(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140190
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】音場評価装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 15/00 20060101AFI20230927BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G10K15/00 M
H04S7/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046096
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】西口 敏行
【テーマコード(参考)】
5D162
【Fターム(参考)】
5D162AA05
5D162CA26
5D162CC08
5D162EG02
(57)【要約】
【課題】受音点の分布を客観的に評価することができる音場評価装置およびプログラムを提供する。
【解決手段】インパルス応答算出部は室内空間の形状を示す室形データと壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、少なくとも前記室内空間に配置された発音点と受音点の組ごとに第1インパルス応答を算出し、畳込部は前記受音点と前記室内空間に配置された再生点との対応関係を示す収音再生対応データに基づいて、前記第1インパルス応答と前記受音点に対応する再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答を前記発音点ごとの音響信号に畳み込み、前記受聴点ごとに受聴信号を生成し、指標算出部は前記受聴点ごとの受聴信号の受聴点間の相関係数を、前記受音点の少なくとも一部において受音される音の物理指標として算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間の形状を示す室形データと壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、少なくとも前記室内空間に配置された発音点と受音点の組ごとに第1インパルス応答を算出するインパルス応答算出部と、
前記受音点と前記室内空間に配置された再生点との対応関係を示す収音再生対応データに基づいて、前記第1インパルス応答と前記受音点に対応する再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答を前記発音点ごとの音響信号に畳み込み、前記受聴点ごとに受聴信号を生成する畳込部と、
前記受聴点ごとの受聴信号の受聴点間の相関係数を、前記受音点の少なくとも一部において受音される音の物理指標として算出する指標算出部と、を備える
音場評価装置。
【請求項2】
少なくとも前記発音点と前記受音点の1つに対して、指向性を設定するパラメータ設定部を備え、
前記インパルス応答算出部は、前記発音点から異なる方向に発される複数の音線のそれぞれの成分である音線成分の振幅を、前記発音点から発される音線の方向への指向性、前記発音点から前記受音点までの伝播距離に基づく減衰、前記発音点からの前記受音点までの前記壁面の反射点における吸音率、および、前記受音点に到達する音線の方向の指向性に基づいて定め、
前記音線成分を前記複数の音線間で合成して前記第1インパルス応答を定める
請求項1に記載の音場評価装置。
【請求項3】
前記インパルス応答算出部は、
前記室内空間と共通または異なる室内空間の形状を示す室形データと当該室内空間の壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、前記第2インパルス応答を算出する
請求項1または請求項2に記載の音場評価装置。
【請求項4】
前記受音点の数は3以上であり、
前記畳込部は、前記第1インパルス応答と前記受音点の一部である所定のグループに属する受音点に対応する前記再生点と受聴点の組に係る前記第2インパルス応答が畳み込まれた前記受聴信号を生成し、
前記指標算出部は、
前記物理指標が、前記グループに所定の基準範囲内であるか否かを判定する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の音場評価装置。
【請求項5】
前記物理指標が、所定の基準範囲内にないとき、前記受音点の分布を更新するパラメータ設定部を備える
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の音場評価装置。
【請求項6】
コンピュータに、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の音場評価装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場評価装置およびプログラムに関する。より具体的には、本実施形態は、音響空間における発音点から受音点への伝達特性のシミュレーションと、伝達特性に基づく両耳相関係数の算出に関する。両耳相関係数は、受音点の位置の評価に用いられる。
【背景技術】
【0002】
コンサートホール、劇場、公民館などにおける音響空間の設計支援を目的として、室内音場において収音されうる音を可聴化することや、仮想現実(VR:Virtual Reality)技術を用いて仮想空間における音の響きを再生することが提案されていた。そこで、音場内の発音点と受音点の間のインパルス応答を音線法(音線追跡法、音響レイトレーシング、などと呼ばれることもある)、鏡像法、などの手法を用いてシミュレーションする方法が研究されていた(非特許文献1-5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】牧田 優子、木村 翔、「音源の指向特性と壁面の吸音率を考慮した音線法シミュレーションの視覚化」、日本建築学会計画系論文報告集、第451号、pp.1-8、1993年9月
【非特許文献2】坂本 慎一、「音場の可視化・可聴化技術の現状及び将来展望」、日本音響学会誌61巻1号、pp.45-49、(2005)
【非特許文献3】池沢 龍、大久保 洋幸、三本 浩介、田辺 逸雄、西 隆司、北村 浩一、「音響設計支援システムにおける音場シミュレーションの精度向上の一手法」、日本音響学会講演論文集、2-1-3、pp.827-828、平成8年3月
【非特許文献4】R. Ikezawa, H. Okubo, M. Ootani, H. Tanabe, K. Mimoto, “A STUDY OF SOUND FIELD SIMULATION AND ITS EVALUATION FOR THE ARCHITECTURAL ACOUSTIC DESIGN SUPPORT SYSTEM”, Proceeding of the International Symposium on Simulation, Visualization and Auralization for Acoustic Research and Education (ASVA 97), pp.645-652, 2-4 April, 1997
【非特許文献5】沢口 真生、小倉 善二、岡本 幹彦、大塚 豊、三上 眞司、三本 浩介、池沢 龍、小野 一穂、「NHK CR-601 Virtual Reality Studioの概要」、AES東京コンベンション’97予稿集、技術発表G-1、pp.146-149、(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、室内音響空間では、拡声もしくは録音を目的として講話や歌唱などの音声を収音することがある。収音された音声の品質を確保するために、収音場の室内音響特性に応じてマイクロホンの位置を検討することが望ましい。しかしながら、従来は音響技術者の経験と主観に頼ってマイクロホンの配置を定めることが通例だった。また、上記のシミュレーションでは、好ましい受音点の位置を明示的に知得することまでは考慮されていなかった。
【0005】
また、サラウンド音声制作では、収音に用いられるマイクロホンの数が複数となる。そのため、複数のマイクロホンの位置を音響空間の室内音響特性や、音源(例えば、楽器、出演者などの数、配置、編成、等に応じて検討することが望ましい。しかしながら、従来は音響技術者が収音現場において、個々のマイクロホンの位置を変えながら収音される音の音色、音像の幅ならびに広がり、音場の広がりなどを確認しながら、その位置を定めることが通例だった。かかる作業も、多くの経験を要するうえ、多くの労力と時間が費やされる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、受音点の分布を客観的に評価することができる音場評価装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、[1]本発明の一態様は、室内空間の形状を示す室形データと壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、少なくとも前記室内空間に配置された発音点と受音点の組ごとに第1インパルス応答を算出するインパルス応答算出部と、前記受音点と前記室内空間に配置された再生点との対応関係を示す収音再生対応データに基づいて、前記第1インパルス応答と前記受音点に対応する再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答を前記発音点ごとの音響信号に畳み込み前記受聴点ごとに受聴信号を生成する畳込部と、前記受聴点ごとの受聴信号の受聴点間の相関係数を、前記受音点の少なくとも一部において受音される音の物理指標として算出する指標算出部と、を備える音場評価装置である。
[1]の構成によれば、室内空間における受音点から受音点の第1インパルス応答と、受音点に対応する発音点から受聴点の第2インパルス応答を用いて、受聴点ごとの受聴信号が室形データ、吸音率データなどの条件に応じて取得される。そのため、受聴信号の受聴点間の相関係数に基づいて受音点の分布を客観的に評価することができる。また、受音点の分布を評価する際に音響技術者の経験と主観に頼らずに済むため、音声の収録に係る受音点の設営、音声素材の制作に係る作業を効率化することができる。
【0008】
[2]本発明の一態様は、上述の音場評価装置であって、少なくとも前記発音点と前記受音点の1つに対して、指向性を設定するパラメータ設定部を備え、前記インパルス応答算出部は、前記発音点から異なる方向に発される複数の音線のそれぞれの成分である音線成分の振幅を、前記発音点から発される音線の方向への指向性、前記発音点から前記受音点までの伝播距離に基づく減衰、前記発音点からの前記受音点までの前記壁面の反射点における吸音率、および、前記受音点に到達する音線の方向の指向性に基づいて定め、前記音線成分を前記複数の音線間で合成して前記第1インパルス応答を定めてもよい。
[2]の構成によれば、音響空間を画定する壁面の他、発音点と受音点のそれぞれの指向性に応じて音線成分ごとの振幅が定まる。そのため、発音点ならびに受音点のそれぞれの指向性に対する、音声の知覚特性に対する影響を客観的に評価することができる。
【0009】
