(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141288
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20230928BHJP
G01J 1/04 20060101ALI20230928BHJP
H01L 31/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01J1/02 H
G01J1/04 K
H01L31/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047522
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真之
【テーマコード(参考)】
2G065
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA14
2G065BA40
2G065BC19
2G065CA21
5F149AA03
5F149AB07
5F149BA21
5F149BB07
5F149LA01
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5F149XB18
5F149XB40
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5F849BB07
5F849LA01
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5F849XB18
5F849XB40
(57)【要約】
【課題】高精度な赤外線の検出を可能する赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法が提供される。
【解決手段】赤外線センサモジュール(1)は、量子型赤外線センサ(11)と、量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子(12)と、量子型赤外線センサ及びペルチェ素子の少なくとも1つの温度情報を取得する温度情報取得部(23)と、ペルチェ素子の動作を制御するペルチェ素子動作制御部(22)と、量子型赤外線センサからの信号を間欠的に取得する信号処理部(21)と、を備え、ペルチェ素子動作制御部は、ペルチェ素子に第1の方向に電流が流れる第1のモード、反対に電流が流れる第2のモード及び電流が流れない第3のモードのうち、第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、温度情報に基づいてペルチェ素子の動作を制御し、信号処理部が量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、モードを切り替えない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子型赤外線センサと、
前記量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子と、
前記量子型赤外線センサ及び前記ペルチェ素子の少なくとも1つの温度情報を取得する温度情報取得部と、
前記ペルチェ素子の動作を制御するペルチェ素子動作制御部と、
前記量子型赤外線センサからの信号を間欠的に取得する信号処理部と、を備え、
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記ペルチェ素子に第1の方向に電流が流れる第1のモード、前記ペルチェ素子に前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れる第2のモード及び前記ペルチェ素子に電流が流れない第3のモードのうち、前記第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、前記温度情報に基づいて前記ペルチェ素子の動作を制御し、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを切り替えない、赤外線センサモジュール。
【請求項2】
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを前記第3のモードに維持する、請求項1に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項3】
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記ペルチェ素子に流す電流量の変化も抑制する、請求項1に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項4】
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記電流量の変化の大きさを、前記電流量の大きさの30%以下に抑制する、請求項3に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項5】
前記温度情報取得部は、前記量子型赤外線センサが備える抵抗の抵抗値に基づく前記量子型赤外線センサの前記温度情報を取得する、請求項1から4のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項6】
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得する期間である取得期間は、3秒以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項7】
