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特開2023-140436移動体検出装置、ドップラーレーダシステム、移動体検出プログラム及び移動体検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140436
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】移動体検出装置、ドップラーレーダシステム、移動体検出プログラム及び移動体検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/56 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01S13/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046269
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽太
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD02
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH31
5J070AH40
5J070AK40
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】本開示は、ドップラーレーダを利用して、歩行者又は車両等の移動体を検出するにあたり、降雨の動き又は草木の揺れ等の環境雑音を、歩行者又は車両等の移動体として誤検出することを防止することを目的とする。
【解決手段】本開示は、直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する。そして、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値を算出する。
【選択図】図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドップラーレーダを利用して移動体を検出する移動体検出装置であって、
直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、前記直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する乗算値算出部と、
前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出する差分値算出部と、
前記差分値算出部の処理結果に基づいて、環境雑音によるドップラー信号と比べて、前記移動体によるドップラー信号を強調し、前記移動体を検出する移動体検出部と、
を備えることを特徴とする移動体検出装置。
【請求項2】
ドップラーレーダを利用して移動体を検出する移動体検出装置であって、
直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、前記直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する乗算値算出部と、
前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出する差分値算出部と、
前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との加算値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との加算値の時間平均値を算出する加算値算出部と、
前記加算値算出部の処理結果の絶対値が、前記差分値算出部の処理結果の絶対値と比べて大きいときに、ドップラー信号が環境雑音によるものと判断し、前記移動体を検出せず、前記加算値算出部の処理結果の絶対値が、前記差分値算出部の処理結果の絶対値と比べて小さいときに、ドップラー信号が前記移動体によるものと判断する移動体検出部と、
を備えることを特徴とする移動体検出装置。
【請求項3】
前記差分値算出部は、前記環境雑音の接近と離反との間の変動周期と比べて同程度の移動平均期間にわたり、前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の移動体検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体検出装置と、前記直交検波回路と、レーダ装置と、を備えることを特徴とするドップラーレーダシステム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体検出装置が備える各処理部が行なう各処理ステップをコンピュータに実行させるための移動体検出プログラム。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体検出装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを実行することを特徴とする移動体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドップラーレーダを利用して移動体を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ドップラーレーダを利用して、歩行者又は車両等の移動体を検出する技術が、特許文献1等に開示されている。従来技術の移動体検出処理の原理を図1、2に示す。
