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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142914
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】光学部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230928BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20230928BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20230928BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B1/115
C03C17/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050046
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】関 真悟
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2H148FA09
2H148FA13
2H148FA18
2H148FA24
2H148GA09
2H148GA32
2H148GA61
2K009AA02
2K009AA03
2K009BB02
2K009CC03
2K009DD04
4G059AC04
4G059AC08
4G059EA04
4G059EA05
4G059EB03
4G059EB04
4G059EB06
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA12
(57)【要約】
【課題】光学部材に対する視線の角度の変化に起因する、光学部材の色合いの変化を抑制する、技術を提供する。
【解決手段】光学部材は、可視光線を透過する透明基板と、前記透明基板の少なくとも一方の主面に設けた光学多層膜と、を備える。前記透明基板の前記一方の主面に設けた前記光学多層膜は、(A)入射角5°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(5°)450~650maxが2.00%以下であって、(B)入射角30°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(30°)450~650maxが2.00%以下であって、(C)反射率30%を示す入射角5°である光の波長λ(5°)が365nm~425nmであって、且つ(D)反射率30%を示す入射角30°である光の波長λ(30°)が365nm~425nmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線を透過する透明基板と、前記透明基板の少なくとも一方の主面に設けた光学多層膜と、を備える、光学部材であって、
前記透明基板の前記一方の主面に設けた前記光学多層膜は、(A)入射角5°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(5°)450~650maxが2.00%以下であって、(B)入射角30°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(30°)450~650maxが2.00%以下であって、(C)反射率30%を示す入射角5°である光の波長λ(5°)が365nm~425nmであって、且つ(D)反射率30%を示す入射角30°である光の波長λ(30°)が365nm~425nmである、光学部材。
【請求項2】
前記透明基板の前記一方の主面に設けた前記光学多層膜は、(E)入射角5°で波長950nmである光に対する反射率R(5°)950が10.00%以下であって、且つ(F)入射角5°で波長1350nmである光に対する反射率R(5°)1350が15.00%以下である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記透明基板は、ガラス基板である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記透明基板の前記一方の主面に設けた前記光学多層膜は、層数が15以下である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項5】
前記光学部材の反りは、20μm~120μmである、請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
前記光学部材がウエアラブルデバイスに用いられる、請求項1に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AR(Augmented Reality)デバイスまたはMR(Mixed Reality)デバイスなどのウエアラブルデバイスが開発されている(特許文献1)。ウエアラブルデバイスは、光学部材を備える。光学部材は、可視光線を透過する透明基板と、透明基板の少なくとも一方の主面に設けた光学多層膜と、を備える。
【0003】
