(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140622
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】力場発生装置、力場発生方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/40 20060101AFI20230928BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H04R1/40 330
H04R3/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046548
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 俊彦
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA02
5D019FF03
5D019FF04
(57)【要約】
【課題】物体内部の任意の領域に任意の方向及び強度を有する所望の力を作用させることができる力場発生装置、力場発生方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】異なる位置に配置され、超音波を発生する複数の波源を有する出力部と、複数の前記波源を個別に制御し、各前記超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の前記超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる制御装置とを備える力場発生装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる位置に配置され、超音波を発生する複数の波源を有する出力部と、
複数の前記波源を個別に制御し、各前記超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の前記超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる制御装置とを備える、
力場発生装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記出力部を制御して、前記目標位置において平面波に近似された複数の前記超音波を合成した合成波を発生させ、前記合成波の局部的な振動に基づいて前記力を発生させる、
請求項1に記載の力場発生装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記出力部を制御して、前記目標位置から拡張する方向の前記力を発生させる、
請求項1または2に記載の力場発生装置。
【請求項4】
前記波源は、マトリクス状に配置された複数の超音波振動子を備え、
前記制御装置は、前記超音波振動子から出力される前記超音波の周波数、振幅、及び位相を個別に制御し、前記波源から任意の方向に進行する超音波ビームを出力させ、
複数の前記波源から異なる方向に進行する複数の前記超音波ビームを出力させ、複数の前記超音波ビームを前記目標位置において合成する、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の力場発生装置。
【請求項5】
異なる位置に配置された複数の波源を有する出力部の複数の前記波源から出力される超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、
複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の超音波を発生し、
対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、
前記目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生する、力場発生方法。
【請求項6】
異なる位置に配置された複数の波源を有する出力部の複数の前記波源から出力される超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整させ、
複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、
対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成させ、
前記目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる、処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力場発生装置、力場発生方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空間内や物体内の任意の位置に対し、非破壊的に自由度の高い力の空間パターンを発生させる方法が研究されている。例えば、静電場、静磁場を用いて力を発生させる場合、対象がそれぞれ帯電しているか磁力を持っているかが必要であり、使用できる状況が限られる。電磁波を用いて力を発生させる場合、生体を含む多くの媒質中において激しく減衰するため、力を発生させることが困難である。これに比して超音波は、さまざまな物質にも比較的よく伝搬し、放射圧や定在波を形成することによる力発生技術が既に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の音源から発生させた超音波に基づいて、空間内の所定位置において人体に触覚を生じさせる音響場を生成する技術が記載されている。