(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013998
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ゴミ焼却灰の水洗処理方法。
(51)【国際特許分類】
B09B 3/80 20220101AFI20230119BHJP
B09B 3/38 20220101ALI20230119BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20230119BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20230119BHJP
【FI】
B09B3/80
B09B3/38
C04B7/38
B09B101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108455
(22)【出願日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2021116233
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】有井 恒之
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA37
4D004AB07
4D004AC05
4D004BA02
4D004CA13
4D004CA15
4D004CA40
4D004CB21
4D004CC03
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】 ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするため、水と混合してスラリーを調製し、これを貫通洗浄方式のフィルタープレスにかけ、さらにろ過残渣を水洗することによりセメント原燃料とする際に障害となる塩素量などを低減した洗浄灰(脱水ケーキ)を得るゴミ焼却灰の水洗処理方法において、水の使用量をできるだけ低減しつつ、得られる脱水ケーキも取り扱いやすい均一性の高いものとする。
【解決手段】 ゴミ焼却灰スラリーを調製する際の水の使用量をゴミ焼却灰の3.5質量倍以上、8.5質量倍以下、好ましくは5.0質量倍以下とすると共に、プレスして脱水した後のろ過残渣を水洗する際の洗浄水の使用量を、ゴミ焼却灰の1.5質量倍から5質量倍、好ましくは1.5質量倍強から3質量倍とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
前記スラリー調製時におけるに対する水の使用量をゴミ焼却灰の3.5~8.5質量倍とすると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をゴミ焼却灰の1.5~5質量倍とすることを特徴とするゴミ焼却灰の水洗処理方法。
【請求項2】
ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
前記スラリー調製時におけるに対する水の使用量をスラリー固形分濃度が6.0%~16.0%とるように調整すると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をフィルタープレスのろ室容積の2容量倍以上とすることを特徴とするゴミ焼却灰の水洗処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴミ焼却灰の処理方法に関する。詳しくは、セメント製造の原燃料とする際に問題となる塩素量を低減できるゴミ焼却灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ等の焼却飛灰は、その発生量が多い、塩素含有量が多い、重金属を含む、ダイオキシンを含む、発生の場所によって成分が大きく変わるなどの特徴が有り、その利用方法は限られている。
【0003】
その利用方法の一つに、セメントの原燃料とする方法がある。しかしながらセメント原燃料とする場合も無制限に使用できるわけではなく、特に、最終製品であるセメント中の塩素含有量をJIS規格に収めるために、ゴミ焼却灰を洗浄し、その塩素含有量を減らす必要性がある特許文献1~4、非特許文献1等)。
【0004】
また、塩素はセメントの生産工程の中で、工程トラブルの要因ともなり得るため、安定生産の観点からも生産系内に原燃料として持ち込む際には、ゴミ焼却灰の塩素含有量を減らす必要性がある。
【0005】
