(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140647
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】光学顕微鏡を用いた分析方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/27 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046594
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】渡部 庸介
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059EE02
2G059EE11
2G059FF01
2G059FF03
2G059HH08
2G059JJ01
2G059JJ02
2G059KK04
2G059KK07
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】 複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して簡易かつ低コストにこれら組成物の含有割合を求めることが可能な分析方法を提供する。
【解決手段】 分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を光学顕微鏡を用いて定量分析する方法であって、分析対象試料を光学顕微鏡で撮像することで得た画像内に存在する複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう第1工程と、該分光分析の結果に基づいて該複数種類の組成物の各々を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける第2工程と、該特徴づけた特定の波長の光を該分析対象試料に照射しながら撮像する第3工程と、該撮像により取得した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する第4工程と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する第5工程とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を光学顕微鏡を用いて定量分析する方法であって、前記分析対象試料を光学顕微鏡で撮像することで得た画像内に存在する前記複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう第1工程と、前記分光分析の結果に基づいて前記複数種類の組成物の各々を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける第2工程と、前記特徴づけた特定の波長の光を前記分析対象試料に照射しながら撮像する第3工程と、前記撮像により取得した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する第4工程と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する第5工程とからなることを特徴とする光学顕微鏡を用いた分析方法。
【請求項2】
前記特定の波長を有する光に単波長光源を用いることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡を用いた分析方法。
【請求項3】
前記特定の波長を有する光に単波長フィルターを透過させた光を用いることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡を用いた分析方法。
【請求項4】
前記分析対象試料に対する光学顕微鏡による撮像が、該光学顕微鏡が有するタイリング機能を用いて複数枚撮像を行ない、これにより取得した画像群の各々に対して前記第1工程から第5工程を繰り返し、得られた複数の含有割合を算術平均することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学顕微鏡を用いた分析方法。
【請求項5】
分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を定量分析する装置であって、前記分析対象試料の分析面を撮像する光学顕微鏡と、該撮像した画像内に存在する前記複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう分光分析装置と、前記光学顕微鏡で撮像した画像及び前記分光分析装置で得たデータに基づいて画像解析を行なう画像解析装置とから構成され、前記画像解析装置は、該分光分析により各種類の組成物を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける手段と、前記分析対象試料に前記特徴づけた特定の波長の光を照射しながら撮像した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する手段と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する手段とを備えることを特徴とする分析装置。
