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特開2023-141715架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141715
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0286 20160101AFI20230928BHJP
   C08G 75/0209 20160101ALI20230928BHJP
   C08G 75/0254 20160101ALI20230928BHJP
   C08G 75/0277 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
C08G75/0286
C08G75/0209
C08G75/0254
C08G75/0277
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048177
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】桧森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC17
4J030BD02
4J030BD22
4J030BD23
4J030BF01
4J030BF19
4J030BG04
4J030BG08
4J030BG26
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】発生ガス量が少なく、溶融安定性に優れる架橋型PAS樹脂及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を重合反応させ、PAS樹脂とカルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを含む粗反応混合物を得る工程、該粗反応混合物に塩基を添加する工程、該粗反応混合物を固液分離してPAS樹脂と前記化合物を含む混合物1を得る工程、該混合物1を200~280℃の範囲で水洗して、PAS樹脂及び該PAS樹脂1質量部に対し0.002質量部未満の範囲となる割合で前記化合物を含有する混合物2を得る工程、及び該混合物2を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程を有する架橋型PAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、用いて重合反応させ、ポリアリーレンスルフィド樹脂と下記一般式(1)で表される化合物(B)とを含む粗反応混合物を得る工程(1)、
該粗反応混合物に塩基を添加する工程(2)、
該粗反応混合物を固液分離して液相を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と化合物(B)とを含む反応混合物を得る工程(3)、
該反応混合物を200~280℃の範囲で水洗することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び当該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)1質量部に対し0.002質量部未満の範囲となる割合で下記構造式(1)で表される化合物(B)を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂混合物(C)を得る工程(4)、及び、
該混合物(C)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有することを特徴とする架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【化1】
(構造式(1)中、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Xはアルカリ金属原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1~3の範囲であるアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5の範囲であるアルキレン基を表す。)
【請求項2】
前記塩基が有機塩、または、無機塩である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)の固液分離が、フラッシュ法又はクウェンチ法を用いることを特徴とする請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂混合物(C)に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の末端カルボキシ基及びカルボキシレート基の合計数が25~60〔μmol/g〕であり、かつ、合計数中のカルボキシレート基の比率が40モル%以上である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂が、300℃における溶融粘度(V6)が20~10,000〔Pa・s〕の範囲である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。(ただし、溶融粘度(V6)は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比が10/1であるオリフィスを使用して6分間した保持後の測定値であること。)
【請求項6】
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂が、300℃における溶融粘度(V30)が20~10,000〔Pa・s〕の範囲である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。(ただし、溶融粘度(V30)は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比が10/1であるオリフィスを使用して30分間した保持後の測定値であること。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略称することがある)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材、液体を輸送する配管部材といった用途では、近年、特に高分子量の架橋型PAS樹脂が、靭性及び成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
このような高分子量の架橋型PAS樹脂は、線状高分子量PAS樹脂を酸化架橋して得ることができる。線状高分子量PAS樹脂としては、例えば、固形アルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、反応系内の水分量、有機酸アルカリ金属塩の使用量を低く抑えながら反応させることによって得られることが知られている(特許文献1参照)。しかしながら前記線状高分子量PAS樹脂は、得られる架橋型PAS樹脂を溶融状態で滞留した際の粘度安定性(溶融安定性)に乏しいという性質があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、樹脂の精製工程における洗浄温度を低下させることで、重合副生成物を一部残留させて、架橋後の樹脂の溶融安定性を改善する方法が開示されている。しかしながら、架橋型PAS樹脂を溶融成形する際に、残留した重合副生成物がガスとして発生することで、成形性や成形品の表面状態等に悪影響を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2010/058713号パンフレット
