(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014062
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230119BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230119BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230119BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61P31/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113514
(22)【出願日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2021118204
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保田 朋波流
(72)【発明者】
【氏名】下岡 清美
(72)【発明者】
【氏名】坂口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】横崎 恭之
(72)【発明者】
【氏名】西道 教尚
(72)【発明者】
【氏名】橋口 隆生
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】SARS-CoV-2を中和するための技術の提供。
【解決手段】所定の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を含む、単離された、SARS-CoV-2に結
合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合にお
いて前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗
原結合領域を含む抗体断片。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(IV)、(II)、(III)、及び(I)のうちいずれか一の重鎖および軽鎖
のアミノ酸配列を含む、
単離された、
SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は
前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と
競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片。
(IV):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号16のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号17のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号18のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号19のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号20のアミノ酸配列である。
(II):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号6のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号8のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号9のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号10のアミノ酸配列である。
(III):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号11のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号12のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号13のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号14のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GNNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号15のアミノ酸配列である。
(I):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号3のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号4のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GKNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸配列である。
【請求項2】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体が下記の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を含む、請求項
1に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗
体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む
抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片。
前記(IV)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号45のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号46のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号47のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号48のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号49のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号50のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号51のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号52のアミノ酸配列である。
前記(II)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号29のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号30のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号32のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号34のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号35のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号36のアミノ酸配列である;
前記(III)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号37のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号38のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号39のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号41のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号42のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号43のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号44のアミノ酸配列である;
前記(I)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号21のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号22のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号23のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号24のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号25のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号26のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号27のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号28のアミノ酸配列である;
【請求項3】
請求項1又は2に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結
合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原
結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片を含
む、医薬組成物。
【請求項4】
COVID-19の予防又は治療のための、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結
合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原
結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片のタ
ンパク質部分をコードする、単離されたDNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗SARS-CoV-2抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年に発生した感染症であり、コロナウイ
ルス科ベータコロナウイルス属の新型コロナウイルス(ベータコロナウイルス属のコロナ
ウイルス(2020年1月に中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を
有することが新たに報告されたものに限る。以下、「SARS-CoV-2 (Severe acute respira
tory syndrome coronavirus 2)」と称することがある。)による急性呼吸器症候群をいう
。
【0003】
ウイルスに結合して無力化する抗体は「中和抗体」と称される。SARS-CoV-2に対する中
和抗体が開発されれば、COVID-19の特効薬として利用できることが期待されている。SARS
-CoV-2に対する中和抗体は、これまでに複数開発されている(非特許文献1~4)。
【0004】
SARS-CoV-2に対する中和能の指標となるIC50値や、変異株に結合するエピトープ特性は
、中和抗体ごとに大きく異なる。COVID-19の治療薬として有用なレベルのIC50値は20 ng/
ml以下であるところ、SARS-CoV-2に対する有効な中和能が確認されている抗体は、現在ま
で日本国内において報告がない。一方で、日本以外では、REGN10933やREGN10987(いずれ
もRegeneron社)や、LY3819253(Eli Lilly社)が既に開発され、市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Seydoux et al., Immunity, 53, 98-105 (2020)
【非特許文献2】Hansen et al., Science, 369, 1010-1014 (2020)
【非特許文献3】Liu et al., Nature, 584, 450-456 (2020)
【非特許文献4】Kreer et al., Cell, 182, 843-854 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、SARS-CoV-2を中和するための技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定のアミノ酸配列を含む
抗体が、SARS-CoV-2に対して中和能を有することを見出した。
【0008】
本発明は下記態様を提供することができる。
<1>下記(IV)、(II)、(III)、及び(I)のうちいずれか一の重鎖および
軽鎖のアミノ酸配列を含む、
単離された、
SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は
前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と
競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片。
(IV):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号16のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号17のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号18のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号19のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号20のアミノ酸配列である。
(II):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号6のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号8のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号9のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号10のアミノ酸配列である。
(III):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号11のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号12のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号13のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号14のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GNNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号15のアミノ酸配列である。
(I):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号3のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号4のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GKNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸配列である。
【0009】
<2>前記SARS-CoV-2に結合する抗体が下記の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を含む、<
1>に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む
抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含
む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片。
前記(IV)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号45のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号46のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号47のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号48のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号49のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号50のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号51のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号52のアミノ酸配列である。
