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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142994
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】発酵乳及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20230928BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
A23C9/13
A23L29/256
A23L29/281
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050170
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康晴
(72)【発明者】
【氏名】相馬 純枝
【テーマコード(参考)】
4B001
4B041
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC03
4B001BC06
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC13
4B001BC14
4B001EC04
4B041LC05
4B041LC10
4B041LD10
4B041LE08
4B041LH10
4B041LK11
4B041LK17
4B041LK37
4B041LK42
4B041LP10
4B041LP15
4B041LP17
4B041LP22
(57)【要約】
【課題】ゲル化剤を含む発酵乳において、発酵工程後において、物理的衝撃耐性を付与することを課題とする。
【解決手段】ゼラチンと寒天を含む原料混合物溶液の調合工程を備える、ゲル化剤含有発酵乳の製造方法であって、ゲル化剤の含有量が、発酵乳基準で、0.24重量%~1.1重量%であるゲル化剤含有発酵乳の製造方法により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤含有発酵乳の製造方法であって、ゲル化剤がゼラチンと寒天である、ゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
【請求項2】
ゲル化剤の含有量が、発酵乳基準で、0.24重量%~1.1重量%である、請求項1に記載のゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
【請求項3】
ゼラチンの含有量が、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%であり、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%である。請求項1又は請求項2に記載のゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
【請求項4】
ゲル化剤を含む発酵乳の製造における、発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法であって、ゼラチンの含有量を、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%として、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%とする工程を含む、発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化剤含有発酵乳の製造方法、及びゲル化剤含有発酵乳に関する。本発明はまた、発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
原料となる乳に乳酸菌や酵母などの微生物を加え、一定の温度に保つと微生物が増殖する。これによってできるものが、ヨーグルトに代表される発酵乳である。
発酵乳は、硬度が不足した場合、輸送時に組織が崩れてしまうことがある。そのため、発酵乳では、硬度を付与する目的で、寒天、澱粉、ゼラチン等の高分子化合物を含む安定剤等の添加物を使用するのが一般的であった。また、特許文献1では流通時の振動に耐えられる硬度を有し、かつホエイ分離や酸度上昇を抑制した発酵乳を得るための製造方法も報告されている。特許文献2では非凝集性の変性蛋白球状粒子またはその凝集体とゼラチンとを組み合わせて固形ヨーグルトに添加することにより保形成や保水性を保つ製造方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-99019号公報
【0004】
【特許文献2】特許6937238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、物理的衝撃耐性付与の方法は存在しているが、非凝集性の変性蛋白球状粒子またはその凝集体の調製工程が必要であり、製造工程が複雑になる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決しようと鋭意検討した。そして、本発明者らは、発酵乳にゲル化剤としてゼラチンと寒天を一定量添加することによって、他のゲル化剤を含有させた場合と比べ、発酵乳に優れた物理的衝撃耐性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
