(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141878
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20230928BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230928BHJP
【FI】
H01M4/86 Z
H01M4/86 T
H01M8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048429
(22)【出願日】2022-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/超高効率プロトン伝導セラミック燃料電池デバイスの研究開発(WP1 革新的高性能電極・部材の開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】籠宮 功
(72)【発明者】
【氏名】八木 祐太朗
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE11
5H126AA06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】PCFC用の電極材料のプロトン導電率を正確に測定できるプロトン導電率測定装置及びプロトン導電率測定方法の提供。
【解決手段】筐体10の内部は焼結体200が配置された際に焼結体200で第1空間41と第2空間42とに区画され、第1空間41内に導入された第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aを測定する第1ガス分析手段31と、第1空間41内から第1空間41外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bを測定する第2ガス分析手段32と、流速密度aと流速密度bの差から焼結体200を透過した水素の流速密度を算出し下記式(1)に基づいて焼結体200のプロトン導電率を算出する算出手段38とを備えるプロトン導電率測定装置1。
[数1]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン導電性セラミックスの焼結体のプロトン導電率を測定するときに用いられる装置であって、
内部に前記焼結体を配置する筐体と、第1ガス導入管と、第2ガス導入管とを有し、
前記筐体の内部は、前記焼結体が配置された際に、前記焼結体で第1空間と第2空間とに区画され、
前記第1ガス導入管は、前記第1空間内に第1ガスを導入し、
前記第2ガス導入管は、前記第2空間内に、前記第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、前記第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入し、
前記第1空間内に導入するに含まれる水蒸気の流速密度aを測定する第1ガス分析手段と、
前記第1空間内から前記第1空間外へ流出する第第1ガス3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bを測定する第2ガス分析手段と、
前記流速密度aと前記流速密度bの差から、前記焼結体を透過した水素の流速密度J
H2を算出し、下記式(1)に基づいて、前記焼結体のプロトン導電率を算出する算出手段と、
を備える、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【数1】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【請求項2】
前記焼結体の外縁部と前記筐体の間に介在するシール材を備える、請求項1に記載の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【請求項3】
前記第1空間内に導入する第1ガスの流量を制御する第1ガス流量調節手段と、
前記第1空間内に導入する第1ガスの水蒸気分圧を制御する第1ガス水蒸気分圧制御手段と、
前記第2空間内に導入する第2ガスの流量を制御する第2ガス流量調節手段と、
前記第2空間内に導入する第2ガスの水蒸気分圧を制御する第2ガス水蒸気分圧制御手段と、
を備える、請求項1または2に記載の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【請求項4】
プロトン導電性セラミックスの焼結体のプロトン導電率の測定方法であって、
前記焼結体を介して第1空間と第2空間を形成し、
前記第1空間内に第1ガスを導入し、前記第2空間内に前記第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、前記第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入して、前記第2空間から前記第1空間に向かって前記焼結体に水素を透過させて、前記第1空間内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aと前記第1空間内から前記第1空間外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bの差から、前記焼結体を透過した水素の流速密度J