[3]本発明の一態様は、上述の音場評価装置であって、インパルス応答算出部は、前記室内空間と共通または異なる室内空間の形状を示す室形データと当該室内空間の吸音率データに基づいて、第2インパルス応答を算出してもよい。
[3]の構成によれば、再生音場において必ずしも測定を行わなくても種々の条件のもとでの第2インパルス応答が取得される。そのため、物理指標を用いた受音点の分布を効率化することができる。
【0010】
[4]本発明の一態様は、上述の音場評価装置であって、前記受音点の数は3以上であり、前記畳込部は、前記第1インパルス応答と前記受音点の一部である所定のグループに属する受音点に対応する前記再生点と受聴点の組に係る前記第2インパルス応答が畳み込まれた前記受聴信号を生成し、前記指標算出部は、前記物理指標が、前記グループに所定の基準範囲内であるか否かを判定してもよい。
[4]の構成によれば、そのグループに属する受音点に基づく受聴信号が要求される品質を満たすか否かが客観的に評価される。そのため、グループごとの受音点の設置に係る作業を効率化することができる。
【0011】
[5]本発明の一態様は、上述の音場評価装置であって、前記物理指標が、所定の基準範囲内にないとき、前記受音点の分布を更新するパラメータ設定部を備えてもよい。
[5]の構成によれば、物理指標が所定の基準範囲内となる受音点が探索される。そのため、受音点の配置を定める作業を効率化することができる。
【0012】
[6]本発明の一態様は、コンピュータに、上述の音場評価装置として機能させるためのプログラムであってもよい。
[6]の構成によれば、室内空間における受音点から受音点の第1インパルス応答と、受音点に対応する発音点から受聴点の第2インパルス応答を用いて、受聴点ごとの受聴信号が室形データ、吸音率データなどの条件に応じて取得される。そのため、受聴信号の受聴点間の相関係数に基づいて受音点の分布を客観的に評価することができる。また、受音点の分布を評価する際に音響技術者の経験と主観に頼らずに済むため、音声の収録に係る受音点の設営、音声素材の制作に係る作業を効率化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、受音点の分布を客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る音場評価装置の構成例を示す概略ブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る音場シミュレーションの概要を説明するための説明図である。
【
図3】本実施形態に係る音線シミュレーションの一例を示すフローチャートの一部である。
【
図4】本実施形態に係る音線シミュレーションの一例を示すフローチャートの他の一部である。
【
図9】シミュレーション設定画面の例を示す図である。
【
図14】受音点への音線の到達方向を説明するための説明図である。
【
図15】発音点からの射出角と受音点への入射角を説明するための説明図である。
【
図17】インパルス応答の算出過程の例を説明するための説明図である。
【
図18】収音音場と再生音場との対応関係の一例を示す説明図である。
【
図19】パンニング操作の例を説明するための説明図である。
【
図20】本実施形態に係る音場評価処理の一例を示すフローチャートである。
【
図21】本実施形態に係る音場評価処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図22】インパルス応答の算出過程の他の例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る音場評価装置10の構成例を示す概略ブロック図である。
音場評価装置10は、室形データと吸音率データに基づいて、室内空間に配置された発音点と受音点の組ごとに第1インパルス応答を算出する。発音点は、スピーカなどの音源が設置される位置、つまり、音源位置に相当する。受音点は、到来する音を受音する位置、つまり、受音位置に相当する。受音位置には、例えば、マイクロホンが設置される。第1インパルス応答は、発音点から発され、受音点に到達する音の伝達特性を時間領域で示す指標である。本願では、発音点からの音の放射から受音点への到達、もしくは、受音点での収音までの過程を「収音プロセス」と呼ぶことがある。
【0016】
音場評価装置10は、収音再生対応データに基づいて、第1インパルス応答と、受音点に対応する再生点と受聴点の組ごとの第2インパルス応答に第1インパルス応答に係る発音点ごとの音響信号を畳み込み、受聴点ごとの音響信号を生成する。第2インパルス応答は、再生点から発され、受聴点に到達する音の伝達特性を時間領域で示す指標である。再生点は、受音点において受音された音を再生する再生位置、もしくは、その音に対して所定の処理(例えば、パンニング操作)を施して再生するための目標位置に相当する。受聴点は、再生点から到来する音が受聴される位置、つまり、受聴位置に相当する。本願では、再生点からの音の放射から受聴点への到達、もしくは、受聴点における収音までの過程を「再生プロセス」と呼ぶことがある。音場評価装置10は、生成した受聴信号の受聴点間の相関係数を物理指標として算出する。受聴点は、受聴者の左右それぞれの耳の位置となりうる。なお、本願では、発音点に設置された音源を「発音源」と呼ぶことがある。
【0017】
発音点と受音点には、それぞれ指向性が設定されてもよい。第1インパルス応答を算出する際、音場評価装置10は、発音点から異なる方向に発される複数の音線それぞれの成分を音線成分として、発音点から発される音線の方向への指向性、発音点から受音点までの距離に基づく減衰、発音点から受音点までの壁面における反射、および、受音点において受音される音線の方向の指向性に基づいて定める。音場評価装置10は、受音点において受音された個々の音線の音線成分を音線間で合成して第1インパルス応答を定める。
なお、音場評価装置10は、予め測定された再生点から受聴点までのインパルス応答を第2インパルス応答として用いてもよいし、再生点から受聴点までの第2インパルス応答を算出してもよい。再生点と受聴点にも、それぞれ指向性が設定されてもよい。第2インパルス応答を算出する際、音場評価装置10は、再生点から異なる方向に発される複数の音線それぞれの成分を音線成分として、再生点から発される音線の方向への指向性、再生点から受聴点までの距離に基づく減衰、再生点から受聴点までの壁面における反射、および、受聴点において受音される音線の方向の指向性に基づいて定める。
【0018】
音場評価装置10は、パラメータ設定部122、インパルス応答算出部124、畳込部126、指標算出部128、出力処理部130、入力部142、および、表示部144を含んで構成される。音場評価装置10の各構成部は、専用の部材もしくは集積回路で構成されてもよいが、これには限らない。音場評価装置10は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体を備えるコンピュータを含んで構成されてもよい。プロセッサは、予め記憶媒体に記憶されたプログラムを読み出し、読み出したプログラムに記述された個々の命令で指示される処理を実行し、記憶媒体またはその他のハードウェア資源と協働して、上記の構成部の一部または全部の機能を奏してもよい。記憶媒体には、処理に用いられるパラメータ、処理対象となる入力値、中間的または最終的な処理結果となる演算値などの各種データが一時的または永続的に記憶される。
【0019】
パラメータ設定部122は、音線法に基づくインパルス応答の算出に用いられるパラメータを取得する。パラメータ設定部122は、例えば、所定の設定画面データを表示部144に出力し、表示部144に設定画面データに基づく設定画面を表示させる。パラメータ設定部122は、入力部142から入力される操作情報に基づいて各種のパラメータを取得する。よって、ユーザは、設定画面を見ながらパラメータを設定するための操作を行うことができる。各種のパラメータには、室形データ、吸音率データ、指向性データ、シミュレーション時間、受音点エリア半径、収音再生対応データ、等がある。室形データは、室内空間の形状を示すデータである。吸音率データは、室内空間を画定する壁面の吸音率を示すデータである。指向性データは、個々の発音点が放射する音の指向性と、個々の受音点に到来する音の指向性とを示すデータである。発音点の指向性は、音の放射方向による強度の依存性に相当する。受音点の指向性は、音の到来方向による感度の依存性に相当する。シミュレーション時間は、受音点に到来する個々の音線成分を算出する期間であって、発音点からインパルス音が放射される時刻を起点とする。受音点エリア半径は、受音点エリアの形状を球と仮定し、その大きさを示す指標である。受音点エリアは、個々の音線の到来により、その音線が受音されたと判定する領域である。受音点エリア半径は、音線間隔に基づいて定まる。
【0020】
収音再生対応データは、受音点と再生点との対応関係を示すデータである。当該対応関係は、1個の受音点が1個または複数の再生点と対応付けられてもよいし、1個または複数の受音点が1個の再生点と対応付けられてもよいし、一群をなす複数の受音点と一群をなす複数の再生点が対応付けられてもよい。これらの対応関係は、一般に受音点の配置と再生点の配置に依存する。パラメータ設定部122は、取得した各種のパラメータをインパルス応答算出部124に設定する。パラメータ設定部122は、再生点と受聴点の組ごとに予め測定された第2インパルス応答を取得し、取得した第2インパルス応答を畳込部126に設定してもよい。各種のパラメータの詳細については、後述する。
【0021】
インパルス応答算出部124には、パラメータ設定部122により各種のパラメータが設定される。インパルス応答算出部124は、発音点と受音点の組ごとに発音点から受音点への音の伝達特性を示す第1インパルス応答を、音線法を用いて算出する。音線法は、音線追跡法、音響レイトレーシング(acoustical ray tracing)などとも呼ばれる。音線法は、発音点から放射方向が異なる複数の音線が同時に放射されることを仮定し、音響空間において個々の音線を受音点に到来するまで追跡し、音線ごとに壁面での反射の有無もしくは反射回数および伝播距離を定める手法である。
【0022】
インパルス応答算出部124は、音線シミュレーション部124aおよび音線成分合成部124bを含んで構成される。
音線シミュレーション部124aは、パラメータ設定部122により設定された各種パラメータを読み込む。音線シミュレーション部124aは、読み込んだパラメータのうち音線間隔に基づいて、第1インパルス応答1個当たりの音線総数Mを算出する。本実施形態では、シミュレーション開始時刻において放射方向が異なるM個の音線が発音点から同時に音線が放射され、音響空間を画定する壁面上で入射される個々の音線が反射することを仮定する。
音線シミュレーション部124aは、受音点座標、および、受音点エリア半径を用いて受音点エリアを設定する。受音点エリア半径は、音線総数M、音速、および、シミュレーション時間に基づいて定まる。
【0023】
