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特開2023-140480成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140480
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/26 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B28B1/26 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046339
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】591033364
【氏名又は名称】ヤマキ電器株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】小野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】小松山 沙織
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052CA02
4G052CC09
4G052CC12
(57)【要約】
【課題】従来のアルギン酸離型膜を使用することなく、セラミックス成形体を容易に離型することが可能で、成形体の焼成時にクラックや割れ等の欠陥が生じることのない成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法を提供する。
【解決手段】不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートを成形型の内壁面に形成される離型膜として使用する。必要により、不溶性ナノファイバーに不溶性粉末粒子を並存させる。このとき、不溶性粉末粒子の体積を不溶性ナノファイバーの体積で除した値が0.2~20の範囲内となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス成形体の成形に使用する成形型の内壁面に形成される離型膜であって、
不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートであることを特徴とする成形用離型膜。
【請求項2】
前記ウエブ状シートに不溶性粉末粒子が並存することを特徴とする請求項1に記載の成形用離型膜。
【請求項3】
前記不溶性ナノファイバーの体積を前記不溶性粉末粒子の体積で除した値が0.2~20の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の成形用離型膜。
【請求項4】
前記不溶性粉末粒子は、セラミックス粒子、炭素粒子、樹脂粒子、多糖類粒子、タンパク質粒子の群からなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の成形用離型膜。
【請求項5】
前記不溶性粉末粒子は、前記成形型で成形する成形原料と同じセラミックス粒子、又は、粒径は異なるが前記成形原料と同じセラミックス成分の粒子であることを特徴とする請求項2に記載の成形用離型膜。
【請求項6】
前記不溶性ナノファイバーは、多糖類ナノファイバー、タンパク質ナノファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、セラミックスナノファイバーの群からなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の成形用離型膜。
【請求項7】
前記ウエブ状シートの細孔径サイズは、1nm~1000nmの範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の成形用離型膜。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の成形用離型膜を用いたセラミックス成形法であって、
前記成形型の内壁面に前記成形用離型膜を形成する離型膜形成工程と、
前記成形用離型膜が内壁面に形成された前記成形型にセラミックス成形材料を投入して所定のセラミックス成形体を得る成形工程とを有し、
前記離型膜形成工程において、
前記不溶性ナノファイバーを分散、又は、前記不溶性ナノファイバーと前記不溶性粉末粒子とを混合分散して分散体を得る分散操作と、
前記分散体を前記成形型の内壁面に塗布する塗布操作とを備えていることを特徴とするセラミックス成形法。
【請求項9】
前記分散体における前記不溶性ナノファイバーの含有量は、0.01体積%~2.0体積%の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載のセラミックス成形法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス成形体を成形する際の成形型に使用する成形用離型膜、及び、これを用いたセラミックス成形法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス焼成体を製造する方法において、セラミックス材料を所定の形状に成形する際に成形型を使用することが多い。成形型で焼成前のセラミックス成形体を成形するセラミックス成形法には種々の方法があり、例えば、鋳込み成形法、シート成形法、プレス成形法などがある。
【0003】
例えば、鋳込み成形法を例にすれば、セラミックス原料粉末とバインダーを分散媒に分散させた泥漿(以下「セラミックススラリー」という)を所定の形状を持った吸水性多孔質型(以下「成形型」という)の内部に流し込む。次に、セラミックススラリーに含まれる分散媒(水)の大部分を成形型に吸収させて、セラミックス原料粉末とバインダーから分散媒を分離する。分散媒を十分に分離させた後に、セラミックス原料粉末とバインダーからなるセラミックス成形体を成形型から離型する。この離型の際にセラミックススラリーの一部が多孔質の成形型に侵入していると、成形型とセラミックス成形体との密着性が強くなり離型できなくなるという問題がある。そのため、成形型とセラミックス成形体の間の密着性を低減させるための離型膜を成形型の内部の鋳込み面に形成させる必要がある。
【0004】
一般的なセラミックス成形法である鋳込み成形法には、石こう製成形型(以下「石こう型」という)が用いられる。石こう型を用いる場合、水溶性有機物であるアルギン酸アンモニウム水溶液を鋳込み面に塗布する。その結果、石こう型から溶出するカルシウムイオンとアルギン酸アンモニウムが反応することで、アルギン酸カルシウムからなる不溶性のアルギン酸離型膜が鋳込み面に形成される。しかし、石こう型を用いた鋳込み成形法では、石こう型からカルシウムイオンや硫酸イオンが不純物として成形体を汚染するため、高純度成形体を作製することが難しい。
【0005】