【請求項6】
前記光学顕微鏡は、その光源が単波長光源と交換可能であることを特徴とする、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記光学顕微鏡は、その光源と前記分析対象試料の載置部との間の光軸上に単波長フィルターを装着可能であることを特徴とする、請求項5に記載の分析装置。
【請求項8】
前記光学顕微鏡がタイリング機能を備えていることを特徴とする、請求項5~7のいずれか1項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡を用いた分析方法及び分析装置に関し、特に複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して光学顕微鏡を用いて簡易且つ低コストにそれらの含有割合を求めることが可能な分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質を構成する組成物の含有割合を正確に把握することが様々な分野で求められており、例えば非鉄金属製錬の分野においては、浮遊選鉱時に用いる抑制剤等の浮選剤の種類やその添加量等の条件を定めるため、採掘した鉱石に含まれる有用鉱物や利用価値の低い脈石等の組成物を正確に定量分析する技術が求められている。物質の組成を分析する方法としては、ICP発光分光分析法や蛍光X線分析法などの化学分析法が知られているが、これらの化学分析法は、分析対象となる試料の全体的な組成を定量分析することは可能であるが、前述した鉱石などのように分析対象試料に複数種類の組成物が含まれる場合は、それらの含有割合を正確に定量分析することは難しい。
【0003】
そこで、光学顕微鏡による撮像と画像解析技術とを組合わせて、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対してそれら組成物の含有割合を分析する方法が提案されている。例えば特許文献1には、分析対象となる試料を樹脂に包埋して分析面を鏡面仕上げした後、この分析面を反射顕微鏡で撮像し、得られた画像を色相、輝度及び彩度を用いて二値化することで、分析対象試料を定量分析する技術が開示されている。
【0004】
また、近年は物質の定量分析に鉱物粒子解析装置MLA(Mineral Liberation Analyzer)を用いる場合が増えている。この技術は、SEM-EDS(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)とも称され、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して、その分析面に電子線を走査させることで発生する二次電子や反射電子を検出して該試料表面の組成物の形態を特定すると共に、該電子線の照射によって発生する特性X線を検出することにより元素分析を行なうものであり、分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1の技術を用いることで、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して、特に熟練を要することなく簡易に定量分析することが可能になると考えられる。しかしながら、反射光の強度差が極めて小さい複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して、光学顕微鏡でその分析面を撮像してその画像を処理する場合は、これら複数種類の組成物を判別するのが困難であった。他方、MLAを用いることで、このような反射光の強度差が小さい複数種類の組成物を含む分析対象試料の場合であっても正確に定量分析を行なうことができるが、MLAは極めて高価な分析装置であるため、例えば採掘した鉱石を分析対象とする場合のように用途によってはオーバースペックであり、よって簡易かつ低コストに分析することが求められる場合には適していなかった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して簡易かつ低コストにこれら組成物の含有割合を求めることが可能な分析方法及び分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して、それら組成物ごとに特有の光学的な特性を予め把握しておくことによって、反射光の強度差が極めて小さい複数種類の組成物を含む場合であっても、簡易かつ低コストにそれらの含有割合を求めうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る光学顕微鏡を用いた分析方法は、分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を光学顕微鏡を用いて定量分析する方法であって、前記分析対象試料を光学顕微鏡で撮像することで得た画像内に存在する前記複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう第1工程と、前記分光分析の結果に基づいて前記複数種類の組成物の各々を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける第2工程と、前記特徴づけた特