(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139906
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】脳活動計測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/246 20210101AFI20230927BHJP
A61B 5/377 20210101ALI20230927BHJP
【FI】
A61B5/246
A61B5/377
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045679
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】小池 暢人
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 博史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 究
(72)【発明者】
【氏名】土嶺 章子
(72)【発明者】
【氏名】三坂 好央
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127DD00
4C127DD01
4C127FF07
4C127GG05
4C127GG07
4C127GG13
(57)【要約】
【課題】脳活動計測装置の計測精度を向上させることを可能とする。
【解決手段】刺激の付与に伴い誘発された被験者の脳活動を示す信号を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記信号に基づいて、前記被験者の脳領域のうち、計測対象となる複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを導出する導出部と、前記導出部が導出した前記時系列データに基づいて、当該時系列データの統計的な特徴を示す特徴量を前記関心領域毎に算出する特徴量算出部と、複数の前記関心領域のうち、何れか一の関心領域について算出された前記特徴量を用いて、他の関心領域に算出された前記特徴量を除算した結果を、前記脳活動の状態を示す脳活動指標として出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激の付与に伴い誘発された被験者の脳活動を示す信号を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記信号に基づいて、前記被験者の脳領域のうち、計測対象となる複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを導出する導出部と、
前記導出部が導出した前記時系列データに基づいて、当該時系列データの統計的な特徴を示す特徴量を前記関心領域毎に算出する特徴量算出部と、
複数の前記関心領域のうち、何れか一の関心領域について算出された前記特徴量を用いて、他の関心領域に算出された前記特徴量を除算した結果を、前記脳活動の状態を示す脳活動指標として出力する出力部と、
を備える脳活動計測装置。
【請求項2】
前記特徴量算出部は、前記特徴量として、前記刺激の付与が開始された後の所定期間における前記時系列データの信号強度の時間平均を算出する、
請求項1に記載の脳活動計測装置。
【請求項3】
前記特徴量算出部は、前記時系列データから前記信号強度が最大値となる時間を特定し、当該時間を含む前記所定期間での前記時間平均を算出する、
請求項2に記載の脳活動計測装置。
【請求項4】
前記特徴量算出部は、前記最大値の半値幅を包含する前記所定期間を設定する、
請求項3に記載の脳活動計測装置。
【請求項5】
前記刺激は、視覚刺激、味覚刺激、嗅覚刺激及び体性感覚刺激の何れかである、
請求項1~4の何れか一項に記載の脳活動計測装置。
【請求項6】
前記関心領域は、灰白質を含む領域である、
請求項1~5の何れか一項に記載の脳活動計測装置。
【請求項7】
複数の前記関心領域における重心の距離が15cm以下である、
請求項1~6の何れか一項に記載の脳活動計測装置。
【請求項8】
前記取得部は、脳磁計又は脳波計によって検出された前記脳活動を示す信号を取得する、請求項1~7の何れか一項に記載の脳活動計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳活動計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳磁計等の脳活動計測装置では、ヒトの脳神経活動に伴って発生する微弱な磁場等を計測することが行われている。
【0003】
