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特開2023-142758連続式での次亜塩素酸水溶液の製造方法及び製造装置
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  • 特開-連続式での次亜塩素酸水溶液の製造方法及び製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142758
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】連続式での次亜塩素酸水溶液の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C01B11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049818
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】近藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】乾 洋治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 昭洋
(57)【要約】      (修正有)
【課題】次亜塩素酸水、特に殺菌効果の高いpH3.5~6.0程度の弱酸性次亜塩素酸水を、次亜塩素酸塩を原料とし、陽イオン交換樹脂を用いて安定的、かつ効率的に連続的に製造する。
【解決手段】次亜塩素酸ナトリウムなどの塩水溶液と、弱酸性陽イオン交換樹脂などの水素型の陽イオン交換体を水に分散させた陽イオン交換体分散液とを、衝突混合などにより連続的に混合し、得られた混合液を所定長の流路を通過させた後、フィルターにより混合液から前記陽イオン交換体を分離する。陽イオン交換体を予め水に分散させておくことで金属イオンと水素イオンの交換が迅速に進み、所望のpHに到達する時間が短くなる。またフィルターで陽イオン交換体を分離するまでの流路長を制御することで時間制御が極めて容易となり、安定して同じpHの次亜塩素酸水が製造できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩の水溶液と、水素型の陽イオン交換体を水に分散させた陽イオン交換体分散液とを連続的に混合し、
得られた混合液は所定長の流路を通過させ、
その後、フィルターにより混合液から前記陽イオン交換体を分離することを特徴とする、連続式での次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項2】
陽イオン交換体が弱酸性陽イオン交換樹脂であり、製造される次亜塩素酸が弱酸性である請求項1記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記混合液の流路通過時間が3乃至10分間に設定されている請求項2記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項4】
次亜塩素酸塩の水溶液の供給速度をVMI、当該次亜塩素酸塩の水溶液に含まれる単位量当たりの次亜塩素酸イオン(非解離状態のものも含む)の濃度をEMI
陽イオン交換体分散液の供給速度をVIE、当該陽イオン交換体分散液における、該分散液の単位量当たりの陽イオン交換容量をEIE
とした際、
(VMI×EMI)/(VIE×EIE)≦0.5
となる比率で混合を行う請求項1乃至3のいずれかに記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項5】
次亜塩素酸塩の水溶液と、陽イオン交換体分散液との混合を、Y字型混合器またはT字型混合器を用いた衝突混合で行い、かつ得られた混合液を通過させる流路が当該混合器と接続した管状流路である請求項1ないし4いずれかに記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項6】
衝突混合させる際の次亜塩素酸塩の水溶液の流速、及び陽イオン交換体分散液の流速が、いずれも0.1m/s以上である請求項5記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項7】
陽イオン交換体分散液における、陽イオン交換体と水との比率が体積比で1:1.5から1:10の範囲にある請求項1ないし6いずれかに記載の次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項8】
次亜塩素酸塩の水溶液を供給する第一配管、
水素型の陽イオン交換体を水に分散させた分散液を供給する第二配管、
第一配管および第二配管とが接合している混合部、
