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特開2023-140980標識抗体の製造方法、標識抗体及び免疫学的測定法
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  • 特開-標識抗体の製造方法、標識抗体及び免疫学的測定法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140980
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】標識抗体の製造方法、標識抗体及び免疫学的測定法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/553 20060101AFI20230928BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N33/553
G01N33/543 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047077
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 靖
(72)【発明者】
【氏名】松村 康史
(72)【発明者】
【氏名】新田 龍三
(57)【要約】
【課題】 金属-樹脂複合体に結合している抗体量が十分に多く、高感度な免疫学的測定が可能な標識抗体を提供する。
【解決手段】 抗体と、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体とを、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含むpH6~10の範囲内の結合用緩衝液の存在下で混合することによって前記抗体を前記金属-樹脂複合体に付着させる結合工程を含む標識抗体の製造方法。グッド緩衝剤は、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロへヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸(CHES)及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)から選ばれる1種以上が好ましい。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識された抗体を製造する標識抗体の製造方法であって、
抗体と、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体とを、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含むpH6~10の範囲内の結合用緩衝液の存在下で混合することによって前記抗体を前記金属-樹脂複合体に付着させる結合工程、
を含むことを特徴とする標識抗体の製造方法。
【請求項2】
前記グッド緩衝剤が、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロへヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸(CHES)及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)から選ばれる1種以上である請求項1に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項3】
前記結合工程において、使用した全抗体量に対して付着した抗体の割合が50重量%以上である請求項1又は2に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子が、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウム又はこれらのいずれかを含む合金である請求項1から3のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項5】
前記金属粒子が、前記樹脂粒子内に埋包された部位及び前記樹脂粒子外に露出した部位を有する金属粒子を含んでいる請求項1から4のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項6】
前記金属粒子の少なくとも一部の粒子が、前記樹脂粒子の表層部において三次元的に分布している請求項1から5のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂粒子が、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子である請求項1から6のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項8】
前記金属粒子の平均粒子径が1~80nmの範囲内である請求項1から7のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項9】
前記金属-樹脂複合体の平均粒子径が100~1000nmの範囲内である請求項1から8のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の標識抗体の製造方法によって製造された標識抗体。
【請求項11】
請求項10に記載の標識抗体を用いることを特徴とする免疫学的測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば免疫学的測定に使用可能な標識抗体の製造方法、標識抗体及び免疫学的測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノアッセイは、免疫学的測定法とも呼ばれ、抗原-抗体間における特異的な反応を利用し、微量成分を定性的、定量的に分析する方法である。抗原-抗体反応は感度や反応の選択性が高いため、医薬等の分野で広く用いられている。イムノアッセイは、その測定原理により、様々な測定法が知られており、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス等の凝集法(LIA、PA)、イムノクロマトグラフィー法(ICA)、赤血球凝集法(HA)、赤血球凝集抑制法(HI)等が挙げられる。
【0003】
イムノアッセイは、抗原及び抗体が反応し複合体を形成した際の変化(抗原、抗体または複合体の濃度変化)から、抗原または抗体を定性的または定量的に検出する。これらを検出する際に、抗体、抗原または複合体に標識物質を結合させることで、検出感度が増大する。そのため、標識物質の標識能力は、イムノアッセイにおける検出能力を左右する重要な要素であるといえる。
【0004】
そこで、高感度な免疫学的測定を可能にする標識物質として、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体が提案されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2016/002742
