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  • 特開-甘味剤及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140147
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】甘味剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20230927BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20230927BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A23L27/00 F
A23L27/30 Z
A61K47/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046030
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下部 裕子
(72)【発明者】
【氏名】堀江 芙由美
【テーマコード(参考)】
4B047
4C076
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE01
4B047LF07
4B047LG06
4C076AA12
4C076BB01
4C076BB22
4C076DD40
4C076DD40T
4C076FF11
4C076FF52
(57)【要約】
【課題】本開示は、新たな甘味剤及びその使用を提供することを目的とする。
【解決手段】トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する甘味剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する甘味剤。
【請求項2】
経口組成物の製造において、甘味を付与するためにトランス-2-ヘキセナールを配合することを含む、トランス-2-ヘキセナールの甘味剤としての使用方法。
【請求項3】
前記経口組成物が、食品組成物、医薬品組成物または口腔用組成物である、請求項2に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する甘味剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質摂取量の抑制等を目的として、少量でも甘味が感じられる様々な甘味剤の開発が従来行われている。このような甘味剤として、例えばショ糖の100~1000分の1の使用量でショ糖と同等の甘味度を得られる高甘味度甘味料が開発されており、アスパルテーム、スクラロース、ステビア等は代表的な甘味剤として知られている。また、甘味剤は、化学的に合成された甘味剤、天然由来の甘味剤に大別され、化学的に合成された甘味剤は消費者に与えるイメージが良くないといわれており、天然由来の甘味剤が好まれる傾向にある。天然由来の甘味剤としては、例えばステビア、カンゾウ等が挙げられる。
【0003】
一方、トランス-2-ヘキセナールは、草や葉のにおいの主要な成分であり、芳香成分として知られている公知の物質である。例えば、特許文献1には、青葉の香りの香気成分を所定の炭酸飲料に含有させることによって、炭酸に由来する苦味の後引きが抑制され、後味が良好な炭酸飲料が得られたことが報告されており、該芳香成分の一つとしてトランス-2-ヘキセナールが使用されている。このように、従来、トランス-2-ヘキセナールは香料として使用されていたものの、甘味剤として使用することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-170194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、新たな甘味剤及びその使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、草や葉のにおいの主要な成分であるトランス-2-ヘキセナールが、ショ糖よりも高い甘味度を有し、また、甘味剤として有用な閾値、甘味の質を有することを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する甘味剤。
項2.経口組成物の製造において、甘味を付与するためにトランス-2-ヘキセナールを配合することを含む、トランス-2-ヘキセナールの甘味剤としての使用方法。
項3.前記経口組成物が、食品組成物、医薬品組成物または口腔用組成物である、項2に記載の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、トランス-2-ヘキセナールを有効成分とする新たな甘味剤等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、甘味度の評価試験における集計結果を示すグラフである。