また、非特許文献1には、複数の音源から発生させた超音波に基づいて、空間内に所望の音響場を生成する技術が記載されている。特許文献1や非特許文献1に記載された技術によれば、各音源の周波数が同一の特定値に限られると共に、生成される音響場に基づく力の方向や形状に制約が生じるという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、物体内部の任意の領域に任意の方向及び強度を有する所望の力を作用させることができる力場発生装置、力場発生方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、異なる位置に配置され、超音波を発生する複数の波源を有する出力部と、複数の前記波源を個別に制御し、各前記超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の前記超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる制御装置とを備える、力場発生装置。である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、物体内部の任意の領域に所望の力を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る力場発生装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】波源から出力される超音波の方向制御方法を示す図である。
【
図4】目標位置に向かって複数の波源から超音波ビームを出力する状態を示す図である。
【
図5】目標位置に向かって複数の波源から球面波を出力する状態を示す図である。
【
図6】対向する方向に進行する2つの波に基づいて力を発生させる原理を示す図である。
【
図7】異なる方向に進行する2つの波に基づいて力を発生させる原理を示す図である。
【
図8】異なる方向に進行する3つの波に基づいて力を発生させる原理を示す図である。
【
図9】異なる方向に進行する複数の異なる周波数の波に基づいて力を発生させる原理を示す図である。
【
図10】異なる方向に進行する複数の異なる周波数の波に基づいて他のパターンの力を発生させる原理を示す図である。
【
図11】複数の超音波に基づいて力を生成するシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】複数の超音波に基づいて他のパターンの力を生成するシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】力場発生方法の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示されるように、力場発生装置1は、対象物Pに対して超音波を出力する出力部2と、出力部2を制御する制御装置10と、対象物Pにおける目標位置Rを検出する検出部15とを備える。出力部2は、例えば、超音波を発生する複数の波源3を有している。各波源3は、異なる位置に配置されている。波源3の構成については後述する。
【0009】
制御装置10は、例えば、検出部15の検出値に基づいて出力部2を制御する制御部11と、制御に必要なデータが記憶された記憶部12と、制御を実行するための情報を表示する表示部13と、検出部15や出力部2との間で信号を送受信する送受信部14とを備える。
【0010】
制御装置10は、ネットワークWを介して出力部2及び検出部15に接続されていてもよい。ネットワークWは、例えば、公衆回線、LAN、WAN等により構成されている。ネットワークWは、有線、無線等の様々な各種回線種類により構成されていてもよい。ネットワークWは、近接通信をするものであってもよい。
【0011】
制御装置10は、例えば、検出部15から検出値を取得する。制御装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理装置により構成されている。制御装置10は、ネットワークWに接続されたサーバ装置であってもよい。制御装置10は、ネットワークW上において出力部2及び検出部15と連動して動作するように構成されていてもよいし、出力部2及び検出部15と一体に構成されていてもよい。
【0012】
検出部15は、力場を発生させる対象物Pの内部の目標位置Rを検出する。検出部15は、例えば、対象物Pが人体である場合、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置であってもよい。検出部15は、対象物Pの内部の目標位置Rを測定可能であればどのようなものを用いてもよい。
【0013】
制御装置10は、例えば、検出部15から送受信部14を介して計測データを取得する。送受信部14は、例えば、データを送受信可能な通信インタフェースである。送受信部14は、取得したデータを記憶部12に記憶する。送受信部14は、後述のように、制御部11の制御信号を出力部2に出力する。記憶部12は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等により構成された非一時な記憶装置である。記憶部12は、制御装置10に一体又は別体に設けられていてもよいし、ネットワークWに接続されたサーバ装置であってもよい。
【0014】
記憶部12に記憶された計測データは、制御部11により読み出される。制御部11は、例えば、計測データに基づいて各波源3と目標位置Rとの相対的な位置関係を算出する。制御部11は、例えば、計測データに基づいて、予め設定された原点の位置を基準とした各波源3の座標を算出すると共に、目標位置Rの座標を算出する。
制御部11は、複数の波源3を個別に制御する。
