(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140270
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】導電性ペースト組成物
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20230927BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230927BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20230927BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230927BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230927BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
C09D5/24
C09D7/20
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188645
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2022046123
(32)【優先日】2022-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】松村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】大和田 夏美
(72)【発明者】
【氏名】野中 康信
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
【テーマコード(参考)】
4J038
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
4J038HA066
4J038HA296
4J038KA06
4J038MA03
4J038NA20
5E001AB03
5E001AC09
5E001AH01
5E001AJ01
5E082AB03
5E082BC38
5E082BC39
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082PP03
5E082PP09
5G301DA10
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】シートアタックを生じにくく、かつ、多様な印刷方法に適用可能な低い粘度を有する、導電性ペースト組成物を提供する。
【解決手段】導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、第一溶剤および第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成され、第三溶剤は、β-ケトエステル系溶剤、2-エチルヘキシルアセテート、フルフリルアセテート、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、リナリルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)から選択される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成され、
前記第三溶剤は、β-ケトエステル系溶剤、2-エチルヘキシルアセテート、フルフリルアセテート、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、リナリルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)から選択される少なくとも1種である、
導電性ペースト組成物。
【請求項2】
導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、
前記有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成され、
前記第三溶剤は、β-ケトエステル系溶剤、2-エチルヘキシルアセテート、フルフリルアセテート、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、リナリルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)から選択される少なくとも1種である、
導電性ペースト組成物。
【請求項3】
前記β-ケトエステル系溶剤は、25℃で液体であり、1013hPaにおける沸点が100℃以上270℃以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項4】
前記β-ケトエステル系溶剤は、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、イソプロピルアセトアセテート、アリルアセトアセテート、n-ブチルアセトアセテート、イソブチルアセトアセテート、sec-ブチルアセトアセテート、tert-ブチルアセトアセテート、アミルアセトアセテート、イソアミルアセトアセテート、n-ヘキシルアセトアセテート、n-オクチルアセトアセテート、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチル、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソヘプタン酸メチル、3-オキソヘプタン酸エチルから選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項5】
前記β-ケトエステル系溶剤は、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチルから選択される1種である、請求項4に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項6】