図2図2は、トランス-2-ヘキセナールの甘味の質とショ糖の甘味の質とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。なお、本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0010】
本開示は、トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する甘味剤を包含する。
【0011】
トランス-2-ヘキセナールは、草や葉のにおいの成分と知られており、CAS登録番号6728-26-3で示される公知の成分である。
【0012】
本開示の甘味剤は、トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する。該甘味剤中のトランス-2-ヘキセナールの含有量は、0質量%より多く100質量%の範囲において制限されず、好ましくは0.005~99質量%が例示され、より好ましくは0.024~99質量%、更に好ましくは1~95質量%、特に好ましくは5~90質量%、10~80質量%、30~70質量%等が例示される。
【0013】
該甘味剤の形態は制限されず、液剤、乳剤、懸濁剤等の液状形態、粉末状、顆粒状、細粒状、錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、チュアブル剤、ゲル状、クリーム状、ペースト状、シート状、液状形態の乾燥物(凍結乾燥物、噴霧乾燥物等)等の半固形または固形形態、スプレー剤等の各種形態が例示される。
【0014】
本開示の甘味剤は、本開示の効果を妨げない範囲で、前記形態等を考慮して、必要に応じて薬学的に許容される成分、香粧品科学的に許容される成分、可食性の成分といった任意の他の成分を含有してもよい。該他の成分として、水、低級アルコール類(エタノール、1-プロパノール、グリセリン等の炭素数1以上5以下、好ましくは炭素数1以上3以下)、高級アルコール類等のアルコール類、動植物油類等の油類、賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、香料、香辛料、着色料、矯味剤、懸濁剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、増量剤、防腐剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤、界面活性剤、コーティング剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、酸化防止剤、清涼化剤、食物繊維(難消化性デキストリン等)、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類、動植物抽出物、酵素、栄養成分等の各種機能性成分、トランス-2-ヘキセナール以外の甘味成分等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、その配合量も適宜決定すればよい。
【0015】
本開示を制限するものではないが、該他の成分の一例としてトランス-2-ヘキセナール以外の甘味成分について説明すると、該甘味成分は、化学的に合成された甘味剤、天然由来の甘味剤を問わず、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース、カンゾウ、ステビア、キシリトール、ソルビトール、還元水飴、還元パラチノース、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、異性化糖、トレハロース、パラチノース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等の甘味成分が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。このように本開示の甘味剤は、トランス-2-ヘキセナール以外の甘味成分を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
【0016】
本開示を制限するものではないが、該他の成分一例として香辛料について説明すると、香辛料として、ワサビ、ニンニク、唐辛子、シナモン、ミント等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本開示の甘味剤は、前記形態等に応じた従来公知の手順に従い、トランス-2-ヘキセナールと、必要に応じて他の成分とを混合等することにより製造することができる。
【0018】
後述の実施例に示す通り、トランス-2-ヘキセナールの甘味度はショ糖の29.6倍であり、ショ糖よりも少量であっても十分に甘味が得られる。また、トランス-2-ヘキセナールの検知閾値は0.0051質量%、認知閾値は0.0244質量%であり、これは、ショ糖よりも低い値であり、この点からもトランス-2-ヘキセナールは甘味剤として有用である。また、トランス-2-ヘキセナールは、ショ糖と同様の甘味の質(甘味の口当たり、立ち、深み、後味のキレ(スッキリ感)、広がり、好ましさ)を有する。このように、トランス-2-ヘキセナールを有効成分として含有する本開示の甘味剤は、ショ糖等の従来の甘味成分の代替物として、または、従来の甘味成分と共に、使用することができる。