定の波長の光を前記分析対象試料に照射しながら撮像する第3工程と、前記撮像により取得した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する第4工程と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する第5工程とからなることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る分析装置は、分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を定量分析する装置であって、前記分析対象試料の分析面を撮像する光学顕微鏡と、該撮像した画像内に存在する前記複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう分光分析装置と、前記光学顕微鏡で撮像した画像及び前記分光分析装置で得たデータに基づいて画像解析を行なう画像解析装置とから構成され、前記画像解析装置は、該分光分析により各種類の組成物を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける手段と、前記分析対象試料に前記特徴づけた特定の波長の光を照射しながら撮像した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する手段と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数種類の組成物を含む分析対象試料に対して、簡易かつ低コストにそれら組成物の含有割合を求めることが可能になるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の光学顕微鏡を用いた分析方法の実施形態を示すブロックフロー図である。
【
図2】本発明の光学顕微鏡を用いた分析装置の一具体例の構成図である。
【
図3】本発明の実施例で得た組成物A~Dのスペクトルのプロフィールを示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例の分析方法で取得した画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光学顕微鏡を用いた分析方法の実施形態について詳細に説明する。この本発明の実施形態の分析方法は、分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々の含有割合を光学顕微鏡を用いて定量分析する方法であって、該分析対象試料を光学顕微鏡で撮像することで得た画像内に存在する複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう第1工程と、該分光分析の結果に基づいて該複数種類の組成物の各々を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける第2工程と、該特徴づけた特定の波長の光を該分析対象試料に照射しながら撮像する第3工程と、該撮像により取得した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する第4工程と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する第5工程とからなる。
【0014】
上記のように、本発明の実施形態の分析方法が対象とする試料は、複数種類の組成物を含有しており、このような試料としては、例えば硫化鉱や酸化鉱などの有用金属、利用価値の低い脈石、及び非金属酸化物などを含んだ乾式銅製錬の鉱石原料、該鉱石原料を浮遊選鉱することで回収される精鉱やその残りの尾鉱、並びに該精鉱を中間原料として用いて該乾式銅製錬で熔錬処理することで生成される有用金属のメタル、鉱滓成分からなるスラグ、及びその他の酸化物などを含有する中間物を挙げることができる。
【0015】
上記のように、分析対象試料中に複数種類の組成物が含まれる場合にそれら複数種類の組成物の各々の含有割合を求める方法としては、該分析対象試料が粉粒体の場合は、先ず該分析対象試料を樹脂内に包埋した後、鏡面研磨することで分析面を露出させた薄片状の包埋試料に対して、光学顕微鏡を用いて撮像し、取得した画像を解析して該画像内において各組成物が占める領域の面積を求め、得られた複数種類の組成物の面積比に基づいてそれらの含有割合と見做す方法が知られている。
【0016】
上記の光学顕微鏡を用いた撮像では、その光源に例えばハロゲンランプのように広範囲の波長を含んだいわゆる白色光が用いられる。しかしながら、分析対象試料によっては、白色光を照射したときに撮像した反射光の画像において、ある種類の組成物を他のものと区別するのが困難な複数種類の組成物が含まれている場合があり、この場合は、当該分析対象試料に含まれる複数の組成物の含有割合を正確に求めることは困難であった。
【0017】
これに対して、本発明の実施形態の分析方法は、光学顕微鏡に組み込まれている分光分析装置を使用して上記したように先ず分析対象試料に対して分光分析を行って分析対象試料に含まれる複数種類の組成物の各々を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づけし、この特定の波長の光を分析対象試料に照射しながら撮像するので、得られた画像内において該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域を他の組成物が占める領域から明瞭に区別することが可能になる。