【0003】
図1では、歩行者又は車両等の移動体は、ドップラーレーダ装置へと接近している。図1の上段では、直交検波回路が出力したI信号は、検出対象速度(歩行者の場合は約1m/s、車両の場合は約10m/s。)に対応するドップラー周波数において、直交検波回路が出力したQ信号と比べて、略1/4周期先行している。図1の中段では、直交検波回路が出力したQ信号を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号Qsは、直交検波回路が出力したI信号と比べて、略同相である。
【0004】
図1の下段では、直交検波回路が出力したQ信号を、略1/4周期ずらした信号Qsと、直交検波回路が出力したI信号と、の乗算値IQsの時間平均値IQs-bar(-barは時間平均値。)は、正の値となる。時間平均値IQs-barが、正の接近閾値と比べて、大きいことを検出することにより、FFT演算を実行することなく、歩行者又は車両等の移動体が、ドップラーレーダ装置へと接近していることを検出することができる。
【0005】
図2では、歩行者又は車両等の移動体は、ドップラーレーダ装置から離反している。図2の上段では、直交検波回路が出力したI信号は、検出対象速度(歩行者の場合は約1m/s、車両の場合は約10m/s。)に対応するドップラー周波数において、直交検波回路が出力したQ信号と比べて、略1/4周期遅延している。図2の中段では、直交検波回路が出力したQ信号を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号Qsは、直交検波回路が出力したI信号と比べて、略逆相である。
【0006】
図2の下段では、直交検波回路が出力したQ信号を、略1/4周期ずらした信号Qsと、直交検波回路が出力したI信号と、の乗算値IQsの時間平均値IQs-bar(-barは時間平均値。)は、負の値となる。時間平均値IQs-barが、負の離反閾値と比べて、小さいことを検出することにより、FFT演算を実行することなく、歩行者又は車両等の移動体が、ドップラーレーダ装置から離反していることを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5996385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の環境雑音存在時の解決課題を図3に示す。図3では、歩行者又は車両等の移動体が、ドップラーレーダ装置の近傍に存在しておらず、環境雑音(降雨の動き又は草木の揺れ等。)が、ドップラーレーダ装置により検出されることがある。
【0009】
図3の上段では、直交検波回路が出力したI信号を示す。図3の中段では、直交検波回路が出力したQ信号を示す。図3の下段では、直交検波回路が出力したQ信号を、略1/4周期ずらした信号Qsと、直交検波回路が出力したI信号と、の乗算値IQsの時間平均値IQs-bar(-barは時間平均値。)を示す。時間平均値IQs-barが、負の離反閾値と比べて、小さいことを誤検出することにより、歩行者又は車両等の移動体が、ドップラーレーダ装置から離反していることを誤検出することがある。
【0010】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、ドップラーレーダを利用して、歩行者又は車両等の移動体を検出するにあたり、降雨の動き又は草木の揺れ等の環境雑音を、歩行者又は車両等の移動体として誤検出することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
移動体は、長時間にわたり、ドップラーレーダ装置に対する接近又は離反を持続し、直交検波回路が出力したI信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略±90度となる。一方で、環境雑音は、個別に見れば、ドップラーレーダ装置に対する接近及び離反を重畳し、直交検波回路が出力したI信号とQ信号との位相差の瞬間値は、略±90度となる。しかし、環境雑音は、全体を見れば、ドップラーレーダ装置に対する接近及び離反を繰り返し、直交検波回路が出力したI信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略0度となる。
【0012】
そこで、前記課題を解決するために、直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する。そして、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値を算出する。
【0013】
