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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140872
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】細胞培養装置および細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/04 20060101AFI20230928BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20230928BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12M1/04
C12M1/36
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046917
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】都倉 知浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 博行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将太
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA11
4B029BB01
4B029DB11
4B029DF04
4B029DF08
(57)【要約】
【課題】培養液の溶存酸素濃度を適正に調整することが可能な細胞培養装置および細胞培養方法を提供する。
【解決手段】細胞培養装置10は、培養槽1と、駆動部2と、制御部3とを備える。培養槽1は、細胞を含む培養液11を貯留する。駆動部2は、培養槽1を振とう動作させることによって培養液11を培養槽1内の気体12と接触させつつ流動させる。制御部3は、培養槽1の振とう速度が、時間と共に連続的又は断続的に増加するように駆動部2の動作を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む培養液を貯留する培養槽と、
前記培養槽を振とう動作させることによって前記培養液を前記培養槽内の気体と接触させつつ流動させる駆動部と、
前記培養槽の振とう速度が、時間と共に連続的又は断続的に増加するように前記駆動部の動作を制御する制御部と、
を備える、細胞培養装置。
【請求項2】
前記培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計をさらに備え、
前記制御部は、前記溶存酸素計による溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記培養槽の振とう速度を制御する請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記培養槽に酸素を供給する複数の供給系をさらに備え、
複数の前記供給系は、第1供給系と第2供給系とを含み、
前記制御部は、前記培養槽の振とう速度が特定の値に達したことに基づいて前記第1供給系を駆動させ、前記第1供給系による酸素供給量が最大又は設定した値に達したことに基づいて前記第2供給系を駆動させる、請求項1または2記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記第2供給系は、前記第1供給系に比べて、前記培養液中に溶け込む酸素の供給能力が高い、請求項3記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記培養槽に酸素を供給する複数の供給系と、
前記培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、をさらに備え、
前記供給系は、第1供給系と第2供給系とを含み、
前記制御部は、前記溶存酸素計による前記溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記第1供給系の駆動および停止を制御し、前記溶存酸素計による前記溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記第2供給系の駆動および停止を制御する、請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記第1供給系は、前記培養槽の気相空間に酸素含有ガスを供給し、
前記第2供給系は、前記培養液中に酸素含有ガスを供給するガス分散器を備える、請求項3~5のうちいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記ガス分散器に供給される前記酸素含有ガスの酸素濃度を調整する第3供給系をさらに備える、請求項6記載の細胞培養装置。
【請求項8】
細胞を含む培養液を貯留する培養槽を振とう動作させることによって前記培養液を前記培養槽内の気体と接触させつつ流動させ、
