(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141751
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】雌雄判定装置及び雌雄判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/21 20060101AFI20230928BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N21/21 A
G01N21/359
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048231
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】597132849
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上出 真治
(72)【発明者】
【氏名】芝 修
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳子
(72)【発明者】
【氏名】中矢 雄志
(72)【発明者】
【氏名】田上 貴寛
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF01
2G059GG02
2G059HH01
2G059HH02
(57)【要約】
【課題】孵卵早期に高精度な雌雄判定を非破壊的に実施可能とする。
【解決手段】雌雄判定装置100において、孵卵開始から所定期間内の各鶏卵に対し、所定波長の光を照射する照射手段と、前記照射がなされた各鶏卵の撮影を行う撮影手段と、前記各鶏卵それぞれの雌雄に関して別途判定した結果と、当該鶏卵に関する前記撮影で得た画像データとを学習データとして、雌雄判定モデルを生成する手段と、新たな雌雄判定の対象鶏卵に関して、前記照射手段及び前記撮影手段により得た画像データを、前記雌雄判定モデルに入力することで、前記対象鶏卵の雌雄判定を行う手段を含む構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孵卵開始から所定期間内の各鶏卵に対し、所定波長の光を照射する照射手段と、
前記照射がなされた各鶏卵の撮影を行う撮影手段と、
前記各鶏卵それぞれの雌雄に関して別途判定した結果と、当該鶏卵に関する前記撮影で得た画像データとを学習データとして、雌雄判定モデルを生成する手段と、
新たな雌雄判定の対象鶏卵に関して、前記照射手段及び前記撮影手段により得た画像データを、前記雌雄判定モデルに入力することで、前記対象鶏卵の雌雄判定を行う手段と、
を備えることを特徴とする雌雄判定装置。
【請求項2】
前記照射手段は、可視光領域から近赤外光領域に属する波長の光を照射するものであり、
前記撮影手段は、可視光カメラである、
ことを特徴とする請求項1に記載の雌雄判定装置。
【請求項3】
前記照射手段により照射された光が鶏卵を透過するか又は鶏卵内で反射することにより、鶏卵外に放出される光を検出する光検出手段と、
前記光検出手段で検出された光の可視及び近赤外スペクトルを取得するスペクトル取得手段と、
前記スペクトル取得手段で取得された可視及び近赤外スペクトルにおける1700~2500nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき、前記鶏卵の雌雄を判定する雌雄判定手段と、
を更に備え、前記雌雄判定手段による判定結果を、前記別途判定した結果として用いるものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の雌雄判定装置。
【請求項4】
孵卵開始から所定期間内の各鶏卵に対し、所定波長の光を照射する照射工程と、
前記照射がなされた各鶏卵の撮影を行う撮影工程と、
前記各鶏卵それぞれの雌雄に関して別途判定した結果と、当該鶏卵に関する前記撮影で得た画像データとを学習データとして、雌雄判定モデルを生成する工程と、
新たな雌雄判定の対象鶏卵に関して、前記照射工程及び前記撮影工程により得た画像データを、前記雌雄判定モデルに入力することで、前記対象鶏卵の雌雄判定を行う工程と、
を実行することを特徴とする雌雄判定方法。
【請求項5】
前記照射工程は、可視光領域から近赤外光領域に属する波長の光を照射するものであり、
前記撮影工程は、可視光カメラにより前記撮影を行うものである、
ことを特徴とする請求項4に記載の雌雄判定方法。
【請求項6】
前記照射工程により照射された光が鶏卵を透過するか又は鶏卵内で反射することにより、鶏卵外に放出される光を検出する光検出工程と、
前記光検出工程で検出された光の可視及び近赤外スペクトルを取得するスペクトル取得工程と、
前記スペクトル取得工程で取得された可視及び近赤外スペクトルにおける1700~2500nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき、前記鶏卵の雌雄を判定する雌雄判定工程と、
を更に備え、前記雌雄判定工程による判定結果を、前記別途判定した結果として用いるものである、
ことを特徴とする請求項5に記載の雌雄判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌雄判定装置及び雌雄判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
採卵鶏は、孵化後(孵卵後21日目)に羽毛鑑別により雌雄判定が行われている。判定の結果、雄は、通常は殺処分される。近年では、日本国内で毎年1億羽、全世界で60億
羽の雄雛が殺処分されると推定される。孵化後の雄雛を殺処分することは、アニマルウェルフェアの観点から大きな問題となっている。
そこで孵化前における雌雄判定方法として、孵卵後約9日目の卵に、レーザー光を用いて卵殻に0.3mm以下の穴を形成し、該穴を介して尿膜液を採取し、尿膜液中の硫酸エストロンを比色法により検出して雌雄を判定する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に、卵の状態を判定する方法として、400~1500nmの範囲
の波長、約0.5~約500ピコ秒の範囲の幅、及び約0.1~約100mJの範囲の強度を有する複数の光パルスを照射する工程、複数の光パルスの少なくとも一部の反射光を検出する工程、及び検出した反射光を分析して少なくとも1つの性別に分類する工程を含む
技術が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、鶏卵の現在の状態を検出する非侵襲的方法として、ハイパースペクトルカメラを用いて鶏卵の反射光又は透過光に対応する少なくとも1つの所定の波長
の光量を測定することにより試験測定画像を得る工程、試験測定画像を対照の測定画像と比較する工程、該ハイパースペクトルカメラを用いて、所定の波長領域の鶏卵のスペクトルの少なくとも1つを得る工程、及びニューラルネットワークアルゴリズムを用いてスペ