【特許文献2】特開2013-159656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、発生ガス量が少なく、溶融安定性に優れる架橋型PAS樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、線状高分子量PAS樹脂の製造工程において、粗反応混合物に塩基を添加し、さらに後続の熱水洗浄時の温度を高くすることで、不純物の低減と樹脂の優れた溶融安定性を両立した架橋型PAS樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を用いて重合反応させ、PAS樹脂と下記一般式(1)で表される化合物(B)とを含む粗反応混合物を得る工程(1)、
該粗反応混合物に塩基を添加する工程(2)、
該粗反応混合物を固液分離して液相を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と化合物(B)とを含む反応混合物を得る工程(3)、
さらに該反応混合物を200~280℃の範囲で水洗することにより、PAS樹脂(A)及び当該PAS樹脂(A)1質量部に対し0.002質量部未満の範囲となる割合で下記構造式(1)で表される化合物(B)を含有するPAS樹脂混合物(C)を得る工程(4)、及び、
該混合物(C)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有することを特徴とする架橋型PAS樹脂の製造方法に関する。
【0009】
【化1】
(構造式(1)中、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Xはアルカリ金属原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1~3の範囲であるアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5の範囲であるアルキレン基を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発生ガス量が少なく、溶融安定性に優れる架橋型PAS樹脂及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の架橋型PAS樹脂の製造方法は、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を用いて重合反応させ、PAS樹脂と下記一般式(1)で表される化合物(B)(以下、CP-MABA(B)と表記する)とを含む粗反応混合物を得る工程(1)、該粗反応混合物に塩基を添加する工程(2)、該粗反応混合物を固液分離して液相を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と化合物(B)とを含む反応混合物を得る工程(3)、さらに該反応混合物を200~280℃の範囲で水洗することにより、PAS樹脂(A)及び当該PAS樹脂(A)1質量部に対し0.002質量部未満の範囲となる割合でCP-MABA(B)を含有するPAS樹脂混合物(C)を得る工程(4)、及び、該混合物(C)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有することを特徴とする。以下詳述する。
【0012】
【化2】
(構造式(1)中、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1~3の範囲のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5の範囲のアルキレン基を表す。)
【0013】
工程(1)
工程(1)は、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、前記固形のアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物の合計1モルに対し、前記有機酸アルカリ金属塩が0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用いて重合反応させ、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とCP-MABA(B)とを含む粗反応混合物を得る工程である。
【0014】
前記固形のアルカリ金属硫化物は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の固体状の含水物や無水物が挙げられる。
【0015】
前記非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物などを挙げることができる。これらの非プロトン性極性有機溶媒の中でも、NMPはスルフィド化剤の反応性を向上させる点から特に好ましい。
【0016】
前記ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0017】
前記アルカリ金属水硫化物は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10~80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0018】
前記有機酸アルカリ金属塩は、具体的には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の低級脂肪酸のアルカリ金属塩;グリシン、アラニン、グルタミン酸、4-アミノ酪酸等のアミノカルボン酸のアルカリ金属塩;NMP、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸、ε-カプロラクタム、N-メチル-ε-カプロラクタム等の脂肪族環状アミド化合物、スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類などの加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩等が挙げられる。また、該アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩又はセシウム塩が挙げられる。これらの有機酸アルカリ金属塩(c)は、反応系内で液状となるように用いることが好ましい。中でも、反応性が良好である点から脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩が好ましく、脂肪族環状アミド化合物の開環物のアルカリ金属塩、特にNMPの加水分解物のアルカリ金属塩が反応性の点から好ましい。また、これらのアルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩として用いることが好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
【0019】
上記のように、反応系内の有機酸アルカリ金属塩の存在割合は、反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満であるが、特に0.04~0.4モルの範囲であることが副反応抑制の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
【0020】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法では、反応系内に現存する水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下と、限りなく低減させた状態にすることが好ましい。より具体的な製造工程としては、例えば、下記の工程(ア)~(ウ)を経る方法が挙げられる。
【0021】
工程(ア):
非加水分解性有機溶媒の存在下、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物とを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリー(I)を製造する工程、
工程(イ):スラリー(I)を製造した後、更に非プロトン性極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、
工程(ウ):次いで、工程(イ)の脱水工程を経て得られたスラリー(I)を用いて、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、有機酸アルカリ金属塩とを、非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程。