<1>
ゲル化剤含有発酵乳の製造方法であって、ゲル化剤がゼラチンと寒天である、ゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
<2>
ゲル化剤の含有量が、発酵乳基準で、0.24重量%~1.1重量%である、<1>に記載のゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
<3>
ゼラチンの含有量が、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%であり、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%である。<1>又は<2>に記載のゲル化剤含有発酵乳の製造方法。
<4>
ゲル化剤を含む発酵乳の製造における、発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法であって、ゼラチンの含有量を、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%として、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%とする工程を含む、発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゲル化剤を含む発酵乳において、発酵工程後において、適切な物理的衝撃耐性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書においては、発明の態様に分けて説明をしているが、それぞれの態様に記載の事項、語句の定義、及び実施形態は、他の態様においても適用可能である。
【0010】
1.発酵乳の製造方法
(発酵乳)
発酵乳は、「乳等省令」で、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの、と定義されている。本明細書において、「発酵乳」は、乳等省令で定める定義を適用する。
本発明の製造方法で製造される発酵乳は、静置型発酵乳及び攪拌型発酵乳のいずれでもよいが、静置型発酵乳であることが好ましい。
本明細書において、静置型発酵乳(後発酵発酵乳、プレーンヨーグルト、ハードヨーグルト、セットヨーグルトとも呼ばれる。)とは、飲食用の容器に発酵原料を充填して後発酵させた発酵乳である。すなわち、飲食用の容器に発酵原料を充填してから発酵し、その後攪拌することなく市販に供する発酵乳である。タンパク質含量が、高濃度となるように原料を溶解した、あるいは膜装置などで予め濃縮した発酵原料にて調製した静置型発酵乳は、濃縮型発酵乳(ギリシャヨーグルト)とも呼ばれる。
攪拌型発酵乳(前発酵発酵乳)とは、予め製造設備中で発酵させ生じた凝固(カード)を破砕し、これに砂糖、香料、果汁、果肉等の副原料を混合してから容器に充填して製造されるものである。
【0011】
(混合工程)
本発明の発酵乳の製造方法は、任意工程として、混合工程を含むことができる。本明細書において、「混合工程」は、ゲル化剤、及び/又は任意の成分を混合及び溶解して、原料混合物溶液を得る工程である。任意の成分としては、生乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、クリーム、バター、全粉乳、脱脂粉乳、及びホエイパウダーなどの乳製品、乳タンパク質、植物油脂、砂糖、糖類、果汁、果肉、甘味料、安定剤、鉄イオン源、カルシウムイオン源、ビタミン類、葉酸、香料、乳化剤などが挙げられる。溶解に用いる溶解液は、本発明の効果が得られる限り、限定されることはないが、水が好ましく、温湯がより好ましい。温湯の温度は適宜調整することができる。原料混合物溶液は、無脂乳固形分8重量%~20重量%含むことが好ましい。
【0012】
本発明の効果が得られる限り、各々の原料を溶解液に溶解してから混合してもよく、各々の原料を混合してから溶解液に溶解してもよい。必要に応じて、適切な溶解機、例えば、パワーブレンダー、ミキサー、又は高速攪拌機等を使用することが好ましい。
生乳及び脱脂粉乳などの乳原料溶液と、ゲル化剤溶液とは、別々に殺菌されて、後に混合されてもよく、両方が原料混合溶液中に含まれて共に殺菌されてもよいが、両方が原料混合溶液中に含まれて共に殺菌されることが好ましい。
【0013】
(ゲル化剤)
本明細書において、「ゲル化剤」は、液体を固形状又は半固形状にする目的で添加する物質を意味し、増粘剤とも呼ばれる。本発明において使用されるゲル化剤は、ゼラチンと寒天であるが、本発明の効果が得られる限り、例えば、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、グアーガム分解物、タラガム、アルギン酸、及びアルギン酸ナトリウムから選択される少なくとも1つ又は複数を併用することができる。
本発明において、ゲル化剤の原料混合物溶液又は発酵乳に対する配合量は、以下に限定されるものではないが、例えば、発酵乳基準で、0.24重量%~1.1重量%、0.3重量%~0.7重量%、0.4重量%~0.55重量%である。
