(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140601
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】アルミナ粉末及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/021 20220101AFI20230928BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230928BHJP
C23C 24/04 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C01F7/021
B32B9/00 A
C23C24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046516
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】紙 英利
【テーマコード(参考)】
4F100
4G076
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA19
4F100AA19B
4F100AK42
4F100AR00C
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4F100JN01
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4F100YY00C
4G076AA02
4G076AB02
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4G076BA09
4G076BF05
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4K044AA16
4K044AB02
4K044BA13
4K044BB01
4K044CA21
(57)【要約】
【課題】硬度及び透明性に優れる膜を形成できるアルミナ粉末の提供。
【解決手段】0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をT
Xとするとき、
前記ピークAのピーク高さT
A、前記ピークBのピーク高さT
B、及び前記ピークCのピーク高さT
Cが、
(式1)0.7T
X≦T
A≦1.3T
X
(式2)0.7T
X≦T
B≦1.3T
X
(式3)0.7T
X≦T
C≦1.3T
X
を満たすアルミナ粉末である。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、における各ピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(式1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(式2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(式3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たすことを特徴とするアルミナ粉末。
【請求項2】
結晶構造が六方最密充填構造のα-アルミナを含有し、
前記α-アルミナの含有量が34質量%以上である請求項1に記載のアルミナ粉末。
【請求項3】
基材と、
アルミナ層と、を有し、
前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層における基材と対向する表面の、下記式1で表される算術平均粗さRaが、0.08μm以上0.20μm以下であることを特徴とする積層体。
【数1】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形を関数として表す。
【請求項4】
基材と、
アルミナ層と、を有し、
前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層の材料と前記基材とが混在しているアンカー領域を有することを特徴とする積層体。
【請求項5】
請求項1から2のいずれかに記載のアルミナ粉末からなるアルミナ層を有することを特徴とする積層体。
【請求項6】
基材と、
アルミナ層と、
前記基材と、前記アルミナ層と、の間に中間層と、
前記アルミナ層と、前記中間層と、の間に前記アルミナ層及び前記中間層が混在するアンカー領域と、
を有することを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記中間層における、JIS K 5600-5-4:1999に準じて測定する鉛筆硬度において凝集破壊が生じない鉛筆硬度が2H以上である請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1から2のいずれかに記載のアルミナ粉末の製造方法であって、
体積平均粒径が0.5μm以上0.9μm以下のアルミナ粒子1と、体積平均粒径が10μm以上20μm以下のアルミナ粒子2と、を乾式分散処理する分散工程を含むことを特徴とするアルミナ粉末の製造方法。
【請求項9】
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たすアルミナ粉末を、ノズルから基材に噴射する粉末噴射工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粉末及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面にアルミナ層を形成する方法として、エアロゾルデポジション法(以下、AD法と称することがある)が知られている。AD法は常温でアルミナを成膜できるため、熱に弱いプラスチックフィルムなどの基材に対して、その表面をハードコーティングする用途に期待が高まっている。
従来、AD法によりアルミナコーティングを施す基材としては、ステンレス鋼や鉄などの金属材料やガラスを用いるのが一般的であった。しかし、近年、基材として樹脂材料を用い、この樹脂材料にアルミナコーティングを形成する技術開発が進められている。
【0003】
樹脂材料(樹脂基材)へのアルミナコーティングは、基材に対するアルミナの接着性が十分であることが必要とされる。
また、アルミナコーティング膜(以下、「アルミナ膜」又は「アルミナ層」と称することがある)は、単にアルミナを基材に付着させるだけでなく、アルミナコーティング膜(アルミナバルク)の強靱性(強度(硬度)と靭性)が求められる。さらに加えて、アルミナ膜を有する積層体の透明性が求められている。
【0004】
AD法を用いた積層構造体の製造方法としては、例えば、1次無機粒子と有機ポリマーとが共有結合する有機無機ハイブリッド部材を、有機材料の基材の表面に中間層として設け、この中間層の上に無機材料からなる2次粒子の集合体層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、例えば、上記の基材と中間層との間に、応力を緩和する有機ポリマー硬化物層を更に形成することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、硬度の異なるセラミック材料を混合使用することで、セラミック層の成膜で生じる残留圧縮応力を抑制したり、変形しやすい粒子が硬い粒子の隙間を埋めて、粒子間がより強固に密着した緻密なセラミックス膜を形成したりすることにより、剥離しにくいセラミック積層体を得る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
