、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする。
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する変形可能な薄膜部材と、
前記薄膜部材の前記開口の周囲に配置され、前記薄膜部材を変形させる電気機械変換素子と、を備え、
前記電気機械変換素子は、電極と、AlNを含む層と、を含み、
前記AlNを含む層は、分極反転が可能であり、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【請求項2】
前記式(2)中、xは0.05<x<0.43であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記4価の元素は、Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記式(1)中、xは0.05<x<0.43であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記電極は、交差指電極を含み、
前記AlNを含む層は、複数の層からなり、前記交差指電極を介して積層されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくともいずれか一つと前記液体吐出ヘッドとを一体化したことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ユニット。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項6若しくは7に記載の液体吐出ユニットを備えていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項9】
開口を有する変形可能な薄膜部材と、前記薄膜部材の前記開口の周囲に配置され、前記薄膜部材を変形させる電気機械変換素子と、を備えた液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記電気機械変換素子は、電極と、AlNを含む層と、を含み、
前記AlNを含む層を450℃以上で形成するAlN層形成工程と、
前記AlNを含む層を分極させる分極処理工程と、を含み、
前記AlNを含む層は、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【請求項10】
前記AlN層形成工程は、前記AlNを含む層を450℃以上800℃以下で形成することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記式(2)中、xは0.05<x<0.43であることを特徴とする請求項9又は10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記4価の元素は、Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれることを特徴とする請求項9~11のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記式(1)中、xは0.05<x<0.43であることを特徴とする請求項9又は10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記電極は、交差指電極を含み、
前記AlN層形成工程は、前記交差指電極を介して複数の前記AlNを含む層を積層させることを特徴とする請求項9~13のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体を用いた液体吐出ヘッドにおいて、良好な吐出を行うこと、電気機械変換効率を向上させることなどを目的として、圧電体の材料、部材の構成などについて検討されている。
【0003】
特許文献1には、基板上にスカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜を備えた圧電体薄膜の製造方法であって、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下において、スカンジウムの原子数と上記窒化アルミニウム薄膜におけるアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたときのスカンジウムの含有率が0.5~50原子%の範囲となるように、アルミニウムとスカンジウムとでスパッタリングするスパッタリング工程を含み、上記スパッタリング工程における上記基板の温度が、5~450℃の範囲である製造方法が開示されている。特許文献1によれば、スカンジウムを添加した窒化アルミニウム薄膜を備えた圧電体薄膜において、スカンジウムの原子数が35~40原子%の範囲であっても、スカンジウムを含有させない場合と比較して圧電応答性が低下しない、圧電体薄膜を作製することができるとしている。
【0004】
特許文献2には、ノズル形成層のノズル部分の少なくとも一部分に形成された圧電アクチュエータであって、第1および第2の電極の間に設けられた圧電体を備えた液滴吐出器が開示されている。圧電体は、450℃よりも低い温度において処理可能な1つまたは複数の圧電材料を含むことが開示されており、圧電体は、窒化アルミニウム(AlN)を含んでよいことが開示されている。特許文献1によれば、プリントヘッド上の隣接する圧電液滴吐出器の間での音響的クロストークを減少し、より大きなノズル数が達成されることを可能にできるとしている。
【0005】
特許文献3には、基板と圧電体とを有するノズル板が振動することにより液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法であって、圧電体を450℃~600℃で形成することが開示されている。特許文献1によれば、ノズル板が振動することにより液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、吐出特性のばらつきを抑制することができるとしている。
【0006】
特許文献4には、2価元素と4価元素、または、2価元素と5価元素を含有する窒化アルミニウム膜からなる圧電膜と、前記圧電膜を伝搬する弾性波を励振する電極と、を備える弾性波デバイスが開示されている。特許文献3によれば、大きな電気機械結合係数を有する弾性波デバイスを得ること、又は、弾性波デバイスの大型化を抑制することができるとしている。
【0007】
特許文献5には、マグネシウム及びニオブを含有する窒化アルミニウムからなる、圧電薄膜であって、前記マグネシウム100原子%に対して、前記ニオブを31~120原子%含有しており、前記マグネシウム、ニオブ及びアルミニウムの含有量の総和に対する前記マグネシウム及びニオブの合計含有量が、10~67原子%の範囲にある、圧電薄膜が開示されている。特許文献5では、スカンジウムの代わりにマグネシウム(2価)とニオブ(5価)の元素を規定量含む圧電膜が開示されている。特許文献5によれば、スカンジウム以外の安価な元素を含有し、かつ圧電定数が高められた窒化アルミニウムからなる圧電薄膜を提供できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、圧電体を形成する箇所によって液体導入経路を形成するのに必要な複数の部品が必要になることがあり、部品数が増えてしまう。この場合、製造コストが増加してしまう。また、窒化アルミニウムを含む層を圧電体膜として用いる場合、分極の方向が電界の方向と一致しない場合に所望の変形をさせることができず、良好な吐出が行えない場合がある。