前記培養槽を振とう動作させるにあたって、前記培養槽の振とう速度が、時間と共に連続的又は断続的に増加するように前記培養槽を動作させる、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置および細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞などを培養する培養装置は、医薬品、食品、化粧品、これらの原材料などとして有用な各種物質の生産に広く用いられている。培養装置は、例えば、液体容器と、液体容器を揺動させる揺動装置と、を備える(例えば、特許文献1を参照)。この培養装置では、液体容器を揺動させることによって、液体容器中の培養液を揺動させる。これにより、空気中の酸素は液面から培養液に取り込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-145566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動物細胞などの培養において、培養液の溶存酸素の濃度は、細胞の生理学的状態に大きな影響を与える。前記培養装置では、培養液の溶存酸素濃度が大きくなりやすく、溶存酸素濃度を適正に調整するのは容易ではなかった。特に、槽振とう方式の培養装置では、培養液の液面が大きく動くため、培養液の液面からの酸素供給量が他の撹拌方式よりも多くなりやすく、培養初期の細胞数が少ない期間に溶存酸素濃度が高くなりすぎて、細胞が酸素障害を受けやすいことが問題であった。
【0005】
本発明の一態様は、培養液の溶存酸素濃度を適正に調整することが可能な細胞培養装置および細胞培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、細胞を含む培養液を貯留する培養槽と、前記培養槽を振とう動作させることによって前記培養液を前記培養槽内の気体と接触させつつ流動させる駆動部と、前記培養槽の振とう速度が、時間と共に連続的又は断続的に増加するように前記駆動部の動作を制御する制御部と、を備える、細胞培養装置を提供する。
【0007】
前記細胞培養装置は、前記培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計をさらに備え、前記制御部は、前記溶存酸素計による溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記培養槽の振とう速度を制御することが好ましい。
【0008】
前記細胞培養装置は、前記培養槽に酸素を供給する複数の供給系をさらに備え、複数の前記供給系は、第1供給系と第2供給系とを含み、前記制御部は、前記培養槽の振とう速度が特定の値に達したことに基づいて前記第1供給系を駆動させ、前記第1供給系による酸素供給量が最大又は設定した値に達したことに基づいて前記第2供給系を駆動させることが好ましい。
【0009】
前記第2供給系は、前記第1供給系に比べて、前記培養液中に溶け込む酸素の供給能力が高いことが好ましい。
【0010】
前記細胞培養装置は、前記培養槽に酸素を供給する複数の供給系と、前記培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、をさらに備え、前記供給系は、第1供給系と第2供給系とを含み、前記制御部は、前記溶存酸素計による前記溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記第1供給系の駆動および停止を制御し、前記溶存酸素計による前記溶存酸素濃度の検出値に基づいて前記第2供給系の駆動および停止を制御することが好ましい。
【0011】
前記第1供給系は、前記培養槽の気相空間に酸素含有ガスを供給し、前記第2供給系は、前記培養液中に酸素含有ガスを供給するガス分散器を備えることが好ましい。
【0012】
前記細胞培養装置は、前記ガス分散器に供給される前記酸素含有ガスの酸素濃度を調整する第3供給系をさらに備えることが好ましい。
【0013】
本発明の他の態様は、細胞を含む培養液を貯留する培養槽を振とう動作させることによって前記培養液を前記培養槽内の気体と接触させつつ流動させ、前記培養槽を振とう動作させるにあたって、前記培養槽の振とう速度が、時間と共に連続的又は断続的に増加するように前記培養槽を動作させる、細胞培養方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、培養液の溶存酸素濃度を適正に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の細胞培養装置を示す概略図である。
図2】振とう速度の経時変化の第1の例を示す図である。
図3】振とう速度の経時変化の第2の例を示す図である。
図4】振とう速度の経時変化の第3の例を示す図である。
図5】第2実施形態の細胞培養装置を示す概略図である。
図6】第3実施形態の細胞培養装置を示す概略図である。
図7】第4実施形態の細胞培養装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0017】
[細胞培養装置](第1実施形態)
図1は、第1実施形態の細胞培養装置10を示す概略図である。
図1に示すように、細胞培養装置10は、培養槽1と、駆動部2と、制御部3と、を備える。
培養槽1は、培養液11を貯留できる。培養槽1は、外気に開放された構造であってもよいが、密閉されていることが好ましい。培養槽1の中に、シングルユースバッグ(単回使用バッグ)などを取り付けて、その中で細胞培養することもできる。
【0018】
培養液11は、例えば、細胞を含む液体培地である。培養槽1内の培養液11の量は、培養槽1の内部空間の全容積より少ない。そのため、培養槽1内には、培養液11の液面Lより上に空間(気相空間)が確保されている。この空間には気体12がある。気体12は、空気などの酸素含有ガスである。なお、気体12は、酸素濃度が空気の酸素濃度より高くてもよいし、低くてもよい。酸素含有ガスの酸素濃度は、0%を越え、100%以下であってよい。酸素含有ガスの酸素濃度は、例えば、約21%~100%であってもよい。酸素濃度の「%」は標準状態(0℃、100kPa)における体積比率(vol%)である。
【0019】
培養液11と気体12との容量比(気液容量比)は特に限定されない。培養液11の容量は気体12の容量より多くてもよい。培養液11の容量は気体12の容量より少なくもよい。培養液11と気体12は、容量が互いに等しくてもよい。気液容量比は、例えば、1:9~9:1の範囲であってよい。
