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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142654
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】被加工物の切削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230928BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20230928BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20230928BHJP
   B24B 53/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24B27/06 M
B24B53/00 K
B24B53/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049658
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】花島 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健一
【テーマコード(参考)】
3C047
3C158
5F063
【Fターム(参考)】
3C047AA16
3C047AA32
3C047EE04
3C047EE09
3C158AA03
3C158AA19
3C158AC02
3C158BA02
3C158BC02
3C158CB01
5F063AA05
5F063AA22
5F063BA28
5F063CA04
5F063DD22
(57)【要約】
【課題】加工不良の発生を抑制することが可能な被加工物の切削方法を提供する。
【解決手段】切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって切削ブレードをドレスするドレスステップと、ドレスステップの後、切削ブレードで被加工物を特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、を含み、ドレスステップの実施後且つ切削ステップの実施前には、切削ブレードで被加工物を分割予定ラインに沿って切削しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、
該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、
該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスするドレスステップと、
該ドレスステップの後、該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、を含み、
該ドレスステップの実施後且つ該切削ステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しないことを特徴とする被加工物の切削方法。
【請求項2】
切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、
該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、
該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、
該切削ステップの後、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスするドレスステップと、を含み、
該切削ステップの実施後且つ該ドレスステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しないことを特徴とする被加工物の切削方法。
【請求項3】
切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、
該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、
該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスする第1ドレスステップと、
該第1ドレスステップの後、該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、
該切削ステップの後、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスする第2ドレスステップと、を含み、
該第1ドレスステップの実施後且つ該切削ステップの実施前、及び、該切削ステップの実施後且つ該第2ドレスステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しないことを特徴とする被加工物の切削方法。
【請求項4】
該特定の分割予定ラインは、所定の構造物が形成されている分割予定ラインであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の被加工物の切削方法。
【請求項5】
該構造物は、TEGであることを特徴とする請求項4に記載の被加工物の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスでは、互いに交差する複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハを分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスを備えるデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
ウェーハの分割には、環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が用いられる。切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、被加工物に切削加工を施す切削ユニットとを備えている。切削ブレードは、砥粒を結合材で固定することによって形成され、切削ユニットに内蔵されたスピンドルの先端部に装着される。ウェーハをチャックテーブルで保持し、切削ブレードを回転させつつウェーハに切り込ませることにより、ウェーハが切削、分割される。
