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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140215
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230927BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230927BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046133
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG34
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB10
4K029DB12
4K029DB13
4K029DB18
4K029DB19
4K029EA02
4K029HA01
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】小型化を図ることができて動作安定性の良い真空蒸着装置用の蒸着源の提供。
【解決手段】真空チャンバ1内に配置されて、蒸着材料Msを気化又は昇華させて被蒸着物Swに対して蒸着するための真空蒸着装置Dm用の蒸着源DSは、内部が仕切部材5で上下二室4a,4bに分離される収容箱4を有し、仕切部材に第1室4aと第2室4bとの連通を許容する連通路51が形成され、連通路内に上下方向に直交する閉じ姿勢から回動自在なバタフライ弁6が設けられ、第2室を画成する収容箱の壁面部分に、気化又は昇華した蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出部42aが設けられ、バタフライ弁の閉じ姿勢では、バタフライ弁の弁板部61と連通路の内壁面との隙間Crで第1室と第2室との間のコンダクタンスが確定され、第1室内に存する蒸着材料を加熱して気化又は昇華させたときに第2室が気化又は昇華した蒸着材料の非漏洩状態に維持される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源において、
内部が仕切部材で上下二室に分離される収容箱を有し、
仕切部材に第1室と第2室との連通を許容する連通路が形成され、この連通路内に上下方向に直交する閉じ姿勢から回動自在なバタフライ弁が設けられ、第2室を画成する収容箱の壁面部分に、気化または昇華した蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出部が設けられ、
バタフライ弁の閉じ姿勢では、このバタフライ弁の弁板部と連通路の内壁面との隙間で第1室と第2室との間のコンダクタンスが確定され、第1室内に存する蒸着材料を加熱して気化または昇華させたときに第2室が気化または昇華した蒸着材料の非漏洩状態に維持されるように構成したことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記収容箱内に位置するバタフライ弁の弁軸部の部分に受圧部が形成され、この受圧部に押圧力を加えて弁軸部をその軸線回りに回転させてバタフライ弁を閉じ姿勢から開き姿勢に回動させる駆動ユニットを更に備え、
駆動ユニットが、収容箱内に進入して受圧部に押圧力を加える押圧ロッドと、収容箱外に突出する押圧ロッドの部分に外挿されるベローズ管と、ベローズ管を伸縮させて押圧ロッドを進退させる駆動部とを有することを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
前記バタフライ弁の弁板部の上面及び下面の少なくとも一方に、弁板部の外周縁に沿って起立壁部が設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置され、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中で被蒸着物としての基板に対して、α-NPDや2-TNATAといった固体の蒸着材料(有機材料)を気化または昇華(以下、単に「昇華」と称する)させて被蒸着物表面に所定の薄膜を蒸着する工程があり、蒸着工程には、一般に、真空蒸着装置が利用される。このような真空蒸着装置に用いられる蒸着源として、有機材料が充填される坩堝と、坩堝を加熱する加熱手段とを備えるものが知られている。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ内で坩堝を所定温度(例えば、300℃)に加熱し、坩堝の壁面からの伝熱や輻射熱で有機材料を加熱して昇華させ、この昇華したものを坩堝の上面開口から放出させることで、基板表面に所定の薄膜が蒸着(成膜)される。このような用途の有機材料は、比較的高価な上に、必要以上の熱が加えられると、容易に分解または熱劣化してしまう。
【0003】