【0020】
培養槽1の形状は、特に限定されず、例えば、直方体状、円筒状、角筒状などであってよい。培養槽1の材質は、特に限定されず、樹脂、ゴム、ガラス、金属等であってよい。
【0021】
駆動部2は、培養槽1を振とう動作させることによって、培養液11を気体12と接触させつつ流動させる。これにより、駆動部2は、培養液11に接触せずに培養液11を撹拌することができる。駆動部2を用いるため、撹拌翼、撹拌棒、撹拌子等の撹拌部材を使用する場合と比べて、撹拌部材による培養液11の汚染を回避できる。撹拌部材の交換などの手間が不要となる点も、駆動部2の利点として挙げられる。駆動部2は、例えば、モータなどの駆動部本体と、駆動部本体の動作を往復運動や回転運動等に変換する変換機構とを備える。
【0022】
駆動部2が培養槽1に加える振とう動作は、往復運動、回転運動などであってよい。往復運動の方向は、例えば、水平方向(左右方向)、鉛直方向(上下方向)、またはこれらの間の傾斜方向であってよい。回転運動は、回転軸が培養液11の重心を通る自転運動であってもよい。回転運動は、回転軸が培養液11の重心から離れた位置を通る公転運動であってもよい。駆動部2は、運動の種類または方向が異なる2種類以上の運動を同時に培養槽1に作用させてもよい。駆動部2は、時間経過とともに、運動の種類または方向を変更してもよい。
【0023】
制御部3は、駆動部2の動作を制御する。制御部3は、例えば、駆動部2が培養槽1に加える振とう動作の単位時間あたりの数を制御することができる。制御部3は、振とう動作の大きさ、種類、方向などを制御することもできる。制御部3は、伝送線路31を介して制御信号を駆動部2に送信し、駆動部2を動作させる。「振とう動作の単位時間あたりの数」は、振とう速度である。
【0024】
制御部3は、受信した情報に基づいて機器を制御するため、コントローラー等の処理装置を備えてもよい。制御部3は、記憶装置、入力装置、出力装置、処理用プログラム等を備えてもよい。制御部3を用いることにより、自動制御が可能になる。制御信号の送受信方式は特に限定されないが、無線でも有線でもよい。
【0025】
[細胞培養方法](第1実施形態)
細胞培養装置10を用いて細胞を培養する方法を説明する。
培養液11に含まれる細胞は、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母などであってよい。動物細胞としては、バイオ医薬製造用のCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HeLa細胞、COS細胞、再生医療用途のiPS細胞、間葉系幹細胞などの幹細胞、分化させた組織細胞などが挙げられる。細胞は、例えば、医薬品、食品、化粧品、これらの原材料などとして有用な各種物質を生産することができる。
【0026】
付着依存性(足場依存性)を有する細胞を培養する場合は、他の細胞または細胞外基質の代わりとなる足場の確保が必要になることがある。その場合、培養液11には、液中で浮遊することができる足場材(マイクロキャリアー)が含まれていてもよい。細胞はマイクロキャリアーに付着することができる。マイクロキャリアーは、多孔質、カプセル、中空糸等であってよい。
【0027】
マイクロキャリアーは、ナノファイバー等の繊維状足場材でもよく、マイクロビーズ等の粒子状足場材でもよい。マイクロキャリアーの材質は、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、デキストラン、アガロース、アルギン酸塩等の多糖類;コラーゲン、ゼラチン等の蛋白質;ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン等の合成ポリマー;ガラス、シリカ、アルミナ等の無機物などが挙げられる。マイクロキャリアーの表面は、細胞の種類、培養条件等に応じて、被覆材を用いてコーティングしてもよい。被覆材としては、コラーゲン、ゼラチン、ケラチン等のタンパク質が挙げられる。
【0028】
制御部3が駆動部2によって培養槽1に振とう動作を加えると、培養液11は揺動し、液面Lにおいて気体12と接触しつつ流動する。例えば、培養液11は、静止した状態の水平な液面Lに対して、液面LA,LBのように傾斜した状態となる。液面Lは、例えば、時間経過とともに、液面L,LA,L,LBを繰り返すように連続的に変化する。培養槽1を振とう動作させることによって行う培養方式を「振とう培養」という。
【0029】
培養液11が流動することにより、培養液11に対する気体12(空気などの酸素含有ガス)の溶解が促進される。そのため、培養液11には酸素が供給される。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
【0030】
制御部3は、培養槽1の振とう速度が時間経過とともに連続的又は断続的に増加するように駆動部2の動作を制御する。
【0031】
図2は、振とう速度の経時変化の第1の例を示す図である。図2に示す例では、振とう速度は連続的に増加する。詳しくは、振とう速度は一次関数的(直線的)に増加する。時系列が異なる第1期間P1と第2期間P2とを対比すると、第2期間P2における振とう速度は、第1期間P1における振とう速度より高い(速い)。第2期間P2は、時系列において第1期間P1より後の期間である。
【0032】
図3は、振とう速度の経時変化の第2の例を示す図である。図3に示す例では、振とう速度は断続的(不連続的)に増加する。詳しくは、振とう速度は、増加する期間と、一定となる期間(振とう速度が増加しない期間)とを繰り返す。この例では、振とう速度が増加する期間は間隔をおいて現れる。第1期間P1および第2期間P2は、いずれも振とう速度が一定となる期間である。この例においても、第2期間P2における振とう速度は、第1期間P1における振とう速度より高い(速い)。