ここで、移動体については、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値は、第1乗算値の時間平均値又は第2乗算値の時間平均値と比べて、略2倍となる。一方で、環境雑音については、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値は、第1乗算値の時間平均値又は第2乗算値の時間平均値と比べて、略0となる。よって、信号対雑音比を改善したうえで、移動体を検出することができる。
【0014】
具体的には、本開示は、ドップラーレーダを利用して移動体を検出する移動体検出装置であって、直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、前記直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する乗算値算出部と、前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出する差分値算出部と、前記差分値算出部の処理結果に基づいて、環境雑音によるドップラー信号と比べて、前記移動体によるドップラー信号を強調し、前記移動体を検出する移動体検出部と、を備えることを特徴とする移動体検出装置である。
【0015】
この構成によれば、ドップラーレーダを利用して、移動体を検出するにあたり、環境雑音を移動体として誤検出することを、従来と比べて確実に防止することができる。
【0016】
さらに、前記課題を解決するために、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との加算値を算出する。そして、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との加算値の絶対値が、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値の絶対値と比べて、大きいかどうかに基づいて、ドップラー信号が移動体によるものか環境雑音によるものか判断し、移動体の検出を実行するか中止するかを判断する。
【0017】
ここで、移動体については、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との加算値は、第1乗算値の時間平均値又は第2乗算値の時間平均値と比べて、略0となる。一方で、環境雑音については、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との加算値は、第1乗算値の時間平均値又は第2乗算値の時間平均値と比べて、略2倍となる。よって、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との加算値と、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値と、の両方に基づいて、信号(雑音)を雑音(信号)として誤判定することなく、移動体を検出することができる。
【0018】
具体的には、本開示は、ドップラーレーダを利用して移動体を検出する移動体検出装置であって、直交検波回路が出力したI信号(Q信号)を、検出対象速度に対応するドップラー周波数において、略1/4周期ずらした信号と、前記直交検波回路が出力したQ信号(I信号)と、の第1乗算値(第2乗算値)を算出する乗算値算出部と、前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出する差分値算出部と、前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との加算値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との加算値の時間平均値を算出する加算値算出部と、前記加算値算出部の処理結果の絶対値が、前記差分値算出部の処理結果の絶対値と比べて大きいときに、ドップラー信号が環境雑音によるものと判断し、前記移動体を検出せず、前記加算値算出部の処理結果の絶対値が、前記差分値算出部の処理結果の絶対値と比べて小さいときに、ドップラー信号が前記移動体によるものと判断する移動体検出部と、を備えることを特徴とする移動体検出装置である。
【0019】
この構成によれば、ドップラーレーダを利用して、移動体を検出するにあたり、環境雑音を移動体として誤検出することを、さらに確実に防止することができる。
【0020】
また、本開示は、前記差分値算出部は、前記環境雑音の接近と離反との間の変動周期と比べて同程度の移動平均期間にわたり、前記第1乗算値の時間平均値と前記第2乗算値の時間平均値との差分値、又は前記第1乗算値と前記第2乗算値との差分値の時間平均値を算出することを特徴とする移動体検出装置である。
【0021】
この構成によれば、環境雑音については、第1乗算値の時間平均値と第2乗算値の時間平均値との差分値は、第1乗算値の時間平均値又は第2乗算値の時間平均値と比べて、略0となる。よって、以上に記載の効果を有する装置を提供することができる。
【0022】
また、本開示は、以上に記載の移動体検出装置と、前記直交検波回路と、レーダ装置と、を備えることを特徴とするドップラーレーダシステムである。
【0023】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを提供することができる。