そこで、鋳込み成形法により高純度成形体を成形するには、溶出成分の無いセラミックス製多孔質型、金属製多孔質型、樹脂型、複合型などが用いられる。しかし、成形型の原料に石こうを用いないと、鋳込み面にアルギン酸離型膜は形成されない。そのため、アルギン酸離型膜を用いない成形用離型膜を使用する必要がある。このような離型膜を使用した鋳込み成形法としては、例えば、下記特許文献1のセラミックス泥漿鋳込み成形法が提案されている。下記特許文献1の鋳込み成形法においては、酸型カルボキシメチルセルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩から成る組成物の層を形成して離型膜として用いる。
【0006】
また、下記特許文献2のセラミックス鋳込み成形法が提案されている。下記特許文献2の鋳込み成形法においては、成形原料として用いるセラミックススラリーと同じセラミックス成分と、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウムのいずれかである造膜性有機物とを含有する離型剤を塗布して離型膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07-025659号公報
【特許文献2】特開昭63-247002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1においては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩という水溶性原料を用いて離型膜を形成させるため、成形型の細孔(吸水性多孔)を埋めるように比較的緻密な離型膜が形成される。そのため、鋳込み成形時の成形型の吸水性が低下し、成形時間が長くなるという問題があった。更に、成形型と離型膜との密着性が強くなるため、離型性が低下するという問題があった。特に、複雑形状や薄肉のセラミックス成形体に使用すると、離型時に成形体の変形や破損が生じるという問題があった。
【0009】
また、上記特許文献2においては、成形原料と同じセラミックス成分と造膜性有機物との混合物を用いている。この場合、例えば、ファインセラミックスのスラリー作製に用いられる微細なセラミックス原料が、成形型の細孔に容易に入り込み造膜性有機物により成形型に固定される。このため、成形型と離型膜との密着性が強くなり、離型時にセラミックス成形体の変形や破損が生じるという問題があった。一方、成形原料と同じセラミックス組成の粗粒原料を用いることで、成形型と離型膜との密着性を低減することができる。しかし、この場合には、粗粒原料がセラミックス成形体の表面に付着するため、焼成時に焼成収縮の違いが生じクラックや割れ等の欠陥が生じるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、従来のアルギン酸離型膜を使用することなく、セラミックス成形体を容易に離型することが可能で、セラミックス成形体の焼成時にクラックや割れ等の欠陥が生じることのない成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートを離型膜として使用し、また必要により、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子とを併用したウエブ状シートを離型膜として使用することにより、上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る成形用離型膜は、請求項1の記載によれば、
セラミックス成形体の成形に使用する成形型の内壁面に形成される離型膜であって、
不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の成形用離型膜であって、
前記ウエブ状シートに不溶性粉末粒子が並存することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項2に記載の成形用離型膜であって、
前記不溶性ナノファイバーの体積を前記不溶性粉末粒子の体積で除した値が0.2~20の範囲内であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項2に記載の成形用離型膜であって、
前記不溶性粉末粒子は、セラミックス粒子、炭素粒子、樹脂粒子、多糖類粒子、タンパク質粒子の群からなる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項2に記載の成形用離型膜であって、
前記不溶性粉末粒子は、前記成形型で成形する成形原料と同じセラミックス粒子、又は、粒径は異なるが前記成形原料と同じセラミックス成分の粒子であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1~5のいずれか1つに記載の成形用離型膜であって、
前記不溶性ナノファイバーは、多糖類ナノファイバー、タンパク質ナノファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、セラミックスナノファイバーの群からなる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項6に記載の成形用離型膜であって、
前記ウエブ状シートの細孔径サイズは、1nm~1000nmの範囲内であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るセラミックス成形法は、請求項8の記載によれば、
請求項1~7のいずれか1つに記載の成形用離型膜を用いたセラミックス成形法であって、
前記成形型の内壁面に前記成形用離型膜を形成する離型膜形成工程と、
前記成形用離型膜が内壁面に形成された前記成形型にセラミックス成形材料を投入して所定のセラミックス成形体を得る成形工程とを有し、
前記離型膜形成工程において、
前記不溶性ナノファイバーを分散、又は、前記不溶性ナノファイバーと前記不溶性粉末粒子とを混合分散して分散体を得る分散操作と、
前記分散体を前記成形型の内壁面に塗布する塗布操作とを備えていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項9の記載によれば、請求項8に記載のセラミックス成形法であって、
前記分散体における前記不溶性ナノファイバーの含有量は、0.01体積%~2.0体積%の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成によれば、本発明に係る成形用離型膜は、成形型の内壁面に形成される離型膜であって、不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートである。また、ウエブ状シートに不溶性粉末粒子が並存してもよい。このとき、不溶性ナノファイバーの体積を不溶性粉末粒子の体積で除した値が0.2~20の範囲内であることが好ましい。これらのことにより、従来のアルギン酸離型膜を使用することなく、セラミックス成形体を容易に離型することが可能で、成形体の焼成時にクラックや割れ等の欠陥が生じることのない成形用離型膜を提供することができる。
【0022】
