(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140199
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】計測装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/035 20060101AFI20230927BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20230927BHJP
G01R 33/10 20060101ALI20230927BHJP
A61B 5/248 20210101ALI20230927BHJP
【FI】
G01R33/035
G01R33/02 B
G01R33/10
G01R33/02 R
A61B5/248
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046108
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰士
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】足立 善昭
(72)【発明者】
【氏名】春田 康博
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD02
2G017AD32
2G017BA05
2G017BA15
2G017BA18
2G017CB01
2G017CB10
2G017CB20
4C127AA10
4C127CC08
(57)【要約】
【課題】計算負荷を軽減できる計測装置及び計測方法を提供する。
【解決手段】本発明の1つの側面にかかる計測装置は、センサを含み、信号を前記センサで計測する計測部と、前記計測されるデータ及び計算過程を記録する記録部と、前記記録されるデータを用いて信号源の位置を推定する演算部とを有し、前記演算部は、前記センサの計測領域を近似的に求める近似部と、前記求められる計測領域を複数の部分領域に等分割する分割部と、前記等分割される複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定する設定部と、前記複数の感度点で取得される情報に応じて前記信号源の位置を推定する推定部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを含み、信号を前記センサで計測する計測部と、
前記計測されるデータ及び計算過程を記録する記録部と、
前記記録されるデータを用いて信号源の位置を推定する演算部と、
を備え、
前記演算部は、
前記センサの計測領域を近似的に求める近似部と、
前記求められる計測領域を複数の部分領域に等分割する分割部と、
前記等分割される複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定する設定部と、
前記複数の感度点で取得される情報に応じて前記信号源の位置を推定する推定部と、
を含む
計測装置。
【請求項2】
前記推定される前記信号源の位置を表示部に表示する表示制御部をさらに備えた
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記信号源は、磁場源を含み、
前記信号は、磁場信号を含み、
前記センサは、磁場センサを含み、
前記データは、磁場データを含む
請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記磁場センサは、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)センサを含む
請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記記録部は、前記演算部の計算過程の情報をさらに記録する
請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
前記記録部は、前記分割部による計測領域の分割数、前記設定部による複数の感度点の座標、前記推定部で推定される位置の実験値に対する当てはまり度合い(GOF)のうちの少なくとも1つを記録する
請求項5に記載の計測装置。
【請求項7】
信号源から信号を発生させることと、
前記発生される信号をセンサで計測することと、
前記計測されるデータを記録することと、
前記記録されるデータを用いて順問題の計算を行い前記信号源の位置を推定することと、
を備え、
前記推定することは、
前記センサの計測領域を近似的に求めることと、
前記求められる計測領域を複数の部分領域に等分割することと、
前記等分割された複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定することと、
前記複数の感度点で取得された情報に応じて前記信号源の位置を推定することと、
を含む