【0015】
制御部11は、例えば、複数の波源3から出力される各超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の波源から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させる。制御部11は、例えば、物体内部における目標位置Rにおいて複数の前記超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる。制御部11は、例えば、生成された超音波の状態を示す画像を生成し、表示部13に表示させる。
【0016】
表示部13は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等により構成される表示装置である。表示部13は、例えば、タッチパネルにより構成され、制御装置10を操作するための操作情報を入力する操作部であってもよい。操作部は、別体に設けられていてもよい。
【0017】
図2に示されるように、出力部2は、異なる位置に配置された複数の波源3と、波源3を制御する発信部6とにより構成されている。各波源3は、対象物P内に超音波を入力可能に形成されている。各波源3は、例えば、対象物Pが人体である場合、対象物Pに貼付可能にパッド状に形成されていてもよい。各波源3は、一つの基板5上に配列されていてもよい。各波源3は、発信部6に電気的に接続されている。
【0018】
各波源3は、複数の超音波振動子4により構成されたフェーズドアレイ型の超音波トランデューサである。各波源3は、例えば、マトリクス状に配置された複数の超音波振動子4を備える。複数の超音波振動子4は、例えば、基板5上にm×n(m、nは任意の自然数)のマトリクス状に配置されている。基板5上には、第1方向(図のX軸方向)に沿ってm個の超音波振動子4の1列分の超音波振動子ユニット4Aが形成されている。超音波振動子ユニット4Aの配列方向に直交方向の第2方向(図のY軸方向)に沿って、n個の超音波振動子4の1列分の超音波振動子ユニット4Bが形成されている。
【0019】
複数の超音波振動子4の配列方法は一例であり、他の配列方法が用いられてもよい。また、各波源3においてm、nの数が異なっていてもよい。各波源3において制御する複数の超音波振動子4の数を調整し、m、nの数を調整してもよい。マトリクス状に配置された複数の超音波振動子4が一つの基板5上に配列されている場合、基板5を任意の大きさの複数の領域に区切り、各領域を個別に制御することで、複数の波源3を構成してもよい。
【0020】
各超音波振動子4は、発信部6に個別に設けられた発信回路(不図示)に電気的に接続されている。各超音波振動子4は、発信回路から出力された高周波電力に基づいて振動する振動子を有し、振動子の振動に基づいて超音波振動を出力する。各発信回路は、制御部11により個別に制御される。制御部11は、各発信回路を個別に制御し、各超音波振動子4から出力される超音波の周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整する。
【0021】
制御部11は、例えば、各波源3を構成する複数の超音波振動子4の周波数及び振幅を同一としたビーム状に進行する超音波ビームを生成すると共に、各超音波振動子4の位相を個別に調整し、超音波ビームの進行方向を調整する。超音波ビームは、粗密波の平面波を形成して進行する。
【0022】
図3に示されるように、超音波振動子ユニット4Aの各超音波振動子4―mからは、球面波Smの超音波が出力される。このとき、隣接する超音波振動子4―mから出力される超音波の位相を第1方向に沿って所定量ずつ遅延させると、各超音波振動子4―mから出力される超音波の球面波Smの包絡線Hが等位相面となる平面波Jが形成される。この平面波Jは、包絡線Hの直交方向に進行する。
【0023】
同様に超音波振動子ユニット4Aの直交方向の超音波振動子ユニット4B(
図2参照)において隣接する超音波振動子4―n(不図示)から出力される超音波の位相を第2方向に沿って所定量ずつ遅延させると、形成される平面波Jの進行方向を調整することができる。上記制御方法に基づいて、波源3から3次元方向において任意の方向に進行する平面波の超音波ビームを形成することができる。
【0024】
波源3は、複数の超音波振動子4が配列されたフェーズドアレイに構成される他に、音響プリズムを用いて超音波を特定の方向に進行させるように構成されていてもよい。
【0025】
図4に示されるように、制御部11は、より複数の波源3に設けられた複数の超音波振動子4から出力される超音波の周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の平面波Jを目標位置Rに向けて出力することができる。これにより制御部11は、複数の波源3から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、物体内部における目標位置Rにおいて複数の超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させることができる。
【0026】
図5に示されるように、各波源3に超音波振動子4が1個設けられている場合(m、n=1)、各波源3からは、超音波の球面波Kが出力される。制御部11は、複数の波源3から異なる周波数を有する複数の超音波の球面波Kを発生させ、目標位置Rにおいて複数の超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させてもよい。目標位置Rにおいては、各球面波Kの一部は、平面波として近似することができ、平面波の合成と同様に所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させることができる。