【0019】
また、このことから、本開示の甘味剤は、甘味を付与するという目的において、公知の甘味成分に代えて、または、公知の甘味成分と共に、甘味を付与させたい組成物と組み合わせて使用することができる。甘味を付与させたい組成物(以下、原料組成物と記載する場合がある)と組み合わせて使用するとは、通常、本開示の甘味剤と原料組成物とを混合すればよい。これにより、原料組成物に対して本開示の甘味剤が配合されることに基づき甘味が付与された組成物を容易に得ることができる。なお、本開示の甘味剤が、公知の甘味成分と共に使用される場合、公知の甘味成分が配合されることに基づき付与される甘味が、本開示の甘味剤を併用することにより増強されるものであってもよい。このことから、本開示において甘味の付与は、甘味のない組成物に対して甘味を付与するという意味だけでなく、甘味を有する組成物に対して更に甘味を付与する(甘味を増強する)という意味も包含する。
【0020】
甘味が付与された組成物は制限されないが、通常、経口組成物が例示される。経口組成物として、食品組成物(飲料を含む、サプリメント等を含む)、医薬組成物、口腔用組成物、飼料組成物等が例示される。
【0021】
経口組成物として、本開示を制限するものではないが、炭酸飲料、果実飲料、茶飲料、スポーツ飲料、豆乳飲料等の清涼飲料水、アルコール飲料、乳飲料等の飲料、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、キャンディー、グミキャンディー、ゼリー、プリン、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、スポンジケーキ、ドーナッツ、カステラ、ホットケーキ、パイ、パン、あん類、おかき等の米菓等の菓子類、アイスクリーム、シャーベット等の氷菓、カスタードクリーム、バタークリーム、果実ジャム、シロップ、果実のシロップ漬け、フラワーペースト、フルーツペースト、ピーナッツペースト等のジャム類やペースト類、マーガリン、ショートニング、植物油、動物油等の食用油等の油類、味噌、醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシグ、マヨネーズ、焼き肉のタレ、シチューの素、カレールー、浅漬けの素等の調味料類、たくあん等の漬物類、魚肉ソーセージ、蒲鉾、味付け海苔、つくだ煮等の水産製品、ハム、ソーセージ等の畜産製品、油揚げ、即席ラーメン等の揚げ製品等の食品組成物が例示される。また、経口組成物として、各種サプリメント、散剤、顆粒剤、錠剤、トローチ、ドリンク剤等の医薬品組成物、歯磨き粉、液体歯磨き、洗口液等の口腔用組成物が例示される。これらは医薬部外品組成物として使用されるものも含む。また、経口組成物として、各種ペットフード、家禽、牛、豚等の家畜用飼料等の飼料組成物が例示される。後述の実施例に示す通り、トランス-2-ヘキセナールは水溶液においても所望の甘味を発揮することができる。このことから、本開示の甘味剤は、様々な組成物に対して使用することができる。
【0022】
本開示を制限するものではないが、経口組成物として、好ましくは清涼飲料水、アルコール飲料等が例示される。
【0023】
本開示を制限するものではないが、本開示の甘味剤は、通常、従来公知の手順に従って、経口組成物の製造過程中にその原料組成物と混合すればよい。
【0024】
甘味が付与された組成物中の本開示の甘味剤の含有量は制限されず、組成物の種類、目的とする甘味、併用する甘味剤の有無、種類、その含有量等に応じて、また、甘味度等を考慮して適宜決定すればよい。この限りにおいて制限されないが、例えば経口組成物中、本発明の甘味剤は、トランス-2-ヘキセナールの含有量として、0.005~0.1質量%程度が例示され、好ましくは0.024~0.06質量%程度が例示される。
【0025】
本開示によれば、甘味の付与において、公知の甘味成分の一部または全部をトランス-2-ヘキセナールに置き換えることができる。また、甘味成分は大別すると糖質系甘味料と非糖質系甘味料との2種類に分けられ、トランス-2-ヘキセナールは非糖質系の物質であり、例えばショ糖は糖質系甘味料の一種である。このことから、例えば糖質摂取量の低減等を目的とする場合においても、本開示の甘味剤は好ましく利用できる。
【0026】
このことから、本開示はまた、経口組成物の製造において、甘味を付与するためにトランス-2-ヘキセナールを配合することを含む、トランス-2-ヘキセナールの甘味剤としての使用方法を提供するともいえる。該方法において、トランス-2-ヘキセナール、経口組成物、トランス-2-ヘキセナールの配合等はいずれも、前述と同様に説明される。
【0027】
