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特開2023-142881油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142881
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/40 20160101AFI20230928BHJP
【FI】
A23L5/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050004
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(72)【発明者】
【氏名】折笠 祥子
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕伴
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE05
4B018MA08
4B018ME14
4B018MF14
(57)【要約】
【課題】ろ過工程においてろ過助剤として珪藻土を用いて油脂を製造した場合における保存時の油脂の着色を抑制できる油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法を提供する。
【解決手段】珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含む、油脂の製造方法において、以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む、油脂の製造方法。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含む、油脂の製造方法において、
以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む、油脂の製造方法。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【請求項2】
前記工程Aを含む、請求項1に記載の油脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程Bを含む、請求項1又は請求項2に記載の油脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程Cを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程A又は前記工程B、及び前記工程A又は前記工程Bの後に行われる前記工程Cを含む、請求項1に記載の油脂の製造方法。
【請求項6】
前記工程Dを含む、請求項1に記載の油脂の製造方法。
【請求項7】
珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含む、油脂の着色抑制方法において、
以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む、油脂の着色抑制方法。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油脂の製造工程では、ろ過工程があり、ろ過工程ではろ過助剤が用いられることがある。ろ過助剤としては、例えば珪藻土が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】神笠 諭、「珪藻土とその工業的利用」、J. Soc. Powder Technol., Japan(粉体工学会誌), Vol.39 No.2, p.114-121 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、油脂のろ過工程においてろ過助剤として珪藻土を用いると、製造された油脂が保存時に橙色に着色する問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、ろ過工程においてろ過助剤として珪藻土を用いて油脂を製造した場合における保存時の油脂の着色を抑制できる油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法を提供する。
【0007】
また、本発明において、X(数値)~Y(数値)との記載は、特に明記していない限り、X以上Y以下を意味する。
【0008】
[1]珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含む、油脂の製造方法において、以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む、油脂の製造方法。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
[2]前記工程Aを含む、前記[1]に記載の油脂の製造方法。