【0033】
図4は、振とう速度の経時変化の第3の例を示す図である。図4に示す例では、振とう速度は連続的に増加する。第1期間P1は、いわゆる誘導期に相当する。第2期間P2は、いわゆる対数増殖期に相当する。第2期間P2では、振とう速度は指数関数的に増加する。この例においても、第2期間P2における振とう速度は、第1期間P1における振とう速度より高い(速い)。この例では、細胞の増殖過程が誘導期、対数増殖期、静止期、および死滅期を含むことを想定している。
【0034】
振とう動作数の増加速度(振とう加速度)については、予備試験を行うことによって、過不足なく細胞に酸素を供給できるような振とう動作数の増加速度を求めておくことが望ましい。細胞培養条件において許容できる培養槽1の最大振とう速度についても、予備試験を行うことによって、過不足なく細胞に酸素を供給できるような培養槽1の最大振とう速度を求めておくことが望ましい。振とう加速度については、培養液11中の溶存酸素濃度の変化に伴って振とう加速度を決めることもできる。培養液11中の溶存酸素濃度は、溶存酸素計(図6参照)用いて測定できる。
【0035】
[第1実施形態の細胞培養装置および細胞培養方法が奏する効果]
細胞培養装置10によれば、培養槽1の振とう速度が連続的又は断続的に増加するように駆動部2の動作を制御する制御部3を備える。
制御部3は、培養液11中の細胞数が少ない培養工程の早期において、培養槽1の振とう速度を遅くするため、過剰な酸素によって細胞が影響を受けるのを抑制できる。例えば、細胞が酸素障害を受けるのを回避できる。培養液11中の細胞は時間経過とともに増殖するため、細胞による酸素の消費量は増大するが、制御部3による培養槽1の振とう速度の制御によって、培養液11の溶存酸素濃度は適正となり、細胞には十分な酸素が与えられる。このように、細胞培養装置10によれば、培養液11中の細胞の数に合わせて過不足なく酸素を供給できる。よって、細胞の生理学的状態を良好に維持することができる。
【0036】
[細胞培養装置](第2実施形態)
図5は、第2実施形態の細胞培養装置110を示す概略図である。なお、他の実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0037】
図5に示すように、細胞培養装置110は、培養槽1と、駆動部2と、制御部3と、第1供給系4と、第2供給系5とを備える。細胞培養装置110は、第1供給系4および第2供給系5を備える点で、第1実施形態の細胞培養装置10(図1参照)と異なる。
制御部3は、駆動部2、第1供給系4および第2供給系5の動作を制御する。
【0038】
第1供給系4は、供給管路13(供給経路)と、流量調整部14とを備える。
供給管路13は、培養槽1の上部に接続されている。供給管路13は、培養槽1の気相空間に、供給源(図示略)から供給された酸素含有ガスを供給する。酸素含有ガスの酸素濃度は、0%を越え、100%以下とすることができる。前記酸素濃度は、空気の酸素濃度(約21%)より高くてもよく、低くてもよい。
培養槽1には、培養槽1内の気体を排出する排出孔(図示略)が形成されている。
【0039】
流量調整部14は、供給管路13を通した酸素含有ガスの供給量を調整する。流量調整部14は、例えば、バルブ、ポンプなどである。流量調整部14がバルブである場合、流量調整部14は、流路開口面積を調整することによって、供給管路13を通した酸素含有ガスの供給量を調整する。制御部3は、伝送線路32を介して制御信号を流量調整部14に送信し、流量調整部14を動作させる。
【0040】
第2供給系5は、ガス分散器15と、供給管路16(供給経路)と、流量調整部17とを備える。
ガス分散器15は、培養槽1内の培養液11中に設置される。ガス分散器15は、例えば、多孔質材で構成された管体である。ガス分散器15は、散気(バブリング)によって酸素含有ガスを培養液11中に供給できる。酸素含有ガスは培養液11に気泡として供給される。第2供給系5は、第1供給系4に比べて、培養液11に酸素を供給する能力(培養液11中に溶け込む酸素を供給する能力)が高いことが望ましい。
【0041】
供給管路16は、ガス分散器15に、供給源(図示略)から供給された酸素含有ガスを供給する。酸素含有ガスは、例えば、空気である。酸素含有ガスの酸素濃度は、空気の酸素濃度より高くてもよいし、低くてもよい。酸素含有ガスに含まれる酸素の濃度は、0%を越え、100%以下であってよい。酸素含有ガスの酸素濃度は、例えば、約21%~100%であってもよい。
【0042】
流量調整部17は、供給管路16を通した酸素含有ガスの供給量を調整する。流量調整部17は、例えば、バルブ、ポンプなどである。流量調整部17がバルブである場合、流量調整部17は、流路開口面積を調整することによって、供給管路16を通した酸素含有ガスの供給量を調整する。制御部3は、伝送線路33を介して制御信号を流量調整部17に送信し、流量調整部17を動作させる。
【0043】
制御部3は、第1供給系4と第2供給系5のうち少なくとも1つの動作を、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値に基づいて制御することもできる。
例えば、PID制御(proportional integral differential control)によって第1供給系4と第2供給系5のうち少なくとも1つを制御する場合は、培養液11中の溶存酸素濃度が設定された値より低い際は酸素濃度が高い酸素含有ガスを供給して溶存酸素濃度を上昇させ、培養液11中の溶存酸素濃度が設定された値より高い際は酸素濃度が低い酸素含有ガスを供給して溶存酸素濃度を下降させることができる。培養液11中の溶存酸素濃度は、溶存酸素計(図6参照)用いて測定できる。