また、バニラは甘い香りを有する香料として従来知られており、その主な成分はバニリン(vanillin)であることが知られているが、後述の実施例に示す通り、バニリンでは実質的に甘味が感じられない。このように、甘い香りを有する芳香成分であるからといって該芳香成分が甘味剤として有用であるとはいえない。草や葉のにおいの主要な成分であり、青葉の香りを有するトランス-2-ヘキセナールが甘味剤として有用であることは驚くべきことである。
【実施例0028】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0029】
試験例1:甘味度
1-1)試料の調製
トランス-2-ヘキセナールを水と混合し、均一になるように攪拌し、異なる濃度のトランス-2-ヘキセナール水溶液(0.0663~0.0083質量%、0.0145質量%間隔、すなわち0.0663、0.0518、0.0373、0.0228、0.0083質量%の全5種類)を調製した。また、ショ糖を水と混合し、均一になるように攪拌し、ショ糖水溶液(濃度は1.48質量%)を調製した。本試験例で使用したトランス-2-ヘキセナール、ショ糖、水は次の通りである。
トランス-2-ヘキセナール:商品名trans-2-ヘキセナール(株式会社井上香料製造所製)
ショ糖:商品名グラニュ糖(三井製糖株式会社製)
水:商品名ベビーのじかん 赤ちゃんの純水(アサヒグループ食品株式会社製)
【0030】
1-2)甘味度評価
渡辺ら(渡辺長男、澱粉糖技術研究会報、14、44-50、(1956))の方法に変更を加え、Pauliの全系列法を実施した。具体的には、水で口をすすいで口内に味が残っていないことを確認したのち、鼻栓を装着した。鼻栓をつけた状態で、前述の通り調製したショ糖水溶液5mLを口に含み、甘味の強さを確認したのち、水溶液を吐き出した。鼻栓を外して水で口をすすぎ、再度鼻栓を装着した。鼻栓をつけた状態でトランス-2-ヘキセナール水溶液5mLを口に含み、甘味の強さを確認後、水溶液を吐き出した。ショ糖水溶液と比較し、トランス-2-ヘキセナール水溶液の甘味が「大」、「等しい」、「小」であるかを三件法で判別した。トランス-2-ヘキセナール水溶液を口に含んだ後はうがいをし、3分間の間隔を設けた。これを各濃度のトランス-2-ヘキセナール水溶液について行った。トランス-2-ヘキセナール水溶液の提示順序は、ラテン方格法によってランダム化した。全5種の濃度のトランス-2-ヘキセナール水溶液について判別後、トランス-2-ヘキセナール水溶液の提示順序を逆にして、再度同様にしてショ糖水溶液と比較した。
【0031】
本試験例における被験者数は6名であり、前述の通り各水溶液を2回ずつ口に含ませたことから、各水溶液の判別数nを12とした。室温は20℃とし、各水溶液は試験開始1時間前には室温に静置した。
【0032】
被験者の回答を集計し、以下の式に従って、甘味度を算出した。集計結果を表1及び図1に示す。図1は、表1の結果をグラフ化した図である。
【0033】
【表1】
【0034】
Eo=(Do+i/2)-Σgr×i/n=0.0409
Eu=(Du-i/2)+Σkl×i/n=0.0276
Em=(Eo+Eu)/2=0.0342
S=(N+100)/Em=2.96×10
【0035】
なお、該式において各記号は以下を意味する。
・濃度間隔i=0.0145
・判別数n=12
・「大」という判別閾値Eo
・「等しい」という判別閾値Em
・「小」という判別閾値Eu
・全被験者がショ糖水溶液より「大」と回答した検体溶液濃度Do=0.0663
・全被験者がショ糖水溶液より「小」と回答した検体溶液濃度Du=0.0083
・「大」の判別総和Σgr=27
・「小」の判別総和Σkl=22
・1.48質量%ショ糖水溶液を100としたときのトランス-2-ヘキセナール水溶液の甘味度甘味強度S
・ショ糖水溶液濃度N=1.48
【0036】
1-3)結果
前記式に従い算出したところ、前述の通り、甘味度(甘味強度S)の値は2.96×10であった。すなわち、トランス-2-ヘキセナールの甘味度は、ショ糖の29.6倍であった。このことから、トランス-2-ヘキセナールによれば、ショ糖よりも少量であっても十分に甘味が得られることがわかった。
【0037】
試験例2:閾値
2-1)試料の調製
試験例1と同様にしてトランス-2-ヘキセナールと水とを混合し、8種類の濃度のトランス-2-ヘキセナール水溶液(0.0663~0.0005質量%、倍数希釈列、すなわち0.0663、0.0331、0.0166、0.0083、0.0041、0.0021、0.0010、0.0005質量%の全8種類)を作製した。トランス-2-ヘキセナール、水は試験例1と同じものを用いた。
【0038】
2-2)閾値評価
大和田ら(大和田国男ら、日本衛生学雑誌、27、2、243-247、(1972))、染川ら(染川正多ら、明海大学歯学雑誌、48、2、27-34、(2019))の方法に変更を加え、全口腔法を実施した。被験者10名、室温を20℃とし、各水溶液は試験開始1時間前には室温に静置した。
【0039】