基板表面に蒸着するときの成膜レートは、主として加熱手段により坩堝に加える単位時間当たりの熱量で調節されるが、有機材料の加熱開始当初においては、必要以上の熱が有機材料に加わらないように熱量を調整しながら昇華量を安定させることが難しい。このような場合、例えば、坩堝の上面開口を覆うシャッタを設けることが一般に知られているが、これでは、無駄に消費される有機材料の量が多くなる。そこで、次の真空蒸着装置用の蒸着源が例えば特許文献1で知られている。このものは、有機材料が充填されると共に加熱手段を有する昇華容器と、昇華した蒸着材料を内部で拡散させると共にこの拡散されたものを放出する放出部(通路)が形成された拡散容器とを備え、両容器が流量調整弁を介設した所定長さの連通管で互いに連結されている。
【0004】
加熱開始当初には、流量調整弁を閉弁し、昇華容器内での昇華量が安定すると、流量調整弁を開弁する。これにより、昇華容器内で昇華した有機材料が昇華容器と拡散容器との圧力差で連通管を通って拡散容器に導入されて拡散し、この拡散されたものが真空チャンバ内との圧力差で放出部から放出される。そして、成膜中には、流量調整弁の開度を制御すれば、成膜レートを調整することができる。然し、上記従来例のものでは、昇華容器、拡散容器、流量調整弁を介設した連通管といった複数の部品で構成され、しかも、昇華容器を所定温度に加熱する際には、流量調整弁を作動させる部品が熱膨張などで動作不良を起こさないように連通管を長くせざるを得ない。結果として、蒸着源が大型化し、ひいては、真空蒸着装置の大型化を招来するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6207319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、小型化を図ることができて動作安定性の良い真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて、蒸着材料を気化または昇華させて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、内部が仕切部材で上下二室に分離される収容箱を有し、仕切部材に第1室と第2室との連通を許容する連通路が形成され、この連通路内に上下方向に直交する閉じ姿勢から回動自在なバタフライ弁が設けられ、第2室を画成する収容箱の壁面部分に、気化または昇華した蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出部が設けられ、バタフライ弁の閉じ姿勢では、このバタフライ弁の弁板部と連通路の内壁面との隙間で第1室と第2室との間のコンダクタンスが確定され、第1室内に存する蒸着材料を加熱して気化または昇華させたときに第2室が気化または昇華した蒸着材料の非漏洩状態に維持されるように構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記収容箱内に位置するバタフライ弁の弁軸部の部分に受圧部が形成され、この受圧部に押圧力を加えて弁軸部をその軸線回りに回転させてバタフライ弁を閉じ姿勢から開き姿勢に回動させる駆動ユニットを更に備え、駆動ユニットが、収容箱内に進入して受圧部に押圧力を加える押圧ロッドと、収容箱外に突出する押圧ロッドの部分に外挿されるベローズ管と、ベローズ管を伸縮させて押圧ロッドを進退させる駆動部とを有することが好ましい。また、前記バタフライ弁の弁板部の上面及び下面の少なくとも一方に、弁板部の外周縁に沿って起立壁部を設ける構成を採用してもよい。
【0009】
以上によれば、収容箱内の第1室に例えば粉末状の蒸着材料を所定の充填率で充填した後、駆動ユニットによりバタフライ弁を開き姿勢とし、真空チャンバ内を真空ポンプで真空排気する。このとき、収容箱の第2室内は放出部を介して真空チャンバ内に連通しているため、収容箱内もまた、真空チャンバ内と同等の圧力に真空排気される。真空チャンバ内が所定圧力まで真空排気されると、バタフライ弁を閉じ姿勢とし、収容箱をその周囲に設けた加熱手段により加熱する。すると、収容箱の壁面からの伝熱や輻射熱(弁本体からの輻射熱も含む)で蒸着材料が加熱されて気化または昇華を開始する。
【0010】
蒸着材料の気化または昇華が進むと、第1室内の圧力は第2室内より次第に高くなるが、バタフライ弁の弁板部と連通路の内壁面との隙間のコンダクタンス値を適宜設定しておけば、第2室を気化または昇華した蒸着材料の非漏洩状態に維持できる(言い換えると、第1室内を略密閉空間にできる)。これにより、容積が小さくなった略密閉の第1室内にて蒸着材料をその蒸気圧曲線に従って気化または昇華させることで速やかにその気化量または昇華量を安定させることができる。本発明にいう「非漏洩状態」とは、気化または昇華した蒸着材料の第2室への漏洩が完全に防止される状態だけをいうのではなく、第1室内を略密閉空間として、速やかに気化量または昇華量が安定する状態を作り出すことができる範囲内で気化または昇華した蒸着材料の第2室への少量の漏洩を許容する状態を含む。
【0011】