ところが、ゴミ焼却灰スラリーのろ過後、多量の水を用いてろ過残渣の洗浄を行っても、得られた洗浄灰の塩素量が十分に低下していない場合があるという問題があった。本発明者等は、ろ過残渣の洗浄水量は多くしていっても、ある程度で塩素量低減効果は頭打ちになり、スラリー調製時の水の量が塩素量低減に与える効果は概ね比例関係にあること等を見いだし、上記問題の改善を計り、その手法を既に提案している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-351546号公報
【特許文献2】特開2010-132463号公報
【特許文献3】特開2003-103231号公報
【特許文献4】特開2013-95605号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】城安一、「セメントキルンを用いたごみ焼却灰のパーフェクトリサイクル―ごみ焼却灰のセメント原料化-」、ハイテクインフォメーション、中国技術振興センター発行、平成13年2月28日、第128巻、pp.14-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記特許文献4記載の方法においても未だいくつか改善すべき点があった。即ち、当該文献で提案される技術では、使用できる水のうちの出来るだけ多くをスラリーの調整用にするが、当該スラリーのろ過の際、得られるろ過残渣にムラが生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、貫通洗浄方式のフィルタープレによる焼却灰スラリーのろ過洗浄において、スラリー調製時のスラリー濃度(スラリー中の焼却灰の割合)により、打込み制御のし易さ、ろ過残渣のムラの生じ易さが決まることを見出した。また、対象とするゴミ焼却灰の可溶性成分が異なり変動する場合は、スラリー固形分濃度(スラリー中の不溶性成分の割合)により、打込み制御のし易さ、ろ過残渣におけるムラの生じ易さが決まることを見出した。さらにそれらの知見に基づき、当該ろ過残渣におけるムラの生じ難い濃度あるいはスラリー固形分濃度に調整したスラリーをろ過した際に、塩素濃度の低減効果に優れる水量の範囲を検討した結果、総使用水量(スラリーを調整する際に使用するスラリー水とろ過残渣を洗浄する際に使用する洗浄水の合量)が少なく、塩素濃度が低減され、さらに安定した形状のろ過残渣(洗浄灰)が得られる本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1発明は、ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通洗浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
前記スラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量を3.5~8.5質量倍とすると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をゴミ焼却灰の1.5~5.0質量倍とすることを特徴とするゴミ焼却灰の水洗処理方法。
【0011】
即ち、本発明の第2発明は、ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通洗浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
前記スラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量をスラリー固形分濃度が6.0~16.0%となるように調整すると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をフィルタープレスのろ室容積の2容量倍以上とすることを特徴とするゴミ焼却灰の水洗処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ろ過洗浄の際打込み制御がし易く、かつ相対的に少量の水で、安定的に塩素含有量の少ない、性状が均一な安定した処理済みのゴミ焼却灰(洗浄灰)を得ることができる。これにより、該ゴミ焼却灰をセメント原燃料として使用しても、取扱い易く、製造されるセメント中の塩素量を抑制することができ、よって、セメント原燃料として常に多量のゴミ焼却灰を使用することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ゴミ焼却灰に対する使用水量の異なるゴミ焼却灰スラリーのろ過残渣の洗浄水量と塩素含有率を示す図。
【
図2】スラリー固形分濃度の異なるゴミ焼却灰スラリーのろ過残渣の洗浄水量と塩素含有率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ゴミ焼却灰)
本発明において処理対象とされるゴミ焼却灰は特に限定されるものではないが、その発生量が多く、セメント原料以外の有用な用途が実質的に無く、かつ塩素含有量も比較的多い点で都市ゴミ焼却灰を対象とすることが好ましい。