この他にも、透明ではない積層体として、例えば、ジルコニア粉末を粉砕して生じる微粉と、削られた粉体と、からなる粉末の粒度分布が、第1のピーク及び第2のピークを有し、第1のピーク及び第2のピークの高さの比が特定の値となるように粒度分布を調整し、この粉末をAD法により基材上に数十μm以上の膜厚で白色のジルコニア膜を成膜することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、高いガスバリア性を示す金属酸化物膜を成膜するためのp型半導性を有する金属酸化物粒子として、例えば、体積基準の粒度分布が第一極大値と第二極大値とを有し、前記第一極大値が、0.1μm以上5μm未満の範囲にあり、前記第二極大値が、5μm以上50μm未満の範囲にあり、前記第一極大値に対する前記第二極大値の比が0.5以上2.0未満であり、粒子の99%以上が0.1μm以上50μm以下の範囲内にある、p型半導性を有する金属酸化物粒子が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、AD法において、一次粒子の発生割合を増加させ、得られる被膜の硬度や成長速度、及び成長効率に優れる被膜形成方法として、所定の平均粒子径を有する成膜用微粉及び分散用粗粉からなるセラミックス粉体を用いる被膜形成方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、硬度及び透明性に優れる膜を形成できるアルミナ粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段としての本発明のアルミナ粉末は、
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(式1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(式2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(式3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬度及び透明性に優れる膜を形成できるアルミナ粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、AD法によりセラミック粒子が成膜に至る現象の一例を示す概念図(その1)である。
【
図1B】
図1Bは、AD法によりセラミック粒子が成膜に至る現象の一例を示す概念図(その2)である。
【
図1C】
図1Cは、AD法によりセラミック粒子が成膜に至る現象の一例を示す概念図(その3)である。
【
図1D】
図1Dは、AD法によりセラミック粒子が成膜に至る現象の一例を示す概念図(その4)である。
【
図1E】
図1Eは、AD法によりセラミック粒子が成膜に至る現象の一例を示す概念図(その5)である。
【
図2A】
図2Aは、実施例1~3における本発明のアルミナ粉末の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、実施例4~5における本発明のアルミナ粉末の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、比較例1における他のアルミナ粉末の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図2D】
図2Dは、比較例2における他のアルミナ粉末の粒度分布の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の積層体の断面の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、本発明の積層体におけるアルミナ層と他の層との境界線のプロファイルの一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の積層体の製造方法に用いられる粉末噴射装置の一例を示す概略構成図である。
【
図6】
図6は、本発明の積層体を製造する場合に用いるエアロゾルデポジション装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(アルミナ粉末)
本発明のアルミナ粉末は、
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(式1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(式2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(式3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たす。
【0014】
従来の技術では、樹脂材料へのアルミナコーティング技術を工業製品へ適用するとき、基材とアルミナ膜との接着性、及びアルミナ膜の強靱性を高めると同時に、アルミナ膜の成膜による積層体の白色化を抑える課題が残されていた。
AD法によって生成される金属酸化物層の強靱化は、成膜に供する粉体材料、基材、成膜条件によって変化するために条件を一義的に決定できない。このため、強靱性を有する金属酸化物層を得るための成膜条件は、成膜に供する各材料に応じて、最適な条件を見出す必要がある。
また、最終産物である積層体において透明性が求められる場合には、積層体が白色化することを抑制することが要求される。
【0015】
図1A~
図1Eは、AD法によりセラミック粒子11が成膜に至る現象を単純化した一連の概念図である。
AD法によるセラミックコーティングの機構は、
図1A~
図1Eを用いて以下のように説明することができる。すなわち、AD法で基材21(Substrate)に噴射(Spraying)されたセラミック粒子11は、衝突および衝撃(Impact)によりクラック12が生じる(
図1A及び
図1B参照)。
次いで、粒子は微細に破砕され(Crushing)、破砕されたセラミック粒子11の破断面に活性な新生面13が生成される(
図1C参照)。このような新生面13を有する微細な結晶破片は、慣性モーメントと衝突圧力とによって基板上で移動したり、回転したりすることで緻密化(Densification)が進み(
図1D参照)、新生面同士が再結合し、固化(Consolidation)する(
図1E参照)。
【0016】
セラミック膜は、
図1A~
図1Eの順にシーケンシャルな状態変化によって形成されると理解できる。しかし、実際は
図1A~
図1Eの状態が混在していると考えられる。セラミックコーティングは、これらの状態の確率に応じて多様な様相を呈すると推定される。
図1Aの噴射(Spraying)の段階の、基材表面におけるセラミック粒子11のエロージョン(浸食)について着目する。セラミック粒子11が基材に衝突する状態がサンドブラストと大差が無いとき、基材表面はエロージョンが進行する。サンドブラストはメディアサイズに応じてインパクトが異なるように、原料粉に供するセラミック粒子11の粒径がエロージョンの進行度合いを決定すると考えられる。
【0017】
セラミックコーティングを施す基材が、ガラスや金属と異なる脆弱な有機材料を対象にする場合には、とりわけこうしたエロージョンの対策は重要である。
一方、セラミックコーティングが基材表面の強靱化を目的とする場合、基材表面に原料粉が付着するだけの状態では施工の意味をなさないことになる。
よって、AD法によるセラミックコーティングにおける基材のエロージョンと、強靱な金属酸化物表面の生成とを同時に成立する対策が必要となる。
【0018】
本発明のアルミナ粉末は、セラミックコーティングにおける基材のエロージョンと、強靱な金属酸化物表面の生成とを同時に成立させる条件について、鋭意検討を重ねたものである。
本発明の条件を満たすことにより、基材表面に圧粉体が付着しただけのAD法により生成された層とは、鉛筆硬度が異なる表面層を形成するだけでなく、セラミックコーティングの成膜効率に優れる効果が得られる。