前記混合溶剤は、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有する、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項7】
前記導電性粉末は、ニッケル、銅、金、銀、白金、パラジウム、またはそれらの合金から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項8】
前記導電性粉末の平均粒径は、0.05μm以上0.5μm以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項9】
前記導電性粉末の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して30質量%以上70質量%以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項10】
前記バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して1質量%以上5質量%以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項11】
前記セラミック粉末はチタン酸バリウムである、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項12】
前記セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項13】
前記セラミック粉末の含有量は、前記導電性粉末100質量部に対して3質量部以上25質量部以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項14】
前記分散剤の含有量は、前記導電性粉末100質量部に対して0.01質量部以上2.0質量部以下である、請求項2に記載の導電性ペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、たとえば積層セラミックコンデンサを構成する内部電極を形成するために使用される導電性ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の軽薄短小化に伴い、チップ部品である積層セラミックコンデンサ(Multilayered Ceramic Capacitor、以下「MLCC」という)についても小型化、高容量化、および高性能化が望まれている。これらを実現するための最も効果的な手段は、内部電極層と誘電体層を薄くして多層化を図ることである。
【0003】
MLCCは、一般に次のように製造される。まず誘電体層を形成するために、主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体セラミック粉末、および、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂あるいはアクリル系樹脂からなるバインダー樹脂を用いて誘電体グリーンシートを形成する。誘電体グリーンシートの表面上に、導電性粉末をバインダー樹脂および有機溶剤を含む有機ビヒクルに分散させた導電性ペースト組成物を所定のパターンで印刷し、有機溶剤を除去するための乾燥を施し、内部電極層となる乾燥膜を形成する。乾燥膜が形成された誘電体グリーンシートを多層に積み重ねた状態で加熱圧着して一体化した後に、切断してチップを得て、該チップに対して、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて500℃以下で脱バインダー処理を行う。その後、内部電極層が酸化しないように、還元雰囲気中にて1300℃程度で、脱バインダー処理後のチップの加熱焼成を行い、内部電極層と誘電体層とを一体化させて、焼成チップを得る。最後に、焼成チップに対して、外部電極用ペーストを塗布および焼成した後、得られた外部電極上にニッケルメッキなどを施すことにより、MLCCが完成する。
【0004】
上記焼成工程における、チタン酸バリウムなどの誘電体セラミック粉末が焼結および収縮し始める温度は、1200℃程度であり、ニッケルなどの導電性粉末が焼結および収縮し始める温度である400℃~500℃とは、大きく乖離している。このため、デラミネーション(層間剥離)やクラックなどの構造欠陥が発生しやすい。特に、小型化および高容量化に伴って、積層数が多くなるほど、あるいは、セラミック誘電体層の厚みが薄くなるほど、構造欠陥の発生が顕著となっている。
【0005】
その対策として、通常、内部電極用の導電性ペースト組成物には、少なくとも誘電体層の焼結および収縮を開始する温度付近まで、内部電極層の焼結および収縮を制御するために、誘電体層を構成する誘電体セラミックの組成に類似したチタン酸バリウム系あるいはジルコン酸ストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物を主成分とするセラミック粉末が添加されている。導電性ペーストへのセラミック粉末の添加は、誘電体層の主成分の構成元素と電極ペーストに含まれる誘電体粉末の構成元素とが大きく異なる場合に生じる構造欠陥に起因する誘電損失の増大などの電気特性の低下を抑制する、すなわち、ニッケル粉末などの導電性粉末の焼結挙動を制御し、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動のミスマッチを補償することを企図している。
【0006】
内部電極用の導電性ペースト組成物は、一般的には、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解して得られる有機ビヒクル中に、導電性粉末、セラミック粉末、および分散剤を分散させて、その粘度を有機溶剤によって調整することにより得られる。この有機ビヒクルを構成するバインダー樹脂には、一般にエチルセルロースなどが使用されており、その有機溶剤には、ターピネオールなどが使用されてきている(特開2018-168238号公報参照)。
【0007】