当該反応部と接続した排出配管、および
排出配管出口に備えられ、前記陽イオン交換体を連続的に分離するフィルター、
とを備えることを特徴とする酸性次亜塩素酸水溶液の連続製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸塩の水溶液を原料とし、イオン交換体を用いて効率的に酸性の次亜塩素酸を製造する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸ナトリウムの水溶液は、幅広い分野で殺菌剤として用いられている。殺菌効果はその溶液のpHにより大きく変動することが知られている。
【0003】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を一般的に殺菌剤として使用される50~100ppmまでそのまま希釈してもpHは8.5~9.5程度までしか下がらない。このようなアルカリ性条件下では大半が次亜塩素酸イオン(OCl)の状態になっており、殺菌効果が低い。また、次亜塩素酸ナトリウムのpHが高く皮膚を強く刺激するため、人体や家畜には直接使用できない。殺菌効果を高めるためには、pHを酸性側に調整し、次亜塩素酸(HClO)の状態に変化させる必要がある(この場合、次亜塩素酸塩を溶解して得ていても、次亜塩素酸水溶液と呼称される)。次亜塩素酸の殺菌効果は、次亜塩素酸イオンの約80倍と言われている。
【0004】
但し、pH3未満では、分子状塩素(Cl)の状態が優位となるため、濃度などの条件によっては有毒ガスである塩素ガスが発生する恐れがあり危険であり、また殺菌効果も低くなる。
【0005】
このように、通常はpHが3.5~6.5、つまり、弱酸性の時、殺菌効果が高い分子状の次亜塩素酸の存在率が高いと考えられている。そしてpHが3.5~6.5の次亜塩素酸水溶液は、人体に対する安全性が比較的高いことから、医療、歯科、農業、食品加工等、様々な分野における殺菌剤として使用されている。そして、近年では介護施設、教育施設、商業施設等の公共施設や、一般家庭における殺菌の用途に使用されるようになり、その消費量は年々増加している。
【0006】
次亜塩素酸塩、例えば次亜塩素酸ナトリウムのpHを酸性側に調整する方法として、電解法や二液法などが知られている。
【0007】
電解法は、希塩酸または食塩水を電解することにより水中で塩素分子を発生させ、HO+Cl→HClO+HClの反応により次亜塩素酸水溶液を得る方法である。ただ、電解法では、電解槽を備えた装置が必要であり、メンテナンス費が高価である。また電解法では最大でも100ppm程度と低濃度の次亜塩素酸水溶液しか製造することができない。
【0008】
一方で、ニ液法は、次亜塩素酸塩水溶液、例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸と混合することにより、pHを酸性側に調整する方法である。しかしニ液法ではpHを3.5~6.5の範囲に調整するのが難しく、pHが3未満となる場合があり、前記の通り塩素ガスが発生するため危険である。
【0009】
そこで、次亜塩素酸塩中の金属イオンを陽イオン交換体により水素イオンに交換することで次亜塩素酸水溶液を製造するイオン交換法が提案されている。イオン交換法では、電解槽などの装置が不要であり、危険な塩素ガスを発生しない。
【0010】
例えば、特許文献1に示す通り、弱酸性イオン交換体を充填した容器に次亜塩素酸塩溶液を通液させることにより、弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造する方法及び装置が提案されている。しかしながら、この方法及び装置では、次亜塩素酸塩溶液を通液するにつれて容器内部の弱酸性イオン交換体が水素型から金属型に徐々に置き換わり、容器内部の水素型の弱酸性イオン交換体の量が減少するため、徐々に次亜塩素酸塩溶液中の金属イオンが置き換わる量が少なくなる。そのため、得られる次亜塩素酸水溶液のpHは経時的に高くなる。最終的には、次亜塩素酸塩溶液中の金属イオンの交換が殆ど行われなくなり、得られる溶液がアルカリ性となってしまう。このように、特許文献1に記載の製造方法及び装置では得られる次亜塩素酸水溶液のpHが徐々に変動するため、殺菌効果が高い領域のpH、すなわちpH3.5~6.5の次亜塩素酸水溶液が安定的に得られないという問題があった。
【0011】