第2室へと漏洩した蒸着材料は、放出部を通って真空チャンバに放出されるが、このとき無駄になる蒸着材料は、従来のものと比較して格段に少なくできる。ここで、本発明者の実験では、加熱手段により一定の熱量を加えて蒸着材料を充填した収容箱を加熱し、所定時間経過後に、バタフライ弁を閉じ姿勢、開き姿勢に交互に変え、そのときの成膜レートを測定したところ、成膜レートが最大となる場合におけるバタフライ弁の開き姿勢のときに比べて、その閉じ姿勢では5%以下まで成膜レートを低下できることが確認された。第1室内での気化量または昇華量が安定すると、バタフライ弁を開き姿勢にする。これにより、第1室内の気化または昇華した蒸着材料が連通路を通って第2室へと導入され、第2室で拡散された後、第2室と真空チャンバ内との間の圧力差で放出部を通って真空チャンバに放出されて被蒸着物表面に所定の成膜レートで成膜(蒸着)される。このとき、開き姿勢のバタフライ弁の弁軸部回りの回転角を制御すれば、成膜レートを調整することができる。
【0012】
このように本発明では、収容箱を二室に分けると共にバタフライ弁を組み込んで、このバタフライ弁に流量調整機能を持たせることで、上記従来例のものと比較して格段に小型化でき、しかも、収容箱で蒸着材料の気化量または昇華量を安定させた上で真空チャンバへと放出することができる。また、受圧部に押圧力を加える押圧ロッド以外の駆動ユニットの部品を収容箱外に配置し、押圧ロッドの進退動作(例えば、直動動作)だけでバタフライ弁の姿勢を変更できる構成を採用したため、動作不良を起こし難い構造になる。しかも、ベローズ管を用いれば、収容箱内で気化または昇華した蒸着材料が収容箱外へと漏洩することを防止することができる。このとき、押圧ロッドやベローズ管も加熱されることで、気化または昇華した蒸着材料がその表面に付着したとしても、固体に戻ることがなく、再度、気化または昇華していくため、押圧ロッドやベローズ管の動作安定性も確保される。
【0013】
ところで、バタフライ弁の閉じ姿勢で収容箱をその周囲に設けた加熱手段により加熱すると、バタフライ弁の弁板部や弁軸部もまた加熱されて熱膨張する。このため、例えば、弁板部の面積や蒸着材料を加熱しようとする温度によっては、弁板部と連通路の内壁面との隙間を比較的大きく設定せざるを得ない場合がある。このような場合、前記バタフライ弁の弁板部の上面及び下面の少なくとも一方に、弁板部の外周縁に沿って起立壁部を設ける構成すれば、所定のコンダクタンス値を確保でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を模式的に示す部分断面図。
図2】(a)は、図1に示す蒸着源の拡大図であり、(b)は、図1のIIb-IIbに沿う断面図。
図3】本発明の作用を確認する実験結果のグラフ。
図4】変形例に係る蒸着源の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)、蒸着材料を昇華性の有機材料Msとし、基板Swの一方の面に所定の有機膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源の実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」といった方向を示す用語は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す図1を基準にする。
【0016】
図1を参照して、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で搬送することができる。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0017】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて、昇華した有機材料Msの基板Swに対する蒸着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜(蒸着)されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミニウムやステンレス等の金属製の他、アルミナ等のセラミックス製、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、基板Swに対向させて本実施形態の蒸着源DSが設けられている。
【0018】
図2(a)及び(b)も参照して、蒸着源DSは、有機材料Msが所定の充填率で充填される箱部41と箱部41の上面開口を着脱自在に塞ぐ蓋板部42とを有する収容箱4と、収容箱4の周囲に配置される加熱手段Htとを備える。加熱手段Htとしては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用でき、また、誘導加熱コイルで構成することができる。収容箱4は、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった熱伝導が良く、高融点の材料(耐熱性を有する)から形成されている。蓋板部42には、上下方向(板厚方向)に貫通する放出部としての放出通路42aが所定のパターンで形成されている。収容箱4内は、仕切部材5で上下二室4a,4bに分離されている。仕切部材5は、例えば、収容箱4と同一の材料製で皿状の輪郭を持つように成形した所定厚さの板材で構成され、その略中央領域には、上下方向(板厚方向)に貫通して、下方に位置する第1室4aと、上方に位置する第2室4bとの連通を許容する平面視円形の連通路51が形成されている。そして、連通路51内には、上下方向(連通路51の長手方向)に対して直交する閉じ姿勢から回動自在なバタフライ弁6が設けられている。
