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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142043
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】電極材料および電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230928BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230928BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230928BHJP
   C01D 15/02 20060101ALI20230928BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20230928BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20230928BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230928BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
C01D15/02
C01G23/053
H01G11/46
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048708
(22)【出願日】2022-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】沖田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄太
【テーマコード(参考)】
4G047
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G047CA06
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD03
5E078AB06
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA62
5E078BB30
5H050AA02
5H050AA19
5H050CA01
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】水分による結晶構造の変化を抑制しつつ、出力特性に優れた電極材料および簡便な電極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、リン酸バナジウムリチウムは、チタン又は酸化チタン(IV)等のチタン化合物との混合体である。リン酸バナジウムリチウムは、リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部および表面にチタン又は酸化チタン(IV)等のチタン化合物の粒子が混在して混合体を形成している。この電極材料は、導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程を経て製造される。結晶化工程には、酸化チタン(IV)を添加する添加工程と、水を溶媒として混合する混合工程と、噴霧乾燥させる乾燥工程とが含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、
前記リン酸バナジウムリチウムは、チタン又はチタン化合物との混合体であること、
を特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記リン酸バナジウムリチウムは、前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部及び表面にチタン又はチタン化合物の粒子が混在して混合体を形成していること、
を特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記リン酸バナジウムリチウムは、メジアン径とモード径の差が3μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電極材料。
【請求項4】
前記リン酸バナジウムリチウムは、最大粒子径140μm以下であること、
を特徴とする請求項3記載の電極材料。
【請求項5】
前記リン酸バナジウムリチウムは、モード径が30μm以下であること、
を特徴とする請求項3又は4記載の電極材料。
【請求項6】
前記チタン化合物は、酸化チタン(IV)であること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電極材料。
【請求項7】
導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程を有し、
前記結晶化工程には、
酸化チタン(IV)を添加する添加工程と、
前記添加工程の後、水を溶媒として混合する混合工程と、
前記混合工程の後、噴霧乾燥させる乾燥工程と、
を含むこと、