【0015】
都市ゴミの焼却炉から排出される焼却灰のうち、主灰は、主としてストーカー炉の下部より燃え殻として排出されるゴミ焼却灰であり、冷却焼却後に水と接触するため、水分を20%ないし50%(質量)程度含有する塊状物として得られる。また、その塩素含有量は、0.5ないし5.0%(質量)に及ぶ。一方、飛灰は、ストーカー炉の排ガスや流動床炉の排ガスより補足される微粉であり、一般に5ないし30%(質量)程度の割合で塩素を含有している。
【0016】
上記主灰には、空き缶、針金等の異物が多く含まれる場合があり、これらをあらかじめ除去することが好ましい。また、主灰は塊状物であるため、あらかじめ平均粒径が500μm以下、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、50ないし150μmとなるように調整することが必要である。さらに、主灰粉砕後においても、未粉砕物や粉砕前に除去しきれていない異物を除去することが好ましい。
【0017】
一方、飛灰は主灰に対して多量のダイオキシン類を含有しているため、予め脱ダイオキシン類処理をされていることが好ましい。
【0018】
脱ダイオキシン類の方法は特に限定されず公知の条件にて行えばよいが、例えば、飛灰を無酸素雰囲気下、300ないし600℃、好ましくは350℃ないし500℃の温度で処理すればよい。上記無酸素雰囲気下とは、酸素が完全に存在しない場合の他に、装置等の構造により不可避的に進入する酸素、被処理物に同伴される酸素等が含有されている態様を含むものである。脱ダイオキシン類は、無酸素雰囲気を窒素ガスによって形成し、加熱機により加熱を行う態様が好ましい。なお、脱ダイオキシン類処理における加熱により、水銀も揮発除去でき、比較的高濃度の水銀を含む都市ゴミ焼却灰の前処理としては有効である。
【0019】
ここで、本発明の第1発明のゴミ焼却灰の水洗処理方法は、ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、前記スラリー調製時におけるに対する水の使用量をゴミ焼却灰の3.5~8.5質量倍とすると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をゴミ焼却灰の1.5~5質量倍とすることを特徴とする。
また、本発明の第2発明のゴミ焼却灰の水洗処理方法は、ゴミ焼却灰を水と混合してスラリーを調製する工程、及び該スラリーを貫通浄式のフィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離した後、さらにろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、ゴミ焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
前記スラリー調製時におけるに対する水の使用量をスラリー固形分濃度が6.0%~16.0%とるように調整すると共に、ろ過残渣の水洗時における洗浄水の使用量をフィルタープレスのろ室容積の2容量倍以上とすることを特徴とする。
以下、詳細に説明する。
【0020】
<第1発明>
(1)スラリーを調製する工程
本発明においては、上記の如くして前処理された主灰、飛灰等のゴミ焼却灰をそれぞれ、或いは同時に水と混合してスラリー化する。スラリー化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して行えばよい。例えば、スラリー貯槽内に、ゴミ焼却灰及び水を入れて攪拌する方法が挙げられる。
【0021】
ここで、ゴミ焼却灰スラリーのスラリー濃度が濃くなり過ぎると、流動性が低く扱い難くなり、スラリーをフィルタープレス装置に導入する際の制御が困難になる。さらに濃度が高いとスラリー全体が均一になりにくい。そのためこのようなスラリーでは、同じろ室内であっても水に溶出する成分が多い部分と少ない部分とができやすく、溶出する成分が多い部分の固形分量が水洗後には少なくなってしまい、ろ過残渣(脱水ケーキ)の厚さが不均一になったり、極端な場合には穴が開いてしまったりする。さらには、そのような部分が崩落してしまうことも多い。
【0022】
一方、スラリー濃度が薄ければ上記問題は発生しにくい。しかしながら、スラリー濃度が薄すぎる場合、プレス(脱水)完了前にろ室内で固形分が沈降しやすく、残渣の厚さが上部では薄く、下部で厚くなり、さらには最下部には粗い粒子が堆積しているような不均一なものとなってしまいやすい。
【0023】
このような均一性の低い(ムラの多い)残渣では、セメント原燃料とする際に扱い難くなる。より具体的には、ムラが大きい残渣(以下、脱水した残渣を「脱水ケーキ」ともいう)は、セメント原料として扱う際に形状が維持できなかったり、工程壁面に付着したりするものがでるといった不具合を生じることがある。そのため本発明では、取り扱いやすく均一なスラリーを得、かつそれを処理して形状の安定したろ過残渣を得るために、スラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量をゴミ焼却灰の3.5~8.5質量倍とする。使用水量の低減という観点から、より好ましくは5.0質量倍以下である。