しかしながら、ターピネオールはブチラール樹脂やアクリル系樹脂に対する溶解性が高いことから、導電性ペーストの塗工により内部電極層を形成する際に、誘電体グリーンシートが導電性ペースト中の溶剤で侵食され、誘電体層が不均一になる、いわゆるシートアタックが生ずる可能性がある。このため、シートアタックを防ぐための溶剤組成が検討されている(国際公開WO2014/073530号公報)。
【0008】
また、内部電極用に限らず導電性ペーストは、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの多様な印刷方法で塗工される可能性がある。したがって、導電性ペースト組成物には、それぞれの印刷方法に適したレオロジー特性が必要とされる。たとえば、国際公開WO2014/073530号公報や特開2018-107089号公報では、グラビア印刷用のレオロジー特性に適した導電性ペースト組成物の組成が、特開2017-084588号公報では、インクジェット印刷用のレオロジー特性に適した組成が、国際公開WO2014/104053号公報では、スクリーン印刷用のレオロジー特性に適した組成が、それぞれ検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-168238号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/073530号公報
【特許文献3】特開2018-107089号公報
【特許文献4】特開2017-084588号公報
【特許文献5】国際公開WO2014/104053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、内部電極用の導電性ペースト組成物には、誘電体グリーンシート上に内部電極層を形成する際に、シートアタックが生じにくいこと、並びに、多様な印刷方法、特に高速であるグラビア印刷に適したレオロジー特性を有することが要求されている。この2つの特性を同時に具備するという点では、上述した従来の導電性ペースト組成物にはいまだ改善の余地がある。
【0011】
すなわち、本開示の目的は、シートアタックを生じさせにくく、かつ、多様な印刷方法に適したレオロジー特性を備えた、すなわち、多様な印刷方法に適切な、特にグラビア印刷において好適な低い粘度を有する、導電性ペースト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様の導電性ペースト組成物は、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む。あるいは、本開示の一態様の導電性ペースト組成物は、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む。
【0013】
特に、本開示の一態様の導電性ペースト組成物では、前記有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成される。
【0014】
前記第三溶剤は、β-ケトエステル系溶剤、2-エチルヘキシルアセテート、フルフリルアセテート、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、リナリルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)から選択される少なくとも1種である。
【0015】
前記β-ケトエステル系溶剤は、25℃で液体であり、1013hPaにおける沸点が100℃以上270℃以下であることが好ましい。
【0016】
前記β-ケトエステル系溶剤は、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、イソプロピルアセトアセテート、アリルアセトアセテート、n-ブチルアセトアセテート、イソブチルアセトアセテート、sec-ブチルアセトアセテート、tert-ブチルアセトアセテート、アミルアセトアセテート、イソアミルアセトアセテート、n-ヘキシルアセトアセテート、n-オクチルアセトアセテート、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチル、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソヘプタン酸メチル、3-オキソヘプタン酸エチルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
前記β-ケトエステル系溶剤は、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチルから選択される1種であることがより好ましい。
【0018】
前記混合溶剤は、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有することが好ましい。
【0019】
前記導電性粉末は、ニッケル、銅、金、銀、白金、パラジウム、またはそれらの合金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
前記導電性粉末の平均粒径は、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0021】
前記導電性粉末の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0022】
前記バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0023】
前記セラミック粉末はチタン酸バリウムであることが好ましい。
【0024】
前記セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0025】
前記セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して3質量部以上25質量部以下であることが好ましい。
【0026】
本開示の導電性ペースト組成物において、前記分散剤を含む場合、前記分散剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して0.01質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本開示の一態様の導電性ペースト組成物は、シートアタックを生じにくく、かつ、多様な印刷方法に適用可能なレオロジー特性、すなわち、多様な印刷方法に適切な、特にグラビア印刷において好適な低い粘度を具備する。このため、本開示の一態様の導電性ペーストは、多様な印刷方法により形成されるMLCCの内部電極用の導電性ペーストとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.導電性ペースト組成物
