(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140517
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】分光器および分析装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/06 20060101AFI20230928BHJP
G01J 3/32 20060101ALI20230928BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01J3/06
G01J3/32
G01J3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046395
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】尾形 亮磨
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 才明
(72)【発明者】
【氏名】野口 英剛
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020CC05
2G020CC42
2G020CC55
2G020CD03
2G020CD24
(57)【要約】
【課題】分光器を大型化することなく迷光を低減すること。
【解決手段】分光器は、外部からの光を入射させる光入射手段と、前記光入射手段によって入射された前記光を波長分散させる回折格子と、傾きが可変である反射面により光を走査させる走査手段と、前記走査手段によって反射された前記光を外部に出射させる光出射手段と、前記光出射手段からの出射光を検出する光検出手段と、走査始端側遮光手段および走査終端側遮光手段の少なくとも一方と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの光を入射させる光入射手段と、
前記光入射手段によって入射された前記光を波長分散させる回折格子と、
傾きが可変である反射面により光を走査させる走査手段と、
前記走査手段によって反射された前記光を外部に出射させる光出射手段と、
前記光出射手段からの出射光を検出する光検出手段と、
走査始端側遮光手段および走査終端側遮光手段の少なくとも一方と、を有する、分光器。
【請求項2】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記回折格子における有効領域の周辺に設けられた遮光部材を含む、請求項1に記載の分光器。
【請求項3】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記回折格子を支持する基板において前記回折格子の周囲に形成された光吸収膜を含む、請求項1または請求項2に記載の分光器。
【請求項4】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、内壁が遮光部材で覆われた箱状部材を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項5】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記光入射手段から入射された光の正反射成分が前記箱状部材から出射しない角度に形成されている、請求項4に記載の分光器。
【請求項6】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記光検出手段における光検出領域以外の領域に形成された遮光部材を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項7】
前記光入射手段、前記回折格子、前記走査手段および前記光出射手段を収容する筐体を有し、
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記光入射手段に近接して前記筐体に設けられたテーパ付開口を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項8】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記外部からの光が前記光入射手段に入射する手前に設けられた入射前開口部材を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項9】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方は、前記走査手段における可動部以外の領域に設けられた非可動領域遮光部材を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項10】