クトルを比較する工程、比較した結果を用いて鶏卵の現在の状態を評価する工程を含む技術が示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、光を種卵に照射する光照射部と前記種卵を透過した光の強度を検出する光検出部と、孵卵開始から所定期間経過した第1時点の前記種卵を透過した光の強度に基づいて、前判別する性別判別部とを備える、種卵の非破壊検査装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10,705,066号明細書
【特許文献2】米国特許第9,435,732号明細書
【特許文献3】特許第6723597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、孵化前に鶏卵の雌雄判定を行う方法は知られている。しかしながら、従来の雌雄判定方法には、いくつかの課題が存在した。例えば、卵殻に穴を形成して尿膜液を採取し雌雄判定を行う方法の場合、穴の形成及び/又は尿膜液の採取により、当該鶏卵の孵化率が低下する可能性がある。
一方、特許文献1~3が示す技術は、非破壊的な分光学的手段によって雌雄判定を行うことが可能である。ところが、特許文献1に記載の方法の場合、可視光領域から近赤外光
領域の広い波長領域に亘って光パルスの照射及び反射光の検出を行う必要があり、実施に長時間を要する恐れがある。また、特許文献2に記載の方法の場合、ハイパースペクトル
カメラによる測定、及びニューラルネットワークアルゴリズムによる処理、といった特殊な手段が必要となるため、導入や実施に要するコストが過大となる可能性がある。
【0008】
また、いずれの非破壊的な方法であっても、孵卵後7日目より前に、高精度の雌雄判定を行うことは困難であった。鶏の場合、孵卵後7日目以降には、胚が痛覚を獲得するとされるため、非破壊的な従来技術を採用しても、結局のところ、アニマルウェルフェアの観点での問題は解消されない。つまり、孵卵の初期段階での雌雄判定方法が確立されていない。
【0009】
そこで本発明の目的は、孵卵早期に高精度な雌雄判定を非破壊的に実施可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の雌雄判定装置は、孵卵開始から所定期間内の各鶏卵に対し、所定波長の光を照射する照射手段と、前記照射がなされた各鶏卵の撮影を行う撮影手段と、前記各鶏卵それぞれの雌雄に関して別途判定した結果と、当該鶏卵に関する前記撮影で得た画像データとを学習データとして、雌雄判定モデルを生成する手段と、新たな雌雄判定の対象鶏卵に関して、前記照射手段及び前記撮影手段により得た画像データを、前記雌雄判定モデルに入力することで、前記対象鶏卵の雌雄判定を行う手段と、を備えることを特徴とする。
また、本発明の雌雄判定方法は、孵卵開始から所定期間内の各鶏卵に対し、所定波長の光を照射する照射工程と、前記照射がなされた各鶏卵の撮影を行う撮影工程と、前記各鶏卵それぞれの雌雄に関して別途判定した結果と、当該鶏卵に関する前記撮影で得た画像データとを学習データとして、雌雄判定モデルを生成する工程と、新たな雌雄判定の対象鶏卵に関して、前記照射工程及び前記撮影工程により得た画像データを、前記雌雄判定モデルに入力することで、前記対象鶏卵の雌雄判定を行う工程と、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、孵卵早期に高精度な雌雄判定を非破壊的に実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態における雌雄判定システムの構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態における雌雄判定装置の構成例を示す図である。
【
図3】本実施形態における画像収集サーバの構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態の学習データDBの構成例を示す図である。
【
図5】本実施形態の閾値パラメータの構成例を示す図である。
【
図6】本実施形態の判定手法設定パラメータの構成例を示す図である。
【
図7】本実施形態の判定結果DBの構成例を示す図である。
【
図8A】本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。
【
図8B】本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。
【
図9】本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。
【
図10】本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。
【
図11】本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<雌雄判定システムの構成例>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の雌雄判定装置10を含む雌雄判定システム10の構成例を示す図である。
図1に示す雌雄判定システム10は、雌雄判定装置100の他、鶏卵1を載置して孵卵処理を担う孵卵ト
レー2、光源11、可視光カメラ12、光源11、端末150、及び画像収集サーバ200から構成される。
【0014】
こうした構成の雌雄判定システム10によれば、又は雌雄判定装置100によれば、孵卵早期に高精度な雌雄判定を非破壊的に実施可能である。
【0015】
図1のごときシステム構成において、鶏卵1は、雌雄判定の対象となる鶏卵である。この鶏卵1は、孵卵器の孵卵トレー2に載置され、適宜な条件下で管理されることとなる。孵卵トレー2に載置された鶏卵1は、光源11による適宜な波長の光の照射を受ける。
【0016】
光源11は、例えば、LED(Light Emitting Diode)素子を含む発光ユニットである。この光源11が発する光としては可視光(可視光カメラ12の撮像素子が捕捉可能な光)であって、例えば、520nm前後の波長の光を想定する。ただし、こうした波長は一例であって、可視光カメラ12で撮影できる光であれば限定はしない。
【0017】
なお、光源11の他例としては、ハロゲンランプやEverGloセラミックからなる群から
選択される光照射素子を想定できる。
【0018】
一方、鶏卵1において発生した、光源11による光の反射光は、可視光カメラ12の撮像素子で捉えられる。つまり可視光カメラ12は、鶏卵1の撮影を行うことになる。撮像素子としては、例えば、CCD(Carge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を採用すればよいが、これらに限定しない。
【0019】
なお、本実施形態の雌雄判定システム10における、上述の雌雄判定対象となる鶏卵1は、孵卵開始から6日以内ものとする。鶏卵1における胚が痛覚を獲得すると考えられている、孵卵開始から7日目よりも前に、すなわち鶏卵1(において成長した胚やその後の雛鳥を含む概念)が痛みを感じるよりも前に、雌雄判定を実施することは、アニマルウェルフェアの観点から非常に有意義である。