一方で、特許文献2に示す通り、次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液と、弱酸性陽イオン交換樹脂とを混合させて分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程が提案されている。当該文献では、次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性イオン交換樹脂とを混合・攪拌させた後に、弱酸性イオン交換樹脂を分離して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る所謂「バッチ法」について記載されている。しかしながら、この方法では、弱酸性陽イオン交換樹脂が均一に分散している状態の前(樹脂が均一に分散するまで)と後(静置時)では樹脂が不均一であるため、樹脂が次亜塩素酸塩水溶液と接触している時間にばらつきが出る。次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換樹脂の接触時間を厳密に制御することができない。そのため、バッチ毎に次亜塩素酸塩中の金属イオンが置き換わる量が異なり、得られる次亜塩素酸水溶液のpHにぶれが生じる。また、この「バッチ法」では、原料水溶液及び弱酸性陽イオン交換樹脂の投入、樹脂が均一に分散するまでの攪拌、少なくとも10分間の攪拌混合、樹脂の沈降までの静置、使用済み弱酸性イオン交換樹脂の分離など様々な作業が発生するため次亜塩素酸水溶液を得るのに時間がかかってしまい、効率的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2011/136091号公報
【特許文献2】特開2019-202907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、次亜塩素酸水溶液を所定のpH、特に殺菌効果が高いpH3.5~6.0の次亜塩素酸水を安定的、かつ効率的に連続的に得る製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。
【0015】
その結果、水素型の陽イオン交換体を水に分散させ、この陽イオン交換体の分散液を次亜塩素酸塩の水溶液と混合させた場合、次亜塩素酸塩のイオン交換が速やかに行われて短時間で所定のpHとすることができることを見出した。
【0016】
さらにまた、この混合液を所定長の流路を通過させた後、フィルターにより混合液から前記陽イオン交換体を分離すると、その流路長の制御で陽イオン交換体との接触時間の制御が容易にでき、かつ安定して連続的に次亜塩素酸水を製造しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、次亜塩素酸塩の水溶液と、水素型の陽イオン交換体を水に分散させた陽イオン交換体分散液とを連続的に混合し、得られた混合液は所定長の流路を通過させ、その後フィルターにより混合液から前記陽イオン交換体を分離することを特徴とする連続式での次亜塩素酸水溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、所定のpH、特に殺菌効果が高いpH3.5~6.0の次亜塩素酸水を安定的、かつ連続的に効率良く製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の製造方法を実施する装置の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、次亜塩素酸塩を原料とし、陽イオン交換体を用いて次亜塩素酸水溶液を製造方法する方法に係る。なおここで「次亜塩素酸水溶液」とは、水溶液中で次亜塩素酸イオン(ClO)よりも遊離の次亜塩素酸(HClO)が優勢となって存在するpH7.0以下の水溶液を指す。安全性や殺菌力の観点から、製造する次亜塩素酸水溶液のpHは弱酸性であること、具体的には3.0から6.5であることが好ましく、3.5から6.0であることがより好ましい。
【0021】
本発明において、原料として用いる次亜塩素酸塩は水溶性であれば特に限定されず、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カリウム(KClO)、次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO))などが例示される。これらは、単独で用いても良いし、混合して用いても良い。また次亜塩素酸塩は、日本薬局方、食品用、試薬用、工業用等におけるいずれのグレードを用いてもよい。
【0022】
本発明において、次亜塩素酸塩は水溶液として用いる。当該次亜塩素酸塩の濃度は、任意の濃度に設定することができる。例えば、次亜塩素酸ナトリウムの場合、市販されている12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液をそのまま使用、あるいは水で希釈して任意の濃度にて使用することが出来る。希釈に用いる水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水などが使用でき、イオン交換容量に影響を与える金属イオンが実質的に含まれていなければ良い。ただし次亜塩素酸と反応して消費してしまうため、河川水など有機物が多く含まれている水はあまり好ましくない。