【0044】
[細胞培養方法](第2実施形態)
細胞培養装置110を用いて細胞を培養する方法を説明する。
【0045】
(第1工程:槽振とう動作による酸素供給)
制御部3は駆動部2によって培養槽1に振とう動作を加え、培養液11を揺動させる。制御部3は、例えば、培養槽1の振とう速度(単位時間あたりの振とう動作数)が時間経過とともに増加するように駆動部2の動作を制御する(図2図4参照)。培養槽1の振とう速度の増加は、連続的であってもよく、断続的であってもよい。培養液11が流動することにより、培養液11に対する気体12(空気などの酸素含有ガス)の溶解が促進される。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
【0046】
(第2工程:第1供給系による酸素供給)
制御部3は、駆動部2による培養槽1の振とう速度(単位時間あたりの振とう動作数)が特定の値に達したことを検知すると、第1供給系4を駆動させる。詳しくは、駆動部2による培養槽1の振とう速度が特定の値に達したり、培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達したことを制御部3が検知すると、制御部3は流量調整部14を操作し、供給管路13を通して高酸素濃度の酸素含有ガスを培養槽1内に供給する。
高酸素濃度の酸素含有ガスを培養槽1内に供給するため、培養槽1内の気体12の酸素濃度は高くなる。そのため、培養液11への酸素の供給量は増加する。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
第2工程では、駆動部2による培養槽1の振とう速度は最大値又は設定値に維持される。
【0047】
制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに増加するように流量調整部14の動作を制御する。酸素含有ガスの流量の時間経過に伴う増加は、連続的でもよく、断続的でもよい。例えば、時系列が異なる第1期間と、前記第1期間より後の第2期間とを対比すると、第2期間における酸素含有ガスの流量は、第1期間における酸素含有ガスの流量より多い。酸素含有ガスの流量が時間経過とともに増加するように流量調整部14を操作するには、例えば、流量調整部14における流路開口面積を時間経過とともに大きくすればよい。
【0048】
酸素含有ガスの流量の増加速度については、予備試験を行うことによって、過不足なく細胞に酸素を供給できるような増加速度を求めておくことが望ましい。培養液11中の溶存酸素濃度変化に伴って酸素含有ガスの流量の増加速度を決めることもできる。
【0049】
「駆動部2による振とう速度が特定の値に達する」とは、例えば、(i)駆動部2の駆動部本体(モータ)の回転数が駆動部本体の動作能の上限に達する、(ii)槽振とう速度が設定した値に達する、(iii)培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達する、ことなどをいう。このとき、培養槽1の槽振とう動作による酸素供給量は特定の値(例えば、最大値)となる。
【0050】
(第3工程:第2供給系による酸素供給)
制御部3は、第1供給系4による酸素供給量が最大又は設定した値に達したことに基づいて第2供給系5を駆動させる。詳しくは、制御部3は、(i)第1供給系4による酸素含有ガスの供給量が供給能力の最大に達した、(ii)酸素含有ガスの供給量が設定した値に達した、(iii)培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達した、ことなどを検知すると、第2供給系5を駆動させる。具体的には、(i)~(iii)の少なくとも1つを制御部3が検知すると、制御部3は流量調整部17を操作し、供給管路16を通して酸素含有ガス(例えば、空気)をガス分散器15に供給する。ガス分散器15は、散気(バブリング)によって酸素含有ガスを培養液11中に供給する。
酸素含有ガスを培養液11中に供給するため、培養液11への酸素の供給量は増加する。
【0051】
制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように流量調整部17の動作を制御する。例えば、時系列が異なる第1期間と、前記第1期間より後の第2期間とを対比すると、第2期間における酸素含有ガスの流量は、第1期間における酸素含有ガスの流量より多いことが好ましい。
酸素含有ガスの流量が時間経過とともに増加するように流量調整部17を操作するには、例えば、流量調整部17における流路開口面積を時間経過とともに大きくすればよい。
【0052】
酸素含有ガスの流量の増加速度については、予備試験を行うことによって、過不足なく細胞に酸素を供給できるような増加速度を求めておくことが望ましい。培養液11中の溶存酸素濃度変化に伴って酸素含有ガスの流量の増加速度を決めることもできる。
【0053】
第3工程では、駆動部2による培養槽1の単位時間あたりの振とう動作数は最大値又は設定値に維持される。第1供給系4による酸素含有ガスの供給量も最大値又は設定値に維持される。
【0054】
「第1供給系4による酸素含有ガスの供給量が供給能力の最大に達する」とは、例えば、供給管路16を通して酸素含有ガスを送るためのポンプが動作能の上限に達したり、培養条件や培養槽1の構造に基づく酸素含有ガス供給量の上限に達することなどをいう。このとき、第1供給系4による酸素供給量は最大となる。
【0055】
[第2実施形態の細胞培養装置および細胞培養方法が奏する効果]
細胞培養装置110は、第1実施形態と同様の効果に加え、次の効果を奏する。