本開示の一実施態様の一例における導電性ペースト組成物は、導電性粉末、誘電体セラミック粉末、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む。より具体的には、導電性ペースト組成物は、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した有機ビヒクル中に、導電性粉末および誘電体セラミック粉末を分散させたペーストにより構成される。
【0029】
(1)導電性粉末
本例において、導電性ペーストを構成する導電性粉末としては、その種類が特に制限されることはない。積層セラミックコンデンサ(MLCC)などの積層部品の内部電極用としては、たとえば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの金属粉末、あるいは、これらの合金を用いることができる。特に、高容量化を目的として電極の積層数を多くした高積層のMLCCの内部電極用としては、これらの中でもコスト的に有利な、ニッケルや銅を用いることが好ましい。
【0030】
導電性粉末の粒径は、特に制限されないが、高積層、高容量化のMLCCの内部電極用の導電性粉末の場合、その平均粒径は、0.05μm以上0.5μm以下の範囲にあることが好ましい。導電性粉末の平均粒径は、たとえば、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)により得た倍率10,000倍の観察画像から、無作為に選択した200個以上の導電性粉末の最大径を測定し、これらの最大径の算術平均値として定義される。導電性粉末の平均粒径が0.5μmを超えると、MLCCの薄層化が図れなくなる。導電性粉末の平均粒径が0.05μmを下回ると、導電性粉末の表面活性が高くなりすぎて、導電性ペースト組成物において適正な粘度特性が得られない、導電性ペーストの長期保存中に変質する可能性があるといった問題が生ずる場合がある。
【0031】
導電性ペースト組成物中における導電性粉末の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。導電性粉末の含有量が30質量%未満では、焼成時における内部電極層の形成能力が低くなってしまい、MLCCが所定のコンデンサ容量を得ることが困難となる。導電性粉末の含有量が70質量%を超えると、内部電極膜の薄層化が困難となる。導電性粉末の含有量は、導電性ペースト組成物全量に対して40質量%以上60質量%以下とすることがより好ましい。
【0032】
(2)セラミック粉末
導電性ペーストに焼結抑制剤としてセラミック粉末を添加する場合、通常、チタン酸バリウム(BaTiO3)などのペロブスカイト型酸化物や、ペロブスカイト型酸化物に種々の添加物を添加したものから選択することができる。また、セラミック粉末は、MLCC用の誘電体層グリーンシートの主成分として使用されるセラミック粉末と同じ組成、あるいは類似の組成を有していることが好ましい。セラミック粉末としては、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など種々の製法により製造されたセラミック粉末を使用することができる。また、必要に応じて、セラミック粉末は、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの装置により分散および粉砕処理を施したセラミックスラリーの形態で、導電性ペーストに添加することも可能である。
【0033】
セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下の範囲にあることが好ましい。セラミック粉末の平均粒径が0.2μmを超えると内部電極層(乾燥膜)の密度が低下する。内部電極層では、導電性粉末を構成する略球状の粒子が積み重なって形成された構造の隙間に、セラミック粉末が充填される。セラミック粉末の平均粒径が0.2μmを超えると、導電性粉末を構成する略球状の粒子の接触点間に入り込みにくくなるために、所望の内部電極層の密度を得ることが困難となり、さらに、導電性ペーストにより形成された内部電極層の焼結開始温度を、誘電体層の焼結開始温度まで遅延する効果が弱くなる。
【0034】
セラミック粉末の平均粒径が0.01μmを下回ると、導電性ペーストにより形成された内部電極層の焼結遅延効果を得ることが困難となり、MLCCなどの積層部品におけるデラミネーションやクラックなどの構造欠陥が生じる可能性がある。さらに、内部電極層の密度の低下や、セラミック粉末が凝集粉末を構成することを起因として誘電体層の薄層化が困難になるといった、コンデンサの信頼性(絶縁抵抗の低下やショート率の上昇など)が損なわれる可能性がある。
【0035】
本例において、セラミック粉末の平均粒径は、導電性粉末と同様に、特に断らない限り走査電子顕微鏡(FE-SEM)により得た倍率10,000倍の観察画像から、無作為に選択した200個以上の導電性粉末の最大径を測定し、これらの最大径の算術平均値として定義される。
【0036】
セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して3質量部以上25質量部以下であることが望ましい。セラミック粉末の含有量が3質量部未満では、たとえば、ニッケル粉末などの導電性粉末の焼結が制御できず、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動のミスマッチが顕著になり、MLCCなどの積層部品におけるデラミネーションやクラックなどの構造欠陥が生じる可能性がある。セラミック粉末の含有量が25質量部を超えると、たとえば、内部電極層から誘電体層中のセラミック粒子との焼結により誘電体層の厚みが膨張し、組成のずれが生じるため、誘電率の低下などの電気特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0037】
