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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142144
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/00 20060101AFI20230928BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230928BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C10M171/00
C10N40:25
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048868
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】中植 大介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 将矢
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104LA20
4H104PA42
(57)【要約】
【課題】優れた省燃費性と高いせん断安定性を有する潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物の使用方法を提供すること
【解決手段】重量平均分子量(Mw)が30万未満の櫛形ポリマー(A1)と、Mwが40万以上の櫛形ポリマー(A2)とを含み、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比〔(A1)/(A2)〕が、質量比で、0.25以上である、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、重量平均分子量(Mw)が30万未満の櫛形ポリマー(A1)と、Mwが40万以上の櫛形ポリマー(A2)とを含み、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比〔(A1)/(A2)〕が、質量比で、0.25以上である、潤滑油組成物。
【請求項2】
櫛形ポリマー(A1)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.01~3.50質量%である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
櫛形ポリマー(A2)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.01~2.40質量%である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、9.3mm/s以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油組成物の150℃における高温高剪断粘度(HTHS粘度)が、2.9mPa・s以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油組成物の40℃における動粘度が、38.0mm/s以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
ASTM D6278に基づき、30サイクル高剪断ボッシュ・ディーゼルインジェクターに通過させた後の、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、8.6mm/s以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物の硫酸灰分が、0.90質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ディーゼルエンジンに用いられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填してなる、ディーゼルエンジン。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ディーゼルエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、ディーゼルエンジン、及び当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境規制はますます厳しくなり、自動車を取り巻く状況も、燃費規制、排出ガス規制等の側面から厳しくなる一方である。特に、自動車等の車両の燃費性能向上は大きな課題であり、その課題を解決するための一つの手段として、車両に使用される潤滑油組成物の省燃費性向上が求められている。
潤滑油組成物の省燃費性向上には、一般的に、潤滑油組成物に配合される粘度指数向上剤としてポリメタクリレート(PMA)が用いられる。
【0003】
PMA等の粘度指数向上剤を含む潤滑油組成物は、高温高せん断条件下で使用すると、清浄性が低下してしまうことが知られている。そこで、特許文献1では、優れた清浄性、省燃費性等を有する潤滑油組成物の提供を目的として、実施例において重量平均分子量が42~45万の櫛形ポリマーを含んでなる潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/043333号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、省燃費性能をさらに向上させつつ、さらに内燃機関により好適に適用し得る潤滑油組成物が求められている。
本発明は上記に鑑みて為されたものであり、優れた省燃費性と高いせん断安定性を有する潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、重量平均分子量の異なる2種類の櫛形ポリマーを用い、これらを特定の範囲の質量比に調整することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記態様[1]~[11]を提供する。
[1]基油と、重量平均分子量(Mw)が30万未満の櫛形ポリマー(A1)と、Mwが40万以上の櫛形ポリマー(A2)とを含み、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比〔(A1)/(A2)〕が、質量比で、0.25以上である、潤滑油組成物。