を特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程では、溶媒にアルコールが未添加であること、
を特徴とする請求項7記載の電極材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスに用いられる電極材料および電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスの電極としては、リチウムイオンを含む正極材料を金属箔の表面に固着させた正極、及びリチウムイオンの脱挿入可能な負極材料を金属箔の表面に固着させた負極が使用されている。近年、その電極材料としてナシコン構造(Na Super Ionic Conductor)を有するリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が注目されている。
【0003】
リン酸バナジウムリチウムは、Li/Li+基準に対して3.8V~4.8Vで作動する。また、各電位プラトーに応じて最大で197mAh/gの大きな容量を示し得る。そして、リン酸バナジウムリチウムは、リチウムが三次元拡散可能な結晶構造を有し、高速充放電可能が可能である。PO結合を有するリン酸バナジウムリチウムは、熱安定性が高く、安全性に優れている。以上のことから、リン酸バナジウムリチウムの電極材料としての利用が進められている。
【0004】
本発明の発明者等が、リン酸バナジウムリチウムについて研究を進めた結果、リン酸バナジウムリチウムは、大気中に含まれる水分により結晶構造が変化する可能性が指摘された。そして、この水分によるリン酸バナジウムリチウムの変化により、リン酸バナジウムリチウムを用いて製造された電極の性能特性に劣化が生じている可能性が考えられた。
【0005】
リン酸バナジウムリチウムを例えば湿度80%以上の高湿度環境に放置すると、放置前後でリン酸バナジウムリチウムのXRDスペクトルに変化が生じ、大気中の水分によりリン酸バナジウムリチウムの結晶構造が変化していることが推測された。そこで、発明者等は、リン酸バナジウムリチウムの水分への耐久性を高めるために鋭意検討を行い、リン酸バナジウムリチウムの製造工程において特定の金属塩を混合することで、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造の変化を抑制できるという知見を得た。即ち、金属酸化物を混合したリン酸バナジウムリチウムは、水分による結晶構造の変化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-52970号公報
【特許文献2】特開2020-163357号公報
【特許文献3】特開2021-163591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属酸化物が混合されたリン酸バナジウムリチウムは、出力特性が悪化し易く、良好な出力特性が維持しつつ、収率を上げるには、複雑・高度な製造プロセスが要求される。即ち、特許文献3のような簡易な製造プロセスで金属酸化物を混合すると、リン酸バナジウムリチウムのメリットである高速充放電特性を減殺させてしまい易い。
【0008】
簡易には、導電性炭素材料の添加量を増やすことで、金属酸化物を混合したリン酸バナジウムリチウムを用いた電極材料の出力特性を改善可能である。しかしながら、導電性炭素材料の過度の増加は、電極材料のエネルギー密度を低下させてしまう。そこで、容易な製造プロセスであっても、金属酸化物が混合されたリン酸バナジウムリチウムを用いた電極材料の出力特性を改善させることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。その目的は、水分による結晶構造の変化を抑制しつつ、出力特性に優れた電極材料および簡便な電極材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態の電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、前記リン酸バナジウムリチウムは、チタン又はチタン化合物との混合体とする。
【0011】
前記リン酸バナジウムリチウムは、前記リン酸バナジウムリチウムを母材とする結晶の内部及び表面にチタン又はチタン化合物の粒子が混在して混合体を形成しているようにしてもよい。
【0012】
前記リン酸バナジウムリチウムは、メジアン径とモード径の差が3μm以下であるようにしてもよい。
【0013】
前記リン酸バナジウムリチウムは、最大粒子径140μm以下であるようにしてもよい。
【0014】
前記リン酸バナジウムリチウムは、モード径が30μm以下であるようにしてもよい。
【0015】
前記チタン化合物は、酸化チタン(IV)であるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明の実施形態の電極材料の製造方法は、導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程を有し、前記結晶化工程には、酸化チタン(IV)を添加する添加工程と、前記添加工程の後、水を溶媒として混合する混合工程と、前記混合工程の後、噴霧乾燥させる乾燥工程と、を含む。