(3)バインダー樹脂
バインダー樹脂は、有機溶媒とともに、有機ビヒクルを構成する。より具体的には、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解することにより有機ビヒクルを調製し、この有機ビヒクル中に、導電性粉末および誘電体セラミック粉末を分散させることにより、導電性ペースト組成物が得られる。
【0038】
バインダー樹脂としては、導電性ペースト組成物に良好な粘性や塗膜形成能(誘電体グリーンシートに対する付着性)を付与できるものであれば、導電性ペースト組成物に適用可能なバインダー樹脂を、特に制限することなく使用することができる。たとえば、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、ロジン系樹脂などを主体とするものが挙げられる。セルロース系樹脂としては、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられる。アセタール系樹脂としては、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。アクリル系樹脂としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。これらのうち、溶剤への溶解性、燃焼分解性などの観点から、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルブチラールを用いることが好ましい。
【0039】
バインダー樹脂の含有量は、特に限定されないが、有機ビヒクル中において1質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。バインダー樹脂の含有量をこの範囲とすることで、適正な粘度の有機ビヒクルが作製することが可能となる。バインダー樹脂の含有量は、有機ビヒクル中において5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。また、バインダー樹脂の導電性ペースト組成物全量に対する含有量は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。1質量%未満だと、内部電極層の強度が低下したり、積層時に導電性ペーストの電極パターン部と誘電体シートとの密着性が悪くなり剥がれやすくなったりする。一方、5質量%を超えると樹脂の含有量が多くなることによる脱バインダー性の悪化があり、好ましくない。
【0040】
(4)有機溶剤
有機溶剤は、バインダー樹脂とともに有機ビヒクルを構成する。有機溶剤は、導電性粉末、セラミック粉末、およびバインダー樹脂を分散させて、導電性ペースト組成物の粘度を適切な範囲に調節し、所定のパターンで印刷できるようにする機能を有する。有機溶剤は、内部電極層(乾燥膜)を形成する過程で除去される。
【0041】
本例の導電性ペースト組成物においては、有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、第一溶剤および第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成される。本例の有機溶剤は、有機ビヒクル中におけるバインダー樹脂の溶解性が高く、かつ、導電性ペースト組成物の経時粘度変化を起こさない。したがって、導電性ペースト組成物において、塗工の際にシートアタックを生じにくく、かつ、多様な印刷方法に適用可能なレオロジー特性、すなわち、十分に低くかつ適切な粘度を実現することが可能となる。
【0042】
第一溶剤は、バインダー樹脂に対して良溶媒であり、たとえば、テルペン系溶剤を挙げることができる。テルペン系溶剤としては、たとえば、ターピネオールおよびジヒドロターピネオールからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。ジヒドロターピネオールを用いることがより好ましい。ジヒドロターピネオールは、ターピネオールを水素化したもので、酸化などの反応がしにくく、ターピネオールよりも安定している。
【0043】
第二溶剤は、バインダー樹脂に対して貧溶媒であり、たとえば、石油系炭化水素を挙げることができる。石油系炭化水素からなる溶剤としては、ガソリン、灯油、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、およびミネラルスピリットを挙げることができる。これらのうち、ミネラルスピリットを用いることが好ましい。ミネラルスピリットには、ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペンなどがある。より具体的には、LAWS(Low Aromatic White Spirit(低芳香族ホワイトスピリット))およびHAWS(High Aromatic White Spirit(高芳香族ホワイトスピリット))がある。
【0044】
第三溶剤は、バインダー樹脂の溶解性を高めて、導電性ペースト組成物を多様な印刷方法に適切な、特にグラビア印刷において好適な低い粘度とするために添加される。本例の導電性ペースト組成物では、第三溶剤として、β-ケトエステル系溶剤、その他のエーテルやアセテートなどが用いられる。特に、β-ケトエステル系溶剤は、導電性ペースト組成物において、内部電極層を形成する際にシートアタックを発生しにくくする観点と、適切かつ低い粘度とする観点との両立を図ることを可能とする点で、第三溶剤として好ましい。
【0045】
β-ケトエステル系溶剤は、具体的には、次の式1に示す構造式の構造を備える。
R-CO-CH2-CO-O-R’・・・(式1)
ただし、RがCH3-のときは、R’は-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH2CH2CH2CH3、-CH2CH(CH3)2、-CH(CH3)CH2CH3、-C(CH3)3、-CH2CH2CH2CH2CH3、-CH2CH2CH(CH3)2、-CH2CH2CH2CH2CH2CH3、または-CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3であり、RがCH3CH2-のときは、R’は-CH3、または-CH2CH3であり、RがCH3CH2CH2-のときは、R’が-CH3または-CH2CH3である。