前記(II)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号29のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号30のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号32のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号34のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号35のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号36のアミノ酸配列である;
前記(III)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号37のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号38のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号39のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号41のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号42のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号43のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号44のアミノ酸配列である;
前記(I)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号21のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号22のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号23のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号24のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号25のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号26のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号27のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号28のアミノ酸配列である;
【0010】
<3><1>又は<2>に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその
抗原結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはそ
の抗原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断
片を含む、医薬組成物。
<4>COVID-19の予防又は治療のための、<3>に記載の医薬組成物。
<5><1>又は<2>に記載の、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその
抗原結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはそ
の抗原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断
片のタンパク質部分をコードする、単離されたDNA。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SARS-CoV-2を中和するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る実施例の結果を示すグラフである。詳細には、検体と、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結合するIgG抗体の濃度との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の一態様に係る実施例の結果を示すグラフである。詳細には、検体とウイルス中和能との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す図である。詳細には、FACSの結果を示す図である。
【
図4A】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す写真である(図面代用写真)。詳細には、κとλの軽鎖のPCR増幅産物(750 bp程度の塩基長)のアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【
図4B】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す写真である(図面代用写真)。詳細には、IgG重鎖のPCR増幅産物(1,400 bpの塩基長)のアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【
図5】本発明の一態様に係る実施例の結果を示すグラフである。詳細には、従来株(武漢株)のSタンパク質のRBD(receptor binding domain)タンパク質への結合能を100%としたときの、B.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株)のSタンパク質のRBDタンパク質、B.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)のSタンパク質のRBDタンパク質への抗体の相対結合能(%)を示すグラフである。
【
図6】本発明の一態様に係る実施例の結果を示すグラフである。詳細には、従来株(武漢株)のSタンパク質のRBD(receptor binding domain)タンパク質への抗体の結合能を測定した際の結果を示すグラフである。
【
図7A】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す図である。詳細には、(a) RBDタンパク質表面のモデルにおいて抗体NCV2SG48の結合サイトを示した図と、(b) B.1.1.529変異株(オミクロン株)の変異箇所を示した図である。
【
図7B】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す図である。詳細には、RBDタンパク質表面のモデルにおいて抗体NCV2SG48の結合サイトを示した図であって、体細胞変異(somatic mutations)によって追加された水素結合を併せて示した図である。
【
図8A】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す図である。詳細には、RBDタンパク質表面のモデルにおいて抗体NCV2SG53の結合サイトを示した図である。
【
図8B】本発明の一態様に係る実施例の結果を示す図である。詳細には、RBDタンパク質のE484残基と抗体NCV2SG53との相互作用には多数の水素結合が介在していることを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施
形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0014】
本発明の一態様は、
下記(I)~(IV)のうちいずれか一の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を含む、
単離された、
SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は
前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と
競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片である。
(I):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号3のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号4のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GKNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸配列である。
(II):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号6のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号8のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号9のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号10のアミノ酸配列である。
(III):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号11のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号12のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号13のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号14のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GNNであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号15のアミノ酸配列である。
(IV):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号16のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号17のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号18のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号19のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、及び
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号20のアミノ酸配列である。
【0015】
前記(I)において、前記重鎖のCDR1~CDR3及び軽鎖のCDR1~CDR3の
アミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、それぞれ、前記配列番号1~
4、GKN、前記配列番号5で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列で
あってもよい。
このことは、前記(II)~(IV)においても同様である。
【0016】
前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」とは、前記所定のアミノ酸配列との間で、次
第に好ましくなる順に、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上
、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を意味する。
前記同一性については、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National
Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラ
インメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用
いて計算して算出することができる。
また、前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」は、前記所定のアミノ酸配列において
、1~複数個のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入又は付加がなされたアミノ酸配列であっ
てもよい。前記複数個とは、例えば、2個、3個、4個である。
【0017】
該置換は保存的置換が好ましい。「保存的置換」とは、ペプチドの活性を実質的に改変
しないように、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることであ
る。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同
じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合等が挙げられる。このような置換を行
うことができる機能的に類似のアミノ酸の例として、非極性(疎水性)アミノ酸としては
、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルア
ラニン、メチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン
、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられる。陽電
荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる
。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙
げられる。
【0018】
前記「単離された」とは、生体内に存在するものではないことを意味する。例えば、あ
る個体で産生され、該個体内に存在する状態の抗体は含まれない。
【0019】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗
体、ヒト抗体であってもよい。いずれの抗体も、既知の方法を用いて製造することができ
る。
【0020】
また、前記SARS-CoV-2に結合する抗体の重鎖定常領域は、IgG(例えば、IgG1、
IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2
)、IgE、IgM、IgDのいずれの定常領域であってもよい。
前記SARS-CoV-2に結合する抗体の軽鎖定常領域は、κまたはλである。
【0021】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、SARS-CoV-2に対して結合能を有する。
前記SARS-CoV-2に結合する抗体のSARS-CoV-2に対する結合能は、その態様に特に制限は
ないが、例えば、解離定数を指標とすることができる。該解離定数を指標とするとき、例
えば、前記SARS-CoV-2に結合する抗体とSARS-CoV-2との該解離定数(KD)は、次第に好ま
しくなる順に、175 nM以下、50 nM以下、10 nM以下、5 nM以下、3 nM以下、2.60 nM以下
、2.50 nM以下である。
また、会合速度定数(ka)としては、次第に好ましくなる順に、5.0×104 Ms-1以上、8
.0×104 Ms-1以上、1.0×105 Ms-1以上、3.0×105 Ms-1以上である。
また、解離速度定数(kd)としては、次第に好ましくなる順に、1.0×10-3 s-1以下、9
.0×10-4 s-1以下、8.0×10-4 s-1以下、5.0×10-4 s-1以下、2.0×10-4 s-1以下である
。
前記解離定数、前記会合速度定数、前記解離速度定数は、例えば、表面プラズモン共鳴
法を用いた測定法等の常法により測定することができる。
【0022】
前記SARS-CoV-2に対する結合能は、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に
対する結合能であってもよいし、SARS-CoV-2のSタンパク質の受容体結合ドメイン(recep
tor binding domain (RBD))タンパク質に対する結合能であってもよい。
尚、前記「Sタンパク質」とは、スパイクタンパク質のことである。
【0023】
前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質は、SARS-CoV-2のSタンパク質の細
胞外ドメインが三量体を形成したものであり、前記SARS-CoV-2に結合する抗体が結合能を
有するものであれば特に制限されない。例えば、前記SARS-CoV-2がSARS-CoV-2(従来株(
武漢株))であれば、例えば、表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_009724
390.1)中のSタンパク質の細胞外ドメイン(amino acids: 12-1213)の三量体等が挙げら
れる。
【0024】
前記SARS-CoV-2のSタンパク質のRBDタンパク質とは、受容体結合領域であり、前記SARS
-CoV-2に結合する抗体が結合能を有するものであれば特に制限されない。例えば、前記SA