[2]櫛形ポリマー(A1)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.01~3.50質量%である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]櫛形ポリマー(A2)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.01~2.40質量%である、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、9.3mm/s以上である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]前記潤滑油組成物の150℃における高温高剪断粘度(HTHS粘度)が、2.9mPa・s以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]前記潤滑油組成物の40℃における動粘度が、38.0mm/s以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7]ASTM D6278に基づき、30サイクル高剪断ボッシュ・ディーゼルインジェクターに通過させた後の、前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、8.6mm/s以上である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]前記潤滑油組成物の硫酸灰分が、0.90質量%以下である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]ディーゼルエンジンに用いられる、[1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[10][1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填してなる、ディーゼルエンジン。
[11][1]~[10]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ディーゼルエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、優れた省燃費性と高いせん断安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0009】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、重量平均分子量(Mw)が30万未満の櫛形ポリマー(A1)と、Mwが40万以上の櫛形ポリマー(A2)とを含み、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比〔(A1)/(A2)〕が、質量比で、0.25以上である。
省燃費性に優れる潤滑油組成物を提供するためには、通常、重量平均分子量が比較的大きい粘度指数向上剤が用いられる。これにより、省燃費性の指標である100℃動粘度や40℃動粘度、高温高剪断粘度(HTHS粘度)を基準値以下に調整することができる。
しかしながら、ディーゼルエンジンオイルの規格(DL-1,DL-2)を満たすには、省燃費性に加えて高いせん断安定性を備える必要があった。ところが、重量平均分子量が比較的大きい粘度指数向上剤だけでは高いせん断安定性を達成することが困難であり、優れた省燃費性と高いせん断安定性を両立的に獲得することは困難であった。
また、一般的に用いられるPMA等の粘度指数向上剤では、100℃動粘度、HTHS粘度が基準値を満たし、高いせん断安定性を達成することができても、40℃動粘度の値を基準値内に調整することは困難であった。
このような問題に対して、本発明者らは、重量平均分子量が比較的大きい櫛形ポリマーに対して、重量平均分子量が比較的小さい櫛形ポリマーを配合することで、上記の各種パラメータを満たす潤滑油組成物となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0010】
<基油>
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる基油としては、鉱油であってもよく、合成油であってもよく、鉱油と合成油との混合油を用いてもよい。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0011】
合成油としては、例えば、α-オレフィンやその単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0012】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる基油は、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループ2及びグループ3に分類される鉱油、並びに、合成油から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。本発明の一態様において、これらの基油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明の一態様で用いる基油の100℃における動粘度は、好ましくは4.1mm/s以上、より好ましくは4.2mm/s以上、更に好ましくは4.3mm/s以上であり、また、好ましくは4.5mm/s以下、より好ましくは4.4mm/s以下である。基油の100℃における動粘度が4.1mm/s以上であれば、油膜保持のため好ましい。一方、基油の100℃における動粘度が4.5mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失を抑えることができ、燃費改善効果が得られるため好ましい。
【0014】
また、本発明の一態様で用いる基油の粘度指数は、温度変化による粘度変化を抑えると共に、省燃費性の向上の観点から、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上である。
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、ASTM D455に準拠して測定又は算出された値を意味する。
【0015】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0016】
<粘度指数向上剤>
本発明の潤滑油組成物は、重量平均分子量(Mw)が30万未満の櫛形ポリマー(A1)と、Mwが40万以上の櫛形ポリマー(A2)とを含む。櫛形ポリマー(A1)及び(A2)としては、高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する重合体であればよい。