上記のゲル化剤の種類及び濃度は、発酵乳の種類等に応じて、適宜選択することができる。
ゲル化剤として用いられる寒天のゼリー強度は、以下に限定されるものではないが、日寒水式測定法において、例えば、100g/cm~2000g/cm、200g/cm~1500g/cm、300g/cm~1200g/cm、400g/cm~1000g/cm、又は500g/cm~900g/cmである。
ゲル化剤として用いられるゼラチンのゼリー強度は、以下に限定されるものではないが、JIS K6503に規定されたゼリー強度評価試験において、例えば、100g~2000g、200g~1200g、200g~1000g、200g~700g、又は200g~500gである。
【0014】
(原料混合物溶液を加温・均質化する工程)
本発明の発酵乳の製造方法は、任意工程として、原料混合物溶液を加温・均質化する工程を含むことができる。原料混合物溶液を加温・均質化する工程は、均質効率を上昇させるために予備加温して、その後均質機等により均質化する工程である。均質化とは、乳脂肪中の脂肪球、及びその他の原料を細かく砕き、安定した状態にすることを意味する。
均質化前に、原料混合物溶液を50℃~85℃に加温することが好ましい。原料混合物溶液が、乳原料溶液及びゲル化剤を含み、これらを共に均質化することが好ましい。均質圧力は、通常の発酵乳の均質圧力を採用することができるが、例えば、10MPa~20MPa、好ましくは12MPa~18MPaである。
【0015】
(殺菌工程)
本発明の発酵乳の製造方法は、原料混合物溶液の殺菌工程を備える。本明細書において「殺菌工程」とは、原料混合物溶液を高温で処理することにより、原料混合物溶液中の微生物を減少させることを意味する。
【0016】
(殺菌条件)
殺菌温度及び時間は、例えば60℃~65℃で30分間程度加熱するLTLT法、75℃~90℃で15分~60分間加熱するHTLT法、70℃~90℃で15秒~60秒間加熱するHTST法、120℃~150℃で1~3秒間加熱するUHT法など、通常の発酵乳製造で用いられる方法に相当する条件であれば制限はない。用いる殺菌装置は、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式殺菌機、ダイレクトスチームインジェクション、ダイレクトスチームインフュージョン、サーモシリンダー、ロタサーム、ケトル乳化釜、ステファン乳化釜、ジュール加熱装置、タンクを用いたバッチ式殺菌及びこれらの組み合わせのいずれでも良く、発酵乳製造に用いることができれば制限はない。
また、本発明では、殺菌後、所定の温度まで原料混合物溶液を冷却してもよい。具体的には、例えば、後述する発酵工程における発酵温度付近まで冷却してもよい。
【0017】
(充填工程)
静置型発酵乳(後発酵発酵乳)を製造する場合には、殺菌工程の後、適切な容器に充填することができる。容器は、紙製又はプラスチック製のカップ状の容器であり、紙、アルミ、又はプラスチック製の上蓋が付いているものを使用することができる。
【0018】
(発酵工程)
本明細書において、「発酵工程」とは、スターターを用いて原料混合物溶液を発酵させる工程である。原料混合物溶液に添加して混合(接種)するためのスターターの例として、乳酸桿菌である、ラクトバチルス・ブルガリクスや、ラクトバチルス・ラクティス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、乳酸球菌である、ストレプトコッカス・サーモフィラス、その他の発酵乳の製造で一般的に用いられる乳酸菌や酵母などから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
スターターの添加量は、公知の発酵乳の製造方法において採用されている添加量に従って、適宜設定することができる。また、スターターの接種方法も、特に制限されることなく、発酵乳の製造で慣用されている方法を適宜用いることができる。発酵に用いる微生物が複数種類ある場合、これらの微生物を原料混合物溶液に接種する順序は特に問わず、全てを同時に投与してもよい。また、これらの微生物のうち任意の微生物を、複数回接種してもよい。
発酵の条件は、発酵乳の種類や所望の風味、使用するスターターの種類などを考慮して、適宜設定することができる。例えば、発酵室内の温度(発酵温度)を30℃~50℃の範囲に維持し、その発酵室内で静置しながら発酵させる方法を挙げることができる。かかる温度条件であれば、一般に乳酸菌が活動しやすいため、効果的に発酵を進めることができる。発酵温度は、通常では30℃~50℃程度、好ましくは35℃~45℃の範囲、より好ましくは37℃~43℃の範囲を挙げることができる。
発酵時間は、発酵乳の乳酸酸度が所定の割合に到達することを目安に、適宜調整することができるが、通常3時間~24時間、又は通常4時間~18時間程度である。なお、仕上げ酸度又は仕上げpHに基づき、発酵時間を決めることもでき、具体的には、発酵乳のpHが4.0~5.0になった後、発酵を停止させることができる。発酵後、10℃以下の温度に冷却することが好ましい。培養温度から10℃への急冷は好ましくは10時間以内、より好ましくは5時間以内、更に好ましくは3時間以内、特に好ましくは1時間以内に行うことが望ましい。
【0019】