また、従来、脳活動計測装置で計測される脳活動の状態を、疾患の有無や、疾患の進行状態を示すバイオマーカとして用いることで、疾患の診断支援を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の脳活動計測装置で計測される計測値には、頭の大きさや覚醒状態等に由来する被験者に固有のノイズファクターが影響していること知られている。ノイズファクターは計測される脳活動の精度を低下させる可能性があるため、更なる改善が要望されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、脳活動計測装置の計測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、刺激の付与に伴い誘発された被験者の脳活動を示す信号を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記信号に基づいて、前記被験者の脳領域のうち、計測対象となる複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを導出する導出部と、前記導出部が導出した前記時系列データに基づいて、当該時系列データの統計的な特徴を示す特徴量を前記関心領域毎に算出する特徴量算出部と、複数の前記関心領域のうち、何れか一の関心領域について算出された前記特徴量を用いて、他の関心領域に算出された前記特徴量を除算した結果を、前記脳活動の状態を示す脳活動指標として出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、脳活動計測装置の計測精度を向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る脳活動計測装置を含む脳活動計測システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る脳活動計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る脳活動計測装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る被験者の標準脳データを模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態の特徴量算出部が行う時間平均強度の算出処理を説明するための図である。
【
図6】
図6は、実施形態の特徴量算出部が行う時間平均強度の算出処理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、実施形態の脳活動計測装置が行う処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、脳活動計測装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る脳活動計測装置を含む脳活動計測システムの構成の一例を示す図である。
図1に示すように、脳活動計測システム1は、刺激装置10と、生体信号検出装置20と、脳活動計測装置30とを有する。
【0011】
刺激装置10は、被験者Uに対して視覚刺激や聴覚刺激等の刺激を与える装置である。視覚刺激を与える場合、例えば、刺激装置10は、プロジェクタ装置を通して、被験者Uの眼前にあるスクリーンに脳活動を誘発する映像や画像を投影する。なお、視覚刺激は、スクリーンに投影する方法に限らず、ディスプレイ・モニタに表示してもよいし、ヘッドマウントディスプレイにVR(Virtual Reality)として表示してもよい。また、聴覚刺激を与える場合、刺激装置10は、スピーカーやイヤホンを通して、被験者Uに脳活動を誘発する音を聞かせる。
【0012】
なお、刺激装置10が与える刺激として、視覚刺激と聴覚刺激とを例に挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、刺激装置10は、味覚、嗅覚、体性感覚(触覚・痛覚等)に対する刺激を与えるものであってもよい。また、刺激装置10は、運動、言語、記憶、注意、遂行、社会性、情動等の脳活動を誘発するための、電気刺激、磁気刺激、超音波刺激等の物理的刺激を与えるものであってもよい。
【0013】
生体信号検出装置20は、刺激装置10によって誘発された脳活動を検出(計測)する装置である。例えば、生体信号検出装置20は、脳磁計(MEG:Magnetoencephalography)、脳波計(EGG:Electroencephalography)、fMRI(Functional Magnetic Resonance Imaging)、PET(Positron Emission Tomography)、NIRS(Near Infra-Red Spectroscopy)、OPM(Optically Pumped Atomic Magnetometer)を用いた脳磁計等である。
【0014】