計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊磁計などの計測装置は、生体情報計測などの本来の計測処理とは別にX線画像などの形態画像と電流分布との位置合わせの目印に用いる信号源の位置を推定する処理を行う。推定した信号源の位置は、実際に被験者を計測して得たデータから推定した信号源の分布と形態画像とを位置合わせする際の基準となるもので、信号源の推定の精度は、最終的に推定した生体内の電流分布を形態画像上に可視化する際の精度にも影響を与え得る。このため、位置推定の精度の向上が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
信号源推定では、より現実のデータに近い値を得るためにセンサの形状を考慮して計算を行う。理論的にはコイルに入射する磁束の面積を面積分して順問題を解くのが理想だが、計算量の制約もあり離散的な点で近似的に複数の感度点を設定して計算を行う事もある。一例としてセンサの計測領域に直線上に複数の感度点を設定し、複数の感度点のそれぞれに直線の向きに応じた感度を設定し、順問題の計算を行って、信号源の位置を推定する事例が報告されている。この場合、感度点毎に異なる感度を設定するため、面積分より計算負荷は小さいが、依然として計算負荷が増大しやすい。
【0004】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、計算負荷を軽減できる計測装置及び計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかる計測装置は、センサを含み、信号を前記センサで計測する計測部と、前記計測されるデータ及び計算過程を記録する記録部と、前記記録されるデータを用いて信号源の位置を推定する演算部とを有し、前記演算部は、前記センサの計測領域を近似的に求める近似部と、前記求められる計測領域を複数の部分領域に等分割する分割部と、前記等分割される複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定する設定部と、前記複数の感度点で取得される情報に応じて前記信号源の位置を推定する推定部とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、計算負荷を軽減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施形態におけるセンサの構成と信号の角度依存性とを示す図。
【
図3】実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の一例を示す図。
【
図4】実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の他の例を示す図。
【
図5】実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の他の例を示す図。
【
図6】実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の他の例を示す図。
【
図7】実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の他の例を示す図。
【
図8】実施形態における信号源の位置推定のシミュレーションにおけるセンサと信号源との配置を示す図。
【
図9】信号源の位置を単一の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図。
【
図10】実施形態における信号源の位置を24個の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図。
【
図11】実施形態における信号源の位置を6個の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図。
【
図12】実施形態における信号源の位置推定シミュレーション結果における位置ずれの平均値及び最大値を示す図。
【
図13】実施形態における信号源の位置推定のシミュレーション条件を示す図。
【
図14】実施形態における信号源の位置推定のシミュレーションで生成される信号強度分布を示す図。
【
図15】実施形態における信号源の位置推定の推定強度を示す図。
【
図16】実施形態における信号源及びセンサの実装構成例を示す図。
【
図17】実施形態における信号源の位置推定の結果を示す図。
【
図18】情報処理装置のハードウェア構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施形態)
実施形態にかかる計測装置1は、例えば脊磁計であり、
図1に示すように構成され得る。
図1は、計測装置1の構成を示す図である。
【0009】
計測装置1は、発生部10、計測部20、記録部30、演算部40、表示制御部50、表示部60及び制御部70を有する。制御部70は、計測装置1の各部を統括的に制御する。
【0010】
計測装置1は、刺激を与えられた生体から発生する磁場を計測部20で検出し生体のX線画像と検出磁場に応じた電流分布とを表示部60に重ね合わせ表示することで生体の神経活動を可視化することなどに用いられる。