【特許文献2】WO2016/002743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属-樹脂複合体を免疫学的測定法における標識物質として使用するためには、抗体などのリガンドを十分な量で結合させることが必要である。金属-樹脂複合体への抗体の結合量が少ないと、優れた検出感度が得られない。しかし、緩衝液中に分散させた金属-樹脂複合体は、凝集状態のものが多くなる傾向があり、抗体の結合量が減少して検出感度が大きく低下する場合がある。
【0007】
従って、本発明は、金属-樹脂複合体に結合している抗体量が十分に多く、高感度な免疫学的測定が可能な標識抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体を特定の結合用緩衝剤の下で抗体と結合させることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の標識抗体の製造方法は、標識された抗体を製造する方法であって、抗体と、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体とを、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含むpH6~10の範囲内の結合用緩衝液の存在下で混合することによって前記抗体を前記金属-樹脂複合体に付着させる結合工程、
を含むものである。
【0010】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記グッド緩衝剤が、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロへヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸(CHES)及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)から選ばれる1種以上であってもよい。
【0011】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記結合工程において、使用した全抗体量に対して付着した抗体の割合が50重量%以上であってもよい。
【0012】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記金属粒子が、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウム又はこれらのいずれかを含む合金であってもよい。
【0013】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記金属粒子が、前記樹脂粒子内に埋包された部位及び前記樹脂粒子外に露出した部位を有する金属粒子を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記金属粒子の少なくとも一部の粒子が、前記樹脂粒子の表層部において三次元的に分布していてもよい。
【0015】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記樹脂粒子が、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子であってもよい。
【0016】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記金属粒子の平均粒子径が1~80nmの範囲内であってもよい。
【0017】
本発明の標識抗体の製造方法は、前記金属-樹脂複合体の平均粒子径が100~1000nmの範囲内であってもよい。
【0018】
本発明の標識抗体は、上記のいずれかの標識抗体の製造方法によって製造されたものである。
【0019】
本発明の免疫学的測定法は、上記標識抗体を用いるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の標識抗体の製造方法によれば、特定の結合用緩衝液を用いることによって、金属-樹脂複合体の凝集が抑制され、抗体付着量が多く、高感度な免疫学的測定が可能な標識抗体を製造できる。本発明方法により得られる標識抗体は、耐久性、視認性、目視判定性、検出感度に優れた材料として、各種の免疫学的測定において有利に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に用いる金属-樹脂複合体の断面の構造を示す模式図である。
図2】実施例で作製したイムノクロマトストリップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
[標識抗体の製造方法]
本実施の形態の標識抗体の製造方法は、少なくとも、次の工程A;
工程A)抗体と、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体とを、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤(以下、「特定グッド緩衝剤」と記すことがある)を含むpH6~10の範囲内の結合用緩衝液の存在下で混合することによって抗体を金属-樹脂複合体に付着させる結合工程、
を含むことができる。
【0024】
(抗体)
本実施の形態において、抗体としては、特に制限はなく、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、遺伝子組み換えにより得られた抗体のほか、抗原と結合能を有する抗体断片[例えば、H鎖、L鎖、Fab、F(ab’)等]などを用いることができる。また、免疫グロブリンとして、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよい。抗体の産生動物種としては、ヒトをはじめ、ヒト以外の動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等)でもよい。抗体の具体例としては、抗CRP抗体、抗PSA抗体、抗AFP抗体、抗CEA抗体、抗アデノウイルス抗体、抗インフルエンザウィルス抗体、抗HCV抗体、抗IgG抗体、抗ヒトIgE抗体、抗ヒト心筋トロポニンI抗体、抗SARS-COV-2(COVID-19)抗体等が挙げられる。
【0025】
(金属-樹脂複合体)
本実施の形態において、標識として使用される金属-樹脂複合体は、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有するものである。この金属-樹脂複合体の詳細については後述する。
【0026】
<工程A:結合工程>
工程Aでは、抗体と金属-樹脂複合体とをpH6~10の範囲内の結合用緩衝液の存在下で混合することによって、抗体を金属-樹脂複合体に付着させる。本工程での金属-樹脂複合体と抗体との結合は、いわゆる物理的結合であり、金属-樹脂複合体における金属粒子の表面及び/又は樹脂粒子の表面に物理的な相互作用によって抗体を結合させる。ここで、物理的な相互作用による結合とは、例えば、静電気的結合、水素結合、親-疎水性相互作用、ファンデルワールス力を挙げることができる。
【0027】
(結合用緩衝液)