(1)0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布を有する粒子はアルミナ層(膜)の厚膜化に寄与し、(2)0.7μm以上3μm未満の粒度分布を有する粒子を加えることで、基材にアルミナ粒子が食い込み易くなる。これにより、表面に生成されるアルミナ層(膜)と基材との間にアルミナのくさび(アンカー)が形成される結果、アルミナ層(膜)の剥離を防ぐことができる。(3)3μm以上20μm未満の粒度分布を有する粒子は、アルミナ膜の強靱化に作用すると考えられる。
【0019】
本発明者らは、粉体材料、基材、及び成膜条件について、AD法の利用を可能にする最適な条件の余裕度を拡げる技術について鋭意検討した結果、複数の特定の粒度分布を有し、各粒度分布を有する粉末が特定の量比で含有されているアルミナ粉末を見出した。
【0020】
まず、本発明のアルミナ粒子の粒度分布について説明する。
本発明のアルミナ粉末は、
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークCを有する。
【0021】
粒度分布のピークの特定は、(1)粒度分布データの数値微分について極性反転する粒径値をピーク値と見なす、(2)粒度分布測定器に付帯する解析ソフトウエアから出力されるピーク値を読み取る、(3)数値解析ソフトウエアに組み込まれるピーク検出機能を利用する、(4)波形画像の観察からピーク値を特定する、などの方法が用いられる。
例えば、
図2Cに示される波形のように、肩のもつピークの特定はピーク分割ソフトウエアを利用するとピークを特定することができる。
前記数値解析ソフトウエアとしては、例えば、The MathWorks社MATLABなどが挙げられる。
前記ピーク分割ソフトウエアとしては、例えば、ライトストーン社ORIGINPROなどが挙げられる。
【0022】
本発明のアルミナ粒子の粒度分布は、以下の条件で測定することができる。
[粒度分布の測定条件]
・レーザ回折/散乱方式の粒子径分布測定装置:MT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定方式:乾式
・測定時における試料の分散に用いる圧力空気圧:0.15MPa
・測定時における温湿度環境:23±1℃、50±3%RH
【0023】
ここで、図面を用いて本発明のアルミナ粉末をより詳細に説明する。
図2Aは、本発明のアルミナ粉末を上述した条件で測定した粒度分布の一例を示すグラフである。
図2Aに示すように、本発明のアルミナ粒子は、粒子径が0.3μm以上1.2μm未満の範囲にピークA(
図2A中の「A」)を有し、粒子径が0.7μm以上3μm未満の範囲にピークB(
図2A中の「B」)を有し、粒子径が3μm以上20μm未満の範囲にピークC(
図2A中の「C」)を有する、粒度分布を有している。
前記ピークAの高さをT
A(%)、前記ピークBの高さをT
B(%)、前記ピークCの高さをT
C(%)とし、前記T
A(%)、前記T
B(%)、及び前記T
C(%)の平均値をT
X(%)とする。このとき、前記T
A(%)、前記T
B(%)、及び前記T
C(%)は、下記式1~式3を満たす。
(式1)0.7T
X≦T
A≦1.3T
X
(式2)0.7T
X≦T
B≦1.3T
X
(式3)0.7T
X≦T
C≦1.3T
X
【0024】
即ち、
図2A中の前記T
A(%)、前記T
B(%)、及び前記T
C(%)が、それぞれ0.7T
X以上1.3T
X以下の範囲に収まっている。
なお、
図2A中の「各ピークにおける粒子径」及び「各符号の数値」は以下の通りである。
・ピークAの粒子径:0.69μm
・ピークBの粒子径:1.6μm
・ピークCの粒子径:11μm
・ピークAの高さをT
A(%):2.6%
・ピークBの高さをT
B(%):3.6%
・ピークCの高さをT
C(%):4.2%
・各ピークの高さの平均値T
X(%):3.5%
・1.3T
X(%):4.55%
・0.7T
X(%):2.45%
【0025】
本発明のアルミナ粉末の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球状、板状、不定形状などが挙げられる。
【0026】
本発明のアルミナ粉末の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α、γ、θなどが挙げられる。
【0027】
本発明のアルミナ粉末は、結晶構造が六方最密充填構造のα-アルミナを含有することが好ましい。結晶構造が六方最密充填構造である前記α-アルミナを含有すると、鉛筆硬度を向上させることができる。
【0028】
前記α-アルミナの含有量としては、34質量%以上が好ましく、90質量%以上99.5質量%以下がより好ましい。
【0029】
本発明のアルミナ粉末において、0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布の粒子の含有量としては、(式1)0.7TX≦TA≦1.3TXである。また、TA≦TBの関係であることが好ましく、TA≦TB≦TCの関係であることがより好ましい。
前記アルミナ粉末において、0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布の粒子の含有量が上記範囲であると、全光線透過率と鉛筆硬度の双方を同時に向上させることができる。
【0030】
また、本発明のアルミナ粉末において、0.7μm以上3μm未満の粒度分布の粒子の含有量としては、(式2)0.7TX≦TB≦1.3TXである。また、TA≦TBの関係であることが好ましく、TA≦TB≦TCの関係であることがより好ましい。
前記アルミナ粉末において、0.7μm以上3μm未満の粒度分布の粒子の含有量が上記範囲であると、全光線透過率と鉛筆硬度の双方を同時に向上させることができる。
【0031】
また、本発明のアルミナ粉末において、3μm以上20μm未満の粒度分布の粒子の含有量としては、(式3)0.7TX≦TC≦1.3TXである。また、TA≦TBの関係であることが好ましく、TA≦TB≦TCの関係であることがより好ましい。
前記アルミナ粉末において、3μm以上20μm未満の粒度分布の粒子の含有量が上記範囲であると、全光線透過率と鉛筆硬度の双方を同時に向上させることができる。
【0032】
本発明のアルミナ粉末は、さらに必要に応じてその他の成分を含有する。
【0033】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流動化剤、固結防止剤などが挙げられる。
【0034】
前記その他の成分の含有量としては、本発明のアルミナ粉末の効果を阻害しない程度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
前記アルミナ粉末としては、後述するアルミナ粉末の製造方法により製造する。
【0036】
(アルミナ粉末の製造方法)
本発明のアルミナ粉末の製造方法は、本発明のアルミナ粉末の製造方法であって、分散工程を含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0037】
<分散工程>
前記分散工程は、体積平均粒径が0.5μm以上0.9μm以下のアルミナ粒子1と、体積平均粒径が10μm以上20μm以下のアルミナ粒子2とを乾式分散処理する工程である。
【0038】
前記乾式分散処理としては、例えば、下記条件によって分散する処理などが挙げられる。
<条件>
・乾式分散機
・分散媒体:PSZ(部分安定化ジルコニア)ボール(株式会社ニッカトー製、直径3mm)
・分散媒体充填量:2.5kg
・周速:4±2m/s
・フィード(供給)量:1±0.5kg/h
・目開き:1.5±0.5mm
・分散助剤:100%エタノール(分散質量全体に対して1±1質量%)