本発明の製造方法により製造される発酵乳が、攪拌型発酵乳である場合、本発明の製造方法は、発酵工程の後に、これらの種類の発酵乳の製造に必要な工程を含んでもよい。必要な工程としては、例えば、発酵工程の後に撹拌することによってカードを破砕する破砕工程、果肉又はフルーツプレザーブ等の固形物又は他原料を添加する工程、固形物又は他原料と発酵乳とを撹拌して均質化する工程等が挙げられる。
【0020】
本発明の製造方法は、発酵工程前後に濃縮工程を含むことができる。濃縮の方法としては、膜濃縮、遠心分離などが挙げられる。
【0021】
(作用)
本発明の製造方法において効果が得られる理由は、完全に解明されているわけではないが、以下のように推論することができる。しかしながら、本発明は以下の説明によって限定されるものではない。
発酵乳においては、発酵時にタンパク質同士が結合して、硬度が付与される。しかしながら、タンパク質同士の結合だけでは、物理的衝撃に対して結合力が不十分であり、物理的衝撃耐性を付与することができない。発酵乳にゼラチンを添加することで、ゼラチンに含まれるコラーゲンヘリックスの結合が発酵乳に付与され、発酵乳に寒天を添加することで寒天に含まれるアガロースの結合が発酵乳に付与されることで物理的衝撃に対して耐性を付与することができる。
【0022】
2.発酵乳
(原材料)
本発明の発酵乳は、生乳、脱脂乳、ホエイなどの他に、その加工品(例えば、全脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱塩脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、練乳、乳タンパク質、ホエイ粉、ホエイ濃縮粉、クリーム、バター、チーズなど)を含むことができる。本発明の発酵乳は、乳成分の他にも、砂糖、糖類、甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、鉄イオン源、カルシウムイオン源、葉酸、植物油脂、乳化剤などの、食品もしくは食品成分及び食品添加物などを含むことができる。また、発酵乳の原料は、安定剤、澱粉、加工デンプン、デキストリンなどを含むことができる。
【0023】
(硬度)
本発明の発酵乳の硬度は、舌触り等の風味や食感の滑らかさ、及び商品輸送耐性を考慮して、製造後冷蔵保存1日後において、18g~70g、20g~60g、20g~50g、20g~45g、22g~40g、23g~40g、又は23g~35gであることができる。
【0024】
(硬度の測定方法)
本発明における硬度の測定方法は、以下の通りである。
硬度の測定は、クリープメーター(株式会社山電社製)を用いて行う。すなわち、1区画が縦6cm横9cm、深さが11cm、厚さ0.13cmの直方体容器に充填した各試料(10℃)に、直径15mmのプランジャーを速度1mm/秒で貫入させ、1cm挿入した点の応力(g)を測定し、この値を硬度とする。
【0025】
本明細書において。「製造後冷蔵保存1日後」は、原料混合溶液を容器に充填した日の翌日を意味する。「製造後冷蔵保存1日後」をD+1と記載することがある。すなわち、原料混合物溶液を容器に充填し、発酵を開始した日を0日として算出する。
【0026】
本発明の発酵乳の無脂乳固形分は、例えば、8.0重量%~20重量%、8.0重量%~15重量%、8.0重量%~12重量%、8.0重量%~10重量%、又は8.0重量%~9.5重量%である。
本発明の発酵乳の乳脂肪分は、例えば、0.5重量%~3.0重量%、0.5重量%~2.5重量%、1重量%~2.2重量%、又は1.5重量%~2.0重量%である。
本発明の発酵乳の全固形分は、例えば、10重量%~30重量%、12重量%~27重量%、15重量%~25重量%、又は18重量%~22重量%である。
【0027】
3.発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法
本発明の発酵乳への物理的衝撃耐性付与方法では、ゼラチンの含有量を、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%として、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%とする工程を含む。
本明細書において、「物理的衝撃耐性付与」とは、1区画が縦6cm横9cm、深さが11cm、厚さ0.13cmの直方体容器内にて発酵後の発酵乳に、クリープメーター(株式会社山電社製)を用いて、横9cm深さ11cmの区画の中心部に直径15mmのプランジャーを速度1mm/秒での1cmの貫入を10回行っても、組織表面が破断しない程度の十分なせん断変形耐性を付与することを意味する。
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。特に説明がない限り、%は重量%を示す。ゼラチンのゼリー強度はJIS K6503に規定されたゼリー強度評価試験による値であり、寒天のゼリー強度は、日寒水式測定法による値である。
【0029】