【0023】
このような次亜塩素酸塩を水に溶解しただけの水溶液は強いアルカリ性であり、ほとんどが次亜塩素酸イオン(ClO)のように解離した状態で存在する。本発明においては、この水溶液のpHを遊離の次亜塩素酸(HClO)が優勢となる7.0以下とするために、陽イオン交換体と接触させる。
【0024】
当該陽イオン交換体としては、入手性やイオン交換容量の大きさ、品質の均一性などの点から陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。また、次亜塩素酸塩水溶液が含む金属イオン側を水素イオンに交換する必要があり、水素型の陽イオン交換体を用いる(以下では、特に記載のない限り、単に「陽イオン交換体」「陽イオン交換樹脂」などと記した場合には「水素型」のものを示す)。
【0025】
当該陽イオン交換樹脂は、通常アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等を重合し、ジビニルベンゼン等で三次元架橋した樹脂にカルボキシル基(-COOH)、スルホン酸基(-SOH)等を導入した構造を有する。カルボキシル基(-COOH)、スルホン酸基(-SOH)等の陽イオン交換基を有することにより、次亜塩素酸ナトリウム等を混合させた場合、次亜塩素酸ナトリウム中の金属イオンを水素イオンに交換する性能を有する。
【0026】
本発明においては、陽イオン交換基がカルボキシル基(-COOH)等の弱酸性基である陽イオン交換樹脂、すなわち弱酸性陽イオン交換樹脂が、製造される次亜塩素酸水のpHの観点からは好ましい。即ち、このような弱酸性陽イオン交換樹脂を用いれば、製造される次亜塩素酸水溶液のpHが前記したような範囲、すなわち弱酸性となるため、塩素ガスが発生する危険がないためである。そして、弱酸性の次亜塩素酸水溶液は、強酸性の次亜塩素酸水溶液よりも更に高い殺菌効果を示す。
【0027】
本発明において、当該陽イオン交換体は、水に分散させた状態で前記次亜塩素酸塩の水溶液と混合する。事前に水に分散させておくことで、イオン交換が速やかに進み、所望のpHを得るまでの時間を短くできる。また加えて、次亜塩素酸水溶液との混合も容易で、一定量を連続的に混合するのが容易となる。
【0028】
均一な陽イオン交換体分散液を調製しやすいという観点から、当該陽イオン交換体は粒径(全通する篩の目開き)が5mm以下であることが好ましく、3mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。他方、細かすぎると流動性を得るためにより多くの水が必要になり、また後述する分離の際にフィルター抜けや目詰まりを起こしやすくなるため、粒径(こちらは、全量が残存する篩の目開き)は0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。また形状は、球状、破砕状のいずれでもよい。
【0029】
なお通常市販されている陽イオン交換樹脂は、粒径が揃った直径が0.3~1.5mm程度の球状であり、本発明の実施にあたっては、これをそのまま用いることができる。
【0030】
本発明においては、上記のような陽イオン交換体を水に分散させた分散液(陽イオン交換体分散液)を用いる。調製するために用いる水としては、前述したのと同様である。
【0031】
該陽イオン交換体分散液におけるイオン交換体と水との比率については、流動性を確保できる限り制限されるものではないが、体積比で1:1.5から1:10の範囲内にあることが好ましい。水の比率が高い方が流路中をより均一に通過させることができる。また、比率が少ない方が陽イオン交換体分散に用いる水の量を少なくでき、よって、最終的に回収される次亜塩素酸水溶液もより高濃度にできる。なおイオン交換体の体積は、メスシリンダー法(タップ法)で測定する。また水の体積は、陽イオン交換体分散液の体積から分散させたイオン交換体の体積を引いた量とする。
【0032】
本発明においては、上記の次亜塩素酸塩水溶液と陽イオン交換体分散液とを混合する。これにより次亜塩素酸塩水溶液に含まれていたナトリウムイオンなどの金属イオンが水素イオンと交換して混合液のpHが低下するため、遊離の次亜塩素酸(HClO)の状態を優勢にできる。
【0033】
所定のpHの次亜塩素酸水溶液を連続的に生産するために、本発明においては当該混合も連続的に行う。その方法は特に限定されるものではないが、単位時間当たり一定量の流体同士を迅速に混合するのに適した方法である「衝突混合」を採用することが好ましい。
【0034】