生体信号検出装置20は、被験者Uの脳活動を検出し、検出結果となる生体信号を脳活動計測装置30に出力する。
【0015】
なお、本実施形態では、生体信号検出装置20を脳磁計とする例について説明するが、生体信号検出装置20の種別はこれに限らないものとする。また、被験者Uの脳活動を検出する生体信号検出装置20の台数も1台に限らず、複数台であってもよい。例えば、複数種類の生体信号検出装置20が、被験者Uの脳活動を同時に検出する構成としてもよい。
【0016】
脳活動計測装置30は、生体信号検出装置20の検出結果に基づき被験者Uの脳活動を計測する装置である。
【0017】
以下、脳活動計測装置30の構成について説明する。
図2は、脳活動計測装置30のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2に示すように、脳活動計測装置30は、CPU(Central Processing Unit)31と、ROM(Read Only Memory)32と、RAM(Random Access Memory)33と、記憶部34と、表示部35と、操作部36と、インタフェース部37とを備える。
【0018】
CPU31は、プロセッサの一例であり、脳活動計測装置30の各部を統括的に制御する。ROM32は、各種プログラムを記憶する。RAM33は、プログラムや各種データを展開するワークスペースである。CPU31、ROM32及びRAM33は、脳活動計測装置30のコンピュータ構成を実現し、脳活動計測装置30の制御部として機能する。
【0019】
記憶部34は、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置である。記憶部34は、CPU31により実行される各種プログラムや設定情報等を記憶する。また、記憶部34は、生体信号検出装置20で検出された生体情報を記憶する。
【0020】
表示部35は、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示デバイスである。表示部35は、CPU31の制御に従って各種の情報や画面を表示する。操作部36は、キーボードやマウス等の入力デバイスを有し、ユーザ操作に応じた信号をCPU31に出力する。なお、操作部36は、表示部35の表面に設けられたタッチパネルであってもよい。
【0021】
インタフェース部37は、生体信号検出装置20と通信可能に接続するための有線又は無線のインタフェースである。また、インタフェース部37は、刺激装置10と接続されてもよい。この場合、脳活動計測装置30は、刺激装置10と協働し、刺激装置10が被験者Uに与える刺激を制御してもよい。
【0022】
次に、脳活動計測装置30が備える機能構成について説明する。
図3は、脳活動計測装置30の機能構成の一例を示す図である。
図3に示すように、脳活動計測装置30は、取得部311と、記憶制御部312と、データ処理部313と、特徴量算出部314と、脳活動指標出力部315とを機能構成として備える。
【0023】
脳活動計測装置30が備える機能構成の一部又は全ては、脳活動計測装置30のプロセッサ(例えばCPU31)とメモリ(例えばROM32、記憶部34)に記憶されたプログラムとの協働により実現されるソフトウェア構成であってもよい。また、脳活動計測装置30が備える機能構成の一部又は全ては、脳活動計測装置30に搭載された専用回路等で実現されるハードウェア構成であってもよい。
【0024】
取得部311は、取得部の一例である。取得部311は、インタフェース部37を介して、生体信号検出装置20が検出した被験者Uの生体信号を取得する。具体的には、取得部311は、生体信号検出装置20で検出されたアナログの検出信号を取得する。より詳細には、取得部311は、生体信号検出装置20が有するセンサ毎に、当該センサで検出された検出信号を取得する。
【0025】
記憶制御部312は、取得部311が取得した生体信号を記憶部34に記憶する。具体的には、記憶制御部312は、取得部311が取得した検出信号に対しアナログバンドパスフィルタ等のフィルタ処理を施すことで、検出信号からノイズを除去する処理を行う。また、記憶制御部312は、生体信号検出装置20の特性に応じたサンプリング周波数で、フィルタ処理を施した検出信号をデジタル信号に変換する。例えば、生体信号検出装置20が脳磁計の場合、記憶制御部312は、ミリ秒オーダーの時間分解能を持つため、100Hz以上のサンプリング周波数で変換する。
【0026】
そして、記憶制御部312は、デジタル信号に変換した検出信号を、センサデータとして記憶部34に記憶する。ここで、センサデータは、被験者Uの脳活動を示す情報を含む時系列のデータとなる。
【0027】
データ処理部313は、記憶部34に記憶されたセンサデータを、後述する刺激トリガーに基づいて1トライアル毎のセンサデータに区分する。また、データ処理部313は、区分したトライアル毎のセンサデータを加算平均することで、加算平均時系列データを生成する。なお、データ処理部313は、脳領域毎に加算平均時系列データを生成してもよい。