【0009】
そこで本発明は、部品数を低減して製造コストを低減でき、良好な吐出を行える液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、開口を有する変形可能な薄膜部材と、前記薄膜部材の前記開口の周囲に配置され、前記薄膜部材を変形させる電気機械変換素子と、を備え、前記電気機械変換素子は、電極と、AlNを含む層と、を含み、前記AlNを含む層は、分極反転が可能であり、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする。
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、部品数を低減して製造コストを低減でき、良好な吐出を行える液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例における斜視説明図(a)及びA-A断面概略図(b)である。
図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの他の例における要部断面概略図(a)及び断面概略図(b)である。
図3】AlNを含む層における分極の方向の一例を模式的に説明するための図である。
図4】AlNを含む層の変形の一例を模式的に説明するための図(a)及びそのときの薄膜部材の変形例を模式的に説明するための図(b)である。
図5】AlNを含む層における分極の方向と電界方向の一例を模式的に説明するための図である。
図6】AlNを含む層における分極の方向と電界方向の他の例を模式的に説明するための断面概略図(a)~(c)である。
図7】分極反転を調べるための測定装置の構成例である。
図8A図7の測定装置の構成例を用いた場合において、分極反転ができないサンプルの場合の測定結果の一例である。
図8B図7の測定装置の構成例を用いた場合において、分極反転が可能なサンプルの場合の測定結果の一例である。
図9】六方晶窒化アルミニウムの単位格子を模式的に示した図である。
図10】六方晶窒化アルミニウムにおけるAlの一部がMgとZrで置換された場合の模式図である。
図11】液体を吐出する装置の一例における概略図である。
図12】液体を吐出する装置の他の例における概略図である。
図13】液体吐出ユニットの一例における概略図である。
図14】液体吐出ユニットの他の例における概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
本発明の液体吐出ヘッドは、開口を有する変形可能な薄膜部材と、前記薄膜部材の前記開口の周囲に配置され、前記薄膜部材を変形させる電気機械変換素子と、を備え、前記電気機械変換素子は、電極と、AlNを含む層と、を含み、前記AlNを含む層は、分極反転が可能であり、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、開口を有する変形可能な薄膜部材と、前記薄膜部材の前記開口の周囲に配置され、前記薄膜部材を変形させる電気機械変換素子と、を備えた液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記電気機械変換素子は、電極と、AlNを含む層と、を含み、前記AlNを含む層を450℃以上で形成するAlN層形成工程と、前記AlNを含む層を分極させる分極処理工程と、を含み、前記AlNを含む層は、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有することを特徴とする。
【0016】
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【0017】
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドの一例を説明するための図である。
図1(a)は本実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視説明図、図1(b)は図1(a)のA-A断面概略図である。この液体吐出ヘッド1は、複数のアクチュエータ10と、液室形成部材20とを有している。
【0018】
アクチュエータ10は、開口102aを有する変形可能な薄膜部材102と、薄膜部材102の開口102aの周囲に配置され、薄膜部材102を変形させる圧電素子103とを有している。開口102aは、ノズル101を形成し、ノズル101から液体が吐出される。圧電素子103は、電気機械変換素子の一例である。薄膜部材は、振動板、メンブレンなどと称されてもよい。
【0019】
圧電素子103は、薄膜部材102の一面に、下部電極111、電気機械変換膜としてのAlNを含む層112、上部電極113を順次積層して形成している。そして、圧電素子103を覆う第1の絶縁膜115を設けている。
【0020】
圧電素子103には、電極配線116と電極配線117が接続されている。電極配線116は下部電極引出し配線であり、第1の絶縁膜115が開口されて下部電極111と接続される。電極配線117は上部電極引出し配線であり、第1の絶縁膜115が開口されて上部電極113と接続される。電極配線116、117は、絶縁膜が開口されて電気接続される。
【0021】
さらに、圧電素子103の第1の絶縁膜115の表面及び電極配線116、117の各表面を含めて第2の絶縁膜118が成膜されている。また、第2の絶縁膜118上に保護膜119を成膜している。本例では、第1の絶縁膜115の表面側には圧電素子103に接続された電極配線116、117を含めて覆う保護膜119が設けられ、少なくとも電極配線116、117と保護膜119との間には第2の絶縁膜118が介在している。
【0022】
例えば、第1の絶縁膜115はSiO膜を用い、保護膜119は樹脂膜を用い、第2の絶縁膜118はSiO膜を用いることができる。
【0023】
アクチュエータ10の薄膜部材102の他面には液室形成部材20が接合されており、液室形成部材20はノズル101(開口102a)が通じる液室201を形成している。薄膜部材102は液室201に対面する部分が変位可能な部分121となる。
【0024】
図1(b)において、保護膜119上に撥水膜を設けてもよい。また、ノズル101と液室201の表面に保護膜を設けてもよい。
【0025】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドの他の例を説明するための図である。
図2(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの要部を図示する図である。図示するように、薄膜部材102上に、下部電極111、AlNを含む層112、上部電極113が順次形成されている。ここでは、電気機械変換素子が有する電極として、下部電極111と上部電極113が図示されている。
【0026】
図2(b)は、図1(b)の他の例である。図示するように、電極配線116は、配線層122と接続し、配線層122は電気接続パッド120と接続する。また、配線層122はCMOS回路124と接続する。CMOS回路は駆動回路の一例である。同様に、電極配線117は、配線層123と接続し、配線層123は電気接続パッド121と接続する。また、配線層123はCMOS回路125と接続する。CMOS回路を通じて駆動電圧が印加される。