また、上記構成によれば、不溶性粉末粒子は、セラミックス粒子、炭素粒子、樹脂粒子、多糖類粒子、タンパク質粒子の群からなる少なくとも1種であってもよい。また、不溶性粉末粒子は、成形型で成形する成形原料と同じセラミックス粒子、又は、粒径は異なるが成形原料と同じセラミックス成分の粒子であってもよい。これらのことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、不溶性ナノファイバーは、多糖類ナノファイバー、タンパク質ナノファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、セラミックナノファイバーの群からなる少なくとも1種であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、ウエブ状シートの細孔径サイズは、1nm~1000nmの範囲内であることが好ましい。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【0025】
また、上記構成によれば、本発明に係るセラミックス成形法は、請求項1~7のいずれか1つに記載の成形用離型膜を用いるものである。このセラミックス成形法は、離型膜形成工程と成形工程とを有している。離型膜形成工程においては、成形型の内壁面に前記成形用離型膜を形成する。成形工程においては、成形用離型膜が内壁面に形成された成形型にセラミックス成形材料を投入して所定のセラミックス成形体を得る。
【0026】
ここで、離型膜形成工程は、分散操作と塗布操作とを備えている。分散操作において、不溶性ナノファイバーを分散して分散体を得る。又は、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子とを混合分散して分散体を得る。塗布操作において、分散体を成形型の内壁面に塗布する。これらのことにより、従来のアルギン酸離型膜を使用することなく、セラミックス成形体を容易に離型することが可能で、成形体の焼成時にクラックや割れ等の欠陥が生じることのないセラミックス成形法を提供することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、本発明に係るセラミックス成形法に使用する分散体は、不溶性ナノファイバーの含有量が0.01体積%~2.0体積%の範囲内であることが好ましい。このことにより、上記作用効果をより具体的且つ効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係るセラミックス成形法の離型膜形成工程における分散操作の概要を示す操作フロー図である。
図2】本実施形態に係るセラミックス成形法の離型膜形成工程における塗布操作の概要を示す操作フロー図である。
図3】本実施形態に係るセラミックス成形法の成形工程の概要を示す操作フロー図である。
図4】実施例1における離型膜1の表面の電子顕微鏡写真である。
図5】実施例2における離型膜2の表面の電子顕微鏡写真である。
図6】成形型とセラミックス成形体との密着力評価方法を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法を実施形態により具体的に説明する。なお、以下の実施形態においては、セラミックス成形法のうち主として鋳込み成形法を具体例として説明するが、本発明に係る成形用離型膜は、シート成形法やプレス成形法など他のセラミックス成形法においても使用することができる。
【0030】
まず、本発明に係る成形用離型膜の構成要素について説明する。成形用離型膜は、不溶性ナノファイバーの集合体からなるウエブ状シートである。また、成形用離型膜は、不溶性ナノファイバーの集合体に不溶性粉末粒子が並存したウエブ状シートであってもよい。
【0031】
ここで、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子に付した「不溶性」について説明する。本発明において「不溶性」とは、離型膜を形成する際に使用する分散体(後述する)を調整する際に、室温の水を分散媒としたときに離型膜を構成する成分が水中に完全に溶解(分散媒が溶媒として作用)することなく、水分散状態を維持できることをいう。従って、完全な疎水性であることを表わすのではなく、表面が親水性であっても又は一部が親水性であっても、水中に完全に溶解することのない状態をいう。
【0032】
従って、従来の離型膜であるアルギン酸離型膜は、離型膜自体はアルギン酸カルシウムからなり水に不溶性であるが、離型膜を形成する際に使用されるアルギン酸アンモニウムは水溶性であり、本発明の不溶性ナノファイバーを構成するものではない。しかし、離型膜を形成する際に酸型のアルギン酸を使用する場合には、本発明の不溶性ナノファイバーとして使用することができる。
【0033】
一方、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類は、酸型の時は水に不溶性であるが、ナトリウム型にすれば水溶性になる場合もある。しかし、カルボキシ基の置換度により、ナトリウム型にした場合でも水溶性や親水性の程度が変化する。このような場合には、「水中に完全に溶解することのない状態」であるか否かにより判断することができる。また、高置換度のカルボキシメチルセルロースであっても酸型で使用する場合には、本発明の不溶性ナノファイバーとして使用することができる。
【0034】
次に、不溶性ナノファイバーの「ナノファイバー」について説明する。「ナノファイバー」の定義は、現段階において書籍や学会などにより一定ではない。そこで、本発明においては、次のように定義する。「ナノファイバー」とは、直径が1nm~1000nmの範囲内、アスペクト比が10以上ある繊維状の物質をいう。また、ナノファイバーを構成する物質は、特に限定するものではないが、例えば、多糖類ナノファイバー、タンパク質ナノファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、セラミックスナノファイバーなどであってもよく、これらを混合したものであってもよい。
【0035】
本発明においては、多糖類ナノファイバーとして、セルロースナノファイバー、キトサナノファイバー、キチンナノファイバー、酸型のアルギン酸ナノファイバー、酸型のカルボキシメチルセルロースナノファイバーなどが挙げられる。また、タンパク質ナノファイバーとしては、シルクナノファイバーなどが挙げられる。
【0036】
なお、本発明においては、不溶性ナノファイバーとして、多糖類ナノファイバーのなかでもセルロースナノファイバーを使用することが好ましい。セルロースナノファイバーは、その調整法や使用する植物の種類などによって様々なものがある。調整法としては、ホモジナイザーによる方法、ホモジナイザーと2軸押出機による方法、物理的処理と酵素加水分解の併用による法、ウォータージェット解繊による方法、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)酸化による方法、或いは、バクテリアセルロースを使用する方法などがある。
【0037】
本発明においては、不溶性のセルロースナノファイバーであれば特に限定するものではないが、セルロースの重合度を高く維持して微細にナノファイバー化することができるウォータージェット解繊によるセルロースナノファイバーを使用することが好ましい。一方、表面が親水化されたTEMPO酸化によるセルロースナノファイバーにおいては、均一なカルボキシ基の導入でセルロースミクロフィブリルまで微細にナノファイバー化することができる。しかし、この場合も完全に溶解するものではなく、水分散体であり不溶性ナノファイバーと解される。