【0004】
切削ブレードによる被加工物の切削を継続すると、結合材から露出した砥粒が摩耗により平滑化され切削ブレードの切れ味が低下する目つぶれと称される現象や、被加工物の切削によって発生した屑(加工屑)が切削ブレードの先端部に付着して砥粒の一部又は全体が埋没する目詰まりと称される現象が発生することがある。目つぶれや目詰まりが生じた状態の切削ブレードで被加工物を切削すると、被加工物に欠け(チッピング)等の加工不良が生じやすくなり、加工品質が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、切削ブレードで被加工物を切削する前に、切削ブレードの先端部を意図的に摩耗させて切削ブレードのコンディションを整えるドレスが実施されることがある(特許文献1参照)。切削ブレードのドレスは、切削ブレードを回転させてドレス用の部材(ドレスボード)に切り込ませることによって実施される。これにより、切削ブレードの目つぶれや目詰まりが解消されて切削ブレードの切削能力が回復し、その後に切削ブレードで被加工物を切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-192629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被加工物に設定された分割予定ライン上には、デバイスの検査を行うためのTEG(Test Element Group)、電極パッド等の構造物が形成されていることがある。そして、切削ブレードで被加工物を構造物ごと分割予定ラインに沿って切削すると、切削ブレードと構造物とが接触することによって切削ブレードの目つぶれや目詰まりが促進され、切削ブレードのコンディションが悪化しやすい。その結果、切削ブレードで被加工物を構造物が形成された分割予定ラインに沿って切削している最中に、被加工物に係る負荷(加工負荷)が急激に増大し、被加工物に突発的なチッピング等の加工不良が発生することがある。
【0008】
また、構造物が形成された分割予定ライン上で目立った加工不良が発生しなかった場合であっても、構造物を切削した後の切削ブレードはコンディションが悪化した状態となっている。このような状態の切削ブレードで被加工物を他の分割予定ラインに沿って切削すると、その分割予定ライン上に構造物が形成されていなくても加工不良が発生しやすい。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、加工不良の発生を抑制することが可能な被加工物の切削方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスするドレスステップと、該ドレスステップの後、該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、を含み、該ドレスステップの実施後且つ該切削ステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しない被加工物の切削方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の一態様によれば、切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、該切削ステップの後、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスするドレスステップと、を含み、該切削ステップの実施後且つ該ドレスステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しない被加工物の切削方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明の他の一態様によれば、切削ブレードで被加工物を切削する被加工物の切削方法であって、該被加工物に設定された複数の分割予定ラインの中から特定の分割予定ラインを選定する分割予定ライン選定ステップと、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスする第1ドレスステップと、該第1ドレスステップの後、該切削ブレードで該被加工物を該特定の分割予定ラインに沿って切削する切削ステップと、該切削ステップの後、該切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって該切削ブレードをドレスする第2ドレスステップと、を含み、該第1ドレスステップの実施後且つ該切削ステップの実施前、及び、該切削ステップの実施後且つ該第2ドレスステップの実施前には、該切削ブレードで該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削しない被加工物の切削方法が提供される。
【0013】
なお、該特定の分割予定ラインは、所定の構造物が形成されている分割予定ラインであってもよい。また、該構造物は、TEGであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る被加工物の切削方法では、切削ブレードで被加工物を特定の分割予定ラインに沿って切削する前に、切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって切削ブレードのドレスを行う。これにより、コンディションが良好な切削ブレードで被加工物を特定の分割予定ラインに沿って切削することができ、被加工物を特定の分割予定ラインに沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0015】
また、本発明の他の一態様に係る被加工物の切削方法では、切削ブレードで被加工物を特定の分割予定ラインに沿って切削した後に、切削ブレードをドレスボードに切り込ませることによって切削ブレードのドレスを行う。これにより、コンディションが良好な切削ブレードで被加工物を他の分割予定ラインに沿って切削することができ、被加工物を他の分割予定ラインに沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】切削装置を示す斜視図である。
図2】被加工物を示す斜視図である。
図3】被加工物を切削する切削装置を示す一部断面正面図である。
図4】被加工物の切削方法を示すフローチャートである。
図5】被加工物を示す平面図である。
