(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141404
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】魚類の脱血評価方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/62 20170101AFI20230928BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20230928BHJP
G06T 7/90 20170101ALI20230928BHJP
A22C 25/00 20060101ALI20230928BHJP
A22C 25/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G06T7/62
G01N21/27 A
G06T7/90 C
A22C25/00 Z
A22C25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047713
(22)【出願日】2022-03-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 希元
(72)【発明者】
【氏名】堤 優貴
(72)【発明者】
【氏名】成澤 侑汰
(72)【発明者】
【氏名】中村 柚咲
【テーマコード(参考)】
2G059
4B011
5L096
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB11
2G059EE02
2G059EE13
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
4B011KA01
4B011KE23
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA08
5L096BA18
5L096CA02
5L096FA15
5L096FA59
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の目的は、簡便に魚類の脱血を評価できる方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の(1)魚類の血管を含む断面の画像を取得する工程、(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定する工程、及び(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する工程、を含む、魚類の脱血評価方法によって解決することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)魚類の血管を含む断面の画像を取得する工程、
(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定する工程、及び
(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する工程、
を含む、魚類の脱血評価方法。
【請求項2】
前記評価工程(3)が、下記式(I):
【数1】
を用いて血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価する工程である、
請求項1に記載の魚類の脱血評価方法。
【請求項3】
(1)魚類の血管を含む断面の画像を取得するデバイス、
(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定するデバイス、及び
(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価するデバイス、
を含む、魚類の脱血評価システム。
【請求項4】
前記評価デバイス(3)が、下記式(I):
【数2】
を用いて血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価するデバイスである、
請求項3に記載の魚類の脱血評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の脱血評価方法に関する。本発明によれば、魚類の脱血を容易に評価することができる。
【背景技術】
【0002】
鮮魚の脱血は鮮度を保持する方法として広く普及している。しかしながら、脱血の程度を簡便に定量評価する方法は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「フード・ケミストリー(Food Chemistry)」2015年(英国)第173巻、p1133-1141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱血の評価は、目視による流血の確認などが一般的である。また、筋肉中のヘモプロテイン含量を定量分析する手法が報告されているが(非特許文献1)、時間と手間がかかるため、魚類の脱血処理の現場で使用することは困難である。
従って、本発明の目的は、簡便に魚類の脱血を評価できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、簡便に魚類の脱血を評価できる方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、画像解析により簡便に魚類の脱血を評価できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1](1)魚類の血管を含む断面の画像を取得する工程、(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定する工程、及び(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する工程、を含む、魚類の脱血評価方法、
[2]前記評価工程(3)が、下記式(I):
【数1】
を用いて血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価する工程である、[1]に記載の魚類の脱血評価方法、
[3](1)魚類の血管を含む断面の画像を取得するデバイス、(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定するデバイス、及び(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価するデバイス、を含む、魚類の脱血評価システム、及び