【0028】
また、脳活動は一般に微弱な信号であることが多く、センサデータには脳活動に由来する信号以外に刺激装置10等の電気機器や被験者Uの心拍や筋電等に由来するノイズが重畳される。
【0029】
そこで、データ処理部313は、センサデータからノイズを除去するための処理を実行する。例えば、データ処理部313は、周波数応答フィルタ等の公知の手法により、センサデータに含まれた脳活動由来の信号とノイズとを分離する。そして、データ処理部313は、脳活動由来の信号に基づき加算平均時系列データを生成する。
【0030】
特徴量算出部314は、データ処理部313とともに導出部の一例として機能する。また、特徴量算出部314は、特徴量算出部の一例としても機能する。特徴量算出部314は、データ処理部313が生成した加算平均時系列データに基づいて、被験者Uの脳部領域のうち、計測対象となる複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを導出する。また、特徴量算出部314は、時系列データに基づいて、当該時系列データの統計的な特徴を示す特徴量を関心領域毎に算出する。具体的には、特徴量算出部314は、各関心領域の時系列データに基づき、脳活動の時間平均強度を算出する。
【0031】
ところで、時間平均強度には、被験者Uの頭の大きさや覚醒状態等、被験者Uに依存するノイズファクターが影響している。係るノイズファクターは、計測される脳活動の精度に影響を及ぼす可能性があるため、ノイズファクターの影響を除去することが望まれている。
【0032】
そこで、本実施形態の生体信号検出装置20では、脳活動指標出力部315が、算出した時間平均強度に対し、被験者Uに依存するノイズファクターの影響を低減するための処理を実行する。そして、脳活動指標出力部315は、ノイズファクターの影響を低減した各関心領域の算出結果を、関心領域の脳活動の状態を示す脳活動指標として出力する。なお、脳活動指標出力部315は、出力部の一例である。
【0033】
以下、データ処理部313、特徴量算出部314及び脳活動指標出力部315が行う一連の処理について説明する。
【0034】
まず、データ処理部313は、特徴量算出部314の処理に先駆けてセンサデータからノイズを除去する処理と、刺激装置10によって与えられた刺激トリガーで区分されるトライアルの加算平均を算出する処理とを実行する。
【0035】
上述したように、生体信号検出装置20から得られたセンサデータには、脳活動の生体信号以外に様々なノイズが含まれる。例えば、脳磁計では10個以上のセンサを有するが、センサ毎に固有のノイズが含まれることになる。
【0036】
そこで、データ処理部313は、センサ毎の標準偏差等の統計値に基づき、センサデータに含まれたノイズ成分が統計値を上回るセンサを異常センサとして除外する。また、データ処理部313は、周波数フィルタ(バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ノッチフィルタ等)や独立主成分分析(ICA:Independent Component Analysis)、SSP(Signal Subspace Projection)、DSSP(Double Signal Subspace Projection)等を用いて、残りのセンサのセンサデータからノイズを取り除く。
【0037】
また、データ処理部313は、刺激装置10によって与えられた複数回の電気的信号(以下、刺激トリガーとも称す)を検出する。刺激トリガーの検出方法は特に問わず、種々の方法を採用することができる。
【0038】
例えば、刺激装置10が与える刺激が視覚刺激の場合、画像の表示、画像の変化、画像の消失、映像の投影、ボタン押し等のタイミングが刺激開始のタイミングとなる。この場合、例えば、刺激装置10は、刺激装置10は、固視点や写真、絵等の画像を表示するタイミングで脳活動計測装置30に視覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、チェッカーボードのような白黒パターンを反転させるような画像が切り替わるタイミングで脳活動計測装置30に視覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、表示している画像を消去したタイミングで脳活動計測装置30に視覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、点群が移動する映像や、奥行き方向に移動する映像を投影したタイミングで脳活動計測装置30に視覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10又は脳活動計測装置30に操作ボタンが接続されている場合、視覚刺激によって被験者に何らかの認知が生じたときに、被験者U或いは観測者が操作ボタンを押したタイミングで視覚刺激トリガーが出力される。