[3]前記工程Bを含む、前記[1]又は[2]に記載の油脂の製造方法。
[4]前記工程Cを含む、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の油脂の製造方法。
[5]前記工程A又は前記工程B、及び前記工程A又は前記工程Bの後に行われる前記工程Cを含む、前記[1]に記載の油脂の製造方法。
[6]前記工程Dを含む、前記[1]に記載の油脂の製造方法。
[7]珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含む、油脂の着色抑制方法において、以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む、油脂の着色抑制方法。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ろ過工程においてろ過助剤として珪藻土を用いて油脂を製造した場合における保存時の油脂の着色を抑制できる油脂の製造方法及び油脂の着色抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔油脂の製造方法〕
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という)に係る油脂の製造方法は、珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含み、以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【0011】
(ろ過工程)
本実施形態に係る油脂の製造方法におけるろ過工程は、珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過する工程である。
【0012】
ろ過助剤としての珪藻土の種類は、特に限定されるものではなく、油脂の製造工程において使用可能な珪藻土であれば用いることができ、例えば市販の珪藻土ろ過助剤(昭和化学工業株式会社製)を使用できる。
【0013】
また、油脂に対する珪藻土の添加量についても、特に限定されるものではなく、油脂の種類等に応じて適宜、決めることができる。例えば、精製対象の油脂に対して0.1~5質量%の割合で添加することができる。処理温度等、その他のろ過処理条件についても適宜、設定できる。
【0014】
本実施形態に係る油脂の製造方法において、上記ろ過工程は、どの段階で行なってもよく、例えば、油脂の精製工程として一般的な脱色工程、脱ろう工程、脱臭工程などの前後に行うことができ、あるいは、これらの工程と同時に行うこともできる。例えば、脱ろう工程において行うことや、脱臭工程の後に行うことが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る油脂の製造方法は、、一般的に知られている油脂の製造に適用できる。例えば、大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ油、サフラワー油、コーン油、米油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、ぶどう種子油、ヤシ油、パーム核油、パーム油等の植物油脂の製造に適用できる。本発明の課題との関係で言えば、保存時の油脂の着色の原因となり得る物質を含む油脂の製造に好適であり、当該物質の全部又は一部を工程A~Dにより取り除くことができる。着色の原因物質は不明であるが、珪藻土由来の物質の影響によりトコフェロールが有色の生成物となることがその一因となっていると考えられる。
【0016】
(工程A)
本実施形態に係る油脂の製造方法における工程Aは、上記ろ過工程以降に、上記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で上記精製対象の油脂を処理する工程である。
【0017】
「ろ過工程以降に」には、ろ過工程後に行う場合と、ろ過工程と同時に行う場合とが含まれるが、ろ過工程の直後に行うことが好ましい。
【0018】
固体の有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などの結晶が例示できるが、クエン酸結晶であることが好ましい。有機酸水溶液では、着色抑制効果が現れにくい傾向にあるので、固体の有機酸であることが好ましい。
【0019】
固体の有機酸は、精製対象の油脂(質量)に対して8ppm以上添加する。精製対象の油脂に対して10ppm以上添加することが好ましく、20ppm以上添加することがより好ましく、25ppm以上添加することがより好ましく、30ppm以上添加することがより好ましく、35ppm以上添加することがより好ましく、40ppm以上添加することがより好ましく、45ppm以上添加することがさらに好ましく、50ppm以上添加することが最も好ましい。添加量の上限は、特に限定されるものではないが、精製対象の油脂に対して2000ppm以下であることが好ましく、1800ppm以下であることがより好ましく、1600ppm以下であることがより好ましく、1400ppm以下であることがより好ましく、1200ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることがさらに好ましく、600ppm以下であることが最も好ましい。