【0017】
前記混合工程では、溶媒にアルコールが未添加であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水分による結晶構造の変化を抑制しつつ、簡便に高出力特性が得られる電極材料が作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電極材料の製造手順を示すフローチャートである。
図2】実施例1を観察した倍率10千倍のSEM画像である。
図3】実施例2を観察した倍率10千倍のSEM画像である。
図4】実施例3を観察した倍率10千倍のSEM画像である。
図5】比較例1を観察した倍率10千倍のSEM画像である。
図6】比較例2を観察した倍率10千倍のSEM画像である。
図7】実施例1乃至3の粒子分布を示すグラフである。
図8】比較例1の粒子分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[構成]
本実施形態の電極材料は、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料を含む。リン酸バナジウムリチウムは、一般式Li(POで表されるナシコン構造を有する。リン酸バナジウムリチウムが、蓄電デバイスの電極材料として用いられた場合、充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入により0≦x≦3、バナジウムイオンの原子価は3~5価となり得る。
【0021】
リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料とは結合している。結合とは、リン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に物理的に接触していることに加え、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料とが電気的にもつながっており、導電性が高い状態を含む。例えば、導電性炭素材料の表面に、リン酸バナジウムリチウムが原子レベルで接合し、構造を共有化している状態を含む。
【0022】
リン酸バナジウムリチウムは、金属酸化物と混合体を形成し、混合体として導電性炭素材料と結合している。金属酸化物が混合されたリン酸バナジウムリチウムは、水分による構造変化が抑制される。混合とは、母材となるリン酸バナジウムリチウムの結晶の内部および表面に別の結晶が取り込まれたドープ状態で共存していることを意味する。
【0023】
リン酸バナジウムリチウムは、金属酸化物の中でも、化学式TiOで表される酸化チタン(IV)と混合体を形成する。この酸化チタン(IV)との混合体となることで、リン酸バナジウムリチウムを特定の粒子形状に形作ることが出来る。特定の粒子形状は、粒径が均一に揃って球形に近い形状であり、粒子分布においてメジアン径D50とモード径Mdとの差の絶対値|Δ|が3μm以下である。以下、この特定の粒子形状を本特定粒子形状と呼ぶ。
【0024】
リン酸バナジウムリチウムが本特定粒子形状を採ることで、例えば放電レートが1C以上300C以下等の広汎な範囲の各Cレートにおいて、特に大きな放電容量(mAh/g)が得られる。そのため、電極材料に、過度な量の導電性炭素材料を含有させる必要がなくなる。
【0025】
リン酸バナジウムリチウムの最大粒子径D100は140μm以下であり、又はリン酸バナジウムリチウムのモード径Mdが30μm以下であるように、リン酸バナジウムリチウムが小径であると、更に好ましい。リン酸バナジウムリチウムが小径であると、導電性炭素材料が少量であっても、この導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムとの接触面積が大きくなり、出力特性が更に良好になる。
【0026】
以上のような電極材料は、第1に、錯形成反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等の液相反応においてリン酸バナジウムリチウムの前駆体を形成してから加熱、焼成することによって形成することができる。例えば、リン酸源、導電性炭素材料、リチウム源、およびバナジウム源、および酸化チタン(IV)を混合後、焼成して電極材料を得て良い。尚、酸化チタン(IV)は製造工程中に還元されて、リン酸バナジウムリチウムにチタンとしてドープされていてもよい。
【0027】
混合の際には水を溶媒とし、各材料源を水相内で混合する。溶媒として水の他に例えばエタノール等のアルコールを含むと、水とエタノールとの親和性の高さによって、バナジウム源が再結晶化してしまう。ここで、例えば化学式Ti(OCHCHCHで表されるチタンブタキシドといった、酸化チタン(IV)とは異なるチタン化合物は、アルコールに高分散させ、加水分解させるために、エタノール等のアルコールと水が必要となる。そのため、チタンブタキシドを用いると、混合工程で水に溶解していたバナジウム源が再結晶化し易くなる。一方、チタン化合物として酸化チタン(IV)を用いることで、混合のための溶媒に水を採用できる。
【0028】