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)及び(A2)は、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を少なくとも有する重合体が好ましい。この構成単位(X1)が、上述の「高分子量の側鎖」に該当する。
なお、本発明において、上記の「マクロモノマー(x1)」とは、重合性官能基を有する高分子量モノマーのことを意味し、末端に重合性官能基を有する高分子量モノマーであることが好ましい。
【0017】
マクロモノマー(x1)の数平均分子量(Mn)としては、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、更に好ましくは500以上であり、また、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは20,000以下である。
【0018】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)及び(A2)は、1種類のマクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)のみからなる単独重合体でもよく、2種類以上のマクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を含む共重合体であってもよい。
また、本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)及び(A2)は、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位と共に、マクロモノマー(x1)以外の他のモノマーに由来する構成単位(X2)を含む共重合体であってもよい。
このような櫛形ポリマーの具体的な構造としては、モノマー(x2)に由来する構成単位(X2)を含む主鎖に対して、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を含む側鎖を有する共重合体が好ましい。
【0019】
モノマー(x2)としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、窒素原子含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体、リン原子含有単量体、脂肪族炭化水素系ビニル単量体、脂環式炭化水素系ビニル単量体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、エポキシ基含有ビニル単量体、ハロゲン元素含有ビニル単量体、不飽和ポリカルボン酸のエステル、(ジ)アルキルフマレート、(ジ)アルキルマレエート、芳香族炭化
水素系ビニル単量体等が挙げられる。
【0020】
本発明の潤滑油組成物は、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比を特定の数値範囲とすることで上記課題の解決を図ったものである。これらの櫛形ポリマーの樹脂分換算での含有量比を調整することで、優れた省燃費性と高いせん断安定性を備える潤滑油組成物とすることができる。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、上記の観点から、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での含有量比〔(A1)/(A2)〕は、質量比で、0.25以上であることが好ましく、より好ましくは0.26以上、更に好ましくは0.27以上、特に好ましくは0.28以上であり、また、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.54以下、更に好ましくは0.53以下、より更に好ましくは0.52以下、より更に好ましくは0.51以下、より更に好ましくは0.50以下、より更に好ましくは0.49以下、より更に好ましくは0.48以下、より更に好ましくは0.47以下、より更に好ましくは0.46以下、特に好ましくは0.45以下である。
【0021】
また、本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)の重量平均分子量(Mw)は、高いせん断安定性を得る観点から、30万未満であることが好ましく、より好ましくは30万以下、更に好ましくは29万以下、より更に好ましくは28万以下、より更に好ましくは27万以下であり、また、省燃費性を高くする観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、更に好ましくは12万以上、より更に好ましくは15万以上、より更に好ましくは17万以上、特に好ましくは20万以上である。
【0022】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A2)の重量平均分子量(Mw)は、省燃費性を高くする観点から、40万以上であることが好ましく、より好ましくは41万以上、更に好ましくは42万以上、より更に好ましくは43万以上、より更に好ましくは44万以上、特に好ましくは45万以上であり、また、せん断安定性を高くする観点から、好ましくは90万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは70万以下、より更に好ましくは60万以下、より更に好ましくは55万以下、特に好ましくは50万以下である。
【0023】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には、下記の測定装置及び測定条件で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
(測定装置)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本順次連結したもの
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0024】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、櫛形ポリマー(A2)のMwと櫛形ポリマー(A1)のMwとの差は、SSI(せん断安定性指数)の異なる櫛形ポリマーを用いることにより、省燃費性及びせん断安定性の指標となるパラメータを調整し易くする観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは7万以上、更に好ましくは9万以上、より更に好ましくは10万以上、より更に好ましくは11万以上、より更に好ましくは12万以上、より更に好ましくは13万以上、より更に好ましくは14万以上、より更に好ましくは15万以上、より更に好ましくは16万以上、より更に好ましくは17万以上、より更に好ましくは18万以上、特に好ましくは19万以上である。