【0027】
次に、AlN(窒化アルミニウム)を圧電材料として用いることについて説明する。本実施形態では、電気機械変換膜としてAlNを含む層(AlN膜などと称することがある)を用いている。AlNは非鉛圧電体の一例であり、AlNの性能は結晶性に強く依存する。AlNについては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のような強誘電体と異なり、分極処理による電気-機械変換(いわゆる圧電効果)効率の向上が適用できない。AlNは、無欠陥の完全結晶が原理的に好ましい。基板を加熱して真空成膜で結晶成膜を形成する場合、結晶性の良否は基板温度に依存し、その値が高いほど完全結晶が得られやすくなる。
【0028】
図3は、AlNを含む層14aを形成した後の分極の方向を模式的に説明する図である。AlNを基板11上に薄膜形成すると、窒素面(マイナス面)が終端になる成長をする。そのため、図3に示すように、AlN膜の一方の面がAl面(+)となり、他方の面がN面(-)となる。分極はプラスからマイナスの方向にとり、これを順方向と定義する。そのため、図2に示すように、Al面からN面の方向に分極の方向がとられることになる。図中の矢印は、分極ベクトルを模式的に示したものであるともいえる。
【0029】
例えば、基板11上に、Moで下部電極を形成し、その上に、AlN膜を1μmの厚さで成膜し、更にその上に上部電極を形成したとする。この場合、AlN膜内の分極ベクトルは、図2に示すように、上から下の方向に向くことになる。例えば、下部電極をGNDにし、上部電極に+300Vの電圧を印加させると、この場合、順方向での電圧印加となる。このように電圧を印加させた場合、AlN膜は、厚さ方向に延び、面方向(厚さ方向と直交の方向)に縮むことになる。
【0030】
図4は、膜の変位の一例を模式的に説明するための図である。図4(a)は、AlNを含む層14aにおいて、分極の方向(白矢印)と電界の方向(黒矢印)が同じ方向であることを説明するための模式図である。このように同じ方向である場合、AlNを含む層14aは破線のように、分極方向では伸び、分極方向と直交する方向では縮む。図4(b)は、このときの変位を説明するための模式図である。2箇所を固定した振動板12上に、下部電極111、AlNを含む層14a、上部電極113を配置し、上記の電圧を印加する。この場合、振動板12は、破線で示すように下方向に撓む。このように撓むことにより、液滴を吐出することができる。
【0031】
図5は、2層のAlNを含む層112b、112cと交差指電極131、132を用いた例であり、電圧を印加したときの、ある瞬間を模式的に説明するための図である。図中の白矢印は、分極方向を示す。上述したように、AlNを含む層の場合、分極の方向は、例えばAl面(+)からN面(-)の方向(順方向)になるため、AlNを含む層112bとAlNを含む層112cとで同じ方向になる。図中の黒矢印は、電界の印加方向を示す。図4に示すような交差指電極131、132を用いる場合、AlNを含む層14a、14bの間に設けられた電極17から電極16の方向に電界が生じる。そのため、電界の印加方向は、AlNを含む層112bとAlNを含む層112cとで逆の方向になる。
【0032】
このため、AlNを含む層112bは、分極の方向(白矢印)と電界の方向(黒矢印)が同じ方向(順方向)なので、厚さ方向に延び、面方向に縮むことになる。一方、AlNを含む層112cは、分極の方向(白矢印)と電界の方向(黒矢印)が逆方向なので、厚さ方向に縮み、面方向に延びることになる。
【0033】
従来技術では、電界をかけたとき、図5のAlNを含む層112cに示すように、分極の方向(白矢印)と電界の方向(黒矢印)が逆方向になる層が生じていた。この場合、AlNを含む層112bでは圧電歪みが生じるのに対し、AlNを含む層112cでは圧電歪みが生じないため、圧電歪みが相殺されてしまう。このため、薄膜部材102は撓まない、もしくは撓みが小さくなってしまうという問題が生じる。
【0034】
このように、従来技術では、AlNを含む層を積層させて圧電体として用いる場合、振動板の振動させる(撓ませる)ことができない、もしくは効率良く振動させることができなかった。これは、AlNを含む層の分極方向を反転することができなかったことに起因する。分極方向を反転することができない理由としては、AlN膜がアルミニウム終端で膜成長が終わってしまうことによるものと考えられる。
【0035】
図5では、AlNを含む層を積層させているが、AlNを含む層が単層(1層)の場合であっても良好な吐出性が得られない場合があるという問題が生じる。電圧の印加の仕方によっては、電界の方向と分極の方向が逆方向になり、所望の変形にならず、良好な吐出ができない場合があった。例えば、駆動電圧として例えばパルス電圧を印加した際に、ある電圧波形ではAlNを含む層が変形しない場合があり、良好な吐出が行えない場合がある。この場合もAlNを含む層を分極反転させることができないことによるものと考えられる。
【0036】
そこで本発明者は、上記の問題を解消するために鋭意検討を行い、本発明に至った。
本実施形態では、450℃以上でAlNを含む層を形成するとともに、特定の元素で置換することで、AlNを含む層が分極反転することが可能になる。これにより、電界の方向が分極の方向と逆方向であっても、分極の方向を反転させることができ、良好な吐出が行える。また例えば積層させたでも、圧電体歪みの相殺が発生せず、変換効率を向上させることができる。
【0037】
一方、AlNを含む層を成膜する温度が450℃未満であると、AlNを含む層を分極反転可能な層にすることができない。このため、良好な吐出性が得られず、また変換効率を向上させることができない。
【0038】
また、本実施形態では、AlNを含む層を形成した後、分極処理を行う。これにより、AlNを含む層が圧電体として機能でき、分極反転可能な圧電体層にすることができる。分極処理については後述する。
【0039】
図6は、本実施形態により得られるAlNを含む層における分極の方向を模式的に説明するための図である。図6(a)は、AlNを含む層が単層の場合の例であり、図示するように、白矢印で示される分極の方向が図2と反対の方向になっており、すなわち部局反転されている。図6(b)は、AlNを含む層が2層の場合の例であり、図6(c)は、AlNを含む層が3層の場合の例である。本実施形態により得られるAlNを含む層は分極反転することが可能であり、AlNを含む層の全てで、電界の向きと分極の向きが同じ方向になるため、圧電体歪みの相殺を防止することができる。これにより変換効率を飛躍的に向上させることができる。
【0040】
図6(b)の場合、すなわちAlNを含む層が2層の場合について、以下の試験例1と試験例2を例に挙げて説明する。なお、圧電歪みは電界強度に比例するということを考慮して以下、変換効率について検討を行った。
試験例1は、膜厚1μmのAlNを含む層を単層とした例である。膜厚1μmのAlNを含む層に150Vを印加して薄膜部材(振動板)を変形させる。このときの変位量をXとする。
試験例2は、膜厚0.5μmのAlNを含む層を2層積層させた例である。このとき、膜厚0.5μmのAlNを含む層のそれぞれに75Vを印加して薄膜部材を変形させると、各層の変位量はそれぞれ0.5Xになるが、トータルとしての変位量はX(=0.5X+0.5X)になる。このため、試験例1よりも少ない駆動電圧で同じ変位量を得ることができる。