RS-CoV-2がSARS-CoV-2(従来株(武漢株))であれば、例えば、表面糖タンパク質(NCBI
Reference Sequence: YP_009724390.1)中のSタンパク質のRBDタンパク質(amino acids
: 322-536)等が挙げられる。
【0025】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する。
前記SARS-CoV-2に結合する抗体のSARS-CoV-2に対する中和能は、その態様に特に制限は
ないが、例えば、半数阻害濃度(IC50値)を指標とすることができる。該IC50値を指標と
するとき、該IC50値は、次第に好ましくなる順に、10,000 ng/ml以下、1,100 ng/ml以下
、1,000 ng/ml以下、850 ng/ml以下、800 ng/ml以下、750 ng/ml以下、600 ng/ml以下、5
00 ng/ml以下、400 ng/ml以下、300 ng/ml以下、100 ng/ml以下、60 ng/ml以下、55 ng/m
l以下、52 ng/ml以下、50 ng/ml以下、40 ng/ml以下、35 ng/ml以下、34 ng/ml以下、30
ng/ml以下、27 ng/ml以下、26 ng/ml以下、25 ng/ml以下、20 ng/ml以下、19 ng/ml以下
、15 ng/ml以下、11 ng/ml以下、10 ng/ml以下、5.0 ng/ml以下、4.0 ng/ml以下、3.8 ng
/ml以下、3.0 ng/ml以下、2.9 ng/ml以下、2.5 ng/ml以下、2.4 ng/ml以下、2.3 ng/ml以
下、2.0 ng/ml以下、1.7 ng/ml以下、1.5 ng/ml以下、1.4 ng/ml以下、1.2 ng/ml以下、1
.1 ng/ml以下、1.0 ng/ml以下、0.9 ng/ml以下、0.8 ng/ml以下、0.7 ng/ml以下、0.5 ng
/ml以下である。
前記IC50値は、例えば、後述する実施例に記載したように、SARS-CoV-2を感染させる宿
主細胞に、SARS-CoV-2と、段階的に希釈した前記SARS-CoV-2に結合する抗体との混合液を
適用して、細胞変性効果(CPE)が出現するまで培養するなどして、常法に従って算出す
ることができる。
【0026】
前記SARS-CoV-2としては、前記SARS-CoV-2に結合する抗体により中和されるSARS-CoV-2
である限り特に制限されないが、例えば、
従来株(本願出願時において「武漢株」、「Wuhan-Hu-1株」などと称されることがある
。)、
B.1.1.7変異株(本願出願時において「アルファ株」、「英国株」などと称されること
がある。RBD (amino acids: 328-533)の変異はN501Yである。)、
B.1.351変異株(本願出願時において「ベータ株」、「南ア株」などと称されることが
ある。RBDの変異はK417N/E484K/N501Yである。)、
B.1.1.248変異株(本願出願時において「ガンマ株」、「ブラジル株」などと称される
ことがある。RBDの変異はK417T/E484K/N501Yである。)、
B.1.525変異株(本願出願時において「イータ株」、「ナイジェリア株」などと称され
ることがある。RBDの変異はE484Kである。)、
B.1.429変異株(本願出願時において「イプシロン株」、「カリフォルニア株」などと
称されることがある。RBDの変異はL452Rである。)、
P.2変異株(本願出願時において「ゼータ株」などと称されることがある。RBDの変異は
E484Kである。)、
P.3変異株(本願出願時において「シータ株」、「フィリピン株」などと称されること
がある。RBDの変異はE484K/N501Yである。)、
B.1.617.1変異株(本願出願時において「カッパ株」、「インド株」などと称されるこ
とがある。RBDの変異はL452R/E484Qである。)、
B.1.617.2変異株(本願出願時において「デルタ株」、「インド株」などと称されるこ
とがある。RBDの変異はL452R/T478Kである。)、
前記B.1.617.2変異株から変異したデルタプラス変異株(本願出願時において「デルタ
株」、「インド株」などと称されることがある。RBDの変異はL452R/T478Kである。)、
B.1.526変異株(本願出願時において「イオタ株」などと称されることがある。RBDの変
異はS477N/E484Kである。)、
C.37変異株(本願出願時において「ラムダ株」などと称されることがある。RBDの変異
はL452Q/F490Sである。)、
B.1.1.114系統(本願出願時において「欧州系統(第1波)」などと称されることがある。
)、
B.1.1.284系統(本願出願時において「欧州系統(第2波)」などと称されることがある。
)、
B.1.1.214系統(本願出願時において「欧州系統(第3波)」などと称されることがある。
)
B.1.1.529変異株(本願出願時において「オミクロン株」などと称されることがある。R
BDの変異はG339D/S371L/S373P/S375F/K417N/N440K/G446S/S477N/T478K/E484A/Q493R/G496
S/Q498R/N501Y/Y505Hである。)、
B.1.1変異株(本明細書では「B.1.1系統」と記載することがある。国立大学法人広島大
学で単離されたSARS-CoV-2/JP/Hiroshima-46059T/2020株であり、その完全ゲノム配列がG
enBankにて「Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 isolate SARS-CoV-2/h
uman/JPN/JP_Hiro46059c/2020, complete genome」に定義されるものである。Sタンパク
質の変異はD614Gであり、RBDに変異はない。従来株の塩基配列を基準にすると全部で9つ
の塩基に変異が生じている。)、
等が挙げられる。
前記SARS-CoV-2としては、SARS-CoV-2の疑似ウイルス(「シュードウイルス」や「シュ
ードタイプウイルス」と称されることもある。)であってもよい。疑似ウイルスは、前記
SARS-CoV-2を用いて、例えば、後述する実施例に記載するような常法により作製したもの
であってよいし、例えば、B.1変異株(B.1.1.114系統(欧州系統(第1波))のスパイクタ
ンパク質のみを発現させたものであり、Sタンパク質の変異はD614Gであり、RBDに変異は
ない。)等であってもよい。
本態様において前記SARS-CoV-2としては、一でもよいし複数でもよい。
【0027】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、可変領域が下記のアミノ酸配列を含むことが好まし
い。
前記(I)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号21のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号22のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号23のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号24のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号25のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号26のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号27のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号28のアミノ酸配列である;
前記(II)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号29のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号30のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号32のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号34のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号35のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号36のアミノ酸配列である;
前記(III)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号37のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号38のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号39のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号41のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号42のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号43のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号44のアミノ酸配列である;
前記(IV)の場合:
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号45のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号46のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号47のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号48のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号49のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号50のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号51のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号52のアミノ酸配列である。
【0028】
前記(I)において、前記重鎖のFR1~FR4及び軽鎖のFR1~FR4のアミノ酸
配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、それぞれ、前記配列番号21~28で
表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
このことは、前記(II)~(IV)においても同様である。
【0029】
前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」の定義、及び、該置換の態様は、既出の説明
を援用する。
尚、前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」は、前記所定のアミノ酸配列において、
1~複数個のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入又は付加がなされたアミノ酸配列であって
もよい。前記複数個とは、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個である。
【0030】
前記(I)の重鎖可変領域(前記(I)の重鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と重鎖の
FR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号61で表される。前記(I)の重鎖
可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番号61
で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記(I)の軽鎖可変領域(前記(I)の軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と軽鎖の
FR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号62で表される。前記(I)の軽鎖
可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番号62
で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記(II)の重鎖可変領域(前記(II)の重鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と重
鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号63で表される。前記(II)
の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番
号63で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記(II)の軽鎖可変領域(前記(II)の軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と軽
鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号64で表される。前記(II)
の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番
号64で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記(III)の重鎖可変領域(前記(III)の重鎖のCDR1~3のアミノ酸配列
と重鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号65で表される。前記(I
II)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記
配列番号65で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい
。
前記(III)の軽鎖可変領域(前記(III)の軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列
と軽鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号66で表される。前記(I
II)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記
配列番号66で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい
。
前記(IV)の重鎖可変領域(前記(IV)の重鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と重
鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号67で表される。前記(IV)
の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番
号67で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記(IV)の軽鎖可変領域(前記(IV)の軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列と軽
鎖のFR1~4とからなる)のアミノ酸配列は、配列番号68で表される。前記(IV)
の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して中和能を有する限り、前記配列番
号68で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」の定義、及び、該置換の態様は、既出の説明
を援用する。
尚、前記「高い同一性を有するアミノ酸配列」は、前記所定のアミノ酸配列において、
1~複数個のアミノ酸配列が置換、欠失、挿入又は付加がなされたアミノ酸配列であって
もよい。前記複数とは、例えば、2~25から選ばれる自然数である。
【0031】
前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、配列情報に基づいて化学合成・遺伝子組み換え等の
当分野で通常用いられている技術を用いて取得することができる。
また、その製造においては、得られた前記SARS-CoV-2に結合する抗体を回収する工程を
含んでもよい。当該回収工程は、精製工程、濃縮工程等であってよい。当該精製工程では
、公知の精製技術を用いることができ、前記SARS-CoV-2に結合する抗体が均一になるまで
精製してもよい。
【0032】
次に、前記SARS-CoV-2に結合する抗体の抗原結合領域を含む抗体断片について説明する
。
「抗原結合領域」とは、抗体中に存在する領域であって、抗原を認識できる領域のこと
をいう。
「抗原結合領域を含む抗体断片」とは、抗体の一部分を含むタンパク質であり、抗原に
結合できるものをいう。抗体断片の例としては、F(ab')2 、Fab'、Fab 、Fv (variable f
