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特開2023-141297高熱安定性フコース結合性タンパク質、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141297
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】高熱安定性フコース結合性タンパク質、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230928BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230928BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230928BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 Z
C07K14/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047535
(22)【出願日】2022-03-23
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】井出 輝彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG28
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045CA11
4H045DA80
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2G
alβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-
3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)Ga
lNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有し、熱に対する安定
性が向上したフコース結合性タンパク質およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 配列番号1で示されるフコース結合性タンパク質を構成するアミノ酸配列
において、配列番号1における83番目として特定されるスレオニン残基をフェニルアラニン残基に置換すること、加えて、大腸菌を用いて当該フコース結合性タンパク質を製造することにより、前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c):
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の83番目のスレオニン残基の、フェニルアラニン残基への置換;
(b)前記(a)に記載のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の83番目のアミノ酸残基以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質;及び
(c)前記(a)または(b)に記載のいずれかのアミノ酸配列について、アミノ酸配列全体に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質、
のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項3】
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する請求項1または2に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項4】
N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、請求項3に記載のフコース結合性タンパク質。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
【請求項6】
請求項5に記載のDNAを含有する発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、請求項1から4のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
【請求項8】
宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱安定性をもつフコース結合性タンパク質、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L-CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するレクチンであり、Hタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)、ルイスb型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAc)およびルイスX型糖鎖(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献1)。これらの糖鎖への結合親和性をもつことから、BC2LCNはこれらの糖鎖が高発現している細胞やタンパク質の検出や分離に使用することが可能である。例えば、非特許文献2、特許文献1および特許文献2には、未分化状態のヒトES細胞およびiPS細胞はHタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)を高発現していることから、BC2LCNを用いてヒトES細胞やiPS細胞等の未分化細胞を検出する方法が開示されている。また、Hタイプ1型糖鎖やルイスY糖鎖は特定のがん細胞に高発現していることが知られている(H1:非特許文献3、LewisY:非特許文献4)。ルイスb型糖鎖は赤血球で血液型抗原であるほか、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)が宿主細胞のルイスb型糖鎖を感染に用いていることが知られている(非特許文献5)。
【0003】
タンパク質の機能を向上させる方法として、タンパク質工学的手法によりタンパク質にアミノ酸変異を導入し、目的とする機能を向上させる方法が知られており、特許文献3にはBC2LCNの特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、熱に対する安定性が向上する旨、開示されているが、より高い熱安定性をもち、かつ、高い糖鎖親和性を保持したBC2LCNが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/065302号
【特許文献2】国際公開第2013/128914号
【特許文献3】特開2020-025535号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sulak,O.等,Structure.2010年,18巻:59-72頁
【非特許文献2】Tateno,H.等,Stem Cells Transl. Med.2013年,2巻:265-273頁
【非特許文献3】Tang,C.等,Nat. Biotechnol.2011年,29巻:829-835頁
【非特許文献4】Westwood J.A.等,J. Immunother.2009年,32巻:292-301頁