音線シミュレーション部124aは、発音点から放射されたM個の音線のそれぞれについて、受音点エリアに到達するまで伝播状況を追跡する。音線シミュレーション部124aは、伝播状況として、例えば、壁面上での反射の有無、1回以上壁面上で反射する音線(間接音に相当)については個々の反射に係る反射位置、受音点エリアに到来するまでの伝播距離、および、受音点エリアへの到来方向を判定することができる。壁面上で反射せずに受音点エリアに到来する音線成分は、直接音に相当する。直接音に対しては、音線シミュレーション部124aは、発音点から受音点までの距離を伝播距離として定めることができる。反射音に対しては、音線シミュレーション部124aは、発音点から最初の反射位置までの距離、順序が隣り合う反射位置間の距離の合計値、および、最後の反射位置から受音点までの距離の合計値を伝播距離として定めることができる。
【0024】
音線シミュレーション部124aは、個々の音線の伝播状況に応じて、その音線に係る音線成分の遅延時間と振幅を定める。より具体的には、音線シミュレーション部124aは、音線の伝播距離を音速で除算して遅延時間を算出することができる。遅延時間は、発音点から受音点に到来するまでの伝播時間に相当する。音線シミュレーション部124aは、発音点から放射方向への指向性(放射強度)、個々の反射位置に応じた吸音率、受音点への到来方向への指向性(受音感度)、および、伝播距離に応じた距離減衰に基づいて、その音線成分の振幅を算出することができる。従って、音線シミュレーション部124aは、音線ごとの放射強度、距離減衰、個々の反射ごとの反射率、および、受音感度の積を、その音線成分の振幅として算出することができる。反射率は、1から吸音率を差し引いて得られる実数となる。
【0025】
但し、一般的に壁面に入射される音の吸音率は、周波数に依存する。音線シミュレーション部124aは、音線ごとに音線成分の遅延時間と振幅を算出する処理を、予め設定された各周波数帯域について実行する。周波数帯域の帯域幅は、1オクターブ、1/2オクターブ、1/3オクターブなどのいずれであってもよい。
音線シミュレーション部124aは、各周波数帯域について得られた音線ごとの音線成分の遅延時間と振幅を示す音線データを音線成分合成部124bに出力する。本願では、音線成分とは、インパルス応答をなす個々の音線が寄与する成分を指す。一般に、個々の音線は反射により伝搬方向が変化する。音線データには、その音線の音線成分の算出に用いられる各種パラメータの値が記述される。
【0026】
音線成分合成部124bは、音線シミュレーション部124aから入力された音線データで示されるM個の音線のそれぞれについて算出した振幅を、その音線について算出した遅延時間に割り当て、周波数帯域別の第1インパルス応答を定める。音線成分合成部124bは、周波数帯域別の第1インパルス応答を周波数帯域間で合成し全周波数帯域の第1インパルス応答を定める。音線成分合成部124bは、定めた第1インパルス応答を示す合成インパルス応答データを畳込部126に出力する。
【0027】
上記の説明では、第1インパルス応答の算出方法を主としたが、インパルス応答算出部124は、発音点と受音点に代え、当該算出方法において再生点と受聴点を適用することで第2インパルス応答を算出してもよい。音線シミュレーション部124aは、再生点から発され、受聴点に到達する個々の音源の音源成分の遅延時間と振幅を周波数帯域ごとに算出する。音線成分合成部124bは、算出した音線成分を音線間で周波数帯域ごとに合成し、周波数帯域別の第2インパルス応答を算出し、さらに周波数帯域間で周波数帯域別の第2インパルス応答を合成して全周波数帯域の第2インパルス応答を算出する。音線成分合成部124bは、第1インパルス応答の他、算出した第2インパルス応答を含めて合成インパルス応答データを生成し、生成した合成インパルス応答データを畳込部126に出力する。なお、第2インパルス応答を算出するために再生点と受聴点が設置される室内空間は、第1インパルス応答を算出するために発音点と受音点が設置される室内空間と共通であってもよいし、異なっていてもよい。よって、第2インパルス応答を算出する際には、第1インパルス応答の算出に用いられる室内空間と共通または異なる室内空間の形状を示す室形データと、その共通または異なる室内空間の壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データが用いられる。
【0028】
パラメータ設定部122は、第2インパルス応答の算出に用いられるパラメータとして、再生点ならびに受聴点のそれぞれの座標、再生点と受聴点のそれぞれの指向性を設定する。音線シミュレーション部124aは、受音点エリア半径を受聴点エリア半径として、受聴点への音線の到達判定に用いる。その他のパラメータについては、第1インパルス応答と第2インパルス応答とで共通とし、個々に設定されなくてもよい。
【0029】
畳込部126は、音線成分合成部124bには発音点と受音点の組ごとの第1インパルス応答を示すインパルス応答データが入力される。畳込部126は、パラメータ設定部122により設定された収音再生対応データを参照して、個々の第1インパルス応答に係る受音点に対応する再生点を特定する。畳込部126は、個々の第1インパルス応答と特定した再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答を、その第1インパルス応答に係る発音点に対応する音響信号に畳み込み、受聴点ごとに各再生点について再生点別音響信号を生成する。畳込演算に用いられる第2インパルス応答は、パラメータ設定部122により設定されたものとなることも、音線成分合成部124bから入力される合成インパルス応答データから抽出されたものであることもありうる。畳込部126は、生成した再生点別音響信号を再生点間で加算することにより合成(ミキシング)して受聴点ごとに得られる音響信号を受聴信号として定める。畳込部126は、生成した受聴信号を指標算出部128に出力する。なお、後述する例に示すように、再生点別音響信号を再生点間で加算して、受聴信号を定める過程が、畳込部126で処理されてもよい。
【0030】
受音点に対応する再生点に対して分配係数が設定されている場合には、畳込部126は、再生点別音響信号を合成する際、その分配係数に基づく再生点別音響信号の加重和をとり、受聴点ごとに受聴信号を生成してもよい。但し、分配係数が設定されていない再生点ならびに1個の受音点に対応する再生点については、畳込部126は、分配係数を所定値(例えば、1)とみなしてもよい。
畳込部126は、再生点別音響信号を合成する際、設定された受音点に対応する再生点の全ての再生点別音響信号の和(加重和であってもよい)をとってもよいし、設定された受音点の一部のグループに属する受音点に対応する再生点間における再生点別音響信号の和(加重和であってもよい)をとってもよい。受音点のグループは、設置されるマイクロホンの種別または用途(例えば、メインマイク、スポットマイク、アンビエントマイクなど)により分類されてもよい。
なお、畳込演算に用いられる音響信号は、入力部142を用いて自装置の外部から入力されたものでもよいし、予め自装置の記憶媒体に記憶された音響信号であってもよい。畳込部126は、生成した受聴信号を自装置の外部に出力してもよいし、自装置の記憶媒体に記憶してもよい。出力された受聴信号はスピーカに供給され、その音が可聴化されてもよい。
【0031】
指標算出部128は、畳込部126から入力された受聴信号の受聴点間の相互相関係数を受音点において受音される音の品質を示す物理指標として算出する。受聴点が受聴者の左右各耳である場合には、算出される物理指標は、両耳間相関係数(IACC:Interaural Correlation Coefficient)となる。指標算出部128は、算出した物理指標を示す指標データを出力処理部130に出力する。IACCについては、次の文献において、より詳しく記載されている。
【0032】
“Acoustics - Measurement of room acoustic parameters - Part 3: Open plan offices”, ISO 3382-3: 2012, International Organisation for Standardisation, (2012)
T. Hidaka, L.L. Benarek and T. Okuno, “Interaural cross-correlation, lateral fraction, and low and high-frequency sound level, measures of acoustical quality in concert halls”, Journal of the Acoustical Society of America, Vol.98, No.2, 988-1007, (1995)
【0033】
出力処理部130は、指標算出部128から入力される指標データに示される物理指標に基づく表示画面を示す表示画面データを生成する。出力処理部130は、例えば、物理空間における受音点の分布と受聴点の分布と、その受音点を用いて算出された物理指標を含む表示画面を構成してもよい。出力処理部130は、生成した表示画面データを表示部144に出力する。
【0034】
なお、パラメータ設定部122は、物理指標の目標範囲を設定可能としてもよい。目標範囲は、受音点の分布に関わらずに設定されてもよいし、受音点の所定のグループに対して設定されてもよい。出力処理部130は、指標算出部128から入力された指標データに示される物理指標が設定された目標範囲内に含まれるか否かを判定し、その判定結果を示す判定結果情報を目標範囲とともに表示画面に含めてもよい。
【0035】
入力部142には、音場評価装置10の外部から各種のデータが入力される。入力部142は、例えば、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作で指示される操作情報をパラメータ設定部122に出力する。入力部142は、タッチセンサ、マウス、キーボード、ボタン、などのポインティングデバイスを含んで構成される。
入力部142には、他の機器から上記のパラメータの一部または全部を示すパラメータデータが入力され、入力されたパラメータデータをパラメータ設定部122に出力してもよい。入力部142は、例えば、入力インタフェースを含んで構成される。
【0036】
表示部144は、自部に入力される各種の表示データに基づく画面を表示する。表示部144は、パラメータ設定部122から入力される設定画面データに基づいて設定画面を表示する。表示部144は、出力処理部128から入力される表示画面データに基づいて表示画面を表示する。表示部144は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのいずれであってもよい。
なお、入力部142と表示部144の一方または両方は、音場評価装置10の他の機能部と無線または有線で各種のデータを入出力可能に接続できれば、その他の機能部と一体に構成されず、別体としてもよい。
【0037】
(音場シミュレーション)
次に、本実施形態に係る音場シミュレーションの概要について
図2を用いて説明する。
インパルス応答算出部124は、収音プロセスについて、設定された発音点と受音点のペアごとに室形データ、吸音率データ、および、その他のパラメータを用いて第1インパルス応答を算出する。個々の第1インパルス応答を算出する際、音線シミュレーション部124aは、発音点からの放射方向が異なるM個の音線のそれぞれの音線成分について受音点に到達するまでの遅延時間と振幅を算出する。音線成分合成部124bは、算出した遅延時間に相当する時刻に、その振幅を有する音線成分を割り当て、割り当てた音線成分を音線間で合成して第1インパルス応答を算出することができる。