【0020】
他方、本実施形態の雌雄判定装置100は、
図1で示すように、ネットワーク5を介して、端末150及び画像収集サーバ200と通信可能に接続されている。よって、これらを総称して雌雄判定システム10としてもよい。
【0021】
本実施形態の雌雄判定装置100は、上述のごとき雌雄判定システム10の構成装置らから適宜に情報を取得し、孵卵トレー2に載置された鶏卵1の雌雄判定を行うサービスの提供装置と言える。
【0022】
一方、端末200は、本実施形態の雌雄判定装置100とは異なるアルゴリズムによって、高精度な雌雄判定を行う装置ないし担当者の端末である。具体的には、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを想定できる。この高精度な雌雄判定を行うアルゴリズムについては後述する。
【0023】
また、画像収集サーバ200は、可視光カメラ12による、鶏卵1の撮影で得た画像データを当該可視光カメラ12(またはその制御システムなど)から取得し、当該可視光カメラ12や撮影条件等の属性情報と紐付けて格納、管理するサーバである。
【0024】
この画像収集サーバ200は、可視光カメラ12から画像データを得るたび即時に、又は一定期間中に取得、格納がなされるごとに、得られた画像データをネットワーク5経由で雌雄判定装置100に配信する。
<ハードウェア構成:雌雄判定装置>
また、本実施形態の雌雄判定システム10を構成する、雌雄判定装置100のハードウェア構成は、
図2に以下の如くとなる。
【0025】
すなわち雌雄判定装置100は、ストレージ101、メモリ103、CPU104、および通信装置105、を備える。また雌雄判定装置100は、上述の光源11及び可視光カメラ12をさらに含むとしてもよい。
【0026】
このうちストレージ101は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0027】
また、メモリ103は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0028】
また、CPU104は、ストレージ101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPUである。
【0029】
また、通信装置105は、ネットワーク5と接続して端末150や画像収集サーバ200との通信処理を担うネットワークインターフェイスカード等を想定する。
【0030】
なお、雌雄判定装置100がスタンドアロンマシンである場合、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付ける入力装置、処理データの表示を行うディスプレイ等の出力装置、を更に備えるとすれば好適である。
【0031】
また、ストレージ101内には、本実施形態の雌雄判定装置100として必要な機能を実装する為のプログラム102に加えて、学習データDB1013、判定結果DB1014、閾値パラメータ1015、判定手法設定パラメータ1016が少なくとも記憶されている。ただし、これらデータベースやパラメータについての詳細は後述する。
【0032】
また、プログラム102は、モデル作成エンジン1011及び雌雄判定モデル1012を含むものとする。詳細については後述するが、モデル作成エンジン1011は、大量の鶏卵に関する撮影データ(画像データやその条件など)と当該撮影の対象となった鶏卵のラベル(雌雄いずれかの判定結果)を学習データとして機械学習を実行し、鶏卵1の雌雄判定を行う雌雄判定モデル1012を生成するエンジンとなる。また、雌雄判定モデル1012は、上述のモデル作成エンジン1011により作成されたモデルである。
<ハードウェア構成:画像収集サーバ>
また、本実施形態の画像収集サーバ200のハードウェア構成は、
図3に以下の如くとなる。すなわち画像収集サーバ200は、ストレージ201、メモリ203、CPU204、および通信装置205、を備える。
【0033】
このうちストレージ201は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0034】
また、メモリ203は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0035】
また、CPU204は、ストレージ201に保持されるプログラム202をメモリ203に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPUである。
【0036】
また、通信装置205は、ネットワーク5と接続して雌雄判定装置100との通信処理を担うネットワークインターフェイスカード等を想定する。
【0037】
また、ストレージ201内には、本実施形態の画像収集サーバ200として必要な機能を実装する為のプログラム202に加えて、撮影画像DB2011が少なくとも記憶されている。ただし、この撮影画像DB2011ついての詳細は後述する。
<データ構造例>
続いて、本実施形態の雌雄判定装置100が用いる各種情報について説明する。
図4に、本実施形態における学習データDB1013の一例を示す。
【0038】
本実施形態の学習データDB1013は、画像収集サーバ200から配信された画像データに、当該画像データの被写体たる鶏卵に関して得られている雌雄判定結果(端末150から得たもの)を紐付けて、機械学習における学習用データすなわちモデル作成エンジン1011の学習データとして格納、管理するデータベースである。
【0039】
この学習データDB1013は、例えば、通番をキーとして、孵卵開始日、孵卵日数、卵の種類、ファイル名、カメラ、光源、光の強さ、温度、及び湿度、といったデータを紐付けレコードの集合体となっている。
【0040】
このうち孵卵日数は、孵卵開始日からの経過日数である。また、卵の種類は、対象鶏卵の殻が白色か赤色かを示す。また、ファイル名は、当該鶏卵に関して可視光カメラの撮影で得られた画像データの名称(やその格納先)を示す。
【0041】
また、カメラは、孵卵器の孵卵トレー2の周囲に配置され、孵卵トレー2上の鶏卵の撮影を行うカメラの識別情報を示す。
【0042】
また、光源は、孵卵トレー2上の鶏卵の撮影に使用する光源の識別情報を示す。また、光の強さは、上述の光源が照射する光の強さを示す。また、温度は、撮影時の孵卵トレー2付近での温度を、湿度は、同エリアでの湿度を示す。
【0043】
また、雌雄判定は、端末150の操作者等が入力した、高精度な雌雄判定の結果である。この雌雄判定の詳細は後述する。
【0044】
図5に、本実施形態における閾値パラメータ1015の一例を示す。本実施形態の閾値パラメータ1015は、鶏卵1に対する、複数のパターンの撮影方法と撮影日を指定し、そのパターン各々に関する判定閾値、及び重み付けを規定する値である。
【0045】
こうした閾値パラメータ1015は、撮影・データ採取方法、日目、メス判定閾値、及び重み付け、の各値から構成されている。このうち撮影・データ採取方法は、可視光カメラの種類を示す。また、日目は、孵卵開始後、何日目で撮影するかを指定する値である。