導電性炭素材料としては、カーボンナノチューブおよび中空シェル状の構造を有する導電性のカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック(登録商標))が好適であるが、カーボンナノファイバ、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素、ナノポーラス炭素、グラフェン、フラーレン又はこれらの複数の混合物も適用可能である。
【0029】
バナジウム源及びリン酸源としては、リン酸バナジウムリチウムの生成反応に加水分解を採用する場合にも、生成反応に錯形成反応を採用する場合にも金属の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化合物、及びキレート化剤が挙げられる。具体的には、バナジウム源を、NHVOとすることができる。ただし、V、V、金属バナジウム、V、バナジウム(III)アセチルアセトネートおよびバナジウム(IV)オキシアセチルアセトナートであってもよい。
【0030】
リン酸源としては、HPOを用いることができる。ただし、NHPO、(NHHPO、PおよびLiPO等のPO含有化合物であってもよい。
【0031】
リチウム源としては、CHCOOLiが挙げられる。ただし、LiNO、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiCl、LiSO及びLICであってもよい。
【0032】
水分によるリン酸バナジウムリチウムの結晶構造変化を抑制する酸化チタン(IV)の混合率は、バナジウムに対して1~25mol%、より好ましくは1~10mol%とすることが好ましい。25mol%を超えると、電極容量が低下するだけでなく抵抗が増加してしまうからである。
【0033】
[製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)リン酸バナジウムリチウムと金属酸化物の混合体を導電性炭素材料に結合させる結晶化工程
【0034】
(1)結晶化工程
結晶化工程は、導電性炭素材料の表面に金属酸化物とリン酸バナジウムリチウムの混合体を結合させる工程である。以下に、図1を用いて結晶化工程の一例を説明する。ただし、結晶化工程では導電性炭素材料と酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体が結合されていればよく、その具体的な方法は下記に限定されない。すなわち、各材料源の混合の順番や、焼成の回数やタイミングは、適宜変更することができる。
【0035】
結晶化工程では、添加工程として、水を溶媒として攪拌しながらリン酸源、バナジウム源、リチウム源、導電性炭素材料及び酸化チタン(IV)を添加する。まず、リン酸源、バナジウム源及びリチウム源を水に添加して均一な溶液を調製してから、固形分である導電性炭素材料と酸化チタンを添加することが好ましい。そして、混合工程で添加物を混合する。この混合工程では、例えばホモジナイザーを用いる。ホモジナイザーによる混合に代えてメカノケミカル処理を行うようにしてもよい。
【0036】
ホモジナイザーによる混合では、容器で起った対流により混合物が回転内刃に案内され、回転内刃の先端で粉砕され、回転内刃と固定外刃の間で更に細かく粉砕され、回転内刃と固定外刃の間で生じる超音波、高周波などのウィレム効果によりいっそう微砕及び均一化される。例えば7000~15000rpmの範囲で1時間程度混合処理すればよい。
【0037】
メカノケミカル処理は、旋回する反応容器等を用いてずり応力や遠心力等の機械的エネルギーを与える処理である。メカノケミカル処理は、超遠心力処理(Ultra-Centrifugal force processing method:以下、UC処理という)等、ずり応力、遠心力、その他の機械的エネルギーを加える。
【0038】
メカノケミカル処理では、旋回する反応器内で溶液にずり応力と遠心力とを印加する処理をする。反応器としては、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われる。これにより、短時間で反応が進行する。機械的エネルギーの満足する付与のためには、1500N(kgms-2)以上の遠心力を発生させることが望ましい。好ましくは60000N(kgms-2)以上である。
【0039】
この混合工程では、導電性炭素材料にリン酸源又はバナジウム源が付着し、導電性炭素材料の表面上にリン酸バナジウムリチウムの基点が生成される。次に、導電性炭素材料の表面上に生成された基点に対して、酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体が生成される。更に、錯形成反応、重合反応、縮合反応等のリン酸バナジウムリチウム前駆体の生成促進、リン酸バナジウムリチウムと酸化チタン(IV)の混合促進、酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体と導電性炭素材料との結合促進、及び酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体の前駆体のナノ粒子化、が図られる。
【0040】