【0022】
上記の工程(ア)~(ウ)について、以下に詳述する。
工程(ア)は、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物と、非加水分解性有機溶媒とを脱水させながら反応させて、スラリー(I)を製造する工程である。
【0023】
このように工程(ア)は、非加水分解性有機溶媒の存在下に含水アルカリ金属硫化物と加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物とを、脱水させながら反応させて、固形のアルカリ金属硫化物が非加水分解性有機溶媒中に分散するスラリー(I)を形成させるか、あるいは、非加水分解性有機溶媒の存在下に、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物とを、脱水しながら反応させて、固形のアルカリ金属硫化物が非加水分解性有機溶媒中に分散するスラリー(I)を形成させる工程である。そして、該スラリー(I)中にはアルカリ金属水硫化物と前記化合物の加水分解物のアルカリ金属塩とが共存している。
【0024】
ここで用いる含水アルカリ金属硫化物は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10~80質量%、特に35~65質量%であることが好ましい。
【0025】
これらの中でも、反応性の点から硫化ナトリウムの含水物であることが好ましい。なお、含水アルカリ金属硫化物を硫黄源として用いる場合、含水アルカリ金属硫化物の他に、更にアルカリ金属水酸化物を加えて脱水処理を行うことにより、固形のアルカリ金属硫化物の生成が一層促進される点から好ましい。
【0026】
一方、含水アルカリ金属水硫化物は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10~80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0027】
また、前記アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが工程(ア)の脱水処理が容易である点から好ましい。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物(b)1モル当たり、0.8~1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9~1.1モルの範囲がより好ましい。
【0028】
前記非加水分解性有機溶媒は、水に不活性な有機溶媒であればよく、例えば、汎用の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等を用いることができるが、本発明では特に、工程(ウ)における反応に供されるポリハロ芳香族化合物を有機溶媒として用いることが、次の工程(ウ)の反応ないし重合が良好となって生産効率が飛躍的に向上する点から好ましい。
【0029】
工程(ア)の脱水処理を行う方法は、更に具体的には以下の方法が挙げられる。
(方法1)
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物、更に必要に応じて前記アルカリ金属水硫化物又はアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80~220℃の範囲、好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
【0030】
(方法2)
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ水硫化物、及びアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、この仕込みとほぼ同時に含水アルカリ金属硫化物を生成させた後、前記含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80~220℃の範囲、好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
【0031】
上記方法1及び方法2は、共沸留出した水と非加水分解性有機溶媒とをデカンターで分離し、非加水分解性有機溶媒のみを反応系内に戻すか、共沸留出した量に相当する量の非加水分解性有機溶媒を追加仕込みするか、あるいは、共沸留去する量以上の非加水分解性有機溶媒を予め過剰に仕込んでおいてもよい。本発明では、特に、方法2がスラリーの調整が容易で、本発明の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
【0032】
また、脱水初期段階の反応系内は、有機層/水層との2層になっているが、脱水が進行するとともに無水アルカリ金属硫化物が微粒子状となって析出し、非加水分解性有機溶媒中に均一に分散する。さらに、反応系内の加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物のほぼ全てが加水分解するまで継続して脱水処理を行う。
【0033】
このように本発明の工程(ア)は、脱水処理によって水が反応系外に排出されると共に、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物が加水分解され、同時に無水の固形アルカリ金属硫化物が析出する工程である。よって、脱水処理後に反応系内に過剰な水分が存在した場合、その後の重合工程において、副生成物が多量に生成し、成長末端停止反応を誘発して、目的であるPAS樹脂の高分子量化が阻害されやすくなる問題がある。
【0034】
従って、工程(ア)における脱水処理後の反応系内の全水分量は極力少ない方が好ましく、具体的には、工程(ア)で用いた含水アルカリ金属硫化物(方法1)又は含水アルカリ水硫化物(方法2)1モル当たり、即ち、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.1モルを超える範囲であって、かつ、0.99モル以下となるような水分量、好ましくは0.6~0.96モルとなるような水分量であることが好ましい。ここで「反応系内の全水分量」とは、前記化合物の加水分解に消費された水、固形アルカリ金属硫化物中に微量残存する結晶水、及びその他反応系内に存在する水分の全ての合計質量である。
【0035】
工程(ア)における前記脂肪族系環状化合物の仕込み量は、含水アルカリ金属水硫化物(方法1)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法2)1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用いることが好ましい。特に、かかる効果が顕著なものとなる点から含水アルカリ金属水硫化物(方法1)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法2)1モルに対して0.04~0.4モルとなる割合で用いることが好ましい。
【0036】
ここで、工程(ア)で使用する非加水分解性有機溶媒は、上記したものと同様のものを用いることができる。前記非加水分解性有機溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、得られるスラリー(I)の流動性が良好となる量が好ましい。特に、非プロトン性極性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物を用いる場合には、後続の工程(イ)及び(ウ)における反応性や重合性が優れる点を考慮して、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ水硫化物1モルに対して、0.2~5.0モルの範囲が好ましく、特に0.3~2.0モルの範囲が好ましい。
【0037】