【0046】
また、メス判定閾値は、雌雄判定モデル1012の確信度が、メス判定閾値以上の結果であった場合、メスと判定する閾値である。また、重み付けは、後述する総合判定における加重判定の値(単位は%)である。
【0047】
上述のメス判定閾値は変更可能であって、そのように運用することで、本システムによるアニマルウェルフェアへの貢献と経済的な効果の共存を可能とする。例えば、メス判定閾値を一定基準より低く設定することで、メスと判定した鶏卵1の中に及びオスの鶏卵が混じる可能性が一定程度以上あるとしても、とにかく早く雌雄を確定したい、といったニーズに対応可能である。
【0048】
或いは、メス判定閾値を一定基準より高く設定することで、多少の日数(ただし孵卵開
始から6日以内)を要する可能性があっても、メスと判定した鶏卵1の中に及びオスの鶏卵が混じる可能性を非常に低く抑えたい、といったニーズに対応可能である。
【0049】
また重み付けの値を、例えば、孵卵開始から間もない期間(例えば、3日目まで)の雌雄判定結果の重み付け値を、それ以降の期間(例えば、4日目以降から6日目まで)の雌雄判定結果の重み付け値よりも小さくするといった運用を行うことで、より精度の高さを重視した雌雄判定を行うことができる。
【0050】
図6に、本実施形態における判定手法設定パラメータ1016の一例を示す。本実施形態の判定手法設定パラメータ1016は、雌雄判定装置100において実行する雌雄判定アルゴリズムを規定した値である。
【0051】
この判定手法設定パラメータ1016は、通番、設定値、及びデフォルト値から構成されている。このうち設定値は、雌雄判定に用いるユーザ指定のアルゴリズムを示す。図の例では、「総合判定(加重判定)」の値が設定されている。このアルゴリズムは、例えば指定された全撮影日の雌雄判定結果と閾値パラメータ1015の「重み付け」の値とに基づいて雌雄判定を行うものである。
【0052】
この他にも、即時判定(どの撮影日でもオス判定が出たら、当該鶏卵をオスの鶏卵と決定する)、総合判定(多数決)、といったアルゴリズムも想定しうる。総合判定(多数決)なるアルゴリズムは、例えば指定された全撮影日の雌雄判定結果について多数決をとり、当該鶏卵の雌雄を確定させるものである。
【0053】
また
図7に、本実施形態における判定結果DB1014の構成例を示す。この判定結果DB1014は、本実施形態の雌雄判定装置100の雌雄判定モデル1012による鶏卵1の雌雄判定結果を格納したデータベースである。
【0054】
この判定結果DB1014は、通番、ロット番号、対象鶏卵、撮影・データ採取方法1・・・撮影・データ採取方法n、及び最終判定の各値を含むレコードから構成されている。
【0055】
このうちロット番号は、対象鶏卵の属するロットの識別情報である。また、対象鶏卵は、孵卵器の孵卵トレー2上での位置を示す値であり、例えば、孵卵トレー2の段数、当該段の孵卵トレー2上における鶏卵1の配置座標(座標空間における座標値と同様の概念)を示すものとなる。
【0056】
また、撮影・データ採取方法欄の値は、
図5の閾値パラメータ1015における撮影・データ採取方法の各欄の値に対応する条件での撮影で得られた画像データに関して、雌雄判定モデル1012が下した雌雄判定の結果を示す値である。
【0057】
また、最終判定欄の値は、即時判定または総合判定といった雌雄判定のアルゴリズムで行った最終判断の結果を示す値である。
<フロー例:モデル作成>
以下、本実施形態における雌雄判定方法の実際手順について図に基づき説明する。以下で説明する雌雄判定方法に対応する各種動作は、雌雄判定装置100がメモリ等に読み出して実行するプログラムによって実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0058】
図8Aは、本実施形態における雌雄判定方法のフロー例を示す図である。ここでは、まず雌雄判定モデル1012の生成フローについて説明する。
【0059】
この場合、雌雄判定装置100は、例えば光源11を制御することで、孵卵トレー2上の鶏卵に対して所定波長の光を照射する(s1)。この光の波長については既に述べたとおりである。
【0060】
続いて、雌雄判定装置100は、光源11での照射の結果、光が鶏卵を透過するか又は鶏卵内で反射することにより、鶏卵外に放出される光を検出する(s2)。この検出は、例えば光検出素子で実行するものとする。この光検出手段は、シリコン、PbS(硫化鉛)
、InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)及びアーセナイドからなる群から選択される光検出素子で構成されるものとする。
【0061】
また、この検出に際して、雌雄判定装置100は、検出された光の可視及び近赤外スペクトルを分光機器により取得するものとする。
【0062】
また、雌雄判定装置100は、可視光カメラ12を制御して、上述の鶏卵に対する撮影を実行し(s3)、画像データを画像収集サーバ200に格納する。或いは、可視光カメラ12は、撮影した鶏卵の画像データを画像収集サーバ200に格納する(s4)。
【0063】
続いて、雌雄判定装置100は、ここまでで得られている、鶏卵の画像データや、可視及び近赤外線スペクトルに基づき、当該鶏卵の雌雄を判定する(s5)。ここでの判定結果が、学習データDB1013における「雌雄判定」欄に格納されることとなる。
【0064】
この場合、雌雄判定装置100は、可視及び近赤外スペクトルにおける1700~2500nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき、当該鶏卵の雌雄を判定する。
【0065】
こうした可視及び近赤外スペクトルに基づく雌雄判定の手法の詳細は、以下のとおり、光照射工程、光検出工程、スペクトル取得工程、及び雌雄判定工程からなる。
【0066】
このうち光照射工程は、鶏卵1に可視光領域から近赤外光領域に属する波長を有する光を照射する程である。ここで「可視光」は、可視光に相当する400~750nmの波長領域を含む、400~900nmの波長領域に属する波長を有する光である。また、「近赤外光」は、900~2500nmの波長領域に属する波長を有する光を意味する。
【0067】
例えば、「可視光領域から近赤外光領域に属する波長を有する光」は、400~2500nmの波長領域に属する波長を有する光を意味する。
【0068】
本工程において照射される光(以下、「照射光」とも記載する)は、400~2500
nmの波長領域に属する波長を有することが好ましく、400~900nmの範囲及び
170~2500nmの範囲の波長領域に属する波長を有することがより好ましい。
【0069】
照射光は、上述の範囲の波長領域に属する全ての波長を連続的に有する光であってもよく、当該範囲の波長領域に属する一部の波長(例えば特定の波長)を有する光であってもよい。上述の範囲の波長領域に属する波長を有する光を照射することにより、以下において説明する雌雄判定工程において、高精度での雌雄判定を行うことができる。また、特定の波長、例えば400~900nmの範囲及び1700~2500nmの範囲の波長領域に属する波長を有する光を選択的に照射することにより、波長掃引範囲を狭くし本工程の実施に要する時間を短縮することができる。