図6図6(A)は第1ドレスステップにおける切削装置を示す一部断面正面図であり、図6(B)は切削ステップにおける切削装置を示す一部断面正面図であり、図6(C)は第2ドレスステップにおける切削装置を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る被加工物の切削方法の実施に用いることが可能な切削装置の構成例について説明する。図1は、切削装置2を示す斜視図である。なお、図1において、X軸方向(加工送り方向、第1水平方向、前後方向)とY軸方向(割り出し送り方向、第2水平方向、左右方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(鉛直方向、高さ方向、上下方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0018】
切削装置2は、切削装置2を構成する各構成要素を支持又は収容する直方体状の基台4を備える。基台4の前端側の角部には、矩形状の開口4aが設けられている。開口4aの内側には、昇降機構(不図示)によって昇降するカセット支持台6が設けられている。カセット支持台6の上面上には、切削装置2による加工の対象物である複数の被加工物11を収容可能なカセット8が配置される。なお、図1ではカセット8の輪郭を二点鎖線で示している。
【0019】
図2は、被加工物11を示す斜視図である。例えば被加工物11は、単結晶シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面(第1面)11a及び裏面(第2面)11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)13によって、複数の矩形状の領域に区画されている。また、被加工物11の表面11a側のうち分割予定ライン13によって区画された複数の領域にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のデバイスが形成されている。
【0020】
複数の分割予定ライン13のうち、特定の1又は複数の分割予定ライン13上には、構造物17が形成されている。例えば構造物17は、デバイス15の検査を行うためのTEG(Test Element Group)であり、デバイス15の電気的特性の測定及び評価にTEGが用いられる。例えばTEGは、配線又は電極として機能する金属膜や、層間絶縁膜として機能する絶縁膜(例えば、低誘電率絶縁膜(Low-k膜))等の各種の薄膜が積層された積層体によって構成される。
【0021】
被加工物11を構造物17ごと分割予定ライン13に沿って分割して個片化することにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。なお、被加工物11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる基板であってもよい。また、デバイス15及び構造物17の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。例えば構造物17は、金属でなる電極パッド等であってもよい。
【0022】
被加工物11を切削装置2(図1参照)で切削する際には、被加工物11の取り扱いの便宜のため、被加工物11が環状のフレーム19によって支持される。フレーム19は、例えばSUS(ステンレス鋼)等の金属でなり、フレーム19の中央部にはフレーム19を厚さ方向に貫通する円形の開口19aが設けられている。なお、開口19aの直径は被加工物11の直径よりも大きい。
【0023】
被加工物11及びフレーム19には、円形のシート21が固定される。例えばシート21は、フィルム状の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを含むテープ(ダイシングテープ)である。基材は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなる。また、粘着層は、エポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。なお、粘着層は、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化性樹脂であってもよい。
【0024】
被加工物11がフレーム19の開口19aの内側に配置された状態で、シート21の中央部が被加工物11の裏面11b側に貼付され、シート21の外周部がフレーム19に貼付される。これにより、被加工物11がシート21を介してフレーム19によって支持され、被加工物11、フレーム19及びシート21を含む被加工物ユニット(フレームユニット)が構成される。そして、図1に示すように、被加工物11はフレーム19によって支持された状態でカセット8に収容され、カセット8がカセット支持台6上にセットされる。
【0025】
開口4aの側方には、長手方向がX軸方向に沿うように形成された矩形状の開口4bが設けられている。開口4bの内側には、被加工物11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)10が設けられている。チャックテーブル10の上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面10aを構成している。保持面10aは、チャックテーブル10の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0026】
チャックテーブル10には、移動ユニット12が連結されている。例えば移動ユニット12は、ボールねじ式の移動機構であり、X軸方向に沿って配置されたX軸ボールねじ(不図示)と、X軸ボールねじを回転させるX軸パルスモータ(不図示)とを備える。また、移動ユニット12は、チャックテーブル10を囲むテーブルカバー14を備える。テーブルカバー14の前方及び後方には、X軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹状の防塵防滴カバー16が設けられている。テーブルカバー14及び防塵防滴カバー16は、開口4bの内部に配置された移動ユニット12の構成要素(X軸ボールねじ、X軸パルスモータ等)を覆うように装着される。
【0027】
移動ユニット12は、チャックテーブル10をテーブルカバー14とともにX軸方向に沿って移動させる。また、チャックテーブル10には、チャックテーブル10をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。さらに、チャックテーブル10の周囲には、被加工物11を支持しているフレーム19を把持して固定する複数のクランプ18が設けられている。