前記走査始端側遮光手段および前記走査終端側遮光手段の少なくとも一方の表面反射率は、前記回折格子を支持する基板、前記光検出手段における光検出領域以外の領域、および前記走査手段における可動部以外の領域のそれぞれの表面反射率のうち、最も低い表面反射率の10%以下である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の分光器。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の分光器を有する分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定光を分光することにより、波長ごとの分光スペクトルが得られるようにしたいわゆる分光器が知られている。このような分光器は、資源リサイクルのためにプラスチックの材質を判別する用途等の様々な用途において使用される。
【0003】
上記の分光器には、迷光を低減するために、分光器における出口スリットの手前に光軸の方向に沿って複数の突片を有する光トラップ部材を着脱可能に設ける構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分光器では、迷光を低減することが求められる。
【0005】
本発明は、少なくとも走査に付随する迷光を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の分光器は、外部からの光を入射させる光入射手段と、前記光入射手段によって入射された前記光を波長分散させる回折格子と、傾きが可変である反射面により光を走査させる走査手段と、前記走査手段によって反射された前記光を外部に出射させる光出射手段と、前記光出射手段からの出射光を検出する光検出手段と、走査始端側遮光手段および走査終端側遮光手段の少なくとも一方と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、少なくとも走査に付随する迷光を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る分光器の全体構成を例示する斜視図である。
【
図2】
図1におけるII-II切断線に沿った断面図である。
【
図3】反射面角度と光検出部による検出光量との関係例を示す図である。
【
図4】反射面による走査に伴う迷光の第1例を示す図である。
【
図5】反射面による走査に伴う迷光の第2例を示す図である。
【
図6】光吸収膜を有する分光器を例示する断面図である。
【
図7】
図7(a)は光吸収膜を設けた回折格子の正面図、
図7(b)は
図7(a)のA-A断面図である。
【
図8】暗箱部材を有する分光器を例示する断面図である。
【
図10】端部遮光部材を有する分光器を例示する断面図である。
【
図11】
図11(a)は端部遮光部材の第1例の斜視図、
図11(b)は端部遮光部材の第2例の斜視図である。
【
図12】テーパ付開口を有する分光器を例示する断面図である。
【
図14】入射前開口部材を有する分光器を例示する断面図である。
【
図15】非可動領域遮光部材を有する分光器を例示する断面図である。
【
図16】遮光手段による迷光低減効果の一例を示す図である。
【
図17】複数の遮光手段を有する分光器を例示する断面図である。
【
図18】
図17の分光器の遮光手段による迷光低減効果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一の構成部分には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための分光器および分析装置を例示するものであって、本開示を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。
【0011】
[実施形態]
<分光器10の全体構成例>
図1は、実施形態に係る分光器10の全体構成を例示する斜視図である。分光器10は、光入射部1と、凹面回折格子2と、可動光反射部3と、光出射部4と、基板5と、光検出部6と、を有する。
【0012】
光入射部1は、外部からの光Liを入射させる光入射手段の一例である。光入射部1は、第1光通過部11を通して分光器10内に入射させる。光入射部1における第1光通過部11以外の領域は、光Liを通過させない第1非光通過部12を構成している。光入射部1によって入射された光Liは発散光として振舞うが、図では理解しやすいように直線で示している。
【0013】
第1光通過部11は、例えばピンホール形状、スリット形状等を有し、光の入射位置を決定したり、波長分解能を向上させたりするために設けられている。
【0014】
凹面回折格子2は、光入射部1によって入射された光Liを波長分散させる回折格子の一例である。凹面回折格子2は、基板5上に形成されている。凹面回折格子2は、光Liを回折させることにより波長分散させつつ、波長分散光Ldを可動光反射部3に向けて反射する。波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光は、それぞれ集束しながら伝搬して、反射面32上の反射ライン33上の異なる位置に入射し、反射面32により反射される。
【0015】
