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特開2023-141388異常ネルンスト効果を利用した熱流センサおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141388
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】異常ネルンスト効果を利用した熱流センサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/20 20230101AFI20230928BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L37/04
H02N11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047692
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】福島 章雄
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 啓
(72)【発明者】
【氏名】阿子島 めぐみ
(57)【要約】
【課題】感度を向上可能な熱流センサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】異常ネルンスト効果を有し導電性の強磁性材料からなる複数の熱電体12の各々が第1の方向に延在し、その第1の方向と異なる第2の方向に上記複数の熱電体の各々が互いに離隔して配置されてなる、上記複数の熱電体と、複数の電極13の各々の少なくとも一部が、上記第1の方向に延在するとともに上記複数の熱電体の各々の上部に配置され、その複数の熱電体の第1の方向の両端部に電気的に接続してその複数の熱電体を直列に接続する上記複数の電極と、を備え、上記複数の熱電体の下方の第1の主面と上記複数の電極の上方の第2の主面との温度差に応じて上記直列に接続された複数の熱電体の両端から出力可能な、上記熱流センサ10が提供される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常ネルンスト効果を有し導電性の強磁性材料からなる複数の熱電体の各々が第1の方向に延在し、該第1の方向と異なる第2の方向に該複数の熱電体の各々が互いに離隔して配置されてなる、該複数の熱電体と、
複数の電極の各々の少なくとも一部が、前記第1の方向に延在するとともに前記複数の熱電体の各々の上部に配置され、該複数の熱電体の該第1の方向の両端部に電気的に接続して該複数の熱電体を直列に接続する該複数の電極と、を備え、
前記複数の熱電体の下方の第1の主面と前記複数の電極の上方の第2の主面との温度差に応じて前記直列に接続された複数の熱電体の両端から出力可能な、熱流センサ。
【請求項2】
前記第1の主面または前記第2の主面から視た場合、前記複数の電極の各々の少なくとも一部が前記複数の熱電体の各々と重なるように配置されてなる、請求項1記載の熱流センサ。
【請求項3】
前記第1の主面または前記第2の主面から視た場合、前記複数の電極の各々は、隣接する前記熱電体の一方の上部から他方の上部に亘って配置された部分以外は、前記複数の熱電体の各々と重なるように配置されてなる、請求項1記載の熱流センサ。
【請求項4】
前記複数の熱電体と前記複数の電極との間に絶縁層をさらに備え、
前記複数の熱電体の上に前記絶縁層を介して前記第1の方向に沿って前記複数の電極が延在する、請求項1~3のうちいずれか一項記載の熱流センサ。
【請求項5】
前記複数の熱電体に磁場を印加する磁場印加手段をさらに備える請求項1~4のうちいずれか一項記載の熱流センサ。
【請求項6】
前記磁場印加手段は、前記第1の方向と前記第2の方向とが形成する面内の方向であって、該第1の方向に対して垂直方向に磁場を印加する、請求項5記載の熱流センサ。
【請求項7】
基板上に異常ネルンスト効果を有し導電性の強磁性材料からなる複数の熱電体を形成するステップであって、複数の熱電体の各々が第1の方向に延在し、該第1の方向と異なる第2の方向に該複数の熱電体の各々が互いに離隔して配置されてなる、該複数の熱電体を形成するステップと、
複数の電極の各々の少なくとも一部が、前記第1の方向に延在するとともに前記複数の熱電体の各々の上部に配置され配置される前記複数の電極を形成するステップであって、該複数の電極は、前記複数の熱電体の各々の前記第1の方向の両端部に電気的に接続して前記複数の熱電体を直列に接続する、該複数の電極を形成するステップと、を含む、熱流センサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果を利用した熱流測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