H2を算出し、下記式(1)に基づいて、前記焼結体のプロトン導電率を算出する、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法。
【数2】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン導電性セラミック燃料電池(Proton-conducting Ceramic-electrolyte Fuel Cell:PCFC)は、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配された固体電解質とを備え、固体電解質としてプロトン導電性セラミックスを用いた燃料電池である。プロトン導電性セラミックスは、従来の固体酸化物形燃料電池に用いられる酸化物イオン導電性のセラミックスに比べて、より低い温度で良好なプロトン導電性を示す。また、燃料極側に水蒸気が発生しないため燃料である水素が希釈されない。従って、PCFCは、より低い温度で発電効率が高い燃料電池として期待されている。
【0003】
PCFCの発電効率を上げるには、空気極で固体電解質を伝導したプロトンをより多く取り入れて、空気極の表面で水素と酸素を反応させる必要がある。より多くのプロトンが空気極を伝導すれば、より多くの水素と酸素が反応するため、PCFCの発電効率が向上する。したがって、より多くのプロトンを伝導する(プロトン導電率が高い)空気極を形成することができる電極材料(PCFC用電極材料)が求められている。
【0004】
PCFC用電極材料のプロトン導電率の測定方法としては、例えば、起電力法による電極材料の輸率測定と電極材料の全導電率測定とを組み合わせた測定方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、還元雰囲気下、かつ水素圧力差圧下における、電極材料の水素透過による測定方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C. Zhou, J. Sunarso, Y. Song, J. Dai, J. Zhang, B. Gu, W. Zhou and Z. Shao, “New reduced-temperature ceramic fuel cells with dual-ion conducting electrolyte and triple-conducting double perovskite cathode”, J. Mater. Chem. A 7 13265-13274 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、測定対象とする電極材料の電子導電率が、その電極材料のプロトン導電率に比べて非常に高いことから、電極材料の起電力が極めて小さくなる。そのため、特許文献1の方法では、プロトン導電率を正確に測定することが難しかった。
また、非特許文献1の方法では、強還元雰囲気下で電極材料が変質、分解するため、Pd被膜により電極材料を保護する必要がある。この場合、Pd膜と電極材料の界面の効果により電極材料本来のプロトン導電率を正確に測定することが難しかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、プロトン導電性セラミック燃料電池用の電極材料のプロトン導電率を正確に測定することができる燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]プロトン導電性セラミックスの焼結体のプロトン導電率を測定するときに用いられる装置であって、
内部に前記焼結体を配置する筐体と、第1ガス導入管と、第2ガス導入管とを有し、
前記筐体の内部は、前記焼結体が配置された際に、前記焼結体で第1空間と第2空間とに区画され、
前記第1ガス導入管は、前記第1空間内に第1ガスを導入し、
前記第2ガス導入管は、前記第2空間内に、前記第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、前記第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入し、
前記第1空間内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aを測定する第1ガス分析手段と、
前記第1空間内から前記第1空間外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bを測定する第2ガス分析手段と、
前記流速密度aと前記流速密度bの差から、前記焼結体を透過した水素の流速密度JH2を算出し、下記式(1)に基づいて、前記焼結体のプロトン導電率を算出する算出手段と、
を備える、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【0010】
【数1】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【0011】
[2]前記焼結体の外縁部と前記筐体の間に介在するシール材を備える、[1]に記載の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【0012】