光学多層膜は、特に限定されないが、例えば反射防止膜である。反射防止膜は、高屈折率の誘電体(例えばTiO)からなる第1層と、低屈折率の誘電体(例えばSiO)からなる第2層とを交互に積層したものであり、光の干渉作用を利用し、可視光線の反射を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-533721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学多層膜の光学特性は、入射角依存性が高いことが知られている。入射角が変化することで、光路長が変化し、光学特性が変化する。例えば、入射角が変化することで、特定の波長の反射率が変化する。その結果、光学部材に対する視線の角度の変化に応じて、光学部材の色合いが変化することがあった。
【0006】
例えばウエアラブルデバイスが右目用の光学部材と左目用の光学部材を備える場合に、観察者がウエアラブルデバイスの左右方向中心よりも右側または左側に立っていると、右目用と左目用とで光学部材に対する観察者の視線の角度が異なる。そのため、右目用と左目用とで光学部材が異なる色合いに見えてしまうことがあった。
【0007】
本開示の一態様は、光学部材に対する視線の角度の変化に起因する、光学部材の色合いの変化を抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光学部材は、可視光線を透過する透明基板と、前記透明基板の少なくとも一方の主面に設けた光学多層膜と、を備える。前記透明基板の前記一方の主面に設けた前記光学多層膜は、(A)入射角5°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(5°)450~650maxが2.00%以下であって、(B)入射角30°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(30°)450~650maxが2.00%以下であって、(C)反射率30%を示す入射角5°である光の波長λ(5°)が365nm~425nmであって、且つ(D)反射率30%を示す入射角30°である光の波長λ(30°)が365nm~425nmである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、光学部材に対する視線の角度の変化に起因する、光学部材の色合いの変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る光学部材の断面図である。
図2図2は、光学多層膜の一例を示す断面図である。
図3図3は、例1の光学多層膜の反射率を示す図である。
図4図4は、例2の光学多層膜の反射率を示す図である。
図5図5は、例3の光学多層膜の反射率を示す図である。
図6図6は、例4の光学多層膜の反射率を示す図である。
図7図7は、例5の光学多層膜の反射率を示す図である。
図8図8は、例6の光学多層膜の反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
先ず、図1を参照して、一実施形態に係る光学部材1について説明する。光学部材1の用途は、特に限定されないが、例えばウエアラブルデバイスである。ウエアラブルデバイスは、AR(Augmented Reality)デバイスまたはMR(Mixed Reality)デバイスなどである。
【0013】
なお、光学部材1の用途は、ディスプレイまたは電子ペーパーなどの画像表示装置であってもよい。ディスプレイは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、LCOS (Liquid Crystal On Silicon)、OLED(Organic Light Emitting Diode)またはMEMS(Micro Electro Mechanical System)である。
【0014】
光学部材1は、可視光線を透過する透明基板2を備える。透明基板2は、第1主面21と、第1主面21とは反対向きの第2主面22と、を有する。透明基板2の厚さは、(A)第1光学多層膜3Aおよび第2光学多層膜3Bなどを成膜する時に生じる反りの低減、(B)薄型化、及び(C)割れ抑制の観点から、好ましくは0.1mm以上5.0mm以下であり、より好ましくは0.1mm~1.0mmである。
【0015】
透明基板2の材料は、可視光線を透過する材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に限定されない。透明基板2は、異なる複数の材料を複合したものでもよい。透明基板2は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。透明基板2の無機材料としては、好ましくはガラス又は結晶材料が用いられる。
【0016】
ガラスは、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はアルミノシリケートガラスである。ガラスは、化学強化ガラスであってもよい。化学強化ガラスは、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。圧縮応力層は、ガラスに含まれるイオン半径が小さいアルカリ金属イオンを、イオン半径のより大きいアルカリイオンに交換することで形成される。
【0017】
結晶材料は、複屈折性結晶であってよく、例えば、二酸化ケイ素、ニオブ酸リチウム、又はサファイアである。
【0018】
光学部材1は、例えば、第1光学多層膜3Aと、第2光学多層膜3B、とを備える。第1光学多層膜3Aは、透明基板2の第1主面21に形成される。第2光学多層膜3Bは、透明基板2の第2主面22に形成される。なお、光学部材1は、第1光学多層膜3Aと第2光学多層膜3Bの少なくとも一方を備えればよい。
【0019】
次に、図2を参照して第1光学多層膜3Aの構成について説明する。第2光学多層膜3Bの構成は、第1光学多層膜3Aの構成と同様であるので、説明を省略する。第1光学多層膜3Aは、例えば、屈折率の異なる第1層31と第2層32を交互に積層した反射防止膜であり、光の干渉作用を利用し、可視光線の反射を抑制する。