【0070】
本工程において、照射光は、鶏卵に対して様々な方向から照射することができる。例えば、一実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と直交する
ように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の上方から動物極又は胚を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して0~50°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と
平行な面上において該長軸線と平行な方向に)照射される光である(以下、「第一の実施形態」とも記載する)。
【0071】
別の一実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の側方から動物極又は胚を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して0~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む水平
面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)照射される光である(以下、「第二又は第四の実施形態」とも記載する)。
【0072】
別の一実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の上方から動物極又は胚を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)照射される光である(以下、「第三又は第六の実施形態」とも記載する)。
【0073】
別の一実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の下方から動物極又は胚を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)照射される光である(以下、「第五の実施形態」とも記載する)。
【0074】
好ましい第一の実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と直交するように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の上方から動物極又は胚を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と平行な方向に照射される光である。
【0075】
好ましい第二又は第四の実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の側方から動物極又は胚を通過するように、該長軸線を含む水平面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に照射される光である。
【0076】
好ましい第三又は第六の実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の上方から動物極又は胚を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に照射される光である。
【0077】
好ましい第五の実施形態において、照射光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵に対し、該鶏卵の下方から動物極又は胚を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に照射される光である。
【0078】
上述にて例示した各実施形態において、鶏卵の動物極又は胚の位置を検卵器で事前に確認し、動物極又は胚が照射光の入射方向になるように鶏卵を配置することが好ましい。照射光が動物極又は胚を通過するように本工程を実施することにより、以下において説明する各工程において動物極又は胚に含まれる血液及び/又は各種成分の情報を得て、高精度で雌雄判定を行うことができる。
【0079】
本実施形態において、「平行」、「垂直」及び「直交」とは、直線及び/又は面が完全
に又は略平行、垂直若しくは直交の位置関係にあることを意味する。
【0080】
通常、本工程は、鶏卵1と照射光との配置を、上述にて説明した位置関係にするために、鶏卵を固定した状態で実施される。このため、本工程において、鶏卵を上述の配置にするために、孵卵トレー2が使用されることが好ましい。孵卵トレー2を使用する場合、鶏卵は、例えば孵卵トレー2の上面に載置される。
【0081】
本実施形態において、「動物極又は胚を通過するように」及び「卵黄を通過するように」とは、鶏卵内の動物極又は胚、或いは卵黄の少なくとも一部分を光が通過することを意味する。
【0082】
動物極又は胚を通過するような位置とは、例えば、鶏卵の鋭端部から15~30mmの範囲、典型的には17~25 mmの範囲を意味する。また、卵黄を通過するような位置とは、例えば
、鶏卵の鋭端部から20~60 mmの範囲、典型的には27~52 mmの範囲を意味する。
【0083】
本工程は、鶏卵及び孵卵トレーを収容する収容部材の内部で光を照射することにより実施することが好ましい。収容部材は、暗箱のように外部の光を実質的に遮断できる部材であることが好ましい。収容部材の内部で本工程を実施することにより、外部の光の影響を実質的に抑制して、より高精度で雌雄判定を行うことができる。
【0084】
また、光検出工程において、上述の光照射工程で照射された光が鶏卵1を透過することにより鶏卵外に放出される光を「透過光」と、光照射工程で照射された光が鶏卵内で反射することにより鶏卵外に放出される光を「反射光」と、それぞれ記載する場合がある。
【0085】
透過光及び反射光は、光照射工程における光の照射位置及び本工程における光の検出位置の組合せに基づき選択することができるものの、透過光及び反射光を、互いに厳密に分離することは困難である。それ故、本実施形態において、透過光は、一定の割合で反射光を含んでもよく、反射光は、一定の割合で透過光を含んでもよい。
【0086】
また、本実施形態において、鶏卵外に放出される透過光を検出して雌雄判定を行う実施形態を「透過法」と、鶏卵外に放出される反射光を検出して雌雄判定を行う実施形態を「反射法」と、それぞれ記載する場合がある。
【0087】
本工程において検出される透過光又は反射光は、400~2500 nmの波長領域に属する波長を有することが好ましく、400~900 nmの範囲及び1700~2500 nmの範囲の波長領域に属する波長を有することがより好ましい。
【0088】
透過光又は反射光は、上述の範囲の波長領域に属する全ての波長を連続的に有する光であってもよく上述の範囲の波長領域に属する一部の波長(例えば特定の波長)を有する光であってもよい。
【0089】