[3]前記第1空間内に導入する第1ガスの流量を制御する第1ガス流量調節手段と、
前記第1空間内に導入する第1ガスの水蒸気分圧を制御する第1ガス水蒸気分圧制御手段と、
前記第2空間内に導入する第2ガスの流量を制御する第2ガス流量調節手段と、
前記第2空間内に導入する第2ガスの水蒸気分圧を制御する第2ガス水蒸気分圧制御手段と、
を備える、[1]または[2]に記載の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置。
【0013】
[4]プロトン導電性セラミックスの焼結体のプロトン導電率の測定方法であって、
前記焼結体を介して第1空間と第2空間を形成し、
前記第1空間内に第1ガスを導入し、前記第2空間内に前記第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、前記第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入して、前記第2空間から前記第1空間に向かって前記焼結体に水素を透過させて、前記第1空間内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aと前記第1空間内から前記第1空間外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bの差から、前記焼結体を透過した水素の流速密度JH2を算出し、下記式(1)に基づいて、前記焼結体のプロトン導電率を算出する、燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法。
【0014】
【数2】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プロトン導電性セラミック燃料電池用の電極材料のプロトン導電率を正確に測定することができる燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法を示す模式図である。
【
図3】PrNi
0.5Co
0.5O
3-δ(PNC)試料を破断した破断面を観察した走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】PNC試料を研磨した研磨面を観察した走査型電子顕微鏡像である。
【
図5】PNC試料の放射光粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図6】PNC試料の全導電率と温度の関係を示す図である。
【
図7】PNC試料を透過する水素の流速密度と、第1空間の空気に含まれる水蒸気の分圧に対する第2空間の空気に含まれる水蒸気の分圧の比との関係を示す図である。
【
図8】PNC試料のプロトン導電率と温度の関係を示す図である。
【
図9】PNC試料のプロトン導電率と温度のアレニウスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
[燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置(以下、「プロトン導電率測定装置」と略すこともある。)1は、筐体10と、第1ガス導入管21と、第2ガス導入管22と、第1ガス分析手段31と、第2ガス分析手段32と、算出手段38と、を備える。筐体10の内部は、焼結体200が配置された際に、焼結体200で第1空間41と第2空間42とに区画される。第1ガス導入管21は、第1空間41内に配置されている。第2ガス導入管22は、第2空間42内に配置されている。第1ガス分析手段31は、第1ガス導入管21に第1ガス(空気等)を導入する配管111の途中に配置されている。第2ガス分析手段32は、第1空間41内から第1空間41外へ第3ガス(空気等)を流出させる配管112の途中に配置されている。算出手段38は、第1ガス分析手段31および第2ガス分析手段32に接続されている。
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、プロトン導電性セラミック燃料電池(PCFC)の電極材料として用いられ、筐体10内に収容(配置)したプロトン導電性セラミックスの焼結体200のプロトン導電率を測定する装置である。
【0019】
筐体10は、例えば、鉛直方向に延びるように配置される。筐体10は、円筒であっても、多角筒であってもよい。筐体10は、例えば、焼結体200を介して互いに突き合わせる第1筐体11および第2筐体12を有する。筐体10の内部は、焼結体200が配置された際に、焼結体200で第1空間41と第2空間42とに区画される。焼結体200は、その厚さ方向が、第1筐体11の長さ方向および第2筐体12の長さ方向に平行となるように配置される。第1空間41は、第1筐体11と焼結体200によって形成される。第2空間42は、第2筐体12と焼結体200によって形成される。
なお、
図1において、説明を簡単にするために、第1筐体11および第2筐体12を開放しているが、第1筐体11および第2筐体12は配管111~114の挿入部以外が閉じていることが好ましい。