【0020】
第2層32は、第1層31よりも高い屈折率を有する。つまり、第1層31が低屈折率層であって、第2層32が高屈折率層である。なお、本願明細書において、単に「屈折率」と表記する場合、波長500nmの光の屈折率を意味する。
【0021】
第1層31の屈折率は、好ましくは1.60未満であり、より好ましくは1.45~1.55である。第1層31の材料は、例えば酸化ケイ素(例えば二酸化ケイ素:SiO)、フッ化マグネシウム(例えばMgF)または酸窒化ケイ素である。
【0022】
第2層32の屈折率は、好ましくは1.60以上であり、より好ましくは2.20~2.50である。第2層32の材料は、例えば酸化タンタル(例えば五酸化タンタル:Ta)、酸化チタン(例えば二酸化チタン:TiO)または酸化ニオブ(例えば五酸化ニオブ:Nb)である。
【0023】
なお、第1光学多層膜3Aは、第1層31と第2層32に加えて、図示しない第3層を備えてもよい。第3層は、第1層31および第2層32とは異なる屈折率を有する。第1光学多層膜3Aは、第1層31と第2層32と第3層を所望の順番で備えてもよい。第2光学多層膜3Bについて同様である。
【0024】
第1光学多層膜3Aは、下記(A)~(D)の物性を有する。(A)入射角5°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(5°)450~650maxが2.00%以下である。(B)入射角30°で波長450nm~650nmである光に対する最大反射率R(30°)450~650maxが2.00%以下である。(C)反射率30%を示す入射角5°である光の波長λ(5°)が365nm~425nmである。(D)反射率30%を示す入射角30°である光の波長λ(30°)が365nm~425nmである。
【0025】
第1光学多層膜3Aの反射率は、第1光学多層膜3Aに対して透明基板2とは反対側(図2において左側)から所望の入射角で入射した光の強度に対する、第1光学多層膜3A(第1光学多層膜3Aと透明基板2の界面を含む)で反射される光の強度の割合である。ここで、「反射される光」は、正反射される光のみを含み、拡散反射される光を含まない。
【0026】
第1光学多層膜3Aで反射される光は、第2光学多層膜3B(第2光学多層膜3Bと透明基板2の界面を含む)で反射される光を含まない。また、第2光学多層膜3Bが存在しない場合、第1光学多層膜3Aで反射される光は、透明基板2の第2主面22で反射される光を含まない。本願明細書において、第1光学多層膜3Aの反射率とは、光学部材1の両面反射率ではなく、光学部材1の片面反射率を意味する。
【0027】
第1光学多層膜3Aの反射率は、例えば光学薄膜計算ソフト(Software Spectra,Inc.社製、TFCalc(登録商標))を用いたシミュレーションによって算出する。
【0028】
第1光学多層膜3Aの反射率は、市販の分光光度計で測定することも可能である。市販の分光光度計で第1光学多層膜3Aの反射率を測定する場合、第2光学多層膜3Bを除去したうえで、透明基板2の第2主面22を粗面化して光を散乱させるか、透明基板2の第2主面22に黒色インクを塗布して光を吸収させればよい。なお、上記の通り、第2光学多層膜3Bは、任意の構成であって、形成されなくてもよい。市販の分光光度計として、例えば、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテク社製、商品名UH-4150)、または紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V-770)が挙げられる。
【0029】
第1光学多層膜3Aが上記(A)~(D)の物性を有することで、広い入射角の範囲で、青色から赤色までの可視光線(波長450nm~650nmの可視光線)の反射率を2.00%に抑制しつつ、紫色の可視光線の反射率を30%以上に維持できる。その結果、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1の色合いの変化を抑制できる。より具体的には、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1の色合いを紫色から青色の範囲に維持できる。
【0030】
なお、光学部材1に対する視線の角度の変化に起因する、光学部材1の色合いの変化を抑制する手段として、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1の色合いを赤色に維持することも考えられるが、紫色から青色の範囲に維持する場合に比べて、実現するのが困難である。これは、図3図8から明らかである。
【0031】
図3図8は、後述する例1~例6の光学多層膜の反射率を示す図である。これらの各図面から明らかなように、入射角が大きくなるにつれ、反射率が2.00%以下の波長域が低波長側にシフトする。加えて、そのシフトは、青色の波長域よりも、赤色の波長域で顕著である。つまり、赤色の波長域では、青色の波長域と比較して、入射角の変化に伴う最大反射率を示す波長の変化が大きく、入射角の変化に伴う反射光の色合いの変化が大きい。それゆえ、450nm~650nmの広い波長範囲で反射率を2.00%以下に抑制しつつ、光学部材1の色合いを赤色に維持するのは困難である。
【0032】