【0018】
より詳しく説明すると、
図1に示すように、粉粒状の分析対象試料を樹脂に包埋した後、鏡面研磨することで作製した包埋試料に対して、先ず第1工程において、光学顕微鏡のステージ上に上記の包埋試料を載置し、通常の光源を用いた光学顕微鏡による目視観察により該包埋試料の分析面上に現れる複数種類の組成物の各領域ごとに測定点を定め、そこに光を照射して分光分析を行なう。これにより、各組成物ごとの分光分析結果としてのスペクトルが得られる。この第1工程では、組成物の形態や明暗などの目視にて判別可能な組成物の種類ごとに1つだけ測定点を定めて分光分析してもよいし、このような目視にて判別可能な組成物の種類に関係なく視野内に現れる全ての組成物の領域に対して測定点を定めて分光分析してもよい。
【0019】
次に、第2工程において、上記の第1工程で得た複数種類の組成物のスペクトルのプロフィールを比較し、各スペクトルごとにその相対強度が他のスペクトルの相対強度と顕著に異なる部分を選択してその部分の波長で各組成物を特徴づける。例えば分析対象試料に含まれるある組成物が特定の波長の光を吸収する光学特性を有する場合は、そのスペクトルは当該特定の波長において下に凸状に急峻に低下する特徴的なプロフィールとなる。また、別のある組成物が特定の範囲の波長の光を全く吸収しない光学特性を有する場合は、そのスペクトルは当該波長の範囲内において上に凸状に緩やかに隆起する特徴的なプロフィールとなる。このようにプロフィールを比べることで、各組成物を特定の波長で特徴づけることができる。
【0020】
なお、あるスペクトルの相対強度が他のスペクトルのものと明確に区別するのが困難な場合であっても、この区別するのが困難なスペクトルが複数の組成物のうちの1種類だけであれば、後述するように特に問題にはならない。また、あるスペクトルのプロフィールが他のスペクトルのプロフィールと全波長域においてほぼ一致している場合は、これら両スペクトルは同じ種類の組成物のものであると判断することができる。よって、前工程の第1工程において、前述したように視野内に現れる全ての組成物の領域に対して分光分析を行っても、この第2工程において組成物の種類ごとの特定波長を定めることができる。
【0021】
次に、第3工程において前工程の第2工程において各組成物ごとに特徴づけした特定の波長の光を上記したステージ上の包埋試料に照射しながら光学顕微鏡により撮像する。その際、特定の波長の光は、当該特定の波長を発する単波長光源を使用してもよいし、一般的な光源から発した光を当該特定の波長のみを透過する単波長フィルターを透過させることで得た光を使用してもよい。また、特定の波長の光の照射は、包埋試料に対して対物レンズ側から照射する落射方式でもよいし、包埋試料に関して対物レンズとは反対側から照射する透過方式でもよい。一般的には光が透過しにくい試料や試料が厚い場合は前者の方式が好ましい。
【0022】
次に、第4工程において、上記の第3工程において特定の波長の光で照射しながら撮像して得た画像から、該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する。例えば前々工程の第2工程において、3種類の組成物B~Dで構成される紛粒状の分析対象試料を組成物Aからなる樹脂で包埋して得た包埋試料の分光分析で得た4つのスペクトルのプロフィールを比較したとき、組成物Aのプロフィールは波長λAにおいてその相対強度が他の組成物B、C、Dのものと比べて顕著に異なる下に凸の急峻な低下を示しており、組成物Bのプロフィールは波長λBにおいてその相対強度が他の組成物A、C、Dのものと比べて顕著に異なる上に凸の緩やかな隆起を示しており、組成物Dのプロフィールはほぼ全波長域に亘ってその相対強度が他の組成物A、B、Cのものと比べて大きく上に乖離しており、組成物Cの相対強度は他の組成物A、Bのものとはあまり差がない場合は、組成物Aを波長λAで特徴づけることができ、組成物Bを波長λBで特徴づけることができ、組成物Dを全波長域で特徴づけることができる。
【0023】
よって、包埋試料に先ず波長λAの光を照射しながら光学顕微鏡で撮像することによって得た画像では、組成物Aの存在する領域は波長λAの光が吸収されることにより他の領域に比べて暗く映る。よって、この暗く映る領域の面積を測定することで該画像内で組成物Aが占める領域の面積SAを容易に求めることができる。一方、包埋試料に波長λBの光を照射しながら同様に光学顕微鏡で撮像することによって得た画像では、組成物Bの存在する領域は波長λBの光がほぼ全て反射されることにより他の領域に比べて明るく映る。よって、この明るく映る領域の面積を測定することで該画像内で組成物Bが占める領域の面積SBを容易に求めることができる。
【0024】
なお、組成物Dはほぼ全波長域で他の組成物A~Cとの相対強度が異なるのでその存在領域を容易に特定することができ、よって、該画像内で組成物Dが占める領域の面積SDを容易に求めることができる。組成物Cの存在する領域の面積SCは、組成物A~Dが存在する該画像の面積から、上記の波長λAの光で撮像した画像で測定した組成物Aの領域の面積SA、波長λBの光で撮像した画像で測定した組成物Bの領域の面積SB、及び組成物Dの領域の面積SDを除外することで求めることができる。