本工程では、特定グッド緩衝剤を含むpH6~10の範囲内の結合用緩衝液を用いる。グッド緩衝剤は、酸性の官能基と塩基性の官能基を持つ生化学的に有用な緩衝剤であり、これまで数十種類が知られている。その中でも、特定グッド緩衝剤は、一般的なグッド緩衝剤について知られている特性に加え、イオン強度が低いために緩衝液中で金属-樹脂複合体の凝集を効果的に抑制できるという顕著な作用を奏する。つまり、特定グッド緩衝剤は、金属-樹脂複合体に対して、他の標識物質に対する作用とは異質な作用である凝集抑制作用を奏することが確認された。そのため、特定グッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を用いて抗体と金属-樹脂複合体とを結合させることによって、金属-樹脂複合体の凝集が抑制された状態で抗体を作用させることが可能になり、例えば無機系の緩衝剤を用いる結合用緩衝液に比べて、金属-樹脂複合体への抗体の付着量を大幅に増加させることができる。
【0028】
特定グッド緩衝剤としては、20℃におけるpKaが7.5以上であればよいが、抗体の付着量を十分に確保する観点から、例えば、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸[HEPES;pKa(20℃)7.55]、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸[TAPS;pKa(20℃)8.40]、N-シクロへヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸[CAPS;pKa(20℃)10.40]、2-シクロヘキシルアミノエタンスルホン酸[CHES;pKa(20℃)9.5]、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸[TAPSO;pKa(20℃)7.7]等が好ましい。
グッド緩衝剤として知られる化合物群の中でも、20℃におけるpKaが7.5未満のものは、金属-樹脂複合体の凝集を抑える効果は得られるが、抗体の結合に適したpH範囲から外れてしまう場合が多いため抗体の十分な付着量を確保できない。
【0029】
また、特定グッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を用いることによって、抗体の種類を問わず、金属-樹脂複合体によるテストストリップにおける目詰まりを防ぐことができるため、イムノクロマトグラフィーの陰性検体による偽陽性を抑制できる。
【0030】
本工程Aでは、pH6~10の範囲内の結合用緩衝液を用いることが好ましく、より好ましくはpH6~8の範囲内である。結合用緩衝液のpHが6未満では抗体の付着量が減少する場合があり、pHが10を超えるとpH調整のために添加するイオン成分が多くなり、緩衝液のイオン強度が大きくなるため金属-樹脂複合体の凝集を抑制する作用が乏しくなってしまう。pH6~10の範囲内であれば、金属-樹脂複合体の凝集を抑制した状態で十分な量の抗体を結合させることが可能になり、免疫測定において優れた検出感度が得られる。
【0031】
工程Aで使用する結合用緩衝液は、常法に従い調製できる。例えば、結合用緩衝液は、pHが上記範囲内になるように、特定グッド緩衝剤の水溶液を所定濃度のアルカリ溶液と混合することによって調製できる。アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウムなどが好ましい。結合用緩衝液のpHの調整は、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムなどを用いて行うことができる。
【0032】
(結合操作)
工程Aでは、抗体と金属-樹脂複合体とを結合用緩衝液の存在下で混合し、十分に攪拌することによって、標識抗体分散液を得ることができる。本工程では、抗体と金属-樹脂複合体とを結合用緩衝液中で結合させればよいため、結合用緩衝液に予め金属-樹脂複合体を分散させておき、そこに抗体を添加してもよいし、結合用緩衝液に予め抗体を分散させておき、そこに金属-樹脂複合体を添加してもよい。分散は、公知の方法で行うことができるが、例えば超音波処理、ローテーターによる撹拌、ボルテックスミキサーなどの分散手段を用いることが好ましい。このようにして得られた標識抗体分散液は、例えば遠心分離などの固液分離手段により、固形部分として標識抗体のみを分取できる。
【0033】
(抗体結合収率)
本結合工程では、使用した全抗体量に対して金属-樹脂複合体に付着した抗体の割合(「抗体結合収率」ともいう。)が50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。付着した抗体の割合が50重量%未満では、高価な抗体が有効利用されず無駄になることから好ましくない。本発明では、特定グッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を用いることによって、抗体の結合収率を50重量%以上に高めることができるため、抗体を有効利用しながら標識抗体を用いる免疫測定において優れた検出感度を得ることができる。
【0034】
また、金属-樹脂複合体を結合用緩衝液中に分散させて得られる試薬組成物は、金属-樹脂複合体の非凝集比率が50%以上であることが好ましい。ここで、非凝集比率とは、金属-樹脂複合体が凝集せずに単一粒子として分散している比率を意味し、体積・質量基準の粒度分布の測定結果から求めることができる。
【0035】
非凝集比率が50%以上であることによって、標識抗体を製造する場合の抗体結合収率を高め、金属-樹脂複合体への抗体付着量を増加させることが可能になり、標識抗体を用いて免疫測定を行う場合に優れた検出感度を得ることができる。このように高い非凝集比率は、金属-樹脂複合体に対して、特定グッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を用いることによって実現される。それに対して、非凝集比率が50%未満である場合は、金属-樹脂複合体の凝集粒子の割合が相対的に大きいことを意味するため、標識抗体を製造する場合の抗体結合収率及び金属-樹脂複合体への抗体付着量が共に低下するとともに、標識抗体を用いて免疫測定を行う場合の検出感度が劣るものとなる。
【0036】
本実施の形態の標識抗体の製造方法は、さらに、次の工程Bを含むことができる。
【0037】
<工程B>
工程Bは、標識抗体をpH2~9の範囲内のブロック用緩衝液中に分散させる工程である。工程Bでは、工程Aで得られた標識抗体をpH2~9の範囲内のブロック用緩衝液(Blocking Buffer)中に分散させることによって、標識抗体への非特異的な吸着を抑制するブロッキングを行う。この場合、例えば固液分離手段によって分取しておいた標識抗体を、pH2~9の範囲内の条件で液相中に分散させる。このブロッキングの条件は、抗体の活性を保ち、かつ、標識抗体の凝集を抑制する観点から、好ましくはpH4~9の範囲内であり、標識抗体の非特異的な吸着を抑制する観点から、pH5~9の範囲内が好ましい。ブロック用緩衝液がpH2未満では、強酸性により抗体が変質し失活する場合があり、pH9を超えると、標識抗体が凝集してしまい分散が困難となる場合がある。
【0038】