また、光学部材1に対する視線の角度の変化に起因する、光学部材1の色合いの変化を抑制する手段として、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1に特定の色合いを視認させないように(すなわち、反射光が無色になるように)光学多層膜を構成することも考えられる。しかしながら、反射光が無色になるように光学多層膜を構成するには、入射角が大きくなっても可視光線の波長域の最大反射率が一定以下(例えば、1%以下)になるように光学多層膜を構成することになる。そうすると、光学多層膜の層数が多く必要となり、製造コストと生産性と反り等の観点で実現するのが困難である。
【0033】
本実施形態によれば、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1の色合いを、無色ではなく敢えて、紫色から青色に維持すべく、第1光学多層膜3Aが上記(A)~(D)の物性を有する。従って、本実施形態によれば、光学部材1に対する視線の角度が変化しても、光学部材1の色合いの変化を抑制できる。この効果は、光学部材1がウエアラブルデバイスに用いられる場合に顕著である。
【0034】
例えば、ウエアラブルデバイスが右目用の光学部材1と左目用の光学部材1とを備える場合に、観察者がウエアラブルデバイスの左右方向中心よりも右側または左側に立っていると、右目用と左目用とで光学部材に対する観察者の視線の角度が異なる。この場合でも、右目用と左目用とで光学部材1が同じ色合いに見えるので、意匠性が良い。
【0035】
R(5°)450~650maxは、例えば0.01%~2.00%であり、好ましくは0.05%~1.50%であり、さらに好ましくは0.10~1.20%である。R(5°)450~650maxが2.00%以下であれば、反射光の色合いを紫色から青色の範囲に維持しやすい。また、R(5°)450~650maxが0.01%以上であれば、光学多層膜の層数が少なくて済み、製造コストと生産性が良い。
【0036】
R(30°)450~650maxは、例えば0.01%~2.00%であり、好ましくは0.05%~1.50%であり、さらに好ましくは0.10~1.20%である。R(30°)450~650maxが2.00%以下であれば、反射光の色合いを紫色から青色の範囲に維持しやすい。また、R(30°)450~650maxが0.01%以上であれば、光学多層膜の層数が少なくて済み、製造コストと生産性が良い。
【0037】
λ(5°)は、例えば365nm~425nmであり、好ましくは380nm~410nmである。λ(30°)は、例えば365nm~425nmであり、好ましくは380nm~410nmである。λ(5°)とλ(30°)が365nm~425nmであれば、反射光の色合いを紫色から青色の範囲に維持しやすい。
【0038】
第1光学多層膜3Aは、好ましくは、上記(A)~(D)に加えて、下記(E)~(F)の物性を有する。(E)入射角5°で波長950nmである光に対する反射率R(5°)950が10.00%以下である。(F)入射角5°で波長1350nmである光に対する反射率R(5°)1350が15.00%以下である。
【0039】
第1光学多層膜3Aが上記(E)~(F)の物性を有することで、近赤外線を透過でき、近赤外線を用いたセンシングの光学部材としても好適に用いることができる。この場合、透明基板2は、可視光線だけではなく近赤外線も透過する。
【0040】
R(5°)950は、例えば0.01%~10.00%であり、好ましくは0.10%~8.00%である。R(5°)1350は、例えば0.01%~15.00%であり、好ましくは0.10%~11.00%である。
【0041】
なお、第1光学多層膜3Aは、上記(A)~(D)の物性を有すればよく、上記(E)~(F)の物性を有しなくてもよい。第1光学多層膜3Aは、可視光線の反射防止の他に、例えば、赤外線または紫外線の遮蔽、防汚、防塵、または耐久性の向上などの機能を有してもよい。
【0042】
第1光学多層膜3Aの層数は、生産性の向上と反りの抑制の観点から、好ましくは15以下であり、より好ましくは13以下である。また、第1光学多層膜3Aの層数は、可視光線の低反射性の観点から、好ましくは5以上であり、より好ましくは7以上である。
【0043】
第1光学多層膜3Aの膜厚は、生産性の向上と反りの抑制の観点から、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは700nm以下である。第1光学多層膜3Aの膜厚は、可視光線の低反射性の観点から、好ましくは300nm以上であり、より好ましくは400nm以上である。
【0044】
第1光学多層膜3Aの成膜方法は、乾式でも、湿式でもよい。乾式の成膜方法は、例えば、スパッタリング法、イオンアシスト蒸着(IAD:Ion Assisted Deposition)法、または加熱蒸着法である。湿式の成膜方法は、例えば、スプレー法またはディップ法である。
【0045】
なお、光学部材1は、本実施形態では第1光学多層膜3Aと透明基板2の間に何も備えないが、密着強化膜などを備えてもよい。密着強化膜は、第1光学多層膜3Aと透明基板2の密着性を高める。また、第1光学多層膜3Aと透明基板2の間に、紫外線吸収膜または紫外線反射膜が形成されてもよい。
【0046】
光学部材1の反りは、好ましくは20μm~120μmである。光学部材1の反りが120μm以下であれば、透過像の歪みの影響が小さい。一方、光学部材1の反りが20μm以上であれば、光学部材1の反り発生の要因である光学多層膜の物理膜厚を厚くでき、所望の光学特性を得られやすい。また、光学部材1の反りが20μm以上であれば、光学部材1の反りを考慮して透明基板2の両面に同程度の物理膜厚の光学多層膜を設けるなどの制約がなくなり、製造コストが下がる。光学部材1の反りは、より好ましくは22μm~110μmである。
【0047】