【0025】
次に、第5工程において、上記のようにして組成物Aからなる樹脂で組成物B~Dから構成される紛粒状の分析対象試料を包埋した包埋試料の分析面に対して、照射する光の波長を変えて光学顕微鏡を用いて複数回撮像することで取得した複数の画像に対して組成物A~Dがそれぞれ占める領域の面積SA~SDを測定し、それらの合計値に対する比率から該分析対象試料に含まれる各組成物の含有割合を求めることができる。例えば組成物Bの体積基準の含有割合VBは、下記式1から求めることができる。
【0026】
[式1]
各組成物の密度が分かれば、下記式2より組成物Bの質量基準の含有割合M
Bを求めることができる。ここでρ
B、ρ
C、及びρ
Dはそれぞれ組成物B、組成物C、及び組成物Dの密度である。
【0027】
【0028】
本発明の実施形態の分析方法においては、包埋試料の分析面のうち複数箇所に対して、各々光学顕微鏡を用いて上記の第1工程から第5工程を繰り返し、これら複数箇所での撮像で得た画像群においてそれぞれ求めた組成物の含有割合を各組成物ごとに算術平均するのが好ましい。これにより、撮像した場所による各組成物の含有割合のばらつきを平準化することができるので、分析結果の精度を向上させることができる。
【0029】
上記のように包埋試料の分析面のうち複数箇所に対して光学顕微鏡を用いて撮像する場合は、タイリング機能付きの光学顕微鏡を用いるのが好ましく、これにより効率よく定量分析を行なうことができる。タイリング機能とは、包埋試料を載置するステージのXY方向の移動及び撮像を全自動制御することで包埋試料の分析面を連続撮像し、これにより取得した複数の画像を連結して最終的に光学顕微鏡視野において広範囲(複数の視野をまとめて)1枚の画像を得る機能である。
【0030】
上記した本発明の実施形態の分析方法は、例えば
図2に示すような分析装置で好適に実施することができる。すなわち、この分析装置は、分析対象試料の分析面を撮像する光学顕微鏡1と、該撮像した画像内に存在する該複数種類の組成物の各領域に光を照射して分光分析を行なう分光分析装置2と、光学顕微鏡1で撮像した画像及び分光分析装置2で得たデータに基づいて画像解析を行なう画像解析装置3と、これらを制御するパーソナルコンピューターなどの制御装置4とから少なくとも構成される。
【0031】
上記の画像解析装置3は、分光分析装置2で行なった分光分析に基づいて各種類の組成物を特有の光学特性を示す特定の波長で特徴づける手段と、該特徴づけた特定の波長の光を該分析対象試料に照射しながら撮像した画像から該特定の波長で特徴づけられた組成物が占める領域の面積を測定する手段と、該測定した領域の面積が該画像内の全ての組成物の領域の面積に対して占める割合を算出することでその含有割合を算出する手段とを備えている。
【0032】
上記の分析装置は、光学顕微鏡1の光源5を単波長光源と取り換えることにより、包埋試料に対して単波長の光を照射することができる機構を備えても良い。また、光学顕微鏡1の光源5と観察対象の試料との間の光軸上に、単波長フィルター6を設置して、試料対して単波長の光を照射することができる機構を備えても良い。次に上記した本発明の実施形態の分析方法を下記に示す実施例及び比較例によってより詳細に説明する。
【実施例0033】
[実施例]
乾式銅製錬の自熔炉によって生成した中間産物のマットを冷却した後、粒度数mm以下に粉砕したものを分析対象試料とした。この分析対象試料をICP発光分光法で分析したところ、自熔炉での熔錬処理では反応されない銅精鉱原料由来の酸化物からなる組成物Bと、自熔炉での熔錬処理により生成される鉱滓成分からなるスラグとしての組成物Cと、自熔炉での熔錬処理により生成される金属成分からなるメタルとしての組成物Dとの3種類の組成物の混合物であることが分かった。なお、別途行った組成物の分析により、上記の分析対象試料は約8割以上を占める大部分が組成物Dのメタルであり、その他はそれぞれ1割以下であることが分かった。
【0034】
この分析対象試料は粉粒状であるため、そのままでは光学顕微鏡を用いて観察するのは困難である。そこで、この粉粒状の分析対象試料を粉状の樹脂と混合して加熱硬化させることにより、固化した樹脂内に分析対象試料を包埋した。具体的には、この包埋用樹脂には熱硬化性のフェノール樹脂を使用し、体積基準で分析対象試料1部に対して樹脂10部の配合割合でバイアル瓶に入れてロッキングミルで混合した。
【0035】
得られた混合物を丸本ストルアス株式会社製の加圧加熱装置(CitoPress-20)を用いて90℃まで昇温させて4分間保持した後、180℃まで加熱して75barの加圧下で5分間保持することによって加熱硬化させた。得られた包埋試料の観察面(分析面)を露出させるため、研磨紙による研磨及びバフ研磨を行った後、この包埋試料の断面の露出した表面を鏡面状に仕上げて包埋試料を得た。
【0036】