また、上記と同様の観点から、櫛形ポリマー(A2)のMwと櫛形ポリマー(A1)のMwとの差は、好ましくは90万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは70万以下、より更に好ましくは60万以下、より更に好ましくは50万以下、より更に好ましくは45万以下、より更に好ましくは40万以下、より更に好ましくは35万以下、特に好ましくは30万以下である。
なお、この場合において、櫛形ポリマー(A2)のMwは、省燃費性を高くする観点から、少なくとも40万以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)の分子量分布(Mw/Mn)(Mw:櫛形ポリマー(A1)の重量平均分子量、Mn:櫛形ポリマー(A1)の数平均分子量)は、好ましくは7.00以下、より好ましくは6.00以下、更に好ましくは5.00以下、より更に好ましくは4.00以下、特に好ましくは3.50以下であり、また、通常1.01以上、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.10以上である。
【0026】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A2)の分子量分布(Mw/Mn)(Mw:櫛形ポリマー(A2)の重量平均分子量、Mn:櫛形ポリマー(A2)の数平均分子量)は、好ましくは8.00以下、より好ましくは7.50以下、更に好ましくは7.00以下、より更に好ましくは6.50以下、特に好ましくは6.00以下であり、また、通常1.01以上、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.10以上である。
【0027】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、櫛形ポリマー(A1)の樹脂分換算での含有量としては、高いせん断安定性を得る観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.10質量%以上、より更に好ましくは0.20質量%以上、より更に好ましくは0.25質量%以上、より更に好ましくは0.30質量%以上、より更に好ましくは0.35質量%以上、より更に好ましくは0.40質量%以上、より更に好ましくは0.45質量%以上、より更に好ましくは0.50質量%以上、特に好ましくは0.55質量%以上である。
一方、良好な省燃費性を有する潤滑油組成物とする観点から、櫛形ポリマー(A1)の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、3.50質量%以下が好ましく、より好ましくは3.00質量%以下、更に好ましくは2.50質量%以下、より更に好ましくは2.00質量%以下、より更に好ましくは1.50質量%以下、より更に好ましくは1.25質量%以下、より更に好ましくは1.20質量%以下、より更に好ましくは1.15質量%以下、より更に好ましくは1.10質量%以下、より更に好ましくは1.05質量%以下、より更に好ましくは1.00質量%以下、より更に好ましくは0.95質量%以下、特に好ましくは0.90質量%以下である。
【0028】
他方、本発明の一態様の潤滑油組成物において、櫛形ポリマー(A2)の樹脂分換算での含有量としては、省燃費性を高くする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.10質量%以上、より更に好ましくは0.30質量%以上、より更に好ましくは0.50質量%以上、より更に好ましくは0.70質量%以上、より更に好ましくは0.90質量%以上、より更に好ましくは1.00質量%以上、より更に好ましくは1.10質量%以上、より更に好ましくは1.20質量%以上、より更に好ましくは1.30質量%以上、より更に好ましくは1.40質量%以上、より更に好ましくは1.50質量%以上、より更に好ましくは1.55質量%以上、より更に好ましくは1.60質量%以上、より更に好ましくは1.65質量%以上、より更に好ましくは1.70質量%以上、より更に好ましくは1.75質量%以上、より更に好ましくは1.80質量%以上、特に好ましくは1.85質量%以上である。
一方、良好なせん断安定性を有する潤滑油組成物とする観点から、櫛形ポリマー(A2)の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、2.40質量%以下が好ましく、より好ましくは2.35質量%以下、更に好ましくは2.30質量%以下、より更に好ましくは2.25質量%以下、より更に好ましくは2,20質量%以下、より更に好ましくは2.15質量%以下、より更に好ましくは2.10質量%以下、特に好ましくは2.05質量%以下である。
【0029】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、櫛形ポリマー(A1)と櫛形ポリマー(A2)との樹脂分換算での合計含有量が、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは2.00質量%以上、より好ましくは2.10質量%以上、更に好ましくは2.15質量%以上、より更に好ましくは2.20質量%以上、より更に好ましくは2.25質量%以上、より更に好ましくは2.30質量%以上、より更に好ましくは2.35質量%以上、特に好ましくは2.40質量%以上であり、また、好ましくは3.00質量%以下、より好ましくは2.95質量%以下、更に好ましくは2.90質量%以下、より更に好ましくは2.85質量%以下、より更に好ましくは2,80質量%以下、特に好ましくは2.75質量%以下である。
【0030】
なお、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)等の粘度指数向上剤は、ハンドリング性や基油への溶解性を考慮し、鉱油、合成油、軽質油等の希釈油に溶解した溶液の形態で流通されており、潤滑油組成物の調製の際には、希釈油を含む溶液の形態で配合される場合がある。
ただし、本明細書において、粘度指数向上剤の含有量は、上記のとおり「樹脂分換算での含有量」であって、希釈油を除いた樹脂分の含有量を意味する。
