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  • 特開-酸素発生用電極及び酸素発生装置 図1
  • 特開-酸素発生用電極及び酸素発生装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141102
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】酸素発生用電極及び酸素発生装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/085 20210101AFI20230928BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230928BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230928BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230928BHJP
【FI】
C25B11/085
C25B11/052
C25B11/081
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047241
(22)【出願日】2022-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業CREST「配位ナノシートの創製、物性機構解明と化学デバイスへの応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 寛
(72)【発明者】
【氏名】田寺(長島) 佐代子
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓明
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011AA32
4K011AA50
4K011BA07
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた酸素発生触媒能を有する酸素発生用電極及びその応用を提供する。
【解決手段】導電性基材と、前記導電性基材を覆う、下記式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜と、を含む酸素発生用電極。

(式(1)中、Mは、パラジウム、銅、ニッケル又はコバルトを表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、
前記導電性基材を覆う、下記式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜と、
を含む酸素発生用電極。
【化1】

(式(1)中、Mは、パラジウム、銅、ニッケル又はコバルトを表す。)
【請求項2】
前記式(1)中、前記Mはニッケル又はコバルトである、請求項1に記載の酸素発生用電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の酸素発生用電極を含む酸素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素発生用電極及び酸素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配位高分子は、中心金属と中心金属に配位した配位子とを含む構成単位の繰り返し構造を有する物質として知られている。配位高分子における中心金属及び配位子の適切な選択は、配位高分子に様々な特性を付与できる。例えば、非特許文献1及び特許文献1では、特定の構造を有する二次元金属錯体を開示している。非特許文献2では、酸素発生触媒能を有する三次元金属錯体を開示している。非特許文献3では、ペロブスカイト型の三次元金属錯体を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Eunice J H Phua, Kuo-Hui Wu, Keisuke Wada, Tetsuro Kusamoto, Hiroaki Maeda, Jian Cao,1Ryota Sakamoto, Hiroyasu Masunaga, Sono Sasaki, Jia-Wei Mei, Wei Jiang, Feng Liu, and Hiroshi Nishihara, Chemistry Letters, 2018, 47, 126.
【非特許文献2】Shenlong Zhao, Yun Wang, Juncai Dong, Chun-Ting He, Huajie Yin, Pengfei An, Kun Zhao, Xiaofei Zhang, Chao Gao, Lijuan Zhang, Jiawei Lv, Jinxin Wang, Jianqi Zhang, Abdul Muqsit Khattak, Niaz Ali Khan, Zhixiang Wei, Jing Zhang, Shaoqin Liu, Huijun Zhao, and Zhiyong Tang, Nature Energy, 2016, 1, 16184.
【非特許文献3】八木 俊介, 池野 豪一, 山田 幾也 著, Journal of MMIJ., 2017, 133, 264.