前記取得期間と次の前記取得期間との間の期間を非取得期間として、前記取得期間を前記非取得期間で割った値が1/10以下である、請求項6に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項8】
前記取得期間と次の前記取得期間との間において、前記ペルチェ素子動作制御部が前記温度情報に基づいて前記ペルチェ素子の動作を制御する期間を温度制御期間として、前記取得期間を前記温度制御期間で割った値が1/10以下である、請求項6又は7に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項9】
前記量子型赤外線センサの受光波長が2μm~12μmである、請求項1から8のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項10】
量子型赤外線センサと、前記量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子と、前記量子型赤外線センサ及び前記ペルチェ素子の少なくとも1つの温度情報を取得する温度情報取得部と、前記ペルチェ素子の動作を制御するペルチェ素子動作制御部と、前記量子型赤外線センサからの信号を間欠的に取得する信号処理部と、を備える赤外線センサモジュールが実行する、ペルチェ素子の動作制御方法であって、
前記ペルチェ素子動作制御部が、
前記ペルチェ素子に第1の方向に電流が流れる第1のモード、前記ペルチェ素子に前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れる第2のモード及び前記ペルチェ素子に電流が流れない第3のモードのうち、前記第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、前記温度情報に基づいて前記ペルチェ素子の動作を制御することと、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを切り替えないことと、を含む、ペルチェ素子の動作制御方法。
【請求項11】
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを前記第3のモードに維持する、請求項10に記載のペルチェ素子の動作制御方法。
【請求項12】
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記ペルチェ素子に流す電流量の変化も抑制する、請求項10に記載のペルチェ素子の動作制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法に関する。本開示は、特に量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子を含む赤外線センサモジュール及び量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子の動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に波長が2μm以上の長波長帯の赤外線は、その熱的効果及びガスによる赤外線吸収の効果から、人体を検知する人感センサ、非接触温度センサ及びガスセンサ等に使用されている。例えばガスセンサは、大気環境の監視、保護、さらに火災の早期検知などにも使用可能であり、近年注目されている。例えばガスの種類によって吸収される赤外線の波長が異なることを利用し、この吸収量を検出することによりそのガス濃度を測定するNDIR(非分散赤外線吸収:Non-Dispersive InfraRed))型のガスセンサが使用される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6530652号公報
【特許文献2】特開2002-318158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなガスセンサの構成部品として、赤外線を検出する赤外線センサモジュール又は赤外線センサが用いられる。赤外線センサは、熱型赤外線センサと量子型赤外線センサとに分けられる。
【0005】
熱型赤外線センサは、赤外線のエネルギーを熱として利用したセンサであり、赤外線の熱エネルギーによりセンサ自体の温度が上昇し、その温度上昇による効果(抵抗変化、容量変化など)を電気信号に変換する素子である。熱型赤外線センサには、焦電型、サーモパイル型、抵抗ボロメータ型、誘電ボロメータ型などがある。熱型赤外線センサは、感度に波長依存性がなく、冷却が不要である。しかし、熱型赤外線センサは、応答速度が遅く、検出能力があまり高くない。
【0006】
一方、量子型赤外線センサは、半導体に赤外線が照射されるとその光量子によって発生する電子又は正孔を利用するセンサである。量子型赤外線センサは、高感度で応答速度が速いが、温度特性が大きく、所定の温度を外れるとSNR(信号ノイズ比)が劣化し得る。そのため、量子型赤外線センサの使用では、冷却又は昇温が必要になる場合がある。ここで、密閉構造において、ペルチェ素子を用いて温度調整することが提案されている(例えば特許文献2)。ただし、ペルチェ素子を流れる電流に基づく電磁波が量子型赤外線センサのノイズ源となる問題がある。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、高精度な赤外線の検出を可能する赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールは、
量子型赤外線センサと、
前記量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子と、