制御部3は、駆動部2に基づく槽振とう速度が特定の値に達した後、第1供給系4を用いて高濃度の酸素含有ガスを供給する。第1供給系4の酸素供給量が最大又は特定の値に達した後、第2供給系5を用いてさらに酸素含有ガスを供給する。培養液11中の細胞による酸素の消費量は増大するが、第1供給系4および第2供給系5によって酸素を供給できるため、培養液11の溶存酸素濃度は適正となり、細胞には十分な酸素が与えられる。よって、細胞の生理学的状態を良好に維持することができる。
【0056】
[細胞培養装置](第3実施形態)
図6は、第3実施形態の細胞培養装置210を示す概略図である。なお、他の実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0057】
図6に示すように、細胞培養装置210は、培養槽1と、駆動部2と、制御部3と、第1供給系4と、第2供給系5と、溶存酸素計6とを備える。細胞培養装置210は、溶存酸素計6を備える点で、第2実施形態の細胞培養装置110(図5参照)と異なる。溶存酸素計6は、例えば、隔膜式の溶存酸素計である。
【0058】
溶存酸素計6は、溶存酸素濃度センサ6aが培養槽1内の下部に配置されるように設置される。これにより、溶存酸素濃度センサ6aは培養液11に浸漬される。溶存酸素濃度センサ6aは培養液11の溶存酸素濃度を検出し、伝送線路34を介して検出信号を制御部3に送信する。
【0059】
[細胞培養方法](第3実施形態)
細胞培養装置210を用いて細胞を培養する方法を説明する。
【0060】
(第1工程:槽振とう動作による酸素供給)
制御部3は駆動部2によって培養槽1に振とう動作を加え、培養液11を揺動させる。制御部3は、例えば、培養槽1の振とう速度が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように駆動部2の動作を制御する(図2図4参照)。
【0061】
制御部3は、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、培養槽1の振とう速度を制御することもできる。例えば、検出値が設定された値よりも低い際は培養槽1の振とう速度を上昇させ、検出値が設定された値よりも高い際は培養槽1の振とう速度を下降させることができる。
【0062】
制御部3は、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、第1供給系4の駆動および停止を制御する。例えば、溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値以上であれば、制御部3は第1供給系4を駆動しない。
【0063】
(第2工程:第1供給系による酸素供給)
制御部3は、溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値を下回った場合、第1供給系4を駆動させる。詳しくは、制御部3は流量調整部14を操作し、供給管路13を通して高酸素濃度の酸素含有ガスを培養槽1内に供給する。制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように流量調整部14の動作を制御する。
【0064】
制御部3は、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、第2供給系5の駆動および停止を制御する。例えば、溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値以上であれば、制御部3は第2供給系5を駆動しない。
【0065】
(第3工程:第2供給系による酸素供給)
溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値を下回った場合、制御部3は、第2供給系5を駆動させる。詳しくは、制御部3は流量調整部17を操作し、供給管路16を通して酸素含有ガス(例えば、空気)をガス分散器15に供給する。制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように流量調整部17の動作を制御する。
【0066】
[第3実施形態の細胞培養装置および細胞培養方法が奏する効果]
細胞培養装置210は、第1実施形態と同様の効果に加え、次の効果を奏する。
制御部3は、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、第1供給系4および第2供給系5を用いて高濃度の酸素含有ガスを供給する。培養液11中の細胞による酸素の消費量は増大するが、第1供給系4および第2供給系5によって酸素を供給できるため、培養液11の溶存酸素濃度は適正となる。
【0067】
制御部3は、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、第1供給系4および第2供給系5の駆動および停止を制御するため、培養液11の溶存酸素濃度は適正となり、細胞には過不足なく酸素が与えられる。よって、細胞の生理学的状態を良好に維持することができる。
【0068】
[細胞培養装置](第4実施形態)
図7は、第4実施形態の細胞培養装置310を示す概略図である。なお、他の実施形態との共通構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
図7に示すように、細胞培養装置310は、培養槽1と、駆動部2と、制御部3と、第1供給系4と、第2供給系5と、溶存酸素計6と、第3供給系7とを備える。細胞培養装置310は、第3供給系7を備える点で、第3実施形態の細胞培養装置210(図6参照)と異なる。
制御部3は、駆動部2、第1供給系4、第2供給系5および第3供給系7の動作を制御する。
【0070】
制御部3は、例えば、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、PID制御によって駆動部2、第1供給系4、第2供給系5および第3供給系7の動作を制御することができる。