混合工程の後、乾燥工程に移る。ここで、例えばチタンブトキシド等のチタン化合物が用いられた場合、混合工程でバナジウム源が再結晶化し易くなっている。そのため、混合工程で得られた処理液には、再結晶化により固体状態のバナジウムと、同じく固体状態のチタンブタキシドとが混じっている。この状態で、乾燥工程でスプレードライを用いると、ポンプによって化学量論比に合わせてリン酸バナジウムリチウムの材料を高精度に吸い上げることが難しくなる。従って、簡便な製造方法を採用し、且つチタンブタキシド等を用いる場合、簡便な製造方法であってもリン酸バナジウムリチウムの組成比がズレて粗悪にならないように、乾燥工程でスプレードライは採用せず、エバポレーターが好適となる。
【0041】
これに対し、酸化チタン(IV)をリン酸バナジウムリチウムと混合する場合、溶媒にエタノール等のアルコールを含める必要がない。即ち、混合工程の溶媒に水を用いることができ、バナジウム源の再結晶化を容易に抑制されている。そのため、混合工程で得られた処理液は均一になり易く、乾燥工程でスプレードライを用いても、ポンプによって化学量論比に合わせてリン酸バナジウムリチウムの材料を吸い上げることができる。そして、乾燥にスプレードライを用いると、酸化チタン(IV)と混合したリン酸バナジウムリチウムは、水を溶媒として用いたことによるバナジウム源の再結晶化抑制と相俟って、本特定粒子形状を効率よく得ることができる。
【0042】
本特定粒子形状を有するリン酸バナジウムリチウムは、導電性炭素材料を過度に増量しなくとも、電極材料の出力容量を広汎なCレートで向上させることができる。従って、この乾燥工程では、噴霧乾燥とも呼ばれるスプレードライを行う。
【0043】
スプレードライでは、スラリーを熱風中に噴霧することで、短時間で溶媒を蒸発させ、乾燥粉末を得る。スプレードライでは、ディスクノズル、二流体ノズル又はツインジェットノズルを用いることができる。ディスクノズルは、高速回転しているディスクに、スラリーを供給することで、遠心力により液体原料を飛ばす。二流体ノズルは、スラリーに気体を加えて噴霧する。この二流体ノズルは、高圧の気体と噴霧されることで、ディスクノズルに比べて、小さい粒子が得られる。ツインジェットノズルは、二流体ノズルで発生した微粒液滴同士を衝突させることで、更に微粒子化させる。
【0044】
スプレードライの後、窒素雰囲気中で700~900℃において、5~120分間焼成を行う。この焼成で、凝集することなくリン酸バナジウムリチウムと金属酸化物の結晶化が同時に進行する。これによりリン酸バナジウムリチウムの結晶内に金属酸化物の結晶が混在した状態で、かつ導電性炭素材料の表面に結合した複合体粉末の電極材料が得られる。
【0045】
尚、スプレードライと焼成との間に、真空乾燥工程と予備焼成工程を含めてもよい。真空乾燥工程では、80~130℃の真空中で乾燥させる。予備焼成工程では、3~5時間、50~300℃の大気雰囲気下に晒す。予備焼成での熱処理では、導電性炭素材料以外の炭素を除去できる。
【0046】
[作用効果]
上記の通り、本実施形態の電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、リン酸バナジウムリチウムは、酸化チタン(IV)との混合体であるようにした。リン酸バナジウムリチウムが酸化チタン(IV)との混合体であることにより、水分による構造変化を抑制することが可能となる。また、リン酸バナジウムリチウムが酸化チタン(IV)との混合体であることにより、導電性炭素材料を過度に増量しなくとも、電極材料の出力容量を広汎なCレートで向上させることができる。
【0047】
尚、添加工程、混合工程、スプレードライによる乾燥工程及び焼成工程を経た後は、酸化チタン(IV)が還元されてチタンとなってリン酸バナジウムリチウムの表面や内部にドープされるように、焼成温度等を調整するようにしてもよく、このような電極材料によっても耐水性が得られ、出力容量を広汎なCレートで向上させることができる。
【0048】
また、チタン化合物としてリン酸チタン化合物を形成してリン酸バナジウムリチウムとの混合体となっていてもよく、酸化チタン(IV)が非晶質となって存在してもよい。
【0049】
酸化チタン(IV)と混合され、チタン又は酸化チタン(IV)等のチタン化合物との混合体となったリン酸バナジウムリチウムは、本特定粒子形状を採ることが可能となる。これにより、電極材料は、酸化チタン(IV)又はチタンと混合されて耐水性を備えつつ、広汎なCレートの範囲で放電時の出力容量(mAh/g)を増加させることができる。
【0050】
そして、この電極材料は、導電性炭素材料とリン酸バナジウムリチウムを結合させる結晶化工程において、酸化チタン(IV)を添加する添加工程と、添加工程の後に水相内で混合する混合工程と、混合工程の後に噴霧乾燥させる乾燥工程とを含む製造方法により製造可能となる。このように、簡便な製造プロセスを用い、リン酸バナジウムリチウムを用いた電極材料の出力特性を改善できる。
【実施例0051】