また、前記脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩としては、該脂肪族系環状化合物)加水分解物のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩又はセシウム塩が挙げられる。これらの有機酸アルカリ金属塩は、反応系内で液状となっていることが好ましい。また、反応性が良好である点から、脂肪族環状アミド化合物の開環物のアルカリ金属塩、特にNMPの加水分解物のアルカリ金属塩が反応性の点から好ましい。また、これらのアルカリ金属塩はリチウム塩、ナトリウムイオン塩として用いることが好ましい。
【0038】
次に、工程(イ)は、工程(ア)によって得られたスラリー(I)に、更に非プロトン性極性有機溶媒を加え、水を留去し、工程(ウ)開始時に反応系内に存在する非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下となるまで脱水を行う工程である。この工程(イ)において留去される水は、工程(ア)では除去しきれなかった結晶水等である。また、「反応系内に現存する水分量」とは、前記と同様に反応系内に現存する結晶水等の量である。前記した通り、工程(ア)終了時点では通常スラリー(I)中に結晶水等を反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.03~0.11モルとなる割合で含んでおり、工程(イ)の脱水工程はこの反応系内の結晶水等の含有量を極力低減させるものである。
【0039】
この際、加える非プロトン性極性有機溶媒の量は反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.5~5モルとなる割合であることが非プロトン性極性有機溶媒を加えることで残留する結晶水等を効率的に溶液中に抽出させることができる点から好ましい。本工程の脱水処理は、通常、温度180~220℃の範囲、ゲージ圧0.0~0.1MPaの範囲の条件下、特に温度180~200℃の範囲、ゲージ圧0.0~0.05MPaの範囲の条件下で行うことが、脱水効率に優れ、かつ、重合を阻害する副反応の生成を抑制できる点から好ましい。
【0040】
具体的操作としては、上記の温度・圧力条件下に非プロトン性極性有機溶媒と水との混合物を蒸留によって単離し、この混合蒸気をコンデンサーで凝縮、デカンター等で分離し、共沸留出した非加水分解性有機溶媒を反応系内に戻す方法が挙げられる。上記操作により、PAS樹脂の重合工程の開始時に反応系内に現存する水分量を、反応系内の非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下、また、反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.02モル未満、より好ましくは0.01モル以下となる割合に調整する。これを上回る場合には、PAS樹脂の重合工程で重合阻害となる副生成物の生成を生じることとなる。
【0041】
本発明では、工程(イ)において非プロトン性極性有機溶媒を加えることで、工程(ア)で脱水しきれず反応系内に残留する結晶水を溶液中に抽出させ、続く脱水処理により結晶水等を極力低減させることが可能となる。工程(ウ)開始時に反応系内に存在する非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させることより、アルカリ金属水酸化物とポリハロ芳香族化合物との副反応、又は、アルカリ金属水酸化物とポリマー末端基ハロゲンとの副反応によって引き起こるフェノール系の成長末端停止反応を抑制し、高分子量体が得られるものである。
【0042】
なお、工程(イ)で加える非プロトン性極性有機溶媒としては、上記したものを用いることができ、これらの中でも、NMPが特に好ましい。
【0043】
次に、工程(ウ)は、工程(イ)の脱水工程を経て得られたスラリー(I)を用いて、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、有機酸アルカリ金属塩とを、非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を挙げることができる。より具体的には、例えば、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記化合物の加水分解物のアルカリ金属塩とを、スラリー(I)中で、かつ、反応系内の水分量を限りなく低減させた状態で反応させて重合を行う工程を挙げることができる。
【0044】
PAS樹脂の重合工程は、塩化リチウムと酢酸リチウムなど公知のリチウム塩化合物の存在下で行っても良い。該リチウム塩化合物は無水物、含水物又は水溶液として用いることができ、その使用量は、スラリー(I)で用いた含水アルカリ金属硫化物及びその後に加えたスルフィド化剤の合計モル数を1モルとした場合に、0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合であることがPAS樹脂の重合工程における反応性の改善効果が顕著になる点から好ましく、特に前記アルカリ金属塩の存在割合が反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.04~0.4モルの範囲となる割合であって、かつ、反応系内のリチウムイオン量が前記アルカリ金属塩に対して、モル基準で1.8~2.2モルとなる範囲であることが、PAS樹脂がより高分子量化する点からより好ましい。
【0045】
また、反応ないし重合反応の原料である前記アルカリ金属水硫化物は、必要により、PAS樹脂の重合工程の任意の段階で別途添加しても良い。さらに、スラリーの固形分を構成するアルカリ金属硫化物の結晶中に、微量のアルカリ金属水硫化物やチオ硫酸アルカリ金属が存在するため、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても良い。
【0046】
PAS樹脂の重合工程で反応及び重合を行う具体的方法は、スラリー(I)に、必要により、ポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物、非プロトン性極性有機溶媒、前記リチウム塩化合物を加え、180~300℃の範囲、好ましくは200~280℃の範囲で反応ないし重合させることが好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的に又は連続的に昇温しながら行うこともできる。
【0047】
また、PAS樹脂の重合工程におけるポリハロ芳香族化合物の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8~1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9~1.1モルの範囲がより高分子量のPAS樹脂を得られる点から好ましい。
【0048】
PAS樹脂の重合工程の反応ないし重合反応において、更に非プロトン性極性有機溶媒を加えてもよい。反応内に存在する非プロトン性極性有機溶媒の総使用量は、特に制限されるものではないが、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり0.6~10モルの範囲となる様に非プロトン性極性有機溶媒を追加することが好ましく、更にはPAS樹脂のより一層の高分子量化が可能となる点から2~6モルの範囲が好ましい。また、反応容器の容積当たりの反応体濃度の増加という観点からは、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり1~3モルの範囲が好ましい。
【0049】
また、PAS樹脂の重合工程における反応ないし重合は、その初期においては、反応系内の水分量は実質的に無水状態となる。即ち、スラリーの製造工程における脱水工程で前記脂肪族系環状化合物の加水分解に供された水は、スラリー中の固形分が消失した時点以後、該加水分解物が閉環反応され、反応系内に出現することになる。従って、本発明のPAS樹脂の重合工程では前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリー中の水分量が0.2質量%以下となる範囲であることが、最終的に得られるPAS樹脂の高分子量化の点から好ましい。
【0050】