上述の範囲の波長領域に属する波長を有する透過光又は反射光を検出することにより、以下において説明する雌雄判定工程において、高精度で雌雄判定を行うことができる。また、特定の波長、例えば400~900 nmの範囲及び1700~2500 nmの範囲の波長領域に属する波長を有する透過光又は反射光を選択的に検出することにより、波長掃引範囲を狭くし本工程の実施に要する時間を短縮することができる。
【0090】
本工程においては、鶏卵に対して様々な方向に放出される光を検出することができる。例えば、一実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と直交するように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の側方に放出される光(透
過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線と直交する水平面上において該長軸線と直交する方向に)放出される光(透過光)である(以下、「第一の実施形態」とも記載する)。
【0091】
別の一実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の下方に放出される光(透過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)放出される光(透過光)である(以下、「第二又は第三の実施形態」とも記載する)。
【0092】
別の一実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の側方に放出される光(透過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して0~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む水平面と平行な面上において該長軸
線と直交する方向に)放出される光である(以下、「第四の実施形態」とも記載する)。
【0093】
別の一実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵の内部で反射することにより該鶏卵の下方に放出される光(反射光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線に対して45°の方向に)放出される光(反射光)である(以下、「第五の実施形態」とも記載する)。
【0094】
別の一実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵の内部で反射することにより該鶏卵の上方に放出される光(反射光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように任意の方向に(例えば、該長軸線に対して40~90°の範囲の方向に、特に該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)放出される光(反射光)である(以下、「第六の実施形態」とも記載する)。
【0095】
好ましい第一の実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と直交するように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の側方に放出される光(透過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように、該長軸線と直交する水平面上において該長軸線と直交する方向に放出される光(透過光)である。
【0096】
好ましい第二又は第三の実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の下方に放出される光(透過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に)放出される光(透過光)である。
【0097】
好ましい第四の実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵を透過することにより該鶏卵の側方に放出される光(透過光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように、該長軸線を含む水平面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に放出される光である。
【0098】
好ましい第五の実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵の内部で反射することにより該鶏卵の下方に放
出される光(反射光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線に対して45°の方向に放出される光(反射光)である。
【0099】
好ましい第六の実施形態において、検出される光は、鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行となるように配置された鶏卵の内部で反射することにより該鶏卵の上方に放出される光(反射光)であって、且つ該鶏卵の卵黄を通過するように、該長軸線を含む垂直面と平行な面上において該長軸線と直交する方向に放出される光(反射光)である。
【0100】
前記で例示した各実施形態において、鶏卵の卵黄の位置を検卵器で事前に確認し、透過光又は反射光が卵黄を通過するように鶏卵を配置することが好ましい。透過光又は反射光が卵黄を通過するように本工程を実施することにより、以下において説明する各工程において動物極又は胚に含まれる血液及び/又は各種成分の情報を得て、高精度で雌雄判定を行うことができる
また、上述の工程は、前記で説明した収容部材の内部で光を検出することにより実施することが好ましい。収容部材の内部で本工程を実施することにより、外部の光の影響を実質的に抑制して、より高精度で雌雄判定を行うことができる。
【0101】
続いて、スペクトル取得工程は、上述の光検出工程で検出された光の可視及び近赤外スペクトルを取得する工程である。
【0102】
本工程は、光検出工程で検出された光に基づき、可視及び近赤外スペクトルを生成することによって実施される。可視及び近赤外スペクトルを生成するための手段としては、当該技術分野で通常使用される可視及び近赤外分光装置を挙げることができる。
【0103】
可視及び近赤外分光装置には、通常は、可視及び近赤外分光装置の制御プログラムに加えて、スペクトルデータの解析プログラムを格納するデータ解析装置が接続されている。それ故、可視及び近赤外分光装置を用いることにより、短時間で可視及び近赤外スペクトルを生成し、スペクトルデータを解析することができる。
【0104】
本工程において取得する可視及び近赤外スペクトルは、そのままの状態のスペクトルであってもよく、該スペクトルを二次微分処理した二次微分スペクトルであってもよい。ベースライン変化の影響等を低減し得ることから、二次微分スペクトルであることが好ましい。本工程において二次微分スペクトルを取得することにより、高精度で雌雄判定を行うことができる。