(実施例1)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度300gのゼラチンを0.2%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.04%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を、プレート型殺菌機にて80℃まで加熱した後、均質機にて15MPaの均質圧力で均質化を行い、プレート型殺菌機にて120℃3秒間殺菌後45℃に冷却した。その後ヨーグルト製造用DVS乳酸菌スターター(ラクトバチルス・ブルガリクス及びストレプトコッカス・サーモフィラスの混合スターター)を200U/1000kgとなるように添加・混合した。その混合物をプラスチック製の1区画が縦6cm横9cm、深さが11cm、厚さ0.13cmの直方体容器に400gずつ充填し、アルミ製の蓋をアイロンでシールした。その後41℃のインキュベーターで発酵させ、pHが4.6となった時点で、5℃のインキュベーターに移し、発酵を停止させた。翌日10℃のインキュベーターに移して、実施例品1を得た。実施例品1の無脂乳固形分は8.7%であり、乳脂肪分は1%であり、全固形分は18%であった。
【0030】
(実施例2)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度300gのゼラチンを0.5%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.04%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例品2を得た。
【0031】
(実施例3)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度300gのゼラチンを1%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.1%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例品3を得た。
【0032】
(比較例1)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.04%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例品1を得た。
【0033】
(比較例2)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度300gのゼラチンを0.1%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.04%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例品2を得た。
【0034】
(比較例3)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度300gのゼラチンを0.2%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例品3を得た。
【0035】
(比較例4)
脱脂粉乳を9%、ゼリー強度700g/cmの寒天を0.1%、砂糖を8%、乳脂肪分50%のクリームを2%となるように水で溶解して得た水溶液を調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例品4を得た。
【0036】
(輸送試験の評価方法)
輸送試験の評価方法は、次の通りである。1区画が縦6cm、横9cm、深さが11cmの直方体容器に充填した試料6個をプラスチック容器で梱包して、5℃の冷蔵車に積載して1000kmの輸送後、試料の組織が崩れていないものを〇、組織の崩れや離水が生じたものを×と評価した。
【0037】
(物理的衝撃試験の評価方法)
物理的衝撃試験は、クリープメーター(株式会社山電社製)を用いて行う。1区画が縦6cm、横9cm、深さが11cm、厚さ0.13cmの直方体容器に充填した試料の、横9cm、深さ11cmの区画の中心部に、直径15mmのプランジャーを速度1mm/秒での1cmの貫入を10回行う。貫入後、試料の組織が崩れていないものを〇、組織の崩れが生じたものを×と評価した。
【0038】
実施例品1~3及び比較例品1~4の評価結果を表1、表2に示す。実施例品1~3では、D+1の時点において、硬度は23g~70gの範囲内であった。輸送試験結果は〇であった。物理的衝撃試験結果は〇であった。
【0039】
ゼラチンを含まない比較例品1は、D+1時の硬度が15gであり、輸送試験結果は×であった。物理的衝撃試験結果は×であった。ゼラチン濃度が0.1%であり、寒天濃度が0.04%である比較例品2はD+1時の硬度が20gであり、輸送試験結果は〇であった。物理的衝撃試験結果は×であった。寒天を含まない比較例品3はD+1時の硬度が25gであり、輸送試験結果は〇であった。物理的衝撃試験結果は×であった。ゼラチンを含まない比較例品4はD+1時の硬度が30gであり、輸送試験は〇であった。物理的衝撃試験結果は×であった。
【0040】
したがってゼラチンの含有量を、発酵乳基準で0.2重量%~1重量%として、寒天の含有量が、発酵乳基準で0.04重量%~0.1重量%とした発酵乳では、発酵後の発酵乳の硬度を付与して、輸送耐性が良好で、物理的衝撃耐性の良好な静置型発酵乳が得られた。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ゲル化剤としてゼラチンと寒天を含有する発酵乳において、物理的衝撃耐性を有する発酵乳を提供することができる。