【0020】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、焼結体200の外縁部と第1筐体11の間に介在するシール材51と、焼結体200の外縁部と第2筐体12の間に介在するシール材52とを備えることが好ましい。シール材51を備えることにより、第1空間41内の第1ガスが第1筐体11の外部に漏れることを防止できる。シール材52を備えることにより、第2空間42内の第2ガス(空気等)が第2筐体12の外部に漏れることを防止できる。また、シール材51とシール材52とを備えることにより、第1空間41内の第1ガスと第2空間42内の第2ガスが混ざり合うことを防止できる。従って、焼結体200のプロトン導電率を正確に測定することができる。
【0021】
第1ガス導入管21は、第1空間41内に配置され、第1空間41内に第1ガスを導入するためのものである。
第2ガス導入管22は、第2空間42内に配置され、第2空間42内に第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入するためのものである。
【0022】
第1ガス分析手段31は、第1空間41内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aを測定するためのものである。第1ガス分析手段31は、第1ガス導入管21に第1ガスを導入する配管111の途中に配置されている。
第2ガス分析手段32は、第1空間41内から第1空間41外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bを測定するためのものである。第2ガス分析手段32は、第1空間41内から第1空間41外へ第3ガスを流出させる配管112の途中に配置されている。
【0023】
算出手段38は、流速密度aと流速密度bの差から、焼結体200を透過した水素の流速密度(JH2)を算出し、下記式(1)に基づいて、焼結体200のプロトン導電率を算出する。
算出手段38は、第1ガス分析手段31および第2ガス分析手段32に接続されている。算出手段38としては、例えば、パーソナルコンピュータ等の演算装置が挙げられる。
【0024】
【数3】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【0025】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第1空間41内に導入する第1ガスの流量を制御する第1ガス流量調節手段61を有することが好ましい。第1ガス流量調節手段61は、配管111の途中に配置されている。第1ガス流量調節手段61は、第1空間41内に導入する第1ガスの流量を調節する。
【0026】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第2空間42内に導入する第2ガスの流量を制御する第2ガス流量調節手段62を有することが好ましい。第2ガス流量調節手段62は、配管113の途中に配置されている。第2ガス流量調節手段62は、第2空間42内に導入する第2ガスの流量を調節する。
【0027】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第1空間41内に導入する第1ガスの水蒸気分圧を制御する第1ガス水蒸気分圧制御手段71を有することが好ましい。第1ガス水蒸気分圧制御手段71は、配管111の途中に配置されている。第1ガス水蒸気分圧制御手段71は、第1空間41内に導入する第1ガスの水蒸気分圧を、第2空間42内に導入する第2ガスの水蒸気分圧よりも低く制御する。
【0028】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第2空間42内に導入する第2ガスの水蒸気分圧を制御する第2ガス水蒸気分圧制御手段72を有することが好ましい。第2ガス水蒸気分圧制御手段72は、第2空間42に第2ガスを導入する配管113の途中に配置されている。第2ガス水蒸気分圧制御手段72は、第2空間42内に導入する第2ガスの水蒸気分圧を、第1空間41内に導入する第1ガスの水蒸気分圧よりも高く制御する。
【0029】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第2空間42内に導入する第2ガスに含まれる水蒸気の流速密度を測定するための第3ガス分析手段33を備えることが好ましい。第3ガス分析手段33は、第2ガス導入管22に第2ガスを導入する配管113の途中に配置されている。
【0030】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第2空間42内から第2空間42外へ流出する第4ガス(空気等)に含まれる水蒸気の流速密度を測定するための第4ガス分析手段34を備えることが好ましい。第4ガス分析手段34は、第2空間42内から第2空間42外へ第4ガスを流出させる配管114の途中に配置されている。
【0031】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第1空間41と第2空間42にガス(空気等)を供給するためのガス供給手段81を有することが好ましい。ガス供給手段81は、配管111と配管113に接続されている。