前記量子型赤外線センサ及び前記ペルチェ素子の少なくとも1つの温度情報を取得する温度情報取得部と、
前記ペルチェ素子の動作を制御するペルチェ素子動作制御部と、
前記量子型赤外線センサからの信号を間欠的に取得する信号処理部と、を備え、
前記ペルチェ素子動作制御部は、
前記ペルチェ素子に第1の方向に電流が流れる第1のモード、前記ペルチェ素子に前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れる第2のモード及び前記ペルチェ素子に電流が流れない第3のモードのうち、前記第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、前記温度情報に基づいて前記ペルチェ素子の動作を制御し、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを切り替えない。
【0009】
本開示の一実施形態に係るペルチェ素子の動作制御方法は、
量子型赤外線センサと、前記量子型赤外線センサと接触して配置されるペルチェ素子と、前記量子型赤外線センサ及び前記ペルチェ素子の少なくとも1つの温度情報を取得する温度情報取得部と、前記ペルチェ素子の動作を制御するペルチェ素子動作制御部と、前記量子型赤外線センサからの信号を間欠的に取得する信号処理部と、を備える赤外線センサモジュールが実行する、ペルチェ素子の動作制御方法であって、
前記ペルチェ素子動作制御部が、
前記ペルチェ素子に第1の方向に電流が流れる第1のモード、前記ペルチェ素子に前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れる第2のモード及び前記ペルチェ素子に電流が流れない第3のモードのうち、前記第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、前記温度情報に基づいて前記ペルチェ素子の動作を制御することと、
前記信号処理部が前記量子型赤外線センサからの信号を取得している間に、前記モードを切り替えないことと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、量子型赤外線センサの応答性を活かした、高精度な赤外線の検出を可能する赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールの一構成例のブロック図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係るペルチェ素子の動作制御方法を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールの別の構成例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュール及びペルチェ素子の動作制御方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0013】
<赤外線センサモジュール>
図1は、本実施形態に係る赤外線センサモジュール1の一構成例のブロック図である。赤外線センサモジュール1は、赤外線を検出する装置である赤外線デバイス10と、赤外線デバイス10からの信号に基づいて赤外線量を算出し、赤外線デバイス10を制御する演算制御装置20と、を備える。赤外線センサモジュール1は、例えば二酸化炭素などのガス濃度を測定するNDIR型のガスセンサの構成部品として用いられるが、特定の用途での使用に限定されない。赤外線センサモジュール1は、例えば放射温度計、水分計測器、炎検知器、光パワーメーターなどに使用されてよい。
【0014】
<赤外線デバイス>
本実施形態において、赤外線デバイス10は、量子型赤外線センサ11と、ペルチェ素子12と、温度測定部13と、を備える。
図2は、赤外線センサモジュール1の構成例を示す断面図である。
図2に示すように、赤外線センサモジュール1は、量子型赤外線センサ11とペルチェ素子12とが接触するように配置される赤外線デバイス10と、赤外線デバイス10と電気的に接続される演算制御装置20と、が金属製又は樹脂製のパッケージ31で覆われて構成され得る。パッケージ31には、赤外線を透過させるように、例えば窓材32が設けられている。ここで、量子型赤外線センサ11とペルチェ素子12とが接触するとは、直接的な接触だけでなく、
図2に示すように熱を伝える部材を間に挟んで配置されることによって熱伝導が阻害されない状態を含む。つまり、接触には、例えば量子型赤外線センサ11とペルチェ素子12との物理的な接触だけでなく、例えば接着剤又はグリスなどを介しての接触なども含まれる。
【0015】
(量子型赤外線センサ)
量子型赤外線センサ11は、半導体に赤外線が照射されるとその光量子によって発生する電子又は正孔を利用して、赤外線を検出するセンサである。量子型赤外線センサ11は、熱型赤外線センサに比べて、高感度で応答速度が速い。量子型赤外線センサ11は、受光した赤外線量に応じた信号を出力する。出力する信号は例えば電流値であってよい。本実施形態において、量子型赤外線センサ11の受光波長は2μm~12μmである。2μm~12μmの領域は、各種ガスに固有の吸収帯が数多く存在し、ガスセンサ及びアルコールセンサに用いるのに特に適した波長帯である。例えば3.3μmの波長にメタン、4.3μmの波長に二酸化炭素、9.5μmの波長にエタノールの吸収帯が存在する。さらなる小型化を可能にするため、例えばInSb、InGaAs、InAs、AlInSb又はInAsSbなどの材料を含む量子型赤外線センサが用いられてよいが、量子型赤外線センサの材料は特定のものに限定されない。ただし、量子型赤外線センサは、材料としてインジウム及びガリウムの少なくとも1つ並びにヒ素及びアンチモンの少なくとも1つを含み、少なくともP型半導体とN型半導体の2種類の層からなるダイオード構造を有することが好ましい。