【非特許文献5】Hage,N.等,Sci. Adv.2015年,1巻:e1500315頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、BC2LCNによる細胞検出技術等の工業利用を発展させるにあたり、熱安定性が高く製造や加工、保管が容易で、かつ、糖鎖結合親和性を保持したBC2LCNを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1に示される155アミノ酸残基からなるBC2LCNを構成するアミノ酸配列において、83番目のスレオニン残基をフェニルアラニン残基に置換することにより、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を維持しつつ、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]から[9]に記載した発明を包含する。
【0009】
[1]
以下の(a)~(c):
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の83番目のスレオニン残基の、フェニルアラニン残基への置換;
(b)前記(a)に記載のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号 1の83番目のアミノ酸残基以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質;及び
(c)前記(a)または(b)に記載のいずれかのアミノ酸配列について、アミノ酸配列全体に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[2]
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、前記[1]に記載のフコース結合性タンパク質。
[3]
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する前記[1]または[2]に記載のフコース結合性タンパク質。
[4]
N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、前記[3]に記載のフコース結合性タンパク質。
[5]
前記[1]から[4]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
[6]
前記[5]に記載のDNAを含有する発現ベクター。
[7]
前記[6]に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、前記[1]から[4]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
[8]
宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、前記[7]に記載の形質転換体。
[9]
前記[7]または[8]に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、前記[1]から[4]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アミノ酸残基置換前のフコース結合性タンパク質に比べて熱に対する安定性が向上し、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造を持つルイスY型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を持つルイスb型糖鎖への結合親和性を維持したフコース結合性タンパク質、およびそれらの製造方法が提供される。本発明のフコース結合性タンパク質を用いることにより、温度変化による糖鎖への結合親和性の低下や失活などの活性の変化を抑え、安定な活性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造を持つルイスY型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を持つルイスb型糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性を有するレクチンであるBC2LCNを構成するアミノ酸配列(配列番号1で示される155アミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。)において、特定の位置にあるアミノ酸残基に変異を導入し、形質転換した大腸菌(Escherichia coli)で組換えタンパク質として発現させたものである。具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列における83番目のスレオニン残基のフェニルアラニン残基への置換を行い、形質転換大腸菌で組換えタンパク質として発現させたものである。配列番号1で示されるアミノ酸配列における83番目のスレオニン残基をフェニルアラニン残基で置換することにより、前記組換えタンパク質のFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を維持しながら、熱に対する安定性を向上させることができる。後述する実施例および比較例で示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列における任意の位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換するのではなく、特定の位置のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換することにより、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を維持しながら、熱に対する安定性を向上させることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の具体例としては、配列番号2(配列番号1の83番目のスレオニン残基をフェニルアラニン残基に置換したアミノ酸配列)で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質を挙げることができる。
【0013】
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(i)および(ii)のバリアント配列を有するタンパク質であってもよい。
【0014】
(i)83番目のスレオニン残基以外のアミノ酸残基のいずれか1個若しくは複数個のアミノ酸残基が、任意のアミノ酸残基に置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有したタンパク質。
【0015】
(ii)(i)に記載のタンパク質のうち、アミノ酸配列全体に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むタンパク質。
【0016】
前記(i)において「1個若しくは複数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1個以上15個以下、1個以上10個以下、1個以上5個以下、1個以上3個以下のいずれかを意味する。また、「置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0017】
前記(ii)におけるアミノ酸配列の相同性は90%以上であればよく、それ以上の相同性(例えば、95%以上)を有してもよい。なお本発明において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。アミノ酸配列間の同一性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の類似性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(Alignment program)を利用して決定できる。得られるフコース結合性タンパク質の熱安定性が高い点で90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が好ましい。