【0028】
開口4a,4bの近傍には、被加工物11をカセット8とチャックテーブル10との間で搬送する搬送ユニット(不図示)が設けられている。被加工物11は、搬送ユニットによってカセット8から引き出されてチャックテーブル10に搬送され、チャックテーブル10によって吸引保持される。
【0029】
また、移動ユニット12には、一対のチャックテーブル(サブチャックテーブル)20A,20Bが連結されている。チャックテーブル20A,20Bはそれぞれ、後述の切削ブレード46のドレスに用いられるドレスボード23を保持する。例えばチャックテーブル20A,20Bは、テーブルカバー14の前端部に、Y軸方向において互いに離隔するように配置されている。移動ユニット12を駆動させると、一対のチャックテーブル20A,20Bがチャックテーブル10とともにX軸方向に沿って移動する。
【0030】
基台4の上面上には、門型の支持構造22が設けられている。支持構造22は、開口4bを跨ぐようにY軸方向に沿って配置される。また、支持構造22の前面側の両側端部には、移動ユニット24A,24Bが設けられている。例えば移動ユニット24A,24Bは、ボールねじ式の移動機構であり、支持構造22の前面側にY軸方向に沿って配置された一対のY軸ガイドレール26に装着されている。
【0031】
移動ユニット24Aは、平板状のY軸移動プレート28Aを備える。Y軸移動プレート28Aは、一対のY軸ガイドレール26にスライド可能に装着されている。また、Y軸移動プレート28Aの裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のY軸ガイドレール26の間にY軸方向に沿って配置されたY軸ボールねじ30Aが螺合されている。Y軸ボールねじ30Aの端部には、Y軸ボールねじ30Aを回転させるY軸パルスモータ32が連結されている。Y軸パルスモータ32によってY軸ボールねじ30Aを回転させると、Y軸移動プレート28AがY軸ガイドレール26に沿ってY軸方向に移動する。
【0032】
Y軸移動プレート28Aの表面(前面)側には、一対のZ軸ガイドレール34AがZ軸方向に沿って固定されている。一対のZ軸ガイドレール34Aには、平板状のZ軸移動プレート36Aがスライド可能に装着されている。Z軸移動プレート36Aの裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のZ軸ガイドレール34Aの間にZ軸方向に沿って配置されたZ軸ボールねじ38Aが螺合されている。Z軸ボールねじ38Aの端部には、Z軸パルスモータ40Aが連結されている。Z軸パルスモータ40AによってZ軸ボールねじ38Aを回転させると、Z軸移動プレート36AがZ軸ガイドレール34Aに沿ってZ軸方向に移動する。
【0033】
同様に、移動ユニット24Bは、平板状のY軸移動プレート28Bを備える。Y軸移動プレート28Bは、一対のY軸ガイドレール26にスライド可能に装着されている。また、Y軸移動プレート28Bの裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のY軸ガイドレール26の間にY軸方向に沿って配置されたY軸ボールねじ30Bが螺合されている。Y軸ボールねじ30Bの端部には、Y軸ボールねじ30Bを回転させるY軸パルスモータ(不図示)が連結されている。Y軸パルスモータによってY軸ボールねじ30Bを回転させると、Y軸移動プレート28BがY軸ガイドレール26に沿ってY軸方向に移動する。
【0034】
Y軸移動プレート28Bの表面(前面)側には、一対のZ軸ガイドレール34BがZ軸方向に沿って固定されている。一対のZ軸ガイドレール34Bには、平板状のZ軸移動プレート36Bがスライド可能に装着されている。Z軸移動プレート36Bの裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のZ軸ガイドレール34Bの間にZ軸方向に沿って配置されたZ軸ボールねじ38Bが螺合されている。Z軸ボールねじ38Bの端部には、Z軸パルスモータ40Bが連結されている。Z軸パルスモータ40BによってZ軸ボールねじ38Bを回転させると、Z軸移動プレート36BがZ軸ガイドレール34Bに沿ってZ軸方向に移動する。
【0035】
Z軸移動プレート36Aの下端部には、被加工物11に切削加工を施す切削ユニット42Aが固定されている。また、Z軸移動プレート36Bの下端部には、被加工物11に切削加工を施す切削ユニット42Bが固定されている。切削ユニット42A,42Bはそれぞれ、Y軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル44(図3参照)を備えており、スピンドル44の先端部に環状の切削ブレード46(図3参照)が装着される。
【0036】
切削ブレード46としては、例えばハブタイプの切削ブレード(ハブブレード)が用いられる。ハブブレードは、アルミニウム合金等の金属でなる環状の基台と、基台の外周縁に沿って形成された環状の切刃とを備える。ハブブレードの切刃は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN:cubic Boron Nitride)等でなる砥粒と、砥粒を固定するニッケルめっき層等の結合材とを含む電鋳砥石によって構成される。
【0037】
ただし、切削ブレード46としてワッシャータイプの切削ブレード(ワッシャーブレード)を用いることもできる。ワッシャーブレードは、砥粒と、金属、セラミックス、樹脂等でなり砥粒を固定する結合材とを含む環状の切刃のみによって構成される。
【0038】
切削ユニット42A又は切削ユニット42Bに装着された切削ブレード46をチャックテーブル10によって保持された被加工物11に切り込ませることにより、被加工物11が切削される。また、切削ユニット42Aに装着された切削ブレード46をチャックテーブル20Aによって保持されたドレスボード23に切り込ませることにより、切削ブレード46のドレス(整形)が行われる。同様に、切削ユニット42Bに装着された切削ブレード46をチャックテーブル20Bによって保持されたドレスボード23に切り込ませることにより、切削ブレード46のドレス(整形)が行われる。
【0039】