異常ネルンスト効果は、磁性材料が、磁界中で熱勾配が与えられたとき、磁界と熱勾配の両方に直行する方向に電位差が発生する現象である。異常ネルンスト効果を利用した熱流センサは、単純な構造で構成することができる(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
特許文献1では、基板の表面に沿って互いに平行に配置された複数の磁化した磁性体の細線を基板上に配置した非磁性体からなる配線で直列に接続し、基板面に垂直な方向の熱流を変換する熱電発電デバイスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-072256号公報
【特許文献2】特開2016-103535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2では、基板上に細線または単層の熱電体の間に配線を配置した構造を有する。このため、発電デバイスを小型化した場合、設置面積当たりの熱電体の長さを確保することが困難であるので、熱流に対する感度が十分得られないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、感度を向上可能な熱流センサおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、異常ネルンスト効果を有し導電性の強磁性材料からなる複数の熱電体の各々が第1の方向に延在し、その第1の方向と異なる第2の方向に上記複数の熱電体の各々が互いに離隔して配置されてなる、上記複数の熱電体と、複数の電極の各々の少なくとも一部が、上記第1の方向に延在するとともに上記複数の熱電体の各々の上部に配置され、その複数の熱電体の第1の方向の両端部に電気的に接続してその複数の熱電体を直列に接続する上記複数の電極と、を備え、上記複数の熱電体の下方の第1の主面と上記複数の電極の上方の第2の主面との温度差に応じて上記直列に接続された複数の熱電体の両端から出力可能な、熱流センサが提供される。
【0008】
上記態様によれば、複数の熱電体の上部に、複数の熱電体を電気的に接続する複数の電極の各々の少なくとも一部が配置される。これにより、複数の熱電体が配置された層には電極を配置するスペースを設ける必要がないので複数の熱電体の間隔の狭小化が可能となって熱電体を密に配置でき、熱電体の全体の長さをより長く設定できる。これにより、熱流センサは、熱電体が配置された領域、つまり熱流を感受可能な領域(「感熱領域」とも称する。)の面積当たりの感度が向上可能であり、熱流センサの小型化も可能となる。また、第1の主面から第2の主面に向かって、または第2主面から第1の主面に向かって流れる熱流の流れ方向に沿って、個々の熱電体と個々の電極を配置しているので、熱流が電極によって集められ、電極を伝導した熱流が熱電体を伝導することで、熱流の漏れを低減して効率良く検知可能であると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る熱流センサの概略平面図である。
図2】一実施形態に係る熱流センサの概略断面図である。
図3】熱電体の異常ネルンスト効果の説明図である。
図4】一実施形態に係る熱流センサの製造工程図である。
図5】比較例1の熱流センサの概略平面図である。
図6】熱流センサの感度の測定方法の説明図である。
図7】実施例および比較例の熱流センサの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る熱流センサの概略平面図である。図2は、一実施形態に係る熱流センサの概略断面図である。図2(a)は、図1に示したAA線断面図である。図2(b)は、図1に示したBB線断面図である。
【0012】
図1および図2を参照するに、熱流センサ10は、平板状の基板11上の層(XY面)に複数の熱電体12(図1に実線で示す。)と、その上方(Z方向)の層に複数の電極13(図2に破線で示す。)と、複数の熱電体12および複数の電極13を覆うとともにこれらの隙間に形成された絶縁層14(あるいは絶縁材料)と、出力端子15とを有する。
【0013】
複数の熱電体12は、各々、X方向に延在し、Y方向に互いに離隔して配置されている。隣接する熱電体12の対向する側面間の距離Lyは、狭いほど熱電体12を密に配置できるので好ましいが、製造工程の形成誤差等により互いに接触するおそれがあるので、3μm~100μmに設定することが好ましい。
【0014】
複数の熱電体12の各々は、異常ネルンスト効果を有する導電性の強磁性材料からなる。熱電体12は、Fe合金であることが好ましく、例えばFeAl合金、FeGa合金等である。熱電体12は、FeAl合金の場合、組成がFe100-xAlxと表すと、xは10原子%以上32原子%以下であることが好ましい。熱電体12は、FeGa合金の場合、組成がFe100-yGayと表すと、yは10原子%以上32原子%以下であることが好ましい。熱電体12は、FeGaB合金の場合、(Fe100-yGay100-xxと表すと、yが10原子%以上32原子%以下、かつxは2原子%以上10原子%以下であることが好ましい。熱電体12は、FeGaTa合金の場合、(Fe100-yGay100-xTaxと表すと、yは10原子%以上32原子%以下、かつxは1原子%以上5原子%以下であることが好ましい。