工程Bは、例えば、工程Aで得られた所定量の標識抗体に上記pH範囲に調整したブロック用緩衝液を添加し、ブロック用緩衝液中で標識抗体を均一に分散させる。ブロック用緩衝液としては、例えば、被検出物と結合しない蛋白質の溶液を用いることが好ましい。ブロック用緩衝液に使用可能な蛋白質としては、例えば牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどを挙げることができる。より具体的には、所定濃度に調整した牛血清アルブミン溶液などを用いることが好ましい。ブロック用緩衝液のpHの調整は、例えば塩酸、水酸化ナトリウムなどを用いて行うことができる。標識抗体の分散には、公知の方法が使用できるが、例えば超音波処理、ローテーターによる撹拌などの分散手段を用いることが好ましい。このようにして標識抗体が均一分散した標識抗体分散液が得られる。この標識抗体分散液から、例えば遠心分離などの固液分離手段により、固形部分として標識抗体のみを分取できる。また、必要に応じて、洗浄処理工程、保存処理工程など任意の工程を実施することができる。以下、洗浄処理、保存処理について説明する。
【0039】
(洗浄処理)
洗浄処理は、固液分離手段によって分取した標識抗体に洗浄用緩衝液を添加し、洗浄用緩衝液中で標識抗体を均一に分散させる処理である。分散には、例えば超音波処理などの分散手段を用いることが好ましい。洗浄用緩衝液としては、特に限定されるものではないが、例えばpH8~9の範囲内に調整した所定濃度のトリス(Tris)緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液)、グリシンアミド緩衝液、アルギニン緩衝液などを用いることができる。洗浄用緩衝液のpHの調整は、例えば塩酸、水酸化ナトリウムなどを用いて行うことができる。標識抗体の洗浄処理は、必要に応じて複数回を繰り返し行うことができる。
【0040】
(保存処理)
保存処理は、固液分離手段によって分取した標識抗体に保存用緩衝液を添加し、保存用緩衝液中で標識抗体を均一に分散させる処理である。分散には、例えば超音波処理などの分散手段を用いることが好ましい。保存用緩衝液としては、例えば、上記洗浄用緩衝液に、所定濃度の凝集防止剤及び/又は安定剤を添加した溶液を用いることができる。凝集防止剤としては、例えば、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースに代表される糖類や、グリセリン、ポリビニルアルコールに代表される多価アルコールなどを用いることができる。安定剤としては、特に限定されるものではないが、例えば牛血清アルブミン、卵白アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどの蛋白質を用いることができる。このようにして標識抗体の保存処理を行うことができる。
【0041】
以上の各工程では、さらに必要に応じて、界面活性剤や、アジ化ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステルなどの防腐剤を用いることができる。
【0042】
[標識抗体]
以上のようにして標識抗体を製造することができる。本発明方法で得られる標識抗体は、従来の標識抗体と同様に、各種の免疫学的測定に利用できる。例えば、アナライトを含む試料と標識抗体とを混合し、反応させ、それによって生じる発色を、肉眼的に、あるいは分析機器を用いて測定することによって免疫学的測定が可能になる。
【0043】
<金属-樹脂複合体>
次に、本実施の形態の標識抗体の製造方法において標識として使用される金属-樹脂複合体の一例について詳細に説明する。金属-樹脂複合体は、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する。
【0044】
図1は、本実施の形態において標識として使用可能な金属-樹脂複合体100の断面模式図である。金属-樹脂複合体100は、樹脂粒子10と、金属粒子20と、を備えている。
【0045】
(金属-樹脂複合体の構造)
金属-樹脂複合体100は、樹脂粒子10に金属粒子20が分散または固定化されている。また、金属-樹脂複合体100は、金属粒子20の一部が樹脂粒子10の表層部60において三次元的に分布し、かつ三次元的に分布した金属粒子20の一部が部分的に樹脂粒子10外に露出しており、残りの一部が樹脂粒子10に内包されていることが好ましい。ここで、「表層部」とは、樹脂粒子10の表面から、深さ方向に粒子半径の50%の範囲を意味する。また、「三次元的に分布」とは、金属粒子20が、樹脂粒子10の面方向だけでなく、深さ方向にも分散されていることを意味する。
【0046】
ここで、金属粒子20は、樹脂粒子10に完全に内包された金属粒子(以下、「内包金属粒子30」ともいう。)、樹脂粒子10内に埋包された部位及び樹脂粒子10外に露出した部位を有する金属粒子(以下、「一部露出金属粒子40」ともいう。)及び樹脂粒子10の表面に吸着している金属粒子(以下、「表面吸着金属粒子50」ともいう。)から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。
【0047】
内包金属粒子30は、その表面の全てが、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。
一部露出金属粒子40は、その表面積の5%以上100%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。免疫学的測定用標識としての耐久性の観点から、その下限は、表面積の20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
表面吸着金属粒子50は、その表面積の0%を超えて5%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。
【0048】
例えば、金属-樹脂複合体100を免疫学的測定に使用する場合、樹脂粒子10の表面、一部露出金属粒子40の表面または表面吸着金属粒子50の表面に、抗体を固定化して使用する。その際、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50には、抗体が固定化される一方で、内包金属粒子30には固定化されない。しかし、内包金属粒子30を含む金属粒子20の全てが局在型表面プラズモン吸収を発現することから、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50のみならず、内包金属粒子30も、免疫学的測定用標識としての視認性向上に寄与する。さらに、一部露出金属粒子40及び内包金属粒子30は、表面吸着金属粒子50と比較して樹脂粒子10との接触面積が大きいことに加え、埋包状態によるアンカー効果等の物理的吸着力が強く、樹脂粒子10から脱離しにくい。そのため、金属-樹脂複合体100を使用した免疫学的測定用標識としての耐久性、安定性を優れたものにすることができる。
【0049】
また、金属-樹脂複合体100への金属粒子20(内包金属粒子30、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50の合計)の担持量は、金属-樹脂複合体100の重量に対して、5重量%~70重量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、金属-樹脂複合体100は、標識物質としての視認性、目視判定性及び検出感度に優れる。金属粒子20の担持量が5重量%未満では、抗体の固定化量が少なくなり、検出感度が低下する傾向がある。金属粒子20の担持量は、より好ましくは、15重量%~70重量%の範囲内である。