【0032】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、筐体10の内部に配置した焼結体200を加熱する加熱炉91を備えることが好ましい。加熱炉91は、焼結体200を配置した筐体10の外周側に配置されている。
【0033】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第1空間41内の第1ガスの温度を測定する温度計101を備えることが好ましい。温度計101は、第1空間41内に配置される。
【0034】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1は、第2空間42内の第2ガスの温度を測定する温度計102を備えることが好ましい。温度計102は、第2空間42内に配置される。
【0035】
筐体10としては、第1空間41内および第2空間42内に導入したガスによって劣化することなく、加熱炉91の熱によって変形したり、変質したりすることがない材質から構成されるものであれば、特に限定されない。筐体10の材質としては、例えば、酸化アルミニウム、石英ガラス等が挙げられる。
【0036】
シール材51、52としては、第1空間41内および第2空間42内に導入したガスによって劣化することなく、加熱炉91の熱によって変形したり、変質したりすることがない材質から構成されるものであれば、特に限定されない。シール材51、52の材質としては、例えば、溶融可能な金属、ガラス等が挙げられる。溶融可能な金属としては、例えば、銀や金が挙げられる。
【0037】
焼結体200は、プロトン導電性セラミックスを板状に焼結したものであり、例えば、円盤状のものである。焼結体200が円盤状である場合、直径は10mm~25mmが好ましい。
焼結体200の厚さは、0.5mm~1.5mmが好ましい。
【0038】
本実施形態のプロトン導電率測定装置1によれば、第1空間41内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aを測定する第1ガス分析手段31と、第1空間41内から第1空間41外へ流出する空気に含まれる水蒸気の流速密度bを測定する第2ガス分析手段32と、流速密度aと流速密度bの差から、焼結体200を透過した水素の流速密度(JH2)を算出し、上記式(1)に基づいて、焼結体200のプロトン導電率を算出する算出手段38とを備える。そのため、焼結体200のプロトン導電率を直接的に測定することができるから、焼結体200の電子導電率が、焼結体200のプロトン導電率に比べて非常に高い場合であっても、焼結体200プロトン導電率を正確に測定することができる。
【0039】
[燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法]
本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法は、プロトン導電性セラミックスの焼結体のプロトン導電率の測定方法であって、前記焼結体を介して第1空間と第2空間を形成し、前記第1空間内に第1ガスを導入し、前記第2空間内に前記第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、前記第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入して、前記第2空間から前記第1空間に向かって前記焼結体に水素を透過させて、前記第1空間内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aと前記第1空間内から前記第1空間外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bの差から、前記焼結体を透過した水素の流速密度(JH2)を算出し、下記式(1)に基づいて、前記焼結体のプロトン導電率を算出する。
【0040】
【数4】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度を示す。)
【0041】
図2は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法(以下、「プロトン導電率測定方法」と略すこともある。)を示す模式図である。
なお、
図2において、説明を簡単にするために、第1筐体11および第2筐体12を開放しているが、第1筐体11および第2筐体12は、上記の配管111~114の挿入部以外が閉じていることが好ましい。
以下、
図1および
図2を参照して、本実施形態のプロトン導電率測定方法を説明する。
【0042】
本実施形態のプロトン導電率測定方法では、先ず、焼結体200を介して、第1筐体11と第2筐体12を互いに突き合わせて、筐体10を、焼結体200を介して第1空間41と第2空間42とに区画する。
この際、焼結体200の外縁部と第1筐体11の間に介在するシール材51と、焼結体200の外縁部と第2筐体12の間に介在するシール材52とを設けることが好ましい。これにより、上述のように、第1空間41内の第1ガスが第1筐体11の外部に漏れることを防止できる。また、第2空間42内の第2ガスが第2筐体12の外部に漏れることを防止できる。さらに、第1空間41内の第1ガスと第2空間42内の第2ガスが混ざり合うことを防止できる。
【0043】