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-002623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された二次元金属錯体は、優れた酸素発生電極として知られる高価なRuO電極や、上記非特許文献3に開示された複雑な製造工程を有する樹脂と錯体との混合電極等の代替材料として有用である。二次元の広がりを有する配位高分子の応用にあたって、酸素発生反応における触媒活性の更なる向上が求められている。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、優れた酸素発生触媒能を有する酸素発生用電極を提供することである。本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、上記酸素発生用電極を含む酸素発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 導電性基材と、
前記導電性基材を覆う、下記式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜と、
を含む酸素発生用電極。
【化1】

(前記式(1)中、Mは、パラジウム、銅、ニッケル又はコバルトを表す。)
<2> 前記式(1)中、前記Mはニッケル又はコバルトである、前記<1>に記載の酸素発生用電極。
<3> 前記<1>又は<2>に記載の酸素発生用電極を含む酸素発生装置。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、優れた酸素発生触媒能を有する酸素発生用電極が提供される。本開示の他の一実施形態によれば、上記酸素発生用電極を含む酸素発生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1~4及び参考例1における電位と電流密度との関係図である。
図2図2は、実施例1~4及び参考例1におけるターフェルプロットのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されない。以下の実施形態は、本開示の目的の範囲内において適宜変更されてもよい。
【0011】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0013】
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけでなく、所期の目的が達成される場合には他の工程と明確に区別できない工程も包含する。
【0014】
本開示において、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中の各成分の量は、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
<酸素発生用電極>
本開示の酸素発生用電極は、導電性基材と、前記導電性基材を覆う、下記式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜と、を含む。優れた酸素発生触媒能の発現は、下記式(1)で表される構成単位に起因すると推定される。つまり、下記式(1)を構成する中心金属及び配位子の組み合わせが酸素発生触媒能の向上に寄与している。
【0017】
【化1】
【0018】
前記式(1)中、Mは、パラジウム、銅、ニッケル又はコバルトを表す。
【0019】
(配位高分子膜)
配位高分子膜は、後述する導電性基材の表面を覆う。
配位高分子膜は、上記式(1)で表される構成単位を含む。
【0020】
【化1】
【0021】
上記式(1)中、Mは、パラジウム、銅、ニッケル又はコバルトを表し、酸素発生触媒能により優れたものとする観点から、ニッケル又はコバルトを表すことが好ましく、ニッケルを表すことがより好ましい。
【0022】
配位高分子膜は、酸素発生触媒能の向上の観点から、上記式(1)で表される構成単位の繰り返し構造を有することが好ましい。
【0023】
配位高分子膜の平均厚さは、1nm~1μmであることが好ましく、2nm~500nmであることがより好ましく、5nm~100nmであることが更に好ましい。
配位高分子膜の厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いるタッピングモードによって測定される。
【0024】
配位高分子膜の分子量については、特に制限されるものではなく、性質や機能、スケールなどに応じて適宜選択すればよい。
【0025】
(導電性基材)
導電性基材は、酸素発生用電極に使用される公知のものが採用できる。
導電性基材は、基材全体が導電性を有していてもよく、基材の一部の領域が導電性を有していてもよい。例えば、導電性を有しない基材と、その少なくとも一方の面に配置される導電層とを有するものを導電性基材として用いてもよい。
【0026】
導電性基材としては、例えば、グラッシーカーボン(Glassy Carbon)、グラファイト、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide、ITO)、白金、金及び導電性ダイヤモンドが挙げられる。導電性基材は、炭素材であることが好ましく、グラッシーカーボンであることがより好ましい。
【0027】
導電性基材は、陽極であっても陰極であってもよい。
陽極は、電解酸化に使用される公知の陽極から選択されてもよい。陽極の成分としては、例えば、グラッシーカーボン(Glassy Carbon)、グラファイト、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide、ITO)、白金、金及び導電性ダイヤモンドが挙げられる。陽極は、炭素電極であることが好ましく、グラッシーカーボン電極であることがより好ましい。陽極は、回転可能な電極であってもよい。
【0028】
陰極は、電解酸化に使用される公知の陰極から選択されてもよい。陰極の成分としては、例えば、炭素及び白金が挙げられる。陰極は、炭素電極又は白金電極であることが好ましく、白金電極であることがより好ましい。陰極は、回転可能な電極であってもよい。