基板5の材料には、例えば半導体、ガラス、金属、樹脂等を適用できるが、これらに限定されるものではない。なお、凹面回折格子2は、基板5上に直接形成されてもよく、基板5上に形成された薄膜層、例えば樹脂層等の上に形成されてもよい。
【0016】
可動光反射部3は、傾きが可変である反射面32により光を走査させる走査手段の一例である。可動光反射部3は、凹面回折格子2による波長分散光Ldを、反射面32により光出射部4に向けて反射する。
【0017】
可動光反射部3は揺動軸31を有している。可動光反射部3は、揺動軸31周りに揺動することにより、波長分散光Ldを反射する反射面32の傾きを変化させる。波長分散光Ldは、反射面32の傾きに応じて走査される。
【0018】
可動光反射部3は、例えば、半導体基板に半導体プロセス、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセス等によって薄型且つ小型に形成可能である。また、半導体基板に可動光反射部3を形成することにより、圧電駆動、静電駆動、電磁駆動等の駆動素子部を半導体基板上にモノリシックに形成できる。これにより、分光器10は、モータ等の外部駆動装置を用いなくても可動光反射部3を駆動させることができるため、さらなる小型化が可能となる。但し、可動光反射部3が形成される基板は半導体に限定されるものではなく、ガラス、金属、樹脂等であってもよい。
【0019】
光出射部4は、可動光反射部3によって反射された波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光のうち一部の光を、第2光通過部41を通して外部に出射させる光出射手段の一例である。波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光のうち一部の光は、その略焦点位置において第2光通過部41を通って外部に出射する。光出射部4における第2光通過部41以外の領域は、波長分散光Ldを通過させない第2非光通過部42を構成している。
【0020】
第2光通過部41は、例えばピンホール形状、スリット形状等を有し、波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光のうち一部の光の出射位置を決定したり、波長分解能を向上させたりするために設けられている。
【0021】
波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光は、凹面回折格子2を射出した後,波長ごとに収束光として振舞い、第2光通過部41において、その強度分布が第2光通過部41の形状に近づくよう設計されている。ただし図中では,理解しやすいように光束を1つの直線で示しており、以後の説明もこの直線を用いて行うこととする。
【0022】
波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光は、それぞれ反射面32上の反射ライン33上の異なる位置において反射され、光出射部4上の出射ライン43上の異なる位置に入射する。
【0023】
可動光反射部3の反射面32が揺動軸31周りに傾きを変化させることにより、波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光それぞれの出射ライン43上における入射位置が変化する。
【0024】
波長分散光Ldに含まれる異なる波長の光のうち、第2光通過部41の位置に入射する光は、第2光通過部41を通って出射する。光出射部4は、波長分散光Ldに含まれる波長であって、可動光反射部3の揺動角により決定される波長の光を、第2光通過部41を通して出射させることができる。
【0025】
なお、光入射部1および光出射部4についても、基板上に形成されたものであってもよい。この場合、基板の材料には、例えば、半導体、ガラス、金属、樹脂等を適用できるが、これらに限定されるものではない。但し、基板の材料として半導体を用いると、半導体プロセス、MEMSプロセス等を用いて高精度且つ廉価に光入射部1および光出射部4を形成できるため好ましい。
【0026】
光検出部6は、光出射部4からの出射光を検出する光検出手段の一例である。光検出部6には、例えばフォトダイオードを使用できる。近赤外領域の光Liを分光する場合には、InGaAsフォトダイオードが好ましい。
【0027】
分光器10において、上記各構成部は、
図1に示すように所定の位置に配置され、さらに所定の姿勢を維持できるように、筐体や治具等に対して固定されている。
【0028】
本実施形態において、光出射部4の長手方向と、光出射部4の法線方向と、に沿った面を仮想面Sとしたとき、仮想面Sよりも、可動光反射部3による波長分散光Ldの走査が開始する側を走査始端110側とする。仮想面Sよりも、可動光反射部3による波長分散光Ldの走査が終了する側を走査終端120側とする。
【0029】
<凹面回折格子2の構成例>
図2は、凹面回折格子2の構成を例示する図であり、
図1におけるII-II切断線に沿った断面図である。
【0030】