次に、第1空間41内に、ガス供給手段81からの第1ガスを、第1ガス導入管21を介して導入する。それと共に、第2空間42内に、ガス供給手段81からの第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを、第2ガス導入管22を介して導入する。第1空間41内に導入する第1ガスの水蒸気分圧は、第1ガス流量調節手段61と第1ガス水蒸気分圧制御手段71とにより、第2空間42内に導入する第2ガスの水蒸気分圧よりも低くされる。第2空間42内に導入する第2ガスの水蒸気分圧は、第2ガス流量調節手段62と第2ガス水蒸気分圧制御手段72とにより、第1空間41内に導入する第1ガスの圧力水蒸気分圧よりも高くされる。
【0044】
このように、第1空間41内に第1ガスを導入し、第2空間42内に第2ガスを導入することにより、第2空間42内の第2ガスの水蒸気分圧(水蒸気圧)を第1空間41内の第1ガスの水蒸気分圧(水蒸気圧)よりも高くする。その結果、第2空間42内の第2ガスに含まれる水蒸気(H2O)から分離した水素(H)が、第2空間42の焼結体200の表面で電子を放出してプロトン(H+)となり、プロトン(H+)が焼結体200をその厚さ方向に透過する。
【0045】
焼結体200を透過したプロトン(H+)は、第1空間41側の焼結体200の表面で電子を受け取り、水素(H)となり、その水素(H)が第1空間41内の第1ガスに含まれる酸素(O2)と結合して、水蒸気(H2O)が生成する。
【0046】
焼結体200を透過したプロトン(H+)を起源とする水蒸気が生成すると、第1空間41内から、第1空間41外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気(H2O)の流速密度(JH2O
OUT)bは、第1空間41内に導入する空気に含まれる水蒸気(H2O)の流速密度(JH2O
IN)aよりも大きくなる。JH2O
OUTとJH2O
INの差(JH2O
OUT-JH2O
IN)は、焼結体200を透過した水素(プロトン)の流速密度(JH2)に相当する。従って、JH2O
OUTとJH2O
INの差から、JH2を算出することができる。JH2O
INは、第1ガス分析手段31で測定することができる。JH2O
OUTは、第2ガス分析手段32で測定することができる。
【0047】
Wagner則によれば、プロトン導電率がホール導電率よりもはるかに小さい場合、JH2は下記式(2)で表される。
【0048】
【数5】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度、P
H2(high)は第2空間における水素の分圧(圧力)、P
H2(low)は第1空間における水素の分圧(圧力)を示す。)
【0049】
上述のような、焼結体200を介した、水素および酸素と水との平衡関係(下記式(3)で示す。)により、上記式(2)は下記式(4)のように表すことができる。
【0050】
【0051】
【数6】
(式中、J
H2は焼結体を透過したプロトンの流速密度、σ
Hは焼結体のプロトン導電率、Fはファラデー定数、Lは焼結体の厚さ、Rは気体定数、Tは焼結体の絶対温度、P
H2O(high)は第2空間における水蒸気の分圧(圧力)、P
1/2O2(high)は第2空間における酸素の分圧(圧力)、P
H2O(low)は第1空間における水蒸気の分圧(圧力)、P
1/2O2(low)は第1空間における酸素の分圧(圧力)を示す。)
【0052】
上述のような焼結体200を介した第2空間42から第1空間41へのプロトンの透過では、P1/2O2(high)とP1/2O2(low)を同一にしておけば、上記式(4)は上記式(1)のように表すことができる。
【0053】
従って、上記式(1)に、焼結体200の厚さL、プロトンを透過させた際の焼結体200の絶対温度T、ファラデー定数F、気体定数R、焼結体200を透過したプロトンの流速密度JH2を適用することにより、算出手段38によって焼結体200のプロトン導電率(σH)を算出することができる。
【0054】
本実施形態のプロトン導電率測定方法では、焼結体200の温度が300℃~900℃であることが好ましい。
【0055】
本実施形態のプロトン導電率測定方法によれば、第1空間41内に第1ガスを導入し、第2空間42内に第1ガスよりも水蒸気分圧が高く、第1ガスと酸素分圧が同等の第2ガスを導入して、第2空間42から第1空間41に向かって焼結体200に水素を透過させて、第1空間41内に導入する第1ガスに含まれる水蒸気の流速密度aと第1空間41内から第1空間41外へ流出する第3ガスに含まれる水蒸気の流速密度bの差から、焼結体200を透過した水素の流速密度(JH2)を算出し、上記式(1)に基づいて、焼結体200のプロトン導電率を算出する。そのため、焼結体200のプロトン導電率を直接的に測定することができるから、焼結体200の電子導電率が、焼結体200のプロトン導電率に比べて非常に高い場合であっても、焼結体200プロトン導電率を正確に測定することができる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[試料の作製例]
「PNC(PrNi0.5Co0.5O3)試料の作製」