【0011】
演算部40は、信号源の位置の推定を行うことが可能であるとともに、上述の電流分布の推定を行うことが可能である。
【0012】
例えば、表示制御部50は、位置表示制御部51及び情報表示制御部52を有する。位置表示制御部51は、生体のX線画像を予め取得する。情報表示制御部52は、計測部20から信号を取得し、取得された信号に応じて電流分布の画像を生成し位置表示制御部51へ供給する。位置表示制御部51は、生体のX線画像と電流分布の画像との位置合わせを行い合成し、表示情報を生成し、その表示情報に応じて表示部60にX線画像と電流分布の画像と重ね合わせ表示することができる。
【0013】
計測部20は、複数のセンサ21-1~21-mを含む(mは任意の2以上の整数)。各センサ21は、例えば磁場センサであり、ピックアップコイルが用いられる。各センサ21は、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)センサであってもよい。ピックアップコイルを超伝導体(例えば、イットリウム系銅酸化物超伝導体)で構成しループ中の2か所に絶縁膜を挿入してジョセフソン接合を形成することで、ピックアップコイルがSQUIDセンサとして構成され得る。SQUIDセンサは、クライオスタットなどにより超電導臨界温度以下まで冷却されることで、超伝導体のジョセフソン効果により、微弱な磁束を検出可能である。
【0014】
表示部60は、例えばディスレプイであり、CRTディスプレイ、液晶ディスレプイ、有機ELディスプレイなどが用いられる。
【0015】
計測装置1では、X線画像と電流分布との位置合わせの基準として、信号源11の位置が推定される。計測装置1において、発生部10は、複数の信号源11-1~11-nを含む(nは任意の2以上の整数)。各信号源11は、例えば磁場源であり、マーカーコイルが用いられる。発生部10は、各信号源11-1~11-nから信号を発生させる。発生部10は、各信号源(マーカーコイル)11-1~11-nに駆動電流を流すことで、各信号源11-1~11-nから信号(磁場)を発生させてもよい。計測部20は、発生部10で発生される信号(磁場)を各センサ21で計測し、各センサ21で計測されたデータを計測データ31として記録部30に記録してもよい。
【0016】
信号源11の位置は、実際に被験者を計測して信号(磁場)とX線画像とを位置合わせする際の基準となるものである。信号源11の位置推定の精度は、最終的に推定した生体内の電流分布を発生部10のX線画像上に可視化する際の精度にも影響を与えうる。そのため、信号源11の位置は、できるだけ精度良く推定する事が求められる。
【0017】
信号源11の位置を推定する際、演算部40は、複数の位置に信号源(磁場源)11を置いた場合について各センサ21から得られる計測データ信号と比較する為の理論的な信号分布を与える順問題を解く。順問題を解く際に、演算部40は、各センサ21の感度を用いて信号源の場所を変えて繰り返し計算を行い、計測データとの当てはまりを評価する。すなわち、演算部40は、推定される位置が適切化(例えば最適化)されるように膨大な回数繰り返して計算を行う。
【0018】
例えば、信号源11がセンサ21から十分遠くに位置するものとし、センサ(ピックアップコイル)21の内側は一様な信号強度分布(磁場分布)を持つと仮定して、計測データが求められることがある。実際には、信号源11がセンサ21の近くに位置することがあり、センサ21の内側が一様な信号強度分布(磁場分布)を持つという仮定が成り立たないことがある。
【0019】
脊磁計などの計測装置1では、センサ21としてのピックアップコイル21aがSQUIDセンサとして構成され得る。センサ21は、
図2(a)に示すように、ピックアップコイル21aで磁束を捕捉し、その誘導電流に応じてジョセフソン接合で遮蔽電流を流すことで、微弱な磁束の変化に対して比較的大きな信号を得ることが可能である。例えば、
図2(b)に点線で示すように、ピックアップコイル21aの直径aに対して、ピックアップコイル21aの中心から信号源(磁場源)11までの距離dが十分に大きければ、磁場信号の強度は、ピックアップコイル21aの中心と信号源(磁場源)11の位置とを結ぶ線分がピックアップコイル21aの軸AXとなす角度θに対して、cosθに沿った曲線を描く変化を示す。このため、信号源(磁場源)11の位置を精度よく求めることが可能である。
【0020】
しかし、信号源11がセンサ21に近くに位置する場合、信号強度分布に影響され計測値が変動しやすい。例えば、
図2(b)に実線で示すように、ピックアップコイル21aの直径aがピックアップコイル21aの中心から信号源(磁場源)11までの距離dに等しい場合、磁場信号の強度は、角度θの変化に対してcosθから歪んだ曲線を描く不規則な変化を示す。このため、信号源(磁場源)11の位置を精度よく求めることが困難になる。
【0021】