【0039】
データ処理部313は、上記の視覚刺激トリガーを刺激開始のタイミングとして検知する。なお、視覚刺激トリガーの出力元は刺激装置10に限らないものとする。例えば、脳活動計測装置30が、刺激装置10が提示する視覚刺激を制御する場合には、データ処理部313は、自装置の制御部と協働することで、刺激開始のタイミングを検知すればよい。
【0040】
また、刺激装置10が与える刺激が聴覚刺激の場合、音声が切り変わるタイミング刺激開始のタイミングとなる。音声が切り変わるタイミングとは、ある一定の周波数の音を出力するタイミングや、異なる周波数の音を出力するタイミング、音の大きさを変えるタイミング、出力していた音を消すタイミングが含まれる。この場合、例えば、刺激装置10は、刺激装置10は、所定周波数の音を出力するタイミングで脳活動計測装置30に聴覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、刺激装置10は、音の周波数を切り替えるタイミングで脳活動計測装置30に聴覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、音の大きさを変えるタイミングで脳活動計測装置30に聴覚刺激トリガーを出力する。また、刺激装置10は、出力していた音を消すタイミングで脳活動計測装置30に聴覚刺激トリガーを出力する。
【0041】
データ処理部313は、聴覚刺激トリガーを刺激開始のタイミングとして検知する。なお、聴覚刺激トリガーの出力元は刺激装置10に限らないものとする。例えば、脳活動計測装置30が、刺激装置10が提示する聴覚刺激を制御する場合には、データ処理部313は、自装置の制御部と協働することで、視覚刺激開始のタイミングを検知すればよい。
【0042】
また、データ処理部313は、検出した各刺激トリガーを基点0ミリ秒として、-t1ミリ秒からt2ミリ秒の範囲のセンサデータを1トライアル分として抽出する。
【0043】
なお、t1及びt2の値は特に問わないものとするが、例えば1000ミリ秒から10000ミリ秒の範囲とすることが一般的である。また、脳反応は、低次の刺激から短い時間で一定の反応を示すため、当該反応を観測するためには、例えばt1及びt2を1000ミリ秒以下とすることが好ましい。
【0044】
また、データ処理部313は、各トライアルの中で、上記のノイズ除去手法を行ってもノイズを除去できなかったトライアルについては、トライアルセンサデータの標準偏差等の統計値を参考にノイズを除去してもよい。さらには、データ処理部313は、目視でノイズを除去することを促す画面を表示部35に表示することで、ユーザに除去を促してもよい。
【0045】
次いで、データ処理部313は、抽出したトライアルの各々を加算平均することで、加算平均時系列データを生成する。ここで、刺激トリガーに位相が固定された脳活動を解析したい場合にはセンサ時系列データをそのまま加算平均するが、位相が固定されていない脳活動を解析したい場合には、センサ時系列データの共分散行列やパワーの加算平均を行う。
【0046】
なお、上記例では複数のトライアルのデータ処理方法について説明したが、1トライアルであっても同様である。また、上記例ではデータ処理部313がノイズを除去する処理を行うものとしたが、加算平均によりノイズの影響を低減できる場合には、ノイズ除去を行わない構成としてもよい。例えば、時系列データをそのまま加算平均するとSN(Signal-Noise)比が良くなるメリットがあるため、脳磁計のようなSN比が悪いデータを処理する場合には、センサ時系列データをそのまま加算平均することが望ましい。
【0047】
次に、特徴量算出部314が行う処理について説明する。まず、特徴量算出部314は、標準脳データから関心領域を決定する処理を実行する。かかる処理では、特徴量算出部314は、被験者Uの個人脳データを所定の標準脳の形状に変換する解剖学的標準化処理を行うことで、被験者Uの標準脳データを作成する。
【0048】
図4は、被験者Uの標準脳データを模式的に示す図である。同図において、右側は右半球を左側は左半球を意味する。なお、
図4では、標準脳データを2次元で表しているが、特徴量算出部314は、3次元の標準脳データを生成するものとする。
【0049】
次いで、特徴量算出部314は、生成した標準脳データに、1mm~20mmの等間隔でボクセルを配置する。
図4では、図中に示すドットがボクセルに対応し、10mm(1cm)の等間隔でボクセルを配置した例を示している。
【0050】