【0029】
(酸素発生用電極の製造方法)
本実施形態に係る酸素発生用電極の製造方法は制限されないが、例えば、配位高分子膜は、電解酸化を利用して製造されることが好ましく、下記(1)及び(2)の工程をそれぞれ含んで製造されることがより好ましい。
【0030】
(1)金属含有前駆体と、ヘキサアミノベンゼン又はヘキサアミノベンゼンの塩と、を含む溶液を準備する工程(以下、「工程(1)」という。)。
(2)前記溶液に浸された2つの導電性基材(例えば陽極と陰極)との間に電位を印加して、前記導電性基材の表面に式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜が被覆した酸素発生用電極を形成する工程(以下、「工程(2)」という。)。
【0031】
金属含有前駆体としては、パラジウム含有前駆体、銅含有前駆体、ニッケル含有前駆体及びコバルト含有前駆体が挙げられる。
【0032】
パラジウム含有前駆体は、式(1)におけるパラジウムを供給する。パラジウム含有前駆体としては、例えば、ヘキサクロロパラジウム酸(IV)カリウム(すなわち、KPdCl)、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム(すなわち、KPdCl)、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム(すなわち、NaPdCl)、酢酸パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)(すなわち、Pd(CHCN)Cl)、ジクロロビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)及びビス(2,4-ペンタンジオナト)パラジウム(II)が挙げられる。溶液は、1種又は2種以上のパラジウム含有前駆体を含んでいてもよい。
【0033】
銅含有前駆体は、式(1)における銅を供給する。銅含有前駆体としては、例えば、塩化銅(II)(すなわちCuCl)、臭化銅(II)(すなわちCuBr)、硝酸銅(II)(すなわちCu(NO)、硫酸銅(II)(すなわちCuSO、酢酸銅(II)(すなわちCu(CHCOO))、テトラフルオロホウ酸銅(II)(すなわちCu(BF)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)(すなわちCu(CFSO及びそれらの水和物等が挙げられる。溶液は、1種又は2種以上の銅含有前駆体を含んでいてもよい。
【0034】
ニッケル含有前駆体は、式(1)におけるニッケルを供給する。ニッケル含有前駆体としては、例えば、塩化ニッケル(II)(すなわちNiCl)、臭化ニッケル(II)(すなわちNiBr)、硝酸ニッケル(II)(すなわちNi(NO)、硫酸ニッケル(II)(すなわちNiSO、酢酸ニッケル(II)(すなわちNi(CHCOO))、テトラフルオロホウ酸ニッケル(II)(すなわちNi(BF)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)(すなわちNi(CFSO及びそれらの水和物が挙げられる。溶液は、1種又は2種以上のニッケル含有前駆体を含んでいてもよい。
【0035】
コバルト含有前駆体は、式(1)におけるコバルトを供給する。コバルト含有前駆体としては、例えば、塩化コバルト(II)(すなわちCoCl)、臭化コバルト(II)(すなわちCoBr)、硝酸コバルト(II)(すなわちCo(NO)、硫酸コバルト(II)(すなわちCoSO、酢酸コバルト(II)(すなわちCo(CHCOO))、テトラフルオロホウ酸コバルト(II)(すなわちCo(BF)、トリフルオロメタンスルホン酸コバルト(II)(すなわちCo(CFSO及びそれらの水和物が挙げられる。溶液は、1種又は2種以上のコバルト含有前駆体を含んでいてもよい。
【0036】
ヘキサアミノベンゼン又はヘキサアミノベンゼンの塩は、式(1)において金属Mに配位する配位子を形成する。ヘキサアミノベンゼンの塩としては、例えば、ヘキサアミノベンゼン三塩酸塩が挙げられる。溶液は、1種又は2種以上のヘキサアミノベンゼンの塩を含んでいてもよい。溶液は、ヘキサアミノベンゼン及びヘキサアミノベンゼンの塩の両方を含んでいてもよい。
【0037】
溶液は、他の成分を更に含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、塩基及び電解質が挙げられる。
【0038】
塩基としては、例えば、アンモニア(すなわち、NH)、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アミン類及びピリジン類が挙げられる。例えば、水酸化物としては、水酸化ナトリウム(すなわち、NaOH)及び水酸化カリウム(すなわち、KOH)が挙げられる。例えば、炭酸塩としては、炭酸ナトリウム(すなわち、NaCO)及び炭酸カリウム(すなわち、KCO)が挙げられる。例えば、炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム(すなわち、NaHCO)及び炭酸水素カリウム(すなわちKHCO)が挙げられる。
【0039】
電解質としては、例えば、塩化物、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩及び水酸化物が挙げられる。例えば、塩化物としては、塩化ナトリウム及び塩化カリウムが挙げられる。例えば、テトラフルオロホウ酸塩としては、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(すなわち、NaBF)及びテトラフルオロホウ酸カリウム(すなわち、KBF)が挙げられる。例えば、テトラフェニルホウ酸塩としては、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(すなわち、NaB(C)及びテトラフェニルホウ酸カリウム(すなわち、KB(C)が挙げられる。例えば、水酸化物としては、水酸化ナトリウム