ragment of antibody)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv)、およびこれらの重合
体等が挙げられる。当該抗体断片は、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性
ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵
素、他の抗体などの機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合していてもよい。
【0033】
次に、前記SARS-CoV-2との結合において前記SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗
原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片に
ついて説明する。
例えば、このような「抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片」を「本態様にお
ける一形態に係る抗体等」と称し、「前記SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結
合領域を含む抗体断片」を「参照抗体等」と称するならば、本態様における一形態に係る
抗体等が前記SARS-CoV-2との結合において「参照抗体等と競合する」とは、本態様におけ
る一形態に係る抗体等が結合するSARS-CoV-2上の部位と、前記参照抗体等が結合するSARS
-CoV-2上の部位とが同一であること、又は、本態様における一形態に係る抗体等が、前記
参照抗体等とSARS-CoV-2との結合の立体的障害となるSARS-CoV-2上の部位に結合すること
を意味する。すなわち、本態様における一形態に係る抗体等は、前記参照抗体等のエピト
ープと完全に又は部分的に同じエピトープを認識する。
【0034】
本態様における一形態に係る抗体等を同定するためには、当技術分野で通常用いられて
いる競合アッセイが使用されてよい。例えば、本態様における一形態に係る抗体等が過剰
に存在する場合、SARS-CoV-2に対する参照抗体等の結合を少なくとも10%以上、15%
以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、5
0%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、又はそれ以
上阻止する(例えば、低減させる)。
このような競合アッセイにおける抗体等のSARS-CoV-2への抗体抗原結合は、当業者であ
れば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能であり、そのような方
法としてはELISA法、EIA法、表面プラズモン共鳴法、FRET法、LRET法等
が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体等及び/又は抗原(SARS-CoV-2)
を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理
的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能で
ある。
【0035】
本発明の他の一態様は、前記態様に係る「SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原
結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗
原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片」
のタンパク質部分をコードする、単離されたDNAである。
【0036】
当技術分野の当業者であれば、前記SARS-CoV-2に結合する抗体のアミノ酸配列に基づい
て、そのタンパク質部分をコードするDNA配列を容易に設計することができる。また、こ
れを用いて公知の遺伝子工学的手法により公知の操作をすることができる。
【0037】
例えば、前記SARS-CoV-2に結合する抗体は、抗体の重鎖をコードするDNAおよび軽鎖を
コードするDNAを発現ベクターに挿入し、該ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、該
宿主細胞を培養して産生させることができる。この際、重鎖をコードするDNAおよび軽鎖
をコードするDNAを同じ発現ベクターに挿入し、該ベクターを用いて宿主細胞を形質転換
してもよいし、重鎖をコードするDNAと軽鎖をコードするDNAを別々のベクターに挿入し、
2つのベクターを用いて宿主細胞を形質転換してもよい。この際、特定のアイソタイプの
重鎖定常領域および軽鎖定常領域をコードするDNAを予め挿入したベクターに、重鎖可変
領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを挿入してもよい。また、該ベクターは宿主細
胞からの抗体の分泌を促進するシグナルペプチドをコードするDNAを含んでいてもよい。
この場合、シグナルペプチドをコードするDNAと抗体をコードするDNAをインフレームで連
結するようにする。抗体が産生される際にシグナルペプチドが除去されるので、抗体を成
熟タンパク質として得ることができる。
【0038】
また、前記各アミノ酸配列をコードするDNAとしては、該DNA配列とBLAST(Basic Local
Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国
立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォ
ルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、次第に好ましくなる順に
、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%
以上の同一性を有している塩基配列からなるDNAであって、SARS-CoV-2に対して中和能を
有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
【0039】
また、前記各アミノ酸配列をコードするDNAは、前記各アミノ酸配列をコードするDNAと
相補的な配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることがで
きるDNAであって、SARS-CoV-2に対して中和能を有するタンパク質をコードするDNAであっ
てもよい。当業者ならば、ストリンジェントな条件を適宜決定することができる。例えば
、サザンハイブリダイゼーションの後、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当
する塩濃度で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0040】
本発明の他の一態様は、
SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_0
09724390.1)中のSタンパク質における、
403番目のアミノ酸(R)~505番目のアミノ酸(Y)からなるアミノ酸配列(配
列番号69)に含まれるエピトープ、又は、
445番目のアミノ酸(V)~501番目のアミノ酸(N)からなるアミノ酸配列(配
列番号70)に含まれるエピトープ
を認識する、
単離された、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は
前記エピトープの認識において前記抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と競
合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片である。
【0041】
尚、前記403番目のアミノ酸(R)~505番目のアミノ酸(Y)からなるアミノ酸
配列(配列番号69)も、前記445番目のアミノ酸(V)~501番目のアミノ酸(N
)からなるアミノ酸配列(配列番号70)も、RBDタンパク質(amino acids : 322-536)中
のアミノ酸配列である。
【0042】
また、上記では、前記エピトープとして、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の表面糖タ
ンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_009724390.1)中のSタンパク質における前記所定
のアミノ酸配列に含まれるエピトープを記載したが、表面糖タンパク質中のSタンパク質
に前記所定のアミノ酸配列が含まれる限り、SARS-CoV-2としてはSARS-CoV-2(従来株(武
漢株))に限定されず、その具体例は既出の通りである。
【0043】
前記「403番目のアミノ酸(R)~505番目のアミノ酸(Y)からなるアミノ酸配
列に含まれるエピトープ」は、好ましくは、「403番目のアミノ酸(R)、406番目
のアミノ酸(E)、409番目のアミノ酸(Q)、415番目のアミノ酸(T)、417
番目のアミノ酸(K)、420番目のアミノ酸(D)、421番目のアミノ酸(Y)、4
53番目のアミノ酸(Y)、455番目のアミノ酸(L)、457番目のアミノ酸(R)
、458番目のアミノ酸(K)、460番目のアミノ酸(N)、473番目のアミノ酸(
Y)、474番目のアミノ酸(Q)、475番目のアミノ酸(A)、487番目のアミノ
酸(N)、489番目のアミノ酸(Y)、493番目のアミノ酸(Q)、494番目のア
ミノ酸(S)、496番目のアミノ酸(G)、498番目のアミノ酸(Q)、501番目
のアミノ酸(N)、及び502番目のアミノ酸(G)」からなるアミノ酸のセットである
。
【0044】
前記「445番目のアミノ酸(V)~501番目のアミノ酸(N)からなるアミノ酸配
列 に含まれるエピトープ」は、好ましくは、「449番目のアミノ酸(Y)、478番
目のアミノ酸(T)、479番目のアミノ酸(P)、484番目のアミノ酸(E)、48
6番目のアミノ酸(F)、487番目のアミノ酸(N)、489番目のアミノ酸(Y)、
490番目のアミノ酸(F)、492番目のアミノ酸(L)、493番目のアミノ酸(Q
)、494番目のアミノ酸(S)、及び498番目のアミノ酸(Q)」からなるアミノ酸
のセットである。
【0045】
本態様については詳細については、既に記載した、前記(I)~(IV)のうちいずれ
か一の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を含む、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若
しくはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体
若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を
含む抗体断片についての詳細を援用する。
【0046】
また、本態様に係る、前記エピトープを認識する、単離された、抗体若しくはその抗原
結合領域を含む抗体断片、又は前記エピトープの認識において前記抗体若しくはその抗原
結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片の具
体例は、既に記載した、前記(I)~(IV)のうちいずれか一の重鎖および軽鎖のアミ
ノ酸配列を含む、単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若しくはその抗原結合領域を含
む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若しくはその抗原結合領域を
含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含む抗体断片である。
【0047】
本発明の他の一態様は、前記態様に係る「単離された、SARS-CoV-2に結合する抗体若し
くはその抗原結合領域を含む抗体断片、又は前記SARS-CoV-2との結合において前記抗体若
しくはその抗原結合領域を含む抗体断片と競合する、抗体若しくはその抗原結合領域を含
む抗体断片」(本態様において「前記SARS-CoV-2に結合する抗体等」と記載することがあ
る。)を含む、医薬組成物である。
【0048】
本態様に係る医薬組成物は、前記態様に係る、前記SARS-CoV-2に結合する抗体等の投与
により予防又は治療され得る疾患のための医薬組成物として用いることができる。該疾患
としては、例えば、COVID-19が挙げられる。
前記SARS-CoV-2に結合する抗体等としては、一でもよいし複数でもよい。
【0049】
本態様に係る医薬組成物の製造は、製剤分野における常法に基づいて行うことができる
。本態様に係る医薬組成物は、その効果を妨げない限り、前記態様に係る、SARS-CoV-2に
結合する抗体等以外の有効成分を併用し得る。
該医薬組成物は、前記態様に係る、SARS-CoV-2に結合する抗体等に加えて、製剤分野に
おいて通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含み得る。
例えば、注射用の水性液としては、生理食塩水、PBS、ブドウ糖やその他の補助薬を含
む等張液等が使用され、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール、プロピレングリコール
等のポリアルコール、非イオン界面活性剤等と併用してもよい。油性液としては、ゴマ油
、大豆油等が使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を
併用してもよい。
本態様に係る医薬組成物は、種々の形態で投与することができ、それらの投与形態とし
ては、注射剤、点滴剤等による非経口投与を挙げることができる。好ましくは注射剤であ
る。
【0050】
注射剤の場合の投与量は、症状、年齢、体重等によって異なるが、通常、非経口投与で
は、成人に対して、例えば、1回約50 mg~5000 mgであり、これらを1回、または数回に分
けて、皮下注射または静脈注射によって投与することができる。
【0051】
本態様における予防または治療の対象(好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)は
、COVID-19を発症する可能性が高いと診断された対象、またはCOVID-19を発症した対象が
好ましく、本態様に係る医薬組成物をこれらの対象に投与することができる。
【0052】
本発明の他の一態様は、
(a)COVID-19への罹患から回復したヒトの生体試料から、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン
三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞を取得する工程;
(b)前記取得したB細胞に含まれる、抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子の
mRNAから第一のcDNAを合成する工程;
(c)前記取得したB細胞に含まれる、抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子の
mRNAから第二のcDNAを合成する工程;
(d)前記第一のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第一のcD
NAを増幅する工程;
(e)前記第二のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第二のcD
NAを増幅する工程;
(f)前記増幅された第一のcDNAと第二のcDNAを用いて抗体を産生する工程;
(g)SARS-CoV-2に対する前記産生した抗体の中和能を測定する工程;及び、
(h)SARS-CoV-2に対して中和能を有する抗体を選択する工程
を含む、抗体の取得方法である。
【0053】
本態様に係る方法は、下記工程(a)を含む。
(a)COVID-19への罹患から回復したヒトの生体試料から、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン
三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞を取得する工程。
【0054】
前記COVID-19への罹患から回復したヒトは、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイ
クタンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞を有するヒトであれば特に制限されない
が、前記COVID-19への罹患の陽性判定日から12日以上経過した、COVID-19への罹患から回
復したヒトであることが好ましい。前記COVID-19への罹患の陽性判定方法は常法を用いる
ことができる。例えば、PCR検査、抗原検査、LAMP法、イムノクロマト法、ELISA法、ウイ
ルス分離検査法等が挙げられる。
【0055】
また、前記COVID-19への罹患から回復したヒトは、前記COVID-19への罹患時に酸素吸入
加療がされたヒトであることが好ましい。このようなヒトは、前記COVID-19への罹患時に
重症であったヒトでもある。
【0056】
また、前記COVID-19への罹患から回復したヒトは、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体