【0046】
β-ケトエステル系溶剤としては、常温(25℃)で液体であり、常圧(1013hPa)における沸点が100℃以上270℃以下であるものを用いることが好ましい。このようなβ-ケトエステル系溶剤としては、たとえば、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、イソプロピルアセトアセテート、アリルアセトアセテート、n-ブチルアセトアセテート、イソブチルアセトアセテート、sec-ブチルアセトアセテート、tert-ブチルアセトアセテート、アミルアセトアセテート、イソアミルアセトアセテート、n-ヘキシルアセトアセテート、n-オクチルアセトアセテート、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチル、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソヘプタン酸メチル、3-オキソヘプタン酸エチルが挙げられる。
【0047】
前記β-ケトエステル系溶剤の中では、3-オキソヘキサン酸メチル、3-オキソヘキサン酸エチル、3-オキソペンタン酸メチル、3-オキソペンタン酸エチルを用いることが好ましい。
【0048】
本例において、第三溶剤として適用可能なその他のエーテルやアセテートとしては、2-エチルヘキシルアセテート、フルフリルアセテート、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、リナリルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)などを挙げることができる。より好ましくは、1,6-ヘキサンジオールアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(BCA)、プロピレングリコールブチルエーテル(PNB)などをあげることができる。
【0049】
本例の導電性ペースト組成物において、混合溶剤中におけるそれぞれの有機溶剤の配合量は、第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および第三溶剤を0を超えて50質量%以下とすることが好ましい。第一溶剤を45質量%以上55質量%以下、第二溶剤を10質量%以上30質量%以下、および第三溶剤を5質量%以上30質量%以下とすることがより好ましく、この場合、第三溶剤を5質量%以上26質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0050】
有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、導電性ペースト組成物の全量に対する導電性粉末の含有量が30質量%以上70質量%以下となるように設定することが好ましく、30質量%以上60質量%以上となるように設定することがより好ましく、35質量%以上55質量%以上となるように設定することがさらに好ましい。また、有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、40質量部以上100質量部以下であることが好ましく、65質量部以上95質量部以下であることがより好ましい。有機溶剤の含有量が上記の範囲にある場合、導電性および分散性に優れ、かつ、多様な印刷方法に適用可能な低い粘度を有する導電性ペースト組成物が得られる。
【0051】
(5)分散剤
本例の導電性ペースト組成物においては、分散剤は任意の成分である。分散剤をさらに添加する場合、分散剤は、前記有機ビヒクル中に、導電性粉末および誘電体セラミック粉末とともに添加する。分散剤は、導電ペースト組成物中の導電性粉末の分散状態を維持させ、かつ、導電性ペースト組成物の経時的な粘度変化を抑制する機能を有する。本例の導電性ペースト組成物では、分散剤の種類は、特に限定されることはない。たとえば、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤、高分子系分散剤などを使用することができる。これらの中では、アニオン系分散剤を用いることが好ましい。アニオン系分散剤としては、カルボン酸系分散剤、燐酸系分散剤、燐酸塩系分散剤などを挙げることができる。これらの分散剤は1種または2種以上組み合わせて用いることもできる。アニオン系分散剤は、導電性粉末の表面への吸着力が大きいため、その表面改質作用により無機成分の分散性を上げるのに寄与するので、塗膜の平滑性や内部電極層の密度を向上させる機能も有する。
【0052】
分散剤の平均分子量は、200以上20000以下であることが好ましい。より好ましくは、分散剤の平均分子量は、300以上10000以下である。分散剤の平均分子量が200より小さいと、導電性粉末を構成する粒子が十分な静電反発力が得られず、導電性粉末の分散性や導電性ペースト組成物の保存安定性が低下する場合がある。通常、分散剤が粒子表面に吸着して分散剤の吸着層を形成し、静電反発力や立体的反発力を粒子に付与することで、分散性に優れた導電性ペースト組成物が得られる。しかしながら、時間の経過とともに粒子同士の衝突により、吸着層の反発力より勝って粒子同士が凝集すると考えられる。このため、この点を考慮すると、分散剤の平均分子量は200以上であることが好ましい。分散剤の平均分子量が20000を超えると、バインダー樹脂および有機溶剤との相溶性が低下したり、粒子同士の凝集を招いたりして、導電性粉末の分散性や導電性ペースト組成物の保存安定性の低下を引き起こす場合がある。また、導電性ペースト組成物の粘度が高くなるという問題も生じてしまう。
【0053】
分散剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して0.01質量部以上2.0質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上1.0質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が導電性粉末100質量部に対して0.01質量部未満では、十分な分散性が得にくくなる傾向がある。一方、2.0質量部を超えると、乾燥性が悪くなる、内部電極層の密度が低下するなどの問題が生じる可能性がある。