【0019】
バタフライ弁6は、上記仕切部材5と同様、収容箱4と同一の材料製のものであり、連通路51に一致する輪郭(平面視円形)を有して連通路51内に格納される弁板部61と、弁板部61の上面に溶接等により一体に取り付けられる弁軸部62とを備える。弁板部61は、例えば有機材料Msの加熱温度を考慮して、弁板部61と連通路51の内周面との間に所定の隙間Crが形成されるようにその面積が設定され、隙間Crによって第1室4aと第2室4bとの間のコンダクタンスが確定されるようにしている(言い換えると、所定のコンダクタンス値となるように隙間Crの大きさが設定されている)。これにより、第1室4a内に充填した有機材料Msを加熱して昇華させたとき、第2室4bが昇華した有機材料Msの非漏洩状態に維持される(即ち、第1室4aを、昇華した有機材料Msの第2室4bへの少量の漏洩を許容する程度の略密閉空間とする)。
【0020】
中実丸棒の弁軸部62は、弁板部61の中心を通ってその外周縁部から外方向に突出するように定寸されている。この場合、仕切部材5の所定位置には、互いに対峙させて弁軸部62の外周面下側略半分を受け入れる受入れ凹部52a,52bが形成され、これら一対の受入れ凹部52a,52bに弁軸部62の両端を回動自在に係合させてバタフライ弁6が支持される。また、弁軸部62の所定位置には、軸方向に対して直交する方向に突出させて受圧部としての舌片63が設けられている。この場合、舌片63の位置に対応させて箱部41の下面外周縁部には、その下面から仕切部材5の近傍までのびる高さで格納部4cが設けられている。収容箱4の真空チャンバ1への設置状態では、真空チャンバ1の下壁に形成した貫通孔11を通して格納部4cが大気雰囲気に連通している。格納部4c内にはベローズ管71が配置されている。ベローズ管71の下フランジ71aには、図外の真空シールを介して、その開口を閉塞する支持板72が接合され、常時は、支持板72が格納部4cの所定位置に形成される座面41aに着座している。
【0021】
ベローズ管71の上フランジ71bは、図外の真空シールを介して、仕切部材5の下面に密着し、これにより、ベローズ管71内が収容箱4内に連通すると共に大気雰囲気と雰囲気分離される。この場合、真空チャンバ1に形成した貫通孔11には、直動モータなどの駆動部73の駆動軸73aが挿通され、駆動軸73aの直動動作でベローズ管71を上下方向に所定のストローク値で伸縮させることができる。支持板72には、ベローズ管71の伸縮に伴って上下動(進退)するように押圧ロッド74が立設されている。押圧ロッド74の上端は、上フランジ71bから、仕切部材5の所定位置に形成した透孔53を通って収容箱4内に突出し、常時は、舌片63の下面に当接している。そして、押圧ロッド74により舌片63に押圧力を加えると、弁軸部62がその軸線回りに回転されて、バタフライ弁6が閉じ姿勢から、例えば、上下方向に対して略直交する開き姿勢まで回動される。このとき、押圧ロッド74の突出高さ(即ち、ストローク値)を適宜調整すれば、バタフライ弁6の上下方向に対する傾きを変化させることができる。本実施形態では、ベローズ管71、駆動部73や押圧ロッド74といった部品が駆動ユニット7を構成する。
【0022】
以上の蒸着源DSを備える真空蒸着装置Dmにより基板Swにマスクプレート3越しに成膜する場合、収容箱4内の第1室4aに例えば粉末状の有機材料Msを所定の充填率で充填した後、駆動ユニット7によりバタフライ弁6を開き姿勢とした状態で真空チャンバ1内を図外の真空ポンプで真空排気する。このとき、収容箱4内は放出通路42aを介して真空チャンバ1内に連通しているため、収容箱4内もまた、真空チャンバ1内と同等の圧力に真空排気される。真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気されると、駆動ユニット7の駆動軸73aを下動させてバタフライ弁6を閉じ姿勢とし、収容箱4をその周囲に設けた加熱手段Htにより加熱する。すると、収容箱4の壁面からの伝熱や輻射熱で(バタフライ弁6からの輻射熱も加わって)有機材料Msが加熱されて昇華を開始する。
【0023】
有機材料Msの昇華が進むと、第1室4a内の圧力は第2室4bより次第に高くなるが、隙間Crにより第1室4aと第2室4bとの間のコンダクタンス値が所定値に設定されるため、昇華した有機材料Msの第2室4bへの非漏洩状態に維持できる(言い換えると、第1室4a内を略密閉空間にできる)。これにより、容積が小さくなった略密閉の第1室4a内にて有機材料Msをその蒸気圧曲線に従って昇華させることで速やかにその昇華量を安定させることができる。この場合、第2室4bへと漏洩した有機材料Msの一部が放出通路42aを通って真空チャンバ1に放出される場合があるため、成膜開始当初は、公知の構造を持つシャッタ(図示せず)を設けて基板Swへの成膜(蒸着)を防止するようにしてもよいが、このとき無駄になる有機材料Msは従来のものと比較して格段に少なくできる。