Sタンパク質に特異的に結合する抗体を含む生体試料を有するヒトであってよい。
前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結合する抗体を含む生
体試料を有するヒトであることは、常法によって判断することができ、例えば、後述する
実施例に記載するELISA法、イムノクロマト法、IFA法等が挙げられる。
前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結合する抗体としては
、前記生体試料中の濃度が、次第に好ましくなる順に、1 μg/ml以上、10 μg/ml以上、2
0 μg/ml以上、50 μg/ml以上、90 μg/ml以上であり、一方で、上限は大きい方が好まし
いが、例えば、10000 μg/ml以下である。
【0057】
前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結合する抗体のサブク
ラスは特に制限されないが、一般に、COVID-19への罹患から回復したヒトは、IgM抗原受
容体、IgG抗原受容体又はIgA抗原受容体を表面に有したB細胞を有し、通常は、IgE抗原
受容体を表面に発現するB細胞は検出されない。そのため、該抗体は、通常は、IgM抗体、
IgG抗体又はIgA抗体であるが、IgE抗体であっても構わない。また、IgM抗体は高い中和能
を有さず、またIgE抗体も中和能を有さないアレルギー反応に関与する抗体であるため、
好ましくはIgG抗体又はIgA抗体である。
【0058】
また、前記COVID-19への罹患から回復したヒトは、SARS-CoV-2に対する中和能を有する
抗体を含む生体試料を有するヒトであってよい。
前記SARS-CoV-2に対する中和能を有する抗体を含む生体試料を有するヒトであることは
、常法によって判断することができ、例えば、後述する実施例に記載するように、SARS-C
oV-2と宿主細胞(例えば、Vero細胞)を用いる方法が挙げられる。
前記SARS-CoV-2に対する中和能としては、例えば、後述する実施例に記載したように、
まず10倍希釈し、次に段階的に2倍希釈した前記生体試料、SARS-CoV-2、及び宿主細胞を
用いて、宿主細胞へのSARS-CoV-2の感染を阻止できる最大希釈倍率(例えば、2倍希釈を
n回した場合には「10×2n」となる。)を指標とすることができる。このとき、COVI
D-19へ罹患していないヒトから取得した生体試料を用いた場合の希釈倍率を10(中和能無
し、もしくは非常に弱い)とする。
このとき、前記最大希釈倍率は、次第に好ましくなる順に、20以上、40以上、100以上
、600以上である。一方、上限は大きいほど好ましいが、例えば、10000以下、1000以下で
ある。
【0059】
前記SARS-CoV-2に対する中和能を有する抗体のサブクラスは特に制限されないが、一般
に、COVID-19への罹患から回復したヒトは、IgM抗原受容体、IgG抗原受容体又はIgA抗原
受容体を表面に有したB細胞を有し、通常は、IgE抗原受容体を表面に発現するB細胞は検
出されない。そのため、該抗体は、通常は、IgM抗体、IgG抗体又はIgA抗体であるが、IgE
抗体であっても構わない。また、IgM抗体は高い中和能を有さず、またIgE抗体も中和能を
有さないアレルギー反応に関与する抗体であるため、好ましくはIgG抗体又はIgA抗体であ
る。
【0060】
COVID-19への罹患から回復したヒトから、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイク
タンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞を取得する方法としては、そのようなB細
胞が取得できる方法であれば特に制限されない。常法に従うことができ、例えば、後述す
る実施例に記載する方法で取得することができる。
【0061】
CD19はB細胞のマーカー分子であるため、前記B細胞はCD19陽性である。
尚、例えばマクロファージや好中球などはFc受容体を発現しており、該Fc受容体を介し
て表面に抗体を有することがあるが、本工程(a)において取得する、SARS-CoV-2の細胞
外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に結合する細胞はB細胞であるた
め、本工程(a)で取得される細胞に、本態様に係る方法においてノイズとなり得るマク
ロファージや好中球は含まれていない。
【0062】
前記B細胞は、IgD陰性であることが好ましい。
COVID-19への罹患から回復したヒトは、IgM抗原受容体とIgD抗原受容体の両方を表面に
発現するB細胞、IgG抗原受容体を表面に発現するB細胞、及びIgA抗原受容体を表面に発現
するB細胞を有し、通常は、IgE抗原受容体を表面に発現するB細胞は検出されない。また
、IgM抗体は高い中和能を有さず、またIgE抗体も中和能を有さないアレルギー反応に関与
する抗体であるため、最終的に選択される抗体のサブタイプとしては、好ましくはIgG抗
体又はIgA抗体である。
これらのことから、本態様に係る方法においては、IgG抗体又はIgA抗体を効率的に取得
するために、本工程(a)で取得されるB細胞はIgD陰性のB細胞であることが好ましい
。
【0063】
前記「CD19陽性」の細胞とは、細胞表面に検出可能なレベルでCD19を発現しており、例
えば、抗CD19抗体を用いてフローサイトメトリー等で選別される細胞を指す。
前記「IgD陰性」の細胞とは、細胞表面に検出可能なレベルでIgDを発現しておらず、例
えば、抗IgD抗体を用いてフローサイトメトリー等で選別されない細胞を指す。
前記「SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に結合
する」細胞とは、例えば、標識等をした前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイク
タンパク質(Sタンパク質)を用いてフローサイトメトリー等で選別される細胞を指す。
【0064】
例えば、前記CD19陽性、IgD陰性であるB細胞については、蛍光標識した抗CD19抗体、
蛍光標識した抗IgD抗体を用いて、また、前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイ
クタンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞については、前記SARS-CoV-2の細胞外ド
メイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)(蛍光標識済)を用いて、FACS解析を
することで取得することができる。尚、このとき、常法により、死細胞を除外してもよい
。
【0065】
前記蛍光標識した抗CD19抗体、前記蛍光標識した抗IgD抗体は、市販のものを用いても
よいし、適宜調製したものを用いてもよい。
【0066】
前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)は、市販
のものを用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよく、例えば、後述する実施例に
記載したような方法で調製したものであってよい。例えば、前記SARS-CoV-2がSARS-CoV-2
(従来株(武漢株))であれば、例えば、表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence:
YP_009724390.1)中のSタンパク質の細胞外ドメイン(amino acids: 12-1213)の三量体
等が挙げられる。
【0067】
また、前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)の
標識は、前記SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に
結合するB細胞を取得できるような標識であれば時に制限されない。前記SARS-CoV-2の細
胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)を標識する方法は、前記SARS-C
oV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)と該標識の性質に従っ
て、常法を用いて行うことができる。また、すでに標識がされた市販のものを用いてもよ
い。
【0068】
上記のようにして取得されたB細胞は、IgG抗原受容体、IgA抗原受容体、又はIgE抗原
受容体を表面に有したB細胞であり、好ましくは、IgG抗原受容体又はIgA抗原受容体を表
面に有したB細胞である。
詳細には、COVID-19への罹患から回復したヒトは、IgM抗原受容体とIgD抗原受容体の両
方を表面に発現するB細胞、IgG抗原受容体を表面に発現するB細胞、及びIgA抗原受容体を
表面に発現するB細胞を有し、通常は、IgE抗原受容体を表面に発現するB細胞は検出され
ないため、IgD陰性の細胞をソートすると、通常は、IgG抗原受容体又はIgA抗原受容体を
表面に有したB細胞のみが取得できることに基づく。
【0069】
前記SARS-CoV-2としては、COVID-19の原因となるウイルスであって、細胞外ドメイン三
量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)を有するものである限り特に制限されない。
前記SARS-CoV-2の具体例としては、既出の説明を援用する。
【0070】
前記生体試料としては、SARS-CoV-2の細胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタ
ンパク質)に結合するB細胞を含むものであれば特に制限さない。例えば、血液、髄液、
リンパ液等が挙げられる。
前記生体試料が血液である場合には、全血、血清、血漿、白血球画分等であってよい。
また、前記生体試料が血液である場合には、末梢血、心臓血液、臍帯血等であってよい。
前記生体試料がいずれの場合であっても、その取得方法は、常法に従えばよい。
【0071】
また、本工程(a)は、後述する実施例に記載するように、前記生体試料からリンパ球
画分を取得する工程を含んでよい。また、B細胞系列の細胞を回収する工程(非B細胞系
列の細胞を除外する工程)を含んでよい。
【0072】
また、前記ヒトは、ヒト以外の哺乳動物であってよい。ヒト以外の哺乳動物としては、
例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスター、
モルモット等が挙げられる。
【0073】
本態様に係る方法は、下記工程(b)を含む。
(b)前記取得したB細胞に含まれる、抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子の
mRNAから第一のcDNAを合成する工程。
【0074】
前記取得したB細胞に含まれる、抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子のmR
NAから第一のcDNAを合成する方法としては、該第一のcDNAが合成される方法で
あれば特に制限されない。常法に従うことができ、例えば、後述する実施例に記載するよ
うに、逆転写反応により合成することができる。
【0075】
逆転写反応の反応条件、用いるプライマー配列は、目的とする前記第一のcDNAが合
成され、後述する工程(d)において該合成された第一のcDNAが増幅されるものが合
成される限り特に制限はないが、常法に従うことができる。
尚、用いるプライマー配列によって合成されるcDNAが異なるため、用いるプライマ
ー配列を適宜選択することによって、所望の重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子のm
RNAから第一のcDNAを合成することができる。
また、逆転写反応のプライマーは、dT primerでもよいし、抗体遺伝子の定常領域に特
異的なプライマーでもよく、後者の場合には、最終的に得られる抗体遺伝子のペアでの増
幅率を上昇させうる。
【0076】
本態様に係る方法は、下記工程(c)を含む。
(c)前記取得したB細胞に含まれる、抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子の
mRNAから第二のcDNAを合成する工程。
【0077】
その詳細は、前記工程(b)の説明と同様である。
【0078】
本態様に係る方法は、下記工程(d)を含む。
(d)前記第一のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第一のcD
NAを増幅する工程。
【0079】
増幅反応の反応条件は、前記第一のcDNAが増幅される限り特に制限はないが、用い
るプライマー配列などに従って常法に従うことができる。
【0080】
用いるプライマー配列は、例えば、国際公開公報2015/182749を参考にして設計するこ
とができる。
【0081】
尚、用いるプライマー配列によって増幅されるcDNAが異なるため、用いるプライマ
ー配列を適宜選択することによって、所望の重鎖のアミノ酸配列をコードするcDNAを
増幅することができる。
【0082】
また、本工程(d)で十分な量の増幅産物が得られない場合や、コンタミネーションを
防止する場合などには、工程(d)で得られた増幅産物を鋳型として、同様の工程を複数
回(例えば、2回)行ってもよい。
その場合、用いるプライマーとしては、例えば、国際公開公報2015/182749を参考にし
て設計することができる。
【0083】
また、増幅後、目的のcDNAが増幅されているかどうかを確認するために、適宜、電
気泳動工程を含んでよい。電気泳動の方法としては常法が挙げられる。
【0084】
本態様に係る方法は、下記工程(e)を含む。
(e)前記第二のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第二のcD
NAを増幅する工程。
【0085】
増幅反応の反応条件は、前記第二のcDNAが増幅される限り特に制限はないが、用い
るプライマー配列などに従って常法に従うことができる。
【0086】
用いるプライマー配列は、例えば、国際公開公報2015/182749を参考にして設計するこ
とができる。
【0087】
尚、用いるプライマー配列によって増幅されるcDNAが異なるため、用いるプライマ
ー配列を適宜選択することによって、所望の軽鎖のアミノ酸配列をコードするcDNAを
増幅することができる。
【0088】
また、本工程(e)で十分な量の増幅産物が得られない場合や、コンタミネーションを
防止する場合などには、工程(e)で得られた増幅産物を鋳型として、同様の工程を複数
回(例えば、2回)行ってもよい。
その場合、用いるプライマーとしては、例えば、国際公開公報2015/182749を参考にし
て設計することができる。
【0089】
また、増幅後、目的のcDNAが増幅されているかどうかを確認するために、適宜、電
気泳動工程を含んでよい。電気泳動の方法としては常法が挙げられる。
【0090】
本態様に係る方法は、下記工程(f)を含む。
(f)前記増幅された第一のcDNAと第二のcDNAを用いて抗体を産生する工程。
【0091】
前記増幅された第一のcDNAと第二のcDNAを用いて抗体を産生する方法としては
、該抗体が産生される方法であれば特に制限されない。常法に従うことができ、例えば、
後述する実施例に記載するように、前記増幅された第一のcDNAと第二のcDNAを発
現プラスミドベクターに組込み、発現細胞(例えば、Expi293細胞)を用いて抗体を産生
する方法が挙げられる。
【0092】
本態様に係る方法は、下記工程(g)を含む。
(g)SARS-CoV-2に対する前記産生した抗体の中和能を測定する工程。
【0093】
前記SARS-CoV-2に対する前記産生した抗体の中和能を測定する方法としては、該中和能
が測定できる方法であれば特に制限されない。常法に従うことができ、例えば、後述する
実施例に記載するように、SARS-CoV-2と宿主細胞(例えば、Vero細胞)を用いる方法が挙
げられる。また、中和能の指標として、例えば、半数阻害濃度(IC50値)を用いることが
できる。
【0094】
前記SARS-CoV-2としては、COVID-19の原因となるウイルスである限り特に制限されず、
具体例は既出の通りである。
【0095】
本態様に係る方法は、下記工程(h)を含む。
(h)SARS-CoV-2に対して中和能を有する抗体を選択する工程。
【0096】
前記SARS-CoV-2に対して中和能を有する抗体を選択する方法としては、該抗体を選択で
きる方法であれば特に制限されない。
前記SARS-CoV-2に対する中和能としては、例えば、前記IC50値を指標とすることができ
る。このとき、前記中和能としては、次第に好ましくなる順に、10,000 ng/ml以下、1,10
0 ng/ml以下、1,000 ng/ml以下、850 ng/ml以下、800 ng/ml以下、750 ng/ml以下、600 n
g/ml以下、500 ng/ml以下、400 ng/ml以下、300 ng/ml以下、100 ng/ml以下、60 ng/ml以
下、55 ng/ml以下、52 ng/ml以下、50 ng/ml以下、40 ng/ml以下、35 ng/ml以下、34 ng/
ml以下、30 ng/ml以下、27 ng/ml以下、26 ng/ml以下、25 ng/ml以下、20 ng/ml以下、19
ng/ml以下、15 ng/ml以下、11 ng/ml以下、10 ng/ml以下、5.0 ng/ml以下、4.0 ng/ml以
下、3.8 ng/ml以下、3.0 ng/ml以下、2.9 ng/ml以下、2.5 ng/ml以下、2.4 ng/ml以下、2