また、試験例2において、膜厚0.5μmのAlNを含む層のそれぞれに150Vを印加させた場合、各層の変位量はそれぞれXになり、トータルとしての変位量は2X(=X+X)になる。このため、試験例1と同じ量の駆動電圧で2倍の変位量を得ることができる。
このように、本実施形態によれば、AlNを含む層を積層させた場合、変換効率を飛躍的に向上させることができる。
【0041】
本実施形態において、AlNを含む層の厚みは、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。また、AlNを含む層が形成される箇所としては、全てが下部電極上に形成されている必要はなく、AlNを含む層の一部が、下部電極が形成されていない箇所に形成されていてもよい。
【0042】
AlN層形成工程において、基板温度を450℃以上にしてAlNを含む層を成膜することにより、AlNを含む層を分極反転可能な層にすることができる。その理由としては一概にはいいにくいが、例えば以下のように考えられる。
【0043】
AlNは、高温から室温にかけて構造相転移を示す。高温相では立方晶窒化アルミニウムであり、低温相では六方晶窒化アルミニウムである。高温相の立方晶窒化アルミニウムは圧電性を持たないが、低温相の六方晶窒化アルミニウムは圧電性を持つ。液体吐出ヘッドの圧電体にAlNを用いた場合、AlNは低温相の六方晶窒化アルミニウムとして駆動することになる。六方晶窒化アルミニウムでは、成膜温度によって結晶性に違いが生じ、成膜温度を上げることで結晶性が向上する。そのため、分極処理を行った際に、分極反転が可能なAlNを含む層を得られやすくなると考えられる。
【0044】
AlNにおいて、高温相と低温相の相転移温度は約500℃にあるが、スパッタリングなどの薄膜形成方法は熱平衡状態ではないため、明確な相転移温度は存在しないともいえる。そのため、圧電性の向上、薄膜形成方法等を考慮して、450℃以上でAlNを含む層を形成している。
【0045】
分極反転が可能かどうかの確認は、本実施形態では以下のようにして行う。一例を挙げて説明する。
測定するサンプルとしては、下部電極111、AlNを含む層112、上部電極113を積層させ、上部電極113上に保護膜を形成したものを用いる。保護膜としては、絶縁膜であってもよい。AlNを含む層112が複数の層である場合、サンプルの電極には交差指電極131、132を用いる。
下部電極111と上部電極113を通じて電圧を印加する。印加する電圧としては、以下とする。任意波形発生装置を用いて三角波を発生させ、周波数を数Hz程度とし、振幅を±10Vとし、これをアンプで増幅させる。増幅器としては、トレック社製610Cを用いる。この装置の場合、アンプの増幅率は1,000倍であり、信号発生器で10V出力時には10,000Vの電圧出力になる。
サンプルの膜厚は1μmとし、この場合、サンプルに印加される電界強度は100MV/cmになる。なお、この電界強度の数値は、10,000V/0.0001cmを計算したものである。
このサンプルに電圧を印加し、分極値の変化を測定する。電圧印加による分極値の変化は、チャージアンプから検出する。強誘電体材料のP-Eヒステリシス曲線の求め方やQ=CVの関係式を考慮し、横軸を電圧とし、縦軸を発生電荷Qとしてプロットする。縦軸の発生電荷Qは、チャージアンプが電圧に変換して出力したものである。このようなプロット(Q-Vプロットとも称する)において、傾きはC[F]になる。ここで、AlNを含む層はCが一定であるため、Q-Vプロットは原点を通る直線になる。
【0046】
上記の測定装置の構成例を図7に示す。この構成では、任意波形発生装置、増幅器、反転増幅積分器、記録計を用いて測定を行う。ch1は任意波形発生装置の出力を検出し、ch2は反転増幅積分器の出力を検出する。Q-Vプロットは記録計で記録された値に基づき作成される。
【0047】
AlNを含む層は、材料の組成、結晶構造、作製条件などにより、分極反転可能なものと、分極反転ができないものとがある。分極反転可能である場合、分極の方向と反対の方向の電界を印加すると、分極の方向(分極ベクトルの向き)が電界方向に一致するように向きが変わる。このように、分極の方向と反対の方向の電界を印加した場合に、分極の方向が変わることを分極反転と称する。分極反転が可能な層である場合、Q-Vプロットにおいて、Q=CVの直線ではなく、非連続に増加する関係を示す。
【0048】
また、上記の測定では、交番電界(三角波)を印加しているため、90°位相が進むと、反転した分極と逆方向の電界が印加されることとなる。この場合、ある許容値を超えると分極が反転する。結果として、ch2の測定値が正方形や長方形のような分極応答を示す。
なお、電界強度の増加により分極反転する前に圧電体が絶縁破壊する場合もあり、このような材料は本発明には不適切である。
【0049】
図8A図8Bを用いて、分極反転ができないAlNと、分極反転が可能なAlNを説明する。図8Aは、分極反転ができないAlNの場合について説明する図であり、上記図7の測定装置の構成例によって得られた結果である。図8Bは、分極反転が可能なAlNの場合について説明する図であり、上記図7の測定装置の構成例によって得られた結果である。
【0050】
図8A(a)は、記録計のch1とch2をプロットした図であり、横軸を時間[秒]としている。交番電界(三角波)を印加しているため、ch1は三角波になっている。図示するように、ch1(図8A(a)の上段)とch2(図8A(a)の下段)とで、時間変化が同じになっている。この場合、図8A(b)に示すQ-Vプロットからもわかるように、分極反転ができないといえる。図8A(b)に示すように、Q-Vプロットでは、Q=CVの直線になっており、分極反転ができないことがわかる。
【0051】
図8B(a)は、図8A(a)と同様に、記録計のch1とch2の検出値をプロットした図であり、図8B(b)は、Q-Vプロットである。図8B(a)に示されているように、分極反転が可能なAlNの場合、ch1のように交番電界(三角波)を印加すると、ch2の測定値がch1と相違し、段階的に変化する。これは、電界がある許容値を超えた場合に、分極が反転していることを意味する。この場合、図8B(b)のQ-Vプロットでは、Q=CVの直線にならずに、ヒステリシスを示すようになる。このように、図8Bでは分極反転が生じていることが示されており、図8Bのサンプルは、分極反転が可能であることがわかる。
【0052】
分極反転について補足説明を行う。図8B(b)のQ-Vプロットでは、EcとPsが図示されている。Ecは抗電界などとも称され、ch2の信号が横軸と交わるときの電界強度である。Psは自発分極などとも称され、ch2の信号が縦軸と交わるときの分極値である。このように、分極反転が可能なサンプルの場合、EcとPsが存在する。一方、図8A(b)のように、分極反転ができないサンプルの場合、EcとPsが存在しない。このため、EcとPsの有無を調べることで、分極反転が可能であるか(分極反転しているか)を確認することができる。
【0053】
本実施形態において、AlNを含む層は、AlNの一部のAlがScで置換され下記式(1)で表される組成を有するか、又は、AlNの一部のAlがMg及び4価の元素で置換され下記式(2)で表される組成を有する。