その対策として、各センサ21の計測領域内に直線上に複数の感度点を設定して順問題を簡易的に計算して信号源11の位置推定を行う方法が提案されている。この方法では、複数個の感度点が直線上に並ぶために感度に角度依存性を有し、感度点毎に重みづけをすることなどにより異なる感度が設定される。このため、順問題の計算で膨大な回数繰り返して計算する際の計算負荷が増大しやすい。このため、計算負荷を軽減できるような、より簡易的な方法が求められている。
【0022】
そこで、本実施形態では、計測装置1の演算部40において、計測部20の各センサ21の計測領域を等分割した複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定することで、計算負荷の低減を目指す。
【0023】
例えば、演算部40は、近似部41、分割部42、設定部43及び推定部44を有する。
【0024】
各センサ21の計測領域MRを近似的に求める。計測領域MRは、計測対象の物理量を捕捉する主要な領域である。各センサ21が円形である場合、その計測領域が円形の平面領域となる。近似部41は、各センサ21の計測領域を、円形に等しい面積を有する多角形状の計測領域MRで近似してもよい。
【0025】
例えば、
図3(a)に示すように、近似部41は、ピックアップコイル21aを円形とみなし、その計測領域を円形と同じ面積を有する六角形状の計測領域MRで近似する。
図3は、各センサ21の計測領域MR内の複数の感度点の設定を示す図であり、
図3(a)は、近似的に求められるセンサ21の計測領域MRを示す。ピックアップコイル21a(円形)の半径をrとし、計測領域MR(六角形)の対角線の半分をDとすると、次の数式1が成り立つ。
【数1】
【0026】
数式1からDとrとの比の値を求めると、次の数式2が得られる。
【数2】
【0027】
近似部41は、センサ21のローカル座標系として、計測領域MRの中心を原点とし、計測領域MR(平面)に垂直な方向にz軸を設定し、計測領域MR内でz軸に直交する2方向にx軸及びy軸を設定する。
図3(a)では、計測領域MRの中心から下へ向かう方向にx軸、計測領域MRの中心から右へ向かう方向にy軸が設定される。例えば、計測領域MRにおける
図3(a)の右端点の座標は、(x,y,z)=(0,D,0)である。
【0028】
分割部42は、近似部41で求められる計測領域MRを複数の部分領域PR1~PRk(kは任意の2以上の整数)に等分割する。複数の部分領域PR1~PRkは、互いに面積が略等しい。各部分領域PR1~PRkは、隣接する部分領域PRとの間隔が略等しい。分割部42は、等分割された複数の部分領域PR1~PRkを規定する座標を座標情報32として記録部30に記録する。
【0029】
例えば、
図3(b)に示すように、分割部42は、計測領域MRを24個の部分領域PR1~PR24に等分割する。
図3(b)の場合、計測領域MR内は、一辺がDの正三角形が6個並ぶ。各部分領域PRは、この正三角形内が面積比1/4に縮小された正三角形になっている。各部分領域PRは、互いに面積が略等しい。各部分領域PR1~PRkは、隣接する部分領域PRとの間隔が略等しい。分割部42は、各部分領域PR1~PRkの境界線の座標、又は境界線における代表点(例えば、三角形の頂点)の座標を座標情報32として記録部30に記録してもよい。
【0030】
設定部43は、等分割される複数の部分領域PR1~PRkのそれぞれに互いに均等な感度で感度点SPを設定する。設定部43は、部分領域PR1に感度点SP1を設定する。・・・設定部43は、部分領域PRkに感度点SPkを設定する。各部分領域PRは、互いに面積が略等しいので、信号を検出する能力も略等しいとみなせる。設定部43は、複数の感度点SP1~SPkのそれぞれに、単一の感度SNを関連付けることができる。
【0031】
例えば、
図3(b)に示すように、設定部43は、各部分領域PR1~PRk(正三角形)の重心に感度点SPを設定してもよい。これにより、設定部43は、
図3(c)に示すように、計測領域MR内に一様に分布する複数の感度点SP1~SPkを設定できる。設定部43は、複数の感度点SP1~SPkの座標を座標情報32として記録部30に記録してもよい。また、設定部43は、各感度点SP1~SPkに単一の感度SNを関連付けることができる。設定部43は、単一の感度SNを各感度点SP1~SPkに関連付けられた形で感度情報33として記録部30に記録してもよい。
【0032】
なお、
図3に示す複数の感度点の設定の手順は、一例であり、計測領域を近似し等分割して感度点を設定可能な手順であれば、他の手順であってもよい。例えば
図4~
図7に示すように、ピックアップコイル21aが楕円形の場合にも拡張可能である。その場合、以下の様な方式で楕円の軸を変更して一旦円に拡張した上で感度点を設定した後に圧縮すれば良い。
図4~
図7は、それぞれ、実施形態における各センサの計測領域内の複数の感度点の設定手順の他の例を示す図である。
【0033】
例えば、近似部41は、
図4(a)に示すように、ピックアップコイル21aをy方向に長径a、x方向に短径bを有する楕円形とみなす。近似部41は、