【0024】
なおスラリーを調製する際の水の水温は特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。この際に用いる水としては、一般的な工水、地下水、水道水等を用いることができる。
【0025】
攪拌を行う時間は、全体が均一なスラリーとなる程度であればよく、攪拌装置にもよるが、一般的には5~60分間程度で十分である。
【0026】
(2)フィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離する工程
次いで、上記のようにして調製したスラリーを固液分離にかける。本発明において、当該分離においては、分離効率、脱水率、及び分離後の固形分の洗浄が容易な点でフィルタープレスを用いる。さらに本発明では、フィルタープレスを貫通洗浄方式のものとすることで、正洗浄方式よりも使用水量を相対的に低減できる。
【0027】
(3)ろ過残渣を水洗する工程
フィルタープレスにより水と固形分(ろ過残渣)とに分離した後、分離仕切れなかったろ過残渣に含まれる塩素分(多くはろ別しきれなかった洗浄水中に含まれる)を除去するため、固形分をさらに水洗するが、本発明においては、この際の水量を後述する特定の範囲の量とすることにより総使用水量の削減が可能となる。なおこの洗浄工程における水温は、特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。
【0028】
本発明における更なる特徴は、ろ過後の洗浄水量をゴミ焼却灰の1.5~5.0質量倍とする点にある。これは、貫通浄式のフィルタープレスを用いた場合、洗浄後のろ過残渣中の塩素濃度は、ろ過後の洗浄水量をゴミ焼却灰の1.5質量倍以上にすると、その後はほとんど変化しないとの知見から導いたものである。より具体的には、1.5質量倍以上でほとんど変化しない状態となり、5質量倍以上で安定する。1.5質量倍から5質量倍の間に変曲点が得られるため、1.5質量倍から5質量倍までの水の使用が重要となる。従って、より使用水量を少なくするという観点から下限は本発明においては1.5質量倍とし、それ以上の使用は実質的に無駄が多いという点で上限を5質量倍とする。むろん無制限に水が使用できれば、洗浄水を多量に使用してよいが、塩素濃度低減の観点からは無駄の方が多い。好ましくは3質量部以下とする。一方、1.5質量倍ちょうどであると、バッチ毎に結果が不安定となる可能性があるため、1.5質量倍を若干上回って使用する方が好ましい。
【0029】
前述のとおり本発明においては、スラリー調製水は、ゴミ焼却灰に対して3.5質量倍以上、8.5質量倍以下、好ましくは3.5質量倍以上、5.0質量倍以下とする。従って本発明では、安定したスラリーと安定したろ過残渣を得るためのスラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量と、ろ過残渣を水洗する際に用いる洗浄水の総使用水量は5.0~13.5質量倍となる。好ましくは5.0~12.0質量倍、さらに好ましくは5.0~10.0質量倍以下、特に好ましくは8.0質量倍以下とする。
【0030】
本発明においては、相対的に少量の総使用水量で、塩素量を大幅に低減された、取扱い易い安定した残渣(洗浄灰)を得ることができる。
【0031】
上記の如き本発明は、使用可能な水量が限られ、性状の安定した水洗残渣を得る際に特に有効であり、スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量がゴミ焼却灰に対して13.5質量倍以下、特に8.0質量倍以下の際にその有効性が高い。
【0032】
本発明において、上記洗浄工程で得られた残渣(洗浄灰:脱水ケーキ)は、カルシウム化合物、シリカを主成分とし、かつ塩素分が大幅に低減され、性状が安定しているため、セメント製造工場にてセメント原料として使用される。この場合、上記固形分は水分を含有しているため、原料調製行程でセメント原料とともにドライヤーを経てサスペンションプレヒーターに供給することが好ましい。また、本発明で得られる排水は、公知の排水処理を行い処理排水として排出すればよい。
【0033】
<第2発明>
(1)スラリーを調製する工程
本発明においては、上記の如くして前処理された主灰、飛灰等のゴミ焼却灰をそれぞれ、或いは同時に水と混合してスラリー化する。スラリー化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して行えばよい。例えば、スラリー貯槽内に、ゴミ焼却灰及び水を入れて攪拌する方法が挙げられる。