【0024】
また、本開示は、以上に記載の移動体検出装置が備える各処理部が行なう各処理ステップをコンピュータに実行させるための移動体検出プログラムである。
【0025】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0026】
また、本開示は、以上に記載の移動体検出装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを実行することを特徴とする移動体検出方法である。
【0027】
この構成によれば、以上に記載の効果を有する手順を実行することができる。
【発明の効果】
【0028】
このように、本開示は、ドップラーレーダを利用して、歩行者又は車両等の移動体を検出するにあたり、降雨の動き又は草木の揺れ等の環境雑音を、歩行者又は車両等の移動体として誤検出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】従来技術の移動体検出処理の原理を示す図である。
図2】従来技術の移動体検出処理の原理を示す図である。
図3】従来技術の環境雑音存在時の解決課題を示す図である。
図4】本開示のドップラーレーダシステムの構成を示す図である。
図5】本開示の移動体検出処理の原理を示す図である。
図6】本開示の移動体検出処理の手順を示す図である。
図7】本開示の移動体検出処理のシミュレーション結果を示す図である。
図8】本開示の移動体検出処理のシミュレーション結果を示す図である。
図9】本開示の移動体検出処理の実際の検出結果を示す図である。
図10】本開示の環境雑音存在時の解決結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0031】
(本開示のドップラーレーダシステムの構成)
本開示のドップラーレーダシステムの構成を図4に示す。ドップラーレーダシステムSは、マイクロ波等を利用して、歩行者又は車両等の移動体Mを検出するために、ドップラーレーダ装置R及び移動体検出装置Dを備える。しかし、ドップラーレーダシステムSは、降雨の動き又は草木の揺れ等の環境雑音Eを検出することがある。
【0032】
ドップラーレーダ装置Rは、局部発振器2、増幅器3、送信アンテナ4、受信アンテナ5、増幅器6、乗算器7、π/2移相器8、乗算器9、ハイパスフィルタ10、ハイパスフィルタ11、増幅器12及び増幅器13を備える。移動体検出装置Dは、D/A変換器1、A/D変換器14、A/D変換器15、π/2移相器16、乗算器17、π/2移相器18、乗算器19、時間平均部20、時間平均部21、減算器22、加算器23及び移動体検出部24を備え、図6に示すプログラムをコンピュータにインストールされる。
【0033】
D/A変換器1は、局部発振器2の制御電圧を出力する。局部発振器2は、レーダ送信信号を生成する。増幅器3は、レーダ送信信号を増幅する。送信アンテナ4は、レーダ送信信号を照射する。受信アンテナ5は、レーダ反射信号を受信する。増幅器6は、レーダ反射信号を増幅する。乗算器7は、局部発振器2を用いて、I信号を出力する。乗算器9は、局部発振器2及びπ/2移相器8を用いて、Q信号を出力する。
【0034】
ハイパスフィルタ10は、I信号の直流成分を除去する。ハイパスフィルタ11は、Q信号の直流成分を除去する。増幅器12は、I信号を増幅する(ACアンプとして、I信号の直流成分を除去してもよい。)。増幅器13は、Q信号を増幅する(ACアンプとして、Q信号の直流成分を除去してもよい。)。A/D変換器14は、I信号を所定のサンプリングレートで量子化し、時系列データとして保存する。A/D変換器15は、Q信号を所定のサンプリングレートで量子化し、時系列データとして保存する。
【0035】
π/2移相器16、乗算器17、π/2移相器18、乗算器19、時間平均部20、時間平均部21、減算器22、加算器23及び移動体検出部24は、ドップラーレーダを利用して、歩行者又は車両等の移動体Mを検出するにあたり、降雨の動き又は草木の揺れ等の環境雑音Eを、歩行者又は車両等の移動体Mとして誤検出することを防止する。
【0036】
(本開示の移動体検出処理の原理及び手順)
本開示の移動体検出処理の原理を図5に示す。図5では、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差が、乗算器7、9が出力したI信号及びQ信号をSTFT解析したうえで、STFT解析のピーク周波数成分の位相として算出される。そして、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差の出現頻度が、ヒストグラムにより表示される。
【0037】
移動体Mは、長時間にわたり、ドップラーレーダ装置Rに対する接近又は離反を持続し、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略±90度となる(図5の上段を参照。)。一方で、環境雑音Eは、個別に見れば、ドップラーレーダ装置Rに対する接近及び離反を重畳し、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差の瞬間値は、略±90度となる(図5の下段を参照。)。しかし、環境雑音Eは、全体を見れば、ドップラーレーダ装置Rに対する接近及び離反を繰り返し、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略0度となる(図5の下段を参照。)。