Al1-xScN 式(1)
Al1-x(Mg,β)N 式(2)
ただし、式(1)及び式(2)中、xは0<x<1であり、式(2)中、βは4価の元素を表す。
【0054】
AlNを含む層を上記のように置換することで、圧電性能を向上させることができ、良好な吐出性能を得ることができる。一方、AlNを含む層を上記のように置換しない場合、分極反転が可能な層にならず、良好な圧電性能を得られず、良好な吐出性能が得られにくい。例えば、成膜温度を450℃以上にした場合であっても、上記のように置換しない場合、分極反転が可能な層にならない。
【0055】
AlNのAlを例えばScに置換した圧電材料が知られており、Scは、そのイオン半径や原子価を考慮すると、AlNの置換元素として用いることに適している。AlNにおいてScで置換した材料は、ある組成の範囲でAlNの3倍の圧電性能を有する。この組成物は、抗電界が低くなるため、絶縁破壊が生じる前に分極反転処理ができると考えられる。
【0056】
AlNにおいてScで置換した材料を化学式で表すと、上記式(1)のように、Al1-xScNとなる。xはScの置換量を表し、0<x<1である。AlNの結晶構造の一つとして六方晶が挙げられ、Scで置換した場合、置換量xの増加に伴い、六方晶のc軸が短くなり、a軸が大きくなる。分極のしやすさとしての指標は、例えば軸比c/aが挙げられ、軸比c/aが1に近づくほど分極がしやすいといえる。
【0057】
このようなことから、式(1)中、xは0.05<x<0.43であることが好ましく、0.05≦x≦0.40であることがより好ましい。この場合、軸比が1に近づき、分極しやすくなる。例えばx=0.25である場合、圧電材料の特性が無置換のAlNのd33と比べて約2.5倍に向上させることができる。また、x=0.25の場合、比誘電率は約15になり、無置換のAlNと比べて1.5倍に向上させることができる。
【0058】
また、Scとは別のAlNの置換元素の候補として、3価の元素が挙げられる。3価の元素としては、ホウ素、ビスマス、ランタノイド元素、ガリウム、インジウムなどが挙げられるが、本発明者は複合原子価の考えを考慮して、Scとは別の置換元素として、2価の元素と4価の元素の複合を用いることもできるのではないかと考えた。
【0059】
具体的には、2価の元素としてMgを用い、4価の元素としてTi、Zr、Hf、Siを用い、2価の元素と4価の元素を組み合わせて用いることができるのではないかと考えた。これを一般式で表すと、上記式(2)のように、Al1-x(Mg,β)Nとなる。上記式(1)のようにScを用いる場合、高価になることが想定されるため、AlNを含む層が上記式(2)で表される組成を有する場合、製造コストを低減することができる。
【0060】
式(2)中、xは0.05<x<0.43であることが好ましく、0.05≦x≦0.40であることがより好ましい。上記式(1)と同様に、この場合、軸比が1に近づき、分極しやすくなる。
【0061】
式(2)中、4価の元素(β)は、Ti、Zr、Hf及びSiから選ばれることが好ましい。この場合、βがMgの電荷補償元素として対になり、圧電性能が向上する。
【0062】
本実施形態において、AlNを含む層の組成は、蛍光X線分析を用いて求める。
【0063】
ここで、AlNの結晶構造について図を用いて説明する。図9は、六方晶窒化アルミニウムの単位格子を模式的に示した図であり、図中、Al、Nの一部を図示している。図示されるAlの一部が、Sc、Mg、Tiなどで置換される。
【0064】
図10は、六方晶窒化アルミニウムにおけるAlの一部がMgとZrで置換された場合の模式図である。図10では、図9の格子よりも広げた格子を図示している。図中、Mgは1つ、Zrは1つ図示されており、Mgと4価の元素(ここではZr)で置換したAlN膜の結晶構造の一例である。このような構造をMgZr置換-AlN結晶などと称してもよい。
【0065】
このような構造を有するAlN膜を作製するには、制限されるものではないが、例えば、Mgカソード上に複数個のZr金属チップを配置して、Alカソードとの同時反応性スパッタリング法により形成することができる。このような方法においては、Zr金属チップの代わりに、Ti、Hf、Siを用いることで、各種組成膜を形成することができる。
【0066】
本実施形態においてAlNを含む層は、単層(1層)であってもよいし、複数の層であってもよい。AlNを含む層が複数の層である場合、例えば図6(b)、(c)に示すように、電極は交差指電極を含み、AlNを含む層は交差指電極を介して積層されていることが好ましい。このように電極を介して積層させることで、変換効率を飛躍的に向上させることができるという優れた効果が得られる。
【0067】
なお、交差指電極にする場合、電極の称し方は、適宜変更することができる。単に、第1の交差指電極、第2の交差指電極と称してもよいし、GND電極、対向電極と称してもよいし、下部電極、上部電極などと称してもよい。
【0068】
本実施形態では、AlNを含む層を分極反転させることができるため、AlNを含む層を積層させた場合に、AlNを含む層同士の圧電歪みが互いに相殺されることを防止でき、駆動電圧を低減することができる。例えば、AlNを含む層が単層である場合に300Vの駆動電圧で変位量xが得られていたとする。本実施形態では、AlNを含む層を2層にし、層間に電極を形成して駆動電圧を印加すると、150V程度で変位量xを得ることができる。また、300Vの駆動電圧を印加すると、変位量2xを得ることができる。
【0069】
AlNを含む層が複数の層である場合、積層数n(層数n)としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。積層数nを増やすことにより、駆動電圧を単層時の電圧の1/nに減少させることができる。例えば、圧電体層が単層で300Vを印加していた材料構成において、圧電体層を4層とし交差指にした場合、各圧電体層に75Vを印加することで同じ歪みを得ることができる。そのため、駆動電圧を単層と同じ300Vにしたままで、圧電体層を4層とし交差指にした場合、発生力は4倍になる。
【0070】
AlNを含む層が複数の層である場合、材料構成、厚み等は、層同士で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0071】
次に、液体吐出ヘッドの製造方法の観点から本実施形態を更に説明する。
上述したように、本実施形態におけるAlN層形成工程では、AlNを含む層を450℃以上で形成する。形成する温度(成膜温度、基板温度)は、450℃以上800℃以下で形成することが好ましい。上記温度範囲である場合、Si基板と駆動回路が一体形成された液体吐出ヘッドを形成する際に品質を向上させることができる。また、800℃以下であることにより、MOS-TrのVthのドリフトが生じることを抑制でき、ロジック動作に支障をきたす可能性を低減できる。
【0072】
また、AlN層形成工程における形成温度の上限としては、700℃以下であることがより好ましく、600℃未満であることが更に好ましい。この場合、圧電性能を向上させることができる。
【0073】
なお、本実施形態では、トランジスタのメタライゼーション工程を行ってもよい。特に制限されるものではないが、AlNを含む層を成膜する温度が500℃以上800℃以下である場合、トランジスタのメタライゼーション工程は、AlN層形成工程よりも後に行うことが好ましい。500℃以下である場合、特に制限はなく、AlN層形成工程は、トランジスタのメタライゼーション工程の後に行ってもよい。