【0018】
また、本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。これらの付加的なアミノ酸配列の中では、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることが好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数に特に制限はないが、ヒスチジンの繰返し配列が短い場合はニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が困難となり、長い場合は、本発明のフコース結合性タンパク質の前記糖鎖への結合親和性が損なわれる可能性がある。従って、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数はヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から8個からなる繰返し配列であることがより好しい。また、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドの長さは、前記ヒスチジンの繰返し配列が含まれていれば特に制限はなく、ヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列を含む20個以下のオリゴペプチドであることが好ましく、ヒスチジン残基が5個から8個からなる繰返し配列を含む15個以下のオリゴペプチドであることがより好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよい。
【0019】
さらに、本発明のフコース結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
【0020】
次に、本発明のフコース結合性タンパク質をコードするDNA(以下、本発明のDNAとする。)および本発明のDNAを含有する発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする。)について説明する。
【0021】
本発明のDNAは、Polymerase Chain Reaction(PCR)法や化学合成法など当業者が通常行う方法で得ればよい。これらの方法において、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際には、本発明のフコース結合性タンパク質の生産に利用する微生物や細胞(宿主)におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましい。
【0022】
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号3の塩基配列からなるDNAを例示することができる。
【0023】
本発明のDNAを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法でよく、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に前記タンパク質をコードするDNAを挿入して当該タンパク質の発現ベクターを作製すればよい。発現ベクターに特に制限はないが、実験が容易である点で、大腸菌宿主で使用可能な発現ベクターが好ましく、具体的には、pETベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pUCベクターおよびpBBRベクター等のプラスミドベクターが挙げられる。
【0024】
また、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で得ればよい。前記宿主は特に制限はないが、遺伝子工学に関する実験が容易な点で大腸菌(Escherichia coli)が好ましく、例えば、大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌BL21株、大腸菌NiCo21(DE3)株、大腸菌W3110株が挙げられる。
【0025】
次に、本発明のフコース結合性タンパク質の製造方法(以下、本発明の製造方法とする。)について説明する。本発明の製造方法は、当業者が通常行う方法でよく、前記形質転換体を用いて発現培養を行い、培養物から目的の組換えタンパク質を回収・精製すればよい。なお、本発明の培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。
【0026】
本発明のフコース結合性タンパク質の糖鎖への結合親和性の評価は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法、等温滴定型カロリメータ―等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore 8K機器(サイティバ製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相を糖鎖として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA、サイティバ製)や、デキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、サイティバ製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。また、結合親和性評価は当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
【0027】
本発明のフコース結合性タンパク質の熱に対する安定性の評価は、Thermal shift assay法や示差走査熱量計による測定法で、加熱処理前後の糖鎖への結合親和性は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法で比較することにより評価することができる。一例として、示差走査熱量計による方法について説明する。タンパク質溶液の温度を一定速度で上昇させ、タンパク質が熱変性を起こす際の熱容量を測定することにより、天然状態のタンパク質分子の半分が変性する変性中点温度を測定することができる。
【実施例0028】
以下、実施例、比較例および実験例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
比較例1 組換え6H-BC2LCN(配列番号4)の作製
【0030】
<1>組換え6H-BC2LCNのアミノ酸配列は配列番号4であり、具体的には、配列番号4の5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号1のアミノ酸配列(GenPept登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸配列)に相当する。組換え6H-BC2LCNを発現させるための発現ベクターpET_6H-BC2LCNは、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAを、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで作製した。なお、発現ベクターpET_6H-BC2LCNは、特開2018-000038号公報で開示されている発現ベクターpET-BC2LCNcysの170番目以降のシステイン残基を含むオリゴペプチド配列を除去したものと同一の塩基配列である。次いで、発現ベクターpET_6H-BC2LCNを用いて大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)を形質転換し、組換え6H-BC2LCNを発現可能な組換え大腸菌(形質転換体)を得た。
【0031】