【0038】
次に、不溶性粉末粒子の「粉末粒子」について説明する。本発明において「粉末粒子」とは、水に不溶性であれば特に限定するものではないが、例えば、金属、金属酸化物・金属窒化物・金属炭化物などのセラミックス、炭素、熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂などの樹脂、多糖類、タンパク質などの粒子が挙げられる。これらの中で、セラミックス粒子、炭素粒子、樹脂粒子、多糖類粒子、タンパク質粒子などが好ましく、これらを混合したものであってもよい。
【0039】
なお、本発明においては、不溶性粉末粒子として、炭素粒子又はセラミックス粒子を使用することが好ましい。また、セラミックス粒子のなかでも成形型で成形する成形原料と同じセラミックス粒子、又は、粒径は異なるが成形型で成形する成形原料と同じセラミックス成分の粒子であることが好ましい。なお、炭素粒子、樹脂粒子、多糖類粒子、タンパク質粒子などを使用した場合には、成形したセラミックス成形体を焼成する焼成工程において消失し、焼成後の製品に残存しないのでより好ましい。
【0040】
また、不溶性粉末粒子の形状は、板状粒子、棒状粒子、球状粒子、多孔質粒子、繊維状粒子などであってもよい。なお、不溶性粉末粒子の平均粒子径は、0.1μm~100μmの範囲内であることが好ましく、0.5μm~50μmの範囲内であることがより好ましく、0.1μm~30μmの範囲内であることが最も好ましい。平均粒子径が100μmよりも大きいと、セラミックス成形体の表面に粗大な凹凸が形成されて離型時にセラミックス成形体の破損を引き起こす。また、平均粒子径が0.1μmよりも小さいと、粉末粒子の凝集力が強くなり、良好な離型性が得られない。なお、不溶性粉末粒子の平均粒子径は、レーザー回折方式、光散乱方式、画像解析方式などで測定することができる。
【0041】
次に、本発明に係るセラミックス成形法及びこれに使用する成形用離型膜の形成方法を具体的に説明する。ここでも、セラミックス成形法のうち主として鋳込み成形法を具体例として説明するが、シート成形法やプレス成形法など他のセラミックス成形法においても本発明に係る成形用離型膜を使用することができる。
【0042】
本実施形態に係るセラミックス成形法は、離型膜形成工程と成形工程とから構成される。なお、本実施形態においては、不溶性ナノファイバーの集合体に不溶性粉末粒子が並存した成形用離型膜を具体例として説明する。また、本実施形態においては、不溶性ナノファイバーの例としてセルロースナノファイバーを使用し、不溶性粉末粒子の例としてカーボン粉末粒子を使用して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0043】
1.離型膜形成工程
まず、離型膜形成工程について説明する。離型膜形成工程においては、成形型の内壁面に成形用離型膜(以下「離型膜」という)を形成する。なお、 離型膜形成工程は、分散操作と塗布操作とから構成されている。
【0044】
1-1.分散操作
分散操作においては、セルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とを水を分散媒として分散体を調整する。なお、カーボン粉末粒子を併用することなく、セルロースナノファイバーのみで分散体を調整してもよい。図1は、分散操作の概要を示す操作フロー図である。図1において、まず、ステップ11において被分散材料としてのセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とを準備する。セルロースナノファイバーは、予め水に分散したものを使用することが好ましい。また、カーボン粉末粒子も、予め水に分散したものを使用することが好ましい。
【0045】
次に、ステップ12において、準備した水に分散したセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とを所定量の水(ここでは純水)に投入する。なお、調整する分散体に対するセルロースナノファイバーの含有量は、0.01体積%~2.0体積%の範囲内であることが好ましく、0.05体積%~1.0体積%の範囲内であることがより好ましく、0.1体積%~0.5体積%の範囲内であることが最も好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が2.0体積%より大きいと、分散体の粘度が大きくなるため離型膜形成時の成形型への吸水が不十分になり、均一な離型膜を得ることが難しい。また、セルロースナノファイバーの含有量が0.01体積%よりも少ないと、そもそも離型膜を形成することができない。
【0046】
また、調整する分散体に対するカーボン粉末粒子の含有量は、セルロースナノファイバーの含有量との関係で調整される。具体的には、セルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子との配合比率は、セルロースナノファイバーの体積をカーボン粉末粒子の体積で除した値が0.2~20の範囲内にあることが好ましい。なお、セルロースナノファイバー、カーボン粉末粒子の各成分の体積は、それぞれの重量を比重で除した値を採用した。セルロースナノファイバーの体積をカーボン粉末粒子の体積で除した値が0.2よりも小さいと、カーボン粉末粒子をセルロースナノファイバーで十分に固定できず、セラミックス成形体を得る成形工程においてカーボン粉末粒子の一部がセラミックス成形体に流入してセラミックス成形体が汚染されるからである。また、セルロースナノファイバーの体積をカーボン粉末粒子の体積で除した値が20よりも大きい場合には、カーボン粉末粒子の効果が大きく表れないこととなる。ここで、体積比で表すのは、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子の材質・組成が変り比重の関係が変化しても同様に調整できるからである。
【0047】
次に、ステップ13において、セルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子と純水との混合物に、分散剤としての界面活性剤を投入する。投入する界面活性剤の種類と量は、特に限定するものではなく、安定した分散体を得ることができる範囲で適宜調整すればよい。なお、ここで投入した界面活性剤は有機物であり、セラミックス成形体を焼成する焼成工程において消失し、焼成後の製品に残存しない。
【0048】
次に、ステップ14において、分散手段により安定した分散体を調整する。分散手段は、特に限定するものではなく、例えば、ホモジナイザー、自転公転ミキサー、ディスパミキサー、ボールミル混合機、インテンシブミキサー、超音波分散器などが挙げられる。次に、ステップ15において、ふるい器に調整した分散体を通過させてステップ16の安定した分散体を得る。
【0049】
1-2.塗布操作