以上詳述した各工程に用いられる装置は、先ず、工程(ア)及び工程(イ)では、脱水容器に撹拌装置、蒸気留出ライン、コンデンサー、デカンター、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置、及び加熱装置を備えた脱水装置が挙げられる。また、これらの各工程の反応ないし重合で使用する反応容器は、特に限定されるものではないが、接液部がチタン、クロム、ジルコニウム等で作られた反応容器を用いることが好ましい。また上記の各工程の反応ないし重合は、バッチ方式、回分方式あるいは連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、脱水工程及び重合工程何れにおいても、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0051】
工程(2)
工程(2)は、粗反応混合物に塩基を添加する工程である。
【0052】
固液分離前の粗反応混合物に塩基を添加することで、固液分離工程にて塩基をPPS粒子に内包させることができ、後続の洗浄工程において効率的にPAS樹脂末端をカルボキシレート基にすることができる。PAS樹脂末端がカルボキシレート基となることで、後続の熱酸化架橋処理工程の時間を短縮することができ、PAS樹脂中のラジカルの蓄積を抑制できるため、溶融安定性を向上できる。
【0053】
工程(3)で用いることのできる塩基は、特に限定されず公知の材料及び形状のものを用いることができる。具体的には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、水に溶解した際に強塩基性を示す有機塩または無機塩を用いることが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、ナトリウムフェノキシドが好ましい。
【0054】
前記塩基の添加量は、PAS樹脂(A)の理論収量1質量部に対して1μモル以上が好ましく、10μモル以上がより好ましく、100μモル以上がさらに好ましく、1000μモル以下が好ましく、700μモル以下がより好ましく、500μモル以下がさらに好ましい。
【0055】
前記塩基を添加した粗反応混合物は、後続の工程(4)の水洗工程において、水を添加した際に、pHが7.0以上となるように調整することが好ましく、9.0以上となるように調整することがより好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂末端を効率的かつ十分にカルボキシレート基にすることができる。
【0056】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)を経た粗反応混合物を固液分離して液相を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)とCP-MABA(B)とを含む反応混合物を得る工程である。
【0057】
工程(2)で得た粗反応混合液中には、PAS樹脂(A)、CP-MABA(B)などの副生成物、工程(2)で添加した塩基、アルカリ金属塩やアルカリ金属水硫化物を始めとする未反応物質、溶媒などが含まれているため、該粗反応混合物から溶媒などの液相成分を固液分離して、少なくともPAS樹脂(A)とCP-MABA(B)とを含む反応混合物(固相成分)を回収する。回収方法としては、フラッシュ法、クウェンチ法など従来公知の方法を特に制限なく用いることができるが、簡便に固相成分を回収する場合にはフラッシュ法が好ましく、一方、PAS樹脂の粒度を制御する場合にはクウェンチ法が好ましい。
【0058】
フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0059】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでポリアリーレンスルフィ樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0060】
工程(4)
工程(4)は、さらに該反応混合物を200~280℃の範囲で水洗することにより、PAS樹脂(A)及び当該PAS樹脂(A)1質量部に対し0.002質量部未満の範囲となる割合でCP-MABA(B)を含有するPAS樹脂混合物(C)を得る工程である。
【0061】
水洗工程として、反応混合物を水洗浄することにより、前記CP-MABA(B)の一部を反応混合液から除去して、PAS樹脂(A)に対する当該化合物(B)の残留量を質量基準で2,000未満、すなわち、PAS樹脂(A)1質量部に対し当該化合物(B)が0.002質量部未満の範囲となる割合に調整する。
【0062】
その際、フラッシュ法で固液分離した反応混合物の場合には、沸点以上の熱水で当該反応混合物を洗浄する(高温熱水洗)。ただし、フラッシュ法での固液分離は反応混合物中に有機塩類やアルカリ金属ハロゲン化物などの無機塩類を多く含む傾向にあるため、一旦、沸点未満の水で当該反応混合物を洗浄(温水洗)した後に、高温熱水洗を行うことが好ましい。一方、クウェンチ法で固液分離した反応混合物は、PAS樹脂表面への水の浸透が良いため、固液分離後の反応混合物を高温熱水洗のみ行うことが好ましい。
【0063】
温水洗の方法は、例えば反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。水洗の際に反応スラリーに加える水の量は最終的に得られるPAS樹脂の理論収量に対して2倍~10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2~10回、好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗時の水の温度は50~90℃の範囲であることが、やはり洗浄効率が良好となる点から好ましく、なかでも70~90℃の範囲であることが特に好ましい。
【0064】
一方、高温熱水洗における熱水の温度は、例えば、200~280℃の範囲であることが好ましい。200℃を超える温度で熱水洗工程を行うと前記CP-MABA(B)が除去されやすく、PAS樹脂(A)に対し所定割合未満に除去される傾向にあり、一方、200℃未満では、CP-MABA(B)の除去効率が低くなり、また、アルカリ金属水硫化物やその酸化物、例えば硫黄原子(S)、その同素体、チオ硫酸アルカリ金属などの未反応物質やその誘導体の除去効率も低くなるため好ましくない。前記圧力条件としては、反応器内の気相圧力を0.2~4.6MPaの範囲とすることが好ましい。
【0065】
高温熱水洗工程で用いる熱水の量はPAS樹脂(A)の質量に対して1.5倍~10倍の範囲であることが好ましい。1.5倍以上であれば、スラリーの流動性が改善され均一加熱されることにより前記CP-MABA(B)の除去効率が向上する。一方、10倍以下の場合、スラリーを加熱するために必要な熱量が経済的な範囲に抑制され易く好ましい。また、PAS樹脂(A)の質量に対して1.5倍~10倍の範囲の量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行っても良い。
【0066】
高温熱水洗を行う場合は、圧力容器中においてPAS樹脂(A)、CP-MABA(B)及び熱水を含むスラリーを攪拌することによって、PAS樹脂(A)の粒子中に包含されているCP-MABA(B)を所定の濃度範囲になるまで除去ないし残留させるよう調整することが好ましい。
【0067】
上記の熱水洗工程を経て得られたPAS樹脂(A)とCP-MABA(B)とを含むPAS樹脂混合物(C)は、そのまま次の工程に用いることもできるし、水などの溶媒が蒸発する温度に加熱して、乾燥処理を行っても良い。乾燥は、真空下で行っても良いし、空気中や窒素などの不活性雰囲気下で行っても良い。
【0068】
以上の工程(1)~(4)を経て得られたPAS樹脂混合物(C)中に含まれるPAS樹脂(A)は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が5~1,000〔Pa・s〕の範囲のものとなる。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V6)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を表す。