・分散時間:60±30分間
【0039】
前記乾式分散機としては、例えば、商品名で、ドライスターSDA1(アシザワ・ファインテック株式会社製)などが挙げられる。
前記乾式分散処理の分散媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、YTZボール、PSZボール、アルミナボール、瑪瑙ボールなどが挙げられる。前記分散媒体の市販品としては、例えば、商品名で、PSZ(部分安定化ジルコニア)ボール(株式会社ニッカトー製、直径3mm)などが挙げられる。
前記乾式分散処理における分散媒体の充填量としては、特に制限はないが、分散機ベッセル容量の70体積%±15体積%であることが好ましい。
【0040】
前記アルミナ粒子1と、前記アルミナ粒子2とを、前記条件により前記乾式分散処理することによって、下記条件を満たすアルミナ粒子を得ることができることを、本発明者は見出した。
<アルミナ粉末>
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たす。
【0041】
前記粒度分布は、下記条件で測定することができる。
[粒度分布の測定条件]
・レーザ回折/散乱方式の粒子径分布測定装置:MT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定方式:乾式
・測定時における試料の分散に用いる圧力空気圧:0.15MPa
・測定時における温湿度環境:23±1℃、50±3%RH
【0042】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
(積層体)
本発明の積層体としては、以下に説明する第1の態様~第2の態様が挙げられる。
【0044】
[第1の態様]
本発明の第1の態様にかかる積層体は、
基材と、
アルミナ層と、を有し、さらに必要に応じてその他の層を有する。
第1の態様における本発明の積層体は、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層における基材と対向する表面の、下記式1で表される算術平均粗さRaが、0.08μm以上0.20μm以下である。
【数1】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形の関数を表す。
【0045】
<基材>
前記基材としては、基板として使用することができるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0046】
前記基材の材質としては、例えば、有機材料、無機材料などが挙げられる。
前記有機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、可撓性を有する基材、可塑性を有する基材などが挙げられる。
前記有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、多環式オレフィンポリマー(COP)、熱可塑性ポリウレタン、トリ-アセチルセルロース(TAC)などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シート形状、フィルム形状、ブロック形状などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記基材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層のシート、単層のシートを複数積層した多層体などが挙げられる。
【0049】
前記基材の構造及び大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0050】
前記基材の平均厚みとしては、10μm以上2000μm以下が好ましく、75μm以上200μm以下がより好ましい。
【0051】
<アルミナ層>
前記アルミナ層は、本発明のアルミナ粉末を含有する層である。
【0052】
前記アルミナ層の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
第1の態様における本発明の積層体は、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層における基材と対向する表面の、下記式1で表される算術平均粗さRaが、0.08μm以上0.20μm以下である。
【数2】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形の関数を表す。
【0054】
図面を参照してさらに詳細に説明する。
図3は、本発明の積層体の基材を平面視した面と直交する方向における断面の一例を示す断面図である。
図3に示すように、本発明の積層体は、基材21と、アルミナ層22と、アンカー領域23とを有している。
本発明の積層体は、基材11に対して、本発明のアルミナ粉末をAD法により噴射することによって製造されるため、基材21の表面にアルミナ粉末が食い込み、埋没した状態になる。埋没したアルミナ粉末の上にさらにアルミナ粒子が衝突、破砕、緻密化、及び固化することで、一体の膜状のアルミナ層が形成されている。
アンカー領域23は、積層体の製造工程で、基材21の表面に埋没したアルミナ粒子の一部から構成されている。このように、基材とアルミナ粉末が入り組んで混在する領域を本発明ではアンカー領域と称する。
このように、本発明の積層体は、アンカー領域を有することによって、アルミナ層が基材から剥離しにくくし、靭性及び接着性に優れるアルミナ層(膜)とすることができる。
【0055】
<アンカー領域>
前記アンカー領域は、前記基材と前記アルミナ層との境界線(界面)の凹凸具合を定義することで製品づくりに結び付けられる。
前記アンカー領域としては、アルミナ層における凹凸を有する領域を意味し、以下の方法により測定及び定義する領域を意味する。
【0056】
まず、前記基材に、直接又は後述する中間層を介してアルミナ層が設けられる積層体について、前記基材を平面視した面と直交する方向において、集束イオンビーム(FIB)加工を施すことで
図3に示す積層体の層構造が観察可能な電子顕微鏡用の断面試料を得る。
材料や目的に応じて試料の断面出しは、ミクロトームやクロスセクションポリッシャーを用いることもできる。
前記基材と前記アルミナ層との境界線(界面)の凹凸具合は、この断面試料を観察して測定及び算出する。
極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(装置名:GeminiSEM 300、ZEISS製)を用いて、加速電圧2kV以下の条件で、観察試料のSEM像又はSTEM像等の画像データを取得する。
前記アルミナ層と、前記アルミナ層と前記基材との境界線は、極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡を用いたSEM画像、SEM-EDS画像などの画像解析により行うことができる。
SEM画像を用いた場合においては、得られた画像のコントラストの違いにより境界線を検出する。
また、SEM-EDS画像を用いる場合には、EDS検出器(装置名:GeminiSEM 300、ZEISS製)を実装した顕微鏡を用いる。このとき、SEM画像取得時における電子線の照射エネルギーは3.0×10
-7J/Sとする。取得したSEM画像と同一の電子線照射エネルギーでEDS測定を行い、アルミナ由来の元素(例えば、アルミニウムなど)、基材由来の元素(例えば、炭素など)と、それ以外の元素を色分けした画像を得る(以下、SEM-EDS画像と称する)。
【0057】
この画像データにおいて、前記基材と前記アルミナ層との境界線(界面)の凹凸具合を強調するために、画像データの二値化又はエッジの抽出処理を施し、境界線を際立たせ、その輪郭を2次元の数値データとしてデジタイズする。