切削ユニット42Aに隣接する位置には、撮像ユニット48が設けられている。撮像ユニット48は、CCD(Charged-Coupled Devices)センサ、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)センサ等のイメージセンサを備え、チャックテーブル10によって保持された被加工物11やチャックテーブル20A,20Bによって保持されたドレスボード23を撮像する。撮像ユニット48の種類に制限はなく、例えば可視光カメラや赤外線カメラが用いられる。撮像ユニット48によって取得された画像は、被加工物11と切削ブレード46との位置合わせ、ドレスボード23と切削ブレード46との位置合わせ等に用いられる。
【0040】
開口4bの側方には、円形の開口4cが設けられている。開口4cの内側には、被加工物11を洗浄する洗浄ユニット50が設けられている。洗浄ユニット50は、被加工物11を保持して回転するスピンナテーブル52と、スピンナテーブル52によって保持された被加工物11に洗浄用の液体(洗浄液)を供給するノズル54とを備える。
【0041】
スピンナテーブル52の上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面52aを構成している。保持面52aは、スピンナテーブル52の内部に設けられた流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。また、スピンナテーブル52には、スピンナテーブル52をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0042】
ノズル54は、スピンナテーブル52の保持面52aに向かって洗浄液を供給する。洗浄液としては、純水等の液体や、液体(純水等)と気体(エアー等)とを含む混合流体を用いることができる。
【0043】
切削ユニット42A,42Bによって加工された被加工物11は、搬送ユニット(不図示)によってスピンナテーブル52に搬送され、シート21を介してスピンナテーブル52の保持面52a上に配置される。この状態で、保持面52aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がシート21を介してスピンナテーブル52によって吸引保持される。そして、スピンナテーブル52を回転させつつノズル54から被加工物11に向かって洗浄液を供給することにより、被加工物11が洗浄される。
【0044】
基台4の上側には、基台4上に搭載された構成要素を覆うカバー56が設けられている。図1では、カバー56の輪郭を二点鎖線で示している。
【0045】
カバー56の側面には、切削装置2に関する各種の情報を表示する表示部(表示ユニット、表示装置)58が設けられている。例えば表示部58として、タッチパネル式ディスプレイが用いられる。この場合、表示部58は、切削装置2に各種の情報を入力するための入力部(入力ユニット、入力装置)としても機能し、オペレーターは表示部58のタッチ操作によって切削装置2に加工条件等の情報を入力できる。すなわち、表示部58がユーザーインターフェースとして機能する。
【0046】
カバー56の上部には、オペレーターに情報を報知する報知部(報知ユニット、報知装置)60が設けられている。例えば、報知部60として表示灯(警告灯)が設けられる。切削装置2で異常が発生すると、表示灯が点灯又は点滅してオペレーターに異常が通知される。また、報知部60として、音又は音声でオペレーターに情報を報知するスピーカーを用いることもできる。この場合、切削装置2で異常が発生すると、スピーカーが異常の発生を通知する音又は音声を発する。
【0047】
また、切削装置2は、切削装置2を構成する構成要素(カセット支持台6、チャックテーブル10、移動ユニット12、クランプ18、切削ユニット42A,42B、移動ユニット24A,24B、撮像ユニット48、洗浄ユニット50、表示部58、報知部60等)に接続された制御部(制御ユニット、制御装置)62を備える。制御部62は、切削装置2の各構成要素の動作を制御する制御信号を生成、出力することにより、切削装置2を稼働させる。
【0048】
例えば制御部62は、コンピュータによって構成され、切削装置2の稼働に必要な演算を行う演算部と、切削装置2の稼働に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶する記憶部とを含む。演算部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。また、記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを含んで構成される。
【0049】
図3は、被加工物11を切削する切削装置2を示す一部断面正面図である。なお、以下では被加工物11を切削ユニット42Aで切削する場合について説明するが、被加工物11を切削ユニット42Bで切削する場合の動作も同様である。
【0050】
被加工物11を切削する際は、まず、被加工物11がチャックテーブル10によって保持される。例えば被加工物11は、表面11a側が上方に露出して裏面11b側(シート21側)が保持面10aに対面するように、チャックテーブル10上に配置される。また、複数のクランプ18によってフレーム19が固定される。この状態で、保持面10aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がシート21を介してチャックテーブル10によって吸引保持される。
【0051】
次に、被加工物11を切削ブレード46で分割予定ライン13に沿って切削する。具体的には、まず、チャックテーブル10を回転させ、所定の分割予定ライン13の長さ方向をX軸方向に合わせる。また、切削ブレード46が所定の分割予定ライン13の延長線上に配置されるように、切削ユニット42AのY軸方向における位置を調整する。さらに、切削ブレード46の下端が被加工物11の裏面11b(シート21の上面)よりも下方に配置されるように、切削ユニット42Aの高さを調整する。このときの被加工物11の表面11aと切削ブレード46の下端との高さの差が、切削ブレード46の被加工物11への切り込み深さに相当する。
【0052】
そして、切削ブレード46を回転させつつ、チャックテーブル10をX軸方向に沿って移動させる。これにより、チャックテーブル10と切削ブレード46とがX軸方向に沿って相対的に移動し(加工送り)、切削ブレード46が分割予定ライン13に沿って被加工物11に切り込む。その結果、被加工物11が分割予定ライン13に沿って切削、分割される。
【0053】
なお、被加工物11の切削中は、純水等の液体(切削液)が被加工物11及び切削ブレード46に供給される。これにより、被加工物11及び切削ブレード46が冷却されるとともに、被加工物11の切削によって発生した屑(加工屑)が洗い流される。