【0069】
また、工程(1)~(4)を経て得られたPAS樹脂混合物(C)中に含まれるPAS樹脂(A)は、その非ニュートン指数が0.90~1.25の範囲、好ましくは1.00~1.20の範囲である。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0070】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0071】
さらに、工程(1)~(4)を経て得られたPAS樹脂混合物(C)中に含まれるPAS樹脂(A)は、末端にカルボキシ基及びカルボキシレート基を樹脂中25~60〔μmol/g〕の範囲、好ましくは30~55〔μmol/g〕の範囲で含有する。カルボキシ基及びカルボキシレート基は、熱水洗工程における熱水温度が高いほど当該樹脂中の末端カルボキシ基数が多くなり、逆に熱水温度が低いほど樹脂中の末端カルボキシ基数も少なくなる傾向となる。PAS樹脂(A)中の末端カルボキシ基の具体的な数値について特に限定する必要はないが、当該樹脂中に25〔μmol/g〕以下の割合とすることが好ましく、0~20〔μmol/g〕の範囲とすることがより好ましくは、5~15〔μmol/g〕の範囲とすることがさらに好ましい。なお、0〔μmol/g〕は好ましくは末端カルボキシ基を含有しないことを意味するが、通常は、検出限界以下であることを意味する。さらに、末端カルボキシ基及びカルボキシレート基の合計数における、カルボキシレート基の比率が40モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。
【0072】
このようにして得られたPAS樹脂混合物(C)は、PAS樹脂(A)及びCP-MABA(B)を、当該PAS樹脂(A)1質量部に対しCP-MABA(B)を0.002質量部未満の範囲となる割合で含有することから、得られる架橋型PAS樹脂は加熱時に発生するガスを抑制できる。
【0073】
工程(5)
工程(5)は、PAS樹脂混合物(C)を酸化性雰囲気下で加熱処理して、熱酸化架橋処理する工程である。
【0074】
熱酸化架橋処理としては、前記PAS樹脂混合物を、空気あるいは酸素富化空気中などの酸化性雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。前記加熱処理は押出機等を用いてPAS樹脂の融点以上で、PAS樹脂(A)を溶融した状態で行ってもよいが、PAS樹脂(A)の熱劣化の可能性が高まるため、融点+100℃以下で行うことが好ましい。また、融点以下の固相(固体)状態で加熱処理する場合は、加熱処理に要する時間と、加熱処理後のPAS樹脂の溶融時の熱安定性が良好となる観点から180℃~PAS樹脂の融点より20℃低い温度範囲であることが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0075】
酸化性雰囲気の酸素濃度は好ましくは5~30体積%の範囲、特に好ましくは10~25体積%の範囲である。上記範囲を超えては、ラジカル発生量が増大して加熱処理時の増粘が著しくなり、また色相が暗色化して好ましくない。上記範囲未満では、酸化速度が遅くなり処理に長時間を要し好ましくない。
【0076】
工程(1)~(5)を経て得られた本発明の架橋型PAS樹脂は、その非ニュートン指数が1.26~2.00の範囲であり、好ましくは1.30~1.95の範囲であり、さらに好ましくは1.35~1.90の範囲である。
【0077】
また、本発明の架橋型PAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が20~5,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは100~2,000〔Pa・s〕の範囲である。さらに、本発明の架橋型PAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V30)が20~10,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは100~4,000〔Pa・s〕の範囲である。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V30)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して30分間保持した後の溶融粘度を表す。
【0078】
また、本発明の架橋型PAS樹脂は、下記数式で表される増粘率αが1~100%の範囲である。増粘率が100%以下であれば、異常増粘やゲル化が抑制されており、溶融安定性に優れる。また、溶融安定性に優れる樹脂は、溶融成形中に増粘を抑えることができ、加工性に優れる。
【0079】
【数2】
(ただし、式中、V30及びV6はそれぞれ、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間及び30分間保持した後の溶融粘度を表す。)
【0080】
さらに、本発明の架橋型PAS樹脂は、増粘率αを100%以下に低く抑え、溶融物の増粘を抑えることができることから、成形固化時の結晶化時間を短縮することができる。
【0081】
以上詳述した本発明の架橋型PAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することができる。
【0082】
また、本発明の架橋型PAS樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたPAS樹脂組成物として使用することができる。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用できる。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることができる。
【0083】
更に、本発明により得られた架橋型PAS樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、あるいは、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したPAS樹脂組成物として使用してもよい。
【0084】
本発明の架橋型PAS樹脂は、PAS樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、液体を輸送する配管やバルブ等の水周り部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、あるいは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。特に、本発明の架橋型PAS樹脂は高靭性かつ加工性に優れるため、射出成形用の材料として用いた場合に有用である。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0086】
<評価>
【0087】
(1)溶融粘度及び増粘率(溶融安定性)の評価
島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:20kgf/cm、L/D=10(mm)/1(mm)で6分間又は30分間保持後の溶融粘度を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、溶融安定性は、粘度変化率αにより比較した。粘度変化率αは次式のように定義した。αがより小さい値の時、樹脂の粘度変化率が小さく、溶融安定性に優れることを示す。また、V6粘度は6分保持した際の溶融粘度、V30粘度は30分保持した際の溶融粘度を意味する。
α=|{(V30-V6)/V6}|×100
【0088】
(2)CP-MABAの定量
実施例1~7及び比較例1~7で得られたPPS樹脂50gにイオン交換水140gと0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10gを加えて、よく撹拌して十分にスラリー化した後に耐圧容器中、230℃に昇温し30分間撹拌して、スラリーからCP-MABAを抽出した。この抽出液をHPLCで測定して、標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから抽出液中の濃度を求め、各PPS樹脂中のCP-MABA含有量を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0089】