【0031】
ここで、粘度指数向上剤のSSIの値は、当該粘度指数向上剤を構成するポリマーに由来するせん断による粘度低下をパーセンテージで示す物性値である。つまり、SSIの値は、当該ポリマーのせん断に対する抵抗する能力を示すものであり、SSIの値が大きいほど、当該ポリマーは、せん断に対して不安定でより分解され易いといえる。
【0032】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)のSSIは、好ましくは7.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.0以下であり、また、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上である。
【0033】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A2)のSSIは、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.0以下、更に好ましくは10.0以下であり、また、好ましくは7.0以上、より好ましくは8.0以上である。
【0034】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(A1)及び(A2)の混合物としてのSSIは、好ましくは10.0以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下、あり、また、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1.0以上、より更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは、5.0以上である。
また、本発明の一態様において、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)以外の粘度指数向上剤を併用する場合、粘度指数向上剤のSSIは、当該混合物のSSIとして、上記範囲であることが好ましい。
【0035】
また、本明細書において、粘度指数向上剤のSSIは、ASTM D6278に準拠して測定された値を意味し、より具体的には、下記計算式(1)より算出された値である。
【数1】
上記式(1)中、Kvは、対象となる粘度指数向上剤を鉱油に希釈した試料油の100℃における動粘度の値であり、Kvは、粘度指数向上剤を鉱油に希釈した試料油を、ASTM D6278の手順にしたがって、30サイクル高剪断ボッシュ・ディーゼルインジェクターに通過させた後の100℃における動粘度の値である。また、Kvoilは、粘度指数向上剤を希釈する際に用いた鉱油の100℃における動粘度の値である。
【0036】
なお、粘度指数向上剤のSSIの値は、粘度指数向上剤を構成するポリマーの構造によって変化するものであり、具体的には以下の傾向がある。
・直鎖ポリマーよりも、分岐鎖ポリマーが多いほど、SSIの値は低くなる。
・分岐鎖ポリマーの側鎖の分子量が大きいものほど、SSIの値は低くなる。
・直線状のポリマーよりも、櫛形ポリマーが多く存在するほど、SSIの値は低くなる。
【0037】
[その他の粘度指数向上剤]
本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の櫛形ポリマー(A1)及び(A2)以外の他のポリマーからなる粘度指数向上剤を含有してもよい。
そのような他のポリマーとしては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体など)等の櫛形ポリマーには該当しない重合体が挙げられる。
【0038】
ただし、本発明の一態様において、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)以外の粘度指数向上剤の含有量は極力少ない方が好ましい。
具体的には、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)以外の他の粘度指数向上剤の樹脂分換算での合計含有量は、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)の樹脂分換算での合計100質量部に対して、100質量部以下、70質量部以下、50質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下、0.1質量部以下、0.01質量部以下、又は0.001質量部以下としてもよい。
【0039】
<各種添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。
このような各種添加剤としては、例えば、流動点降下剤、酸化防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、防錆剤、消泡剤、極圧添加剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
これらの各種添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0041】
また、添加剤として、欧州自動車工業会(ACEA)による規格や、API/ILSAC SN/GF-5規格等に適合した、複数の添加剤を含有する市販品の添加剤パッケージを用いてもよい。
また、上記の添加剤としての機能を複数有する化合物(例えば、耐摩耗剤及び極圧添加剤としての機能を有する化合物)を用いてもよい。
さらに、これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
[流動点降下剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに流動点降下剤を含有してもよい。流動点降下剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
本発明の一態様で用いる流動点降下剤の質量平均分子量(Mw)は、5,000以上、7,000以上、10,000以上、15,000以上、20,000以上、25,000以上、30,000以上、35,000以上、40,000以上、45,000以上、50,000以上、55,000以上、又は60,000以上としてもよく、また、150,000以下、120,000以下、100,000以下、90,000以下、又は80,000以下としてもよい。
【0043】