【0015】
熱電体12は、薄膜であり、1個が例えば、厚さ0.3μm、長さ(X方向)15mm、幅(Y方向)10μmである。熱電体12は、長さ(X方向の長さ)に応じて電位差が生じるので、出力電圧を向上させるには長い程よく、熱電体12の幅は狭い程、直列に接続した熱電体12の全長をより長くすることができる。一方、熱電体の幅を過度に狭くすると熱電体12全体の電気抵抗値が過大になる。これらの観点から、熱電体12の幅は0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
電極13は、熱電体12の層の上に絶縁層14を介して形成される。電極13は、X方向に延在する。電極13は、図2(b)に示すように、紙面左側の端部では、熱電体12の端部12aに接触して熱電体12に電気的に接続し、紙面右側の端部では、図示を省略しているが、熱電体12の端部12bに同様に接触して熱電体12に電気的に接続する。
【0017】
電極13は、図2(a)に示すように、熱電体12の上方に配置され、より具体的には図1に示すように平面視した場合、ほぼ重なるように配置される。ただし、電極13は、隣合う熱電体12を接続する橋渡し部分13aでは、熱電体12間の絶縁層14上に配置される。橋渡し部分13aは、図1では、電極13の紙面右側に配置されているが、中央でも、紙面左側でもよい。
【0018】
電極13は、熱電体12がその両端に発生した電位差が同じ極性になるように直列に電気的に接続する。すなわち、電極13は、全ての熱電体12に対して、熱電体12の一方の端部12aと、隣接する熱電体12であって紙面上方の熱電体12の他方の端部12bとを接続するように形成される。もちろん、電極13は、全ての熱電体12に対して、熱電体12の一方の端部12aと、隣接する熱電体12であって紙面下方の熱電体12の他方の端部12bとを接続するように形成してもよい。
【0019】
電極13は、非磁性の導電材料からなり、特に限定されないが例えば金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)または銅合金を用いることができる。電極13は、薄膜の細線の形状を有し、1個が例えば、厚さ0.4μm、幅(Y方向)10μmである。
【0020】
電極13と熱電体12とは、高温体から低温体に流れる熱流の方向に沿って配置される。すなわち、電極13と熱電体12とは、熱流の上流と下流に配置される。これにより、熱流を逃がさずに熱電体12に導入または導出できるので、効率良く熱流束を感受でき、熱流束に対する感度を向上できる。なお、図2では、電極13側に高温体を熱電体12側に低温体を配置しているが逆でもよい。
【0021】
図3は、熱電体の異常ネルンスト効果の説明図である。図3図1および図2と合わせて参照するに、熱電体12の磁化Mの向きが熱電体12の面内の一方向(+Y方向)であり、熱流Qの方向が厚さ方向(-Z方向)であるのに対して、この各々の垂直方向(+X方向)に電界Eが生じて、熱電体12のX方向の両方の端部12a、12bに電位差が生じる。電位差は、熱電体12の磁化Mの向きが+Y方向になる場合が最大(プラスの電位差の最大)となり、磁化Mの向きが-Y方向になる場合が最小(マイナスの電位差の最大)となる。電位差は、磁化MのY方向の成分の大きさおよび正負の符号に応じて変化する。
【0022】
異常ネルンスト効果は、異常ネルンスト係数によりその性能が表される。また、異常ネルンスト係数の符号に応じて、電位差が生じる向きが決まる。異常ネルンスト係数は次の式で表される。
E=Sn・ΔT・(L/t)
ここで、Eは熱電体12の端部12aと端部12bとの間の電位差(X方向)、Snは熱電体12の異常ネルンスト係数、ΔTは熱流Qによる厚さ方向(Z方向)の温度差、Lは熱電体12の端部12aと端部12bとの間の距離(X方向)つまり熱電体12の長さ、tは熱電体12の厚さである。
【0023】
図1に戻り、絶縁層14(あるいは絶縁材料)は、非磁性の絶縁材料、例えばシリコン酸化膜を用いることができる。絶縁層14は、隣接する熱電体12との間、隣接する電極13との間、熱電体12および電極13を覆うように形成される。また、熱流センサ10の表面をポリイミドフィルム(例えばカプトン(登録商標))で覆ってもよい。
【0024】