【0054】
その後、同様の手順を繰り返し、他の分割予定ライン13に沿って被加工物11を切削する。全ての分割予定ライン13に沿って被加工物11が切削されると、被加工物11はデバイス15(図2参照)をそれぞれ備える複数のデバイスチップに分割される。
【0055】
なお、分割予定ライン13上に構造物17が形成されている場合には(図2参照)、切削ブレード46は被加工物11を構造物17ごと分割予定ライン13に沿って切削する。このとき、切削ブレード46と構造物17とが接触することによって切削ブレード46の目つぶれや目詰まりが促進され、切削ブレード46のコンディションが悪化しやすい。その結果、切削ブレード46で被加工物11を構造物17が形成された分割予定ライン13に沿って切削している最中に、被加工物11に突発的なチッピング等の加工不良が発生することがある。
【0056】
また、構造物17が形成された分割予定ライン13上で目立った加工不良が発生しなかった場合でも、構造物17を切削した後の切削ブレード46はコンディションが悪化した状態となっている。このような状態の切削ブレード46で被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削すると、その分割予定ライン13上に構造物17が形成されていなくても加工不良が発生しやすい。
【0057】
そこで、本実施形態においては、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する前に、切削ブレード46のドレス(整形)を行う。これにより、コンディションが良好な切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削することができ、被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0058】
また、本実施形態においては、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削した後に、切削ブレード46のドレス(整形)を行う。これにより、被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削した際に悪化した切削ブレード46のコンディションを回復させた後に、被加工物11を次の分割予定ライン13に沿って切削することができる。その結果、被加工物11を特定の分割予定ライン13以外の分割予定ライン13に沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0059】
以下、本実施形態に係る被加工物の切削方法の具体例について説明する。なお、以下では代表例として、切削ユニット42Aに装着されている切削ブレード46をチャックテーブル20Aで保持されたドレスボード23に切り込ませて切削ブレード46のドレスを行う場合について説明する。ただし、切削ユニット42Bに装着されている切削ブレード46をチャックテーブル20Bで保持されたドレスボード23に切り込ませて切削ブレード46のドレスを行う場合の手順も同様である。
【0060】
図4は、被加工物の切削方法を示すフローチャートである。切削装置2で被加工物11を切削する際は、まず、被加工物11に設定された複数の分割予定ライン13の中から特定の分割予定ライン13を選定する(分割予定ライン選定ステップS1)。分割予定ライン選定ステップS1では、複数の分割予定ライン13のうち、切削ブレード46のコンディションを悪化させやすい分割予定ライン13、例えば、所定の構造物が形成されている分割予定ライン13が選定される。
【0061】
図5は、被加工物11を示す平面図である。被加工物11に設定された複数の分割予定ライン13は、構造物17が形成されている第1分割予定ライン(第1ストリート)13Aと、構造物17が形成されていない第2分割予定ライン(第2ストリート)13Bとに分類できる。例えば、構造物17はTEGである。そして、TEGが形成されている第1分割予定ライン13Aが特定の分割予定ライン13として選定され、TEGが形成されていない第2分割予定ライン13Bは特定の分割予定ライン13として選定されない。
【0062】
図1に示すように、切削装置2の制御部62は、選定された分割予定ライン13を示す情報(選定ライン情報)を記憶する選定ライン情報記憶部64を含む。また、表示部58には、撮像ユニット48で被加工物11の表面11a側を撮像することによって取得された撮像画像が表示される。
【0063】
切削装置2のオペレーターは、表示部58に表示された被加工物11の撮像画像を確認して、被加工物11に設定されている複数の分割予定ライン13を第1分割予定ライン13A又は第2分割予定ライン13Bに分類する。その後、オペレーターは、表示部58(タッチパネル式ディスプレイ)を操作して、第1分割予定ライン13Aを示すライン番号等を選定ライン情報として切削装置2に入力する。選定ライン情報は、制御部62に入力され、選定ライン情報記憶部64に記憶される。
【0064】
ただし、分割予定ライン13の選定は自動で実施されてもよい。例えば制御部62は、撮像ユニット48によって取得された撮像画像に画像処理を施すことにより、各分割予定ライン13上における構造物17の有無を判定し、複数の分割予定ライン13を第1分割予定ライン13A又は第2分割予定ライン13Bに分類する。その後、制御部62は、第1分割予定ライン13Aのライン番号等を選定ライン情報として選定ライン情報記憶部64に記憶する。
【0065】
また、分割予定ライン13の選定方法に制限はない。例えば、複数の分割予定ライン13上に形成されているTEGのうち、特に切削ブレード46の目つぶれや目詰まりを生じさせやすいTEG(所定の金属を含むTEG、所定の構造を有するTEG等)を特定し、その特定のTEGが形成されている分割予定ライン13を特定の分割予定ライン13として選定してもよい。
【0066】
次に、前述の手順に従って切削ブレード46で被加工物11を複数の分割予定ライン13に沿って順に切削し、分割する(図3参照)。ただし、次に切削される分割予定ライン13が、分割予定ライン選定ステップS1において選定された分割予定ライン13、すなわち、選定ライン情報記憶部64(図1参照)に記憶されている選定ライン情報が示す特定の分割予定ライン13となったタイミングで、切削ブレード46のドレスが実施される。
【0067】
具体的には、切削ブレード46をドレスボード23に切り込ませることによって、切削ブレード46をドレスする(第1ドレスステップS2)。図6(A)は、第1ドレスステップS2における切削装置2を示す一部断面正面図である。