【0020】
固体の有機酸は、上記ろ過工程で使用した珪藻土(質量)に対して200ppm~80000ppmとなる量を精製対象の油脂に添加することが好ましく、230ppm~10000ppm添加することがより好ましく、230ppm~5000ppm添加することがより好ましく、230ppm~1300ppm添加することがさらに好ましく、250ppm~500ppm添加することが最も好ましい。
【0021】
その他の処理方法や処理条件については、適宜、設定できる。例えば、油脂に固体の有機酸を添加後、全体が混和するように撹拌し、0~90℃で5~60分加熱後、冷却し、油脂を吸引ろ過して固形分を除去する。
【0022】
(工程B)
本実施形態に係る油脂の製造方法における工程Bは、上記ろ過工程の前に、上記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で上記精製対象の油脂を処理する工程である。
【0023】
「ろ過工程の前に」には、ろ過工程の直前に行う場合と、ろ過工程の数工程前に行う場合とが含まれるが、ろ過工程の直前に行うことが好ましい。
【0024】
有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などが例示できるが、クエン酸、リンゴ酸又は酒石酸であることが好ましい。固体の有機酸に限らず、有機酸水溶液を用いてもよい。
【0025】
有機酸は、精製対象の油脂(質量)に対して8ppm以上添加する。精製対象の油脂に対して10ppm以上添加することが好ましく、20ppm以上添加することがより好ましく、25ppm以上添加することがより好ましく、30ppm以上添加することがより好ましく、35ppm以上添加することがより好ましく、40ppm以上添加することがより好ましく、45ppm以上添加することがさらに好ましく、50ppm以上添加することが最も好ましい。添加量の上限は、特に限定されるものではないが、精製対象の油脂に対して2000ppm以下であることが好ましく、1800ppm以下であることがより好ましく、1600ppm以下であることがより好ましく、1400ppm以下であることがより好ましく、1200ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることがさらに好ましく、600ppm以下であることが最も好ましい。
【0026】
有機酸は、上記ろ過工程で使用する珪藻土(質量)に対して200ppm~80000ppmとなる量を精製対象の油脂に添加することが好ましく、300ppm~10000ppm添加することがより好ましく、500ppm~8000ppm添加することがより好ましく、3000ppm~7000ppm添加することがさらに好ましく、4000ppm~6000ppm添加することが最も好ましい。
【0027】
その他の処理方法や処理条件については、適宜、設定できる。例えば、有機酸を水溶液として油脂に添加後、80~120℃、減圧下で脱水しながら、全体が混和するように撹拌し、冷却、油脂を吸引ろ過して固形分を除去する。あるいは、油脂に有機酸を添加後、全体が混和するように撹拌し、0~90℃で5~60分加熱後、冷却し、油脂を吸引ろ過して固形分を除去する。
【0028】
(工程C)
本実施形態に係る油脂の製造方法における工程Cは、上記ろ過工程の後に、上記珪藻土の10質量倍以上の水で上記精製対象の油脂を水洗する工程である。
【0029】
「ろ過工程の後に」には、ろ過工程の直後に行う場合と、ろ過工程の数工程後に行う場合とが含まれるが、ろ過工程の直後に行うことが好ましい。
【0030】
水洗処理における水量は、上記ろ過工程で使用する珪藻土(質量)の10質量倍以上とする。珪藻土の11質量倍以上とすることが好ましく、12質量倍以上とすることがより好ましく、13質量倍以上とすることがより好ましく、14質量倍以上とすることがより好ましく、15質量倍以上とすることがより好ましく、20質量倍以上とすることがより好ましく、30質量倍以上とすることがさらに好ましく、40質量倍以上とすることが最も好ましい。水量の上限は、特に限定されるものではないが、珪藻土の200質量倍以下とすることが好ましく、150質量倍以下とすることがより好ましく、120質量倍以下とすることがより好ましく、100質量倍以下とすることがより好ましく、90質量倍以下とすることがより好ましく、80質量倍以下とすることがより好ましく、70質量倍以下とすることがさらに好ましく、60質量倍以下とすることが最も好ましい。
【0031】
水洗処理回数は、1回でも、複数回に分けて行ってもよい。
【0032】