【0074】
AlNを含む層におけるAlNの一部のAlを他の元素で置換する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば作製条件を適宜変更する方法が挙げられ、例えばマグネトロンスパッタリング法の条件を適宜変更する方法が挙げられる。
【0075】
AlNの一部のAlをScに置換したAlNを含む層を形成する条件の一例を以下に示す。このような条件により数時間成膜することで、例えば膜厚1μmのAl(1-x)ScN膜を得ることができる。
作製方法:二元同時反応性マグネトロンスパッタリング法
基板温度:室温~700℃
窒素濃度:40%(アルゴンバランス)
ターゲット寸法:4インチ
Alカソード電力:800W
Scカソード電力:0~800W
なお、上記の「室温~700℃」とあるのは、基板温度が室温から700℃の範囲内で任意の基板温度で成膜するということを意味している。例えば室温の場合は、基板を加熱せずに成膜することを意味する。
【0076】
AlNを含む層を複数の層にする場合、AlN層形成工程では、交差指電極を介して複数のAlNを含む層を積層させる。例えば、図6(b)、(c)のような層構成にする。本実施形態では、AlNを含む層を複数の層にすることで、変換効率が向上し、駆動電圧を低減しても良好な変位が得られる。
【0077】
本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法では、図6中の電極膜113や131、132を形成し、その後の保護膜(図6では図示せず)を形成した後にポーリング処理(分極処理)工程を行い、AlNを含む層を分極反転させる。ポーリング処理工程はAlNを含む層を形成し、更に電極を形成し、その後の保護膜(図6では図示せず)を形成した後に行う。また、AlNを含む層が複数の層である場合、全ての層を形成し、更に電極を形成した後に行う。
【0078】
ポーリング処理としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。中でも、ACポーリングを用いることが好ましく、パルスACポーリングを用いることがより好ましい。圧電体形成工程の後のAlNは、六方晶と立方晶の混合状態であると考えられ、このような混合状態の場合、パルスACポーリングが特に好ましく、良い効果が得られる。
【0079】
パルスACポーリングの一例について説明する。
圧電体形成工程の後、分極反転、分極非反転のダブルパルス測定を行い、反転電荷と非反転電荷の差異から、分極反転の有無を確認する。パルス条件としてスルーレートを600V/μs、保持時間を1μs、振幅を600Vとし、1μmの厚みの試料に対してパルスの照射を行う。このようにすることでAlNに対して分極処理を行うことができる。
【0080】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドの作製について一例を説明する。ここで示す例は、図2(b)に示すような液体吐出ヘッドを形成することを想定している。ここでは説明を省略している部材もある。
【0081】
(1)シリコンウェハ(シリコン基板)に、CMOS論理演算部(CMOS回路)を形成する。
CMOS回路を形成する際に、メタライゼーション工程を行ってもよいし、下記(2)の後にメタライゼーション工程を行ってもよい。AlNを含む層を形成する際の温度によっては、メタライゼーション工程は下記(2)の工程に後(下記(4))に行うことが好ましい。ここでは、下記(2)の後にメタライゼーション工程を行う例を説明する。
【0082】
(2)シリコンウェハ上に振動板、AlNを含む層、電極を形成する。これらは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を用いて形成することができる。以下に一例を例示する。
振動板は、例えばプラズマCVD(化学気相成長法)を用いて、SiO膜等を堆積させることにより形成することができる。
下部電極は、例えばDCマグネトロンスパッタリング法を用いて、Mo金属等を成膜することにより形成することができる。
AlNを含む層は、例えばRF反応性マグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
上部電極は、例えばDCマグネトロンスパッタリング法を用いて、Mo金属等を成膜することにより形成することができる。
【0083】
(3)次いで、パルスACポーリングにより分極処理を行う。
【0084】
(4)次いで、層間絶縁膜(第1の絶縁膜)を形成し、コンタクトホールを開口させる。次いで、メタライゼーションを行い、取り出し電極(引出し配線)を形成する。メタライゼーション工程では、例えばAlを用いる。
【0085】
(5)次いで、パッシベーション膜(第2の絶縁膜)を取り出し電極上に形成する。
【0086】
(6)次いで、例えばエッチングにより、ノズル(ノズル孔)を形成する。
【0087】
(7)次いで、ノズルを形成した面とは反対側からシリコン基板を部分的に除去し、液室を形成する。例えばエッチングを用いる。
【0088】
以上の工程により、図2(b)に示すような液体吐出ヘッドを形成することができる。
【0089】
本実施形態の液体吐出ヘッドでは、ノズル板に閉塞プレートを接合することでインク供給経路を作製することができるため、製造コストの低減にも有効である。例えば、圧電体がノズル板に設けられていない液体吐出ヘッドでは、液体抵抗部など、液体導入経路を形成するのに必要な複数の部品が必要になることがあるが、本実施形態では部品数を低減でき、製造コストを低減できる。
【0090】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について図11及び図12を参照して説明する。図11は同装置の要部平面説明図、図12は同装置の要部側面説明図である。
【0091】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0092】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0093】
液体吐出ヘッド1の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド1に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0094】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0095】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0096】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0097】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0098】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0099】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0100】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0101】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0102】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0103】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0104】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について図13を参照して説明する。図13は同ユニットの要部平面説明図である。