.3 ng/ml以下、2.0 ng/ml以下、1.7 ng/ml以下、1.5 ng/ml以下、1.4 ng/ml以下、1.2 ng
/ml以下、1.1 ng/ml以下、1.0 ng/ml以下、0.9 ng/ml以下、0.8 ng/ml以下、0.7 ng/ml以
下、0.5 ng/ml以下である。
【0097】
前記SARS-CoV-2としては、COVID-19の原因となるウイルスである限り特に制限されず、
具体例は既出の通りである。
【0098】
本態様に係る方法は、前記工程(f)の後、前記工程(g)の前に、下記工程(i)を
含んでもよい。
(i)前記産生した抗体とSARS-CoV-2のSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)タン
パク質との結合能を測定する工程。
【0099】
前記SARS-CoV-2のSタンパク質のRBDタンパク質は、市販のものを用いてもよいし、適宜
調製したものを用いてもよく、例えば、後述する実施例に記載したような方法で調製した
ものであってよい。例えば、前記SARS-CoV-2がSARS-CoV-2(従来株(武漢株))であれば
、例えば、表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_009724390.1)中のSタンパ
ク質のRBDタンパク質(amino acids: 322-536)等が挙げられる。
【0100】
前記産生した抗体とSARS-CoV-2のSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)タンパク
質との結合能を測定する方法としては、常法に従うことができ、例えば、後述する実施例
に記載するELISA法のほか、表面プラズモン共鳴法等が挙げられる。
【0101】
本態様に係る方法が、前記工程(f)の後、前記工程(g)の前に、前記工程(i)を
含む場合には、前記工程(g)は、前記抗体が前記RBDタンパク質と結合能を有する場合
に、SARS-CoV-2に対する前記抗体の中和能を測定する工程であってよい。
前記結合能としては、例えば、解離定数(KD)を指標とすることができる。この場合、
解離定数は、次第に好ましくなる順に、175 nM以下、50 nM以下、10 nM以下、5 nM以下、
3 nM以下、2.60 nM以下、2.50 nM以下である。
また、会合速度定数(ka)としては、次第に好ましくなる順に、5.0×104 Ms-1以上、8
.0×104 Ms-1以上、1.0×105 Ms-1以上、3.0×105 Ms-1以上である。
また、解離速度定数(kd)としては、次第に好ましくなる順に、1.0×10-3 s-1以下、9
.0×10-4 s-1以下、8.0×10-4 s-1以下、5.0×10-4 s-1以下、2.0×10-4 s-1以下である
。
【0102】
前記SARS-CoV-2としては、COVID-19の原因となるウイルスである限り特に制限されず、
具体例は既出の通りである。
【0103】
本発明の他の一態様は、
(AB)COVID-19への罹患から回復したヒトの生体試料から取得された、SARS-CoV-2の細
胞外ドメイン三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)に結合するB細胞に含まれる抗
体の重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子のmRNAから第一のcDNAを合成する工
程;
(C)前記B細胞に含まれる、抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子のmRNA
から第二のcDNAを合成する工程;
(D)前記第一のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第一のcD
NAを増幅する工程;
(E)前記第二のcDNAを増幅できるプライマーを用いて、前記合成された第二のcD
NAを増幅する工程;
(F)前記増幅された第一のcDNAと第二のcDNAを用いて抗体を産生する工程;
(G)SARS-CoV-2に対する前記産生した抗体の中和能を測定する工程;及び、
(H)SARS-CoV-2に対して中和能を有する抗体を選択する工程
を含む、抗体の取得方法である。
【0104】
本態様の詳細は、前記態様の説明を援用する。
【実施例0105】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も限定的な意味として解釈される実施例で
はない。
【0106】
<実施例1>
(1) COVID-19罹患からの回復者の検体情報
広島県在住の健常者5名(下表1のドナーID:HD01-HD05)、同じく広島県在住でSARS-
CoV-2に感染後に回復した18名(下表1のドナーID:NCV01-NCV18)から採血を行った。
採血した期間は、2020年4月14日から2021年1月25日であった。この期間において日本国内
で感染が主流であった系統は、国立感染症研究所のまとめによると、欧州系統B.1.1.114
(第1波)、欧州系統B.1.1.284(第2波)、欧州系統B.1.1.214(第3波)であり、本実施
例で検討したB.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株ともいう。変異はN501Yである。)や
B.1.351変異株(ベータ株又は南ア株ともいう。変異はK417N/E484K/N501Yである。)が国
内に流入、拡大する以前であり、血液提供者はいずれの変異株にも感染した経歴はなかっ
た。血液提供者のCOVID-19罹患時の重症度又は酸素吸入加療の有無、PCR検査陽性判定日
から採血日までの経過日数を表1に示した。
【表1】
【0107】
(2) SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結
合する、血清中のIgG抗体の定量
COVID-19への罹患から回復した者、又は未感染者の血液から調製した血清を用いて、SA
RS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に結合する血清中のI
gG抗体をELISA法で定量した。
前記SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質は、次の方
法で調製した。SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference S
equence: YP_009724390.1)中の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質(amino acids: 12-12
13)をコードする遺伝子配列を含む発現プラスミドを、Effectene Transfection Reagent
(QIAGEN)を用いてDrosophila Schneider S2細胞(80%コンフルエント)に導入し、10% F
BSを添加したSchneider’s Drosophila Medium (LONZA)で培養したのち、ピューロマイシ
ンを添加したInsect Xpress medium (LONZA)に置換した。その後、S2細胞を2L三角フラス
コで、28℃で培養し、0.5 mM CuSO4で蛋白質の発現を誘導した。誘導して7日後、培養上
清を回収し、Strep-Tactinアフィニティーカラム結合バッファー(100 mM Tris-HCl、150
mM NaCl、1 mM EDTA、15 μg/ml アビジン、pH 8.0)と混合した。この蛋白質を含んだ
混合液をStrep-Tactinアフィニティーカラム(IBA)と、Sepharose 6 Increase 10/300 G
Lゲルろ過クロマトグラフィー(Cytiva)で精製した。
【0108】
ELISAは次のようにして行った。1×BBSで濃度2 μg/mlとした従来株(武漢株)の細胞
外ドメイン三量体Sタンパク質を、ELISA用のプレート(MaxiSorp、cat#.442404)に加え
(1ウェル当たり40 μl)、4℃、オーバーナイトで固定した。その後、1ウェル当たり
200 μlのT-PBSで3回洗浄し、200 μlのBlocking Buffer (1% BSA/PBS)を加え、室温で
1時間、インキュベートした。
その後、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、段階希釈した血清を40 μl加え
、4℃でオーバーナイト、又は室温で2時間、インキュベートした。
次に、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、HRP標識抗ヒトIgG抗体をReagent
Diluentで2,000倍に希釈し、1ウェル当たり40 μl加え、4℃でオーバーナイト、又は室
温で2時間、インキュベートした。
次に、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、50 μlのSureBlue TMB substrate
を加え、50 μlの1N HClを加えて反応を停止した。その後、発光強度(波長450 nm)を測
定した。濃度既知の抗ヒトIgG抗体を用いた検量線から、SARS-CoV-2(従来株(武漢株)
)の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に特異的に結合するIgG抗体の濃度(μg/ml)を算
出した。
【0109】
図1に結果を示す。尚、図中の「PCR陽性12日以上」とは、COVID-19への罹患がPCR検査
で判定(陽性判定)され、その判定日から12日以上経過した回復者を示し、「PCR陽性12
日未満」とは、COVID-19への罹患がPCR検査で判定(陽性判定)され、その判定日から12
日未満の回復者を示す。
また、ドナーIDがNCV01、NCV02、NCV04、NCV08である4名の結果も矢印で示した。各ド
ナーの詳細な結果は、NCV01が18.144 μg/ml、NCV02が75.541 μg/ml、NCV04が95.032 μ
g/ml、NCV08が23.374 μg/mlであった。
【0110】
(3) SARS-CoV-2に対する血清の中和能の評価
COVID-19への罹患から回復した者、又は未感染者の血液から調製した血清を検体として
用いて、B.1.1変異株がVero細胞に感染するのを阻止する能力(中和能)を評価した。
具体的には次のようにした。ウイルスには、B.1.1変異株としてSARS-CoV-2/JP/Hiroshi
ma-46059T/2020株(1/13 seed、凍結融解1回、1.5×108 TCID50/ml)を用いた。細胞には
、VeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819)(JCRBより購入)を用いた。試薬には、細胞培養液Du
lbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)(富士フイルム和光純薬)、ウシ胎児血清(FB
S; Biosera 社)を用いた。
COVID-19罹患から回復した者の血液から調製した血清を、10% FBS含有DMEMで10倍に希
釈した後に2倍段階希釈(20~211倍希釈)して、それぞれ50 μl、12個の希釈液を調製し
た。これにDMEMを用いて100 TCID50/50 μlに希釈調製したウイルス液を50 μlずつ加え
て混和し、37℃、60分間反応させた。24ウェルプレートのVeroE6/TMPRSS2細胞にウイルス
-検体混合液100 μlを直接添加し、細胞変性効果(CPE)が出現するまで3日間培養した
。ウイルス中和能の指標として、ウイルス感染を阻止できる「最大希釈倍率」を用いた。
【0111】
未感染者の血液から調製した血清を用いて同様の評価を行ったところ、中和能が検出限
界以下であった。
結果を
図2に示す。尚、図中の「PCR陽性12日以上」とは、COVID-19への罹患がPCR検査
で判定(陽性判定)され、その判定日から12日以上経過した回復者を示し、「PCR陽性12
日未満」とは、COVID-19への罹患がPCR検査で判定(陽性判定)され、その判定日から12
日未満の回復者を示す。
また、ドナーIDがNCV01、NCV02、NCV04、NCV08である4名に加え、ドナーIDがNCV07の
結果も矢印で示した。各ドナーの詳細な結果は、NCV01が40、NCV02が640、NCV04が40、NC
V07が160、NCV08が10未満であった。
図2では、未感染者の血液から調製した血清の希釈倍率を10(中和能無し、もしくは非
常に弱い)とし、ウイルス中和能が認められた血清の相対希釈倍率を20以上の数値で表す
。数値が大きいほど高い希釈倍率でもウイルス中和能を有していることを意味する。尚、
SARS-CoV-2に対して有効な相対希釈倍率は20~640である。
【0112】
(4) FACS解析を用いた、CD19陽性、IgD陰性であって、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))
の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に結合する末梢血B細胞の取得
ドナーIDがNCV01、NCV02、NCV04、NCV08である4名を対象にして、EDTA管を用いて取得
された各ドナーの末梢血から比重遠心により白血球分画を単離し、-80℃で凍結保存した
。詳細には、末梢血20 mlを準備し、1 mM~2 mMのEDTAを含むようにした。15 mlチューブ
に5 mlの1×PBSを入れ、5 mlの血液を加え、2倍希釈した。長いパスツールピペットを差
し込み、3 mlのLymphocyte Separation Medium (Promo Cell)をパスツールピペットでチ
ューブの底に加えた。2,000 rpm×30分、室温で遠心した(ブレーキ不使用)。遠心後、
ヒト末梢血リンパ球(PBL)層を、パスツールピペットを用いて回収した。回収したPBLに
PBSを適量加えて、2,000 rpm、5分、室温で遠心し(ブレーキ使用)、上清を捨て、細胞
を洗浄した。この操作を2回繰り返した。細胞数が1×107個/ml以下になるようにして細胞
凍結保存液で保存した。
【0113】
細胞を融解後、磁気ビーズを用いた非B細胞系列のネガティブセレクションにより白血
球からB細胞分画を濃縮した。具体的には、EasySep Human Pan-B Cell Enrichment Kit (
ベリタス、cat#.19554) のマニュアルに沿って行った。
次に、APC/Cy7で標識した抗CD19抗体、FITCで標識した抗IgD抗体、及び後述する方法で
調製したSARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質(Strep-T
actinXT DY-649 (IBA-2-1568-050)で蛍光標識したもの)を用いて、前記分画中の細胞を
標識した。FSC/SSCでリンパ球にゲートし、PIを用いた死細胞染色で死細胞を排除した生
細胞リンパ球分画について、CD19陽性のB細胞にゲートした。さらに、IgD陰性となるクラ
ススイッチしたB細胞のうち、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体S
タンパク質に結合するB細胞の分画(
図3中の矢印で示した太線で囲った分画)を、96ウ
ェルPCRプレートにシングルセルソーティングした後、-80℃で凍結保存した。尚、
図3は
、ドナーIDがNCV01の場合とNCV02の場合を示している。
前記SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質(Strep-Tac
tinXT DY-649 (IBA-2-1568-050)で蛍光標識したもの)は、次の方法で調製した。SARS-Co
V-2(従来株(武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_009724390
.1)中の細胞外ドメインSタンパク質(amino acids: 12-1213)をコードする遺伝子配列
を含む発現プラスミドを、Effectene Transfection Reagent (QIAGEN)を用いてDrosophil
a Schneider S2細胞(80%コンフルエント)に導入し、10% FBSを添加したSchneider’s D
rosophila Medium (LONZA)で培養したのち、ピューロマイシンを添加したInsect Xpress
medium (LONZA)に置換した。その後、S2細胞を2L三角フラスコで、28℃で培養し、0.5 mM
CuSO
4で蛋白質の発現を誘導した。誘導して7日後、培養上清を回収し、Strep-Tactinア
フィニティーカラム結合バッファー(100 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、1 mM EDTA、15 μ
g/ml アビジン、pH 8.0)と混合した。この蛋白質を含んだ混合液をStrep-Tactinアフィ
ニティーカラム(IBA)と、Sepharose 6 Increase 10/300 GLゲルろ過クロマトグラフィ
ー(Cytiva)で精製した。そして、常法により、Strep-TactinXT DY-649 (IBA-2-1568-05
0)で蛍光標識した。
【0114】
(5) RT-PCR及びPCR
シングルセルソーティングした細胞を用いて常法に従いRT-PCRを行った。
次に、1 μlずつのcDNA産物を鋳型として1回目のPCR反応を重鎖と軽鎖で独立して行っ
た。
次に、1回目のPCR反応で得られた増幅産物をH2Oで10倍希釈し、そのうち1 μlを鋳型
として2回目のPCR反応を重鎖と軽鎖で独立して行った。