(すなわち、NaOH)及び水酸化カリウム(すなわち、KOH)が挙げられる。
【0040】
溶液のpHは、7より大きいことが好ましい。さらに、溶液のpHは、8~13であることが好ましく、9~12であることがより好ましく、11~11.6であることが更に好ましい。
【0041】
電位を印加する際の溶液の温度は、室温付近であることが好ましい。例えば、電位を印加する際の溶液の温度は、15℃~30℃であることが好ましい。溶液の温度は、20℃以上であってもよい。溶液の温度は、25℃以下であってもよい。
【0042】
溶液の製造方法は、制限されない。例えば、溶液は、先述の金属含有前駆体と、ヘキサアミノベンゼン又はヘキサアミノベンゼンの塩と、溶剤とを混合することによって製造される。溶剤としては、例えば、水及び有機溶剤が挙げられる。有機溶剤は、金属含有前駆体と、ヘキサアミノベンゼン又はヘキサアミノベンゼンの塩とが溶解する有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ニトリル類、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。溶剤は、水を含むことが好ましい。1種又は2種以上の溶剤が使用されてもよい。
【0043】
印加される電位は、参照電極を基準にして、0.1V~0.8Vであることが好ましく、0.2V~0.7Vであることがより好ましく、0.4V~0.6Vであることが更に好ましい。参照電極としては、例えば、銀-塩化銀電極(以下、「Ag/AgCl電極」という場合がある。)が挙げられる。
【0044】
電位を印加する時間は、1分間~15分間であることが好ましく、2分間~10分間で
あることがより好ましく、3分間~5分間であることが更に好ましい。
【0045】
酸素発生用電極は、不活性ガスの雰囲気下で製造されることが好ましい。具体的に、工程(1)、工程(2)又は工程(1)及び工程(2)の両方は、不活性ガスの雰囲気下で実施されることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素及びアルゴンが挙げられる。
【0046】
導電性基材の表面を配位高分子膜で被覆して形成された酸素発生用電極は、必要に応じて洗浄されてもよい。導電性基材の表面に形成された配位高分子膜は、必要に応じて乾燥されてもよい。
【0047】
<酸素発生装置>
本開示の一実施形態に係る酸素発生装置は、酸素発生用電極を含む。
本開示の一実施形態によれば、酸素発生触媒能に優れた酸素発生用電極を含む酸素発生用装置が得られる。
【0048】
酸素発生装置における酸素発生用電極の態様は、既述の酸素発生用電極の項に記載された酸素発生用電極の態様と同じである。
【0049】
酸素発生用電極以外の構成要素の態様は、制限されない。他の構成要素は、公知の酸素発生装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、酸素発生用電極の対極、参照電極、イオン交換膜、反応容器、電源装置及び電解質水溶液が挙げられる。
【0050】
酸素発生装置は、水の電気分解による酸素発生反応に利用されることが好ましい。
【実施例0051】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0052】
<試薬及び電極>
実施例及び比較例において使用された試薬及び電極の詳細を以下に示す。
「KPdCl」:富士フイルム和光純薬株式会社製の市販品
「NaBF」:富士フイルム和光純薬株式会社製の市販品
「アンモニア水(NH aq.)」:富士フイルム和光純薬株式会社製の市販品
「硫酸(HSO)」:富士フイルム和光純薬株式会社製の市販品
「水酸化カリウム(KOH)」:富士フイルム和光純薬株式会社製の市販品
「ヘキサアミノベンゼン三塩酸塩」:文献(Tetrahedron Letters, Volume 53, Issue 14, 4 April 2012, Pages 1840-1842)に記載された方法に従って合成された合成品
「グラッシーカーボン回転ディスク電極」:ビー・エー・エス株式会社製の市販品(品番:01169)
「白金回転ディスク電極」:ビー・エー・エス株式会社製の市販品(品番:01170)
【0053】
<前処理>
全ての溶剤は、使用前に窒素ガスを用いて脱気された。グラッシーカーボン回転ディスク電極は、使用前に次のように処理された。具体的に、グラッシーカーボン回転ディスク電極を0.1mol/LのHSO水溶液に浸し、次に、0.0V~2.2V(vs. Ag/AgCl)で25サイクルの電位掃引を行った。
【0054】
<実施例1>
[PdDI修飾電極の作製]
グローブボックス内のアルゴン雰囲気下で以下の作業を行った。KPdCl(3.9mg、11.9μmol)、ヘキサアミノベンゼン三塩酸塩(2.2mg、7.9μmol)及びNaBF(0.11g、1.0mmol)を0.1mol/Lのアンモニア水溶液(10mL)に溶解し、溶液を調製した。溶液を電解合成に用いる容器に入れ、次に、作用電極(すなわち、陽極)としてグラッシーカーボン回転ディスク電極、対極(すなわち、陰極)として白金コイル及び参照電極としてAg/AgCl電極を溶液に浸した。電気化学測定装置として「ALS 650DT」(ビー・エー・エス株式会社)を用いて、クロノアンペロメトリーにより定電位(0.4V vs. Ag/AgCl)を3分間印加することで、作用電極の表面にPdDIを形成した。「PdDI」は、式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜である。