得られた包埋試料を、株式会社ハイロックス社製のタイリング機能付き光学顕微鏡(マイクロスコープ RH-2000)のステージ上に載置し、その分析面に対して、下記(1)~(3)に示す手順で分光分析及び画像解析を行なうことで各組成物の含有割合を求めた。なお、画像解析には、三谷商事株式会社製の画像解析ソフト(WinROOF2018)を搭載したパーソナルコンピューターを使用し、分光分析には日本分光株式会社JASCO Corporation社製の顕微紫外可視近赤外分光光度計(MSV-5200)を使用した。また、光学顕微鏡の光源には朝日分光株式会社製の300Wキセノン光源(MAX303)を使用した。
【0037】
(1)分光分析に基づく各組成物の特定波長の決定
光学顕微鏡の光源としてハロゲンランプ又はキセノンランプを使用し、目視観察により包埋試料の分析面上に現れる4種類の組成物A~Dの各領域ごとに測定的を定め、そこに光を照射して分光分析を行った。この分光分析により
図3(a)、(b)に示すような4種類のスペクトルが得られた。これら4つのスペクトルのプロフィールを比較したところ、組成物Aのスペクトルは波長270nmにおいて他のスペクトルとは異なる下に凸状に低下する特徴的な光学的特性を有しており、組成物Bのスペクトルは波長440nmにおいて他のスペクトルとは異なる上に凸状に隆起する特徴的な光学的特性を有しているので、これら波長270nm及び440nmでそれぞれ組成物A及びBを特徴づけた。また、組成物Dのスペクトルはほぼ全波長域に亘って他のスペクトルよりも高い相対強度を有しているのでこの全波長域で組成物Dを特徴づけた。
【0038】
(2)特定波長の照射による各組成物の面積測定
上記のように組成物Dは全波長域で特徴づけることができたので、先ず光学顕微鏡の光源として使用したハロゲンランプの光を包埋試料の分析面に照射して
図4(a)に示す第1画像を得た。この第1画像は組成物Dを特徴づける波長の光を照射しながら撮像したものであるため、組成物Dが占める明度が最も高い領域をその他の組成物が占める領域から容易に識別できた。これにより画像内に占める組成物Dの領域の面積を測定することが可能になった。
【0039】
次に、組成物Aは波長270nmで特徴づけることができたので、光学顕微鏡の光源であるキセノンランプの光を朝日分光株式会社製の波長270nm用のフィルター(LX0270)を透過させて得た光を包埋試料の分析面に照射することとで、
図4(b)に示す第2画像を得た。この第2画像は組成物Aを特徴づける波長の光を照射しながら撮像したものであるため、組成物Aが占める明度が最も低い暗い領域をその他の組成物が占める領域から容易に識別でき、組成物Aの領域の面積を測定することが可能になった。
【0040】
次に、組成物Bは波長440nmで特徴づけることができたので、光学顕微鏡の光源であるハロゲンランプの光をTECHSPEC社製の波長440nm用のフィルター(#86-350)を透過させて得た光を包埋試料の分析面に照射することで、
図4(c)に示す第3画像を得た。この第3画像は組成物Bを特徴づける波長の光を照射しながら撮像したものであるため、組成物Bが占める明度が高い領域と組成物Dが占める明度がより高い領域とを組成物A、Cの領域から識別することができた。この組成物B及びDの領域のうち、組成物Dの領域の面積は、前述した第1画像を処理したときに既に求められているので、これを除外することにより、組成物Bが占める領域の面積を測定することが可能になった。上記の第1~第3画像の処理により組成物A、B、及びDが占める領域の面積をそれぞれ求めることができたので、これらを画像全体の面積から差し引くことにより画像内で組成物Cが占める領域の面積を求めることができた。
【0041】
(3)各組成物の含有割合の算出
なお、上記の第1~第3画像の撮像時は光学顕微鏡の倍率を300倍とし、タイリング機能を使用して、縦横各10視野のマトリックス状(すなわち全体で100視野)を連続撮像し、得られた複数の画像を連結して最終的に光学顕微鏡視野において広範囲(複数の視野をまとめて)1枚の画像とした。また、上記の面積の測定は画像解析装置に画像データを取り込んで一般的な方法で閾値を定めることで、各組成物が占める領域の面積を算出した。得られた組成物A~Dの面積比から、下記表1に示すように各組成物の含有割合を算出することができた。
【0042】
【0043】
[比較例]
上記した実施例のような分光分析に基づく各組成物の特定波長による特徴づけを行なわずに、実施例と同様の包埋試料に対して、光源に用いたハロゲンランプの光を照射しながら光学顕微鏡で撮像した画像を解析することで各組成物の含有割合を算出することを試みた。その結果、相対強度の弱い組成物A~Cは、画像上においてそれらが占める領域を区別することが困難であったため、組成物Dの85%を除いて面積比を測定することができなかった。この比較例の結果を、上記の実施例と合わせて下記表2に示す。
【0044】
【0045】
なお、別途MLAを用いて各組成物を分析したところ、組成物Aが樹脂であることが分かった。そこで、分析対象試料を構成する組成物B、C及びDの含有割合を求めるため、上記表1の数値から組成物Aの数値を除いた残りの3種類の組成物B、C及びDの数値の合計を100%として各組成物の含有割合を換算した。その結果を下記表3に示す。
【0046】
【0047】
上記の実施例及び比較例の結果から、本発明の実施例の分析方法を採用することにより、反射光の強度差が極めて小さい複数種類の組成物を含む分析対象試料であっても、それら組成物の含有割合を簡易且つ低コストに分析することができることが分かった。