【0024】
第1室4a内での昇華量が安定すると、再度、駆動ユニット7によりバタフライ弁6の開き姿勢にする。これにより、第1室4a内の昇華した有機材料Msが連通路51を通って第2室4bへと導入され、第2室4bで拡散された後、第2室4bと真空チャンバ1内との間の圧力差で放出通路42aを通って真空チャンバ1に放出され、基板Swにマスクプレート3越しに有機材料Msからなる有機膜が成膜(蒸着)される。このとき、押圧ロッド74のストローク値を適宜調整してバタフライ弁6の弁軸部62回りの回転角を制御すれば、成膜レートを調整することができる。
【0025】
以上の効果を確認するため、上記真空蒸着装置Dmを用いて次の実験を行った。即ち、有機材料Msをα-NPDとし、バタフライ弁6を閉じ姿勢とした状態で、真空雰囲気の真空チャンバ1内で加熱手段Htにより一定の熱量を加えて有機材料Msを充填した収容箱4を加熱した。そして、所定時間経過後に、閉じ姿勢と、最大ストローク値で押圧ロッド74を上動させたときの開き姿勢とにバタフライ弁6の姿勢を交互に変えて基板Swに成膜し、そのときの成膜レートを真空チャンバ1内に配置した水晶振動式の膜厚モニタ(図示せず)を測定した。これによれば、図3に示すように、バタフライ弁6の姿勢変更に応じて成膜レートが変動し、成膜レートが最大となる場合におけるバタフライ弁6の開き姿勢のときに比べて、その閉じ姿勢では5%以下まで成膜レートを低下できることが確認された。
【0026】
以上の実施形態によれば、収容箱4を上下二室4a,4bに分けると共にバタフライ弁6を組み込んでこのバタフライ弁6に流量調整機能を持たせることで、上記従来例のものと比較して格段に小型化でき、しかも、収容箱4で有機材料Msの昇華量を安定させた上で、放出通路42aから真空チャンバ1へと放出することができる。また、受圧部としての舌片63に押圧力を加える押圧ロッド74以外の駆動ユニット7の部品を収容箱4外に配置し、押圧ロッド74の直動動作だけでバタフライ弁6を姿勢変更させる構成を採用し、また、弁軸部62の両端を一対の受入れ凹部52a,52bに係合させてバタフライ弁6を支持しているだけであるため、収容箱4が加熱されたときでも動作不良を起こし難い構造にできる。更に、ベローズ管71を用いているため、収容箱4内で昇華した有機材料Msが収容箱4外へと漏洩することを防止することができ、押圧ロッド74やベローズ管71も加熱されることで、昇華した有機材料Msがその表面に付着したとしても、固体に戻ることがなく、再度、昇華していくため、押圧ロッド74やベローズ管71の動作安定性も確保される。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、ベローズ管71、駆動部73や押圧ロッド74といった部品で駆動ユニット7を構成したものを例に説明したが、動作安定性が確保されるのであれば、これに限定されるものではなく、他の公知の手段を組み合わせて構成することができる。また、上記実施形態では、舌片63に当接する押圧ロッド74で押圧力を加えるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、押圧ロッド74の上端を例えばクランク機構を介して連結するようにしてもよい。
【0028】
ところで、バタフライ弁6の閉じ姿勢で収容箱4を加熱手段Htにより加熱すると、バタフライ弁6の弁板部61や弁軸部62もまた加熱されて熱膨張するため、例えば、弁板部61の面積や有機材料Msの加熱温度によっては、隙間Crを比較的大きく設定せざるを得ない場合がある。このような場合、同一の部材、要素に同一の符号を付した図4に示す変形例のように、弁板部61の外周縁に沿って、所定高さの起立壁部64a,64bを設けて所定のコンダクタンス値を確保するようにしてもよい。本変形例では、駆動ユニット7によって弁板部61が回動される方向に対応させて、弁板部61の上面外周縁部に、略半円に亘る範囲に第1の起立壁部64aが、また、弁板部61の下面外周縁部に、残りの略半円に亘る範囲に第2の起立壁部64bが夫々形成され、弁板部61の回動動作が阻害されないようにしている。
【符号の説明】
【0029】
DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm…真空蒸着装置、Ms…有機材料(蒸着材料)、Sw…基板(被蒸着物)、1…真空チャンバ、4…収容箱、4a…第1室、4b…第2室、42a…放出通路(放出部)、5…仕切部材、51…連通路、6…バタフライ弁、Cr…隙間、61…弁板部、62…弁軸部、63…舌片(受圧部)、64a,64b…起立壁部、7…駆動ユニット、71…ベローズ管、73…駆動部、74…押圧ロッド。
図1
図2
図3
図4