【0050】
また、金属粒子20の10重量%~90重量%の範囲内が、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50であることが好ましい。この範囲内であれば、金属粒子20上への抗体の固定化量が充分確保できるため、標識物質としての感度が高い。金属粒子20の20重量%~80重量%の範囲内が一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50であることがより好ましい。
【0051】
また、金属粒子20の60重量%~100重量%の範囲内が、表層部60に存在していることが好ましく、表層部60に存在する金属粒子20の5重量%~90重量%の範囲内が、一部露出金属粒子40または表面吸着金属粒子50であることが、金属粒子20上への抗体の固定化量が充分確保できるため、標識物質としての感度が高くなり好ましい。換言すれば、表層部60に存在する金属粒子20の10重量%~95重量%の範囲内が内包金属粒子30であることがよい。
【0052】
(樹脂粒子)
樹脂粒子10は、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子であることが好ましい。特に、含窒素ポリマー粒子であることが好ましい。含窒素ポリマー中の窒素原子は、視認性に優れ、抗体の固定化が容易な銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子の前駆体であるアニオン性金属イオンを化学吸着しやすいために好ましい。含窒素ポリマー中に吸着した金属イオンを還元し、金属ナノ粒子を形成する場合、生成した金属粒子20の一部は、内包金属粒子30または一部露出金属粒子40となる。
また、例えばアクリル酸重合体のようにカルボン酸等の官能基を有するポリマーは、カチオン性金属イオンを吸着することができるため、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子の前駆体であるカチオン性金属イオンを吸着しやすいため、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子20を形成することが可能であり、上記のいずれかの金属との合金を作ることも可能である。
【0053】
上記含窒素ポリマーは、主鎖または側鎖に窒素原子を有する樹脂であり、例えば、ポリアミン、ポリアミド、ポリペプチド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリピロール、ポリアニリン等がある。好ましくは、ポリ-2-ビニルピリジン、ポリ-3-ビニルピリジン、ポリ-4-ビニルピリジン等のポリアミンである。また、側鎖に窒素原子を有する場合は、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂等幅広く利用することが可能である。
【0054】
なお、無置換のポリスチレン粒子等の金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有さない樹脂粒子の場合、粒子表面への超音波又は電離放射線の照射、樹脂粒子表面の金属めっき等により、粒子表面に金属粒子を固定化することができる。
【0055】
(金属粒子)
金属粒子20の構造は特に限定されないが、樹脂粒子10に固定化された金属-樹脂複合体100の状態で発色を呈するものは、免疫学的測定で目視判定が容易になるので好ましい。金属粒子20の材質としては、例えば、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムが適用できる。これらの金属は、単体もしくは合金等の複合体で使用することが可能である。好ましくは、視認性に優れ、抗体の固定化が容易な金、白金、パラジウムであり、これらは、局在型表面プラズモン共鳴に由来する吸収によって発色する。より好ましくは、保存安定性がよい金及び白金である。また、抗体と結合させた場合に優れた発色性が得られるという観点でも、金、白金、金合金又は白金合金が最も好ましい金属種である。ここで、金合金とは、例えば金と金以外の金属種からなり、金を10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上含有する合金を意味する。また、白金合金とは、例えば白金と白金以外の金属種からなり、白金を10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上含有する合金を意味する。
【0056】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測長される金属粒子20の平均粒子径は、例えば1~80nmの範囲内であることが好ましい。金属粒子20の平均粒子径が、1nm未満の場合や80nmを超える場合は、局在型表面プラズモンが発現しにくくなるため感度が低下する傾向がある。金属粒子20の平均粒子径は、好ましくは、1nm以上70nm未満の範囲内であり、より好ましくは、1nm以上50nm未満の範囲内である。
【0057】
また、金属-樹脂複合体100の平均粒子径は、例えば100~1000nmの範囲内である。平均粒子径が100nm未満では、例えば、金属粒子20として金粒子又は白金粒子を使用する場合に、金属粒子20の担持量が少なくなる傾向がある為、同サイズの金粒子より着色が弱くなる傾向にあり、1000nmを超えると、標識抗体又は試薬とした際に、メンブランフィルター等のクロマトグラフ媒体の細孔内に詰まりやすい傾向や、分散性が低下する傾向がある。金属-樹脂複合体100の平均粒子径は、好ましくは、100nm以上700nm未満の範囲内であり、より好ましくは、100nm以上650nm未満の範囲内である。ここで、金属-樹脂複合体100の粒子径は、樹脂粒子10の粒子径に、一部露出金属粒子40又は表面吸着金属粒子50の突出部位の長さを加えた値を意味し、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法、または遠心沈降法により測定することができる。
【0058】
金属-樹脂複合体100の製造方法は、特に限定されない。例えば、乳化重合法により製造した樹脂粒子10の分散液に、金属イオンを含有する溶液を加えて、金属イオンを樹脂粒子10に吸着させる(以下、「金属イオン吸着樹脂粒子」という。)。次に、金属イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液中に加えることで、金属イオンを還元して金属粒子20を生成させることによって、金属-樹脂複合体100を得ることができる。ここで、金属粒子20として金粒子を使用する場合、金属イオンを含有する溶液として、例えば塩化金酸(HAuCl)水溶液等を用いることが好ましい。また、金属粒子20として白金粒子を使用する場合、金属イオンを含有する溶液として、例えば塩化白金酸(HPtCl)水溶液等を用いることが好ましい。なお、金属イオンの代わりに金属錯体を用いてもよい。
【0059】
また、金属イオンを含有する溶液の溶媒として、水の代わりに、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等の含水アルコールもしくはアルコール、塩酸、硫酸、硝酸等の酸等を用いてもよい。