【0016】
(ペルチェ素子)
ペルチェ素子12は、量子型赤外線センサ11が好ましい温度で使用されるように、量子型赤外線センサ11と接触して配置されて、量子型赤外線センサ11の昇温及び冷却を行う。ペルチェ素子12は、特定の種類に限定されず、公知の構成のものが用いられてよい。例えばペルチェ素子12は、ビスマス・テルルを基本材料とするP型半導体とN型半導体を、金属電極を介して接合した構成であってよい。本実施形態において、ペルチェ素子12は、第1の方向に電流が流れると、量子型赤外線センサ11と接触する側の面が冷やされて、量子型赤外線センサ11を冷却する。また、ペルチェ素子12は、第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れると、量子型赤外線センサ11と接触する側の面が加熱されて、量子型赤外線センサ11を昇温する。ここで、例えばペルチェ素子12がP型半導体とN型半導体を、金属電極を介して接合した構成である場合に、第1の方向は、電流がP型半導体からN型半導体側に流れる方向であってよい。
【0017】
(温度測定部)
温度測定部13は、量子型赤外線センサ11及びペルチェ素子12の少なくとも1つの温度を測定する。温度測定部13は、測定した温度を示す信号である温度情報を出力する。温度情報は、直接的に温度を示してよいし、温度に応じた値(一例として温度に比例して変化する電圧値)であってよい。温度測定部13は、特定の種類に限定されず、公知の構成のものが用いられてよい。本実施形態において、温度測定部13はサーミスタである。本実施形態において、温度測定部13は量子型赤外線センサ11の温度を測定するように設けられるが、ペルチェ素子12の温度を測定してよい。また、温度測定部13は複数であってよい。
【0018】
<演算制御装置>
本実施形態において、演算制御装置20は、信号処理部21と、ペルチェ素子動作制御部22と、温度情報取得部23と、を備える。演算制御装置20は、制御に特化したハードウェア、演算及び制御を実行するプロセッサを備える装置などであってよく、例えばマイコン(Micro Controller Unit)によって実現されてよい。
【0019】
信号処理部21、ペルチェ素子動作制御部22及び温度情報取得部23の機能は、ソフトウェアによって実現されてよく、ハードウェアによって実現されてよい。例えば演算制御装置20が備えるプロセッサによってアクセス可能な記憶装置に、1つ以上のプログラムが記憶されていてよい。記憶装置に記憶されたプログラムは、演算制御装置20が備えるプロセッサによって読み込まれると、演算制御装置20を信号処理部21、ペルチェ素子動作制御部22及び温度情報取得部23として機能させてよい。
【0020】
(信号処理部)
信号処理部21は、量子型赤外線センサ11からの信号に基づいて、量子型赤外線センサ11によって検出された赤外線量を算出する。本実施形態において、信号処理部21は、量子型赤外線センサ11からの信号を間欠的に取得する。信号処理部21は、例えば定期的な検出がされる場合などに、後述する1サイクルのうち所定の期間において、信号を取得して赤外線量を算出してよい。所定の期間は、以下「取得期間」と称されることがある。
【0021】
ここで、量子型赤外線センサ11は、温度特性が大きく、所定の温度を外れるとSNRが劣化し得る。そのため、信号処理部21は、温度情報取得部23から得られる温度情報に基づいて、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度近傍になった場合に、量子型赤外線センサ11からの信号を取得してよい。
【0022】
(ペルチェ素子動作制御部)
ペルチェ素子動作制御部22は、ペルチェ素子12の動作を制御する。ペルチェ素子動作制御部22は、温度情報取得部23から得られる温度情報に基づいて量子型赤外線センサ11の現在の温度を判定する。そして、ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度(一例として40℃)になるように、ペルチェ素子12を制御する。つまり、ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度より低い場合に、ペルチェ素子12によって量子型赤外線センサ11の温度が上昇するように制御する。また、ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度より高い場合に、ペルチェ素子12によって量子型赤外線センサ11の温度が低下するように制御する。また、ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度である場合に、ペルチェ素子12の動作を停止させる。
【0023】
本実施形態において、ペルチェ素子動作制御部22は、ペルチェ素子12の動作を制御するための3つのモードを有する。具体的に述べると、ペルチェ素子動作制御部22は、ペルチェ素子12に第1の方向に電流が流れる第1のモード、ペルチェ素子12に第1の方向と反対の方向である第2の方向に電流が流れる第2のモード及びペルチェ素子12に電流が流れない第3のモードを有する。第1のモードは、量子型赤外線センサ11を冷却させる制御である。第2のモードは、量子型赤外線センサ11を昇温させる制御である。第3のモードは、ペルチェ素子12の動作を停止させて、量子型赤外線センサ11の冷却も昇温もさせない制御である。ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度となるように、3つのモードを切り替えて、ペルチェ素子12の動作を制御する。ペルチェ素子動作制御部22は、3つのモードの制御において、例えば電圧制御を行ってよいし、例えば電流制御を行ってよく、特定の制御手法に限定されない。ペルチェ素子動作制御部が実行する制御の詳細については後述する。