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1の製造方法により、実施例1の電極材料を作製した。この電極材料は、チタン又は酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンブラックの複合体からなる。リン酸バナジウムリチウムの材料源は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、リン酸(HPO)である。リン酸バナジウムリチウムの各材料源とカーボンブラックの重量比率は、70:30である。
【0053】
まず、蒸留水を攪拌しながら、当該蒸留水に対して、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)及びリン酸(HPO)を添加して、添加物が均一に分散した処理液を調製した。この処理液に固形分である酸化チタン(IV)及びカーボンブラックを更に添加した。次に、混合工程に移り、ホモジナイザーによって、処理液を13000rpmで1時間混合した。
【0054】
そして、乾燥工程にて、混合液をスプレードライにより濃縮および乾燥した。スプレードライでは、ツインジェットノズルを装着したスプレードライヤー(大川原化工機製)を使用し、熱風の入り口温度を200℃とした。乾燥工程の後、300℃にて5時間予備焼成を行った。その後、窒素雰囲気中で850℃、60分間焼成した。
【0055】
以上の結晶化工程により、酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体がカーボンブラックの表面に結合された電極材料を得た。
【0056】
(実施例2)
実施例2の製造方法により、実施例2の電極材料を作製した。実施例2の製造方法は、スプレードライで使用したノズルの種類が異なる。実施例2のスプレードライでは、二流体ノズルが用いられた。ノズルの種類を除き、実施例2の製造方法は、製造条件を含めて実施例1と同一である。即ち、実施例2の電極材料も、チタン又は酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンブラックの複合体からなる。
【0057】
(実施例3)
実施例3の製造方法により、実施例3の電極材料を作製した。実施例3の製造方法は、スプレードライで使用したノズルの種類が異なる。実施例3のスプレードライでは、ディスクノズルが用いられた。ノズルの種類を除き、実施例3の製造方法は、製造条件を含めて実施例1と同一である。即ち、実施例3の電極材料も、チタン又は酸化チタン(IV)とリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンブラックとの複合体からなる。
【0058】
(比較例1)
比較例1の製造方法により、比較例1の電極材料を作製した。比較例1の電極材料も、Tiとリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンブラックの複合体からなる。リン酸バナジウムリチウムの材料源は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、リン酸(HPO)である。リン酸バナジウムリチウムの各材料源とカーボンブラックの重量比率は、70:30である。リン酸バナジウムリチウムと混合体を作るチタン又はチタン化合物の材料源は、実施例1乃至3と異なり、化学式Ti(OCHCHCHで表されるチタンブタキシドである。
【0059】
添加工程では、蒸留水を攪拌しながら、当該蒸留水に対して、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)及びリン酸(HPO)、並びにエチレングリコール及びクエン酸-水和物を溶かした水溶液を添加して、添加物が均一に分散した処理液を調製した。この処理液に固形分である酸化チタン(IV)及びカーボンブラックを更に添加した。次に、混合工程に移り、ホモジナイザーによって、処理液を13000rpmで1時間混合した。
【0060】
そして、乾燥工程にて、スプレードライではなく、混合液をエバポレーターにより濃縮および乾燥し、80℃で真空乾燥した後、300℃にて5時間予備焼成を行った。その後、窒素雰囲気中で800℃、60分間焼成した。以上の結晶化工程により、チタン又はチタンブタキシドとリン酸バナジウムリチウムの混合体がカーボンナノチューブの表面に結合された電極材料を得た。
【0061】
(比較例2)
比較例2の製造方法により、比較例2の電極材料を作製した。比較例2の製造方法では、チタンブタキシドを用いた点は比較例1と同じであるが、エバポレーターではなく、実施例2と同じ二流体ノズルを使用したスプレードライヤーで噴霧乾燥した。比較例2のスプレードライの条件は実施例1と同じである。比較例2の電極材料も、チタン又はチタンブタキシドとリン酸バナジウムリチウムの混合体とカーボンブラックの複合体となる。
【0062】
(粒子画像)
実施例1乃至3並びに比較例1及び2のリン酸バナジウムリチウムを走査電子顕微鏡で観察した。図2は、実施例1を観察した倍率10千倍のSEM画像であり、図3は、実施例2を観察した倍率10千倍のSEM画像であり、図4は、実施例3を観察した倍率10千倍のSEM画像であり、図5は、比較例1を観察した倍率10千倍のSEM画像であり、図6は、比較例2を観察した倍率10千倍のSEM画像である。図2乃至図5のSEM画像中、1目盛は0.5μmであり、10目盛で5.00μmである。図6のSEM画像中、1目盛は10μmであり、10目盛で100μmである。