【0060】
また、金属イオンを含有する溶液に、必要に応じて、例えば、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物、界面活性剤、アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、これらのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、グリセリン等のポリオール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の各種水混和性有機溶媒等の添加剤を添加してもよい。このような添加剤は、金属イオンの還元反応速度を促進し、また、生成される金属粒子20の大きさを制御するのに有効となる。
【0061】
また、還元剤としては、特に制限はないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、クエン酸、次亜リン酸ナトリウム、抱水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ショ糖、ブドウ糖、アスコルビン酸、ホスフィン酸ナトリウム、ハイドロキノン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ロッシェル塩等を使用することが好ましい。これらの中でも、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、クエン酸がより好ましい。還元剤溶液には、必要に応じて界面活性剤を添加したり、溶液のpHを調整したりすることが出来る。pH調整にはホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリにより調整することが出来る。
さらに還元剤溶液の温度により、金属イオンの還元速度を調整することによって、形成する金属粒子20の粒径をコントロールすることが出来る。
【0062】
また、金属イオン吸着樹脂粒子中の金属イオンを還元して金属粒子20を生成させる際、金属イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液に添加してもよいし、還元剤を金属イオン吸着樹脂粒子に添加してもよいが、内包金属粒子30及び一部露出金属粒子40の生成しやすさの観点から、前者が好ましい。
【0063】
また、金属-樹脂複合体100の水への分散性を保持するために、例えば、クエン酸、ポリ-L-リシン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、DISPERBYK194、DISPERBYK180、DISPERBYK184(ビッグケミージャパン社製)等の分散剤を添加してもよい。さらに、ホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリによりpHを調整し、分散性を保持することが出来る。
【0064】
以上の構成を有する金属-樹脂複合体100は、樹脂粒子10及び/又は金属粒子20の表面に抗体を吸着させることにより、各種の免疫学的測定法に好ましく適用できる。また、特に、低濃度域(高感度領域)での目視判定性に優れた免疫学的測定用標識物質又は免疫学的測定用試薬の材料として好ましく適用できる。また、免疫学的測定用標識物質又は免疫学的測定用試薬の形態に特に限定はないが、例えば、金属-樹脂複合体100を水もしくはpHを調整した緩衝液中に分散させた分散液として使用することもできる。
【実施例0065】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例、比較例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0066】
<金属-樹脂複合体粒子の吸光度測定>
金属-樹脂複合体粒子の吸光度は、石英ガラス製セル(光路長10mm)に0.01wt%に調製した金属-樹脂複合体粒子分散液(分散媒:水)を入れ、分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて、金-樹脂複合体の場合570nm、白金-樹脂複合体の場合400nmの吸光度を測定した。
【0067】
<固形分濃度測定及び金属担持量の測定>
磁製るつぼに濃度調整前の分散液1gを入れ、70℃、3時間乾燥を行った。乾燥前後の重量を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(wt%)=
[乾燥後の重量(g)/ 乾燥前の重量(g)]× 100
また、上記乾燥処理後のサンプルを、さらに500℃、5時間熱処理を行い、熱処理前後の重量を測定し、下記式より金属担持量を算出した。
金属担持量(wt%)=
[熱処理後の重量(g)/熱処理前の重量(g)]×100
【0068】
<樹脂粒子および金属-樹脂複合体粒子の平均粒子径、粒度分布の測定>
遠心沈降式粒度分布測定装置(LUM GmbH社製 LUMiSizer610)を用いて測定した。測定は、粒子を水又は溶液中に分散させた状態で行った。
【0069】
<金属粒子の平均粒子径の測定>
金属-樹脂複合体粒子分散液をカーボン支持膜付き金属性メッシュへ滴下して作成した基板を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ社製、SU-9000)により観測した画像から、任意の100個の金属粒子の面積平均径を測定し平均粒子径とした。
【0070】
[作製例1]
<樹脂粒子の合成>
トリオクチルアンモニウムクロリド(1.3g)及びポリエチレングリコールメチルエチルエーテルメタクリレート(10.00g)を300gの純水に溶解した後、2-ビニルピリジン(48.00g)及びジビニルベンゼン(2.00g)を加え、窒素気流下において30℃で50分、次いで60℃で30分間撹拌した。撹拌後、18.00gの純水に溶解した2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(0.25g)を滴下し、60℃で3.5時間撹拌することで、平均粒子径349nmの樹脂粒子A-1を得た。遠心分離(9000rpm、40分)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させた後、透析処理により不純物を除去した。その後、濃度調整を行い10wt%の樹脂粒子分散液B-1を得た。
【0071】
[作製例2]
<樹脂粒子の合成>
トリオクチルアンモニウムクロリド(0.8g)及びポリエチレングリコールメチルエチルエーテルメタクリレート(10.00g)を300gの純水に溶解した後、2-ビニルピリジン(48.00g)及びジビニルベンゼン(2.00g)を加え、窒素気流下において30℃で50分、次いで60℃で30分間撹拌した。撹拌後、18.00gの純水に溶解した2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(0.25g)を滴下し、60℃で3.5時間撹拌することで、平均粒子径430nmの樹脂粒子A-2を得た。遠心分離(9000rpm、40分)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させた後、透析処理により不純物を除去した。その後、濃度調整を行い10wt%の樹脂粒子分散液B-2を得た。