[4]前記評価デバイス(3)が、下記式(I):
【数2】
を用いて血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価するデバイスである、[3]に記載の魚類の脱血評価システム、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の魚類の脱血評価方法によれば、脱血の現場において、簡便に且つ正確に魚類の脱血を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の脱血評価方法における、計測領域(A-1;背びれ下の神経棘を含む断面、A-2;内臓を除いた腹腔の断面)の特定の例を示した写真である。
【
図2】本発明の脱血評価方法における計測領域の面積、及び血液残存領域の面積の特定の一例を示した写真である。
【
図3】無処理試料(A)、尾動脈切断による脱血試料(B)、鰓動脈切断による脱血試料(C)の背びれ下の神経棘を含む断面における血液の量を示した写真である。
【
図4】本発明の脱血評価方法と、ヘモプロテイン含量の測定方法との相関を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]魚類の脱血評価方法
本発明の魚類の脱血評価方法は、(1)魚類の血管を含む断面の画像を取得する工程、(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定する工程、及び(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する工程、を含む。
【0009】
(魚類)
本発明の脱血評価方法によって評価される魚類は、特に限定されるものではなく、例えば海水魚又は淡水魚を使用することができる。
魚体は、好ましくは脱血された魚類を用いる。である限りにおいて仮死状態又は麻痺状態の魚体を用いてもよいが、生きていない魚体を使用することもできる。水揚げされて、卸売市場等に搬入された魚類を使用してもよく、また冷凍された魚類を解凍してから使用することもできる。
具体的な魚類としては、例えば、アイナメ、アカハタ、アカウオ、アジ、アトランティックサーモン、アナゴ、アユ、アンコウ、イサキ、イトヨリ、イワシ、イワナ、ウナギ、エイ、エソ、オコゼ、カイワリ、カサゴ、カジカ、カジキ、カツオ、カトラ、カマス、カレイ、カワハギ、カンパチ、キス、キンキ、キビナゴ、ギンザケ、グチ、コチ、コクレン、サケ、サバ、サメ、サンマ、サワラ、サヨリ、ソウギョ、ハクレン、パンガシウス、ヒラメ、ドジョウ、スズキ、タラ、タイ、タチウオ、トビウオ、ドジョウ、トラウトサーモン、ナイルテラピア、ナマズ、ニシン、ニジマス、ハゼ、ハタ、ハモ、ヒラメ、ヒラマサ、フグ、フナ、ブリ、(ハマチ、イナダ、メジロ等を含む)、ホッケ、ホキ、ムツ、マグロ、マゴイ、ミルクフィッシュ、メバル、ママカリ、ヤマトゴイ、ティラピア、又はロフーなどが挙げられる。
【0010】
(脱血方法)
脱血により、魚類の筋肉軟化を遅延させたり、死後硬直を遅延させ、魚類の付加価値を高めることができる。脱血は、限定されるものではないが、好ましくは生きている魚類を脱血する。生きている魚類を活けしめ脱血することにより、効果的に脱血することができる。
脱血に用いる血管は、限定されるものではないが、例えば鰓動静脈、背動脈、前後主静脈、尾動静脈、又は鰓周囲の血管を用いることができる。また、鰓動静脈、背動脈、前後主静脈、尾動静脈、及び鰓周囲血管の2つ以上の血管を組み合わせて脱血することもできる。脱血に用いる切削道具は包丁又はハサミを用いることができる。放血は、空気中で放置して行うこともできるが、好ましくは、例えば海水中で5~15分程度行う。
【0011】
《画像取得工程(1)》
前記画像取得工程(1)においては、魚類の血管を含む断面の画像を取得する。魚類の血管を含む断面としては、血管を含む断面であれば特に限定されないが、例えば背びれ下の神経棘を含む断面(
図1及び
図2)、内臓を除いた腹腔の露出面、尾を切り落とした断面、鰓周囲の血管露出面、又は白目の血管露出面などが挙げられる。
【0012】
画像の取得方法も血管が認識できる限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、ミラーレス一眼カメラ、デジタルカメラ等で撮影することができる。撮影された画像は、画像処理ソフトウエア、例えばImageJなどに取り込み、工程(2)において、計測領域、又は血管等の面積を特定する。
【0013】
《面積特定工程(2)》
前記面積特定工程(2)においては、画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定する。
本明細書において「計測領域」とは、血液の含まれる血管の面積を計測するための領域を意味する。すなわち、「計測領域」は血液の量を画像から特定するために設定する領域であるため、血管が含まれている領域が好ましい。例えば、
図1のA-1に示すように、魚類を開き、背びれ下の神経棘を含む断面を計測領域とすることができる。また、
図1のA-2に示すように、内臓を除いた腹腔の断面を計測領域とすることもできる。更に、A-1及びA-2領域を組み合わせて計測領域とすることができる。更に、マグロなどの魚類では、尾の断面によって、マグロの鮮度などを判定することがあるが、この尾を切り落とした断面を、計測領域とすることもできる。
本明細書において「血液残存領域」とは、脱血によって放出された血液が残った領域であり、基本的に血液は血管中に残存している。血液残存領域は、血液の色(例えば赤色から赤褐色等)によって特定することができる。
【0014】
前記「計測領域」及び「血液残存領域」は、測定者がマニュアルで特定してもよいが、好ましくはコンピュータプログラムなどにより、特定することが好ましい。
図2に示すように、例えば背びれ下の神経棘を含む断面の場合、計測領域は「背びれ下の6本の神経棘を含む領域」とすることができる。そして、血液残存領域は、それぞれの神経棘にそった「赤色の血管の領域」とすることができる。これらの「計測領域」及び「血液残存領域」は、コンピュータプログラムにより、自動的に特定することができる。
【0015】
《残存血液量評価工程(3)》
残存血液量評価工程(3)においては、前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する。