塗布操作においては、セルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子の分散体を成形型の内壁面に塗布する。図2は、塗布操作の概要を示す操作フロー図である。図2において、まず、ステップ21において分散操作で得られた分散体を準備する。次に、成形型の内部に分散体を塗布する。分散体の塗布方法は、特に限定するものではないが、例えば、鋳込みコート法、スプレーコーティング法、ウォッシュコート法などが挙げられる。
【0050】
ここで、成形型について説明する。成形型の種類は、特に限定するものではないが、多孔質金属、多孔質セラミックス、多孔質炭素、多孔質樹脂、多孔質金属・セラミックス複合体、多孔質金属・樹脂複合体、多孔質金属・炭素複合体、多孔質セラミック・金属複合体、多孔質セラミックス・炭素複合体、多孔質セラミックス・樹脂複合体、多孔質炭素・樹脂複合体などで作製された吸水性多孔質型であることが好ましい。なお、本実施形態の分散体を従来の石こう型に使用してもよい。
【0051】
また、成形型を構成する原料粒子としては、金属、金属酸化物・金属窒化物・金属炭化物などのセラミックス、炭素、熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂などの樹脂が挙げられる。また、原料の粒子形状としては、板状粒子、棒状粒子、球状粒子、多孔質粒子、繊維状粒子などが挙げられる。また、成形型の吸水性をよくするために、成形型に親水性コーティング処理、紫外線照射処理、熱処理、プラズマ処理などを施してもよい。
【0052】
なお、本実施形態においては、鋳込みコート法について説明する。ステップ22において、成形型の内部に分散体を注入する。次に、ステップ23において、成形型に分散体を注入した状態で所定時間放置する。この間に、分散体に含有されるセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とが、成形型の内部の成形面に造膜する。次に、ステップ24において、成形型の内部から余剰の分散体を排出する。次に、ステップ25において、分散体を排出した状態で成形型を所定時間放置して、成形面に造膜した離型膜の強度を高める。
【0053】
このようにして、ステップ26の離型膜を得る。このようにして得られた離型膜は、単層構造となる。これに対して、ステップ22~ステップ25の操作を複数回繰り返すことにより、多層構造で強靭な離型膜を得ることもできる。
【0054】
ここで、成形型の内部の成形面に形成された離型膜について説明する。本実施形態に係る離型膜は、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存したウエブ状シートである。ここで、「ウエブ」とは、繊維だけで構成されたシートであって、薄い膜状のものと定義される(新・繊維総合辞典;繊研新聞社)。ここでは、繊維の他にカーボン粉末粒子などを含む場合もあることから、離型膜をウエブのようなシート状態の膜と解する。例えば、不織布のようなものであってフィルムとは異なり、ウエブを構成する多数の繊維(セルロースナノファイバー)が積層されて細孔を有している。また、セルロースナノファイバーに併存するカーボン粉末粒子は、セルロースナノファイバーで十分に固定されている。
【0055】
本実施形態において、離型膜の膜厚は、特に限定するものではないが、1μm~1000μmの範囲内であることが好ましく、5μm~500μmの範囲内であることがより好ましく、10μm~100μmの範囲内であることが最も好ましい。離型膜の膜厚が1μmよりも薄いと、離型膜が容易に破れ、セラミックス成形材料(鋳込み成形法では、セラミックススラリー)の一部が離型膜を通過して成形型に流入する。また、離型膜の厚さが1000μmよりも厚いと、セラミックススラリーの分散媒が十分に離型膜を通過することができず、吸水性が大きく低下してセラミックス成形体を得ることが困難になるためである。なお、離型膜の膜厚は、マイクロメーター、ノギス、顕微鏡観察による膜厚測定により測定することができる。
【0056】
また、本実施形態において、離型膜の細孔径は、特に限定するものではないが、1nm~1000nmの範囲内であることが好ましく、5nm~500nmの範囲内であることがより好ましく、10nm~100nmの範囲内であることが最も好ましい。離型膜の細孔径が1000nmより大きいと、セラミックス成形材料(鋳込み成形法では、セラミックススラリー)が離型膜を容易に透過して成形型に入り込み離型性が大きく低下する。また、離型膜の細孔径が1nmより小さいと、セラミックススラリー中の水が離型膜を透過するのを阻害するため、セラミックス成形体を得ることが困難になるためである。なお、離型膜の細孔径は、電子顕微鏡により直接観察し測定することができる。
【0057】
2.成形工程
次に、成形工程について説明する。成形工程においては、離型膜が内壁面(成形面)に形成された成形型にセラミックス成形材料(鋳込み成形法では、セラミックススラリー)を投入して所定のセラミックス成形体を得る。図3は、成形工程の概要を示す操作フロー図である。図3において、まず、ステップ31において、離型膜が内壁面に形成された成形型にセラミックススラリーを投入する。次に、ステップ32において、成形型にセラミックススラリーを投入した状態で所定時間放置する。この間に、離型膜の成形面にセラミックス粒子が着肉する。
【0058】
次に、ステップ33において、成形型の内部から余剰のセラミックススラリーを排出する。このようにして、ステップ34においてセラミックス成形体の成形が完了する。次に、ステップ35において、成形型に着肉した状態のセラミックス成形体を所定時間放置する。この間に、セラミックス成形体の水分が成形型に吸水されてセラミックス成形体の強度を高める。次に、ステップ36において、セラミックス成形体を成形型から離型する。
【0059】
このようにして、ステップ37のセラミックス成形体を得る。このようにして得られたセラミックス成形体は、乾燥工程を経て焼成工程に投入される。焼成工程においては、必要により脱脂操作を経て本焼成により製品となる。
【実施例0060】
次に、各実施例に基づいて、本実施形態を具体的に説明する。また、下記の各実施例は、主として鋳込み成形法について説明するが、一部、プレス成形法とシート成形法についても説明する。なお、各実施例の成形工程においては、セラミックス成形材料として主にアルミナを使用して説明する。しかし、本発明においてセラミックス成形材料は、アルミナに限定するものではなく、一般に使用されるセラミックス全般をいうものである。また、本発明は、下記の各実施例にのみ限定されるものではない。
【0061】
《実施例1》
本実施例1においては、セルロースナノファイバーの集合体(不溶性粉末粒子が並存せず)からなる単層構造の離型膜を形成し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。
【0062】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
ウォータージェット解繊によるセルロースナノファイバー(株式会社スギノマシン製;水分散液:固形分濃度2重量%、平均繊維径10~50nm、比表面積120m/g、重合度650)を脱イオン水に配合し、ホモジナイザーによりセルロースナノファイバーの固形分濃度が0.13体積%の分散体1を得た。
【0063】