【0054】
(6)その他添加剤
本例における導電性ペースト組成物には、粘度調整や適度な粘性などを付与するために、目的に応じて、上述した有機溶剤やバインダー樹脂とは異なる、有機溶剤やバインダー樹脂を追加的に添加することもできる。この追加の有機溶剤やバインダー樹脂としては、基本的には導電性ペースト組成物に適用可能な公知の構成を有する有機溶剤やバインダー樹脂を用いることが好ましい。この場合、導電性ペースト組成物における有機溶剤やバインダー樹脂の含有量の範囲内で追加されることが好ましい。さらに、必要に応じて、消泡剤、可塑剤、増粘剤、キレート剤など導電性ペースト組成物に適用可能な公知の添加物を追加することもできる。
【0055】
(7)粘度
本例の導電性ペースト組成物は、25℃でのずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、1.5Pa・s未満である。ずり速度100sec-1における粘度は、1.4Pa・s未満であることが好ましく、1.2Pa・s未満であることがより好ましく、1.0Pa・s未満であることがさらに好ましい。ずり速度100sec-1における粘度が1.5Pa・s未満である場合、導電性ペースト組成物を多様な印刷方法に適用することが可能となり、特に、ずり速度100sec-1における粘度が1.4Pa・s未満である場合、グラビア印刷用などの高速の印刷方法に好適に用いることができる。ずり速度100sec-1における粘度の下限値は、特に限定されないが、多様な印刷方法に適用可能とする観点からは、0.1Pa・s以上とすることが好ましく、0.6Pa・s以上とすることがより好ましい。
【0056】
本例の導電性ペースト組成物は、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.26Pa・s未満であることが好ましく、0.24Pa・s未満であることがより好ましい。ずり速度10000sec-1における粘度が上記範囲にある場合、導電性ペースト組成物を多様な印刷方法に適用することが可能となり、特にグラビア印刷用などの高速の印刷方法に好適に用いることができる。ずり速度10000sec-1における粘度の下限値は、特に限定されないが、多様な印刷方法に適用可能とする観点からは、0.05Pa・s以上とすることが好ましい。
【0057】
本例の導電性ペースト組成物は、25℃でのずり速度(せん断速度)0.025sec-1における粘度が、30Pa・s以上350Pa・s未満であることが好ましく、40Pa・s以上250Pa・s未満であることがより好ましく、50Pa・s以上150Pa・s未満であることがさらに好ましい。ずり速度0.025sec-1における粘度が30Pa・s以上である場合、導電性ペースト組成物を多様な印刷方法において、導電性ペースト組成物の流動が停止した後に、そのダレを防止することが可能となる。
【0058】
導電性ペースト組成物の粘度は、たとえば、レオメーターなどの粘度計により測定することができる。
【0059】
(8)バインダー樹脂の吸着量
本例の導電性ペースト組成物において、導電性粉末および/またはセラミック粉末に吸着するバインダー樹脂の吸着量は、特に限定されないが、バインダー樹脂の含有量に対して30%以上85%以下とすることが好ましい。グラビア印刷などの印刷方法に導電性ペースト組成物を適用する場合に、導電性ペースト組成物には、低い粘度とともに、高いシェアシニング性を備えることも要求される。バインダー樹脂の吸着量をこの範囲とすることにより、導電性ペースト組成物に対して、高いシェアシニング性を付与することが可能となる。高いシェアシニング性とは、導電性ペースト組成物が、高いせん断速度、たとえば、25℃でのずり速度(せん断速度)10000sec-1、並びに、中程度のせん断速度、たとえば、25℃でのずり速度100sec-1では、多様な印刷方法に適した低い粘度となるが、低いせん断速度、たとえば、25℃でのずり速度(せん断速度)0.025sec-1では、十分に高い粘度となることを意味する。バインダー樹脂の吸着量がこの範囲にある場合、低いせん断速度域においては、導電性ペースト組成物中の導電性粉末、セラミック粉末、およびバインダー樹脂から構成されるネットワーク構造が十分に形成され、一方で、せん断速度が増加することにより、このネットワーク構造が崩壊して、導電性ペースト組成物の粘度が十分に低下することになると考えられる。
【0060】
バインダー樹脂の吸着量は、導電性ペースト組成物を遠心分離機で処理し、得られた上澄み液中に含まれる未吸着のバインダー樹脂について、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて定量分析することにより、測定することができる。
【0061】
バインダー樹脂の吸着量の調整は、たとえば、バインダー樹脂の含有量(仕込み量)に応じて、有機溶媒の種類、組成などを変更することにより、行うことができる。
【0062】
(9)導電性ペースト組成物の製造方法
本例の導電性ペースト組成物は、第一溶剤、第二溶剤、および第三溶剤の配合量が適切な範囲となるように有機溶剤を調製し、バインダー樹脂と有機溶剤とを混合して有機ビヒクルを得て、導電性粉末およびセラミック粉末、あるいは、導電性粉末、セラミック粉末、および分散剤を、3本ロールミル、ボールミル、ミキサーなどの公知の手段を用いて、撹拌および混合して、有機ビヒクルに分散させることにより、製造することができる。この際、予め、導電性粉末の表面に分散剤を塗布すると、導電性粉末の凝集が抑制されて、均一な導電性ペースト組成物が得やすくなる。
【0063】
なお、バインダー樹脂は、有機溶剤の一部に溶解させた状態で、残りの有機溶剤に、導電性粉末およびセラミック粉末、あるいは、導電性粉末、セラミック粉末、および分散剤とともに添加することができる。
【0064】
(10)用途