【0072】
[作製例3]
<金-樹脂複合体粒子の合成>
樹脂粒子分散液B-1 30.0gに純水78.0gを加えた後、7wt%塩化金酸水溶液42.9gを加え、室温で3時間撹拌した。この混合液を遠心分離(3000rpm、30分)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化金酸を除去した。その後、濃度を調整して、5wt%の金イオン吸着樹脂粒子分散液C-3を得た。
【0073】
次に、純水4725gにC-3を65g加え、3℃で撹拌しながら、528mMのジメチルアミンボラン水溶液15gを2分かけて滴下した後、3℃で1時間、室温で3時間撹拌することで、平均粒子径357nmの金-樹脂複合体粒子D-3を得た。D-3を遠心分離により濃縮した後、透析処理により精製し、濃度を調整して、1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液E-3を得た。E-3中の金-樹脂複合体粒子F-3の吸光度は、1.38であった。また、F-3における金粒子の平均粒子径は21nm、金の担持量は48.0wt%であった。
【0074】
[作製例4]
<白金-樹脂複合体粒子の合成>
樹脂粒子分散液B-1 30.0gに純水85.0gを加えた後、7wt%塩化白金酸水溶液31.0gを加え、室温で3時間撹拌した。この混合液を遠心分離(3000rpm、30分)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化白金酸を除去した。その後、濃度を調整して、5wt%の白金イオン吸着樹脂粒子分散液C-4を得た。
【0075】
次に、純水4725gにC-4を70.5g加え、3℃で撹拌しながら、132mMのジメチルアミンボラン水溶液137gを20分かけて滴下した後、3℃で1時間、室温で3時間撹拌することで、平均粒子径360nmの白金-樹脂複合体粒子D-4を得た。D-4を遠心分離により濃縮した後、透析処理により精製し、濃度を調整して、1wt%の白金-樹脂複合体粒子分散液E-4を得た。E-4中の白金-樹脂複合体粒子F-4の吸光度は、1.75であった。また、F-4における白金粒子の平均粒子径は3.5nm、白金の担持量は39.1wt%であった。
【0076】
[作製例5]
<白金-樹脂複合体粒子の合成>
樹脂粒子分散液B-2 30.0gに純水85.0gを加えた後、7wt%塩化白金酸水溶液31.0gを加え、室温で3時間撹拌した。この混合液を遠心分離(3000rpm、30分)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化白金酸を除去した。その後、濃度を調整して、5wt%の白金イオン吸着樹脂粒子分散液C-5を得た。
【0077】
次に、純水4725gにC-5を70.5g加え、3℃で撹拌しながら、132mMのジメチルアミンボラン水溶液137gを20分かけて滴下した後、3℃で1時間、室温で3時間撹拌することで、平均粒子径445nmの白金-樹脂複合体粒子D-5を得た。D-5を遠心分離により濃縮した後、透析処理により精製し、濃度を調整して、1wt%の白金-樹脂複合体粒子分散液E-5を得た。E-5中の白金-樹脂複合体粒子F-5の吸光度は、1.75であった。また、F-5における白金粒子の平均粒子径は3.7nm、白金の担持量は39.4wt%であった。
【0078】
[作製例6]
<結合用緩衝液の調製>
HEPES、TAPS、CAPS、2-モルホリノエタンスルホン酸[MES;pKa(20℃)6.15]又は3-モルホリノプロパンスルホン酸[MOPS;pKa(20℃)7.20]の0.1mol/Lの遊離酸溶液を調製し、それぞれに純水および0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を混合して表1に示す緩衝剤濃度およびpHに調整することによって、HEPES緩衝液、TAPS緩衝液、CAPS緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液を調製した。
【0079】
[実施例1]
(結合工程)
抗CRP抗体25μgと20mM HEPES緩衝液(pH7)0.45mLを混合した後、1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液E-3を0.05mL添加し、室温で2時間かけて転倒撹拌を行い、金-樹脂複合体粒子F-3で標識した抗CRP抗体を含む標識抗体分散液J-1を得た。
【0080】
(ブロック工程)
次に、標識抗体分散液J-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄み液を除去した後、沈降堆積物に1wt%BSAを含む5mMのTris水溶液(pH5)0.5mLを添加し、超音波分散した後、さらに、室温で2時間かけて転倒撹拌を行い、標識抗体分散液K-1を得た。
【0081】
(洗浄処理)
次に、標識抗体分散液K-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に0.1wt%未満の界面活性剤を含む5mMのTris水溶液(pH8.5)0.5mLを添加し、超音波分散した。この操作を3回繰り返し、洗浄処理とした。
【0082】
(保存処理)
次に、氷冷後、3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に0.1wt%未満の界面活性剤および、10wt%のスクロースを含む5mMのTris水溶液(pH8.5)0.5mLを添加し、超音波分散して、標識抗体分散液L-1を得た。
【0083】
(コンジュゲートパッド作製)
0.12mlの標識抗体分散液L-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に5wt%のスクロースと2.5wt%のBSAを含む水溶液(pH8.0)0.333mlを添加し、超音波分散して、標識抗体分散液M-1を得た。ガラスファイバー不織布に標識抗体分散液M-1を均一に含浸させた後、50℃1時間で乾燥を行い、コンジュゲートパッドN-1を作製した。この時、コンジュゲートパッドN-1における金-樹脂複合体粒子F-3の含有量が、後述のイムノクロマト法による評価1テスト当たり3μgとなるように標識抗体分散液M-1の液量を調節した。
【0084】
(イムノクロマトストリップの作製)
図2に示す構造のイムノクロマトストリップを作製した。まず、幅25mmのニトロセルロースメンブレン4に、抗CRP抗体を塗布してテストライン5を描画した。また、テストライン5の下流側に抗マウスIgG抗体を塗布してコントロールライン6を描画した。このニトロセルロースメンブレン4を50℃で1時間かけて乾燥した後、図2に示すイムノクロマトストリップの断面図の通りに、ラミネートフィルム1、コンジュゲートパッド3としてのコンジュゲートパッドN-1、サンプルパッド2(ガラスファイバー不織布)および吸収パッド7(コットン不織布)を積層した。最後に、3.5mm幅にカットしてイムノクロマトストリップP-1を作成した。
【0085】
(展開液の調製)