制御部3は、例えば、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値よりも低い際は駆動部2の駆動速度を上昇させ、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値より高い際は駆動部2の駆動速度を下降させることができる。
【0071】
制御部3は、例えば、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値よりも低い際は前記各供給系から供給する酸素含有ガスの供給量を上昇させ、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値よりも高い際は前記各供給系から供給する酸素含有ガスの供給量を下降させることができる。
制御部3は、例えば、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値よりも低い際は酸素濃度が高い酸素含有ガスを供給して溶存酸素濃度を上昇させ、培養液11中の溶存酸素濃度の検出値が設定された値より高い際は酸素濃度が低い酸素含有ガスを供給して溶存酸素濃度を下降させることができる。
【0072】
第3供給系7は、調整部20と、第1供給管路21と、第2供給管路22と、第1流量調整部23と、第2流量調整部24と、を備える。第3供給系7は、供給管路16を通してガス分散器15に供給される酸素含有ガスの酸素濃度を調整する。
【0073】
第1供給管路21は、調整部20に、供給源(図示略)から供給された第1ガスを供給する。第1ガスは、例えば、空気である。第1ガスは、酸素含有ガスでもよいし、酸素を含まないガスでもよい。
【0074】
第1流量調整部23は、第1供給管路21を通した第1ガスの供給量を調整する。第1流量調整部23は、例えば、バルブ、ポンプなどである。第1流量調整部23がバルブである場合、第1流量調整部23は、流路開口面積を調整することによって、第1供給管路21を通した第1ガスの供給量を調整する。制御部3は、伝送線路35を介して制御信号を第1流量調整部23に送信し、第1流量調整部23を動作させる。
【0075】
第2供給管路22は、調整部20に、供給源(図示略)から供給された第2ガスを供給する。第2ガスは、酸素含有ガスである。第2ガスの酸素濃度は、第1ガスの酸素濃度より高くてもよく、低くてもよい。第2ガスの酸素濃度は、例えば、0%を越え、100%以下であってもよく、約21%~100%であってよい。
【0076】
第2流量調整部24は、第2供給管路22を通した第2ガスの供給量を調整する。第2流量調整部24は、例えば、バルブ、ポンプなどである。第2流量調整部24がバルブである場合、第2流量調整部24は、流路開口面積を調整することによって、第2供給管路22を通した第2ガスの供給量を調整する。制御部3は、伝送線路36を介して制御信号を第2流量調整部24に送信し、第2流量調整部24を動作させる。
【0077】
調整部20には、供給管路16の基端と、第1供給管路21の先端と、第2供給管路22の先端とが接続されている。調整部20は、第1供給管路21からの第1ガスと、第2供給管路22からの第2ガスとの混合ガスを、供給管路16を通してガス分散器15に送ることができる。
【0078】
制御部3は、第1流量調整部23および第2流量調整部24を操作し、第1ガスと第2ガスとの混合比率を調整することによって、混合ガスの酸素濃度を調整することができる。
【0079】
[細胞培養方法](第4実施形態)
細胞培養装置310を用いて細胞を培養する方法を説明する。
【0080】
(第1工程:槽振とう動作による酸素供給)
制御部3は駆動部2によって培養槽1に振とう動作を加え、培養液11を揺動させる。制御部3は、例えば、培養槽1の振とう速度が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように駆動部2の動作を制御する(図2図4参照)。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
【0081】
(第2工程:第1供給系による酸素供給)
制御部3は、駆動部2による培養槽1の振とう速度が最大又は設定した値に達したことを検知すると、第1供給系4を駆動させる。詳しくは、駆動部2による培養槽1の振とう速度が最大又は設定した値に達したことを検知すると、制御部3は流量調整部14を操作し、供給管路13を通して高酸素濃度の酸素含有ガスを培養槽1内に供給する。制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように流量調整部14の動作を制御する。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
第2工程では、駆動部2による単位時間あたりの振とう動作数は最大値又は設定値に維持される。
【0082】
(第3工程:第2供給系による酸素供給)
制御部3は、第1供給系4による酸素含有ガスの供給量が供給能力の最大に達したか、培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達したことを検知すると、第2供給系5を駆動させる。詳しくは、第1供給系4による酸素含有ガスの供給量が供給能力の最大に達したか、培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達したことを制御部3が検知すると、制御部3は流量調整部17を操作し、供給管路16を通して酸素含有ガス(例えば、空気)をガス分散器15に供給する。ガス分散器15は、散気(バブリング)によって酸素含有ガスを培養液11中に供給する。制御部3は、例えば、酸素含有ガスの流量が時間経過とともに連続的に又は断続的に増加するように流量調整部17の動作を制御する。供給された酸素の少なくとも一部は細胞によって消費される。