例えば、好ましくは前記計測領域の面積(A)及び血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する。すなわち、計測領域の面積(A)に対する血液残存領域の面積(B)の比率により、魚類の残存血液量を評価することが好ましい。比率の計算方法としては、限定されるものではないが、下記式(I):
【数3】
を用いることができる。血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価することができる。前記式(I)に代えて、例えば逆数又は定数により修飾した式を用いることもできる。
【0016】
残存血液量評価工程(3)においては、血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価することもできる。例えば、測定するそれぞれの個体において、計測領域の面積(A)が、同じくらいの面積であれば、血液残存領域の面積(B)を比較することによって、残存血液量を評価することができる。すなわち、同じ種類の魚類であれば、計測領域の面積(A)は同程度になる。従って、血液残存領域の面積(B)によって、残存血液量を評価することができる。
【0017】
(ヘモプロテイン含量測定)
従来、脱血の評価はヘモプロテイン含量測定によって行われていた。ヘモプロテイン含量測定は、以下のように実施することができる。
すなわち魚肉を5-20%ドデシル硫酸ナトリウム溶液に溶解した後に80-90℃で加熱する。魚肉溶解後の溶液を遠心分離した後に、その上清について吸光分光分析により、535nmでの吸光度を測定する。得られた値から、市販ウシヘモグロビンを用い作成した検量線を用い魚肉中のヘモプロテイン含量を算出する。
【0018】
[2]魚類の脱血評価システム
本発明の魚類の脱血評価システムは、(1)魚類の血管を含む断面の画像を取得するデバイス、(2)画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定するデバイス、及び(3)前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価するデバイス、を含む。
前記画像取得デバイス(1)、面積特定デバイス(2)、及び残存血液量評価デバイス(3)は、1つの装置に含まれてもよいが、複数の装置に含まれるデバイスを組み合わせて、1つのシステムとして用いることもできる。
前記「魚類」及び「断面」等は、前記「魚類の脱血評価方法」の項に記載のものと同じである。
【0019】
《画像取得デバイス(1)》
前記画像取得デバイス(1)は、魚類の血管を含む断面の画像を取得するデバイスである。画像取得デバイスとしては、前記の通り、ミラーレス一眼カメラ、デジタルカメラ、又はスマートフォン搭載カメラ等を用いることができる。
【0020】
《面積特定デバイス(2)》
前記面積特定デバイス(2)は、画像中の計測領域の面積(A)及び/又は計測領域中の血液残存領域の面積(B)を特定するデバイスである。面積特定デバイスによる「計測領域」及び「血液残存領域」の特定は、本デバイスを用いて、マニュアル又はコンピュータプログラムなどによって特定することができる。具体的なデバイスとしては、画像処理ソフトウエア、例えばImageJやMatlabなどを含むコンピューターなどが挙げられる。
前記「計測領域」及び「血液残存領域」などは、前記「魚類の脱血評価方法」の項に記載のものと同じである。
【0021】
《残存血液量評価デバイス(3)》
残存血液量評価デバイス(3)は、前記計測領域の面積(A)及び/又は血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価するデバイスである。
好ましくは前記計測領域の面積(A)及び血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価する。例えば、計測領域の面積(A)に対する血液残存領域の面積(B)の比率により、魚類の残存血液量を評価することが好ましい。比率の計算方法としては、限定されるものではないが、下記式(I):
【数4】
を用いることができる。血液残存領域の面積割合を計算することによって、魚類の残存血液量を評価することができる。前記式(I)に代えて、例えば逆数又は定数により修飾した式を用いることもできる。本発明の残存血液量評価デバイスは、前記計測領域の面積(A)に対する血液残存領域の面積(B)の比率を計算できるデバイスが好ましい。
【0022】
しかしながら、血液残存領域の面積(B)を用いて、魚類の残存血液量を評価することもできる。従って、本発明の残存血液量評価デバイスは、血液残存領域の面積(B)のみを計算できるデバイスでもよい。
【実施例0023】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0024】
《実施例1》
本実施例では、活マアジを用いて脱血の評価を実施した。12匹の活マアジを鰓(鰓動静脈)、脊椎骨下(背動脈)、又は尾(尾動静脈)のいずれかを血管ごと切断して氷水中で20分放血した。活マアジを一晩氷蔵し、画像解析を行った。
図2に示すように、アジを開き、背びれ下の6本の神経棘を含む断面を、ミラーレス一眼カメラを撮影した(
図2(I))。
図2(B)に尾切断時の断面の画像、
図2(C)に鰓切断時の断面の画像を示す。
図2(A)は脱血をしていない無処理の断面の画像である。得られた画像を、ImageJに取り込み、
図2(II)のひし形で囲まれた6本の神経棘を含む領域を、測定領域Aとした。測定領域Aにおいて、目視で血液残存領域Bをマニュアルで選択した(
図2(II))。測定領域Aに対する血液残存領域Bを下記式(I)を用いて計算した。
【数5】
【0025】
前記12匹の脱血した活マアジを用いて、以下の方法で、ヘモプロテイン量を測定した。すなわち魚肉3gを10%ドデシル硫酸ナトリウム溶液に溶解した後に85℃で加熱した。魚肉溶解後の溶液を遠心分離した後に、その上清について吸光分光分析により、535nmでの吸光度を測定する。得られた値から、市販ウシヘモグロビンを用い作成した検量線を用い魚肉中のヘモプロテイン含量を算出した。
【0026】
本発明の実施例の脱血評価方法と、ヘモプロテイン含量の測定との相関を
図4に示す。本発明の方法による血液の面積割合と、背側普通肉のヘモプロテイン含量は、高い相関関係を示した(R
2=0.8821)。従って、本発明の画像解析による脱血の評価方法は、ヘモプロテイン含量の測定と同様の結果が得られ、脱血の評価方法として有用であると考えられた。