光学部材1の反りは、神津精機株式会社製 表面形状測定システムDyvoce(型番:K2-310)を用いて以下の手順にて測定する。先ず、光学部材1の裏面(例えば透明基板2の第2主面22)の周縁を3点で支持し、光学部材1の表面(例えば第1光学多層膜3Aの表面)の形状をレーザー変位計で測定する。その測定結果から、Dyvoceシステムにより反りを算出する。反りは、光学部材1の表面を最小二乗法で近似した平面を基準の高さとし、光学部材1の表面の最高点と最低点との高低差(>0)から、光学部材1の自重たわみの成分を除去することで求める。自重たわみの成分を除去するため、光学部材1を上下反転して光学部材1の表面の周縁を3点で支持し、光学部材1の裏面の形状をレーザー変位計で測定し、裏面形状と表面形状の差分を求めることで、自重たわみの成分を除去できる。
【実施例0048】
以下、実験データについて説明する。下記の例1~例3が実施例であり、例4~例6が比較例である。
【0049】
(例1~例6)
例1~例6では、透明基板としてガラス基板を用意し、ガラス基板の第1主面のみにスパッタリング法で光学多層膜(より詳細には反射防止膜)を形成することで、光学部材を作製した。例1~例6で用意したガラス基板は、ソーダライムガラス基板(AGC社製、商品名AS2、縦100mm、横100mm、厚さ0.4mm)であった。また、例1~例6で形成した反射防止膜は、SiO(屈折率1.48)からなる第1層と、TiO(屈折率2.47)からなる第2層とを交互に積層したものであった。
【0050】
例1の光学多層膜の層構造を表1に示す。なお、表1~表6に示す膜厚は、物理膜厚である。
【0051】
【表1】
表1において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号11の層が空気に接していた。例1の光学多層膜は、層数が11であって、膜厚が651.12nmであった。
【0052】
例2の光学多層膜の層構造を表2に示す。
【0053】
【表2】
表2において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号10の層が空気に接していた。例2の光学多層膜は、層数が10であって、膜厚が415.12nmであった。
【0054】
例3の光学多層膜の層構造を表3に示す。
【0055】
【表3】
表3において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号11の層が空気に接していた。例3の光学多層膜は、層数が11であって、膜厚が532.98nmであった。
【0056】
例4の光学多層膜の層構造を表4に示す。
【0057】
【表4】
表4において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号9の層が空気に接していた。例4の光学多層膜は、層数が9であって、膜厚が445.46nmであった。
【0058】
例5の光学多層膜の層構造を表5に示す。
【0059】
【表5】
表5において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号7の層が空気に接していた。例5の光学多層膜は、層数が7であって、膜厚が833.10nmであった。
【0060】
例6の光学多層膜の層構造を表6に示す。
【0061】
【表6】
表6において、光学多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。光学多層膜において、層番号1の層がガラス基板の第1主面に接しており、層番号5の層が空気に接していた。例6の光学多層膜は、層数が5であって、膜厚が304.67nmであった。
【0062】
(光学特性)
以下、主に図3図8と表7を参照して、例1~例6で作製した光学部材の光学特性について説明する。図3図8と表7に示す反射率および表7に示す反射光の色合いは、光学薄膜計算ソフト(Software Spectra,Inc.社製、TFCalc(登録商標))を用いたシミュレーションによって算出した。
【0063】
【表7】
表7において、「5°反射光の色合い」とは、白色光が光学多層膜に対して透明基板とは反対側から光が垂直に(つまり0°の入射角で)入射する際に光学多層膜で5°の反射角で反射される光の色合いのことである。同様に、「30°反射光の色合い」とは、白色光が光学多層膜に対して透明基板とは反対側から光が垂直に入射する際に光学多層膜で30°の反射角で反射される光の色合いのことである。色合いは、CIE1976(L,a,b)色空間の座標と、見た目の色で表す。
【0064】
表7に示すように、例1~例3の光学多層膜は、例4~例6の光学多層膜とは異なり、上記(A)~(D)の物性を全て有していた。つまり、例1~例3の光学多層膜は、例4~例6の光学多層膜とは異なり、R(5°)450~650maxが2.00%以下であって、R(30°)450~650maxが2.00%以下であって、λ(5°)が365nm~425nmであって、且つλ(30°)が365nm~425nmであった。その結果、例1~例3の光学多層膜は、例4~例6の光学多層膜とは異なり、光学部材に対する視線の角度が変化しても、光学部材の色合いを紫色から青色に維持できた。
【0065】
以上、本開示に係る光学部材について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0066】
1 光学部材
2 透明基板
21 第1主面
22 第2主面
3A 第1光学多層膜(光学多層膜)
3B 第2光学多層膜(光学多層膜)
31 第1層
32 第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8