1-2.塗布操作
得られた分散体1を多孔質セラミック成形型(組成:アルミナ、気孔率40%)に流しこみ、1分間静置させた後に分散体を排出し、成形型の成形面に離型膜1を得た。得られた離型膜1の厚みは、44μmであった。また、図4は、実施例1における離型膜1の表面の電子顕微鏡写真である。図4から、離型膜1の細孔径サイズは50nm程度であった。また、図4から、セルロースナノファイバーのアスペクト比が10以上であることが分かる。
【0064】
2.成形工程
次に、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径0.3μm)を離型膜1が形成された多孔質セラミック成形型に鋳込み、セラミックス成形体の含水率が13~14重量%の範囲内になるように鋳込み時間を調整して鋳込み成形を行った。得られたセラミックス成形体の含水率は、熱重量分析法により測定した。
【0065】
《実施例2》
本実施例2においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例1と同じセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子(高純度化学研究所製;平均粒子径20μm)とを使用し、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.13体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が0.6になるようにして分散体2を調整したこと以外は、上記実施例1と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜2の厚みは、44μmであった。また、図5は、実施例2における離型膜2の表面の電子顕微鏡写真である。図5から、離型膜2の細孔径サイズは50nm程度であった。また、図5から、セルロースナノファイバーのアスペクト比が10以上であることが分かる。
【0066】
《実施例3》
本実施例3においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成と同じ組成の離型膜3を上記実施例2と同じ多孔質セラミック成形型に形成し(厚み50μm)、窒化ケイ素スラリー(固形分濃度25体積%、分散媒:水、平均粒子径0.2μm)を鋳込んだこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。
【0067】
《実施例4》
本実施例4においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成において、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.27体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.2になるようにして分散体4を調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜4の厚みは、50μmであった。
【0068】
《実施例5》
本実施例5においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成において、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.40体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.8になるようにして分散体5を調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜5の厚みは、110μmであった。
【0069】
《実施例6》
本実施例6においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成において、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.27体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が0.3になるようにして分散体6を調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜6の厚みは、44μmであった。
【0070】
《実施例7》
本実施例7においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成において、セルロースナノファイバーを重合度の異なるセルロースナノファイバー(株式会社スギノマシン製;水分散液:固形分濃度2重量%、平均繊維径10~50nm、比表面積150m/g、重合度200)に変更し、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.27体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.2になるようにして分散体7を調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜7の厚みは、44μmであった。
【0071】
《実施例8》
本実施例8においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の組成において、セルロースナノファイバーを重合度の異なるセルロースナノファイバー(株式会社スギノマシン製;水分散液:固形分濃度2重量%、平均繊維径10~50nm、比表面積120m/g、重合度800)に変更し、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.27体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.2になるようにして分散体8を調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜8の厚みは、44μmであった。
【0072】
《実施例9》
本実施例9においては、シルクナノファイバーの集合体にセラミックス/樹脂複合粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。
【0073】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
ウォータージェット解繊によるシルクナノファイバー(株式会社スギノマシン製;水分散液:固形分濃度5重量%、平均繊維径100nm、比表面積200m/g)と、アルミナ粒子(住友化学株式会社製;平均粒子径0.7μm)とアクリル粒子(株式会社SOKEN製;平均粒子径3μm)の体積比が50:50になるように調整した複合粉末粒子とを脱製;平均粒子径3μm)の体積比が50:50になるように調整した複合粉末粒子とを脱イオン水に配合し、ホモジナイザーによりシルクナノファイバーの固形分濃度が0.3体積%、シルクナノファイバー/複合粉末粒子の体積比が1.6になるようにして分散体9を得た。
【0074】
1-2.塗布操作