その他の処理方法や処理条件については、適宜、設定できる。例えば、油脂に洗浄水を添加後、全体が混和するように振とう機などで十分に振とうした後、遠心分離を行ない、油相部分を回収する。また、得られた油相部分の残存水分を除去するために、脱水処理(例えば、60~120℃、減圧下、5~60分)することが好ましい。
【0033】
(工程D)
本実施形態に係る油脂の製造方法における工程Dは、上記ろ過工程以降に、上記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で上記精製対象の油脂を処理する工程の後、上記珪藻土の2質量倍以上の水で上記精製対象の油脂を水洗する工程である。
【0034】
「ろ過工程以降に」については、工程Aで説明したとおりである。「有機酸で上記精製対象の油脂を処理する工程の後」には、有機酸による処理工程の直後に行う場合と、有機酸による処理工程の数工程後に行う場合とが含まれるが、有機酸による処理工程の直後に行うことが好ましい。
【0035】
「有機酸」については、工程Bで説明したとおりである。
【0036】
有機酸は、精製対象の油脂(質量)に対して5ppm以上添加する。精製対象の油脂に対して6ppm以上添加することが好ましく、7ppm以上添加することがより好ましく、8ppm以上添加することがより好ましく、9ppm以上添加することがより好ましく、10ppm以上添加することがより好ましく、40ppm以上添加することがより好ましく、45ppm以上添加することがさらに好ましく、50ppm以上添加することが最も好ましい。添加量の上限は、特に限定されるものではないが、精製対象の油脂に対して2000ppm以下であることが好ましく、1800ppm以下であることがより好ましく、1600ppm以下であることがより好ましく、1400ppm以下であることがより好ましく、1200ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、800ppm以下であることがさらに好ましく、600ppm以下であることが最も好ましい。
【0037】
有機酸は、上記ろ過工程で使用する珪藻土(質量)に対して100ppm~80000ppmとなる量を精製対象の油脂に添加することが好ましく、100ppm~5000ppm添加することがより好ましく、125ppm~3000ppm添加することがより好ましく、125ppm~1000ppm添加することがさらに好ましく、125ppm~600ppm添加することが最も好ましい。
【0038】
水洗処理における水量は、上記ろ過工程で使用する珪藻土(質量)の2質量倍以上とする。珪藻土の3質量倍以上とすることが好ましく、4質量倍以上とすることがより好ましく、5質量倍以上とすることがより好ましく、6質量倍以上とすることがより好ましく、7質量倍以上とすることがより好ましく、8質量倍以上とすることがより好ましく、9質量倍以上とすることがさらに好ましく、10質量倍以上とすることが最も好ましい。水量の上限は、特に限定されるものではないが、珪藻土の200質量倍以下とすることが好ましく、150質量倍以下とすることがより好ましく、120質量倍以下とすることがより好ましく、100質量倍以下とすることがより好ましく、90質量倍以下とすることがより好ましく、80質量倍以下とすることがより好ましく、70質量倍以下とすることがさらに好ましく、60質量倍以下とすることが最も好ましい。
【0039】
水洗処理回数は、1回でも、複数回に分けて行ってもよい。
【0040】
その他の処理方法や処理条件については、工程A~Cで説明したとおり、適宜、設定できる。
【0041】
本実施形態に係る油脂の製造方法は、上記工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む。工程A~Cのいずれか1つであっても、これらのうちの2つ以上の組み合わせであってもよい。工程A又は工程Bの後に工程Cを行うことが好ましい。2つ以上の工程を組み合わせる場合には、工程Dのように、工程Aや工程Bにおける有機酸処理時の有機酸の添加量及び/又は工程Cにおける水洗処理時の洗浄水の量を工程A~Cを単独で行なう場合に比べて低減させることができる。なお、りん酸で精製対象の油脂を処理する工程は、本発明の効果に悪影響を与える恐れがあるので、工程A~Dと組み合わせて行わないことが好ましい。
【0042】
(その他の工程)
本実施形態に係る油脂の製造方法は、上記工程以外にも、一般的に行われている油脂の精製工程を含むことができる。具体的には、例えば、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ろう工程、脱臭工程などを含むことができる。
【0043】
〔油脂の着色抑制方法〕
本実施形態に係る油脂の着色抑制方法は、珪藻土をろ過助剤として用いて精製対象の油脂をろ過するろ過工程を含み、以下の工程A~Cから選ばれる1つ以上の工程、又は工程Dを含む。