【0038】
インパルス応答算出部124は、再生プロセスについて、設定された再生点と受聴点のペアごとに室形データ、吸音率データ、および、その他のパラメータを用いて第2インパルス応答を算出してもよい。個々の第2インパルス応答を算出する際、音線シミュレーション部124aは、再生点からの放射方向が異なるM個の音線のそれぞれの音線成分について受聴点に到達するまでの遅延時間と振幅を算出する。音線成分合成部124bは、算出した遅延時間に相当する時刻に、その振幅を有する音線成分を割り当て、割り当てた音線成分を音線間で合成して第2インパルス応答を算出することができる。なお、収音再生対応データは、収音プロセスにおける受音点に対応する再生点を特定する際に用いられる。
【0039】
畳込部126は、発音点と受音点のペアに係る第1インパルス応答に、その受音点に対応する再生点と受聴点のペアに係る第2インパルス応答を畳み込み、受音点別第3インパルス応答を算出することができる。畳込部126は、全部または一部の受音点間で受音点別第3インパルス応答を合成し、発音点と受聴点のペアごとに第3インパルス応答を算出する。第3インパルス応答は、発音点から受聴点までの収音プロセスと再生プロセスを総合した音の伝達関数を時間領域で示す指標となる。畳込部126は、発音点ごとの音響信号と第3インパルス応答を畳み込み、受聴点ごとに受聴される音を示す受聴信号を生成することができる。畳込部126は、発音点と受音点のペアに係る第1インパルス応答を、その発音点に係る音響信号に畳み込み、その受音点に係る音響信号を生成し、その受音点に対応する再生点に係る音響信号を定めてもよい。畳込部126は、再生点と受聴点のペアに係る第2インパルス応答を、その再生点に係る音響信号に畳み込み。その受聴点に係る受音点別受聴信号を生成し、受聴点ごとに受音点別受聴信号を受音点に対応する再生点間で合成して受聴信号を生成してもよい。その場合には、第3インパルス応答は明示的に算出されなくてもよい。なお、予め第2インパルス応答が設定されている場合には、第2インパルス応答の算出が省略されてもよい。
【0040】
(音線シミュレーション)
次に本実施形態に係る音線シミュレーションの一例について説明する。次の説明では、第1インパルス応答の算出に用いられる音線成分を主とするが、第2インパルス応答の算出についても、その説明を援用する。但し、発音点と受音点をそれぞれ再生点と受聴点に読み替える。
図3、
図4は、本実施形態に係る音線シミュレーションの一例を示すフローチャートである。
【0041】
(ステップS102)音線シミュレーション部124aは、パラメータ設定部122により設定された各種パラメータを読み込む。
(ステップS104)音線シミュレーション部124aは、
図16に例示するように、発音点から射出される複数の音線の方向を設定する。発音点を中心Oとする球面と音線との交点を黒丸で示し、中心Oから黒丸への方向は、それぞれ発音点から発される音線の方向を示す。中心Oを中心とする球面上に分布している黒丸は、個々の音線の方向を示す。音線シミュレーション部124aは、読み込んだパラメータのうち音線間隔θ(単位:°)に基づいて音線総数Mを算出する。
図16に例示されるように、満遍なく音線を射出するため、球面上での音線が等間隔になるように、音線の射出方向が設定される。音線総数Mは、例えば、式(1)に示すように第i層における音線数L・sin(i・θ)の層間の総和となる。但し、
図16に示すように、各層は発音点を中心Oとする全球において仰角方向に間隔θで区分してなり、それぞれ緯度i・θに対応する。iは、1以上180/θ未満の整数である。Lは、中心Oを通過する赤道平面内(i・θ=90°)の音線数360/θに相当する。
【0042】
【0043】
ここで、第i層に属する第k音線の射出方位角αsは、式(2)に示されるように間隔θと射出仰角ρ(=i・θ)に基づいて与えられる。kは、0以上、(360・sinρ)/θ以下の整数である。射出方位角αs、射出仰角ρsは、それぞれ音線方向の方位角、仰角に相当する。
【0044】
【0045】
(ステップS106)音線シミュレーション部124aは、音線総数Mの他、読み込んだパラメータのうち受音点座標、音速c、および、シミュレーション時間Tを用いて受音点エリアを設定する。音線シミュレーション部124aは、例えば、式(3)に示すように、音速c、シミュレーション時間T、および、音線総数Mを用いて受音点エリア半径rを定める。
【0046】
【0047】
式(3)において、受音点エリアが受音点を中心とする球形の領域であり、シミュレーション時間T内に音波が伝播する伝播距離cTを半径とする球の表面積がM個の受音点エリア表面積の総和に相当することが仮定されている。つまり、M個の音線が音響空間に閉じて伝播し、いずれかの受音点エリアにシミュレーション時間T内に到来することを仮定して、その大きさが設定される。音線シミュレーション部124aは、その中心が受音点となるように球形の受音点エリアを定めることができる。なお、シミュレーション時間Tは、式(4)に示すように間接音観測時間T0と、直接音の発音点から受音点に到達するまでの時間l/cの和に相当する。間接音観測時間T0は、直接音が受音点に到達した時刻から受音点エリアに到達する間接音を観測するための期間に相当する。
【0048】
【0049】
(ステップS110)音線シミュレーション部124aは、設定した音線ごとに音線シミュレーション(ステップS112-S136)を実行する。
(ステップS112)音線シミュレーション部124aは、制御フラグiflag_dの値の初期値を1と設定し、ヒットフラグioの初期値を0と設定する。制御フラグiflag_dは、処理対象の音線の音線成分が直接音であるか否かを示す情報である。また、ヒットフラグioは、音線が受音点エリアに到達したか否かを示す情報である。
【0050】
(ステップS114)音線シミュレーション部124aは、音線が受音点エリアに到達(ヒット)したか否かを判定する。到達したと判定するとき(ステップS114 YES)、ヒットフラグioの値を1と定め、ステップS115の処理に進む。到達していないと判定されるとき(ステップS114 NO)、ステップS128の処理に進む。
(ステップS115)
図14に例示されるように音線が受音点エリアにヒットした場合、音線シミュレーション部124aは、入射仰角α
r及び入射方位角ρ
rを受音点recから音線と壁面との交点cpへの方向ベクトルr_vecから得る。交点cpは、その音線が壁面において最後に反射した点に相当する。発音点からの音線の射出の方向ベクトルs_vecと、受音点での入射音線の方向ベクトルr_vecと角度パラメータの関係を
図15に示す。
(ステップS116)音線シミュレーション部124aは、制御フラグiflag_dに基づいて音線が直接音であるか否かを判定する。直接音と判定されるとき(ステップS116 YES)、ステップS118の処理に進む。間接音と判定されるとき(ステップS116 NO)、ステップS122の処理に進む。
【0051】
(ステップS118)音線シミュレーション部124aは、発音点から受音点までの距離を伝播距離distとして定める。音線シミュレーション部124aは、伝播距離distを音速cで除算して遅延時間dを算出する。三次元空間では、2点間の距離lは、式(5)を用いて算出することができる。式(5)において、(x1,y1,z1)、(x2,y2,z2)は、それぞれ2点のうち一方、他方の座標を示す。なお、その音線の方向(ρ,α)が、ほぼ発音点から受音点への入射角に相当する。
【0052】
【0053】
さらに、音線シミュレーション部124aは、発音点と受音点それぞれの指向性ゲインを算出する。発音点の指向性ゲインGsは、式(6)を用いて計算することができる。
【0054】
【0055】
式(6)において、a、b、cは、指向性パラメータを示す。音線シミュレーション部124aは、予め設定された指向性データを参照して指向性パラメータを特定することができる。usは、指向性の主軸の方向を示す方向ベクトルds_vecと発音点からの音線の放射方向を示す方向ベクトルs_vecとの成す角に相当する。即ち、音線シミュレーション部124aは、方向ベクトルusを、式(7)を用いて計算することができる。
【0056】
【0057】
式(7)において、<ds_vec, s_vec>は、方向ベクトルds_vecと方向ベクトルs_vecとの内積を示し、|…|は、ベクトル…のノルムを示す。
同様に、音線シミュレーション部124aは、受音点の指向性ゲインGRを、式(8)を用いて計算することができる。
【0058】
【0059】
式(8)において、urは、指向性の主軸の方向を示す方向ベクトルdr_vecと受音点での入射音線の方向を示す方向ベクトルr_vecとの成す角を示す。即ち、角度urは、式(9)を用いて計算することができる。ステップS118では、入射音線の方向は、受音点から発音点の方向に相当するとともに、音線の放射方向と逆方向となる。
【0060】
【0061】
音線シミュレーション部124aは、伝播距離distに基づいて距離減衰量を算出する。距離減衰とは、発音点からの伝播に応じて音のエネルギーが低下する現象である。但し、直接音に対しては、音線シミュレーション部124aは、距離減衰量として予め設定した基準値(例えば、0[dB])を用い、距離減衰量を算出する処理を省略してもよい。音線シミュレーション部124aは、例えば、式(10)に例示される距離減衰量adは、直接音に対して距離減衰量adが0[dB]となるように正規化されている。sr_distは、発音点から受音点への距離を示す。直接音に対しては、伝播距離distは、sr_distと等しくなる。
【0062】
【0063】
音線シミュレーション部124aは、音線成分の距離減衰に空気吸収減衰を含めてもよい。空気吸収減衰とは、音が空気中を伝播する過程で音のエネルギーが空気に吸収されるために、到達する音のエネルギーが低下する現象を意味する。音線シミュレーション部124aは、例えば、式(11)を用いて空気吸収減衰量aadを算出することができる。式(11)において、airabsは、空気吸収乗数を示す。空気吸収乗数airabsは、周波数に依存する。空気吸収乗数airabsは、例えば、2kHz帯、4kHz帯、8kHz帯のそれぞれに対し、0.003airc、0.006airc、0.0021aircとなる。aircは、定数10log10(e)である。eは、自然対数の底を示す。その後、ステップS126の処理に進む。
【0064】
【0065】
(ステップS122)音線シミュレーション部124aは、最後の反射点から受音点までの距離を算出し、算出した距離を、その時点までに累積された伝播距離distに加算して、伝播距離を更新する。音線シミュレーション部124aは、更新後の伝播距離distを音速cで除算して遅延時間dを算出する。また、音線シミュレーション部124aは、式(10)に従って距離減衰量a
dを算出する。音線シミュレーション部124aは、さらに式(11)に示す空気吸収減衰量a
adを算出し、空気吸収を含んだ距離減衰量を算出してもよい。
さらに、音線シミュレーション部124aは、発音点と受音点それぞれの指向性ゲインを算出する。音線シミュレーション部124aは、式(6)、(8)を用いて、それぞれ発音点の指向性ゲインG