【0034】
ここで、ゴミ焼却灰スラリーのスラリー濃度あるいはスラリー固形分濃度が濃くなり過ぎると、流動性が低く扱い難くなり、スラリーをフィルタープレス装置に導入する際の制御が困難になる。さらに濃度が高いとスラリー全体が均一になりにくい。そのためこのようなスラリーでは、同じろ室内であっても水に溶出する成分が多い部分と少ない部分とができやすく、溶出する成分が多い部分の固形分量が水洗後には少なくなってしまい、ろ過残渣(脱水ケーキ)の厚さが不均一になったり、極端な場合には穴が開いてしまったりする。さらには、そのような部分が崩落してしまうことも多い。
【0035】
一方、スラリー濃度が薄ければ上記問題は発生しにくい。しかしながら、スラリー濃度が薄すぎる場合、プレス(脱水)完了前にろ室内で固形分が沈降しやすく、残渣の厚さが上部では薄く、下部で厚くなり、さらには最下部には粗い粒子が堆積しているような不均一なものとなってしまいやすい。
【0036】
このような均一性の低い(ムラの多い)残渣では、セメント原燃料とする際に扱い難くなる。より具体的には、ムラが大きい残渣(以下、脱水した残渣を「脱水ケーキ」ともいう)は、セメント原料として扱う際に形状が維持できなかったり、工程壁面に付着したりするものがでるといった不具合を生じることがある。そのため本発明では、取り扱いやすく均一なスラリーを得、かつそれを処理して形状の安定したろ過残渣を得るために、スラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量をスラリー固形分濃度が6.0~16.0%となるように調整する。スラリーの調整をスラリー固形分濃度で調整することによって、対象のゴミ焼却灰の可溶性成分量が変動しても比較的安定した脱水ケーキを得やすくなる。使用水量の低減という観点から、より好ましくは10%以上である。
【0037】
なおスラリーを調製する際の水の水温は特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。この際に用いる水としては、一般的な工水、地下水、水道水等を用いることができる。
【0038】
攪拌を行う時間は、全体が均一なスラリーとなる程度であればよく、攪拌装置にもよるが、一般的には5~60分間程度で十分である。
【0039】
(2)フィルタープレスにかけて洗浄灰と洗浄水とに分離する工程
次いで、上記のようにして調製したスラリーを固液分離にかける。本発明において、当該分離においては、分離効率、脱水率、及び分離後の固形分の洗浄が容易な点でフィルタープレスを用いる。さらに本発明では、フィルタープレスを貫通洗浄方式のものとすることで、正洗浄方式よりも使用水量を相対的に低減できる。
【0040】
(3)ろ過残渣を水洗する工程
フィルタープレスにより水と固形分(ろ過残渣)とに分離した後、分離仕切れなかったろ過残渣に含まれる塩素分(多くはろ別しきれなかった洗浄水中に含まれる)を除去するため、固形分をさらに水洗するが、本発明においては、この際の水量を後述する特定の範囲の量とすることにより総使用水量の削減が可能となる。なおこの洗浄工程における水温は、特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。
【0041】
本発明における更なる特徴は、ろ過後の洗浄水量をフィルタープレスのろ室容積の2~5容量倍とする点にある。これは、貫通浄式のフィルタープレスを用いた場合、洗浄後のろ過残渣中の塩素濃度は、ろ過後の洗浄水量をフィルタープレスのろ室容積の2~5容量倍以上にすると、その後はほとんど変化しないとの知見から導いたものである。より具体的には、2容量倍以上でほとんど変化しない状態となり、5容量倍以上で安定する。従って、より使用水量を少なくするという観点から下限は本発明においては2容量倍とし、それ以上の使用は実質的に無駄が多いという点で上限を5容量倍とする。むろん無制限に水が使用できれば、洗浄水を多量に使用してよいが、塩素濃度低減の観点からは無駄の方が多い。好ましくは4容量倍以下とする。一方、2容量倍ちょうどであると、バッチ毎に結果が不安定となる可能性があるため、2容量倍を若干上回って使用する方が好ましい。
【0042】
前述のとおり本発明においては、スラリー調製水は、スラリー固形分濃度が6.0~16.0%、好ましくは7.0%以上、15.0%以下とする。従って本発明では、安定したスラリーと安定したろ過残渣を得るためのスラリー調製時におけるゴミ焼却灰に対する水の使用量と、ろ過残渣を水洗する際に用いる洗浄水の総使用水量は、対象とするゴミ焼却灰の可溶性成分量により変動するが、概ね5.0~10.0質量倍となる。好ましくは5.0~9.0質量倍、さらに好ましくは5.0~8.0質量倍以下、特に好ましくは7.0質量倍以下とする。
【0043】