本実施形態ではボクセルを等間隔に配置する構成とするが、これに限らず、例えば頭部の形状に従って不均一にボクセルを配置してもよい。但し、不均一にボクセルを配置すると、信号強度の推定手法によってはボクセルの不均一さにより推定強度に偏りが生じるため、ボクセルは等間隔に配置する方が好ましい。
【0051】
次いで、特徴量算出部314は、標準脳データに関心領域を複数設定し、設定した関心領域の各々に含まれるボクセルを抽出する。関心領域は、機能別に分割された脳地図に基づき設定することができる。例えば、特徴量算出部314は、Broadmann’s atlasや、Brainnetome atlas等に基づき関心領域を設定する。ここでは、下頭頂小葉や上頭頂小葉等の脳回や、parieto-occipital sulcus等の脳溝を含む脳地図も含まれる。
【0052】
関心領域の設定は、被験者Uの病状やカルテ等で指示された指示情報に基づき自動で設定してもよいし、医師等の医療従事者の手動操作に応じて設定してもよい。但し、脳磁計では、灰白質に流れる電流によって発生する磁場のみ計測することができるため、灰白質を含む領域を関心領域と定めることが好ましい。
【0053】
図4では、二つの関心領域を設定した例を示しており、太線で囲った領域R1、R2が関心領域に対応する。この場合、特徴量算出部314は、領域R1、R2に含まれるボクセルを抽出する。
【0054】
なお、関心領域が大きすぎると、刺激によって関心領域内の二つの脳領域で活動してしまう可能性があるため、各関心領域の大きさは半径3cm以下の球に含まれることが望ましい。
【0055】
また、上述したように、脳磁計で計測される脳活動を示す信号には、本来の信号強度の他に被験者Uに由来するノイズファクターが影響している。係るノイズファクターは、脳磁計の複数のセンサと脳内領域の距離に依存する。一般に、二つの関心領域の距離が近いほど、被験者固有のノイズファクターは等しい値となるため本実施形態の手法による改善効果が大きい。逆に、二つの関心領域が前頭葉と後頭葉とで離れた位置にあると、同一の被験者Uであってもノイズファクターは異なるため本実施形態の手法による改善効果が小さい。例えば、頭部に取り付けられるセンサの位置は左右で対称となるため、左右で対称な位置の脳領域のノイズファクターは等しい値となる。したがって、二つの関心領域の重心間の距離rは、一般的な頭幅の15cm以下とすることが好ましい。
【0056】
続いて、特徴量算出部314は、関心領域の脳活動強度を表す時系列データを導出するための処理を実行する。具体的には、特徴量算出部314は、空間フィルタ法(Beamformer、Minimum Norm等)を用いることで、関心領域の各々に含まれるボクセルと加算平均時系列データとから、関心領域毎に当該関心領域に含まれるボクセルの信号強度の時系列データを推定する。
【0057】
なお、上記では、空間フィルタ法を用いる方法を説明したが、これに限らず、例えばダイポール推定法等の、脳活動データに関する公知の逆問題解析技術を用いて関心領域の時系列データを推定してもよい。また、脳活動を推定せずに、関心領域に近いセンサの観測磁場をその関心領域の時系列データとしてもよい。但し、空間フィルタ法では信号源の数を限定しないため、刺激によって誘発される脳活動推定のような脳活動が生じる位置の数が定かでない場合には、空間フィルタ法を用いることが好ましい。
【0058】
次いで、特徴量算出部314は、推定した信号強度の時系列データに重みづけを行うことで、各関心領域の脳活動強度を示す時系列データをそれぞれ算出する。重みづけの係数は任意に設定することが可能であるが、関心領域の各々の特性に応じた係数を設定することが好ましい。
【0059】
例えば、特徴量算出部314は、関心領域に含まれるボクセルのボクセル数Nvに対して1/Nvによる重みづけを行う。また、例えば、特徴量算出部314は、関心領域に含まれる時系列データに特異値分解を行い、最大特異値の特異値ベクトルと時系列データとの積に基づく重みづけを行う。
【0060】
なお、この二つ関心領域の脳活動強度の時系列データは、ベクトルまたはスカラーの実数値としてそれぞれ得られる。ベクトル値で得られる場合は、その絶対値あるいは射影成分をとることによりスカラー値に変換したものを強度と呼ぶ。また、スカラー値で得られる場合は、その値を強度と呼ぶ。絶対値を取る場合は非負となり、射影成分を取る場合は正負の値をとるが、以下では非負になるとして説明する。
【0061】
そして、特徴量算出部314は、各関心領域の時系列データに基づき、関心領域毎に時間平均強度をそれぞれ算出する。具体的には、特徴量算出部314は、各関心領域の時系列データから、刺激開始後のT1~T2(ミリ秒)を含む時間範囲で強度の最大となる時間を検出し、当該時間を含む所定期間で信号強度の時間平均(以下、時間平均強度とも称す)をそれぞれ算出する。ここで、T1~T2の時間範囲は、上述した-t1~t2(ミリ秒)のうち、0~t2の範囲で任意に設定することが可能であるとする。また、時間平均強度を算出する時間範囲は、T1~T2の範囲で任意に設定することが可能であるとする。