図4(b)に示すように、ピックアップコイル21aを仮想的にx方向にγ=a/b倍して拡張変形させ、円形とみなし得るピックアップコイル21aiにする。近似部41は、
図3(a)と同様に、その計測領域を半径r=a/2の円形と同じ面積を有する六角形状の計測領域MRで近似する。分割部42は、
図4(c)に示すように、計測領域MRiを24個の部分領域PR1i~PR24iに等分割する。設定部43は、
図4(c)に示すように、各部分領域PR1~PRk(正三角形)の重心に感度点SPを設定する。この状態で、設定部43は、
図4(d)に示すように、ピックアップコイル21ai及び計測領域MRをそれぞれx方向に1/γ倍に圧縮変形させ、ピックアップコイル21aを元の楕円形に元すとともに、計測領域MR及び部分領域PR1i~PR24iを楕円形に対応した形状にする。これにより、設定部43は、
図4(e)に示すように、計測領域MR内に一様に分布する複数の感度点SP1~SP24を設定できる。
【0034】
あるいは、
図5(a)、
図5(b)に示す手順が
図4(a)、
図4(b)と同様に行われた後、
図5(c)に示すように、近似部41は、その計測領域を、
図4(c)に示す計測領域に対して所定角度(例えば、30度)回転させた向きで、半径r=a/2の円形と同じ面積を有する六角形状の計測領域MRで近似する。それ以降は、
図5(c)~
図5(e)に示すように、向きが異なること以外は
図4(c)~
図4(e)に示す手順と同様の手順が行われる。これにより、設定部43は、
図5(e)に示すように、計測領域MR内に一様に分布する複数の感度点SP1~SP24を設定できる。
【0035】
あるいは、楕円形を円形に拡張変形せずに楕円形のまま計測領域を近似し等分割して感度点を設定してもよい。例えば、近似部41は、
図6(a)に示すピックアップコイル21aに対して、
図6(b)に示すように、底辺がD/2高さが√(3)D/4の二等辺三角形が6個並んだ六角形状の計測領域MRで近似する。分割部42は、計測領域MRを24個の部分領域PR1~PR24に等分割する。各部分領域PR1~PR24は、底辺がD/4高さが√(3)D/8の二等辺三角形になっている。設定部43は、各部分領域PR1~PR24(二等辺三角形)の重心に感度点SPを設定してもよい。
【0036】
あるいは、近似部41は、その計測領域を、
図6(b)に示す計測領域に対して所定角度(例えば、30度)回転させた向きで、楕円形と同じ面積を有する六角形状の計測領域MRで近似する。それ以降は、
図7(b)~
図7(c)に示すように、向きが異なること以外は
図6(b)~
図6(c)に示す手順と同様の手順が行われる。これにより、設定部43は、
図7(c)に示すように、計測領域MR内に一様に分布する複数の感度点SP1~SP24を設定できる。
【0037】
推定部44は、複数の感度点SP1~SPkで取得される情報に応じて信号源11の位置を推定する。推定部44は、複数の位置に信号源(磁場源)11を置いた場合について、各センサ21の複数の感度点SP1~SPkから単一の感度SNで得られる計測データ信号と比較する為の理論的な信号分布を与える順問題を解く。推定部44は、推定される位置が適切化(例えば最適化)されるように繰り返して計算を行い、信号源11の位置を推定する。推定部44は、推定された位置を位置表示制御部51へ供給してもよい。これにより、位置表示制御部51は、推定された位置を基準として、例えば生体のX線画像と計測部20で計測された生体の電流分布の画像とを適正に位置合わせして表示部60に重ね合わせ表示できる。
【0038】
例えば、推定部44は、
図8に示す配置を仮定し、信号源(磁場源)11の位置を推定するシミュレーションを行う。推定部44は、位置推定に際し、グローバル座標系を設定してもよい。センサ21のアレイの中心からセンサ21の計測領域MR(平面)に垂直な方向にZ軸を設定し、計測領域MRに沿った平面内で直交する2方向にX軸及びY軸を設定する。推定部44は、グローバル座標系における各センサ21の座標及び信号源11の座標を座標情報32として記録部30に記録してもよい。センサ21の座標は、センサ21のローカル座標の原点と一致していてもよい。推定部44は、グローバル座標系におけるセンサ21の座標とローカル座標系における各感度点SP1~SPkの座標とを組み合わせることで、センサ21の各感度点SP1~SPkの座標を特定可能である。
【0039】
図8は、信号源11の位置推定のシミュレーションにおけるセンサ21と信号源11との配置を示す図である。
図8(a)は、XY平面における配置を示し、
図8(b)は、YZ平面における配置を示す。
【0040】
センサ21は、ピックアップコイル21aであってもよく、信号源11は、マーカーコイル11aであってもよい。
図8(a)に灰色の点で示す様にランダムに1,000個のマーカーコイル11aを配置する。ピックアップコイル21aの計測領域MR内に
(1)単一の感度点
(2)24個の感度点
(3)6個の感度点
をそれぞれ設定して各マーカーコイル11aの位置推定を行ったときにおける元の位置(