工程A:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の固体の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程B:前記ろ過工程の前に、前記精製対象の油脂に対して8ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程
工程C:前記ろ過工程の後に、前記珪藻土の10質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
工程D:前記ろ過工程以降に、前記精製対象の油脂に対して5ppm以上の有機酸で前記精製対象の油脂を処理する工程の後、前記珪藻土の2質量倍以上の水で前記精製対象の油脂を水洗する工程
【0044】
各工程の説明(用語の定義を含む)については、本実施形態に係る油脂の製造方法のところで説明したとおりである。
【0045】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0046】
実施例1(工程Aを含む製造方法)
<油脂1~14の製造>
容器中の脱臭菜種油(脱臭工程を経た高オレイン酸低リノレン酸菜種油、日清オイリオグループ株式会社製。以下の実施例において同じ)に、表1~2に記載のとおり、珪藻土ろ過助剤が菜種油に対して0質量%又は4質量%となるように珪藻土ろ過助剤(商品名「ラヂオライト#500」、昭和化学工業株式会社製。以下の実施例において同じ)を加えた。その後、容器のヘッドスペースを窒素で置換し、全体が混和されるように、容器を上下に振って、80℃で30分加熱した。これを室温暗所で2時間静置後、吸引ろ過によって珪藻土ろ過助剤を除去し、ろ過工程を経た油脂を得た。
【0047】
得られた油脂と、クエン酸結晶、DL-リンゴ酸結晶、L-酒石酸結晶、又は98%りん酸を表1~2に記載の量で、樹脂製容器(容量100ml)に入れた。なお、クエン酸結晶、DL-リンゴ酸結晶、及びL-酒石酸結晶は関東化学株式会社製の試薬を用いた。98%りん酸は富士フイルム和光純薬株式会社製の試薬を用いた。容器のヘッドスペースを窒素で置換し、全体が混和されるように、容器を上下に振って、80℃で30分加熱した。これを室温暗所で1時間静置して冷却した。油脂を吸引ろ過し、固形分を除去したものを油脂1~14とした。
【0048】
<油脂15~18の製造>
容器中の脱臭菜種油に、表3に記載のとおり、珪藻土ろ過助剤が菜種油に対して0質量%又は4質量%となるように珪藻土ろ過助剤を加えた。その後、容器のヘッドスペースを窒素で置換し、全体が混和されるように、容器を上下に振って、80℃で30分加熱した。これを室温暗所で2時間静置後、吸引ろ過によって珪藻土ろ過助剤を除去し、ろ過工程を経た油脂を得た。
【0049】
得られた油脂と、クエン酸水溶液(2.5%又は10%溶液となるように、クエン酸結晶(関東化学株式会社製)をイオン交換水に溶解させて調製したもの)を表3に記載の量で、樹脂製容器(100ml)に入れた。室温において振とう機を用いて毎分250往復のスピードで20分間振とうした後、3000rpmで5分間遠心分離を行った。遠心分離後の油相部分を吸引ろ過したものを油脂15~18とした。
【0050】
<保存試験>
油脂1~18を直径5cm、高さ9cmの瓶に15gずつ計量し、蓋をして密閉容器で、80℃で4日間保存した。
【0051】
(色調:Y+10R値)
試験油の色調の濃淡を、ロビボンド比色計(The Tintometer Limited社製Lovibond PFX995)で1インチセルを使用して、黄の色度(Y値)及び赤の色度(R値)を測定し、Y値+10×R値(以下、Y+10R)を算出して評価した。結果を表1~3に示す。Y+10Rの数値が小さい程、色調が淡く、Y+10R数値が大きい程、色調が濃いことを意味する。
【0052】
(着色度合いの計算)
着色度合いは80℃で4日保存後のY+10R値を用いて計算した。油脂3~14については、油脂1のY+10R値を0%、油脂2のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。油脂17、18については、油脂15のY+10R値を0%、油脂16のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。結果を表1~3に示す。なお、油脂1~14と油脂15~18とでは保存試験前の製造工程における加熱履歴が異なる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
<有機酸結晶及びりん酸の効果>
クエン酸結晶を10ppm添加した油脂4では着色度合いを8%に抑制することができた。クエン酸結晶の量を増やした油脂5~11では着色度合いを33~67%に抑制することができた。油脂12、13ではクエン酸以外の有機酸でも着色を抑制できることができた。油脂14ではりん酸を添加したが、着色は抑制できなかった。油脂17、18ではクエン酸水溶液を添加したが、着色を抑制できなかった。
【0057】
実施例2(工程Cを含む製造方法)
<油脂19~28の製造>