【0027】
以下、目標位置Rにおいて所望の力を発生させる原理について説明する。
【0028】
図6には、超音波を合成して発生する定在波に基づいて力を生成する原理が示されている。
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)に示される各領域は、空間における同じ所定領域である。図において、xとyは空間の2軸を示す。
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)は、異なる時間tにおける所定領域に生じる状態を示す。ただしTは、音波の1周期である。
図6(a)に示されるように、媒質中に正反対の方向に進行する同一周波数・同一振幅に調整された2つの平面波J1,J2が合成され場合、定在波(合成波M1)が生成される。媒質中には、伝搬する波の圧力(粗密)に正圧P1(密)と負圧P2(粗)が生じる。図において、正圧P1と負圧P2の強度は、濃度によって示されている。
【0029】
定在波には、位置によって圧力が大きく変動する部分(腹G)とほとんど変動しない部分(節F)が生じる。腹Gの周囲においては圧力の時間変動が大きくなり、媒質に各方向からかかる圧力がつりあうため媒質を伝搬する波の速度Vの変動は小さい(
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)右側参照)。一方、節Fの位置においては圧力の空間勾配が大きくなり、媒質に大きな力がかかるため媒質を伝搬する波の速度Vの変動が大きくなる(
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)右側参照)。
【0030】
以上から、腹Gの位置にある媒質は圧力のつり合いによりほぼ動かない(V=0)のに対し、節Fの位置にある媒質は圧力の空間勾配により生じる力を受けて振動する(-V~+V)。この振動の周波数は音波と同じ周波数となる。以上から、媒質中に定在波が生じる場合、ほとんど振動しない部分と強く振動する部分が隣接して生じる。この結果、媒質中には、運動量の受け渡しにより、強く振動する部分から振動がない部分の方向に媒質を押す力(張力L)が生じる(
図6(d)左側参照)。この力は時間的に定常で、媒質の弾性変形に基づくポテンシャル力Qになることが示される(
図6(d)右側参照)。
【0031】
上記の通り2つの音波の重ね合わせにより定在波M1が生じると、媒質中に空間的な周期的なパターンをもった力が生じる。媒質がマクロな流れが生じないゲル状である場合、音波から与えられる上記の力は周囲の媒質に生じる力とつり合い、張力Lを発生させる(
図6(d)左側参照)。
【0032】
図7に示されるように、2つの平面波J1,J2が正反対に進行しない場合においても、媒質中には周期的な力の空間パターンが生じる。空間パターンには、力の持つ方向、強度、周波数、形状の各パラメータの要素が含まれる。この場合、合成波M2は、定在波でなく進行波となる(
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)参照)。2つの平面波J1,J2が正反対に進行する場合(
図6参照)に比して、力の大きさとポテンシャルの振幅は小さくなり、周期的な波長は長くなる(
図7(d)参照)。媒質中には、時間的に定常的であり、且つ、空間的に周期的なポテンシャル力が生成される。
【0033】
図8に示されるように、3個以上の同一周波数の平面波J1,J2,J3がある場合においても媒質中に平面波J1,J2,J3の合成波M3に基づく周期的な力が発生する。波の数をN(N≧2)とすると、N個の波のうち2つの波の全ての組み合わせ(
NC
2個)のそれぞれについて上記のような周期的なパターンをもった力が生じ(
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)参照)、その和に基づいて力の空間パターンが発生する(
図8(d)参照)。
【0034】
図9に示されるように、異なる周波数(f1<f2<f3)の条件により3個の平面波J1,J2,J3が合成される場合、低い周波数(f1)における平面波J1,J2,J3の合成波M4は、波長の長い空間パターンの力を形成する(
図9(b)上段参照)。高い周波数(f3)における平面波J1,J2,J3の合成波M4は、波長の短い空間パターンの力を形成する(
図9(b)下段参照)。異なる周波数における合成波M4を重ね合わせることにより、力のパターンが生成される(
図9(d)参照)。力の方向は、
図9(c9に示されている。
【0035】
異なる周波数における合成波M4は、それぞれ異なる空間的に繰り返したポテンシャル力を生成し(
図9(b)参照)、各ポテンシャル力の和に等しいポテンシャル力が生成される(
図9(d)参照)。これらは空間周波数が異なるため、その和は空間的に局在化することが可能である(
図9(d)参照)。
図9の例では、媒質中に局在した圧縮力が生成されている。
【0036】
図10に示されるように、異なる周波数(f1<f2<f3)の条件により4個の平面波J1,J2,J3,J4が合成されてもよい。異なる周波数の条件により4個の平面波J1,J2,J3,J4を合成した合成波M5は、空間的に局在化したさまざまな波長の力の空間パターンを形成する(
図10(b)参照)。4個の平面波J1,J2,J3,J4を合成した合成波M5は、それぞれ空間的に繰り返したポテンシャル力を生成する(
図10(b)参照、力の方向は
図10(c)で示される)。異なる周波数における3個の合成波M5を合成すると、その和に等しいポテンシャル力が生成される(
図10(d)参照)。
【0037】