S、受音点の指向性ゲインG
Rを算出することができる。但し、ステップS122では、方向ベクトルu
sで表される受音点での入射音線の方向は、受音点から壁面において最後に音線が反射した交点cpへの方向に相当する(
図14)。
【0066】
(ステップS126)音線シミュレーション部124aは、発音点から発される音線の方向に対する強度(以下、「発音強度」と呼ぶことがある)、距離減衰量、個々の反射における反射率、および、受音点に到達する音線の入射方向に対する感度(以下、「受音感度」と呼ぶことがある)に基づいて周波数帯域ごとに帯域振幅を算出する。発音強度、受音感度は、それぞれ上記の発音点の指向性ゲインGS、受音点の指向性ゲインGRに相当する。音線シミュレーション部124aは、指向性データを参照して、発音点からの音線の方向に対する強度を発音強度とし、受音点への入射方向に対する感度を受音感度として特定することができる。
音線シミュレーション部124aは、壁面データで示される個々の反射における壁面の部分領域を特定し、吸音率データを参照して特定した部分領域における壁面の材質に係る吸音率に基づいて受音感度を特定することができる。
即ち、音線の振幅初期値を1(0(dB))とすれば、
帯域振幅(dB)=吸音率データによる減衰+距離減衰量ad+空気吸収減衰量aad+発音点の指向性ゲインGS+受音点の指向性ゲインGR
となる。
音線シミュレーション部124aは、遅延時間、帯域振幅、受音点への入射角、および、反射回数を示す音線データを生成し、生成した音線データを音線成分合成部124bに出力する。その後、ステップS138に進む。
【0067】
(ステップS128)音線シミュレーション部124aは、制御フラグiflag_dの値を0と定める。受音点を通過した音線は、直接音にはならず、間接音となることが予想されるためである。
(ステップS130)音線シミュレーション部124aが、処理対象の音響空間の壁面のいずれかの部位に到達(ヒット)するか否かを判定する。音線シミュレーション部124aは、処理対象の音線の直近の起点の座標ならびに方向、および、壁面をなす個々の部分領域(後述)の頂点に基づいて、音線が到達するか否かを判定することができる。その音線が壁面で反射した音線でなく発音点から直接到来した場合には、直近の起点は発音点となる。その音線が壁面で反射した場合には、直近の起点は最後の反射位置となる。到達すると判定するとき(ステップS130 YES)、ステップS132の処理に進む。到達しないと判定するとき(ステップS130 NO)、ステップS138の処理に進む。なお、設定される壁面は、音響空間の全体を完全に包囲するとは限らず、その一部が開口していることもありうる。開口部から脱出する音線は、壁面のいずれの部位にも到達しないため、その音線成分は算出されるインパルス応答には含まれない。
【0068】
(ステップS132)音線シミュレーション部124aは、音線が到達した壁面をなす部分領域を示す壁面データを生成する。音線の直近の起点の座標ならびに方向、および、壁面をなす個々の部分領域の頂点に基づいて、音線と交わる部分領域を特定し、その交点を反射位置として定める。音線シミュレーション部124aは、音線の方向と特定した部分領域の法線方向となす角を入射角として定める。音線シミュレーション部124aは、反射位置の座標、特定した部分領域を示す壁面番号、および、部分領域への入射角を示すデータを壁面データとして生成する。
【0069】
(ステップS134)音線シミュレーション部124aは、音線の直近の起点から反射位置までの距離を算出し、算出した距離を、その時点までに累積された伝播距離distに加算して、伝播距離を更新する。但し、個々の音線について伝播距離distの初期値を0とする。
(ステップS136)音線シミュレーション部124aは、反射位置において反射する音線の方向を反射方向として示す反射ベクトルを算出する。音線シミュレーション部124aは、特定した部分領域の法線方向を対称軸とし、その部分領域に入射する音線の入射方向と軸対称となる方向を反射方向として定めることができる。その後、ステップS114の処理に進み、反射した音線を処理対象とする。
【0070】
(ステップS138)音線シミュレーション部124aは、処理対象とする音線を、他の未処理の音線に変更し、ステップS112に戻る。全ての音線についてステップS112-S136の処理を完了した後、音線シミュレーション部124aは、
図3、
図4に示す処理を終了する。
【0071】
(パラメータ)
次に音線シミュレーションならびにインパルス応答の算出に用いられる各種パラメータについて説明する。
図5、
図6は、室形データを例示する。室形データは、シミュレーション対象とする音響空間の形状を示す。音響空間の形状は、その音響空間の範囲を画定する壁面上に分布する4個以上の頂点の位置を用いて表現されうる。その一部となる3個以上の頂点のうち各2個の頂点を通る辺によって囲まれる領域が、壁面の一部となる部分領域に相当する。つまり、部分領域は、多角形として与えられる。
図5、
図6では、「壁面」とは個々の部分領域を示す。室形データには、音源が設置される発音点の座標、受音部が設置される受音点の座標、発音点の指向性、および、受音点の指向性の情報が含まれてもよい。また、室形データには、さらに音源が設置される再生点の座標、受聴点の座標、再生点の指向性、および、受聴点の指向性の情報が含まれてもよい。
【0072】
図5は、室形データの項目例を示す。
図6は、室形データの設定例を示す。
1)「ホール名」は、音響空間の名称である。2)「壁面の総数」は、壁面の一部をなす部分領域の数である。3)「壁面を構成する頂点の総数」は、その壁面上に分布する頂点の数に相当する。4)「受音点の数」は、音響空間内に設置される受音点の数である。5)「音源の数」は、音響空間内に設置される音源の数、即ち、発音点の数である。6)「壁面を構成する頂点の総数(重複あり)」とは、個々の部分領域を示す頂点の数の総和に相当する。7)「面を構成する頂点の始点の番号」とは、頂点番号リストに記載されている頂点番号であって、個々の部分領域を画定する始点とする頂点の頂点番号である。8)「面を構成する頂点の終点の番号」とは、頂点番号リストに記載されている頂点番号であって、個々の部分領域を画定する終点とする頂点の頂点番号である。9)「面を構成する頂点番号リスト」は、個々の部分領域を画定する複数の頂点それぞれの頂点番号を順次列挙してなるリストである。10)「壁面を構成する内装材料番号」とは、個々の部分領域ごとに設置された内装材料を示す番号である。11)「頂点の座標」は、個々の頂点の三次元座標値である。12)「受音点の座標」は、個々の受音点の三次元座標値である。13)「音源座標」は、個々の発音点の三次元座標値である。14)「受音点の指向性」には、個々の受音点に入射される音の感度の指向性を示すパラメータ(即ち、「指向性パラメータ」)が設定される。15)「音源の指向性」には、個々の発音点から発される音の強度の指向性パラメータが設定される。
【0073】
より正確な伝達特性を、シミュレーションを行って取得するために、発音点とする音源または受音点とするマイクロホンの指向性を予め測定しておき、測定した指向性を用いることも考えられる。しかしながら、指向性を測定するには多くの作業量を要するため、現実的ではない。指向性は、あらゆる方向への放射強度または受音感度をもって構成され、個々の方向ごとの測定を要するためである。
【0074】
そこで、パラメータ設定部122は、発音点と受音点のそれぞれについて指向性パターンを所定の指向性関数を用いて指向性パラメータを用いて設定可能とする。パラメータ設定部122は、再生点と受聴点のそれぞれについて指向性パターンを所定の指向性関数を用いて指向性パラメータを用いて設定可能としてもよい。
以下の説明では、発音点、受音点、再生点および受聴点を「設定点」と総称することがある。また、発音点からの音の放射方向ごとの放射強度、受音点への音の到達方向ごとの受音感度、再生点からの音の放射方向ごとの放射強度、および、受聴点への音の到達方向ごとの受音感度を「指向性」と総称することがある。パラメータ設定部122は、それぞれの設定点について指向性設定画面を表示部144に表示させる。
図7に例示される指向性設定画面ds06には、指向性表示部dd06と指向性パラメータ入力部dp06が含まれる。パラメータ設定部122は、式(12)で与えられる指向性関数を用いて指向性パターンdc06を指向性表示部dd06にレーダチャートを用いて表す。レーダチャートでは、各方向への指向性の程度を原点からの半径で表される。
【0075】
【0076】
式(12)において、rは、方向uでの指向性ゲインを示す。方向uは、0°から360°までの実数値をとる。指向性パラメータa、b、cは、指向性の空間形状を示す形状パラメータである。また、指向性パラメータa、b、cは、指向性の空間形状を示す形状パラメータである。指向性パラメータa、b、cは、それぞれ最小値が0、最大値が1となるように正規化された実数値をとる。aは、方向uに依存しない成分の寄与を示すパラメータである。bは、方向uが0°に近いほど増加する成分の寄与を示すパラメータである。cは、方向uが正面方向と90°に近いほど増加する成分の寄与を示すパラメータである。典型的な設定例として、単一指向性は、a=b=0.5、c=0となる。ハイパーカーディオイドは、a=0.25、b=0.75、c=0となる。無指向性は、a=1.0、b=c=0となる。
【0077】
指向性パラメータ入力部dp06は、ユーザの操作入力に応じて指向性パラメータを設定するための表示領域である。指向性パラメータには、形状パラメータa、b、cの他、指向性の主軸方向を示すパラメータとして方位角と仰角が含まれてもよい。例えば、発音点(音源)の指向性の主軸方向を示すパラメータとして、方位角αs0、仰角ρs0が設定され、受音点の指向性の主軸方向を示すパラメータとして、方位角αr0、仰角ρr0が設定されてもよい。これにより、パラメータ設定部122は、発音点(音源)の指向性の主軸の方向ベクトルds_vecと受音点の指向性の主軸の方向ベクトルdr_vecを、式(13)を用いて算出することができる。
【0078】
【0079】
指向性パラメータ入力部dp06には、スライダ、表示欄、方位角入力欄、および、仰角入力欄が含まれる。スライダバーと表示欄が、形状パラメータa,b,cのそれぞれに対して設けられている。個々のスライダは、つまみとスライダバーを含んで構成される。つまみは、操作情報で指示された位置に従ってスライダバー上を移動可能とする。パラメータ設定部122は、スライダのつまみの位置が左端、右端にあるとき、それぞれ最小値、最大値を与えるように、指示された位置に対応するパラメータの値を定める。パラメータ設定部122は、スライダを用いて定めた値を対応するパラメータ表示欄に表示させ、指向性の計算に用いる。
【0080】
方位角入力欄および仰角入力欄は、設定点に対する正面方向の三次元空間における指向性の主軸方向を示す方位角および仰角をそれぞれ入力するための欄である。方位角は、0°以上360°未満の範囲内で設定可能とする。但し、設定に係る方位角は、鉛直逆方向(z方向)に対して左回りの方向とし、水平面内の一方向(x方向)を0°とする。仰角は、0°以上180°以下の範囲内で設定可能とする。但し、設定に係る仰角は、鉛直逆方向(z方向)を0°とし、鉛直逆方向となす角度とする。従って、鉛直方向(-z方向)の仰角は180°となる。