図8で仮定した位置)からのズレを評価する。マーカーコイル11aは、円筒面の中心を向く磁気ダイポールとする。位置推定には、Z方向のセンサ21を用いる。
図8(b)は、ピックアップコイル21aの感度点SPとマーカーコイル11aの配置をYZ方向からみたものである。
【0041】
(1)~(3)の各設定により得たシミュレーション結果を
図9~
図11に示す。
【0042】
図9は、信号源11(マーカーコイル11a)の位置を単一の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図である。
図9(a)~
図9(d)は、それぞれ、単一の感度点の設定を仮定してマーカーコイル11aの位置推定を行った時の元の位置からのズレの分布を示す。
図9(a)~
図9(d)では、それぞれ、色の濃淡でズレの大きさを示し、色が濃ければズレが大きいことを示し、色が薄ければズレが小さいことを示す。
図9(a)、
図9(b)は、それぞれ、φ16mm(2r=16mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
図9(c)、
図9(d)は、それぞれ、φ20mm(2r=20mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
【0043】
図10は、信号源11(マーカーコイル11a)の位置を24個の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図である。
図10(a)~
図10(d)は、それぞれ、24個の感度点の設定を仮定してマーカーコイル11aの位置推定を行った時の元の位置(
図8の位置)からのズレの分布を示す。
図10(a)~
図10(d)では、それぞれ、色の濃淡でズレの大きさを示し、色が濃ければズレが大きいことを示し、色が薄ければズレが小さいことを示す。
図10(a)、
図10(b)は、それぞれ、φ16mm(2r=16mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
図10(c)、
図10(d)は、それぞれ、φ20mm(2r=20mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
【0044】
図11は、信号源11(マーカーコイル11a)の位置を6個の感度点で推定したシミュレーション結果を示す図である。
図11(a)~
図11(d)は、それぞれ、6個の感度点の設定を仮定してマーカーコイル11aの位置推定を行った時の元の位置(
図8の位置)からのズレの分布を示す。
図11(a)~
図11(d)では、それぞれ、色の濃淡でズレの大きさを示し、色が濃ければズレが大きいことを示し、色が薄ければズレが小さいことを示す。
図11(a)、
図11(b)は、それぞれ、φ16mm(2r=16mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
図11(c)、
図11(d)は、それぞれ、φ20mm(2r=20mm)のセンサ21のアレイによるZ方向ズレ、XY方向ズレを示す。
【0045】
図9~
図11を比較すると、単一の感度点で推定した
図9の場合に比べて、複数の感度点で推定した
図10、
図11の場合の方が、全体的に色が薄くなっており、ズレが小さくなっていることが分かる。これを統計的に示すと、
図12のようになる。
図12は、信号源の位置推定シミュレーション結果における位置ずれの平均値及び最大値を示す図である。
【0046】
図12に示すように、単一の感度点で推定した
図9の場合に比べて、複数の感度点で推定した
図10、
図11の場合の方が、XY方向・Z方向のズレの平均値・最大値のいずれも小さくなっていることが数値的に確認できる。
【0047】
本手法は、例えば生体情報計測の際に取得される磁場信号に対しての逆問題推定手法による信号源推定(具体的には、被験者の末梢神経に繰り返し電気刺激を与えた状況下での磁場信号計測データに対しての電流分布の伝播状況の推定)を行う際に利用する感度情報の計算にも応用可能である。
【0048】
例えば、推定部44は、
図13に示す配置を仮定し、ビオ・サバールの法則により、
図14に示すように信号強度分布を推定し、各センサ21の出力を求めてもよい。
図13は、信号源の位置推定のシミュレーション条件を示す図である。
図13では、センサ21のアレイの-Z側端から-Z方向に2cmの距離に信号源11としての点電流源を設置した配置を例示する。
図13(a)は、ZY平面における信号源11及びセンサ21の位置を示し、
図13(b)は、XY平面における信号源11及びセンサ21の位置を示す。
図13(a)及び
図13(b)では、それぞれ、信号源11としての点電流源の位置が×で示され、各センサ21の位置が〇で示される。
【0049】
図14は、信号源の位置推定のシミュレーションで生成される信号強度分布を示す図である。
図14は、XY平面における信号強度分布(磁場分布)を示す。