図10(d)に示されるように、異なる周波数における3個の合成波M5を合成すると、
図9(d)とは対照的に領域内の中心(目標位置R)から拡張する方向の力を局在的に発生させる。上述したように、異なる周波数の複数の合成波M5が合成される場合、合成波M5に含まれる多数の周波数をもった多方向の波に基づいて、局在化し多様なパターンの局在力を実現できる(
図10(d)参照)。
【0038】
上述したように、媒質中に生成される力パターンは、与える超音波の波の個数、方向、周波数、振幅、位相の調整可能な各パラメータ基づいて計算することができる。従って、力場発生装置1によれば、制御部11が複数の波源3から、最適化した異なる周波数の超音波ビームを出力し、媒質中の目標位置Rに所望の力のパターンを生成することができる(
図4参照)。但し、超音波ビームの径の大きさの違いは、ここで考える力には影響しない。
【0039】
図11には、生体内の目標位置Rにおいて力を生成するシミュレーション結果が示されている。図において、いずれも100um程度の径の領域に力が発生する。シミュレーションにおける条件として、生体中を伝搬する音速及び生体の密度は、水と同じに設定されている。音波は下方から上方へ進行し、その方向とz軸(上下方向)のなす角度は60°以下と設定された。音波は、6MHz以下の6種類の周波数に設定した。図示するように音波によって生成されるポテンシャルは、濃淡により示されている。図示する領域におけるサイズバーは0.5mmである。
【0040】
図11(a)に示されるように、所定領域において局在した負のポテンシャルが生成され、所定領域の中心部分に向けて圧縮する力が生じる。音波は複数の波源3により81方向から入力され、各周波数成分の振幅はいずれも0.5気圧以下である。
図11(b)に示されるように、所定領域において局在した正のポテンシャルが生成され、所定領域の中心から外側に向けて拡張する力が局在的に生じる。音波は複数の波源3により96方向から入力され、各周波数成分の振幅はいずれも2.5気圧以下である。
【0041】
図12には、複数の周波数の音波に基づいて生成する力と単一周波数の音波に基づいて生成する力との比較結果が示されている。シミュレーションにおける条件として、生体中を伝搬する音速と密度は水と同じに設定されている。音波は下方から上方へ進行し、その方向とz軸(上下方向)のなす角度は60°以下と設定された。音波は、複数の波源3により144方向から入力され、周波数は7MHz以下に設定された。図示する領域におけるサイズバーは1mmである。
【0042】
各周波数の振幅は6周波数の場合は10気圧以下、1周波数の場合は60.5×10気圧以下に設定されている。複数の周波数の音波と単一周波数の音波とは概ね等しいパワーを有するように設定された。複数の周波数の音波に基づいて力を生成する場合と単一周波数の音波に基づいて力を生成する場合とのいずれの場合も、音波の全パワーは似た値になるように最適化の条件が設定された。
【0043】
図12(a)には、目標とする力の空間パターンが示されている。
図12(b)には、
図12(a)に示したものに可能な限り近いポテンシャルを生成するように6周波数の複数の音波に基づいて最適化された力の空間パターンが示されている。
図12(c)には、
図12(a)に示したものに可能な限り近いポテンシャルを生成するように1周波数の複数の音波に基づいて最適化された力の空間パターンが示されている。
【0044】
6周波数の複数の音波に基づいて生成された力の空間パターンは、目標とする力の空間パターンに近づくように最適化されている。1周波数の複数の音波に基づいて生成された力の空間パターンは、6周波数の複数の音波に基づいて生成された力の空間パターンに比して目標とする力の空間パターンの再現性が低くなった。上記シミュレーション結果により、複雑な力を発生させる場合、複数の周波数の超音波を用いる方が単一周波数の音波を用いる場合に比して有利であることが示された。
【0045】
上述した力場発生装置1を用いて、力場発生方法が実現可能となる。
図13には、力場発生方法の処理の流れがフローチャートにより示されている。制御装置10は、異なる位置に配置された複数の波源を有する出力部2の複数の波源3から出力される超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整する(ステップS100)。制御装置10は、複数の波源3から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させる(ステップS102)。制御装置10は、波源3の制御に基づいて、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成する(ステップS104)。制御装置10は、波源3の制御に基づいて、目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる(ステップS106)。
【0046】
上述したように、力場発生装置1によれば、異なる周波数を有する複数の方向に進行する超音波を物体内に入力し、目標位置において合成することにより、目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させることができる。力場発生装置1によれば、同一周波数の波を合成した合成波に基づいて時間的に定常な力を生成すると共に、さらに複数の周波数の合成波を合成することにより、局在化可能な高い自由度の空間パターンを持ち時間的には定常な力を物体内に生成することができる。
【0047】
力場発生装置1によれば、人体の内部の任意の位置において力を発生させることができ、非侵襲的な治療装置に適用することができる。また、力場発生装置1によれば、人体以外の物体内部の任意の位置に力を発生させることができ、非破壊的な修理装置や検査装置に適用することができる。