【0105】
続いて、雌雄判定工程は、上述のスペクトル取得工程で取得された可視及び近赤外スペクトルのスペクトルデータに基づき、鶏卵1の雌雄を判定する工程である。
【0106】
本工程において、スペクトルデータに基づき、鶏卵1の雌雄を判定するための手段としては、例えば、当該技術分野で公知の多変量解析を適用することができる。多変量解析としては、例えば、主成分分析、及びPLS判別分析(Partial least square discriminant
analysis, PLS-DA)を挙げることができる。
【0107】
主成分分析を用いて本工程を実施する場合、以下の手順で実施すればよい。まず、雌雄判定モデルを作成する。雌雄が既知の所定数の鶏卵を用いて光照射工程、光検出工程及びスペクトル取得工程を実施して、雌雄それぞれの標準の可視及び近赤外スペクトルを取得する。取得する可視及び近赤外スペクトルは、二次微分スペクトルであることが好ましい。標準の可視及び近赤外スペクトルを取得するために使用する鶏卵の雌雄判定は、当該技術分野で公知の雌雄判定手段を適用して実施すればよい。公知の雌雄判定手段としては、
例えば、鶏卵の胚及び血液の試料を採取し、採取した試料から抽出したDNAを用いて、雌
雄特異的プライマーによるマルチプレックスPCR法にて雌雄判定を行う遺伝子解析法、及
び採取した試料を機器分析して、試料中の成分濃度(例えば、ホルモン濃度)により雌雄判定を行う方法を挙げることができる。
【0108】
前記で例示した雌雄判定手段は、標準の可視及び近赤外スペクトルを取得した後で使用した鶏卵を割卵し、試料を採取して実施すればよい。次いで、雌雄それぞれの標準のスペクトルデータ群に対して主成分分析を実施する。雌雄それぞれの標準の主成分空間において、マハラノビス距離を用いて外れ値を検出して、外れ値を除いた主成分スコアプロットを得ることが好ましい。得られた主成分スコアプロットを、雌雄判定モデルとして使用することができる。
【0109】
次いで、測定対象となる鶏卵について、光照射工程、光検出工程及びスペクトル取得工程を実施して、可視及び近赤外スペクトルを取得する。取得する可視及び近赤外スペクトルは、二次微分スペクトルであることが好ましい。取得した可視及び近赤外スペクトルのスペクトルデータに対して主成分分析を実施して、得られた主成分スコアを雌雄判定モデルの主成分空間に適用して、雌雄を判定する。
【0110】
この場合、測定対象の鶏卵の主成分スコアを雌雄判定モデルの主成分空間に適用する手段としては、例えば、主成分空間における残差分散法、波長による最大距離法、及び主成分空間におけるマハラノビス距離を挙げることができる。
【0111】
本工程において、多変量解析による雌雄判定モデルの作成及び測定対象の雌雄判定は、例えば、当該技術分野で通常使用される市販の多変量解析用ソフトウェアをインストールしたコンピューター等のデータ解析装置を使用して行ってもよく、前記スペクトル取得工程で使用した可視及び近赤外分光装置に接続されているコンピューター等のデータ解析装置を使用して行ってもよい。可視及び近赤外分光装置に接続されているデータ解析装置には、通常は、スペクトルデータの多変量解析を実行するためのプログラムが格納されている。それ故、可視及び近赤外分光装置に接続されているデータ解析装置を用いて本工程を実施することにより、低コストで雌雄判定を行うことができる。
【0112】
本工程において、多変量解析による雌雄判定モデルの作成は、本工程を実施する度に行ってもよい。しかしながら、雌雄判定モデルは、予め作成した該モデルのデータを雌雄判定装置100のストレージ101に格納しておき、測定対象の鶏卵に対して本工程を実施する際に呼び出して使用することが好ましい。本実施形態の場合、雌雄判定の時間を短縮することができる。
【0113】
本工程において、1700~2500 nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき雌雄判
定を行うことにより、高精度で雌雄判定を行うことができることが判明した。本工程において使用するスペクトルデータの波長領域は、1700~2500 nmの範囲であり、1700~2200nmの範囲又は1800~2500 nmの範囲であることが好ましく、1800~2200 nmの範囲であるこ
とがより好ましい。
【0114】
本工程において使用するスペクトルデータは、前記範囲の波長領域に属する全ての波長を連続的に有する光のスペクトルデータであってもよく、前記範囲の波長領域に属する一部の波長(例えば特定の波長)を有する光のスペクトルデータであってもよい。
【0115】
前記波長領域は、長波長側の近赤外光領域に属する。長波長側の波長領域のスペクトルデータからは、卵殻及び鶏卵内部に含まれるタンパク質及び脂肪等の各種成分の情報を得ることができる。鶏卵内部、特に卵黄の動物極又は胚に含まれる各種成分は、雌雄によっ
てその組成に僅かな相違があると考えられる。それ故、前記範囲の長波長側の近赤外光領域のスペクトルデータに基づき本工程を実施することにより、卵殻及び鶏卵内部に含まれる各種成分の組成の僅かな相違に基づき、高精度で雌雄判定を行うことができる。
【0116】
続いて雌雄判定装置100におけるモデル作成エンジン1011による処理について、
図8Bのフローに基づき説明する。この場合、雌雄判定装置100は、上述の
図8Aのフローにおけるs3、s4で得られた鶏卵1の画像データに、s5で得ている(別のアルゴリズムによる高精度な)雌雄判定結果をラベルとして紐付ける(s10)。
【0117】
続いて、雌雄判定装置100は、s10でラベルを紐付けた画像データについて、例えば、不要なデータを削除して特徴データを強調するといった適宜な加工処理を実行し、学習データを作成する(s11)。なお、雌雄判定装置100は、ここで作成した学習データを、学習データDB1013に格納するものとする。
【0118】
また、雌雄判定装置100は、s11で得た学習データを、モデル作成エンジン1011に与えて機械学習を進めることで、雌雄判定モデル1012を作成し(s12)、処理を終了する。なお、雌雄判定装置100は、ここで作成した雌雄判定モデル1012をストレージ101に格納し、保持するものとする。
<フロー例:雌雄判定>
上述の
図8A、
図8Bで示すフローによる処理は、孵卵開始後6日以内の大量の鶏卵に関して実施し、雌雄判定モデル1012を生成するためのものであった。一方、そうした雌雄判定モデル1012を利用して、孵卵開始初期の鶏卵1に関して精度良く雌雄判定を行うフローについて、
図9~
図11に基づき説明する。
【0119】
ここで、雌雄判定装置100は、孵卵トレー2上の鶏卵1それぞれについて、全ての撮影日数分(すなわち孵卵開始から6日目までの計6日分)、本フローを実行するものとする。
【0120】
雌雄判定装置100は、例えば、孵卵トレー2上の鶏卵に関して、孵卵開始から2日目ないし3日目といった規定の孵卵日数に至ったか、孵卵管理用のシステム等から孵卵日数の情報を得るなどして検知する(s30)。
【0121】