(3)ウェイトロス(発生ガス量)の評価
PPSの粉体試料を精密天秤にて4.0000gアルミ製シャーレに秤量した。150℃に設定された乾燥機内に試料を1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次いで、同シャーレを、370℃に設定された乾燥機内に1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次式より各試料のウェイトロスを算出した。結果を表1及び表2に示す。
ウエイトロス〔wt%〕=(150℃加熱後の秤量値〔g〕-370℃加熱後の秤量値〔g〕)/150℃加熱後の秤量値〔g〕×100
【0090】
(4)カルボキシ基及びカルボキシレート基の合計数の定量方法
下記実施例1-1と同様にしてPPS樹脂の重合を行い、得られたスラリー650gを3Lの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。該ケーキを再び3Lの温水で1時間撹拌し、洗浄してから濾過した。この操作を4回繰り返した。その後、該ケーキに3Lの温水と塩酸を加え、pH3.0に調整した後1時間撹拌し、洗浄してから濾過した。該ケーキを再び3Lの温水で1時間撹拌し、洗浄してから濾過した。この操作をさらに2回繰り返した。最後の濾過後に得られた固相成分を、熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥し、白色の粉末状の測定用PPS樹脂を得た。得られた測定用PPS樹脂を用いて、以下の測定方法により樹脂1g中のカルボキシ基含有量を算出した。なお、塩酸によりPPS樹脂に含まれる全てのカルボキシレート基がカルボキシ基に変換されるため、本算出量(カルボキシ基含有量)はPAS樹脂に含まれるカルボキシ基及びカルボキシレート基の合計数に相当する。
【0091】
得られたPPS樹脂を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作製し、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT-IR装置」と略記する。)で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm-1の吸光度に対する1705cm-1の吸光度の相対強度を求め、後述する方法により作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボキシ基の含有量を求めた。結果を表1及び表2に示す。なお、カルボキシ基の含有量は樹脂混合物1g中のモル数で示され、その単位は〔μmol/g〕で表される。
【0092】
本測定で用いた検量線は以下の方法で作成した。まず、酸処理を行わずカルボン酸塩を分子末端に含有するように作製したPAS樹脂に、所定量の4-クロロフェニル酢酸を加え良く混合したのち、前記と同様のフィルムを作製し、FT-IR装置で測定を行った。4-クロロフェニル酢酸の添加量から算出したカルボキシ基含有量に対する、前記2つの波長の吸光度の相対強度比をプロットして検量線を得た。
【0093】
(5)カルボキシレート基比率の算出
実施例1~7及び比較例1~7で得られたPPS樹脂を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作製し、(4)と同様の方法でFT-IR装置で測定した。測定して得られたカルボキシ基の全含有量と、(4)で得られたカルボキシ基及びカルボキシレート基の合計数を用いて、次式よりPPS樹脂のカルボキシレート基比率を算出した。
カルボキシレート基比率〔mol%〕=(1-カルボキシ基の全含有量〔μmol/g〕)/カルボキシ基及びカルボキシレート基の総量〔μmol/g〕
【0094】
<実施例1~11、比較例1~7>
【0095】
実施例(1-1) PPS製造
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。最終圧力は0.30MPaであった。
【0096】
実施例(1-2) 塩基添加
冷却後に得られたスラリー101.35kgのうち、260gを分取した。スラリー中に、49.21質量%NaOH水溶液0.493g(NaOHとして6.07×10-3モル)を仕込んだ。NaOHの仕込み量は、PAS樹脂の理論収量1gに対して100μモルであった。
【0097】
実施例(1-3) 固液分離
スラリー中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。
【0098】
実施例(1-4) 熱水洗浄
乾燥後の混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキ、イオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを密閉し、スラリーを220℃で30分間攪拌した。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、PPS樹脂(1a)を得た。得られたPPS樹脂(1a)の性状を表1に示す。
【0099】
実施例(1-5) 加熱架橋処理
PPS樹脂(1a)を熱風乾燥機で240℃、8.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(1b)を得た。得られた架橋型PPS樹脂(1b)の性状を表1に示す。
【0100】
実施例(2)
NaOHの仕込み量を、PAS樹脂の理論収量1gに対して200μモルとしたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(2a)を得た。得られたPPS樹脂(2a)を熱風乾燥機で240℃、7.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(2b)を得た。PPS樹脂(2a)、(2b)の性状を表1に示す。
【0101】
実施例(3)
NaOHの仕込み量を、PAS樹脂の理論収量1gに対して300μモルとしたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(3a)を得た。得られたPPS樹脂(3a)を熱風乾燥機で240℃、7.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(3b)を得た。PPS樹脂(3a)、(3b)の性状を表1に示す。
【0102】
実施例(4)
NaOHの代わりに、ナトリウムフェノキシドをPAS樹脂の理論収量1gに対して100μモル仕込んだこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(4a)を得た。得られたPPS樹脂(4a)を熱風乾燥機で240℃、8.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(4b)を得た。PPS樹脂(4a)、(4b)の性状を表1に示す。
【0103】
実施例(5)
ナトリウムフェノキシドの仕込み量を、PAS樹脂の理論収量1gに対して200μモルとしたこと以外は実施例4と同様の操作を行い、PPS樹脂(5a)を得た。得られたPPS樹脂(5a)を熱風乾燥機で240℃、7.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(5b)を得た。PPS樹脂(5a)、(5b)の性状を表1に示す。
【0104】
実施例(6)
NaOHの代わりに、ナトリウムエトキシドをPAS樹脂の理論収量1gに対して200μモル仕込んだこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(6a)を得た。得られたPPS樹脂(6a)を熱風乾燥機で240℃、7.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(6b)を得た。PPS樹脂(6a)、(6b)の性状を表1に示す。