熱流センサ10は、複数の熱電体12が同じ極性になるように電極13によって直列に電気的に接続されているので、個々の熱電体12に発生する電位差が加算され、熱電体12の全体の出力電圧を出力端子15間から出力する。熱流センサ10は、熱流の流れに沿って、複数の熱電体12と複数の電極13が異なる層に配置されている。複数の熱電体12が配置された層に電極13を配置するスペースを設ける必要がないので熱電体12の間隔の狭小化が可能となり、熱電体12を密に配置できる。これにより、直列接続された熱電体12の全体の長尺化が可能になる。したがって、熱流センサ10は、熱電体12が配置された領域、つまり熱流の感熱領域の面積当たりの感度が向上可能であり、熱流センサ10の小型化も可能となる
【0025】
熱流センサ10は、磁場印加手段を配置してもよい。磁場印加手段として、磁石、例えば永久磁石(不図示)を用いることができる。磁場印加手段は、X方向とY方向とが形成するXY面内の方向に磁場が印加することが好ましく、XY面内においてX方向に対して垂直方向、つまりY方向に磁場を印加することがさらに好ましい。熱流センサ10のY方向の両側に配置して、Y方向に沿って磁場が印加されるようにしてもよい。磁石は電磁石でもよい。また、熱流センサ10を設置する箇所に外部磁場が存在する場合は、その外部磁場の発生手段を磁場印加手段として利用してもよい。
【0026】
[熱流センサの製造方法]
図4は、一実施形態に係る熱流センサの製造工程図である。各工程の図の左側が概略断面図、右側が概略平面図である。図4は、左側が図1のAA線断面図に相当する断面図であり、右側は、熱流センサの一部を示す概略平面図である。図4(a)~(d)を図1および図2と合わせて参照しつつ、熱流センサの製造方法を説明する。
【0027】
図4(a)の工程では、シリコン基板(および/またはシリコン酸化膜が形成された)等の基板11の表面に、厚さ0.3μmの熱電体膜を例えば形成する。熱電体膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等を用いてもよい。熱電体膜は、上述した熱電体12の異常ネルンスト効果を有する導電性の強磁性材料である。次いで、フォトリソグラフィー法およびドライエッチングにより熱電体膜を整形して熱電体12を形成する。
【0028】
次いで、図4(b)の工程では、熱電体12のX方向の両方の端部12a,12bを覆うレジスト膜をフォトリソグラフィー法により形成し、次いで全面に例えば厚さ0.2μmの絶縁層、例えばシリコン酸化膜をCVD法、スパッタ法等により形成する。これにより、熱電体12は、端部12a,12b以外の部分が絶縁層14aに覆われる。次いで、レジスト膜を除去し、熱電体12の端部12a,12bを露出する。
【0029】
次いで、図4(c)の工程では、フォトリソグラフィー法により電極13のパターンのレジスト膜を形成する。電極13のパターンは、熱電体12の上部に熱電体12に沿うように形成される。電極13のパターンは、平面視した場合、熱電体12にほぼ重なるように設定され、隣合う熱電体12を橋渡しする部分(橋渡し部分)は、熱電体12間の絶縁層14a上に配置される。電極13のパターンは、熱電体12の一方の側、例えば図の左側の端部12aに接続する場合、隣合う熱電体(図では紙面上部)の他方の側、図の右側の端部12bに接続するように設定される。次いで全面に例えば厚さ0.4μmの電極膜、例えばAu膜を、例えばスパッタ法、真空蒸着法等により形成する。電極膜は、図4(b)の工程で形成した絶縁層14の厚さよりも厚くすることが電極膜の断線を抑制する点で好ましい。
【0030】
次いで、図4(d)の工程では、レジスト膜を除去し、電極13以外の部分の電極膜をリフトオフする。これにより、電極13は、熱電体12に端部12a,12bにおいて接触し、それ以外の部分は絶縁層14aの上に形成され、電極13によって、熱電体12が同じ極性になるように直列に電気的に接続する。次いで、熱電体12および電極13によって形成された直列回路の両端に出力端子15を形成する。次いで、全面に絶縁層14b、例えばシリコン酸化膜をCVD法、スパッタ法等により形成する。絶縁層14bは熱流センサの構造を保護するための膜であり、省略することも可能である。これにより、熱流センサ10が形成される。
【0031】
本実施形態の製造方法によれば、熱流センサ10を、熱電体12および電極13を積層して形成することができるので、構造が比較的単純でかつ熱電体12と電極13との接続部分を確実に形成することができる。そのため、熱流センサ10の製造コストの低廉化が可能になる。
【0032】
[実施例]
実施例の熱流センサは、図1および図2に示した熱流センサ10と同様の構造を有する。図1および図2を参照するに、熱電体12は、幅が10μm、長さが12.5mm、厚さが0.3μmであり、隣接する熱電体12のY方向の距離Lyは10μmである。図2(a)における、熱電体12と電極13とZ方向の距離は0.2μmである。熱電体の強磁性材料は、Fe3Alを用いた。実施例は、800個の熱電体12を電極13を介して直列接続した。実施例の熱電体12の全長は10mとした。熱電体12が配置された領域つまり感熱領域の面積は、2.01×10-42である。