【0105】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0106】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0107】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図14を参照して説明する。図14は同ユニットの正面説明図である。
【0108】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0109】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0110】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0111】
「液体吐出ユニット」には、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0112】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0113】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0114】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0115】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0116】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0117】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0118】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0119】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を 気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0120】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0121】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0122】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0123】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0124】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0125】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0126】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0127】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【実施例0128】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0129】
(実施例1及び比較例1:AlNを含む層が単層である場合)
シリコン基板上に、プラズマCVD法を用いてSiO膜を堆積させることにより、薄膜部材を形成した。次いで、DCマグネトロンスパッタリング法を用いてMo金属を成膜し、下部電極を形成した。次いで、以下の条件でAlNを含む層を形成した。
【0130】
[AlNを含む層の形成条件]
方法:二元同時反応性マグネトロンスパッタリング
基板温度と加熱時間:室温から温度を上昇させ、下記表1の温度で加熱した
窒素濃度:40%(アルゴンバランス)
ターゲット寸法:4インチ
Alカソード電力:800W
Scカソード電力:0~800W
【0131】
上記のようにして、数時間かけて厚みが1μmのAlNを含む層を形成した。ここでは、AlNを含む層は1層であり、形成したAlNを含む層の組成は、Al1-xScNである。
【0132】
次いで、DCマグネトロンスパッタリング法を用いてMo金属を成膜し、上部電極を形成した。
次いで、パルスACポーリングを行い、形成したAlNを含む層に対して分極処理を行った。パルス条件としてスルーレートを600V/μs、保持時間を1μs、振幅を600Vとし、1μmの厚みの試料に対してパルスの照射を行った。このようにすることでAlNに対して分極処理を行った。
【0133】
分極反転の確認は、図7の測定装置の構成を用いた。また、Q-Vプロットにおいて、EcとPsの有無についても確認した。また、圧電性(d33)について、公知の測定方法により測定した。
【0134】
上記を基本形として、成膜温度(基板温度)、置換元素、置換量を下記表1のように変更した。置換量(%)とあるのは、Al1-xScN又はAl1-x(Mg,β)Nにおけるxをパーセンテージで表したものに相当する。AlNを含む層の組成や置換量は、蛍光X線分析を用いて求めた。
【0135】
【表1】
【0136】
表1からわかるように、成膜温度が450℃未満である場合、分極反転ができない。比較例1-1~比較例1-6では、表1中、分極反転が「×」となっており、絶縁破壊が生じてしまった。このように、比較例では、電界強度の増加により、分極反転する前に絶縁破壊が生じてしまい、分極反転ができなかった。
一方、実施例1-1~1-14では、成膜温度が450℃以上であり、分極反転を行うことができた。測定したQ-Vプロットにおいて、図8B(b)に示すようなヒステリシスが確認され、表1に示すようにEcとPsが存在していた。
なお、実施例1-13と実施例1-14は、高温(600℃、700℃)でAlNを含む層を形成した場合の例であり、分極反転するものの、成膜温度が高温であるため、d33が実施例1-6に比べて若干劣っていたが、実用上の問題はない。
また、置換量が5%(x=0.05)の実施例1-2、1-7、1-9、1-11では、d33が他の実施例に比べて若干劣るものの、分極反転が可能であり、実用可能なレベルである。また例えば実施例1-2~1-4を考慮すると、置換量は10%以上(x≧0.10)が好ましく、25%以上(x≧0.25)がより好ましいといえる。
【0137】
(実施例2:AlNを含む層が複数の層である場合)
<実施例2-1:AlNを含む層が複数の層である液体吐出ヘッドの作製>
ここでは図6(b)に示すような層構成にした。
シリコン基板上に、プラズマCVD法を用いてSiO膜を堆積させることにより、厚さ5μmの薄膜部材102を形成した。