【0081】
図7に示す例では、aが0.696、bが0、cが0.304、方位角が0°、仰角が90°と設定されている。ユーザは、指向性パターンが表された指向性設定画面を見ながら、操作により指向性パラメータを簡便に設定することができる。
【0082】
設定された指向性パラメータに基づいて算出される指向性は、上記のように音線シミュレーション部124aにおいて発音点から放射される音線の発音強度ならびに受音点に到達する音線の受音感度を定めるために用いられる。
図8に例示される指向性パターンdc07は、aが0、bが0.7、cが0.7となる。よって、音線シミュレーション部124aは、放射方向が方位角105°、仰角0°となる音線sr07に対する発音強度を0.5と定めることができる。
【0083】
指向性の表示態様は、線種に限らず、色彩、または、その組み合わせであってもよい。なお、パラメータ設定部122は、必ずしも全ての設定点について、個々に指向性を設定しなくてもよい。パラメータ設定部122は、発音点と受音点のいずれか一方について操作に応じて指向性パラメータを設定可能とし、他方については予め設定された指向性パラメータが用いられてもよい。パラメータ設定部122は、少なくとも1つの発音点について操作に応じて指向性パラメータを設定可能とし、その1つの発音点に設定された指向性パラメータを他の発音点に対して適用してもよい。パラメータ設定部122は、少なくとも1つの受音点について操作に応じて指向性パラメータを設定可能とし、その1つの受音点に設定された指向性パラメータを他の受音点に対して適用してもよい。
【0084】
図9は、シミュレーション設定画面の例を示す図である。シミュレーション設定画面は、パラメータ設定部122が操作に応じて設定点の設定、編集、または、削除を行うための画面である。ここで、それぞれの設定点について、位置(x座標、y座標、z座標)、指向性、および、主軸方向(方位角、仰角)が設定されている。シミュレーション設定画面は、収音プロセス設定一覧と再生プロセス設定一覧を含んで構成される。収音プロセス設定一覧は、発音点(音源)と受音点の設定を行うための欄である。再生プロセス設定一覧は、再生点と受音点の設定を行うための欄である。再生点ごとに、さらに対応点の設定欄が設けられている。対応点の設定欄には、その再生点に対応する受音点を設定することができる。再生点ごとに対応する受音点の設定は、前述の収音再生対応データを構成する。パラメータ設定部122は、シミュレーション設定画面を、操作に応じてシミュレーション開始、停止、各種データ(室形データ、吸音率データなど)の読み込み、および、書き出しに用いてもよい。
【0085】
図10は、吸音率データの例を示す図である。吸音率データは、内装材料番号、壁面の材質名称、および、周波数帯域ごとの吸音率を示す情報を含んで構成される。内装材料番号は、壁面を構成する内装材料の材質を示すインデックスである。吸音率は、壁面に入射される音の強度が吸収される程度を示す。吸音率は、1から反射率を差し引いて得られる実数値に相当する。吸音率は、材質ごとに予め測定しておく。パラメータ設定部122は、室形データに記述された壁面の部分領域ごとに、指示された材質を特定し、吸音率データを参照して特定した材質の周波数帯域ごとの吸音率を設定することができる。材質は、内装材料番号または材質名称を用いて特定される。
【0086】
図11は、収音再生対応データの例を示す図である。収音再生対応データには、再生点ごとに対応する受音点の番号が記述されている。収音再生対応データには、受音点ごとに対応する再生点の番号が記述されてもよい。1個の受音点に対応する再生点の数は複数となりうる。収音再生対応データには、その再生点の番号と、その再生点に対する受音点からの分配係数(後述)が予め設定されてもよい。分配係数は、受音点と再生点との位置関係に基づいて定まりうる。
【0087】
図12は、設定点設定画面の例を示す図である。設定点設定画面は、パラメータ設定部122が個々の設定点に関するパラメータを操作に応じて設定する際に表示させる画面である。設定点設定画面では、その設定点の位置を示す座標、指向性パラメータ、主軸方向の方位角ならびに仰角、および、設定対象とする設定点(方向指定)が操作に応じて設定可能とされている。設定点設定画面は、指向性パラメータの設定も可能とし、設定された指向性パラメータを用いて示される指向性を表示する指向性表示部を含む。
【0088】
図13は、吸音率設定画面の例を示す図である。吸音率設定画面は、パラメータ設定部122が壁面をなす個々の部分領域の吸音率を設定する際に表示させる画面である。吸音率設定画面は、壁面番号、材質、および、周波数ごとの吸音率の欄を含んで構成される。壁面番号として、壁面を構成する部分領域ごとのインデックスが設定される。パラメータ設定部122は、材質の欄のいずれかに対し、押下により吸音率データに記述されている材質ごとの名称のリストを表示させ、リスト上に表示させた名称のいずれかに対応する材質を押下により特定する。パラメータ設定部122は、吸音率データを参照して、特定した材質に対応する吸音率を設定することができる。
【0089】
(インパルス応答の算出)
次に、音線データから周波数帯域ごとの第1インパルス応答の算出過程の例について説明する。
図17は、第1インパルス応答の算出過程の例を説明するための説明図である。音線データは、音線シミュレーション部124aにより発音点と受音点の組ごとに構成される。個々の音線データは、周波数帯域ごとに各音線成分の遅延時間(時刻)と振幅の組を示す。
図17に示す例では、個々の周波数帯域の帯域幅は1オクターブである。個々の周波数帯域の中心周波数は、それぞれ63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHzとなる。
【0090】
音線成分合成部124bは、個々の音線データについて周波数帯域ごとに、各音線成分の振幅をその遅延時間(時刻)に割り当てて音線系列を構成する。音線成分合成部124bは、周波数帯域ごとの音線系列を、その周波数帯域を通過帯域として有する帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)を用いてフィルタリングして、インパルス応答を算出する。よって、
図17に示す例では、発音点、受音点および周波数帯域の組ごとにインパルス応答h
R63(1,1,t)~h
R8k(A,B,t)が得られる。音線成分合成部124bは、周波数帯域ごとのインパルス応答h
R63(1,1,t)~h
R8k(A,B,t)を周波数帯域間で合成して、その発音点Aと受音点Bのペアに係る第1インパルス応答h
R(A,B,t)を算出することができる。音線成分合成部124bは、同様の手法を用いて、再生点と受聴点のペアごとに、再生点から放射される音線ごとの遅延時間、帯域振幅、受音点への入射角、および、反射回数を示す音線データから第2インパルス応答を算出することができる。
【0091】
(収音・再生例)
次にシミュレーション条件とする収音プロセスと再生プロセスの一例について、第1インパルス応答と第2インパルス応答の音響信号に対する畳込演算と併せて説明する。
図18は、収音音場と再生音場との対応関係を示す説明図である。
図18は、左右に収音音場と再生音場を示す。本実施形態では、発音点と収音点が分布する収音音場は三次元空間であってもよいし二次元平面であってもよい。同様に、再生点と受聴点が分布する再生音場は三次元空間であってもよいし二次元平面であってもよい。従って、発音点収音点、再生点、および、受聴点のそれぞれの位置は、三次元座標を用いて定義されてもよいし、二次元座標を用いて定義されてもよい。二次元座標では、三次元座標をなす高さの項が省略される。
図18に例示される収音音場では、ステージ上に4個の発音点S1~S4が配置され、発音点S1~S4のそれぞれには、発音源として楽器が配置されている。発音点S1~S4の近傍には受音点SM1-SM4が設置され、受音点SM1~SM4には、それぞれスポットマイクが配置されている。スポットマイクは、個々の楽器の音を主に収音することを目的とする。ステージの中央部には2個の受音点MM1、MM2が設置され、受音点MM1、MM2にはメインマイクが配置されている。メインマイクは、それぞれステージ上の発音点に設置された発音源(楽器)からの音を主に収音することを目的とする。客席の四隅の近傍には、それぞれ受音点AM1~AM4が設置され、受音点AM1~AM4にはアンビエントマイクが配置されている。アンビエントマイクは、それぞれ収音場の響き、観客の拍手等、主に周囲音を収音することを目的とする。この条件のもとで、インパルス応答算出部124は、4個の発音点S1~S4のいずれか1個と、10個の受音点MM1、MM2、SM1~SM4、AM1~AM4のいずれか1個との組ごとに計40個の第1インパルス応答を算出することができる。
【0092】
図18に例示される再生音場では、受聴位置の正面前方に5個の再生点Sp1-Sp5が左右にその順に配置され、受聴位置の右側方、左側方にそれぞれ再生点Sp6、Sp10が配置され、受聴位置の右後方、後方、左後方にそれぞれ再生点Sp7、Sp8、Sp9が配置されている。受聴点R1、R2として受聴位置に所在する受聴者の左耳、右耳のそれぞれの位置に配置されている。この条件のもとで、インパルス応答算出部124は、10個の再生点S1~S10のいずれかと、2個の受聴点R1、R2のいずれかとの組ごとに計20個の第2インパルス応答を算出することができる。
【0093】
収音音場において、発音点S1に設置された発音源から発音された音は受音点MM1、MM2のそれぞれに設置されたメインマイクで収音される場合を仮定する。この例では、畳込部126は、メインマイクで収音された音響信号MM1、MM2を、式(14)に示すように、発音源から発音される音の音響信号S1に伝達関数HS1-MM1、HS1-MM2を畳み込んで生成することができる。式(14)においてHS1-MM1、HS1-MM2は、それぞれ発音点S1に設置された発音源から受音点MM1、MM2への第1インパルス応答を示す。*は、畳み込み演算を示す。
【0094】
【0095】
但し、受音点MM1には、発音点S2~S4のそれぞれに設置された発音源から発された音も到達する。これらを考慮すると、音響信号MM1は、発音点S1~S4にそれぞれ設置された発音源からの音響信号S1~S4に、発音点S1~S4のそれぞれから受音点への第1インパルス応答を畳み込んで得られる受音点別音響信号の発音点間の総和となる。他の受音点で収音される音響信号も同様にして算出される。より一般的には、畳込部126は、個々の受音点で収音される音響信号MM1、MM2、SM1~SM4、AM1~AM4を、式(15)に従って生成することができる。式(15)は、式(16)に示すように行列形式で表現される。式(15)、(16)は、4個の発音点S1~S4に設置された発音源からそれぞれから音が発され、10個の受音点のそれぞれに到達する音の音響信号を示す。
【0096】
【0097】
【0098】
再生音場では、受聴位置において収音音場における個々の音源の方向や周囲音が再現されることが期待される。