【0068】
第1ドレスステップS2では、切削ユニット42Aに装着されている切削ブレード46を、チャックテーブル20Aによって保持されているドレスボード23に切り込ませる。例えばドレスボード23は、平面視で矩形状に形成された板状の部材であり、互いに概ね平行な表面(第1面)23a及び裏面(第2面)23bを備える。また、ドレスボード23は、グリーンカーボランダム(GC)、ホワイトアランダム(WA)等でなる砥粒と、砥粒を固定するレジンボンド、ビトリファイドボンド等の結合材とを含む。ただし、ドレスボード23の形状、材質等に制限はない。
【0069】
チャックテーブル20Aの上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、ドレスボード23を保持する矩形状の保持面20aを構成している。保持面20aは、チャックテーブル20Aの内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0070】
例えばドレスボード23は、表面23a側が上方に露出して裏面23b側が保持面20aに対面するように、チャックテーブル20A上に配置される。このとき、ドレスボード23の向き(角度)は、2側面がX軸方向に沿い、他の2側面がY軸方向に沿うように調節される。この状態で、保持面20aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、ドレスボード23がチャックテーブル20Aによって吸引保持される。
【0071】
第1ドレスステップS2では、まず、切削ユニット42AをY軸方向に沿って移動させ、ドレスボード23と切削ブレード46とのY軸方向における位置を合わせる。また、切削ユニット42AをZ軸方向に沿って移動させ、切削ブレード46の下端をドレスボード23の表面23aよりも下方に位置付ける。
【0072】
次に、切削ブレード46を回転させつつ、チャックテーブル20AをX軸方向に沿って移動させる。これにより、ドレスボード23と切削ブレード46とがX軸方向に沿って相対的に移動し、切削ブレード46の先端部がドレスボード23の表面23a側に切り込む。これにより、切削ブレード46の先端部がドレスボード23に接触して摩耗する。また、ドレスボード23の表面23a側には、直前状の溝23c(図6(C)参照)がX軸方向に沿って形成される。
【0073】
回転する切削ブレード46の先端部がドレスボード23に接触すると、結合材から露出している砥粒が脱落するとともに結合材の内部に埋め込まれている砥粒が新たに露出する現象(自生発刃)が促進される。これにより、被加工物11を切削して目つぶれが生じた砥粒が結合材から離脱するとともに、新たな砥粒が結合材から露出する。また、切削ブレード46の先端部に付着している加工屑が結合材の摩耗によって除去され、砥粒の目詰まりが解消される。その結果、切削ブレード46の切削能力が回復し、切削ブレード46のコンディションが良好になる。
【0074】
なお、第1ドレスステップS2において切削ブレード46をドレスボード23に切り込ませる回数に制限はない。すなわち、切削ブレード46の材質や状態に応じて、切削ブレード46をドレスボード23に複数回切り込ませてもよい。
【0075】
次に、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する(切削ステップS3)。切削ステップS3では、第1ドレスステップS2によってコンディションが整えられた切削ブレード46で、特定の分割予定ライン13(構造物17が形成されている第1分割予定ライン13A)に沿って被加工物11を切削する。図6(B)は、切削ステップS3における切削装置2を示す一部断面正面図である。
【0076】
具体的には、まず、切削ブレード46が第1分割予定ライン13Aの延長線上に配置されるように、切削ユニット42AのY軸方向における位置を調整する。また、切削ブレード46の下端が被加工物11の裏面11b(シート21の上面)よりも下方に配置されるように、切削ユニット42Aの高さを調整する。そして、切削ブレード46を回転させつつ、チャックテーブル10をX軸方向に沿って移動させる。これにより、チャックテーブル10と切削ブレード46とがX軸方向に沿って相対的に移動し、切削ブレード46が第1分割予定ライン13Aに沿って被加工物11に切り込む。
【0077】
切削ブレード46を第1分割予定ライン13Aに沿って被加工物11に切り込ませると、被加工物11が構造物17(図5参照)とともに切削される。このとき、切削ブレード46が構造物17に接触し、切削ブレード46の目つぶれや目詰まりが促進される。そのため、切削ブレード46で被加工物11を第1分割予定ライン13Aに沿って切削している最中は、切削ブレード46のコンディションが悪化し、被加工物11に突発的なチッピング等の加工不良が発生しやすい傾向がある。
【0078】
しかしながら、切削ステップS3では、第1ドレスステップS2によってコンディションが整えられた直後の切削ブレード46で被加工物11を切削する。すなわち、第1ドレスステップS2の実施後且つ切削ステップS3の実施前には、切削ブレード46で被加工物11を分割予定ライン13に沿って切削しない。このように、第1ドレスステップS2の直後に切削ステップS3を実施することにより、切削能力が回復してコンディションが良好な切削ブレード46によって被加工物11及び構造物17が切削される。これにより、切削ブレード46で被加工物11を第1分割予定ライン13Aに沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0079】
なお、切削ステップS3では、切削ブレード46で被加工物11を1本の第1分割予定ライン13Aに沿って切削する作業を1回行う。すなわち、切削ブレード46で被加工物11を2本以上の第1分割予定ライン13Aに沿って連続して切削しない。これにより、切削ブレード46のコンディションの悪化が進行する前に被加工物11の切削が中断される。
【0080】
次に、切削ブレード46をドレスボード23に切り込ませることによって、切削ブレード46をドレスする(第2ドレスステップS4)。図6(C)は、第2ドレスステップS4における切削装置2を示す一部断面正面図である。
【0081】
第2ドレスステップS4では、第1ドレスステップS2と同様の手順により、切削ユニット42Aに装着されている切削ブレード46をチャックテーブル20Aによって保持されているドレスボード23に切り込ませる。これにより、切削ブレード46のドレスが行われ、自生発刃が促進されるとともに目つぶれや目詰まりが解消される。その結果、切削ブレード46の切削能力が回復し、切削ブレード46のコンディションが良好になる。