【0024】
(温度情報取得部)
温度情報取得部23は、量子型赤外線センサ11及びペルチェ素子12の少なくとも1つの温度情報を取得する。温度情報は、温度測定部13によって測定された温度を示す信号である。温度情報取得部23は、取得した温度情報が量子型赤外線センサ11の温度を直接的に示すものでない場合に、温度情報を更新してよい。つまり、温度情報取得部23は、量子型赤外線センサ11の温度を算出して、算出した温度を新たな温度情報として、信号処理部21及びペルチェ素子動作制御部22に出力してよい。例えば取得した温度情報がペルチェ素子12の測定温度である場合に、温度情報取得部23は、過去の実験などで測定されたペルチェ素子12の温度と量子型赤外線センサ11の温度との関係を示す実績データに基づいて、量子型赤外線センサ11の温度を算出して、新たな温度情報として出力してよい。
【0025】
<ペルチェ素子の動作制御方法>
図2に示すように、ペルチェ素子12は、量子型赤外線センサ11を昇温及び冷却できるように、量子型赤外線センサ11の近くに配置される。また、量子型赤外線センサ11から出力される電流が例えば数nAであるのに対して、動作中のペルチェ素子12を流れる電流は、例えば数百mA~数Aであり得る。このため、ペルチェ素子12を流れる電流の変化時に生じる電磁波が、量子型赤外線センサ11のノイズ源となり得る。ペルチェ素子12によって量子型赤外線センサ11は目標温度で動作することができ、温度の影響によるSNRの劣化を抑制して検出精度を高めることができるが、量子型赤外線センサ11の検出時に上記の電磁波が影響すると、高めた検出精度を低下させることになる。本実施形態に係る赤外線センサモジュール1は、ペルチェ素子動作制御部22が以下に説明するペルチェ素子12の動作制御方法の処理を実行することによって、ペルチェ素子12の電流変化で生じる電磁波の影響を抑えて、高精度な赤外線の検出を可能する。
【0026】
図3は、本実施形態に係るペルチェ素子12の動作制御方法を例示するフローチャートである。まず、ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度を目標温度とする温度制御を実行する(ステップS1)。具体的に述べると、ペルチェ素子動作制御部22は、温度情報に基づいて量子型赤外線センサ11の現在の温度を判定し、3つのモードのいずれかを選択して、ペルチェ素子12の動作を制御する。例えばペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度より高い場合に、第1のモードを選択して、量子型赤外線センサ11を冷却させる。また、例えばペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度より低い場合に、第2のモードを選択して、量子型赤外線センサ11を昇温させる。
【0027】
ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度でない場合に(ステップS2のNO)、ステップS1の処理に戻る。ペルチェ素子動作制御部22は、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度である場合に(ステップS2のYES)、ステップS3の処理に進む。
【0028】
ここで、信号処理部21は、温度情報取得部23から得られる温度情報に基づいて、量子型赤外線センサ11の温度が目標温度であれば、量子型赤外線センサ11からの信号を取得する。信号処理部21は、量子型赤外線センサ11からの信号を取得する場合に、すなわち、上記の非取得期間から取得期間に切り替わる場合に、通知のための信号(以下「通知信号」と称される)をペルチェ素子動作制御部22に出力してよい。
【0029】
ペルチェ素子動作制御部22は、通知信号などに基づいて、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号を取得する(取得期間である)と判定する場合に(ステップS3のYES)、モードを切り替えずに維持する(ステップS4)。ペルチェ素子動作制御部22は、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号の取得を完了するまで(取得期間の終わりまで)、モードを切り替えずに維持し続ける(ステップS5のNO)。
【0030】
ペルチェ素子動作制御部22によって、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号を取得する間に、モードが維持されるので、ペルチェ素子12を流れる電流の方向が切り替わることがない。そのため、ペルチェ素子12の電流変化で生じる電磁波の影響を抑えて、高精度な赤外線の検出が可能になる。ここで、ペルチェ素子動作制御部22は、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号を取得している間に、ペルチェ素子12に流す電流量の変化も抑制することが好ましい。電流の方向だけでなく、電流量についても変化を抑制することによって、ペルチェ素子12の電流変化で生じる電磁波の影響をさらに抑えることができる。ペルチェ素子動作制御部22は、取得期間における電流量の変化の大きさを、電流量の大きさの30%以下に抑制することが好ましく、10%以下に抑制することがさらに好ましい。
【0031】