【0055】
[PdDIの分析]
赤外分光法(IR)及びX線光電子分光法(XPS)によってPdDIの特徴を分析した。赤外分光法による測定は、「Nicolet is5」(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて行われた。X線光電子分光法による測定は、「PHI 5000 VersaProbe」(ULVAC-PHI)を用いて行われた。X線源としてAlKα(15kV、100W)が用いられた。分析結果によれば、中心金属としてPdと、ヘキサアミノベンゼンに由来の配位子と、を含む二次元金属錯体の形成が確認された。具体的に、赤外分光法による測定では、3400cm-1~3000cm-1付近にN-H伸縮振動に由来のピークが観察され、1600cm-1付近に芳香族C=C伸縮振動に由来のピークが観察され、1400cm-1付近にC-N伸縮振動に由来のピークが観察された。X線光電子分光法による測定では、343.5eV及び338.4eVにPd3dスペクトルのピークが観察され、400.1eVにN1sスペクトルのピークが観察された。XPSによる測定においてピークの面積から得られたPd:Nの比は、1:4.04である。この結果は、モデル構造の比率の1:4とほぼ一致した。
【0056】
<実施例2>
PdCl(3.9mg、11.9μmol)の代わりに、Ni(CHCOO)・4HO(3.0mg、12μmol)を用い、印加電位を0.53V vs. Ag/AgClに変更した以外は、実施例1と同様の手法により作用電極の表面にNiDIを形成した。「NiDI」は、式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜である。
【0057】
<実施例3>
PdCl(3.9mg、11.9μmol)の代わりに、Co(CHCOO)・4HO(3.0mg、12μmol)を用い、印加電位を0.65V vs. Ag/AgClに変更した以外は、実施例1と同様の手法により作用電極の表面にCoDIを形成した。「CoDI」は、式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜である。
【0058】
<実施例4>
PdCl(3.9mg、11.9μmol)の代わりに、Cu(CHCOO)(2.2mg、12μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の手法により作用電極の表面にCuDIを形成した。「CuDI」は、式(1)で表される構成単位を含む配位高分子膜である。
【0059】
<参考例1>
市販の白金回転ディスク電極(ビー・エー・エス株式会社製、品番01170)を参考例として用いた。
【0060】
<酸素発生反応の評価>
各例の酸素発生用電極を用いて下記のようにして酸素発生反応を行った。
アルゴン雰囲気下で、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液、作用電極としてPdDI修飾電極、対極として白金コイル及び参照電極としてAg/AgClを用い、直線走査ボルタンメトリー(LSV)の測定を行った。直線走査ボルタンメトリーの測定において、電気化学測定装置として「ALS 750E」(ビー・エー・エス株式会社)及び電極回転装置として「RRDE-3A」(ビー・エー・エス株式会社)が用いられた。電極を1,600rpm(revolutions per minute)で回転させ、0V~-1.6V(vs. Ag/AgCl)及び0.005V/sの走査速度で酸素発生反応の評価を行った。酸素発生反応の全ての電位は、参照電極を基準にして測定された電位に(0.156+0.059×pH)Vを付加することにより可逆水素電極(Reversible Hydrogen Electrode、RHE)を基準にした電位に変換された。結果を図1に示す。
【0061】
図1は、実施例1~4及び参考例1における電位と電流密度との関係図である。
一般に、電位potentialと電流密度jとの関係を示すグラフでは、電位の立ち上がりが急であるほど、酸素発生触媒として速やかに作用し易いことが示されていると考えられている。これに対し、実施例の酸素発生用電極は、図1に示すように、いずれも電位の立ち上がりが急であり、酸素発生触媒として速やかに作用し易いといえる。
特に、金属MがNi又はCoである配位高分子膜を含む酸素発生用電極は、10mA/cmの電流密度において、一般に酸素発生用電極として広く用いられている白金電極と同程度の過電圧を示すことから、酸素発生用電極として特に優れる。
【0062】
表1に、各例における、電流密度jが10mA/cmのときの各例の電位の値EEXと、E(酸素発生反応の標準電極電位)との差(EEX-E)である過電圧の値と、この過電圧の値をターフェル式に代入して得られたターフェルプロットにおける傾きの係数の値Xをそれぞれ示す。
一般に、過電圧の値が0に近いほど、酸素発生触媒として理想的な値であると考えられている。これに対し、実施例の酸素発生用電極は、過電圧の値が、一般に優れた酸素発生用電極と知られている白金電極と同程度の小さい値を示すことから、酸素発生反応に対する活性が高いことがいえる。
【0063】
【表1】
【0064】
図2は、実施例1~4及び参考例1におけるターフェルプロットのグラフである。
一般に、ターフェルプロットでは、傾きが0に近いほど同じ電位で安定して触媒が作用することが示されていると考えられている。これに対し、実施例の酸素発生用電極は、電流密度の対数が大きくなったとしても、過電圧に対する電流密度の対数log値が大きく変動していない、つまり、傾きが概ね小さい値になっていることから、酸素発生反応における触媒性能がよいことがわかった。
図1
図2