【0038】
本開示の移動体検出処理の手順を図6に示す。図5に示した移動体検出処理の原理に基づいて、図6では2種類の移動体検出処理の方法を説明する。
【0039】
乗算器17は、乗算器7及びハイパスフィルタ10が出力したI信号を、検出対象速度(歩行者の場合は約1m/s、車両の場合は約10m/s。)に対応するドップラー周波数において、π/2移相器16により略1/4周期ずらした信号Isと、乗算器9及びハイパスフィルタ11が出力したQ信号と、の乗算値QIsを算出する(ステップS1)。
【0040】
乗算器19は、乗算器9及びハイパスフィルタ11が出力したQ信号を、検出対象速度(歩行者の場合は約1m/s、車両の場合は約10m/s。)に対応するドップラー周波数において、π/2移相器18により略1/4周期ずらした信号Qsと、乗算器7及びハイパスフィルタ10が出力したI信号と、の乗算値IQsを算出する(ステップS2)。
【0041】
時間平均部20、時間平均部21及び減算器22は、乗算値QIsの時間平均値と乗算値IQsの時間平均値との差分値D1を算出する(ステップS3)。或いは、乗算値QIsと乗算値IQsとの差分値の時間平均値を算出しても、同様な結果を得られる。
【0042】
時間平均部20、時間平均部21及び加算器23は、乗算値QIsの時間平均値と乗算値IQsの時間平均値との加算値D2を算出する(ステップS4)。或いは、乗算値QIsと乗算値IQsとの加算値の時間平均値を算出しても、同様な結果を得られる。
【0043】
まず、2種類の移動体検出処理の方法のうち、1つ目の移動体検出処理の方法を説明する。移動体検出部24は、差分値D1に基づいて、環境雑音Eによるドップラー信号と比べて、移動体Mによるドップラー信号を強調し、移動体Mを検出する(ステップS5)。
【0044】
ここで、移動体Mについては、差分値D1は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略2倍となる。一方で、環境雑音Eについては、差分値D1は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略0となる。よって、信号対雑音比を改善したうえで、移動体Mを検出することができる。つまり、ドップラーレーダを利用して、移動体Mを検出するにあたり、環境雑音Eを移動体Mとして誤検出することを、従来と比べて確実に防止することができる。
【0045】
次に、2種類の移動体検出処理の方法のうち、2つ目の移動体検出処理の方法を説明する。移動体検出部24は、加算値D2の絶対値が、差分値D1の絶対値と比べて大きいときに(ステップS6においてYES)、ドップラー信号が環境雑音Eによるものと判断し、移動体Mの検出を中止する(ステップS7)。一方で、加算値D2の絶対値が、差分値D1の絶対値と比べて小さいときに(ステップS6においてNO)、ドップラー信号が移動体Mによるものと判断し、移動体Mの検出を実行する(ステップS8)。
【0046】
ここで、移動体Mについては、加算値D2は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略0となる。一方で、環境雑音Eについては、加算値D2は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略2倍となる。よって、加算値D2及び差分値D1の一方ではなく加算値D2及び差分値D1の両方に基づいて、信号(雑音)を雑音(信号)として誤判定することなく、移動体Mを検出することができる。つまり、ドップラーレーダを利用して、移動体Mを検出するにあたり、環境雑音Eを移動体Mとして誤検出することを、さらに確実に防止することができる。
【0047】
ここで、時間平均部20、時間平均部21及び減算器22は、環境雑音Eの接近と離反との間の変動周期と比べて同程度の移動平均期間にわたり、差分値D1を算出することが望ましい。すると、環境雑音Eについては、差分値D1は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略0となり、以上に記載の効果を有する。
【0048】
一方で、時間平均部20、時間平均部21及び加算器23は、環境雑音Eの接近と離反との間の変動周期と比べて同程度の移動平均期間にわたり、加算値D2を算出することが望ましい。すると、環境雑音Eについては、加算値D2は、乗算値QIsの時間平均値又は乗算値IQsの時間平均値と比べて、略2倍となり、以上に記載の効果を有する。
【0049】
なお、降雨の動きについては、接近と離反との間の変動周期が比較的短めであるため、移動平均期間を比較的短めにすればよい。また、草木の揺れについては、接近と離反との間の変動周期が比較的長めであるため、移動平均期間を比較的長めにすればよい。
【0050】
(本開示の移動体検出処理の具体例な結果)
本開示の移動体検出処理のシミュレーション結果を図7、8に示す。図7、8では、まず、局部発振器2の制御電圧が離散的に変更され、スパイクノイズが発生し、次に、局部発振器2の制御電圧が一定に設定され、移動体Mが接近と離反とを繰り返している。