図14では、×で示される位置に信号源11(磁場源)を配置した場合に生成される信号強度分布(磁場分布)について、信号(磁場)のZ成分を等信号強度線図(等磁場線図)で示し、信号(磁場)のXY成分を縦方向の線又は点で示している。また、各センサ21の位置が〇で示される。
【0050】
推定部44は、グローバル座標系における信号源11とグローバル座標系における各センサ21の座標とローカル座標系における各感度点SP1~SPkの座標とを用いて、各センサ21の各感度点SPの計測データを求めることができる。推定部44は、各センサ21の各感度点SPの計測データに応じて、ビオ・サバールの法則等(
図13、
図14参照)により、信号源11の位置を推定する。この推定強度は、推定された位置の元の位置からズレ(
図9~
図12参照)に応じて求めることができる。
【0051】
例えば、推定部44は、各センサ21の各感度点SPの計測データから
図14に示すような信号強度分布(磁場分布)が得られれば、ビオ・サバールの法則等により、
図14に×で示す位置に信号源11が存在すると推定できる。推定部44は、この推定された位置と元の位置(
図8の位置)とのズレを評価し、評価結果に応じて推定強度を求めることができる。
【0052】
図15は、実際に逆問題推定手法を用いて信号源の位置推定を行った場合の推定強度を示す図である。
図15(a)は、複数感度点を用いて信号源11の位置推定を行った場合(
図10又は
図11の場合)について例示し、
図15(b)は、単一感度点を用いて信号源11の位置推定を行った場合(
図9の場合)について例示する。いずれの場合も、各感度点の感度(強度)を1として位置推定を行った。
【0053】
複数感度点を用いて逆問題による信号源11の位置推定を行った場合の推定強度は1.00であり、単一感度点を用いて逆問題による信号源11の位置推定を行った場合の信号強度0.86に比べて、高い値になっている。すなわち、互いに均等な感度を有する複数感度点を用いて信号源11の位置推定を行った場合に、信号源11の位置を精度よく推定できることが確認された。
【0054】
ここで、推定部44は、互いに均等な感度を有する複数感度点を用いて信号源11の位置推定を行う。これにより、互いに異なる感度を有する複数感度点を用いて信号源11の位置推定を行う場合に比べて、推定部44の計算負荷を軽減できる。
【0055】
次に、信号源11及びセンサ21の実装構成例及びそれにより実際に計測したデータに適用した結果について説明する。
【0056】
図16は、信号源11及びセンサ21の実装構成例を示す図である。
図16では、基板2に、24個のマーカーコイル11a-1~11a-24を配置された構成が例示される。基板2は、XY平面上でホームベース型の形状を有してもよい。
【0057】
例えば、発生部10は、基板配線を介して各マーカーコイル11a-1~11a-24に駆動電流を流す。このときに24個のマーカーコイル11a-1~11a-24で発生する磁場を計測部20で計測する。計測部20は、計測データに対して単感度点・複数感度点(Z方向、XY方向)で行う。複数感度点はどちらも24点で使用するピックアップコイル21a(SQUIDセンサ)のうちZ方向、XY方向を用いて推定する。評価は別途三次元計測で計測したコイル位置の重心を推定値と一致させた際の対応する点の間の距離のバラツキで見積もる。実際に得られた結果を
図17に示す。
図17は、信号源11の位置推定の結果を示す図である。
【0058】
図17では、三次元計測値(設計値)と推定値の重心を一致する様に重ね合わせたプロット図をXY平面、YZ平面それぞれの面で見た図と、誤差の分布を箱ひげ図で評価した結果を各推定手法毎に示す。結果として、複数感度点(msp)で位置推定した場合の方が推定に用いるSQUIDセンサの方向によらず有意に誤差及び誤差の標準偏差に関して単一感度点(ssp)で位置推定した場合より精度が良くなっている事が分かる。
【0059】
なお、実際に計算時間の評価を行った。脊磁計(Z軸のみ44ch)を想定し、センサアレイから14.7mm離れた円筒面上(実際の脊磁計に準拠)のランダムに選んだ位置にマーカーコイルを配置したときの44chのセンサアレイの構成で順問題を解く、というのを1000回繰り返した時の時間を測定し、手法間の計算時間を比較した。単一感度点(面積分)と複数感度点とで、同条件で計算した際の処理時間は、以下の様になった。
【表1】
【0060】
以上のように、本実施形態では、計測装置1の演算部40において、計測部20の各センサ21の計測領域を等分割した複数の部分領域のそれぞれに互いに均等な感度で感度点を設定する。これにより、互いに異なる感度を有する複数の感度点を用いて信号源11の位置を推定する場合に比べて、演算部40の計算負荷を低減できる。また、単一感度点を用いて信号源11の位置を推定する場合に比べて、信号源11の位置推定の精度を向上できる。
【0061】
したがって、信号源11の位置推定の精度を向上しながら、演算部40の計算負荷を低減できる。
【0062】
なお、記録部30は、計測データ31、座標情報32、感度情報33に加えて、分割部42による領域の分割数、推定部44で推定される位置の実験値に対する当てはまり度合い(GOF)などをさらに記録してもよい。