【0105】
実施例(7)
熱水洗浄を250℃で行ったこと以外は実施例2と同様の操作を行い、PPS樹脂(7a)を得た。得られたPPS樹脂(7a)を熱風乾燥機で240℃、8.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(7b)を得た。PPS樹脂(7a)、(7b)の性状を表1に示す。
【0106】
実施例(8-1) PPS製造
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-DCB34.986kg(238モル)、NMP4.560kg(46モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水26.794kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP45.203kg(456モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBは釜へ戻した。留出水量は273gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。最終圧力は0.50MPaであった。
【0107】
実施例(8-2) 塩基添加
冷却後に得られたスラリー103.51kgのうち、260gを分取した。スラリー中に、49.21質量%NaOH水溶液0.965g(NaOHとして1.19×10-2モル)を仕込んだ。NaOHの仕込み量は、PAS樹脂の理論収量1gに対して200μモルであった。
【0108】
実施例(8-3) 固液分離
スラリー中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。
【0109】
実施例(8-4) 熱水洗浄
乾燥後の混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキ、イオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを密閉し、スラリーを220℃で30分間攪拌した。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、PPS樹脂(8a)を得た。得られたPPS樹脂(8a)の性状を表1に示す。
【0110】
実施例(8-5) 加熱架橋処理
PPS樹脂(8a)を熱風乾燥機で260℃、8.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(8b)を得た。得られた架橋型PPS樹脂(8b)の性状を表1に示す。
【0111】
実施例(9)
NaOHの代わりに、ナトリウムフェノキシドをPAS樹脂の理論収量1gに対して200μモル仕込んだこと以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(9a)を得た。得られたPPS樹脂(9a)を熱風乾燥機で260℃、7.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(9b)を得た。PPS樹脂(9a)、(9b)の性状を表1に示す。
【0112】
実施例(10)
NaOHの代わりに、ナトリウムエトキシドをPAS樹脂の理論収量1gに対して200μモル仕込んだこと以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(10a)を得た。得られたPPS樹脂(10a)を熱風乾燥機で260℃、7.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(10b)を得た。PPS樹脂(10a)、(10b)の性状を表1に示す。
【0113】
実施例(11)
熱水洗浄を250℃で行ったこと以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(11a)を得た。得られたPPS樹脂(11a)を熱風乾燥機で260℃、8.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(11b)を得た。PPS樹脂(11a)、(11b)の性状を表1に示す。
【0114】
比較例(1)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を170℃で行った以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(C1a)を得た。得られたPPS樹脂(C1a)を熱風乾燥機で240℃、4.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C1b)を得た。PPS樹脂(C1a)、(C1b)の性状を表2に示す。
【0115】
比較例(2)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を220℃で行った以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(C2a)を得た。得られたPPS樹脂(C2a)を熱風乾燥機で240℃、9.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C2b)を得た。PPS樹脂(C2a)、(C2b)の性状を表2に示す。
【0116】
比較例(3)
NaOHの代わりに、硫酸ナトリウムをPAS樹脂の理論収量1gに対して200μモル仕込んだこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(C3a)を得た。得られたPPS樹脂(C3a)を熱風乾燥機で240℃、9.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C3b)を得た。PPS樹脂(C3a)、(C3b)の性状を表2に示す。
【0117】
比較例(4)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を250℃で行った以外は実施例1と同様の操作を行い、PPS樹脂(C4a)を得た。得られたPPS樹脂(C4a)を熱風乾燥機で240℃、9.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C4b)を得た。PPS樹脂(C4a)、(C4b)の性状を表2に示す。
【0118】
比較例(5)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を170℃で行った以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(C5a)を得た。得られたPPS樹脂(C5a)を熱風乾燥機で260℃、11.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C5b)を得た。PPS樹脂(C5a)、(C5b)の性状を表2に示す。
【0119】
比較例(6)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を220℃で行った以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(C6a)を得た。得られたPPS樹脂(C6a)を熱風乾燥機で260℃、9.0時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C6b)を得た。PPS樹脂(C6a)、(C6b)の性状を表2に示す。
【0120】
比較例(7)
重合後スラリーにNaOHを加えず、熱水洗浄を250℃で行った以外は実施例8と同様の操作を行い、PPS樹脂(C7a)を得た。得られたPPS樹脂(C7a)を熱風乾燥機で260℃、9.5時間熱処理し、架橋型PPS樹脂(C7b)を得た。PPS樹脂(C7a)、(C7b)の性状を表2に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】
【0123】
以上の結果から、実施例の架橋型PAS樹脂は不純物の低減と樹脂の溶融安定性向上を両立した架橋型PAS樹脂であることが認められた。