PNC前駆体粉末は、以下のように有機錯体重合法により作製した。硝酸プラセオジム(III)六水和物(Pr(NO3)3・6H2O、純度99.95%)26.3544gと、硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO3)2・6H2O、純度99.9%)8.8130gと、硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O、純度99.9%)8.8203gと、127gのクエン酸をイオン交換水180mLに溶解し、PNC溶液を調製した。
PNC溶液180mLに、エチレングリコール75gを添加し、60℃~70℃で2時間保持した後に、100℃~450℃まで約50℃ごとに段階的に温度を上げることでポリマー化した。その後、450℃で10時間焼成することで脱炭した。
以上より得られたPNC前駆体粉末を円盤状の型に充填して、900℃で10時間、か焼した。
さらに、型に充填したPNC前駆体粉末を、1100℃~1250℃で10時間、酸素流下で本焼し、厚さ約1.5mm、直径18mm~19mmの円盤状のPNC試料を得た。
【0058】
[PNC試料の評価]
「微細組織観察」
得られたPNC試料を走査型電子顕微鏡(型式名:JSM-6010LA、日本電子株式会社製)で観察した。
結果を
図3および
図4に示す。
図3は、PNC試料を破断した破断面を観察した走査型電子顕微鏡像である。
図4は、PNC試料を研磨した研磨面を観察した走査型電子顕微鏡像である。
図3および
図4に示す結果から、PNC試料は気孔が少ない緻密な構造であることが確認された。
【0059】
「放射光粉末X線回折」
得られたPNC試料を放射光粉末X線回折で分析した。
高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーBL-4B2に設置された多連装型回折計を用いて放射光粉末X線回折(SXRPD)を行った。作製したPNC試料を粉砕した試料粉末を、試料ホルダーに充填し、回転試料台にセットした。入射X線波長を1.7440(2)Åとし、回折角2θを20°~125°の範囲として、この回折角2θを0.005°ステップごとに動かし、各ステップでX線を5秒照射した際の反射X線をそれぞれ検出した。以上の測定は室温大気雰囲気下にて行った。
放射光結果を
図5に示す。
図5は、PNC試料の放射光粉末X線回折パターンを示す図である。
図5に示す結果から、ほぼ単相の直方晶ペロブスカイトが得られていることが確認された。
【0060】
「全導電率測定」
得られたPNC試料の全導電率を四探針法で測定した。
厚さ1.160mm厚に研磨したPNC試料のペレットについて、抵抗率計(型式名:ロレスタGP MCP-T610、日東精工アナリテック社製)を用い、四探針法により、大気中でPNC試料のペレットの抵抗率を測定した。この抵抗率の逆数により、PNC試料のペレットの全導電率を求めた。測定温度範囲は、室温(25℃)から900℃とした。室温から900℃まで温度を上げた場合の全導電率と、900℃から室温まで温度を下げた場合の全導電率とを測定した。
結果を
図6に示す。
図6は、PNC試料の全導電率と温度の関係を示す図である。
図6に示す結果から、PNC試料は、400℃以上で1000S/cmを超える高い全導電率を示すことが確認された。この結果は、PNC試料では、ホール導電率がプロトン導電率の1000倍以上であることを示唆している。従って、従来の測定方法では、PNC試料のプロトン導電率を測定することは不可能であることが分かった。
【0061】
「水素流速密度測定」
図1に示すプロトン導電率測定装置を用いて、1.216mm厚に研磨したPNC試料を透過する水素の流速密度を測定した。
PNC試料の温度を300℃~700℃とした。
結果を
図7に示す。
図7は、PNC試料を透過する水素の流速密度と、第1空間の空気に含まれる水蒸気の分圧に対する第2空間の空気に含まれる水蒸気の分圧の比との関係を示す図である。
図7に示す結果から、水素の流速密度は各温度でWagner則に従うことが確認された。
【0062】
「プロトン導電率導出」
図7に示す各温度における水素の流速密度の傾きから、各温度におけるPNC試料のプロトン導電率を導出した。なお、
図7に示す各温度における水素の流速密度の傾きは、上記式(1)に示すプロトン導電率σ
Hを含む係数(σ
HRT/4F
2L)に相当する。RT/4F
2Lは既知であるので、この傾きからプロトン導電率σ
Hを導出できる。
結果を
図8に示す。
図8は、PNC試料のプロトン導電率と温度の関係を示す図である。
図8に示す結果から、PNC試料は600℃で4.3×10
-3S/cmのプロトン導電率を示すことが分かった。
また、PNC試料のプロトン導電率と温度のアレニウスプロットを
図9に示す。
図9に示す結果から、PNC試料のプロトン導電率の温度変化はアレニウスの関係式に従うことが分かった。
本発明の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法は、燃料電池用電極材料の電子導電率が、その燃料電池用電極材料のプロトン導電率に比べて一桁以上高い場合であっても、燃料電池用電極材料のプロトン導電率を正確に測定することができる。従って、本発明の燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定装置および燃料電池用電極材料のプロトン導電率測定方法の工業的価値は大きい。