図18に示す例では、受音点MM1、MM2に設置されたメインマイクで収音されるステージ全体の音の音響信号は、主に再生点Sp2、Sp4に設置された再生音源であるスピーカに振り分けられ、一部が再生点Sp1、Sp5に設置された再生音源であるスピーカに振り分けられる。振り分けにおいて、パンニング操作を用いることができる。パンニング操作では、受聴点を基準とする受音点への方向(目標方向)を挟む方向に設置された2個以上の再生音源(スピーカ)を用いる。個々の再生音源に分配する分配係数は、目標方向に応じて定まる。
図19に示す例では、受音点MM1に設置されたメインマイクで収音された音響信号は、再生点Sp1、Sp2のそれぞれに分配される場合を仮定する。この例では、受音点MM1は、再生点Sp1、Sp2に対応付けられる。同様に、受音点MM2は、再生点Sp4、Sp5に対応付けられる。再生点Sp1、Sp2、Sp4、Sp5のそれぞれに設置された再生音源に分配される音響信号は、式(17)に従って得られる。パラメータ設定部122またはインパルス応答算出部124は、個々の分配係数を公知の手法、例えば、sin則、tan則などの手法を用いて設定することができる。再生点Sp1、Sp2に設置された再生音源に対する分配係数w
1-1、w
2-1は、例えば、それぞれ0.2、0.8となる。受音点MM2に設置されたメインマイクで収音された音響信号の再生点Sp4、Sp5に設置された再生音源に対する分配係数w
4-2、w
5-2は、例えば、それぞれ0.8、0.2となる。この場合、再生プロセスにおいて、所定の受聴点に所在する受聴者は、受音点MM1で収音された音の方向を再生点Sp1とSp2の間のSp2寄りに知覚することができる。また、当該受聴者は、受音点MM2で収音された音の方向を再生点Sp4とSp5の間のSp4寄りに知覚することができる。
【0099】
【0100】
他の受音点について受音された音は、上記のパンニング操作を用いて所定の受聴点から個々の受音点の方向と、その受音点に対応する再生点のそれぞれの受聴点からの方向との関係に基づいて、各再生点に設置された再生音源に分配することができる。式(17)に示す例では、1個の受音された音の分配先となる再生音源が設置された再生点の個数が2個である場合を前提とするが、その再生点の数は、1個または3個以上となりうる。より一般的には、この音響信号の分配状況を示す分配係数に基づいて再生音源が設置された再生点Sp1~Sp10に分配される音響信号と、受音点MM1、MM2、SM1~SM4、AM1~AM4で受音される音響信号との関係は、式(18)で与えられる。畳込部126は、式(18)に従って、個々の受音点で受音される音の音響信号と、個々の受音点に対応する収音点への分配係数に基づいて、収音点ごとに供給する音響信号を合成することができる。式(17)、(18)において、wa-b等は、受音点bから再生点aへの分配係数を示す。bは、受音点MM1、MM2、SM1-SM4、AM1-AM4のいずれかを示す通番である。分配係数が有意に0以外の実数値をとる分配先となる再生音源が設置された再生点が、受音点に対応する再生点とみなされ、それ以外の再生点は受音点に対応しないとみなされうる。
【0101】
【0102】
受聴点R1(左耳)に再生点Sp1~Sp10のそれぞれに設置された再生音源から到来する音の音響信号R1は、式(19)に示すように、各再生点に設置された再生音源からの音響信号Sp1~Sp10と、各再生点から受聴点R1への第2インパルス応答h1-1~h1-10と、該当する方向の頭部伝達関数のインパルス応答g1-1~g1-10をそれぞれ畳み込んで得られる再生点別音響信号の再生点間の総和となる。該当する方向とは、受聴点R1から再生点への方向に相当する。第2インパルス応答は、各再生点から受聴点R1への伝達特性のうち、室内音響特性の成分(反射音による特性を含む)に相当する。頭部伝達関数は、受聴者の頭部とその周囲における音響特性(頭部、耳介などによる反射、回折特性を含む)。頭部伝達関数は、疑似頭(ダミーヘッド)または受聴者に対して予め測定されたものであってもよい。受聴点R2(右耳)に到達する音の音響信号R2も同様にして算出される。音響信号R1、R2は、式(20)に示すように行列形式で表現される。畳込部126は、式(20)に従い、再生点ごとの音響信号に、再生点と受聴点の組ごとのインパルス応答を畳み込み、受聴点ごとの受聴信号を生成することができる。
【0103】
【0104】
【0105】
図19、式(19)、式(20)では、受聴者の頭部またはその周辺における音の伝播特性を示す頭部伝達関数が第2インパルス応答と別個に定義されている場合を前提としたが、その伝播特性を含め、再生点から受聴点までの音の伝播特性を示す頭部伝達関数を時間領域で表現した指標が第2インパルス応答として定義されてもよい。その場合、
図19、式(19)、(20)においてh
1-1~h
1-10の表記が省略される。ここで、インパルス応答算出部124は、再生音場に所在する受聴者の体形の情報をさらに含めた壁面データと、その表面における音の吸音率もしくは反射率を含めた吸音率データを用いて、その第2インパルス応答を算出してもよい。パラメータ設定部122は、予め音響空間において測定された再生点から受聴点までの第2インパルス応答を取得し、畳込部126に設定してもよい。
【0106】
(IACC)
次に、音の広がり感を定量的に示す物理指標の一例としてIACCの算出法について説明する。指標算出部128は、式(21)に従って、受聴点とする左右各耳での受聴信号の相互相関関数を両耳間相関関数(IACF:Interaural Coefficient Function)として算出する。IACFは、左耳での受聴信号R1(ξ)と右耳での受聴信号R2(ξ)の一方(式(21)では、R1(ξ))と、他方(式(21)では、R2(ξ))を遅延時間τで遅延させた遅延信号との相互相関を、個々の受聴信号のパワーの平方根で除算することにより正規化して算出される。式(21)において、t1、t2は、それぞれ起点の時刻、終点の時刻を示す。IACFを算出するための期間は、例えば、50~200ms程度である。IACFは、遅延時間τに依存する関数となる。そのため、IACFは、受聴点から再生点の方向にも依存する。IACFは、-1以上1以下の実数値となるが、各耳での受聴信号において直接音の成分が主となる場合には、IACFが1に近似することが期待される。
【0107】
【0108】
指標算出部128は、式(22)に示すように遅延時間τが-1msから1ms以内となる値域におけるIACFの絶対値の最大値をIACCとして定めることができる。この値域は、人間の標準的な頭部の大きさにより与えられる両耳間時間差(典型的には、0.7~0.9ms)よりも十分に大きい。IACCは、0以上1以下の実数値をとる。IACCが0とは、受聴信号が両耳間で無相関であるため、受聴者により知覚される音像の幅が広く広がり感が最大となる状況に対応する。IACCが1とは、受聴信号が両耳間の相関が最大となるため、受聴者により空間的な幅が鋭い音像が知覚され、音像の広がりが感じられない状況に対応する。
【0109】
【0110】
上記の説明では、全周波数帯域の成分を含む受聴信号に基づいてIACCを算出する場合を例にしたが、これには限られない。指標算出部128は、所定の周波数帯域ごとにIACCを定めてもよいし、周波数帯域ごとのIACCの平均値を算出してもよい。指標算出部128は、例えば、中心周波数をそれぞれ500Hz、1kHz、2kHzとする周波数帯域のそれぞれに対してIACCを算出し、算出したIACCの周波数帯域間の平均値をIACCE3として算出してもよい。望ましいコンサートホールでは、IACCE3が0.4以下、中庸なコンサートホールでは、IACCE3が0.5~0.6程度であることが知られている。
【0111】
上記の説明では、音場シミュレーションによるインパルス応答の算出からIACCの算出までの一連の過程において、受音点MM1、MM2、SM1~SM4、AM1~AM4の全てが用いられる場合を例にしたが、これには限られない。上記のように設定される受音点の数が3個以上である場合には、一部の受音点が音場シミュレーションに用いられ、他の受音点が用いられなくてもよい。例えば、メインマイクが配置される受音点MM1、MM2だけが用いられてもよいし、アンビエントマイクが配置される受音点AM1~AM4だけが用いられてもよい。そして、配置されるマイクロホンの種類または目的に応じて、個々に物理指標の目標範囲が設定されてもよい。例えば、メインマイクに対しては、IACCE3の目標範囲が0.5~0.6と設定されてもよい。その場合には、メインマイクで収音された音の再生音に対して中程度な響きと明瞭な音像が知覚されることが期待される。アンビエントマイクに対しては、IACCE3の目標範囲が0.4と設定されてもよい。その場合には、アンビエントマイクで収音された音の再生音に対して豊かな響きが知覚されることが期待される。
【0112】
そこで、出力処理部130は、算出された物理指標が目標範囲内に含まれないと判定するとき、判定結果を示す判定結果データをパラメータ設定部122に出力してもよい。パラメータ設定部122は、出力処理部130から判定結果データが入力されるとき、その時点における受音点の分布を更新し、更新した分布を示すインパルス応答算出部124に設定してもよい。パラメータ設定部122は、操作情報に基づいて受音点の分布を設定してもよいし、操作情報を用いずに疑似乱数を用いて受音点の分布を設定してもよいし、最新の物理指標とその物理指標の目標値との差分の大きさの指標値(例えば、絶対値、二乗値など)がより小さくなるように受音点の分布を再帰的に設定してもよい(最小化)。目標値として、目標範囲内のいずれかの実数値、例えば、中心値を予め設定しておいてもよい。受音点の分布を再帰的に設定する際には、最急勾配法、確率的勾配降下法などの手法が利用可能である。受音点の再設定により、更新後の分布に基づくインパルス応答の算出から物理指標の算出までの一連の過程が、算出される物理指標が目標範囲内に含まれるまで繰り返される。そのため、物理指標が目標範囲内に含まれるように受音点の分布が探索される。受音点の分布の設定による設置位置の更新対象とする受音点は、全ての受音点であってもよいし、所定のグループに属する一部の受音点に限定され、グループ外の受音点は更新対象とならなくてもよい。例えば、一回の受音点の分布の更新においてメインマイクが配置される受音点MM1、MM2の間隔が変更され、その他の受音点の位置が変更されなくてもよいし、アンビエントマイクが配置される受音点AM1-AM4の相互間の間隔が変更され、その他の受音点の位置が変更されなくてもよい。
【0113】
(音場評価処理)
次に、本実施形態に係る音場評価処理の例について説明する。
図20は、本実施形態に係る音場評価処理の一例を示すフローチャートである。
図20に示す例では、メインマイクが設置される受音点MM1、MM2の分布の評価にIACC
E3が用いられる。
(ステップS142)インパルス応答算出部124は、収音音場において、発音点S1から受音点MM1、MM2のそれぞれとの間の第1インパルス応答を周波数帯域ごとに算出する。
(ステップS144)インパルス応答算出部124は、受音点MM1、MM2のいずれかから、そのいずれかの受音点と対応する再生点Sp1~Sp10のそれぞれへの分配係数w
1-1~w
2-10を算出する。
(ステップS146)インパルス応答算出部124は、再生点Sp1-Sp10のいずれから受聴点R1、R2のいずれかとの間の第2インパルス応答を周波数帯域ごとに算出する。
【0114】