【0062】
図5は、特徴量算出部314が行う時間平均強度の算出処理を説明するための図である。
図5では、関心領域となるN個の脳領域(脳領域1、2、…、N)の時系列データを示している。横軸は時間を意味し、縦軸は信号強度(推定活動強度)を意味する。
【0063】
まず、特徴量算出部314は、関心領域の時系列データから、刺激開始(0)後の時間範囲T1~T2から、信号強度が最大となる時間Tmaxを検出する。次いで、特徴量算出部314は、時間Tmaxを含む時間範囲T3~T4において、時間平均強度を算出する。なお、時間範囲T3~T4は、上述した所定期間に対応する。
【0064】
ここで、時間範囲T3~T4は、
図5に示すように、T1~T2の範囲に包含される。また、時間範囲T3~T4は、信号強度の最大値の半値幅を包含することが好ましい。つまり、時間T3と時間T4とは、信号強度の最大値の半値幅から外れた時間とすることが好ましい。また、時間範囲T3~T4の時間長は、固定であってもよいし、信号強度の分布等に応じて動的に変化させてもよい。
【0065】
なお、上記例では、特徴量算出部314は、信号強度が最大となる時間周辺の特徴量として時間平均強度を算出したが、他の統計量を特徴量として算出してもよい。例えば、特徴量算出部314は、時間範囲T3~T4における最大値、中央値、四分位最小値、分散、エントロピー等の種々の統計量を特徴量として算出してもよい。
【0066】
また、検出した最大値がノイズや他の脳領域からの活動の漏れ込みによる場合には、特徴量算出部314は、他のピーク値を基に時間平均強度を算出してもよい。ここで、最大値が適正か否かは、例えば、適正値の範囲を規定した閾値等と比較することで判別することができる。
【0067】
また、視覚刺激の条件や関心領域等によっては、関心領域の時系列データに、信号強度が最大のピーク以外にも顕著なピークが存在するような場合がある。例えば、
図6に示す時系列データの例では、脳領域Mに複数のピーク(活動)が出現している。なお、
図6は、特徴量算出部314が行う時間平均強度の算出処理を説明するための図である。
【0068】
このような場合、例えば、特徴量算出部314は、脳領域Mの時系列データから各ピークの極大値となる時間Taと時間Tbとを検出する。次いで、特徴量算出部314は、時間Taと時間Tbとの各々について時間範囲T3~T4を設定し、当該時間範囲での時間平均強度を算出する。そして、特徴量算出部314は、算出した時間平均強度の平均値を、脳領域Mの脳活動の特徴量として導出する。
【0069】
なお、上記例では、時間平均強度の平均値を特徴量としたが、複数のピークの何れか一方から算出した時間平均強度を特徴量としてもよい。
【0070】
ここで、関心領域の時間平均強度は、下記式(1)に示すように、刺激を与えることで誘発された本来の脳活動の信号強度に、被験者固有のノイズファクターが積で加わる。
【0071】
[関心領域の時間平均強度]=[被験者Uの関心領域の本来の活動強度]×[被験者固有のノイズファクター]…(1)
【0072】
また、被験者固有のノイズファクターは、同一の被験者Uでは等しくなる。つまり、同一の被験者Uに係る複数の関心領域のうち、何れか一つの関心領域の時間平均強度で、他の関心領域の時間平均強度を除すことで、被験者固有のノイズファクターを打ち消すことができる。
【0073】
そこで、脳活動指標出力部315は、何れか一の関心領域の時間平均強度で他の関心領域の時間平均強度を除すことで、各関心領域の時間平均強度の比を算出し、被験者U固有のノイズファクターを打ち消した本来の脳活動の信号強度を出力する。
【0074】
これにより、脳活動指標出力部315は、被験者固有のノイズファクターを低減させた関心領域の脳活動の信号強度を、脳活動指標として出力することができるため、精度の向上を図ることができる。なお、何れの関心領域を除数側とするかは、特に問わないものとする。
【0075】
次に、
図7を参照して、脳活動計測装置30が行う処理の一例について説明する。
図7は、脳活動計測装置30が行う処理の一例を示すフローチャートである。なお、本処理の前提として、刺激装置10による視覚刺激の提示が繰り返し行われているものとする。
【0076】
まず、取得部311は、生体信号検出装置20で検出された検出信号を取得する(ステップS11)。次いで、記憶制御部312は、取得部311が取得した検出信号をデジタル信号に変換し、センサデータとして記憶部34に記憶する(ステップS12)。なお、記憶制御部312は、検出信号に対しノイズを除去する処理を行ってもよい。
【0077】
続いて、データ処理部313は、記憶部34に記憶されたセンサデータを1トライアル毎に区分し、各トライアルのセンサデータを加算平均することで、加算平均時系列データを生成する(ステップS13)。なお、データ処理部313は、センサデータに対しノイズを除去する処理を行ってもよい。