図2に示すように、凹面回折格子2は、反射部材15を有する。具体的には、基板5の上面に凹曲面が形成されており、この凹曲面に回折格子が形成されている。さらに、回折格子の表面に、反射率を向上させるためのAl、Ag、Au、Pt等の金属材料を用いた反射部材15が形成されている。例えば、基板5の凹曲面に対してレジストを塗布し、干渉露光法等を用いてレジストに格子パターンを形成し、ドライエッチング等を行うことにより、基板5の凹曲面に回折格子を形成できる。
【0031】
凹面回折格子2には、例えば、回折格子の溝部の断面形状として、矩形形状、正弦波形状、ノコギリ波形状等を有するものを適用できる。
【0032】
凹面回折格子2は、反射部材15を有さない構成であってもよい。また、凹面回折格子2の構成は、同様の波長分散機能を有するものであれば、
図2に例示したものに限定されない。光入射部1から平行光が入射する場合には、凹面回折格子2の代わりに平面回折格子を用いることによっても、同様の波長分散機能が得られる。この場合には、平面回折格子の傾きを変える構成を採用した場合に必要となる複雑な装置構成(例えば、平面回折格子の前後で光を平行光にするためのコリメート光学系等)は不要である。
【0033】
凹面回折格子2では、基板5の上面に形成された凹曲面に薄膜状の樹脂層が形成され、この樹脂層に回折格子が形成されていてもよい。この場合には、反射率を向上させるために、樹脂層に形成された回折格子の表面に、Al、Ag、Au、Pt等の金属材料を用いた反射部材が形成されることが好ましい。
【0034】
<分光器10における迷光について>
図1および
図2の構成に筐体や支持部材を加えた状態において、照明光学シミュレーションを行ったところ、可動光反射部3の反射面32の角度によって、予期せぬ迷光が発生していることが分かった。
【0035】
図3は、反射面32の角度と光検出部6による検出光量との関係の一例を示す図である。
図3は、分光対象となる波長範囲において、光量が均一な光を分光器10に入射させた時の、可動光反射部3の反射面32の角度に応じた光検出部6による検出光量の変化を示している。
図3では、迷光の状況をわかりやすくするため、凹面回折格子2の回折効率はすべての波長で100%としている。
【0036】
図3において、反射面32の角度が所定角度の場合(
図3では例えば3通りの角度)に、光検出部6による検出光量が大きくなった。この検出光量が大きい光は、迷光30に対応する。迷光30の原因を解析したところ、反射面32による走査光が予期せぬ位置で複数回反射することが主な要因であることが分かった。
【0037】
図4は、反射面32による走査に伴う迷光の第1例を示す図である。
図4は、
図1の構成に、光検出部6を支持する支持部材60と、筐体100と、を追加した分光器10の断面を示している。筐体100は、光入射部1、凹面回折格子2、基板5、可動光反射部3、光出射部4、光検出部6、支持部材60等を内側に収容する箱状部材である。
【0038】
分光器10に入射した後、光検出部6により検出される光には、外部から光入射部1を通過する収束光と、光入射部1から凹面回折格子2に向かう発散光と、凹面回折格子2から光出射部4に向かう収束光と、が含まれる。これらをまとめて有効光束Lbと呼ぶ。有効光束Lbは、分光器10に入射する光Liのうち、分光に使用される光束領域を意味する。
【0039】
図4では、光入射部1前後の有効光束Lbに加えて、迷光の一例である迷光30aの光路を示している。迷光30aは、有効光束Lbに含まれず、正規の光路から外れた光路を進行する光を意味する。
【0040】
外部から光入射部1を通過した迷光30aは、凹面回折格子2を支持する基板5の平坦部で反射された後、可動光反射部3に到達する。迷光30aは、有効光束Lbと同様に、可動光反射部3における反射面32の回転に伴い、光出射部4上を走査され、反射面32が所定の角度の場合に光出射部4を通過して光検出部6に到達し、光検出部6により検出される。
【0041】
図5は、反射面32による走査に伴う迷光の第2例を示す図である。分光器10の外部から筐体100の内側に入り込む迷光30bは、筐体100に設けられた筐体開口101の内壁102で反射され、光入射部1を通過する。その後、迷光30bは、支持部材60、可動光反射部3における非可動部34、光検出部6のエッジ部6w、可動光反射部3の反射面32の順に進行し、光出射部4を通過して光検出部6に到達する。光検出部6のエッジ部6wでは光散乱が生じ、正反射方向とは異なる方向の光が迷光30bの成分となる。
【0042】
本実施形態では、分光器10は、可動光反射部3の反射面32による走査に伴って発生する迷光30aおよび30b等の迷光を、光出射部4の走査始端110側および走査終端120側の少なくとも一方に配置された遮光手段20により低減する。なお、遮光手段20は、走査始端側遮光手段および走査終端側遮光手段の少なくとも一方に対応する。
【0043】
<光吸収膜20aの構成例>
図6および
図7は、遮光手段20の一例としての光吸収膜20aを有する分光器10を例示する図である。
図6は分光器10の断面図、
図7(a)は回折格子の正面図、
図7(b)は
図7(a)のA-A断面図である。
【0044】