【0048】
上述した制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、記憶部12が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。また、プログラムは、必ずしも必要ではなく、制御装置10において順序回路を構成することにより所定の動作が実行されるようにしてもよい。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、力場発生装置1において、複数の波源3は、音源から出力される超音波を収束させ目標位置に焦点を生じさせる音響レンズであってもよい。即ち、複数の波源3とは、音響レンズにおいて超音波を出力する計算上のモデル化された各微小要素であってもよい。この場合、複数の波源3となる各微小要素から出力される超音波に基づいて、音圧と位相が制御された超音波を出力する音響レンズが構成されてもよい。即ち、音響レンズは、複数の波源3となる各微小要素から出力される各超音波のパラメータを計算上において調整し、各超音波を目標位置に集束させ、各微小要素の極限をとることで連続的な音源とし、目標位置において所望の力を発生させるように形状が設計されてもよい。このように設計された音響レンズは、超音波を出力する際に複数の波源となる各微小要素において、各超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、各微小要素から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の超音波を合成し、所望の力を発生させるように構成されていてもよい。上述した制御装置10の処理には、出力部2を制御して、目標位置において平面波に近似された複数の超音波を合成した合成波を音響レンズを介して発生させる計算を含んでもよい。
【0050】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]異なる位置に配置され、超音波を発生する複数の波源を有する出力部と、複数の前記波源を個別に制御し、各前記超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の前記波源から異なる周波数を有する複数の前記超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる制御装置とを備える、力場発生装置。
[2]前記制御装置は、前記出力部を制御して、前記目標位置において平面波に近似された複数の前記超音波を合成した合成波を発生させ、前記合成波の局部的な振動に基づいて前記力を発生させる、[1]に記載の力場発生装置。
[3]前記制御装置は、前記出力部を制御して、前記目標位置から拡張する方向の前記力を発生させる、[1]または[2]に記載の力場発生装置。
[4]前記波源は、マトリクス状に配置された複数の超音波振動子を備え、前記制御装置は、前記超音波振動子から出力される前記超音波の周波数、振幅、及び位相を個別に制御し、前記波源から任意の方向に進行する超音波ビームを出力させ、複数の前記波源から異なる方向に進行する複数の前記超音波ビームを出力させ、複数の前記超音波ビームを前記目標位置において合成する、[1]から[3]のうちいずれか1つに記載の力場発生装置。
[5]異なる位置に配置された複数の波源を有する出力部の前記複数の波源から出力される超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、前記複数の波源から異なる周波数を有する複数の超音波を発生し、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成し、前記目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生する、力場発生方法。
[6]異なる位置に配置された複数の波源を有する出力部の前記複数の波源から出力される超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整させ、前記複数の波源から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の前記超音波を合成させ、前記目標位置において所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させる、処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0051】
1 力場発生装置、2 出力部、3 波源、4 超音波振動子、6 波源、10 制御装置、11 制御部、J、J1-J4 平面波、M1―M5 合成波、P 対象物、R 目標位置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【非特許文献】
【0053】
【非特許文献1】Keisuke Hasegawa, Hiroyuki Shinoda, and Takaaki Nara Journal of Applied Physics 127, 244904 (2020); “Volumetric acoustic holography and its application to self-positioning by single channel measurement” 23 June 2020 https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0007706