50mMのTris、150mMのNaCl、1.0wt%のBSA、1.0wt%のPEGセチルエーテルを含有する水溶液(pH7.1)を調製し、展開液Q-1とした。
【0086】
(イムノクロマト法による評価)
展開液Q-1を用いてCRP抗原を希釈することにより、陽性コントロール(抗原濃度312ng/ml、3.12ng/ml)及び陰性コントロール(抗原非含有)の検体液を調製した。検体液50μlをイムノクロマトストリップP-1のサンプルパッド2に滴下した。その後、30分経過後のテストライン5の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス C10066-10)で測定した。また、コンジュゲートパッド3とメンブレン4の界面およびその下流側に金-樹脂複合体粒子F-3が目詰まりしているかを目視で判定した。イムノクロマト法による評価結果を表1に示す。
【0087】
(結合抗体量の算出)
上記ブロック工程の遠心分離で除去した上澄み液を用いて、金-樹脂複合体粒子F-3に結合した抗体量を算出した。結合抗体量の算出は、分光光度計を用いて上澄み液を測定し、波長280nmにおける吸光度から上澄み液に含まれる抗体量を求め、結合工程で使用した抗体量25μgから上澄み液の抗体量を差し引くことで算出した。算出した結合抗体量及び抗体結合収率を表1に示す。なお、結合収率は、使用した全抗体量に対する付着した抗体の重量割合(%)を意味する。
【0088】
[実施例2~5、比較例1~5]
表1に示す金属―樹脂複合体粒子分散液および結合用緩衝液を使用すること以外は実施例1と同様にして、結合工程、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップ作製、イムノクロマト評価、結合抗体量及び抗体結合収率の算出を行った。表1に結合抗体量及び抗体結合収率の算出結果、およびイムノクロマト評価結果を示す。
【0089】
実施例1~5、比較例1~5の試験結果から、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を使用することにより、結合抗体量が増大し、イムノクロマト評価結果の目詰まりが抑制され、テストラインの発色強度が増大し、イムノクロマトの感度が向上していることが判る。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例6]
(結合工程)
抗インフルエンザA型ウイルス抗体25μgと20mM HEPES緩衝液(pH7)0.45mLを混合した後、1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液E-3を0.05mL添加し、室温で2時間かけて転倒撹拌を行い、金-樹脂複合体粒子F-3で標識した抗インフルエンザA型ウイルス抗体を含む標識抗体分散液J-6を得た。
【0092】
(ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製)
標識抗体分散液J-6を用いること以外は実施例1と同様にして、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製を行い、コンジュゲートパッドN-6を作製した。
【0093】
(イムノクロマトストリップの作製)
図2に示す構造のイムノクロマトストリップを作製した。まず、幅25mmのニトロセルロースメンブレン4に、抗インフルエンザA型ウイルス抗体を塗布してテストライン5を描画した。また、テストライン5の下流側に抗マウスIgG抗体を塗布してコントロールライン6を描画した。このニトロセルロースメンブレン4を50℃で1時間かけて乾燥した後、図2に示すイムノクロマトストリップの断面図の通りに、ラミネートフィルム1、コンジュゲートパッド3としてのコンジュゲートパッドN-6、サンプルパッド2(ガラスファイバー不織布)および吸収パッド7(コットン不織布)を積層した。最後に、3.5mm幅にカットしてイムノクロマトストリップP-6を作成した。
【0094】
(展開液の調製)
50mMのTris、150mMのNaCl、1.0wt%のBSA、1.0wt%のTritonX100を含有する水溶液(pH7.1)を調製し、展開液Q-6とした。
【0095】
(イムノクロマト法による評価)
展開液Q-6を用いてインフルエンザA型ウイルス不活化抗原を希釈することにより、陽性コントロール(抗原濃度1250FFU/ml、20FFU/ml相当)及び陰性コントロール(抗原非含有)の検体液を調製した。検体液50μlをイムノクロマトストリップP-6のサンプルパッド2に滴下した。その後、30分経過後のテストライン5の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス C10066-10)で測定した。また、コンジュゲートパッド3とメンブレン4の界面およびその下流側に金-樹脂複合体粒子F-3が目詰まりしているかを目視で判定した。イムノクロマト法による評価結果を表2に示す。
【0096】
[比較例6]
実施例6の結合工程において20mM HEPES緩衝液(pH7)の代わりに20mM ホウ酸緩衝液(pH7)を用いること以外は実施例6と同様にして、結合工程、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップ作製、イムノクロマト評価を行った。表2にイムノクロマト評価結果を示す。
【0097】
実施例6、比較例6の試験結果から、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を使用することにより、イムノクロマト評価結果では目詰まりが抑制され、テストラインの発色強度が増大し、抗原非含有の陰性コントロール検体での偽陽性が抑制され、イムノクロマトの感度が向上していることが判る。
【0098】
【表2】
【0099】
[参考試験例1~4]
(結合用緩衝液と金属-樹脂複合体粒子の混合による凝集度合いの評価)
表3に示す結合用緩衝液0.45mlと1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液E-3の0.05mLを混合した後、室温で2時間かけて転倒撹拌を行い、粒度分布の測定を行った。粒度分布の測定結果から金-樹脂複合体粒子F-3が凝集せずに単一粒子として分散している比率(非凝集比率)を求めた。結果を表3に示す。
【0100】
参考試験例1~4の試験結果から、20℃におけるpKaが7.5以上であるグッド緩衝剤を含む結合用緩衝液を使用した参考試験例1~3では、ホウ酸緩衝液を用いた参考試験例4に比べて、金-樹脂複合体粒子F-3の凝集が抑制されていることが判る。このような凝集抑制作用が、抗体付着量の増加につながり、また、イムノクロマトストリップにおける目詰まりを抑制して、良好なイムノクロマト評価結果に寄与していると推察される。
【0101】
【表3】
【0102】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【符号の説明】
【0103】
1…ラミネートフィルム、2…サンプルパッド、3…コンジュゲートパッド、4…ニトロセルロースメンブレン、5…テストライン、6…コントロールライン、7…吸収パッド、10…樹脂粒子、20…金属粒子、30…内包金属粒子、40…一部露出金属粒子、50…表面吸着金属粒子、60…表層部、100…金属-樹脂複合体




図1
図2