光吸収膜20aは、凹面回折格子2を支持する基板5上に設けられた遮光手段の一例である。光吸収膜20aは、光出射部4の走査始端110側に配置された遮光手段に対応する。凹面回折格子2は、回折格子における有効領域に対応し、基板5は回折格子における有効領域の周辺に対応する。
【0045】
例えば、光吸収膜20aが設けられていないと、基板5に入射する迷光30aの光量はほとんど減衰せずに光量が維持される。これに対して、光吸収膜20aを設けると、光吸収膜20aが吸収することにより、基板5の平坦部に入射する迷光30aの光量を低減できる。光吸収膜20aの好ましい反射率について、
図16を参照して後述する。
【0046】
光吸収膜20aは、基板5上に塗布、メッキ、蒸着等により形成される。光吸収膜20aを塗布により形成する場合には、塗料として、黒色顔料を分散させた黒色アクリル塗料等を使用できる。メッキにより形成する場合には、素材として、スズ-ニッケル合金、ニッケル-亜鉛合金、スズ-ニッケル-銅合金等の黒ニッケル材料等を使用できる。蒸着により形成する場合には、クロム膜と酸化ケイ素膜、クロム膜と酸化クロム膜等の交互積層膜で薄膜形成したり、表面に微細凹凸構造を持つ金属膜を形成したりすることにより、光吸収膜20aを形成できる。
【0047】
光吸収膜20aは、凹面回折格子2の有効部に対向する壁面の面積が極めて小さいため、この壁面で反射して迷光になる成分が発生しにくいことが特徴である。
図7では、迷光30aの光路のみに光吸収膜20aを設けているが、加工容易性の観点では、迷光30aの光路を含む基板5全体に光吸収膜20aを設けてもよい。
【0048】
光吸収膜20aは、光吸収膜以外にも、基板5上に貼付した遮光シール等を含んで構成されてもよい。また光吸収膜20aは、遮光すべき領域を別部品で覆うようにして構成されてもよい。但し、この場合には、別部品のエッジ部で光散乱して迷光となる場合があるため、エッジ部での光散乱を抑える対策を行うことが好ましい。
【0049】
以上のように、分光器10は、光出射部4の走査始端110側において、凹面回折格子2を支持する基板5において凹面回折格子2の周囲に形成された光吸収膜20aを含む。光吸収膜20aは、筐体100の内側に設けられるため、分光器10を大型化させるものではない。従って、分光器10は、光吸収膜20aを有することにより、分光器10を大型化したり、構成を複雑化したりすることなく、迷光を低減できる。
【0050】
<暗箱部材20bの構成例>
図8および
図9は、遮光手段の一例としての暗箱部材20bを有する分光器10を例示する図である。
図8は分光器10の断面図、
図9は暗箱部材20bの拡大断面図である。
【0051】
暗箱部材20bは、光検出部6の支持部材60上に設けられる。暗箱部材20bは、その内側の壁である内壁35が遮光部材で覆われた箱状部材である。暗箱部材20bは、内側に入射する迷光30bを、内壁35を覆う遮光部材によって減衰させる。暗箱部材20bは、光出射部4の走査終端120側に配置された遮光手段に対応する。
【0052】
迷光30bの光路は、分光器10に入射する光Liの有効光束Lbに比べて極めて細いため、暗箱部材20bは特定の光線のみを受け取るように構成されればよい。
【0053】
暗箱部材20bの内壁35において、一度の反射で吸収しきれない迷光30bも、暗箱部材20bの内壁35での複数回の反射で確実に吸収され外部に漏れることはない。ここでは矩形状の箱状部材を例示したが、その内側において多数回の反射で光を減衰可能なものであれば暗箱部材20bの形状に特段の制限はない。暗箱部材20bは、内壁35に遮光部材を有するとともに外壁36にも遮光部材を有してもよい。
【0054】
暗箱部材20bは、光入射部1から入射された光Liの正反射成分が暗箱部材20bから出射しない角度に形成されていることが好ましい。
図9において、破線で示した迷光正反射成分30b1は、暗箱部材20bに入射した迷光30bが暗箱部材20bの内側で正反射した光の成分を表している。暗箱部材20bは、この迷光正反射成分30b1が、暗箱部材20bの外側に出ないように構成されている。例えば、暗箱部材20bの内壁35に汚れが付着しており、汚れでの反射により迷光30bの正反射成分が増加した場合にも、迷光正反射成分30b1を遮断できるため、迷光30bの低減効果を好適に得ることができる。
【0055】
以上のように、分光器10は、光出射部4の走査終端120側において、内壁35が遮光部材で覆われた暗箱部材20b(箱状部材)を有する。暗箱部材20bは、筐体100の内側に設けられるため、分光器10を大型化させるものではない。従って、分光器10は、暗箱部材20bを有することにより、分光器10を大型化したり、構成を複雑化したりすることなく、迷光を低減できる。
【0056】
<端部遮光部材20cの構成例>
図10および
図11は、遮光手段の一例としての端部遮光部材20cを有する分光器10を例示する図である。
図10は分光器10の断面図、
図11(a)は第1例に係る端部遮光部材20cを示す斜視図、
図11(b)は第2例に係る端部遮光部材20c1を示す斜視図である。
【0057】