【0082】
なお、第1ドレスステップS2と第2ドレスステップS4とで同一のドレスボード23を用いる場合には、切削ブレード46がドレスボード23の溝23cが形成されていない領域に切り込むように、ドレスボード23と切削ブレード46との位置関係が調節される。ただし、第1ドレスステップS2と第2ドレスステップS4とで異なるドレスボード23を用いることもできる。
【0083】
第2ドレスステップS4は、切削ステップS3において被加工物11を切削ブレード46で1ライン切削した直後に実施される。すなわち、切削ステップS3の実施後且つ第2ドレスステップS4の実施前には、切削ブレード46で被加工物11を分割予定ライン13に沿って切削しない。このように、切削ステップS3の直後に第2ドレスステップS4を実施することにより、切削ステップS3において構造物17を切削した切削ブレード46の切削能力を速やかに回復させ、切削ブレード46のコンディションを良好に維持することができる。これにより、その後に被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0084】
その後、同様の手順を繰り返すことにより、被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削する。なお、選定ライン情報記憶部64(図1参照)に記憶されている選定ライン情報が示す特定の分割予定ライン13(第1分割予定ライン13A)に沿って被加工物11を切削する際には、上記の第1ドレスステップS2、切削ステップS3、第2ドレスステップS4が順に実施される。そして、全ての分割予定ライン13に沿って被加工物11が切削されると、被加工物11が複数のデバイスチップに分割される。
【0085】
切削装置2による被加工物11の加工は、切削装置2の制御部62(図1参照)によって制御される。具体的には、制御部62は、次に加工対象となる分割予定ライン13をモニターする。そして、次に切削される分割予定ライン13と、選定ライン情報記憶部64に記憶された選定ライン情報が示す特定の分割予定ライン13とが一致すると、制御部62は切削装置2の各構成要素に制御信号を出力し、切削装置2に上記の第1ドレスステップS2、切削ステップS3、第2ドレスステップS4を実施させる。
【0086】
また、制御部62の記憶部(メモリ)には、上記の第1ドレスステップS2、切削ステップS3、第2ドレスステップS4を順に実施するために必要な切削装置2の構成要素の一連の動作を記述するプログラムが記憶されている。そして、切削装置2で被加工物11の加工を実施する際には、制御部62が記憶部からプログラムを読み出して実行し、切削装置2の各構成要素に制御信号を順次出力する。これにより、切削装置2の稼働が制御され、本実施形態に係る被加工物の切削方法が自動で実施される。
【0087】
以上の通り、本実施形態に係る被加工物の切削方法では、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する前に、切削ブレード46をドレスボード23に切り込ませることによって切削ブレード46のドレスを行う。これにより、コンディションが良好な切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削することができ、被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0088】
また、本実施形態に係る被加工物の切削方法では、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削した後に、切削ブレード46をドレスボード23に切り込ませることによって切削ブレード46のドレスを行う。これにより、コンディションが良好な切削ブレード46で被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削することができ、被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削する際における加工不良の発生が抑制される。
【0089】
なお、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削する際に切削ブレード46のコンディションが悪化しにくい場合には、第2ドレスステップS4を省略し、切削ステップS3に引き続き切削ブレード46で被加工物11を他の分割予定ライン13に沿って切削してもよい。また、切削ブレード46で被加工物11を特定の分割予定ライン13に沿って切削しない限り切削ブレード46のコンディションが悪化しにくい場合には、第1ドレスステップS2を省略することもできる。
【0090】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0091】
11 被加工物
11a 表面(第1面)
11b 裏面(第2面)
13 分割予定ライン(ストリート)
13A 第1分割予定ライン(第1ストリート)
13B 第2分割予定ライン(第2ストリート)
15 デバイス
17 構造物
19 フレーム
19a 開口
21 シート
23 ドレスボード
23a 表面(第1面)
23b 裏面(第2面)
23c 溝
2 切削装置
4 基台
4a,4b,4c 開口
6 カセット支持台
8 カセット
10 チャックテーブル(保持テーブル)
10a 保持面
12 移動ユニット
14 テーブルカバー
16 防塵防滴カバー
18 クランプ
20A,20B チャックテーブル(サブチャックテーブル)
20a 保持面
22 支持構造
24A,24B 移動ユニット
26 Y軸ガイドレール
28A,28B Y軸移動プレート
30A,30B Y軸ボールねじ
32 Y軸パルスモータ
34A,34B Z軸ガイドレール
36A,36B Z軸移動プレート
38A,38B Z軸ボールねじ
40A,40B Z軸パルスモータ
42A,42B 切削ユニット
44 スピンドル
46 切削ブレード
48 撮像ユニット
50 洗浄ユニット
52 スピンナテーブル
52a 保持面
54 ノズル
56 カバー
58 表示部(表示ユニット、表示装置)
60 報知部(報知ユニット、報知装置)
62 制御部(制御ユニット、制御装置)
64 選定ライン情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6