画像データから境界線の数値データへのデジタイズは、画像解析ソフトにより実施する。前記画像解析ソフトとしては、例えば、image J(NIH)、Image-Pro Plus(Media cybernetics社)などが挙げられる。
本発明の積層体においては、この境界線(凹凸具合)を、前記アルミナ層における前記基材と対向する表面の平均粗さとみなして、アンカー領域の性状の一つを表している。即ち、本発明の積層体において、アルミナ層のアンカー領域の凹凸プロファイルとして評価することで、所望の凹凸プロファイルをもつ積層体の設計が可能になる。
本発明において、前記平均粗さとしては、一般的なパラメータとして、下記式1で表される算術平均粗さ(Ra)の算定式により算出する。
【数3】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形の関数を表す。
【0058】
前記式1中、f(x)で表される測定波形の関数は、前記画像解析ソフトにより抽出した輪郭を測定波形とし、この測定波形に基づき前記画像解析ソフトから出力し、得ることができる。
【0059】
前記式1中、全測定長Lとは、本発明の積層体の基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記算術平均粗さRaを測定した測定長さ(基準長さとも称する)の全長を意味する。例えば、
図4の場合であれば、
図4ではPosition(μm)が0μmから14μmの位置までにおいて粗さを測定しているため、この時の全測定長Lは14μmとなる。
【0060】
前記式1で表される算術平均粗さRaとしては、0.08μm以上0.20μm以下であり、0.10μm以上0.18μm以下が好ましく、0.12μm以上0.16μm以下がより好ましい。
前記式1で表される算術平均粗さRaが0.08μm以上であると、Raが小さくなりすぎることでアンカー領域がアルミナ層側に狭隘となり、アルミナ層が基材から剥がれやすくなることを抑制することができる。また、前記式1で表される算術平均粗さRaが0.20μm以下であると、アルミナ層を薄膜にした場合、Raが大きくなりすぎてアルミナ層が不連続となる状態が生じて、引っ掻き耐性が低下することを抑制することができる。このため、前記算術平均粗さRaが0.08μm以上0.20μm以下であると優れた強度のアルミナ層とすることができる。
なお、
図3の画像データに対し、基材とアルミナ層との境界線をデジタイズして得られた数値データの散布図を
図4に例示する。この曲線から算出される算術平均粗さRaは0.16μmである。
【0061】
前記アルミナ層における本発明のアルミナ粉末の含有量としては、アルミナ層全量に対して、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましく、98質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0062】
前記アルミナ層の平均厚みとしては、0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.3μm以上3μm以下がより好ましい。前記アルミナ層の平均厚みが、0.3μm以上3μm以下であると、アルミナ層(膜)の硬度及び透明性を向上させることができる。
前記アルミナ層の平均厚みの測定方法としては、例えば、支持体として直径φ100mm、長さ380mmのアルミニウム管に、本発明の積層体を、アルミニウム管の曲面に沿って巻き付けた状態にし、アルミニウム管の長手方向にて、端部から100mmの位置から50mm間隔に300mmの位置まで5箇所の厚みを測定する。測定位置を変更して5箇所の測定を合計20回行い、合計100点の厚みデータを得る。厚みの測定は特許第5521607号公報に準じて光干渉を利用する方法によって行う。得られたデータの平均値から厚みを求めるとともに、標準偏差を求める。
なお、他の方法として、前記アルミナ層の平均厚みを測定する場合には、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、凹凸部(アンカー領域)を除いたアルミナ層の領域のみの厚みを測定する。前記アルミナ層の平均厚みは、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、境界線と接するが交差せず、基材の底面の直線と平行な直線Lを引き、直線L上の任意の10点において、直線Lと垂直方向のアルミナ層の最表面との距離を10点測定する(例えば、
図4参照)。
【0063】
[第2の態様]
本発明の第2の態様にかかる積層体は、
基材と、
アルミナ層と、
前記基材と、前記アルミナ層と、の間に中間層と、
前記アルミナ層と、前記中間層と、の間に前記アルミナ層及び前記中間層が混在するアンカー領域と、を有し、さらに必要に応じてその他の層を有する。
【0064】
<基材>
前記基材としては、前記第1の態様と同様である。
【0065】
<アルミナ層>
前記アルミナ層としては、前記第1の態様と同様である。
【0066】
<中間層>
前記中間層は、前記基材と、前記アルミナ層と、の間に配される層である。
前記中間層を設けることによって、前記基材にアルミナ粉末を接触させずに前記アルミナ層を配することができるため、前記基材の表面が傷つくことを抑え、前記基材が白色化することを抑制することができる。前記基材が白色化することを抑制することができるため、透明性を有する積層体を得ることができる。
【0067】
前記中間層としては、JIS K 5600-5-4:1999に準じて測定する鉛筆硬度における「凝集破壊」と「塑性変形」の評価項目のうち、「凝集破壊」が生じない鉛筆硬度がH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましい。前記中間層のJIS K 5600-5-4:1999に準じて測定する鉛筆硬度において凝集破壊が生じない鉛筆硬度が2H以上であると、前記基材の表面が傷つくことを抑え、透明性を有する積層体を得ることができる。
【0068】
前記中間層の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0069】
前記中間層の材質としては、特に制限はなく、例えば、有機材料、有機無機ハイブリット材料などが挙げられる。
前記有機材料としては、例えば、ウレタン樹脂などが挙げられる。
前記有機無機ハイブリット材料としては、例えば、シルセスキオキサン及びウレタン樹脂の混合物などが挙げられる。
【0070】
前記中間層としては、合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コンポセランSQシリーズ(荒川化学工業製)などが挙げられる。
【0071】
前記中間層の平均厚みとしては、1μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上60μm以下がより好ましい。前記中間層の平均厚みが、20μm以上60μm以下であると、中間層と基材との接着強度と見かけの鉛筆硬度を向上させることができる。
【0072】
本発明の積層体において、前記中間層と前記アルミナ層の境界線(界面)の凹凸具合、即ち、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面における前記中間層と前記アルミナ層の境界線(界面)及び算術平均粗さRaとしては、前記第1の態様と同様の方法により検出及び算出することができる。なお、前記中間層を検出する際にSEM-EDS画像を用いる場合には、前記中間層に由来する元素として炭素などを検出する。
【0073】
前記中間層を配する方法としては、前記基材に前記アルミナ層を配する前に、前記中間層形成材料を付与する方法などが挙げられる。