【0051】
ここで、移動体検出処理のシミュレーションを容易にするために、様々な成分が重畳する環境雑音Eではなく、短期間の略矩形波状のスパイクノイズを採用した。そして、スパイクノイズは、局部発振器2の制御電圧の離散的変更時での、乗算器7、9が出力したドップラー信号の直流オフセット変動による、ハイパスフィルタ10、11が出力したドップラー信号のノイズ成分である。よって、乗算器7、9が出力したI信号とQ信号との位相差の時間平均値は、レーダ周波数の離散的変化と、近距離の固定物からの反射位相変化又は送受信間の回り込み位相変化と、に応じて、略0度又は略180度となる。
【0052】
図7の左上欄では、I信号を示す。図7の左下欄では、Q信号を示す。スパイクノイズについては、I信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略180度となる。移動体Mについては、I信号とQ信号との位相差の時間平均値は、略±90度となる。
【0053】
図7の右上欄では、乗算値QIs、IQsを示す。図7の右下欄では、時間平均値QIs-bar、IQs-bar(-barは時間平均値。)を示す。スパイクノイズについては、時間平均値QIs-bar、IQs-barは、互いに同符号となる。移動体Mについては、時間平均値QIs-bar、IQs-barは、互いに逆符号となる。
【0054】
図8の左上欄では、差分値D1を示す。図8の左下欄では、加算値D2を示す。スパイクノイズについては、差分値D1は、略0となり、加算値D2は、略2倍に増幅される。移動体Mについては、差分値D1は、略2倍に増幅され、加算値D2は、略0となる。
【0055】
図8の右上欄では、差分値D1の絶対値及び加算値D2の絶対値を示す。スパイクノイズについては、加算値D2の絶対値は、差分値D1の絶対値と比べて大きい。移動体Mについては、差分値D1の絶対値は、加算値D2の絶対値と比べて大きい。図8の右下欄では、加算値D2の絶対値が差分値D1の絶対値と比べて大きい期間について、つまり、スパイクノイズが検出された期間について、差分値D1が0に抑圧される。よって、差分値D1に基づいて、スパイクノイズが抑圧され、移動体Mのみが検出される。
【0056】
本開示の移動体検出処理の実際の検出結果を図9に示す。図9では、まず、環境雑音Eが発生し、次に、環境雑音Eが小さくなり、移動体Mが接近と離反とを繰り返している。
【0057】
図9の左上欄では、差分値D1を示す。図9の左下欄では、加算値D2を示す。環境雑音Eについては、差分値D1は、略0となり、加算値D2は、略2倍になる。移動体Mについては、差分値D1は、略2倍になり、加算値D2は、略0となる。
【0058】
図9の右上欄では、差分値D1の絶対値及び加算値D2の絶対値を示す。環境雑音Eについては、加算値D2の絶対値は、差分値D1の絶対値と比べて大きい。移動体Mについては、差分値D1の絶対値は、加算値D2の絶対値と比べて大きい。図9の右下欄では、加算値D2の絶対値が差分値D1の絶対値と比べて大きい期間について、つまり、環境雑音Eが検出された期間について、差分値D1が0に抑圧される。よって、実際の検出でも、差分値D1に基づいて、環境雑音Eが抑圧され、移動体Mのみが検出される。
【0059】
本開示の環境雑音存在時の解決結果を図10に示す。図10では、図3と同様に、歩行者又は車両等の移動体Mが、ドップラーレーダ装置Rの近傍に存在しておらず、環境雑音Eが、ドップラーレーダ装置Rにより検出されるかどうかを確認している。
【0060】
図10の上段では、乗算器7が出力したI信号を示す。図10の中段では、乗算器9が出力したQ信号を示す。図10の下段では、環境雑音Eが抑圧された差分値D1を示す。差分値D1が、正の接近閾値と比べて、小さいことを検出することにより、そして、負の離反閾値と比べて、大きいことを検出することにより、歩行者又は車両等の移動体Mが、ドップラーレーダ装置Rの近傍に存在していないことを検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示の移動体検出装置、ドップラーレーダシステム、移動体検出プログラム及び移動体検出方法は、街灯、自動販売機及びセキュリティセンサ等の、屋外へ設置するアプリケーションに適用することができ、演算コスト及び記憶コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0062】
S:ドップラーレーダシステム
R:ドップラーレーダ装置
D:移動体検出装置
M:移動体
E:環境雑音
1:D/A変換器
2:局部発振器
3:増幅器
4:送信アンテナ
5:受信アンテナ
6:増幅器
7:乗算器
8:π/2移相器
9:乗算器
10:ハイパスフィルタ
11:ハイパスフィルタ
12:増幅器
13:増幅器
14:A/D変換器
15:A/D変換器
16:π/2移相器
17:乗算器
18:π/2移相器
19:乗算器
20:時間平均部
21:時間平均部
22:減算器
23:加算器
24:移動体検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10