本発明においては、相対的に少量の総使用水量で、塩素量を大幅に低減された、取扱い易い安定した残渣(洗浄灰)を得ることができる。
【0044】
上記の如き本発明は、使用可能な水量が限られ、性状の安定した水洗残渣を得る際に特に有効であり、スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量がゴミ焼却灰に対して10.0質量倍以下、特に8.0質量倍以下の際にその有効性が高い。
【0045】
本発明において、上記洗浄工程で得られた残渣(洗浄灰:脱水ケーキ)は、カルシウム化合物、シリカを主成分とし、かつ塩素分が大幅に低減され、性状が安定しているため、セメント製造工場にてセメント原料として使用される。この場合、上記固形分は水分を含有しているため、原料調製行程でセメント原料とともにドライヤーを経てサスペンションプレヒーターに供給することが好ましい。また、本発明で得られる排水は、公知の排水処理を行い処理排水として排出すればよい。
【実施例0046】
以下、実験例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
各実験例における焼却灰中の塩素濃度の測定は、試料の焼却灰を100℃で乾燥後、蛍光X線分析によって測定した。
【0048】
実施例1~4および比較例1~11
都市ゴミ焼却炉より得られたゴミ焼却灰に対して水2質量倍ないし10質量倍(水温15℃)を加えて焼却灰スラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスに導入し固液分離を行った。さらにろ過残残渣(固形分)を、前記ゴミ焼却灰に対して0~4.2質量倍相当の水で貫通洗浄した。洗浄後の洗浄残渣の塩素量を測定した結果を、洗浄に際して用いた水量等と共に表1に示す。
【0049】
実施例、比較例に依らずゴミ焼却灰に対して洗浄水が1.5質量倍までは洗浄残渣の塩素量は低下していくが、洗浄水量をそれ以上増加させても塩素量の大きな低下はない。
【0050】
スラリー調製時の水の使用量については、当該量が3.5質量倍を下回る場合には、固形物濃度が高く扱いにくいことに加え、プレス後の残渣に洗浄水を通し洗浄する際、固形物からの未溶解分の溶出のためと思われるが、残渣が崩れることが観察された。これはスラリー調製のための水の量が少ない比較例1~3の方が顕著であった。
【0051】
一方、ゴミ焼却灰に対して水8.5質量倍を超えて加えて調製したスラリーでは、ろ過する際、スラリー濃度にムラが生じ、水洗残渣の厚さがろ室上部で薄く下部が厚いという状態が観察され、更に、最下部には粗い粒子が堆積するようなムラが観察された。
【0052】
これらに対し、スラリー調製時におけるに対する水の使用量をゴミ焼却灰の3.5~8.5質量倍とし、水洗時における使用量を1.5質量倍以上とした実施例では、いずれの場合も塩素濃度は十分に低下しており、かつ得られた水洗残渣の厚さも均一で取り扱いやすいものであった。
【0053】
実施例5~8および比較例12~22
都市ゴミ焼却炉より得られたゴミ焼却灰に対してスラリー固形分濃度が5.5%ないし23.5%(水温15℃)となるようにスラリー水を加えてスラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスに導入し固液分離を行った。さらにろ過残残渣(固形分)を、前記ゴミ焼却灰に対してフィルタープレスのろ室容積の0~5容量倍相当の水で貫通洗浄した。洗浄後の洗浄残渣の塩素量を測定した結果を、洗浄に際して用いた水量等と共に表1に示す。
【0054】
実施例、比較例に依らずゴミ焼却灰に対して洗浄水がフィルタープレスのろ室容積の2容量倍までは洗浄残渣の塩素量は低下していくが、洗浄水量をそれ以上増加させても塩素量の大きな低下はない。
【0055】
スラリー調製時の水の使用量については、スラリー固形分濃度が16%上回る場合には、固形物濃度が高く扱いにくいことに加え、プレス後の残渣に洗浄水を通し洗浄する際、固形物からの未溶解分の溶出のためと思われるが、残渣が崩れることが観察された。これはスラリー調製のための水の量が少ない比較例12~14の方が顕著であった。
【0056】
一方、ゴミ焼却灰に対してスラリー固形分濃度が6%を下回るように調整されたスラリーでは、ろ過する際、スラリー濃度にムラが生じ、水洗残渣の厚さがろ室上部で薄く下部が厚いという状態が観察され、更に、最下部には粗い粒子が堆積するようなムラが観察された。
【0057】
これらに対し、スラリー調製時におけるに対する水の使用量をスラリー固形分濃度が6.0%~16.0%とるように調整され、水洗時における使用量をフィルタープレスのろ室容積の2容量倍以上とした実施例では、いずれの場合も塩素濃度は十分に低下しており、かつ得られた水洗残渣の厚さも均一で取り扱いやすいものであった。
【0058】
【0059】