より具体的には、例えば図1に示すようなY字型の混合器にて、第一配管から次亜塩素酸水溶液を、第二配管から陽イオン交換体分散液を供給し、Y字の接合部で衝突させる方法が挙げられる。また、両液が正面から衝突するように設計されたT字型の混合器を用いても良い。このようなY字型あるいはT字型の混合器は周知であり、その大きさや細部の形状などは必要に応じて適宜設定して使用すればよい。
【0035】
衝突混合させる場合、次亜塩素酸塩の水溶液の流速、及び陽イオン交換体分散液の流速(線速)については限定されないが、いずれも0.1m/s以上であることが好ましい。流速を0.1m/s以上とすることにより、次亜塩素酸塩の水溶液と陽イオン交換体分散液の混合がより十分に行われ、混合液中の金属イオンが水素イオンに交換されやすく、より素早く、かつ均一にpHを低下させることができる。
【0036】
次亜塩素酸塩の水溶液、及び、陽イオン交換体分散液の流速は、液の供給速度と流路径(最小径部)で決定される。これらは混合部(衝突部)より前の流路に流量調整弁を設けることにより調整しても良いし、ポンプの吐出速度等の設定により調整しても良く、公知の方法を適宜選択、採用すればよい。
【0037】
次亜塩素酸塩の水溶液と、陽イオン交換体分散液との混合比については任意であるが、混合に供する次亜塩素酸塩の水溶液の供給速度をVMI、含まれる次亜塩素酸イオン(非解離状態のもの、即ちHと結合して遊離のHClOとして液中に存在するものであっても、ここでは便宜上イオンとして計算する)の単位量当たりの濃度をEMIとし、また同陽イオン交換体分散液の供給速度をVIE、該分散液の単位量当たりの陽イオン交換容量をEIEとした際に、(VMI×EMI)/(VIE×EIE)≦0.5となる比率で両液を混合することが好ましく、(VMI×EMI)/(VIE×EIE)≦0.3となる比率がより好ましい。
【0038】
ここで、EIEは、単位量(体積でも質量でもよく、混合する際に制御する方を選択すればよい)の陽イオン交換体分散液に含まれる陽イオン交換体について、すべての交換基が作用した場合のイオン交換能力(eq)を示す。なお前記したような水を使用していれば、当該水がイオン交換容量に与える影響は実質的にないから、単位量の陽イオン交換体分散液に含まれる陽イオン交換体の陽イオン交換容量を、EIEとみなすことができる。
【0039】
例えばイオン交換水を用いて製造したものであって、陽イオン交換体分散液1L中に、イオン交換容量が3.9eq/(L-樹脂)の陽イオン交換樹脂が100ml存在する分散液の場合、この陽イオン交換体分散液のEIEは0.39eq/Lとなる。
【0040】
また、混合に供する次亜塩素酸塩の水溶液に含まれる次亜塩素酸イオンの濃度(EMI)とは、単位量(ここでは、EIE側と単位を揃える)の次亜塩素酸塩の水溶液に含まれる次亜塩素酸イオン(前記の通り非乖離状態のものを含む)の当量(eq)で示される。
【0041】
例えば、次亜塩素酸塩の水溶液が2300ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液(比重1.0)である場合、1Lの水溶液に含まれる次亜塩素酸ナトリウムの量は、〔1000(mL)×1.0(g/mL)×0.0023〕/74.4(g/mol)=0.031molとなり、次亜塩素酸ナトリウムのモル含有量=次亜塩素酸イオンのモル含有量とみなせるから、この水溶液におけるEMIは、0.031mol/L(0.031eq/L)となる。
【0042】
そして、上記の次亜塩素酸塩の水溶液と陽イオン交換体分散液とを、同じ供給速度(例えば、1L/min)で混合したとすれば、(VMI×EMI)/(VIE×EIE)は0.08となり、体積比で6:1(例えば、1.2L/minと0.2L/min)で混合すれば、同0.48となる。
【0043】
(VMI×EMI)/(VIE×EIE)を小さくするほど、次亜塩素酸塩の水溶液中の金属イオンが水素イオンに交換されやすく、より素早く所望のpHとしやすくなる。他方、小さいほどイオン交換に使用されないイオン交換基の割合が増え、また水の割合も増える傾向にあるため、(VMI×EMI)/(VIE×EIE)は0.05以上とすることが好ましい。
【0044】
次亜塩素酸塩の水溶液と陽イオン交換体分散液とを混合させる温度は、水が液体状態である温度(通常は0℃以上100℃以下)であればよく、特に限定されないが、5℃以上40℃以下とすることが好ましい。温度が低い方が生成した次亜塩素酸の分解反応(2HClO→2HCl+O)がより抑制され、よって次亜塩素酸濃度の低下も抑制しやすい。一方で、一般には温度が高い方がイオン交換反応は進みやすい。さらにこの温度範囲であれば、熱傷などの危険性も少ない。またヒーター等を用いて温度制御を行っても良いが、この温度範囲であれば、環境温度(室温、外気温)に任せて無制御とし、製造中に若干の温度変化が生じても特に問題とはならない。
【0045】