【0078】
続いて、特徴量算出部314は、ステップS13で得られた加算平均時系列データに基づき、複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを算出する(ステップS14)。次いで、特徴量算出部314は、各関心領域の時系列データに基づき統計的な特徴量を関心領域毎に算出する(ステップS15)。例えば、特徴量算出部314は、関心領域毎に時間平均強度を算出する。
【0079】
続いて、脳活動指標出力部315は、ステップS15で算出された何れか一の関心領域の特徴量を用いて、他の関心領域の特徴量を除算する(ステップS16)。そして、脳活動指標出力部315は、ステップS16の除算結果を、被験者Uの脳活動を示す脳活動指標として出力する(ステップS17)。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る脳活動計測装置30は、刺激の付与に伴い誘発された被験者Uの脳活動を示す検出信号を取得し、当該検出信号に基づいて、被験者Uの脳領域のうち、計測対象となる複数の関心領域の脳活動を示す時系列データを導出する。また、脳活動計測装置30は、導出した時系列データに基づいて、当該時系列データの統計的な特徴を示す特徴量を関心領域毎に算出する。そして、脳活動計測装置30は、何れか一の関心領域について算出された特徴量を用いて、他の関心領域に算出された前記特徴量を除算した結果を、脳活動の状態を示す脳活動指標として出力する。
【0081】
これにより、脳活動計測装置30は、被験者Uに固有のノイズファクターの影響を打ち消した状態で、被験者Uの脳活動の状態を示す脳活動指標を出力することができるため、計測精度の向上を図ることができる。
【0082】
なお、上述した実施形態は、上述した各装置が有する構成又は機能の一部を変更することで、適宜に変形して実施することも可能である。そこで、以下では、上述した実施形態に係る変形例を他の実施形態として説明する。なお、以下では、上述した実施形態と異なる点を主に説明することとし、既に説明した内容と共通する点については詳細な説明を省略する。また、以下で説明する変形例は、個別に実施されてもよいし、適宜組み合わせて実施されてもよい。
【0083】
(変形例)
上述の実施形態では、脳活動計測装置30は、生体信号検出装置20の検出結果に基づいて被験者Uの脳活動を示す脳活動指標を出力する形態を説明した。但し、脳活動指標は、脳活動に係る疾患の病態や病状を定量化する指標として出力してもよい。そこで、本変形例では、脳活動計測装置30を、脳活動に係る疾患の病態や病状を示す指標を出力する診断支援装置とする形態について説明する。
【0084】
具体的には、本変形例に係る診断支援装置は、上記の方法により複数の関心領域の脳活動計測から得られた脳活動指標を、精神・神経疾患の病態や進行度を定量化する指標として出力する。特に、特定脳領野の委縮や機能不全と関連の高い神経変性疾患等の診断支援において、本変形例に係る診断支援装置は、頭の大きさや計測時の覚醒度等、疾患と関係しない被検者固有の要因に影響されづらい情報を抽出できるという特徴がある。
【0085】
例えば、アルツハイマー病においては、後部帯状回、楔前部、頭頂連合野、側頭連合野等の脳領域における障害が疾患の早期から見られることが知られている。そのため、後部帯状回、楔前部、頭頂連合野、側頭連合野のうちの少なくとも一つを関心領域の1つとすることにより、アルツハイマー病の診断支援装置として使用することができる。また、動きのある視覚刺激をさらに併用することにより、上記の関心領域を含む背側視覚経路の活動を誘起するため、効果的な計測が可能になる。
【0086】
なお、上述した実施形態の各装置で実行されるプログラムは、ROMや記憶部等に予め組み込まれた状態で提供される。上述した実施形態の各装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0087】
さらに、上述した実施形態の各装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、上述した実施形態の各装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。
【0088】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。上述した実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 脳活動計測システム
10 刺激装置
20 生体信号検出装置
30 脳活動計測装置
311 取得部
312 記憶制御部
313 データ処理部
314 特徴量算出部
315 脳活動指標出力部
U 被験者
【先行技術文献】
【特許文献】
【0090】