次いで、振動板上に、交差指電極の対向電極(電極131)として、Mo膜を0.1μmの厚みで成膜した。
次いで、電極131上に、AlNを含む層112bとして、40%Sc置換AlN膜を0.5μmの厚みで堆積させた。
次いで、AlNを含む層112b上に、交差指電極のGND電極(電極132)として、Mo膜を0.1μmの厚みで成膜した。
次いで、電極132上に、AlNを含む層112cとして、40%Sc置換AlN膜を0.5μmの厚みで堆積させた。
次いで、AlNを含む層112c上に、交差指電極の対向電極(電極131)として、Mo膜を0.1μmの厚みで成膜した。このMo膜は、最初のMo膜と導通するようにした。
次いで、シリコン基板の裏面から、シリコン基板を部分的に除去して液室201を形成した。液室201を形成することで、薄膜部材102が変形できる領域を確保した。
【0138】
次に、試料温度を200℃に加熱してACパルスポーリング(分極処理)を実施した。ACパルスポーリングの条件としては、スルーレートを600V/μs、保持時間を1μs、振幅を±600Vとし、この条件で1サイクルの処理を行った。
【0139】
このようにして、本実施例の液体吐出ヘッドを作製した。ただし、ここでは液体の吐出についての評価は行わないため、ノズルの作製は省略した。
【0140】
次に、本実施例の液体吐出ヘッドについて、駆動電圧を印加して変位の評価を行ったところ、変位が確認された。
【0141】
<実施例2-2:AlNを含む層が単層である液体吐出ヘッドの作製>
実施例2-1において、AlNを含む層が厚さ1μmの単層の40%Sc置換AlN膜とし、電極を下部電極及び上部電極とした以外は、同様にして液体吐出ヘッドを形成した。この液体吐出ヘッドについても変位の評価を行ったところ、変位が確認された。
【0142】
<実施例2-3:変換効率の評価>
次に、以下のようにして変換効率の評価を行った。
まず、実施例2-2(単層)の液体吐出ヘッドに、駆動電圧として300Vの電圧を印加し、変位量を求めた。
なお、実施例2-2の液体体吐出ヘッドにおけるAlNを含む層として、厚み1μmの単層の40%Sc置換AlN膜を用いているのは、実施例2-1の液体吐出ヘッドにおけるAlNを含む層が、厚さ0.5μmの40%Sc置換AlN膜(AlNを含む層112b)と厚さ0.5μmの40%Sc置換AlN膜(AlNを含む層112c)からなるため、これと比較するためである。
一方、実施例2-1の液体吐出ヘッドについて、駆動電圧を印加させたところ、150Vを印加させたときに実施例2-2と同等量の変位が確認された。このため、実施例2-1の液体吐出ヘッドは、低電圧で同等量の変位が得られており、優れた変換効率が得られていることがわかる。
【0143】
(実施例3:液体吐出ヘッドの作製と吐出性の評価)
以下のようにして本実施例の液体吐出ヘッドを作製し、吐出性の評価を行った。
【0144】
<実施例3-1:AlNを含む層が単層の場合>
まずシリコン基板上に、プラズマCVD法を用いてSiO膜を堆積させることにより、厚さ5μmの薄膜部材102を形成した。次いで、薄膜部材102上に、下部電極111として、Mo膜を0.1μmの厚みで成膜した。次いで、実施例1-1と同様にして、AlNを含む層として厚さ1μmの単層の40%Sc置換AlN膜を形成した。成膜温度は表1に示すように450℃とした。次いで、上部電極113として、Mo膜を0.1μmの厚みで成膜した。
次に、試料温度を200℃に加熱してACパルスポーリングを実施し、分極処理を行った。
【0145】
次に、直径10μmのノズル101を形成した。
次いで、シリコン基板の裏面にエッチング(Deep-RIE)を行い、液室201を形成した。ここでは、薄膜部材102の固定端の直径が200μmとなるように液室201を形成している。また、薄膜部材102の駆動部(変形領域121)の直径(上部電極の直径に相当)は、薄膜部材102の振動領域の直径の70%になるようにしている。
次いで、液室201側に閉塞プレートを接合することで、インク供給経路を作製した。
【0146】
なお、液室201のSi壁には、液体の接触性を高める膜を形成するようにしてもよい。また、液室201を作製する前にシリコン基板を研磨してもよい。例えば400μm程度の厚さに研磨することで、エッチングの時間を短縮することができる。
【0147】
次いで、上部電極113上に電気的・機械的に保護するための保護膜119を形成した。なお、液滴に対して疎水性を有する接液膜を形成してもよい。
このようにして、本実施例の液体吐出ヘッドを作製した。
【0148】
次に、液室にダワノール(粘度8cP)を充填し、駆動電圧を印加して液滴吐出性能を評価した。評価は以下のようにして行った。
定常状態+150Vに保持した液体吐出ヘッドに-150Vの電位を1μs印加し、+150Vに戻したところ、4plの液滴が7m/sの速度で吐出された。これは良好な吐出性能であった。
【0149】
また、本実施例の液体吐出ヘッドでは、閉塞プレートを接合することでインク供給経路を作製することができるため、製造コストの低減にも有効である。例えば、圧電体がノズル板に設けられていない液体吐出ヘッドでは、液体抵抗部など、液体導入経路を形成するのに必要な複数の部品が必要になることがあるが、本実施例では部品数を低減でき、製造コストを低減できる。
【0150】
<比較例3-1:AlNを含む層が単層の場合>
上記実施例3-1において、AlNを含む層を比較例1-6(成膜温度が400℃)の条件で作製したものに変更した以外は、上記実施例3-1と同様にして液体吐出ヘッドを作製した。
このようにして作製した液体吐出ヘッドについて、上記実施例3-1と同様に吐出性能を評価したところ、4plの液滴を7m/sの速度で吐出するのに必要とされる電圧が+300Vから-300V必要となり、良好な吐出性能が得られなかった。
【0151】
<実施例3-2:AlNを含む層が複数の層の場合>
次に、AlNを含む層が複数の圧電体層である場合の液体吐出ヘッドについても同様に液滴吐出性能を評価した。上記の液体吐出ヘッドにおいて、上記実施例2のようにして2層のAlNを含む層とし、交差指電極を形成した。このようにして実施例3-2の液体吐出ヘッドを作製した。
この液体吐出ヘッドについて、上記実施例3-1と同様に液滴吐出性能を評価する。本実施例では、駆動電圧を印加する際に、実施例3-1よりも低減した駆動電圧で実施例3-1と同じように液滴の吐出を行うことができた。すなわち、実施例3-1よりも低減した駆動電圧で、4plの液滴を7m/sの速度で吐出することができた。具体的には、実施例3-1の半分程度の駆動電圧、すなわち75V程度の駆動電圧で上記の吐出を行うことができた。このように、本実施例によれば、良好な吐出性能でありつつ、変換効率を更に向上させることができた。
【符号の説明】
【0152】
1 液体吐出ヘッド
101 ノズル
102 薄膜部材
111 下部電極
112 AlNを含む層
113 上部電極
201 液室
【先行技術文献】
【特許文献】
【0153】
【特許文献1】WO2011002028号公報
【特許文献2】特表2019-530601号公報
【特許文献3】特開2021-112907号公報
【特許文献4】特開2013-219743号公報
【特許文献5】WO2015080023号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14