前記中間層形成材料を前記基材に付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ローラー、カーテンコート、インクジェットなどが挙げられる。
【0074】
<アンカー領域>
前記アンカー領域は、前記アルミナ層と、前記中間層と、の間に前記アルミナ層及び前記中間層が混在する領域である。
前記アンカー領域としては、前記第1の態様において、前記アルミナ層が食い込む下地となる層を、前記基材から前記中間層に変更する以外は、前記第1の態様と同様である。
【0075】
本発明の積層体は、例えばディスプレー、太陽電池の支持体、保護フィルムなどに専ら好適に適用することができる。
【0076】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、アルミナ粉末をノズルから基材に噴射する粉末噴射工程を含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0077】
<粉末噴射工程>
前記粉末噴射工程は、アルミナ粉末をノズルから基材に噴射する工程である。
【0078】
-アルミナ粉末-
前記アルミナ粉末は、
0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をTXとするとき、
前記ピークAのピーク高さTA、前記ピークBのピーク高さTB、及び前記ピークCのピーク高さTCが、
(1)0.7TX≦TA≦1.3TX
(2)0.7TX≦TB≦1.3TX
(3)0.7TX≦TC≦1.3TX
を満たす。
【0079】
前記アルミナ粉末は、本発明のアルミナ粉末と同様である。
【0080】
前記アルミナ粉末をノズルから前記基材に噴射する方法としては、エアロゾルデポジション法などが挙げられる。
【0081】
[エアロゾルデポジション(AD)法]
前記エアロゾルデポジション(AD)法とは、予め準備された微粒子、乃至超微粒子をガスと混合してエアロゾル化し、ノズルを通して製膜対象物(基板)に噴射して被膜を形成する技術である。
前記AD法の特徴として、常温環境での製膜が可能であり、原材料の結晶構造をほぼ維持した状態で製膜を行うことができる。
【0082】
前記エアロゾルデポジション法によって、アルミナ層を形成する方法について説明する。
この場合には
図6に示すようなエアロゾルデポジション装置を用いる。
図6に示すガスボンベ110には、エアロゾルを発生させるための不活性な気体が貯蔵されている。ガスボンベ110は配管120aを介してエアロゾル発生器130に連結され、配管120aはエアロゾル発生器130の内部に引き出されている。エアロゾル発生器130の内部には一定量のアルミナ粉末200が投入される。エアロゾル発生器130に連結されるもう1つの配管120bは、成膜チャンバ140の内部で噴射ノズル150に接続される。
【0083】
本発明では、エアロゾル発生器130の内部にアルミナ粉末200を投入してエアロゾルを発生させて、配管120bを通じて噴射ノズル150に接続されていてもよい。
【0084】
成膜チャンバ140の内部において基板ホルダ170には、噴射ノズル150に対向するように基板160が保持される。ここでは、基板160としてシリンダー形状の有機材料の支持体、無機材料の支持体、感光体、太陽電池、EL素子等の電子デバイスが用いられる。成膜チャンバ140には、成膜チャンバ140内の真空度を調整するための排気ポンプ180が配管120cを介して接続される。
【0085】
図示はしないが、本実施形態のエアロゾルデポジション装置は、基板ホルダ170を回転手段170aで回転させながら噴射ノズル150を横方向に一定速度で移動させる機構を備える。噴射ノズル150を横方向に移動させながら成膜を行うことにより、基板160の上に所望の面積のアルミナ層を形成することができる。
【0086】
アルミナ層を形成する工程では、まず、圧空バルブ190を閉じ、排気ポンプ180で成膜チャンバ140からエアロゾル発生器130までを真空引きする。次に、圧空バルブ190を開くことにより配管120aを通じてガスボンベ110内の気体をエアロゾル発生器130に導入し、アルミナ粉末200を容器内に撒き上げ、気体中にアルミナ粉末200が分散した状態のエアロゾルを発生させる。発生したエアロゾルは配管120bを通じてノズル150より基板160に向けて高速で噴射される。圧空バルブ190を開いた状態で0.5秒間経過すると、次の0.5秒間は圧空バルブ190を閉じる。その後、再び圧空バルブ190を開き、0.5秒間の周期で圧空バルブ190の開閉を繰り返す。ガスボンベ110からの気体の流量は5リットル/分、成膜時間は1時間とし、圧空バルブ190が閉じている時の成膜チャンバ140内の真空度を10Pa程度とし、圧空バルブ190が開いている時の成膜チャンバ140内の真空度を100Pa程度とする。
【0087】
エアロゾルの噴射速度は噴射ノズル150の形状、配管120bの長さや内径、ガスボンベ110のガス内圧、排気ポンプ180の排気量(成膜チャンバ140の内圧)などにより制御される。例えば、エアロゾル発生器130の内圧を数万Paとし、成膜チャンバ140の内圧を数十から数百Paとし、噴射ノズル150の開口部の形状を内径1mmの円形状とした場合、エアロゾル発生器130と成膜チャンバ140との内圧差により、エアロゾルの噴射速度を数百m/秒間とすることができる。成膜チャンバ140の内圧を5Pa~100Paに、エアロゾル発生器130の内圧を50,000Paに保てば、空孔率5%~30%の金属酸化物層を形成することができる。この条件でエアロゾルを供給する時間を調整することにより、アルミナ層の平均厚みを0.1μm~10μmに調整することが好ましい。
アルミナ層の平均厚みは、個々の用途により適正な厚みにすることができる。
【0088】
加速されて運動エネルギーを得たエアロゾル中のアルミナ粉末200が基板160に衝突して、衝撃エネルギーで細かく破砕される。そして、これらの破砕粒子が基板160に接合されること、及び破砕粒子同士が接合されることにより、基材の上にアルミナ層が順次形成される。
【0089】
成膜は複数回のラインパターン及び支持体の回転によって形成される。基板(ドラム)ホルダ170や噴射ノズル150を、基板160の表面における縦方向及び横方向にスキャンさせながら所望の面積のアルミナ層を形成する。
【0090】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0092】
-アルミナ粉末の調製-
--原料粒子の調製--
乾式分散機(ドライスターSDA1、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて、アルミナ1(スミコランダムAA-07、D50粒径:0.9μm、住友化学株式会社製)とアルミナ2(スミコランダムAA-18、D50粒径:20μm、住友化学株式会社製)とをそれぞれ別々に、以下に示す条件で分散処理を施した。
-分散条件-
・乾式分散機:ドライスターSDA1(アシザワ・ファインテック株式会社製)
・分散媒体:PSZ(部分安定化ジルコニア)ボール(株式会社ニッカトー製、直径:3mm)
・分散媒体充填量:2.5kg
・周速:4m/s
・フィード(供給)量:1kg/h
・目開き:1.5mm
・分散助剤:100%エタノール(分散質量全体に対して1質量%)
・分散時間:120分間
分散処理後、180℃で3時間の加熱乾燥を行うことで回収粉体に含まれる分散助剤を除去した。
以上の分散処理後のアルミナ1をAA-07#1、アルミナ2をAA-18#1と称することにする。
【0093】
--アルミナ粉末1(混合物1)の調製--
AA-07#1 100質量部と、AA-18#1 600質量部と、アルミナ3(スミコランダムAA-1.5、D50粒径:1.7μm、住友化学株式会社製)400質量部とを表1に記載の組成で2リットルポリ容器に仕込み、これをターブラーミキサー(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製)で10分間混合攪拌することでアルミナ粉末1(混合物1)を得た。スミコランダムAA-1.5は、原料のまま用いた。