【0115】
2回目のPCR産物をアガロースゲル電気泳動により増幅産物の確認を行った。
図4Aは、κとλの軽鎖のPCR増幅産物(750 bp程度の塩基長)を示す。
図4Bは、IgG
重鎖のPCR増幅産物(1,400 bpの塩基長)を示す。尚、以下ではIgG重鎖のPCR増幅産物を
用いた。
図中の数字は細胞IDを示し、「N」はネガティブコントロールを示す。また、
図4A中
の「N」を含め、番号08、17、22、23、30、32、37、38、42、45、52、53、60、66、67、
68、69、75、82、83、90、並びに、
図4B中の「N」を含め、番号06、07、08、10、11、
17、18、20、21、22、23、24、25、30、32、35、37、38、42、45、50、52、53、59、60、
61、64、66、67、68、69、70、71、72、75、78、79、82、83、86、87、90は、非特異的な
増幅産物が得られたサンプル、又は増幅産物が得られなかったサンプルを示す。それ以外
は目的のサイズの増幅産物が得られたサンプルを示す。
【0116】
(6) 抗体遺伝子の発現ベクターへのクローニング
前記(5)で得られたPCR産物を、DNAアッセンブル法を用いてプラスミドベクターに組込
み、サンガーシーケンスによる組込み配列の確認を行った。
【0117】
(7) 抗体の産生と非変性PAGEでの確認
その後、Expi293細胞を用いて抗体タンパク質の作成をおこなった。細胞培養上清を用
いて、非変性PAGE後にCBB染色を行い、重鎖と軽鎖がペアで正常な構造を保っていること
を確認した。
【0118】
(8) 作成したモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)の特異性評価
以上の工程により、32種のモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)を作成した。
また、次の方法で、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))のSタンパク質の受容体結合ドメ
イン(receptor binding domain (RBD))タンパク質を調製した。SARS-CoV-2(従来株(
武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_009724390.1)中のSタン
パク質のRBDタンパク質(amino acids: 322-536)をコードする遺伝子配列を含む発現プ
ラスミドを、ポリエチレンイミンを用いてHEK293細胞(90%コンフルエント)に導入し、1
0% FBSと非必須アミノ酸(Gibco)を添加したDMEM(Wako)で培養した。遺伝子導入後す
ぐに血清濃度を2%に低下させた。遺伝子導入から4日後、これらの培養上清を回収し、His
-tag精製レジンアフィニティーカラム(Roche)とSuperdex 200 Increase 10/300 GLゲル
ろ過クロマトグラフィー(Cytiva)により精製した。
常法に従い、B.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株)のSタンパク質のRBDタンパク質
、B.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)のSタンパク質のRBDタンパク質も同様にして調
製した。
作成した抗体と、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク
質、従来株(武漢株)のSタンパク質のRBDタンパク質、B.1.1.7変異株(アルファ株又は
英国株)のSタンパク質のRBDタンパク質、又はB.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)のS
タンパク質のRBDタンパク質とを用いてELISA解析を行い、特異性(結合能)の評価を行っ
た。具体的には、下記のようにして行った。
【0119】
下記の試薬を調製した。
・4×BBS: NaCl 32 g、H3BO3 42.5 g、NaOH 4.5 gを1,000 mlのMQ水に溶解したもの
・1×BBS: 前記4×BBS (125 ml)をMQ水(375 ml)で希釈したもの
・20% Tween: 50 ml Tween20 (ナカライテスク、#.28353-85)と200 ml MQ水を混合したも
の
・10×PBS: NaCl 160 g、KCl 4 g、Na2HPO4-12H2O 58 g、KH2PO4 4 gを2,000 mlのMQ水に
溶解したもの
・T-PBS: 20% Tween 2.5 mlと、10×PBS 100 mlと、897.5 mlのMQ水を混合したもの
・1N HCl: HCl (ナカライテスク、#.18321-05、11.3N) 44 mlと、456 mlのMQ水を混合し
たもの
・SureBlue TMB Microwell Peroxidase Substrate Kit (KPL社、#.52-00-02) 4×100ml
・Maxisorp ELISA plate (Nunc社、#.442404、High-binding、60/case)
・Blocking Buffer: 1%BSA/PBS
・Reagent Diluent: 0.1% BSAと0.05% Tweenを含有するTris-buffered Saline (20mM Tri
sbase、150 nM NaCl、pH7.2-7.4)
【0120】
1×BBSで濃度2 μg/mlとしたSARS-CoV-2(従来株(武漢株))の細胞外ドメイン三量体
Sタンパク質、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))のSタンパク質のRBDタンパク質、B.1.1.7
変異株(アルファ株又は英国株)のSタンパク質のRBDタンパク質、又はB.1.351変異株(
ベータ株又は南ア株)のSタンパク質のRBDタンパク質を、ELISA用のプレート(MaxiSorp
、cat#.442404)に加え(1ウェル当たり40 μl)、4℃、オーバーナイトで固定した。
その後、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、200 μlのBlocking Buffer (1% B
SA/PBS)を加え、室温で1時間、インキュベートした。
その後、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、前記(7)で得たExpi293培養上清
を40 μl加え、4℃でオーバーナイト、又は室温で2時間、インキュベートした。
次に、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、HRP標識抗ヒトIgG抗体をReagent
Diluentで2,000倍に希釈し、1ウェル当たり40 μl加え、4℃でオーバーナイト、又は室
温で2時間、インキュベートした。
次に、1ウェル当たり200 μlのT-PBSで3回洗浄し、50 μlのSureBlue TMB substrate
を加え、50 μlの1N HClを加えて反応を停止した。その後、発光強度(波長450 nm)を測
定した。
【0121】
結果を
図5に示す。縦軸の数値は、従来株(武漢株)のSタンパク質のRBDタンパク質へ
の結合能を100%としたときの、B.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株)のSタンパク
質のRBDタンパク質、B.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)のSタンパク質のRBDタンパク
質への「相対結合能」を表している。
作成した32種の抗体のうち、31種(96.8%)がB.1.1.7変異株(アルファ株又は英国
株)のSタンパク質のRBDタンパク質に結合することが明らかとなった。
また、21種(65.6%)がB.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)のSタンパク質のRBDタ
ンパク質に結合することが明らかとなった。
また、図示していないが、作成した32種の抗体はすべて、SARS-CoV-2(従来株(武漢
株))の細胞外ドメイン三量体Sタンパク質に結合することも確認した。
【0122】
図中の番号1で示す抗体は後述する「NCV1SG17」に相当し、番号2で示す抗体は後述す
る「NCV2SG53」に相当し、番号3で示す抗体は後述する「NCV1SG23」に相当し、番号4で
示す抗体は後述する「NCV2SG48」に相当する。中でも、番号2で示す抗体「NCV2SG53」は
、従来株(武漢株)、B.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株)、B.1.351変異株(ベータ
株又は南ア株)の全てのSタンパク質のRBDに結合する強い活性を有していた。
【0123】
(9) まとめ
前記(3)と同様にして、番号1~4で示した抗体について、B.1.1変異株がVero細胞に感
染するのを阻止する能力(中和能)を評価し、IC
50値(N=3)を算出した。また、B.1.617
.2変異株がVero細胞に感染するのを阻止する能力(中和能)を評価し、IC
50値(N=1)を
算出した。結果を下表2-1に示す。
また、前記(3)と同様にして、番号1~4で示した抗体について、従来株(武漢株)がV
ero細胞に感染するのを阻止する能力(中和能)を評価し、IC
50値(N=1)を算出した。結
果を下表2-2に示す。また、前記(8)で得られた、ELISAによる特異性(結合能)の評価
の結果も下表2-2に併せて示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0124】
尚、SARS-CoV-2に対して中和活性を有する従来の抗体では、下表3の結果が得られてい
る。
【表3】
【0125】
(10) 作成したモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)の特異性評価(続き)
番号1~4で示した抗体と、従来株(武漢株)のSタンパク質のRBDタンパク質とを用い
て、プロテインAがコートされたバイオセンサーを用いたBlitzシステム(ザルトリウス
・ジャパン株式会社)により特異性(結合能)の評価を行った。具体的には、下記のよう
にして行った。
緩衝液(0.02% Tweenと0.1% BSAとを含むPBS)で濃度を10 μg/mlに調整した各抗体を
バイオセンサーに捕捉させて平衡化し、その後、同緩衝液で各濃度に調整した従来株(武
漢株)のSタンパク質のRBDタンパク質を順次結合させた。次に、解離のためにバイオセン
サーを同緩衝液に900秒浸漬した。結果はBlitzシステムソフトウェア(ザルトリウス・ジ
ャパン株式会社)で解析した。
【0126】
【0127】
<実施例2>
前記4種のモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)のアミノ酸配列を常法に従って決定し
た。その結果を下記に示す。
【0128】
抗体NCV1SG17は、下記に示す重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むヒトIg
G抗体である。
(I):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号3のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号4のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GKNであり、
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号21のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号22のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号23のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号24のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号25のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号26のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号27のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号28のアミノ酸配列である。
【0129】
抗体NCV2SG53は、下記に示す重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むヒトIg
G抗体である。
(II):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号6のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号8のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号9のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号10のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号29のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号30のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号32のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号34のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号35のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号36のアミノ酸配列である。
【0130】
抗体NCV1SG23は、下記に示す重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むヒトIg
G抗体である。
(III):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号11のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号12のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号13のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号14のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、GNNであり、
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号15のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号37のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号38のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号39のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号41のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号42のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号43のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号44のアミノ酸配列である。
【0131】
抗体NCV2SG48は、下記に示す重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むヒトIg
G抗体である。
(IV):
重鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号16のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR2のアミノ酸配列が、配列番号17のアミノ酸配列であり、
重鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号18のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR1のアミノ酸配列が、配列番号19のアミノ酸配列であり、
軽鎖のCDR2のアミノ酸配列が、AASであり、
軽鎖のCDR3のアミノ酸配列が、配列番号20のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号45のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号46のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号47のアミノ酸配列であり、
重鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号48のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR1のアミノ酸配列が、配列番号49のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR2のアミノ酸配列が、配列番号50のアミノ酸配列であり、