[酸化防止剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6ージーtーブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0044】
[金属系清浄剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに金属系清浄剤を含有してもよい。金属系清浄剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる金属系清浄剤としては、金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネート等の金属塩が挙げられる。また、当該金属塩を構成する金属原子としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子が好ましく、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムがより好ましく、カルシウムが更に好ましい。
【0045】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系清浄剤は、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート、及びカルシウムフェネートから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、カルシウムスルホネートを含むことがより好ましい。
カルシウムスルホネートの含有割合としては、潤滑油組成物に含まれる金属系清浄剤の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%である。
【0046】
金属系清浄剤の塩基価としては、好ましくは0~600mgKOH/gである。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系清浄剤は、塩基価が100mgKOH/g以上の過塩基性金属系清浄剤であることが好ましい。
過塩基性金属系清浄剤の塩基価としては、100mgKOH/g以上であるが、好ましくは150~500mgKOH/g、より好ましくは200~450mgKOH/gである。
なお、本明細書において、「塩基価」とは、JIS K2501:2003「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0047】
[無灰系分散剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに無灰系分散剤を含有してもよい。無灰系分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる無灰系分散剤としては、アルケニルコハク酸イミドが好ましく、ホウ素化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、エポキシ化合物、及び有機酸等から選ばれる1種以上と反応させた、変性アルケニルコハク酸イミドであってもよい。
【0048】
[耐摩耗剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに耐摩耗剤を含有してもよい。耐摩耗剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる耐摩耗剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有耐摩耗剤が挙げられる。
【0049】
[防錆剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに防錆剤を含有してもよい。防錆剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0050】
[消泡剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに消泡剤を含有してもよい。消泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる消泡剤としては、例えば、アルキルシリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン系消泡剤、フルオロアルキルエーテル系消泡剤等が挙げられる。
【0051】
[極圧添加剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに極圧添加剤を含有してもよい。極圧添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる極圧添加剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸、塩素化脂肪油等の塩素系極圧添加剤;硫化オレフィン、硫化ラード、アルキルポリサルファイド、硫化脂肪酸等の硫黄系極圧添加剤;リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル、及びこれらの塩、ホスフィン系、リン酸トリクレジル等のリン系極圧添加剤;等が挙げられる。
【0052】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はなく、基油に、上記で述べた粘度指数向上剤、必要に応じて、他の各種添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。各成分の配合の順序は適宜設定することができる。
【0053】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは9.3mm/s以上、より好ましくは9.4mm/s以上、更に好ましくは9.5mm/s以上であり、また、好ましくは10.0mm/s以下、より好ましくは9.9mm/s以下である。
【0054】
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは38.0mm/s以下、より好ましくは37.8mm/s以下、更に好ましくは37.6mm/s以下、より更に好ましくは37.4mm/s以下、より更に好ましくは37.2mm/s以下、より更に好ましくは37.0mm/s以下、より更に好ましくは36.8mm/s以下、より更に好ましくは36.6mm/s以下、より更に好ましくは36.4mm/s以下、特に好ましくは36.2mm/s以下である。