得られたアルミナ粉末1の粒度分布は、以下の条件で測定した。結果を
図2A及び表1に示す。
[粒度分布の測定条件]
・レーザ回折/散乱方式の粒子径分布測定装置:MT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定方式:乾式
・測定時における試料の分散に用いる圧力空気圧:0.15MPa
・測定時における温湿度環境:23±1℃、50±3%RH
【0094】
(実施例1)
基材(ポリエステルフィルム、ルミラー75T60、東レ株式会社)の表面に向けて、エアロゾルデポジッション(AD法)で混合物1を原料とする粉体を吹き付けた。
具体的には、基材を、直径φ100mm、長さ380mmのアルミニウム管(日軽金アクト株式会社製)の表面に貼り合わせたものを基材支持体としてAD法に使用した。
アルミニウム管に対してスリットノズルをアルミニウム管の真上に配置し、アルミニウム管長手方向に、左右に移動しながら基材表面に向けてアルミナ粉末1(混合物1)を下記条件で吹き付けた。
なお、スリットノズルの左右の移動速度は塗工速度として固定し、エアロゾルデポジッションが行われる間は所定の速度でアルミニウム管を回転させた。
-噴射(成膜)条件-
・原料:混合物1
・混合物の水分量:0.2%以下(カールフィッシャー水分量計による測定値)
・金属酸化物粒子を容器へ仕込むときの露点温度:-53℃
・エアロゾル化ガス種:ドライエアー
・エアロゾル化ガス流量:8L/min(総量)
・成膜チャンバ内の真空度:70Pa
・ノズルの粉体吐出部分のスリット形状:幅1mm、長さ10mmの矩形形状
・ノズル角度:75°
・スリットノズルと基材の距離:20mm
・塗工速度:20mm/min
・アルミニウム管の回転速度:20rpm
・塗工回数:6回(3往復)
ここで、ノズル角度とはノズルの移動方向に対するスリットノズルの配置角度を表す。
図5にその概念図を示す。
図5は、本発明の積層体の製造方法における粉末噴射工程の一例を示す概念図である。
図5は、アルミニウム管50の真上に配置したスリットノズル51を真上から見た方向からの概念図を示している。
図5に示すように、ノズル角度θとは、左右に移動するスリットノズル51の移動方向Dを基軸として、スリットノズル51のスリット52の傾きをこの角度としている。
このようにして、フィルム1を得た。フィルム1において、アルミナ層の平均厚みは0.5μm、基材とアルミナ層との境界線の算術平均粗さRaは0.18μmであった。
【0095】
アルミナ層の平均厚みは、前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、境界線と接するが交差しない、基材の底面の直線と平行な直線Lを引き、直線L上の任意の10点において、直線Lと垂直方向のアルミナ層の最表面との距離を10点測定した。
【0096】
算術平均粗さRaは、以下のようにして、測定及び算出した。
まず、前記基材に、直接アルミナ層が設けられる積層体について、前記基材を平面視した面と直交する方向において、集束イオンビーム(FIB)加工を施すことで
図3に示す積層体の層構造が観察可能な電子顕微鏡用の断面試料を得た。
前記基材と前記アルミナ層との境界線(界面)の凹凸具合は、この断面試料を観察して測定及び算出した。
極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(装置名:GeminiSEM 300、ZEISS製)を用いて、加速電圧2kV以下の条件で、観察試料のSEM像又はSTEM像等の画像データを取得した。
次に前記アルミナ層と、前記アルミナ層と前記基材との境界線は、極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡を用いたSEM-EDS画像の画像解析により行った。
EDS検出器(装置名:GeminiSEM 300、ZEISS製)を実装した極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡を用いた。SEM画像取得時における電子線の照射エネルギーは3.0×10
-7J/Sとする。取得したSEM画像と同一の電子線照射エネルギーでEDS測定を行い、アルミナ由来の元素(例えば、アルミニウムなど)、基材由来の元素(例えば、炭素など)とそれ以外の元素を色分けした画像を得る(以下、SEM-EDS画像と称する)。
【0097】
この画像データにおいて、前記基材と前記アルミナ層との境界線(界面)の凹凸具合を観察する目的で、画像データの二値化又はエッジの抽出処理を施し、境界線を際立たせ、その輪郭を2次元の数値データとしてデジタイズした。これらの処理は、画像解析ソフトimage J(NIH)を使用した。
さらに、画像解析ソフトimage J(NIH)により境界線の波形を測定波形の関数として出力し、下記式1で表される算術平均粗さ(Ra)の算定式により算出した。
【0098】
【数4】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形の関数を表す。
【0099】
なお、実施例1において、Lは14μmであった。
【0100】
(実施例2)
実施例1において、使用する基材をアクリルフィルム(商品名:テクノロイS001G、平均厚み188μm、住化アクリル販売株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルム2を得た。フィルム2において、アルミナ層の平均厚みは0.8μm、基材とアルミナ層との境界線の算術平均粗さRaは0.14μmであった。
【0101】
(実施例3)
実施例1において、アルミナ粉末を噴射する前に基材表面に下記組成の中間層形成液をドクターブレードで塗布し、次いで加熱乾燥することで基材表面に厚み5μmの中間層を形成した。その後に、実施例1においてアルミナ粉末の噴射条件において下記条件を変更したAD法によりアルミナ層を形成した以外は、実施例1と同様にして、フィルム3を得た。フィルム3において、アルミナ層の平均厚みは1.3μm、基材とアルミナ層との境界線の算術平均粗さRaは0.08μmであった。
[中間層形成液]
・シルセスキオキサン(コンポセランSQ107、荒川化学工業株式会社製)100質量部
・イソシアネート(コロネートHX、東ソー株式会社製)61質量部
・触媒(U-CAT SA102、サンアプロ株式会社製)0.13質量部
・エチレングリコールジメチルエーテル(富士フィルム和光純薬株式会社製)359質量部
[中間層形成液の付与条件]
ドクターブレード(YD型、ミツトヨ精機)を用いて塗料を掃引することで中間層形成液を付与して成膜した。
掃引時の基材とドクターブレードの隙間は50μmとした。
[中間層の加熱乾燥条件]
75℃の温度で20分間加熱乾燥した後、120℃の温度で20分間の加熱乾燥をした。
-噴射(成膜)条件-
・エアロゾル化ガス流量:5L/min(総量)
・成膜チャンバ内の真空度:50Pa
・ノズル角度:80°
【0102】
なお、実施例3において、基材上に形成した中間層に対して、2H濃度の鉛筆(鉛筆硬度試験用鉛筆ユニ、三菱鉛筆社)を用いるJIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆硬度試験を行った。鉛筆硬度試験には、表面性試験機TYPE:38(新東科学社)に鉛筆硬度試験用ホルダーを取り付けた試験器を用いた。23℃50%の環境下、60mm/minの速度で、10mm長さを鉛筆芯で中間層表面を引っ掻いた。この引っ掻いた部位を共焦点顕微鏡OPTELICS H-1200(レーザーテック社)を用いて観察したところ、塗膜の凝集破壊は認められなかった。