【0083】
制御部3は、第3実施形態の細胞培養方法と同様に、溶存酸素計6による溶存酸素濃度の検出値に基づいて、第2供給系5の駆動および停止を制御してもよい。例えば、溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値以上であれば、制御部3は第2供給系5を駆動しない。溶存酸素濃度の検出値が予め設定された設定値を下回った場合は、第2供給系5を駆動させる。
【0084】
第3工程では、駆動部2による単位時間あたりの振とう動作数は最大値又は設定値に維持される。第1供給系4による酸素含有ガスの供給量も最大値又は設定値に維持される。
【0085】
(第4工程:第3供給系による酸素供給)
制御部3は、第2供給系5による酸素含有ガスの供給量が供給能力の特定の値(例えば、最大値)に達したか、設定した供給量に達したか、培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達したことを検知すると、第3供給系7を駆動させる。詳しくは、第2供給系5による酸素含有ガスの供給量が供給能力の特定の値に達したか、設定した供給量に達したか、培養液11中の溶存酸素濃度が設定した値に達したことを制御部3が検知すると、制御部3は第1流量調整部23および第2流量調整部24を操作し、混合ガスの酸素濃度を調整する。具体的には、第1流量調整部23および第2流量調整部24における流路開口面積を調整することによって、混合ガスにおける第2ガスの比率を増加させる。例えば、第1流量調整部23における流路開口面積を小さくするとともに、第2流量調整部24における流路開口面積を大きくする。これにより、混合ガスにおける第2ガスの比率が増加するため、ガス分散器15に送られる酸素含有ガスの酸素濃度が上昇する。
【0086】
酸素濃度の上昇速度については、予備試験を行うことによって、過不足なく細胞に酸素を供給できるような上昇速度を求めておくことが望ましい。
【0087】
「第2供給系5による酸素含有ガスの供給量が供給能力の特定の値に達する」とは、例えば、供給管路16を通して酸素含有ガスを送るためのポンプが動作能の上限に達することなどをいう。このとき、第2供給系5による酸素供給量は特定の値(例えば、最大値)となる。
【0088】
制御部3は、例えば、酸素含有ガスの酸素濃度が時間経過とともに増加するように第1流量調整部23および第2流量調整部24の動作を制御することができる。
酸素含有ガスの酸素濃度が時間経過とともに増加するように第1流量調整部23および第2流量調整部24を操作するには、例えば、第1流量調整部23の流路開口面積に対する、第2流量調整部24の流路開口面積の比率を時間経過とともに大きくすればよい。
【0089】
第4工程では、駆動部2による培養槽1の振とう速度は最大値又は設定値に維持される。第1供給系4による酸素含有ガスの供給量も最大値又は設定値に維持される。第2供給系5による酸素含有ガスの供給量も最大値又は設定値に維持される。
【0090】
[第4実施形態の細胞培養装置および細胞培養方法が奏する効果]
細胞培養装置310は、第1実施形態および第2実施形態と同様の効果に加え、次の効果を奏する。
制御部3は、駆動部2による培養槽1の振とう速度が最大又は設定した値に達した後、第1供給系4を用いて高濃度の酸素含有ガスを供給する。第1供給系4の酸素供給量が最大又は設定した値に達した後、第2供給系5を用いてさらに酸素含有ガスを供給する。第2供給系5の酸素供給量が最大又は設定した値に達した後、第3供給系7を用いて酸素含有ガスの酸素濃度を高くする。
【0091】
細胞培養装置310によれば、培養液11中の細胞による酸素の消費量は増大するが、第1供給系4、第2供給系5および第3供給系7によって酸素を供給できるため、培養液11の溶存酸素濃度は適正となり、細胞には十分な酸素が与えられる。よって、細胞の生理学的状態を良好に維持することができる。
【0092】
培養槽1に接続される供給管路は、フレキシブルなチューブ、ホース等でもよく、硬質のパイプ等でもよい。供給管路の材質としては、樹脂、ゴム、エラストマー、金属等が挙げられる。
【0093】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、各実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【0094】
第2実施形態~第4実施形態では、酸素を供給する供給系の数が2または3である例を挙げたが、供給系の数は特に限定されない。供給系の数は1でもよいし、複数(2以上の任意の数)でもよい。例えば、第1~第3供給系に加え、第1~第3供給系とは異なる経路で酸素を培養液に供給する第4供給系を用いてもよい。
細胞培養装置は、図5に示す構成から第2供給系5を省いた構成、すなわち、培養槽1と、駆動部2と、制御部3と、第1供給系4とを備えた構成でもよい。
細胞の培養方式としては、回分培養、流加培養、灌流培養などが挙げられる。
【0095】
駆動部2(図1参照)は、ひとつの供給系とみなすこともできる。そのため、実施形態の細胞培養装置は、細胞を含む培養液を貯留する培養槽と、前記培養槽に酸素を供給する1または複数の供給系とを備える細胞培養装置と言い換えることができる。
【符号の説明】
【0096】
1…培養槽、2…駆動部、3…制御部、4…第1供給系、5…第2供給系、6…溶存酸素計、7…第3供給系、10,110,210,310…細胞培養装置、11…培養液、12…気体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7