本発明においては、上述のようにして得た混合液を、所定長の流路を通過させた後、後述するようにフィルターを用いて陽イオン交換体を分離する。混合液の流路通過時間は、混合液の流速と流路の長さで決定される。そして衝突混合を採用した場合、混合液の流速は、前記次亜塩素酸塩の水溶液と陽イオン交換体分散液とを衝突させたことで得られた流速を、そのままとしておけばよい(換言すれば、特に理由のない限り、減速あるいは加速を行う必要はない)。従って流路通過時間は、流路(配管等)の長さを調整すれば(即ち、所望の時間に応じた「所定長」とすれば)容易に制御できる。
【0046】
混合したものを貯留タンクなどに貯めていく方法では、同じタンク内でも混合されてからの時間が短いものと長いものが混じりあい、イオン交換を行う時間の均一な制御ができないが、本発明の方法によれば流路長さの調整のみで容易に制御できる優れた方法である。
【0047】
流路通過時間、即ち液中で金属イオンと水素イオンが交換する時間は、所望のpHや用いた陽イオン交換体の種類や使用量に応じて適宜設定すればよい。通常、この時間が長いほどpHは低くなっていくが、時間の経過とともに低下速度は著しく遅くなっていく。またこの時間が長いということは、流路の長さが長いということであり、その分、製造装置が大型になる。一方、設定時間が短すぎると、回収する次亜塩素酸水溶液のpH等のバラツキが大きくなる恐れもある。
【0048】
次亜塩素酸水溶液のpHを弱酸性とするには、前述の弱酸性陽イオン交換樹脂を用いると容易に達成できる。さらにその際、当該次亜塩素酸塩の水溶液と陽イオン交換体分散液との混合液の流路の通過時間、即ち、混合された後、後述するフィルターにより陽イオン交換体を分離するまでの時間を3乃至10分間の範囲内となるように設定することが好ましい。
【0049】
上記のようにして決定された所定長の流路を通過させた混合液は、フィルターにかけて陽イオン交換体を分離する。例えば、図1に示すようなY字型の衝突反応器を用いた場合には、その衝突部(混合部)と接続した排出配管中を混合液が通過するから、その長さが所定長となるが、当該排出配管出口の直下にフィルターを備え、出てきた混合液から前記陽イオン交換体を連続的に分離する。なお図1では、排出配管は混合部から直下にまっすぐ伸びているが、所望の時間を得るための所定長が長いなどのケースに応じて、屈曲するなどさせて設置スペース削減を図った形態でもよい。
【0050】
このように所定長の流路を通過させた後、陽イオン交換体を連続的に分離することにより、液中に陽イオン交換体が存在する時間、即ち、金属イオンと水素イオンが交換する時間の制御を流路の長さの調製で可能であるから、均一な品質の次亜塩素酸水溶液を簡単な装置で、連続的に容易に製造できる。
【0051】
用いるフィルターは、前記陽イオン交換体を連続的に分離できるものであれば、態様や材質は限定されないが、水平ベルトフィルターを用いることが構造が簡単であり、入手も容易で好ましい。フィルターの孔径は、陽イオン交換樹脂の径よりも小さいものであれば限定されないが、孔径100μm以上とすることにより、次亜塩素酸水溶液を速やかに通過させることができる。
【0052】
陽イオン交換体を分離した得られた次亜塩素酸水溶液は、その後、必要に応じて、希釈、小分けなどを行って使用に供することができる。
【0053】
なお分離した陽イオン交換体(特に陽イオン交換樹脂)は、塩酸や硫酸水溶液などの薬剤で処理するなど公知の方法で、容易に再生することが可能であるから、再度、陽イオン交換体分散液の調製に用いることも可能である。
【0054】
また、混合器や流路(配管)の材質は限定されないが、配管の内面が次亜塩素酸により変性しないものが好ましい。また、混合液は比較的強い酸性を示す場合もあるから、耐酸性のものであることも好ましい。さらには、金属が溶出してきて不純物として混入しないような材質であることもこのましい。これらを考慮すると例えば、塩化ビニルや配管の内面にフッ素樹脂がコーティングされた金属を好ましい材質として挙げることが出来る。
【0055】
フィルターの材質も同様の観点から選択でき、さらに柔軟性を有するという観点を加え、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
【実施例0056】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
<装置及び衝突混合条件>
実施例においては、図1に模式図を示した衝突部をY字管型とした製造装置を使用した。
【0058】
第一配管及び第二配管の内径(直径)は10mmとし、排出配管の内径(直径)は14mmとした。配管の材質は塩化ビニルを用いた。
【0059】
排出配管の下には不織布のフィルター(孔径200μm、材質:ポリプロピレン、スリーエム社製)を設けて、弱酸性陽イオン交換樹脂を分離した。