【0063】
例えば、
図3(b)の場合、分割部42は、各センサ21の計測領域MRを24等分する際に、分割数「24」を示す情報を記録部30に記録してもよい。
【0064】
また、
図12の場合、推定部44は、GOF(Goodness Of Fit)の値を推定精度の指標として記録部30に記録してもよい。GOFは、推定部44で推定される位置の実験値に対する当てはまり度合いである。
【0065】
なお、計測装置1で実行される計測方法は、
図18で示すような情報処理装置300で実行されるプログラムとして実装されてもよい。
図18は、情報処理装置300のハードウェア構成の例を示す図である。情報処理装置300は、制御装置301、主記憶装置302、補助記憶装置303、表示装置304、入力装置305及び通信装置306を備える。制御装置301、主記憶装置302、補助記憶装置303、表示装置304、入力装置305及び通信装置306は、バス310を介して接続されている。
【0066】
制御装置301は補助記憶装置303から主記憶装置302に読み出されたプログラムを実行する。主記憶装置302はROM及びRAM等のメモリである。補助記憶装置303はメモリカード及びSSD(Solid State Drive)等である。
【0067】
表示装置304は情報を表示する。表示装置304は、例えば液晶ディスプレイである。入力装置305は、情報の入力を受け付ける。入力装置305は、例えばキーボード及びマウス等である。なお表示装置304及び入力装置305は、表示機能と入力機能とを兼ねる液晶タッチパネル等でもよい。通信装置306は他の装置と通信する。
【0068】
情報処理装置300で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、メモリカード、CD-R及びDVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
【0069】
また情報処理装置300で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また情報処理装置300が実行するプログラムを、ダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。
【0070】
また情報処理装置300で実行されるプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0071】
情報処理装置300で実行されるプログラムは、
図1に示す機能構成のうち、プログラムにより実現可能な機能を含むモジュール構成となっている。例えば、発生部10のうち各信号源11を駆動処理する部分は、制御装置301に対応する。計測部20のうち各センサ21からの信号を処理する部分は、制御装置301に対応する。記録部30は、主記憶装置302及び/又は補助記憶装置303に対応する。演算部40は、制御装置301に対応する。表示制御部50は、制御装置301に対応する。表示部60は、表示装置304に対応する。制御部70は、制御装置301に対応する。このとき、信号源11-1~11-nとして、
図16に示すマーカーコイル11a-1~11a-24を用いてもよい。
【0072】
プログラムにより実現される機能は、制御装置301が補助記憶装置303等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、コンパイル時に一括して又は処理の進行に応じて逐次的に、機能モジュールとして主記憶装置302上に展開される。
【0073】
なお情報処理装置300の機能の一部又は全部を、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよい。また複数のプロセッサを用いて各機能を実現する場合、各プロセッサは、各機能のうち1つを実現してもよいし、各機能のうち2つ以上を実現してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 計測装置
10 発生部
11,11-1~11-n 信号源
11a,11a-1~11a-24 マーカーコイル
20 計測部
21,21-1~21-m センサ
30 記録部
31 計測データ
32 座標情報
33 感度情報
40 演算部
41 近似部
42 分割部
43 設定部
44 推定部
50 表示制御部
51 位置表示制御部
52 情報表示制御部
60 表示部
70 制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【非特許文献】
【0076】
【非特許文献1】Y. Adachi et al., Evaluation of Directional Dependence of Sensitivity for Room-Temperature Magnetic Flux Sensors With Wide Sensitivity Region, IEEE Trans Mag, vol. 57(2), 4000105, 2021.