さらに、ペルチェ素子動作制御部22は、取得期間に切り替わる時にモードを第3モードにして、取得期間の間に第3のモードを維持する、すなわち、取得期間の間にペルチェ素子12が停止するように制御してよい。このとき、取得期間におけるペルチェ素子12の電流変化が完全に無くなり、電磁波の影響を最大限に抑えて、高精度な赤外線の検出が可能になる。
【0032】
一方で、ペルチェ素子動作制御部22が取得期間においてモードを切り替えずに維持することは、取得期間において温度制御が行われないこと、すなわち、取得期間において量子型赤外線センサ11の温度が目標温度から外れていくことを意味する。目標温度から外れると、SNRが劣化するため、取得期間は短いことが好ましい。ここで、量子型赤外線センサ11は、熱型赤外線センサに比べて応答速度が速いため、検出精度が低下しない程度に取得期間を短くすることが可能である。例えば取得期間を3秒以下とすることができる。取得期間は1秒以下であることがさらに好ましい。
【0033】
また、赤外線量の変化を測定するような場合に、量子型赤外線センサ11によって定期的に検出が行われることがある。取得期間と次の取得期間との間の期間を非取得期間とし、1つの取得期間と1つの非取得期間とを合わせた期間を1サイクルとして、複数サイクルでの検出が行われる。ここで、取得期間は、非取得期間を基準として短い期間であるように設定されてよい。例えば取得期間を非取得期間で割った値が1/10以下であるように設定されてよい。取得期間を非取得期間で割った値は少なくとも1/5以下であるように設定されることが好ましい。
【0034】
ここで、ペルチェ素子動作制御部22が温度情報に基づいてペルチェ素子12の動作を制御する期間を温度制御期間とすると、温度制御期間は、取得期間と次の取得期間との間(非取得期間)に含まれる。ここで、取得期間は、温度制御期間を基準として短い期間であるように設定されてよい。例えば取得期間を温度制御期間で割った値が1/10以下であるように設定されてよい。取得期間を温度制御期間で割った値は少なくとも1/5以下であるように設定されることが好ましい。
【0035】
ペルチェ素子動作制御部22は、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号を取得しない(取得期間でない)と判定する場合に(ステップS3のNO)、ステップS1の処理に戻る。また、ペルチェ素子動作制御部22は、取得期間の間にモードが維持されて、信号処理部21が量子型赤外線センサ11からの信号の取得を完了した場合に(ステップS5のYES)、再びステップS1の処理を実行する。
【0036】
以上のように、本実施形態に係る赤外線センサモジュール1及びペルチェ素子の動作制御方法は、上記の構成及び処理によって、ペルチェ素子12を流れる電流に基づく電磁波の影響を抑制して、高精度な赤外線の検出を可能する。
【0037】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0038】
例えば上記の実施形態において、ペルチェ素子動作制御部22は、3つのモードでペルチェ素子12の動作を制御するが、第3のモードを含む少なくとも2つのモードを用いて、温度制御を行ってよい。例えばペルチェ素子動作制御部22は、第1のモード(量子型赤外線センサ11の冷却に対応)と、ペルチェ素子12を停止させる第3のモードだけを用いて、温度制御を行ってよい。このとき、ペルチェ素子動作制御部22によるペルチェ素子12の動作の制御をより単純化することができる。
【0039】
例えば上記の実施形態において、温度測定部13が量子型赤外線センサ11及びペルチェ素子12の少なくとも1つの温度を測定するが、赤外線デバイス10は、温度測定部13を省略した構成であってよい。
図4は、温度測定部13が省略された、赤外線センサモジュール1の別の構成例のブロック図である。
図4に示すように、温度情報取得部23は、量子型赤外線センサ11が備える抵抗の抵抗値に基づく量子型赤外線センサ11の温度情報を取得してよい。このとき、温度情報取得部23は、量子型赤外線センサ11の温度を直接的に取得できる。また、温度測定部13が省略されることによって、赤外線センサモジュール1のさらなる小型化が可能になる。
【0040】
例えば上記の実施形態において、赤外線センサモジュール1は赤外線デバイス10と演算制御装置20とが一体化されたモジュールとして提供されるとしたが、赤外線デバイス10と演算制御装置20とがそれぞれ独立の部品として提供され、基板上において電気的に接続された構成があり得る。
【0041】
また、
図3のフローチャートは一例であって、様々なペルチェ素子12の動作制御方法が実行され得る。例えば、
図3において、ペルチェ素子動作制御部22は、ステップS5でYESと判定した後にステップS1の処理に戻るが、量子型赤外線センサ11の温度を直ちに調整するために、ステップS1でなくステップS2の処理に戻ってよい。
【0042】
また、連続的な測定が行われる場合に、ペルチェ素子動作制御部22は、ステップS5でYESと判定した後に、ステップS3の処理に戻ってよい。そして、ペルチェ素子動作制御部22は、連続的な測定が所定回数実行されてから(ステップS3へ戻る処理が所定回数繰り返されてから)、ステップS5でYESと判定した後にステップS1の処理に戻ってよい。
【0043】
また、ステップS3~ステップS5の処理の実行と並行して、温度測定が実行されてよい。このとき、ペルチェ素子動作制御部22によって温度制御が直ちに行われることがないが、次の制御に向けて定期的な温度測定が継続される。
【符号の説明】
【0044】
1 赤外線センサモジュール
10 赤外線デバイス
11 量子型赤外線センサ
12 ペルチェ素子
13 温度測定部
20 演算制御装置
21 信号処理部
22 ペルチェ素子動作制御部
23 温度情報取得部
31 パッケージ
32 窓材