得られた分散体9をセラミックス/樹脂複合成形型(組成:アルミナ/アクリル樹脂、気孔率38%)に塗布し、成形型の成形面に離型膜9を得た。なお、得られた離型膜9の厚みは、205μmであった。
【0075】
2.成形工程
次に、上記実施例2と同様にして、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径0.3μm)を離型膜9が形成されたセラミックス/樹脂複合成形型に鋳込んで、セラミックス成形体の含水率を調整して鋳込み成形を行った。
【0076】
《実施例10》
本実施例10においては、多層構造の離型膜使用し、鋳込み成形法を行ってセラミックス成形体を得た。上記実施例2の離型膜の上に、キトサンナノファイバー(株式会社スギノマシン製;水分散液:固形分濃度5重量%、平均繊維径20~50nm、比表面積80m/g、重合度480)の離型膜(不溶性粉末粒子が並存せず)を積層して多層構造の離型膜10(厚み91μm)を形成し、多層構造の離型膜10を多孔質樹脂成形型(組成:多孔質フェノール樹脂、気孔率41%)の成形面に形成させたこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜10の厚みは、91μmであった。
【0077】
《実施例11》
本実施例11においては、上記実施例1と同じセルロースナノファイバーと、カーボンナノファイバー(株式会社アルメディオ製、繊維径200~800nm、長さ1~15μmのミルドファイバー)とを体積比50:50になるように混合した混合ナノファイバーと、アルミナ粉末粒子(住友化学株式会社製;平均粒子径0.3μm)とを脱イオン水に配合し、ホモジナイザーによりナノファイバーの固形分濃度が0.3体積%、混合ナノファイバー/アルミナ粉末粒子の体積比が18.0になるようにして分散体11を得た。なお、塗布工程及び整形工程は、上記実施例1と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜10の厚みは、112μmであった。
【0078】
《実施例12》
本実施例12においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、プレス成形法を行ってセラミックス成形体を得た。
【0079】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
上記実施例2と同じセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とを使用し、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.13体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.2になるようにして分散体12を調整した。
【0080】
1-2.塗布操作
得られた分散体12をφ30の金型表面に噴霧塗布後に乾燥させ成形面に離型膜12を得た。得られた離型膜12の厚みは、34μmであった。
【0081】
2.成形工程
次に、アルミナ混合粉(固形分濃度80体積%、平均粒子径11μm)を離型膜11が形成された金型に流しこみ、プレス成形圧60kNでプレス成形を行った。
【0082】
《実施例13》
本実施例13においては、セルロースナノファイバーの集合体にカーボン粉末粒子が並存した単層構造の離型膜を使用し、シート成形法を行ってセラミックス成形体を得た。
【0083】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
上記実施例2と同じセルロースナノファイバーとカーボン粉末粒子とを使用し、セルロースナノファイバーの固形分濃度が0.13体積%、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が1.2になるようにして分散体13を調整した。
【0084】
1-2.塗布操作
得られた分散体13をφ30の金型表面に噴霧塗布後に乾燥させ成形面に離型膜13を得た。得られた離型膜13の厚みは、34μmであった。
【0085】
2.成形工程
次に、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径:0.3μm)を離型膜13が形成された金型にシート状に成形し、自然乾燥させてシート成形を行った。
【0086】
《比較例1》
本比較例1は、上記実施例1に対応するものであって、成形型の成形面に離型膜を形成せず、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径:0.1μm)を多孔質セラミック成形型(組成:アルミナ、気孔率40%)に鋳込み、セラミックス成形体の含水率が13~14重量%の範囲内になるように鋳込み時間を調整して鋳込み成形を行った。
【0087】
《比較例2》
本比較例2は、石こう型を使用した従来の鋳込み成形法を追試したものである。
【0088】
1.離型膜形成工程
1-1.溶解操作
アルギン酸アンモニウムを濃度1重量%になるように、脱イオン水に溶解して水溶液を得た。
【0089】
1-2.塗布操作
得られた水溶液を石こう型に流しこみ、1分間静置させた後に水溶液を排出し、石こう型の成形面にアルギン酸離型膜を得た。得られた離型膜の厚みは、50μmであった。
【0090】
2.成形工程
次に、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径0.3μm)を離型膜が形成された石こう型に鋳込み、セラミックス成形体の含水率が13~14重量%の範囲内になるように鋳込み時間を調整して鋳込み成形を行った。
【0091】
《比較例3》
本比較例3は、上記特許文献1の方法を追試したものである。
【0092】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(和光純薬工業株式会社製;以下「CMC-Na」という)と、このCMC-Naを10%硝酸メタノール溶液で酸型に置換した酸型カルボキシメチルセルロース(以下「CMC-H」という)とを使用した。CMC-Naを6重量部、CMC-Hを4重量部、脱イオン水を250重量部配合し、ホモジナイザーによりCMC-Naが溶解しCMC-Hが分散した分散体を得た。
【0093】
1-2.塗布操作
得られた分散体を多孔質セラミック成形型(組成:アルミナ、気孔率40%)に流しこみ、1分間静置させた後に分散体を排出し、50℃に設定した乾燥機で乾燥した。次に、10%硝酸メタノール溶液に多孔質セラミック成形型を5分間浸漬して不溶化処理を行った。次に、不溶化処理で残った過剰の酸と塩を80%メタノール溶液(メタノール:純水=80:20)で洗浄後、乾燥することで成形型の成形面に離型膜を得た。得られた離型膜の厚みは、50μmであった。
【0094】
2.成形工程
次に、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径0.3μm)を離型膜が形成された多孔質セラミック成形型に鋳込み、セラミックス成形体の含水率が13~14重量%の範囲内になるように鋳込み時間を調整して鋳込み成形を行った。
【0095】
《比較例4》
本比較例4は、上記特許文献2の方法を追試したものである。