【0103】
(実施例4)
実施例3において、アルミナ粉末1をアルミナ粉末2(AA-07#1 100質量部、AA-18#1 200質量部、スミコランダムAA-1.5 133質量部)に変更した以外は、実施例3と同様にして、フィルム4を得た。フィルム4において、アルミナ層の平均厚みは1.3μm、基材とアルミナ層との境界線の算術平均粗さRaは0.09μmであった。
なお、アルミナ粉末2の粒度分布は、アルミナ粉末1と同様の条件で測定した。結果を
図2B及び表1に示す。
【0104】
(実施例5)
実施例3において、中間層形成液の組成を以下の組成に変更した以外は、実施例3と同様にして、フィルム5を得た。フィルム5において、アルミナ層の平均厚みは3.0μm、基材とアルミナ層との境界線の算術平均粗さRaは0.08μmであった。
[中間層形成液]
・シリコーンハードコート塗料(NSC-5506、日本精化社製)380質量部
・トリメチルエトキシシラン(東京化成工業株式会社)20質量部
・テトラヒドロフラン(三菱ケミカル株式会社)1556質量部
・シクロペンタノン(関東化学株式会社)444質量部
【0105】
なお、実施例3と同様にして、基材上に形成した中間層に対して、2H濃度の鉛筆(鉛筆硬度試験用鉛筆ユニ、三菱鉛筆社)を用いるJIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆硬度試験を行った。引っ掻いた部位を共焦点顕微鏡OPTELICS H-1200(レーザーテック社)を用いて観察したところ、塗膜の凝集破壊が生じていた。
【0106】
(比較例1)
実施例3において、アルミナ粉末1をアルミナ粉末3(AA-07#1 100質量部、AA-18#1 67質量部、スミコランダムAA-1.5 44質量部)に変更した以外は、実施例3と同様にして、フィルム6を得た。フィルム6において、アルミナ層の平均厚みは0,01μmであった。なお、基材とアルミナ層との境界線の判別が部分的に不能であったため、算術平均粗さRaは算出できなかった。
なお、アルミナ粉末3の粒度分布は、アルミナ粉末1と同様の条件で測定した。結果を
図2C及び表1に示す。
【0107】
(比較例2)
実施例3において、アルミナ粉末1をアルミナ粉末4(スミコランダムAA-07、住友化学株式会社製)に変更した以外は、実施例3と同様にして、フィルム7を得た。フィルム7において、アルミナ層の平均厚みは0,01μm未満であった。なお、基材とアルミナ層との境界線の判別が部分的に不能であったため、算術平均粗さRaは算出できなかった。
なお、アルミナ粉末4の粒度分布は、アルミナ粉末1と同様の条件で測定した。結果を
図2Dに示す。
【0108】
(比較例3)
実施例3において、アルミナ粉末の粉末噴射工程を実施しなかった以外は、実施例3と同様にして、フィルム8を得た。フィルム8において、アルミナ層を形成していないため、アルミナ層の平均厚みは測定できず、及び算術平均粗さRaは算出できなかった。
【0109】
【0110】
【0111】
なお、表2中、括弧内の数値は、3ピーク高さの平均値Txに対する割合を表す。
また、本実施例において、粒度分布のピークの特定は、粒度分布測定装置に付帯する計測ソフトウエア(dms2、マイクロトラック・ベル社製)を用いて行った。
【0112】
次に、得られたフィルム1~8において、以下のようにして、「鉛筆硬度試験」、「全光線透過率」を測定及び評価した。結果を表3に示した。
【0113】
-鉛筆硬度試験-
試験は表面性試験機TYPE:38(新東科学株式会社)を用いて、JIS-K5600-5-4:1999に準じて行った。試験荷重は750gfとした。評価が4H以上であれば実使用可能である。
【0114】
-全光線透過率(%)-
積分球試料台セットを取り付けた紫外可視近赤外分光光度計UV-3600(株式会社島津製作所製)を用いてフィルムの全光線透過率(%)を測定した。85%以上であれば実使用可能である。
【0115】
【0116】
実施例の結果から、本発明のアルミナ粉末は、AD法によるセラミックコーティングがしやすく、得られたフィルムにおいて、基材の透明性を損ねることなく、強度の高いアルミナ層(膜)が得られた。
また、中間層を設けることにより、基材の白化を抑制することができ、全光線透過率を向上させることができた。
比較例1及び2のフィルムでは、アルミナ層が形成されているとは言えず、得られたアルミナ層の強度が低かった。
【0117】
本発明の態様としては例えば以下のとおりである。
<1> 0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、における各ピーク高さの平均値をT
Xとするとき、
前記ピークAのピーク高さT
A、前記ピークBのピーク高さT
B、及び前記ピークCのピーク高さT
Cが、
(式1)0.7T
X≦T
A≦1.3T
X
(式2)0.7T
X≦T
B≦1.3T
X
(式3)0.7T
X≦T
C≦1.3T
X
を満たすことを特徴とするアルミナ粉末である。
<2> 結晶構造が六方最密充填構造のα-アルミナを含有し、
前記α-アルミナの含有量が34質量%以上である前記<1>に記載のアルミナ粉末である。
<3> 基材と、
アルミナ層と、を有し、
前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層における基材と対向する表面の、下記式1で表される算術平均粗さRaが、0.08μm以上0.20μm以下であることを特徴とする積層体である。
【数5】
なお、式1中、Lは、全測定長を表し(ただし、前記Lは8μm以上16μm以下)、xは、測定位置を表し、f(x)は、測定波形の関数を表す。
<4> 基材と、
アルミナ層と、を有し、
前記基材を平面視した面と直交する方向の断面において、前記アルミナ層の材料と前記基材とが混在しているアンカー領域を有することを特徴とする積層体である。
<5> 前記<1>から<2>のいずれかに記載のアルミナ粉末からなるアルミナ層を有することを特徴とする積層体である。
<6> 基材と、
アルミナ層と、
前記基材と、前記アルミナ層と、の間に中間層と、
前記アルミナ層と、前記中間層と、の間に前記アルミナ層及び前記中間層が混在するアンカー領域と、
を有することを特徴とする積層体である。
<7> 前記中間層における、JIS K 5600-5-4:1999に準じて測定する鉛筆硬度において凝集破壊が生じない鉛筆硬度が2H以上である前記<6>に記載の積層体である。
<8> 前記<1>から<2>のいずれかに記載のアルミナ粉末の製造方法であって、
体積平均粒径が0.5μm以上0.9μm以下のアルミナ粒子1と、体積平均粒径が10μm以上20μm以下のアルミナ粒子2と、を乾式分散処理する分散工程を含むことを特徴とするアルミナ粉末の製造方法である。
<9> 0.3μm以上1.2μm未満の粒度分布におけるピークA、
0.7μm以上3μm未満の粒度分布におけるピークB、及び
3μm以上20μm未満の粒度分布におけるピークC、におけるピーク高さの平均値をT
Xとするとき、
前記ピークAのピーク高さT
A、前記ピークBのピーク高さT
B、及び前記ピークCのピーク高さT
Cが、
(1)0.7T
X≦T
A≦1.3T
X
(2)0.7T
X≦T
B≦1.3T
X
(3)0.7T
X≦T
C≦1.3T
X
を満たすアルミナ粉末を、ノズルから基材に噴射する粉末噴射工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法である。
【0118】
前記<1>から<2>のいずれかに記載のアルミナ粉末、前記<3>から<7>のいずれかに記載の積層体、前記<8>に記載のアルミナ粉末の製造方法、及び前記<9>に記載の積層体の製造方法によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。