容器中の脱臭菜種油に、表4~6に記載のとおり、珪藻土ろ過助剤が菜種油に対して0質量%、2質量%又は4質量%となるように珪藻土ろ過助剤を加えた。その後、容器のヘッドスペースを窒素で置換し、全体が混和されるように、容器を上下に振って、80℃で30分加熱した。これを室温暗所で2時間静置後、吸引ろ過によって珪藻土ろ過助剤を除去し、ろ過工程を経た油脂を得た。
【0058】
得られた油脂と、洗浄水(イオン交換水)を表4~6に記載の量で樹脂製の遠沈管に入れ、振とう機を用いて毎分150往復のスピードで5分間振とうした後、3000rpm5分間の遠心分離を行った。1倍量の洗浄水で洗浄した油脂26、28については、0.5倍量の洗浄水で1回目の水洗を行い、遠心分離後の油相部分を別の樹脂製の遠沈管に18g移し、さらに0.5倍量の洗浄水を加え、2回目の水洗を1回目と同様に行った。これらの遠心分離後の油相を油脂19~28とした。
【0059】
<保存試験>
油脂19~28を直径5cm、高さ9cmの瓶に15gずつ計量し、蓋をして密閉容器で、80℃で4日間保存した。実施例1と同様にして、Y+10R値を算出した。結果を表4~6に示す。
【0060】
(着色度合いの計算)
着色度合いは80℃で4日保存後のY+10R値を用いて計算した。油脂20~26については、油脂15のY+10R値を0%、油脂19のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。油脂27,28については、油脂15のY+10R値を0%、油脂16のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。結果を表4~6に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
<水洗の効果>
珪藻土ろ過助剤の添加量に対する洗浄水の量[B/(A/100)]が12.5倍以上で効果があり、25倍以上で効果が最大となった。
【0065】
実施例3(工程Dを含む製造方法)
<油脂29~35の製造>
油脂3、5又は17と、洗浄水(イオン交換水)を表7~9に記載の量で樹脂製の遠沈管に入れ、振とう機を用いて毎分150往復のスピードで5分間振とうした後、3000rpm5分間の遠心分離を行った。これらの遠心分離後の油相を油脂29~35とした。なお、油脂34の製造方法は、工程A及び工程Cを含む製造方法でもある。
【0066】
<保存試験>
油脂29~34を直径5cm、高さ9cmの瓶に15gずつ計量し、蓋をして密閉容器で、80℃で4日間保存した。実施例1と同様にして、Y+10R値を算出した。結果を表7~9に示す。
【0067】
(着色度合いの計算)
着色度合いは80℃で4日保存後のY+10R値を用いて計算した。油脂29~34については、油脂1のY+10R値を0%、油脂2のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。油脂35については、油脂15のY+10R値を0%、油脂16のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。結果を表7~9に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
<有機酸と水洗を併用した場合の効果>
有機酸処理と水洗処理を併用することで、有機酸処理時の有機酸の添加量及び/又は水洗処理時の洗浄水の量を工程Aや工程Cの場合に比べて低減させることが可能であった。
【0072】
実施例4(工程Bを含む製造方法)
<油脂36~39の製造>
容器中の脱臭菜種油に、クエン酸濃度が0質量ppm、10質量ppm又は100質量ppmとなるように20%クエン酸水溶液(クエン酸結晶(関東化学株式会社製)をイオン交換水に溶解させて調製したもの)を添加し、撹拌しながら減圧し、105℃まで加熱した。さらに、105℃で、10分間保持して脱水し、減圧状態のまま室温まで冷却し、常圧で吸引ろ過し、クエン酸0ppm、10ppm又は100ppmで処理した油脂を得た。
【0073】
得られた油脂に、珪藻土ろ過助剤を表10に記載の量で添加し、窒素雰囲気下で混合しながら、80℃で30分加熱した。さらに室温暗所で1時間静置後、吸引ろ過によって珪藻土ろ過助剤を除去したものを油脂36~39とした。
【0074】
<保存試験>
油脂36~39を直径5cm、高さ9cmの瓶に15gずつ計量し、蓋をして密閉容器で、60℃で14日間保存した。実施例1と同様にして、Y+10R値を算出した。結果を表10に示す。
【0075】
(着色度合いの計算)
着色度合いは60℃で14日保存後のY+10R値を用いた。油脂36のY+10R値を0%、油脂37のY+10R値を100%として計算により着色度合いを求めた。結果を表10に示す。
【0076】
【表10】
【0077】
<珪藻土ろ過助剤を用いたろ過工程前に有機酸処理をする場合の効果>
珪藻土ろ過助剤を用いたろ過工程前に有機酸処理をする場合、特に有機酸添加量が100ppmで効果が見られた。