端部遮光部材20cは、光検出部6における光検出領域以外のエッジ部6w等に形成された遮光部材である。光検出部6のパッケージ素材には金属が用いられることが多く、その表面は、被覆されない状態では反射率が高い。従って光検出部6のパッケージ素材の表面、特に光検出部6のエッジ部6w等を端部遮光部材20cにより覆うことによって迷光30bを好適に低減できる。端部遮光部材20cは、光出射部4の走査始端110側および走査終端120側に配置された遮光手段に対応する。
【0058】
図11(a)に示す端部遮光部材20cは、例えば遮光シール等の部材である。
図11(b)に示す端部遮光部材20c1は、例えば光吸収膜である。
【0059】
以上のように、分光器10は、光出射部4の走査始端110側および走査終端120側において、光検出部6における光検出領域以外の領域に形成された端部遮光部材20c(遮光部材)を有する。端部遮光部材20cは、筐体100の内側に設けられるため、分光器10を大型化させるものではない。従って、分光器10は、端部遮光部材20cを有することにより、分光器10を大型化したり、構成を複雑化したりすることなく、迷光を低減できる。
【0060】
<テーパ付開口20dの構成例>
図12および
図13は、遮光手段の一例としてのテーパ付開口20dを有する分光器10を例示する図である。
図12は分光器10の断面図である。
図13はテーパ付開口20dを示す断面図であり、
図13(a)は第1例、
図13(b)は第2例、
図13(c)は第3例、
図13(d)は第4例、
図13(e)は第5例、である。
【0061】
テーパ付開口20dは、光入射部1に近接して筐体100に設けられた筐体開口の一種であり、光入射部1に近づくほど開口の面積が小さくなるテーパ形状を有する。分光器10は、筐体100にテーパ付開口20dを有することにより、迷光30bを外側に反射するため、筐体開口101と比較して、迷光30bが筐体100の内側に進入することを低減できる。テーパ付開口20dは、光出射部4の走査終端120側に配置された遮光手段に対応する。
【0062】
テーパ付開口20dのテーパ形状には様々なものを適用できる。例えば
図13(b)に示すテーパ付開口20d1のように、筐体100の強度を保つために、テーパ付開口20dの一部を、テーパを有さない形状にしてもよい。また
図13(c)に示すテーパ付開口20d2のように、筐体100の強度を保ちつつ、迷光30bの遮断効果を上げるために、テーパ付開口20dの一部を、逆テーパ形状にしてもよい。さらに
図13(d)に示すテーパ付開口20d3のように、テーパ付開口20dの一部を曲面化してもよいし、
図13(e)に示すテーパ付開口20d4のように、テーパ付開口20dは逆テーパ形状を有してもよい。
【0063】
以上のように、分光器10は、光出射部4の走査終端120側において、光入射部1に近接して筐体100に設けられたテーパ付開口20dを有する。テーパ付開口20dは、筐体100に設けられるため、分光器10を大型化させるものではない。従って、分光器10は、テーパ付開口20dを有することにより、分光器10を大型化したり、構成を複雑化したりすることなく、迷光を低減できる。
【0064】
<入射前開口部材20eの構成例>
図14は、遮光手段の一例としての入射前開口部材20eを有する分光器を例示する断面図である。
【0065】
図14に示すように、入射前開口部材20eは、外部からの光Liが光入射部1に入射する手前に設けられ、入射前開口107を有する箱状部材である。
図14に示すように、入射前開口107は、光入射部1に近づくにつれ、開口面積が大きくなるテーパ形状を有することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0066】
分光器10は、入射前開口部材20eを有することにより、筐体100の筐体開口101を通過可能な光Liの入射角度を制限できるため、迷光30aを好適に抑制できる。入射前開口部材20eは、光出射部4の走査終端120側に配置された遮光手段に対応する。
【0067】
<非可動領域遮光部材20fの構成例>
図15は、遮光手段の一例としての非可動領域遮光部材20fを有する分光器10を例示する断面図である。
【0068】
非可動領域遮光部材20fは、可動光反射部3における反射面32以外の領域に設けられた遮光部材である。非可動領域遮光部材20fには、塗布や蒸着で形成した光吸収膜等を使用できる。塗布では、塗料として、黒色顔料を分散させた黒色アクリル塗料等を使用できる。蒸着では、クロム膜と酸化ケイ素膜、クロム膜と酸化クロム膜等の交互積層膜で薄膜形成したり、表面に微細凹凸構造を持つ金属膜を形成したりすることにより膜形成できる。非可動領域遮光部材20fは、光出射部4の走査始端110側および走査終端120側の両方にわたって配置された遮光手段に対応する。
【0069】
光吸収膜は、壁面の面積が極めて小さいため、この壁面で反射して迷光30bになる成分が発生しにくいことが特徴である。光吸収膜以外にも、遮光シールを貼付することも可能である。遮光すべき領域を別部品で覆う構造を採用することもできる。但し、この場合には、別部品のエッジ部で光散乱し、迷光となる場合があるため、エッジ部での光散乱を抑える対策を行うことが好ましい。