【0033】
[比較例1]
図5は、比較例1の熱流センサの概略平面図である。図5を参照するに、比較例1の熱流センサ100は、平板状の基板101上の層(XY面)に複数の熱電体112と、隣接する熱電体112の間に各々が配置された複数の電極113とを有し、熱電体112と電極113とが同じ極性になるように直列に電気的に接続される。複数の熱電体112のX方向の両端部112a,112bは、電極113に接触し電気的に接続されている。直列に接続された熱電体112と電極との両端に出力端子115を有する。
【0034】
比較例1の熱電体112は、幅が10μm、長さが5.25mm、厚さが0.3μmであり、隣接する熱電体112のY方向の距離(隙間)L1yは30μmである。熱電体112と電極113とのY方向の距離は10μmである。比較例1の強磁性材料は、Fe3Alを用いた。比較例1は、960個の熱電体112を電極113を介して直列接続した。比較例1の熱電体112の全長は5.040mとした。熱電体112が配置された領域つまり感熱領域の面積は、1.50×10-42である。
【0035】
[比較例2]
比較例2の熱流センサは、一般財団法人マイクロマシンセンター(MNOIC)製の熱流センサ(サンプル1-1)であり、その構造は比較例1と同様である。比較例2の熱電体は、幅が10μm、長さが5.25mm、厚さが0.3μmであり、隣接する熱電体のY方向の距離(隙間)は30μmである。熱電体と電極とのY方向の距離は10μmである。比較例2の強磁性材料は、Fe3Alを用いた。比較例2は、熱電体720個を電極を介して直列接続した。比較例2の熱電体の全長は3.780mとした。熱電体が配置された領域つまり感熱領域の面積は、1.12×10-42である。
【0036】
[測定方法]
図6は、熱流センサの感度の測定方法の説明図である。図6を参照するに、測定中に温度変化が起きないように十分熱容量の大きなアルミニウム盤上に実施例の熱流センサを固定し、隙間0.5mmの上部に平面型ヒータをアームにより配置して、平面型ヒータから1000W/m2の熱流を熱流センサに与えた。熱流センサには、X方向に延在する熱電体に対してY方向に交流磁場(最大1850Oe、周期20秒)を印加した。熱流センサの出力電圧をデジタルマルチメータ(キーサイト社製34465A)により測定し、出力電圧の交流成分の振幅を求めた。この振幅の1/2を異常ネルンスト電圧とした。比較例1および2も同様にして測定した。
【0037】
なお、平面型ヒータの熱流の校正は、市販のデンソー社製の熱流センサ(モデル:エナジーアイ、No.D0001)を用い、図6に示した熱流センサの位置に校正用の熱流センサを配置し、校正用の熱流センサにおいて熱流が1000W/m2になるように平面型ヒータの入力電圧および電流を設定した。
【0038】
図7は、実施例および比較例の熱流センサの評価結果を示す図である。図7を参照するに、熱電体の全長を10mとして換算した異常ネルンスト電圧は、実施例が2.21mVであり、比較例1が1.02mVおよび比較例2の1.00mVである。したがって、実施例が比較例1および比較例2よりも2倍以上も大きいことが分かる。
【0039】
さらに、熱電体の全長を10mとして換算した異常ネルンスト電圧を熱流束で除して得られた熱電体の全長10m当たりの感度は、実施例が5.32×10-3mV/(Wm-2)であるのに対して、比較例1が2.36×10-3mV/(Wm-2)、比較例2が2.14×10-3mV/(Wm-2)である。したがって、実施例が比較例1および比較例2よりも2倍以上も感度が高く、熱電体の単位長さ当たりの感度が向上していることが分かる。
【0040】
また、熱流センサの熱電体が配置された領域、つまり感熱領域の面積当たりの感度は、実施例が26.4mV/Wであるのに対して、比較例1が7.94mV/W、比較例2が7.22mV/Wである。したがって、実施例が比較例1および比較例2よりも3倍以上高いことが分かる。これは、実施例は、熱電体の上部に電極が配置される構成であるのに対して、比較例1および比較例2は、熱電体と隣接する熱電体との間に電極が配置される構成である。そのため、実施例は、比較例1および比較例2よりも熱電体間の距離を短くすることができるので、熱電体を密に配置することができる。さらに、熱電体が配置された領域の単位面積当たりの熱電体の全長を実施例は比較例1および比較例2よりも長く形成できる。これらのことから、実施例は、比較例1および比較例2よりも、感熱領域の面積当たりの感度を向上できる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 熱流センサ
11 基板
12 熱電体
13 電極
14(14a,14b) 絶縁層
15 出力端子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7