【0096】
1.離型膜形成工程
1-1.分散操作
アルミナ粉末(平均粒子径0.3μm)を大気炉で800℃に加熱処理を行い、濃度2重量%のポリビニルアルコール水溶液と50重量%:50重量%になるように配合し、ホモジナイザーにより分散体を得た。
【0097】
1-2.塗布操作
得られた分散体を多孔質セラミック成形型(組成:アルミナ、気孔率40%)に流しこみ、1分間静置させた後に分散体を排出し、成形型の成形面に離型膜を得た。得られた離型膜の厚みは、190μmであった。
【0098】
2.成形工程
次に、アルミナスラリー(固形分濃度50体積%、分散媒:水、平均粒子径0.3μm)を離型膜が形成された多孔質セラミック成形型に鋳込み、セラミックス成形体の含水率が13~14重量%の範囲内になるように鋳込み時間を調整して鋳込み成形を行った。
【0099】
《比較例5》
本比較例5は、上記実施例2に対応するものであって、分散体のセルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比が0.1になるように調整したこと以外は、上記実施例2と同様にして鋳込み成形を行った。なお、得られた離型膜の厚みは、50μmであった。
【0100】
《性能評価》
次に、上記各実施例及び比較例のセラミックス成形体に対して、下記の(1)~(3)の3項目の性能評価を行った。また、一部のセラミックス成形体を焼成して得られたセラミックス焼成体に対して、下記の(4)の性能評価を行った。
(1)離型膜を構成する不溶性粉末粒子によるセラミックス成形体の汚染
セラミックス成形体の表面に、不溶性ナノファイバーで十分に固定されていない不溶性粉末粒子が浮遊していないかを目視、光学顕微鏡、電子顕微鏡により確認した。
(2)成形型から離型した際のセラミックス成形体の破損
セラミックス成形体を成形型から離型した際に、セラミックス成形体に破損などの欠陥が発生してしていないかを目視により確認した。
(3)成形型とセラミックス成形体との密着力
上記(2)の評価項目に関係する値として、成形型とセラミックス成形体との密着力評価を行った。密着力の評価方法は後述する。
(4)セラミックス焼成体に含まれる不純物
実施例1及び実施例2、並びに、比較例2で得られたセラミックス成形体を800℃の大気雰囲気で脱脂を行った後、1600℃の大気雰囲気で焼成を行ってセラミックス焼成体を得た。得られたセラミックス焼成体に対して、蛍光X線分析装置を用いて不純物の評価を行った。
【0101】
《密着力の評価方法》
図6は、成形型とセラミックス成形体との密着力評価方法を示す概要図である。図6において、測定は次のように操作した。まず、成形型を引張試験機の下部治具に固定し、成形型の上面に各実施例又は比較例で得られた分散体を塗布し、離型膜を得る。次に、成形型の周囲を樹脂シートで囲い、その内部にセラミックススラリーを流し込む。その後速やかに、引張試験機のロードセルに接続された測定治具(金属棒の先端に金属メッシュが固定)をセラミックススラリー中に浸漬し、セラミックス成形を行う。成形型によりセラミックススラリーに含まれる分散媒(水)が分離され、測定治具を取り込んだ成形体が得られる。次に、この成形体に取り込まれた測定治具を引張方向に移動させロードセルにより引張荷重を測定する。測定した引張荷重を成形型の成形面の面積(離型膜の面積)で除した引張応力を密着力として評価した。
【0102】
実施例1~13及び比較例1~5の各セラミックス成形体に対する評価項目(1)~(4)の評価結果を表1に示す。なお、表1において、体積比の「-」の記載は、単一成分である場合は体積比がないことを現わし、比較例4の体積比は未測定である。また、不純物の測定値の「-」の記載は未測定であることを現わしている。
【0103】
【表1】
【0104】
表1から分かるように、不溶性ナノファイバーのみからなる離型膜を備えた実施例1、及び、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子とからなる離型膜を備えた実施例2~13のセラミックス成形法は、評価項目(1)及び(2)において良好な評価結果が得られた。これに対して、比較例1及び3においては、評価項目(2)において成形型から離型した際のセラミックス成形体に破損がみられた。比較例1及び3に破損がみられた原因に関しては、評価項目(3)の密着力の値が、実施例1~13に比べ大きな値を示していることから理解できる。一方、比較例4においては、評価項目(1)及び(2)において良好な評価結果が得られている。しかし、比較例4の評価項目(3)の密着力の値が、実施例1~13に比べ大きな値を示していることから、セラミックス成形体に破損が生じる可能性が大きいものと考えられる。
【0105】
また、比較例5においては、評価項目(1)においてセラミックス成形体の汚染がみられた。これは、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比の値が0.1と小さいことに起因すると考えられる。つまり、セルロースナノファイバーの量がカーボン粉末粒子の量に比べて極端に少なかったため、カーボン粉末粒子をセルロースナノファイバーで十分に固定できず、カーボン粉末粒子がセラミックス成形体を汚染したことによる。また、評価項目(4)は、上述のように一部の実施例と比較例においてのみ確認した。その結果、比較例2の石こう型を使用した従来の鋳込み成形法において、セラミックス焼成体に極度のカルシウム汚染がみられ、石こう型からの汚染と考えられる。これに対して、実施例1及び実施例2においては、そのような汚染がなく良好な結果であった。なお、分析は行っていないが、他の実施例3~13においても同様の結果が得られるものと考えられる。
【0106】
このように、実施例1~13においては、評価項目(1)~(4)の全ての項目において良好な結果を得た。特に、セラミックス成形体と成形型の密着力を従来法に比べ最大で20分の1程度まで低減することができた。これは、不溶性ナノファイバーと不溶性粉末粒子とからなる離型膜を用いることで、離型性を大きく向上させることを意味している。このことのより、アルギン酸膜を用いないセラミックス成形法においても、複雑形状や薄肉のセラミックス成形体の作製を可能にするものである。また、セルロースナノファイバー/カーボン粉末粒子の体積比の値が、0.2~20の範囲内にあることで、更に良好な結果が得られることが分かる。
【0107】
これまで説明したように、上記実施形態によれば、従来のアルギン酸離型膜を使用することなく、セラミックス成形体を容易に離型することが可能で、成形体の焼成時にクラックや割れ等の欠陥が生じることのない成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、高純度で且つ複雑形状や薄肉の成形体をセラミックス成形法で作製することを可能にする成形用離型膜及びこれを用いたセラミックス成形法である。本発明に係る成形用離型膜を用いれば、石こう型によるセラミックス成形法では難しかった高純度で且つ高付加価値な部材製品をより効率よく作製することができ、産業分野に大きく貢献することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6