軽鎖のFR3のアミノ酸配列が、配列番号51のアミノ酸配列であり、及び
軽鎖のFR4のアミノ酸配列が、配列番号52のアミノ酸配列である。
【0132】
<実施例3>
前記4種のモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)の重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコ
ードするDNAの塩基配列、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を常
法に従って決定した。
【0133】
抗体NCV1SG17の重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、配列番
号53の塩基配列であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は
、配列番号54の塩基配列である。
抗体NCV2SG53の重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、配列番
号55の塩基配列であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は
、配列番号56の塩基配列である。
抗体NCV1SG23の重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、配列番
号57の塩基配列であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は
、配列番号58の塩基配列である。
抗体NCV2SG48の重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、配列番
号59の塩基配列であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は
、配列番号60の塩基配列である。
【0134】
<実施例4>
前記4種のモノクローナルIgG抗体(ヒト抗体)が有する、B.1.1変異株からのエスケー
プ変異株の出現を抑止する効果について評価を行った。具体的には、下記のようにして行
った。
ウイルスには、B.1.1変異株としてSARS-CoV-2/JP/Hiroshima-46059T/2020株を用い、抗
体NCV1SG17、NCV2SG53、NCV1SG23、NCV2SG48の最終濃度がそれぞれ75 ng/ml、178 ng/ml
、1100 ng/ml、825 ng/mlとなるように調整し、ウイルスと37℃、60分間反応させた。24
ウェルプレートのVeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819)(JCRBより購入)にウイルス-検体混
合液100 μlを直接添加し、細胞変性効果(CPE)が出現するまで3日間培養した。CPEを生じ
たウェルにはエスケープ変異ウイルスが出現したことが示唆される。この実験を4回から7
回繰り返し、CPEの生じたウェルの培養上清を回収し、常法に従い、ウイルスのシーケン
ス解析を行った。
Maxwell RSC Instrument(Promega、AS4500)を使用して、ウイルスに感染した培地か
らウイルスRNAを抽出した。cDNAの調製と増幅は、ARTICネットワーク(https://artic.ne
twork/ncov-2019)によって公開されたプロトコルに従い、Integrated DNA Technologies
のARTICプライマーセットのV4バージョンを使用して、ウイルスゲノム全体にタイル状の
アンプリコンを作成した。シーケンシングライブラリーは、イルミナ用NEB Next Ultra I
I DNAライブラリー調製キット(New England Biolabs、E7645)を使用して調製し、ペア
エンドの300bpシーケンスをMiSeq(Illumina)とMiSeq試薬キットv3(Illumina、MS-102-
3003)を使用して行った。コンセンサス配列は、DRAGEN COVID系統ソフトウェア(Illumi
na、ver。3.5.6)を使用して取得し、バリアントの呼び出しとアノテーションは、Nextcl
ade Webサイト(https://clades.nextstrain.org)を使用して行った。
【0135】
結果を下表5-1と下表5-2に示す。抗体NCV1SG17又はNCV2SG53を用いた場合にはエ
スケープ変異体が出現することが確認された。
抗体NCV1SG17を用いた場合に出現したエスケープ変異株(EM-17-1、EM-17-2、EM17-3)
はいずれも「S494P」の変異を有しており、Sタンパク質のRBDタンパク質上のアミノ酸「S
494」周辺の構造が、抗体NCV1SG17による認識および中和に重要であることが予想された
。
抗体NCV2SG53を用いた場合に出現したエスケープ変異株(EM-53-1、EM-53-2、EM-53-4
)は、「E484D」、「G485D」、「G485R」のいずれかの変異を有しており、Sタンパク質の
RBDタンパク質上のアミノ酸「E484」と「G485」周辺の構造が、抗体NCV2SG53による認識
および中和に重要であることが予想された。
【表5-1】
【表5-2】
【0136】
<実施例5>
X線構造解析のための結晶化に成功した抗体NCV2SG53と抗体NCV2SG48の2つの抗体につ
いて、エピトープ解析を行った。具体的には、下記のようにして行った。
6xHisタグをC末端に付加した抗体NCV2SG48(Fab)はExpi293F細胞で発現させ、Ni-NTA
アガロースレジン(QIAGEN)を使用して精製した。抗体NCV2SG53(Fab)は、抗体NCV2SG5
3をパパイン消化し、HP Protein Gカラム(Cytiva)を使用して精製した。
各Fabフラグメントと、SARS-CoV-2(従来型(武漢株))およびB.1.1変異株と同じ配列
のRBDタンパク質とを1:1.2のモル比で混合し、氷上で1時間インキュベートした。過剰な
RBDタンパク質を除去するために20 mM Tris-HCl (pH 7.5)/150 mM NaClで平衡化したSupe
rdex 200 Increase 10/300 GLカラム(Cytiva)にロードした。
RBDタンパク質および各Fabを含む画分を収集し、結晶化のために濃縮した。結晶化は20
℃のシッティングドロップ蒸気拡散法により行った。RBDタンパク質-Fab(抗体NCV2SG48
)の結晶は、7.5 mg/ml RBDタンパク質溶液、0.1 M Bis-Tris (pH5.5)、0.5 Mアンモニウ
ム硫酸塩、19% PEG3350を1:1 (v/v)で混合した2 μlの液滴中で成長させた。RBDタンパク
質-Fab(抗体NCV2SG53)の結晶は、7.5 mg/ml RBDタンパク質溶液と、0.1 M MES (pH6.0)
、0.25 Mアンモニウム硫酸塩、22.5% PEG3350を1:1 (v/v)で混合した2 μlの液滴中で成
長させた。
X線回折データ収集はSPring-8ビームラインBL44XUにおいて、90 Kの窒素蒸気流中にお
ける放射光を使用して行った。データセットは、XDSパッケージを使用してインデックス
化と統合を行い、スケーリング後、Aimlessプログラムを用いてマージした。フェーズ決
定は、PHENIIXパッケージのプログラムPhaserと、検索モデルとしてRBD構造(PDB ID:7e
am)とFab構造(PDB ID:7chbおよび7chp)を組み合わせたプログラムMolrepを使用した
分子置換法によって実行した。構造の改良は、プログラムphenix.refineとプログラムcoo
tを使用して実行した。RBDタンパク質とFabの間の相互作用は、プログラムPISAを使用し
て分析した。構造図は、プログラムpymol(PyMOL Molecular Graphics System、バージョ
ン1.2r3pre、Schrodinger、LLC)によって生成した。
【0137】
結果を下表6に示す。また、抗体NCV2SG48の結果については、
図7Aと
図7Bにも示す
。抗体NCV2SG53の結果については、
図8Aと
図8Bにも示す。
【表6】
【0138】
抗体NCV2SG48については、
図7Aに示すように、RBDタンパク質との結合面積がとりわ
け大きいのが特徴であり、ACE2との結合を担うreceptor binding motif (RBM)領域をほぼ
完全に覆う形で結合していることが明らかになった。これまでに知られている中和抗体(
カシリビマブ(REGN10933)、イムデビマブ(REGN10987)、ソトロビマブ(S309))のい
ずれと比較しても、RBDタンパク質と結合している面積が大きく上回っていることがわか
った。これによってB.1.1.529変異株(オミクロン株)のように多くの変異がRBDタンパク
質に生じても、該RBDタンパク質との結合を維持することができ、様々な変異に耐性を獲
得していることが推測される。
この結合面積の増加には、
図7-Bに示すように、体細胞変異(somatic mutations)
が大きな役割を果たしている。すなわち、本発明の一実施態様に係る抗体の取得方法にお
いて、Sタンパク質に結合するB細胞を「COVID-19への罹患から回復したヒトの生体試料
」から取得することに鑑みれば、COVID-19への罹患から回復したヒトにおいて、その罹患
から回復するまでの間に抗体への変異が蓄積されたと推測され、その結果、このような結
合面積の増加がみられたと推測される。
【0139】
前記各抗体とRBDタンパク質とが水素結合を形成しているアミノ酸を確認した結果から
、抗体NCV2SG48と抗体NCV2SG53の2つの抗体のエピトープについて下記のことがわかった
。
まず、抗体NCV2SG48については、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))のSタンパク質(NCB
I Reference Sequence: YP_009724390.1)中のアミノ酸配列を基準としたときに、403
番目のアミノ酸(R)~505番目のアミノ酸(Y)からなるアミノ酸配列(配列番号6
9)に含まれるエピトープを認識する。尚、当該アミノ酸配列は、RBDタンパク質(amino
acids : 322-536)に含まれるアミノ酸配列である。
前記エピトープは、好ましくは、「403番目のアミノ酸(R)、406番目のアミノ
酸(E)、409番目のアミノ酸(Q)、415番目のアミノ酸(T)、417番目のア
ミノ酸(K)、420番目のアミノ酸(D)、421番目のアミノ酸(Y)、453番目
のアミノ酸(Y)、455番目のアミノ酸(L)、457番目のアミノ酸(R)、458
番目のアミノ酸(K)、460番目のアミノ酸(N)、473番目のアミノ酸(Y)、4
74番目のアミノ酸(Q)、475番目のアミノ酸(A)、487番目のアミノ酸(N)
、489番目のアミノ酸(Y)、493番目のアミノ酸(Q)、494番目のアミノ酸(
S)、496番目のアミノ酸(G)、498番目のアミノ酸(Q)、501番目のアミノ
酸(N)、及び502番目のアミノ酸(G)」からなるアミノ酸のセットである。
【0140】
次に、抗体NCV2SG53についても上記と同様に、445番目のアミノ酸(V)~501番
目のアミノ酸(N)からなるアミノ酸配列(配列番号70)に含まれるエピトープを認識
する。尚、当該アミノ酸配列は、RBDタンパク質(amino acids : 322-536)に含まれるアミ
ノ酸配列である。
前記エピトープは、好ましくは、「449番目のアミノ酸(Y)、478番目のアミノ
酸(T)、479番目のアミノ酸(P)、484番目のアミノ酸(E)、486番目のア
ミノ酸(F)、487番目のアミノ酸(N)、489番目のアミノ酸(Y)、490番目
のアミノ酸(F)、492番目のアミノ酸(L)、493番目のアミノ酸(Q)、494
番目のアミノ酸(S)、及び498番目のアミノ酸(Q)」からなるアミノ酸のセットで
ある。
【0141】
<実施例6>
SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence: YP_
009724390.1)中の細胞外ドメインSタンパク質(amino acids: 12-1213)を有する擬似ウ
イルスを次の方法で作製した。
尚、Lenti-X 293T細胞(クロンテック社)および293T/pTRC2puro_ACE2-P2A-TMPRSS2細
胞の培養液は以下のものを使用した。すなわち、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (D
MEM)(富士フイルム和光純薬)と10%ウシ胎児血清(FBS; GIBCO社)と25mM HEPES緩衝液
(ナカライテスク)と1/100容量ペニシリン-ストレプトマイシン混合液(ナカライテス
ク)を含む培養液である。
ルシフェラーゼ遺伝子およびGFP遺伝子を同時に発現する自己増殖欠損型HIVレンチウイ
ルスベクター(pWPI_ffLuc-P2A-EGFP)2 μgと、パッケージングプラスミド(psPAX2)1
μgと、SARS-CoV-2(従来株(武漢株))の表面糖タンパク質(NCBI Reference Sequence
: YP_009724390.1)中の細胞外ドメインSタンパク質(amino acids: 12-1213)を発現す
るプラスミド1 μgとを、Opti-MEM 300 μlに加えた後、12 μgのPEI-MAX(polyscience社
、24765-100)を添加して混合溶液とし、室温で10分放置した。
前日に6 cmディッシュに3 mLの培養液で1×106個ずつ播種したLenti-X 293T細胞(クロ
ンテック社)に、当該混合溶液を滴下し、6-16時間培養した。培養後、培養液を除去し、
新たに培養液3 mLを加えてさらに48-72時間培養した。培養後、培養液を回収し、遠心(5
000rpm, 2分間)した後、上清をウイルス液として-80℃で保管した。凍結融解を1回のみ
行ったものをウイルス液として、下記の中和能評価に使用した。
中和能評価は、次の方法で行った。96ウェル丸底プレートに、10 μg/mlのポリブレン
(別名:Hexadimethrine bromide, sigma H9268)を含む培養液で1-4×106 RLU/mlに希釈
したウイルス液を50 μlずつ分注し、これと、2000 ng/mLから4倍系列希釈(40~47倍希
釈)した前記番号1~4の各抗体とを混和し、それぞれ50 μl×8個のウイルス-抗体混
合液を調製後、37℃、60分間反応させた。尚、「抗体NCV2SG53と抗体NCV2SG48との両者」
を用いた場合についても、各抗体濃度が2000 ng/mLになるようにウイルス液に添加したも
のから4倍系列希釈(40~47倍希釈)して、同様に、50 μl×8個のウイルス-抗体混合液
を調製後、37℃、60分間反応させた。また、「カシリビマブ(REGN10933)」を用いた場
合、「イムデビマブ(REGN10987)」を用いた場合、「カシリビマブ(REGN10933)とイム
デビマブ(REGN10987)との両者」を用いた場合についても同様にした。
その後、前日に96ウェルプレートの各ウェルに10,000個ずつ播種した293T/pTRC_ACE2+T
MPRSS2細胞(50 μl)に、前記ウイルス-抗体混合液50 μlを直接添加し、3日間培養し
た。すべての実験のサンプルはn=3で行った。培養後、培養液を除去し、5×Passive lysi
s buffer(Promega, E6110)および水で10倍希釈したルシフェラーゼ基質溶液(One-Glo,
Promega, E1941)50 μlを各ウェルに添加し、よく混合した後、ルシフェラーゼ活性を
発光測定装置(ARVO-X3, Perkin Elmer社)で測定した。
最大希釈率のウェルにおける測定値を中和活性0%として、他の希釈率のウェルにおけ
る測定値から中和活性をそれぞれ算出し、n=3の平均値および偏差をグラフ化した。中和
活性50%を示す抗体濃度をIC50値として算出した。
【0142】
常法に従い、上記と同様にして、
B.1.1.7変異株(アルファ株又は英国株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタン
パク質を有する擬似ウイルス、
B.1.351変異株(ベータ株又は南ア株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタンパ
ク質を有する擬似ウイルス、
B.1.617.2変異株(デルタ株又はインド株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタ
ンパク質を有する擬似ウイルス、
B.1.1.529変異株(オミクロン株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタンパク質
を有する擬似ウイルス、
B.1変異株(既出の通り、そもそも擬似ウイルスである。)、
B.1.617.1変異株(カッパ株又はインド株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタ
ンパク質を有する擬似ウイルス、
C.37変異株(ラムダ株)の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタンパク質を有する
擬似ウイルス、
デルタプラス変異株の表面糖タンパク質中の細胞外ドメインSタンパク質を有する擬似
ウイルス、
を作製し、同様の試験を行った。
【0143】
結果を下表7-1と下表7-2に示す。
【表7-1】
【表7-2】