(ステップS148)畳込部126は、算出された第1インパルス応答、分配係数、第2インパルス応答、および、取得された音響信号を用いて、左右各耳を受聴点R1、R2として到達する音の受聴信号を周波数帯域ごとに生成する。
(ステップS150)指標算出部128は、500Hz帯域、1kHz帯域、2kHz帯域のそれぞれについて、受聴点R1、R2に係る受聴信号を用いてIACC(500)、IACC(1k)、IACC(2k)を算出する。
(ステップS152)指標算出部128は、IACC(500)、IACC(1k)、IACC(2k)を平均し、IACC
E3を算出する。
(ステップS154)出力処理部130は、IACC
E3が目標範囲0.5~0.6以内に収まっているか否かを判定する。収まっていると判定するとき(ステップS154 YES)、
図20に示す処理を終了する。収まっていないと判定するとき(ステップS154 NO)、パラメータ設定部122は、受音点MM1、MM2の分布(間隔)を更新し、ステップS142の処理に戻る。
【0115】
図21は、本実施形態に係る音場評価処理の他の例を示すフローチャートである。
図21に示す例では、アンビエントマイクが設置される受音点AM1~AM4の分布の評価にIACC
E3が用いられる。但し、ステップS166~S172の処理については、それぞれステップS146~S152の処理と同様であるため、その説明を援用する。
(ステップS162)インパルス応答算出部124は、収音音場において、発音点S1から受音点AM1~AM4のそれぞれとの間の第1インパルス応答を周波数帯域ごとに算出する。
(ステップS164)インパルス応答算出部124は、受音点AM1~AM4のいずれかから、そのいずれかの受音点と対応する再生点Sp1~Sp10のそれぞれへの分配係数w
7-1~w
10-10を算出する。
(ステップS174)出力処理部130は、IACC
E3が目標範囲0.4以下に収まっているか否かを判定する。収まっていると判定するとき(ステップS174 YES)、
図21に示す処理を終了する。収まっていないと判定するとき(ステップS172 NO)、パラメータ設定部122は、受音点AM1~AM4の分布(間隔)を更新し、ステップS162の処理に戻る。
【0116】
なお、ステップS152(または、ステップS172)において、IACCE3が目標範囲内に収まっていると判定するとき、出力処理部130は、収音音場における受音点MM1、MM2(または、受音点AM1~AM4)の分布を図示する表示画面を生成し、表示部144に表示させてもよい。
また、予め第2インパルス応答が設定された場合、または、既に第2インパルス応答を算出した場合には、ステップS146(または、ステップS166)の処理が省略されてもよい。
【0117】
スポットマイクが設置される受音点SM1~SM4に対しても、受音点MM1、MM2、または、AM1~AM4と同様の処理が可能である。上記の説明では、マイクロホンの種類ごとに評価する場合を例にしたが、2種類以上の受音点の集合を評価対象としてもよい。例えば、スポットマイクが設置される受音点の全部または一部と、アンビエントマイクが設置される受音点の全部が処理対象としてもよい。その場合、スポットマイクが設置される受音点に対面する発音点(例えば、受音点SM2に対応するS2)に係る音響信号が用いられてもよい。その場合には、スポットマイクで収音される明瞭な音とアンビエントマイクで収音された音とが混合した音を示す受聴信号に基づくIACCE3が得られる。
【0118】
なお、1個の受聴点の周囲に複数の再生点のそれぞれの位置が予め定められている再生システムについて、音線シミュレーション部124aは、受聴点を受音点とみなし、発音点(音源)と受聴点の組に係る第1インパルス応答の個々の音線の音線成分を定めてもよい。受聴点と再生点の分布は、二次元平面上の分布であってもよいし、三次元空間内の分布であってもよい。音線シミュレーション部124aは、所定のパンニング方式に基づいて、個々の音線の音線成分を複数の再生点に設置された再生音源を振分先音源として振り分けてもよい。音線成分合成部124bは、振り分けられた音線成分を振分先音源が設置された再生点ごとに合成して第1インパルス応答を算出する。音線シミュレーション部124aは、受聴点への入射音線の方向を目標方向として挟むように、個々の方向が分布する再生点に設置された再生音源を振分先音源として選択する。音線シミュレーション部124aは、ある発音点について振分先音源が設置された全ての再生点を、受音点に対応する再生点として定めることができる。定められた発音点と再生点(チャンネル)との関係が
図18に例示される発音点と受音点との対応関係に対応する。
【0119】
図22に示す例では、音線シミュレーション部124aは、再生点に対応するチャンネル別に個々の音線成分を周波数帯域ごとに算出し、算出した音線成分を示す音線データを生成する。音線成分合成部124bは、算出した音線成分を、その音線成分に対応する周波数帯域を通過帯域として有する帯域通過フィルタを用いてフィルタリングする。音線成分合成部124bは、フィルタリングにより得られる音線成分を複数の周波数帯域間で合成して合成音声成分として算出する。音線成分合成部124bは、合成音線成分をさらに振り分けられたチャンネルごとに複数の音線間で合成し、チャンネル番号kに対応するインパルス応答h
R(k,t)を第1インパルス応答として算出することができる。振分先音源に対応するチャンネルが
図18に例示される発音点と受音点の組に対応する。
【0120】
畳込部126は、式(23)に示すように再生点ごとに算出した第1インパルス応答hR(k,t)にその再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答hp(k,t)を畳み込み、第3インパルス応答hT(k,t)を算出する。個々の再生点は、チャンネルkに対応する。指標算出部128は、発音点が設置された発音源のチャンネルの音響信号に、その発音点に係る第3インパルス応答を畳み込み、その組の受聴点に係る再生信号を生成する。
ここで、受聴者の左右各耳の位置が受聴点としてそれぞれ設定される。第1インパルス応答との畳み込みには、インパルス応答算出部124が算出した第2インパルス応答が用いられてもよいし、発音点と受聴点の組ごとに予め測定された第2インパルス応答が用いられてもよい。第2インパルス応答として頭部伝達関数が用いられてもよい。上記の受聴信号R1(ξ)、R2(ξ)は、指標算出部128により右耳、左耳をそれぞれ受聴点として生成された音響信号に相当する。
【0121】
【0122】
以上に説明したように、本実施形態に係る音場評価装置10は、室内空間の形状を示す室形データと壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、少なくとも室内空間に配置された発音点と受音点の組ごとに第1インパルス応答を算出するインパルス応答算出部124を備える。音場評価装置10は、受音点と室内空間に配置された再生点との対応関係を示す収音再生対応データに基づいて、第1インパルス応答と受音点に対応する再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答を発音点ごとの音響信号に畳み込み受聴点ごとに受聴信号を生成する畳込部126を備える。音場評価装置10は、受聴点ごとの受聴信号の受聴点間の相関係数を、受音点の少なくとも一部において受音される音の物理指標として算出する指標算出部128を備える。
この構成により、室内空間における受音点から受音点の第1インパルス応答と、受音点に対応する発音点から受聴点の第2インパルス応答を用いて、受聴点ごとの受聴信号が室形データ、吸音率データなどの条件に応じて取得される。そのため、受聴信号の受聴点間の相関係数に基づいて受音点の分布を客観的に評価することができる。また、受音点の分布を評価する際に音響技術者の経験と主観に頼らずに済むため、音声の収録に係る受音点の設営、音声素材の制作に係る作業を効率化することができる。
【0123】
音場評価装置10は、少なくとも発音点と受音点の1つに対して、指向性を設定するパラメータ設定部122を備えてもよい。インパルス応答算出部124は、発音点から異なる方向に発される複数の音線のそれぞれの成分である音線成分の振幅を、発音点から発される音線の方向への指向性、前記発音点から前記受音点までの伝播距離に基づく減衰、発音点からの受音点までの壁面の反射点における吸音率、および、受音点に到達する音線の方向の指向性に基づいて定めてもよい。インパルス応答算出部124は、音線成分を複数の音線間で合成して第1インパルス応答を定めてもよい。
この構成により、音響空間を画定する壁面の他、発音点と受音点のそれぞれの指向性に応じて音線成分ごとの振幅が定まる。そのため、発音点ならびに受音点のそれぞれの指向性に対する、音声の知覚特性に対する影響を客観的に評価することができる。
【0124】
インパルス応答算出部124は、第1インパルス応答の算出に係る室内空間と共通または異なる室内空間の形状を示す室形データと当該室内空間の壁面の材質ごとの吸音率を示す吸音率データに基づいて、第2インパルス応答を算出してもよい。
この構成により、再生音場において必ずしも測定を行わなくても種々の条件のもとでの第2インパルス応答が取得される。そのため、物理指標を用いた受音点の分布を効率化することができる。
【0125】
受音点の数は3以上であり、畳込部は、第1インパルス応答と受音点の一部である所定のグループに属する受音点に対応する再生点と受聴点の組に係る第2インパルス応答が畳み込まれた受聴信号を生成してもよい。指標算出部128は、物理指標がそのグループに所定の基準範囲内であるか否かを判定してもよい。
この構成により、そのグループに属する受音点に基づく受聴信号が要求される品質を満たすか否かが客観的に評価される。そのため、グループごとの受音点の設置に係る作業を効率化することができる。
【0126】
音場評価装置10は、算出された物理指標が所定の基準範囲内にないとき、受音点の分布を更新するパラメータ設定部122を備えてもよい。
この構成により、物理指標が所定の基準範囲内となる受音点が探索される。そのため、受音点の配置を定める作業を効率化することができる。
【0127】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0128】
なお、上述した音場評価装置10の一部、例えば、パラメータ設定部122、音線シミュレーション部124a、音線成分合成部124b、畳込部126、指標算出部128、および、出力処理部130の一部または全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、音場評価装置10に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における音場評価装置10の一部、または全部をLSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。音場評価装置10の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0129】
10…音場評価装置、122…パラメータ設定部、124…インパルス応答算出部、124a…音線シミュレーション部、124b…音線成分合成部、126…畳込部、128…指標算出部、130…出力処理部、142…入力部、144…表示部