【0060】
各配管への次亜塩素酸ナトリウム水溶液の供給速度VMIは、0.42L/min、陽イオン交換体分散液の供給速度VIEは、0.047L/minとしている。
【0061】
衝突混合させる際の次亜塩素酸塩の水溶液及び陽イオン交換体分散液を各配管に通過させる速度は、いずれも0.1m/sとした。また、前記混合液の流路通過時間は3分とした。すなわち、排出配管の長さは0.1m/s×180s=18mとした。
【0062】
製造は、全て約25℃の室温下にて行った(なお比較例でも温度条件は同じである)。
【0063】
<原料>
(1)次亜塩素酸塩の水溶液
12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液「ネオラックススーパー」(株式会社島田商店製)をイオン交換水で希釈し、濃度を2300ppmとした(以下、「塩溶液A」とする)。pHは10.0であった。
【0064】
なお、この濃度2300ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液における単位量当たりの次亜塩素酸イオンの濃度EMIは、〔1000(mL)×1.0(g/mL)×0.0023〕/74.4(g/mol)=0.031mol/Lとなり、次亜塩素酸ナトリウムのモル含有量=次亜塩素酸イオンのモル含有量とみなせるから、0.031eq/Lとなる。
【0065】
(2)陽イオン交換体分散液
陽イオン交換体としては、弱酸性陽イオン交換樹脂であるアンバーライトIRC76(オルガノ株式会社製)を用いた。アンバーライトIRC76の総イオン交換容量は3.9eq/(L-樹脂)、すなわち陽イオン交換体1Lについてすべての交換基が作用した場合、3.9モル分の一価陽イオンを水素イオンに置換することができる。
【0066】
14mlまたは24mlのIRC76にイオン交換水を加え、IRC76を分散させ、各100mLの陽イオン交換体分散液を得た。IRCが14mlの場合(以下、「分散液B1」とする)のEIEは0.55eq/L、陽イオン交換体と水との比率が体積比1:6.1となる。同じくIRCが24mlの場合(以下、「分散液B2」とする)のEIEは0.94eq/L、陽イオン交換体と水との比率が体積比1:3.2となる。これら性状は、下表1にまとめた。
【0067】
【表1】
【0068】
<分析方法>
以下の方法により有効塩素濃度およびpHを測定した。
【0069】
[有効塩素濃度測定方法]
有効塩素濃度測定キットAQ-202P(柴田科学株式会社製)にて室温(25℃±1℃)で測定した。この方法では、ヨウ素試薬による吸光光度法により測定される濃度を求めている。
【0070】
[pH測定方法]
pHメーターF-55型(株式会社堀場製作所製)にて、室温(25℃±1℃)で測定した。
【0071】
実施例1
陽イオン交換体分散液として分散液B1を用いた。従ってこの実施例では(VMI×EMI)/(VIE×EIE)が0.5となる。前述の方法により次亜塩素酸塩の水溶液と衝突混合させて得た次亜塩素酸水溶液の性状を表2に記す。
【0072】
実施例2
陽イオン交換体分散液として分散液B2を用いた。従ってこの実施例では(VMI×EMI)/(VIE×EIE)が0.3となる。前述の方法により次亜塩素酸塩の水溶液と衝突混合させて得た次亜塩素酸水溶液の性状を表2に記す。
【0073】
【表2】
【0074】
比較例1
比較として、「バッチ法」にて次亜塩素酸水溶液を調製した。塩溶液Aの900mLをガラス製の2L三角フラスコ(アズワン株式会社製)に入れ、続いて、前記分散液B1を100mL投入し、フッ素樹脂製攪拌羽を用いて陽イオン交換体が均一に分散するように混合した。分散液B1を投入して3分間(実施例における流路通過時間と同じとしている)経過後の混合液中の有効塩素濃度及びpHを測定した。結果を表3に示す。
【0075】
比較例2
用いた陽イオン交換体分散液を、分散液B2とした以外は比較例1と同様に操作を行った。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例1及び実施例2として示されるように、本発明の製造方法ではpHが3.5~6.0の範囲内の次亜塩素酸水溶液を安定的、かつ効率的に連続的に得られる。
【0078】
一方で、事前に陽イオン交換体分散液を調製しているが、「バッチ法」で行った比較例では、有効塩素濃度は実施例と同様に2000ppmであったものの、pHは比較例1では7.2、比較例2では7.1となり、実施例と同じ陽イオン交換体の使用比率の場合、同じ時間では十分にイオン交換がなされていないことが分かった。
【0079】
以上に示すように、次亜塩素酸塩の水溶液と、陽イオン交換体分散液を連続的に混合させることで、連続的にpHが3.5~6.0の範囲内の次亜塩素酸水溶液を安定的、かつ効率的に得られる。
図1