【0070】
分光器10は、非可動領域遮光部材20fを有することにより、可動光反射部3における反射面32以外の領域での反射光を抑制できるため、迷光30bを好適に抑制できる。
【0071】
以上のように、分光器10は、光出射部4の走査始端110側および走査終端120側の両方にわたって、可動光反射部3における反射面32以外の領域に設けられた非可動領域遮光部材20fを有する。非可動領域遮光部材20fは、筐体100の内部に設けられるため、分光器10を大型化させるものではない。従って、分光器10は、非可動領域遮光部材20fを有することにより、分光器10を大型化したり、構成を複雑化したりすることなく、迷光を低減できる。
【0072】
<遮光手段20の反射率について>
遮光手段20の反射率は、凹面回折格子2を支持する基板5、光検出部6における光検出領域以外の領域および可動光反射部3における反射面32以外の領域の各表面反射率のうち、最も低い表面反射率の10%以下であることが好ましい。
【0073】
図16は、遮光手段20による迷光低減効果の一例を示す図である。
図16は、光吸収膜20aを基板5上に蒸着によって形成し、光吸収膜20aの表面反射率を基板5の表面反射率の10%以下にした場合の迷光30の発生状況のシミュレーション結果を示している。光吸収膜20aは、酸化ケイ素と酸化クロムの積層膜からなるものとした。
【0074】
図16において、破線で示したグラフ161は、光吸収膜20aがない場合の検出光量を表し、実線で示したグラフ162は、光吸収膜20aがある場合の検出光量を表している。光吸収膜20aがない場合と比較して迷光30の光量を低減できることがわかった。この迷光30の光量は、例えば、資源リサイクルのためにプラスチックの材質を判別する用途に分光器10を使用する場合に、高い判別率を確保可能なものである。
【0075】
図16では、光吸収膜20aと基板5を例としたが、暗箱部材20b、端部遮光部材20c、入射前開口部材20e、非可動領域遮光部材20f等を遮光手段20としてもよい。遮光手段20の表面反射率を、基板5、光検出部6における光検出領域以外の領域、可動光反射部3における反射面32以外の領域の各表面反射率のうち、最も低い表面反射率の10%以下としても同様の作用が得られる。
【0076】
以上より、遮光手段20の表面反射率を、基板5、光検出部6における光検出領域以外の領域、可動光反射部3における反射面32以外の領域の各表面反射率のうち、最も低い表面反射率の10%以下とすることにより、迷光30bの低減効果を好適に得ることができる。
【0077】
図17は、光吸収膜20a、端部遮光部材20cおよび入射前開口部材20eを有する分光器10の一例を示す断面図である。
図18は、
図17の分光器10における遮光手段20による迷光低減効果の一例を示す図である。
【0078】
図18において、破線で示したグラフ161は、光吸収膜20a、端部遮光部材20cおよび入射前開口部材20eがない場合の検出光量を表している。実線で示したグラフ181は、光吸収膜20a、端部遮光部材20cおよび入射前開口部材20eがある場合の検出光量を表している。
図18から、光吸収膜20a、端部遮光部材20cおよび入射前開口部材20eを設けることにより、迷光30の光量を低減できることが分かった。
【0079】
[その他の好適な実施形態]
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0080】
例えば、実施形態に係る分光器10は、分析装置に用いることができる。このような分析装置は、例えば分光器により得られるスペクトルを分光分析することにより、対象物の樹脂種等を同定し、対象物をリサイクル材料として樹脂種ごとに選別回収するために用いられる。分析装置は、分光器10を有することにより、迷光の影響を抑制した高精度な分析を行うとともに、分析装置を小型化できる。
【符号の説明】
【0081】
1 光入射部(光入射手段の一例)
11 第1光通過部
12 第1非光通過部
2 凹面回折格子(回折格子の一例)
3 可動光反射部(走査手段の一例)
31 揺動軸
32 反射面
33 反射ライン
4 光出射部(光出射手段の一例)
41 第2光通過部
42 第2非光通過部
43 出射ライン
5 基板
6 光検出部(光検出手段の一例)
10 分光器
15 反射部材
20 遮光手段
20a 光吸収膜(遮光手段の一例)
20b 暗箱部材(箱状部材の一例、遮光手段の一例)
20c 端部遮光部材(遮光手段の一例)
20d テーパ付開口(遮光手段の一例)
20e 入射前開口部材(遮光手段の一例)
20f 非可動領域遮光部材(遮光手段の一例)
30、30a、30b 迷光
35 内壁
36 外壁
100 筐体
101 筐体開口
102 内壁
110 走査始端
120 走査終端
Li、Ld 光
Lb 有効光束
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】