続いて、雌雄判定装置100は、可視光カメラ12に対して、鶏卵画像の撮影データ採取指示を送信(撮影・データ採取方法1~n)する(s31)。これを受けた可視光カメラ12は、各方法での鶏卵1の撮影を実行し(s32)、画像データを得ることとなる。
【0122】
また、雌雄判定装置100は、上述の可視光カメラから、鶏卵1の画像データを取得する(s33)。この場合、可視光カメラ12の管理システムが、ネットワーク5を介して、雌雄判定装置100への画像データ配信を行うといった運用を想定できる。
【0123】
続いて、雌雄判定装置100は、判定手法設定パラメータ1016の設定値を参照し、雌雄判定のアルゴリズムを特定する(s34)。
【0124】
上述の判定の結果、採用すべきアルゴリズムが「即時判定」であった場合(s34:YES)、雌雄判定装置100は、
図10のフローで示す、一連の即時判定処理を実行する(s35)。
【0125】
この場合、雌雄判定装置100は、
図5で示す閾値パラメータ1015の、撮影・データ採取方法および日目、の各欄で規定の値に合わせて、対応する可視光カメラ12による、対応する孵卵日数での鶏卵1の画像データを、雌雄判定モデル1012に入力して、雌
雄判定を実行する(s351、s354、・・・s357)。
【0126】
その判定の結果、当該鶏卵1の性別がメスであった場合(s352、s355、s358にて「雌」判定)、雌雄判定装置100は、当該日目の当該鶏卵1の雌雄判定結果を、判定結果DB1014における該当欄に格納し、処理を終了する。
【0127】
他方、上述の判定の結果、当該鶏卵1の性別がオスであった場合(s352、s355、s358にて「雄」判定)、雌雄判定装置100は、次の日目や撮影・データ採取方法での画像データに関して雌雄判定モデル1012での雌雄判定を同様に実施する。そうした一連の雌雄判定の結果、いずれの日目でも「雄」との判定結果が出た場合、当該鶏卵1は孵卵対象外としてマーキングするか、または孵卵トレー2から排出し、処理を終了する。
【0128】
ここで
図9のフローにおける説明に戻る。一方、上述のs34での判定の結果、採用すべきアルゴリズムが「総合判定」であった場合(s34:NO)、雌雄判定装置100は、
図11のフローで示す、一連の総合判定処理を実行する(s36)。
【0129】
この場合、雌雄判定装置100は、
図10でのフローで示したような、各日目、各撮影・データ採取方法による画像データについて、それぞれ雌雄判定モデル1012に入力して雌雄判定結果を取得する(s361~s363)。
【0130】
また、雌雄判定装置100は、s363までで得た各雌雄判定結果について、
図5の閾値パラメータ1015で規定の「メス判定閾値」及び「重み付け」に従い、総合判定処理を実行する(s364)。この処理は、例えば、3日目の画像データが、雌らしさに関して90%以上であるか否かにより雌雄判定を行い、またその判定結果(例:雌の場合は“1”、雄の場合は“0”)に重み付け値を乗算する処理を、例えば、これまで得られている日目までの各画像データについて実行し、各日目に関して得た乗算結果の値の例えば平均値が、所定の閾値以上であれば当該鶏卵1の性別はメス、と判定し(s365:メス)、処理を終了する。
【0131】
一方、上述の判定の結果、平均値が、所定の閾値以下であれば当該鶏卵1の性別はオス、と判定し(s365:オス)、当該鶏卵1は孵卵対象外としてマーキングするか、または孵卵トレー2から排出し(s367)、処理を終了する。
【0132】
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0133】
こうした本実施形態によれば、鶏卵における胚が痛覚を獲得すると考えられている孵卵後7日目までに雌雄判定が可能となる。そのため、雄となる可能性が高い卵を(痛覚を感じないまま)孵化前に早期に取り除き、雄雛の殺処分を実質的に回避できる。
【0134】
また、雌となる可能性が高い卵を的確に選別して孵卵することが可能であり、孵卵に要するコストの低減及び採卵鶏の生産効率化を図ることができる。
【0135】
ひいては、卵生産業の課題となっている、雌雄判定作業者不足や雄の雛の殺処分に対するアニマルウェルフェア対応、卵の孵化費用・殺処分費用低減、などの課題解決が可能となる。
【0136】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の雌雄判定装置において、前記照射手段は、可視光領域から近赤外光領域に属する波長の
光を照射するものであり、前記撮影手段は、可視光カメラである、としてもよい。
【0137】
これによれば、一般的な撮影手段である可視光カメラでの簡便で低コストでの運用が可能となる。ひいては、孵卵早期に高精度で低コストな雌雄判定を非破壊的に実施可能となる。
【0138】
また、本実施形態の雌雄判定装置において、前記照射手段により照射された光が鶏卵を透過するか又は鶏卵内で反射することにより、鶏卵外に放出される光を検出する光検出手段と、前記光検出手段で検出された光の可視及び近赤外スペクトルを取得するスペクトル取得手段と、前記スペクトル取得手段で取得された可視及び近赤外スペクトルにおける1700~2500nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき、前記鶏卵の雌雄を判定する雌雄判定手段と、を更に備え、前記雌雄判定手段による判定結果を、前記別途判定した結果として用いるとしてもよい。
【0139】
これによれば、雌雄判定モデルを高精度なものとすることにつながり、ひいては、孵卵早期により高精度な雌雄判定を非破壊的に実施可能となる。
【0140】
また、本実施形態の雌雄判定方法において、前記照射工程は、可視光領域から近赤外光領域に属する波長の光を照射するものであり、前記撮影工程は、可視光カメラにより前記撮影を行うものである、としてもよい。
【0141】
また、本実施形態の雌雄判定方法において、前記照射工程により照射された光が鶏卵を透過するか又は鶏卵内で反射することにより、鶏卵外に放出される光を検出する光検出工程と、前記光検出工程で検出された光の可視及び近赤外スペクトルを取得するスペクトル取得工程と、前記スペクトル取得工程で取得された可視及び近赤外スペクトルにおける1700~2500nmの範囲の波長領域のスペクトルデータに基づき、前記鶏卵の雌雄を判定する雌雄判定工程と、を更に備え、前記雌雄判定工程による判定結果を、前記別途判定した結果として用いるとしてもよい。
【符号の説明】
【0142】
1 鶏卵
2 孵卵トレー
5 ネットワーク
10 雌雄判定システム
11 光源(照射手段)
12 可視光カメラ(撮影手段)
100 雌雄判定装置
101 ストレージ
1011 モデル作成エンジン
1012 雌雄判定モデル
1013 学習データDB
1014 判定結果DB
1015 閾値パラメータ
1016 判定手法設定パラメータ
102 プログラム
103 メモリ
104 CPU
105 通信装置
150 端末
200 画像収集サーバ
201 ストレージ
2011 撮影画像DB
202 プログラム
203 メモリ
204 CPU
205 通信装置