本例の導電性ペースト組成物は、MLCCなどの電子部品に好適に用いることができる。MLCCは、誘電体グリーンシートにより形成される誘電体層と、導電性ペースト組成物により形成される内部電極層とを有する。このMLCCにおいて、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と、導電性ペースト組成物に含まれるセラミック粉末とは同一の粉末であることが好ましい。
【0065】
本例の導電性ペースト組成物を用いて製造される積層セラミックデバイスは、分散安定性が向上し、導電性粉末とセラミック粉末との分離が十分に抑制されているため、誘電体グリーンシートの厚さが、たとえば3μm以下である場合でも、導電性ペースト組成物中の有機溶剤(混合溶剤)が誘電体グリーンシート中のバインダー樹脂を膨潤または溶解させるシートアタックを抑制することができるとともに、多様な印刷方法に適用可能な低い粘度を有する。よって、多様な印刷方法を用いて、シートアタックを生じさせることなく、内部電極層を形成することが可能となる。
【実施例0066】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例および比較例により何ら限定されるものではない。
【0067】
(ペースト粘度)
導電性ペースト組成物の粘度は、レオメーター(アントンパール社製、レオメーターMCR501)を用いて、導電性ペースト組成物の25℃における粘度を測定した。導電性ペースト組成物の25℃におけるずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、0.6Pa・s以上1.4Pa・s未満で、かつ、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.05Pa・s以上0.24Pa・s未満である場合を○(優良)、25℃におけるずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、0.1Pa・s以上1.5Pa・s未満で、かつ、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.05Pa・以上0.26Pa・s未満である場合を△(良)、導電性ペースト組成物の25℃における、ずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、1.5Pa・s以上、および/または、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.26Pa・s以上である場合を×(不可)と評価した。
【0068】
(シートアタック評価)
4μm厚の誘電体グリーンシート上に、導電性ペースト組成物を0.1mL滴下し、熱対流オーブンで80℃、1時間で乾燥した後、誘電体グリーンシートの導電性ペースト組成物を滴下した部分の裏面が侵食されていないかを目視で確認した。侵食がないものを○(優良)、一部侵食があるものを△(良)、侵食が激しくペーストが剥き出しになるものを×(不可)と評価した。
【0069】
(バインダー樹脂の吸着量の測定)
導電性粉末および/またはセラミック粉末に吸着するバインダー樹脂の吸着量は、導電性ペースト組成物を遠心分離機で処理し、得られた上澄み液中に含まれる未吸着のバインダー樹脂について、質量分析計(株式会社島津製作所製、GCMS-QP2010ultra)を接続した、熱分解クロマトグラフ(株式会社島津製作所製、GC-2010plus)および熱分解炉(フロンティアラボ社製、EGA/PY-3030D)の組み合わせからなる熱分解クロマトグラフィー分析システムを用いて、定量分析を行うことにより見積もった。
【0070】
(実施例1)
導電性粉末として平均粒径が0.2μmのニッケル粉末100g、セラミック粉末として平均粒径が0.05μmのチタン酸バリウム粉末25g、および、アニオン系分散剤としてオレオイルザルコシン(平均分子量:353.55)0.1gを準備した。次に、バインダー樹脂であるエチルセルロース1.4gおよびポリビニルブチラール3.9gを、第一溶剤であるジヒドロターピネオール39.2gに溶解して、有機ビヒクルを調製した。この有機ビヒクルに、ニッケル粉末、セラミック粉末、およびオレオイルザルコシンを添加し、予備混練した後、3本ロールミルで混練した。得られたミルベースに,第二溶剤であるミネラルスピリット14.8gと、第三溶剤であり、β-ケトエステル系溶剤の一種であるプロピルアセトアセテート20.0gとを添加し、自公転ミキサーを用いて2000rpm、4分間混練を行い、導電性ペースト組成物を得た。
【0071】
有機溶剤中においける、ジヒドロターピネオール(第一溶剤)、ミネラルスピリット(第二溶剤)、プロピルアセトアセテート(第三溶剤)の質量比は、53/20/27であった。また、ニッケル粉末100質量部に対して、チタン酸バリウム粉末は25質量部、バインダー樹脂は5.3質量部、混合溶剤は74質量部、分散剤は0.1質量部であった。すなわち、導電性ペースト組成物中、ニッケル粉末:49質量%、チタン酸バリウム粉末:12.2質量%、バインダー樹脂2.6質量%、有機溶剤:36.2質量%、アニオン系分散剤:0.05質量%であった。
【0072】
得られた導電性ペースト組成物における、バインダー樹脂の吸着量の仕込みのバインダー樹脂量に対する比率は、40%であった。また、導電性ペースト組成物の25℃におけるずり速度(せん断速度)0.025sec-1における粘度は、50Pa・sであった。
【0073】
得られた導電性ペースト組成物について、ペースト粘度の測定とシートアタック評価試験を行った。第三溶剤の種類および溶剤の混合比について、表1に示し、かつ、ペースト粘度の測定結果およびシートアタックの評価について、表2に示す。
【0074】
(実施例2~22、比較例1~5)
第三溶剤を表1に示した溶剤および混合比に変更したこと以外は、実施例1と同様に導電性ペースト組成物を作製し、そのペースト粘度の測定およびシートアタック評価試験を行った。その結果を、実施例1と同様に表2に示す。
【0075】
(実施例23)
オレオイルザルコシンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に導電性ペースト組成物を作製し、そのペースト粘度の測定およびシートアタック評価試験を行った。その結果を、実施例1と同様に表2に示す。
【0076】
【0077】