<2><1>で得られた形質転換体を、30μg/mLのカナマイシンを添加したLB(Luria-Bertani)培地(10g/L Tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L 塩化ナトリウム)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/LYeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L K2HPO4、2.2g/L KH2PO4および4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで組換えタンパク質6H-BC2LCNを発現させた。培養液より遠心分離により菌体を回収した。
【0032】
<3><2>で得られた菌体をBugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて、メーカープロトコルに従い菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質6H-BC2LCNの精製を、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行ない、限外ろ過フィルターを用いて保存用緩衝液(10mM HEPES、150mM 塩化ナトリウム、3mM EDTA、pH7.4)に置換した。
【0033】
実施例1 組換え6H-BC2LCN(T83F)(配列番号5)の作製
【0034】
<1>組換え6H-BC2LCN(T83F)のアミノ酸配列は配列番号5であり、具体的には、配列番号5の5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号2のアミノ酸配列(GenPept登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸配列である配列番号1のうち、83番目のスレオニン残基がフェニルアラニン残基に置換された配列)に相当する。組換え6H-BC2LCN(T83F)を発現させるための発現ベクターpET_6H-BC2LCN(T83F)は、配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号3)を含むDNAを、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで作製した。次いで、発現ベクターpET_6H-BC2LCN(T83F)を用いて大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)を形質転換し、組換え6H-BC2LCN(T83F)を発現可能な組換え大腸菌(形質転換体)を得た。
【0035】
<2>比較例1<2><3>に記載と同様の方法で組換え6H-BC2LCN(T83F)溶液を得た。
【0036】
実験例1 糖鎖結合親和性評価
【0037】
比較例1および実施例1で作製した組換えタンパク質6H-BC2LCNおよび6H-BC2LCN(T83F)の糖鎖結合親和性評価のため、表面プラズモン共鳴法を用いてHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する解離定数の測定を行った。具体的には、Biacore 8K(サイティバ製)を用い、アナライトを各組換えタンパク質、固相をHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖またはルイスb型糖鎖としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(サイティバ製)を使用し、デキストランにストレプトアビジンをアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖(Glycotech製)、Hタイプ3型糖鎖(Glycotech製)、ルイスY型糖鎖(Glycotech製)またはルイスb型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖またはルイスb型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。ストレプトアビジンの固定量は約400RU、糖鎖の固定量は約35RUとした。
【0038】
糖鎖結合親和性の測定には緩衝液としてHBS-EP+(10mM HEPES,150mM 塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.05%(v/v)Tween20,pH7.4)を用い、測定条件は流速を30μL/分、結合時間を3分間、解離時間を6分間とした。センサーチップの再生は5mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間10秒で行った。糖鎖固定量が多いセンサーチップを使用する場合は、20mMの水酸化ナトリウムを用いた。解析はBiacore 8K機器に付属の解析ソフト(Biacore 8K Evaluation Software)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数(KD)を算出した。
【0039】
表1に、実施例1および比較例1の各糖鎖に対する解離定数を示す。解離定数の値は小さいほど結合親和性が高いことを示す。なお、実施例1の6H-BC2LCN(T83F)のルイスY型糖鎖に対する解離定数の「低下」とはルイスY型糖鎖に対する結合親和性が顕著に低下したことを示す。センサグラム形状より結合は確認できるが、ルイスY型糖鎖に対する結合量が低く(おおよそ5RU以下)、正確な解離定数を算出することができなかった。以上の結果から、比較例1の組換え6H-BC2LCNと実施例1の6H-BC2LCN(T83F)の解離定数はルイスY型糖鎖以外大差なかった。配列番号1の83番目のスレオニン残基をフェニルアラニン残基に置換することによりルイスY型糖鎖への結合親和性は低下したものの、未分化状態のヒトES細胞およびiPS細胞表面に存在するHタイプ1型糖鎖やHタイプ3型糖鎖、一部のがん細胞や細菌で高発現しているルイスb型糖鎖への結合親和性は維持したことがわかる。なお、表1における変性中点温度の測定は、後述する実験例2に記載した。
【0040】
【表1】
【0041】
実験例2 熱安定性評価
【0042】
比較例1および実施例1で作製した組換えタンパク質6H-BC2LCNおよび6H-BC2LCN(T83F)の熱安定性評価のため、示差走査熱量計による変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記比較例1<3>および実施例1<2>で製造した組換えタンパク質6H-BC2LCNおよび6H-BC2LCN(T83F)の溶液を紫外線吸収法により濃度を測定し、透析膜を用いて、透析用緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム,150mM 塩化ナトリウム,pH5.5)中で緩衝液交換を行った。透析内液の組換えタンパク質の濃度を紫外吸収法(A280=1.0を1.0mg/mLとして換算)により測定し、2.4~4.5mg/mLになるようタンパク質溶液調製時と同じ緩衝液(10mM HEPES、150mM 塩化ナトリウム、3mM EDTA、pH7.4)で希釈し、示差走査熱量計(マルバーン製、MicroCalVP-Capillary DSC)を用いて変性中点温度を測定した。変性中点温度の測定条件は、各組換えタンパク質の溶液量を400μL、昇温速度を60℃/h、加熱温度を45℃-115℃とした。
【0043】
表1に、実施例1および比較例1の変性中点温度を示す。比較例1の組換え6H-BC2LCNに比べて実施例1の6H-BC2LCN(T83F)は変性中点温度が約10℃高く、配列番号1の83番目のスレオニン残基をフェニルアラニン残基に置換することにより、熱安定性が向上したことがわかる。
【配列表】
2023141297000001.app