【0055】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数としては、好ましくは170以上、より好ましくは180以上、更に好ましくは190以上、より更に好ましくは200以上、より更に好ましくは210以上、より更に好ましくは220以上、より更に好ましくは230以上、より更に好ましくは240以上、より更に好ましくは250以上、より更に好ましくは260以上、特に好ましくは270以上である。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、2.9~3.0mPa・sであることが好ましい。
なお、本明細書において、潤滑油組成物のHTHS粘度は、ASTM D4683に準拠し、せん断速度10/sでせん断した後の粘度の値を意味する。
【0057】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ASTM D6278に基づき、30サイクル高剪断ボッシュ・ディーゼルインジェクターに通過させた後の100℃における動粘度(以下、便宜上「Bosch 100℃動粘度」ともいう)は、好ましくは8.6mm/s以上、より好ましくは8.7mm/s以上、更に好ましくは8.8mm/s以上、より更に好ましくは8.9mm/s以上、より更に好ましくは9.0mm/s以上、より更に好ましくは9.1mm/s以上、特に好ましくは9.2mm/s以上であり、また、好ましくは10.5mm/s未満、より好ましくは10.4mm/s以下、更に好ましくは10.3mm/s以下、より更に好ましくは10.2mm/s以下、より更に好ましくは10.1mm/s以下、特に好ましくは10.0mm/s以下である。
【0058】
本発明の一態様の潤滑油組成物の硫酸灰分は、好ましくは0.90質量%以下であり、より好ましくは0.88質量%以下、更に好ましくは0.86質量%以下、より更に好ましくは0.84質量%以下、より更に好ましくは0.82質量%以下、特に好ましくは0.80質量%以下である。
また、好ましくは、0.61質量%以上であり、より好ましくは0.65質量%以上であり、更に好ましくは、0.70質量%以上である。
なお、本明細書において、硫酸灰分は、ASTM D874に準拠して測定又は算出された値を意味する。
【0059】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の潤滑油組成物は、優れた省燃費性及び高いせん断安定性を有している。そのため、本発明の潤滑油組成物を充填したエンジンは、省燃費性能等に優れたものとなり得る。本発明の潤滑油組成物は、ディーゼルエンジンに好適に使用し得る。
そのため、本発明は、下記[I]のディーゼルエンジン、及び、下記[II]の潤滑油組成物の使用方法も提供する。
[I]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を充填してなる、ディーゼルエンジン。
[II]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物をディーゼルエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【実施例0060】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例及び参考例で用いた各成分及び得られた潤滑油組成物の各種物性値は、下記の方法に準拠して測定した。
【0061】
<動粘度>
ASTM D455に準拠して測定及び算出した。
<粘度指数>
ASTM D2270に準拠して測定及び算出した。
<SSI(せん断安定性指数)>
ASTM D6278に準拠して測定した。
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
<HTHS粘度>
ASTM D4683に準拠し、測定温度150℃で、せん断速度10/sでせん断した後の粘度を測定した。
<Bosch 100℃動粘度>
ASTM D6278に準拠し、30サイクル高剪断ボッシュ・ディーゼルインジェクターに通過させた後の100℃における動粘度を測定した。
<硫酸灰分>
ASTM D874に準拠して測定した。
【0062】
実施例1~4、比較例1~6、参考例1
表1に示す各種成分及びその他の添加剤を、表1に示す配合量にて添加して混合して、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1中の粘度指数向上剤の配合量は、希釈溶媒を除いた樹脂分換算での配合量を記載している。当該潤滑油組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0063】
<基油>
・鉱油:100℃動粘度=4.3mm/s、粘度指数=124のAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱油
<粘度指数向上剤>
・櫛形ポリマー(A1):高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する櫛形ポリマー、Mw=26万、Mw/Mn=3.1、SSI=1
・櫛形ポリマー(A2):高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する櫛形ポリマー、Mw=45万、Mw/Mn=5.5、SSI=9
・PMA(1):ポリメタクリレート、Mw=54万、SSI=50
・PMA(2):ポリメタクリレート、Mw=23万、SSI=25
・PMA(3):ポリメタクリレート、Mw=43万、SSI=20
<その他の添加剤>
・清浄剤、分散剤、ZnDTP、消泡剤、流動点降下剤、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、ベンゾトリアゾール、ジエタノールアミドを混合してなる添加剤混合物。
【0064】
実施例、比較例及び参考例で調製した潤滑油組成物について、上述の測定方法に準拠して、各種物性値を測定及び算出した。これらの結果を表1に示す。なお、表1中、各種物性値が下記の範囲内に含まれないものが1つでもあれば「不合格」とし、各種物性値がすべて下記の範囲内に含まれるものを「合格」とした。
・40℃動粘度:38.0mm/s以下
・100℃動粘度:9.3mm/s以上、10.0mm/s以下
・HTHS粘度(150℃):2.8mPa・s超、3.0mPa・s以下
・Bosch 100℃動粘度:8.6mm/s以上
【0065】
【表1】
【0066】
表1から、櫛形ポリマー(A1)及び(A2)の含有量比(質量比)が所定の数値以上である実施例1~4の潤滑油組成物は、各種物性値がすべて所定の範囲内に含まれることが分かった。このような性状の潤滑油組成物は、優れた省燃費性及び高いせん断安定性を備えるものであるといえる。