具体的には、水で口をすすいで口内に味が残っていないことを確認したのち、鼻栓を装着した。鼻栓をつけた状態で水を口に含み、そのときの感覚を「無味」とした。水を吐き出した後、トランス-2-ヘキセナール水溶液10mLを2秒間口に含んで吐き出した。水と比較して味に違いがあれば「有」、なければ「無」として、味の有無を回答した。また、「有」を選択した場合は、感じた味の性質を「甘味」、「酸味」、「苦味」、「塩味」、「うま味」、「その他」の中から回答し、複数選択してよいこととした。トランス-2-ヘキセナール水溶液を口に含んだ後はうがいをし、1分間の間隔を設けた。トランス-2-ヘキセナール水溶液は濃度の低いものから順に提示した。2回以上連続して味の違い「有」を選択したときの濃度を平均したものを検知閾値、味の性質について2回以上連続して「甘味」と回答したときの最低濃度を平均したものを甘味の認知閾値とした。
【0040】
2-3)結果
前述の手順に従い算出したところ、トランス-2-ヘキセナールの検知閾値は0.0051質量%、認知閾値は0.0244質量%であった。これらの閾値は、例えば甘味剤として従来知られているアスパルテームよりも高い値であったが、ショ糖よりも低い値であった。このことからも、トランス-2-ヘキセナールは甘味剤として有用であることが分かった。
【0041】
試験例3:甘味の質
3-1)試料の調製
試験例1と同様にして、トランス-2-ヘキセナール水溶液(0.0373質量%)と、ショ糖水溶液(1.48質量%)とを調製した。トランス-2-ヘキセナール、ショ糖、水は、試験例1と同じものを用いた。
【0042】
3-2)甘味の質評価
被験者10名、室温を20℃とし、各水溶液は試験開始1時間前には室温に静置した。水で口をすすいで口内に味が残っていないことを確認したのち、鼻栓を装着した。鼻栓をつけた状態で1.48質量%ショ糖水溶液5mLを口に含み、甘味の質を確認後、吐き出した。鼻栓を外して水で口をすすいだのち、再度鼻栓を装着した。鼻栓をつけた状態でトランス-2-ヘキセナール水溶液5mLを口に含み、甘味の質を確認したのち吐き出した。
【0043】
後述の評価基準に従い、甘味の質を評価した。具体的には、甘味の「口当たり」「立ち」「深み」「後味のキレ(スッキリ感)」「広がり」「好ましさ」について、1.48質量%ショ糖水溶液と比較したときのトランス-2-ヘキセナール水溶液の味質を7段階で評価した。この際、トランス-2-ヘキセナール水溶液の方が、ややよい:+1点、かなりよい:+2点、非常によい:+3点、やや劣る:-1点、かなり劣る:-2点、非常に劣る:-3点、どちらともいえない:0点とした。該評価では、口当たり、立ち、深み、後味のキレ(スッキリ感)、広がり、好ましさのそれぞれについて被験者間で予め照らし合わせて基準の統一化を図った。
【0044】
[評価基準]
口当たり:口に含んだ直後に感じる甘味
立ち:口に含んだ後、速やかに甘味が強くなるのを感じた場合を立ちがよいとした
深み:甘味の重厚感や濃厚感
後味のキレ(スッキリ感):後味が後を引かずになくなり、甘味がいつまでも口の中に残らない場合をキレがあるとした
広がり:甘味を感じた後、その甘味が口の中に全体に広がっていく感覚を広がりがあるとした
好ましさ:総合的に判断したときの甘味の好み
【0045】
3-3.結果
結果を図2に示す。図2に示す通り、トランス-2-ヘキセナールは、甘味の好ましさ、口当たり、深みにおいてショ糖よりも点数が若干低かったが、ショ糖と同等のキレがあり、また、甘味の立ち、広がりはショ糖よりも点数が高かった。また、このようにショ糖とは多少の相違が認められたものの、図2に示すグラフから理解できるように、トランス-2-ヘキセナールを用いた場合に得られた評価結果(六角形)とショ糖を用いた場合に得られた評価結果(六角形)は概ね同じ形であった。このことから、トランス-2-ヘキセナールは、従来甘味剤として使用されているショ糖と同様の甘味の質を有する甘味剤として使用できることが分かった。
【0046】
トランス-2-ヘキセナールは非糖質系の物質である。甘味剤は大別すると糖質系甘味料と非糖質系甘味料との2種類に分けられ、ショ糖は糖質系甘味料の一種である。前記試験の結果から、トランス-2-ヘキセナールは、ショ糖と同様の甘味の質を備えていることが分かった。このことから、例えば糖質摂取量の低減等を目的とする場合において、ショ糖に代えて、トランス-2-ヘキセナールを使用できることが理解できた。また、前述の通り、トランス-2-ヘキセナールはショ糖よりも高い甘味度を有し、閾値の点でも甘味剤として有用であることから、ショ糖をはじめとする従来公知の様々な甘味剤に代えて、または、このような甘味剤と共に、甘味を付与することを目的として各種組成物において使用できることが理解できた。
【0047】
また、バニラは甘い香りを有する香料として従来知られており、その主な成分はバニリン(vanillin)であることが知られている。そこで、本発明者らはバニリンを用いて甘味を調べたところ、バニリンでは実質的に甘味が感じられなかった。このことから、甘い香りを有する芳香成分であるからといって該芳香成分が甘味剤として有用であるとは決していえず、ましてや、草や葉のにおいの主要な成分であり、青葉の香りを有するトランス-2-ヘキセナールが甘味剤として有用であることは驚くべき結果であった。
図1
図2