【0063】
図2乃至4に示すように、実施例1乃至3のリン酸バナジウムリチウムの粒子は球形に近い。実施例1乃至3のリン酸バナジウムリチウムは、酸化チタン(IV)を金属酸化物に用い、混合工程の溶媒に水を用い、且つ乾燥工程でスプレードライを用いて作製されている。
【0064】
一方、図5に示すように、比較例1のリン酸バナジウムリチウムは、粗大で角張った歪な多面体である。比較例1のリン酸バナジウムリチウムは、チタンブタキシドを用い、溶媒にエタノールが加わり、且つ乾燥工程でエバポレーターを用いて作製されている。図6に示すように、比較例2のリン酸バナジウムリチウムは、比較例1と比べると個々の粒子の円形度が増しているが、一次粒子間が界面無く繋がって歪な凝集粒子が発生していたり、粒子径が不均一となっている。比較例2のリン酸バナジウムリチウムは、実施例1乃至3と同様に乾燥工程でスプレードライを用いているが、チタンブタキシドを用い、混合工程の溶媒にエタノールが加わっている。
【0065】
(粒度分布)
実施例1乃至3並びに比較例1及び2のリン酸バナジウムリチウムの粒度分布を測定した。図7は、実施例1乃至3の粒度分布を示すグラフであり、破線は実施例1を示し、実線は実施例2を示し、点線は実施例3を示す。図8は、比較例1の粒度分布を示すグラフである。
【0066】
また、図7及び図8の粒度分布に基づき、実施例1乃至3並びに比較例1及び2の粒度分布特性を示す指標を計算した。その結果を下表1に示す。
(表1)
【0067】
図7及び図8並びに表1に示すように、実施例1乃至3では、綺麗な正規分布を示し、綺麗な球形で均一な粒径を有していた。比較例1及び2では、ピーク以下の粒径の粒子がブロードに拡がっている歪な粒度分布を示し、粗大で歪な粒子が不均一の粒径を有していた。メジアン径からモード径を差し引いた絶対値|Δ|において、実施例1乃至3は1μm以下であり、本特定粒子形状に収まっているとともに、比較例1及び2に対して実施例1乃至3は最低でも約3%であり、最大で約0.7%の値となった。
【0068】
このように、実施例1乃至3の電極材料は、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、このリン酸バナジウムリチウムは、酸化チタン(IV)との混合体であり、本特定粒子形状の範囲内であることが確認された。極大値D100も140μmの範囲内に収まり、モード径Mdも30μmの範囲に収まっている。
【0069】
(出力特性)
チタン酸(IV)と混合されて本特定粒子形状を有すリン酸バナジウムリチウムを含む実施例1乃至3の電極材料と、チタンブタキシドと混合されて本特定粒子形状から外れたリン酸バナジウムリチウムを含む比較例1及び2の電極材料の出力特性を測定した。
【0070】
出力特性の測定に際し、実施例1乃至3並びに比較例1及び2の電極材料を、PVDFを用いて電極化し、対極に金属リチウムセル、1MのLiPFを含む電解液を用いたハーフセルを作成した。電解液の溶媒は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1の体積比で混合して作製された。そして、Cレートが1C、180C及び300Cで放電したときの放電容量(mAh/g)を測定した。
【0071】
放電容量の測定結果を下表2に示す。
(表2)
【0072】
表2に示すように、実施例1乃至3の電極材料が蓄電デバイスに用いられると、放電レートが1C以上300C以下等の広汎な範囲の各Cレートにおいて、比較例1及び2よりも大きな放電容量(mAh/g)が得られることが確認された。1Cに対する180Cや300Cといった高出力Cレートにおける放電容量の維持率についても、実施例1乃至3の電極材料が比較例1及び2を上回っている。
【0073】
実施例1乃至3のリン酸バナジウムリチウムは、酸化チタン(IV)を用い、混合工程の溶媒に水を用い、且つ乾燥工程でスプレードライを用いて作製されている。比較例1のリン酸バナジウムリチウムは、チタンブタキシドを用い、混合工程の溶媒にエタノールが加わり、且つ乾燥工程でエバポレーターを用いて作製されている。比較例2のリン酸バナジウムリチウムは、実施例1乃至3と同様に乾燥工程でスプレードライを用いているが、チタンブタキシドを用い、混合工程の溶媒にエタノールが加わっている。
【0074】
そして、実施例1乃至3のリン酸バナジウムリチウムは、本特定粒子形状の範囲に収まっている。即ち、導電性炭素材料に結合したリン酸バナジウムリチウムを含み、リン酸バナジウムリチウムは酸化チタン(IV)と混合し、チタン又は酸化チタン(IV)等のチタン化合物とリン酸バナジウムリチウムの混合体であることにより、リン酸バナジウムリチウムは本特定粒子形状を採ることが確認された。
【0075】
これにより、水分による結晶構造の変化を抑制しつつ、導電性炭素材料を増大させなくとも、広汎な範囲のCレートにおいて良好な放電容量(mAh/g)が得られることが確認された。1Cに対する高出力Cレートにおける放電容量の維持率についても良好であることが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8